説明

光学素子の製造方法

【課題】本発明は、成形可能温度で光学材料を金型成形する光学素子の製造方法に関するものであり、金型成形後の光学素子について、屈折率分布の全数確認を実現することを目的とする。
【解決手段】この目的を解決するために、本発明の光学素子1の製造方法は、成形可能温度の光学材料5に成形金型2の成形面2aを転写し光学素子1を成形する成形工程と、光学素子1の屈折率分布を評価する評価工程を含み、評価工程は、光学素子1の内部応力分布を測定して、この内部応力分布を用いて屈折率分布を評価するとしたのである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形可能温度で光学材料を成形金型の成形面を転写する光学素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、光ピックアップ用の対物レンズなど小型で非球面形状を有するような光学素子を形成するにおいては、光学材料を成形金型内に投入し成形可能な温度に昇温させ、成形金型で加圧して成形面を転写し、冷却してから成形金型から取り出す手法が用いられている。
【0003】
しかしながら、このような成形面の転写後に冷却工程を含む光学素子の製造方法においては、量産における冷却速度のバラツキにより個々の光学素子における屈折率分布に差が生じてしまう。
【0004】
そして、このような光学素子の屈折率分布を測定する場合、従来、干渉計が用いられていた。
【0005】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1乃至3が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−258292号公報
【特許文献2】特開2010−151578号公報
【特許文献3】特開平5−133838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そして、干渉計を用いた屈折率分布の測定は、光学素子を平板状に加工し測定する手法と、光学素子をマッチングオイルに浸して測定する手法がある。
【0008】
光学素子を平板加工する方法では、量産した光学素子の全数確認が不可能であり、また、光学素子をマッチングオイルに浸す方法では、測定後の洗浄に手間が掛かるという問題があり、いずれの場合においても量産時における抜き取り確認は可能であっても全数確認には不向きであった。
【0009】
そこで本発明は、このような問題を解決し、成形金型の成形面の転写後に冷却工程を含む光学素子の製造方法において、屈折率分布の全数確認を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そして、この目的を解決するために本発明は、成形可能温度の光学材料に成形金型の成形面を転写し光学素子を成形する成形工程と、光学素子の屈折率分布を評価する評価工程を含み、評価工程は、光学素子の内部応力分布を測定して、この内部応力分布を用いて屈折率分布を評価するとしたのである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の評価方法は、成形金型の成形面の転写後に冷却工程を含む光学素子の製造方法において、屈折率分布の全数確認を実現することが出来るのである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施の形態における光学素子の成形方法を示す模式図
【図2】同光学素子の内部応力分布を示す図
【図3】同光学素子の歪差と屈折率差の関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0014】
図1は光学素子1の成形方法の一例である両凸レンズのプレス成形方法を示したもので、上下一対の成形金型2とこの成形金型2の摺動を規制する胴型3からなる成形空間4に光学硝子からなる光学材料5を配置し、この光学材料5を成形金型2で硝子軟化点以上の成形可能温度に昇温させ、成形金型2を摺動させ加圧することで成形面2aを光学材料5に転写し、その後、取り出し可能温度まで冷却して成形金型2の間から成形された光学素子1を取り出すというものである。
【0015】
そして、この成形面2aの転写後の冷却は、成形可能温度から取り出し可能温度まで冷却するもので、冷却する温度幅が数百度と大きく、また、生産性を考慮すると短時間での冷却が望まれ、このような状況において、冷却速度を緻密に制御することが困難である。
【0016】
しかしながら、冷却速度がバラツキ、冷却速度が速くなればその部分の密度が低くなり屈折率も低くなる。また、冷却速度が遅くなればその部分の密度が高くなり屈折率も高くなるため、冷却速度のバラツキは光学素子1の密度バラツキとなり、この密度バラツキが屈折率のバラツキ、つまり、屈折率分布を生じさせてしまうため、成形した光学素子1の全てに対してそれぞれ屈折率分布を評価し選別することが必要となる。
【0017】
そこで、この一実施の形態においては、成形可能温度の光学材料5に成形金型2の成形面2aを転写し光学素子1を成形する成形工程と、光学素子1の屈折率分布を評価する評価工程を含む製造方法において、成形工程後の光学素子1の全てに対して屈折率分布を測定できる評価工程を検討したのである。
【0018】
この評価工程では、光学素子1の内部応力分布を測定し、この内部応力分布を用いて屈折率分布を評価しており、内部応力分布の測定は光学素子1の複屈折から導き出すため、板状加工やマッチングオイルを用いる従来の干渉計を用いた屈折率の測定と異なり、成形した光学素子1のままで測定できることから、量産において全数検査が可能となるのである。
【0019】
次に、光学素子1における内部応力分布と屈折率分布の関連性について説明する。図2は光学素子1の内部応力分布の測定し、光学素子1の光軸を含む直径方向の内部応力分布を示したものである。なお、この内部応力分布の測定は株式会社フォトニックラティス製の二次元複屈折評価システムPA−100を用いて測定した。
【0020】
この測定結果をみると、両凸レンズ形状の光学素子1において、肉厚で冷却速度が遅く密度が大きくなる光学素子1の中央部分の内部応力が小さく、肉薄で冷却速度が早く密度が小さくなる光学素子1の外周部分の内部応力が大きくなっていることがわかる。なお、図2における細線で示した折れ線は、内部応力の実測値であり、太線で示した曲線は、内部応力分布の実測値を二次関数で近似して測定ノイズを平滑化したものである。そして、この測定ノイズを平滑化した二次曲線を用いて、内部応力分布の最大値から最小値を引いた歪差を求める。
【0021】
また、この歪差を求めた光学素子1の屈折率分布を干渉計で測定し、屈折率分布の最大値から最小値を引いた屈折率差を求め、歪差との関係を図3に示す。
【0022】
この図3によれば、歪差が小さいものは、屈折率差の値が小さく且つバラツキも小さく、歪差が大きいものは、屈折率差の値が小さいものから大きいものまでとバラツキが大きくなっている。
【0023】
なお、この点については、歪差が内部応力の最大値と最小値の差をとったもので、この差が小さいということは、内部応力の原因となる光学素子1の密度バラツキが小さいことを意味し、この密度バラツキが小さければ屈折率の分布も小さくなる。
【0024】
つまり、成形した光学素子1のままで測定できる内部応力から求める歪差を閾値として、屈折率分布のバラツキを評価できることが解かる。
【0025】
従って、光学素子1を量産する中で光学素子1の屈折率分布を全数評価しようとする場合、予め複数の光学素子1を評価用サンプルとして抜き取り、その評価用サンプルの屈折率差と歪差を求め図2に示す関連性を導き、所望の屈折率差の範囲を特定する歪差を閾値と定め、この閾値に対して光学素子1の内部応力分布を比較することで全数評価が実現できるのである。
【0026】
なお、この一実施の形態においては、光学素子1の成形方法としてプレス成形を挙げて説明したが、本発明はこの実施の形態に限定されるものでなく、成形可能温度の光学材料5に対して成形金型2の成形面2aを転写する成形工程、例えば射出成形などにおいても同様の効果を奏するものである。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の光学素子の製造方法は、量産において光学素子の屈折率分布を全数確認することができ、特に成形可能温度が高い光学素子において有用である。
【符号の説明】
【0028】
1 光学素子
2 成形金型
2a 成形面
5 光学材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形可能温度の光学材料に対して成形金型の成形面を転写し光学素子を成形する成形工程と、前記光学素子の屈折率分布を評価する評価工程を含み、前記評価工程は、前記光学素子の内部応力分布を測定して、この内部応力分布を用いて前記屈折率分布を評価することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項2】
光学素子から複数の評価用サンプルを抜き取り、これらの評価用サンプルの屈折率分布を測定し、この屈折率分布の最大値から最小値を引いた屈折率差を求め、前記複数の評価用サンプルの屈折率差と歪差の関係を求め、所望の範囲となる屈折率差の上限に基づく前記歪差を評価基準としたことを特徴とする請求項1に記載の光学素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−148910(P2012−148910A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7452(P2011−7452)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】