説明

光学用延伸フィルムとそれを備える画像表示装置

【課題】液晶表示装置などの画像表示装置に好適に用いられる光学用延伸フィルムであって、光学的な設計の自由度が高く、優れた可撓性を有する延伸フィルムを提供する。
【解決手段】負の固有複屈折を有する樹脂を延伸してなる延伸フィルムであって、前記樹脂は、(メタ)アクリル酸エステル単位、芳香族ビニル化合物単位および芳香族マレイミド単位を構成単位として有する、固有複屈折が負の共重合体を主成分として含み、前記共重合体の重量平均分子量が10万以上30万以下であり、前記共重合体における(メタ)アクリル酸エステル単位の含有量X、芳香族ビニル化合物単位の含有量Yおよび芳香族マレイミド単位の含有量Zが、重量%で表示して、30≦X≦70、5≦Y≦30、10≦Z≦40およびY<Zを満たす光学用延伸フィルムとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、延伸による高分子の配向に基づく光学特性を示す光学用延伸フィルムと、このフィルムを備える画像表示装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂フィルムを一軸延伸または二軸延伸して得た延伸フィルムが、画像表示分野において幅広く使用されている。この延伸フィルム(光学用延伸フィルム)は、延伸により生じた高分子鎖の配向に基づく様々な光学特性を示す。光学用延伸フィルム(以下、単に「延伸フィルム」ともいう)の一種に、高分子鎖の配向により生じる複屈折を利用した位相差フィルムがある。位相差フィルムは、液晶表示装置(LCD)における色調補償、視野角補償に広く用いられている。従来、複屈折により生じた位相差に基づく光路長差(レターデーション)が波長の1/4であるλ/4板が、LCDに用いる位相差フィルムとして代表的である。
【0003】
近年、光学的な設計技術の進歩により、また、消費者へのLCDの訴求力向上のために、様々な光学設計に対応可能な延伸フィルムが求められるようになってきている。例えば、液晶表示モードの一種であるインプレーンスイッチング(IPS)モードは、位相差フィルムを用いることなく広い視野角を実現できることが特長である。しかし、液晶セルの光学的な特性上、斜め方向から画面をみたときに光漏れが発生し、いわゆる「黒浮き」による表示画像のコントラストの低下が生じる。一方、IPSモードと競合する液晶表示モードに垂直配向(VA)モードがある。VAモードでは、IPSモードのような広い視野角は得られないものの、光漏れが少なく、高コントラストの画像表示を実現できる。現在、VAモードにおける視野角拡大の技術が急速に進歩しており、これに対抗するために、位相差フィルムの配置によるIPSモードでの光漏れの抑制が求められている。
【0004】
なお、IPSモードの液晶セルにおける厚さ方向(画面に垂直な方向)の屈折率は、面内方向の屈折率よりも小さい。このため光漏れの抑制には、厚さ方向の屈折率が相対的に大きい「負の位相差フィルム」が必要となる。ここで「負の位相差フィルム」とは、厚さ方向の位相差Rthが負であるフィルムをいう。位相差Rthは、フィルム面内における遅相軸の屈折率をnx、フィルム面内における進相軸の屈折率をny、フィルムの厚さ方向の屈折率をnz、フィルムの厚さをdとしたときに、式{(nx+ny)/2−nz}×dにより与えられる。負の位相差フィルムは、例えば、負の固有複屈折を有する樹脂の延伸(より具体的には、負の固有複屈折を有する樹脂からなる樹脂フィルムの延伸)により得られる。
【0005】
また、これとは別に、LCDに対するさらなる薄型化の要求は強く、その要求に応えるためには、大きな位相差を示す位相差フィルムが望まれる。このため、負の固有複屈折を有する樹脂を延伸してなる延伸フィルムであって、負の位相差フィルムとすることができる、あるいは大きな位相差を実現できるなど、光学的な設計の自由度が高い光学用延伸フィルムが求められている。
【0006】
ところで、構成単位に(メタ)アクリル酸エステル単位を有する重合体からなる光学用延伸フィルムが知られている。
【0007】
特開2007−31537号公報(特許文献1)には、(メタ)アクリル酸エステル単位および芳香族マレイミド単位を構成単位として有する重合体からなる延伸フィルムが開示されている。特許文献1には、当該フィルムの使用により、IPSモードのLCDにおける光漏れを改善できることが記載されている。
【0008】
特許2886893号公報(特許文献2)には、(メタ)アクリル酸メチル単位89〜40重量%、マレイミドおよび/またはN−置換マレイミド単位1〜50重量%、ならびに芳香族ビニル化合物単位10〜30重量%からなり、メルトフローインデックスが所定の範囲にある重合体からなる延伸フィルムが開示されている。特許文献2には、当該フィルムが、白黒表示のLCDの光学補償に用いられることが記載されている。なお、N−置換マレイミド単位として特許文献2に具体的に開示されているN−シクロヘキシルマレイミド単位は、配向により、重合体に正の固有複屈折を与える作用を有する。
【0009】
特開平6−67021号公報(特許文献3)には、N−置換マレイミド単位およびスチレン単位を構成単位として有する重合体からなる、一軸延伸性の延伸フィルムが開示されており、当該重合体が(メタ)アクリル酸メチル単位、(メタ)アクリル酸エチル単位、アクリル酸ブチル単位を含んでもよいことが記載されている(段落番号[0025])。また、特許文献3には、当該フィルムが、STN(ツイステッドネマティック)−LCDの光学補償に用いられることが記載されている。
【0010】
しかし、特許文献1〜2の延伸フィルムでは大きな位相差を得ることが難しく、光学的な設計の自由度に限りがある。また、特許文献3の延伸フィルムは可撓性が低いため、LCDの製造工程における取り扱い性に劣り、その薄膜化も困難である。
【特許文献1】特開2007−31537号公報
【特許文献2】特許2886893号公報
【特許文献3】特開平6−67021号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで本発明は、負の固有複屈折を有する樹脂を延伸してなる光学用延伸フィルムであって、光学的な設計の自由度が高く、優れた可撓性を有する延伸フィルムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の光学用延伸フィルムは、負の固有複屈折を有する樹脂を延伸してなる延伸フィルムであって、前記樹脂は、(メタ)アクリル酸エステル単位、芳香族ビニル化合物単位および芳香族マレイミド単位を構成単位として有する、固有複屈折が負の共重合体(共重合体(A))を主成分として含む。前記共重合体(A)の重量平均分子量は10万以上30万以下であり、前記共重合体(A)における(メタ)アクリル酸エステル単位の含有量X、芳香族ビニル化合物単位の含有量Yおよび芳香族マレイミド単位の含有量Zは、重量%で表示して、以下の各式を満たす。
30≦X≦70
5≦Y≦30
10≦Z≦40
Y<Z
【0013】
本発明の画像表示装置は、上記本発明の光学用延伸フィルムを備える。
【0014】
ここで、重合体の固有複屈折とは、当該重合体の分子鎖が一軸配向した層を想定したときに、当該層における分子鎖が配向する方向(配向軸)に平行な方向の光の屈折率から、配向軸に垂直な方向の光の屈折率を引いた値をいう。樹脂の固有複屈折は、当該樹脂が含む各重合体の固有複屈折の兼ね合いにより決定され、例えば一つの重合体からなる樹脂の固有複屈折は、当該一つの重合体の固有複屈折と同一となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の光学用延伸フィルムは、共重合体(A)を主成分として含む樹脂を延伸してなる、即ち、共重合体(A)を主成分として含むことにより、光学的な設計の自由度が高く、例えば、負の位相差フィルムとしたり、大きな位相差を示す位相差フィルムとすることができる。さらに、本発明の光学用延伸フィルムは、優れた可撓性を有する。
【0016】
このような特徴に基づき、本発明の光学用延伸フィルムを備える画像表示装置、即ち本発明の画像表示装置は、例えば斜めの方向から画面を見たときに光漏れが少ないなど、画像表示特性に優れ、さらなる薄型化などの要求に対する対応性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
これ以降の説明において特に記載がない限り、「%」は「重量%」を、「部」は「重量部」を、それぞれ意味する。
【0018】
[共重合体(A)]
共重合体(A)が有する構成単位について説明する。
【0019】
((メタ)アクリル酸エステル単位)
共重合体(A)における(メタ)アクリル酸エステル単位の含有量Xは、30%以上70%以下である。換言すれば、共重合体(A)の全構成単位に占める(メタ)アクリル酸エステル単位の割合は、30%以上70%以下である。
【0020】
(メタ)アクリル酸エステル単位の含有量Xが30%未満では、芳香族ビニル化合物単位および芳香族マレイミド単位の含有量が相対的に大きくなることで、延伸フィルムの可撓性が低下する。一方、含有量Xが70%を超えると、芳香族ビニル化合物単位および芳香族マレイミド単位の含有量が相対的に小さくなることで共重合体(A)の固有複屈折の絶対値が小さくなり、延伸フィルムとしての大きな位相差の発現が困難となる。また、この場合、(メタ)アクリル酸エステル単位の種類およびその含有量によっては、共重合体(A)の固有複屈折が正となる。
【0021】
(メタ)アクリル酸エステル単位は、共重合体(A)を主成分とする延伸フィルムに、高い透明性および優れた機械的特性を与える作用を有する。この観点から、(メタ)アクリル酸エステル単位の含有量Xは、芳香族ビニル化合物単位の含有量Yおよび芳香族マレイミド単位の含有量Zのそれぞれよりも大きい、即ち「X>Y」および「X>Z」である、ことが好ましい。なお、このとき、共重合体(A)が有する全構成単位のうち、(メタ)アクリル酸エステル単位が占める割合が最も大きくなることから、共重合体(A)はアクリル重合体となる。
【0022】
また前記観点から、共重合体(A)における(メタ)アクリル酸エステル単位の含有量Xは、50%以上70%以下が好ましい。
【0023】
(メタ)アクリル酸エステル単位は、以下の式(1)に示す構成単位である。式(1)におけるRは水素原子またはメチル基であり、Rは、炭素数1〜18の範囲の直鎖もしくは環状アルキル基である。当該アルキル基の一部が、水酸基または芳香族基により置換されていてもよい。なお、本明細書における芳香族基は、アリール基(置換基を有していてもよい)のほか、複素芳香族基をも含む概念である。
【0024】
【化1】

【0025】
(メタ)アクリル酸エステル単位は、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸カルバゾイルエチルの各単量体に由来する単位である。
【0026】
なかでも、高い透明性および耐熱性ならびに優れた機械的特性を有する延伸フィルムが得られることから、メタクリル酸メチル単位(MMA単位)が好ましい。また、MMA単位は、弱いながら、共重合体(A)に負の固有複屈折を与える作用を有しており、(メタ)アクリル酸エステル単位がMMA単位である場合、共重合体(A)の固有複屈折が負に大きくなることで、延伸フィルムの光学的設計の自由度がさらに向上する。
【0027】
(芳香族ビニル化合物単位)
芳香族ビニル化合物単位は、共重合体(A)の固有複屈折を負に大きくする作用を有する。このため、共重合体(A)が構成単位として芳香族ビニル化合物単位を有することにより、大きな位相差を示す延伸フィルムの実現が可能となり、その光学的な設計の自由度が向上する。
【0028】
共重合体(A)における芳香族ビニル化合物単位の含有量Yは、5%以上30%以下である。芳香族ビニル化合物単位の含有量Yが5%未満では、共重合体(A)の固有複屈折の絶対値が小さくなることで、延伸フィルムとしての大きな位相差の発現が困難となり、その光学的な設計の自由度が低下する。一方、含有量Yが30%を超えると、共重合体(A)のガラス転移温度(Tg)が低下することで、延伸フィルムの耐熱性が低下し、LCDなどの画像表示装置への使用に適さなくなる。
【0029】
共重合体(A)における芳香族ビニル化合物単位の含有量Yは、5%以上30%以下が好ましく、7%以上25%以下がより好ましい。
【0030】
芳香族ビニル化合物単位は、以下の式(2)に示す構成単位である。式(2)におけるRは芳香族基であり、Rは水素原子であり、RおよびRは、互いに独立して、水素原子またはメチル基である。
【0031】
【化2】

【0032】
芳香族ビニル化合物単位は、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、メトキシスチレン、ビニルトルエン、ハロゲン化スチレンの各単量体に由来する単位である。なかでも、高い透明性および大きな位相差を示す延伸フィルムが得られることから、スチレン単位が好ましい。
【0033】
芳香族ビニル化合物単位は、上記式(2)に示すように、複素芳香族ビニル化合物単位であってもよく、例えば、ビニルカルバゾール、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール、ビニルチオフェンの各単量体に由来する単位である。
【0034】
(芳香族マレイミド単位)
芳香族マレイミド単位は、芳香族ビニル化合物単位ほど強くはないが、共重合体(A)の固有複屈折を負に大きくする作用を有する。このため、共重合体(A)が構成単位として芳香族マレイミド単位を有することにより、大きな位相差を示す延伸フィルムの実現が可能となり、その光学的な設計の自由度が向上する。
【0035】
また、芳香族マレイミド単位は、芳香族ビニル化合物単位による共重合体(A)のTgの低下を補償し、延伸フィルムの耐熱性を向上させる作用を有する。高い耐熱性を有する延伸フィルムは、LCDなどの画像表示装置に好適である。このため、共重合体(A)では、芳香族マレイミド単位の含有量Zを、芳香族ビニル化合物単位の含有量Yよりも大きくする。
【0036】
共重合体(A)における芳香族マレイミド単位の含有量Zは、10%以上40%以下である。芳香族マレイミド単位の含有量Zが10%未満では、共重合体(A)の固有複屈折の絶対値が小さくなって、延伸フィルムとしての大きな位相差の発現が困難となり、その光学的な設計の自由度が低下する。また、この場合、芳香族ビニル化合物単位の含有量が相対的に大きくなることで、共重合体(A)のTgが低下して、延伸フィルムの耐熱性が低下する。一方、含有量Zが40%を超えると、延伸フィルムの可撓性が低下する。
【0037】
共重合体(A)における芳香族マレイミド単位の含有量Zは、10%以上40%以下が好ましく、23%以上30%以下がさらに好ましい。
【0038】
芳香族マレイミド単位は、以下の式(3)に示す構成単位である。式(3)におけるAr基は、置換基を有していてもよいアリール基である。
【0039】
【化3】

【0040】
芳香族マレイミド単位は、例えば、N−フェニルマレイミド、N−クロルフェニルマレイミド、N−メチルフェニルマレイミド、N−ナフチルマレイミド、N−ヒドロキシフェニルマレイミド、N−メトキシフェニルマレイミド、N−カルボキシフェニルマレイミド、N−ニトロフェニルマレイミド、N−トリブロモフェニルマレイミドの各単量体に由来する単位である。なかでも、高い耐熱性および大きな位相差を発現可能な延伸フィルムが得られることから、N−フェニルマレイミド単位が好ましい。
【0041】
(その他の構成単位)
共重合体(A)は、本発明の効果が得られる限り、(メタ)アクリル酸エステル単位、芳香族ビニル化合物単位および芳香族マレイミド単位以外の構成単位を含んでいてもよい。当該単位の含有量は、例えば5%未満である。
【0042】
共重合体(A)における構成単位の含有量は、公知の手法、例えばH核磁気共鳴(H−NMR)あるいは赤外線分光分析(IR)により求めることができる。
【0043】
(重量平均分子量)
共重合体(A)の重量平均分子量は、10万以上30万以下である。重量平均分子量が10万未満では、延伸フィルムの可撓性が低下する。一方、重量平均分子量が30万を超えると、フィルム成形時の流動性を確保できず、フィルム化が困難となる。
【0044】
共重合体(A)の重量平均分子量は、延伸フィルムの可撓性の観点から、15万以上が好ましい。
【0045】
共重合体(A)は、公知の方法により製造できる。例えば、上述した(メタ)アクリル酸エステル単量体、芳香族ビニル化合物単量体および芳香族マレイミド単量体を含む単量体群を重合して、共重合体(A)を形成できる。
【0046】
単量体群の重合には、懸濁重合、乳化重合、溶液重合などの各種の重合法を適用できる。なかでも、得られた共重合体(A)における芳香族マレイミド単量体の残存量を低減できることから、溶液重合が好ましい。
【0047】
溶液重合は公知の手法に従えばよい。溶液重合に用いる重合溶媒は、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、メチルイソブチルケトン、ブチルセロソルブ、ジメチルホルムアルデヒド、2−メチルピロリドン、メチルエチルケトンなどの一般的な重合溶媒を適宜選択して用いることができる。
【0048】
[延伸フィルム]
本発明の延伸フィルムは、共重合体(A)を主成分として含む樹脂を延伸してなる。延伸の前後によってフィルムの組成は変化しないため、本発明の延伸フィルムは、共重合体(A)を主成分として含む樹脂からなる。換言すれば、本発明の延伸フィルムは、共重合体(A)を主成分として含む。
【0049】
ここで、主成分とは、樹脂あるいは延伸フィルムにおける含有率が50%以上であることを意味する。これを別の観点から見ると、本発明の延伸フィルムは共重合体(A)以外の重合体を含んでもよい。共重合体(A)以外の重合体としては、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、メチルビニルケトン、エチレン、プロピレン、酢酸ビニルなどの単量体1種類以上を用いた(共)重合体、好ましくはスチレン−アクリロニトリル共重合体、を例示できる。
【0050】
本発明の延伸フィルムにおける共重合体(A)の含有率は、70%以上が好ましく、80%以上がより好ましい。また、本発明の延伸フィルムは、共重合体(A)のみを重合体として含むフィルムであってもよい。なお、共重合体(A)の含有率は、公知の手法、例えばH−NMRあるいはIRにより求めることができる。
【0051】
本発明の延伸フィルムは、紫外線吸収剤、酸化防止剤、フィラーなどの任意の添加剤を含んでもよい。
【0052】
本発明の延伸フィルムは、通常、一軸延伸性または二軸延伸性のフィルムであり、延伸による共重合体(A)の配向に基づく(共重合体(A)以外の重合体を含む場合には当該重合体と共重合体(A)との配向に基づく)光学特性を示す。
【0053】
本発明の延伸フィルムは、共重合体(A)を主成分として含むことにより、大きな位相差を発現できる。換言すれば、本発明の延伸フィルムは、とりうる位相差の範囲が広い。
【0054】
本発明の延伸フィルムが示す位相差は、延伸の程度の調整(例えば、延伸方法、延伸温度、延伸倍率などの調整)により制御できる。また、本発明の延伸フィルムが示す厚さ方向の位相差Rthは、フィルムの厚さにより制御することも可能である。
【0055】
本発明の延伸フィルムの厚さは特に限定されないが、例えば10μm〜500μmであり、20μm〜300μmが好ましく、30μm〜100μmが特に好ましい。
【0056】
本発明の延伸フィルムは、その延伸の状態によっては、負の位相差フィルムとなる。「負の位相差フィルム」とは、上述したように、厚さ方向の位相差Rthが負であるフィルムをいう。位相差Rthは、フィルム面内における遅相軸の屈折率をnx、フィルム面内における進相軸の屈折率をny、フィルムの厚さ方向の屈折率をnz、フィルムの厚さをdとしたときに、式{(nx+ny)/2−nz}×dにより与えられる。なお、本明細書における屈折率nx、ny、nzは、波長589nmの光に対する屈折率である。
【0057】
負の位相差フィルムでは、屈折率nx、ny、nzは、nz≧nx>ny、nz>nx≧nyまたはnx>nz>nyの関係にある。なお、nx、ny、nzが、nz=nx>nyの関係にあるとき、本発明の延伸フィルムは、ネガティブAプレートとなる。また、nx、ny、nzが、nz>nx=nyの関係にあるとき、本発明の延伸フィルムは、ポジティブCプレートとなる。
【0058】
従来、負の位相差フィルムは、特開平5−157911号公報に記載されている特殊な延伸法(当該公報の方法では、フィルムをその厚さ方向に延伸する)により製造されるが、本発明の延伸フィルムは、このような特殊な延伸法によらずとも、通常の延伸(フィルムの面内方向の延伸)により製造できる。
【0059】
厚さ方向の位相差Rthは、例えば、−50nmから−500nmの範囲である。また、面内位相差Reは、例えば、0nmから540nmの範囲である。面内位相差Reは、式(nx−ny)×dにより与えられる。
【0060】
厚さ方向の位相差Rthおよび面内位相差Reが上記範囲にある負の位相差フィルムをIPSモードのLCDに配置することにより、斜めから画面を見たときの光漏れを抑制でき、高コントラストおよび低い色ずれの画像表示を実現できる。
【0061】
本発明の延伸フィルムにおける位相差Rthおよび位相差Reの値、ならびに屈折率nx、nyおよびnzの関係は、目的とする光学特性に応じて選択できる。
【0062】
本発明の延伸フィルムは、一軸延伸性であっても二軸延伸性であってもよい。位相差など、目的とする光学特性に応じて選択できる。
【0063】
本発明の延伸フィルムは、光学特性が同一または異なる2以上の層が積層された積層構造を有していてもよい。
【0064】
本発明の延伸フィルムは高い耐熱性を示し、そのガラス転移温度(Tg)は、例えば120℃以上である。また、共重合体(A)における芳香族ビニル化合物単位の含有量Yおよび芳香族マレイミド単位の含有量Z、共重合体(A)における含有量Yと含有量Zの比、ならびに延伸フィルムにおける共重合体(A)の含有率などによっては、本発明の延伸フィルムは、さらに高い耐熱性を示す。具体的には、Tgを130℃以上、さらには140℃以上とすることが可能である。延伸フィルムのTgは、JIS K7121に準拠して求めることができる。
【0065】
本発明の延伸フィルムの用途は特に限定されず、従来の光学用延伸フィルムと同様の用途(例えば、LCDなどの画像表示装置)への使用が可能である。より具体的には、本発明の延伸フィルムを、IPSモード、OCB(optically compensated birefringence)モードのLCDにおける光学補償フィルムとして使用できる。
【0066】
また、本発明の延伸フィルムは、その位相差および波長分散性の調整を目的として、他の光学部材(例えば、位相差フィルム)と組み合わせることができる。
【0067】
本発明の延伸フィルムは公知の手法により形成できる。例えば、共重合体(A)を主成分として含む樹脂をフィルムとし、得られた樹脂フィルムを所定の方向に一軸延伸または二軸延伸することで当該フィルムに含まれる重合体の分子鎖を配向させて、本発明の延伸フィルムを形成できる。
【0068】
共重合体(A)を主成分とする樹脂をフィルムにする方法は特に限定されない。溶液状の樹脂は、例えばキャスト成形すればよい。固形状の樹脂は、溶融押出やプレス成形などの成形手法を用いればよい。
【0069】
フィルムを一軸または二軸延伸する方法は特に限定されず、公知の手法に従えばよい。一軸延伸は、典型的には、フィルムの幅方向の変化を自由とする自由端一軸延伸である。二軸延伸は、典型的には逐次二軸延伸である。延伸方法、延伸温度および延伸倍率は、目的とする光学特性および機械的特性などに応じて、適宜選択すればよい。
【実施例】
【0070】
以下、実施例により、本発明をより詳細に説明する。本発明は、以下に示す実施例に限定されない。
【0071】
最初に、本実施例において作製した共重合体および延伸フィルムの評価方法を示す。
【0072】
[重量平均分子量]
共重合体の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算により求めた。測定に用いた装置および測定条件は以下の通りである。
システム:東ソー製
カラム:TSK−GEL SuperHZM−M 6.0×150 2本直列
ガードカラム:TSK−GEL SuperHZ−L 4.6×35 1本
リファレンスカラム:TSK−GEL SuperH−RC 6.0×150 2本直列
溶離液:クロロホルム 流量0.6mL/分
カラム温度:40℃
【0073】
[ガラス転移温度]
共重合体のガラス転移温度(Tg)は、JIS K7121に準拠して求めた。具体的には、示差走査熱量計(リガク社製、DSC−8230)を用い、窒素ガス雰囲気下、約10mgのサンプルを常温から200℃まで昇温(昇温速度20℃/分)して得られたDSC曲線から、始点法により評価した。リファレンスには、α−アルミナを用いた。
【0074】
[面内位相差Re]
延伸フィルムの面内位相差(厚さ100μmあたり)は、全自動複屈折計(王子計測機器製、KOBRA−21ADH)を用いて評価した。
【0075】
[厚さ方向の位相差Rth]
延伸フィルムの厚さ方向の位相差は、全自動複屈折計(王子計測機器製、KOBRA−21ADH)を用いて評価した。
【0076】
[固有複屈折の正負]
延伸フィルムを構成する共重合体の固有複屈折の正負は、全自動複屈折計(王子計測機器製、KOBRA−21ADH)を用いて当該フィルムの配向角を求め、その値に基づいて評価した。測定された配向角が0°近傍の場合、延伸フィルムを構成する共重合体の固有複屈折は正であり、測定された配向角が90°近傍の場合、延伸フィルムを構成する共重合体の固有複屈折は負である。
【0077】
[可撓性]
延伸フィルムの可撓性は、温度25℃、相対湿度65%RHの雰囲気下に1時間静置した幅15mm、長さ80mmの試験片を用い、MIT形耐折度試験機(テスター産業製、MIT BE−201型)を用いて、荷重を200gとし、JIS P8115に準拠して求めた。
【0078】
(製造例1)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応装置に、単量体としてN−フェニルマレイミド(PMI)12.5部、メタクリル酸メチル(MMA)31.5部、およびスチレン(St)6.0部と、重合溶媒としてトルエン50.0部とを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として0.03重量部のt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富社製、商品名:ルパゾール570)を添加して、約105〜110℃の環流下で溶液重合を進行させた。
【0079】
次に、このようにして得た重合溶液を、減圧下240℃で1時間乾燥させて、MMA単位、St単位およびPMI単位からなる透明な共重合体(A)を得た。共重合体(A)の組成は、MMA:St:PMI=62%:13%:25%である。
【0080】
共重合体(A)のTgは140℃であり、重量平均分子量は24.6万であった。
【0081】
(製造例2)
単量体として5.0部のPMIおよび45.0部のMMAと、重合開始剤としてt−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート0.2部とを用い、連鎖移動剤としてn−ドデシルメルカプタン0.02部をさらに加えた以外は、製造例1と同様にして、溶液重合を進行させた。
【0082】
次に、このようにして得た重合溶液を、減圧下240℃で1時間乾燥させて、MMA単位およびPMI単位からなる透明な共重合体(B−1)を得た。共重合体(B−1)の組成は、MMA:PMI=90%:10%である。共重合体(B−1)は、特開2007−31537(特許文献1)に開示の重合体に相当する。
【0083】
共重合体(B−1)のTgは129℃であり、重量平均分子量は14.9万であった。
【0084】
(製造例3)
単量体として11.4部のPMIおよび55.6部のStと、重合開始剤としてt−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート0.06部とを用い、重合溶媒であるトルエンの量を33.0部とした以外は、製造例1と同様にして、溶液重合を進行させた。
【0085】
次に、このようにして得た重合溶液を、減圧下240℃で1時間乾燥させて、St単位およびPMI単位からなる透明な共重合体(B−2)を得た。共重合体(B−2)の組成は、St:PMI=80%:20%である。共重合体(B−2)は、特開平6−67021号公報(特許文献3)に開示の重合体に相当する。
【0086】
共重合体(B−2)のTgは137℃であり、重量平均分子量は13.6万であった。
【0087】
(製造例4)
単量体として6.0部のN−シクロヘキシルマレイミド(CHMI)、41.0部のMMAおよび3.0部のStと、重合開始剤としてt−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート0.03部とを用いた以外は、製造例1と同様にして、溶液重合を進行させた。
【0088】
次に、このようにして得た重合溶液を、減圧下240℃で1時間乾燥させて、MMA単位、St単位およびシクロヘキシルマレイミド(CHMI)単位からなる透明な共重合体(B−3)を得た。共重合体(B−3)の組成は、MMA:St:CHMI=62%:13%:25%である。共重合体(B−3)は、特許2886893公報(特許文献2)に開示の重合体に相当する。
【0089】
共重合体(B−3)のTgは137℃であり、重量平均分子量は14.1万であった。
【0090】
(実施例1)
製造例1で作製した共重合体(A)をプレス成形機により250℃でプレス成形して、厚さ140μmのフィルムとした。次に、作製したフィルムを、二軸延伸装置(東洋精機製作所製TYPE EX4)を用いて、MD方向の延伸倍率が2倍、これに続くTD方向の延伸倍率が1.5倍となるように、延伸温度150℃(即ち、共重合体(A)のTg+10℃)で逐次二軸延伸して、厚さ63μmの延伸フィルム(FA−1)を得た。なお、以降の比較例1、2におけるフィルムの延伸には上記延伸装置を用いた。
【0091】
これとは別に、上記プレス成形により作製したフィルムを、MD方向の延伸倍率が2倍、これに続くTD方向の延伸倍率が1.5倍となるように、延伸温度155℃(即ち、共重合体(A)のTg+15℃)で逐次二軸延伸して、厚さ50μmの延伸フィルム(FA−2)を得た。
【0092】
(比較例1)
製造例2で作製した共重合体(B−1)をプレス成形機により250℃でプレス成形して、厚さ140μmのフィルムとした。次に、作製したフィルムを、MD方向の延伸倍率が2倍、これに続くTD方向の延伸倍率が1.5倍となるように、延伸温度139℃(即ち、共重合体(B−1)のTg+10℃)で逐次二軸延伸して、厚さ60μmの延伸フィルム(FB−1)を得た。
【0093】
(比較例2)
製造例3で作製した共重合体(B−2)をプレス成形機により250℃でプレス成形して、厚さ140μmのフィルムとした。次に、作製したフィルムを、MD方向の延伸倍率が2倍、これに続くTD方向の延伸倍率が1.5倍となるように、延伸温度152℃(即ち、共重合体(B−2)のTg+15℃)で逐次二軸延伸して、厚さ41μmの延伸フィルム(FB−2)を得た。
【0094】
なお、上記プレス成形により作製したフィルムを、延伸温度147℃(即ち、共重合体(B−2)のTg+10℃)で逐次二軸延伸しようとしたところ、一段目であるMD方向の延伸は無事に実施できたが、二段目のTD方向の延伸時にフィルムが破断して、二軸延伸性の延伸フィルムが得られなかった。
【0095】
(実施例2)
製造例1で作製した共重合体(A)をプレス成形機により250℃でプレス成形して、厚さ150μmのフィルムとした。次に、作製したフィルムを、オートグラフ(島津製作所製)を用いてMD方向の延伸倍率が2.0倍となるように、延伸温度143℃(即ち、共重合体(A)のTg+3℃)で自由端一軸延伸して、厚さ118μmの延伸フィルム(FA−3)を得た。
【0096】
(比較例3)
製造例4で作製した共重合体(B−3)をプレス成形機により250℃でプレス成形して、厚さ100μmのフィルムとした。次に、作製したフィルムを、オートグラフ(島津製作所製)を用いてMD方向の延伸倍率が2.0倍となるように、延伸温度140℃(即ち、共重合体(B−3)のTg+3℃)で自由端一軸延伸して、厚さ70μmの延伸フィルム(FA−4)を得た。
【0097】
実施例1、2および比較例1〜3で作製した各延伸フィルムの評価結果を、以下の表1に示す。
【0098】
【表1】

【0099】
表1に示すように、実施例1で作製した延伸フィルムFA−1では、比較例1、2で作製した延伸フィルムFB−1、FB−2に比べて、大きな負の位相差と高い可撓性とを実現できた。即ち、本発明により、大きな位相差と高い可撓性とを有する負の位相差フィルムを実現できることがわかった。また、実施例1で作製した延伸フィルムFA−2のMIT回数は1199回であり、延伸条件の制御により、非常に高い可撓性を有する延伸フィルムとなった。FA−2における厚さ方向の位相差Rthは負であるため、延伸条件の制御により、大きな位相差と非常に高い可撓性とを有する負の位相差フィルムを実現できることがわかった。
【0100】
また、実施例2で作製した一軸延伸性の延伸フィルムFA−3では、比較例3で作製した一軸延伸性の延伸フィルムFB−3に比べて、非常に大きな負の位相差を実現できた。即ち、本発明により、非常に大きな位相差を有する負の位相差フィルムを実現できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0101】
光学的な設計の自由度が高く、優れた可撓性を有する光学用延伸フィルム、例えば負の位相差フィルム、を提供できる。
【0102】
本発明の光学用延伸フィルムは、従来の延伸フィルムと同様に、液晶表示装置(LCD)をはじめとする画像表示装置に幅広く使用できる。この延伸フィルムの使用により、画像表示装置における表示特性を改善でき、画像表示装置のさらなる薄型化も可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負の固有複屈折を有する樹脂を延伸してなる光学用延伸フィルムであって、
前記樹脂は、(メタ)アクリル酸エステル単位、芳香族ビニル化合物単位および芳香族マレイミド単位を構成単位として有する、固有複屈折が負の共重合体を主成分として含み、
前記共重合体の重量平均分子量が、10万以上30万以下であり、
前記共重合体における(メタ)アクリル酸エステル単位の含有量X、芳香族ビニル化合物単位の含有量Yおよび芳香族マレイミド単位の含有量Zが、重量%で表示して、以下の式を満たす光学用延伸フィルム。
30≦X≦70
5≦Y≦30
10≦Z≦40
Y<Z
【請求項2】
前記含有量Xが、前記含有量YおよびZの各々よりも大きい請求項1に記載の光学用延伸フィルム。
【請求項3】
前記含有量Xが、重量%で表示して、
50≦X≦70
である請求項1に記載の光学用延伸フィルム。
【請求項4】
ガラス転移温度が120℃以上である請求項1に記載の光学用延伸フィルム。
【請求項5】
前記(メタ)アクリル酸エステル単位が、メタクリル酸メチル単位である請求項1に記載の光学用延伸フィルム。
【請求項6】
前記芳香族ビニル化合物単位が、スチレン単位である請求項1に記載の光学用延伸フィルム。
【請求項7】
前記芳香族マレイミド単位が、N-フェニルマレイミド単位である請求項1に記載の光学用延伸フィルム。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の光学用延伸フィルムを備える画像表示装置。

【公開番号】特開2009−275069(P2009−275069A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−125232(P2008−125232)
【出願日】平成20年5月12日(2008.5.12)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】