説明

光学顕微鏡観察用試料の調整方法及びそれを用いた、粒子の凝集状態・分散状態の観察方法、撮影方法

【課題】 光学顕微鏡を用いて、時間を要せずに簡易に粒子の凝集・分散状態を観察するための光学顕微鏡観察用試料の調整方法、それを用いた粒子の凝集・分散状態の観察方法、撮影方法を提供する。
【解決手段】 以下のステップ(a)〜(d)を含む光学顕微鏡観察用試料の調整方法。
(a)スライドガラス上に粒子を載置するステップ、(b)載置された粒子に接着剤を加えるステップ、(c)スライドガラス上で粒子と接着剤を混合するステップ、(d)粒子と接着剤の混合物の上にカバーガラスを置き、スライドガラスとカバーガラスの間に該混合物を保持するステップ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粒子の凝集状態、分散状態を光学顕微鏡で観察するための光学顕微鏡観察用試料の調整方法と、その調整方法により作製した試料を用いて粒子の凝集状態・分散状態を観察する観察方法と、撮影方法に関する。そして、得られた結果を管理に利用できるものである。
【背景技術】
【0002】
粒子の凝集性、分散性評価には、一般的に顕微鏡観察が用いられる。光学顕微鏡観察用試料は、従来、粒子をスライドガラス上に粒子を直接散布する方法、両面テープ上に塗布し、カバーテープで固定する方法などがある。
【0003】
これらの光学顕微鏡観察用試料では、粒子同士が物理的に結着しているのか、化学的に結着しているのかが不明確であり、真の凝集物を見分けることが不可能であった。
【0004】
インキ用顔料等の樹脂中粒子の分散性確認では、分散液を使用し、さらに溶媒で希釈した後、少量をプレパラートにスポットする。これにカバーガラスを被せ、室温(25℃)で1日静置した後に光学顕微鏡で顔料凝集物を確認する手法を取り入れている(例えば、特開2001−192594号公報参照)。
【0005】
分散剤入りの樹脂中では、粒子の分散性は向上するが、樹脂作製、1日静置のため、多くの時間を費やす。また、分散剤がない樹脂中では、分散性が悪いため、重なり合う粒子が存在する。さらに、凝集性、分散性評価には電子顕微鏡が使用される。しかし、電子顕微鏡による観察には、観察試料作製のための蒸着や真空操作、など事前準備に手間と時間がかかる。
【0006】
【特許文献1】特開2001−192594号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
微粒子を実際に使用する段階においては、凝集評価が非常に重要な項目である。微粒子は、粒径が小さくなるにつれ、その測定は非常に困難であり、様々な粒度分布装置などを持ってしても明確に測定できているか、疑わしい部分が多く存在する。水溶液分散型の粒度分布装置では、分散剤の影響により凝集を排除することが可能な場合もあるが、例えば、磁性を帯びる金属粒子などでは、どのような分散剤を使用しても物理的な凝集が発生し、真の凝集評価が出来ていなかった。乾式の装置においても、同様である。装置を使用した湿式の場合では、分散剤の選定から、サンプル作製、それぞれに時間が必要なため、多くの時間と手間を要していた。また、現在、金属性の、特に磁性などを帯びた微粒子においては、凝集状態・分散状態を明確に観察、測定することが可能な技術はほとんど確立されていない。
本発明は、光学顕微鏡を用いて、時間を要せずに簡易に粒子の凝集・分散状態を観察するための光学顕微鏡観察用試料の調整方法、それを用いた粒子の凝集・分散状態の観察方法、撮影方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、評価する粒子が金属粒子、樹脂粒子、樹脂芯材に金属めっきを施した粒子から選択される少なくとも一種であり、それらの粒径は1〜10μmの微粒子に適用するため、[1]以下のステップ(a)〜(d)を含む光学顕微鏡観察用試料の調整方法に関する。
(a)スライドガラス上に粒子を載置するステップ
(b)載置された粒子に接着剤を加えるステップ
(c)スライドガラス上で粒子と接着剤を混合するステップ
(d)粒子と接着剤の混合物の上にカバーガラスを置き、スライドガラスとカバーガラスの間に該混合物を保持するステップ。
また、本発明は、[2]接着剤が瞬間接着剤である上記[1]に記載の光学顕微鏡観察用試料の調整方法に関する。
また、本発明は、[3]瞬間接着剤が水分と反応して10〜120秒間以内に硬化する接着剤である上記[2]に記載の光学顕微鏡観察用試料の調整方法に関する。
また、本発明は、[4]瞬間接着剤がシアノアクリレートを含有する上記[2]又は上記[3]に記載の光学顕微鏡観察用試料の調整方法に関する。
また、本発明は、[5]粒子が、金属粒子、樹脂粒子、樹脂芯材に金属めっきを施した粒子から選択される少なくとも一種であり、粒径が1〜10μmである上記[1]ないし上記[4]のいずれかに記載の光学顕微鏡観察用試料の調整方法に関する。
また、本発明は、[6]上記[1]ないし上記[5]のいずれかに記載の光学顕微鏡観察用試料の調整方法により調整した光学顕微鏡観察用試料を用い、粒子の凝集状態・分散状態を観察することを特徴とする凝集状態・分散状態の観察方法に関する。
また、本発明は、[7]上記[6]に記載の観察方法で観察された粒子の凝集状態・分散状態を顕微鏡を通して、撮影機器で静止画として撮影することを特徴とする粒子凝集状態・分散状態撮影方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本件発明は次のような効果がある。
1.粒子単体の凝集状態、分散状態を手軽に、簡易に、効率良く、経済的に観察し、撮影することができる。
2.これまで観察できなかった磁性微粒子の凝集状態、分散状態の観察、撮影が可能になるため、微粒子製造、分級、解砕等の工程における、品質管理に有効利用できる。
3.観察結果や撮影された静止画は、はんだ用原料、粉末冶金原料、導電材、トライボロジー材などの微粒子を扱う、幅広い産業分野における品質管理に有効利用できる。
4.観察結果や撮影された静止画を、研究開発の側面支援、科学的根拠による観察用或いは説明用に使用でき、凝集のより深い化学的根拠追求が可能となる道を開く事ができ、粒子そのものの研究分野、並びに、幅広い産業分野で利用が可能である。
5.本発明の光学顕微鏡による観察方法で、粒子の凝集状態・分散状態を明確に読み取る事が可能となり、微粒子製造工程上での影響を明確に判断でき、製造工程の妥当性、正当性判断にも活用でき、また、安定した製造工程を維持することを可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の粒子の光学顕微鏡観察用試料の調整方法、及び凝集状態、分散状態の観察方法、また、それの撮影方法を以下に説明する。
粒子をできる限り本来の凝集状態、分散状態のまま顕在化させるには、素早く試料を調整する方法が望ましい。
(a)〜(d)のステップを図1に示した。図1の様に、スライドガラス(1)上に粒子(2)を載置する。粒子は磁性・非磁性の金属製粒子、樹脂製粒子、樹脂製芯材にニッケルや銅、パラジウムなど様々な金属めっきがされている粒子などが使用される。本発明では、磁性粒子に対して多大な効果をもたらすものである。また、粒子は、ごく少量で、重量は0.001〜0.01gが好ましい。粒子は、粒径や観察画面のサイズにもよるため、画面の約60〜80%に粒子が存在する濃度であると観察し易い。粒子数が多すぎると接着剤中での分散が生じにくい、また、少なすぎると観察粒子の数が減少する。粒子上に滴下される接着剤は、液状の樹脂が好ましく、接着効果が十分に発揮されるものがさらに好ましい。接着効果は、120秒以内で完了し、硬化することが望ましいが、10秒以上、20秒以下の短時間で硬化するのが特に好ましい。
樹脂の硬化に時間が長いと、粒子に磁性がある場合、樹脂中でも粒子同士が流動し、凝集が生じる。そのため、凝集したまま保持され、接着固定されるため、短時間硬化が効果的である。また、10秒以下であると、接着剤樹脂と粒子を混ぜている最中に硬化し、観察が不可能になる。10〜20秒の短時間硬化であれば手軽に、簡易に、効率良く試料を作製することが可能となる。
接着剤樹脂と粒子をよく混合し、試料上にカバーガラス(4)をすばやく載せ、指で強く押し、接着させる。このように(a)〜(d)の各ステップを行って、図2に示した光学顕微鏡観察用試料の調整が完了する。
【実施例】
【0011】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。
(実施例1)
以下に示す方法で光学顕微鏡観察用試料の調整を実施した。
磁性粒子(3〜5μm)をスパチュラで1/2匙掬い取り、スライドガラス上にばら撒いて載置し、スパチュラの背面で粒子を広げた((a)ステップ)。接着剤として、瞬間接着剤の東亞合成株式会社製ゼリー状アロンアルファを使用し、爪楊枝の先に5mm取り、スライドガラス上に広がった粒子上に加えて置いた((b)ステップ)。次に、瞬間接着剤と粒子を爪楊枝の先で手早く混合し((c)ステップ)、すぐにカバーガラスを乗せた。即座に指で押し、圧着することで光学顕微鏡観察用試料の調整を行い、((d)ステップ)図2に示した光学顕微鏡観察用試料を調整した。この試料を用い光学顕微鏡にセットして観察し、凝集状態・分散状態を顕微鏡を通して、撮影機器で静止画として撮影した。その観察結果を図3、4にそれぞれ示した。凝集状態とは、図3に示したような状態であり、粒子が分子間引力や磁性、静電気等によって多数集まり,密な集合状態を作ることであり、分散状態とは、図4に示したように、粒子が各々、単一なものとして存在している状態のことを言う。
【0012】
(実施例2)
接着剤をエポキシ樹脂(リファインテック株式会社製:エポマウント主剤)を使用した以外は、実施例1の方法に準じて光学顕微鏡観察用試料を調整した。エポキシ樹脂では、流動性があるため、粒子を保持することができず、120秒間以内で流動性が無くなる、接着剤が好ましいことがわかる。
【0013】
(比較例1)
樹脂を使用しない実施例1の粒子量に準じて調整した光学顕微鏡観察用試料を以下の方法で作製した。
スライドガラス(プレパラート)上に両面テープを貼り付け、両面テープ上に粒子を敷き詰めた。敷き詰めた粒子の上から、エアブローし、テープ(日東電工株式会社製B31テープ)を貼り、粒子が飛散しないようにした。粒子をテープで挟み込む方法は、エアブローしても粒子が重なり、凝集状態と分散状態が不明確であった。
【0014】
接着剤を使用することで、磁性など、分子間引力により、見かけ上凝集している粒子が、各々離別し、分散状態になる。これは、接着剤樹脂が粘度を持ち、粒子同士の微小な分子間引力で結合する凝集を断ち切り、単一粒子状態を保持し、そのため、粒子は非常に高分散状態になったと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の(a)〜(d)ステップを含む粒子の光学顕微鏡観察用試料の調整方法を説明するための模式図(途中)。
【図2】本発明の(a)〜(d)ステップを含む粒子の光学顕微鏡観察用試料の調整方法説明するための模式図(完成)。
【図3】本発明の光学顕微鏡観察用試料の調整方法により調整した光学顕微鏡観察用試料を用い粒子の凝集状態・分散状態を観察し、撮影した結果の凝集状態の一例を示した写真。
【図4】本発明の光学顕微鏡観察用試料の調整方法により調整した光学顕微鏡観察用試料を用い粒子の凝集状態・分散状態を観察し、撮影した結果の分散状態の一例を示した写真。
【符号の説明】
【0016】
1 スライドガラス(プレパラート)
2 接着剤
3 粒子
4 カバーガラス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のステップ(a)〜(d)を含む光学顕微鏡観察用試料の調整方法。
(a)スライドガラス上に粒子を載置するステップ
(b)載置された粒子に接着剤を加えるステップ
(c)スライドガラス上で粒子と接着剤を混合するステップ
(d)粒子と接着剤の混合物の上にカバーガラスを置き、スライドガラスとカバーガラスの間に該混合物を保持するステップ
【請求項2】
接着剤が瞬間接着剤である請求項1に記載の光学顕微鏡観察用試料の調整方法。
【請求項3】
瞬間接着剤が水分と反応して10〜120秒間以内に硬化する接着剤である請求項2に記載の光学顕微鏡観察用試料の調整方法。
【請求項4】
瞬間接着剤がシアノアクリレートを含有する請求項2又は請求項3に記載の光学顕微鏡観察用試料の調整方法。
【請求項5】
粒子が、金属粒子、樹脂粒子、樹脂芯材に金属めっきを施した粒子から選択される少なくとも一種であり、粒径が1〜10μmである請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の光学顕微鏡観察用試料の調整方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の光学顕微鏡観察用試料の調整方法により調整した光学顕微鏡観察用試料を用い、粒子の凝集状態・分散状態を観察することを特徴とする粒子の凝集状態・分散状態の観察方法。
【請求項7】
請求項6に記載の観察方法で観察された粒子の凝集状態・分散状態を顕微鏡を通して、撮影機器で静止画として撮影することを特徴とする粒子凝集状態・分散状態撮影方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−257954(P2009−257954A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−107836(P2008−107836)
【出願日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】