説明

光応答性キラル化合物

【課題】光応答性キラル化合物の提供。
【解決手段】下記一般式(1)化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子、光−光学スイッチング素子などの光応答性液晶表示材料の添加剤として有用な新規な光学的に活性なキラル化合物およびこのものを含有する液晶表示材料に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶性化合物は、その流動性、光学異方性及び電場に対する分子配列の応答性により、現在、表示媒体として用いられている。それらに給されるのはネマティック液晶またはツイステッド液晶で光の透過率を電場で制御するシャッターの作用をする素子として用いられている(特許文献1)。
【0003】
カラー表示をするためには、各液晶素子の前面に赤、緑、青のカラーフィルターを設けており、液晶自身に色情報を制御させてはいない。
【0004】
一方で、液晶自身が呈色するものも古くから知られている(非特許文献1)。キラルネマティック(コレステリック液晶)である。キラルネマティック液晶は、液晶分子骨格内もしくは添加剤として光学活性な部位を含み、結果的に液晶分子が液晶状態でらせんを描く超分子構造(分子の配列にらせん構造がある)を示す。
【0005】
このらせん状の超分子構造のために、らせん周期Pと物質の平均の屈折率nの積Pnを中心とする波長の光のうち一方の円偏光成分をらせん軸に対して平行の方向に反射する。もし、Pnが可視光の波長に相当する場合、可視光線(白色光線)の内の一定の波長の光を反射することになるため色づいて見える。
【0006】
このようにして見える反射の色を反射色ということもある。一部のキラルネマティック液晶の反射色は、温度によって変化することから、キラルネマティック液晶は色で温度を表示する温度計や物質の表面温度を計測する材料として用いられてきた(非特許文献2)。
【0007】
一方、キラルネマティック液晶の反射色を、カラー表示に応用しようという試みもなされている(特許文献2)。キラルネマティック液晶のらせん軸の方向を電場によって制御し、基板に対してらせん軸が垂直となっているときに反射色が見え、平行になっているときに反射色が見えないことを利用して表示を可能としている。
【0008】
キラルネマティック液晶に高分子を添加することで上記の二つの状態を、電場を取り除いた後も安定に保てる(双安定)ようにすることも可能である(非特許文献3)。
また、温度や光によって反射色を変化させ、かつ急冷却によって一時的に反射色を固定できるキラルネマティック液晶も知られている(非特許文献4、5)。
【0009】
これが書き換え可能なフルカラー表示メディアとして利用可能であることも提案されている。キラルネマティック液晶の反射色を光化学反応によって自由に変化させることは、カラー表示メディアとして重要である。その理由は、光はそれに対して透明な媒体(空気や透明基板)を通して非接触で与えることができるため、電場による制御のように電極を接触させて設ける必要がないからである。
【0010】
光に応答するキラルネマティック液晶を実現する一つの方法としては、ネマティック液晶に添加するキラル添加剤を分子修飾によって光応答性にすることが知られている。
【0011】
ネマティック液晶とキラル添加剤の混合物からなるキラルネマティック液晶のらせん周期は、キラル添加剤のねじり力といわれる化合物の有する物性値と添加量で決定されるので、光反応によってキラル添加剤の分子構造が可逆的に変化すれば、ねじり力が変化し、結果として反射色が可逆的に制御できる。
【0012】
このような技術に使うことができる光応答キラル添加剤としては、エチレン誘導体、フルギド誘導体、アゾベンゼン誘導体が知られている(非特許文献6)。
【0013】
この光応答キラル添加剤に求められる性能としては、元々のねじり力が大きいことと光照射前後のねじり力の変化が大きいこと及び光の波長を変えるだけでねじり力を可逆的に変化させることができることである。
【0014】
しかし、従来知られている光応答キラル添加剤では、上記のすべてを満足するものがなく、可視域の特定の色の間の変化を実現するのみであったり、可逆的な変化が光反応のみでは実現できなかったり、低いねじり力を補うために光応答性のない第二の添加物が必要である等の問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特公昭51−13666号
【特許文献2】特公昭43−390号
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】F. Reinitzer, Monatsch. Chem., 1889, 9, 421.
【非特許文献2】J. L. Fergason, Appl. Phys., 1968, 7, 1729.
【非特許文献3】J. L. West, R. B. Akins, J. Francl, J. W. Doane, Appl. Phys. Lett., 1993, 63, 1471.
【非特許文献4】N. Tamaoki, A. Parfenov, A. Masaki, H. Matsuda, Adv. Mater., 1997, 9, 1102.
【非特許文献5】N. Tamaoki, S. Song, M. Moriyama, H. Matsuda, Adv. Mater., 2000, 12, 94.
【非特許文献6】N. Tamaoki, Adv. Mater., 2001, 13, 1135.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、前記のごとき従来技術の問題点を克服するためになされたものであって、光のみで可視域全域で反射色を制御可能な光応答性キラルネマティック液晶を実現するための、ねじり力が大きく、光照射前後のねじり力の変化が大きくかつ光の波長を変えるだけでねじり力を可逆的に変化させることができる新規な光応答性キラル化合物およびこのものをキラル添加剤として含有する液晶表示材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
すなわち、この出願は、以下の発明を提供するものである。
〈1〉下記一般式(1)で示される光学応答性キラル化合物。
【化1】

(式中、X,Yは二価の有機基;Zは芳香環を含み、芳香環のπ共役面に対して垂直な方向にC2対称軸を有するがその軸を含むいかなる面も対称面とならない二価の有機基を示し、ZはX、Yと結合した軸を中心にした360度以上の回転運動がアゾベンゼン部との立体的な衝突のために起こらないほど十分嵩高い基を示す)
〈2〉下記一般式(1A)で示される光学応答性キラル化合物。
【化2】

(式中、Xは、-CH2-CH2-O-、-O-CH2-CH2 -、-CH2-O-CH2- または- CH2-CH2-CH2 -を示す)
〈3〉〈1〉または〈2〉に記載の光応答性キラル化合物を含有するネマティック液晶混合物。
〈4〉〈3〉に記載のネマティック液晶混合物を表示材料とした光学液晶素子。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る新規な一般式(1)で示される光応答性キラル化合物は、ねじり力が大きく、光照射前後のねじり力の変化が大きくかつ光の波長を変えるだけでねじり力を可逆的に変化させることができる。したがって、このものをキラル添加剤として含有するネマティック液晶混合物は、光のみで可視域全域で反射色を制御することができるので、書き換え可能なフルカラー表示メディアとして有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の液晶表示材料の反射スペクトル
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の光応答性キラル化合物は、前記一般式(1)で表される。この化合物は、中心不斉や軸不斉やヘリカル不斉の構造的特長を持たないが面不斉であるために光学活性となる。
【0022】
面不斉を示すための要件は、一般式(1)において、Zが面の構造を有する二価の有機基で、その面に対して垂直な方向にC2対称軸を有するがその軸を含むいかなる面も対称面とならないことと、ZはX、Yを結ぶ軸を中心にした360度以上の回転運動がアゾベンゼン部との立体的な衝突のために起こらないほど十分嵩高いことの二つの条件を同時に満足することが必要である。
【0023】
たとえば、Zとアゾベンゼン部位をつなぐXとYは、Zとアゾベンゼンを結ぶ距離に直接関わる原子の数が3よりも多い場合、例えば、-O-CH2-CH2-O-のような場合であるが、ZがX、Yを結ぶ軸を中心にした360度以上の回転運動が可能となるために分子が光学活性とはならない。また、Zとアゾベンゼンを結ぶ距離に直接関わる原子の数が3よりも少ない場合には、環構造を成立させるためにアゾベンゼンとZとの間の立体反発が大きく、合成が困難となるので、XとYの原子数はそれぞれ3とすることが好ましい。
【0024】
具体的な構造に関しては、特に限定されるものではないが、合成の容易さから例えば、アゾベンゼン側からナフタレン部位に向けて-CH2-CH2-O-か -O-CH2-CH2 -、-CH2-O-CH2- または- CH2-CH2-CH2 -などが望ましい。特に、合成原料の入手のしやすさを考慮すると-CH2-CH2-O-が望ましい。XやYとアゾベンゼンの結合位置は、オルト、メタ、パラのいずれでもかまわないが、合成の容易さとZの回転運動のし難さからメタがより望ましい。
【0025】
Zの構造としては、分子全体の面不斉の要件を満足させる構造として例えば1,5−置換−ナフタレン、2,6−置換−ナフタレン、2,5−ジアルキル−1,4−置換−ベンゼン(アルキル基は炭素数1〜5のものが好適である)、2,5−ジアルコキシ−1,4−置換−ベンゼン(アルコキシ基は炭素数1〜5のものが好適である)などがあげられるがこれに限定されるものではない。この中で、1,5−置換−ナフタレンは合成原料の入手のしやすさから望ましい構造である。
【0026】
本発明の光応答性キラル化合物の反応と働きを下記図の(S)E-1を例にして説明する。(S)E-1は(R)E-1とは鏡像異性体の関係にある。しかし、熱的に十分安定であるためにラセミ化反応((S)E-1と(R)E-1の間の変換)は起こらない。また、(S)E-1は(S)Z-1とは幾何異性(シス−トランス異性)の関係にある。これらの間では紫外線または可視光による光化学反応や熱反応により変換が可能である。(R)E-1においても(R)Z-1と同様の関係がある。従って、(S)E-1または(R)E-1は面不斉による固有のキラリティーとネマティック液晶中では固有のねじり力を有し、光反応によって可逆的に生成する(S)Z-1または(R)Z-1は、(S)E-1、(R)E-1とは異なったキラリティー及びねじり力を示す。その結果、光反応によってねじり力を可逆的に変化させることができる。
【0027】
本発明の光応答性キラル化合物を得るには、後記するように、たとえば相当するジニトロ化合物を水素化アルミニウムリチウムなどの還元剤で還元して得ることができる。
得られる化合物は、二つのエナンチオマーの混合物であるので、キラルカラムによる分離などの方法により、純粋な一方のエナンチオマーとして単離して光応答性キラル添加剤とする。
【0028】
【化3】

【0029】
この光応答性キラル化合物を用いて光応答性のキラルネマティック液晶を調製するには、当該光応答性キラル化合物とネマティック液晶を混合すればよい。使用できるネマティック液晶としては、例えば、シアノビフェニル型ネマティック液晶やシアノフェニルシクロヘキシル型ネマティック液晶やエステル型ネマティック液晶などがあげられるがこれらに限定されるものではない。
ネマティック液晶中の光応答性キラル添加剤の濃度は、それぞれの物質の構造によって異なる。一般的には0.01重量%から30重量%の範囲で用いられる。より望ましくは0.5重量%から15重量%の範囲で用いられる。光応答性キラル添加剤の濃度がこの範囲よりも低いと光の反射波長が可視光よりも長波長になってしまい、濃度がこの範囲よりも高いと光応答性キラル添加剤がネマティック液晶から析出してくるか、光の反射波長が可視光よりも短波長になってしまう。
【0030】
上記光応答性キラル化合物を添加剤として含有するネマティック液晶混合物は、光のみで可視域全域で反射色を制御することができるので、書き換え可能なフルカラー表示メディアとして有用なものである。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0032】
実施例1
(光応答性キラル化合物の合成)
この例では、光応答性キラル添加剤例1を以下のプロセスに従って合成した。
【化4】

【0033】
まず、トリエチルアミン1.3mlを塩化メチレン3mlに溶解し、3−ニトロフェネチルアルコール2.5gとp−トルエンスルフォニルクロリド2.52gを15mlの塩化メチレンに溶解した溶液に0−5℃で滴下した。攪拌しながら室温までゆっくりと暖め、終夜で攪拌を続けた。1規定の塩酸を4ml加えた後、分液ロートを用いて有機層を分取しNaHCO3水溶液および食塩水で有機層を洗浄した。溶液を乾燥し、濃縮することで粗生成物を得た。得られた粗生成物はヘキサン−酢酸エチル混合物を用いるカラムクロマトグラフィーによってさらに精製し、化合物1を得た。収量3.2g、収率83%。
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ8.07 (dd, 1H, J = 1.7, 7.8Hz), 7.90 (s, 1H), 7.65 (d,2H, J = 8.3Hz), 7.51-7.42 (m, 2H), 7.28-7.25 (m, 2H), 4.29 (t, 2H, J = 6.4Hz),3.06 (t, 2H, J = 6.4Hz), 2.42 (s, 3H).
【0034】
次に、化合物1(16.3g)、1,5−ジヒドロキシナフタレン2.0g、炭酸カリウム8.8gを乾燥ジメチルホルムアミド25mlに溶解し、60℃に加熱して12時間攪拌した。反応混合物は150mlの水の中に加え、粗生成物を茶色の沈殿物として得た。その粗生成物を酢酸エチルで洗浄し、純粋な化合物2を白色固体として得た。収量4.2g、収率73%。
1H NMR (300 MHz, DMSO-d6): δ8.31 (s, 2H), 8.10 (d, 2H, J = 8.1Hz), 7.89 (d, 2H,J = 7.5Hz), 7.65-7.60 (m, 4H), 7.33 (t, 2H, J = 7.9Hz), 6.99 (d, 2H, J = 7.7Hz), 4.40 (t, 4H, J = 6.1Hz), 3.32 (t, 4H, J = 6.2Hz); MALDI-TOF MS (M+H) calcd forC26H23N2O6: 459.52, found: 459.59
【0035】
最後に化合物2(2.0g)を乾燥テトラヒドロフラン300mlに溶かし、その溶液を、アルゴン雰囲気下、1.7gの水素化アルミニウムリチウムを100mlの乾燥テトラヒドロフランに溶解した溶液中に6時間かけて滴下した。反応混合物は、化合物2を滴下する際は乾留し、さらに、12時間室温で攪拌を続けた。反応混合物を氷水で冷却した後、水を注意深く添加した。沈殿物を濾別し、減圧下で溶媒を除去した。残った有機固体を酢酸エチルに溶解し、水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧下で除去した後、残留物をヘキサン−酢酸エチル(4:1)を展開溶媒とするシリカゲルのクロマトグラフィーで精製し、目的の化合物3を橙色の固体として得た。収量10.7mg、収率1%。
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ7.67 (d, 2H, J = 8.3Hz), 7.55 (d, 2H, J = 7.8Hz), 7.35 (t, 2H, J = 7.6Hz), 7.23 (d, 2H, J = 7.5Hz), 7.05 (t, 2H, J = 8.1Hz), 6.79 (s,2H), 6.60 (d, 2H, J = 7.7Hz), 4.76 (dt, 2H, J = 14.6, 3.6 Hz), 4.60 (dt, 2H, J= 12.5, 3.8 Hz), 3.21 (dd, 4H, J = 11.5, 3.2 Hz); 13C NMR (75 MHz, CDCl3): δ154.1, 152.3, 140.4, 130.6, 128.9, 127.9, 125.6, 125.0, 120.0, 114.6, 107.7, 68.4,35.9; ESIMS m/z 395.2 (M +H+), 417.2 (M +Na+).
この合成された化合物3は2つのエナンチオマーの混合物であるため、キラルカラム(ダイセル化学工業製キラルパックIA)を用い、酢酸エチル/ヘキサンの混合溶媒を展開溶媒として分割することで純粋な光応答性キラル添加剤4Rと4Sを得た。
【0036】
(光応答性キラル化合物のねじり力の測定)
光応答性コレステリック液晶は、ネマティック液晶に光応答性キラル添加物である化合物4Rを一定の重量%で添加し、サンプルチューブ中で少量の塩化メチレンを加えて溶解し、溶媒を減圧下で除去して得た。得られた光応答性コレステリック液晶を室温下、キャピラリー効果でウェッジセルに添加して、観察されるCanoラインの間隔を測定することでコレステリックらせんピッチを見積もった。光応答性キラル添加物の濃度とコレステリックらせんピッチの逆数が直線関係となる領域の傾きから光応答性キラル添加物のねじり力を算出した。その結果、各ネマティック液晶5CB(東京化成工業製)、ZLI−1132(MERK社製)、DON−103(大日本インキ社製)中でそれぞれ43、40、16μm-1であった。366nm光を照射して光定常状態とした後のねじり力は、同様の測定から、5CB、ZLI−1132、DON−103中で、それぞれ36、28、19μm-1へと変化した。その後、さらに436nm光を照射して光定常状態とした後のねじり力を測定したところ同様の測定から、5CB、ZLI−1132、DON−103中で、それぞれ40、36、17μm-1へと変化した。
【0037】
実施例2
(液晶表示材料の作製)
次に、ZLI−1132に12重量%の前記化合物4Rを添加した光応答性コレステリック液晶を、ポリイミドを配向膜としてコーティングした二枚のガラス板間に5ミクロンの間隔を保って挟んだ。得られた薄膜の366nm光(UV)照射前後の反射スペクトルを測定した。120秒照射後の光定常状態から今度は436nm光(Vis)を30秒、120秒照射して反射スペクトルを測定した。得られた反射スペクトルを図1に示す。
【0038】
実施例3
化合物9を1,5-ジアミノナフタレン(化合物4)と3−ニトロフェノール(化合物7)を出発原料として以下の方法で合成した。

合成スキーム
【化5】

【0039】
化合物5:亜硝酸ナトリウム(1.5 g, 0.022 mol)の濃硫酸溶液(12.5mL)に、1,5-ジアミノナフタレン(4)(1.5 g, 0.0095 mol)の酢酸溶液(12.5 mL)を0 ℃で滴下した。この混合溶液を15分間撹拌し、氷(15 g)と尿素(0.125 g)を加えた後ヨウ化カリウム(50 g, 0.3 mol)水溶液(50 ml)を加え、減圧下において終夜撹拌した。濾過して得られた固形物を、乾燥後ジクロロメタンにより抽出した。活性炭存在下で全抽出液を還流し、最後に溶出溶媒としてヘキサン/ジクロロメタン(2:1)を用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製し、淡黄色針状化合物5を得た。収率(2.5 g, 69%)。
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ7.26 (t, 2H, J = 7.5 Hz), 8.13 (d, 4H, J = 6.9 Hz), MALDI-TOF MS (M+H+) calcd for C10H6I2: 379.96, found: 379.57.
【0040】
化合物6:1,5-ジヨードナフタレン(2.28 g, 0.006 mol)の36 mLエーテル懸濁液を-78 ℃に冷却し、n-ブチルリチウム溶液15 mL(1.6 M ヘキサン溶液, 0.024 mol)を加えた。この薄桃色懸濁液を1時間撹拌後シアン化銅(I)を268.8 mg(0.003 mol)加え、さらに-55〜-65 ℃で45分間撹拌を続けた。この間懸濁液は黄色に変化した。エチレンオキシド150 ml(1 Mエーテル溶液, 0.150 mol)を一気に加えた後、室温で終夜撹拌した。換気装置内でこの混合液に10%硫酸を注ぎ、濾過後ジクロロメタンによって抽出した。無水硫酸ナトリウムで脱水後減圧濃縮した粗固形試料を、酢酸エチル/ジクロロメタン(1:1)を溶出液としたシリカゲルクロマトグラフィーによって精製し、白色固体6を得た。収率(0.57 g, 44%)。
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ3.37 (t, 4H, J = 6.8 Hz), 4.01 (t, 4H, J = 6.33 Hz), 7.45 (m, 4H), 8.00 (d, 2H, J = 7.95 Hz). MALDI-TOF MS (M+H+) calcd for C14H16O2: 216.27, found: 216.41.
【0041】
化合物8:ジイソプロピルアゾジカルボキシラート(40%トルエン溶液,5 mL,9.9 mmol)を一滴ずつ、化合物6(0.713 g, 3.3 mmol)、3-ニトロフェノール(1.146 g, 8.2 mmol)、トリフェニルホスフィン(2.6 g, 9.9 mmol)の脱水THF溶液(25 mL)に0 ℃で加えた。溶液は室温で終夜撹拌した。反応溶液に過剰の水(150 mL)を加えて得られた茶色沈殿物の粗生成試料を酢酸エチルで洗浄後、精製化合物8を白色固体として得た。収率(0.8 g, 53%)。
1H NMR (300 MHz, DMSO-d6): δ3.57 (t, 4H, J = 6.8 Hz), 4.44 (t, 4H, J = 6.8 Hz), 7.39 (d, 2H, J = 5.8 Hz), 7.52-7.57 (m, 4H), 7.57 (s, 2H), 7.67 (t, 2H, J = 2.3 Hz), 7.78 (d, 2H, J = 6.9 Hz), 8.11 (t, 2H, J = 4.8); MALDI-TOF MS (M+H+) calcd for C26H22N2O6: 458.46, found: 481.67 (M +Na+).
【0042】
化合物9:化合物8(0.5 g, 1.09 mmol)の脱水THF溶液(300 mL)をLiAlH4 (0.42 g, 10.9 mol)の脱水THF溶液(100 mL)に、アルゴン雰囲気下において4時間以上かけて一滴ずつ加えた。ジニトロ化合物溶液を滴下する際、反応溶液を還流し、その後室温で終夜撹拌した。反応溶液を氷浴で冷却しながら、注意深く水を添加することでクエンチした。不溶物を濾別し、濾液を減圧濃縮した。橙色の残滓固形物をジクロロメタンに溶かし、水で洗浄後無水硫酸マグネシウムで脱水した。溶媒を減圧下で除去し、残滓をヘキサンと酢酸エチル(4:1)を溶出液としてシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、橙色固形物9を得た。収率30 mg(7%)。
1H NMR (300 MHz, CD2Cl2): δ3.44 (dt, 2H, J = 4.7, 4.7 Hz); 3.77 (tt, 2H, J = 3.2, 3.2 Hz); 4.62 (tt, 2H, J = 4.5, 4.5 Hz); 4.88 (dd, 2H, J = 3.2, 7.9 Hz); 6.11 (d, 2H, J = 1.7 Hz); 7.0 (dd, 2H, J = 4.7, 4.5 Hz), 7.29-7.38 (m, 8H), 7.94 (dd, 2H, J = 2.9, 2.8 Hz); 13C NMR (75 MHz, CD2Cl2): δ33.0, 70.1, 108.8, 114.2, 120.0, 122.6, 125.7, 127.2, 129.4, 132.3, 136.9, 152.9, 159.6; ESIMS m/z 395.2 (M +H+), 417.2 (M +Na+).
【0043】
実施例1と同様の方法で本化合物のねじり力を測定した。光学分割した鏡像異性体の化合物9がZLI-1132中で、光照射前に6.9μm-1, 紫外線照射後に7.9μm-1, 可視光照射後に7.1μm-1のねじり力を示した。
【0044】
実施例4

以下の方法で化合物10を合成した。
【0045】
粉末にした水酸化カリウム198mgをジメチルスルホキシド10mlに懸濁した中に、アゾベンゼン−3,3’−ジメタノール121mgと1,5−ビス(ブロモメチル)ナフタレン157mgをテトラヒドロフラン10mlに溶かした溶液を、50℃で攪拌しながらゆっくり滴下した。滴下後30分間攪拌した後、分液ロートに移し、酢酸エチルを加えて、水で3回洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥・濃縮後、ジクロロメタンを溶出液としてシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製した。収量19.7mg、収率10%。
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ8.18 (br d, 2H, J = 8.0 Hz), 7.55 (br d, 2H, J = 7.8 Hz), 7.44 (br d, 2H, J = 6.9 Hz), 7.38 (t, 2H, J = 7.6 Hz), 7.32 (t, 2H, J = 7.7 Hz), 7.21 (br d, 2H, J = 7.5 Hz), 6.77 (s, 2H), 5.62 (d, 2H, J = 13.2 Hz), 5.04 (d, 2H, J = 13.8 Hz), 4.86 (d, 2H, J = 13.8 Hz), 4.79 (d, 2H, J = 13.2 Hz); 13C NMR (75 MHz, CDCl3): 152.4, 140.4, 135.3, 132.5, 128.4, 128.0, 127.1, 125.7, 125.2, 124.1, 119.8, 73.4, 72.8; ESIMS m/z 395.2 (M+H+), 417.2 (M+Na+).
【0046】
実施例1と同様の方法で本化合物のねじり力を測定した。光学分割した鏡像異性体の化合物10がZLI-1132中で、光照射前に27μm-1, 紫外線照射後に20μm-1, 可視光照射後に26μm-1のねじり力を示した。
【0047】
実施例5

以下の方法で化合物11を合成した。
【0048】
12.36mmolのジイソプロピルアゾジカルボキシラートを窒素雰囲気下でトリフェニルホスフィン(12.36 mmol)、 2−フェネチルアルコール(9.88 mmol)、 2,5-ジメトキシ-1,4-ジヒドロキノン(4.12 mmol)のTHF溶液(5 mL)に0 ℃で滴下した。その後室温で12時間激しく攪拌した。150 mLの水を加えると粗生成物が沈殿した。これを酢酸エチルで洗浄すると純粋なジニトロ化合物が得られた。得られたジニトロ化合物1.07 mmolを乾燥THF(250 mL)に溶解し、6時間かけてLiAlH4 (10.7 mmol)の乾燥THF溶液(100 mL)に滴下した。滴下中は溶媒を加熱して還流し続けた。12時間反応後氷浴で冷却し、注意深く水を加えた。溶媒を減圧除去後、残渣をジクロロメタンを溶出液としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製して目的の化合物11を得た。収量 5.27 mg。
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 7.55 (d, 2H, J= 8.35 Hz), 7.46 (t, 2H, J= 14.6 Hz), 7.21-7.25 (m, 2H), 7.13 (d, 2H, J= 7.6 Hz), 6.0 (s, 2H), 4.69 (m, 4H), 4.18-3.31 (m, 4H) 3.18 (s, 6H). ESI MS m/z=427.1 (M+Na+) Exact Mass: 404.2.
【0049】
実施例1と同様の方法で本化合物のねじり力を測定した。光学分割した鏡像異性体の化合物11がZLI-1132中で、光照射前に5.5μm-1, 紫外線照射後に3.4μm-1, 可視光照射後に5.5μm-1のねじり力を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される光学応答性キラル化合物。
【化1】

(式中、X, Yは二価の有機基;Zは芳香環を含み、芳香環のπ共役面に対して垂直な方向にC2対称軸を有するがその軸を含むいかなる面も対称面とならない二価の有機基を示し、ZはX、Yと結合した軸を中心にした360度以上の回転運動がアゾベンゼン部との立体的な衝突のために起こらないほど十分嵩高い基を示す)
【請求項2】
一般式(1A)で示される光学応答性キラル化合物。
【化2】

(式中、Xは、-CH2-CH2-O-、-O-CH2-CH2 -、-CH2-O-CH2- または- CH2-CH2-CH2 -を示す)
【請求項3】
請求項1または2に記載の光応答性キラル化合物を含有するネマティック液晶混合物。
【請求項4】
請求項3に記載のネマティック液晶混合物を表示材料とした光学液晶素子。

【図1】
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【公開番号】特開2010−30997(P2010−30997A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−149586(P2009−149586)
【出願日】平成21年6月24日(2009.6.24)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】