説明

光導波路型センサ

【課題】光導波路から検知材へ入り込む散乱光を抑制して、S/N比を高めるとともに、検知材の寿命を延ばすことを目的とする。
【解決手段】光導波路のコア層である光導波層3の上面に、被検知物質と反応する反応膜(検知材)5が設けられる光導波路型センサにおいて、光導波層3と前記反応膜5との間に、光導波層3の屈折率よりも小さな屈折率のバッファ層4を介在させ、光導波層3の界面で全反射せずに反応膜5に入り込む散乱光を抑制している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波路上に被検知物質と反応する検知材を有する光導波路型センサに関する。
【背景技術】
【0002】
この種のセンサとして、例えば、特許文献1に開示されたガスセンサがある。
【0003】
図5は、特許文献1のガスセンサの概略構成を示す図である。
【0004】
同図において、基体30上に光導波路31、更にその上に、被検知ガスと反応して変色する検知材32を設けている。レーザー等の光源33からモニター光34を光導波路31に平行に入射させ、光導波路31を出た出射光35の出口光量を光ディテクター36により測定し、光導波路31に導光される光の減衰により、被検知ガスの濃度を検知するものである。
【特許文献1】特開平7−243973号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
かかる光導波路型のセンサでは、光導波路に入射した光の一部が、図6に示すように、全反射することなく、検知材32に入り込んで散乱光となり、S/N比を悪化させるとともに、検知材32の光劣化を促進して検知材32の寿命を短くするという課題がある。
【0006】
本発明は、上述のような点に鑑みて為されたものであって、光導波路から検知材へ入り込む散乱光を抑制して、S/N比を高めるとともに、検知材の寿命を延ばすことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の光導波路型センサは、光導波路のコア層の上面に、被検知物質と反応する検知材が設けられた光導波路型センサであって、前記コア層と前記検知材との間に、前記コア層の屈折率よりも小さな屈折率のバッファ層を介在させている。
【0008】
バッファ層の厚みTは、前記コア層に入射されるレーザー光の前記バッファ層での波長をλとしたときに、λ/30<T<λ/5であるのが好ましい。
【0009】
バッファ層の屈折率nbufferは、コア層の屈折率をncoreとしたときに、ncore−nbuffer>0.05であるのが好ましい。
【0010】
バッファ層は、SiO(二酸化ケイ素)、CaF(フッ化カルシウム)、MgF(フッ化マグネシウム)、PMMA(ポリメチルメタクリレート)、フッ素系樹脂または紫外線硬化型樹脂からなるのが好ましい。
【0011】
検知材は、被検知物質としてガスを検知するものとしてもよい。
【0012】
本発明の光導波路型センサによると、光導波路のコア層と検知材との間に、コア層の屈折率よりも小さな屈折率のバッファ層を介在させているので、コア層の界面で全反射せずに検知材に入り込む散乱光を抑制することが可能となり、S/N比を向上させることができるとともに、散乱光による検知材の光劣化を抑制して検知材の寿命を延ばすことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、光導波路のコア層の界面で全反射せずに検知材に入り込む散乱光を、バッファ層によって抑制することが可能となり、S/N比を向上させることができるとともに、散乱光による検知材の光劣化を抑制して検知材の寿命を延ばすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面によって本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0015】
(実施形態)
図1は、本発明の実施形態に係る光導波路型センサの概略構成図である。
【0016】
この実施形態の光導波路型センサ1は、被検知物質として、アンモニア(NH)ガスを検出するガスセンサである。
【0017】
この光導波路型センサ1は、ガラス基板2の表層に、ガラス基板2よりも屈折率がやや高い光導波層3を、例えば、イオン交換法によって形成して光導波路を構成している。更に、コア層である光導波層3上に、後述のバッファ層4を介してアンモニアガスと反応する検知材としての反応膜5が成膜されている。
【0018】
反応膜5は、アンモニアガスと反応し、吸収スペクトルがシフトする材料、例えば、pH指示薬であるBTB(ブロモチモールブルー)などで構成され、アンモニアガスの濃度に依存して、導波された光が減衰する。
【0019】
この反応膜5は、可逆性があり、窒素ガス、または、アンモニアガスを含まない空気によって再生可能であり、アンモニアガスの濃度の繰り返し測定が可能である。
【0020】
ガラス基板2上には、He−Neレーザ−等のレーザ−光源6からのレーザー光を、光導波層3へ導くカップリング用の直角プリズム7が設けられる一方、光導波層3からの導波光を、検出器8へ導く直角プリズム9が設けられている。レーザー光源6から直角プリズム7を介して入射されたレーザー光は、全反射を繰り返しながら伝搬するが、その間光導波層表面にエバネッセント波が染み出す。
【0021】
エバネッセント波とは、屈折率の異なる界面で光が全反射する際に、界面からしみ出す光であり、このエバネッセント波が、光導波層3上の反応膜5の着色によって吸収されて光強度が減少する。
【0022】
アンモニアガスの濃度に応じて、反応膜5の着色変化の程度が異なるため、エバネッセント波の吸収率が変化し、光導波層3に導波する光の出力が弱くなる。したがって、導波光の出力強度を測定することによって、アンモニア濃度を検出することができる。
【0023】
光導波層3上に、直接検知材である反応膜5を成膜する従来例では、上述の図6に示すように、光導波層31に入射した光の一部が、全反射することなく、検知材32に入り込んで散乱光となり、S/N比を悪化させるとともに、検知材32の光劣化を促進して寿命を短くしてしまう。
【0024】
このため、この実施形態では、コア層である光導波層3と検知材である反応膜5との間に、光導波層3の屈折率ncoreよりも屈折率nbufferが小さいバッファ層4を設けている。
【0025】
コア層である光導波層3の屈折率ncoreと、バッファ層4の屈折率nbufferとの差が大きい程、導波光を閉じ込め易くなって、反応膜5へ入り込む散乱光を抑制できるが、今回用いた光導波層3の屈折率と全反射条件では理論上、この屈折率の差ncore−nbufferは、
core−nbuffer>0.006
であるが、好ましくは、
core−nbuffer>0.05
である。
【0026】
バッファ層4は、その厚みが厚い程、反応膜5へ入り込む散乱光を抑制でる一方、エバネッセント波の反応膜5への吸収も阻害することになる。
【0027】
エバネッセント波は、全反射界面から離れるに従って指数関数的にその強度が弱くなる光であり、その到達距離dpは、およそ波長オーダーとされ、次式で表される。
【0028】
dp=λ/2πn1(sinθ−(n2/n1))1/2
例えば、635nmの半導体レーザーを屈折率1.67のプリズムを用いて屈折率1.518の光導波層に入射させると、全反射角度は85°になる。この場合、上記式よりdp(強度が1/eになる距離)は255nmになる。
【0029】
エバネッセント波は、光導波層表面に形成される反応膜の吸収によって減衰される。この吸収に関わるのは3dp程度なので、波長λ程度反応に関わることになる。
【0030】
したがって、バッファ層4の厚みTの上限は、エバネッセント波の入り込み深さである波長λ(nm)未満であるのが好ましい。
【0031】
このバッファ層4の厚みT(nm)は、
λ/100<T<λ
であるのが好ましく、より好ましくは、
λ/30<T<λ/5
である。
【0032】
例えば、後述の実施例のように、バッファ層4の屈折率が1.46であり、635nmの赤色レーザー光を用いた場合には、前記波長λは、λ=635/1.46=434となる。したがって、この場合のバッファ層の厚みT(nm)は、
4.34<T<434
であるのが好ましく、より好ましくは、
14.46<T<86.8
である。
【0033】
このバッファ層4としては、SiO(二酸化ケイ素)、CaF(フッ化カルシウム)、MgF(フッ化マグネシウム)、PMMA(ポリメチルメタクリレート)、ナフィオンなどのフッ素系樹脂、または、紫外線硬化型樹脂などを用いることができる。紫外線硬化型樹脂としては、例えば、DIC社製の光学用UV硬化型樹脂(型番:OP−38Z、OP−40、OP−40Z、OP−43など)がある。
【0034】
これら材料の屈折率、例えば、He−Neレーザ−(632.8nm)に対する屈折率は、SiOが1.46、CaFが1.433、MgFが1.377、PMMA(ポリメチルメタクリレートが1.488である。
【0035】
バッファ層4は、バッファ層4を形成する部分以外を、金属マスクや光リソグラフィ法でマスキングし、真空蒸着、スパッタ、CVD、スピンコート、ディップコートなどの方法で形成することができる。このバッファ層4は、少なくとも反応膜5が形成されている領域以上の領域に亘って形成されるのが好ましい。
【0036】
以下、実施例に基づいて、本発明について更に詳細に説明する。
【0037】
(実施例)
バッファ層4として、コア層である光導波層5の屈折率1.518よりも低い屈折率1.46である透明なSiO膜を、厚さ50nmと100nmとの2種類成膜し、実施例1,2のセンサを作製した。なお、ガラス基板2の屈折率は1.512であった。
【0038】
測定系として、635nmの赤色レーザー光をプリズムカップリング法で入射させ、光導波層3内を全反射で伝搬させた。出射された導波光は、検出器8に導いた。光導波層3上の反応膜5の上方にガスを流すためのセルを設置した。
【0039】
このセルは、光導波層3上の反応膜5の周囲の空間を密閉するとともに、窒素ガスまたはアンモニアガスを導入するためのガス導入口およびガスを排出するガス排出口を有している。このセル内に、窒素ガスとアンモニア標準ガスとを、流量500mL/minで交互に切り替えて流し、測定を行った。アンモニア標準ガスは、300ppb、500ppb、800ppbおよび1000ppbの4種類について測定した。
【0040】
窒素ガスをセル内に流すことで測定される光量を初期値とし、2分間アンモニア標準ガスを流して反応膜5と反応させた後に、測定される光量を反応値とした。反応が起こることで、反応膜5の色が変化し、入射された光を吸収するようになるので、出力光量が減衰する。したがって、感度は、初期値から何%減衰したかを示す、(初期値−反応値)/初期値の式で算出した。反応後は、再び窒素ガスを流し、初期状態に戻した。
【0041】
図2および図3は、実施例1および実施例2のセンサによる感度(減衰率)の変化を示す図である。これらの図では、300ppb、500ppb、800ppbおよび1000ppbの各アンモニア標準ガスの測定結果を、同じ時間軸上で重ねて示している。
【0042】
これらの図において、窒素ガスをセルに流している初期状態は、減衰率が0であり、窒素ガスに代えてアンモニア標準ガスをセルに流すと、アンモニアと反応膜5とが反応し、減衰率が大きくなり、更に、アンモニア標準ガスに代えて窒素ガスをセルに流すと、反応膜5が再生されて初期状態に復帰する。
【0043】
バッファ層4の厚みが50nmの図2に示される実施例1のセンサに比べて、バッファ層4の厚みが100nmの図3に示される実施例2のセンサでは、減衰が少なく感度が低下しているものの、いずれの実施例1,2のセンサにおいても、300ppb以上の濃度のアンモニア標準ガスとの反応が確認され、検出可能であることが分る。
【0044】
また、バッファ層のない従来例のセンサと100nmの厚みのバッファ層を有する実施例2のセンサについて、300ppb、500ppb、800ppbおよび1000ppbの各アンモニア標準ガスを測定し、その感度を比較した。その結果、従来例と比較して、バッファ層での感度の損失は認められなかった。
【0045】
なお、上記感度とアンモニア濃度とは、比例関係があるので、この比例定数を予め求めておくことにより、測定される感度からの未知のアンモニアの濃度を算出することができる。
【0046】
次に、50nmの厚みのバッファ層を有する実施例1のセンサと、バッファ層ない従来例のセンサとを用いて、250ppbのアンモニア標準ガスを測定し、その経時変化を求めた。
【0047】
その結果を、図4に示す。この図4では、初期値を1としたときの、経時変化を示している。バッファ層のない従来例のセンサでは、反応膜5側にレーザー光の散乱が起こるため、光による劣化が進み1ヶ月後には感度が落ちることが確認された。これに対して、バッファ層を有する実施例1のセンサでは、光によるセンサの劣化が抑えられるため、感度の低下は見られなかった。したがって、バッファ層を設けることで、センサの長寿命化が可能であることが確認された。
【0048】
また、バッファ層を有する実施例のセンサとバッファ層を有しない従来例のセンサのレーザ光の伝搬状態を比べると、従来例のセンサに比べて、実施例のセンサでは、レーザー光の散乱が抑制されていることが目視によって確認された。
【0049】
上述の実施形態では、アンモニアガスの濃度の測定に適用して説明したけれども、本発明は、検知材を被検知物質に対応するものに換えれば、アンモニアガス以外の他の被検知物質の測定にも適用できるのは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施の形態に係る光導波路型センサの概略構成図である。
【図2】50nmのバッファ層を有する実施例のセンサのアンモニア濃度による減衰率の時間変化を示す図である。
【図3】100nmのバッファ層を有する実施例のセンサのアンモニア濃度による減衰率の変化を示す図である。
【図4】実施例のセンサと従来例のセンサの経時変化を示す図である。
【図5】従来例の概略構成図である。
【図6】従来例の課題を説明するための図である。
【符号の説明】
【0051】
1 光導波路型センサ
2 ガラス基板
3 光導波路
4 バッファ層
5 反応膜(検知材)
6 レーザー光源
7,9 直角プリズム
8 検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光導波路のコア層の上面に、被検知物質と反応する検知材が設けられた光導波路型センサであって、
前記コア層と前記検知材との間に、前記コア層の屈折率よりも小さな屈折率のバッファ層を介在させたことを特徴とする光導波路型センサ。
【請求項2】
前記バッファ層は、その厚みTが、前記コア層に入射されるレーザー光の前記バッファ層での波長をλとしたときに、λ/30<T<λ/5である請求項1に記載の光導波路型センサ。
【請求項3】
前記バッファ層の屈折率nbufferが、前記コア層の屈折率をncoreとしたときに、ncore−nbuffer>0.05である請求項1または2に記載の光導波路型センサ。
【請求項4】
前記バッファ層が、SiO(二酸化ケイ素)、CaF(フッ化カルシウム)、MgF(フッ化マグネシウム)、PMMA(ポリメチルメタクリレート)、フッ素系樹脂または紫外線硬化型樹脂からなる請求項1ないし3のいずれか一項に記載の光導波路型センサ。
【請求項5】
前記検知材が、被検知物質としてガスを検知する請求項1ないし4のいずれか一項に記載の光導波路型センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−117204(P2010−117204A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−289585(P2008−289585)
【出願日】平成20年11月12日(2008.11.12)
【出願人】(505044451)ソナック株式会社 (107)
【Fターム(参考)】