説明

光学的に制御された周辺部分を有するレンズならびにレンズを設計および製造するための方法

周辺視覚像の光学制御を提供する度数プロフィールを有する周辺部分を持つコンタクトレンズまたは有水晶体IOCレンズを提供する。通常、光学制御を持つレンズの中央部分を提供する。中央および周辺部分の境界でのレンズの度数プロフィールは、所望または選択した視覚矯正をレンズが提供することを確実にする、一定の境界条件を満たす。レンズの周辺部分は、網膜に対して周辺視覚像の焦点をずらす光学制御を提供することから、レンズは、眼の成長を防止または抑制に使用することができ、それにより、近視または近視の作用を防止または抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、視覚矯正を提供するために使用するコンタクトレンズおよび有水晶体眼内(IOC)レンズに関する。より詳細には、本発明は、光学的に制御された周辺部分を持つコンタクトレンズおよび有水晶体IOCレンズを提供することに関する。
【背景技術】
【0002】
コンタクトレンズは、視覚障害を矯正するために眼の角膜にわたって装着される、薄いプラスチックまたはガラスレンズである。様々な種類の視覚障害を治療するために設計された、様々な種類のコンタクトレンズが存在する。有水晶体IOCレンズは、人間の角膜の後方に埋め込まれ、眼の生来の水晶体と連動して機能し、視覚矯正を提供するレンズである。有水晶体IOCレンズは、通常、ポリメチルメタクリレート(PMMA)と呼称する材料で作製される。「有水晶体」という用語は、有水晶体IOCレンズを使用する眼が眼の生来の水晶体を具有することを意味する。
【0003】
コンタクトレンズおよび有水晶体IOCレンズの両方を包含する通常のレンズは、レンズの中央部分のみに光学制御を提供するように設計および製造される。レンズの中央部分は、周辺視覚よりもはるかに正確である中央視覚に影響することから、最も重要と見なされる。レンズの「中央部分」は、その用語を本明細書において使用するように、光学的に制御され、人間の中央視覚に意図する光学作用を提供する、レンズの部分を指すことを意図するものである。通常のソフトコンタクトレンズの中央部分は、レンズの中心から外方向に、中央部分の外周における約3.5〜4ミリメートル(mm)の距離まで延在する。これは、レンズの中心におけるr=0.0mmから、レンズの中央および周辺部分が接する境界におけるr≒3.5または4.0mmまでの範囲に及ぶ、半径方向距離rに対応する。通常のコンタクトレンズの周辺部分は、中央部分が終了するところ(例を挙げれば、r≒3.5または4.0mm)で始まり、外方向に、レンズ中心からr≒7.0の半径方向距離に延在する周辺部分を有する。したがって、通常のソフトコンタクトレンズは、約14.0mmの合計直径を有する。
【0004】
中央視覚は、眼の網膜の中心およびその周りで光受容器の密度が比較的高いため、周辺視覚よりも正確であると考えられる。「錐体」としても公知であるこれらの光受容器は、昼間および色視覚を司り、中心窩として公知である、網膜の中心の近傍の小さい窪みに集中している。錐体のこの密な集中は、網膜のこの領域に最も大きな視力を提供する。視力は、網膜の周辺領域では劇的に低下する。中央視覚により、人間は、視野の近傍か、その中心にあるより小さいフィーチャを識別することができるのに対し、視野の中心の外部にあるフィーチャは、人間が周辺視覚を通じてそれらを識別するには、より大きい必要がある。
【0005】
ソフトコンタクトレンズは、周辺部分が眼の中央視覚に影響しないことから、レンズの周辺部分にわたって光学制御を提供するように設計されない。通常のソフトコンタクトレンズの周辺部分を通過する光線は、網膜の中央領域で焦点を結ばず、したがって、眼の中央視覚に影響しない。通常のソフトコンタクトレンズの周辺部分は、時に、中央部分を周辺部分に接続するブレンドまたは移行部分を包含する。このブレンド部分は、光学制御を提供するように設計されず、そのため、眼の瞳孔が小さいケースを除き、視覚矯正を提供しない。ブレンド部分の目的は、単に、中央および周辺部分を互いに接続することである。
【0006】
眼の角膜の直径は、通常、約11mm〜約12mmの範囲に及ぶが、通常のソフトコンタクトレンズの中央部分は、通常、直径で約7mm〜約8mm(すなわち、r≒3.5〜4mm)の範囲に及ぶ。眼の中央視覚ゾーンの直径は、一般的に、暗所順応視条件下において、瞳孔が直径で7mmよりも大きくないときに中央視覚を提供する領域として画定される。「暗所順応」という用語は、暗闇または薄暗い光のなかで見る能力を意味し、暗順応視覚とも呼ぶ。通常のソフトコンタクトレンズは、合計直径で約14mmであるが、中央の直径7または8mmの部分のみが視覚矯正を提供する。共通してレンチキュラー部分とも呼ぶ周辺部分は、レンズを安定させ、眼の輪部(limbus)にわたってレンズを快適に装着するのに役立つ。
【0007】
通常のソフトコンタクトレンズの周辺部分は、眼に入る光にわたって光学制御を提供するように設計されない一方、周辺視覚像が眼の視覚系に重要な作用を有することができることが示唆されている。例として、周辺範囲の視覚により、近視が進むことが示唆されている。近視は、近眼の医学的な用語である。近視者は、眼により近い対象をより明瞭に見る一方、遠方の対象が不鮮明または不明瞭に見える。
【0008】
周辺視覚が眼の視覚系に影響することができるやり方は、例として、Smithらに対する米国特許第7,025,460号で説明されている。具体的には、Smithらの第3列第42〜47行において、:
「本発明は、周辺の網膜像(すなわち周辺視覚)が全体的な眼の長さの決定において主要な役割を果たし、周辺および合計の眼の成長を促進し、結果として、軸方向伸長、眼サイズの全体の増加および近視を生じさせる効果的な刺激であることを実証する、本発明者らの実験からの新しい学識に基づいている。」
と、記述している。Smithらは、「中央野の像の位置が中央網膜(すなわち窩)の近傍に位置付けられる一方、未矯正条件での普通よりも周辺網膜の前方(または前部)(すなわち、眼の角膜または前部に向かって)に位置付けられる周辺野の像の位置」を有する、視覚的な像を提供するための様々な方法および装置を開示している。Smithらは、この配置により、近視につながる眼軸方向伸長のための刺激が最小化または除去されることを開示している。
【0009】
Collinsらに対する米国特許第6,045,578号は、レンズの中央部分の中央領域に入る近軸光線が網膜上で焦点を結ぶことを引き起こす一方、レンズの中央部分の周辺領域に入る光線が角膜と網膜との間の面で焦点を結ぶことを引き起こし、それにより、網膜上で像の正の球面収差を生成する、中央部分(すなわち、光学系ゾーン)を有するレンズを使用する、近視に治療するための方法を開示している。Collinsらは、この正の球面収差が眼に対し、眼の成長を抑制する傾向がある生理学的作用を有し、したがって、近視的な眼がより長く成長する傾向を緩和することを記述している。
【0010】
Collinsらは、レンズの中央部分の中心領域に入る近軸光線が網膜上で焦点を結ぶことを引き起こす一方、レンズの中央部分の周辺領域に入る光線が網膜の後方の面で焦点を結ぶことを引き起こし、それにより、網膜上で像の負の球面収差を生成する、中央部分(すなわち、光学系ゾーン)を有するレンズを使用することにより、遠視を緩和するための態様も開示している。Collinsらは、この負の球面収差が眼に対し、眼の成長を増進する傾向がある生理学的作用を有し、したがって、遠視を緩和することを記述している。
【0011】
SmithらおよびCollinsらの両方が周辺視覚像の重要性を認識している一方、これらの特許は、レンズの中央部分の外周を通過する光線が眼の視覚系に対して有する作用に関連するものである。換言すると、これらの特許は、レンズの周辺部分(すなわち、レンズにおける直径が約7または8mmの中央部分の外部の部分)を通過する光線が眼に対して有する作用に関連するものではない。そのため、これらの光線が視覚系に対して生成する作用は、必須の光学制御を提供する、レンズの中央部分の能力によって制限される。
【0012】
SmithらおよびCollinsらに記載されたものを包含する種々の理由のため、光学制御を提供する、周辺部分を有するレンズを提供することが望ましいであろう。しかし、レンズの周辺部分は、レンズを安定させ、眼球の表面にレンズを装着するために使用され、かつ、普通、所与のレンズシリーズのあらゆるレンズで同一であることから、周辺部分は、普通、光学制御を提供するように設計されない。周辺部分が光学制御を提供するように設計された場合、レンズシリーズ全体で同一を維持することができない。むしろ、周辺部分をレンズ毎に変動させ、それが提供する光学制御が、中央部分によって提供される光学制御と共に機能することを確実にすることが要望されるであろう。結果的に、ソフトコンタクトレンズ業界における従来の観点として、中央視覚が最も重要であり、レンズの周辺部分に光学制御を提供するには、同一シリーズの異なるレンズを周辺部分が異なるように製造することを要するであろうことから、光学制御を提供する周辺部分を有するようにコンタクトレンズを設計することは望ましくない。
【0013】
さらに、コンタクトレンズの光学ゾーンの直径を増加させることは、コンタクトレンズ業界による解決が要望されるであろう一定の問題を提示する。例として、光学度数で−10D〜+6Dの範囲に及び、直径8mmの中央部分を有するレンズを含む、通常のレンズシリーズでは、シリーズの異なるレンズのサジタル深さ(SAG)差は、ディオプター(Diopter)当たりでほぼ20マイクロメートル(μm)である。そのため、中央部分の中心および中央部分の端部の両方において、レンズの厚さがレンズシリーズにわたって変動する。中央部分の直径を増加させた場合、シリーズにまたがるSAG差は、さらにより大きな程度に増加するであろう。周辺部分の前部表面は、一般的に、シリーズの度数範囲にまたがって定常であることから、中央部分の直径を増加させるには、所与のシリーズにまたがるレンズ毎にブレンド部分の傾斜および曲率をさらにより大きな程度に変動させることを要するであろう。これは、レンズの設計および製造の点でさらにより大きな問題を提示する。
【0014】
それゆえに、光学制御を提供し、容易に設計および製造することができる周辺部分を有するコンタクトレンズが要望されている。
【発明の概要】
【0015】
本発明に従い、光学制御を提供する周辺部分を有するレンズを提供する。レンズの周辺部分は、周辺視覚像が眼の網膜に対して焦点を結ぶ位置を光学的に制御する度数プロフィールを有する。レンズは、中央部分を通過する光線にわたって光学制御を提供する、少なくとも一つの光学ゾーンを有する中央部分も有する。中央部分は、中心視覚像が眼の網膜に対して焦点を結ぶ位置を光学的に制御する、度数プロフィールを有する。
【0016】
本発明は、近視につながる眼の成長を防止または抑制するレンズを提供するための方法も提供する。方法は、設計するレンズの周辺部分のため、度数プロフィールを選択する工程と、選択した度数プロフィールに基づいて光学制御を提供する、周辺部分を有するレンズの設計を生成する工程とを含む。周辺部分の度数プロフィールにより、周辺視覚像が眼の網膜に対して焦点を結ぶ位置を光学的に制御する。レンズ設計は、中心視覚像が眼の網膜に対して焦点を結ぶ位置を光学的に制御する、度数プロフィールを有する中央部分も包含する。
【0017】
本発明のこれらおよび他のフィーチャおよび効果は、以下の記載、図面および特許請求の範囲から明確となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】中央部分および光学的に制御された周辺部分を有する、本発明の例証的な態様に従ったレンズの平面図を例証する。
【図2】光学的に制御された一つ以上の光学ゾーンを有する態様に従った、図1に示すレンズの中央部分の平面図を例証する。
【図3】図1に示すレンズに好適な度数プロフィールであり、すべてがレンズの周辺部分に光学制御を提供する、三つの異なる度数プロフィールを含有するプロットを例証する。
【図4】図1に示すレンズに好適な度数プロフィールであり、すべてがレンズの周辺部分に光学制御を提供する、三つの異なる度数プロフィールを含有するプロットを例証する。
【図5】態様に従った本発明の方法を表すフローチャートを例証する。
【0019】
例証する態様の詳細な記載
本発明に従い、レンズの周辺部分の度数プロフィールを制御することにより、コンタクトレンズまたは有水晶体IOCレンズの周辺部分に光学制御を提供する。通常、レンズの中央部分にも光学制御を提供するものの、本発明は、主としてレンズの周辺部分に関連するものであることから、レンズの中央部分の度数プロフィールについて、本発明が制限されることはない。中央および周辺部分の境界における本発明のレンズの度数プロフィールは、図3および4を参照しながら下記に詳細に記載するように、所望または選択した視覚矯正をレンズが提供することを確実にするために必須である一定の境界条件を満たす。
【0020】
図1は、本発明の態様に従ったコンタクトレンズ1の平面図を例証する。レンズ1は、中央部分10および周辺部分20を含む。周辺部分20は、中央部分10と周辺部分20とを相互接続するブレンド部分30を包含する。中央部分10は、通常、レンズ1の中心2における0.0mmから中央部分10の外周3の外側端部における約3.5または4.0mmまでの範囲に及ぶ、半径rを有する。周辺部分20は、中央部分10の半径rと一致する内半径rIおよび周辺部分20の外周11の外側端部と一致し、通常、約7.0mm〜約8.0mmである、外側半径rOを有する。
【0021】
図2は、周囲の周辺部分20がない、レンズ1の中央部分10の平面図を例証する。レンズ1の中央部分10は、単一の光学ゾーンまたは複数の光学ゾーンで構成することができる。中央部分10を構成する光学ゾーンの数について、本発明が制限されることはない。破線円13、14および15は、中央部分を構成する任意の光学ゾーン16、17、18および19を分画することを意図するものである。破線円13、14および15は、光学ゾーン間の個別の境界を指示するように見えることができるが、通常、中央部分10を構成する任意の光学ゾーンに円滑な遷移領域を提供し、一つのゾーンからもう一つに移行するときに光学度数の急激な変化がない。しかし、中央部分10によって提供される光学ゾーンに関して、または中央部分10によって提供される光学制御について、本発明が制限されることはない。
【0022】
本発明の一つの態様では、レンズ1の中央部分10および周辺部分20によって提供される光学制御を記載する度数プロフィールは、中央部分10と周辺部分20とが接する境界(すなわち、ブレンド部分30)にまたがる一次導関数において連続的である、任意の度数プロフィールである。この境界条件を満足し、レンズ1の度数プロフィールを画定するために好適である、大きい数の数学関数が存在する。
【0023】
図3は、図1に示すレンズ1に好適な度数プロフィールである、三つの異なる度数プロフィール50、60および70のプロット40を例証する。プロット40の縦軸は、ディオプターで光学度数を表し、横軸は、レンズ1の中心2から外方向にレンズ1の周辺部分20の外周11に向かう、半径方向距離を表す。この例では、周辺部分20の外側外周11は、レンズ1の中心2からの半径方向距離が約7mmであるものの、この態様では、この領域を超えたプロフィールが重要ではないことから、プロット40は、r=6.0mmで中断する。この態様に従い、中央部分10と周辺部分20との間の境界は、レンズ1の中心2からの半径方向距離が約3.5mmである。
【0024】
各度数プロフィール50、60および70は、少なくとも、中央部分10と周辺部分20とが接する境界での一次導関数において微分可能である、数学関数によって画定する。換言すると、数学関数は、少なくとも、中央部分10と周辺部分20とが接する境界において連続的である。これは、少なくとも境界では、各関数の一次導関数を求めることができることを意味する。中央部分10と周辺部分20とが接する境界での一次導関数において微分可能であることに加え、これらの関数は、要望されないものの、境界での二次、三次およびより高い次数の導関数において微分可能であることができる。そのため、関数は、より高い次数の関数、例えば、例として、多項式であることができる。他の関数、例えば、例として、線形関数および連続的なスプライン関数(例を挙げれば、三次元スプラインおよび双三次スプライン)を使用し、度数プロフィールを記載することもできる。線形関数ならびに三次元および双三次スプライン関数は、すべて少なくとも一次導関数において微分可能である。
【0025】
中央部分10では、度数プロフィール50、60および70が等しく、符番41で表示する度数プロフィールの部分によって表す。度数プロフィールのこの部分は、近視および遠視を治療するために処方されるソフトコンタクトレンズの度数プロフィールを画定するために共通して使用される、通常のザイデル、ゼルニケ、円錐および双円錐数学関数に対応する。本発明は、図3に示す度数プロフィール50、60および70に制限されず、レンズ1の中央部分10の度数プロフィールについて制限されない。図3に示す度数プロフィールは、一次導関数において連続的であり、図1に示すレンズ1に好適な度数プロフィールである、度数プロフィールの例に過ぎない。
【0026】
最も未矯正の眼では、周辺視覚像が網膜の後方に形成される。各度数プロフィール50、60および70は、周辺部分20において、ゼロよりも大きいADD度数を有する。結果的に、各度数プロフィール50、60および70は、網膜の後方、網膜上または網膜の前部のいずれかから角膜に向かう方向に周辺視覚像を引っ張る、正のADD度数を提供する。周辺部分のために選択する度数プロフィールは、患者および要望または所望する視覚矯正量に依存する。例として、いくつかのケースでは、患者は、結果として周辺視覚像が網膜の後方で焦点を結ぶことを生じさせる、未矯正視覚を有することができる。このケースでは、プロフィール50を有するレンズを患者に装着すると、比較的大きいADD度数が提供され、網膜の前部で焦点を結ぶように周辺視覚像が移動する。
【0027】
結果として周辺視覚像が網膜上で焦点を結ぶことを生じさせる、未矯正視覚を患者が有する場合、プロフィール60を有するレンズを患者に装着すると、より低いADD度数が提供され、網膜上で焦点を結ぶことから網膜の前部で焦点を結ぶことに周辺視覚像が移動する。同じように、結果として周辺視覚像が網膜のやや前部で焦点を結ぶことを生じさせる、未矯正視覚を患者が有する場合、プロフィール70を有するレンズを患者に装着すると、小さいADD度数が提供され、わずかにより角膜に向かう方向に周辺視覚像が移動する。
【0028】
これらのケースのすべてにおいて、レンズが提供する付加的なADD度数は、結果として、網膜の周辺領域で近視的な焦点ずれを生じさせる。この近視的な焦点ずれは、眼の成長の防止または抑制を助け、それにより、近視を防止もしくは抑制および/または近視の作用を改善する。
【0029】
図4は、図1に示すレンズ1に好適な度数プロフィールである、三つの異なる度数プロフィール120、130および140を含有する、プロット110を例証する。この例では、度数プロフィールの部分111で指示するように、度数プロフィール120、130および140は、中心2から外方に、中央および周辺部分10および20が接する境界における約4.0mmまで延在する中央部分10において、数学的に等しい。この態様に従い、度数プロフィール120、130および140は、中央および周辺部分10および20間の境界にわたり、連続的であることができるか、連続的であることができない。換言すると、境界では、プロフィール120、130および140を記載する任意の数学関数のために一次導関数を求めることができない。
【0030】
例として、度数プロフィールを区分関数によって数学的に画定する場合、プロフィールは、通常、境界で連続的ではなく、そのため、境界での一次導関数において微分可能ではない。対照的に、度数プロフィールをスプライン関数によって数学的に画定する場合、プロフィールは、通常、境界で連続的であるものの、境界での一次導関数において微分可能ではない。しかし、他の境界条件が満たされることが提供されると、プロフィール120、130および140の任意の一つを有するレンズは、境界で連続的または不連続的であるかどうかにかかわらず、および境界での一次導関数において微分可能であるかにどうかにかかわらず、その意図する目的のために機能する。
【0031】
とりわけ、満たすことが要望される唯一の境界条件は、中央部分10の境界での光学度数と周辺部分20の境界での光学度数との間の差が過度に大きくないことである。この境界条件が満たされることが提供されると、レンズ周辺部分20は、患者の未矯正視覚に依存し、網膜の後方、網膜上または網膜の前部のいずれかから角膜に向かう方向に周辺視覚像を引っ張る、正のADD度数を提供する。境界条件が満たされる限り、プロフィール120、130および140の境界での不連続が、結果として、視覚系に対するアーチファクトまたは他の所望でない作用を生じることもない。
【0032】
中央部分10の境界での光学度数および周辺部分20の境界での光学度数の差は、約8.0ディオプターよりも大きくなるべきではなく、好ましくは、約3.0ディオプターよりも大きくない。図1に示すプロット110では、プロフィール120について、中央部分10の境界での光学度数および周辺部分20の境界での光学度数の差は、約1.6ディオプターのみであり、容易に境界条件を満たしている。プロフィール130について、中央部分10の境界での光学度数および周辺部分20の境界での光学度数の差は、約0.7ディオプターのみであり、容易に境界条件を満たしている。同じように、プロフィール140について、中央部分10の境界での光学度数および周辺部分20の境界での光学度数の差は、約0.6ディオプターのみであり、容易に境界条件を満たしている。
【0033】
周辺部分20のために選択する度数プロフィールは、患者および要望または所望する視覚矯正量に依存する。例として、結果として周辺視覚像が網膜の後方で焦点を結ぶことを生じさせる、未矯正視覚を患者が有する場合、プロフィール120を有するレンズを患者に装着すると、比較的大きいADD度数が提供され、網膜の前部で焦点を結ぶように周辺視覚像が移動する。結果として周辺視覚像が網膜上で焦点を結ぶことを生じさせる、未矯正視覚を患者が有する場合、プロフィール130を有するレンズを患者に装着しても、比較的ADD度数が提供され、網膜上で焦点を結ぶことから網膜の前部でよく焦点を結ぶことに周辺視覚像が移動する。同じように、結果として周辺視覚像が網膜のやや前部で焦点を結ぶことを生じさせる、未矯正視覚を患者が有する場合、プロフィール140を有するレンズを患者に装着すると、小さいADD度数が提供され、わずかにより角膜に向かう方向に周辺視覚像が移動する。
【0034】
これらのケースのすべてにおいて、図4に示すプロフィールを有するレンズが提供する付加的なADD度数は、結果として、網膜の周辺領域で近視的な焦点ずれを生じさせる。この近視的な焦点ずれは、眼の成長の防止または抑制を助け、それにより、近視を防止もしくは抑制および/または近視の作用を改善する。
【0035】
プロフィール120、130および140は、例として、スプライン関数および区分関数を包含する、先に記載した境界条件を満たす任意の種類の数学関数により、記載することができる。周辺部分20のプロフィールを画定するために使用する数学関数について、本発明が制限されることはない。プロフィールは、境界で不連続的である(すなわち、一次導関数において微分可能でない)ことができるが、実際のレンズ表面は、好ましくは、連続的であることに留意すべきである。境界で不連続的であるプロフィールを有するレンズを、連続的な表面を持つように設計および製造することができるやり方は、当技術分野において公知である。例として、スプラインまたは区分関数によって画定された光学ゾーンを中央部分に有するコンタクトレンズが公知である。
【0036】
同じく、境界で連続的であるプロフィールを有するレンズを、連続的な表面を持つように設計および製造することができるやり方は、当技術分野において公知である。例として、多項式によって画定された光学ゾーンを中央部分に有するコンタクトレンズが周知である。
【0037】
周辺部分20によって提供される光学ゾーンは、レンズの前部表面上またはレンズの前方表面上に形成することができる。これらの基準のすべてを満たすようにレンズを設計および製造することができるやり方も公知である。そのため、簡略にするため、本発明での使用に好適な設計および製造手法は、本明細書において記載しない。
【0038】
図5は、態様に従った本発明の方法を表すフローチャートを例証する。ブロック160で指示するように、レンズの周辺部分の度数プロフィールを選択する際に、まず、選択プロセスを実施する。選択する度数プロフィールは、単一のレンズのためであるか、レンズシリーズのためであることができる。所与のレンズシリーズの各レンズは、同一の度数プロフィールを有する。
【0039】
度数プロフィールを選択したうえで、ブロック170で指示するように、選択した度数プロフィールによって提供される光学制御を提供する、周辺部分を有するようにレンズを設計する。設計プロセスの際、通常、プロセッサによって実行されるソフトウェアプログラムは、設計者からの入力の受信を実施し、レンズを画定する表面および選択した度数プロフィールを有するレンズモデルを作り出す。
【0040】
レンズを設計した後、ブロック180で指示するように、レンズまたは対応するレンズのシリーズを製造する。種々の製造手法を使用し、レンズまたはレンズシリーズを製造することができ、使用する手法は、通常、レンズが有する表面の種類と同様に、製造するレンズの種類に依存する。例として、ソフトコンタクトレンズの場合では、製造手法として、モールドを使用し、レンズを製造することができる。通常、多くのソフトコンタクトレンズは、プロセス、材料および機器を使用してレンズを作製し、顧客への出荷に好適であることを確実にするためにレンズを検査する、製造ライン上で製造する。
【0041】
異なる手法を使用し、有水晶体IOCレンズを製造することができる。同じく、異なる手法を使用し、ハードコンタクトレンズを製造することができる。加えて、レンズを製造するために使用する手法は、選択した度数プロフィールに依存することができる。例として、多項式によって数学的に画定した連続的な度数プロフィールを有する、ソフトコンタクトレンズを製造するために使用する手法は、区分関数またはスプラインによって数学的に画定した不連続的な度数プロフィールを有する、ソフトコンタクトレンズを製造するために使用する手法と異なることができる。当業者は、選択したレンズ設計に適切な製造手法を選択する方法を把握する。
【0042】
周辺部分の度数プロフィールを選択する事業体は、要望されないものの、レンズを設計および製造する事業体と同一であることができることに留意すべきである。同じく、周辺部分の度数プロフィールを製造する事業体は、要望されないものの、レンズを設計する事業体と同一であることができる。したがって、図5に例証したフローチャートによって表されるプロセスを、単一の事業体または三つ以上の事業体が実施することができる。
【0043】
一定の例証的な態様を参照しながら本発明を記載しており、本発明が本明細書において記載する態様に制限されないことに留意すべきである。例として、図3および4は、例示的な目的のため、本明細書において記載した一定の度数プロフィールを示し、本発明は、これらのプロフィールに制限されない。当業者は、本明細書において提供する開示の観点において、レンズの周辺部分に所望の光学制御を提供する、他の度数プロフィールを選択することができるやり方を理解する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周辺視覚像が眼の網膜に対して焦点を結ぶ位置を制御するためのレンズであって、
中心視覚像が眼の網膜に対して焦点を結ぶ位置を光学的に制御する度数プロフィールを有する、中央部分を通過する光線にわたって光学制御を提供する、少なくとも一つの光学ゾーンを有する中央部分と、
周辺視覚像が眼の網膜に対して焦点を結ぶ位置を光学的に制御する度数プロフィールを有する、周辺部分を通過する光線にわたって光学制御を提供する、少なくとも一つの光学ゾーンを有する周辺部分と
を含む、レンズ。
【請求項2】
中央部分が、レンズの中心から外方向に中央部分の外周に向かい、約3.5ミリメートル(mm)と約4.0mmとの間である半径方向距離に延在し、周辺部分が、中央部分の外周が周辺部分に接する境界から周辺部分の外周まで、約3.5mm〜約4.0mmの半径方向距離に延在する、請求項1記載のレンズ。
【請求項3】
中央部分の外周が周辺部分に接する境界において連続的であり、関数の一次導関数を求めることが可能である、数学関数によって周辺部分の度数プロフィールが画定される、請求項2記載のレンズ。
【請求項4】
数学関数が多項式である、請求項3記載のレンズ。
【請求項5】
中央部分の外周が周辺部分に接する境界において非連続的であり、関数の一次導関数を得ることができない、数学関数によって周辺部分の度数プロフィールが画定され、中央部分の境界での度数プロフィールによって提供される光学度数と、周辺部分の境界での度数プロフィールによって提供される光学度数との相違が約8.0ディオプター以内である、請求項2記載のレンズ。
【請求項6】
中央部分の境界での度数プロフィールによって提供される光学度数と、周辺部分の境界での度数プロフィールによって提供される光学度数との相違が約3.0ディオプター以内である、請求項5記載のレンズ。
【請求項7】
数学関数が区分関数である、請求項5記載のレンズ。
【請求項8】
中央部分の外周が周辺部分に接する境界において連続的であり、境界での一次導関数において微分可能ではない、数学関数によって周辺部分の度数プロフィールが画定され、中央部分の境界での度数プロフィールによって提供される光学度数と、周辺部分の境界での度数プロフィールによって提供される光学度数との相違が約8.0ディオプター以内である、請求項2記載のレンズ。
【請求項9】
中央部分の境界での度数プロフィールによって提供される光学度数と、周辺部分の境界での度数プロフィールによって提供される光学度数との相違が約3.0ディオプター以内である、請求項8記載のレンズ。
【請求項10】
数学関数がスプラインである、請求項8記載のレンズ。
【請求項11】
レンズがソフトコンタクトレンズである、請求項1〜10のいずれかに記載のレンズ。
【請求項12】
レンズがハードコンタクトレンズである、請求項1〜11のいずれかに記載のレンズ。
【請求項13】
レンズが有水晶体眼内(IOC)レンズである、請求項1〜12のいずれかに記載のレンズ。
【請求項14】
レンズが人間の眼に装用されたとき、眼の成長の防止または抑制を助ける、周辺視覚像の近視的な焦点ずれを提供する、請求項1記載のレンズ。
【請求項15】
レンズが人間の眼に装用されたとき、近視の作用を改善する、請求項1記載のレンズ。
【請求項16】
眼の成長を防止または抑制することにより、近視を防止または抑制する、人間の眼に装用するレンズを提供するための方法であって、
設計するレンズの周辺部分のために度数プロフィールを選択する工程であって、周辺部分の度数プロフィールが、周辺視覚像が眼の網膜に対して焦点を結ぶ位置を光学的に制御し、レンズが中央部分を有し、中央部分が、中心視覚像が眼の網膜に対して焦点を結ぶ位置を光学的に制御する度数プロフィールを有する、工程、および
中央部分および選択した度数プロフィールを有する周辺部分を有する、レンズの設計を生成する工程
を含む、方法。
【請求項17】
さらに、レンズ設計を有するレンズまたは複数のレンズを製造する工程を含む、請求項16記載の方法。
【請求項18】
中央部分が、レンズの中心から外方向に中央部分の外周に向かい、約3.5ミリメートル(mm)と約4.0mmとの間である半径方向距離に延在し、周辺部分が、中央部分の外周が周辺部分に接する境界から周辺部分の外周まで、約3.5mm〜約4.0mmの半径方向距離に延在する、請求項16記載の方法。
【請求項19】
中央部分の外周が周辺部分に接する境界において連続的であり、関数の一次導関数を求めることが可能である、数学関数によって周辺部分の度数プロフィールが画定される、請求項18記載の方法。
【請求項20】
中央部分の外周が周辺部分に接する境界において非連続的であり、関数の一次導関数を得ることができない、数学関数によって周辺部分の度数プロフィールが画定され、中央部分の境界での度数プロフィールによって提供される光学度数と、周辺部分の境界での度数プロフィールによって提供される光学度数との相違が約8.0ディオプター以内である、請求項18記載の方法。
【請求項21】
中央部分の境界での度数プロフィールによって提供される光学度数と、周辺部分の境界での度数プロフィールによって提供される光学度数との相違が約3.0ディオプター以内である、請求項20記載の方法。
【請求項22】
中央部分の外周が周辺部分に接する境界において連続的であり、境界での一次導関数において微分可能ではない、数学関数によって周辺部分の度数プロフィールが画定され、中央部分の境界での度数プロフィールによって提供される光学度数と、周辺部分の境界での度数プロフィールによって提供される光学度数との相違が約8.0ディオプター以内である、請求項18記載の方法。
【請求項23】
中央部分の境界での度数プロフィールによって提供される光学度数と、周辺部分の境界での度数プロフィールによって提供される光学度数との相違が約3.0ディオプター以内である、請求項22記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2010−506240(P2010−506240A)
【公表日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−532525(P2009−532525)
【出願日】平成19年10月9日(2007.10.9)
【国際出願番号】PCT/US2007/080748
【国際公開番号】WO2008/045847
【国際公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】