説明

光学用蒸着膜フィルタの製造方法及びソーラーシミュレータ用光源ユニット

【課題】可視域でのフラットで高い透過特性を保持しつつ、カットオフ域と近赤外域での所望の透過特性を与える光学蒸着膜フィルタを最小限の工程で製造する。
【解決手段】第1の入射角用のスペクトル合致度設計値に従って1次フィルタを作製する工程、1次フィルタのスペクトル合致度を第2の入射角で測定して1次スペクトル合致度を取得する工程、設計値と1次スペクトル合致度の差分に基づいて、可視域の設計値を維持した状態でカットオフ域及び近赤外域の設計値を補正し、補正された設計値に従って2次フィルタを作製する工程、2次フィルタのスペクトル合致度を第2の入射角で測定して2次スペクトル合致度を取得する工程、可視域の設計値を維持した状態で、カットオフ域及び近赤外域について、設計値、1次及び2次スペクトル合致度の関係に基づいて最終設計値を決定する工程、及び最終設計値に従って光学蒸着膜フィルタを作製する工程を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はソーラーシミュレータに用いる光学用蒸着膜フィルタの製造方法及びソーラーシミュレータ用光源ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
ソーラーシミュレータでは、太陽光に近似するスペクトルを持つキセノンランプが光源として主に使用される。キセノンランプは近赤外域の放射が太陽光に比べて多いため、近赤外域の透過率を抑制するためのフィルタが必要となる。フィルタの方式としては蒸着膜フィルタ又は吸収ガラスがあるが、設計の自由度、精度及び耐久性の高さ等の観点において蒸着膜フィルタが有利であり、同フィルタが採用されることが多い。
【0003】
光学用蒸着膜フィルタの規格は、例えば光源と組み合わせた状態で、JIS・C8912「結晶系太陽電池測定用ソーラーシミュレータ」に規定され、その性能は特にスペクトル合致度と呼ばれる評価項目で判定される。後述するように、各波長域においてスペクトル合致度は透過率の略1次関数とみることができる。なお、本明細書においては一般に、400〜700nmを可視(波長)域、700〜800nmをカットオフ(波長)域、800〜1100nmを近赤外(波長)域というものとする。
【0004】
ところで、蒸着膜フィルタを使用する場合、フィルタへの入射角は垂直(0°)とは限らない。フィルタへの入射角が常に0°となるように、フィルタ形状をキセノンランプの形状に合わせて円筒形とすることも考えられるが、曲面に対して蒸着を行なうと膜厚ムラが発生するために設計通りの分光透過特性が得られない場合があり、有用ではない。従って、平面からなる蒸着膜フィルタを用いるのが好ましい。
【0005】
図1はソーラーシミュレータ用の一般的な光源ユニット6の断面図である(例えば、特許文献1)。図示するように、キセノンランプ22に対してその上方にフィルタ26、下方にフィルタ27が設けられる。フィルタ26及び27はフィルタ保持具26B及び27B並びにそれらに付加される蒸着膜フィルタ(赤外線カットフィルタ)26A及び27Aからなる。照射対象面(不図示)はフィルタ26の上方に水平に配置される。なお、21は吸収部材である。このような構成の光源ユニットの場合、キセノンランプ22から照射対象面の間で光が蒸着膜フィルタ27Aを通過する角度(入射角)には一定の幅がある。ここで、この入射角が大きくなると(蒸着膜に対して垂直でなくなると)蒸着膜を通過する光路長が増加し、また屈折率が変わることから、分光透過率が変動して所望の放射が得られなくなることが問題となる。
【0006】
従来では、上記の問題に対処するために複数回のカットアンドトライ的な試行錯誤を経て蒸着膜を設計していた。具体的には、まず、透過率、スペクトル合致度等に関する当初設計値(入射角0°用)に従って蒸着膜フィルタを作製し、その蒸着膜フィルタについて、複数の入射角に対するスペクトル合致度を取得する。この時点では通常、例えば図3Aに示すように、入射角が大きい場合のスペクトル合致度は、カットオフ域では低く、近赤外域では高くなり、規格(等級A:各波長域で0.75〜1.25)を満たさないものとなる。そこで、カットオフ域でのエネルギー分布(相対的な透過率)を高くするために可視域の透過率を相対的に下げ、さらに可視域の設計値の補正を考慮して近赤外域の設計値を補正していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−264991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記のような補正では、可視域でのフラットで高い透過率を犠牲にする結果となり、それと関連して近赤外域で所望のスペクトル合致度を満たすことの困難性が増す結果となっていた。
具体的には、上述のように、補正により可視域のエネルギー分布(相対的な透過率)を下げたことによって、照射対象への規定の照射量を確保するのに更に多くの電力が必要となっていた。これは省エネの観点から好ましくない。さらに、可視域のエネルギー分布を下げたことによって、近赤外域のエネルギー分布が上がってしまうので、これと逆行して近赤外域でのスペクトル合致度を下げる補正が更に必要となってしまう。すると、再び全体のエネルギー分布が変動するので、再び可視域又はカットオフ域での調整が必要になる。この補正を多数繰り返すことが必要となっていたため、生産性の向上が図れなかった。
【0009】
そこで、本発明は、可視域でのフラットで高い透過特性を保持しつつも、カットオフ域と近赤外域での所望の透過特性を与える蒸着膜フィルタを、最小限の工程で製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の側面は、光学蒸着膜フィルタの製造方法であって、第1の入射角用のスペクトル合致度設計値に従って1次蒸着膜フィルタを作製する工程、1次蒸着膜フィルタのスペクトル合致度を第2の入射角で測定して1次スペクトル合致度を取得する工程、スペクトル合致度設計値と1次スペクトル合致度の差分に基づいて、可視波長域のスペクトル合致度設計値を維持した状態でカットオフ波長域及び近赤外波長域のスペクトル合致度設計値を補正し、補正されたスペクトル合致度設計値に従って2次蒸着膜フィルタを作製する工程、2次蒸着膜フィルタのスペクトル合致度を第2の入射角で測定して2次スペクトル合致度を取得する工程、可視波長域のスペクトル合致度設計値を維持した状態で、カットオフ波長域及び近赤外波長域について、スペクトル合致度設計値、1次スペクトル合致度及び2次スペクトル合致度の関係に基づいて最終スペクトル合致度設計値を決定する工程、及び最終スペクトル合致度設計値に従って光学蒸着膜フィルタを作製する工程を備える製造方法である。
【0011】
上記第1の側面において、最終スペクトル合致度設計値を決定する工程が、カットオフ波長域について、スペクトル合致度設計値に対する1次又は2次スペクトル合致度の減衰量を補正するようにカットオフ波長域の最終スペクトル合致度設計値を長波長側にシフトする工程を含む構成とした。
また、最終スペクトル合致度設計値を決定する工程が、近赤外波長域について、1次スペクトル合致度及び2次スペクトル合致度における透過率とスペクトル合致度の線形近似に基づいて最終スペクトル合致度設計値を特定する工程を含む構成とした。
【0012】
本発明の第2の側面は、光学蒸着膜フィルタの製造方法であって、(A)可視波長域、カットオフ波長域及び近赤外波長域についての第1の入射角用の1次設計値(M01、M02、M03)に従って1次蒸着膜フィルタを作製する工程、(B)第1の入射角とは異なる第2の入射角における1次蒸着膜フィルタのスペクトル合致度を、可視波長域、カットオフ波長域及び近赤外波長域について測定及び算出して1次スペクトル合致度(M11、M12、M13)を取得する工程、(C)可視域波長の1次スペクトル合致度(M11)を規格化して近赤外域波長の規格化1次スペクトル合致度(M13´)を算出する工程、(D)カットオフ波長域及び近赤外波長域の1次設計値(M03)と規格化1次スペクトル合致度(M12´、M13´)の差分に基づいて、1次設計値のうちのカットオフ波長域及び近赤外波長域の設計値を補正して2次設計値を算出する工程、(E)2次設計値に従って2次蒸着膜フィルタを作製する工程、(F)第2の入射角における2次蒸着膜フィルタのスペクトル合致度を、可視波長域、カットオフ波長域及び近赤外波長域について算出して2次スペクトル合致度(M21、M22、M23)を取得する工程、(G)可視波長域の2次スペクトル合致度(M21)を規格化してカットオフ波長域及び近赤外波長域の規格化2次スペクトル合致度(M22´、M23´)を算出する工程、(H)カットオフ波長域の1次設計値(M02)と規格化1次スペクトル合致度(M12´)又は規格化2次スペクトル合致度(M22´)の関係に基づいて、カットオフ波長域の最終設計値を決定する工程、(I)近赤外域波長の1次設計値及び2次設計値における透過率と1次規格化スペクトル合致度(M13´)及び2次規格化スペクトル合致度(M23´)の線形近似に基づいて、近赤外波長のスペクトル合致度が1となるように近赤外波長域の最終設計値を決定する工程、及び(J)工程(H)及び(I)で決定された最終設計値に基づいて蒸着膜フィルタを作製する工程を備える製造方法である。
【0013】
上記第1又は第2の側面において、第2の入射角が複数の入射角からなり、1次及び2次スペクトル合致度を複数の入射角における測定値の平均値とすると補正の精度が増すので望ましい。また、第1の入射角をフィルタに対して垂直とすると本製造方法の汎用性が高まる。
なお、上記ステップ(H)において、最終設計値で規定されるカットオフ波長は2次設計値で規定されるカットオフ波長よりも長波長側にシフトする。
【0014】
本発明の第3の側面は、ソーラーシミュレータ用光源ユニットであって、キセノンランプ及びキセノンランプを覆うフィルタを備え、フィルタが、上記の製造方法によって製造された光学蒸着膜フィルタを備えたソーラーシミュレータ用光源ユニットである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】ソーラーシミュレータ用の光源ユニットを示す図である。
【図2】本発明の実施例による光学蒸着膜フィルタの製造方法のフローチャートである。
【図3A】1次蒸着膜フィルタのスペクトル合致度を示す図である。
【図3B】2次蒸着膜フィルタのスペクトル合致度を示す図である。
【図3C】最終蒸着膜フィルタのスペクトル合致度を示す図である。
【図4A】1次蒸着膜フィルタの分光透過率を示す図である。
【図4B】2次蒸着膜フィルタの分光透過率を示す図である。
【図4C】最終蒸着膜フィルタの分光透過率を示す図である。
【図5】最終蒸着膜フィルタの相対分光分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の光学蒸着膜フィルタ(以下、「蒸着膜フィルタ」という)の製造方法は、入射角による透過特性への影響度を特定し、入射角による影響が少ない可視域での透過特性を固定して、特定された影響度に基づいてカットオフ域及び近赤外域のスペクトル合致度を調整するものである。
【0017】
図2は本発明の実施例による蒸着膜フィルタの製造方法を示すフローチャートである。以下、本実施例を表1も参照して説明する。
【表1】


【0018】
まず、工程S102において、可視波長域(400−500nm、500−600nm、600−700nm)、カットオフ波長域(700−800nm)及び近赤外波長域(800−900nm、900−1100nm)についての第1の入射角用の1次設計値に従って1次蒸着膜フィルタを作製する。ここで、1次設計値は各波長域のスペクトル合致度からなるが、透過率又は各波長域間での相対透過率等、直接又は間接にスペクトル合致度を導出できるものであればよい。また、第1の入射角θはθ=0°(即ち、フィルタに対して垂直入射)であればよい。第1の入射角はこれに限定されないが、一般に当初設計値は入射角0°について設計されるので、θ=0°とするのが本製造方法の汎用性の観点から望ましい。
【0019】
ここで、第1の入射角における1次蒸着膜フィルタのスペクトル合致度の設計値を、可視域、カットオフ域及び近赤外域についてそれぞれ(M01、M02、M03)とする。これは1次設計値そのものであってもよいし、1次蒸着膜フィルタを実際に測定したものであってもよい。具体的には、表1のステップ1に示すように各波長域について基準スペクトル合致度が得られ、表1のステップ2に示すように800−900nmと900−1100nmの値が平均化される。
【0020】
工程S104において、第1の入射角とは異なる第2の入射角における1次蒸着膜フィルタのスペクトル合致度を、可視域、カットオフ域及び近赤外域について測定及び算出してそれぞれの1次スペクトル合致度(M11、M12、M13)を取得する。具体的には、表1のステップ3に示すように各波長域の1次スペクトル合致度が測定され、表1のステップ4に示すように可視域及び近赤外域の値が平均化され、M11、M12及びM13が得られる。
【0021】
上記第2の入射角は単一の入射角でも複数の入射角でもよいが、複数の入射角を用いた方が補正の精度が向上する。表1では1つの第2の入射角としてθ21=22.5°の場合を示している。
【0022】
図3Aに、各入射角における1次蒸着膜フィルタの1次設計値と1次スペクトル合致度の関係を示す。同図は表1のステップ1及び3の各値に対応する。
【0023】
工程S106において、表1のステップ5に示すように、可視域の1次スペクトル合致度(M11)を規格化してカットオフ域及び近赤外域の規格化1次スペクトル合致度(M12´、M13´)を算出する。
なお、本実施例では、計算量を減らすために平均化→規格化の順序で処理しているが、その逆の順序で処理してもよい。
【0024】
なお、本実施例では、第2の入射角として、θ21=θ25=22.5°、θ22=8.5°、θ23=4°、θ24=14°の5角度を用いているので、工程S104〜S106を残りの各入射角(θ22〜θ25)に対して行ない、平均規格化1次スペクトル合致度(Mav12´、Mav13´)を算出する。もちろん、第2の入射角を1つの角度のみで行なう場合は、(M12´、M13´)=(Mav12´、Mav13´)である。
【0025】
工程S108において、カットオフ域及び近赤外域の1次設計値(M02、M03)と平均規格化1次スペクトル合致度(Mav12´、Mav13´)のそれぞれの差分に基づいて、1次設計値のうちのカットオフ域及び近赤外域の部分を補正して2次設計値を算出する。具体的には、表1のステップ6に示すように、M02とM12´の関係を考慮してカットオフ波長を長波長側にシフトし、M03とM13´の比を考慮して近赤外域におけるスペクトル合致度(透過率)を下げる補正を行なう。なお、この際の補正は厳密なものでなくてもよい。
【0026】
工程S110において、上記2次設計値に従って2次光学蒸着膜フィルタを作製する。図3Bに各入射角における2次蒸着膜フィルタの2次設計値と2次スペクトル合致度の関係を示す。
【0027】
工程S112において、工程S104と同様に、第2の入射角における2次蒸着膜フィルタのスペクトル合致度を、可視域、カットオフ域及び近赤外域について測定及び算出してそれぞれの2次スペクトル合致度(M21、M22、M23)を取得する。
【0028】
工程S114において、工程S104と同様に、可視域における2次スペクトル合致度(M21)を規格化してカットオフ域及び近赤外域における規格化2次スペクトル合致度(M22´、M23´)を算出する。
【0029】
前述したように、本実施例では第2の入射角として、θ21=θ25=22.5°、θ22=8.5°、θ23=4°、θ24=14°の5角度を用いているので、工程S112〜S114を残りの各入射角(θ22〜θ25)に対して行ない、平均規格化2次スペクトル合致度(Mav22´、Mav23´)を算出する。もちろん、第2の入射角を1つの角度のみで行なう場合は、(M22´、M23´)=(Mav22´、Mav23´)である。表2に、本実施例における入射角(θ21〜θ25)についての平均規格化2次スペクトル合致度(Mav22´、Mav23´)を示す。
【表2】


【0030】
工程S116において、カットオフ域の1次設計値(M02)、平均規格化1次スペクトル合致度(M12´)及び平均規格化2次スペクトル合致度(M22´)の関係に基づいて、カットオフ域の最終設計値を決定する。具体的には、2次蒸着膜フィルタの平均規格化2次スペクトル合致度(Mav22´=0.72)が1次設計値の1.06に対して約32%減衰しているので、Mav22´が約32%上昇するようにカットオフ波長を長波長側にずらす補正を行なう。本実施例の場合、図4A及び4Bから1次蒸着膜フィルタで約25nm、2次蒸着膜フィルタで約30nmが補正すべきシフト量に相当する。即ち、カットオフ波長を2次蒸着膜フィルタから30nm長波長側に補正する。
【0031】
工程S118において、近赤外域における平均規格化1次スペクトル合致度(Mav13´)と平均規格化2次スペクトル合致度(Mav23´)の線形近似に基づいて、近赤外域のスペクトル合致度が1となるように近赤外域の最終設計値を決定する。具体的には、スペクトル合致度は透過率の1次関数となることが分かっているので、表3に示す近赤外域(800−1100nm)の平均透過率設計値(x)、及び近赤外域の全入射角(θ21〜θ25)についての平均規格化2次スペクトル合致度(y)から、
y=0.065x+0.251
となることが導かれる。
【表3】



ここで、スペクトル合致度についてy=1の場合、x=11.6(%)となるので、近赤外域での平均透過率が11.6%となるように最終設計値を決定する。
【0032】
工程S120において、上記最終設計値に基づいて蒸着膜フィルタを作製する。図3Cに最終設計値に基づいて作製された最終の蒸着膜フィルタのスペクトル合致度を示す。図示するように、各波長域において規格(等級A:各波長域で0.75〜1.25)を満たしている。
【0033】
図4A、4B及び4Cに、1次蒸着膜フィルタ、2次蒸着膜フィルタ及び最終蒸着膜フィルタの分光透過率(全入射角の平均)をそれぞれ示す。図4Cの最終の蒸着膜フィルタの可視域はフラットで高い透過率を有し、カットオフ周波数は図4A又は4Bに示す1次又は2次蒸着膜フィルタのカットオフ周波数よりも長波長側にシフトしている。なお、図5に参照として、最終蒸着膜フィルタの透過光の相対発光強度を示す。
【0034】
上記製造方法によって製造された蒸着膜フィルタは図1の蒸着膜フィルタ(赤外線カットフィルタ)26A又は27Aとして実施できる。即ち、キセノンランプ22及びキセノンランプ22を覆うフィルタ26及び27を備え、フィルタ26及び27において、上記の製造方法によって製造された蒸着膜フィルタ26A又は27Aがフィルタ保持具26B又は27Bに付加されたソーラーシミュレータ用光源ユニットを構成することができる。
【0035】
上述したように、本発明の製造方法は、可視域の透過率をカットオフ域の透過率に対して大きく下げるような工程を有していないので、最終設計値による最終光学蒸着膜フィルタの可視域における透過率は、1次光学蒸着膜フィルタと同様にフラットで、かつ高いレベルにあることが分かる。また、上記製造方法は複数の入射角が発生し得る光源ユニットに適用できるので、図1に示す光源ユニットだけでなく、様々なフィルタ構成を有する光源に適用できる。
【0036】
また、本製造方法ではわずか2回の設計値補正で所望の透過特性を得ることができた。即ち、可視域でのフラットで高い透過特性を保持しつつも、カットオフ域と近赤外域での所望の透過特性を与える蒸着膜フィルタを、最小限の工程で製造することが可能となった。
【0037】
以上に本発明の最も好適な実施例を示したが、以下のように変形することもできる。
(1)実施例では、第1の入射角0°での特性を基準として第2の入射角での特性を調整する構成を示したが、他の(0°でない)入射角を第1の入射角として、第2の入射角(0°を含んでいてもいなくてもよい)での特性を調整する構成としてもよい。
(2)実施例では、(0°を含めて)6個の入射角を用いて設計値の決定を行なったが、少なくとも2個の入射角を用いれば本発明の製造方法を実現できる。
(3)上記実施例では、工程S116及びS118双方を適用するものを示したが、カットオフ域の補正だけが目的であれば工程S118は省略してもよく、逆に近赤外域の補正だけが目的であれば工程S116を省略できる。
【符号の説明】
【0038】
6.光源ユニット
22.キセノンランプ
26、27.フィルタ
26A、27A.蒸着膜フィルタ(赤外線カットフィルタ)
26B、27B.フィルタ保持具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学蒸着膜フィルタの製造方法であって、
第1の入射角用のスペクトル合致度設計値に従って1次蒸着膜フィルタを作製する工程、
前記1次蒸着膜フィルタのスペクトル合致度を第2の入射角で測定して1次スペクトル合致度を取得する工程、
前記スペクトル合致度設計値と前記1次スペクトル合致度の差分に基づいて、可視波長域のスペクトル合致度設計値を維持した状態で前記カットオフ波長域及び近赤外波長域のスペクトル合致度設計値を補正し、補正されたスペクトル合致度設計値に従って2次蒸着膜フィルタを作製する工程、
前記2次蒸着膜フィルタのスペクトル合致度を前記第2の入射角で測定して2次スペクトル合致度を取得する工程、
可視波長域のスペクトル合致度設計値を維持した状態で、前記カットオフ波長域及び近赤外波長域について、スペクトル合致度設計値、前記1次スペクトル合致度及び前記2次スペクトル合致度の関係に基づいて最終スペクトル合致度設計値を決定する工程、及び
前記最終スペクトル合致度設計値に従って光学蒸着膜フィルタを作製する工程
を備える製造方法。
【請求項2】
請求項1の製造方法であって、前記最終スペクトル合致度設計値を決定する工程が、
前記カットオフ波長域について、前記スペクトル合致度設計値に対する前記1次又は2次スペクトル合致度の減衰量を補正するように前記カットオフ波長域の最終スペクトル合致度設計値を長波長側にシフトする工程を含む製造方法。
【請求項3】
請求項1の製造方法であって、前記最終スペクトル合致度設計値を決定する工程が、
前記近赤外波長域について、前記1次スペクトル合致度及び2次スペクトル合致度における透過率とスペクトル合致度の線形近似に基づいて最終スペクトル合致度設計値を特定する工程を含む製造方法。
【請求項4】
光学蒸着膜フィルタの製造方法であって、
(A)可視波長域、カットオフ波長域及び近赤外波長域についての第1の入射角用の1次設計値(M01、M02、M03)に従って1次蒸着膜フィルタを作製する工程、
(B)前記第1の入射角とは異なる第2の入射角における前記1次蒸着膜フィルタのスペクトル合致度を、前記可視波長域、カットオフ波長域及び近赤外波長域について測定及び算出して1次スペクトル合致度(M11、M12、M13)を取得する工程、
(C)前記可視域波長における前記1次スペクトル合致度(M11)を規格化して前記近赤外域波長の規格化1次スペクトル合致度(M13´)を算出する工程、
(D)前記カットオフ波長域及び近赤外波長域の前記1次設計値(M03)と前記規格化1次スペクトル合致度(M12´、M13´)の差分に基づいて、前記1次設計値のうちの該カットオフ波長域及び近赤外波長域の設計値を補正して2次設計値を算出する工程、
(E)前記2次設計値に従って2次蒸着膜フィルタを作製する工程、
(F)前記第2の入射角における前記2次蒸着膜フィルタのスペクトル合致度を、前記可視波長域、カットオフ波長域及び近赤外波長域について算出して2次スペクトル合致度(M21、M22、M23)を取得する工程、
(G)前記可視波長域の前記2次スペクトル合致度(M21)を規格化して前記カットオフ波長域及び近赤外波長域の規格化2次スペクトル合致度(M22´、M23´)を算出する工程、
(H)前記カットオフ波長域の前記1次設計値(M02)と前記規格化1次スペクトル合致度(M12´)又は前記規格化2次スペクトル合致度(M22´)の関係に基づいて、前記カットオフ波長域の最終設計値を決定する工程、
(I)前記近赤外域波長の前記1次設計値及び前記2次設計値における透過率と前記1次規格化スペクトル合致度(M13´)及び前記2次規格化スペクトル合致度(M23´)の線形近似に基づいて、前記近赤外波長のスペクトル合致度が1となるように前記近赤外波長域の最終設計値を決定する工程、及び
(J)前記工程(H)及び(I)で決定された最終設計値に基づいて蒸着膜フィルタを作製する工程
を備える製造方法。
【請求項5】
ソーラーシミュレータ用光源ユニットであって、
キセノンランプ及び該キセノンランプを覆うフィルタを備え、
前記フィルタが、請求項1又は4記載の製造方法によって製造された光学蒸着膜フィルタを備えたソーラーシミュレータ用光源ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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