説明

光導電材料、光導電素子、光センサー及びセンサーアレイ

【課題】光センサーの材料として好適に用いられる新規な光導電材料、並びにこの光導電材料を用いた光導電素子、光センサー及びセンサーアレイを提供する。
【解決手段】硫化ビスマスを主成分とする光導電材料である。当該光導電材料において、全原子に対する硫黄原子の含有量を50モル%以上70モル%以下とし、かつ、酸素原子の含有量を0.0001モル%以上10モル%以下とすることが好ましい。光導電素子10は、当該光導電材料から形成され、膜厚が20nm以上100μm以下の硫化ビスマス薄膜12を備える。光センサーは、当該光導電素子10を用いたものである。また、センサーアレイは、当該光センサーを複数備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導電材料並びにこれを用いた光導電素子、光センサー及びセンサーアレイに関する。
【背景技術】
【0002】
光導電素子は、光導電材料の電気抵抗が光の照射により変化(通常は低下)するという特性を利用した素子である。このような光導電素子は、主に光センサーとして利用されており、その他、光アンテナ等として利用することができる。
【0003】
上記光導電材料としては、従来よりCdSが知られている。CdSを用いた製品としては、可視光、赤外線、紫外線等の検出センサーなどが実用化されており、カメラの露出計、街灯の点灯制御部品等へ広く利用されている。しかし、CdSは、カドミウムを使用していることから、2006年の欧州におけるRoHS指令の施行もあり、他の光導電材料に置き換わりつつある。この他の光導電材料としては、シリコン単結晶、GaAs等の化合物単結晶、ダイヤモンド結晶などが挙げられる。
【0004】
上記シリコン単結晶及び化合物単結晶を用いた光導電素子は高い性能を有し、広く利用されている。しかし、これらの単結晶材料の製造には、単結晶製造設備、クリーンルーム等、半導体製造用の高価な設備が必要であり、製造が容易ではない。また、上記材料を用いて製造される素子は、シリコン単結晶基板又は化合物単結晶基板に作り込まれたものとなる。この場合、上述のように基板上に素子の各パーツを作り込んだ後、基板を切断し、所望の部材に貼り付けたり、組み込んだりする必要があるため、この素子を用いたセンサー等の形状、構造、配置等には制約が多くなる。
【0005】
一方、光センサーは、上述のように各分野で利用できるものであり、比較的簡便な設備で、かつ、低コストで製造が可能になると、活用の幅がさらに広がる。また、この光センサーは、単結晶基板以外の例えばガラス、金属、樹脂基板上に光導電材料を形成することができれば、設計上の許容範囲が広がり、活用の幅を広げることができる。
【0006】
このような観点から、(1)印刷により形成された電子受容性有機物及び/又は電子供与性有機物の層を有するpn接合型の光センサー(特開2009−70858号公報参照)、(2)n型半導体、光吸収色素及び液体電解質を備える色素増感型の光センサー(特開2002−299678号公報参照)、(3)CVD(化学気相成長法)を用いて形成された非晶質のシリコンやゲルマニウムを備える光センサー(特開2004−335824号公報参照)、及び(4)透明窓層、バッファ層、硫化物吸収層及び電極を備え、上記硫化物吸収層が電子ビーム蒸着法で形成され、かつCuZnSnSからなる素子(特開2009−135316号公報参照)が提案されている。
【0007】
しかしながら、上記(1)及び(2)の光センサーのように、有機物、色素及び液体電解質を用いたものは、紫外線照射に対する耐久性が十分であるとはいえない。また、上記(3)のように非晶質のシリコンやゲルマニウムを用いたセンサーは、CVD製膜の原料としてシランやゲルマン等の特殊ガスを用いるため製造が簡便ではない。上記(4)の硫化物吸収層を備える素子は今後期待されるものの一つではあるが、構造が複雑であり、隣接する層との接合が不十分な場合、所望する特性が得られないという不都合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−70858号公報
【特許文献2】特開2002−299678号公報
【特許文献3】特開2004−335824号公報
【特許文献4】特開2009−135316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、光センサーの材料として好適に用いられる新規な光導電材料、並びにこの光導電材料を用いた光導電素子、光センサー及びセンサーアレイを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、光導電材料として好適な化合物について鋭意検討した結果、硫化ビスマスが光応答性や製造性等の点から活用可能であることを見出し、本発明の完成に至った。
【0011】
すなわち、上記課題を解決するためになされた発明は、
硫化ビスマスを主成分とする光導電材料である。当該光導電材料は、硫化ビスマスを主成分としてなり、十分な光応答性や製造性等を有するため、光センサー等の材料として好適に用いることができる。
【0012】
当該光導電材料において、好ましくは全原子に対する硫黄原子の含有量を50モル%以上70モル%以下とし、かつ、酸素原子の含有量を0.0001モル%以上10モル%以下とする。このように硫黄原子及び微量成分として含まれる酸素原子の含有量を上記範囲とすることで、当該光導電材料の光応答性を高めることができる。
【0013】
当該光導電材料は、硝酸ビスマスとチオ尿素とを用いたスプレー熱分解法により得られることが好ましい。このようなスプレー熱分解法で得られた当該光導電材料は光応答性も優れていることに加え、比較的容易かつ安価に製造することができる。
【0014】
本発明の光導電素子は、当該光導電材料から形成され、膜厚が10nm以上100μm以下の硫化ビスマス薄膜を備えるものである。当該光導電素子は、上記範囲の膜厚を有する硫化ビスマス薄膜を備えるため、光応答性等に優れる。
【0015】
当該光導電素子の光無照射時の電気抵抗と光照射時の電気抵抗との比(光照射時の電気抵抗に対する光無照射時の電気抵抗)としては、10倍以上であることが好ましい。このような電気抵抗比を有する当該光導電素子は、光センサー等として好適に用いることができる。
【0016】
当該光導電素子は、上記硫化ビスマス薄膜の片面又は両面に積層される一対の電極を備えるとよい。このように一対の電極を備えることで、当該光導電素子は薄膜状の光センサーとすることができるなど、活用の幅を広げることができる。
【0017】
上記電極の少なくとも一方が、酸化錫、酸化亜鉛又は酸化インジウムを主成分とする透明電極であることが好ましい。このような透明電極を用いることで、当該光導電素子の光応答性等を十分に発揮させることができる。
【0018】
上記透明電極の膜厚としては、50nm以上1μm以下が好ましい。このような膜厚の透明電極は導電性及び密着性を共に高めることができる。
【0019】
上記電極の少なくとも一方が、アルミニウム、モリブデン、銅又はカーボンを主成分とする非透明電極であることも好ましい。このような非透明電極は硫化ビスマスとの相性がよく、当該光導電素子の光応答性等を十分に発揮させることができる。
【0020】
上記非透明電極の膜厚としては、20nm以上100μm以下が好ましい。このような膜厚の非透明電極は導電性及び密着性を共に高めることができる。
【0021】
本発明の光センサーは、当該光導電素子を用いたものである。当該光センサーは、硫化ビスマスを主成分とする光導電材料を用いているため、光応答性に優れ、かつ、比較的容易かつ安価に製造することを可能とする。
【0022】
本発明のセンサーアレイは、複数の当該光センサーを備えるものである。当該センサーアレイは、上述のような光センサーを複数備えてなるものであるため、光応答性に優れ、かつ、比較的容易かつ安価に製造することを可能とする。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本発明の光導電材料は、光応答性や製造性等に優れるため、光センサー、光アンテナ等の材料として好適に用いることができる。また、本発明の光導電素子、光センサー及びセンサーアレイも、優れた光応答性等を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係る光導電素子を示す模式的断面図
【図2】図1とは異なる実施形態に係る光導電素子を示す模式的断面図
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、適宜図面を参照にしつつ、本発明の光導電材料、光導電素子、光センサー及びセンサーアレイの実施の形態を詳説する。
【0026】
<光導電材料>
本発明の光導電材料は、硫化ビスマスを主成分とする。硫化ビスマスは、可視光を吸収できる半導体材料である。また、硫化ビスマスは、安全性が高く、取り扱いも容易な材料である。当該光導電材料は、このような硫化ビスマスを主成分としてなり、十分な光応答性や製造性等を有するため、光センサー等の材料として好適に用いることができる。
【0027】
当該光導電材料において、全原子に対する硫黄原子の含有量の下限としては、50モル%が好ましく、54モル%がより好ましく、56モル%がさらに好ましい。一方、この硫黄原子の含有量の上限としては、70モル%が好ましく、65モル%がより好ましく、60モル%がさらに好ましい。
【0028】
また、当該光導電材料に含まれる硫化ビスマス中の硫黄原子の含有量の下限としては、50モル%が好ましく、54モル%がより好ましく、56モル%がさらに好ましい。一方、硫化ビスマス中の硫黄原子の含有量の上限としては、70モル%が好ましく、65モル%がより好ましく、60モル%未満がさらに好ましい。
【0029】
当該光導電材料の主成分である硫化ビスマスは、通常、Biの組成からなる。このため、当該光導電材料が硫化ビスマス以外の成分を含まない場合、化学量論的には、硫黄原子の含有量は60モル%となる。但し、一般的に金属の硫化物の場合、金属と硫黄との比が化学量論値からずれることが多い。硫化ビスマスの場合も同様と考えられる。しかし、全原子中又は硫化ビスマス中の硫黄原子の含有量が上記範囲内である場合は、当該光導電材料は、十分な光応答性を発揮することができる。また、硫黄原子の含有量が化学量論値(60モル%)を下回ると、当該光導電材料中にキャリアが発生し、電気抵抗が下がる。この場合、当該光導電材料の電気抵抗の測定が容易になり、その結果、光センサー等としての利用が容易になる場合がある。
【0030】
全原子中又は硫化ビスマス中の硫黄原子の含有量が上記下限未満の場合は、ビスマス成分が析出しやすくなり、光応答性が低下するおそれがある。逆に、この含有量が上記上限を超える場合は、硫黄成分が析出しやすくなり、電気抵抗が上昇し、その結果、電気抵抗の測定が困難になるおそれがある。
【0031】
当該光導電材料において、全原子に対する酸素原子の含有量の上限としては、10モル%が好ましく、5モル%がより好ましく、4モル%がさらに好ましく、2モル%が特に好ましい。一般的に、光導電材料への酸素の混入により、光応答性が低下する。当該光導電材料中の酸素含有量が、上記上限未満の場合は、十分な光応答性を発揮することができる。なお、当該光導電材料において、全原子に対する酸素原子の含有量の下限としては、特に制限されないが、製造上の理由から、例えば0.0001モル%であり、0.001モル%が好ましい。
【0032】
なお、当該光導電材料においては、主成分である硫化ビスマス及び微量成分である酸素以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、他の成分がさらに含有されていてもよい。
【0033】
当該光導電材料の製造方法としては、特に限定されず、スプレー熱分解法、物理蒸着法等の公知の方法を用いることができる。これらの製造方法の中でも、スプレー熱分解法を用いることが好ましい。スプレー熱分解法を用いることで、例えば、ガラスや金属基板上に直接、当該光導電材料を積層させることができ、また、特別な設備を必要とせず比較的簡便な設備で、かつ、低コストで製造することができる。以下、スプレー熱分解法を用いた当該光導電材料の製造方法の一例を具体的に説明する。
【0034】
まず、原料溶液を調製する。上記原料溶液としては、硝酸ビスマス(例えば、Bi(NO・5HO)とチオ尿素(CHS)との混合水溶液を用いることができる。上記硝酸ビスマスとチオ尿素との配合比(モル比)としては、例えば3:7以上5:5以下が好ましく、35:65以上45:55以下がより好ましい。上記範囲の配合比とすることで、上述した好ましい組成(硫黄原子含有量等)の光導電材料を得やすくなる。
【0035】
また、硝酸ビスマスの濃度としては、例えば、0.01M以上0.2M以下とすることができる。チオ尿素の濃度としては、例えば、0.015M以上0.3M以下とすることができる。このような濃度の原料溶液を用いることで、得られる光導電材料中の酸素含有量を低減すること等ができる。
【0036】
次に、基板となるガラスや金属等をホットプレート等で加熱する。この加熱温度としては、240℃以上360℃以下が好ましく、270℃以上330℃以下がより好ましい。上記範囲で加熱することで、得られる光導電材料の光応答性を高めることができる。
【0037】
上記基板を加熱させた状態で、この基板表面に上記原料溶液を噴霧することで、基板表面に硫化ビスマスを主成分とする当該光導電材料を形成することができる。上記噴霧においては、公知のスプレー噴霧器等を用いることができる。
【0038】
当該光導電材料は、光応答性を有する半導体として、例えば、光導電素子、太陽電池等の材料に好ましく用いることができる。
【0039】
<光導電素子>
本発明の光導電素子の実施形態を図1及び図2を参照に説明する。
【0040】
図1の光導電素子10は、基板11、硫化ビスマス薄膜12及び一対の電極13を備える。
【0041】
基板11は、板状形状を有する。基板11の材料としては、一定の強度を有するものであれば特に限定されないが、例えば、ガラス、合成樹脂、金属、金属酸化物、ステンレス等を挙げることができる。上記ガラスとしては、ケイ酸アルカリガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等を挙げることができる。上記合成樹脂としては、アクリル樹脂やPET等を挙げることができる。上記金属としては、鉄、アルミニウム、銅等を挙げることができ、上記金属酸化物はこれらの酸化物を挙げることができる。なお、ガラスや合成樹脂等の透明材料を用いた場合は、当該光導電素子10は、基板11側からの光照射に対しても光応答することができる。
【0042】
基板11の厚さとしては、特に限定されないが、通常0.1mm以上10mm以下程度である。なお、この基板11は、例えば合成樹脂製で、かつ厚さを薄くしたフレキシブル基板であってもよい。
【0043】
硫化ビスマス薄膜12は、基板11の表面に積層されている。この硫化ビスマス薄膜12は、上述した本発明の光導電材料から形成されている。
【0044】
硫化ビスマス薄膜12の膜厚(平均厚み)の下限としては、10nmが好ましく、さらには20nm、30nm、50nm、100nmが好ましい。一方、硫化ビスマス薄膜12の膜厚の上限としては、100μmが好ましく、さらには10μm、8μm、7μm、3μmが好ましい。当該光導電素子10は、上記範囲の膜厚を有する硫化ビスマス薄膜12を備えるため、光応答性等に優れる。
【0045】
硫化ビスマス薄膜12の膜厚が上記下限未満の場合は、薄膜へのピンホールの発生や、光吸収能の低下などが生じやすくなり、光応答性が十分に発現されない場合がある。逆に、硫化ビスマス薄膜12の膜厚が上記上限を超える場合は、表面に凹凸が発生しやすく、この表面に積層される電極13との剥離が生じやすくなる等により、好ましくない。
【0046】
硫化ビスマス薄膜12の形成方法としては、上述した当該光導電材料の製造方法で例示した方法を用いることができる。これらの方法の中でも、上述したスプレー熱分解法を用いることが好ましい。
【0047】
一対の電極13は、硫化ビスマス薄膜12の表面の一部にそれぞれ積層されている。それぞれの電極13は、図示しないリード線と連結される。
【0048】
電極13の材料としては、導電性を有するものであれば特に限定されず、金属、金属酸化物、カーボン等を用いることができる。これらの中でも、アルミニウム、モリブデン、銅又はカーボンを主成分とする非透明材料(非透明電極)を用いることが好ましい。
【0049】
例えば、通常、電極として多用される銀は、硫化ビスマス中の硫黄と反応して抵抗を上げるため、電極として使用することが好ましくはない。一方、銅も、硫黄と反応するが、硫化物が導電性を有するため、好適に使用することができる。また、アルミニウム、モリブデン及びカーボンは、硫黄との反応性が低く、好適に使用することができる。なお、これらの非透明電極の中でも、製造性等を考慮すると、カーボンがより好ましい。
【0050】
電極13の膜厚(平均厚み)の下限としては、20nmが好ましく、100nmがより好ましく、1μmがさらに好ましい。一方、電極13の膜厚の上限としては、100μmが好ましく、80μmがより好ましく、60μmがさらに好ましい。このような膜厚の電極13(非透明電極)は導電性及び密着性を共に高めることができる。電極13の膜厚が上記下限未満の場合は、電気抵抗が高くなるため好ましくない。逆に、電極13の膜厚が上記上限を超える場合は、密着性が低く、剥離が生じやすくなる。
【0051】
上記電極13の形成方法としては、特に限定されず、公知の方法を用いることができるが、スクリーン印刷などの印刷法を用いることが好ましい。印刷法を用いて電極13を形成することで、容易に任意の表面形状に電極13を形成することができ、また、容易に膜厚の制御も容易である。
【0052】
当該光導電素子10によれば、光が照射されることで、硫化ビスマス薄膜12(光導電材料)の抵抗値が下がり、両電極13間の抵抗変化により、光センサーや光アンテナとして機能することができる。
【0053】
また、当該光導電素子10は、電極13が硫化ビスマス薄膜12の表面全面に積層されておらず、硫化ビスマス薄膜12の一部が露出している。このため、当該光導電素子10は、電極13が透明又は不透明であるかにかかわらず、電極13側から照射された光に対して応答することができる。
【0054】
当該光導電素子10の光無照射時の電気抵抗と光照射時の電気抵抗との比(光照射時の電気抵抗に対する光無照射時の電気抵抗)としては、10倍以上が好ましく、50倍以上がより好ましく、100倍以上がさらに好ましい。このような電気抵抗比を有する当該光導電素子は、光センサー等として好適に用いることができる。なお、この比は高いほど好ましいが、材質の特性等から、上限としては例えば10,000倍である。ここで、光照射時とは、8万ルクスの白色ランプの照射をいう。
【0055】
図2の光導電素子20は、基板21、透明電極23a、硫化ビスマス薄膜12及び非透明電極23bを備える。
【0056】
基板21は、板状形状を有する。基板21は、ガラスや合成樹脂等の透明材料から形成されている。基板21の厚さとしては、図1の基板11の厚さと同様である。
【0057】
透明電極23aは、基板21の表面に積層されている。この透明電極23aの材料としては、導電性及び透明性を有するものであれば特に限定されないが、例えば、酸化錫(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化インジウム(In)、フッ素ドープ酸化錫、アルミドープ酸化亜鉛、錫ドープ酸化インジウム等、酸化錫、酸化亜鉛又は酸化インジウムを主成分とする材料が好ましい。透明電極をこのような材料から形成することで、当該光導電素子20の光応答性等を十分に発揮させることができる。上記材料の中でも、化学的に安定な、酸化錫を主成分とする材料が特に好ましい。
【0058】
透明電極23aの膜厚(平均厚み)の下限としては、50nmが好ましく、100nmがより好ましい。一方、透明電極23aの膜厚(平均厚み)の上限としては、1μmが好ましく、500nmがより好ましい。透明電極23aの膜厚が上記下限未満の場合は、電気抵抗が高くなるため好ましくない。逆に、透明電極23aの膜厚が上記上限を超える場合は、密着性が低く、剥離が生じやすくなる。
【0059】
この透明電極23aは、スパッタ法や蒸着法等、公知の方法により、基板21表面に形成することができる。なお、このように、透明電極23aをスパッタ法や蒸着法などの物理蒸着法で形成すると、緻密でかつ良質な透明電極を膜状に形成することができ、好ましい。
【0060】
硫化ビスマス薄膜12は、透明電極23aの表面に積層されている。この硫化ビスマス薄膜12は、図1の光導電素子10に備わるものと同様であるので、同一番号を付して説明を省略する。
【0061】
非透明電極23bは、硫化ビスマス薄膜12の表面に積層されている。透明電極23aと非透明電極23bとが、硫化ビスマス薄膜12の両面に積層される一対の電極となる。なお、透明電極23aと非透明電極23bとは、それぞれ図示しないリード線と連結される。
【0062】
非透明電極23bの材料としては、図1の電極13の材料として上述したアルミニウム、モリブデン、銅又はカーボンを主成分とした材料が好ましい。また、非透明電極23bの好ましい厚さや形成方法も、図1の電極13と同様である。
【0063】
当該光導電素子20においては、基板21及び透明電極23aが透明である。このため、当該光導電素子20の基板21側から光を照射した際、その光は硫化ビスマス薄膜12に照射される。従って、当該光導電素子20によれば、光が基板21側から照射されることで、硫化ビスマス薄膜12(光導電材料)の抵抗値が下がり、両電極(透明電極23a及び非透明電極23b)間の抵抗変化により、光センサーや光アンテナとして機能することができる。
【0064】
<光センサー>
本発明の光センサーは、当該光導電素子を用いたものである。なお、光センサーとは、光などの電磁気的エネルギーを検出するセンサーである。
【0065】
当該光センサーとしては、具体的に上述した図1の光導電素子10又は図2の光導電素子20を備えるものを挙げることができる。これらの光センサーは、光の照射時と無照射時とで電極間の電気抵抗差を有する。従って、当該光センサーによれば、この電気抵抗変化を検出することで、光の検出を行うことができる。当該光センサーは、硫化ビスマスを主成分とする光導電材料を用いているため、光応答性に優れ、かつ、比較的容易かつ安価に製造することを可能とする。
【0066】
当該光センサーは、カメラの露出計、街灯の点灯制御部品等以外に、例えば、医療、健康、環境分野等、各種分野における紫外線検出センサー等として利用することができる。また、当該光センサーは、比較的容易かつ安価に製造することができ、さらには、任意の形状に形成することもできる。このため、当該光センサーによれば、様々な意匠を付与することが可能であり、商品の付加価値を高めることができる。
【0067】
<センサーアレイ>
本発明のセンサーアレイは、当該光センサーを複数備えるものである。具体的には、当該センサーアレイは、各光センサー同士を直列又は並列に接続してなる。
【0068】
当該センサーアレイは、上述のような光センサーを複数備えてなるものであるため、光応答性に優れ、かつ、比較的容易かつ安価に製造することを可能とする。特に、当該センサーアレイは、複数の光センサーを備えるため、光応答性をより高めることができる。
【0069】
なお、本発明の光導電材料、光導電素子、光センサー及びセンサーアレイは上記実施形態に限定されるものではない。例えば、図1の光導電素子10における電極13に透明電極を用いてもよい。また、図2の光導電素子20の構造において、硫化ビスマス薄膜の両面に透明電極を積層してもよい。さらには、光導電素子は、図1及び図2の光導電素子のような板状(薄膜状)以外に、例えば基板を芯に有する円柱形状等であってもよい。
【実施例】
【0070】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0071】
[実施例1]図1の形状の光導電素子の製造
まず、硫化ビスマス薄膜を形成するためのスプレー熱分解法用の原料溶液を作成した。純水10mL、硝酸ビスマス(Bi(NO・5HO)0.24g(0.0005mol)、及びチオ尿素(CHS)0.057g(0.00075mol)をそれぞれ秤量した。秤量した上記純水に、硝酸ビスマス及びチオ尿素を順に混合し、原料溶液を得た。上記原料溶液における硝酸ビスマス濃度は約0.05Mであり、チオ尿素濃度は約0.075Mとなる。得られた原料溶液を市販のスプレー噴霧器にセットした。
【0072】
次に、板厚2mmのガラス製の基板(10mm×10mm)をホットプレート上にセットし、基板と噴霧器との距離を30cmとした。ホットプレートを300℃に加熱し、基板に向けて上記原料溶液を噴霧した。原料溶液が無くなるまで10分かけて噴霧を行い、基板上に硫化ビスマス薄膜を形成した。
【0073】
形成された硫化ビスマス薄膜の膜厚をSEM断面観察で測定したところ、260nmであった。また、形成された硫化ビスマス薄膜をEPMA(電子線プローブマイクロアナライザー)を用いて成分分析したところ、硫黄分は62モル%、酸素量は1.1モル%であった。
【0074】
基板冷却後、硫化ビスマス薄膜上に、電極としてのカーボンを積層させた。具体的には、スクリーン印刷機を用いて、ポリエステルメッシュの印刷マスクを通して、カーボンペーストを印刷した。上記カーボンペーストには、市販のカーボンペースト(藤倉化成製ドータイト)を使用した。印刷パターンとしては、5mm×5mmの正方形状とし、5mm間隔をあけて、2枚印刷した。印刷後、120℃の乾燥処理を行った。この印刷及び乾燥を5回繰り返し行い、膜厚30μmのカーボン製の一対の電極を形成した。各電極に半田を用いてリード線をとりつけ、実施例1の光センサー(光導電素子)を得た。
【0075】
[評価]
暗所にて、得られた光センサーの両電極間の電気抵抗をテスタで測定したところ、63MΩであった。次に、光センサーに光照射を行って電気抵抗を測定したところ、1.1MΩであった。なお、光照射は、白色ランプを用い、8万ルクスとなるように行った(以下、同様)。電気抵抗の比は57であり、光センサーとして機能することを確かめた。また、硫化ビスマス薄膜の状態を目視にて確認した。硫化ビスマク薄膜は、穴や剥離が存在せず、良好な状態であった。
【0076】
[実施例2〜6、比較例1〜2]
硫化ビスマス薄膜が表1に記載の膜厚となるように、用いた原料溶液の量をそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、実施例2〜6及び比較例1〜2の光センサーを得た。実施例1の評価結果等と共に、評価結果を表1に示す。
【0077】
【表1】

【0078】
表1に示されるように、硫化ビスマス薄膜の膜厚及び酸素含有量等を調整することで、電気抵抗比が高まり、光センサーとして好適であることがわかる。
【0079】
[実施例7〜10]
原料溶液中のチオ尿素量を表2に記載した量としたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、実施例7〜10の光センサーを得た。
【0080】
それぞれの光センサーについて、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0081】
【表2】

【0082】
表2に示されるように、硫化ビスマス薄膜の硫黄含有量を適当に調整すること、及び酸素含有量を減らすことで、電気抵抗比が高まり、光センサーとして好適であることがわかる。
【0083】
[実施例11]図2の形状の光導電素子の製造
市販の透明導電膜付ガラス(Pillkington Tec 15−22)を15mm角に切断し、洗浄したのち、ホットプレートにセットした。なお、この透明電極膜の材質は、FTO(フッ素ドープSnO)である。
【0084】
次に、硫化ビスマス薄膜を形成するためのスプレー熱分解法用の原料溶液を作成した。純水20mL、硝酸ビスマス(Bi(NO・5HO)0.24g(0.0005mol)、及びチオ尿素(CHS)0.057g(0.00075mol)をそれぞれ秤量した。秤量した上記純水に、硝酸ビスマス及びチオ尿素を順に混合し、原料溶液を得た。上記原料溶液における硝酸ビスマス濃度は約0.025Mであり、チオ尿素濃度は0.038Mとなる。得られた原料溶液を市販のスプレー噴霧器にセットした。
【0085】
次に、上記透明導電膜付ガラス基板をホットプレート上にセットし、基板と噴霧器との距離を30cmとした。ホットプレートを300℃に加熱し、基板に向けて原料溶液を噴霧した。原料溶液が無くなるまで20分かけて噴霧を行い、透明電極膜上に硫化ビスマス薄膜を形成した。
【0086】
形成された硫化ビスマス薄膜の膜厚をSEM断面観察で測定したところ、510nmであった。また、形成された硫化ビスマス薄膜をEPMA(電子線プローブマイクロアナライザー)を用いて成分分析したところ、硫黄分は62モル%、酸素量は1.1モル%であった。
【0087】
基板冷却後、硫化ビスマス薄膜上に、電極としてのカーボンを積層させた。具体的には、スクリーン印刷機を用いて、ポリエステルメッシュの印刷マスクを通して、カーボンペーストを印刷した。上記カーボンペーストには、市販のカーボンペースト(藤倉化成製ドータイト)を使用した。印刷パターンとしては、10mm×10mmの正方形状とした。印刷後、120℃の乾燥処理を行い、膜厚6μmの非透明電極膜を形成した。透明電極膜と非透明電極膜とに半田を用いてリード線をとりつけ、実施例11の光センサー(光導電素子)を得た。
【0088】
実施例1と同様の評価を行ったところ、暗所での抵抗は170kΩ、光照射時の電気抵抗は1.6kΩであった。電気抵抗の比は130であり、光センサーとして機能することを確かめた。
【産業上の利用可能性】
【0089】
以上説明したように、本発明の光導電材料は、光センサー等の光導電素子の材料等として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0090】
10、20 光導電素子
11、21 基板
12 硫化ビスマス薄膜
13 電極
23a 透明電極
23b 非透明電極


【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化ビスマスを主成分とする光導電材料。
【請求項2】
全原子に対する硫黄原子の含有量が50モル%以上70モル%以下であり、かつ、酸素原子の含有量が0.0001モル%以上10モル%以下である請求項1に記載の光導電材料。
【請求項3】
硝酸ビスマスとチオ尿素とを用いたスプレー熱分解法により得られる請求項1又は請求項2に記載の光導電材料。
【請求項4】
請求項1、請求項2又は請求項3に記載の光導電材料から形成され、膜厚が10nm以上100μm以下の硫化ビスマス薄膜を備える光導電素子。
【請求項5】
光無照射時の電気抵抗と光照射時の電気抵抗との比が10倍以上である請求項4に記載の光導電素子。
【請求項6】
上記硫化ビスマス薄膜の片面又は両面に積層される一対の電極を備える請求項4又は請求項5に記載の光導電素子。
【請求項7】
上記電極の少なくとも一方が、酸化錫、酸化亜鉛又は酸化インジウムを主成分とする透明電極である請求項4、請求項5又は請求項6に記載の光導電素子。
【請求項8】
上記透明電極の膜厚が50nm以上1μm以下である請求項7に記載の光導電素子。
【請求項9】
上記電極の少なくとも一方が、アルミニウム、モリブデン、銅又はカーボンを主成分とする非透明電極である請求項4から請求項8のいずれか1項に記載の光導電素子。
【請求項10】
上記非透明電極の膜厚が20nm以上100μm以下である請求項9に記載の光導電素子。
【請求項11】
請求項4から請求項10のいずれか1項に記載の光導電素子を用いた光センサー。
【請求項12】
請求項11に記載の複数の光センサーを備えるセンサーアレイ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−4914(P2013−4914A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137596(P2011−137596)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】