説明

光学素子、その製造方法および遮光塗料

【課題】 光学素子の非光線有効部に形成された遮光膜において、機能や外観に影響する色味ムラなどを抑制するため、硬化物の柔軟性を向上し、耐候性を向上することができる光学素子、その製造方法および遮光塗料を提供する。
【解決手段】 光学素子の非光線有効部3に形成される遮光膜4は、エポキシ樹脂とフェノール樹脂との硬化物を含む。色味ムラなどの遮光膜の機能や外観に影響する現象を効果的に予防することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子、その製造方法および遮光塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
レンズなどの光学素子では、フレアやゴーストなどの原因となる有害光の発生を抑制し、高品位で高性能な光学系を得ることを目的として、さまざまな工夫がなされてきた。それは次の2つに分類される。
(1)光線有効部において、光の透過率を向上することで反射を低減する手法
(2)非光線有効部において、光の吸収率を向上することで反射を低減する手法
本明細書においては、光学素子において光が通過する部分のことを光線有効部と称し、光が通過できない部分のことを非光線有効部と称するものとする。なお、カメラレンズのように複数のレンズを組み合わせたり、鏡筒に組み込んだりすると、単独のレンズでは光線有効部であっても、他のレンズのサイズや位置関係等により、光が透過せず、非光線有効部となる場合がある。
【0003】
光線有効部に対しては、従来、(1)の手法として、真空蒸着法やスパッタリング法などにより誘電体薄膜を設ける方法が広く利用されている。
【0004】
また、誘電体薄膜に代わる方法として、使用波長以下のサブ波長構造(Sub−Wavelength Structure:SWS)を利用した反射防止構造も知られている。
【0005】
特許文献1では、部材を形成する曲面に、反射防止対象となる光線の使用波長以下のピッチで形成した微細周期凹凸構造からなる反射防止部を設けた例を開示している。この反射防止構造では、従来の誘電体薄膜による反射防止構造と比較して、より波長帯域特性及び入射角特性に優れた反射防止性能を得ることができる。
【0006】
一方、(2)の方法としては、レンズ側端部(通称はコバ部)など非光線有効部に相当する部分に、遮光膜を形成することにより、内面反射を低減する方法が広く用いられている。遮光膜の形成にはコールタールやコールタールピッチ、黒色顔料や黒色染料、カーボンブラックなどの光を吸収しやすい材料と樹脂成分と混練した内面反射防止用塗料(以下、遮光塗料と称す)を用いる方法が広く行なわれている。特許文献2では、黒色を含む染料数種とピッチ、カーボンブラック、エポキシ樹脂を組み合わせることにより、内面反射低減効果を得ている。
【0007】
前述の特許文献以外においても、遮光塗料用の樹脂成分として、エポキシ樹脂及び変性エポキシ樹脂が広く用いられている。これは、エポキシ系の樹脂が目的に応じ適当な硬化剤と組み合わせることにより、強度が高く耐侯性に優れた硬化物が得られるためである。特に長期間の耐久性が求められる塗布膜を形成する目的に好適である。なお、一般に、エポキシ樹脂またはエポキシ樹脂に何らかの機能を追加するための添加剤を混合したものを、硬化剤に対して主材と呼称している。市販品では、メーカーが用途に応じ主材と硬化剤の組み合わせを指定していることも多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−053220号公報
【特許文献2】特公昭47−32418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、最近では、光学素子の性能向上を図るため、遮光塗料をレンズ側端部に塗布し、そののち、透過率を向上し反射を低減する反射防止膜を光線有効部に塗布する場合がある。
【0010】
たとえば、光線有効部に液相法を用いて反射防止膜用塗布材料をスピンコートなどで塗工する場合、反射防止膜用塗布材料がレンズ側端部にも部分的に塗布されてしまう。このため、光線有効部だけでなく、非光線有効部上に塗布された前記遮光膜の上に、放射状に反射防止膜が形成される部分が生じる場合がある。
【0011】
この光学素子について、紫外(UV)光を用いた加速劣化試験を行うと、前記遮光膜のうえに放射状に塗布された反射防止膜の形状に応じた、色味のムラが遮光膜に発生する可能性がある。
【0012】
本発明は、上記懸念事項の顕在化を回避できる様、前記遮光膜を形成する硬化物の柔軟性や耐候性を向上させた、光学素子、光学素子の製造方法および遮光塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の光学素子は、光線有効部および非光線有効部を有する基材と、前記非光線有効部の一部または全部に形成された遮光膜とを有する光学素子であって、前記遮光膜はエポキシ樹脂とフェノール樹脂との硬化物を含むことを特徴とする。
【0014】
本発明の光学素子の製造方法は、光線有効部および非光線有効部を有する光学素子の製造方法であって、前記非光線有効部の一部または全部に、少なくともエポキシ樹脂とフェノール樹脂を含む塗料を塗工し遮光膜を形成する工程と、前記遮光膜を形成した後、前記光線有効部の少なくとも1つ以上の面に液相法により反射防止膜を形成する工程とを有することを特徴とする。
【0015】
本発明の遮光塗料は、光吸収材料、エポキシ樹脂、フェノール樹脂および硬化剤を少なくとも含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の光学素子の遮光膜は、フェノール樹脂を含むことで、柔軟性、耐候性が向上し、色ムラなど遮光膜の機能や外観に影響することが懸念される現象を効果的に予防することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の光学素子の一例を示す図。
【図2】本発明における、フェノール性水酸基のラジカル捕捉反応の例。
【図3】本発明の実施例1の製作方法を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の実施の形態を説明する。
【0019】
本実施の形態では、光線有効部および非光線有効部を有する基材と、前記非光線有効部の一部または全部に形成された、使用波長域の光を透過しない膜とを有する光学素子の一実施形態について説明する。使用波長域の光を透過しない膜は、光吸収材料、エポキシ樹脂、フェノール樹脂を少なくとも含む内面反射防止用塗布材料を、基材の非光線有効部に、任意の方法で塗布し、所定条件下で硬化させることにより形成される。使用波長域の光を透過しない膜を本明細書においては、遮光膜と称することとする。また、この遮光膜を形成する内面反射防止用塗布材料を、遮光塗料と称することとする。
【0020】
まず、本発明の遮光塗料について説明する。本発明の遮光塗料は、光吸収材料、エポキシ樹脂、フェノール樹脂を少なくとも含む。光吸収材料、エポキシ樹脂が混合された材料にフェノール樹脂を添加する。本明細書において、光吸収材料、エポキシ樹脂が混合された材料を主材と称することとする。前記の主材の構成は、含有する材料の構成が、エポキシ樹脂10〜20wt%、黒色染料等の光吸収材料25〜35wt%、フィラー等の補助材料15〜25wt%、残りを有機溶剤としたものが良好であるが、これに限られるものではない。
【0021】
主材に添加するフェノール樹脂としては、一般に工業用途で用いられている各種フェノール樹脂を用いることができるが、特に熱で硬化するレゾール樹脂を用いることが好ましい。レゾール樹脂は、液状のものを容易に入手することが可能であり、取り扱いの点で優れているため好適である。また、前記主材に含有されるエポキシ樹脂との相溶性が高く、耐水性が高いものが好ましい。前記フェノール樹脂単体を硬化した際のガラス転移温度(Tg)は200℃以下であることが好ましく、120℃以下であることがさらに好ましい。前記フェノール樹脂は、主材との混合を考え、常温で液体であることが好ましく、さらに溶剤などを加え粘度を調整していてもよい。フェノール樹脂の市販品の例としては、昭和電工株式会社製 ショウノール(登録商標)、住友ベークライト株式会社製 スミライトレジン(登録商標)、DIC株式会社製 フェノール樹脂などが挙げられる。
【0022】
本発明の遮光塗料に、フェノール樹脂を添加することで、柔軟性とラジカル捕捉能を付与することができる。しかし、添加するフェノール樹脂量が多すぎると遮光膜の光学性能に問題が生じるため、主材中のエポキシ樹脂100重量部に対して、フェノール樹脂を10重量部から2000重量部加えることが好ましく、50重量部から1000重量部であることがさらに好ましい。
【0023】
また、ラジカル捕捉剤を添加することもできる。ラジカル捕捉剤としては、公知のものを適宜用いることができ、たとえば、(1)アミン系、及び(2)フェノール系のものを用いることができる。(1)アミン系のラジカル捕捉剤としては、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン及びフェニル−4−ピペリジニルカーボネートから選ばれる1種以上が挙げられる。(2)フェノール系のラジカル捕捉剤としては、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール(BHT)、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、3,5−ジ−tert−ブチルヒドロキシトルエン及び2,5−ジ−tert−ブチルヒドロキノンから選ばれる1種以上が挙げられる。これらの中でも、(2)フェノール系のラジカル捕捉剤が好ましく、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール(BHT)及びブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)が特に好ましい。
【0024】
また、硬化剤を添加してもよい。硬化剤としては、酸無水物系硬化剤やアミン系硬化剤を用いることができるが、アミン系硬化剤の場合、硬化時に架橋反応が進みやすく、前記遮光膜の柔軟性を維持することが難しいことから、酸無水物系硬化剤が好適に用いられる。酸無水物硬化剤の中でも、前記遮光膜の耐候性を向上させるために、脂環式酸無水物がさらに好ましい。
【0025】
脂環式酸無水物は各種用いることができるが、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸などの、無水フタル酸の誘導体の使用が好ましい。また、無水フタル酸の誘導体は常温で固体のものもあるが、主材との混合のしやすさの点から常温で液体であるものがより好ましい。無水フタル酸誘導体で、常温で液体であるものの例として、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸(市販品の例として新日本理化株式会社製 リカシッドMH−700、HNA−100、DIC株式会社製 エピクロンB−650、日立化成工業株式会社製 HN−5500等)ならびにメチルエンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸(日立化成工業株式会社製 MHAC−P)などが挙げられる。
【0026】
本発明では、前記遮光膜の膜厚を調整したり、塗布時の作業性を良好にするため、濃度や粘度の調整を行なったりすることもできる。これは、有機溶媒やエポキシ樹脂、またはフェノール樹脂の追加により行なうことが可能である。
【0027】
本発明では、前記遮光膜を形成するための遮光塗料に、硬化促進剤を添加することもできる。
【0028】
次に、本発明の光学素子の一実施形態について、図1を用いて説明する。本発明の光学素子は、光線有効部および非光線有効部を有する基材と、前記非光線有効部の一部または全部に形成された遮光膜とを有する。図1において、1は基材である。2a、2bは、光が通過する部分である光線有効部である。3は、光が通過できない部分である非光線有効部である。基材がレンズである場合、レンズの側端部が非光線有効部となる。4は、遮光膜である。5は、反射防止膜などの光学機能を有する膜であり、その端部が遮光膜4の一部にまで連続的に形成されていてもよい。本発明の光学素子は、非光線有効部3の一部または全部に遮光膜4が形成されている。そして、前記遮光膜は、エポキシ樹脂とフェノール樹脂との硬化物を含むことを特徴としている。つまり、本発明の光学素子は、非光線有効部の一部または全部に、本発明の遮光塗料を硬化させた遮光膜が形成されている。特に、耐透湿性、撥水性の高さ、さらに、熱硬化性樹脂であることで取り扱いが容易であることから、フェノール樹脂の中でもレゾール系樹脂を用いることが好ましい。
【0029】
また、硬化物は、脂環式酸無水物からなる硬化剤との硬化物を含んでいることが好ましい。脂環式酸無水物からなる硬化剤との硬化物を含んでいると、硬化物が重量減少を起
こす高温の温度域でも、重量変化が少なく、高温での耐久性に優れる。また、柔軟性にも優れ、基材との間の密着性も向上する。
【0030】
非光線有効部3は、遮光塗料の定着性を向上させるなどの目的で表面処理を行うこともできる。
【0031】
前記遮光塗料は、基材の形状や、非光線有効部の位置などに応じ、筆塗り、スピンコート、スプレーコート、ディップコートなど各種の方法で塗布することができ、特に限定されない。
【0032】
前記遮光塗料を硬化させるための処理は、熱プロセスが好ましいが、同様の硬化物が得られる方法であれば特に限定されない。ここで熱プロセスの場合、加熱条件は、硬化剤や硬化促進剤の種類、基材の耐熱性により選択される。前述の主材とフェノール樹脂を中心にした構成では、加熱温度は100〜250℃が好ましく、さらには120〜220℃が好ましい。加熱時間については、30分〜20時間が好ましく、さらには1〜4時間が好ましい。
【0033】
また、前記遮光膜4を形成した後、表面の耐擦傷性向上や、外観上の平滑性向上、撥水性向上などの目的で、さらに別の膜(保護膜)を重ねて形成することもできる。この遮光膜の上に重ねて形成される保護膜は、例えば、フェノール樹脂(昭和電工株式会社製 ショウノール(登録商標)、住友ベークライト株式会社製 スミライトレジン(登録商標)など)やシリコンレジンなどを用いることができる。特に、耐透湿性、撥水性の高さ、さらに、熱硬化性樹脂であることで取り扱いが容易であることから、フェノール樹脂の中でもレゾール系樹脂を用いることが好ましい。このように、遮光膜の表面に保護膜を形成することにより耐透湿性、撥水性を向上させることができる。
【0034】
非光線有効部3に前記遮光膜4が形成された後は、任意の方法で光線有効部に反射防止膜などの光学機能を有する膜を形成することができる。特に、本発明は、液相法等、空気中での加熱など高温を含むプロセスや温水への浸漬などの高湿環境を含むプロセスに対して用いることに適している。
【0035】
基材の表面に液相法で反射防止膜を形成する場合、反射防止膜用塗布材料を、光線有効部の少なくとも一つの面2bに塗布し、反射防止膜を形成する。反射防止膜を形成する材料例としては、亜鉛、アルミニウム、ケイ素、チタニアなど無機材料またはその無機酸化物を用いた反射防止膜、フッ化マグネシウムなどの金属フッ化物を用いた反射防止膜、または、樹脂を用いた反射防止膜などが挙げられる。塗布する方法は、スピンコート、スプレーコート、ディップコートなど各種の方法で塗布することができる。すでに形成された遮光膜4の一部に不均一に塗布しても問題ない。前記反射防止膜を形成する材料を用いて反射防止膜として機能を発現させる方法としては、基材の表面に、屈折率を調整した層を形成する方法や凹凸構造を形成する方法などがある。
【0036】
屈折率を調整した層を形成する場合、例としては、フッ化マグネウムなどの低い屈折率を微粒子状にして塗布する方法や酸化ケイ素の中空粒子を塗布する方法などが挙げられる。
【0037】
また、基材の表面に凹凸構造を有する反射防止膜を形成する例としては、基材の表面に酸化アルミニウムまたはアルミニウムを含有する反射防止膜用塗布材料を塗布し、加熱して膜として定着させる。その後、温水に浸漬するあるいは水蒸気にさらす等、温水と接触させる方法がある。前記塗布材料を塗布した後の加熱温度は100〜220℃が好ましく、加熱時間は5分〜24時間が好ましい。また、温水は、温度が60℃以上100℃以下であることが好ましく、温水と接触させる時間は5分以上24時間以内とするのが好ましい。温水に浸漬するあるいは水蒸気にさらす等、温水と接触させることにより、膜に含まれるアルミニウムの成分が反応し、溶解または析出等が起こる。これにより表面にアルミニウムの酸化物、アルミニウムの水酸化物またはアルミニウム酸化物の水和物を主成分とする結晶による凹凸構造が形成される。この結晶は、板状の結晶であり、特に好ましい結晶としてベーマイトがある。これらの板状結晶を配することで、その端部が微細な凹凸を形成するので、微細な凹凸の高さを大きくし、その間隔を狭めるために板状結晶は選択的に基材の表面に対して特定の角度で配置される。この凹凸構造は空気界面から基材に向かって、屈折率を連続的に増加させるため、非常に高い反射防止性能を発現することができる。
【0038】
本発明で使用される基材としては、ガラス、樹脂、ガラスミラー、樹脂製ミラー等が挙げられる。樹脂基材の代表的なものとしては以下のものが挙げられる。ポリエステル、トリアセチルセルロース、酢酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ABS樹脂、ポリフェニレンオキサイド、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニルなどの熱可塑性樹脂のフィルムや成形品。また、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、架橋型ポリウレタン、架橋型のアクリル樹脂、架橋型の飽和ポリエステル樹脂など各種の熱硬化性樹脂から得られる架橋フィルムや架橋した成形品等も挙げられる。ガラスの具体例として、無アルカリガラス、アルミナケイ酸ガラスを挙げることができる。本発明に用いられる基材は、最終的に使用目的に応じた形状にされ得るものであれば良く、平板、フィルムないしシートなどが用いられ、二次元あるいは三次元の曲面を有するものであっても良い。厚さは、適宜に決定でき5mm以下が一般的であるが、これに限定されない。
【0039】
本発明で使用される基材として、ヤング率が高い基材を用いると、本発明はより顕著な効果を発揮する。特に基材のヤング率が90GPa以上、130GPa以下である場合に好適である。これは以下のような理由によるものであると考えられる。
【0040】
光学設計および基材の屈折率の進歩に伴い、利用される基材の組成も変化し、従来の基材に比べ硬さが高い基材も利用される。例えば、高屈折率で高分散の基材としてランタン系の硝材があるが、これらの基材は一般にTgも高く、ヤング率や硬さも高い。このような基材に遮光膜を塗布したのち、液相法により反射防止膜用塗布材料をスピンコートなどの手法で作製する。このような場合、反射防止膜用塗布材料が遮光膜の上面に不均一に塗布されることで、遮光膜の上面に不均一に反射防止膜が形成された状態が発生することがある。
【0041】
この際、基材のうえに塗布された前記遮光膜には、(1)硬い基材と反射防止膜に挟まれた状態と、(2)硬い基材に密着しているが、上面に反射防止膜は存在していない状態(あるいは、上面に存在する反射防止膜の厚み、層構造などが不均一な状態)と、異なる状態が不均一に存在することになる。
【0042】
前記状態の異なる遮光膜が、反射防止膜の製造工程で必要となる温度変動や湿度変動を経た場合、(1)の状態の遮光膜は硬い基材と反射防止膜に上下を挟まれていることで、遮光膜の膨張が阻害される。しかし、(2)の状態では、反射防止膜に拘束されない面を有する遮光膜は膨張しやすくなると考えられる。(1)と(2)の状態の異なる遮光膜では、膨張量の違いが大きいことで、遮光膜に負荷がかかり、応力ひずみが発生すると考えられる。とくに、ランタン系の硝材のように、硬い材料の場合、この(1)と(2)のあいだの違いが顕著になり、発生する応力ひずみが増大する。このような応力ひずみにムラが存在することで、反射防止膜の製造工程における温度変動や湿度変動にともない、前記遮光膜の脆化や退色などの劣化にムラが発生する場合があるが、通常、この時点では外観を損なうことはない。
【0043】
しかし、この光学素子においてUV光を多く浴びる環境(UV光による加速劣化試験等)におかれた場合、UV光によって遮光膜の劣化が促進される。すると、前記遮光膜の光学物性の低下やUV劣化で生じる架橋の進行により前記の劣化ムラが顕在化され、前記遮光膜の色味のムラなどの外観不良が光学的に(目視で)確認される場合がある。
【0044】
本発明による遮光膜は、エポキシ樹脂に黒色染料等の添加物を混合した材料を主材とし、これにフェノール樹脂を加え硬化処理を行ったものである。フェノール樹脂を用いることにより、前記遮光膜に柔軟性及びラジカル捕捉能が付与されることで、劣化ムラなど遮光膜の機能や外観に影響することが懸念される現象を効果的に予防することができると考えられる。
【0045】
本発明による遮光膜は、エポキシ樹脂に黒色染料等の添加物を混合した材料を主材とし、フェノール樹脂を加えることで、硬化物の柔軟性が向上し、前記遮光膜が受ける負荷が緩和され、結果として応力ひずみは解放され、残留しにくくなる。応力ひずみの残留を抑制することで、反射防止膜製造工程において発生する温度変動や湿度変動による不均一な劣化を低減する効果が期待される。
【0046】
また、UV光を多く浴びる環境(UV光による加速劣化試験等)におかれた場合には、UV光によりラジカルが発生し、ラジカルに起因した架橋や酸化が起こることで、材料の脆化や分解などの劣化が生じることが広く知られている。例えば、前記遮光膜の場合、材料の耐候劣化により、反射防止膜製造工程で生じるわずかな劣化の不均一性が、密度のムラや不透明度の低下などの劣化現象と重なることで、色ムラという外観不良として確認されるようになると考えられる。
【0047】
前記フェノール樹脂はフェノール性水酸基を有する。フェノール性水酸基の水酸基が有する水素はラジカルにより引き抜かれやすく、そのため、フェノール性水酸基はラジカル捕捉効果を持つ。したがって、UV光を多く浴びる環境で生じたラジカルをフェノール性水酸基が捕捉することで、前記遮光膜がラジカルにより攻撃されにくくなることで、遮光膜の劣化が抑制されることが期待される。図2では、フェノール樹脂の構造を示す例と、劣化現象の主要因と考えられる炭素ラジカルおよび酸素ラジカルのラジカルをフェノール性水酸基が捕捉する例を示す。
【0048】
本発明による遮光膜は従来の遮光膜に比べ柔軟性が高く、UV光を多く浴びる環境(UV光による加速劣化試験等)におかれた場合、ヤング率や硬度などの機械的強度の上昇が少ない。この結果、従来の遮光膜に比べ、耐候性の高い硬化物が得られていると考えることができ、劣化ムラに起因した外観不良を抑制できると考えられる。
【0049】
一方、従来のフェノール樹脂を含まない遮光膜では、UV光を多く浴びる環境(UV光による加速劣化試験等)におかれた場合、遮光膜のヤング率や硬度などの機械的強度の上昇が確認される。これは、UV光により発生したラジカルにより、架橋や酸化などの反応が誘発され、材料の脆化が生じたためと考えることができる。
【0050】
このようにフェノール樹脂を添加して得られた遮光膜は、熱や水蒸気による処理を含むプロセスを経る光学素子に好適である。特に、基材の光線有効部に酸化アルミニウムまたはアルミニウムを含有する膜を定着させた後に、温水に浸漬し、使用波長以下の凹凸構造体を形成するプロセスに対し好適である。
【0051】
また、本発明の効果は、前記のプロセスで反射防止膜を形成した光学素子を、UV光を多く浴びる環境(UV光による加速劣化試験等)におかれた場合など比較的厳しい条件下に長期間おいた場合に顕著に表れる。しかし、これは本発明による前記遮光膜の用途を制限するものではない。
【0052】
本発明の光学素子は、以上説明した膜の他に、各種機能を付与するための膜をさらに設けることができる。例えば、膜強度を向上させるためにハードコート層を設けることができる。また、基材と、反射防止膜およびまたは遮光膜との間に、さらに単層、または複数層の膜を設けることもできる。これにより、さらなる反射防止性能の向上や、基材と膜との密着性の向上を可能にする。
【0053】
また、本発明の光学素子は撮影光学系などの光学系に適用することができる。例えば、カメラ用のレンズ群のうちの少なくとも一つに本発明の光学素子を適用することができる。
【0054】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
【0055】
(実施例1)
本実施例において使用した光学素子の基材は株式会社オハラ製L−LAH86であり、そのヤング率は108GPaであった。
【0056】
本実施例では、エポキシ樹脂に黒色染料等の添加物を混合した主材としてキヤノン化成株式会社製GT−100A(17%エポキシ樹脂含有)を8重量部、フェノール樹脂(住友ベークライト株式会社製 スミライト(登録商標)PR53365)を4重量部、市販の硬化剤(リカシッドHNA−100)を1重量部、希釈剤としてトルエン系シンナーを8重量部添加し、混合して遮光膜を形成する遮光塗料とした。
【0057】
以下、図3に沿って制作方法を説明する。
【0058】
前記遮光塗料を、レンズ1の非光線有効部3に塗布した。レンズを回転台7aに載せ、ゆっくり回転させながら、遮光塗料を筆8aで塗付した。塗布後は、室温で2時間乾燥後、3時間210℃で加熱を行ない、遮光膜を形成した後、回転台7bに載せ、ゆっくり回転させながら、フェノール樹脂含有の塗布材料(昭和電工株式会社製 ショウノール(登録商標)BKM−2620)を、筆8bで塗付した。塗布後は、室温で1時間乾燥後、3時間150℃で加熱を行ない、遮光膜4の表面に保護膜6を形成した。
【0059】
遮光膜4および保護膜6を形成したレンズを回転台7cに載せ、光線有効部2の凹面の中心付近に、酸化アルミニウムまたはアルミニウムを含有する塗布材料を滴下し、3000回転で30秒でスピンコートを行なった。続けて3時間210℃で加熱を行なった。
【0060】
加熱処理後のレンズを、温度が65℃以上85℃以下になるように制御した温水槽9に30分浸漬し、レンズの光線有効部に酸化アルミニウムまたはアルミニウムを含有する使用波長以下の凹凸構造体を形成した。
【0061】
上記の制作方法で作製した図2のレンズに対し、キセノン・ランプを2a方向から200時間照射し、加速劣化試験を行ったのち、外観観察を行なった。その結果、試験前と比較して非光線有効部の遮光膜に変化は認められず良好であり、機能面でも問題は無かった。
【0062】
(実施例2)
エポキシ黒色染料等の添加物を混合した主材に、フェノール樹脂(住友ベークライト株式会社製 スミライト(R)PR53365)7重量部を加える以外は実施例1と同様に遮光膜を形成した。その後、実施例1と同様の処理を行い光線有効部に凹凸構造体、非光線有効部に遮光膜を形成したレンズを得た。なお、本実施例で使用した基材は実施例1と同様である。
【0063】
上記のレンズに対し、実施例1と同様の加速劣化試験を行い、外観観察を行なったところ、試験前と比較して非光線有効部の遮光膜に変化は認められず良好であり、機能面でも問題は無かった。
【0064】
(実施例3)
エポキシ黒色染料等の添加物を混合した主材に、フェノール樹脂(昭和電工株式会社製 ショウノール(登録商標)BKM−2620)9重量部、市販の硬化剤(リカシッドMH−700)1重量部を加える以外は実施例1と同様に遮光膜を形成した。その後、実施例1と同様の処理を行い光線有効部に凹凸構造体、非光線有効部に遮光膜を形成したレンズを得た。なお、本実施例で使用した基材は実施例1と同様である。
【0065】
上記のレンズに対し、実施例1と同様の加速劣化試験を行い、外観観察を行なったところ、試験前と比較して非光線有効部の遮光膜に変化は認められず良好であり、機能面でも問題は無かった。
【0066】
(実施例4)
エポキシ黒色染料等の添加物を混合した主材に、フェノール樹脂(昭和電工株式会社製 ショウノール(登録商標)BKM−2620)12重量部、市販の硬化剤(リカシッドMH−700)1重量部を加える以外は実施例1と同様に遮光膜を形成した。その後、実施例1と同様の処理を行い光線有効部に凹凸構造体、非光線有効部に遮光膜を形成したレンズを得た。なお、本実施例で使用した基材は、株式会社オハラ製S−LAH58であり、そのヤング率は127GPaであった。
【0067】
上記のレンズに対し、実施例1と同様の加速劣化試験を行い、外観観察を行なったところ、試験前と比較して非光線有効部の遮光膜に変化は認められず良好であり、機能面でも問題は無かった。
【0068】
(実施例5)
エポキシ黒色染料等の添加物を混合した主材に、フェノール樹脂(昭和電工株式会社製 ショウノール(登録商標)BKM−2620)18重量部、市販の硬化剤(リカシッドMH−700)1重量部を加える以外は実施例1と同様に遮光膜を形成した。その後、実施例1と同様の処理を行い光線有効部に凹凸構造体、非光線有効部に遮光膜を形成したレンズを得た。本実施例で使用した基材は実施例4と同様である。
【0069】
上記のレンズに対し、実施例1と同様の加速劣化試験を行い、外観観察を行なったところ、試験前と比較して非光線有効部の遮光膜に変化は認められず良好であり、機能面でも問題は無かった。
【0070】
(実施例6)
エポキシ黒色染料等の添加物を混合した主材に、フェノール樹脂(昭和電工株式会社製 ショウノール(登録商標)BKM−2620)8重量部を加え、硬化剤を添加しない以外は実施例1と同様に遮光膜を形成した。その後、実施例1と同様の処理を行い光線有効部に凹凸構造体、非光線有効部に遮光膜を形成したレンズを得た。本実施例で使用した基材は実施例4と同様である。
【0071】
上記のレンズに対し、実施例1と同様の加速劣化試験を行い、外観観察を行なったところ、試験前と比較して非光線有効部の遮光膜に変化は認められず良好であり、機能面でも問題は無かった。
【0072】
(比較例1)
実施例1と同様の市販の黒色材料やその他の添加物を混合した主材を8重量部、市販の変性芳香族ポリアミンを主成分とした硬化剤1重量部、希釈剤としてトルエン系シンナーを8重量部添加し、混合して遮光膜を形成する遮光塗料とした。これを実施例1と同様の方法で塗布し、塗布後は、室温で2時間乾燥後、3時間90℃で加熱を行ない遮光膜を形成した。それ以外は実施例1と同様に処理を行い光線有効部に凹凸構造体、非光線有効部に遮光膜を形成したレンズを得た。本実施例で使用した基材は実施例1と同様である。
【0073】
上記のレンズに対し、実施例1と同様の加速劣化試験を行い、外観観察を行なったところ、試験前と比較して非光線有効部の遮光膜の色味にムラが見られた。
【0074】
(比較例2)
実施例1と同様の市販の黒色材料やその他の添加物を混合した主材を8重量部、市販の酸無水物を硬化剤(リカシッドMH−700)1重量部、希釈剤としてトルエン系シンナーを8重量部添加し、混合して遮光膜を形成する遮光塗料とした。これを実施例1と同様の方法で塗布し、塗布後は、室温で2時間乾燥後、3時間210℃で加熱を行ない遮光膜を形成した。それ以外は実施例1と同様に処理を行い光線有効部に凹凸構造体、非光線有効部に遮光膜を形成したレンズを得た。本実施例で使用した基材は実施例4と同様である。
【0075】
上記のレンズに対し、実施例1と同様の加速劣化試験を行い、外観観察を行なったところ、試験前と比較して非光線有効部の遮光膜の色味にムラが見られた。
【0076】
(実施例7)
本実施例において使用した光学素子の基材は株式会社オハラ製L−LAH86であり、そのヤング率は108GPaであった。
【0077】
本実施例では、エポキシ樹脂に黒色染料等の添加物を混合した主材としてキヤノン化成株式会社製GT−100Aを8重量部、フェノール樹脂(昭和電工株式会社製 ショウノール(登録商標)BKM−2620)を8重量部、市販の硬化剤(リカシッドMH−700)を1重量部、希釈剤としてトルエン系シンナーを8重量部添加し、混合して遮光膜を形成する遮光塗料とした。
【0078】
実施例1同様、図3に沿って制作方法を説明する。
【0079】
前記遮光塗料を、基材の非光線有効部に塗布した。基材(レンズ)を回転台7aに載せ、ゆっくり回転させながら、前記遮光塗料を筆8aで塗付した。塗布後は、室温で2時間乾燥後、3時間210℃で加熱を行ない遮光膜を形成した。遮光膜を形成したレンズを回転台7bに載せ、ゆっくり回転させながら、フェノール樹脂含有の塗布材料(昭和電工株式会社製 ショウノール(登録商標)BKM−2620)を、筆8bで塗付した。塗布後は、室温で1時間乾燥後、3時間150℃で加熱を行ない、遮光膜4の表面に保護膜6を形成した。
【0080】
次に、山田らが開示する特許4520418号を参考に、SiO:TiO=95:5であるSiO−TiO塗工液を作製した。次いで、遮光膜4および保護膜6が形成されたレンズを回転台7cに載せ、光線有効部2の凹面の中心付近に、SiO−TiO塗工液を滴下し、3000回転で20秒でスピンコートを行ない、塗布膜を形成した。乾燥後、210℃で1時間焼成する熱処理をし、透明なアモルファスSiO/TiO膜を被膜し、レンズを得た。
【0081】
上記のレンズに対し、実施例1と同様の加速劣化試験を行い、外観観察を行なったところ、試験前と比較して非光線有効部の遮光膜に変化は認められず良好であり、機能面でも問題は無かった。
【0082】
(比較例3)
実施例7と同様の市販の黒色材料やその他の添加物を混合した主材を8重量部、市販の変性芳香族ポリアミンを主成分とした硬化剤1重量部、希釈剤としてトルエン系シンナーを8重量部添加し、混合して遮光膜を形成する遮光塗料とした。これを実施例7と同様の方法で塗布し、塗布後は、室温で2時間乾燥後、3時間90℃で加熱を行ない遮光膜4を形成した。それ以外は実施例7と同様に処理を行い、レンズを得た。
【0083】
上記のレンズに対し、実施例1と同様の加速劣化試験を行い、外観観察を行なったところ、試験前と比較して非光線有効部の遮光膜の色味にムラが見られた。
【0084】
(実施例8)
本実施例において使用した基材は株式会社オハラ製L−LAH86であり、そのヤング率は108GPaであった。
【0085】
本実施例では、エポキシ樹脂に黒色染料等の添加物を混合した主材としてキヤノン化成株式会社製GT−100Aを8重量部、フェノール樹脂(昭和電工株式会社製 ショウノール(登録商標)BKM−2620)を8重量部、市販の硬化剤(リカシッドMH−700)を1重量部、希釈剤としてトルエン系シンナーを8重量部添加し、混合して遮光膜を形成する遮光塗料とした。
【0086】
実施例1同様、図3に沿って制作方法を説明する。
【0087】
前記遮光塗料を、基材の非光線有効部に塗布した。基材(レンズ)を回転台7aに載せ、ゆっくり回転させながら、前記遮光塗料を筆8aで塗付した。塗布後は、室温で2時間乾燥後、3時間210℃で加熱を行ない遮光膜を形成した。遮光膜を形成したレンズを、回転台7bに載せ、ゆっくり回転させながら、フェノール樹脂含有の塗布材料(昭和電工株式会社製 ショウノール(R)BKM−2620)を、筆8bで塗付した。塗布後は、室温で1時間乾燥後、3時間150℃で加熱を行ない、遮光膜4の表面に保護膜6を形成した。
【0088】
次いで、遮光膜4および保護膜6が形成されたレンズを回転台7cに載せ、光線有効部2の凹面の中心付近に、化学式(1)で表されるポリイミド:シクロヘキサノン=2:98(重量比)のポリイミド溶液を適量滴下し、3000rpmで20秒間程度回転させ、スピンコートを行ない、塗布膜を形成しレンズを得た。
【0089】
【化1】


……(化学式1)
【0090】
上記のレンズに対し、実施例1と同様の加速劣化試験を行い、外観観察を行なったところ、試験前と比較して非光線有効部の遮光膜に変化は認められず良好であり、機能面でも問題は無かった。
【0091】
(比較例4)
実施例8と同様の市販の黒色材料やその他の添加物を混合した主材を8重量部、市販の変性芳香族ポリアミンを主成分とした硬化剤1重量部、希釈剤としてトルエン系シンナーを8重量部添加し、混合して遮光膜を形成する遮光塗料とした。これを実施例8と同様の方法で塗布し、塗布後は、室温で2時間乾燥後、3時間90℃で加熱を行ない遮光膜を形成した。それ以外は実施例8と同様に処理を行い、レンズを得た。
【0092】
上記のレンズに対し、実施例1と同様の加速劣化試験を行い、外観観察を行なったところ、試験前と比較して非光線有効部の遮光膜の色味にムラが見られた。
【0093】
(実施例9〜12)
光学素子の基材が以下の表1に示した基材である点以外、実施例1と同様の処理を行い、レンズを得た。その後、実施例と同様の加速劣化試験を行い、得られたレンズについて、外観観察行った。
【0094】
(比較例5〜8)
光学素子の基材が以下の表1に示した基材である点以外、比較例1と同様の処理を行い、レンズを得た。その後、実施例と同様の加速劣化試験を行い、得られたレンズについて、外観観察行った。
【0095】
(参考例1)
光線有効部に反射防止膜を塗工しない点を除けば、それ以外は比較例2と同様に処理を行い、レンズを得た。本実施例で使用した基材は比較例8と同様である。その後、得られたレンズについて、実施例と同様の加速劣化試験を行い、外観観察行った。
【0096】
実施例1〜12、比較例1〜8、および参考例1の、実施例1と同様の加速劣化試験を行い、外観観察した結果を表1にまとめる。
【0097】
【表1】

【0098】
外観不良○:遮光膜において、色味にムラなし。
外観不良×:遮光膜において、色味にムラが確認。
【符号の説明】
【0099】
1 基材
2,2a,2b 光線有効部
3 非光線有効部
4 遮光膜
5 反射防止膜
6 保護膜
7,7a,7b,7c 回転台
8,8a,8b 筆
9 温水処理槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光線有効部および非光線有効部を有する基材と、前記非光線有効部の一部または全部に形成された遮光膜とを有する光学素子であって、前記遮光膜はエポキシ樹脂とフェノール樹脂との硬化物を含むことを特徴とする光学素子。
【請求項2】
前記フェノール樹脂がレゾール樹脂であることを特徴とする請求項1記載の光学素子。
【請求項3】
前記硬化物は、脂環式酸無水物からなる硬化剤との硬化物を含むことを特徴とする請求項1または2記載の光学素子。
【請求項4】
前記光線有効部の少なくとも1つ以上の面および前記遮光膜の表面の一部に、反射防止膜が形成されていることを特徴とする請求項1乃至3いずれか1項記載の光学素子。
【請求項5】
前記反射防止膜が液相法を用いて形成されていることを特徴する請求項4記載の光学素子。
【請求項6】
前記反射防止膜の表面に、アルミニウムの水酸化物またはアルミニウム酸化物の水和物を主成分とする結晶による凹凸構造が形成されていることを特徴とする請求項4または5記載の光学素子。
【請求項7】
前記基材は、ヤング率が90GPa以上、130GPa以下であることを特徴とする請求項1乃至6いずれか1項記載の光学素子。
【請求項8】
前記遮光膜の表面に保護膜が形成されていることを特徴とする請求項1乃至7いずれか1項記載の光学素子。
【請求項9】
光線有効部および非光線有効部を有する光学素子の製造方法であって、
前記非光線有効部の一部または全部に、少なくともエポキシ樹脂とフェノール樹脂を含む塗料を塗工し遮光膜を形成する工程と、
前記遮光膜を形成した後、前記光線有効部の少なくとも1つ以上の面に液相法により反射防止膜を形成する工程とを有することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項10】
前記反射防止膜を形成する工程は、酸化アルミニウムの膜を形成した後、温水に接触させて、表面にアルミニウムの水酸化物またはアルミニウム酸化物の水和物を主成分とする結晶による凹凸構造を形成することを特徴とする請求項9記載の光学素子の製造方法。
【請求項11】
前記遮光膜を形成する工程と前記反射防止膜を形成する工程との間に、前記遮光膜の表面に保護膜を形成する工程を有することを特徴とする請求項9または10記載の光学素子の製造方法。
【請求項12】
光吸収材料、エポキシ樹脂、フェノール樹脂および硬化剤を少なくとも含むことを特徴とする遮光塗料。
【請求項13】
前記硬化剤は、脂環式酸無水物であることを特徴とする請求項12記載の遮光塗料。
【請求項14】
前記脂環式酸無水物は、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸またはヘキサヒドロ無水フタル酸を含むことを特徴とする請求項13記載の遮光塗料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−24922(P2013−24922A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−156786(P2011−156786)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】