説明

光導波路型ケミカルセンサ

【課題】少ない試料でも高感度かつ高精度に測定でき、コンパクトで取り扱いも容易な光導波路型ケミカルセンサを提供する。
【解決手段】本発明の光導波路型ケミカルセンサは、コア層1およびコア層1を挟持・被包する2つのクラッド層(2,3)からなる光導波路と、発光手段5と受光手段6とを備え、一方のクラッド層3には、コア層1の一部を検出部4として露出させる開口3aが設けられ、検出部4には、該検出部4の表面積を増大させるための穴状構造および溝状構造の少なくとも一方が、上記コア層1の露出面から他方のクラッド層2に向かって穿設され(縦孔41)、上記検出部4に形成された表面積を増大させるための構造は試料配置用であり、上記発光手段5は、その出射光を上記コア層1を通じて上記構造内に配置される試料に照射する機能を有し、上記受光手段6は、上記照射により上記試料から生じる発光を測定する機能を有する、という構成をとる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導波路コアの一部に設けた検出領域からの発光を計測することにより、生体物質や環境物質等の濃度等を高精度に測定することのできる光導波路型ケミカルセンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、試料溶液や試料気体中に含まれる物質の濃度を高感度で測定するセンサとして、試料に照射した光の吸収,散乱,反射,屈折や、蛍光,発光等の光学的変化を測定するオプティカルバイオケミカルセンサが提案されている。
【0003】
例えば、平面(プレーナ)型光導波路を用いたバイオケミカルセンサとしては、平面型光導波路のコア層の露出表面に吸着膜等に吸着させた試料を配置し、グレーティング等を介して外部光源からの測定光を上記コア層に入射させるとともに、該コア層内に導入された測定光が反射する際に生じるエバネッセント波(evanescent wave)の上記試料による吸収率や散乱強度、あるいは、エバネッセント波によって上記試料から発生する蛍光,りん光等のスペクトルを分析することにより、生体物質や環境物質等の濃度を測定する方法が開示されている(例えば、特許文献1〜3等を参照)。
【0004】
一方、生体物質や環境物質等の濃度の測定に利用される蛍光スペクトル測定は、溶液系を主に10mm角セル(石英セル等)を用いて行なわれ、上記角セルに一方方向から励起光(単色光)照射し、この励起光の光軸に直交する方向から、出射されるエミッション光(蛍光)のスペクトルを分析する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−61346号公報
【特許文献2】特開2004−43120号公報
【特許文献3】特開2006−85212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような光導波路を用いた従来のバイオケミカルセンサは、光源側および分光側の光学システムが大掛かりになってしまううえ、微弱なエバネッセント波を利用することから、試料の量もある程度必要なうえ、センサ感度の安定化や高感度化がむずかしいという問題があった。
【0007】
また、従来の蛍光スペクトル測定は、角セルを用いることから、ある程度の試料の量(溶液にした状態で少なくとも2〜3ml程度以上)が必要で、光学系を含めた装置全体も大きくなってしまう傾向にある。
【0008】
本発明は、このような問題を解決するため、本発明者が研究を重ねた結果、光導波路のコア層を透過する光を、その光導波路中に存在する試料に照射すると、その試料に特有な発光を生じることを見出してなされたもので、少ない試料でも高感度かつ高精度に測定でき、コンパクトで取り扱いも容易な光導波路型ケミカルセンサの提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明の光導波路型ケミカルセンサは、光路方向に長い形状のコア層およびこのコア層を挟持・被包する2つのクラッド層からなる光導波路構造と、発光手段と、受光手段とを備え、一方のクラッド層には、上記コア層の一部を検出部として露出させる開口が設けられ、上記検出部には、該検出部の表面積を増大させるための穴状構造および溝状構造の少なくとも一方が、上記コア層の露出面から他方のクラッド層に向かって穿設されているとともに、上記検出部に形成された穴状構造および溝状構造の少なくとも一方は試料配置用のものであり、上記発光手段は、その出射光を上記コア層を通じて上記構造内に配置される試料に照射する機能を有し、上記受光手段は、上記照射により上記試料から生じる発光を測定する機能を有するという構成をとる。
【0010】
なお、本発明における検出部の「穴状構造」とは、上記検出部の上面(露出面)から見たときに、複数の立体構造の1つ1つが縦横方向に連通せず、独立して短く形成された構成をいい、その穴の大きさ,深さや開口形状,断面形状、および、穴の底部の貫通・非貫通や底の有無に関わらず、すべての穴形状を含む趣旨である。また、本発明における検出部の「溝状構造」とは、上記検出部の上面(露出面)から見たときに、複数の立体構造の1つ1つが、縦横方向に延びる比較的長い形状に形成された構成をいい、その溝の長さ,深さや開口形状,断面形状と連通の仕方、および、溝の底部の貫通・非貫通や底の有無に関わらず、すべての溝形状を含む趣旨である。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、光導波路構造を利用したケミカルセンサまたはバイオケミカルセンサにおいて、その光導波路のコア層の一部を露出させて設けられた試料配置部位(検出部)に、試料を充分にコア層内に取り込むことのできる凹凸形状を形成し、この凹凸形状内に取り込まれた試料に、コア層を通じて測定光を直接照射することにより、所期の目的を達成するものである。
【0012】
すなわち、本発明の光導波路型ケミカルセンサは、コア層を挟持する2つのクラッド層の一方に、上記コア層の一部を検出部として露出させる開口を設け、このコア層の露出面から他方のクラッド層に向かって、該検出部の表面積を増大させるための穴状構造および溝状構造の少なくとも一方を穿設し、そこに測定用の試料を配置するとともに、上記発光手段からの出射光を、コア層を通じて上記構造内の試料に直接照射し、上記試料から生じる発光を上記受光手段で測定する構成を採用することにより、直接光による高感度で高精度な測定が可能になる。したがって、本発明の光導波路型ケミカルセンサは、少ない試料でも、その発光を高感度かつ高精度に測定することができる。
【0013】
特に、本発明では、試料の量が少ない場合でも、これら試料が上記穴状構造等の内に嵌まり込み、コア層を通じて照射される測定光に対する試料の被照射面積(測定対象面積)および測定光との接触回数を増大させることができる。また、少ない試料の中でも、測定に実際に関与する試料の量(センサとしての実効体積)を増加させることができる。
【0014】
なかでも、特に、上記発光手段が、上記検出部から光路方向に距離を開けた位置に配置され、上記いずれかのクラッド層の外面に接するか、あるいは、上記いずれかのクラッド層に代えて、上記コア層に直接接触するように形成されているものは、発光系が光導波路構造の周辺に一体に配設されているため、センサをコンパクトに構成することができる。
【0015】
同様に、上記受光手段が、上記検出部に隣接する他方のクラッド層の外側表面に配設されているものは、受光系が光導波路構造の周辺に一体に配設されているため、センサをコンパクトに構成することができる。
【0016】
また、上記発光手段と上記受光手段のそれぞれを、ともに光導波路構造に当接するように一体に設けた光導波路型センサデバイスは、その装置全体をコンパクトに構成することが可能で、しかも、このセンサデバイスは、発光側・受光側とも光学システムの調整の必要がない。さらに、この光導波路型センサデバイスは過般性が高く、装置に供給する電源装置さえ用意すれば、どのような場所ででも測定を行なうことができる。したがって、本発明を利用した光導波路型センサデバイスは、研究室の中だけではなく、医療や災害等の現場における緊急を要する測定等にも、容易に対応することができる。
【0017】
一方、上記光導波路型ケミカルセンサにおいて、上記一方のクラッド層の開口に、使用前には上記検出部を密封し、使用時には剥がして上記検出部を露出させることのできるシール部材が配設されているものは、このセンサを使用する直前まで、上記検出部に不純物等が入り込むおそれが少なく、この検出部をクリーンな状態に保つことができる。したがって、本発明の光導波路型ケミカルセンサは、ゴミや不純物等、精度を低下させる要因が極力排除され、高い測定精度を長期にわたり維持することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態における光導波路型ケミカルセンサの構成を示す長さ方向の模式的断面図である。
【図2】図1の光導波路型ケミカルセンサを矢印X方向から見た側面図である。
【図3】(a)〜(e)の各図は、第1実施形態における光導波路型ケミカルセンサの検出部に形成された「表面積を増大させる立体構造」の形状例を示す上面図である。
【図4】(a)は本発明の第1実施形態における光導波路型ケミカルセンサの変形例を示す長さ方向の模式的断面図であり、(b)はこの光導波路型ケミカルセンサの上面図である。
【図5】本発明の第2実施形態における光導波路型ケミカルセンサの構成を示す長さ方向の模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
つぎに、本発明の実施の形態を、図面にもとづいて詳しく説明する。
【0020】
図1は、本発明の第1実施形態における光導波路型ケミカルセンサの構成を示す長さ(縦)方向の模式的断面図であり、図2は図1の光導波路型ケミカルセンサを矢印X方向から見た側面(端面)図、図3は図1の光導波路型ケミカルセンサを矢印Z方向から見た上面図である。なお、各図中の白抜き矢印は光の透過を表し、黒塗り矢印は発光を表す。また、図1〜図3の各図は、各部材の厚みを強調して図示しているとともに、このセンサを動作させるめの制御部や電源部等の図示を省略している。
【0021】
本実施形態における光導波路型ケミカルセンサは、化学物質や生体物質、環境物質等、その検出領域内に配置された試料の蛍光強度あるいは蛍光スペクトルを測定するためのものである。そして、本発明のケミカルセンサは、図1,2に示すように、光軸(x軸)方向に長い短冊形状をしていて、コア層1および2つのクラッド層(アンダークラッド層2とオーバークラッド層3)からなる光導波路と、上記コア層1の長さ方向の端部領域に形成された検出部4と、発光手段(光源5)および受光手段(受光素子6)を一体に備えるセンサデバイスとして構成されている。
【0022】
上記検出部4では、上記オーバークラッド層3の開口3aにより、その上面が外部に露出する露出面となっており、通常、この露出面は開口3aに配設されたシール部材10により被覆され、センサの使用開始まで保護されている。また、この検出部4には、後述する「検出部の表面積を増大させるための穴状構造および溝状構造の少なくとも一方」(以下、総称して「表面積を増大させる立体構造」と記述する)が、その上面からアンダークラッド層2に向かって形成されている。
【0023】
この光導波路型ケミカルセンサを使用するには、上記シール部材10を取り除き、検出部4の上面を露出させ、そこに形成された上記表面積を増大させる立体構造の中に、試料(通常は液状)をスポイト等を用いて注入する。ついで、光源5からコア層1に光(励起光)を出射し、その光が上記表面積を増大させる立体構造内の試料に照射され、この試料等から発せられる蛍光等の発光を受光素子6で受光し、その受光光量やスペクトル等を計測することにより、試料中の成分等を特定することが行なわれる。
【0024】
つぎに、本実施形態における光導波路型ケミカルセンサの構造を詳しく説明する。
【0025】
本発明に用いる光導波路は、樹脂からなるアンダークラッド層2の上に、感光性樹脂からなるコア層1をフォトリソグラフィの手法を用いて積層したものであり、このコア層1の上には、該コア層1を挟持・被包する樹脂製のオーバークラッド層3が形成されている。さらに、上記オーバークラッド層3における検出部4用の開口3aから光路(コア層1の光軸:x軸)方向に距離を開けた位置には、コア層1上面の一部を露出させる別の開口3bが設けられており、この開口3b内に、後述する光源5が形成されている。
【0026】
そして、上記検出部4に隣接するアンダークラッド層2の外側(下側)表面には、後述する受光素子6が配設されており、上記シール部材10を取り除いて検出部4(縦孔41)に注入あるいは充填された試料に、上記光源5からの出射光(励起光)をコア層1を通じて照射することにより、この試料から上記励起光の光軸(x軸)に直交する方向に発せられる蛍光を測定することができる。
【0027】
本実施形態における光導波路型ケミカルセンサの特徴は、先に述べたように、オーバークラッド層3の開口3aによって形成された検出部4に、上記開口3aに連通して、該検出部4の「表面積を増大させる立体構造」が形成されている点である。この「表面積を増大させる立体構造」の具体例として、本実施形態の光導波路型ケミカルセンサでは、図1のように、上記コア層1の露出面(開口3a)からアンダークラッド層2にまで至る複数の縦孔41,41,・・・が設けられている。
【0028】
図3(a)〜(e)の各図は、第1実施形態における光導波路型ケミカルセンサの検出部4に形成された表面積を増大させる立体構造(穴状構造,溝状構造)の形状例を示す図である。なお、図3の各図は、これら表面積を増大させる立体構造の形状を見易くするため、検出部4をカバーするシール部材10の図示を省略している。
【0029】
上記検出部4の各縦孔41は、図1のようにセンサ側面(y軸方向)から見た場合はシンプルな縦穴状であるが、その上面(z軸方向)から見た場合は、図3(a)〜(e)のように、種々の形状とすることができる。例えば、図3(a)のように、これら縦孔41Aを、コア層1の光軸(x軸)方向に直交する方向(y軸方向)に連続する「溝状構造」としてもよく、また、図3(b)のように、この溝状構造の表面積をさらに広げるべく、各縦孔41Bの縦壁面を波形に形成してもよい。
【0030】
なお、図3(a)および(b)においては、これらの溝状構造を構成する各縦孔41A,Bが、検出部4の上面(露出面)からアンダークラッド層2の表面にまで到達しているが、これら各縦孔41A,Bは、その底部にコア層1の一部を残すような深さに形成してもよい。
【0031】
また、これら縦孔41を、コア層1の光軸方向に直交する方向(y軸方向)に断続的な穴列が形成された「穴状構造」とする場合は、例えば、図3(c)のように横断面が円形の円柱状縦孔41Cとするか、あるいは、図3(d)のように横断面が多角形の角柱状縦孔41Dとすることができる。さらに、これら断続的な縦孔41による穴状構造が行列(マトリクス)を形成している場合は、図3(e)のように、各縦孔41Eのそれぞれに満遍なく測定光が照射されるように、隣接する縦孔41Eどうしの光軸(x軸)に対する位相が、穴列ごとに互い違い(千鳥格子)になるように配置してもよい。
【0032】
なお、上述の「溝状構造」と同様、これらの穴状構造を構成する各縦孔41C,D,Eは、その底部にコア層1の一部を残すような深さに形成してもよい。また、上記検出部4の溝状構造や穴状構造は、どちらか一方のみを形成してもよく、あるいは、これらを併用して同時に検出部4に形成してもよい。さらに、これらの各縦孔41(41A〜41Eを含む)の形状や深さは、対象とする試料に応じて、アンダークラッド層2を受光素子6側に貫通しない範囲で、自由に設定することができる。
【0033】
また、図4に示す第1実施形態の変形例のように、上記検出部4を1つの大きな穴形状としてもよい。ただし、この検出部4形状は、上述の穴状構造や溝状構造を形成した光導波路型ケミカルセンサより、多量の試料が必要とされる。
【0034】
そして、これら溝状構造や穴状構造を有する検出部4を形成する方法は、特に限定されないが、コア層1をリソグラフィ法を用いて形成する場合は、そのマスクパターンに予め描いておくことで、光導波路の形成と同時に作成することができる。後加工で形成する場合は、コア層1の材料に応じて、エッチングやレーザ等による微細加工を用いればよい。
【0035】
さらに、本実施形態で用いる光導波路としては、軽量で、かつ、フォトリソグラフィを利用した微細加工の容易な、ポリマー系光導波路が好ましい。クラッド層2,3の形成材料としては、エポキシ樹脂,ポリイミド樹脂,アクリル樹脂,光重合性樹脂,感光性樹脂等があげられる。なかでも、透明性,耐熱性,耐湿性の観点からエポキシ樹脂が好ましく、特に、フルオレイン系エポキシ樹脂と脂環式エポキシ樹脂の混合樹脂がより好ましい。
【0036】
また、コア層1の形成材料としては、通常、エポキシ樹脂,ポリイミド樹脂またはアクリル樹脂等からなる光重合性樹脂があげられ、なかでも、透明性,耐熱性,耐湿性の全てを満足する観点から、フルオレイン系エポキシ樹脂とオキセタン化合物の混合樹脂を好適に用いることができる。
【0037】
つぎに、本実施形態における光導波路型ケミカルセンサのもう一つの特徴である、発光手段(光源5)と受光手段(受光素子6)について説明する。
【0038】
光源5は、先に述べたように、検出部4用の開口3aとは別に、上記オーバークラッド層3における検出部4から光路(コア層1の光軸:x軸)方向に距離を開けた位置に設けられた開口3b内に配設され、光導波路構造と一体に構成されている。光源5の発光素子としては、LED(Light Emitting Diode)やOLED(Organic Light Emitting Diode)等の発光ダイオード、レーザーダイオードやVCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting Laser:垂直共振器面発光レーザ)等の半導体レーザを好適に用いることができる。
【0039】
なかでも、特に、OLEDは、光源5用に設けられたオーバークラッド層3の開口3b内に、上記コア層1に当接して形成することができるため、発光素子の位置合わせが不要(アライメントフリー)となり、好ましい。
【0040】
また、受光素子6は、検出部4に隣接するアンダークラッド層2の外側(図示下側)表面に配置されており、上記検出部4の「表面積を増大させる構造」内に配置された試料から、上記励起光の光軸(x軸)に直交する方向に発せられる蛍光を、効率的に測定できる位置に位置決めされている。受光素子6の種類としては、無機または有機フォトダイオード等が用いられる。
【0041】
なかでも、有機フォトダイオードは、上記アンダークラッド層2に当接して形成することができるため、受光素子の位置合わせが不要(アライメントフリー)で、好ましい。
【0042】
以上の構成により、本実施形態における光導波路型ケミカルセンサは、少ない試料でも効率的に、かつ、高感度・高精度に、対象試料から発せられる蛍光強度あるいは蛍光スペクトルを測定することができる。
【0043】
また、上記光導波路型ケミカルセンサは、光源5と受光素子6とが、ともに光導波路構造に当接するように一体に設けられていることから、その装置全体をコンパクトに構成することができ、しかも、発光側・受光側とも光学システムの調整の必要がない。したがって、本実施形態における光導波路型ケミカルセンサは、過般性が高く、装置に供給する電源装置さえ用意すれば、種々の環境下において測定を行なうことができる。
【0044】
つぎに、本発明の第2実施形態を説明する。
図5は、本発明の第2実施形態における光導波路型ケミカルセンサの構成を示す長さ(縦)方向の模式的断面図である。なお、本実施形態における光導波路型ケミカルセンサをX方向から見た側面(端面)図は、第1実施形態の図2と同様であり、検出部4に形成された「表面積を増大させる立体構造」の形状例も、第1実施形態の図3各図と同様であるため、これらの図示を省略する。また、第1実施形態と同様の機能を有する構成部材には同じ符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0045】
本第2実施形態における光導波路型ケミカルセンサが、第1実施形態と異なる点は、オーバークラッド層3の開口3aによって露出する検出部4に、その深さ方向(z軸方向)に幅が断続的に変化する凹凸形状(波形)の「表面積を増大させる立体構造」縦孔42,42,・・・が形成されている点である。また、光源5の下側(図示下方)位置に相当するコア層1の所定領域には、上記光源5から出射される励起光の光路を変換する光路変換構造(45°マイクロミラー7)が形成されている。
【0046】
上記の構成により、本実施形態における光導波路型ケミカルセンサは、深さ方向にその幅が断続的に変化する縦孔42によって、上記第1実施形態における光導波路型ケミカルセンサよりもさらに、コア層1を通じて照射される励起光に対する試料の被照射面積(測定対象面積)が増大し、測定に実際に関与する試料の量(センサとしての実効体積)が増加する。
【0047】
また、光源5の下側に形成されたマイクロミラー7の全反射により、コア層1から漏出する光が抑えられ、より光量の高い励起光を試料に直接照射することができるようになる。したがって、本実施形態の光導波路型ケミカルセンサは、少ない試料でも、その蛍光を高感度かつ高精度に測定することができる。
【0048】
なお、上記検出部4の溝状構造や穴状構造は、上述の第1実施形態と同様、どちらか一方のみを形成してもよく、あるいは、これらを併用して同時に検出部4に形成してもよい。これらの各縦孔42の形状や深さは、対象とする試料に応じて、アンダークラッド層2を受光素子6側に貫通しない範囲で、自由に設定することができる(図3参照)。
【0049】
また、これら各縦孔42を有する検出部4を形成する方法は、特に限定されないが、第1実施形態のようなリソグラフィ法は使用できないため、コア層1の材料に応じて、エッチングやレーザ等による微細加工を用いればよい。
【0050】
さらに、上記マイクロミラー7を形成する方法としては、一般的なダイシングによる方法の他、リソグラフィあるいはレーザ加工等による方法を用いればよい。
【0051】
つぎに、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0052】
光導波路構造を有するフィルムは、つぎのようにして作製した。
【0053】
まず、クラッド層の形成材料およびコア層の形成材料を準備した。
〔クラッド層の形成材料〕
成分A:フルオレン誘導体であるビスフェノキシエタノールフルオレンジグリシジルエーテル 83重量部
成分B:希釈剤として、脂環式エポキシ樹脂である3’,4’−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(ダイセル化学社製、セロキサイド2021P) 17重量部
成分C:4,4’−ビス〔ジ(β−ヒドロキシエトキシ)フェニルスルフィニオ〕フェニルスルフィド−ビス−ヘキサフルオロアンチモネートの50%プロピオンカーボネート溶液(光酸発生剤) 1重量部
上記成分A,B,Cを混合することにより、アンダークラッド層2およびオーバークラッド層3の形成材料を調製した。
【0054】
〔コア層の形成材料〕
成分A:フルオレン誘導体であるビスフェノキシエタノールフルオレンジグリシジルエーテル 50重量部
成分D:フルオレン誘導体であるビスフェノールフルオレンジグリシジルエーテル 50重量部
成分C:4,4’−ビス〔ジ(β−ヒドロキシエトキシ)フェニルスルフィニオ〕フェニルスルフィド−ビス−ヘキサフルオロアンチモネートの50%プロピオンカーボネート溶液(光酸発生剤) 1重量部
上記成分A,B,Cを混合することにより、コア層1の形成材料を調製した。
【0055】
つぎに、上記形成材料を用いて、クラッド層およびコア層を形成し、フィルム状の光導波路を作製した。
【0056】
〔アンダークラッド層の作製〕
ガラス板上に、上記「クラッド層の形成材料」をスピンコート法(1000rpm:15sec)により塗布し、塗布層を形成した。そして、塗布層の全面に超高圧水銀灯を用いて紫外線(混線:積算光量1000mJ/cm2)を照射し、ついで、120℃で30分間加熱することにより、膜厚30μmのアンダークラッド層2を形成した。
【0057】
〔コア層の作製〕
上記アンダークラッド層2の上面に、上記「コア層の形成材料」をスピンコート法(1500rpm:15sec)により塗布し、70℃のホットプレート上で5分間加熱することにより溶媒を揮発させ、コア層形成用の樹脂層を形成した。なお、コア層1の塗布厚は、上記溶媒揮発処理を行なった後に膜厚が50μmとなるように調整している。ついで、コア層形状および第1実施形態(図3(a))と同様の「表面積を増大させる溝状構造」を有する検出部4の形状を備える所定の開口パターンのフォトマスクを介して、超高圧水銀灯を用いて紫外線(i線:365nm基準で積算光量2000mJ/cm2)を照射して露光を行なった。そして、さらに70℃のホットプレート上で10分間加熱し、反応を完了させたうえで、γ−ブチロラクトンの10重量%水溶液を用いて現像することにより、未露光部分を溶解除去した。その後、120℃×10分間の加熱乾燥処理を行って、上記アンダークラッド層2上のコア層1を形成した。
【0058】
〔オーバークラッド層の作製〕
上記アンダークラッド層2上のコア層1の上面に、このコア層1を被覆するように、上記「クラッド層の形成材料」をスピンコート法(1500rpm:15sec)により塗布し、70℃のホットプレート上で5分間加熱することにより溶媒を揮発させ、オーバークラッド層形成用の樹脂層を形成した。ついで、オーバークラッド層層形状と、検出部4用の開口3a形状および光源5用の開口3b形状を備える所定の開口パターンのフォトマスクを介して、超高圧水銀灯を用いて紫外線(混線:積算光量2000mJ/cm2)を照射して露光を行なった。そして、さらに80℃のホットプレート上で10分間加熱し、反応を完了させたうえで、γ−ブチロラクトンの10重量%水溶液を用いて現像することにより、未露光部分を溶解除去した。その後、120℃×15分間の加熱乾燥処理を行って、上記コア層1上のオーバークラッド層3(膜厚:20μm)を形成した。
【0059】
上記得られたフィルム型光導波路をガラス板から剥離して、光源5の発光素子および受光素子6を形成し、本発明の光導波路型ケミカルセンサを作製した。
【0060】
[発光素子]
光源5の発光素子としては、透明陽電極,有機化合物層,金属陰極等からなるOLEDを利用する。
【0061】
上記透明陽電極は、酸化スズ,酸化スズインジウム(ITO),酸化亜鉛インジウム等の400〜700nmの可視光領域において70%以上の光透過率を有するものを使用する。
【0062】
上記有機化合物層は、発光層からのみからなる単層構造であってもよいし、他にホール注入層,ホール輸送層,電子注入層,電子輸送層,電荷ブロック中間層等を有する積層構造としてもよい。本実施例においては、特に、発光層の発光材料として、Alq3(アルミニウムキノリノール錯体)を用いた。
【0063】
上記金属陰極は、電子注入性に優れ仕事関数の低いLi,K等のアルカリ金属,Mg,Ca等のアルカリ土類金属や、酸化されにくく安定なAl,Ag等の材料から構成されるのが望ましい。本実施例においては、LiF/Alを積層して用いた。
【0064】
以上の材料を用いて形成された本実施例の発光素子(光源5)は、525nm付近にピークを有する緑色光を発光する。また、本実施例のOLEDは、光源5用に設けられたオーバークラッド層3の開口3b内に形成したため、改めてその位置合わせ(アライメント)を行なう必要がない。
【0065】
[受光素子]
受光素子6としては、有機フォトダイオードを利用する。なお、光検出層を構成する構成材料,形成方法および膜厚については、従来公知の有機フォトダイオードと同様のものを用いる。
【0066】
上記光検出層は、有機薄膜からのみ構成され、素子の一例としては、上記発光素子と同様、酸化スズインジウム(ITO)等の透明陽電極,有機化合物層,LiF/Al等の金属陰極からなる光検出層をあげることができる。なお、本実施例においては、有機化合物層として、CuPc(銅フタロシアニン)とC60(60フラーレン)とを積層したものを用いた。
【0067】
以上の材料を用いて形成された本実施例の受光素子6は、550〜700nm付近に高感度領域を有する。また、本実施例の受光素子6は、上記検出部4に隣接するアンダークラッド層2の外側表面に積層して形成することにより、その位置合わせを不要(アライメントフリー)とすることができる。
【0068】
このようにして構成された光導波路型ケミカルセンサを用いて、グルコースおよびグルタミン酸の蛍光測定を行なった結果を示す。
【0069】
[グルコースの反応機構]
グルコースは、グルコースオキシターゼの存在下で以下の反応を進める。
β−D−glucose+O2+H2O →
D−glucono−1,5−lactone+H22
さらに、発生したH22は、ペルオキシターゼを含むFluoroH22(Detection reagent)により蛍光物質Resolfinを生成する。
2H22+Detection reagent(non−fluorescent) → Resolfin
このResolfinは、530〜571nmの励起光により590〜600nmの蛍光を発する。
【0070】
[グルタミン酸の反応機構]
L−グルタミン酸は、L−グルタミン酸オキシターゼの存在下で以下の反応を進める。
L−Glutamic acid+O2+H2O →
D−ketoglutamic acid+NH3+H22
さらに、発生したH22は、ペルオキシターゼを含むFluoroH22(Detection reagent)により蛍光物質Resolfinを生成する。
2H22+Detection reagent(non−fluorescent) → Resolfin
このResolfinは、530〜571nmの励起光により590〜600nmの蛍光を発する。
【0071】
本実施例における光導波路型ケミカルセンサは、上記光源5から出射された525nm付近にピークを有する緑色光(励起光)が、コア層1内を光軸(x軸)方向に伝播し、検出部4の「表面積を増大させる構造」内に配置された試料(反応溶液)に直接照射される。このとき、試料に含まれる上記Resolfinが発する蛍光が、上記光軸と直交する方向(z軸方向)に配設された受光素子6に入射し、光電変換によって直流電流に変換される。そして、この電流値(電圧値)の各波長ごとの増減や絶対値を、別途設けた制御部(図示省略)で計測・記録することにより、上述のグルコースまたはグルタミン酸の定量・定性分析を、高感度かつ高精度に行なうことができた。
【0072】
なお、本発明の光導波路型ケミカルセンサは、上記グルコースまたはグルタミン酸の定量・定性分析だけではなく、直接あるいは試薬等により間接的に蛍光を発する物質の定量・定性分析に用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の光導波路型ケミカルセンサは、生体物質や環境化学物質等、多くの試料が入手しにくい検査に、多用途に利用することができる。また、本発明の光導波路型ケミカルセンサは、研究室の中の測定だけではなく、生産現場や医療,災害等の現場における簡易な測定や素早い測定等にも用いることができる。
【符号の説明】
【0074】
1 コア層
2 アンダークラッド層
3 オーバークラッド層
4 検出部
41 縦孔
5 光源
6 受光素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光路方向に長い形状のコア層およびこのコア層を挟持・被包する2つのクラッド層からなる光導波路構造と、発光手段と、受光手段とを備え、一方のクラッド層には、上記コア層の一部を検出部として露出させる開口が設けられ、上記検出部には、該検出部の表面積を増大させるための穴状構造および溝状構造の少なくとも一方が、上記コア層の露出面から他方のクラッド層に向かって穿設されているとともに、上記検出部に形成された穴状構造および溝状構造の少なくとも一方は試料配置用のものであり、上記発光手段は、その出射光を上記コア層を通じて上記構造内に配置される試料に照射する機能を有し、上記受光手段は、上記照射により上記試料から生じる発光を測定する機能を有することを特徴とする光導波路型ケミカルセンサ。
【請求項2】
上記発光手段が、上記検出部から光路方向に距離を開けた位置に配置され、上記いずれかのクラッド層の外面に接するか、あるいは、上記いずれかのクラッド層に代えて、上記コア層に直接接触するように形成されている、請求項1に記載の光導波路型ケミカルセンサ。
【請求項3】
上記受光手段が、上記検出部に隣接する他方のクラッド層の外側表面に配設されている、請求項1または2記載の光導波路型ケミカルセンサ。
【請求項4】
上記一方のクラッド層の開口に、使用前には上記検出部を密封し、使用時には剥がして上記検出部を露出させることのできるシール部材が配設されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の光導波路型ケミカルセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−160087(P2010−160087A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−3193(P2009−3193)
【出願日】平成21年1月9日(2009.1.9)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】