説明

光学造影剤

本発明は、インビボ光学イメージングに好適な造影剤であって、例えば血漿タンパク質との非特異的結合が低減したペンタメチンシアニン色素のコンジュゲートを含む造影剤に関する。これは、スルホン酸置換基、特にスルホアルキル基の種類と位置の制御によって達成される。医薬組成物及びキット、並びにインビボイメージング法についても開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インビボ光学イメージングに好適な造影剤であって、例えば血漿タンパク質との非特異的結合が低減したペンタメチンシアニン色素のコンジュゲートを含む造影剤に関する。これは、スルホン酸置換基、特にスルホアルキル基の種類と位置の制御によって達成される。医薬組成物及びキット、並びにインビボイメージング法についても開示する。
【背景技術】
【0002】
米国特許第6083485号及び対応特許には、オクタノール−水分配係数が2.0以下のシアニン色素を用いたインビボ近赤外(NIR)光学イメージング法が開示されている。特定の細胞集団に結合するか、受容体に選択的に結合するか或いは組織又は腫瘍内に蓄積する分子量30kDa以下の「生物学的検出単位」と上記色素とのコンジュゲートも開示されている。米国特許第6083485号の色素は、ポリリジン、デキストラン又はポリエチレングリコールのような高分子に結合させることもできる。具体的な色素−コンジュゲートは開示されていない。
【0003】
国際公開第00/16810号には、分子内に3個以上のスルホン酸基を有する式AのNIR蛍光造影剤が開示されている。
【0004】
【化1】

【0005】
式中、
及びRは同一又は異なるもので、各々置換又は非置換アルキルであり、
及びZは各々置換又は非置換縮合ベンゾ環又は縮合ナフト環の形成に必要な非金属原子であり、
rは0、1又は2であり、
〜Lは同一又は異なるもので、各々置換又は非置換メチンであるが、rが2のときに2度現れるL及びLは同一でも異なるものでもよく、
X及びYは同一又は異なるもので、各々式−O−、−S−、−CH=CH−又は−C(R)−の基である(式中、R及びRは同一又は異なるもので、各々置換又は非置換アルキルである。)。
【0006】
国際公開第00/16810号には、式Aのrが好ましくは1、つまり色素がヘプタメチンシアニン色素であること、及び分子内に3個以上のスルホン酸基を有する好ましい色素が式Bのベンズインドール色素であることが教示されている。
【0007】
【化2】

【0008】
式中、R、R、L〜L、X及びYは式Aで定義した通りであり、R〜R16は同一又は異なるもので、幾つかの特定の化合物を除いて、各々H、スルホン酸基、カルボキシル基、OH、アルキル(スルホアルキル)アミノ基、ビス(スルホアルキル)アミノ基、スルホアルコキシ基、(スルホアルキル)スルホニル基又は(スルホアルキル)アミノスルホニル基である。
【0009】
国際公開第00/16810号のL〜Lのポリメチン鎖は、好ましくは式Cのものである。
【0010】
【化3】

【0011】
式中、Zは五又は六員環の形成に必要な非金属原子であり、AはH又は一価の基である。
【0012】
国際公開第00/16810号には、優れた水溶性のためスルホン酸基の数は好ましくは4以上であるが、合成の容易さの点では総数が10以下、好ましくは8以下とすべきことが教示されている。国際公開第00/16810号には、スルホン酸基の好ましい位置が以下の通り教示されている。
式A:R、R、Z及び/又はZの位置、
式B:R、R、R、R、R11及び/又はR13の位置、
式C:アルキレンのような二価基を介した位置A。
【0013】
国際公開第01/43781号には、上記の式Aのr=1に相当する7個のメチン炭素を有するシアニン色素(ヘプタメチン又はCy7色素)が開示されている。国際公開第01/43781号の色素は4〜6個のスルホン酸置換基を有している。
【0014】
Licha et al[Photochem.Photobiol.,72(3),392−398(2000)]には、1個以上の親水性グルカミド又はグルコサミド置換基を有するシアニン色素はその親色素に比べて血漿タンパク結合(PPB)が低減すると報告されている。かかる置換を1つから2つにすると、PPBがさらに一段と低下すると記載されている。親水性置換基は色素の光物理的性質を改善し、腫瘍と正常組織との間のコントラストが増幅されるように薬物動態を変化させるとも記載されている。
【0015】
米国特許第6977305号(Molecular Probes,Inc.)には、次式の化合物が記載されている。
【0016】
【化4】

【0017】
式中、
及びR12は独立にアルキル又はスルホアルキルであり、
はカルボキシアルキルであり、
13及びR14は独立にアルキルであり、
〜R及びR16〜R19は独立にH又はスルホであり、
nは1、2又は3である。
【0018】
上記色素の活性化エステルも開示されている。これと関連する米国特許第6974873号には、上記色素を用いて生物学的試料を染色する方法、並びに上記色素のN−ヒドロキシスクシンイミドエステルを用いて、タンパク質、ペプチド又は核酸高分子との色素−コンジュゲートを形成する方法が開示されている。
【0019】
国際公開第2005/044923号には、生物材料の標識及び検出に適した色素が開示されている。色素は、式Dのトリメチン、ペンタメチン及びヘプタメチンシアニン色素(つまりn=1、2又は3)である。
【0020】
【化5】

【0021】
式中、
及びRはC1〜6アルキル、非置換又はスルホン酸若しくは−(CH−Wで置換されたベンジルであり(式中、Wはスルホン酸又はホスホン酸であり、kは1〜10の整数である。)、
〜RはH、SOH又は−E−Fであり(式中、Eは単結合又はC、N及びOから選択される1〜20個の連結原子の鎖を有するスペーサー基であり、Fは標的結合基である。)、
11、R12、R13及びR14はC1〜6アルキル又は−(CH−Wであり、
及びZは独立に単環式又は二環式芳香系の完成に必要な炭素原子であるが、
(i)R11、R12、R13及びR14の1つ以上が独立に−(CH−Wであること、
(ii)R〜Rの1つ以上が−E−Fであること
を条件とする。
【0022】
国際公開第2005/044923号の標的結合基(F)は、標的成分(例えばタンパク質、ペプチド、核酸又は炭水化物)の官能基と反応するように設計される。国際公開第2005/044923号には、インドリニウム環の3位(つまりR11又はR12)に結合した1又は好ましくは複数の水溶性基が存在していると、色素−色素相互作用、特に色素が核酸、タンパク質、抗体などの成分に結合しているときの色素−色素相互作用を低減させ、色素同士の重なりに起因する蛍光強度の損失の低減に役立つことが教示されている。国際公開第2005/044923号には、Wが好ましくはスルホン酸であること、及び2個以上の−(CH−W基が存在すべきであり、好ましくはR11/R12基の一方とR13/R14基の一方が−(CH−Wであって、他方が好ましくは−CHであるように選択することが教示されている。国際公開第2005/044923号には、Wが好ましくはスルホン酸であり、kが好ましくは3又は4であることが教示されている。追加の実施形態として、国際公開第2005/044923号には、色素が好ましくは3〜5個のスルホン酸基で置換されること、かかる色素を生物学的標的分子の標識に使用すると色素−色素凝集による蛍光の損失が低減することが教示されている。国際公開第2005/044923号には、生物学的分子を式Dの色素で標識する方法が開示されている。国際公開第2005/044923号は、インビトロ色素用途に関するものであり、インビボ用途については何ら記載されていない。
【0023】
国際公開第2005/123768号には、血管新生のインビボ光学イメージングのための、シアニン色素(カルバシアニン、オキサシアニン、チアシアニン又はアザシアニンである。)とRGD型ペプチドとのコンジュゲートが開示されている。国際公開第2005/123768号のシアニン色素は、好ましくはペンタメチン又はヘプタメチン色素であり、好ましくは0、1又は2個のスルホン酸置換基を有する。従来技術のシアニン色素よりもスルホン酸基の数を減少させると、血漿タンパク結合(PPB)が低減し、ひいてはインビボでの非特異的取込みが減少すると記載されている。国際公開第2005/123768号の例5には、1、2及び4個のスルホン酸基を有するペンタメチンシアニン色素のコンジュゲートのPPBに関するデータが記載されている。PPBは、スルホン酸基の数に伴って増大するとの知見が得られている(PPBはそれぞれ17%、21%及び45%)。
【0024】
Bullok et al[Biochem.,46(13),4055−4065(2007)]には、エフェクターカスパーゼ認識配列(DEVDテトラペプチド)を(i)膜トランスポーターペプチド(Tatペプチド)、(ii)近赤外消光剤(QSY21)及び(iii)シアニン色素フルオロフォアAlexa Fluor(商標)647と結合させたアポトーシスプローブTcapQ547が開示されている。インタクトなプローブは、QSY21の消光のためほとんど蛍光を呈さない。カスパーゼによってカスパーゼ活性部位で開裂されると、コンジュゲートのAlexa Fluor(商標)647は消光剤とは異なる分子に存在するようになるので、開裂ペプチドは蛍光を示す。この報文には、分離されたインタクト細胞及びインビボ動物モデルの両方での研究が記載されている。
【0025】
Strong et al[Eur.Cytokine Netw.,17,49−59(2006)]には、ケモカインタンパク質をその配列の特定の位置でAlexa Fluor(商標)647で修飾したものが開示されている。インビトロでの細胞染色の特異性が検討されており、これらの化合物がインタクト細胞でのケモカイン受容体アッセイに有用である可能性があると示唆されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【特許文献1】米国特許第6083485号明細書
【特許文献2】国際公開第00/16810号パンフレット
【特許文献3】国際公開第01/43781号パンフレット
【特許文献4】米国特許第6977305号明細書
【特許文献5】米国特許第6974873号明細書
【特許文献6】国際公開第2005/044923号パンフレット
【特許文献7】国際公開第2005/123768号パンフレット
【非特許文献】
【0027】
【非特許文献1】Licha et al, Photochem. Photobiol., 72(3), 392-398 (2000)
【非特許文献2】Bullok et al, Biochem., 46(13), 4055-4065 (2007)
【非特許文献3】Strong et al, Eur. Cytokine Netw., 17, 49-59 (2006)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明は、インビボ光学イメージングに好適な造影剤であって、特定のスルホン化パターンを有し、生物学的ターゲティング部分(BTM)と結合した特定のクラスのペンタメチンシアニン色素を含む造影剤を提供する。本発明者らは、ペンタメチン色素では、スルホアルキル基が血漿タンパク結合(PPB)の減少に重要な役割を有することを見出した。これは、非特異的結合の抑制に役立つので、インビボ及びインビトロ用途のいずれにおいても重要である。これは、本質的に二次元的(つまり「平坦」)なアリールスルホン化色素(例えばCy5及びCy5.5)とは対照的に、このような修飾色素の三次元的性状つまり「嵩高い」性状に起因すると考えられる。
【0029】
本発明者らは、同じ系列のペンタメチンシアニン色素においてさえ、生物学的ターゲティング分子(例えばRGDペプチド)と結合させると、生物学的特性、特に非特異的結合の点で大きなバラツキがみられるという知見を得た。これは、インビボでの不要なバックグラウンド取込みの一因となり、画像コントラストが低下するとともに、バックグラウンドクリアランスが遅くなって撮像前の遅延が必要となる。さらに、従来技術では認識されていないが、コラーゲン(哺乳類の体内に広く分布している。)との非特異的結合が大きく変動する。本発明は、インビボイメージングに好ましい特性を有するペンタメチンシアニン色素の特定の部分集合を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】化合物1、2、4及び6で得られた平均腫瘍部強度を平均筋肉部強度で除した比として定義される標的/バックグラウンド比(TBR)を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0031】
第1の態様では、本発明は、哺乳類の体のインビボ光学イメージングに好適な造影剤であって、式Iのコンジュゲートを含む造影剤を提供する。
【0032】
[BTM]−(L)−Cy (I)
式中、
BTMは生物学的ターゲティング分子であり、
Cyは式IIのシアニン色素であり、
【0033】
【化6】

【0034】
(式中、
及びYは独立に−O−、−S−、−NR−又は−CR−であって、Y及びYの少なくとも一方が−CR−であるように選択され、
及びRは独立にH、−SO又はRであり(式中、MはH又はBであり、Bは生体適合性陽イオンである。)、
はH、C1〜5アルキル、C1〜6カルボキシアルキル又はR基であり、
〜Rは独立にC1〜5アルキル、C1〜6カルボキシアルキル又はRであり、
はC1〜3アルキルであり、
はR又はC1〜6カルボキシアルキルであり、
はC1〜4スルホアルキルである。)、
Lは式−(A)−の合成リンカー基であり(式中、各Aは独立に−CR−、−CR=CR−、−C≡C−、−CRCO−、−COCR−、−NRCO−、−CONR−、−NR(C=O)NR−、−NR(C=S)NR−、−SONR−、−NRSO−、−CROCR−、−CRSCR−、−CRNRCR−、C4〜8シクロヘテロアルキレン基、C4〜8シクロアルキレン基、C5〜12アリーレン基若しくはC3〜12ヘテロアリーレン基、アミノ酸、糖又は単分散ポリエチレングリコール(PEG)構成ブロックであって、各RはH、C1〜4アルキル、C2〜4アルケニル、C2〜4アルキニル、C1〜4アルコキシアルキル又はC1〜4ヒドロキシアルキルから独立に選択され、mは1〜20の整数である。)、
nは0又は1の整数であるが、ただし、
(i)上記シアニン色素が1以上のR基と、R、R及びR基から合計3〜6個のスルホン酸置換基とを含むこと、
(ii)当該造影剤が蛍光消光剤を含まない
ことを条件とする。
【0035】
「造影剤」という用語は、哺乳類の全身(つまり無傷な身体)の関心領域のインビボ光学イメージングに適した化合物を意味する。好ましくは、哺乳類はヒトの患者である。イメージングは、侵襲的(例えば、手術中検査又は内視鏡検査)であっても、非侵襲的であってもよい。イメージングは、適宜、生検(例えば内視鏡機器の鉗子口を通しての生検など)又は腫瘍切除(例えば手術中の腫瘍マージン同定による腫瘍切除)を容易にするために使用することができる。
【0036】
式Iのコンジュゲートはインビボイメージングに適しているが、インビトロ用途(例えば生物学的試料中のBTMの定量アッセイ又は組織試料中のBTMの可視化)も有する。好ましくは、造影剤はインビボイメージングに用いられる。
【0037】
「スルホン酸置換基」という用語は、式−SOの置換基を意味する(式中、MはH又はBであり、Bは生体適合性陽イオンである。)。−SO置換基は炭素原子に共有結合し、炭素原子はアリール(例えばR又はR基)又はアルキル(すなわちR基)である。「生体適合性陽イオン」(B)という用語は、イオン化し負に荷電した基(ここではスルホン酸基)と塩を形成する正に荷電した対イオンであって、正に荷電した対イオンが無毒性で、哺乳類の身体、特に人体への投与に適しているものを意味する。好適な生体適合性陽イオンの例としては、アルカリ金属のナトリウム又はカリウム、アルカリ土類金属のカルシウム及びマグネシウム、並びにアンモニウムイオンが挙げられる。好ましい生体適合性陽イオンはナトリウム及びカリウムであり、最も好ましくはナトリウムである。
【0038】
「蛍光消光剤」という用語は、消光剤とCyの両方に結合したBTMの蛍光が最小の蛍光をもつようにCyの蛍光を抑制する部分を意味する。消光剤分子は、当技術分野で公知である[Johansson,Meth.Mol.Biol.,335,17−29(2006)及びBullok et al(上述)]。本発明の造影剤コンジュゲートはCyの存在のため既に蛍光性であり、消光剤からCyを分離するための代謝活性化を必要としない。このことは、例えば消光剤とCy又は消光剤とBTM又は消光剤とリンカー基の間の相互作用に起因する立体障害又はコンフォメーション変化などのため、インビボで生物学的認識部位と相互作用するBTMの能力に影響を与えかねない追加の分子にBTMが結合していないという利点を有する。さらに、消光剤が必要とされると、BTMは生物学的標的の基質(つまり酵素で開裂されるもの)又は結合時に大きなコンフォメーション変化を起こすものに限定される。消光剤を有していないので、使用できるBTMの種類が増え、診断できる病態の範囲が広がる。消光剤に起因する潜在的な毒性の問題についても、考慮する必要がなくなる。
【0039】
「生物学的ターゲティング部分」(BTM)という用語は、投与後に哺乳類の身体の特定部位に取込まれるか又は局在化する化合物を意味する。かかる部位は、例えば、特定の病態に関連したものであってもよいし、器官又は代謝プロセスがどのように機能しているかの指標となるであってもよい。生物学的ターゲティング部分は、3〜100アミノ酸長のペプチド、ペプチド類似体、ペプトイド若しくはペプチド模倣体(これらは線状ペプチドでも環状ペプチドであってもよい)又はこれらの組合せ、或いは酵素基質、酵素拮抗剤又は酵素阻害剤、合成受容体結合性化合物、オリゴヌクレオチド或いはオリゴDNA又はオリゴRNA断片を含む。
【0040】
「ペプチド」という用語は、ペプチド結合(つまり、あるアミノ酸のアミンと別のアミノ酸のカルボキシルとを連結するアミド結合)で2以上のアミノ酸(以下で定義)が連結した化合物を意味する。「ペプチド模倣体」又は「模倣体」という用語は、ペプチド又はタンパク質の生物活性を模倣しているが、化学的性状がペプチドではない、つまりペプチド結合(アミノ酸間のアミド結合)を含まない生物活性化合物をいう。本明細書では、ペプチド模倣体という用語は広義に用いられ、性状が完全にペプチドでない分子(例えば、プソイドペプチド、セミペプチド及びペプトイド)を包含する。「ペプチド類似体」という用語は、以下で説明する1以上のアミノ酸類似体を含むペプチドをいう。“Synthesis of Peptides and Peptidomimetics”,M.Goodman et al,Houben−Weyl E22c,Thieme参照。
【0041】
「アミノ酸」という用語は、Lアミノ酸又はDアミノ酸、アミノ酸類似体又はアミノ酸模倣体を意味し、天然のものでも純然たる合成品であってもよく、光学的に純粋つまり単一の鏡像異性体(従ってキラルなもの)であってもよいし、鏡像異性体の混合物であってもよい。本明細書では、アミノ酸の慣用三文字又は一文字略号を用いる。好ましくは、本発明のアミノ酸は光学的に純粋である。「アミノ酸模倣体」という用語は、天然アミノ酸のアイソスター(等価体)である合成類似体、つまり天然化合物の立体及び電子構造を模倣して設計されたものを意味する。かかるアイソスターは当業者に周知であり、特に限定されないが、デプシペプチド、レトロインベルソペプチド、チオアミド、シクロアルカン又は1,5−二置換テトラゾールが挙げられる[M.Goodman, Biopolymers,24,137(1985)参照]。
【0042】
好適な酵素の基質、拮抗剤又は阻害剤には、グルコース及びグルコース類似体(例えば、フルオロデオキシグルコース)、脂肪酸、或いはエラスターゼ、アンジオテンシンII又はメタロプロテイナーゼ阻害剤がある。好ましい非ペプチド系アンジオテンシンII拮抗剤はロサルタンである。好適な合成受容体結合性化合物には、エストラジオール、エストロゲン、プロゲスチン、プロゲステロンその他のステロイドホルモン、ドーパミンD−1又はD−2受容体或いはトロパンのようなドーパミン輸送体のリガンド、並びにセロトニン受容体のリガンドがある。
【0043】
式IIのシアニン色素(Cy)は、緑色乃至近赤外波長(500〜1200nm、好ましくは600〜1000nm)の光を用いた光学イメージング法で直接又は間接的に検出できる蛍光色素又は発色団である。好ましくは、Cyは蛍光特性を有する。
【0044】
式Iのリンカー基−(A)−の役割の1つは、CyをBTMの活性部位から遠ざけることである。これは、Cyが比較的嵩高く、不都合な立体的相互作用が起こり得るので特に重要である。これは、Cyがそれ自体で活性部位から遠ざかる自由度をもつようにするための柔軟性(例えば単純なアルキル鎖)及び/又はCyを活性部位から遠ざけるシクロアルキル系もしくはアリール系スペーサーのような剛直性の組合せによって達成することができる。リンカー基の性状は、造影剤の体内分布を変更することにも利用できる。例えばエーテル基をリンカーに導入すると、血漿タンパク結合を最小限に抑制するのに役立つ。−(A)−がポリエチレングリコール(PEG)構成ブロック又は1〜10アミノ酸残基のペプチド鎖からなる場合、リンカー基はインビボでの造影剤の薬物動態及び血中クリアランス速度を変える機能をもつ。かかる「バイオモディファイアー」リンカー基は、バックグラウンド組織(例えば、筋肉又は肝臓)及び/又は血液からの造影剤のクリアランスを促進して、バックグラウンド干渉の低減により診断用画像を向上させる。バイオモディファイアーリンカー基は、特定の排出経路(例えば、肝臓経由ではなく腎臓経由の排出)を優勢にするためにも使用できる。
【0045】
「糖」という用語は、単糖類、二糖類又は三糖類を意味する。好適な糖には、グルコース、ガラクトース、マルトース、マンノース及びラクトースがある。糖は、アミノ酸とのカップリングを容易にするため適宜官能化してもよい。例えば、アミノ酸のグルコサミン誘導体を、ペプチド結合を介して他のアミノ酸に結合させてもよい。アスパラギンのグルコサミン誘導体(NovaBiochem社から市販)はその一例である。
【0046】
【化7】

【0047】
式Iは、−(L)[Cy]部分がBTMの適当な位置に結合できることを示している。−(L)[Cy]部分の適当な位置は、インビボでの活性部位との結合に関与する部分から離れた位置として選択される。式Iの[BTM]−(L)−部分は、式IIのCyの適当な位置に結合させればよい。[BTM]−(L)−部分は、既存の置換基(例えばR〜R基のいずれか)に取って代わるか或いはCyの既存の置換基と共有結合する。[BTM]−(L)−部分は、好ましくはCyのカルボキシアルキル置換基を介して結合する。
【0048】
好ましい特徴
造影剤の分子量は好適には30000ダルトン以下である。好ましくは、分子量は1000ダルトン〜20000ダルトン、最も好ましくは2000ダルトン〜18000ダルトンの範囲内であり、2500ダルトン〜16000ダルトンが特に好ましい。
【0049】
BTMは合成されたものでも、天然のものでもよいが、好ましくは合成である。「合成」という用語はその通常の意味を有し、天然のもの(例えば哺乳類の体)から単離したものではなく、人工のものを意味する。かかる化合物は、その製造及び不純物プロファイルを完全に制御できるという利点を有する。従って、天然のモノクローナル抗体及びその断片は、本明細書で用いる用語「合成」の範疇に属さない。
【0050】
BTMは、好ましくは3〜100アミノ酸長のペプチド、酵素基質、酵素拮抗剤又は酵素阻害剤から選択される。BTMは最も好ましくは3〜100アミノ酸長のペプチド又はペプチド類似体である。BTMがペプチドであるときは、好ましくは4〜30アミノ酸長のペプチド、最も好ましくは5〜28アミノ酸長のペプチドである。
【0051】
式IIにおいて、Y及びYは好ましくは独立に−CR−である。式IIにおいて、Rは好ましくはH又はR基、最も好ましくはHである。Rは好ましくはCHである。
【0052】
式Iの[BTM]−(L)−部分は、好ましくは式IIのCyのR、R、R、R、R又はR、さらに好ましくはR、R又はR、最も好ましくはR又はRの位置に結合する。BTMがR位で結合していると、
(i)スルホアルキル基(R)を配置するための追加の好ましい部位が利用できる、
(ii)色素の嵩高さが増して、PPBの低減に役立つ
という利点を有する。
【0053】
シアニン色素(Cy)は、好ましくはR、R及びR基から選択される合計4個のスルホン酸置換基を有する。2つのR基は好ましくはY、R、R又はRに位置し、最も好ましくはRに位置しているとともにY=−CR又はR=Rのいずれかである。式IIにおいて、R基は好ましくは式−(CHSOのものである。式中、MはH又はBであり、kは1〜4の整数であり、Bは(上記で定義した通りの)生体適合性陽イオンである。kは好ましくは3又は4である。
【0054】
式IIにおいて、R及びRは好ましくは共にSOである。R及びRが共にSOである場合、SO置換基は好ましくはインドール/インドレニン環の5位に存在する。
【0055】
特に好ましい色素は式IIIのものである。
【0056】
【化8】

【0057】
式中、
は独立にR基又はC1〜6カルボキシアルキルであり、
〜R12は独立にC1〜5アルキル又はR基であって、R=R10=R又はR11=R12=Rのいずれかとなるように選択され(式中、RはC1〜2アルキルである。)、
及びMは式IIで定義した通りである。
【0058】
式IIIのR基は、好ましくは独立に−(CHSOである(式中、kは1〜4の整数であり、kは好ましくは3又は4である。)。好ましくは、式IIIの色素はBTMとの共有結合を容易にするためのC1〜6カルボキシアルキル置換基を有する。
【0059】
式IIIの好ましい色素は、R〜R12のいずれかがR基で、残りが各々R基、最も好ましくは各々CHであるように選択される。式IIIの特に好ましい色素は式IIIaのものであって、R〜R12のいずれかがR基であり、残りは各々R基、最も好ましくはCHである。好ましい式IIIaの色素は、R基の1つがC1〜6カルボキシアルキルとなるように選択される。
【0060】
最も好ましい式III及びIIIaの色素の具体例はそれぞれAlexa Fluor(商標)647及びCy5**であり、Cy5**が理想的である。
【0061】
【化9】

【0062】
BTMがペプチドである場合、かかるペプチドとして好ましいものには以下のものがある。
・ソマトスタチン、オクトレオチド及び類似体、
・ST受容体に結合するペプチド(STとは大腸菌その他の微生物で産生される耐熱性毒素をいう。)、
・ラミニン断片、例えばYIGSR、PDSGR、IKVAV、LRE及びKCQAGTFALRGDPQG、
・白血球蓄積のターゲティング部位用のN−ホルミルペプチド、
・血小板第4因子(PF4)及びその断片、
・RGD(Arg−Gly−Asp)含有ペプチド、これは例えば血管新生をターゲティングすることができる[R.Pasqualini et al.,Nat Biotechnol.1997 Jun;15(6):542−6]、[E.Ruoslahti Kidney Int.1997 May;51(5):1413−7]、
・α−抗プラスミン、フィブロネクチン又はβ−カゼイン、フィブリノーゲン又はトロンボスポンジンのペプチド断片。α−抗プラスミン、フィブロネクチン又はβ−カゼイン、フィブリノーゲン又はトロンボスポンジンのアミノ酸配列は、以下の参考文献に記載されている。α−アンチプラスミン前駆体[M.Tone et al.,J.Biochem,102,1033,(1987)]、β−カゼイン[L.Hansson et al,Gene,139,193,(1994)]、フィブロネクチン[A.Gutman et al,FEBS Lett.,207,145,(1996)]、トロンボスポンジン−1前駆体[V.Dixit et al,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,83,5449,(1986)]、R.F.Doolittle,Ann.Rev.Biochem.,53,195,(1984)、
・アンジオテンシンII:Asp−Arg−Val−Tyr−Ile−His−Pro−Phe(E.C.Jorgensen et al,J.Med.Chem.,1979,Vol22,9,1038−1044)、[Sar,Ile]アンジオテンシンII:Sar−Arg−Val−Tyr−Ile−His−Pro−Ile(R.K.Turker et al.,Science,1972,177,1203)のようなアンジオテンシンの基質又は阻害剤であるペプチド、
・アンジオテンシンI:Asp−Arg−Val−Tyr−Ile−His−Pro−Phe−His−Leu。
【0063】
BTMがペプチドである場合、ペプチドの一端又は両端、好ましくは両端は代謝阻害基(MIG)に結合している。ペプチドの両端をこうして保護しておくことはインビボイメージング用途では重要である。さもないと、急速な代謝が予想され、BTMペプチドの選択的な結合親和性が失われるからである。「代謝阻害基」(MIG)という用語は、酵素(特にカルボキシペプチダーゼのようなペプチダーゼ)を阻害又は抑制し、BTMペプチドのアミノ末端又はカルボキシ末端での代謝を阻害又は抑制する生体適合性基を意味する。かかる基はインビボ用途では特に重要であり、当業者には周知であって、ペプチドアミン末端に対しては、好適には、N−アシル化基−NH(C=O)Rから選択されるか(式中、アシル基−(C=O)RはC1〜6アルキル、C3〜10アリール基から選択されるRを有する。)、或いはポリエチレングリコール(PEG)構成ブロックを含む。好適なPEG基については、リンカー基(L)に関して以下で説明する。かかるPEG基として好ましいのは、式Bio1又はBio2(後記)のバイオモディファイアーである。好ましいアミノ末端MIG基は、アセチル、ベンジルオキシカルボニル又はトリフルオロアセチルであり、最も好ましくはアセチルである。
【0064】
ペプチドカルボキシル末端に適した代謝阻害基としては、カルボキサミド、tert−ブチルエステル、ベンジルエステル、シクロヘキシルエステル、アミノアルコール又はポリエチレングリコール(PEG)構成ブロックが挙げられる。BTMペプチドのカルボキシ末端アミノ酸残基に好適なMIG基は、アミノ酸残基の末端アミンがC1〜4アルキル基、好ましくはメチル基でN−アルキル化されているものである。好ましいMIG基はカルボキサミド又はPEGであり、最も好ましい基はカルボキサミドである。
【0065】
一方又は両方のペプチド末端がMIG基で保護される場合、−(L)[Cy]部分は適宜MIG基に結合していてもよい。好ましくは、少なくとも一方のペプチド末端はMIG基を有しておらず、その位置で−(L)[Cy]部分が結合して式IVa又はIVbの化合物を与えるようにする。
【0066】
[Cy]−(L)−[BTM]−Z (IVa)
−[BTM]−(L)−[Cy] (IVb)
式中、
はBTMペプチドのN末端に結合していて、H又はMIGであり、
はBTMペプチドのC末端に結合していて、OH、OB又はMIGであり、
は(上記で定義した通りの)生体適合性陽イオンである。
【0067】
式IVa及びIVbにおいて、Z及びZは好ましくは独立にMIGである。Z及びZに対して好ましいMIG基は、ペプチド末端について上述した通りである。BTMペプチドの代謝の阻害はいずれのペプチド末端でも、−(L)[Cy]部分を同様に結合することによっても達成できるが、−(L)[Cy]自体は本発明のMIGの定義には属さない。
【0068】
BTMペプチドは、適宜、Cyの結合に適した側鎖を有するアミノ酸残基であって、リンカー基(L)のアミノ酸残基の一部をなす1以上の追加のアミノ酸残基を含んでいてもよい。かかるアミノ酸残基として好適なものとして、アミン官能化Cy色素との結合のためのAsp又はGlu残基、又はカルボキシ官能化若しくは活性エステル官能化Cy色素との結合のためのLys残基が挙げられる。Cyを結合させるための追加のアミノ酸残基は好適にはBTMペプチドの結合領域から離れて位置しており、好ましくはC末端又はN末端のいずれかに位置す。好ましくは、結合用のアミノ酸残基はLys残基である。
【0069】
合成リンカー基(L)が存在する場合、合成リンカー基は好ましくは[BTM]及びCyとの結合を容易にする末端官能基を含む。このような基(Q)として適しているものについては、第5の態様(後記)で説明する。Lが、1〜10アミノ酸残基のペプチド鎖を含む場合、アミノ酸残基は好ましくはグリシン、リジン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸又はセリンから選択される。LがPEG部分を含む場合、Lは好ましくは式Bio1又はBio2の単分散PEG様構造のオリゴマー化から誘導される単位を含む。
【0070】
【化10】

【0071】
式Bio1の17−アミノ−5−オキソ−6−アザ−3,9,12,15−テトラオキサヘプタデカン酸。式中、pは1〜10の整数である。或いは、式Bio2のプロピオン酸誘導体に基づくPEG様構造も使用できる。
【0072】
【化11】

【0073】
式中、pは式Bio1で定義した通りであり、qは3〜15の整数である。式Bio2において、pは好ましくは1又は2であり、qは好ましくは5〜12である。
【0074】
リンカー基がPEG又はペプチド鎖を含まない場合、好ましいL基は原子数2〜10、最も好ましくは原子数2〜5の−(A)−部分を構成する結合原子の骨格鎖を有し、原子数2又は3原子のものが特に好ましい。2原子からなる最小リンカー基骨格鎖は、不都合な相互作用が最小限に抑制されるほどCyが十分に隔てられるという利点を付与する。
【0075】
BTMペプチドが市販されていなければ、P.Lloyd−Williams,F.Albericio and E.Girald;Chemical Approachs to the Synthesis of Peptides and Proteins,CRC Press,1997に記載の固相ペプチド合成法で合成できる。
【0076】
造影剤は以下の通り製造することができる。
【0077】
BTMとCyとの結合を容易にするため、好適にはCyに反応性官能基(Q)を結合させておく。Q基はBTMの相補性官能基と反応するように設計され、CyとBTMの間で共有結合を形成する。BTMの相補性官能基は、BTMに固有の部分であってもよいし、当技術分野で公知の二官能基による誘導体化で導入してもよい。表1に、反応性基とその相補性対応物の具体例を示す。
【0078】
【表1】

【0079】
「活性化エステル」又は「活性エステル」という用語は、カルボン酸のエステル誘導体であって、良好な脱離基であり、アミンのような求核試薬との反応が容易になるように設計されたものをいう。好適な活性エステルの例は、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、ペンタフルオロフェノール、ペンタフルオロチオフェノール、p−ニトロフェノール及びヒドロキシベンゾトリアゾールである。好ましい活性エステルは、N−ヒドロキシスクシンイミド又はペンタフルオロフェノールエステルである。
【0080】
タンパク質、ペプチド、核酸、炭水化物などのBTMに存在する官能基の例としては、ヒドロキシ、アミノ、スルフヒドリル、カルボニル(アルデヒド及びケトンを含む)及びチオホスフェートが挙げられる。好適なQ基は、カルボキシル、活性化エステル、イソチオシアネート、マレイミド、ハロハセトアミド、ヒドラジド、ビニルスルホン、ジクロロトリアジン及びホスホルアミダイトから選択し得る。好ましくは、Qはカルボン酸の活性化エステル、イソチオシアネート、マレイミド又はハロアセトアミドである。
【0081】
相補性基がアミン又はヒドロキシルである場合、Qは好ましくは活性化エステルであり、好ましいエステルは上述の通りである。好ましいCy上の置換基は、5−カルボキシペンチル基の活性化エステルである。相補性基がチオールである場合、Qは好ましくはマレイミド又はヨードアセトアミド基である。
【0082】
シアニン色素を生物学的分子に結合する一般的方法は、Licha et al[Topics Curr.Chem.,222,1−29(2002);Adv.Drug Deliv.Rev.,57,1087−1108(2005)]に記載されている。本発明で使用するためのペプチド、タンパク質及びオリゴヌクレオチド基質は末端部位又は1以上の内部部位で標識してもよい。蛍光色素標識試薬を用いるタンパク質標識の総説及び例については、“Non−Radioactive Labelling,a Practical Introduction”,Garman,A.J.Academic Press,1997、“Bioconjugation−Protein Coupling Techniques for the Biomedical Sciences”,Aslam,M.and Dent,A.,Macmillan Reference Ltd,(1998)を参照されたい。合成ペプチドで部位特異的標識を得るのに利用できるプロトコルについては、Hermanson,G.T.,Bioconjugate Techniques,Academic Press(1996)を参照されたい。
【0083】
好ましくは、造影剤の製造法は、以下の(i)〜(iii)のいずれかを含む。
(i)BTMのアミン官能基と式Y−(L)−[Cy]の化合物との反応、又は
(ii)BTMのカルボン酸又は活性化エステル官能基と式Y−(L)−[Cy]の化合物との反応、
(iii)BTMのチオール基と式Y−(L)−[Cy]の化合物との反応
式中、BTM、MIG、L、n及びCyは上記で定義した通りであり、
はカルボン酸、活性化エステル、イソチオシアネート又はチオシアネート基であり、
はアミン基であり、
はマレイミド基である。
【0084】
は、好ましくは第一又は第二アミン基であり、最も好ましくは第一アミン基である。段階(iii)で、BTMのチオール基は好ましくはシステイン残基に由来するものである。
【0085】
段階(i)〜(iii)において、BTMは、化学反応が選択的に所望の部位でしか起こらないように適切な保護基で保護されたCy誘導体と潜在的に反応し得る他の官能基を適宜有していてもよい。
「保護基」という用語は、望ましくない化学反応は阻止又は抑制するが、残りの分子を変質させない程度の穏和な条件下で官能基から脱離させることのできる十分な反応性をもつように設計された基を意味する。脱保護後に所望の生成物が得られる。アミン保護基は当業者に周知であり、好適にはBoc(tert−ブチルオキシカルボニルの略)、Fmoc(フルオレニルメトキシカルボニルの略)、トリフルオロアセチル、アリルオキシカルボニル、Dde[すなわち1−(4,4−ジメチル−2,6−ジオキソシクロヘキシリデン)エチル]又はNpys(すなわち3−ニトロ−2−ピリジンスルフェニル)から選択される。好適なチオール保護基は、Trt(トリチル)、Acm(アセトアミドメチル)、t−Bu(tert−ブチル)、tert−ブチルチオ、メトキシベンジル、メチルベンジル又はNpys(3−ニトロ−2−ピリジンスルフェニル)である。その他の保護基の使用については、‘Protective Groups in Organic Synthesis’,Theodora W.Greene and Peter G.M.Wuts(John Wiley & Sons,1991)に記載されている。好ましいアミン保護基はBoc及びFmocであり、最も好ましくはBocである。好ましいチオール保護基はTrt及びAcmである。
【0086】
ペプチドとの結合に適した官能化シアニン色素(Cy)は、GE Healthcare社、Atto−Tec社、Dyomics社、Molecular Probes社などから市販されている。かかる色素の大半はNHSエステルとして入手できる。ヒドラジド、マレイミド又はスクシンイミジルエステル基で官能化されたAlexa Fluor(商標)647は、Molecular Probes社から市販されている。R位がカルボキシル又はマレイミド基で官能化されたCyは、欧州特許出願公開第1816475号に記載されたものと同様の方法で調製できる。
【0087】
光学レポーター色素をアミノ酸及びペプチドに結合する方法は、Licha(上記参照)並びにFlanagan et al[Bioconj.Chem.,8,751−756(1997)]、Lin et al,[Bioconj.Chem.,13,605−610(2002)]及びZaheer[Mol.Imaging,1(4),354−364(2002)]に記載されている。リンカー基(L)をBTMに結合する方法では、色素単独の場合(上記参照)と同様の化学反応が用いられ、当技術分野で公知である。
【0088】
式IIIの色素については、以下の第5の態様で説明する。
【0089】
第2の態様では、本発明は、第1の態様の造影剤を生体適合性担体と共に哺乳類への投与に適した形態で含む医薬組成物を提供する。
【0090】
「生体適合性担体」とは、造影剤を懸濁又は溶解できる流体、特に液体であって、組成物が生理学的に認容できるもの、つまり毒性も耐え難い不快感も伴わずに哺乳類の身体に投与することができるようなものである。生体適合性担体は好適には注射可能な担体液であり、例えば、発熱物質を含まない注射用の滅菌水、食塩液のような水溶液(これは注射用の最終製剤が等張性となるように調整するのに都合がよい)、1種以上の張度調節物質(例えば血漿陽イオンと生体適合性対イオンとの塩)、糖(例えばグルコース又はスクロース)、糖アルコール(例えばソルビトール又はマンニトール)、グリコール(例えばグリセロール)その他の非イオン性ポリオール材料(例えばポリエチレングリコール、プロピレングリコールなど)の水溶液である。好ましくは、生体適合性担体は発熱物質を含まない注射用水又は等張食塩水である。
【0091】
造影剤と生体適合性担体は、各々、無菌健全性及び/又は放射能の安全性並びに適宜、不活性ヘッドスペースガス(例えば窒素又はアルゴン)を維持することができ、しかも、シリンジ又はカニューレで溶液の添加及び吸引もできる密封容器を備える適当なバイアル又は容器に入れて供給される。かかる容器として好ましいのはセプタムシールバイアルであり、気密蓋をオーバーシール(通例アルミニウム製)でクリンプしたものである。蓋は、無菌状態を維持したまま皮下注射針で一回又は複数回穿刺するのに適したもの(例えばクリンプオン式セプタムシール蓋)である。かかる容器は、所望により(例えば、ヘッドスペースガスの交換又は溶液の脱気などのための)真空に蓋が耐えることができるとともに、酸素や水蒸気のような外部雰囲気ガスを侵入させずに減圧する際などの圧力変化にも耐えるという追加の利点も有する。
【0092】
好ましい多用量用容器は、複数回分の用量を収容した単一バルクバイアル(例えば容積10〜30cmのもの)からなり、臨床症状に応じて製剤の有効期間中様々な時間間隔で単一用量を臨床グレードのシリンジに吸引することができる。プレフィルドシリンジは単一用量つまり「単位用量」を収容するように設計され、そのため好ましくは使い捨て又はその他臨床用に適したシリンジである。本発明の医薬組成物は好ましくは一人の患者に適した用量を有していて、適当なシリンジ又は容器で供給される
医薬組成物は、適宜、抗菌保存剤、pH調節剤、充填剤、安定剤又は浸透圧調整剤のような追加の賦形剤を含んでいてもよい。「抗菌保存剤」という用語は、細菌、酵母又はカビなどの有害微生物の増殖を阻害する薬剤を意味する。抗菌保存剤は、使用量に応じてある程度の殺菌作用を示すこともある。本発明の抗菌保存剤の主な役割は、医薬組成物での微生物の増殖を阻害することである。ただし、抗菌保存剤は、投与前に医薬組成物の調製に用いられるキットの1以上の成分における有害微生物の増殖の防止にも適宜使用できる。適当な抗菌保存剤としては、パラベン類、すなわちメチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン又はこれらの混合物、ベンジルアルコール、フェノール、クレゾール、セトリミド及びチオメルサールが挙げられる。好ましい抗菌保存剤はパラベン類である。
【0093】
「pH調節剤」という用語は、組成物のpHが、ヒト又は哺乳類への投与に関する許容範囲(約pH4.0〜10.5)内に収まるようにするのに有用な化合物又は複数の化合物の混合物を意味する。かかる適当なpH調節剤としては、トリシン、リン酸塩又はTRIS(すなわちトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)のような薬学的に許容される緩衝剤、並びに炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム又はこれらの混合物などの薬学的に許容される塩基が挙げられる。組成物をキットの形態で用いる場合、キットのユーザーが多段階法の一部としてpHを調節できるようにpH調節剤を適宜別のバイアル又は容器で提供してもよい。
【0094】
「充填剤」という用語は、製造及び凍結乾燥時の材料の取扱いを容易にする薬学的に許容される増量剤を意味する。適当な充填剤としては、塩化ナトリウムのような無機塩並びに水溶性糖類又は糖アルコール、例えばスクロース、マルトース、マンニトール又はトレハロースが挙げられる。
【0095】
第2の態様の医薬組成物は、所望の非発熱性無菌製品が得られるように、無菌製造(クリーンルーム)条件下で調製し得る。主要成分、特に関連試薬並びに機器のうち造影剤と接する部材(例えばバイアル)は無菌であるのが好ましい。部品及び試薬は、無菌濾過、並びにγ線照射、オートクレーブ処理、乾熱又は化学的処理(例えばエチレンオキサイドでの処理)などでの最終滅菌を始めとする当技術分野で公知の方法で滅菌できる。実施しなければならない操作の数を最小限にするため、幾つかの成分を予め滅菌しておくのが好ましい。ただし、用心のため、医薬組成物の調製における最終段階として1回以上の滅菌濾過段階を含めておくのが好ましい。
【0096】
第2の態様の医薬組成物は、好ましくは以下の第3の態様に関して説明するキットから調製される。
【0097】
第3の態様では、本発明は、第2の態様の医薬組成物の調製用キットであって、第2の態様の生体適合性担体の無菌供給で再構成すれば溶解が起きて所望の医薬組成物が得られるように第1の態様の造影剤を無菌固体形態で含むキットを提供する。
【0098】
この場合、造影剤、さらに上述の他の任意成分としての賦形剤を凍結乾燥粉末として、適当なバイアル又は容器に入れて供給することができる。これらは、所望の生体適合性担体で再構成すれば、哺乳類への投与にすぐに使用できる無菌で非発熱性の形態の医薬組成物が得られるように設計される。
【0099】
造影剤の好ましい無菌固体形態は凍結乾燥固体である。無菌固体形態は、好ましくは医薬組成物に関して上記で説明した通りの医薬用グレードの容器に入れて供給される。キットを凍結乾燥する場合、配合物は、適宜、糖類(好ましくはマンニトール、マルトース及びトリシン)から選択される凍結保護剤を含んでいてもよい。
【0100】
第4の態様では、本発明は式Iaのコンジュゲートを提供する。
【0101】
[BTM]−(L)−Cy (Ia)
式中、BTM、L及びnは第1の態様で定義した通りであり、Cyは式IIIaのものである。
【0102】
【化12】

【0103】
式中、
〜R12は独立にR又はR基であり、R=R10の1つがR基で、その他が各々R基であるように選択され(式中、RはC1〜2アルキルである。)、
、R及びMは式IIIで定義した通りである。
【0104】
コンジュゲートにおける式IIIaの好ましい実施形態は上述の通りである。
【0105】
第4の態様のコンジュゲートは、式IIIaの好ましいシアニン色素を有する造影剤及び医薬組成物のいずれの調製にも有用である。BTM、L、n及び式IIIaの色素の好ましい態様は、上述した通りである。コンジュゲートは、第1及び第5の態様に記載した通り調製できる。
【0106】
第5の態様では、本発明は第4の態様で定義した式IIIaのシアニン色素を提供する。第5の態様の色素は、式IIIaの好ましいシアニン色素を有するBTM−コンジュゲート、造影剤及び医薬組成物の調製に有用である。
【0107】
式IIIaのシアニン色素の好ましい態様は、上述した通りである。色素は、好ましくはQ基をさらに含んでいる(式中、QはBTMとの結合に適した反応性官能基である)。好適で好ましいQ基は上述した通りである。式IIIaの色素は、例3でCy5**について記載した通り調製できる。Q基(Qは活性エステルである)が導入された色素は、例4に従って調製できる。
【0108】
第6の態様では、本発明は、哺乳類の体のインビボ光学イメージング法であって、第1の態様の造影剤又は第2の態様の医薬組成物のいずれかを用いてインビボでのBTM局在部位の画像を得ることを含む方法を提供する。
【0109】
「光学イメージング」という用語は、緑色乃至近赤外領域(波長500〜1200nm)の光との相互作用に基づいて、病気の検出、ステージング又は診断、病気進行の追跡或いは病気の治療の追跡のため、画像を形成する任意の方法を意味する。光学イメージングはさらに、いかなる装置も使用しない直接可視化から、各種スコープ、カテーテル及び光学イメージング装置(例えば、断層撮像用のコンピューター支援ハードウェア)のような装置の使用を伴うあらゆる方法を包含する。モダリティ及び測定技法としては、特に限定されないが、ルミネセンスイメージング、内視鏡検査、蛍光内視鏡検査、光学コヒーレンス断層撮影、透過率イメージング、時間分解透過率イメージング、共焦点イメージング、非線形顕微鏡検査、光音響イメージング、音響光学イメージング、分光分析、反射分光分析、干渉分析、コヒーレンス干渉分析、拡散光学断層撮影及び蛍光媒介拡散光学断層撮影(連続波、時間ドメイン及び周波数ドメインシステム)、並びに光散乱、吸光、偏光、ルミネセンス、蛍光寿命、量子収量及び消光の測定がある。これらの技術の詳細については、Tuan Vo−Dinh(editor):“Biomedical Photonics Handbook”(2003),CRC Press LCC、Mycek&Pogue(editors):“Handbook of Biomedical Fluorescence”(2003),Marcel Dekker,Inc.、Splinter&Hopper:“An Introduction to Biomedical Optics”(2007),CRC Press LCCに記載されている。
【0110】
緑色乃至近赤外領域の光は好適には500〜1200nm、好ましくは600〜1000nmの波長のものである。光学イメージング法は、好ましくは蛍光内視鏡検査である。第6の態様の哺乳類の身体は好ましくは人体である。造影剤の好ましい実施形態は、第1の態様(上述)で説明した通りである。特に、用いるCy色素が蛍光性であるのが好ましい。
【0111】
第6の態様の方法では、造影剤又は医薬組成物は、好ましくは哺乳類の身体に予め投与されている。「予め投与」とは、臨床医の関与の下で造影剤を例えば静脈内注射によって患者に投与する段階がイメージングに先立って既に実施されていることを意味する。この実施形態は、BTMが関与する哺乳類の身体の病態のインビボ画像診断用の診断薬を製造するための、第1の実施形態のコンジュゲートの使用を含む。
【0112】
第6の態様の好ましい光学イメージング法は、蛍光反射イメージング(FRI)である。FRIでは、本発明の造影剤を診断すべき被験体に投与し、次いで被験体の組織表面に励起光(通常は連続波(CW)励起)を照射する。光は造影剤のCy色素を励起する。励起光で生じる造影剤からの蛍光を、蛍光検出器を用いて検出する。戻り光を好ましくは濾光して蛍光成分を(単独で又は部分的に)分離する。蛍光から画像を形成する。通常、最小限の処理を実施し(寿命、量子収量などの光学パラメーターの計算にプロセッサーは使用しない)、画像は蛍光強度をマップする。造影剤は罹患部に集中して高い蛍光強度を生じるように設計される。こうして、蛍光強度画像で罹患部は陽性コントラストを生じる。画像は好ましくはリアルタイムイメージングが可能となるようにCCDカメラ又はチップを用いて得られる。
【0113】
励起用波長は使用するCy色素に応じて異なるが、本発明の色素では通例500〜1200nmの範囲内にある。励起光を発生させるための機器は、レーザー(イオンレーザー、色素レーザー、半導体レーザーなど)、ハロゲン光源又はキセノン光源のような慣用の励起光源であればよい。最適な励起波長を得るため、適宜、各種光学フィルターを用いてもよい。
【0114】
好ましいFRI法は、以下の段階(i)〜(iv):
(i)哺乳類の体内の関心組織表面に励起光を照射する段階、
(ii)Cyの励起によって生じる造影剤からの蛍光を蛍光検出器を用いて検出する段階、
(iii)蛍光検出器で検出された光を適宜濾光して蛍光成分を分離する段階、及び
(iv)段階(ii)又は(iii)の蛍光から前記関心組織表面の画像を生成させる段階
を含む。段階(i)では、励起光は好ましくは本質的に連続波(CW)である。段階(iii)では、検出した光を好ましくは濾光する。特に好ましいFRI法は蛍光内視鏡検査である。
【0115】
第6の態様の別のイメージング法は、FDPM(周波数ドメイン光子移動)を用いる。これは、組織中での色素の検出深度が大きいことが重要となる連続波(CW)法[Sevick−Muracaet al,Curr.Opin.Chem.Biol.,,642−650(2002)]に比べて利点を有する。かかる周波数/時間ドメインイメージングには、画像化すべき病変の組織深度及び使用する機器の種類に応じて変調できる蛍光特性をCyが有していると有利である。
【0116】
FDPM法は以下の(a)〜(d):
(a)不均質組成を有する前記哺乳類の体の光散乱生体組織を、所定の経時的変動強度の光源からの光に露光して造影剤を励起する段階であって、組織が励起光を多重散乱させる段階、
(b)前記露光に応答した組織からの多重散乱発光を検出する段階、
(c)組織内の様々な位置での蛍光特性のレベルに各々対応する複数の値をプロセッサーで確定することによって、発光から組織全体の蛍光特性を定量化する段階であって、蛍光特性のレベルが組織の不均質組成に応じて変化する段階、及び
(d)段階(c)の値に従って組織の不均質組成のマッピングを行うことによって組織の画像を生成する段階
を含む。
【0117】
段階(c)の蛍光特性は、好ましくは造影剤の取込みに対応し、好ましくは造影剤を投与する前の組織の吸収係数及び散乱係数に対応する複数の量のマッピングをさらに含む。段階(c)の蛍光特性は、好ましくは蛍光寿命、蛍光量子効率、蛍光収量及び造影剤取込みの1以上に対応する。蛍光特性は、好ましくは発光強度とは無関係であり、造影剤濃度とも無関係である。
【0118】
段階(c)の定量は、好ましくは、(i)値の推定値を設定し、(ii)推定値の関数として算出発光値を求め、(iii)算出発光値を検出段階の発光と比較して誤差を求め、(iv)誤差の関数として蛍光特性の修正推定値を得ることを含む。定量は、好ましくは組織の多重光散乱挙動をモデル化する数学的関係から値を求めることを含む。第1のオプションの方法は、好ましくは、蛍光特性のバラツキを検出することによってインビボでの組織の代謝特性をモニターすることをさらに含む。
【0119】
第6の態様の光学イメージングは、好ましくは哺乳類の体の病態の管理に役立てるために用いられる。「管理」という用語は、病勢進行の検出、ステージング、診断、モニタリング又は治療のモニタリングでの使用を意味する。病態は、好適には造影剤のBTMが関与するものである。イメージング用途は、好ましくはカメラによる表面イメージング、内視鏡検査及び手術のガイダンスを含む。好適な光学イメージング法の詳細については、Sevick−Muraca et al[Curr.Opin.Chem.Biol.,6,642−650(2002)]の総説がある。
【0120】
他の態様では、本発明は哺乳類の体の病勢進行の検出、ステージング、診断、モニタリング又は病気の治療のモニタリングを行う方法であって、第6の態様のインビボ光学イメージング法を含む方法を提供する。
【実施例】
【0121】
本発明を、以下の非限定的な実施例で例示する。例1a及び2では、それぞれ化合物1及び3の合成を例示するが、いずれも本発明の技術的範囲に属さない関連色素の比較例である。例1bでは、対照ペプチド(スクランブルRGD)の色素コンジュゲートである化合物2の合成を例示する。例3では、本発明の好ましいCyであるシアニン色素Cy5**の合成を例示する。例4では、Cy5**の活性エステルの合成を例示する。例5では、Cy5**のペプチドコンジュゲートである化合物4の合成を例示する。例6では、Alexa647のペプチドコンジュゲートである化合物6の合成を例示する。例7では、化合物1〜8の血漿安定性データを提供する。化合物5及び7(血漿中で4時間インキュベートした後に残存する主ピークはそれぞれ46%及び70%)を除いて、すべてのコンジュゲートが十分な血漿安定性を示した。例8では、本発明の化合物のPPBデータを提供する。最も高いPPBは化合物3及び7で観察され、最も低いのは化合物4及び6であった。例9では、化合物1〜8のコラーゲン結合データを提供する。ほとんどの化合物は低濃度で高い結合を示したが、化合物4及び6は最も低いコラーゲン結合を示した。例10では、化合物1〜8の結合アッセイデータを提供する。若干高いKi値を示す化合物7と、化合物2(スクランブル陰性対照)を除いて、すべてnM程度の同様のKi値を示した。これから、シアニン色素が結合しているにもかかわらず、RGDペプチドの生物学的結合特性が保持されていて、一群のシアニン色素に当てはまることが分かる。例11では、化合物1〜8のインビボイメージングデータを提供する。分析ソフトウェアでは、色素の単純な指数関数的ウォッシュアウトを仮定した。推定ウォッシュアウト時間は、特に皮膚及び筋肉の信号については過小評価され、不正確であることが認められた。これは、RGDがバックグラウンド組織のインテグリン及びおそらくはコラーゲンと結合することに起因し、見掛け上二重指数関数的ウォッシュアウト特性を与えるためと考えられる。腫瘍でのウォッシュイン及びウォッシュアウトが筋肉よりも遅いことは好ましいと考えられる。陰性対照(化合物2)は腫瘍及び参照組織で同様のキネティクスを示し、陽性化合物で観察された差異がターゲティングによるもので、灌流作用に起因するものではないことを示唆している。化合物6が最も好ましいイメージングキネティクスをもつと考えられた。
【0122】
【表2】

【0123】
【表3】

【0124】
略語
慣用の一文字又は三文字アミノ酸略号を使用する。
Acm: アセトアミドメチル
ACN: アセトニトリル
Boc: tert−ブチルオキシカルボニル
DMF: N,N’−ジメチルホルムアミド
DMSO: ジメチルスルホキシド
Fmoc: 9−フルオレニルメトキシカルボニル
HCl: 塩酸
HPLC: 高速液体クロマトグラフィー
HSPyU: O−(N−スクシンイミジル)−N,N,N’,N’−テトラメチレンウロニウムヘキサフルオロホスフェート
Ile: イソロイシン
LC−MS: 液体クロマトグラフィー質量分析
NHS: N−ヒドロキシ−スクシンイミド
NMM: N−メチルモルホリン
NMP: 1−メチル−2−ピロリジノン
Pbf: 2,2,4,6,7−ペンタメチルジヒドロベンゾフラン−5−スルホニル
PBS: リン酸塩緩衝食塩水
PPB: 血漿タンパク結合
TFA: トリフルオロ酢酸
Trt: トリチル
TSTU: O−(N−スクシンイミジル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート
例1a:RGD−[Cy5(2)]色素コンジュゲート(化合物1、比較例)の合成
【0125】
【化13】

【0126】
RGDペプチド(国際公開第2005/123768号参照、24mg、0.02mmol)を固体として、Cy5(2)モノNHS−エステル(GE Healthcare社カタログ番号PA15104、7.5mg、0.01mmol)のDMF(2ml)溶液に添加し、次いでNMM(0.01ml、0.09mmol)を添加した。反応は遮光下で一晩進行させた。DMFを減圧下で蒸発させ、粗生成物を逆相分取クロマトグラフィー(Vydac C18カラム,218TP1022;溶媒A=水/0.1%TFA、溶媒B=CHCN/0.1%TFA、60分間10〜30%Bの勾配、流量10ml/分、254nmで検出)で精製し、6.6mg(37%)の純粋標品(分析HPLC:Phenomenex Luna C18カラム、00G−4252−E0;溶媒A=水/0.1%TFA、溶媒B=CHCN/0.1%TFA、20分間15〜35%Bの勾配、流量1.0ml/分;保持時間19.5分、214nm及び254nmで検出)を得た。質量分析法でさらに特性決定を行い、m/z値949.1[MH2+]を得た。
【0127】
例1b:neg−RGD−[Cy5(2)]色素コンジュゲート(化合物2、比較例)の合成
【0128】
【化14】

【0129】
ペプチド配列Lys−Cys−Gly−Asp−Phe−Cys−Arg−Cysを含有するneg−RGDペプチドは、RDGペプチドについて記載された方法(国際公開第2005/123768号参照)で調製した。
【0130】
neg−RGD−[Cy5(2)]色素コンジュゲートは例1に記載の通り調製した。粗生成物を、逆相分取クロマトグラフィー(Phenomenex Luna 5μ C18(2)250×21.20mm;溶媒A=水/0.1TFA、溶媒B=CHCN/0.1%TFA、40分間20〜30%Bの勾配、流量10ml/分、214nmで検出)で精製し、4.1mgの標記化合物(分析HPLC:Phenomenex Luna 3μ C18(2)20×2mm;溶媒A=水/0.1%TFA、溶媒B=CHCN/0.1%TFA、20分間10〜40%Bの勾配、流量1.0ml/分、保持時間3.23分、214nm及び254nmで検出)を得た。質量分析法でさらに特性決定を行い、m/z値1895.6[M]を得た。
【0131】
例2:RGD−Cy5(1))色素コンジュゲート(化合物3、比較例)の合成
【0132】
【化15】

【0133】
Cy5(1)をDMF(2ml)中のTSTU(2.1mg、0.0076mmol)及びNMM(0.009ml、0.08mmol)で1時間処理することによってCy5(1)のNHS−エステル(4.5mg、0.008mmol)を形成した。次いで、溶液をRGDペプチド(例1、20mg、0.016mmol)に添加し、反応を遮光下で一晩進行させた。DMFを減圧下で蒸発させ、粗生成物を逆相分取クロマトグラフィー(Vydac C18カラム,218TP1022;溶媒A=水/0.1%TFA、溶媒B=CHCN/0.1%TFA、60分間20〜40%Bの勾配、流量10ml/分、254nmで検出)で精製し、4.9mg(34%)の純粋標品(分析HPLC:Phenomenex Luna C18カラム、00G−4252−E0;溶媒A=水/0.1%TFA、溶媒B=CHCN/0.1%TFA、20分間25〜45%Bの勾配、流量1.0ml/分、保持時間15.2分、214nm及び254nmで検出)を得た。質量分析法でさらに特性決定を行い、m/z値902.1[MH2+]を得た。
【0134】
例3:シアニン色素2−{(1E,3E,5E)−5−[1−(5−カルボキシペンチル)−3,3−ジメチル−5−スルホ−1,3−ジヒドロ−2H−インドール−2−イリデン]ペンタ−1,3−ジエニル}−3−メチル−1,3−ビス(4−スルホブチル)−3H−インドリウム−5−スルホネート(Cy5**)の合成
【0135】
【化16】

【0136】
(3a)5−メチル−6−オキソヘプタン−1−スルホン酸
【0137】
【化17】

【0138】
DMF(25ml)中の2−メチルアセト酢酸エチル(50g)を、DMF(100ml)中の水素化ナトリウム(鉱油中60%NaH12.0g)の懸濁液に、氷浴で冷却しながら1時間滴下した(内部温度0〜4℃)。この混合物を45分間撹拌しながら室温まで温めてから、再度冷却した。次いで、1,4−ブタンスルトン(45g)のDMF(25ml)溶液を15分間滴下した。最終混合物を60℃で18時間加熱した。溶媒をロータリーエバポレーターで除去し、残渣を水とジエチルエーテルとの間で分配させた。水層を回収し、新鮮なジエチルエーテルで洗浄し、ロータリーエバポレーターにかけて粘着性の泡状物を得た。この中間体を水(100ml)に溶解させ、水酸化ナトリウム(17.8g)を15分間にわたって撹拌しながら添加した。混合物を90℃で18時間加熱した。冷却した反応混合物を、濃塩酸(約40ml)の添加によって約pH2に調節した。溶液をロータリーエバポレーターにかけ、真空下で乾燥させた。黄色固体を、2%塩酸を含有するエタノールで洗浄した(3×150ml)。エタノール溶液を濾過し、ロータリーエバポレーターにかけ、真空下で乾燥させて黄色固体を得た。収量70g。
【0139】
(3b)2,3−ジメチル−3−(4−スルホブチル)−3H−インドール−5−スルホン酸二カリウム塩
【0140】
【化18】

【0141】
4−ヒドラジノベンゼンスルホン酸(40g)と5−メチル−6−オキソヘプタン−1−スルホン酸(3a、60g)と酢酸(500ml)を混合し、6時間加熱還流した。溶媒を濾過し、ロータリーエバポレーターにかけ、真空下で乾燥させた。固体をメタノール(1L)に溶解させた。これに、2Mの水酸化カリウムメタノール溶液(300ml)を添加した。混合物を3時間撹拌し、次いでロータリーエバポレーターを用いて溶媒の体積を50%減少させた。得られた沈殿を濾過し、メタノールで洗浄し、真空下で乾燥させた。収量60g。MS(LCMS):MH362。精密質量:実測値362.0729。MH=C1420NOの所要m/z362.0732(−0.8ppm)。
【0142】
(3c)2,3−ジメチル−1,3−ビス(4−スルホブチル)−3H−インドリウム−5−スルホネート二カリウム塩
【0143】
【化19】

【0144】
2,3−ジメチル−3−(4−スルホブチル)−3H−インドール−5−スルホン酸(3b、60g)を、1,4ブタンスルトン(180g)及びテトラメチレンスルホン(146ml)と140℃で16時間加熱した。得られた赤色固体をジエチルエーテルで洗浄し、粉末に粉砕し、真空下で乾燥させた。収量60g。
【0145】
(3d)TFA塩としてのCy5**
1−(5’−カルボキシペンチル)−2,3,3−トリメチル−インドレニウムブロミド5−スルホン酸K塩(2.7g)、マロンアルデヒドビス(フェニルイミン)一塩酸塩(960mg)、無水酢酸(36ml)及び酢酸(18ml)を120℃で1時間加熱して暗赤褐色溶液を得た。反応混合物を室温まで冷却した。2,3−ジメチル−1,3−ビス(4−スルホブチル)−3H−インドリウム−5−スルホネート(3c、8.1g)及び酢酸カリウム(4.5g)を混合物に添加し、室温で18時間撹拌した。得られた青色溶液を、酢酸エチルを用いて沈澱させ、真空下で乾燥させた。粗製色素を、液体クロマトグラフィー(RPC18、水+0.1%TFA/MeCN+0.1%TFAの勾配)で精製した。主な色素ピークを含む画分を回収し、プールし、真空下で蒸発させて標記色素2gを得た。紫外/可視(水+0.1%TFA):650nm。MS(MALDI−TOF):MH887.1。MH=C385014の所要m/z887.1。
【0146】
例4:2−[(1E,3E,5E)−5−(1−{6−[(2,5−ジオキソピロリジン−1−イル)オキシ]−6−オキソヘキシル}−3,3−ジメチル−5−スルホ−1,3−ジヒドロ−2H−インドール−2−イリデン)ペンタ−1,3−ジエニル]−3−メチル−1,3−ビス(4−スルホブチル)−3H−インドリウム−5−スルホネートジイソプロピルエチルアミン塩(Cy5**のNHSエステル)の合成
【0147】
【化20】

【0148】
Cy5**(例3、10mg)を、無水DMSO(3ml)中に溶解し、これにHSPyU(20mg)及びN,N’−ジイソプロピルエチルアミン(80μl)を添加した。得られた溶液を3時間混合し、TLC(RPC18、水/MeCN)で反応が完結したことを確認した。色素を酢酸エチル/ジエチルエーテル中で沈澱させるて単離し、濾過し、酢酸エチルで洗浄し、真空下で乾燥させた。紫外/可視(水)650nm。MS(MALDI−TOF):MH+983.5。MH=C425316の所要m/z984.16。
【0149】
例5:RGD−Cy5**色素コンジュゲート(化合物4)の合成
【0150】
【化21】

【0151】
Cy5**NHSエステル(2mg、例4)及びsym−コリジン(2μL)をNMP(1mL)に溶解した溶液を、RGDペプチド(例1、6.4mg)及びsym−コリジン(2μL)をDMF(1mL)に溶解した溶液に滴下し、反応混合物を一晩撹拌した。次いで、混合物を10%ACN/水0.1%TFA(6mL)で希釈し、生成物を分取HPLC(Phenomenex Luna 5μ C18(2)250×21.20mmカラム;溶媒A=水/0.1%TFA、溶媒B=CHCN/0.1%TFA、40分間10〜20%Bの勾配、流量10ml/分、214nmで検出)で精製し、2.3mg(72%)の純粋標品(分析HPLC:Phenomenex Luna 3μ、C18(2)20×2mmカラム;溶媒A=水/0.1%TFA、溶媒B=CHCN/0.1%TFA、5分間10〜40%Bの勾配、流量0.6ml/分、保持時間2.28分、214nm及び254nmで検出)を得た。質量分析法でさらに特性決定を行い、m/z値1064.5[MH2+]を得た。
【0152】
例6:RGD−Alexa647色素コンジュゲート(化合物6)の合成
【0153】
【化22】

【0154】
Alexa Fluor647NHSエステル(2mg、Molecular Probes A20106)及びsym−コリジン(3.2μL)をNMP(1.4mL)に溶解した溶液を、RGDペプチド(例1、15mg)及びsym−コリジン(3.2μL)をDMF(1mL)に溶解した溶液に滴下し、反応混合物を一晩撹拌した。次いで、混合物を水/0.1%TFA(6mL)で希釈し、生成物を分取HPLC(Phenomenex Luna 5μ C18(2)250×21.20mmカラム;溶媒A=水/0.1%TFA、溶媒B=CHCN/0.1%TFA、40分間10〜25%Bの勾配、流量10ml/分、214nmで検出)で精製し、2.7mg(53%)の純粋標品(分析HPLC:Phenomenex Luna 3μ、C18(2)20×2mmカラム;溶媒A=水/0.1%TFA、溶媒B=CHCN/0.1%TFA、5分間10〜40%Bの勾配、流量0.6ml/分、保持時間1.99分、214nm及び254nmで検出)を得た。質量分析法でさらに特性決定を行い、m/z値1050.4[MH2+]を得た。
【0155】
例7:化合物1〜8の血漿安定性
マウス血漿(非滅菌)はRockland社(米国ペンシルベニア州)から購入した。この血漿はヘパリンナトリウムで安定化されている。PBS及び血漿中に物質をそれぞれ濃度0.1/0.2mg/mLで溶解した。両ブランク試料(ペプチドなしの溶媒)及び血漿/PBSに溶解したペプチドを、37℃で約4時間インキュベートした。インキュベート後、タンパク質をMillipore社製フィルタインサートを備えた非滅菌Ultrafree(商標)MC遠心チューブ(Amicon)を用いた限外濾過で除去した。上記フィルタのカットオフは30000NMWLであった。遠心前に、血漿試料は水で1:1に希釈した。試料は可視光検出を用いたHPLCで分析した。
【0156】
物質は、PBS中に濃度0.1mg/mLで溶解させた。超遠心試料の蛍光強度は、プレートリーダを備えたFluoroskan Ascent(商標)FL(Thermo Labsystems社(フィンランド))を用いて測定した。励起波長は646nm、発光波長は678nmであり、測定は2通りの異なる物質濃度(6.5μg/mL血漿及び23μg/mL血漿)で実施した。
【0157】
本実験では、紫外−可視検出器を備えたUltimate 3000マイクロ液体クロマトグラフを用いた。溶液は強い青未を帯びており、650nmで十分な吸収を示す。
【0158】
クロマトグラフィーは、Waters社製のX−Terra RP18カラム2.1×150mm(3.5μm粒子、アセトニトリル(ACN)とリン酸塩緩衝液(20mM、pH7.1)の勾配溶出、検出波長650nm、流速0.1mL/分、注入体積:5μL)を用いて実施した。勾配は緩衝液中22%ACNで開始し、12分間で50%ACNに直線的に増加し、次いで勾配を2分間で急激に90%ACNに直線的に増加し、次いで出発混合物に平衡化した。合計分析時間は20分間であり、主ピークの保持時間は約9分であった。分解/不純物を主ピークの純度の変化として報告する。結果を表4に示す。
【0159】
【表4】

【0160】
例8:化合物1〜8の蛍光偏光血漿タンパク結合アッセイ
化合物1〜8を、ヒト血漿及びアッセイ緩衝液(PBS/0.05%Tween)を用いる蛍光偏光タンパク質結合アッセイで試験した。40μlのペプチド(約5μM)を、40μlのPBS又はヒト血漿中でインキュベートした。Tecan Safireプレートリーダ(Ex635/Em678)で蛍光偏光を測定し、データは血漿添加時の偏光値の増加%として報告する。
【0161】
結果を表5に示す。
【0162】
【表5】

【0163】
例9:化合物1〜8のコラーゲン結合アッセイ
市販のコラーゲンコート96ウェルプレートを使用した(BD Biocoat商品コードBDAA356649,Becton,Dickinson,Biosciences社(米国マサチューセッツ州ベッドフォード、ツー・オーク・パーク)。30nM、100nM又は300nM(幾つかの事例では1000nMも含む)の各試験化合物から3通りのウェルを作り、プレートをプレートリーダで1分毎に振盪しながら37℃で1時間インキュベートした。各ウェルの容量は200μlであった。インキュベートが終了したら、150μlの上清を未処理96ウェルプレートに移し、蛍光を励起646nm及び発光678nm波長で読み取った。
化合物3は、加熱室で5分毎に振盪しながら37℃でインキュベートした(蓋付マイクロプレート)。
【0164】
結合度の計算には、上清からの蛍光を、初期濃度が同じ150μlのアリコートの蛍光と比較した。いずれの場合も、3つのウェルからのメジアン値を使用した。結果を表6に示す。
【0165】
【表6】

【0166】
例10:化合物1〜8の競合アッセイ
αβ受容体を発現する膜に対するRGD−Cyコンジュゲート(化合物1〜8)の親和性(K)を調べるため、125I−エキスタチンを用いた従来の競合アッセイを実施した。Kは、ヒト内皮細胞から調製した膜での受容体競合試験で求めた。αβを始めとする数種類のインテグリンを発現するヒト内皮腺癌細胞株EA−Hy926から膜を調製し、受容体源として用いた。αβを含めた数種類のインテグリンに対する公知の基質である125I−エキスタチンの競合的結合を、様々な濃度の非放射性化合物で実施した。結果を表7に示す。
【0167】
【表7】

【0168】
例11:化合物1〜8のインビボ試験
(a)動物モデル
本実験では、雌BALBc/Aヌード(Bom)マウスを使用した。動物の使用については地元の倫理委員会の承認を得た。これらの動物は免疫無防備状態にあるので、HEPAフィルタ濾過空気を供給する個別換気ケージ(IVC,Scanbur社製)に収容した。動物は、「Rat and Mouse nr.3 Breeding」飼料(Scanbur社)及びHClを1mMモル濃度に添加して酸性化した水道水(pH3.0)を随時摂取できる状態にあった。撮像前の取扱い及びすべての手順に際して動物を保護するため、層状HEPAフィルタ濾過空気の条件下で取り扱った。
【0169】
動物には、5日間以上の順化期間をおいてから、2箇所(肩及び左下腹部)にHT−29腫瘍細胞懸濁液を、体積100μlの注射当たり2.5〜3×10細胞の公称用量で皮下注射した。皮下注射は軽いガス麻酔下で実施した。腫瘍は2〜4週間増殖させた。
【0170】
光学イメージング中に固定しておくため、動物を同軸開口マスク中でキャリアガスとしての酸素と共にイソフルラン(通例1.5〜2%)で軽い外科手術レベルの麻酔状態に麻酔した。撮像時(最大3時間)に正常な体温を保つため、動物に電気毛布から外部熱を供給した。造影剤を投与するためのVenflonカテーテルを尾静脈に挿入した。各動物には造影剤を1回注射した。
【0171】
皮膚内のイメージングプローブからアーチファクトを除くため、撮像前に腫瘍及び筋肉の上の直径約3mmの皮膚片を除去したが、その際動物は麻酔した。動物は実験終了後に頸椎脱臼により屠殺した。
【0172】
(b)イメージングプロトコール
レーザーは、出力を安定化させるため実験開始の15分以上前に電源を入れておいた。小さな白色プリンター用紙の束を撮像してフラットフィールド画像を得て、これを用いて照明の不均一性を補正した。動的イメージングのため、動物を温度40℃の電気毛布(BioVet社)上の撮像用暗箱内に入れた。呼吸及び体温を用いて撮像中の麻酔深度を監視した。動物は1度に1回撮像した。すべての動物について、レーザ光源及び白色光源で注射前の画像を撮像した。いずれの光源についても、白色光画像を受信周波数で照明された画像にするため発光フィルタを置いた。
【0173】
試験物質をVenflonを介して静脈内注射し、0.2mlの生理食塩水でフラッシュした。注射開始から30秒毎に新たな画像1枚撮像して、時系列画像を得た。画像はローカル保存してからサーバに移した。
【0174】
画像分析は特注MATLABソフトウェアで実施した。関心領域は、皮膚で覆われていない腫瘍及び筋肉の部分に設けた。第3の領域は、信号を損なう腫瘍又は腎臓組織が下に存在しない皮膚の部分に置いた。各領域内のピクセル値の平均信号を算出した。平均信号及びピクセル標準偏差を算出した。
【0175】
(c)結果
例7〜10のインビトロデータに基づいて、化合物1、2、4及び6で得られたインビボ結果を示す。腫瘍増強は、平均腫瘍部強度を平均筋肉部強度で除した比として定義される標的/バックグラウンド比(TBR)として定量化される。
【0176】
化合物2(neg−RGDスクランブルペプチド)はTBRが1.14であった。化合物1[Cy5(2)−RGD]のTBR比は1.43であった。化合物4及び6は、それぞれTBR比が1.72及び1.98で、期待された改善を示している。結果を図1に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳類の体のインビボ光学イメージングに好適な造影剤であって、次の式Iのコンジュゲートを含む造影剤。
[BTM]−(L)−Cy (I)
式中、
BTMは生物学的ターゲティング部分であり、
Cyは式IIのシアニン色素であり、
【化1】

(式中、
及びYは独立に−O−、−S−、−NR−又は−CR−であって、Y及びYの少なくとも一方が−CR−であるように選択され、
及びRは独立にH、−SO又はRであり(式中、MはH又はBであり、Bは生体適合性陽イオンである。)、
はH、C1〜5アルキル、C1〜6カルボキシアルキル又はR基であり、
〜Rは独立にC1〜5アルキル、C1〜6カルボキシアルキル又はRであり、
はH又はC1〜3アルキルであり、
はR又はC1〜6カルボキシアルキルであり、
はC1〜4スルホアルキルである。)、
Lは式−(A)−の合成リンカー基であり(式中、各Aは独立に−CR−、−CR=CR−、−C≡C−、−CRCO−、−COCR−、−NRCO−、−CONR−、−NR(C=O)NR−、−NR(C=S)NR−、−SONR−、−NRSO−、−CROCR−、−CRSCR−、−CRNRCR−、C4〜8シクロヘテロアルキレン基、C4〜8シクロアルキレン基、C5〜12アリーレン基若しくはC3〜12ヘテロアリーレン基、アミノ酸、糖又は単分散ポリエチレングリコール(PEG)構成ブロックであって、各RはH、C1〜4アルキル、C2〜4アルケニル、C2〜4アルキニル、C1〜4アルコキシアルキル又はC1〜4ヒドロキシアルキルから独立に選択され、mは1〜20の整数である。)、
nは0又は1の整数であるが、ただし、
(i)シアニン色素は1以上のR基と、R、R及びR基から合計3〜6個のスルホン酸置換基とを含むこと、
(ii)当該造影剤が蛍光消光剤を含まない
ことを条件とする。
【請求項2】
がHである、請求項1記載の造影剤。
【請求項3】
及びYが各々独立に−CR−である、請求項1又は請求項2記載の造影剤。
【請求項4】
がCHである、請求項3記載の造影剤。
【請求項5】
Cyが、R、R及びR基から選択される合計4個のスルホン酸置換基を有する、請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の造影剤。
【請求項6】
基が独立に式−(CHSOのものである(式中、Mは請求項1で定義した通りであり、kは1〜4の整数である。)、請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の造影剤。
【請求項7】
kが3又は4である、請求項6記載の造影剤。
【請求項8】
=R=SOである、請求項1乃至請求項7のいずれか1項記載の造影剤。
【請求項9】
SO置換基がインドール/インドレニン環の5位にある、請求項8記載の造影剤。
【請求項10】
Cyが式IIIのものである、請求項1乃至請求項9のいずれか1項記載の造影剤。
【化2】

式中、
は独立にR基又はC1〜6カルボキシアルキルであり、
〜R12は独立にC1〜5アルキル又はR基であって、R=R10=R又はR11=R12=Rのいずれかとなるように選択され(式中、RはC1〜2アルキルである。)、
及びMは請求項1で定義した通りである。
【請求項11】
BTMが以下の(i)〜(v)から選択される、請求項1乃至請求項10のいずれか1項記載の造影剤。
(i)3〜100アミノ酸長のペプチド、
(ii)酵素基質、酵素拮抗剤又は酵素阻害剤、
(iii)受容体結合性化合物、
(iv)オリゴヌクレオチド、
(v)オリゴDNA又はオリゴRNA断片。
【請求項12】
BTMが3〜100アミノ酸長のペプチドである、請求項11記載の造影剤。
【請求項13】
式IVa又は式IVbのものである、請求項12記載の造影剤。
[Cy]−(L)−[BTM]−Z (IVa)
−[BTM]−(L)−[Cy] (IVb)
式中、
はBTMペプチドのN末端に結合していて、H又はMIGであり、
はBTMペプチドのC末端に結合していて、OH、OB又はMIGであり、
は請求項1で定義した通りであり、
IGは、BTMペプチドの酵素代謝を阻害又は抑制する生体適合性の基である代謝阻害基である。
【請求項14】
=Z=MIGである、請求項13記載の造影剤。
【請求項15】
請求項1乃至請求項14のいずれか1項記載の造影剤を生体適合性担体と共に哺乳類への投与に適した形態で含む医薬組成物。
【請求項16】
一人の患者に適した用量を有していて、適当なシリンジ又は容器で供給される、請求項15記載の医薬組成物。
【請求項17】
請求項15又は請求項16記載の医薬組成物の調製用キットであって、生体適合性担体の無菌供給で再構成すれば溶解が起きて所望の医薬組成物が得られるように請求項1乃至請求項14のいずれか1項記載の造影剤を無菌固体形態で含むキット。
【請求項18】
前記無菌固体形態が凍結乾燥固体である、請求項17記載のキット。
【請求項19】
次の式Iaのコンジュゲート。
[BTM]−(L)−Cy (I)
[BTM]−(L)−Cy (Ia)
式中、BTM、L及びnは請求項1で定義した通りであり、Cyは次の式IIIaのものである。
【化3】

式中、
〜R12は独立にR又はR基であって、R=R10の1つがR基で、その他が各々R基であるように選択され(式中、RはC1〜2アルキルである。)、
、R及びMは請求項10で定義した通りである。
【請求項20】
請求項19記載のコンジュゲートの調製に有用な、請求項19に記載された式IIIaのシアニン色素。
【請求項21】
基(式中、QはBTMとの結合に適した反応性官能基である。)をさらに含む、請求項20記載のシアニン色素。
【請求項22】
が独立に−(CHSOである(式中、kは1〜4の整数である。)、請求項20又は請求項21記載のシアニン色素。
【請求項23】
哺乳類の体のインビボ光学イメージング方法であって、請求項1乃至請求項14のいずれか1項記載の造影剤或いは請求項15又は請求項16記載の医薬組成物のいずれかを用いてインビボでのBTMの局在部位の画像を得ることを含む方法。
【請求項24】
請求項1乃至請求項14のいずれか1項記載の造影剤或いは請求項15又は請求項16記載の医薬組成物が哺乳類の身体に予め投与されている、請求項23記載の方法。
【請求項25】
(i)哺乳類の体内の関心組織表面に励起光を照射する段階、
(ii)Cyの励起によって生じる造影剤からの蛍光を蛍光検出器を用いて検出する段階、
(iii)蛍光検出器で検出された光を適宜濾光して蛍光成分を分離する段階、及び
(iv)段階(ii)又は(iii)の蛍光から前記関心組織表面の画像を生成させる段階
を含む、請求項24記載の方法。
【請求項26】
段階(i)の励起光が本質的に連続波(CW)である、請求項25記載の方法。
【請求項27】
(a)不均質組成を有する前記哺乳類の体の光散乱生体組織を、所定の経時的変動強度の光源からの光に露光して造影剤を励起する段階であって、組織が励起光を多重散乱させる段階、
(b)前記露光に応答した組織からの多重散乱発光を検出する段階、
(c)組織内の様々な位置での蛍光特性のレベルに各々対応する複数の値をプロセッサーで確定することによって、発光から組織全体の蛍光特性を定量化する段階であって、蛍光特性のレベルが組織の不均質組成に応じて変化する段階、及び
(d)段階(c)の値に従って組織の不均質組成のマッピングを行うことによって組織の画像を生成する段階
を含む、請求項24記載の方法。
【請求項28】
当該光学イメージング方法が蛍光内視鏡検査法を含む、請求項23乃至請求項27のいずれか1項記載の方法。
【請求項29】
インビボ光学イメージングが、哺乳類の体の病勢進行の検出、ステージング、診断、モニタリング又は病気の治療のモニタリングを支援するために使用される、請求項23乃至請求項28のいずれか1項記載の方法。
【請求項30】
哺乳類の体の病勢進行の検出、ステージング、診断、モニタリング又は病気の治療のモニタリングを行う方法であって、請求項23乃至請求項29のいずれか1項記載のインビボ光学イメージング法を含む方法。

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2010−527922(P2010−527922A)
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−507980(P2010−507980)
【出願日】平成20年5月16日(2008.5.16)
【国際出願番号】PCT/GB2008/001693
【国際公開番号】WO2008/139206
【国際公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(396019387)ジーイー・ヘルスケア・アクスイェ・セルスカプ (82)
【Fターム(参考)】