説明

光学的セキュリティ素子

本発明は、第1の光学的に識別可能な効果を生むための第1のミクロ構造が表面領域(2)に部分的に形成されサブストレート層を備えた光学的セキュリティ素子に関する。表面領域(2)は、顕微鏡的に微細なパタン領域(21〜40)と背景領域(20)とに分割されている。表面領域(2)における顕微鏡的に微細なパタン領域(21〜40)はモアレパタンを形成して配列され、協働する検証素子を用いて評価が可能な隠された情報がセキュリティ特徴としてモアレパタンにエンコードされている。顕微鏡的に微細なパタン領域(21〜40)が、モアレパタンの、さらなるセキュリティ特徴として機能する顕微鏡的下位構造を定義する下位構造化関数に従って下位構造化されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サブストレート層を備えた光学的セキュリティ素子に関し、第1の光学的に識別可能な効果を生むための第1のミクロ構造が、上記サブストレート層の表面領域においてこのサブストレート層に形成されてなる光学的セキュリティ素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ホログラムおよび隠された画像を共通の担体サブストレート上に表示するセキュリティ素子を用いることが記載されている。上記ホログラムは、白昼でも見え、感光性ポリマーフィルムに形成された光学的回折構造によって生成され、かつ単色コーヒレント光源(レーザー)を用いることなしに視ることができるホログラムである。上記隠された画像は、上記ホログラムの近傍において上記サブストレート上に配置されていることが好ましい。上記隠された画像は、デコーダデバイスを用いることによって視ることができる。このデコーダデバイスとしては、デジタル複写機またはスキャナが用いられている。特許文献1にはまた、透明な担体の形態のデコーダデバイスを用いることが記載されており、この担体上には所望の走査周波数に対応する線間隔を備えた線格子が印刷されている。
【0003】
デコーダデバイスの走査周波数の半分よりも高い出発画像の周波数成分が最初に除去され、次に走査周波数の半分に相当する残りの周波数成分が、周波数軸に反映されるという手順によって、出発画像から隠された画像が作成される。
【0004】
このようにして、サブストレートが、第1のセキュリティ特徴、すなわちホログラムと、第2のセキュリティ特徴、すなわち隠された画像を備え、これによってセキュリティ特徴の数が増え、したがって偽造に対する防護レベルが高められる。
【0005】
特許文献2には、偽造に対する防護レベルを高めるためのホログラフ的方法が記載されており、ここでは、隠された画像がホログラムに形成され、この画像は特別の評価装置を用いることによってのみ識別される。この評価装置がホログラム上を移動せしめられるときにのみ、隠された画像が観察者によって視覚的に検出可能になる。
【0006】
その場合、隠された画像を備えたこの種のホログラムが、一方では背景画像に基づき、他方ではホログラム中に隠されるべき画像に基づくエンコード処理中に生成される。背景画像はより多い数の平行な黒い縞からなる。そこでエンコード処理において、隠されるべき画像のうちの背景画像の黒い縞の部分上にある部分が白に変換され、隠されるべき画像のうちの背景画像の白い部分上にある部分は黒のままにされる。そのような方法で作成される画像中に隠されるべきパタンを観察者の肉眼では殆ど識別できないように形成するために、得られた画像にさらに光学的ノイズパターンが重畳される。
【特許文献1】米国特許第6,351,537号明細書
【特許文献2】米国特許第5,999,280号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、光学的セキュリティ素子の偽造に対する防護性をさらに改善することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、第1の光学的に識別可能な効果を生むための第1のミクロ構造が、サブストレート層の表面領域においてこのサブストレート層に部分的に形成された光学的セキュリティ素子によって解決され、上記表面領域は、顕微鏡的に微細なパタン領域と背景領域とに分割され、上記第1のミクロ構造は、上記パタン領域には形成されているが上記背景領域には形成されておらず、上記表面領域における顕微鏡的に微細なパタン領域はモアレパタンを形成して配列され、協働する検証素子を用いて評価が可能な隠された情報がセキュリティ特徴として上記モアレパタンにエンコードされ、上記顕微鏡的に微細なパタン領域が、上記モアレパタンの、さらなるセキュリティ特徴として機能する顕微鏡的下位構造を定義する下位構造化関数に従って下位構造化されている。
【0009】
この場合、モアレパタンは、反復構造から形成され、かつ反復構造によって形成されたさらなるパタンと重ね合わされることによって、またはさらなるパタンを通して視ることによってこのモアレパタン内に隠された新しいパタンを示すパタンである。
【0010】
モアレパタンにデコーダデバイスを重ね合わせると、モアレパタン内に隠されたパタンがモアレ効果によって見えるようになる。古典的なモアレ効果は、互いに重ね合わせられた暗構造と明構造との間の相互作用から生じる。モアレ効果は、互いに重ね合わされた領域における明領域および暗領域の幾何学的分布から生じ、暗い縞が互いに重なり合って生じる領域は、互いに重ね合わされた領域における暗い縞が互いに近接して並んでいる領域よりも明るく見える。
【0011】
本発明は、種々のセキュリティ特徴が互いに密接に関係し合うことによって、極めて大きな困難なしには偽造が不可能なセキュリティ素子を提供するものである。モアレパタンの形式で配列されたミクロ構造の顕微鏡的に微細なパタン領域の下位構造化によって、肉眼によってもモアレパタンと関連する検証素子によっても識別不能なさらなる複数の情報が表面領域にエンコードされる。しかしながら、このミクロ構造の具体的な構成は、ルーペまたは顕微鏡を用いれば識別可能であり、かつさらなるセキュリティ特徴として、または証明のために役に立つ。この下位構造は、モアレパタンからなるパタン領域内の平均表面占有率にも影響を及ぼすので、下位構造を変更することは、モアレパタンと協働する検証素子を用いて表面領域をチェックするときに見えるようになる光学的効果に影響をもたらす。したがって、例えばこの種の変更は、一様でない領域の発生によって(検証素子を用いて、または用いないで視た場合)、または検証素子の位置ずらしまたは回転によって生じる光学的効果における変形によって識別することができる。下位構造化よって生じる光学的効果、パタン領域の配置およびミクロ構造は、互いに係合しかつ重なり合った関係にあり、これによって模造がより困難になり、偽造が容易に発見される。
【0012】
さらに本発明によるセキュリティ素子によって生成される光学的効果は、ホログラムに含まれるモアレ画像によるものに限定されない。従って、例えばホログラム内に隠された画像の単なる実現が可能なような旧来のホログラフ技術を用いた模造は不可能になる。さらに偽造に対する防護レベルが高められる。
【0013】
本発明の有利な展開が従属請求項に特徴付けられている。
【0014】
第1のミクロ構造としては、回折格子、または第1のホログラムを生成させる回折構造、またはマット構造を用いることが望ましい。反射表面、または透明表面(ミクロ金属被膜)、または第1の回折格子とは異なる第2の回折格子、または第2のホログラムを生成させるための第2の回折構造、または第1のマット構造とは異なる第2のマット構造が背景領域に形成されると有利なことが判明している。
【0015】
その場合、上記第1および第2の回折格子は、例えば方位角、または空間周波数、または輪郭形状に関して異ならせることができる。
【0016】
マット構造なる用語は、散乱特性を備えた構造を表すのに用いられる。これら散乱特性は、確率的表面輪郭を備えたミクロ構造によって、あるいはこのような特性を備えた回折構造によって生成させることができる。この種の回折構造はまた、ホログラフィー的に生成させることもできる。第1および第2のマット構造は、等方性または異方性マット構造を含むことが可能である。等方性マット構造が対称的散乱コーンを有するのに対して、異方性マット構造は非対称的散乱特性を示し、かつ例えば好ましい散乱方向を有する。その場合、第1および第2のマット構造は、例えば散乱コーンの広がり角度および/または好ましい散乱方向が異なる。
【0017】
背景領域が異なるミクロ構造を有することが可能なことは言うまでもない。
【0018】
パタン領域のミクロ構造とは異なるミクロ構造が背景領域に形成されているという事実は、さらなる光学的重畳効果が生じていることを意味し、これによって、光学的セキュリティ素子の偽造に対する防護レベルがさらに改善される。
【0019】
これに加えて、下位構造のさらなる変形としてミクロな金属被膜を用いることも可能である。反射層と透明領域との間の差によってコントラストが得られる。その場合、パタン領域も鏡の形態とすることができる。さらに、ミクロな金属被膜は、背景領域における透明なHRI(高屈折率)層と組み合わせることができる。さらに、パタン領域と背景領域との双方において、同じ光学的回折構造が存在することも可能であり、その場合は反射能力の差によってコントラストが得られる。
【0020】
モアレパタンが、40〜200μmの線間隔を有する複数の線からなる線格子を含むことが有利である。この線格子は、部分的に位相がずらされて隠された情報を生成させる。その場合、位相ずらしは、線格子の周期の半分が好ましい。直線的な線格子に加えて、線格子の線が、例えば波形または円のように湾曲した領域を備えることもできる。その場合、隠された情報をデコードするために、上記のような形状の線格子を備えた対応する検証素子が必要である。その方法では、極めて特殊な固有の検証素子を用いることによってのみ隠された情報をデコードすることが可能になり、これによって、偽造に対する光学的セキュリティ素子の防護レベルがさらに向上する。また、互いに90度回転した二つの線格子で形成されたモアレパタンの可能性もある。これにより、一つだけではなく二つの異なる種類の隠された情報をモアレパタン中にエンコードすることができる。この種の情報は、検証素子の回転によって連続して評価することができる。これによっても、偽造に対する光学的セキュリティ素子の防護レベルが向上する。
【0021】
肉眼の解像能力に関するモアレパタンの平均表面占有率および肉眼の解像能力に関する下位構造化関数によって定義される下位構造の平均表面占有率は一定であることが好ましい。そうすれば、観察者がさらなるセキュリティ特徴の存在を補助手段なしに認識することは不可能である。
【0022】
肉眼の解像能力に関するモアレパタンの平均表面占有率は一定であるが、部分的に異なる下位構造によってパタン領域の表面占有率が変化するならば、有益な効果を得ることができる。その場合、下位構造化によって表面領域に肉眼にとって光学的に識別可能なパタンを生成させることが可能であり、偽造に対す防護性をさらに向上させることが可能である。
【0023】
下位構造化関数は連続的な下位構造パタンを定義する。しかしながら、下位構造化関数が不連続な下位構造パタンを定義することも可能である。
【0024】
下位構造化関数が、複数の類似の個々の素子からなる下位構造パタンを定義することが望ましい。個々の素子の間隔またはそれらの向きが、下位構造中のさらなる複数の情報をエンコードするために変えられるという事実によってさらなる利益を得ることができる。これら付加的情報は、さらなるセキュリティ特徴として、またはデータ格納のために用いることができる。上述のように、肉眼によって解像可能な下位構造パタンの平均表面占有率が一定を保つ場合にはときに有益である。
【0025】
下位構造によってさらなる情報およびセキュリティ特徴を導入する好ましい可能な方法は、下位構造化関数がミクロ文字列またはナノ文字列を定義することであり、あるいは二次元格子を重ね合わせることである。その場合のミクロ文字列またはナノ文字列の文字の高さは50〜80μmの範囲内にある。ミクロ文字列またはナノ文字列またはこれらの組合せに代えて、下位構造化関数が、例えば1μm×1μmの大きさの画素から形成されたナノ画像を表すこともできる。この種のナノ画像は20μm〜100μmの範囲内にある。
【0026】
さらに有益な効果は、非対称表面輪郭で下位構造化されたパタン領域によって得ることができる。これによってこの下位構造は、検証素子を変位させることにより観察者が視ることができる特別の光学的効果を有する。ここでは、パタン領域の重心が部分的に位相をずらされるのみで複数の隠された情報を形成する、すなわち、パタン領域の外形線ではなく重心がモアレパタンによって配置される。これにより純粋な線格子が解像されるので、検証素子の正しい向きにおいても、位相がずらされない領域と位相がずらされた領域とが光学効果的に重ね合わされた部分領域に検証素子の位置が存在する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0028】
図1は、担体フィルム11と、光学的セキュリティ素子の役目をする転写層部分12とを備えた刻印フィルム1を示す。転写層部分12は、剥離および/または保護ラッカー層13と、複製層14と、反射層15と、接着剤層16とを有する。
【0029】
担体層11は、例えば厚さが12μm〜50μmのポリエステルフィルムである。剥離および/または保護ラッカー層13は、0.3〜1.2μmの厚さで担体フィルムに施される。複製層14は、剥離および/または保護ラッカー層13に施される。複製層14は、担体フィルム11と保護ラッカーおよび/または剥離層とからなるフィルム体の全面に対して例えば印刷によって施された透明な熱可塑性材料であることが好ましい。この複製層14を施す作業は、乾燥後の塗布量が2.2g/mmとなるように例えば線格子凹版印刷ローラを用いて行なわれ、乾燥作業は100から120℃の乾燥トンネル内で行なわれる。ここで、領域17における複製層14に対し、刻印工具を用いて顕微鏡的表面構造が複製される。その場合、顕微鏡的表面構造は、例えばニッケル製のスタンプを用いて約130℃の温度で刻印される。
【0030】
しかしながら、上記複製作業は、紫外線を用いた複製手法によっても行なうことができ、その場合、担体フィルム11と保護ラッカーおよび/または剥離層13とからなるフィルム体に紫外線複製ラッカーが塗られ、次いでミクロ構造の複製のために紫外線が部分的に照射される。
【0031】
複製層14にミクロ構造が複製された後、複製ラッカーは架橋またはその他の態様で硬化する。
【0032】
層14内にミクロ構造を形成するためには、ホログラフィー的手法を用いても可能である。そのために、ホログラフィー露光作業において背景領域が適当なマスクで覆われるか、あるいは露光作業後にミクロ構造が背景領域から取り除かれる。
【0033】
薄い反射層15は、真空蒸着された薄い金属層またはHRI(高屈折率)層を含むことが好ましい。例えば、TiO,ZnSまたはNbがHRI層の材料として使用可能である。金属層のための材料は、クロム、アルミニウム、銅、鉄、ニッケル、銀、金またはこれらの材料の合金とすることができる。さらに、このような金属性または誘電性反射層に代えて、複数の誘電体層または誘電体層と金属性層を重ね合わせた薄膜層を用いることも可能である。
【0034】
接着剤層16は、ここで上述のように形成されたフィルム体に施されるが、この接着剤層は、例えば熱で活性化される接着剤からなる。
【0035】
安全が保障されるべきセキュリティ文書または他の物品に上記光学的セキュリティ素子を貼り付けるために、刻印フィルム1は、安全を保障されるべきセキュリティ文書または物品に対し、転写層部分12を先にして貼り付けられ、次いで安全が保障されるべきセキュリティ文書または物品に加熱状態で圧着される。この作業において、転写層部分12が安全を保障されるべきセキュリティ文書または物品の表面に接着剤層16を介して接合される。さらに、担体フィルム11を転写層部分12から引き剥がすことによって取り除く。かくして、転写層部分12または転写層部分12の一部からなる本発明による光学的セキュリティ素子が安全を保障されるべきセキュリティ文書または物品に貼り付けられる。
【0036】
本発明による光学的セキュリティ素子が、転写フィルムまたは貼合せフィルムの一部であったり、刻印フィルム、ステッカーフィルム、転写フィルム、または貼合せフィルムによって形成されていたりすることも可能であることは言うまでもない。さらに、本発明による光学的セキュリティ素子が、図1に示されている層13,14,15および16に加えて、さらに別の層を備えていることも可能である。このようなさらに別の層は、例えば(着色された)装飾層、または干渉により視角に応じて色彩変化を生じる薄膜層体形であり得る。
【0037】
さらに、反射層15は、光学的セキュリティ素子が透明なセキュリティ素子としてまたは反射性でないセキュリティ素子として機能するように、一部のみが反射性であったり、全く反射性でなかったりすることも可能である。また接着剤層16が省略されていてもよい。
【0038】
上述したように、複製層14においてはミクロ構造が部分的に複製されており、これにより、複製層14においては、複製層14の表面にミクロ構造が複製されている領域17と、ミクロ構造が複製されていない領域18とが存在する。図2は、転写層部分12によって形成された光学的セキュリティ素子の表面領域を示し、ミクロ構造の複製が複製層14の表面に形成された領域を明白に示している。
【0039】
図2は、背景領域20と複数のパタン領域21〜40とに分割された表面領域2を示す。図2に示されているように、パタン領域21〜40はそれぞれの下位構造化関数に従った下位構造化されており、ここでは下位構造化関数がそれぞれのパタン領域の波形パタンの形態の下位構造を定義している。パタン領域22,24および26は、パタン領域21から40〜300μm間隔をおいていることが好ましい。このような間隔により、一方では、パタン領域21,22,24および26に配置されたミクロ構造によって発生する光学的効果が肉眼では混ざり合って、別々には見えず、他方では、個々に形成されたミクロ構造のために充分に大きい個々の表面が用意されることが達成される。そして、パタン領域22,24,26,27,29,31,32,34,36,37および39もそれぞれ互いに間隔を有する。
【0040】
図2に示されているように、表面領域2のV字状部分領域3においては、パタン領域23,28,33,38,40,35,30および25が、それらを取り囲むパタン領域21,22,24,26,27,29,31,32,34,36,37および39に対して位相がずれた関係に配置されている。
【0041】
したがって、パタン領域21〜40は、上述の下位構造化関数に従って下位構造化された複数の等間隔の下位構造線を備えた線格子を形成し、隠された情報を形成するために、部分領域3において線格子の位相がずらされている。
【0042】
パタン領域21〜40に形成された第1のミクロ構造は、3Dまたは2D/3Dホログラムの回折構造を含むことが好ましい。
【0043】
さらに、第1のミクロ構造が、300本/mmを超える空間周波数を備えた回折格子によって形成されることも可能である。このような回折格子の好ましい空間周波数は、600〜1800本/mmの範囲内が好ましい。さらに、光の波長よりも短い極めて高い空間周波数を備えた回折格子をうまく用いることも可能である。第1のミクロ構造がゼロ次の回折格子または非対象回折格子を用いることも可能である。その場合、回折格子の格子パラメータはパタン領域21〜40において一定にすることができるが、これらは、視角に応じた光学的印象を生む例えばキネグラム(R)効果または他の光学的効果を生じさせるために変化させることができる。
【0044】
さらにミクロ構造が、パタン領域21〜40において形成されるマット構造であることも可能である。
【0045】
回折構造が背景領域20に設けられることに対して、パタン領域21〜40においては部分的な金属被膜付けによって透明な領域を備えることも可能である。
【0046】
表面領域2の部分表面を構成する背景領域20の複製層14にはミクロ構造が形成されておらず、そこはパタン領域21〜40で覆われていないために、パタン領域からくっきりと浮かび上がった平坦な反射面が与えられている。
【0047】
しかしながら、背景領域20においては、透光性素子、回折格子、ホログラムを生成させる回折構造またはマット構造が、平坦な反射面に代えて形成されることも可能である。
【0048】
もしパタン領域21〜39にホログラムを生成させる回折構造が形成されている場合、背景領域20には、マット構造、回折格子、または視る方向および/または色彩印象に関しても上記第1のホログラムとは異なる別のホログラムを生成させる回折構造が背景領域20に形成されるのが好ましい。もしパタン領域21〜40にマット構造が形成されている場合、背景領域20には、異なる分散特性を有する別のマット構造が形成されるのが好ましい。もしパタン領域21〜40に回折格子が形成されている場合、背景領域20には、例えばマット構造または、線の数または方向のような格子パラメータが第1の回折格子とは異なる別の回折格子が形成されるのが好ましい。
【0049】
表面領域2にエンコードされた情報(V字)の検証のために、パタン領域21〜40の線間隔に対応する線間隔を備えた線格子または印刷された線格子からなる検証素子が用いられる。もしこの検証素子が、表面領域2上においてパタン領域21,22,24,26,27,29,31,32,34,36,37および39を覆う態様で方向付けされた場合には、パタン領域21〜40によって生成される光学的効果は、部分領域3においてのみ生成されるだけである。したがって、部分領域3において観察者は、背景領域20において生成された光学的効果と、パタン領域において生成された光学的効果との重ね合わせから生じた光学的効果を識別する。これに反して、部分領域3を取り囲む表面領域2においては、背景領域20において生成された光学的効果を観察者が識別するのみである。もしこの検証素子が、パタン領域23,25,28,30,33,35,38および40を覆う態様で方向付けされた場合には、上記と反対の状態となる。もし検証素子が表面領域2に適用されていなければ、観察者は、表面領域においてパタン領域において生成された光学的効果と、背景領域において生成された光学的効果との重ね合わせから生じた光学的印象を持つ。もし例えば、視る方向および/または色彩印象の異なる二つのホログラムからなる回折構造がパタン領域および背景領域に形成されている場合には、検証素子なしで見ると、観察者は双方のホログラムを視ることができるが、検証素子を用いると、一方のホログラムは部分領域3でのみ視ることができ、他方のホログラムは、表面領域2の、部分領域3を取り囲む部分領域でのみ視ることができる。
【0050】
下位構造化関数によって定義される波型の下位構造の、肉眼の解像能力に関する平均表面占有率は一定であるために、上述の状態で生じる印象には影響を与えない。しかしながら、ルーペまたは顕微鏡を用いると識別可能であり、さらなるセキュリティ特徴としてまたは識別のために役立つ。上述のように、さらなるセキュリティ特徴として役立ち得るさらなる光学的に識別し得る効果は、表面領域2における検証素子の変位によって生じる。
【0051】
部分領域3のパタン領域と、これを取り囲むパタン領域との間の180度の位相ずれは、検証素子を通じて観察したときに、部分領域3のパタン領域の全表面が覆われ、これを取り囲むパタン領域が覆われていないために、特に高いコントラストを可能にする。この場合に位相ずれが180度からいくらか外れていてもよいことは言うまでもない。さらに、ある部分領域その他では位相ずれが180度からかなり外れて、例えば45度または135度の位相ずれがある場合でも効果を得ることができる。したがって、例えば位相ずれによって諧調がエンコードされた隠された諧調画像を導入することも可能である。
【0052】
パタン領域21〜40の配置に関して直線的線格子を利用する代わりに、複雑な、例えば波形線格子を用いることも可能であり、その場合のパタン領域の位相ずれは、線格子内に隠される情報をエンコードするために、線格子の部分領域に導入される。その線格子に従って表面領域を覆う検証素子が評価用に用いられる。
【0053】
パタン領域の下位構造に関してさらなる可能なオプションを、図3a〜図4を参照して説明する。
【0054】
図3aは、波形下位構造を定義する下位構造化関数に従って下位構造化された複数のパタン領域41を示す。この場合、下位構造化関数は連続的下位構造パタンを定義することを必要としない。図3bは、複数の類似の素子43からなる下位構造パタンに従って下位構造化された下位構造パタン領域42を示す。
【0055】
この場合、個々の素子の間隔または個々の素子の向きは、肉眼によって解像可能な下位構造パタンの表面占有率が一定を保つ限り変えることができる。
【0056】
図3cは、個々の素子43の間隔が変えられている二つの近接したパタン領域44および45を示す。この場合、図3cに示されているように、下位構造パタンの表面占有率は一定を保っている。このような配置間隔によって、例えば電子的に評価可能な付加情報が光学的セキュリティ素子にエンコードされることを可能にする。
【0057】
図3dは、間隔の変更によるのみでなく、個々の素子の向きの変更によって、下位構造に情報をエンコードする可能性を示し、この場合、肉眼で解像可能な下位構造パタンの表面占有率は一定を保っている。
【0058】
かくして図3dは、向きおよび間隔が異なる5個の素子によってそれぞれが形成された三つの近接したパタン領域46,47,48を示す。
【0059】
さらに、隣接する個々の素子に関して位相位置を変えることによって、下位構造パタンにさらに情報をエンコードすることもできる。
【0060】
図4は、背景領域50とパタン領域51〜90とに分割された表面領域5を示す。この場合、パタン領域51〜90は、ミクロ文字列またはナノ文字列を記した下位構造化関数に従って下位構造化されている。図4に示された実施の形態においては、上記ミクロ文字列またはナノ文字列の高さが60μmである。
【0061】
表面領域5のV字状部分領域6内の表面領域は、図2に示された実施の形態と同様に、それらを取り囲むパタン領域に対して位相がずらされている。この光学的セキュリティ素子の背景領域50を形成する部分は、図1および図2に示された背景領域20と同様の構造を有し、したがって、例えば反射性の平坦な表面、または回折格子、またはホログラムの回折格子、またはマット構造である。光学的セキュリティ素子の、下位構造化されたパタン領域51〜90によって覆われた領域は、図2および図1のパタン領域21〜40と同様の構造を有し、例えば回折格子、またはホログラムの回折格子、またはマット構造を有する。
【0062】
図4に示され、かつ下位構造に用いられている文字の組み合わせ「TEXT」に代えて、複雑な内容を形成することが可能な異なる文字の組み合わせを選択することもできることは言うまでもない。さらに、文字および文字列の組み合わせに代えて、ナノ画像を下位構造のために用いることも可能である。
【0063】
さらに下位構造が、上述した種々の下位構造のオプションの組み合わせからなることも、或る下位構造またはその他が例えば1行おきに交代するように用いられることも可能である。
【0064】
図5aは、例えばパタン領域および背景領域の下位構造を示し、背景領域が下位構造94で構成され、パタン領域が下位構造93で構成されている。
【0065】
この場合、下位構造93および94の領域に、異なる光学的回折構造を設けることができる。エンコードされる隠された情報に従って、再び線格子が半周期ごとにずらされる。もし検証素子(例えば、透明領域と不透明領域が同一周期中に含まれている線格子)が適用されると、この検証素子は例えば左側における下位構造94を覆い、右側における下位構造93を覆う。
【0066】
これまで説明して来た種々の変形に比較して、これは「TEXT」によってさらに下位構造化された曲がりくねった背景領域を有する。
【0067】
さらに、例えば鏡、または線格子の二つの光学的回折構造とは異なるさらなる構造を、例えば波型構造または文字列において、別の方法で下位構造化された二つの線格子の背景に配置することが可能である。
【0068】
図5bは、パタン領域の下位構造化のさらなる可能性あるオプションを示す。
【0069】
図5bは、下位構造化されたパタン領域92に対して位相をずらされた下位構造化された複数のパタン領域91を示す。図5bに示すように、パタン領域91および92は、それぞれの非対称下位構造パタンにより下位構造化されているので、パタン領域の重心が下位構造によって上方または下方にそれぞれずらされている。
【0070】
その効果は、図2および図4において部分領域3および6で示された位相ずらしに代えて、いずれの場合においても、下位構造化によって生じた下位構造パタン領域の重心を検証素子の半周期だけずらすことに用いることができる。図5bに示されているように、半周期だけ位相をずらす方法は、鏡像を作成することに置換することができる。
【0071】
図5bに示されたパタン領域91および92のための鏡面対称下位構造パタンに代えて、それらの重心に関して異なる別の下位構造パタンを用いることも可能なことは言うまでもない。しかしながら、この場合、隠された情報が肉眼では視ることができないように、肉眼の解像能力に対するこれら下位構造パタンの平均表面占有率を一定に保つならば有益である。
【0072】
図6a〜図6cは、二次元格子の重ね合わせによるパタン領域の下位構造化のさらなる可能なオプションを示す。
【0073】
図6aは複数のパタン領域111〜119を備えた表面領域110を示し、図6bは複数のパタン領域121〜126を備えた表面領域120を示す。ここに示されているように、パタン領域の下位構造化はいずれの場合も点格子と線格子との重ね合わせによって行なわれている。隣接したそれぞれのパタン領域は、上記重ね合わせから生じる異なるパタンを備えることができること明らかである。しかしながら、各パタン領域は平均して同じ光学的密度を有するので、対応する光学的回折構造で占有された表面は、上記下位構造化が肉眼では解像できないので、観察者には実際に一様に見える。
【0074】
図6cは、二次元格子に従って配置されたパタン領域131〜136および137〜144を備えた表面領域130を示す。図6aおよび図6bに示された点格子と線格子との重ね合わせによる下位構造化の原理は、ここではパタン領域における二つの異なる隠された情報のエンコードに利用され、これら情報は、検証素子の二つの異なる方向(0度および90度)で評価される。
【0075】
図7は、表面領域の複数の部分領域140,150,160,170および180を示す。互いに位相をずらされた複数の下位構造化されたパタン領域142および141が部分領域140に配置されている。互いに位相をずらされたそれぞれの複数の下位構造化されたパタン領域152と151、162と161、172と171、および182と181は、パタン領域150,160,170および180にそれぞれ配置されている。
【0076】
図7から明らかなように、部分領域140,150,160,170および180においては、肉眼で解像可能なそれらの平均表面占有率が異なる態様で下位構造パタンが異なっている。したがって、それぞれの部分領域においてのみ下位構造パタンの平均表面占有率が一定であるので、位相ずれによってエンコードされた情報は、検証素子の助けがなければ肉眼では視ることができない。
【0077】
部分的に異なるこのようなパタン領域の下位構造化は、パタン領域による平均表面占有率と背景領域による平均表面占有率との比との部分的相違をもたらし、その結果、部分的にはパタン領域で生じた光学的効果がより多く前面に出、または背景領域で生じた光学的効果がより多く前面に出る。その場合、検証素子を用いると、隠された情報が背景領域に対するパタン領域の平均表面比率をもって極めて高いレベルのコントラストで視ることができる。このコントラストは、パタン領域による0%または100%の表面占有率において消滅する。
【0078】
下位構造化関数において「準連続的に」にも生じ得るこのような部分的変化は、例えば諧調で表示される画像情報のような観察者にとって識別可能なさらなるセキュリティ特徴を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明による光学的セキュリティ素子の断面図を示す。
【図2】図1の光学的セキュリティ素子の表面領域の概略図を示す。
【図3】図3a〜図3dは、本発明による光学的セキュリティ素子の基礎的パタンの概略図を示す。
【図4】本発明による光学的セキュリティ素子の他の実施の形態の表面領域の概略図を示す。
【図5】図5aおよび図5bは、本発明による光学的セキュリティ素子の他の実施の形態の表面領域の一部の概略図を示す。
【図6】図6a〜図6cは、本発明による光学的セキュリティ素子の他の実施の形態の表面領域の一部の概略図を示す。
【図7】本発明による光学的セキュリティ素子の他の実施の形態の複数の表面領域の一部の概略図を示す。
【符号の説明】
【0080】
1 刻印フィルム
2,5 表面領域
3,6 部分領域
11 担体フィルム
12 転写層部分
13 剥離および/または保護ラッカー層
14 複製層
15 反射層
16 接着剤層
20,50 背景領域
21〜40,41,42,51〜90 パタン領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サブストレート層(14)を備えた光学的セキュリティ素子(1)であって、
第1の光学的に識別可能な効果を生むための第1のミクロ構造(17)が、前記サブストレート層(14)の表面領域(2;5)において該サブストレート層(14)に部分的に形成されている光学的セキュリティ素子において、
前記表面領域(2;5)は、顕微鏡的に微細なパタン領域(21〜40;51〜90)と背景領域(20;50)とに分割され、前記第1のミクロ構造(17)は、前記パタン領域(21〜40;51〜90)には形成されているが前記背景領域には形成されておらず、前記表面領域(2;5)における前記顕微鏡的に微細なパタン領域(21〜40;51〜90)はモアレパタンを形成して配列され、協働する検証素子を用いて評価が可能な隠された情報がセキュリティ特徴として前記モアレパタンにエンコードされ、前記顕微鏡的に微細なパタン領域(21〜40;51〜90)が、前記モアレパタンの、さらなるセキュリティ特徴として機能する顕微鏡的下位構造を定義する下位構造化関数に従って下位構造化されていることを特徴とする光学的セキュリティ素子。
【請求項2】
前記第1のミクロ構造(17)が第1の回折格子であることを特徴とする請求項1記載の光学的セキュリティ素子。
【請求項3】
前記第1のミクロ構造が、第1のホログラムを発生させるための第1の回折構造であることを特徴とする請求項1記載の光学的セキュリティ素子。
【請求項4】
前記第1のミクロ構造が第1のマット構造であることを特徴とする請求項1記載の光学的セキュリティ素子。
【請求項5】
前記背景領域(20;50)に反射面(18)が配置されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の光学的セキュリティ素子。
【請求項6】
第2のミクロ構造が前記背景領域(20;50)に形成され、該第2のミクロ構造は、前記第1の回折格子とは異なる第2の回折格子によって形成されていることを特徴とする請求項2記載の光学的セキュリティ素子。
【請求項7】
第2のミクロ構造が前記背景領域(20;50)に形成され、該第2のミクロ構造は、第2のホログラムを生成させるための第2の回折構造であることを特徴とする請求項3記載の光学的セキュリティ素子。
【請求項8】
第2のミクロ構造が前記背景領域(20;50)に形成され、該第2のミクロ構造は、前記第1のマット構造とは異なる第2のマット構造によって形成されていることを特徴とする請求項4記載の光学的セキュリティ素子。
【請求項9】
前記モアレパタンは、線間隔が40〜200μmの範囲にある多数の線からなる線格子で構成され、該線格子は部分的に位相をずらされて隠された情報を形成していることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項記載の光学的セキュリティ素子。
【請求項10】
前記線格子は、該線格子の線が湾曲した領域を有することを特徴とする請求項9記載の光学的セキュリティ素子。
【請求項11】
前記モアレパタンは、互いに少なくとも45度回転された二つの線格子から構成されていることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項記載の光学的セキュリティ素子。
【請求項12】
前記モアレパタンは、二次元格子から構成されていることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項記載の光学的セキュリティ素子。
【請求項13】
前記モアレパタンの平均表面占有率が、肉眼の解像能力に関して一定であることを特徴とする請求項1から12のいずれか1項記載の光学的セキュリティ素子。
【請求項14】
前記下位構造化関数で定義される前記下位構造の平均表面占有率が、肉眼の解像能力に関して一定であることを特徴とする請求項1から13のいずれか1項記載の光学的セキュリティ素子。
【請求項15】
前記モアレパタンの平均表面占有率が、部分的に異なる下位構造〈141,151,161,171,181〉によって変えられていることを特徴とする請求項1から13のいずれか1項記載の光学的セキュリティ素子。
【請求項16】
前記下位構造化関数が、連続的な下位構造パタン(41)を定義していることを特徴とする請求項1から15のいずれか1項記載の光学的セキュリティ素子。
【請求項17】
前記下位構造化関数が、不連続的な下位構造パタン(42,44,45,46,47,48)を表していることを特徴とする請求項1から13のいずれか1項記載の光学的セキュリティ素子。
【請求項18】
前記下位構造化関数が、多数の類似した個々の素子からなる下位構造パタン(42,44,45)を表していることを特徴とする請求項17記載の光学的セキュリティ素子。
【請求項19】
前記個々の素子(44,45)の間隔および/またはそれらの向き(46,47,48)が、さらなる情報のエンコードのために変えられているが、肉眼によって解像可能な前記下位構造パタンの平均表面占有率は一定を保っていることを特徴とする請求項18記載の光学的セキュリティ素子。
【請求項20】
前記下位構造化関数は、文字の高さが20〜100μmの範囲内にあることが好ましいミクロ文字列またはナノ文字列を定義していることを特徴とする請求項1から15のいずれか1項記載の光学的セキュリティ素子。
【請求項21】
前記下位構造化関数に二次元格子が重ねられることを特徴とする請求項1から15のいずれか1項記載の光学的セキュリティ素子。
【請求項22】
前記パタン領域(91,92)が、非対称表面輪郭を備えた下位構造を有し、該パタン領域(91,92)の重心が部分的に位相をずらされて、隠された情報を形成していることを特徴とする請求項1から15のいずれか1項記載の光学的セキュリティ素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

image rotate

【図4】
image rotate

image rotate

image rotate

【図7】
image rotate


【公表番号】特表2007−507021(P2007−507021A)
【公表日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−515946(P2006−515946)
【出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【国際出願番号】PCT/EP2004/006467
【国際公開番号】WO2004/113954
【国際公開日】平成16年12月29日(2004.12.29)
【出願人】(500430257)オーファオデー キネグラム アーゲー (8)
【Fターム(参考)】