説明

光学素子成形型

【課題】コアと貫通孔との間の摩擦抵抗を軽減することが可能な、新規かつ改良された光学素子成形型を提供すること。
【解決手段】成形材料が射出充填されるキャビティを有し、光学素子を成形する光学素子成形型100であって、キャビティの内面の一部を構成する光学機能転写面126が形成されたコア120と、コアが貫通する貫通孔104、118が形成された金型本体部102とを備え、金型本体部はコアを支持し、金型本体部の貫通孔にはコアが摺動するように挿入されており、コアの表面には、ニッケルメッキ層140と、ニッケルメッキ層上に形成された潤滑コート層150とが積層されたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子成形型に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック製の光学素子、例えばカメラ付き携帯電話などのレンズ等を製造する方法として、一般に、加熱溶融する成形材料を使用して、射出成形機で成形材料を光学素子の形状に成形する方法が行われている。射出成形機は、金型として、キャビティが形成された光学素子成形型を備える。キャビティの内面の一部には、光学機能転写面が形成され、キャビティに成形材料が加圧充填されて冷却されることで、光学素子が成形される。
【0003】
光学素子成形型は、位置が固定された固定型と、固定型に対して移動可能な可動型とで構成され、固定型と可動型との間で分割可能な金型である。例えば、下記の特許文献1には、射出成形機に適用されるプラスチックレンズ用成形型が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2005−288940号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常、上記の固定型及び分割型は、それぞれ更に光学機能転写面を備えたコアと、コアが貫通する貫通孔が形成された金型本体部とを備える。そして、成形材料を射出充填し冷却している間は、コア、金型本体部とも固定されているが、硬化した成形品を取り出す際、コアが貫通孔を摺動する。さらに、成形品の取り出し後、コアを元の位置に移動させる際も、コアが貫通孔を摺動する。また、コアは、先端に球面形状又は非球面形状の光学機能転写面を形成するため、ニッケルメッキなど比較的軟らかい材料で表面が被覆されている。
【0006】
従って、コアと貫通孔が摺動する摺動部では、ニッケルメッキ部分が磨耗しやすいという問題があった。そして、磨耗の結果、コアが貫通孔に対して摺動されにくくなるという問題があった。また、摺動部でのコアの可動を良くするため、コアと貫通孔との間に隙間を設けて、余裕を持たせると、コアが軸ずれしたり、偏心したりするため、要求精度の高いレンズを成形することができないという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、コアと貫通孔との間の摩擦抵抗を軽減することが可能な、新規かつ改良された光学素子成形型を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、成形材料が射出充填されるキャビティを有し、光学素子を成形する光学素子成形型であって、キャビティの内面の一部を構成する光学機能転写面が形成されたコアと、コアが貫通する貫通孔が形成された金型本体部と、を備え、金型本体部はコアを支持し、金型本体部の貫通孔にはコアが摺動するように挿入されており、コアの表面には、ニッケルメッキ層と、ニッケルメッキ層上に形成された潤滑コート層とが積層されたことを特徴とする、光学素子成形型が提供される。
【0009】
かかる構成により、貫通孔と摺動するコアの表面には、潤滑コート層が形成されているので、潤滑コート層を設けない場合に比べて、貫通孔とコアとの摺動による摩擦抵抗を軽減することができる。その結果、コアが摩擦によって貫通孔に引っ掛かるという不具合を減らすことができ、更にコアの耐久性を向上させることができる。なお、キャビティとは、光学素子成形型において、成形品に該当する空間部分をいう。
【0010】
上記コアの潤滑コート層は、光学機能転写面以外の領域であって、コアが貫通孔と接する面に形成されることができる。かかる構成により、光学機能転写面には、潤滑コート層が形成されない。従って、光学機能転写面はニッケルメッキ層が露出し、光学機能転写面は、ニッケルメッキ層を加工することによって得られる。
【0011】
上記潤滑コート層は、TiAlNを含む層であってもよい。また、上記潤滑コート層は、TiNを含む層であってもよい。更に、上記潤滑コート層は、CrNを含む層であってもよい。かかる構成により、ニッケルメッキ層よりも表面硬度を向上させることができ、かつ摩擦抵抗を低減することができるため、潤滑コート層を設けない場合に比べて、コアが摩擦によって貫通孔に引っ掛かるという不具合を減らすことができ、更にコアの耐久性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、コアと貫通孔との間の摩擦抵抗を軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0014】
まず、本発明の第1の実施形態に係る光学素子成形型について説明する。図1〜図3は、本実施形態に係る光学素子成形型100を示す断面図である。
【0015】
本実施形態に係る光学素子成形型100は、合成樹脂製の光学素子を成形する際、射出成形機に適用される成形型である。光学素子成形型100は、位置が固定された固定型100bと固定型100bに対して移動可能な可動型100aとを備える。光学素子成形型100は、可動型100aと固定型100bとの間で分割可能な金型である。可動型100a及び固定型100bは、それぞれ金型本体部102a、102b(以下、金型本体部102と総称する場合もある。)と、コア120と、支持部106a、106b(以下、支持部106と総称する場合もある。)とを備える。可動型100aは、更に、連結部107と、基部108とを備える。
【0016】
コア120は、コア本体部122とコア先端部124とから構成される。コア本体部122とコア先端部124とは、例えばそれぞれ径の異なる円柱形状であり、コア本体部122は、コア先端部124よりも径が太い。コア120は、コア本体部122とコア先端部124が軸方向に直列に組み合わされた一体の形状を有する。コア先端部124の先端は、球面状又は非球面状の光学機能転写面126が形成されている。光学機能転写面126は、キャビティの内面の一部を構成し、例えば光学素子の光学機能面を成形する。コア120は、例えば、金型本体部102内の4箇所で配置される。かかる構成により、1度の成形で4つの光学素子が成形される。ここで、キャビティとは、光学素子成形型100において、成形品に該当する空間部分をいう。
【0017】
コア本体部122の一端は、ネジ孔128が形成され、ネジ孔128に固定ネジ130が螺合されることで、コア120は、支持部106と結合される。コア120は、コア本体部122が、金型本体部102の貫通孔104内で摺動するように挿入され、コア先端部124が、金型本体部102の貫通孔118内で摺動するように挿入される。コア120は、合成樹脂の成形材料を射出充填させ、硬化させているときは、固定されているが、硬化した成形品を取り出すときに、移動される。なお、貫通孔104及び貫通孔118は、貫通孔の一例である。
【0018】
金型本体部102は、図1に示すように、可動側金型本体部102aと、固定側金型本体部102bとが、接することによって、半密閉されたキャビティが構成される。可動側金型本体部102aと固定側金型本体部102bとが接する面は、平滑な面である。当該面上には、ランナー112が形成されている。固定側金型本体部102bは、位置が固定され、可動側金型本体部102aは、固定側金型本体部102bに対して移動可能である。可動側金型本体部102aは、成形材料を射出充填させ、硬化させているときは、固定側金型本体部102bと接して固定されているが、硬化した成形品を取り出すときに、図2に示すように移動される。
【0019】
金型本体部102は、相互の金型本体部102が接する面と反対の面に貫通孔104が形成される。金型本体部102の貫通孔104には、コア120が挿入され、貫通孔104の内径は、コア120を支持するように、コア本体部122の直径とほぼ同じである。
【0020】
可動側金型本体部102aの中心には、エジェクタピン110が挿入される貫通孔116が設けられる。固定側金型本体部102bには、スプルー114が形成される。スプルー114は、ランナー112に連結されたテーパー状の空間を有し、成形材料をキャビティに供給する。
【0021】
可動側金型本体部102a及び固定側金型本体部102bの表面に形成されたランナー112は、成形材料をキャビティに供給するための導通路であって、溝形状に形成される。ランナー112は、金型本体部102の中心から放射状に例えば4本配置される。ランナー112は、金型本体部102の中央でスプルー114と連結される。なお、本実施形態に係るランナーの配置や数は、かかる例に限定されない。
【0022】
貫通孔118は、可動側金型本体部102a及び固定側金型本体部102bが接する金型本体部102のそれぞれの表面に形成される。貫通孔118には、コア120のコア先端部124が挿入され、貫通孔118の直径は、コア先端部124と貫通孔118が接するように、コア先端部124の直径とほぼ同じである。また、図示しないが、光学機能転写面126以外の外形成形面が、金型本体部102の表面であって、貫通孔118の開口部の周囲に形成される。外形成形面は、キャビティの内面の一部を構成する。外形成形面の形状は、成形する光学素子の外形の形状に応じて任意の形状にできる。外形成形面によって成形される成形面は、光学素子の光学機能面以外の外形となる。
【0023】
エジェクタピン110は、例えば円柱形状を有しており、一端は、支持部106に固定され、貫通孔116内を摺動する。エジェクタピン110は、光学素子成形時には、先端が金型本体部102内に収容された位置にあり、光学素子が硬化すると、エジェクタピン110は、固定型100b側に向かって摺動され、成形された光学素子をキャビティから離脱させる。
【0024】
支持部106は、例えば板状部材であり、コア120及びエジェクタピン110を固定する。基部108は、可動型100a全体を固定型100bに向かって駆動、押圧する駆動源(図示せず。)に連結されて、この駆動、押圧力を伝達する。また、支持部106aと連結される連結部107は、基部108とは分離できるように構成され、エジェクタロッド109によって押し上げられると、エジェクタピン110及びコア120を押し上げて、成形された光学素子をキャビティから離脱させる動作を伝達する。
【0025】
次に、図4及び図5を参照して、コア120の構成について詳細に説明する。図4は、本実施形態に係るコアを示す断面図であり、図5は、本実施形態に係るコア先端部を示す断面図である。
【0026】
コア120は、図4に示すように、表面にニッケル(Ni)メッキ層140と、ニッケルメッキ層140上に形成されたTiAlN層150とが積層される。TiAlN層150は、潤滑コート層の一例であり、TiAlNを主に含む層である。TiAlN層150は、TiAlN以外の他の物質が含まれていてもよい。また、潤滑コート層は、TiAlNを含む層に限定されず、TiNを含む層、又はCrNを含む層であるとしてもよい。
【0027】
TiAlNの物性は、ビッカース硬度Hvが1300〜2400であり、摩擦係数が0.25以下であり、表面粗さRaが7nm以下であり、密着力(剥離荷動)が50gf以上である。なお、TiN、CrNの物性値もTiAlNとほぼ同じ値である。
【0028】
コア120は、例えばステンレス鋼であり、当該ステンレス鋼上にニッケルメッキ層140が、例えば約60〜70μmの厚さで施される。そして、TiAlN層150が、ニッケルメッキ層140上に例えば約1μm以下の厚さで施される。TiAlN層150は、例えばスパッタリングによって製膜される。TiAlN層150は、図4及び図5に示すように、光学機能転写面126以外の領域であって、コア本体部122が貫通孔104と接する面、及びコア先端部124が貫通孔118と接する面に形成される。
【0029】
コア120のTiAlN層150は、光学機能転写面126が製膜されないように、コア先端部124の先端を予め金属製のキャップなどでマスキングして、光学機能転写面126以外にTiAlN層150を製膜する方法で形成される。このとき、マスキングしてTiAlN層150を製膜した後に、光学機能転写面126を球面状又は非球面状に加工してもよく、反対に、コア先端部124の先端を球面状又は非球面状に加工した後に、加工された光学機能転写面126をマスキングしてTiAlN層150を製膜してもよい。これらの方法によれば、硬度の高いTiAlNを切削する必要がないため、光学機能転写面126を球面状又は非球面状に加工する際、切削用のバイトを傷めることがなく、バイトの耐久性を保ちつつ加工することができ、また、短時間に加工することができる。
【0030】
一方、上記の方法ではなく、コア先端部124の先端を予めマスキングせずに、TiAlNを含む層を製膜してから、コア先端部124の先端を球面状又は非球面状に加工してもよい。このとき、TiAlN層150の下地となるニッケルメッキ層140を厚めに積層させておく。ニッケルメッキ層140が厚めに積層されていれば、球面状又は非球面状に加工する際に切削量が増えるが、加工の際にコア先端部及びバイトを傷めないように、切り込み量や切削速度、バイトの角度等を調節することで、所望の光学機能転写面126を形成することができる。
【0031】
次に、本実施形態に係る光学素子成形型100の動作について説明する。
【0032】
初めに、成形を開始する際、図1に示すように、可動型100aと固定型100bとを当接させる。このとき、可動型100aのコア120は、固定型100bのコア120と対向して配置され、成形される光学素子の形状に対応したキャビティが構成される。
【0033】
次に、スプルー114及びランナー112を介して、溶融した成形材料がキャビティに供給される。キャビティに射出充填された成形材料は、冷却されて硬化し、成形された光学素子となる。このとき、硬化した成形品は、コア120の光学機能転写面126及び金型本体部102の外形成形面に対応した光学素子と、スプルー114及びランナー112に対応した光学素子以外の成形品とが一体となっている。
【0034】
次に、図2に示すように、可動型100aが固定型100bから離れるように移動して、光学素子成形型100が開かれる。その後、図3に示すように、可動型100aの位置は固定したまま、エジェクタピン110及びコア120が固定型100b側に向かって摺動し、可動型100aから離型された一体成形品は、金型本体部102aから離脱される。一体成形品は、例えばピックアップ用ロボットなどにより光学素子成形型100の外部に取り出される。
【0035】
上記の図1〜図3を用いて示した光学素子成形型100の動作は、光学素子の生産工程において繰り返し行われる。このとき、コア本体部122が貫通孔104に対して繰り返し摺動し、コア先端部124が貫通孔118に対して繰り返し摺動する。従来では、摺動部分がニッケルメッキ層140やステンレス鋼であったため、コア120が貫通孔104、118に引っ掛かることによって生じるいわゆる金型かじりが発生しやすかった。この金型かじり発生の要因は、ニッケルメッキ層の硬度が比較的軟らかいことや、摩擦係数が高いことが考えられる。
【0036】
一方、本実施形態によれば、摺動部分にTiAlN層150が形成されているため、コア120の磨耗が少なく、メンテナンスサイクルを長期化させることができる。また、本実施形態によれば、いわゆる金型かじりの発生を低減させることができる。具体的には、従来では、5〜10万回の光学素子成形毎に1回の割合で不具合が生じていたが、本実施形態によれば、20万〜50万回の光学素子成形毎に1回の割合に低減させることができ、最低でも2倍、通常5倍以上の耐久性を得ることができる。更に、本実施形態によれば、コア120の先端がニッケルメッキ層140のみで、摺動部分にTiAlN層150を積層するという構成を有するので、コア120の耐久性を高めつつ、光学機能転写面126の加工が容易であるという特有の効果を奏する。
【0037】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0038】
例えば、上記実施形態では、可動型100aを例に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、固定型100bは、可動型100aとほぼ同様の構成を有しており、固定型100b内で摺動するコア120についても同様に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る光学素子成形型を示す断面図である。
【図2】同実施形態に係る光学素子成形型を示す断面図である。
【図3】同実施形態に係る光学素子成形型を示す断面図である。
【図4】同実施形態に係るコアを示す断面図である。
【図5】同実施形態に係るコア先端部を示す拡大断面図である。
【符号の説明】
【0040】
100 光学素子成形型
100a 可動型
100b 固定型
102、102a、102b 金型本体部
104、116、118 貫通孔
106、106a、106b 支持部
107 連結部
108 基部
109 エジェクタロッド
110 エジェクタピン
112 ランナー
114 スプルー
120 コア
122 コア本体部
124 コア先端部
126 光学機能転写面
128 ネジ孔
130 固定ネジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形材料が射出充填されるキャビティを有し、光学素子を成形する光学素子成形型であって、
前記キャビティの内面の一部を構成する光学機能転写面が形成されたコアと、
前記コアが貫通する貫通孔が形成された金型本体部と、
を備え、
前記金型本体部は前記コアを支持し、前記金型本体部の前記貫通孔には前記コアが摺動するように挿入されており、
前記コアの表面には、ニッケルメッキ層と、前記ニッケルメッキ層上に形成された潤滑コート層と、が積層されたことを特徴とする、光学素子成形型。
【請求項2】
前記コアの前記潤滑コート層は、前記光学機能転写面以外の領域であって、前記コアが前記貫通孔と接する面に形成されたことを特徴とする、請求項1に記載の光学素子成形型。
【請求項3】
前記潤滑コート層は、TiAlNを含む層であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の光学素子成形型。
【請求項4】
前記潤滑コート層は、TiNを含む層であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の光学素子成形型。
【請求項5】
前記潤滑コート層は、CrNを含む層であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の光学素子成形型。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−179005(P2008−179005A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−12719(P2007−12719)
【出願日】平成19年1月23日(2007.1.23)
【出願人】(000005430)フジノン株式会社 (2,231)
【Fターム(参考)】