説明

光学補償シート、偏光板および液晶表示装置

【課題】表示品位に優れる大きなパネルサイズの液晶表示装置を提供する。
【解決手段】下記式(I)により定義されるReレターデーション値が20乃至200nmの範囲にあり、下記式(II)により定義されるRthレターデーション値が70乃至400nmの範囲にあり、そして少なくとも一方向の弾性率が4000乃至10000MPaの範囲にあるポリマーフイルムからなることを特徴とする光学補償シートを液晶表示装置に利用する。
(I) Re=(nx−ny)×d
(II) Rth={(nx+ny)/2−nz}×d
式中、nxは、フイルム面内の遅相軸方向の屈折率であり、nyは、フイルム面内の進相軸方向の屈折率であり、nzは、フイルムの厚み方向の屈折率であり、そして、dは、フイルムの厚さである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学補償シート、偏光板、および液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光板は通常、ヨウ素もしくは二色性染料をポリビニルアルコールに配向吸着させた偏光膜の両側に、保護フイルムとして、セルローストリアセテートを主成分とするフイルムを貼り合わせることで製造されている。セルローストリアセテートは、強靭性、難燃性、光学的等方性が高い(レターデーション値が低い)などの特徴があり、上述の偏光板用保護フイルムとして広く使用されている。
液晶表示装置は、偏光板と液晶セルから構成されている。現在、液晶表示装置の主流であるTNモードのTFT液晶表示装置においては、特許文献1に記載のように、光学補償シート(位相差フイルム)を偏光板と液晶セルの間に挿入することにより、表示品位の高い液晶表示装置が実現されている。しかし、この方法によると、液晶表示装置自体が厚くなるなどの問題点があった。
【0003】
特許文献2には、偏光膜の片面に光学補償シート、他方の面に保護フイルムを有する偏光板(楕円偏光板)を用いることで、液晶表示装置を厚くすることなく、正面コントラストを高くすることができるとの記載がある。ところが、この発明の光学補償シートは、熱等による歪みが原因で位相差が発生しやすく、耐久性に問題のあることがわかった。
歪みによる位相差発生の問題に対し、特許文献3および4では、透明支持体上にディスコティック化合物からなる光学異方性層を塗設した光学補償シートを直接偏光板の保護フイルムとして用いることで、液晶表示装置を厚くすることなく、上述の耐久性の問題を解決した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−50206号公報
【特許文献2】特開平1−68940号公報
【特許文献3】特開平7−191217号公報
【特許文献4】欧州特許0911656A2号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の光学補償シートを用いることで、液晶表示装置の表示品位は向上しているが、近年の液晶パネルサイズの大型化、および高輝度化に伴い、光学補償シートに加わる歪みは増大傾向にあり、この歪を無視できなくなりつつある。
本発明の目的は、液晶セルに対する光学補償特性に優れ、液晶表示装置が発生する熱や、使用環境における熱による歪みに対してその補償特性が安定している光学補償シートを提供することである。
本発明の別の目的は、前記の光学補償シートと偏光膜を一体化させ、液晶表示装置が発生する熱や、使用環境における熱に対して偏光特性が安定している偏光板を提供することにある。
本発明のさらに別の目的は、従来と同じ厚みで何の問題も生じることなく、表示品位が高く、かつ高輝度で、パネルサイズの大きい液晶表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者の鋭意研究により、光学補償シートに用いられる材料の弾性率を調整すること(詳細は後述する)で、光学的な特性が優れた材料に、その周囲で発生する熱による材料の温度変化に対しても、その光学特性が安定である特性を付与できることを見出した。
【0007】
従って本発明は、下記式(I)により定義されるReレターデーション値が20乃至200nmの範囲にあり、下記式(II)により定義されるRthレターデーション値が70乃至400nmの範囲にあり、そして少なくとも一方向の弾性率が4000乃至10000MPaの範囲にあるポリマーフイルムからなることを特徴とする光学補償シートにある。(I) Re=(nx−ny)×d
(II) Rth={(nx+ny)/2−nz}×d
式中、nxは、フイルム面内の遅相軸方向の屈折率であり、nyは、フイルム面内の進相軸方向の屈折率であり、nzは、フイルムの厚み方向の屈折率であり、そして、dは、フイルムの厚さである。
【0008】
また本発明は、下記式(I)により定義されるReレターデーション値が20乃至200nmの範囲にあり、下記式(II)により定義されるRthレターデーション値が70乃至400nmの範囲にあるポリマーフイルムと、液晶性化合物を含む光学異方性層とを積層してなる光学補償シートであり、そして該光学補償シートの少なくとも一方向の弾性率が4000乃至10000MPaの範囲にあることを特徴とする光学補償シートにもある。(I) Re=(nx−ny)×d
(II) Rth={(nx+ny)/2−nz}×d
式中、nxは、フイルム面内の遅相軸方向の屈折率であり、nyは、フイルム面内の進相軸方向の屈折率であり、nzは、フイルムの厚み方向の屈折率であり、そして、dは、フイルムの厚さである。
【0009】
また、本発明の光学補償シートにおいては、前記のポリマーフイルムが酢化度59.0乃至61.5%であるセルロースアセテート、およびセルロースアセテート100質量部に対して、少なくとも二つの芳香族環を有する芳香族化合物を0.01乃至20質量部含むことが好ましい。
【0010】
更にまた本発明は、偏光膜の少なくとも一方の面に、前記の本発明の光学補償シートのいずれかが貼り合わされてなる偏光板にもある。また、本発明の偏光板においては、光学補償シートの遅相軸と偏光膜の透過軸が、実質的に平行になるように配置されていることが好ましい。
【0011】
更にまた別の本発明は、液晶セルおよびその両側に配置された二枚の偏光板からなる液晶表示装置であって、少なくとも1方の偏光板が、前記の本発明の偏光板であり、該偏光板の光学補償シートが液晶セル側になるように配置されていることを特徴とする液晶表示装置にもあり、液晶セルが、OCBモード、VAモードまたはTNモードの液晶セルであることが好ましい。
なお、本明細書において、「実質的に垂直」、「実質的に平行」あるいは「実質的に45°」とは、厳密な角度よりも±5°未満の範囲内であることを意味する。この範囲は、±4°未満であることが好ましく、±3°未満であることがさらに好ましく、±2°未満であることが最も好ましい。また、本明細書において、「遅相軸(slow axis)」は屈折
率が最大となる方向を、「進相軸(fast axis)」は屈折率が最小となる方向、そして「
透過軸(transmission axis)は透過率が最大となる方向をそれぞれ意味する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の光学補償シートは、その弾性率が4000乃至10000MPaの範囲にあることを特徴とする。
本発明においては、光学補償シートの弾性率を調整することにより、従来使用されていた光学補償シートの優れた光学特性を維持したまま、さらに、熱による複屈折の発現(液晶表示装置においては、黒表示状態での光漏れ)が少ない特性を付加できる。
従って、本発明の光学補償シート、あるいはそれを用いた偏光板を液晶表示装置に用い
ることで、従来の厚みを保ったまま、表示品位が高く、そしてパネルサイズの大きい液晶表示装置を作製することができる。
上記の光学補償シートおよび上記の光学補償シートを用いた偏光板は、VA(Vertically Aligned)型、OCB(Optically Compensated Bend)、TN( Twisted Nematic)型の液晶表示装置、および反射型液晶表示装置に、特に有利に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[レターデーション]
フイルムのReレターデーション値およびRthレターデーション値は、それぞれ、下記式(I)および(II)で定義される。
(I) Re=(nx−ny)×d
(II) Rth={(nx+ny)/2−nz}×d
式(I)および(II)において、nxは、フイルム面内の遅相軸方向(屈折率が最大となる方向)の屈折率であり、nyは、フイルム面内の進相軸方向(屈折率が最小となる方向)の屈折率であり、dは、単位をnmとするフイルムの厚さである。また、式(II)において、nzは、フイルムの厚み方向の屈折率である。
本発明において、ポリマーフイルムのReレターデーション値は波長633nmで20乃至200nmであり、そして、Rthレターデーション値が70乃至400nmに調節する。
【0014】
[ポリマーフイルム]
本発明に用いるポリマーフイルムとしては、光透過率が80%以上であるポリマーフイルムを用いることが好ましい。ポリマーフイルムとしては、外力により複屈折が発現しにくいものが好ましい。ポリマーフイルムの例としては、セルロース系ポリマー、商品名アートン(JSR(株)製)および商品名ゼオネックス(日本ゼオン(株)製)などのノルボルネン系ポリマー、およびポリメチルメタクリレートなどが挙げられる。セルロース系ポリマーとしては、セルロースエステルが好ましく、セルロースの低級脂肪酸エステルがさらに好ましい。低級脂肪酸とは、炭素原子数が6以下の脂肪酸を意味する。炭素原子数は、2(セルロースアセテート)、3(セルロースプロピオネート)または4(セルロースブチレート)であることが好ましい。セルロースエステルとしてはセルロースアセテートが好ましく、その例としては、ジアセチルセルロースおよびトリアセチルセルロースなどが挙げられる。セルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートのような混合脂肪酸エステルを用いても良い。
【0015】
また、ポリマーフイルムの粘度平均重合度(DP)は、250以上であることが好ましく、290以上であることがさらに好ましい。また、ポリマーフイルムは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるMw/Mn(Mwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量)の分子量分布が狭いことが好ましい。具体的なMw/Mnの値としては、1.0乃至1.7であることが好ましく、1.3乃至1.65であることがさらに好ましく、1.4乃至1.6であることが最も好ましい。
本発明のポリマーフイルムとしては、酢化度が59.0乃至61.5%であるセルロースアセテートフイルムを用いることが好ましい。酢化度とは、セルロース単位重量当たりの結合酢酸量を意味する。酢化度は、ASTM:D−817−91(セルロースアセテート等の試験法)におけるアセチル化度の測定および計算に従う。
【0016】
また、これらのポリマーフイルムは、紫外線吸収剤等を含むことが好ましい。また、ポリマーフイルムとその上に設けられる層(接着層、配向膜、あるいは光学異方性層)との接着性を改善するために、ポリマーフイルムに表面処理(例、グロー放電処理、コロナ放電処理、紫外線処理、火炎処理)を実施してもよい。また、特開平7−333433号公報に記載のようにポリマーフイルム上に接着層(下塗り層)を設けてもよい。接着層の厚
みは0.1乃至2.0μであることが好ましく、0.2μ乃至1.0μであることがさらに好ましい。
【0017】
[弾性率制御]
液晶表示装置に用いられる偏光板は、適当な角度、および大きさに打ち抜かれ、粘着剤を介してパネルに貼り合わせられる。パネルに熱が加わると、光学補償シートは収縮(もしくは膨張)しようとするが、粘着剤にその変形が抑制されるために、あたかも見かけ上、延伸(もしくは圧縮)されることで複屈折が発生し、黒表示状態で光漏れが生じる。この、外力が加わったときに、内部に発生する応力に応じて光学異方性(複屈折)を生じる現象を光弾性といい、材料の光弾性係数が大きいほど光学異方性も大きくなり、従って光り漏れも多くなる。
【0018】
すなわち、表示品位に優れる大きなパネルサイズの液晶表示装置を作製するには、この光弾性による光漏れを少なくすれば良いことがわかる。従って、液晶表示装置が発生する熱や、使用環境における熱により光学補償シート内部に発生する応力を減少させるか、光弾性係数の小さな材料を光学補償シートに用いれば良いことがわかる。光学補償シート内部に発生する応力を減少させるには、線膨張係数の小さな材料を光学補償シートに用いればよい。
しかし光学補償シートには、材料の熱的な特性のみではなく、光学的な特性も要求される。従って材料の選定により熱による歪みを解消することは、光学的な特性を犠牲にする場合もあり、上記の方法はいずれも好ましい解決法とはいえない。
【0019】
本発明者の鋭意研究により、同じ材料でもその弾性率を調整することで、材料の光弾性係数を小さくできることが判明した。すなわち、光学補償シートに用いられる材料の弾性率を調整することで、光学的な特性が優れた材料に、さらに、熱による複屈折の発現(液晶表示装置においては、黒表示状態での光漏れ)が少ない特性を付加できることを見出した。
【0020】
光学補償シートと偏光膜を一体とした偏光板においては、光学補償シートの面内の少なくとも1方向の弾性率が4000乃至10000MPaであることが好ましく、5000乃至10000であることがさらに好ましい。
光学補償シートの弾性率は、ポリマーフイルム(および重合性液晶化合物)を延伸処理することで制御することができる。
ポリマーフイルムの厚さは、40乃至200μmであることが好ましく、70乃至150μmであることがさらに好ましい。
延伸倍率は、5乃至100%であることが好ましく、10乃至90%がさらに好ましく、20乃至70%であることが最も好ましい。このポリマーフイルムの面内の遅相軸と偏光板の透過軸が平行になるようにロールtoロールで貼り合わせられるようにポリマーフイルムが延伸されることが好ましく、具体的には搬送方向に対して横方向に延伸されることが好ましい。横方向に延伸する方法としては、テンター法が好ましく用いられる。
【0021】
延伸時のフイルム温度は、ポリマーフイルムのTg(ガラス転移温度)±30度が好ましく、Tg±25度がさらに好ましく、Tg±20度が最も好ましい。加熱方法としては、大別してロール加熱法と熱風加熱法があり、前者は特公昭39−29214号で知られている。一方、熱風加熱により幅方向の温度分布を制御し、フイルム幅方向の物性値(弾性率、光学特性など)を均一化することが好ましい。このために、熱風加熱に2次元ノズルとすることが好ましい。
テンター方式による横延伸の場合、ボウイング現象を防ぐために、横延伸後に一度Tg以下に冷却した後、延伸応力を解放し、再び熱処理する延伸方法とすることが好ましい。これら延伸技術の詳細に関しては、「プラスティックフイルムの延伸技術と評価」(情報
技術協会1992.10.16発行)に記載がある。
弾性率は、引っ張り試験機に幅50mm、厚み100μm、長さ100mmのストリプスを装着し、常温常湿での応力−歪み曲線より計算で求めた。
【0022】
[レターデーション制御]
ポリマーフイルムのレターデーションを調整するためには、延伸等の外力を与える方法が一般的である。また、ポリマーフイルムに、欧州特許0911656A2号明細書に記載されているように、少なくとも二つの芳香族環を有する芳香族化合物をレターデーション上昇剤を使用してレターデーションの調整をすることができる。
ポリマーフイルムとしてセルロースアセテートフイルムを用いる場合、芳香族化合物は、セルロースアセテート100質量部に対して、0.01乃至20質量部の範囲で使用する。芳香族化合物は、セルロースアセテート100質量部に対して、0.05乃至15質量部の範囲で使用することが好ましく、0.1乃至10質量部の範囲で使用することがさらに好ましい。二種類以上の芳香族化合物を併用してもよい。芳香族化合物の芳香族環には、芳香族炭化水素環に加えて、芳香族性ヘテロ環を含む。
【0023】
芳香族化合物が有する芳香族環の数は、2乃至20であることが好ましく、2乃至12であることがより好ましく、2乃至8であることがさらに好ましく、3乃至6であることが最も好ましい。
二つの芳香族環の結合関係は、(a)縮合環を形成する場合、(b)単結合で直結する場合および(c)連結基を介して結合する場合に分類できる(芳香族環のため、スピロ結合は形成できない)。結合関係は、(a)〜(c)のいずれでもよい。
【0024】
(a)の縮合環(二つ以上の芳香族環の縮合環)の例には、インデン環、ナフタレン環、アズレン環、フルオレン環、フェナントレン環、アントラセン環、アセナフチレン環、ナフタセン環、ピレン環、インドール環、イソインドール環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、インドリジン環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環、プリン環、インダゾール環、クロメン環、キノリン環、イソキノリン環、キノリジン環、キナゾリン環、シンノリン環、キノキサリン環、フタラジン環、プテリジン環、カルバゾール環、アクリジン環、フェナントリジン環、キサンテン環、フェナジン環、フェノチアジン環、フェノキサチイン環、フェノキサジン環およびチアントレン環が含まれる。ナフタレン環、アズレン環、インドール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環およびキノリン環が好ましい。
(b)の単結合は、二つの芳香族環の炭素原子間の結合であることが好ましい。二以上の単結合で二つの芳香族環を結合して、二つの芳香族環の間に脂肪族環または非芳香族性複素環を形成してもよい。
【0025】
(c)の連結基も、二つの芳香族環の炭素原子と結合することが好ましい。連結基は、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、−CO−、−O−、−NH−、−S−またはそれらの組み合わせであることが好ましい。組み合わせからなる連結基の例を以下に示す。なお、以下の連結基の例の左右の関係は、逆になってもよい。
c1:−CO−O−
c2:−CO−NH−
c3:−アルキレン−O−
c4:−NH−CO−NH−
c5:−NH−CO−O−
c6:−O−CO−O−
c7:−O−アルキレン−O−
c8:−CO−アルケニレン−
c9:−CO−アルケニレン−NH−
c10:−CO−アルケニレン−O−
c11:−アルキレン−CO−O−アルキレン−O−CO−アルキレン−
c12:−O−アルキレン−CO−O−アルキレン−O−CO−アルキレン−O−
c13:−O−CO−アルキレン−CO−O−
c14:−NH−CO−アルケニレン−
c15:−O−CO−アルケニレン−
【0026】
芳香族環および連結基は、置換基を有していてもよい。
置換基の例には、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I)、ヒドロキシル、カルボキシル、シアノ、アミノ、ニトロ、スルホ、カルバモイル、スルファモイル、ウレイド、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、脂肪族アシル基、脂肪族アシルオキシ基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アルコキシカルボニルアミノ基、アルキルチオ基、アルキルスルホニル基、脂肪族アミド基、脂肪族スルホンアミド基、脂肪族置換アミノ基、脂肪族置換カルバモイル基、脂肪族置換スルファモイル基、脂肪族置換ウレイド基および非芳香族性複素環基が含まれる。
【0027】
アルキル基の炭素原子数は、1乃至8であることが好ましい。環状アルキル基よりも鎖状アルキル基の方が好ましく、直鎖状アルキル基が特に好ましい。アルキル基は、さらに置換基(例、ヒドロキシ、カルボキシ、アルコキシ基、アルキル置換アミノ基)を有していてもよい。アルキル基の(置換アルキル基を含む)例には、メチル、エチル、n−ブチル、n−ヘキシル、2−ヒドロキシエチル、4−カルボキシブチル、2−メトキシエチルおよび2−ジエチルアミノエチルが含まれる。
アルケニル基の炭素原子数は、2乃至8であることが好ましい。環状アルケニル基よりも鎖状アルケニル基の方が好ましく、直鎖状アルケニル基が特に好ましい。アルケニル基は、さらに置換基を有していてもよい。アルケニル基の例には、ビニル、アリルおよび1−ヘキセニルが含まれる。
アルキニル基の炭素原子数は、2乃至8であることが好ましい。環状アルキケニル基よりも鎖状アルキニル基の方が好ましく、直鎖状アルキニル基が特に好ましい。アルキニル基は、さらに置換基を有していてもよい。アルキニル基の例には、エチニル、1−ブチニルおよび1−ヘキシニルが含まれる。
【0028】
脂肪族アシル基の炭素原子数は、1乃至10であることが好ましい。脂肪族アシル基の例には、アセチル、プロパノイルおよびブタノイルが含まれる。
脂肪族アシルオキシ基の炭素原子数は、1乃至10であることが好ましい。脂肪族アシルオキシ基の例には、アセトキシが含まれる。
アルコキシ基の炭素原子数は、1乃至8であることが好ましい。アルコキシ基は、さらに置換基(例、アルコキシ基)を有していてもよい。アルコキシ基の(置換アルコキシ基を含む)例には、メトキシ、エトキシ、ブトキシおよびメトキシエトキシが含まれる。
アルコキシカルボニル基の炭素原子数は、2乃至10であることが好ましい。アルコキシカルボニル基の例には、メトキシカルボニルおよびエトキシカルボニルが含まれる。
アルコキシカルボニルアミノ基の炭素原子数は、2乃至10であることが好ましい。アルコキシカルボニルアミノ基の例には、メトキシカルボニルアミノおよびエトキシカルボニルアミノが含まれる。
【0029】
アルキルチオ基の炭素原子数は、1乃至12であることが好ましい。アルキルチオ基の例には、メチルチオ、エチルチオおよびオクチルチオが含まれる。
アルキルスルホニル基の炭素原子数は、1乃至8であることが好ましい。アルキルスルホニル基の例には、メタンスルホニルおよびエタンスルホニルが含まれる。脂肪族アミド基の炭素原子数は、1乃至10であることが好ましい。脂肪族アミド基の例には、アセト
アミドが含まれる。
脂肪族スルホンアミド基の炭素原子数は、1乃至8であることが好ましい。脂肪族スルホンアミド基の例には、メタンスルホンアミド、ブタンスルホンアミドおよびn−オクタンスルホンアミドが含まれる。
脂肪族置換アミノ基の炭素原子数は、1乃至10であることが好ましい。脂肪族置換アミノ基の例には、ジメチルアミノ、ジエチルアミノおよび2−カルボキシエチルアミノが含まれる。
脂肪族置換カルバモイル基の炭素原子数は、2乃至10であることが好ましい。脂肪族置換カルバモイル基の例には、メチルカルバモイルおよびジエチルカルバモイルが含まれる。
脂肪族置換スルファモイル基の炭素原子数は、1乃至8であることが好ましい。脂肪族置換スルファモイル基の例には、メチルスルファモイルおよびジエチルスルファモイルが含まれる。
脂肪族置換ウレイド基の炭素原子数は、2乃至10であることが好ましい。脂肪族置換ウレイド基の例には、メチルウレイドが含まれる。
非芳香族性複素環基の例には、ピペリジノおよびモルホリノが含まれる。
レターデーション上昇剤の分子量は、300乃至800であることが好ましい。
【0030】
[ポリマーフイルムの製造]
ポリマーフイルムは、ソルベントキャスト法により製造することが好ましい。ソルベントキャスト法では、ポリマー材料を有機溶媒に溶解した溶液(ドープ)を用いてフイルムを製造する。ドープには、前記のレターデーション上昇剤を添加することが好ましい。
本発明のポリマーフイルムの製造を、セルロースアセテートを例に具体的に説明する。
有機溶媒は、炭素原子数が3乃至12のエーテル、炭素原子数が3乃至12のケトン、炭素原子数が3乃至12のエステル、および炭素原子数が1乃至6のハロゲン化炭化水素から選ばれる溶媒を含むことが好ましい。
エーテル、ケトンおよびエステルは、環状構造を有していてもよい。エーテル、ケトン、およびエステルの官能基(すなわち、−O−、−CO−および−COO−)のいずれかを二つ以上有する化合物も、有機溶媒として用いることができる。有機溶媒は、アルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。二種類以上の官能基を有する有機溶媒の場合、その炭素原子数は、いずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であればよい。
【0031】
炭素原子数が3乃至12のエーテル類の例としては、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソール、およびフェネトールなどが挙げられる。
炭素原子数が3乃至12のケトン類の例としては、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、およびメチルシクロヘキサノンなどが挙げられる。
炭素原子数が3乃至12のエステル類の例としては、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテート、およびペンチルアセテートなどが挙げられる。
二種類以上の官能基を有する有機溶媒の例としては、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノール、および2−ブトキシエタノールなどが挙げられる。
ハロゲン化炭化水素の炭素原子数は、1もしくは2であることがより好ましく、1であることが最も好ましい。ハロゲン化炭化水素のハロゲンは、塩素であることが好ましい。ハロゲン化炭化水素の水素原子が、ハロゲンに置換されている割合は、25乃至75モル%であることが好ましく、30乃至70モル%であることがより好ましく、35乃至65モル%であることがさらに好ましく、40乃至60モル%であることが最も好ましい。ハロゲン化炭化水素の代表的な例としては、メチレンクロリドを挙げることができる。
また、二種類以上の有機溶媒を混合して用いてもよい。
【0032】
一般的な方法でセルロースアセテート溶液を調製できる。一般的な方法とは、0℃以上の温度(常温または高温)で、処理することを意味する。溶液の調製は、通常のソルベントキャスト法における、ドープの調製方法および装置を用いて実施することができる。なお、一般的な方法の場合は、有機溶媒としてハロゲン化炭化水素(特にメチレンクロリド)を用いることが好ましい。
セルロースアセテートの量は、得られる溶液中に10乃至40質量%含まれるように調整する。セルロースアセテートの量は、10乃至30質量%であることがさらに好ましい。有機溶媒(主溶媒)中には、後述する任意の添加剤を添加しておいてもよい。
溶液は、常温(0乃至40℃)でセルロースアセテートと有機溶媒とを攪拌することにより調製することができる。高濃度の溶液は、加圧および加熱条件下で攪拌してもよい。具体的には、セルロースアセテートと有機溶媒とを加圧容器に入れて密閉し、加圧下で溶媒の常温における沸点以上、かつ溶媒が沸騰しない範囲の温度に加熱しながら攪拌する。加熱温度は、通常は40℃以上であり、好ましくは60乃至200℃であり、さらに好ましくは80乃至110℃である。
【0033】
各成分は予め粗混合してから容器に入れてもよい。また、順次容器に投入してもよい。容器は攪拌できるように構成されている必要がある。窒素ガス等の不活性気体を注入して容器を加圧することができる。また、加熱による溶媒の蒸気圧の上昇を利用してもよい。あるいは、容器を密閉後、各成分を圧力下で添加してもよい。加熱する場合、容器の外部より加熱することが好ましい。例えば、ジャケットタイプの加熱装置を用いることができる。また、容器の外部にプレートヒーターを設け、配管して液体を循環させることにより容器全体を加熱することもできる。
容器内部に攪拌翼を設けて、これを用いて攪拌することが好ましい。攪拌翼は、容器の壁付近に達する長さのものが好ましい。攪拌翼の末端には、容器の壁の液膜を更新するため、掻取翼を設けることが好ましい。容器には、圧力計、温度計等の計器類を設置してもよい。容器内で各成分を溶媒中に溶解する。調製したドープは冷却後容器から取り出すか、あるいは、取り出した後、熱交換器等を用いて冷却する。
【0034】
冷却溶解法により、溶液を調製することもできる。冷却溶解法では、通常の溶解方法では溶解させることが困難な有機溶媒中にも、セルロースアセテートを溶解させることができる。なお、通常の溶解方法でセルロースアセテートを溶解できる溶媒であっても、冷却溶解法によると迅速に均一な溶液が得られるとの効果がある。冷却溶解法では最初に、室温で有機溶媒中にセルロースアセテートを撹拌しながら徐々に添加する。
セルロースアセテートの量は、この混合物中に10乃至40質量%含まれるように調整することが好ましい。セルロースアセテートの量は、10乃至30質量%であることがさらに好ましい。さらに、混合物中には後述する任意の添加剤を添加しておいてもよい。
【0035】
次に、混合物を−100乃至−10℃(好ましくは−80乃至−10℃、さらに好ましくは−50乃至−20℃、最も好ましくは−50乃至−30℃)に冷却する。冷却は、例えば、ドライアイス・メタノール浴(−75℃)や冷却したジエチレングリコール溶液(−30乃至−20℃)中で実施できる。このように冷却すると、セルロースアセテートと有機溶媒の混合物は固化する。
冷却速度は、4℃/分以上であることが好ましく、8℃/分以上であることがさらに好ましく、12℃/分以上であることが最も好ましい。冷却速度は、速いほど好ましいが、10000℃/秒が理論的な上限であり、1000℃/秒が技術的な上限であり、そして100℃/秒が実用的な上限である。なお、冷却速度は、冷却を開始する時の温度と最終的な冷却温度との差を冷却を開始してから最終的な冷却温度に達するまでの時間で割った値である。
【0036】
さらに、これを0乃至200℃(好ましくは0乃至150℃、さらに好ましくは0乃至120℃、最も好ましくは0乃至50℃)に加温すると、有機溶媒中にセルロースアセテートが溶解する。昇温は、室温中に放置するだけでもよし、温浴中で加温してもよい。
加温速度は、4℃/分以上であることが好ましく、8℃/分以上であることがさらに好ましく、12℃/分以上であることが最も好ましい。加温速度は、速いほど好ましいが、10000℃/秒が理論的な上限であり、1000℃/秒が技術的な上限であり、そして100℃/秒が実用的な上限である。なお、加温速度は、加温を開始する時の温度と最終的な加温温度との差を、加温を開始してから最終的な加温温度に達するまでの時間で割った値である。
以上のようにして、均一な溶液が得られる。なお、溶解が不充分である場合は冷却、加温の操作を繰り返してもよい。溶解が充分であるかどうかは、目視により溶液の外観を観察するだけで判断することができる。
【0037】
冷却溶解法においては、冷却時の結露による水分混入を避けるため、密閉容器を用いることが望ましい。また、冷却加温操作において、冷却時に加圧し、加温時に減圧すると、溶解時間を短縮することができる。加圧および減圧を実施するためには、耐圧性容器を用いることが望ましい。
なお、セルロースアセテート(酢化度:60.9%、粘度平均重合度:299)を冷却溶解法によりメチルアセテート中に溶解した20質量%の溶液は、示差走査熱量測定(DSC)によると、33℃近傍にゾル状態とゲル状態との疑似相転移点が存在し、この温度以下では均一なゲル状態となる。従って、この溶液は疑似相転移温度以上、好ましくはゲル相転移温度プラス10℃程度の温度で保管する必要がある。ただし、この疑似相転移温度は、セルロースアセテートの酢化度、粘度平均重合度、溶液濃度や使用する有機溶媒により異なる。
【0038】
調製したセルロースアセテート溶液(ドープ)から、ソルベントキャスト法によりセルロースアセテートフイルムを製造する。ドープには、前記のレターデーション上昇剤を添加することが好ましい。
ドープは、ドラムまたはバンド上に流延し、溶媒を蒸発させてフイルムを形成する。流延前のドープは、固形分量が18乃至35%となるように濃度を調整することが好ましい。ドラムまたはバンドの表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。ソルベントキャスト法における流延および乾燥方法については、米国特許2336310号、同2367603号、同2492078号、同2492977号、同2492978号、同2607704号、同2739069号、同2739070号、英国特許640731号、同736892号の各明細書、特公昭45−4554号、同49−5614号、特開昭60−176834号、同60−203430号、同62−115035号の各公報に記載がある。
ドープは、表面温度が10℃以下のドラムまたはバンド上に流延することが好ましい。流延してから2秒以上風に当てて乾燥することが好ましい。得られたフイルムをドラムまたはバンドから剥ぎ取り、さらに100から160℃まで逐次温度を変えた高温風で乾燥して残留溶媒を蒸発させることもできる。以上の方法は、特公平5−17844号公報に記載がある。この方法によると、流延から剥ぎ取りまでの時間を短縮することが可能である。この方法を実施するためには、流延時のドラムまたはバンドの表面温度においてドープがゲル化することが必要である。
【0039】
セルロースアセテートフイルムには、機械的物性を改良するため、または乾燥速度を向上するために、可塑剤を添加することができる。可塑剤としては、リン酸エステルまたはカルボン酸エステルが用いられる。リン酸エステルの例には、トリフェニルホスフェート(TPP)およびトリクレジルホスフェート(TCP)が含まれる。カルボン酸エステル
としては、フタル酸エステルおよびクエン酸エステルが代表的である。フタル酸エステルの例には、ジメチルフタレート(DMP)、ジエチルフタレート(DEP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジオクチルフタレート(DOP)、ジフェニルフタレート(DPP)およびジエチルヘキシルフタレート(DEHP)が含まれる。クエン酸エステルの例には、O−アセチルクエン酸トリエチル(OACTE)およびO−アセチルクエン酸トリブチル(OACTB)が含まれる。その他のカルボン酸エステルの例には、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、種々のトリメリット酸エステルが含まれる。フタル酸エステル系可塑剤(DMP、DEP、DBP、DOP、DPP、DEHP)が好ましく用いられる。DEPおよびDPPが特に好ましい。
可塑剤の添加量は、セルロースエステルの量の0.1乃至25質量%であることが好ましく、1乃至20質量%であることがさらに好ましく、3乃至15質量%であることが最も好ましい。
【0040】
セルロースアセテートフイルムには、劣化防止剤(例、酸化防止剤、過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤、アミン)を添加してもよい。劣化防止剤については、特開平3−199201号、同5−1907073号、同5−194789号、同5−271471号、同6−107854号の各公報に記載がある。劣化防止剤の添加量は、調製する溶液(ドープ)の0.01乃至1質量%であることが好ましく、0.01乃至0.2質量%であることがさらに好ましい。添加量が0.01質量%未満であると、劣化防止剤の効果がほとんど認められない。添加量が1質量%を越えると、フイルム表面への劣化防止剤のブリードアウト(滲み出し)が認められる場合がある。特に好ましい劣化防止剤の例としては、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、トリベンジルアミン(TBA)を挙げることができる。
【0041】
セルロースアセテートフイルムは、さらに延伸処理によりレターデーションを調整することができる。延伸倍率は、3乃至100%であることが好ましい。
セルロースアセテートフイルムの厚さは、40乃至140μmであることが好ましく、70乃至120μmであることがさらに好ましい。
【0042】
[ポリマーフイルムの表面処理]
光学補償シートと偏光膜を接着して偏光板を作製する場合、光学補償シートに用いられるポリマーフイルムと偏光膜の接着性の観点から、表面処理を実施することが好ましい。表面処理の例として、ケン化処理、プラズマ処理、火炎処理、および紫外線照射処理が挙げられる。ケン化処理には、酸ケン化処理およびアルカリケン化処理が含まれる。プラズマ処理にはコロナ放電処理およびグロー放電処理が含まれる。フイルムの平面性を保つために、これらの表面処理においては、ポリマーフイルムの温度をガラス転移温度(Tg)以下とすることが好ましい。
【0043】
以下、アルカリ鹸化処理を行う例について、具体的に説明する。
アルカリケン化処理は、ポリマーフイルムをアルカリ溶液に浸漬した後、酸性溶液で中和し、水洗して乾燥するサイクルで行われることが好ましい。アルカリ溶液の例としては、水酸化カリウム溶液、および水酸化ナトリウム溶液が挙げられる。アルカリ溶液中の水酸化イオンの規定濃度は、0.1N乃至3.0Nであることが好ましく、0.5N乃至2.0Nであることがさらに好ましい。アルカリ溶液の温度は、0乃至90℃の範囲が好ましく、40乃至70℃がさらに好ましい。
【0044】
次に、ポリマーフイルムと液晶性化合物を含む光学異方性層とを積層してなる、別な本発明の光学補償シートについて説明する。
上記のように得られた、ポリマーフイルムのみからなる本発明の光学補償シートに、液晶性化合物を含む光学異方性層を設けることにより、延伸複屈折フイルムでは得ることが
できない光学的性質を有する、別な本発明の光学補償シートを作製することができる。光学異方性層を有する光学補償シートは、前記のポリマーフイルムの上に、配向膜を塗設し、液晶性化合物を含む光学異方性層を形成することにより作製することができる。
また、ポリマーフイルムと配向膜の間に、密着層(下塗り層)を設けてもよい。密着層については、特開平7−333433号公報に記載がある。密着層の厚さは、0.1乃至2μmであることが好ましく、0.2乃至1μmであることがさらに好ましい。
【0045】
[配向膜]
配向膜は、光学異方性層の液晶性化合物の配向方向を規定する機能を有する。
配向膜は、有機化合物(好ましくはポリマー)のラビング処理、無機化合物の斜方蒸着、マイクログルーブを有する層の形成、あるいはラングミュア・ブロジェット法(LB膜)による有機化合物(例、ω−トリコサン酸、ジオクタデシルメチルアンモニウムクロライド、ステアリル酸メチル)の累積のような手段で、設けることができる。さらに、電場の付与、磁場の付与あるいは光照射により、配向機能が生じる配向膜も知られている。
【0046】
配向膜は、ポリマーのラビング処理により形成することが好ましい。ポリビニルアルコールが、好ましいポリマーである。疎水性基が結合している変性ポリビニルアルコールが特に好ましい。疎水性基は光学異方性層の液晶性化合物と親和性があるため、疎水性基をポリビニルアルコールに導入することで、液晶性化合物を均一に配向させることができる。疎水性基は、ポリビニルアルコールの主鎖末端または側鎖に結合させる。
疎水性基は、炭素原子数が6以上の脂肪族基(好ましくはアルキル基またはアルケニル基)または芳香族基が好ましい。
ポリビニルアルコールの主鎖末端に疎水性基を結合させる場合は、疎水性基と主鎖末端との間に連結基を導入することが好ましい。連結基の例には、−S−、−C(CN)R1
−、−NR2 −、−CS−およびそれらの組み合わせが含まれる。上記R1 およびR2 は、それぞれ、水素原子または炭素原子数が1乃至6のアルキル基(好ましくは、炭素原子数が1乃至6のアルキル基)である。
【0047】
ポリビニルアルコールの側鎖に疎水性基を導入する場合は、ポリビニルアルコールの酢酸ビニル単位のアセチル基(−CO−CH)の一部を、炭素原子数が7以上のアシル基(−CO−R)に置き換えればよい。Rは、炭素原子数が6以上の脂肪族基または芳香族基である。
市販の変性ポリビニルアルコール(例、MP103、MP203、R1130、クラレ(株)製)を用いてもよい。
配向膜に用いる(変性)ポリビニルアルコールのケン化度は、80%以上であることが好ましい。(変性)ポリビニルアルコールの重合度は、200以上であることが好ましい。
ラビング処理は、配向膜の表面を、紙や布で一定方向に、数回こすることにより実施する。長さおよび太さが均一な繊維を均一に植毛した布を用いることが好ましい。
【0048】
なお、配向膜は、液晶性化合物が配向した光学異方性層の製造において必須であるが、光学補償フイルムにおいては必須ではない。従って、光学異方性層の液晶性化合物が配向した後に、その配向状態の液晶性化合物を固定させれば、光学異方性層のみを別の透明支持体に移して光学補償フイルムとすることも可能である。
配向膜を透明支持体と光学異方性層との間に設ける場合は、さらに下塗り層(接着層)を透明支持体と配向膜との間に設けることが好ましい。
【0049】
[光学異方性層]
光学異方性層に含まれる液晶性化合物には、棒状液晶性化合物、あるいは円盤状液晶性化合物が含まれる。棒状液晶性化合物は、棒状液晶性分子を配向させて、その配向状態を
固定してなる。円盤状液晶性化合物は、円盤状液晶性分子を配向させて、その配向状態を固定してなる。
棒状液晶性分子としては、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類およびアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が好ましく用いられる。
棒状液晶性分子の複屈折率は、0.001乃至0.7であることが好ましい。棒状液晶性分子は、その配向状態を固定するために、重合性基を有することが好ましい。重合性基の例は、後述円盤状化合物の重合性基の例と同様である。
棒状液晶性分子は、短軸方向に対してほぼ対称となる分子構造を有することが好ましい。そのためには、棒状分子構造の両端に重合性基を有することが好ましい。
【0050】
光学異方性層は、負の一軸性を有し傾斜配向した円盤状化合物を含む層であることが好ましい。円盤状化合物は、図2に示したように、円盤状化合物の円盤面と透明支持体面とのなす角が、光学異方性層の深さ方向において変化している(ハイブリッド配向している)ことが好ましい。円盤状化合物の光軸は、円盤面の法線方向に存在する。円盤状化合物は、光軸方向の屈折率よりも円盤面方向の屈折率が大きな複屈折性を有する。
光学異方性層は、後述する配向膜によって円盤状化合物を配向させ、その配向状態の円盤状化合物を固定することによって形成することが好ましい。円盤状化合物は、重合反応により固定することが好ましい。
なお、光学異方性層には、レターデーション値が0となる方向が存在しない。言い換えると、光学異方性層のレターデーションの最小値は、0を越える値である。
【0051】
円盤状化合物は、様々な文献(C. Destrade et al., Mol. Crysr. Liq. Cryst., vol. 71, page 111 (1981) ;日本化学会編、季刊化学総説、No.22、液晶の化学、第5章、第10章第2節(1994);B. Kohne et al., Angew. Chem. Soc. Chem. Comm., page 1794 (1985);J. Zhang et al., J. Am. Chem. Soc., vol. 116, page 2655 (1994))に記載されている。円盤状化合物の重合については、特開平8−27284公報に記載がある。
円盤状化合物を重合により固定するためには、円盤状化合物の円盤状コアに、置換基として重合性基を結合させる必要がある。ただし、円盤状コアに重合性基を直結させると、重合反応において配向状態を保つことが困難になる。そこで、円盤状コアと重合性基との間に、連結基を導入する。従って、重合性基を有する円盤状化合物は、下記式(III)で表わされる化合物であることが好ましい。
【0052】
(III) D(−L−P)n
式中、Dは円盤状コアであり;Lは二価の連結基であり、Pは重合性基であり、そして、nは4乃至12の整数である。
円盤状コア(D)の例を以下に示す。以下の各例において、LP(またはPL)は、二価の連結基(L)と重合性基(P)との組み合わせを意味する。
【0053】
【化1】

【0054】
【化2】

【0055】
【化3】

【0056】
【化4】

【0057】
【化5】

【0058】
【化6】

【0059】
【化7】

【0060】
【化8】

【0061】
【化9】

【0062】
式(III)において、二価の連結基(L)は、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、−CO−、−NH−、−O−、−S−およびそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基であることが好ましい。二価の連結基(L)は、アルキレン基、アリーレン基、−CO−、−NH−、−O−および−S−からなる群より選ばれる二価の基を少なくとも二つ組み合わせた二価の連結基であることがさらに好ましい。二価の連結基(L)は、アルキレン基、アリーレン基、−CO−および−O−からなる群より選ばれる二価の基を少なくとも二つ組み合わせた二価の連結基であることが最も好ましい。アルキレン基の炭素原子数は、1乃至12であることが好ましい。アルケニレン基の炭素原子数は、2乃至12であることが好まし。アリーレン基の炭素原子数は、6乃至10であることが好ましい。
【0063】
二価の連結基(L)の例を以下に示す。左側が円盤状コア(D)に結合し、右側が重合性基(P)に結合する。ALはアルキレン基またはアルケニレン基、ARはアリーレン基を意味する。なお、アルキレン基、アルケニレン基およびアリーレン基は、置換基(例、アルキル基)を有していてもよい。
L1:−AL−CO−O−AL−
L2:−AL−CO−O−AL−O−
L3:−AL−CO−O−AL−O−AL−
L4:−AL−CO−O−AL−O−CO−
L5:−CO−AR−O−AL−
L6:−CO−AR−O−AL−O−
L7:−CO−AR−O−AL−O−CO−
L8:−CO−NH−AL−
L9:−NH−AL−O−
L10:−NH−AL−O−CO−
【0064】
L11:−O−AL−
L12:−O−AL−O−
L13:−O−AL−O−CO−
L14:−O−AL−O−CO−NH−AL−
L15:−O−AL−S−AL−
L16:−O−CO−AR−O−AL−CO−
L17:−O−CO−AR−O−AL−O−CO−
L18:−O−CO−AR−O−AL−O−AL−O−CO−
L19:−O−CO−AR−O−AL−O−AL−O−AL−O−CO−
L20:−S−AL−
L21:−S−AL−O−
L22:−S−AL−O−CO−
L23:−S−AL−S−AL−
L24:−S−AR−AL−
【0065】
式(III)の重合性基(P)は、重合反応の種類に応じて決定する。重合性基(P)の例を以下に示す。
【0066】
【化10】

【0067】
【化11】

【0068】
【化12】

【0069】
【化13】

【0070】
【化14】

【0071】
【化15】

【0072】
重合性基(P)は、不飽和重合性基(P1、P2、P3、P7、P8、P15、P16、P17)またはエポキシ基(P6、P18)であることが好ましく、不飽和重合性基であることがさらに好ましく、エチレン性不飽和重合性基(P1、P7、P8、P15、P16、P17)であることが最も好ましい。
式(III)において、nは4乃至12の整数である。具体的な数字は、円盤状コア(D)の種類に応じて決定される。なお、複数のLとPの組み合わせは、異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
光学異方性層は、円盤状化合物および必要に応じて重合性開始剤や任意の成分を含む塗布液を、配向膜の上に塗布することで形成できる。
【0073】
配向させた円盤状化合物を、配向状態を維持して固定する。固定化は、重合反応により実施することが好ましい。重合反応には、熱重合開始剤を用いる熱重合反応と光重合開始剤を用いる光重合反応とが含まれる。光重合反応が好ましい。
光重合開始剤の例には、α−カルボニル化合物(米国特許2367661号、同2367670号の各明細書記載)、アシロインエーテル(米国特許2448828号明細書記載)、α−炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許2722512号明細書記載)、多核キノン化合物(米国特許3046127号、同2951758号の各明細書記載)、トリアリールイミダゾールダイマーとp−アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許3549367号明細書記載)、アクリジンおよびフェナジン化合物(特開昭60−105667号公報、米国特許4239850号明細書記載)およびオキサジアゾール化合物(米国特許4212970号明細書記載)が含まれる。
【0074】
光重合開始剤の使用量は、塗布液の固形分の0.01乃至20質量%であることが好ましく、0.5乃至5質量%であることがさらに好ましい。
円盤状化合物の重合のための光照射は、紫外線を用いることが好ましい。
照射エネルギーは、20乃至5000mJ/cm2 であることが好ましく、100乃至800mJ/cm2 であることがさらに好ましい。また、光重合反応を促進するため、加熱条件下で光照射を実施してもよい。
保護層を、光学異方性層の上に設けてもよい。
【0075】
[偏光板]
一般に、液晶表示装置に用いられる偏光板は、偏光膜およびその両側に配置された二枚
の透明保護膜からなる。偏光膜には、ヨウ素系偏光膜、二色性染料を用いる染料系偏光膜やポリエン系偏光膜がある。ヨウ素系偏光膜および染料系偏光膜は、一般にポリビニルアルコール系フイルムを用いて製造する。
そして、偏光板の一方の保護膜を、上記のポリマーフイルムからなる光学補償シート、もしくは、ポリマーフイルムと液晶性化合物を含む光学異方性層とを積層してなる光学補償シートとすることで、本発明の偏光板を作製することができる。また、偏光膜の他方の保護膜として、通常のセルロースアセテートフイルムを積層してもよい。このようにして、弾性率が4000乃至10000MPaの範囲にある光学補償シートと偏光膜を(接着剤を介して)積層することにより本発明の偏光板を得ることが出来る。
本発明の偏光板において、ポリマーフイルムの遅相軸と偏光膜の透過軸の関係は、適用される液晶表示装置の種類により異なる。本発明の偏光板を、TN、MVA、およびOCBモードの液晶表示装置に用いる場合は、ポリマーフイルムの遅相軸と偏光膜の透過軸を実質的に平行になるように配置し、反射型液晶表示装置に用いる場合は、ポリマーフイルムの遅相軸と偏光膜の透過軸を実質的に45度となるように配置することが好ましい。
【0076】
[液晶表示装置]
本発明の光学補償シートまたはそれを用いる偏光板は、透過型液晶表示装置あるいは反射型液晶表示装置に有利に用いられる。
透過型液晶表示装置の例としては、TN、MVA、およびOCBモードの液晶表示装置液晶が挙げられる。これらの液晶表示装置は、セルおよびその両側に配置された二枚の偏光板からなる。液晶セルは、二枚の電極基板の間に液晶を坦持している。OCBモードの液晶表示装置の場合、本発明の光学補償シートは、ポリマーフイルム上に円盤状化合物、もしくは棒状液晶化合物を含む光学異方性層を有することが好ましい。円盤状化合物は、一般に大きな複屈折率を有する。また、円盤状化合物には、多様な配向形態がある。従って、円盤状化合物を用いることで、従来の延伸複屈折フイルムでは得ることができない光学的性質を有する光学補償シートを製造することができる。円盤状化合物を用いた光学補償シートについては、特開平6−214116号公報、米国特許5583679号、同5646703号、西独特許公報3911620A1号の各明細書に記載がある。
【0077】
本発明の光学補償シートを液晶表示装置に用いる場合は、光学補償シートを、液晶セルと一方の偏光板との間に、一枚配置するか、あるいは液晶セルと双方の偏光板との間に二枚配置する。このように、通常の偏光板と液晶セルとの間に、本発明の光学補償シートを挿入して、従来と同様に液晶セルを光学的に補償し、さらに黒表示での光漏れを少なくすることができる。
本発明の偏光板を液晶表示装置に用いる場合は、液晶表示装置の二枚の偏光板のうちの少なくとも一方の偏光板を、本発明の偏光板とすればよい。本発明の偏光板を用いることで、優れた視野角特性が得られ、そして熱による光学補償シートの歪みも減少するため、液晶パネルサイズの大型化にも十分対応できる。
【0078】
VAモードの液晶セルでは、電圧無印加時に棒状液晶性分子が実質的に垂直に配向している。VAモードの液晶セルには、(1)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直に配向させ、電圧印加時に実質的に水平に配向させる狭義のVAモードの液晶セル(特開平2−176625号公報記載)に加えて、(2)視野角拡大のため、VAモードをマルチドメイン化した(MVAモードの)液晶セル(SID97、Digest of tech. Papers(予稿集)28(1997)845記載)、(3)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直配向させ、電圧印加時にねじれマルチドメイン配向させるモード(n−ASMモード)の液晶セル(日本液晶討論会の予稿集58〜59(1998)記載)および(4)SURVAIVALモードの液晶セル(LCDインターナショナル98で発表)が含まれる。
【0079】
OCBモードの液晶セルは、棒状液晶性分子を液晶セルの上部と下部とで実質的に逆の方向に(対称的に)配向させるベンド配向モードの液晶セルを用いた液晶表示装置であり、米国特許4583825号、同5410422号の各明細書に開示されている。棒状液晶性分子が液晶セルの上部と下部とで対称的に配向しているため、ベンド配向モードの液晶セルは、自己光学補償機能を有する。そのため、この液晶モードは、OCB(Optically
Compensatory Bend) 液晶モードとも呼ばれる。ベンド配向モードの液晶表示装置は、応答速度が速いとの利点がある。
【0080】
TNモードの液晶セルでは、電圧無印加時に棒状液晶性分子が実質的に水平配向し、さらに60乃至120°にねじれ配向している。
TNモードの液晶セルは、カラーTFT液晶表示装置として最も多く利用されており、多数の文献に記載がある。
【実施例】
【0081】
[実施例1]
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、加熱しながら攪拌して、各成分を溶解し、セルロースアセテート溶液を調製した。
【0082】
────────────────────────────────────
セルロースアセテート溶液組成
────────────────────────────────────
酢化度60.9%のセルロースアセテート 100質量部
トリフェニルホスフェート(可塑剤) 7.8質量部
ビフェニルジフェニルホスフェート(可塑剤) 3.9質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 300質量部
メタノール(第2溶媒) 54質量部
1−ブタノール(第3溶媒) 11質量部
────────────────────────────────────
【0083】
別のミキシングタンクに、下記のレターデーション上昇剤16質量部、メチレンクロライド80質量部、およびメタノール20質量部を投入し、加熱しながら攪拌して、レターデーション上昇剤溶液を調製した。
セルロースアセテート溶液474質量部にレターデーション上昇剤溶液25質量部を混合し、充分に攪拌してドープを調製した。レターデーション上昇剤の添加量は、セルロースアセテート100質量部に対して、3.5質量部であった。
【0084】
【化16】

【0085】
得られたドープを、バンド流延機を用いて流延した。残留溶剤量が15質量%のフイル
ムを、130℃の条件で、テンターを用いて33%の延伸倍率で横延伸して、セルロースアセテートフイルム(厚さ:80μm)を製造した。
作製したセルロースアセテートフイルム(光学補償シート)について、エリプソメーター(M−150、日本分光(株)製)を用いて、波長550nmにおけるReレターデーション値およびRthレターデーション値を測定した。結果は第1表に示す。
さらに、作製したセルロースアセテートフイルムの延伸方向の弾性率を測定したところ、5700MPaであった。
【0086】
[実施例2]
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、加熱しながら攪拌して、各成分を溶解し、セルロースアセテート溶液を調製した。
【0087】
────────────────────────────────────
シクロオレフィン溶液組成
────────────────────────────────────
ゼオノア(日本ゼオン製) 100質量部
シクロへキサン(第1溶媒) 400質量部
────────────────────────────────────
【0088】
別のミキシングタンクに、下記のレターデーション上昇剤25質量部、およびシクロへキサン75質量部を投入し、加熱しながら攪拌して、レターデーション上昇剤溶液を調製した。
シクロオレフィン溶液475質量部にレターデーション上昇剤溶液25質量部を混合し、充分に攪拌してドープを調製した。レターデーション上昇剤の添加量は、シクロオレフィン95質量部に対して、5質量部であった。
【0089】
【化17】

【0090】
得られたドープを、バンド流延機を用いて流延した。残留溶剤量が15質量%のフイルムを、150℃の条件で、テンターを用いて45%の延伸倍率で横延伸して、シクロオレフィンフイルム(厚さ:30μm)を製造した。
作製したシクロオレフィンフイルム(光学補償シート)について、エリプソメーター(M−150、日本分光(株)製)を用いて、波長550nmにおけるReレターデーション値およびRthレターデーション値を測定した。結果は第1表に示す。
さらに、作製したシクロオレフィンフイルムの延伸方向の弾性率を測定したところ、4200MPaであった。
【0091】
[実施例3]
レターデーション上昇剤の添加量を、セルロースアセテート100質量部に対して、3
.0質量部となるように調整し、延伸倍率を20%に変更した以外は、実施例1と同様に作製したセルロースアセテートフイルム(光学補償シート)について、エリプソメーター(M−150、日本分光(株)製)を用いて、波長550nmにおけるReレターデーション値およびRthレターデーション値を測定した。結果は第1表に示す。
このセルロースアセテートフイルム上に、下記の組成の塗布液を#16のワイヤーバーコーターで28ml/m2 塗布した。60℃の温風で60秒、さらに90℃の温風で150秒乾燥して、配向膜を形成した。
次に、セルロースアセテートフイルムの遅相軸(波長632.8nmで測定)と45°の方向に、形成した膜にラビング処理を実施した。
【0092】
────────────────────────────────────
配向膜塗布液組成
────────────────────────────────────
下記の変性ポリビニルアルコール 10質量部
水 371質量部
メタノール 119質量部
グルタルアルデヒド(架橋剤) 0.5質量部
────────────────────────────────────
【0093】
【化18】

【0094】
(光学異方性層の形成)
配向膜上に、下記の円盤状(液晶性)化合物41.01g、エチレンオキサイド変成トリメチロールプロパントリアクリレート(V#360、大阪有機化学(株)製)4.06g、セルロースアセテートブチレート(CAB551−0.2、イーストマンケミカル社製)0.90g、セルロースアセテートブチレート(CAB531−1、イーストマンケミカル社製)0.23g、光重合開始剤(イルガキュアー907、チバガイギー社製)1.35g、増感剤(カヤキュアーDETX、日本化薬(株)製)0.45gを、102gのメチルエチルケトンに溶解した塗布液を、#3のワイヤーバーで塗布した。これを金属の枠に貼り付けて、130℃の恒温槽中で2分間加熱し、円盤状化合物を配向させた。次に、130℃で120W/cm高圧水銀灯を用いて、1分間UV照射し円盤状化合物を重合させた。その後、室温まで放冷した。このようにして、光学異方性層を形成して、光学補償シートを作製した。
波長546nmで測定した光学異方性層のReレターデーション値は38nmであった。また、円盤面と透明支持体(セルロースアセテートフイルム)面との間の角度(傾斜角)は平均で40°であった。結果は第1表に示す。
さらに、作製した光学補償シートの弾性率を、セルロースアセテートフイルムの延伸方向で測定したところ、4600MPaであった。
【0095】
【化19】

【0096】
[比較例1]
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、加熱しながら攪拌して、各成分を溶解し、ポリカーボネート溶液を調製した。
【0097】
────────────────────────────────────
ポリカーボネート溶液組成
────────────────────────────────────
カーボネート(帝人製) 100質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 400質量部
────────────────────────────────────
【0098】
得られたドープを、バンド流延機を用いて流延、ポリカーボネートフイルム(厚さ:50μm)を製造した。作製したポリカーボネートフイルム(光学補償シート)について、エリプソメーター(M−150、日本分光(株)製)を用いて、波長550nmにおけるReレターデーション値およびRthレターデーション値を測定した。結果は第1表に示す。
さらに、作製したポリカーボネートフイルムの延伸方向の弾性率を測定したところ、2500MPaであった。
【0099】
第1表
────────────────────────────────────
フイルム レターデーション上昇剤 延伸倍率 Re Rth
────────────────────────────────────
実施例1 3.5質量部 33% 40nm 130nm
実施例2 5.0質量部 45% 50nm 240nm
実施例3 3.0質量部 20% 20nm 110nm
比較例1 なし 延伸せず 30nm 40nm
────────────────────────────────────
【0100】
[実施例4]
延伸したポリビニルアルコールフイルムにヨウ素を吸着させて偏光膜を作製し、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、実施例1で作成したセルローストリアセテートフイルムを偏光膜の片側に、もう一方には市販のセルローストリアセテートフイルム(フジタックTD80UF、富士写真フイルム(株)製)にケン化処理を行い貼り付けた後、80℃で10分間乾燥させた。
偏光膜の透過軸と実施例1で作製したセルロースアセテートフイルムの遅相軸とは平行になるように配置した。偏光膜の透過軸と市販のセルローストリアセテートフイルムの遅
相軸とは、平行になるように配置した。
このようにして偏光板を作製した。
【0101】
[実施例5]
実施例2で作製したシクロオレフィンフイルムを用いた以外は、実施例4と同様にして、偏光板を作製した。
【0102】
[比較例2]
延伸したポリビニルアルコールフイルムにヨウ素を吸着させて偏光膜を作製し、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、比較例1で作成したポリカーボネートフイルムを偏光膜の片側に、もう一方には市販のポリカーボネートフイルム(帝人(株)製)を貼り付けた後、80℃で30分間乾燥させたが、偏光能が低下し、偏光板としての機能を十分に果たさなかった。
【0103】
[実施例6]
垂直配向型液晶セルを使用した液晶表示装置(VL−1530S、富士通(株)製)に設けられている一対の偏光板および一対の光学補償シートを剥がし、代わりに実施例4で作製した偏光板を、実施例1で作製したセルロースアセテートフイルムが液晶セル側となるように粘着剤を介して、観察者側およびバックライト側に一枚ずつ貼り付けた。観察者側の偏光板の透過軸が上下方向に、そして、バックライト側の偏光板の透過軸が左右方向になるように、クロスニコル配置とした。
作製した液晶表示装置について、測定機(EZ Contrast 160D、ELDIM社製)を用いて、黒表示(L1)から白表示(L8)までの8段階で視野角を測定した。結果を第2表に示す。
【0104】
[実施例7]
垂直配向型液晶セルを使用した液晶表示装置(VL−1530S、富士通(株)製)に設けられている一対の偏光板および一対の光学補償シートを剥がし、代わりに実施例5で作製した偏光板を、実施例2で作製したセルロースアセテートフイルムが液晶セル側となるように粘着剤を介して一枚、観察者側に貼り付けた。また、バックライト側には、市販の偏光板(HLC2−5618HCS、(株)サンリッツ製)を一枚貼り付けた。観察者側の偏光板の透過軸が上下方向に、そして、バックライト側の偏光板の透過軸が左右方向になるように、クロスニコル配置とした。
作製した液晶表示装置について、測定機(EZ Contrast 160D、ELDIM社製)を用いて、黒表示(L1)から白表示(L8)までの8段階で視野角を測定した。結果を第2表に示す。
【0105】
[比較例3]
垂直配向型液晶セルを使用した液晶表示装置(VL−1530S、富士通(株)製)について、測定機(EZ Contrast 160D、ELDIM社製)を用いて、黒表示(L1)から白表示(L8)までの8段階で視野角を測定した。結果を第2表に示す。
【0106】
第2表
────────────────────────────────────
液晶 視野角(コントラスト比が10以上で黒側の階調反転のない範囲)
表示装置 透過軸方向 透過軸から45°の方向
────────────────────────────────────
実施例6 >80° >80°
実施例7 >80° >80°
比較例3 >80° 44°
────────────────────────────────────
(註)黒側の階調反転:L1とL2との間の反転
【0107】
[実施例8]
延伸したポリビニルアルコールフイルムにヨウ素を吸着させて偏光膜を作製し、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、実施例3で作製したセルローストリアセテートフイルムを偏光板の片側に、もう一方には市販のセルローストリアセテートフイルム(フジタックTD80UF、富士写真フイルム(株)製)にケン化処理を行い貼り付けた後、80℃で10分間乾燥させた。
偏光板の透過軸と実施例3で作製したセルロースアセテートフイルムの遅相軸とは平行になるように配置した。さらに偏光板の透過軸と実施例3で作製した光学補償シートのディスコティック層の遅相軸とは実質的に45度となるように配置した。また、偏光板の透過軸と市販のセルローストリアセテートフイルムの遅相軸とは、平行になるように配置した。このようにして楕円偏光板を作製した。
【0108】
[実施例9]
(ベンド配向液晶セルの作製)
ITO電極付きのガラス基板に、ポリイミド膜を配向膜として設け、配向膜にラビング処理を行った。得られた二枚のガラス基板をラビング方向が平行となる配置で向かい合わせ、セルギャップを6μmに設定した。セルギャップにΔnが0.1396の液晶性化合物(ZLI1132、メルク社製)を注入し、ベンド配向液晶セルを作製した。
作製したベンド配向セルを挟むように、実施例8で作製した楕円偏光板を二枚貼り付けた。楕円偏光板の光学異方性層がセル基板に対面し、液晶セルのラビング方向とそれに対面する光学異方性層のラビング方向とが反平行となるように配置した。
液晶セルに55Hzの矩形波電圧を印加した。白表示2V、黒表示5Vのノーマリーホワイトモードとした。透過率の比(白表示/黒表示)をコントラスト比として、測定機(EZ Contrast 160D、ELDIM社製)を用いて、黒表示(L1)から白表示(L8)までの8段階で視野角を測定した。結果を第3表に示す。
【0109】
第3表
────────────────────────────────────
液晶 視野角(コントラスト比が10以上で黒側の階調反転のない範囲)
表示装置 上 下 左右
────────────────────────────────────
実施例9 80° 80° 80°
────────────────────────────────────
(註)黒側の階調反転:L1とL2との間の反転
【0110】
[実施例10]
TN型液晶セルを使用した液晶表示装置(6E−A3、シャープ(株)製)に設けられている一対の偏光板を剥がし、代わりに実施例4で作製した偏光板を、実施例1で作製したセルロースアセテートフイルムが液晶セル側となるように粘着剤を介して、観察者側およびバックライト側に一枚ずつ貼り付けた。観察者側の偏光板の透過軸が上下方向に、そして、バックライト側の偏光板の透過軸が左右方向になるように、クロスニコル配置とした。
作製した液晶表示装置について、測定機(EZ Contrast 160D、ELDIM社製)を用いて、黒表示(L1)から白表示(L8)までの8段階で視野角を測定した。結果を第4表に示す。
【0111】
[比較例4]
TN型液晶セルを使用した液晶表示装置(6E−A3、シャープ(株)製)について、測定機(EZ Contrast 160D、ELDIM社製)を用いて、黒表示(L1)から白表示(L8)までの8段階で視野角を測定した。結果を第4表に示す。
【0112】
第4表
────────────────────────────────────
液晶 視野角(コントラスト比が10以上で黒側の階調反転のない範囲)
表示装置 上 下 左右
────────────────────────────────────
実施例10 18° 23° 77°
比較例4 15° 25° 37°
────────────────────────────────────
(註)黒側の階調反転:L1とL2との間の反転

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)により定義されるReレターデーション値が20乃至200nmの範囲にあり、下記式(II)により定義されるRthレターデーション値が70乃至400nmの範囲にあり、そして少なくとも一方向の弾性率が4000乃至10000MPaの範囲にあるポリマーフイルムからなることを特徴とする光学補償シート:
(I) Re=(nx−ny)×d
(II) Rth={(nx+ny)/2−nz}×d
[式中、nxは、フイルム面内の遅相軸方向の屈折率であり;nyは、フイルム面内の進相軸方向の屈折率であり;nzは、フイルムの厚み方向の屈折率であり;そして、dは、フイルムの厚さである]。
【請求項2】
下記式(I)により定義されるReレターデーション値が20乃至200nmの範囲にあり、下記式(II)により定義されるRthレターデーション値が70乃至400nmの範囲にあるポリマーフイルムと、液晶性化合物を含む光学異方性層とを積層してなる光学補償シートであり、そして該光学補償シートの少なくとも一方向の弾性率が4000乃至10000MPaの範囲にあることを特徴とする光学補償シート:
(I) Re=(nx−ny)×d
(II) Rth={(nx+ny)/2−nz}×d
[式中、nxは、フイルム面内の遅相軸方向の屈折率であり;nyは、フイルム面内の進相軸方向の屈折率であり;nzは、フイルムの厚み方向の屈折率であり;そして、dは、フイルムの厚さである]。
【請求項3】
前記のポリマーフイルムが、酢化度59.0乃至61.5%の範囲にあるセルロースアセテート、およびセルロースアセテート100質量部に対して、少なくとも二つの芳香族環を有する芳香族化合物を0.01乃至20質量部含むことを特徴とする請求項1もしくは2に記載の光学補償シート。
【請求項4】
偏光膜の少なくとも一方の面に、請求項1もしくは2に記載の光学補償シートが貼り合わされてなることを特徴とする偏光板。
【請求項5】
前記の光学補償シートの遅相軸と偏光膜の透過軸が、実質的に平行になるように配置されていることを特徴とする請求項4に記載の偏光板。
【請求項6】
液晶セルおよびその両側に配置された二枚の偏光板からなる液晶表示装置であって、少なくとも1方の偏光板が、請求項4もしくは5に記載の偏光板であり、該偏光板の光学補償シートが液晶セル側になるように配置されていることを特徴とする液晶表示装置。
【請求項7】
液晶セルが、OCBモード、VAモードまたはTNモードの液晶セルであることを特徴とする請求項6に記載の液晶表示装置。

【公開番号】特開2011−59712(P2011−59712A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−254957(P2010−254957)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【分割の表示】特願2008−328344(P2008−328344)の分割
【原出願日】平成12年7月4日(2000.7.4)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】