説明

光学素子保持部材及びそれを用いた光ヘッド装置並びにそれらを用いた光記録再生装置

【課題】本発明は、光学素子を保持する光学素子保持部材及びそれを用いた光ヘッド装置並びにそれらを用いた光記録再生装置に関し、高次(2次以上)の共振周波数で生じる機械的振動の影響を除去できる光学素子保持部材及びそれを用いた光ヘッド装置並びにそれらを用いた光記録再生装置を提供することを目的とする。
【解決手段】レンズホルダ3は、開口部16の外周囲に隣接するレンズ配置部13の所定領域に形成されて所定の共振周波数での振動振幅が相対的に小さくて対物レンズ9が固定されるレンズ固定部13aと、レンズ保持側壁部18と開口部16との間にレンズ固定部13aより低く形成されて所定の共振周波数での振動振幅が相対的に大きいが対物レンズ9に接触しないレンズ非接触部14とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子を保持する光学素子保持部材及びそれを用いた光ヘッド装置並びにそれらを用いた光記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光記録再生装置は、例えば円板状の光記録媒体の円周方向に沿って形成され且つ光記録媒体の半径方向に複数形成されたトラックの所定領域に情報を記録し、又は当該トラックの所定領域に記録された情報を再生する光ヘッド装置を備えている。光ヘッド装置には、光記録媒体に対して情報を記録するだけに用いられる記録専用型と、情報を再生するだけに用いられる再生専用型、及び記録再生の双方に使用可能な記録再生型とがある。従って、これらを搭載した装置はそれぞれ光記録装置、光再生装置、光記録再生装置となるが、本願では以下、それら全てを包含して光記録再生装置と総称する。
【0003】
光ヘッド装置は一般に、対物レンズを備えた光学素子駆動装置(アクチュエータ)と、対物レンズを介して光の送受を行う光学系とから構成され、光学系ブロックの取付台上に光学素子駆動装置を配置した構造となっている。
【0004】
光学素子駆動装置は大別すると、対物レンズとフォーカスコイルとトラッキングコイルとが保持されたレンズホルダと、磁気回路を備えた固定部材とを有している。レンズホルダは複数の弾性支持部材で固定部材に片持ち式に支持されている。
【0005】
図7は、対物レンズ59を取り外した状態のレンズホルダ53の斜視図である。図8は、レンズ保持部55を拡大して示した斜視図である。図7及び図8で上下方向に伸びる矢印は、フォーカスサーボによりレンズ保持部55が位置制御される際のフォーカス位置制御方向Fを示し、それに交差して延びる矢印は、トラッキングサーボによりレンズ保持部55が位置制御される際のトラッキング位置制御方向(光記録媒体の半径(ラジアル)方向)Rを示している。
【0006】
図7に示すように、レンズホルダ53は、レンズ外周囲が円筒状の対物レンズ59を保
持するレンズ保持部55と、マグネットと組み合わせて磁気回路を構成するコイル(不図示)が枠状壁部に取り付けられた枠状部57とを有している。レンズ保持部55のほぼ中央には、対物レンズ59に光を入射させる中空円筒状の開口部66が開口されている。開口部66の周囲には、対物レンズ59を固定配置するレンズ配置部63が形成されている。レンズ配置部63の外周囲の一部には、他より突出して対向する壁状のレンズ保持側壁部68が形成されている。対向する2つのレンズ保持側壁部68間に対物レンズ59が収まるように、レンズ保持側壁部68の内壁は対物レンズ59の円筒状外周囲側壁に倣う形状に形成されている。
【0007】
レンズ保持部55の開口部66の開口の中心軸は枠状部57の枠の中心軸から所定距離ずれて配置されている。レンズ保持部55両端から対向して延びる枠状部57の2つの側壁の外側には、不図示のコイルへの通電を兼ねる導電性ワイヤ(弾性支持部材)が接続される直方体形状のワイヤ接続部57aが形成されている。
【特許文献1】特開2004−127415号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図8に示すように、レンズ配置部63は、対物レンズ59の底部の外周円部がほぼ一様に接触するように、開口部66の開放端面外周囲に円環平面状(図8のハッチングで示す)に形成されたレンズ固定部63aと、対物レンズ59をレンズ固定部63aに接触固定するための樹脂製接着剤(不図示)が塗布される接着剤塗布部63bとを有している。接着剤塗布部63bは対向するレンズ保持側壁部68両端の間隙部にそれぞれ設けられている。
【0009】
回転する光記録媒体の情報記録面に対し対物レンズ59をフォーカシング(焦点位置合せ)したりトラッキング(トラック位置合せ)したりするために、レンズホルダ53の枠状部57に取り付けられたフォーカスコイルやトラッキングコイル(ともに不図示)に不図示の導電性ワイヤからフォーカスサーボ信号やトラッキングサーボ信号が供給される。これにより、枠状部57の枠内に配置された不図示のマグネットの磁界の影響を受けてコイルを所定方向に移動させる力が生じ、これを駆動力としてレンズホルダ53に固定された対物レンズ59が移動してフォーカシングやトラッキングが実現される。
【0010】
極めて高速且つ高精度で対物レンズ59を所定位置に位置決めさせる必要があることから、フォーカスサーボ信号やトラッキングサーボ信号はステップ関数に近い時間波形となる。このため、これらサーボ信号にはDC(直流)から数十kHz(例えば50kHz以上)の広帯域の周波数成分が含まれる。従って、サーボ信号に基づいてレンズホルダ53に駆動力を与えることは、見方を変えればDCから数十kHzという広い周波数帯域でレンズホルダ53を加振していることになる。
【0011】
一方、レンズホルダ53には、その形状や材質等に基づき複数の共振周波数が存在している。これらの共振周波数で加振されると、レンズホルダ53は各共振周波数に応じた固有の振動モードで振動する。例えば、図7に示す構造のレンズホルダ53では、50kHz近傍に高次(例えば3次)の共振周波数が存在している。仮に、当該3次の共振周波数でレンズホルダ53を加振すると、レンズ保持部55は、図8に示すように、開口部66の中心を通りトラッキング位置制御方向Rにほぼ平行な仮想直線(一点鎖線)L近辺が振動の節となり、仮想直線Lにほぼ直交する方向で対向する2つのレンズ保持側壁部68側が振動の腹となる振動モードで振動する。また、2つのレンズ保持側壁部68側は、図8に示す互いに逆向きの2つの両矢印のように、互いに逆位相で振動する。つまり、レンズホルダ53を3次の共振周波数で加振すると、レンズ保持部55のレンズ固定部63aには、仮想直線Lを支点として2つのレンズ保持側壁部68側が逆位相で変位する、あたかもシーソーの動きのような振動モードが出現する。
【0012】
このとき、対物レンズ59は、レンズ底部外周円部がレンズ固定部63aの円環平面にほぼ一様に接触固定されているので上述の振動モードで一緒に振動してしまう。このため、当該振動モードによる対物レンズ59の振動が外乱(ノイズ)となってフォーカスサーボ系(システム)やトラッキングサーボ系が不安定になってしまい、最終的には系に発振が生じてしまう危険性が高まる。発振が生じてしまうと最早フォーカシング制御やトラッキング制御は不能になるため、光記録媒体の情報記録面に形成されたトラックに対して光ヘッド装置からのレーザビームのスポットを最適焦点位置で追従させることができなくなってしまう。また、発振を抑えようとするとシステム・ゲインを十分に上げることができなくなるため、対物レンズ59を高速で高精度に位置決めできなくなるという問題が生じる。
【0013】
本発明の目的は、高次(2次以上)の共振周波数で生じる機械的振動の影響を除去できる光学素子保持部材及びそれを用いた光ヘッド装置並びにそれらを用いた光記録再生装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的は、光ヘッド装置に用いられる光学素子を保持する光学素子保持部材であって、所定の共振周波数での振動振幅が相対的に小さく、前記光学素子が固定される光学素子固定部と、前記振動振幅が相対的に大きいが前記光学素子に接触しない光学素子非接触部とを有することを特徴とする光学素子保持部材によって達成される。
【0015】
上記本発明の光学素子保持部材であって、前記光学素子非接触部は、前記光学素子固定部より低く形成されていることを特徴とする。
【0016】
上記本発明の光学素子保持部材であって、前記光学素子固定部は、前記共振周波数での振動の節を含み、前記光学素子非接触部は、前記共振周波数での振動の腹を含んでいることを特徴とする。
【0017】
上記本発明の光学素子保持部材であって、前記光学素子に光を入射させるための開口部をさらに有することを特徴とする。
【0018】
上記本発明の光学素子保持部材であって、前記光学素子固定部は、前記開口部の中心を通り前記振動の節に沿う仮想直線上に対向配置されていることを特徴とする。
【0019】
上記本発明の光学素子保持部材であって、前記光学素子非接触部は、前記光学素子固定部の配置方向にほぼ直交して前記開口部の周囲に配置されていることを特徴とする。
【0020】
上記本発明の光学素子保持部材であって、前記開口部の開放端面法線方向に見て、前記仮想直線に平行な前記光学素子固定部の一端辺及び前記開口部開放端の交点と前記開口部の中心とを結んだ直線と、前記仮想直線とのなす角度θは、5°≦θ≦45°であることを特徴とする。
【0021】
上記本発明の光学素子保持部材であって、中心が前記開口部の中心からずれた枠構造を備えた枠状部をさらに有することを特徴とする。
【0022】
また、上記目的は、光学素子を保持する光学素子保持部材と、前記光学素子保持部材を移動可能に片持ち式に支持するワイヤ群と、前記光学素子保持部材を駆動する駆動部とを有する光ヘッド装置であって、前記光学素子保持部材は、上記本発明の光学素子保持部材であることを特徴とする光ヘッド装置によって達成される。
【0023】
上記本発明の光ヘッド装置であって、前記光学素子は、光記録媒体に光を集光させる対物レンズであることを特徴とする。
【0024】
上記本発明の光ヘッド装置であって、前記光学素子は、光の光路を変更させるホログラム素子であることを特徴とする。
【0025】
上記本発明の光ヘッド装置であって、前記光学素子は、樹脂製接着剤で接着固定されて前記光学素子保持部材に保持されていることを特徴とする。
【0026】
また、上記目的は、上記本発明の光ヘッド装置を有することを特徴とする光記録再生装置によって達成される。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、高次(2次以上)の共振周波数で生じる機械的振動の影響を除去できる光学素子保持部材及びそれを用いた光ヘッド装置並びにそれらを用いた光記録再生装置が実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明の一実施の形態による光学素子保持部材及びそれを用いた光ヘッド装置並びにそれらを用いた光記録再生装置について図1乃至図6を用いて説明する。まず、本実施の形態による光ヘッド装置の概略の構成について図1を用いて説明する。図1は、本実施の形態による光ヘッド装置の光学素子駆動装置1の構成を示す斜視図である。図1で上下方向に伸びる矢印は、フォーカスサーボによりレンズ保持部5が位置制御される際のフォーカス位置制御方向Fを示し、それに交差して延びる矢印は、トラッキングサーボによりレンズ保持部5が位置制御される際のトラッキング位置制御方向(光記録媒体の半径(ラジアル)方向)Rを示している。なお、後述の図2乃至図4に示す方向F、Rも同様である。
図1に示すように、不図示の光記録媒体の情報記録面と対面し、光ビームを集束させて光記録媒体の情報記録面に照射して、情報を記録あるいは再生するための対物レンズ(光学素子)9が、レンズホルダ(光学素子保持部材)3に保持されている。レンズホルダ3は樹脂材料で形成されている。樹脂材料としては、例えば液晶ポリマを用いることができる。所望の成形性及び剛性が得られるならば各種エンジニアリングプラスチックを当該樹脂材料として使用可能である。
【0029】
レンズホルダ3は、レンズ外周囲が円筒状の対物レンズ9を保持するレンズ保持部5と、レンズ保持部5側壁とで中空ロ字状の枠体を構成する枠状部7とを有している。レンズ保持部5のほぼ中央には、対物レンズ9を固定配置するレンズ配置部13が形成されている。レンズ配置部13の外周囲の一部には、他より突出して対向する壁状のレンズ保持側壁部18が形成されている。対向する2つのレンズ保持側壁部18の内壁は対物レンズ9が容易に収まるように対物レンズ9の円筒状外周囲側壁と所定間隙を介してそれに倣う形状に形成されている。対物レンズ9は、例えば、光又は熱で硬化する樹脂製の接着剤11をレンズ配置部13及び対物レンズ9の側壁に亘って塗布(滴下)固着することによりレンズホルダ3に固定されている。
【0030】
レンズ保持部5に固定された対物レンズ9の光軸は枠状部7の枠の中心軸から所定距離ずれて配置されている。枠状部7の枠内壁には、コイル部の一部が枠壁に沿って巻回されたフォーカスコイル23と、フォーカスコイル23の中心軸に直交する方向に中心軸が形成されるようにコイル部が巻回されたトラッキングコイル25とが固着されている。レンズホルダ3の図中下側に配置されたベースヨーク17には、所定間隙で対向する2つの磁石(マグネット)27が突出して配置されている。一方の磁石27はフォーカスコイル23の内周側に配置され、他方の磁石27はトラッキングコイル25とレンズ保持部5との間に配置さている。2つの磁石27に跨って、例えば下側が開口したコ字状断面のトップヨーク29が配置されている。トップヨーク29及びベースヨーク17により磁石27で生じた磁束が磁路から漏洩するのを抑制している。2つの磁石とトップヨーク29とベースヨーク17とにより磁気回路が構成されている。
【0031】
レンズ保持部5両端から対向して延びる枠状部7の2つの側壁の外側には、コイルへの通電を兼ねる複数(本例では両側2本ずつ)の導電性ワイヤ(弾性支持部材)15がそれぞれ接続されるほぼ直方体形状の複数のワイヤ接続部7aが形成されている。フォーカスコイル23及びトラッキングコイル25にサーボ信号(電流)を供給するため、両コイル23、25のそれぞれの端部はワイヤ接続部7aに絡げられ、ワイヤ15の一端と、例えば半田付けされて接続固定されている。ワイヤ15の他端は、ダンパケース19に、例えば半田付けされて固定されている。これにより、レンズホルダ3は、ヨークベース17、トップヨーク29、磁石27、ダンパケース19及びダンパケース19に固定された基板21で構成される固定部に対して移動可能に片持ち式に支持されている。
【0032】
2つの磁石27の対向面がトラッキング位置制御方向Rに平行になるように光学素子駆動装置1を備えた光ヘッド装置を配置して、枠状部7内のフォーカスコイル23及びトラッキングコイル25に通電すれば、フレミングの左手の法則に基づいて、2つの磁石27に挟まれたフォーカスコイル23のコイル部にフォーカス位置制御方向Fに移動する駆動力が発生し、2つの磁石27に挟まれたトラッキングコイル27のコイル部にトラッキング位置制御方向Rに移動する駆動力が発生する。これにより、対物レンズ9を光記録媒体の情報記録面にほぼ垂直な方向に移動させて焦点位置を調整し、対物レンズ9を光記録媒体の半径方向Rに移動させてトラック位置を調整することができる。
【0033】
図2は、対物レンズ9を取り外した状態のレンズホルダ3の斜視図である。図3は、レンズ保持部5を拡大して示した斜視図である。図2及び図3に示すように、レンズ保持部5のほぼ中央には対物レンズ9に光を入射させる例えば中空円筒状の開口部16が開口されている。対物レンズ9を固定配置するレンズ配置部13は、開口部16の開放端面外周囲に形成されている。
【0034】
レンズ保持側壁部18は、開口部16を挟んでトラッキング位置制御方向Rに直交する方向に対向配置されている。レンズ配置部13の対向する2つのレンズ保持側壁部18の対向両端は、開口部16の中心を通りトラッキング位置制御方向Rにほぼ平行な仮想直線(一点鎖線)L1からそれぞれほぼ等距離に位置している。
【0035】
一方のレンズ保持側壁部18両端を結んで仮想直線L1にほぼ平行な直線と、他方のレンズ保持側壁部18両端を結んで仮想直線L1にほぼ平行な直線とで囲まれた平面領域のうち開口部16開放端面外周囲近傍(図3のハッチングで示す対向する2つの円弧状平面部)がレンズ固定部13aとなる。
【0036】
また、一方のレンズ保持側壁部18の内壁と当該レンズ保持側壁部18両端を結ぶ直線とで囲まれた領域にはレンズ固定部13aのレンズ接触面より低いレンズ非接触部14が形成されている。同様に他方のレンズ保持側壁部18の内壁と当該レンズ保持側壁部18両端を結ぶ直線とで囲まれた領域にもレンズ固定部13aのレンズ接触面より低いレンズ非接触部14が形成されている。つまり、2つのレンズ固定部13aは、仮想直線L1上に仮想直線L1に沿って対向配置されていると共に、レンズ非接触部14より一段高く形成されている。
【0037】
また、対向するレンズ固定部13aの両外側には、対物レンズ9をレンズ固定部13aに接触固定するための樹脂製接着剤11が塗布される接着剤塗布部13bが設けられている。対物レンズ9をレンズ配置部13に載置して接着剤塗布部13bに塗布した接着剤11で接着固定すると、対物レンズ9はレンズ固定部13aだけに接触するがそれ以外の領域ではレンズ保持部5から浮いている状態になる。
【0038】
ところで、本実施の形態によるレンズホルダ3は、従来技術を示す図7及び図8に示したレンズホルダと同様に50kHz近傍に高次(例えば3次)の共振周波数を有している。図4は、レンズホルダ3を3次の共振周波数で加振したときのレンズ保持部5の振動モードを模式的に示している。図4では上下方向がフォーカス位置制御方向Fであり、紙面に垂直方向がトラッキング位置制御方向Rである。図4に示すように、3次の共振周波数でのレンズ保持部5の振動モードは、仮想直線L1近辺が振動の節となり、仮想直線L1にほぼ直交する方向で対向する2つのレンズ保持側壁部18側が振動の腹となる振動モードで振動する。つまり、レンズ固定部13aは、開口部16の中心を通り振動の節に沿う仮想直線L1を含んで対向配置されている。また、2つのレンズ保持側壁部18側は、図4に示す互いに逆向きの2つの両矢印のように、互いに逆位相で振動する。つまり、レンズホルダ3を3次の共振周波数で加振すると、レンズ固定部13aでの振動振幅は相対的に小さく、レンズ固定部13aを支点領域として2つのレンズ保持側壁部18側が逆位相で振動振幅が相対的に大きい振動モードが出現する。
【0039】
ところが、本実施の形態によるレンズホルダ3は、振動振幅が相対的に小さいレンズ固定部13aだけで対物レンズ9を保持すると共に、振動振幅が相対的に大きいレンズ保持側壁部18側は対物レンズ9と接触しないようにレンズ固定部13aより一段低いレンズ非接触部14を設けている。レンズ非接触部14の深さはレンズ固定部13aに対して振動振幅の最大幅より深くなるように形成されている。例えば、レンズ保持側壁部18側での3次の共振周波数で生じる振動振幅の最大幅がサブミクロン(1μm未満)程度であるのに対し、レンズ非接触部14はレンズ固定部13aより数十μm乃至数百μm低く形成されている。これにより、レンズ保持部5の3次の共振周波数での振動は対物レンズ9に殆ど伝わらなくなる。
【0040】
図3に戻り、開口部16開放端面法線方向に見て、仮想直線L1に平行なレンズ固定部13aの一端辺及び開口部16開放端との交点と開口部16の中心とを結んだ仮想直線L2と、仮想直線L1とのなす角度θは、例えばθ=30°に形成されている。角度θがあまりに小さいと、レンズ固定部13aに対する対物レンズ9の固定が不安定になり易くなる。このため、対物レンズ9の取り付け角度が不安定になって、対物レンズ9が傾いて接着固定されてしまう可能性がある。角度θがあまりに大きいとレンズ固定部13aの領域が広くなってレンズ保持部5の振動が対物レンズ9に伝達され易くなってくる。これらを考慮して、角度θは、5°≦θ≦45°程度の範囲が好ましく、好適にはθ=30°が望ましい。
【0041】
図5は、振動伝達特性を示すボード線図である。横軸は周波数(Hz)を対数表示し、縦軸は伝達関数の振幅をデシベル(dB)表示している。曲線Aは本実施の形態による光ヘッド装置の光学素子駆動装置1に搭載された対物レンズ9の光記録媒体側の凸部上部で計測した伝達特性を示している。曲線Bは従来の光ヘッド装置の光学素子駆動装置に搭載された対物レンズ59の光記録媒体側の凸部上部で計測した伝達特性を示している。加振信号は光ヘッド装置のサーボ信号であり、応答信号はレーザドップラ振動計による非接触測定で得ている。
【0042】
曲線Bに示すように、従来装置の対物レンズ59での伝達特性は50kHz近傍に共振のピークが生じており、レンズ固定部63aの振動がそのまま対物レンズ59に伝達されていることが分かる。これに対し、曲線Aに示すように、本実施の形態による光学素子駆動装置1の対物レンズ9での伝達特性は、50kHzでの振幅が共振のピークとしては認識されない程度に減少しており、50kHz近傍の系の共振周波数による振動が対物レンズ9に伝達されていないことが分かる。
【0043】
以上説明したように、本実施の形態によるレンズホルダ3は、高次の共振周波数での振動振幅が相対的に小さくて対物レンズ9が固定される対物レンズ固定部13aと、当該振動振幅が相対的に大きいが対物レンズ9に接触しないレンズ非接触部14とを有しているので、レンズホルダ3が当該高次共振周波数で振動しても、対物レンズ9に振動を殆ど伝達させないようにすることができるので高次(2次以上)の共振周波数で生じる機械的振動の影響を十分除去できるようになる。
【0044】
次に、本実施の形態による光記録再生装置について説明する。図6は、本実施の形態による光ヘッド装置160を搭載した光記録再生装置150の概略構成を示している。光記録再生装置150は、図6に示すように光記録媒体161を回転させるためのスピンドルモータ152と、光記録媒体161にレーザビームを照射するとともにその反射光を受光する光ヘッド装置160と、スピンドルモータ152及び光ヘッド装置160の動作を制御するコントローラ154と、光ヘッド装置160にレーザ駆動信号を供給するレーザ駆動回路155と、光ヘッド装置160にレンズ駆動信号を供給するレンズ駆動回路156とを備えている。
【0045】
コントローラ154にはフォーカスサーボ追従回路157、トラッキングサーボ追従回路158及びレーザコントロール回路159が含まれている。フォーカスサーボ追従回路157が作動すると、回転している光記録媒体161の情報記録面にフォーカスがかかった状態となり、トラッキングサーボ追従回路158が作動すると、光記録媒体161の偏芯している信号トラックに対して、レーザビームのスポットが自動追従状態となる。フォーカスサーボ追従回路157及びトラッキングサーボ追従回路158には、フォーカスゲインを自動調整するためのオートゲインコントロール機能及びトラッキングゲインを自動調整するためのオートゲインコントロール機能がそれぞれ備えられている。また、レーザコントロール回路159は、レーザ駆動回路155により供給されるレーザ駆動信号を生成する回路であり、光記録媒体161に記録されている記録条件設定情報に基づいて、適切なレーザ駆動信号の生成を行う。
【0046】
これらフォーカスサーボ追従回路157、トラッキングサーボ追従回路158及びレーザコントロール回路159については、コントローラ154内に組み込まれた回路である必要はなく、コントローラ154と別個の部品であっても構わない。さらに、これらは物理的な回路である必要はなく、コントローラ154内で実行されるソフトウェアであっても構わない。
【0047】
本発明は、上記実施の形態に限らず種々の変形が可能である。
上記実施の形態では、光学素子として対物レンズ9を例にとって説明したが、本発明はこれに限られない。例えば、光学素子として、対物レンズ9の光入射面側に配置されて光ビームの光路を変更するホログラム素子であってもよい。ホログラム素子が振動振幅の相対的に小さい領域で固定され、振動振幅の相対的に大きい領域では接触しないようにレンズホルダに保持されることにより、上記実施の形態と同様の効果が得られる。
【0048】
また、上記実施の形態では、対物レンズ9の固定中心と、枠状部7の中心とがずれている、いわゆるレンズオフセット型のレンズホルダ3を例にとって説明したが、本発明はこれに限られない。例えば、対物レンズがレンズホルダのほぼ中心に配置される、いわゆるレンズセンタ型のレンズホルダであっても、対物レンズ等の光学素子が振動振幅の相対的に小さい領域で固定され、振動振幅の相対的に大きい領域で接触しないように保持されることにより、上記実施の形態と同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の一実施の形態による光ヘッド装置に備えられた光学素子駆動装置1の概略構成を示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施の形態によるレンズホルダ3の概略構成を示す斜視図である。
【図3】本発明の一実施の形態によるレンズホルダ3のレンズ保持部5を拡大して示す斜視図である。
【図4】本発明の一実施の形態によるレンズホルダ3のレンズ保持部5が振動している状態を模式的に示す図である。
【図5】本発明の一実施の形態による光ヘッド装置に搭載された光学素子駆動装置1及び従来の光学素子駆動装置の伝達特性を示すグラフである。
【図6】本発明の一実施の形態による光記録再生装置150の概略構成を示す図である。
【図7】従来のレンズホルダ53の概略構成を示す斜視図である。
【図8】従来のレンズホルダ53のレンズ保持部55を拡大して示す斜視図である。
【符号の説明】
【0050】
1 光学素子駆動装置1
3、53 レンズホルダ
5、55 レンズ保持部
7、57 枠状部
7a、57a ワイヤ接続部
9、59 対物レンズ
11 樹脂
13、63 レンズ配置部
13a、63a レンズ固定部
13b、63b 樹脂塗布部
14 レンズ非接触部
15 ワイヤ
16、66 開口部
17 ベースヨーク
18、68 レンズ保持側壁部
19 ダンパケース
21 基板
23 フォーカスコイル
25 トラッキングコイル
27 磁石
29 トップヨーク
150 光記録再生装置
152 スピンドルモータ
154 コントローラ
155 レーザ駆動回路
156 レンズ駆動回路
157 フォーカスサーボ追従回路
158 トラッキングサーボ追従回路
159 レーザコントロール回路
160 光ヘッド装置
161 光記録媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ヘッド装置に用いられる光学素子を保持する光学素子保持部材であって、
所定の共振周波数での振動振幅が相対的に小さく、前記光学素子が固定される光学素子固定部と、
前記振動振幅が相対的に大きいが前記光学素子に接触しない光学素子非接触部と
を有することを特徴とする光学素子保持部材。
【請求項2】
請求項1記載の光学素子保持部材であって、
前記光学素子非接触部は、前記光学素子固定部より低く形成されていること
を特徴とする光学素子保持部材。
【請求項3】
請求項2記載の光学素子保持部材であって、
前記光学素子固定部は、前記共振周波数での振動の節を含み、
前記光学素子非接触部は、前記共振周波数での振動の腹を含んでいること
を特徴とする光学素子保持部材。
【請求項4】
請求項3記載の光学素子保持部材であって、
前記光学素子に光を入射させるための開口部をさらに有すること
を特徴とする光学素子保持部材。
【請求項5】
請求項4記載の光学素子保持部材であって、
前記光学素子固定部は、前記開口部の中心を通り前記振動の節に沿う仮想直線上に対向配置されていること
を特徴とする光学素子保持部材。
【請求項6】
請求項5記載の光学素子保持部材であって、
前記光学素子非接触部は、前記光学素子固定部の配置方向にほぼ直交して前記開口部の周囲に配置されていること
を特徴とする光学素子保持部材。
【請求項7】
請求項6記載の光学素子保持部材であって、
前記開口部の開放端面法線方向に見て、前記仮想直線に平行な前記光学素子固定部の一端辺及び前記開口部開放端の交点と前記開口部の中心とを結んだ直線と、前記仮想直線とのなす角度θは、5°≦θ≦45°であること
を特徴とする光学素子保持部材。
【請求項8】
請求項7記載の光学素子保持部材であって、
中心が前記開口部の中心からずれた枠構造を備えた枠状部をさらに有すること
を特徴とする光学素子保持部材。
【請求項9】
光学素子を保持する光学素子保持部材と、前記光学素子保持部材を移動可能に片持ち式に支持するワイヤ群と、前記光学素子保持部材を駆動する駆動部とを有する光ヘッド装置であって、
前記光学素子保持部材は、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の光学素子保持部材であること
を特徴とする光ヘッド装置。
【請求項10】
請求項9記載の光ヘッド装置であって、
前記光学素子は、光記録媒体に光を集光させる対物レンズであること
を特徴とする光ヘッド装置。
【請求項11】
請求項9記載の光ヘッド装置であって、
前記光学素子は、光の光路を変更させるホログラム素子であること
を特徴とする光ヘッド装置。
【請求項12】
請求項9乃至11のいずれか1項に記載の光ヘッド装置であって、
前記光学素子は、樹脂製接着剤で接着固定されて前記光学素子保持部材に保持されていること
を特徴とする光ヘッド装置。
【請求項13】
請求項9乃至12のいずれか1項に記載の光ヘッド装置を有することを特徴とする光記録再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−4933(P2007−4933A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−186674(P2005−186674)
【出願日】平成17年6月27日(2005.6.27)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】