説明

光学素子及びその製造方法

【課題】湿度即ち環境水分が多い状態に長期間に亘り放置されても、所定の光学厚みを保ち、所定の光学特性を安定して維持することが可能な光学素子及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】水分を吸収または放出し易い有機層3の側面5に保護層6を形成することで、有機層3の側面5からの水分の浸入を抑制でき、有機層3が保持する水分量は長期間に亘って僅かしか変化しない。したがって、光学厚みを決定する有機層3の屈折率及び有機層3の厚みの水分の影響による変化が僅かになり、光学特性を維持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学異方性を有する有機層が基板で挟持された光学素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学異方性を有する有機層を、対向する無機材料の基板間に接着剤を介して挟持する構造の光学素子が知られている。
この構造の光学素子では、使用環境の影響で光学厚みが変化し、光学特性が維持されなくなる課題がある。
この課題を解決するため、基板、有機層及び接着剤の線膨張係数を特定の関係に設定し、有機層のガラス転移温度を特定温度以上に設定する技術が、開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特許第3458895号(2頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、使用環境の因子として温度以上に重要な因子が湿度であり、この湿度の影響によって所定の光学厚みが変化してしまい、光学特性が劣化してしまうという課題があった。
本発明は、このような点に鑑み成されたものであり、湿度即ち環境水分が多い状態に長期間に亘り放置されても、所定の光学厚みを保ち、所定の光学特性を安定して維持することが可能な光学素子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明では、光学異方性を有する有機層が、無機材料の基板によって挟持された光学素子であって、有機層の側面に保護層が形成されていることを特徴とする。
この発明によれば、水分を吸収または放出し易い有機層の側面に保護層を形成することで、有機層の側面からの水分の浸入を抑制でき、有機層が保持する水分量は長期間に亘って僅かしか変化しない。
したがって、光学厚みを決定する有機層の屈折率及び有機層の厚みの水分の影響による変化が僅かになり、光学特性を維持することが可能になる。
【0006】
本発明の光学素子の製造方法では、有機母層が、母基板によって挟持された光学素子基板を分断し、光学素子を製造する光学素子の製造方法であって、光学異方性を有する前記有機母層を、無機材料の前記母基板によって挟持する光学素子基板形成工程と、前記光学素子基板形成工程後、貫通または未貫通の露出溝の形成によって、前記有機母層の断面を露出する断面露出工程と、前記露出溝に充填剤を充填する充填工程と、前記充填剤を分離して保護層となるように、前記光学素子基板を分断する光学素子形成工程とを有することを特徴とする。
この発明によれば、分断後の光学素子に単品処理で保護層を形成するのではなく、光学素子基板に充填剤として一度に形成することから、効率的な保護層の形成に結び付ることが可能になる。
【0007】
本発明の光学素子の製造方法では、有機母層が、第1の母基板と第2の母基板とによって挟持された光学素子基板を分断し、光学素子を製造する光学素子の製造方法であって、前記第1の母基板に、光学異方性を有する前記有機母層を形成する有機母層形成工程と、前記有機母層形成工程後、未貫通の露出溝の形成によって、前記有機母層の断面を露出する断面露出工程と、露出溝に充填剤を充填する充填工程と、前記充填工程後、前記第2の母基板と、前記有機母層とを固定する光学素子基板形成工程と、前記充填剤を分離して保護層となるように、前記光学素子基板を分断する光学素子形成工程とを有することを特徴とする。
この発明によれば、外力が分散され難いため、破壊に結びつき易い基板の外側平面の外周線の周辺部には保護層を形成せず、外側平面の外周線の周辺部を機械的強度に優れる基板そのものとする。したがって、保護層に衝撃力及び固定力が直接作用することが少なくなり、保護層の有機層からの剥離や、保護層のクラックの発生が少なくなり、保護層による水分の浸入の抑制が長期間に亘り維持することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について図面に従って説明する。
(第1の実施形態)
図1(a)は、本実施形態で得られる光学素子1を示す斜視図であり、(b)は、(a)のA−A線断面図である。
図1(a)及び(b)において、光学素子1は、光を透過する無機材料の対向する基板2、対向する基板2に挟持された光学異方性を有する有機層3、基板2と有機層3とを固定する接合層4、及び保護層6とで構成されている。また、光学素子1の形状は、直方体である。
【0009】
基板2は、光透過性に優れた無機材料であれば良く、ホウケイ酸ガラス、白板ガラス、青板ガラス、石英ガラス及びサファイヤガラス等の無機ガラスや水晶を用いることができる。また、基板2の平面形状は矩形である。
光学異方性を有する有機層3は、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアリレート、ポリエーテルスルフォン、脂環族ポリオレフィン、ポリ(メタ)アクリレート及びポリビニールアルコール等の樹脂を一軸延伸により光学異方性を付与し、位相差機能、旋光機能または偏光機能を発現させた高分子シートを用いることができる。
接合層4は、粘着剤または、接着剤であって良い。
材質としては、アクリル系、エポキシ系、ウレタン系、ポリエステル系、ポリイミド系、ユリア系、メラミン系、フラン系、イソシアネート系、シリコーン系、セルロース系、ビニル系及びそれらの混合系から選定し用いることができる。
保護層6は、無機物及び有機物のいずれであっても良く、無機物としては、誘電体類または金属類であり、有機物としては、樹脂類や有機金属化合物類を用いることができる。
例えば、誘電体類としては、シリカゾル、アルミナゾルやチタンゾルと、Si、TiまたはZrの金属アルコキシ化合物や金属キレート化合物のモノマーやオリゴマーとを主成分とした混合物を用いることができる。
金属類としては、CuまたはNiを用いることができる。
樹脂類としては、アクリル系やビニル系のUV(Ultraviolet)硬化樹脂、エポキシ系、ウレタン系、ポリイミド系、メラミン系やイソシアネート系の熱硬化樹脂を用いることができる。
有機金属化合物としては、有機系の官能基を有するSi、TiまたはZrのカップリング剤のモノマーやオリゴマーを用いることができる。
【0010】
次に、本実施形態の光学素子1の製造方法を図に基づいて説明する。
図2は、光学素子1を光学素子基板100から分断するための加工中心線7を示す斜視図である。
図2において、加工中心線7は所望の間隔を有し、分断は加工中心線7をなぞるように行う。また、加工中心線7に平行な矢印Xは光学素子基板100の一方の端面に略平行であり、同じく加工中心線7に平行な矢印Yはもう一方の端面に略平行である。従い矢印XとYとは略直角の関係になる。
図3は、本実施形態の光学素子1の製造方法を示すフロー図である。
図3に示すように、本実施形態の光学素子1の製造方法は、光学素子基板形成工程、断面露出工程、充填工程及び光学素子形成工程を有する。
【0011】
図4には、それぞれの工程における断面図を示した。
図4(a)は、本実施形態の光学素子基板工程を示す断面図である。
図4(a)では、光透過性に優れた無機材料の対向する母基板200で、接合母層400を介して、有機母層300を狭持する。
接合母層400を、母基板200または有機母層300に一定厚みで薄く塗布する。
塗布方法としては、スピンコート法、ロールコート法等を用いることができる。
上述の狭持の後、UV照射や加熱等をすることで接合母層400を硬化し、光学素子基板100を形成する。
【0012】
図4(b)は、本実施形態の断面露出工程を示す断面図である。
図4(b)では、光学素子基板100を固定板11に固定する。
固定板11には、ダイシングシートまたは減圧装置に連結された多孔質板等を用いることができる。
次に、光学素子基板100の母基板200の図面の上方から下方に向かい略垂直に加工中心線7をなぞるように分断加工を行い、露出溝8を形成することで、断面500が露出する。
露出溝8の先端が固定板11に到ったところで、分断加工を停止する。この分断加工を、全ての加工中心線7に対して適用する。
分断加工方法としては、ダイシング加工法、レーザー加工法等を用いることができる。
次に、必要に応じて光学素子基板100を清浄化する。
清浄化方法としては、乾式洗浄法及び湿式洗浄法を用いることができる。
例えば、乾式洗浄法では圧縮気体の吹き付け洗浄を、湿式洗浄法では各種溶剤を用いた超音波洗浄、噴流洗浄等を用いることができる。
【0013】
図4(c)は、本実施形態の充填工程を示す断面図である。
図4(c)では、図4(b)に示した露出溝8を埋めるように充填剤9の材料を充填する。
充填方法としては、デイスペンス塗工法、インクジェット法等を用いることができる。
次に、充填された材料にUV照射または加熱することで硬化し、充填剤9を形成する。
【0014】
図4(d)は、本実施形態の光学素子形成工程を示す断面図である。
図4(d)では、充填剤9の図面の上方から下方に向かい略垂直に、加工中心線7をなぞるように分断加工を行い、分断溝10を形成する。
分断溝10の先端が固定板11に到ったところで、分断加工を停止する。この分断加工を、全ての加工中心線7に対して適用する。
分断加工方法としては、断面露出工程における方法と同様の方法を用いることができる。
分断溝10の幅は、上述の露出溝8の幅より狭く、充填剤9の分断加工によって、充填剤9は、隣り合う光学素子1の各々の側に分離し、保護層6となる。
次に、必要に応じて光学素子1を清浄化する。
清浄化方法としては、断面露出工程における方法と同様の方法を用いることができる。
【0015】
次に、固定板11から光学素子1を分離する。
ここで、固定板11がダイシングシートの場合、ダイシングシートにUV照射し、粘着層を収縮させ粘着力を弱めた後、ダイシングシートから光学素子1を分離する。
固定板11が減圧装置に連結された多孔質板の場合、減圧装置を停止し吸引固定を解除した後、多孔質板から光学素子1を分離する。
【0016】
以上のようにして、図1(a)及び(b)に示す有機層3の側面5に保護層6が形成された光学素子1が得られる。
【0017】
以下の第1の実施形態の効果を得ることができる。
(1)水分を吸収または放出し易い有機層3の側面5に保護層6を形成することで、有機層3の側面5からの水分の浸入を抑制でき、有機層3が保持する水分量は長期間に亘って僅かしか変化しない。したがって、光学厚みを決定する有機層3の屈折率及び有機層3の厚みの水分の影響による変化が僅かになり、光学特性を維持することができる。
(2)光学素子1の各面に凸部が存在しない。したがって、一定の体積の光学素子基板100からより多くの光学素子1を製造することが可能になり、さらに、光学素子1をモジュールに組み込む場合、必要となる設置面積を最小にすることができる。
(3)分断後の光学素子1に単品処理で保護層6を形成するのではなく、光学素子基板100に充填剤9として一度に形成することから、効率的な保護層6の形成に結び付ることができる。
【0018】
(第2の実施形態)
第5図(a)は、本実施形態で得られる光学素子1を示す斜視図であり、(b)は、(a)のB−B線断面図である。
図5において、基板2の外側平面の外周線12とは、基板2の光学素子1としての外側に位置する平面の外周線12である。
光学素子1の下側の基板2の外側平面の外周線12の周辺部13には、保護層6が形成されていない。
【0019】
第2の実施形態と第1の実施形態との相違は、断面露出工程及び光学素子形成工程の前段における光学素子基板100と固定板11との固定作業である。
次に、本実施形態の光学素子1の製造方法を説明する。
図6(a)は、本実施形態の光学素子基板工程を示す断面図である。
図6(b)は、本実施形態の断面露出工程を示す断面図である。
図6(c)は、本実施形態の充填工程を示す断面図である。
図6(d)は、本実施形態の光学素子形成工程を示す断面図である。
図6(b)では、固定板11を使用せず、光学素子基板100の母基板200の図面の上方から下方に向かい略垂直に加工中心線7をなぞるように溝入れ加工を行い、露出溝8を形成することで、断面500が露出する。
露出溝8の先端が図面の下側の母基板200に到ったところで、溝入れ加工を停止する。したがって露出溝8は、未貫通の形状である。
この溝入れ加工を、全ての加工中心線7に対して適用する。
溝入れ加工方法としては、第1の実施形態の断面露出工程における方法と同様の方法を用いることができる。
図6(d)では、光学素子基板100と固定板11との固定作業の後、第1の実施形態に記述する光学素子形成工程と同様の工程で光学素子1を形成する。
【0020】
以上のようにして、図5(a)及び(b)に示す光学素子1の下側の基板2の外側平面の外周線12の周辺部13に保護層6が形成されず、有機層3の側面5に保護層6が形成された光学素子1が得られる。
【0021】
以下の第2の実施形態の効果を得ることができる。
(4)外力が分散され難いため、破壊に結びつき易い下側の基板2の外側平面の外周線12の周辺部13には保護層6を形成せず、外側平面の外周線12の周辺部13を機械的強度に優れる基板2そのものとする。したがって、保護層6に衝撃力及び固定力が直接作用することが少なくなり、保護層6の有機層3からの剥離や、保護層6のクラックの発生も少なくなり、保護層6による水分の浸入の抑制が長期間に亘り維持することができる。
【0022】
(第3の実施形態)
図7(a)及び(b)は、本実施形態で得られる光学素子1を示す斜視図であり、(b)は、(a)のC−C線断面図である。
図7において、基板2の外側平面の外周線12とは、基板2の光学素子1としての外側に位置する平面の外周線12である。
保護層6が、有機層3の側面5には形成されているが、光学素子1の対向する基板2の外側平面の外周線12の周辺部13には形成されていない。
【0023】
第3の実施形態と第1及び第2の実施形態との相違は、光学素子基板100の製造方法である。
また、第3の実施形態においては一方の面に、グレーテイングのような微細な凹凸模様を有した第2の母基板202を用いることができることも特徴である。
次に、本実施形態の光学素子1の製造方法を説明する。
図8は、本実施形態の光学素子1の製造方法を示すフロー図である。
図8に示すように、本実施形態の光学素子1の製造方法は、有機母層形成工程、断面露出工程、充填工程、光学素子基板形成工程、及び光学素子形成工程を有する。
【0024】
図9には、それぞれの工程における断面図を示した。
図9(a)は、本実施形態の有機母層形成工程を示す断面図である。
図9(a)では、接合母層400を第1の母基板201の一方の面または有機母層300の一方の面に一定厚みで薄く塗布する。
塗布方法としては、第1の実施形態の光学素子基板工程における方法と同様の方法を用いることができる。
次に、第1の母基板201と有機母層300とを接合母層400を介して固定する。
上述の固定の後、UV照射や加熱等をすることで接合母層400を硬化し、第1の母基板201上に有機母層300を形成する。
【0025】
図9(b)は、本実施形態の断面露出工程を示す断面図である。
図9(b)では、有機母層300が形成された第1の母基板201を図面の上方から下方に向かい略垂直に加工中心線7をなぞるように溝入れ加工を行い、露出溝8を形成することで、断面500が露出する。
露出溝8の先端が第1の母基板201に到ったところで、溝入れ加工を停止する。したがって露出溝8は、未貫通の形状である。
この溝入れ加工を、全ての加工中心線7に対して適用する。
溝入れ加工方法としては、第1の実施形態の断面露出工程における方法と同様の方法を用いることができる。
【0026】
図9(c)は、本実施形態の充填工程を示す断面図である。
図9(c)では、図9(b)の露出溝8を埋めるように充填剤9の材料を充填する。
充填方法は、第1の実施形態の充填工程における方法と同様の方法を用いることができる。
次に、充填された材料にUV照射や加熱等をすることで硬化し、充填剤9を形成する。
【0027】
図9(d)は、本実施形態の光学素子基板形成工程を示す断面図である。
図9(d)では、接合母層400を有機母層300の有機母層形成工程で用いていない面または、第2の母基板202のグレーテイングのような微細な凹凸模様が形成されていない他方の面に一定厚みで薄く塗布する。
塗布方法としては、本実施形態の有機母層形成工程における方法と同様の方法を用いることができる。
次に、第2の母基板202の微細な凹凸模様が形成されていない他方の面と有機母層300とを接合母層400を介して固定する。
上述の固定の後、UV照射や加熱等をすることで接合母層400を硬化し、光学素子基板100を形成する。
【0028】
図9(e)は、本実施形態の光学素子形成工程を示す断面図である。
図9(e)では、光学素子基板100を固定板11に固定する。
固定板11には、第1の実施形態の断面露出工程におけるダイシングシートまたは多孔質板と同じものを用いることができる。
次に、充填剤9の図面の上方から下方に向かい略垂直に、加工中心線7をなぞるように分断加工を行い、分断溝10を形成する。
分断溝10の先端が固定板11に到ったところで、分断加工を停止する。この分断加工を、全ての加工中心線7に対して適用する。
分断加工方法としては、本実施形態の断面露出工程における方法と同様の方法を用いることができる。
分断溝10の幅は、上述の露出溝8の幅より狭く、充填剤9の分断加工によって、充填剤9は、隣り合う光学素子1の各々の側に分離し、保護層6となる。
【0029】
次に、固定板11から光学素子1を分離する。
本実施形態においては、必要に応じて清浄化等の付帯作業を行うが、この付帯作業は、第1の実施形態と同様に行う。
以上のようにして、図7(a)及び(b)に示す光学素子1の対向する基板2の外側平面の外周線12の周辺部13に保護層6が形成されず、有機層3の側面5に保護層6が形成された光学素子1が得られる。
【0030】
以下の第3の実施形態の効果を得ることができる。
(5)外力が分散され難いため、破壊に結びつき易い対向する基板2の外側平面の外周線12の周辺部13には保護層6を形成せず、外側平面の外周線12の周辺部13を機械的強度に優れる基板2そのものとする。したがって、保護層6に衝撃力及び固定力が直接作用することがさらに少なくなり、保護層6の有機層3からの剥離や、保護層6のクラックの発生もさらに少なくなり、保護層6による水分の浸入の抑制が一段と長期間に亘り維持することができる。
(6)微細な凹凸模様が一方の面に形成された第2の母基板202に充填剤9の材料が接触し、毛細管現象で微細な凹凸模様を埋める問題を避けることができる。
【0031】
尚、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形や改良等は本発明に含まれるものである。変形例を以下に述べる。
(変形例1)
【0032】
第2の実施形態では、図6に示すように、対向する母基板200で接合母層400を介して有機母層300を挟持した。
これに限らず、接合母層400を用いることなく、対向する母基板200で有機母層300を挟持しても良く、対向する母基板200と有機層300との固定は、充填剤9だけで行う。
この場合、充填剤9を形成するまで、対向する母基板200と有機母層300との固定のために、対向する母基板200には、各々の側から有機母層300を押し付けるような物理力を治具等で加えておく。
これにより、接合母層400の塗布を省くことができる。したがって、光学素子1の製造工程が短縮化できる。
(変形例2)
【0033】
第3の実施形態では、図9に示す接合母層400と充填剤9とを異なる材料とした。
これに限らず、接合母層400と充填剤9とを同一の材料としても良い。
これにより、充填剤9の材料の充填と図面の上側の接合母層400の塗布とを同時に行うことができる。したがって、光学素子1の製造工程が短縮化できる。
【0034】
以下、実施例に基づき本発明を詳しく説明する。
[実施例1]
用いる構成材を、以下のようにした。
母基板200には、表面が平滑な水晶製の1/2波長板を用いた。
有機母層300には、180μm厚の偏光シートを用いた。偏光シートは、沃素で染色された一軸延伸ポリビニールアルコールフィルムが、対向したセルロース系フィルム間に、狭持し、固定されたものである。
接合母層400には、エポキシ系の接着剤を用いた。
充填剤9の材料には、シリカゾル、Siカップリング剤そしてTiアルコキシ化合物を主成分とする混合物を用いた。
製造方法は、第1の実施形態に記述の工程に順じて行い、得られた本実施例の光学素子1を実施例1の光学素子と呼称した。ここで保護層6の厚みは200μmであった。
他方、第1の実施形態に記述の工程に対し、充填工程以後を行わない製造方法にて製造した有機層3の側面5に保護層6の無い比較用の光学素子を比較例1の光学素子と呼称した。
【0035】
光学素子の光学特性の評価を以下のように行った。
加温加湿雰囲気下に200時間放置する前後における実施例1の光学素子と比較例1の光学素子の透過波面収差値の測定を、レーザー干渉計で行った。
ここで測定の光学素子個数を各10、また光学素子1個あたりの測定箇所を5として、測定箇所が光学素子表面の特定の場所に偏らないようにした。また、測定直径は1.5mmとした。
表1に測定された透過波面収差値のrms値を示した。
【0036】
【表1】

加温加湿雰囲気下の放置によって、実施例1の光学素子の透過波面収差値のrms値は、僅かな変化に留まったが、比較例1の光学素子の透過波面収差値のrms値は大きく変化した。
以上から、実施例1における保護層6が、環境水分の多い状態に長期間に亘り放置されても、実施例1の光学素子の所定の光学厚みを保ち、光学特性を維持することに、大きく寄与できることが確認された。
【0037】
[実施例2]
用いる構成材を、実施例1における構成材と同様にした。
製造方法は、第2の実施形態に記述の工程に順じて行い、得られた本実施例の光学素子1を実施例2の光学素子と呼称した。ここで保護層6の厚みは200μmであった。
他方、第2の実施形態に記述の工程に対し、充填工程のみを行わない製造方法にて製造した有機層3の側面5に保護層6の無い比較用の光学素子を比較例2の光学素子と呼称した。
【0038】
光学素子の光学特性の評価を、実施例1における評価と同様にした。
表2に測定された透過波面収差値の標準偏差値を示した。
【0039】
【表2】

加温加湿雰囲気下の放置によって、実施例2の光学素子の透過波面収差値の標準偏差値は、僅かな変化に留まったが、比較例2の光学素子の透過波面収差値の標準偏差値は大きく変化した。
以上から、実施例2における保護層6が、環境水分の多い状態に長期間に亘り放置されても、実施例2の光学素子の所定の光学厚みを保ち、光学特性を維持することに、大きく寄与できることが確認された。
【0040】
[実施例3]
母基板202に、一方の面にグレーテイングの凹凸模様を有した水晶製の1/2波長板を、母基板201に、表面が平滑な水晶製の1/2波長板を用いた以外は、実施例1における構成材と同様にした。
製造方法は、第3の実施形態に記述の工程に順じて行い、得られた本実施例の光学素子1を実施例3の光学素子と呼称した。ここで保護層6の厚みは200μmであった。
他方、第3の実施形態に記述の工程に対し、充填工程のみを行わない製造方法にて製造した有機層3の側面5に保護層6の無い比較用の光学素子を比較例3の光学素子と呼称した。
【0041】
光学素子の光学特性の評価を、実施例1における評価と同様にした。
表3に測定された透過波面収差値のrms値を示した。
【0042】
【表3】

加温加湿雰囲気下の放置によって、実施例3の光学素子の透過波面収差値のrms値は、僅かな変化に留まったが、比較例3の光学素子の透過波面収差値のrms値は大きく変化した。
以上から、実施例3における保護層6が、環境水分の多い状態に長期間に亘り放置されても、実施例3の光学素子の所定の光学厚みを保ち、光学特性を維持することに、大きく寄与できることが確認された。
【0043】
尚、本発明は上述の実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形や改良等は本発明に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】(a)は、本発明の第1の実施形態に係る光学素子を示す斜視図であり、(b)は、(a)A−A線の断面図。
【図2】加工中心線を示す斜視図。
【図3】光学素子の製造方法に係るフロー図。
【図4】(a)は、本発明の第1の実施形態の光学素子基板工程を示す断面図であり、(b)は、断面露出工程を示す断面図であり、(c)は、充填工程を示す断面図であり、(d)は、光学素子形成工程を示す断面図。
【図5】(a)は、本発明の第2の実施形態に係る光学素子を示す斜視図であり、(b)は、(a)B−B線の断面図。
【図6】(a)は、本発明の第2の実施形態の光学素子基板工程を示す断面図であり、(b)は、断面露出工程を示す断面図であり、(c)は、充填工程を示す断面図であり、(d)は、光学素子形成工程を示す断面図。
【図7】(a)は、本発明の第3の実施形態に係る光学素子を示す斜視図であり、(b)は、(a)C−C線の断面図。
【図8】光学素子の製造方法に係るフロー図。
【図9】(a)は、本発明の第3の実施形態の有機母層形成工程を示す断面図であり、(b)は、断面露出工程を示す断面図であり、(c)は、充填工程を示す断面図であり、(d)は、光学素子基板形成工程を示す断面図であり、(e)は、光学素子形成工程を示す断面図。
【符号の説明】
【0045】
1…光学素子、2…基板、3…有機層、5…側面、6…保護層、8…露出溝、9…充填剤、100…光学素子基板、200…母基板、201…第1の母基板、202…第2の母基板、300…有機母層、500…断面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学異方性を有する有機層が、無機材料の基板によって挟持された光学素子であって、
有機層の側面に保護層が形成されている
ことを特徴とする光学素子。
【請求項2】
有機母層が、母基板によって挟持された光学素子基板を分断し、光学素子を製造する光学素子の製造方法であって、
光学異方性を有する前記有機母層を、無機材料の前記母基板によって挟持する光学素子基板形成工程と、
前記光学素子基板形成工程後、貫通または未貫通の露出溝の形成によって、前記有機母層の断面を露出する断面露出工程と、
前記露出溝に充填剤を充填する充填工程と、
前記充填剤を分離して保護層となるように、前記光学素子基板を分断する光学素子形成工程とを有する
ことを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項3】
有機母層が、第1の母基板と第2の母基板とによって挟持された光学素子基板を分断し、光学素子を製造する光学素子の製造方法であって、
前記第1の母基板に、光学異方性を有する前記有機母層を形成する有機母層形成工程と、
前記有機母層形成工程後、未貫通の露出溝の形成によって、前記有機母層の断面を露出する断面露出工程と、
露出溝に充填剤を充填する充填工程と、
前記充填工程後、前記第2の母基板と、前記有機母層とを固定する光学素子基板形成工程と、
前記充填剤を分離して保護層となるように、前記光学素子基板を分断する光学素子形成工程とを有する
ことを特徴とする光学素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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