説明

光学部材

【課題】表示装置の偏光板の視認者側に貼り合せて使用される光配向材であって、高温高湿度下の環境下においても偏光板の耐久性を低下させない光配向材を備えた光学部材。
【解決手段】本発明により、偏光素子と、前記偏光素子の表裏両面に張合されるトリアセチルセルロースからなる保護フィルムと、前記保護フィルムの少なくとも表面側に配置された光配向材と、を備える光学部材において、前記光配向材には、前記保護フィルムから発生する酢酸を放出する放出部が形成されてなることを特徴とする光学部材が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置、有機EL表示装置等の表示装置の表面に配置される偏光板
に装着される、偏光解消能を有する光配向材を備えた光学部材に関するものであり、特に、偏光眼鏡を装着して観察する場合に表示が暗化し視認性が低下するのを防ぐとともに、高温高湿の過酷な環境下において使用されても、耐久性の低下しない光配向材を備えた光学部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、一般的に2枚の透明基板間に液晶組成物を封入した液晶セルと、そ
の液晶セルの表裏両面にそれぞれ一組の偏光板を配置した構造を有している。この液晶表示装置では、透明基板の内面に設けられた透明電極で液晶に電圧を加えると向き(配列)が変化し、この配列変化を利用して背面光源装置からの光の透過/遮光を制御して表示を行っている。上述したように液晶表示装置では液晶セルと一組の偏光板が用いられているため、このような液晶表示装置では、観察者は液晶セル表面に配置された偏光板を透過した直線偏光性の光を観察している。
【0003】
また、有機EL表示装置は、自発光表示装置であるが、反射率の高い金属電極で外光
が反射してコントラストを低下させてしまう。この外光反射を防ぐために1/4波長板と偏光板を積層した円偏光板が使われている。したがって、有機EL表示装置でも、観察者は有機EL表示装置表面に配置された偏光板を透過した直線偏光性の光を観察している。
【0004】
近年、携帯電話などの携帯機器を受信対象とする地上デジタルテレビジョン放送の普
及による、「携帯電話・移動体端末向けの1セグメント部分受信サービス」の視聴、自動車用計器盤、カーナビゲーション装置への液晶表示装置、有機EL表示装置の使用の拡大により液晶表示装置、有機EL表示装置を屋外や外光の強い場所で利用する機会が増えている。一方、偏光眼鏡は、車両運転中のダッシュボードのフロントガラスへの映り込みによる視認性低下の解消、前走行車両のリヤウィンドウでの太陽光の反射による眩しさの解消、釣り、マリンスポーツでの水面のギラツキ軽減などに有効である。このため、観察者が偏光眼鏡を使用して液晶表示装置、有機EL表示装置を観察する場面も少なくない。観察者が偏光眼鏡を使用して液晶表示装置、有機EL表示装置を観察した場合、偏光眼鏡の偏光吸収軸と液晶表示装置からの光の偏光軸が一致した場合に表示が暗くなり、著しく視認性が低下してしまう問題がある。
【0005】
このような問題点に対して、特許文献1では、液晶表示面に偏光解消手段を設けるこ
とが提案されており、具体的には、2枚の水晶板を組み合わせた偏光解消板が偏光解消手段として用いることが開示されている。しかしながら、このような2枚の水晶板を組み合わせた偏光解消手段で液晶表示装置画面全体を覆うことは実用的でない。
【0006】
また、特許文献2では、液晶表示面に出射する表示光を直線偏光から円偏光あるいは楕円偏光に変更するために、1/4波長板のような複屈折板を偏光板の視認者側に設けることが提案されている。この複屈折板を設けるにあたり、偏光板に複屈折板を粘着剤などで用いて直接張合できれば簡便に利用できる方法となる。しかしながら特に厳しい使用条件下での耐久性を求められる車載用の表示装置などでは、後述のような理由から、偏光板に複屈折板を粘着剤などで張合して用いることによって偏光板の劣化を促進してしまうという問題がある。
【0007】
偏光板は、ポリビニルアルコール(「PVA」と略称することがある)フィルムを1
軸延伸してヨウ素を吸着配向させた偏光子の少なくとも片面に保護フィルムを接着したものが一般的に用いられている。また、従来から、保護フィルムとしてトリアセチルセルロース(「TAC」と略称することがある)フィルムなどが用いられており、偏光板は偏光子を保護フィルムで挟んだものが一般的である。
【0008】
このような偏光板を車載表示装置に求められるような使用環境である高温高湿な環
境に曝すと、保護フィルムであるTACフィルムが水分と反応して加水分解され酢酸を発生する。更に、ここで発生した酢酸がTACフィルム中に蓄積されると、その自触媒作用により偏光板自体の劣化が急激に進行してしまう。ここで、偏光板に複屈折板を粘着剤などで張合して用いることを考える。一般的な複屈折板は、ポリカーボネートや環状オレフィン系ポリマーをフィルム化し、延伸したものが用いられている。これらフィルムは、透湿性が低く、酢酸も殆ど透過することが無い。このような透湿性の低いフィルムを偏光板の視認者側へ直接張合した場合、高温高湿な環境によってTACフィルムの加水分解が進み生じた酢酸が系外へ排出されず、TACフィルムの劣化を促進し、結果として偏光板が劣化してしまうことが問題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−10522号
【特許文献2】特開平10−10523号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような問題点に鑑みて、本発明は、液晶表示装置、有機EL表示装置などの偏光板が装着される表示装置について、偏光眼鏡を装着して観察する場合に前記表示装置の表示が暗くなり視認性が低下するのを防ぐとともに、表示装置の偏光板の視認者側に直接張合せて、高温高湿下の過酷な条件で使用されても偏光板の耐久性を低下させることのない光学部材を得ることを目的にするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の課題を解決する本発明の光学部材は、偏光素子と、前記偏光素子の表裏両面にそ
れぞれ張合わされるTACフィルムからなる保護フィルムと、前記保護フィルムの少なくとも表示側に配置された光配向材と、を備える光学部材において、前記光配向材は、前記保護フィルムから発生する酢酸を放出する放出部が形成されてなることを特徴とするものである。
【0012】
前記放出部は、光配向材面と垂直方向に、多数の開孔が形成されてなることが好ましく、前記開孔は、40μm以下の円形の形状を有していることが好ましい。また、前記放出部は、前記光配向材面の表面積に対して、7〜28%の割合を占めているのが好ましい。
【0013】
前記放出部は、光配向材を形成するポリマーを溶剤に溶解し、ついで前記ポリマーは不
溶である揮発性物質を加えて調整した塗布液を、支持体に塗布乾燥して、前記溶剤の除去と前記揮発性物質の揮発を行うことにより、形成されたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の光学部材を備えた表示装置は、偏光眼鏡を着用した場合でも、表示が暗くな
ることがなく、本発明の光学部材に係る光配向材は、表示装置の偏光板の視認者側に直接貼り合わされているが、表示装置が高温高湿度下の過酷な条件で使用されても、保護フィルムから発生する酢酸が光配向材から放出されるので偏光板の耐久性を損ねることがない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の光学部材の一例を示す模式図である。
【図2】本発明の実施例1の光学素子の偏光顕微鏡観察図である。
【図3】本発明の実施例2の光学素子の偏光顕微鏡観察図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(光学部材の構成)
図1は、本発明の光学部材断面の一例を示す模式図である。本発明の光学部材は、偏光素子11の表裏両面にTACフィルムからなる保護フィルム12、12が積層されて形成された偏光板10において、偏光板10の表示側の保護フィルム12表面に光配向材13が配置されることにより構成されている。好ましい態様としては、光配向材13の表面側に、粘着剤14を介して保護フィルム16が積層されている。本発明の光学部材の特徴は、光配向材が一様な複屈折性を有する異方性域13のみで形成されているのではなく、異方性域の中に酢酸を放出する放出部(図1の例では、開孔15)が混在している。これにより、過酷な環境下で、保護フィルム(TACフィルム)から発生する酢酸が放出部を通して外部に排出されるので、偏光板の耐久性が確保される。
【0017】
(偏光素子)
本発明において用いられる偏光素子として、公知の偏光素子を用いることができる。例えば、ポリビニルアルコール(PVA)フィルムをヨウ素や二色性色素等で染色し、延伸・ホウ酸処理等によりヨウ素、色素等を配向固定したフィルム、主鎖型または側鎖型のポリアセチレンを延伸したフィルムなどを挙げることができる。偏光フィルムの厚さは、特に限定されるものではなく、1〜80μm、好ましくは10〜60μmの範囲内の厚みのフィルムが使用される。
【0018】
(保護フィルム)
本発明において用いられるトリアセチルセルロースからなる保護フィルムとして、公知のトリアセチルセルロース(TAC)製の保護フィルムが用いられる。保護フィルムは単層であっても複数層であってもよい。偏光素子としてポリビニルアルコールフィルムを用いる場合、積層の容易性から、表面をアルカリなどでケン化処理したTACフィルムであってもよい。なお、本発明において、保護フィルムが位相差フィルムを兼ね備えていてもよい。保護フィルムの厚さは、特に限定されることなく、一般には偏光板の薄型化などを目的に500μm以下、好ましくは5〜300μmの範囲内の厚みのフィルムが使用される。
【0019】
(偏光板)
前記の偏光素子に保護フィルムを表裏に積層して偏光板が形成される。前記偏光素子と保護フィルムとの積層方法は特に制限されず、従来公知の方法によって行うことができ、通常、粘着剤や接着剤等を使用して積層が行われる。これらの粘着剤や接着剤の種類は、前記偏光素子や透明保護層の材質等によって適宜選択される。接着剤としては、特に制限されないが、例えば、アクリル系、ビニルアルコール系、シリコーン系、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリエーテル系等のポリマー製接着剤や、ゴム系接着剤等が使用できる。これらの中でも、例えば、湿度や熱の影響によっても剥がれ難く、光透過率や偏光度にも優れるものが好ましい。具体的には、前記偏光素子がポリビニルアルコールフィルムである場合、例えば、接着処理の安定性等の点から、ポリビニルアルコール系接着剤が好ましい。偏光板の厚みは、特に制限されないが、通常60μm〜2mm、好ましくは、100μm〜1mmの範囲である。
【0020】
(光配向材)
本発明において、光配向材とは、少なくとも直線偏光性の光を含む紫外線を液晶性ポリマーに照射することによって、偏光方向の高分子鎖を選択的に反応させ、これによって異方性を生じたフィルムをいう。したがって、液晶性ポリマーは、感光性の重合体であることが好ましい。
【0021】
(感光性重合体)
本発明における光配向材を構成するポリマーとしては、感光性の液晶性ポリマーであれば特に限定されないが、主鎖が炭化水素、アクリレート、メタクリレート、シロキサンなどで構成され、側鎖として液晶性ポリマーのメソゲン成分として知られているビフェニル、ターフェニル、フェニルベンゾエートなどの置換基と、桂皮酸基(またはその誘導体基)などの感光性基とを結合した構造を有するものを含み、該側鎖が単炭化水素、アルキルエーテルなどの屈曲性部分を介して主鎖に結合した構造を有する感光性の重合体または共重合体が好ましく用いられる。かかる重合体として、下記の[化1]から[化9]に示されている構造を少なくとも1つ有するとともに、[化10]で表わされる主鎖を有する感光性の重合体または共重合体が例示される。
【0022】
(低分子化合物)
本発明における光配向材は、前記の感光性液晶性ポリマーに直線性紫外線を照射して形成してもよいが、好ましくは、配向を増強するために前記の感光性の液晶性ポリマーに低分子化合物を混合し、その混合物に直線偏光性紫外線を照射し、本発明における光配向材を形成するのが好ましい。かかる低分子化合物としては、メソゲン成分として知られているビフェニル、ターフェニル、フェニルベンゾエート、アゾベンゼンなどの置換基を有し、このような置換基とアリル、アクリレート、メタクリレート、桂皮酸基(またはその誘導体基)などの官能基を、前記のような屈曲成分を介して結合した液晶性を有するものが好ましく用いられる。これらの低分子化合物は、単一の化合物として用いられるだけでなく、複数の化合物が混合されてもよい。かかる低分子化合物として、下記の[化11]または[化12]に示されている化合物が例示される。このような低分子化合物は、液晶性ポリマーに対して、5〜50重量%、好ましくは10〜30重量%の範囲内で加えるのが好ましく、このような低分子化合物を加える場合、低分子化合物の重合を促進するため、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、およびα,α−ジメトキシ−α−フェニルアセトフェノンのようなベンゾイン誘導体; ベンゾフェノン、2,4−ジクロロベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、および4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノンのようなベンゾフェノン誘導体;2−クロロチオキサントンおよび2−イソプロピルチオキサントンのようなチオキサントン誘導体;2−クロロアントラキノンおよび2−メチルアントラキノンのようなアントラキノン誘導体;N−メチルアクリドンおよびN−ブチルアクリドンのようなアクリドン誘導体などの光増感剤を加えるのが好ましい。
【0023】
【化1】

【0024】
【化2】

【0025】
【化3】

【0026】
【化4】

【0027】
【化5】

【0028】
【化6】

【0029】
【化7】

【0030】
【化8】

【0031】
【化9】

【0032】
【化10】

【0033】
【化11】

【0034】
【化12】

【0035】
前記[化1]〜[化12]に示す、それぞれの式において、−R〜−R11は、−H、ハロゲン基、−CN、アルキル基またはメトキシ基などのアルキルオキシ基、またはそれらを弗化した基を表し、−R12は、メチル基、エチル基などのアルキル基、またはそれらを弗化した基を表し、xyの比率は、x:y=100〜0:0〜100の範囲にあり、nは1〜12、mは1〜12、jは1〜12、oは1〜12、pは1〜12、qは1〜12の整数をそれぞれ表し、XまたはYは、none、−COO、−OCO−、−N=N−、−C=C−または−C−をそれぞれ表し、W,W,W,W,WまたはWは、それぞれ[化1]、[化2]、[化3]、[化4]、[化5]、[化6]、[化7]、[化8]または[化9]で表わされる構造を示す。
【0036】
(液晶性ポリマー層の支持体上への形成)
液晶性のポリマー、または液晶性のポリマーに低分子化合物を加えた層に直線偏光性紫外線を照射するに際して、液晶性のポリマー、または液晶性のポリマーに低分子化合物を加えた層を適当な支持体の上に形成して直線偏光性紫外線を照射するのが好ましい。支持体としては、種々の高分子フィルムの中から適宜選択して用いられる。例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ジアセチルセルロースおよびトリアセチルセルロースなどのセルロース系ポリマーフィルム、ビスフェノールA・炭酸共重合体などのポリカーボネート系ポリマーフィルム、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびエチレン・プロピレン共重合体などの直鎖または分枝状ポリオレフィンフィルム、ポリアミド系フィルム、イミド系ポリマーフィルム、スルホン系ポリマーフィルムなどが挙げられる。液晶性のポリマー、または液晶性のポリマーに低分子化合物を加えた層を支持体の上に形成する方法として、液晶性のポリマー、さらに低分子化合物、その他の成分(光増感剤など)を加え、これらを適当な溶剤に溶解して調整される塗布液を支持体上に塗布し、溶剤を除去することにより形成する方法が挙げられる。溶剤としては、ジオキサン、ジクロロエタン、シクロヘキサノン、トルエン、テトラヒドロフラン、o−ジクロロベンゼン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどが挙げられ、これらの溶媒は、単独または混合して用いられる。
【0037】
本発明においては、光配向材としての複屈折性を有する領域と酢酸を放出する放出部とが混在する光配向材を形成するため、液晶性ポリマーを含む塗布液を、前記の支持体に適用して乾燥する方法は重要であり、この点については下記する。なお、形成されるフィルムの厚さ(乾燥後)は、0.3〜3.0μmの範囲内にあるのが好ましく、0.5〜2.0μmがより好ましい。支持体は、位相差フィルムを作製した後に剥離して除去してもよく、また、支持体自身が透明で光学的に等方性であり、かつ酢酸透過性を有するものであれば剥離しないでそのまま位相差フィルムとして使用することもできる。
【0038】
(照射前加熱)
支持体上に形成された液晶性ポリマー層は、偏光性紫外線を照射する前に、液晶相から等方相に転移する温度以上に加熱し、つづいて急冷処理を行って、液晶性ポリマー層を等方性にしてもよい。この処理により、重合体の側鎖や低分子化合物は、特定の方向を向かずに各々が無秩序な方向を向いた状態にすることができる。
【0039】
(直線偏光性紫外線照射)
前記の液晶性ポリマーまたは液晶性ポリマーと低分子化合物との混合物に、直線偏光性紫外線を照射することについては、すでに本発明者が特開2002−202409号公報及び特開2004−170595号公報において提案を行っている。
感光性の液晶性ポリマーまたは前記ポリマーに低分子化合物を混合した混合物を溶剤に溶解して調整された溶液を支持体に塗布してフィルムを形成し、形成されたフィルムに直線偏光性紫外線が照射される。直線偏光性紫外線が照射されると、照射光の電界振動方向かつ進行方向に対し垂直方向に対応した向きにある配置の側鎖の光反応が優先的に進行する。この光反応を進めるには、[化1]から[化9]に示された感光性基の部分が反応し得る波長の光の照射を要する。この波長は、[化1]から[化9]で示された−R〜−R12の種類によっても異なるが、一般に200−500nmであり、中でも250−400nmの有効性が高い場合が多い。
【0040】
(直線偏光紫外線照射後の加熱)
偏光性紫外線照射後、フィルムを加熱することにより、フィルム内の分子運動により、光反応を起こさなかった重合体の側鎖と低分子化合物は、光反応した側鎖と同じ方向に再配向する。その結果、フィルム全体において、照射した直線偏光の電界振動方向かつ照射光進行方向に対し垂直方向に重合体の側鎖と低分子化合物の分子が配向し、複屈折性が誘起され光配向材となる。偏光性紫外線照射後の加熱は、この再配向を促進するので、加熱温度は、光反応した部分の軟化点より低く、光反応しなかった側鎖と低分子化合物の軟化点より高いことが望ましい。このように露光したのち加熱し未反応側鎖を配向させたフィルムまたは加熱下で露光し配向させたフィルムを該高分子の軟化点以下まで冷却すると分子が凍結されて、光配向材が得られる。
【0041】
(非偏光性の紫外線照射)
ついで、前記の光配向材に非偏光性の紫外線を照射するのが好ましい。非偏光性紫外線を照射すると、フィルム中に残存している未反応の感光性基を有する液晶性ポリマーが反応して配向が固定され、安定した光配向材が得られる。本発明においては、偏光性紫外線照射後の組成物(感光性化合物)のガラス相−液晶相転移温度以上で非偏光性紫外線を照射することが好ましい。この方法によれば、光配向材の厚みを変えずに照射時の温度を変えることにより光配向の程度を変えることができる。すなわち、同じ厚さであっても配向性の異なるフィルムとすることが可能である。
【0042】
(酢酸を放出する放出部を有する光配向材の製造)
塗布液として、光配向材を形成するポリマーが不溶である、エチレングリコール、プ
ロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルなどの揮発性物質を添加混合した塗布液を、フィルム全面に均一塗布し、ついで、塗布液中の溶媒がまず揮発するにつれて、光配向材とこれに不溶である揮発性物質の相分離が生じ、更に乾燥すれば、異方性のフィルム面に、揮発性物質の存在により形成された、異方性層を有さない領域、とくに、多数の開孔(好ましくは面と垂直に貫通する多数の開孔)が混在した光配向材を形成することができる。異方性を有さない領域、とくに多数の開孔は、保護フィルムから発生する酢酸を放出するのに有効である。なお、揮発性物質は、光配向材を形成するポリマーとポリマーを溶解する溶剤に応じて適宜選択される。
前記のような非異方性域(開孔)が形成されていない光配向材では、透湿性が低く、
酢酸も殆ど透過することがない。しかしながら、本発明における光配向材のように、非異方性域(開孔)を備えることで、透湿性で酢酸放出性があり、表示装置の偏光板の視認者側に直接張合することにより偏光板の耐久性を損ねることのない光学部材を得ることができる。
【0043】
本発明の別の実施形態として、上記のような開孔ではなく、たとえば異方性フィルム面に異方性を有さない領域をまだら状に形成した形態でもよい。その製法としては、圧縮した空気や高圧ガスを用いて液体を霧などの状態で噴霧するスプレー塗布法や凸版印刷、オフセット印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷のような孔版印刷、インクジェットプリンターのような無版印刷などの一般的な印刷方法を利用してコートを行うと、まだら状のコートが得られ、コートのない部分またはコートの薄い部分が混在し、この部分は配向していないことにより、異方性域と非異方性域とが混在し、非異方性域が酢酸透過性のある放出部となる光配向材を形成することが可能である。本発明において、例えば、スプレー塗布法により厚みのある層、例えば、1.5μm以上の層を形成する場合には、スプレーの途中で乾燥を行い、乾燥後にまたスプレーを行うようにするのが好ましい。途中の乾燥を行うことなく、一度に厚い層を形成するとスプレー初期に形成された未コート部分が塞がれる場合がある。
この場合の非異方性域は、開孔で形成されているのではなく、コートが不均一であることにより、実質的に十分なコートがなされていない部分が等方性域を形成する。なお、前述の特開2002−202409号公報で採用されているスピンコート法でコートを行った場合には、均一なコート層が形成されるので、異方性域と等方性域が混在した光配向材を得ることはできない。
【0044】
(放出部のサイズおよび占有割合)
まだらのパターンの大きさ、面と垂直に貫通する孔の大きさは、装着される表示装置の
画素のサイズにもよるが、その大きさは100μm以下が望ましく、更には、40μm以下であることが望ましい。そのサイズが大きくなると表示装置の画素と干渉し、ギラツキを生じ、表示装置の画像に影響を与え画質の低下を招くことがある。また、サイズの下限については、酢酸が透過可能であれば、とくに限定されない。また、本発明において、異方性域は、光配向材面の表面積に対して、95〜60%、好ましくは、93〜72%、放出部となる非異方性域(開孔または薄いコート部分)は、5〜40%、好ましくは7〜28%の割合で占めていることが、異方性であるとともに酢酸透過性を確保する点で有効である。
【0045】
(光学部材の製造)
図1に示されているように、前記により得られた、異方性域と放出部とを有する光配向材13は、偏光板の表示側のTACからなる保護フィルム12表面に、粘着剤を介して積層されて、本発明の光学部材が得られる。粘着剤の適用方法としては、公知の方法が適宜使用されて行われる。例えば、粘着性物質をカレンダーロール法等による圧延方式、独他ブレード法や、グラビアロールコータ等による塗布液晶性のポリマー、または液晶性のポリマーに低分子化合物を加えた層方式などの方法が用いられる。
【実施例】
【0046】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は実施例によって限
定されるものではない。
【0047】
(実施例1)
4−シンナモイルオキシエチルオキシ−4´−(6−メタクリロイルオキシヘキシル
オキシ)ビフェニル(85モル%)とメチルメタクリレート(15モル%)とをランダム共重合して得られるポリ{〔4−シンナモイルオキシエチルオキシ−4´−(6−メタクリロイルオキシヘキシルオキシ)ビフェニル〕0.85−co−(メチルメタクリレート)0.15}78.4重量%、4,4´−ビス(6−メタクリロイルオキシヘキシルオキシ)ビフェニル19.6重量%、光増感剤として4,4´−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン2重量%を加えて、前記の各成分を1,4−ジオキサンに溶解した(15重量%の濃度)。さらに、この溶液に、光配向材に不溶である揮発性物質として、エチレングリコールを前記溶液に対して2重量%となるように添加し十分に攪拌した。得られた溶液を、バーコーターを用いて支持体(PETフィルム)に塗布し、室温下(25°、湿度50%)で乾燥し、厚み約1.5μmのフィルムを形成した。
【0048】
次に、高圧水銀灯を光源とする250W紫外線照射装置(ウシオ電機(株)製HB2
5103BY−C)の光を、グランテーラープリズムを用いて直線偏光に変換し、塗布により形成したフィルム面を400秒間照射した。続いて、このフィルムを125℃の恒温槽に約5秒間入れ、続いて20分間かけて室温まで降温した。更に、フィルム面に紫外線照射装置の光を、グランテーラープリズムを介さず非偏光のまま400秒間照射した。このようにして作製したフィルムを偏光顕微鏡のクロス二コルで観察したところ、図2に示すように、面と垂直に貫通する、直径約40μm以下の多数の孔(光の透過していない暗の領域)を有する異方性層からなる光配向材であることが確認された。また、この偏光顕微鏡(クロスニコル)写真において、光配向部を明、開孔部を暗として2値化し、画像解析で明部と暗部の面積を求めたところ、開孔部は、光配向材の表面積に対して18%の割合で存在していた。
【0049】
この光配向材を液晶表示装置(PVAフィルムからなる偏光素子の両面にTACフィ
ルムからなる保護フィルムが積層された偏光板を具備している)の視認者側偏光板の全面に粘着剤を用いて、塗布により形成したフィルムのみを転写し(PETフィルムは剥離して除去)本発明の光学部材を構成した。張合角度は、光配向材の光軸方向が液晶表示装置の視認者側偏光板の吸収軸に対して45°となるよう設定した。更に、その視認者側の全面に保護層としてアンチグレア処理したTACフィルムを、粘着剤を用いて張合した。このように本実施例の光配向材を張合した本発明の光学部材を備える液晶表示装置では、偏光眼鏡を掛けて観察しても、表示画面が暗くなることはなかった。
また、この液晶表示装置を65℃、湿度95%の環境に1000時間放置したが、保
護フィルムからの酢酸が開孔(放出部)から放出されるため、表示装置の機能が著しく低下してしまうことはなかった。
【0050】
(実施例2)
ポリ{〔4−シンナモイルオキシエチルオキシ−4´−(6−メタクリロイルオキシ
ヘキシルオキシ)ビフェニル〕0.85−co−(メチルメタクリレート)0.15}78.4重量%に4,4´−ビス(6−メタクリロイルオキシヘキシルオキシ)ビフェニル19.6重量%を加え、光増感剤として4,4´−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン2重量%を添加し、1,4−ジオキサンに溶解した溶液(15重量%の濃度)を調整した。この溶液を、2流体ノズルを用いて圧縮空気で噴霧しPETフィルム表面にスプレー塗布、室温下(25℃、湿度50%)で乾燥して、1g/m(平均厚み:約1.5μm)のポリマー層がコートされたフィルムを得た。なお、コートされたポリマー層とコートされていない部分とが混在する、まだら状のコートであった。
【0051】
次に、高圧水銀灯を光源とする250W紫外線照射装置の光をグランテーラープリズ
ムを用いて直線偏光に変換し、スプレー塗布により形成したフィルム面を400秒間照射した。続いて、このフィルムを125℃の恒温槽に約5秒間入れ、続いて20分間かけて室温まで降温した。更に、スプレー塗布により形成したフィルム面に紫外線照射装置の光を、グランテーラープリズムを介さず非偏光のまま400秒間照射した。このように作製したスプレー塗布により形成したフィルムを偏光顕微鏡のクロス二コルで観察したところ、図3に示すように、異方性を有する領域(光が透過している明の領域)と異方性を有さない領域(光の透過していない暗の領域)からなる光配向材であることが確認された。異方性を有さない領域は、コートされていない(実質的に貫通している)部分であり、実施例1と同様にして偏光顕微鏡写真を画像解析したところ、コートされていない部分が光配向材面の表面積に対して28%の割合を占めていた。
【0052】
この光配向材を液晶表示装置(PVAフィルムからなる偏光素子の両面にTACフィ
ルムからなる保護フィルムが積層された偏光板を具備している)の視認者側偏光板の全面に粘着剤を用いて、スプレー塗布により形成したフィルムのみを転写し(PETフィルムは剥離した)、本発明の光学部材を構成した。張合角度は、光配向材の光軸方向が液晶表示装置の視認者側偏光板の吸収軸に対して45°となるよう設定した。更に、その視液晶性のポリマー、または液晶性のポリマーに低分子化合物を加えた層認者側の全面に保護層としてアンチグレア処理したTACフィルムを、粘着剤を用いて張合した。このように前記の光配向材を張合した本発明の光学部材を備える液晶表示装置では、偏光眼鏡を掛けて観察しても、表示画面が暗くなることはなかった。
また、この液晶表示装置を65℃、湿度95%の環境に1000時間放置したが、保
護フィルムからの酢酸がまだら状に存在するコートの薄い部分(放出部)から放出されるため、表示装置の機能が著しく低下してしまうことはなかった。
【0053】
(比較例)
ポリカーボネートフィルムを延伸して作製した位相差フィルム(厚み:50μm)を、
実施例1,2と同様にして液晶表示装置の視認者側偏光板の全面に粘着剤を用いて張合した。張合角度は、位相差フィルムの光軸方向が液晶表示装置の視認者側偏光板の吸収軸に対して45°となるよう設定した。本比較例の液晶表示装置では、偏光眼鏡を掛けて観察しても、表示画面が暗くなることはなかった。しかしながら、液晶表示装置を65℃、湿度95%の環境に1000時間放置したところ偏光板の劣化が激しく表示装置の機能を有さなかった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の光学部材は、偏光眼鏡を使用した場合でも、表示が暗くなることを防ぐとともに、偏光板が損なわれることがないので耐久性に優れたものであり、液晶表示装置、有機EL表示装置等の表示装置に広く利用できる。
【0055】
以上の通り、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の追加、変更または削除が可能であり、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0056】
10:偏光板
11:偏光素子
12:保護フィルム
13:光配向材
14:粘着剤
15:開孔
16:保護フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光素子と、
前記偏光素子の表裏両面にそれぞれ張合されるトリアセチルセルロースからなる保護
フィルムと、
前記保護フィルムの少なくとも表面側に配置された光配向材と、
を備える光学部材において、
前記光配向材は、前記保護フィルムから発生する酢酸を放出する放出部が形成され
てなることを特徴とする光学部材。
【請求項2】
前記放出部は、開孔であることを特徴とする請求項1に記載の光学部材。
【請求項3】
前記開孔は、直径が40μm以下の略円形の形状を有していることを特徴とする請求
項2に記載の光学部材。
【請求項4】
前記放出部は、前記光配向材面の表面積に対して、7〜28%の割合を占めている
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光学部材。
【請求項5】
前記放出材は、光配向材を形成するポリマーを溶剤に溶解し、ついで前記ポリマーは不
溶である揮発性物質を加えて調整した塗布液を、支持体に塗布乾燥して、前記溶剤の除去と前記揮発性物質の揮発を行うことにより、形成されたものであることを特徴とする請求項2または3に記載の光学部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−37765(P2012−37765A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−178756(P2010−178756)
【出願日】平成22年8月9日(2010.8.9)
【出願人】(390031451)株式会社林技術研究所 (83)
【Fターム(参考)】