説明

光学的補償フィルム

【課題】光学的補償フィルムを提供する。
【解決手段】 液晶ディスプレイ用でセルロースアシレートを基材とする光学的補償フィルムであって、2個以上の環を有する1種類以上の化合物を含み、ただし、これらの環は最多で1個が芳香族環であることを特徴とする光学的補償フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイ用で下記の通りの特定の棒形状液晶の添加を伴う光学的補償フィルム;このタイプの少なくとも1枚の補償フィルムを有する偏光プレート;前記タイプの補償フィルムを有する液晶ディスプレイ;前記補償フィルム、偏光プレートおよび液晶ディスプレイの製造方法;下記の液晶化合物を液晶ディスプレイ用の補償フィルムに添加して使用すること;および、下で見出すことができる本発明の更なる主題に関する。
【背景技術】
【0002】
コントラストの視野角依存性を改良し広視野角におけるカラーシフトを低減するために、液晶ディスプレイにおいて偏光フィルムおよび液晶セルの間で光学的補償フィルムを通常使用する。これらのフィルムは特定の光学的リタデーション特性を有し、特定のタイプの液晶ディスプレイに適合している。
【0003】
下では、液晶ディスプレイに対して用語「LCD(liquid−crystal display)」も使用する。LCDは当業者に既知である。商業的に入手可能なTVセット、デスクトップモニターまたはラップトップまたはノート型パソコンは、液晶技術を基礎とするスクリーンを通常備える。この場合、バックライトは偏光フィルターによって線形的に偏光され、液晶層を通過し、この間に偏光面が、例えば所望の輝度に依存して回転され、第2の偏光フィルターを通って再び外に出る。ドライバー電子素子、カラーフィルターおよびガラスシートと共に、これらの部品は所謂「パネル」を形成する。
【0004】
TFT(薄膜トランジスタ:thin−film transistor)はLCDパネルのアクティブマトリクス型のものを表し、デスクトップモニターおよびノート型パソコンにおいて今日では通常のものであり、それぞれのピクセルは、それ自身のトランジスタによってアドレスされる。対照的に、パッシブマトリクスディスプレイはエッジにのみ制御電子素子を有し、個々のピクセルは各行および各列ごとにスイッチされる。従って、画像の構築が著しく遅く、電力消費が低いため、携帯電話、携帯デジタルビデオ装置またはMP3プレイヤーなどの小型の装置において主に使用される。用語LCDおよびTFTモニターは厳密に言えば異なるものであるが、当面のところ多くの場合、同義語として使用する。
【0005】
液晶セルの基体間の液晶の配向のタイプによって、パネルのタイプは本質的に異なる。TN(ツイストネマチック:twisted nematic)パネルにおいては、電界がなければ液晶分子は基体の表面に平行に配向し、表面に垂直な液晶分子の優先方向は螺旋状に捩れており、電圧を印加すると、印加された電界の表面に垂直に配向する。TNパネルは比較的高い視野角依存性を示し、補償フィルムを使用しても部分的に低減できるのみである。TNパネルの示すスイッチ挙動は、さほど速くない。
【0006】
面内スイッチ(IPS:in−plane switching)の場合、液晶分子は基体表面に平行に配向しているが、捩れていない。液晶セルは、一方の基体上のみに電極層を有する。結果として、電圧を印加すると、基体表面に平行に電界が生成され、パネル領域内で液晶分子が再配向される。結果として、TNパネルの場合よりも、コントラストの視野角依存性は著しく小さい。また、しかしながら、カラーディスプレイの視野角依存性は、改良されたS−IPSおよびデュアルドメインIPS技術によってのみ低減される。弱い電界は初期において応答時間が非常に長かったことを意味したが、現行のタイプは高速VAパネルに極めて匹敵するものである。
【0007】
電界がない状態においてVA(垂直配向:vertically aligned)パネルにける液晶分子は基体表面に実質的に垂直に配向し、負の誘電異方性を有しており、これは、基体間に電界を印加すると液晶分子が表面に対して平行に再配向することを意味する。電圧を印加しなければVAパネルは光を通過させないため、VAパネルは深い黒色を実現でき、よって、非常に高いコントラスト値を達成できる。サブタイプとしては、MVA(マルチドメインVA:multi−domain VA)、PVA(パターン化VA:patterned VA)およびASV(高度超視野:advanced super view)が挙げられる。これらにおいては、さらに異なる優先方向を有する領域にセルが分割され、よって、高度な視野角の安定性が達成される。特に、短いスイッチ時間によってVAパネルは区別され、よって、VAパネルおよびそれらの製造は本発明の目的にとって好ましい。
【0008】
先行技術において、反応性液晶(多くの場合、「反応性メソゲン(reactive mesogen)」または「RM」としても既知である)の配向され重合された層を基礎とする補償フィルムが開示されており、例えば、トリアセチルセルロース(TAC)などの、例えば、酢酸セルロースの支持フィルムに付着される。補償フィルムは、通常、偏光フィルム(「偏光子」)上に積層される。偏光子は、典型的には、ヨウ素が含浸され延伸されたPVAフィルムおよび任意に1枚または2枚の保護フィルムより成る。使用される保護フィルムは、例えば、TACフィルムである。
【0009】
更に、先行技術において、ディスコチック(円盤形状)液晶分子をTACフィルム中に直接導入することが開示されており、TACフィルムを延伸することで、特定の光学的リタデーション作用が達成される。また、これらのTACフィルムを、偏光子用の保護フィルムとしても直接使用できる。また、ディスコチック分子の代わりに、カラミチック(棒形状)液晶分子をTACフィルムに直接導入することも可能である。
【0010】
加えて、偏光プレートの保護フィルムの1枚が光学的補償フィルムに直接相当する配置も既知であり、特に薄層にできる。
【0011】
加えて、多くの他の配置が見出されており、それぞれが特定の利点を有する。しかしながら、一般に、それらは全て視野角を広げるために少なくとも1枚の光学的補償フィルムを有している。
【0012】
光学的補償フィルムは、例えば、基体としてセルロースアシレートより構成でき、特に、セルロースC〜C−アルカノエート(Z−C−C−A)、例えば、酢酸および/またはプロピオン酸セルロース(例えば、CAP)または、好ましくは、酢酸セルロース(トリアセチルセルロース、TAC)である。普通、セルロースアシレートフィルムは、フィルム表面に対して垂直な軸に関し(比較的低いリタデーションを伴い)光学的に対称である。しかしながら、光学的補償フィルムとして有用であるためには、光学的に非対称で、好ましくは、高い光学的リタデーションを示さなければならない。また、延伸された複屈折性の合成ポリマー材料に加え、ディスコチック分子を含み、ディスコチック分子を配向して作製され、引き続いて、配向された形態でディスコチック分子が固定された異方性層も提案された。米国特許第6,559,912号明細書(特許文献1)および米国特許出願公開第2003/0218709号公報(特許文献2)には、例えば、1,3,5−トリアジンを基礎とするディスコチック分子、または重合性液晶またはケトン、エーテルおよび/またはエステル化合物、または重合性基を含有するものを含む酢酸セルロースフィルムが記載されている。
【0013】
米国特許第6,778,242号明細書(特許文献3)には、少なくとも2個の芳香族環構造を含有するカラミチックまたはディスコチック液晶分子を含むTACフィルムを基礎とする補償フィルムが記載されている。
【0014】
しかしながら、そのような添加物を使用すると、例えば、Z−C−C−A(特に、TAC)フィルムの作製において使用される溶媒および他の添加物との相溶性について困難が生じることがある。加えて、使用される添加物と最終生成物との相溶性が低いため、または、揮発性および/または拡散する傾向が高いため、結果として生じるフィルムの耐久性が芳しくない場合がある。
【0015】
加えて、既に上で示した通り、広範囲の異なるLCDシステムが存在し、このことは、所望の条件にフィルムを適合させることが困難な場合がることを意味する。よって、厚みおよび他の要件に依存して、補償のため、およびLCDの特定の要件に適用可能でなければならない補償フィルム(1つまたは複数)の厚みおよび重量などの特性のために、1枚のみのフィルムまたは2枚以上のフィルムを使用することが考えられる。
【0016】
光学的補償フィルムのフィルム面方向の光学的リタデーションRo(所謂「面内(in−plane)」リタデーション;多くの場合、Reとしても既知である)およびフィルム厚方向のRth(所謂「面外(out−of−plane)」リタデーション)は、以下の式により記載される。
【0017】
【数1】

ここで、nxは、フィルム面内の遅軸(即ち、最大の屈折率を有する軸、即ち、より遅い伝搬速度を光波が有する振動方向)に沿う屈折率であり;nyは、nxに垂直なフィルム面内の速軸(即ち、最小の屈折率を有する軸、即ち、より速い伝搬速度を光波が有する振動方向)に沿う屈折率であり;nzは、フィルム厚方向(即ち、nxおよびnyに垂直)における屈折率であり;dはフィルム厚(nm)である。
【0018】
未延伸の負C補償フィルムについては、nx=ny>nzが一般に適用され、式(V)を使用して負の値のRthが生じる。
【0019】
適切な値のRoおよびRthを確立することは、それぞれの場合で使用される液晶セルのタイプおよびセルのアドレスにおける結果として生じる偏光状態の変化に依存する。
【0020】
例えば、TN(ツイストネマチック:twisted nematic)、STN(超ツイストネマチック:supertwisted nematic)、VA(垂直配向:vertically aligned)およびIPS(面内スイッチ:in−plane switching)などの画像を表示するための通常のディスプレイのタイプに対して、修正のために異なるリタデーション値が必要となる。
【0021】
更に、先行技術において提案されたTACフィルムは、多くの場合、分散性(複屈折またはリタデーションの光波長依存性)が不適切であり、特にVA−LCDの場合、特に広視野角(即ち、ディスプレイに対して垂直な視野角から大きく偏位している場合)においてコントラストが損なわれる結果となることが見出された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】米国特許第6,559,912号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2003/0218709号公報
【特許文献3】米国特許第6,778,242号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
上記難点の観点から、リタデーション値Ro(即ち、Re)およびRthの精密な設定が可能で、これらの値の高い長期安定性を有し、製造の際および最終製品のいずれにおいても、使用される添加物が良好な相溶性、適合性を有しており、着色または濁りを一切生じず、例えば、使用可能な厚みおよび2枚の代わりに1枚のみの補償フィルムを利用できるかの疑問に関して、延伸するなどの適切な手段を利用して必要な光学的特性を所望のディスプレイに対し柔軟に適合できる補償フィルムを見出すことが目的である。使用される物質が広い濃度範囲にわたって相溶性がある場合、使用される添加物の濃度および具体的に適合する後処理のいずれを介してもリタデーション値を変化させることができ、用途に対する高い自由度が生じる。
【0024】
更に、補償フィルムは整合された光学的分散を有していなければならず、特にVA−LCDの場合において、広視野角においても高いコントラストを可能としなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本明細書においては、特定の棒形状化合物を使用することで、「発明が解決しようとする課題」で示された目的の1つまたは全てが可能となることが見出された。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】例1に従い本発明による補償フィルムについて、リタデーション分散、即ち、種々の波長におけるRo値を示す。
【図2】例1に従い本発明による補償フィルムについて、リタデーション分散、即ち、種々の波長におけるRth値を示す。
【図3】比較例1による補償フィルムについて、リタデーション分散、即ち、種々の波長におけるRo値を示す。
【図4】比較例1による補償フィルムについて、リタデーション分散、即ち、種々の波長におけるRth値を示す。
【図5】例2による補償フィルムのリタデーションRoおよびRthを可塑剤含有量の関数として示す。
【図6】例3による延伸補償フィルムのリタデーションRoおよびRthを延伸倍率の関数として示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
特に、最多で1個の芳香族環を有する液晶またはメソゲン化合物が補償フィルムで使用するためのTACフィルムに対する添加物として特に適することが見出された。
【0028】
これらの化合物は非常に良好なリタデーション特性および十分な安定性(温度/湿度貯蔵試験)を示すことが見出された。更に、1個より多い芳香族環を有する化合物と比べ、TACフィルムで使用すると、これらの化合物はリタデーションの修正された分散性を示すことが見出された。よって、TACフィルムまたは補償フィルムの改良された分散性を達成でき、VA−LCDについて角度に依存するコントラストの増加に寄与できる。LCDシミュレーション計算によって、特に、Ro値(「面内」リタデーション)の負の分散(即ち、波長の増加に伴い光学的リタデーションも増加する)により、ディスプレイにおけるコントラスト比が改良される結果となることが示された。
【0029】
よって、本発明は、好ましくは、液晶ディスプレイ用で、セルロースアシレートを基礎とし、特には、CAPまたは、好ましくは、酢酸セルロースを基礎とする光学的補償フィルムに関し、光学的補償フィルムは、好ましくは、メソゲンまたは液晶化合物より、特に好ましくは、カラミチック(棒形状)化合物より選択され、2個より多い環を有し、ただし、これらの環は最多で1個が芳香族環である1種類以上の化合物を含むことを特徴とする。
【0030】
本発明は、更に、上および下で定義される通りの2個以上の環を有する1種類以上の化合物を含む(好ましくは、液晶ディスプレイ用の)光学的補償フィルムの製造方法に関し、ここでこれらの化合物は、補償フィルム用の出発材料とその製造の間に混合される。引き続く工程において、フィルムを、好ましくは少なくとも1方向に、例えば1〜3方向(x、yおよびz、例えば、z方向では、引き続いて廃棄される収縮フィルムを用いて)に、好ましくは2方向に延伸する。
【0031】
本発明は、更に、(好ましくは、液晶ディスプレイ用の)偏光プレートに関し、一組の透明な保護フィルムおよび保護フィルムの間の偏光膜を有し、少なくとも一方の透明保護フィルムは、上および下で定義される通りの2個以上の環を有する1種類以上の化合物を含む、セルロースアシレートを基礎とする少なくとも1枚の光学的補償フィルムを含む。また、その製造方法にも関する。
【0032】
本発明は、更に、上および下で定義される通りの2個以上の環を有する1種類以上の化合物を含む少なくとも1枚の光学的補償フィルムを有する液晶ディスプレイ、および、それの製造方法に関する。
【0033】
本発明は、更に、液晶ディスプレイ用の光学的補償フィルムを製造するために、上および下で定義される通りの2個以上の環を有する1種類以上の化合物を使用することに関し、これらの化合物の少なくとも1種類を、少なくとも1枚の補償フィルムに補償フィルムを作製する間に添加し、更なる工程において、補償フィルムは次いで液晶ディスプレイを作製するために好ましく使用される。
【0034】
他に示さない限り、上および下で使用される一般的な表現および記号は、好ましくは、序章において上で既に定義されていない限り、上および下で与えられる意味を有し、より一般的な表現および記号の1つ、1つより多くまたは全てを、互いに独立に、本発明のそれぞれの主題のために下で与えられるより具体的な定義によって置き換えることができ、結果として、それぞれの場合において、本発明の好ましい実施形態となる。
【0035】
本発明による補償フィルムは光学的異方性を示し、即ち、空間方向x、yおよびzの少なくとも2つについて異なる屈折率nを示す。光学的補償フィルムのフィルム面方向における複屈折率Δnおよびフィルム厚方向におけるΔnthは、以下の式で記述される。
【0036】
【数2】

ここで、nxは、フィルム面内の遅軸(即ち、最大の屈折率を有する軸、即ち、より遅い伝搬速度を光波が有する振動方向)に沿う屈折率であり;nyは、nxに垂直なフィルム面内の速軸(即ち、最小の屈折率を有する軸、即ち、より速い伝搬速度を光波が有する振動方向)に沿う屈折率であり;nzは、フィルム厚方向(即ち、nxおよびnyに垂直)における屈折率である。
【0037】
補償フィルムの光学的リタデーションRは、複屈折率Δnと層厚dとの積として以下の式に従い定義される。
【0038】
【数3】

よって、光学的補償フィルムのフィルム面方向の光学的リタデーションRo(「面内」リタデーション)およびフィルム厚方向のRth(「面外」リタデーション)は、以下の式によって与えられる。
【0039】
【数4】

ただし、dはフィルム厚を表す。
【0040】
屈折率、複屈折率および光学的リタデーションは、通常、光波長の関数として変化する。この依存性は、(光学的)分散としても既知である。殆どの光学的媒体は、波長の増加に伴い屈折率の低下を示す(正常分散)。光学的媒体によっては、波長の増加に伴い屈折率の増加を示す(異常分散)。
【0041】
上および下において、用語「負の(光学的)分散」は、波長(λ)の増加に伴い複屈折率(Δn)の絶対値が増加し、異常分散を有する材料またはフィルムを表し、例えば、|Δn(450)|<|Δn(550)|およびΔn(450)/Δn(550)<1であり、ただし、Δn(450)およびΔn(550)は、それぞれ450nmおよび550nmの波長における複屈折率を表す。用語「正の(光学的)分散」は、波長(λ)の増加に伴い複屈折率(Δn)の絶対値が減少し、正常分散を有する材料またはフィルムを表し、例えば、|Δn(450)|>|Δn(550)|およびΔn(450)/Δn(550)>1である。A.Uchiyama、T.Yatabe「Control of Wavelength Dispersion of Birefringence for Oriented Copolycarbonate Films Containing Positive and Negative Birefringent Units」J.Appl.Phys.第42巻、第6941〜6945頁(2003年)も参照。
【0042】
特定の波長における光学的リタデーションは層厚に直接比例するため、光学的分散は、例えば、比Δn(450)/Δn(550)により複屈折分散として、または、例えば、比R(450)/R(550)によりリタデーション分散のいずれかとして引用でき、ただし、R(450)およびR(550)は、それぞれ450nmおよび550nmの波長におけるリタデーションを表す。
【0043】
層厚は波長によって変化しないため、複屈折率に類似して、負または異常分散を有する材料またはフィルムにおいて、R(450)/R(550)<1および|R(450)|<|R(550)|、および正または正常分散を有する材料またはフィルムにおいて、R(450)/R(550)>1および|R(450)|>|R(550)|が適用される。同様に、このことは、リタデーション値RoおよびRthにも当てはまる。
【0044】
材料のリタデーション(R(λ))は、例えば、J.A.Woollam社製「M2000分光エリプソメータ」を使用し、偏光解析法によって決定できる。この装置によって、典型的には370nm〜1000nmの特定の波長範囲にわたり、複屈折性試料の光学的リタデーション(nm)を測定できる。これらの値より、分散(R(450)/R(550)またはΔn(450)/Δn(550))を計算できる。
【0045】
他に示さない限り、上および下で示されるリタデーション値は、Woollam社製WVASE M2000分光エリプソメータを使用して測定された。
【0046】
他に示さない限り、リタデーションR、屈折率nおよび複屈折率Δnに対して上および下で示される値は、550nmの波長に関する(室温で測定された)ものである。
【0047】
用語「環」は、炭素環式、ヘテロ環式、芳香族またはヘテロ芳香族の有機基を表す。環は、飽和、部分不飽和または完全不飽和のいずれでも構わない。飽和または部分不飽和の環を下では「非芳香族」と言い、完全不飽和の環を下では「芳香族」と言う。環は単環式または多環式(例えば、ビシクロオクタンなど)のいずれでも構わず、スピロ結合(例えば、スピロ[3.3]ヘプタンなど)を有していてもよい。また、これらの2個以上の環は単結合または架橋基のいずれで連結されていてもよく、共に縮合基を形成していてもよい。よって、本出願の目的のためには、例えば、シクロヘキシルまたはシクロヘキセニル基は非芳香族環であり、ビシクロオクチル基は多環式の非芳香族環であり、スピロヘプチル基はスピロ結合された非芳香族環であり、フェニル基は芳香族環であり、ナフチル基は2個の芳香族環から成る縮合基であり、インダン基は1個の芳香族環および1個の非芳香族環から成る縮合基である。
【0048】
下では、光学的補償フィルムを単に「補償フィルム」とも言う。本発明によれば、セルロースアシレートを基礎とし、特には、CAPまたは、好ましくは、酢酸セルロースを基礎とする光学的補償フィルムが好ましい。
【0049】
セルロースアシレートは、特に、セルローストリアシレートを表し、アシル基は同一でも(特に、ランダムに)異なっていてもよく、好ましくは、対応するセルローストリ−C〜C−アルカノエートであり、好ましくは、ブチレート、プロピオネートおよび/またはアセテートなどのトリ−C〜C−アルカノエートであり、特に、CAP(セルロースアセトプロピオネート)またはTAC(三酢酸セルロースまたはトリアセチルセルロース)などである。
【0050】
アシル置換度(DS:degree of acyl substitution)、即ち、セルロースのサブ単位(6個の炭素原子を有する単糖サブ単位)当たりの結合しているアシル基の数は、好ましくは、2.4〜3、特に、2.7および2.98の間である。
【0051】
トリアセチルセルロースの場合、例えば、酢酸セルロースは、好ましくは、59.0〜61.5%、特に、59.5〜61.3%の酢酸含有量を有する。本明細書において、用語「酢酸含有量」は、アセチルセルロースのCサブ単位当たりの結合している酢酸の質量による量を表す。実験的な決定は、例えば、ASTM:D−817−91(「酢酸セルロースの試験」)または対応する手順に従って行うことができる。他に示さない限り、酢酸含有量について上および下で示される値は、ASTM:D−817−91法に関するものである。
【0052】
多分子性(数平均に対する重量平均の比)は多分散性としても知られており、即ち、本発明による酢酸セルロースフィルムまたは本発明に従って製造できる酢酸セルロースフィルムについて、数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比は、例えば、1.5〜7などの、例えば、2および4の間の範囲内でよい。本明細書において、分子量は、溶媒としてクロロホルムまたは塩化メチレンを使用するゲル透過クロマトグラフィーを用いて決定される。
【0053】
本発明による補償フィルムは、好ましくは、延伸フィルム、特に、2方向(2軸的)に延伸されたフィルムで、厚み、延伸パラメータおよび上および下で定義される通りの2個以上の環または縮合環を有する化合物の含有量は、フィルムが下で好ましく示されるリタデーション値Ro(即ち、Re)およびRthを有するように選択される。
【0054】
本発明による補償フィルムは、それぞれの場合で補償フィルムの総質量を基礎として、上および下で定義される通りの2個以上の環または縮合環を有する化合物を、好ましくは0.5〜10質量パーセント、特に2〜8質量パーセント、更に好ましくは2〜6質量パーセントの含有量で有する。
【0055】
本開示においては、「重量」(例えば、重量パーセント、重量%)は、質量と同義語である。
【0056】
特に、上で定義される通りの適切なリタデーションRoおよびRthを確立するために、本発明によるセルロースアシレート系の光学的補償フィルムは、上および下で定義される通りの2個以上の環を有する少なくとも1種類の化合物を含む。本発明による製品を調製する方法および使用においても、好ましくは同様に機能的側面として、上で定義される通りの適切なリタデーションRoおよびRthを確立する目的が示される。
【0057】
2個以上の環を有する本発明による化合物は、好ましくは、式Iより選択される。
【0058】
【化1】

式中、
およびRは、それぞれ互いに独立に、F、Cl、Br、I、OH、−CN、−NO、−NCO、−NCS、−OCN、−SCN、−NH、−SF、1〜12個のC原子を有する直鎖状または分岐状のアルキルまたはアルコキシを表し、ここで、1個以上のCH基は、Oおよび/またはS原子が互いに直接連結しないようにして、−O−、−S−、−CO−、−CO−O−、−O−CO−、−O−CO−O−、−CH=CH−、−C≡C−、−NR−、−CO−NR−、−NR−CO−で置き換えられていてもよく、ここで、1個以上のH原子は、F、ClまたはCNで置き換えられていてもよく、
およびAは、それぞれ互いに独立に、以下の群より選択される基を表し、
群A)5〜10個、好ましくは、5個、6個、7個または8個の環原子を有し、非芳香族で単環または多環の炭素環式またはヘテロ環式環から成る群、ただし加えて、2個より多いこれらの環は縮合基を形成していてもよく、ただし加えて、個々の環は単置換または多置換されていてもよく、および/または
群B)5〜10個、好ましくは、5個または6個の環原子を有する、芳香族またはヘテロ芳香族環から成る群、ただし加えて、単置換または多置換されていてもよく、および/または
群C)群A)からの1個以上の環および群B)からの1個のみの環から成る縮合基から成る群C)、ここで、個々の環は単置換または多置換されていてもよく、
ただし、存在する基AおよびAは最多で1個が群B)またはC)より選択され、
は、出現するごとに同一または異なって、−COO−、−OCO−、−CHO−、−OCH−、−CHS−、−SCH−、−CFO−、−OCF−、−CHCH−、−CHCF−、−CFCH−、−C−、−CH=CH−、−CH=CF−、−CF=CH−、−CF=CF−、−C≡C−または単結合、好ましくは、−COO−、−OCO−または単結合を表し、
は、ハロゲンまたはC〜C−アルキルを表し、および
mは、整数1、2、3、4または5を表す。
【0059】
芳香族環を1個のみ含有する本発明による化合物が特に好ましい。
【0060】
更に、芳香族環を含有しない本発明による化合物が好ましい。
【0061】
群A)からの1個以上の基を排他的に含有する式Iの化合物、特に、mが、2、3または4であるものが特に好ましい。
【0062】
更に、群B)またはC)からの基を1個のみ含有する式Iの化合物、特に、mが、2、3または4であるものが好ましい。
【0063】
本発明による化合物においては、置換された環は、好ましくは、Lにより単置換または多置換された環を表し、ただし、Lは、出現するごとに同一または異なって、OH、CHOH、F、Cl、Br、I、−CN、−NO、−NCO、−NCS、−OCN、−SCN、SF、−C(=O)N(R、−C(=O)Y、−C(=O)R、−N(R、置換されていてもよいシリル、1〜25個のC原子を有する直鎖状または分岐状のアルキルまたはアルコキシ、または、2〜25個のC原子を有する直鎖状または分岐状のアルケニル、アルキニル、アルキルカルボニル、アルコキシカルボニル、アルキルカルボニルオキシまたはアルコキシカルボニルオキシを表し、ただし加えて、これら全ての基において1個以上のH原子はF、ClまたはCNで置き換えられていてもよく、Yはハロゲンを表す。
【0064】
群A)からの特に好ましい基は、シクロヘキサン−1,4−ジイル、ただし加えて、1個以上の隣接していないCH基はOおよび/またはSで置き換えられていてもよく(「6員O/Sヘテロ環式環」)、シクロヘキセン−1,4−ジイル、ピペリジン−1,4−ジイル、ビシクロ[1.1.1]ペンタン−1,3−ジイル、ビシクロ[2.2.2]オクタン−1,4−ジイル、スピロ[3.3]ヘプタン−2,6−ジイル、デカヒドロナフタレン−2,6−ジイルおよびオクタヒドロ−4,7−メタノインダン−2,5−ジイルから成る群より選択され、ただし、これら全ての基は、無置換であっても、Lにより単置換または多置換されていてもよい。
【0065】
群B)からの特に好ましい基は、1,4−フェニレン、ただし加えて、1個以上のCH基はNで置き換えられていてもよく(「6員Nヘテロ芳香族環」)、ピロール−2,5−ジイル、フラン−2,5−ジイル、チオフェン−2,5−ジイル、イミダゾール−2,5−ジイル、1,3−オキサゾール−2,5−ジイル、1,3−チアゾール−2,5−ジイル、ピラゾール−3,5−ジイル、イソキサゾール−3,5−ジイルおよびイソチアゾール−3,5−ジイルから成る群より選択され、ただし、これら全ての基は、無置換であっても、Lにより単置換または多置換されていてもよい。
【0066】
群C)からの特に好ましい基は、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−2,6−ジイルおよびインダン−2,5−ジイルであり、それぞれ、無置換であっても、Lにより単置換または多置換されていてもよい。
【0067】
特に好ましい6員O/Sヘテロ環式環は、テトラヒドロピラン−2,5−ジイル、1,3−ジオキサン−2,5−ジイルおよび1,3−ジチアン−2,5−ジイルである。
【0068】
特に好ましい6員Nヘテロ芳香族環は、ピリジン−2,5−ジイル、ピリミジン−2,5−ジイル、ピリダジン−3,6−ジイルおよび1,3,5−トリアジンである。
【0069】
およびAが、それぞれ互いに独立に、
【0070】
【化2】

を表す式Iの化合物が非常に特に好ましく、
【0071】
ここで、存在する基AおよびAの1つは、
【0072】
【化3】

を表してもよい。式中、LおよびLは、それぞれ互いに独立に、H、FまたはClを表す。
【0073】
式Iの特に好ましい化合物は、以下のサブ式より選択される。
【0074】
【化4】

式中、RおよびRは式Iにおいて示される意味を有し、LおよびLは、それぞれ互いに独立に、HまたはFを表す。
【0075】
式Iおよびそのサブ式の化合物において、RおよびRは、それぞれ互いに独立に、1〜7個のC原子を有する直鎖状のアルキルまたはアルコキシまたは2〜6個のC原子を有する直鎖状のアルケニルを好ましくは表す。Rは、特に好ましくは、CH、C、n−C、n−C、n−C11、OCHまたはOCを表す。Rは、特に好ましくは、F、CN、NH、NCS、CH、C、n−C、n−C、n−C11、OCHまたはOCを表す。好ましいアルケニル基は、CH=CH−、CH=CHCHCH−、CH−CH=CH−、CH−CH−CH=CH−、CH−(CH−CH=CH−、CH−(CH−CH=CH−およびCH−CH=CH−(CH−である。
【0076】
基RおよびRの一方が、好ましくは、Rが−C≡C−CNまたは−C≡C−CHを表す式Iの化合物、特に、式I2、I3およびI4のものが特に好ましい。
【0077】
更に、基RおよびRの一方が、好ましくは、Rが−NCSを表す式Iの化合物、特に、式I5のものが好ましい。
【0078】
更に、基RおよびRの一方が、好ましくは、Rが2〜7個のC原子を有するアルケニル基を表す式Iの化合物、特に、式I2、I3およびI4のものが好ましい。
【0079】
更に、RがR−Z−を表し、および/またはRがR−Z−を表す式Iおよびそのサブ式の化合物が好ましく、ただし、RおよびRは、それぞれ互いに独立に、1〜12個、好ましくは1〜7個のC原子を有するアルキルまたはアルコキシを表し、ZおよびZは、それぞれ互いに独立に、−CO−、−CO−O−、−O−CO−、−CONR−または−NRCO−を表す。ZおよびZは、好ましくは、−CO−O−または−O−CO−を表す。更に、式Iおよびそのサブ式の好ましい化合物は、RがR−CO−O−を表し、および/またはRがR−CO−O−を表す化合物、およびRがR−O−CO−を表し、および/またはRがR−O−CO−を表す化合物である。
【0080】
式IにおけるZは、好ましくは、−COO−、−OCO−または単結合を表し、特に好ましくは、単結合を表す。
【0081】
以下のサブ式より選択される化合物が非常に特に好ましい。
【0082】
【化5】

式中、alkylおよびalkylは、それぞれ互いに独立に、1個、2個、3個、4個、5個または6個のC原子を有する直鎖状のアルキル基を表し、alkenylは、2個、3個、4個、5個または6個のC原子を有する直鎖状のアルケニル基を表し、(O)は酸素原子または単結合を表し、XはCNまたはCHを表し、LおよびLは、それぞれ互いに独立に、HまたはFを表す。alkenylは、好ましくは、CH=CH−、CH=CHCHCH−、CH−CH=CH−、CH−CH−CH=CH−、CH−(CH−CH=CH−、CH−(CH−CH=CH−またはCH−CH=CH−(CH−を表す。
【0083】
上で与えられるサブ式において、Lは、好ましくは、Fを表し、LはHまたはF、好ましくは、Fを表す。
【0084】
「含有する」、「含む」または「有する」は、列記される構成要素および/または構成成分に加え、更なる構成要素、方法工程および/または構成成分も存在してよいこと、即ち、列記は限定的でないことを意味する。対照的に、「成る」は、このように特徴付けられる実施形態において、前記構成要素、方法工程および/または構成成分のみが存在することを意味する。
【0085】
式Iおよびそのサブ式の化合物は、文献(例えば、Houben−Weyl、Methoden der organischen Chemie[Methods of Organic Chemistry]、Georg−Thieme−Verlag、Stuttgartなどの標準的な著作)に記載される通りのそれ自身既知の方法により、より正確には既知で前記反応に適する反応条件下で調製できる。それ自身既知で本明細書においては非常に詳細には述べていない変法も、本明細書において使用できる。
【0086】
式Iおよびそのサブ式の化合物の更なる適切な調製方法が文献に記載されている。式I1〜I6の化合物およびそれらの調製方法は、例えば、欧州特許出願公開第0 087 102号公報、欧州特許出願公開第0 062 470号公報およびドイツ国特許出願公開第32 27 916号公報に記載されており、または、それらに記載される方法に類似して調製できる。
【0087】
式Iおよびそのサブ式の化合物は当業者に周知の従来法で調製でき、例えば、対応する芳香族ボロン酸またはボロン酸エステルを、適切に置換されたフェニル化合物に対して鈴木クロスカップリング(これは連続して行うこともできる)して調製できる。この場合、ハロフェニル化合物、特に、ブロモまたはヨードフェニル化合物が好ましい。
【0088】
本発明の好ましい実施形態においては、補償フィルムは式Iの1種類のみの化合物を含有する。
【0089】
本発明の更に好ましい実施形態においては、補償フィルムは2種類または2種類以上の式Iの化合物を含有する。このタイプの特に好ましい補償フィルムは、好ましくは2〜15種類、特に好ましくは2〜10種類、非常に特に好ましくは、2種類、3種類、4種類または5種類の式Iの化合物を含有する。
【0090】
本発明の更に好ましい実施形態においては、液晶セルまたは液晶ディスプレイ当たり1枚のみ(即ち、正確に1枚)の補償フィルムが用いられる。
【0091】
本発明の更に好ましい実施形態においては、液晶セルまたは液晶ディスプレイ当たり2枚または2枚以上の補償フィルムが用いられる。
【0092】
後者の場合、本発明による補償フィルムは、好ましくは、VA(垂直配向:vertically aligned)液晶ディスプレイの補償のために用いられ、ただし、2枚の補償フィルムが使用される場合、それぞれのフィルムのリタデーションRoは、好ましくは30〜70nm、特に40〜60nmの範囲内であり、リタデーションRthは、好ましくは−100〜−160nm、特に−120〜−140nmの範囲内であり、VAディスプレイ用に1枚のみの補償フィルムの場合、リタデーションRoは、好ましくは30〜90nm、特に50〜70nmの範囲内であり、リタデーションRthは、好ましくは−160〜−270nm、特に−180〜−250nmの範囲内である(好ましいリタデーション値、好ましいリタデーション範囲)。
【0093】
更に好ましい実施形態においては、補償フィルムがリタデーションRoの負の分散を示し、R(450)/R(550)<1または|R(450)|<|R(550)|であり、ただし、Ro(450)およびRo(550)は、それぞれ、450nmおよび550nmの波長におけるリタデーションを表す。
【0094】
更に好ましい実施形態においては、補償フィルムがリタデーションRoの正の分散を示し、R(450)/R(550)>1または|R(450)|>|R(550)|であり、ただし、Ro(450)およびRo(550)は、それぞれ、450nmおよび550nmの波長におけるリタデーションを表す。
【0095】
好ましい実施形態において、例えば、液晶ディスプレイ用に補償フィルムを製造するための本発明による方法は、以下の手順に従う。
【0096】
本発明の好ましい実施形態は、本発明による(上および下または請求項において定義される通りの)タイプの光学的補償フィルムの製造方法に関し、そのようなフィルムを作製するための従来法の際に、補償フィルムの作製で使用される混合物に、少なくとも1種類の式Iの化合物を加える。
【0097】
好ましくは、使用される混合物の(フィルム流延法の場合、溶媒または溶媒混合物中の)構成成分を、{例えば、セルロースエステル(セルロースアシレート)、特にCAP、または好ましくは酢酸セルロースなどの成分の予め調製された溶液(例えば、撹拌または分散による)を使用して、1つの反応物中に、または好ましくは段階的に、}可塑剤(1種類または多種類)および任意の1種類以上の添加剤またはそれらの混合物に加え、次いで、従来法、好ましくは、溶液流延(即ち、フィルム流延)法を用い、対応するフィルム流延機において、金属ベルト(例えば、鋼箔製)などの適切な基体上に制御しながら広げて、制御しながら乾燥することで、本発明による補償フィルムへ加工するが、好ましくは、例えば、米国特許出願公開第2005/0045064号公報に記載される通りの既知の方法であり、これは参照することで本明細書中へ組み込まれる。
【0098】
使用される溶媒/溶媒混合物における式Iの化合物の良好な溶解性の観点から、最終濃度に比べ化合物の濃度が高い濃厚液の形態で、これらの化合物を加えることもできることが特に有利であり、これは製造のための好ましい変法である。例えば、式Iの1種類または多種類の化合物を、最終濃度に比べ1.05〜10倍、例えば1.3〜5倍などの高濃度を有する濃厚な溶液(これは、更なる添加剤を含んでもよい)で、スタティックミキサーなどの適切な混合機を使用して、例えば、インライン(ポンプ管中)で加えることができる。
【0099】
適切な溶媒または溶媒混合物は、好ましくは、それぞれ3〜12個の炭素原子を有する環式または非環式エステル類、ケトン類またはエーテル類、または適切にハロゲン化された(特に、塩素化された)溶媒、特に、ジクロロメタンまたはクロロホルムなどであり、好ましくは、直鎖状、分岐状または環状アルコール、特にメタノールとの混合物であり、ただし、アルコールはフッ素化されていてもよい。好ましくは、塩素化された炭化水素、特に塩化メチレンなどと、アルコール、特にメタノールとの混合物が使用される。前記非アルコール性溶媒の1種類と、前記アルコール性溶媒の1種類との混合物の場合、それの体積比は、好ましくは、75:25〜98:2の範囲内であり、例えば、90:10(非アルコール性溶媒:アルコール性溶媒、体積/体積)である。
【0100】
続いて、それぞれの場合において、リタデーションRoおよびRthを好ましい範囲内に十分に設定できるようにするために(および、好ましくは、実質的な歪みを同時に低減するために)、延伸する。この場合、延伸方向に対して垂直方向を保持しないか、または、好ましくは保持して単軸的に、または、全ての方向に対する歪みを低減するために、好ましくは二軸的に延伸を行うことができる。延伸は、補償フィルムの元の長さまたは幅を基礎として、好ましくは、1〜100%(1.01〜2倍延伸)の範囲内であり、例えば、本発明の好ましい実施形態において、3〜40%(1.03〜1.4倍延伸)の範囲内である。二軸延伸は、同時に、または別々の工程のいずれによっても行うことができる。ベルトより取り外した補償フィルムを、例えば、最初に長手方向、次いで、横方向に延伸し、次いで、完全に乾燥する。または、フィルムを最初に完全に乾燥して巻き上げることで非連続的に製造する場合、例えば、別の作業工程において最初に長手方向、次いで、横方向に延伸を行うか、または同時に延伸を行う。
【0101】
フィルムは昇温して延伸される。温度は、好ましくは、フィルム材料のガラス転移温度の範囲内でなければならない。特定の場合、例えば、部分結晶材料の場合、延伸温度を、フィルム材料のガラス転移温度より30℃まで高くしてもよい。フィルムは、乾燥条件下で延伸できる。長手方向への延伸は、例えば、取り外し速度を巻き取り速度より遅くすることで、巻き取りによってフィルムを延伸でき、横方向は保持しないか、好ましくは、保持する(例えば、クリップによって)。あるいは、延伸機において、別途に延伸を行うこともできる。
【0102】
偏光層(特に、PVAを基礎とする)を積層するための接着剤と良好な適合性(特に、接着性の改良)を達成するために、更なる工程において、表面の親水性を増加するために、例えば、アルカリ金属水酸化物などの水性塩基、特に、KOHまたはNaOHを用いて、例えば0.1〜10分、可能な好ましい変法においては、例えば、1〜3分で加水分解を行える0〜80℃の範囲内の温度、例えば、約50℃において、得られる保護フィルムを、好ましくは、部分的に加水分解する。続いて、例えば、適切な純度の水で1回以上の洗浄工程を行い、乾燥する。
【0103】
次いで、任意に接着剤、および保護層を付着後および任意に切断後、平らな形態または巻き取られた形態でフィルムが保管される。
【0104】
本発明による偏光プレートは、2枚の透明保護フィルムと、その間に偏光膜とを含む。本発明による光学的補償フィルムは保護フィルムの一方として使用できるか、または、保護フィルムの一方に付着することができる。他方の保護フィルムとしては(または両方の保護フィルム用に)、従来のセルロースアシレートのフィルム、特に、セルロースC〜C−アルカノエートのフィルム、特に、CAPフィルム、または好ましくは、酢酸セルロースのフィルムを使用できる。
【0105】
使用される偏光膜は、例えば、ヨウ素含有偏光膜、ポリエン系偏光膜または二色性色素を含む偏光膜が使用される。ヨウ素含有および色素含有偏光膜は、通常、ポリビニルアルコールフィルムより作製する。偏光膜の透過軸は、本発明によるフィルムの延伸方向に本質的に垂直に位置する。
【0106】
補償フィルムの遅軸は、偏光膜の透過軸に本質的に垂直または本質的に平行とすることができる。
【0107】
偏光プレートを作製する際は、偏光膜および保護フィルムを(一般的に)水性接着剤で積層し、この目的のために、好ましくは、上記の通り、保護フィルム(その一方は、好ましくは、本発明による補償フィルムそのものでよい)の表面を加水分解する。
【0108】
また、円偏光の偏光プレートの作製においては、補償フィルムの遅軸が膜の透過軸に対して本質的に45度(即ち、「実質的に垂直」の場合は直角からの偏位であり、「実質的に平行」の場合は0°からの偏位)を向くように、本発明による補償フィルムを配置することができる。
【0109】
「本質的に」は、好ましくは、上記角度から5度、例えば4度、特に2度、上記角度が偏位しても構わないことを意味する。
【0110】
本発明による補償フィルムの厚みは、好ましくは、20〜150μm、特に、30〜100μmの範囲内である。
【0111】
液晶ディスプレイの製造のためには、上の通り作製された2枚の偏光プレートを、1枚または2枚の本発明による補償フィルムと共に、透過または反射型の液晶ディスプレイを従来法で作製するために使用する。本発明による補償フィルム(1枚または複数枚)は、液晶セルと一方または両方の偏光プレートの間に配置される。
【0112】
液晶セルは、好ましくは、VA(「垂直配向:vertically aligned」、MVA、即ち、「マルチドメインVA:multidomain VA」を含む)、OCB(「光学的補償ベンド:optically compensated bend」)またはTN(「ツイストネマチック:twisted nematic」、STN、即ち、「超ツイストネマチック:super twisted nematic」、DSTN、即ち、「二重層STN:double layer STN」技術またはHAN、即ち、「ハイブリッド配向ネマチック:hybrid aligned nematic」)の原理に従って動作し(大型のTFT液晶ディスプレイにおいては、VAの原理が特に頻繁に使用され、従って特に好ましい)、または、IPS(「面内スイッチ:in−plane switching」、即ち、ディスプレイの表面に平行な電界)の原理にも従って動作する。
【0113】
適切な配置、構成は当業者に知られており、本出願において、序章、明細書の残りの部分、図面および請求項で述べられる種々のものは単に例示と考えるべきで、本発明の範囲を限定する意図はない。
【0114】
可塑剤、分散剤、顔料、色素(好ましい)、UV吸収剤、充填剤、無機ポリマー、有機ポリマー、消泡剤、潤滑剤、酸化防止剤(ヒンダードフェノール類、ヒンダードアミン類、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、脱酸素剤など、例えば、0.1〜10質量%の量)、酸捕捉剤(例えば、ポリグリコール類のジグリシジルエーテル類、金属エポキシド類、エポキシ化エーテル縮合生成物、例えばビスフェノールAのジグリシジルエーテル類、エポキシ化不飽和脂肪酸エステル類、エポキシ化植物油類など、例えば、0.1〜10質量%の量)、フリーラジカル捕捉剤、電気伝導性増加剤、増粘剤、脱色防止剤、防腐剤、立体障害性アミン類(2,2,6,6−テトラアルキルピペリジン類など)またはフェノール類などの化学的安定化剤、IR吸収剤、屈折率調節剤、ガス透過性低減剤、水透過性低減剤、抗菌剤、他の物の最表面上に設けられた保護フィルムの良好で容易な分離を促進するブロック化防止剤(特に好ましく、艶消し剤としても既知)で、例えば二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムまたはリン酸カルシウムなどの、(半)金属酸化物、リン酸塩、ケイ酸塩またはカルボン酸塩を基礎とする微小無機粒子、または、微小架橋ポリマー粒子で、例えば、0.001〜5質量%の量であり、既に述べたもの以外の安定化剤など、または、そのような添加剤の2種類以上の混合物を、本発明による補償フィルムに加えることができる(例えば、成分の溶液または分散物を調製する際に加えることができる)。液晶ディスプレイにおける偏光子用の補償フィルムを作製する目的のための、このタイプの添加剤は当業者に周知である。このタイプの使用される更なる添加剤の全ての総量は、好ましくは、0.1〜25質量%である。それぞれの場合で、上の質量%のデータは補償フィルム材料の質量に関するものである。
【0115】
適切な可塑剤は脂肪族ジカルボン酸エステル類などの従来の可塑剤で、例えば、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジシクロヘキシルまたはコハク酸ジフェニル;1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジ−2−ナフチル、トリカルバミン酸トリシクロヘキシル、テトラヒドロフラン−2,3,4,5−テトラカルボン酸テトラ−3−メチル−フェニル、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸テトラブチル、1,3,5−シクロヘキシルトリカルボン酸トリフェニル、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジイソノニル、ベンゼン−1,3,5−トリカルボン酸トリフェニルなどの不飽和または飽和で脂環式またはヘテロ環式のジカルボン酸またはポリカルボン酸のエステルおよび/またはカルバミン酸エステル;フタル酸ジエチル、ジメトキシエチル、ジメチル、ジオクチル、ジブチル、ジ−2−エチルヘキシルまたはジシクロヘキシル、フタル酸ビス(2−プロピルヘプチル)、テレフタル酸ジシクロヘキシル、メチルグリコール酸メチルフタリル、エチルグリコール酸エチルフタリル、プロピルグリコール酸プロピルフタリル、ブチルグリコール酸ブチルフタリルなどの式Iのものからは逸脱しているフタル酸系可塑剤;グリセリン三酢酸エステルなどグリセロールエステル;クエン酸アセチルトリメチル、クエン酸アセチルトリエチルまたはクエン酸アセチルブチルなどのクエン酸系可塑剤;ポリエーテル系可塑剤;または、好ましくは(特に、可塑剤との式Iの化合物の相乗効果が改良されるのみならず、環境適合性および良好な加工性の理由からも)、リン酸トリフェニル(非常に好ましい)、リン酸トリクレジル、リン酸ジフェニルビフェニル、ブチレンビス(リン酸ジエチル)、エチレンビス(リン酸ジフェニル)、フェニレンビス(リン酸ジブチル)、フェニレンビス(リン酸ジフェニル)、フェニレンビス(リン酸ジキシレニル)、リン酸ジフェニルビスフェノールA、リン酸2−エチルヘキシルジフェニル、リン酸ジフェニルオクチルまたはリン酸トリエチルなどのリン酸エステル系可塑剤である。
【0116】
本発明による補償フィルム中の可塑剤の総割合は、それぞれの場合で補償フィルムの質量を基礎として、好ましくは4〜15質量%の範囲内、特に6〜13質量%の範囲内で、例えば、8〜11質量%である。
【0117】
UV吸収剤は従来のUV吸収材料より選択され、好ましくは、UV−A、UV−BおよびUV−C放射の領域で吸収する(および、好ましくは、400nmの波長より上の電磁気放射の可視領域において、10%以下の吸収、好ましくは0.5%以下の吸収、特に0.2%以下の吸収を有する)。
【0118】
使用される従来のUV吸収材料は、好ましくは、Tinuvin326(登録商標)(2−tert−ブチル−6−(5−クロロベンゾトリアゾール−2−イル)−4−メチルフェノール、即ち、2−(5−クロロ−(2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(メチル)−6−(tert−ブチル)フェノール、即ち、「ブメトリゾール」)またはTinuvin327(登録商標)(2,4−ジ−tert−ブチル−6−(5−クロロベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)、いずれもチバスペシャルティケミカルズ社、バーゼル市、スイス国製、Uvinul3049(登録商標)(2,2−ジヒドロキシ−4,4−ジメトキシベンゾフェノン;BASF社、ルートヴィヒスハーフェン市、ドイツ国)、UvinulD−50(登録商標)(2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン;BASF社)、または、これらのUV保護添加剤の2種類以上の混合物、または、特に、Tinuvin326(登録商標)単独である。
【0119】
特定の波長におけるリタデーション値を適合させるために、IR吸収剤を補償フィルムに混合でき、例えば、補償フィルムの質量を基礎として、0.01〜5質量%、好ましくは0.02〜2質量%、非常に好ましくは0.1〜0.5質量%の量である。対応するIR吸収剤の例は、シアニン色素、金属キレート、アルミニウム化合物、ジインモニウム化合物、キノン類、スクアリリウム化合物およびメチン化合物などの無機、または好ましくは、有機IR吸収剤で、特に、ハロゲン化銀塩写真における感光性材料の領域からの材料である。IR吸収剤は、好ましくは750〜1100nm、特に800〜1000nmの範囲内で吸収を示す。
【0120】
本発明の好ましい実施形態は請求項および特に独立請求項に依り、この理由のため、請求項は引用により本明細書に組み込まれる。
【0121】
本発明の特に好ましい実施形態は、例で述べる式Iの1種類以上の化合物を含む光学的補償フィルムに関し、特に上で好ましいと述べた延伸比を有して、好ましくは1軸的に、または、特に2軸的に延伸された補償フィルムに関し、この場合、好ましくは、リタデーション値RoおよびRthが上で好ましいと述べた値に設定される。
【実施例】
【0122】
以下の例は、本発明を限定することなく説明する。しかしながら、それらは、当業者に対して、好ましく使用される化合物、それらのそれぞれの濃度およびそれらの互いの組み合わせと共に好ましい混合物の考え方を示す。加えて、例は、到達可能な特性および特性の組み合わせを説明する。
【0123】
他に明言しない限り、例えば、融点T(C,N)、スメクチック(S)相からネマチック(N)相への転移T(S,N)および透明点T(N,I)などの本出願中で示される全ての温度の値は摂氏度(℃)で示される。m.p.は融点を表し、cl.p.は透明点を表す。更に、Cは結晶状態、Nはネマチック相、Sはスメクチック相、Iは等方相である。これらの記号の間のデータは、転移温度を℃で表す。全ての濃度および%値は質量%で示され、それぞれ溶媒を含まず全ての固形分または液晶成分を含む混合物全体に関する。
【0124】
更に、以下の略称を使用する(n、m:それぞれ互いに独立に、1、2、3、4、5または6)。
【0125】
【化6】

<例1>
それぞれの場合で上に与えられる式I1〜I6の化合物を含む本発明による補償フィルムを以下の通り作製する。
【0126】
酢酸セルロース(トリアセチルセルロース、TAC)および液晶物質(例えば、式I1〜I6の化合物)をガラスボトル中に量り取り、ただし、標準として、本発明による液晶物質の含有量は固形分の総量の2.5%である。定常的に撹拌しながら、この混合物をジクロロメタン中に溶解する。材料が完全に溶解した時点で、溶液を約40摂氏度まで素早く加熱し、放置して再び冷却する。次いで、溶液が気泡を含まないようにして、フィルム吸出フレームを使用し、ガラスプレート上に引くことができる。ウェット状態のフィルムの厚みは約1000μmである(TAC濃度および達成されるべきTACフィルム厚に依存する)。溶媒を蒸発させて、TACフィルムをガラスプレートから剥がすことができる。続いて、依然として存在する残存溶媒をフィルムより全て除去するために、乾燥器中で80℃において乾燥する。
【0127】
フィルムを室温で一晩保管し、次いで、光学的に測定(Rth値の決定)する。フィルムの一区画を耐候試験室中で60℃および95%相対環境湿度(RH)において保管し、時間間隔をおいて(最長1000時間まで)濁りを評価する。Ro値を決定するために、フィルムの区画を手動延伸装置において一軸的に延伸する(最大1.4倍まで延伸)。
【0128】
個々の未延伸補償フィルムのリタデーションRthおよび貯蔵安定性を下で表1にまとめる(未延伸フィルムにおいて、TACフィルム厚は約80μm、Roは、ほぼ0nm)。
【0129】
【表1】

化合物CCPC−33を含む延伸補償フィルムの光学的分散性(種々の波長におけるRoまたはRth)を、それぞれ図1および図2に示す。補償フィルムはRoおよびRthの負の分散性を示し、即ち、波長の増加に伴いRoおよびRthの絶対値が増加している。
【0130】
<比較例1>
比較の目的のために、例1で記載される通りであるが以下の式の3個の芳香族環を有する化合物を使用して補償フィルムを作製する。
【0131】
【化7】

補償フィルムのリタデーションおよび貯蔵安定性を表2にまとめる(TACフィルム厚は約80μm)。
【0132】
【表2】

PGP−2−5を含む延伸補償フィルムの光学的分散性(種々の波長におけるRoまたはRth)を、それぞれ図3および図4に示す。補償フィルムは正の分散性を示し、即ち、波長の増加に伴いRoおよびRthの絶対値が減少している。
【0133】
例1および比較例1より分かる通り、本発明による液晶物質(例えば、CCPC−33など)を使用することで、RoおよびRthの分散性が液晶物質PGP−2−5を含む補償フィルムに対して反対の挙動を正確に示すように補償フィルムのリタデーション分散に影響を及ぼすことができる。よって、補償フィルムの分散性を液晶ディスプレイの分散性に更に良好に合わすことができ、コントラストの挙動および色の再現性を(特に、より大きな視野角において)改良できる。
【0134】
この適合性は、所望であれば、種々の程度のリタデーション分散を有する式Iの2種類以上の化合物の混合物を使用することで向上でき、即ち、よって、リタデーションフィルムのR(450)/R(550)値を延伸後に正確に設定できる。
【0135】
<例2>
トリアセチルセルロース(TAC)(イーストマンケミカル社、キングスポート市、アメリカ合衆国、公式名称は三酢酸セルロースVM149、アセチル化度60.8%)と、可塑剤としてリン酸トリフェニル(TPP)(濃度は表3参照)の塩化メチレン/メタノール97/3(質量/質量)中の16質量%溶液を、500mlのガラスボトル中で調製する。それぞれの場合において、この溶液に式Iの化合物を固形分(TAC+TPP)に基づき2.5%の濃度で加え、ローラー容器内において混合物全体を一晩溶解する。これらの溶液を水浴中において50℃で脱気し、次いで、それぞれの場合において、ナイフコーティングフィルムを作製し、80℃で一晩乾燥する。
【0136】
本発明に従って添加される式Iの化合物は化合物CCPC−34である。CCPC−34(2.5質量%)および種々の含有量(質量%)の可塑剤TPPを含むTACフィルムについて、延伸前のフィルムのリタデーション値RthおよびRoおよび濁りを表3に示す。
【0137】
【表3】

この方法で作製されたフィルムには目立った濁りは見られず、添加剤およびマトリクスの非常に良好な適合性が示唆される。加えて、この場合、リタデーション値Rthが可塑剤の含有量に明白に依存している。
【0138】
図5に、表3の未延伸フィルムのリタデーション値Ro(■)、Rth(◇)および80μmに修正されたRth(△)を、可塑剤TPPの濃度の関数として示す。
【0139】
<例3>
下記の通り、可塑剤含有量が4、8および10%である例2のフィルムを一軸的または二軸的に延伸する。
【0140】
<機械に関する一般的な説明および延伸手順>
実験室延伸機(Karo4、ブルックナー社、ジークスドルフ市、ドイツ国)は試料を装填するためのモジュールから成り、その中に周囲環境下においてフィルムを挿入し、それぞれの場合で4個のクリップを使用して4辺全てを固定し、引き続いて、装置全体を予熱用のオーブンモジュール中に挿入する。予熱後、試料を試料装填室まで移動して戻し、延伸する。装置を冷却後、クリップを外し、試料を取除くことができる。
【0141】
延伸操作の間、機械的伸長および張力を継続的に測定でき、各種の材料と比較して製造設備の設計上の結論を導き出すことができる(データは示さない)。
【0142】
a)延伸操作:
延伸操作の各種設定が可能である:
−延伸速度の変更
−種々の延伸温度
−二軸工程における逐次および同時延伸。
【0143】
本発明に適切な設定パラメータは:
−160℃における1分間の予熱
−160℃における延伸
−クリップ温度は130℃
−ほぼ室温まで冷却する時間は20秒(「凍結」)
−延伸速度は1%/秒(非対称二軸延伸の場合1%/秒および4%/秒)
−延伸モード:収縮(即ち、くびれ)を伴う単軸、延伸方向に垂直な寸法が固定された単軸、二軸対称(MDにおける係数がTDにおける係数と等しい)、二軸非対称(MDにおける係数がTDと異なる)
−単軸延伸の場合の延伸度は、流延方向(縦方向、機械方向;MD)または横方向(TD)に1.0〜1.2
−二軸延伸の場合の延伸度は、種々の組み合わせでMDに1.0〜1.2およびTDに1.0〜1.2。
他に明言しない限り、1%/秒の低速において同時に試料を延伸する。
【0144】
b)結果の評価:
初めに、冷却しおよびクリップから外した後の試料を全体として目視により評価する。試料の最初の大きさは70×70mmで、延伸後、例えば、約85×85mmに増加することがある。クリップの操作により端部が失われるため、試料の使用可能な領域は延伸条件に依存するが、ほぼ60×60mmである。次いで、2つの交差する偏光板の間に試料を置き、生じる偏光色を評価する。フィルムの中心点の周りに偏光色が均一の場合、この点において測定値を決定できる。
【0145】
種々の延伸倍率で延伸後のフィルムのリタデーション値RthおよびRoを表4に示すが、%pは可塑剤含有量、uは一軸、biは二軸である。
【0146】
【表4】

単軸(1:1.20)および非対称二軸延伸(1.05:1.20)を行った。本明細書において、用語「単」は、単軸延伸の場合で側辺を固定しないことを意味し、即ち、「くびれ」が生じる(延伸倍率1.2)。
【0147】
4%(◆)、8%(○)および10%(△)の可塑剤濃度について、表4の一軸延伸フィルムのリタデーション値Rth(上の線)およびRo(下の線)を延伸倍率の関数として図6に示す。
【0148】
<例4>
トリアセチルセルロース(TAC)(イーストマンケミカル社、キングスポート市、アメリカ合衆国、公式名称は三酢酸セルロースVM149、アセチル含有量43.4〜43.8%(質量:質量))と、リン酸トリフェニル(TPP)と、場合によって追加的に可塑剤としてエチルフタリルエチルグリコレート(EPEG)の塩化メチレン/メタノール97/3(質量/質量)中16質量%溶液を調製する。それぞれの場合で、固形分の含有量を16%に調節した。固形分を基礎として、処方Aは8%(質量:質量)のTPPを含み、処方Bは8%のTPPおよび2%のEPEG(質量:質量)を含む。これをローラー容器内で一晩溶解する。次いで、このコーティング剤を幾つかに分け、それぞれの場合で固形分(TACおよび可塑剤)を基礎として2.5%、4%または5%の濃度で添加物1を加え、更に、(16%溶液を再び得るために)溶媒を加える。この混合物をローラー容器内で一晩再溶解する。これらのコーティング剤を水浴中において脱気し、それぞれの場合で室温においてガラスプレート上にフィルムを引く。本明細書においては、所望のフィルム厚に依存して、流延ギャップを390μm〜650μmに設定した。引いたフィルムを室温において約5分間脱気する。フィルムを備えるガラスプレートを、約18時間80℃においてファン装備の乾燥器内で乾燥する。
【0149】
本発明に従って添加される液晶添加物(添加物1)は、CCPC−nmに分類される物質からの成分75%と、CCP−n−Amに分類される物質からの成分25%との混合物よりなる。
【0150】
フィルムの組成を表5に示す。
【0151】
【表5】

フィルムを乾燥し取り外した後、室温において上記の通り、厚み、濁りおよびリタデーションを測定する。延伸前のフィルムの光学的特性を表6にまとめる。
【0152】
【表6】

<例5>
<種々の延伸倍率で延伸後のフィルムにおけるリタデーション値および波長分散>
例4において作製および特性解析されたフィルムを、KARO4実験室延伸装置(ブルックナー社、ジークスドルフ市、ドイツ国)において延伸する。種々の延伸度および温度で延伸後、AxoScan偏光計(Axometrics社)を使用し、RoおよびRth値を波長の関数として決定する。結果を表7にまとめる。
【0153】
それぞれの場合において、Ro(450nm)、Ro(550nm)およびRo(650nm)は、それぞれ、450、550および650nmの波長において測定される「面内」リタデーションに対応し、波長に依存するRth(「面外」)値に対しても同じことを適用する。
【0154】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ディスプレイ用でセルロースアシレートを基材とする光学的補償フィルムであって、
2個以上の環を有する1種類以上の化合物を含み、ただし、これらの環は最多で1個が芳香族環であることを特徴とする光学的補償フィルム。
【請求項2】
2個以上の環を有する前記化合物の割合は、該補償フィルムの総質量を基礎として、0.5〜10質量パーセントであることを特徴とする請求項1に記載の光学的補償フィルム。
【請求項3】
20〜150μm、特に30〜100μmの厚みを有することを特徴とする請求項1または2に記載の光学的補償フィルム。
【請求項4】
30〜70nmのリタデーション値Roおよび−100〜−160nmのリタデーション値Rthを有することを特徴とし、ただし、Roは該光学的補償フィルムの面方向におけるリタデーション値を表し、Rthは厚み方向におけるリタデーション値を表す請求項1〜3のいずれか一項に記載の光学的補償フィルム。
【請求項5】
30〜90nmのリタデーション値Roおよび−160〜−270nmのリタデーション値Rthを有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の光学的補償フィルム。
【請求項6】
基材として機能する該セルロースアシレートは、セルロースアセトプロピオネート(CAP)および/または酢酸セルロースであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の光学的補償フィルム。
【請求項7】
2個以上の環を有する該化合物は式Iより選択されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の光学的補償フィルム。
【化1】

(式中、
およびRは、それぞれ互いに独立に、F、Cl、Br、I、OH、−CN、−NO、−NCO、−NCS、−OCN、−SCN、−NH、−SF、1〜12個のC原子を有する直鎖状または分岐状のアルキルまたはアルコキシを表し、ここで、1個以上のCH基は、Oおよび/またはS原子が互いに直接連結しないようにして、−O−、−S−、−CO−、−CO−O−、−O−CO−、−O−CO−O−、−CH=CH−、−C≡C−、−NR−、−CO−NR−、−NR−CO−で置き換えられていてもよく、ただし加えて、1個以上のH原子は、F、ClまたはCNで置き換えられていてもよく、
およびAは、それぞれ互いに独立に、以下の群より選択される基を表し、
群A)5〜10個、好ましくは、5個、6個、7個または8個の環原子を有し、非芳香族で単環または多環の炭素環式またはヘテロ環式環から成る群、ただし加えて、2個または2個より多いこれらの環は縮合基を形成していてもよく、ただし加えて、個々の環は単置換または多置換されていてもよく、および/または
群B)5〜10個、好ましくは、5個または6個の環原子を有する、芳香族またはヘテロ芳香族環から成る群、ただし加えて、単置換または多置換されていてもよく、および/または
群C)群A)からの1個以上の環および群B)からの1個のみの環から成る縮合基から成る群C)、ただし加えて、個々の環は単置換または多置換されていてもよく、
ただし、存在する基AおよびAは最多で1個が群B)またはC)より選択され、
は、出現するごとに同一または異なって、−COO−、−OCO−、−CHO−、−OCH−、−CHS−、−SCH−、−CFO−、−OCF−、−CHCH−、−CHCF−、−CFCH−、−C−、−CH=CH−、−CH=CF−、−CF=CH−、−CF=CF−、−C≡C−または単結合を表し、
は、ハロゲンまたはC〜C−アルキルを表し、および
mは、整数1、2、3または4を表す。)
【請求項8】
式IにおけるAおよびAが、それぞれ互いに独立に、
【化2】

を表し、
ここで、存在する基AおよびAの1つは、
【化3】

(式中、LおよびLは、それぞれ互いに独立に、H、FまたはClを表す。)
を表してもよいことを特徴とする請求項7に記載の光学的補償フィルム。
【請求項9】
式Iの化合物が、以下のサブ式より選択されることを特徴とする請求項7または8に記載の光学的補償フィルム。
【化4】


(式中、RおよびRは請求項8で示される意味を有し、LおよびLは、それぞれ互いに独立に、HまたはFを表す。)
【請求項10】
が、−C≡C−CN、−C≡C−CHまたは−NCSを表すことを特徴とする請求項7〜9のいずれか一項に記載の光学的補償フィルム。
【請求項11】
が、2〜7個のC原子を有するアルケニル基を表すことを特徴とする請求項7〜9のいずれか一項に記載の光学的補償フィルム。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の光学的補償フィルムを作製するための、請求項1および7〜11のいずれか一項で述べられる1種類以上の化合物の使用であって、
光学的補償フィルムを作製する際に、これらの化合物の少なくとも1種類を光学的補償フィルムに添加することを特徴とする使用。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の光学的補償フィルムを有する偏光プレート。
【請求項14】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の少なくとも1枚の光学的補償フィルムを有する液晶ディスプレイ。
【請求項15】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の光学的補償フィルムを1枚のみ有することを特徴とする請求項14に記載の液晶ディスプレイ。
【請求項16】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の光学的補償フィルムを2枚以上有することを特徴とする請求項14に記載の液晶ディスプレイ。
【請求項17】
VAディスプレイであることを特徴とする請求項14〜16のいずれか一項に記載の液晶ディスプレイ。
【請求項18】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の光学的補償フィルムを製造する方法であって、
光学的補償フィルムの作製において該フィルムを作製する工程の間に使用される混合物に、2個以上の環を有する前記化合物を加えることを特徴とする方法。
【請求項19】
フィルム流延法であることを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項20】
流延および乾燥後に得ることができるフィルムの延伸を行うことを特徴とし、ただし、該延伸は、延伸方向に垂直方向が保持されていないか保持されている単軸延伸、または二軸延伸である請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の光学的補償フィルムを、偏光膜または偏光膜の保護層に付着、特にラミネートすることを特徴とする偏光プレートの製造方法。
【請求項22】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の光学的補償フィルムが付着、特にラミネートされている偏光プレートを少なくとも1枚使用することを特徴とする液晶ディスプレイの製造方法。
【請求項23】
液晶ディスプレイの作製において、請求項1〜11のいずれか一項に記載の光学的補償フィルムを1枚のみ使用することを特徴とする請求項22に記載の方法。
【請求項24】
液晶ディスプレイの作製において、請求項1〜11のいずれか一項に記載の光学的補償フィルムを2枚以上使用することを特徴とする請求項22に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−191422(P2010−191422A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−28583(P2010−28583)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【出願人】(591032596)メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (1,043)
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D−64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
【出願人】(507349754)ロフォ ハイ テック フィルム ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (4)
【氏名又は名称原語表記】LOFO High Tech Film GmbH
【住所又は居所原語表記】Weidstrasse 2, D−79576 Weil am Rhein, Germany
【Fターム(参考)】