説明

光情報記録媒体及びその製造方法

【課題】記録膜を含む薄膜層が2層以上であっても、温度変化時または湿度変化時に伴う反りを確実に防止できる光情報記録媒体を提供する。
【解決手段】光情報記録媒体10aは、基板20a上に、記録膜42aを含む第1薄膜層40a、第1樹脂層50a、記録膜62aを含む第2薄膜層60a、第2樹脂層70aを順に備えている。そして、第1樹脂層50aの線膨張係数および湿度膨張係数を選択して、温度変化によって生じる変形の中立面が、上記薄膜層のうち膜材料のヤング率と膜厚との積が最も大きな薄膜を有する薄膜層である第2薄膜層60aに存在するように設定されている。上記の構成においては、温度変化時および湿度変化時における反り変化量は、非常に小さくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報を記録又は再生する光情報記録媒体に関し、特に、環境変化による反りを抑制する機能を有する光情報記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光情報記録媒体においては、従来は、特定の単純な構成が用いられていた。その単純な構成において、以下で説明するような反り変形が問題とされていた。
【0003】
例えば、従来の光情報記録媒体の一例である光情報記録媒体10は、図13に示すように、基板20、スパッタ等により形成される薄膜層40、および薄膜保護のための樹脂層50を備えた、非常に単純な構造である。
【0004】
ここで、薄膜層40は、例えば、窒化シリコン,ZnS,SiO2等からなる誘電体膜41、TbFeCo,GeSbTe等からなる記録膜42、窒化シリコン,ZnS,SiO2等からなる誘電体膜43、Al,Ag 等からなる反射膜44の4層の薄膜より形成される。
【0005】
温度変化や湿度変化などの環境変化に対して、上記構成の光情報記録媒体10の各層は、異なる変形量で変形しようとする。すなわち、一般に各層は、線膨張係数及び湿度膨張係数などの物性値が異なるため、異なる長さになろうとする。しかし、実際には境界面における連続性という制約があるので、各層は、独立に変形する場合の長さにはなれない。そこで、光情報記録媒体10内部に応力が生じる。この応力は、線膨張係数やヤング率によって大きさが異なる。このため、光情報記録媒体10に反りが生じるという問題があった。
【0006】
具体的な場合に当てはめて説明すると、一般的に、基板20や樹脂層50の線膨張係数は、薄膜層40の線膨張係数よりも大きい。このため、基板20や樹脂層50の、薄膜層40に接していない面は、自由に伸びようとする。一方、基板20や樹脂層50の、薄膜層40に接している面は、自由に伸びることができない。そこで、基板20および樹脂層50の内部で応力が発生し、同様に薄膜層40内にも応力が発生する。そして、光情報記録媒体10は、応力が均衡するような変形をする。
【0007】
ここで、実際の光情報記録媒体においては、基板と樹脂層とは、互いに線膨張係数及びヤング率は同程度であるが、膜厚は大きく異なっている。このため、上記のように、基板の拘束をできるだけ小さくし、樹脂層の拘束を大きくするなどの各層応力の均衡を取るために、光情報記録媒体は反り変形する。
【0008】
一方、近年、画像データ、動画データなどサイズの大きいデータが扱われるようになり、そのため、さらなる高密度記録再生が可能な光情報記録媒体が求められている。そこで、上述の単純な構成の光情報記録媒体と比較して、複数の薄膜層(記録層)を重ねて備えさせた、高密度記録再生が可能な光情報記録媒体が提案されている。
【0009】
例えば、新たに提案されている光情報記録媒体の一例である光情報記録媒体10は、図14に示すように、ポリカーボネート製の円盤状の基板20上に、順に第1薄膜層40、第1樹脂層50、第2薄膜層60、第2樹脂層70を備えている。なお、ここでは、同じ働きをする部材は同じ符号を用いて説明する。
【0010】
これら基板および層の厚みは、それぞれ、基板20が約0.5 mm又は1.2 mm、第1薄膜層40が10〜500 nm、第1樹脂層50が 1〜50μm、第2薄膜層60が10〜500 nm、第2樹脂層70が約100 μmである。
【0011】
なお、第2薄膜層60は、例えば、窒化シリコン,ZnS,SiO2等からなる誘電体膜61、TbFeCo,GeSbTe等からなる記録膜62、窒化シリコン,ZnS,SiO2等からなる誘電体膜63、Au,Al,Ag等からなる半透明膜64の4層の薄膜から形成される。
【0012】
上記の構成において、ヤング率、線膨張係数及び湿度膨張係数などの物性値は、一般に各層において異なっている。したがって、温度変化時または湿度変化時には、各層は異なる変形量で変形しようとする。
【0013】
以下、典型的な場合について説明すると、次のようになる。
【0014】
すなわち、線膨張係数は、第1薄膜層40および第2薄膜層60の方が、基板20、第1樹脂層50および第2樹脂層70よりも小さい。またヤング率は、第1薄膜層40および第2薄膜層60の方が、基板20、第1樹脂層50および第2樹脂層70よりも大きい。
【0015】
このため、温度上昇などの温度変化時には、第1薄膜層40および第2薄膜層60の基板半径方向への膨張は、その他の各層に比較して非常に小さくなる。
【0016】
したがって、上記の温度変化時において、光情報記録媒体10は、図15(a)において点線で示すように、その半径方向に垂直である厚み方向において、積層組のある面側(第2樹脂層70側)への反りが生じ易い。
【0017】
なお、一般に光情報記録媒体は上記のような物性値の関係をもつので、上述のような変形は、上記構成の光情報記録媒体10だけではなく、一般の光情報記録媒体においても生じ易い。
【0018】
また、湿度膨張係数は、第1樹脂層50および第2樹脂層70の方が、基板20、第1薄膜層40および第2薄膜層60よりも大きい場合が通常である。また、上述のように、ヤング率は、第1薄膜層40および第2薄膜層60の方が、基板20、第1樹脂層50および第2樹脂層70よりも大きい。
【0019】
このため、湿度上昇時などの湿度変化時には、第1薄膜層40および第2薄膜層60の基板半径方向への膨張は、その他の各層に比較して非常に小さくなる。
【0020】
したがって、上記の湿度変化時において、光情報記録媒体10は、図15(b)において点線で示すように、その半径方向に垂直である厚み方向において、積層組のある面の裏面側(基板20側)への反りが生じ易い。
【0021】
このため、温度変化や湿度変化などの環境変化時に、光情報記録媒体10には反りが生じる。よって情報の記録再生が困難になり、記録再生動作の信頼性が損なわれるという問題があった。
【0022】
なお、上記の図14においては、第1薄膜層40および第2薄膜層60を、多層の薄膜層としたが、単層の薄膜層であっても同様の問題が生じる。また、上記の膜厚は、制限がある訳ではなく、光入射面が基板20の表面であれば第2樹脂層70の厚みは10〜16μmであっても同様の問題が生じる。
【0023】
以上のように、光情報記録媒体においては、温度変化や湿度変化に応じて、光情報記録媒体内部に応力が生じ、反りが生じうるという問題があった。
【0024】
特に、近年提案されている、複数の薄膜層を重ねて備えさせた、高密度記録再生が可能な光情報記録媒体においては、単純な構成の光情報記録媒体と比較して、構成が複雑であり、さらに反り変形が生じ易いという問題があった。
【0025】
上述のような反り変形を防止するために、従来、上述した単純な構成の光情報記録媒体における反り変形防止の方法が開示されていた。
【0026】
例えば、特許文献1には、光情報記録媒体の反り変形を制御する以下の手法が提案されている。上記公報に開示された光情報記録媒体10は、図16に示すように、光入射側に、すなわちポリカーボネート基板20に対して薄膜層40とは反対側に、誘電体膜80を備えている。そして、薄膜層40および誘電体膜80の膨張率は、ほぼ同等となるように構成されている。これにより、光情報記録媒体10の反りを防止できるようにしている。
【0027】
また、特許文献2において開示された光情報記録媒体10は、図17に示すように、高い剛性をもつ基板保護膜30を備えている。上記の構成によれば、基板保護膜30の剛性により、光情報記録媒体10の変形は低減される。
【0028】
また、特許文献3では、湿度変化によって生じる反りを抑制する技術が開示されている。上記公報において開示された光情報記録媒体10は、図18に示すように、薄膜保護膜50、薄膜層40、基板20、基板保護膜30に加えて、さらに基板20と基板保護膜30の層との間に、SiO2やAlN などからなる透湿防止膜90を備えている。上記の構成によれば、透湿防止膜90は、光情報記録媒体10が湿度変化によって反ることを抑制できる。
【0029】
しかしながら、特許文献1における、図16に示す光情報記録媒体10は、スパッタ等により、基板20の光入射側に誘電体膜80を設ける構成である。すなわち、基板20に対して一方側の面に薄膜層40を形成した後、その基板20を裏返して、基板20の反対の面にさらに誘電体膜80を形成する必要がある。したがって、生産工程が複雑化するともに、生産設備の高価格化を招き、光情報記録媒体のコストアップにつながるといった問題があった。
【0030】
また、特許文献2に実施例として記載された、図17に示す光情報記録媒体10も、プラズマCVD等によりSiO2の基板保護膜30が基板20上に形成される構成である。したがって、上述の特許文献1と同様の理由により問題があった。
【0031】
さらに、特許文献3に記載された、図18に示す光情報記録媒体10も、基板20の光入射側に、スパッタ等によりAlN やSiO2による透湿防止膜90を設ける構成である。したがって、上述の特許文献1と同様の理由により問題があった。
【0032】
そこで、特許文献4においては、上述の問題を生じない光情報記録媒体が提案されている。上記公報に開示された光情報記録媒体10は、図13に示す光情報記録媒体10とほぼ同様の構成をもち、薄膜保護膜50、薄膜層40、および基板20を備えている。光情報記録媒体10は、温度変化または湿度変化などの環境変化によって生じる、光情報記録媒体10の変形の中立面が、上記薄膜層40の近傍に設定されている構成である。
【0033】
ここで、変形の中立面とは、各層において発生する曲げモーメントの総和と、その中立面にかかる各層の軸力による曲げモーメントの総和との合計が0となるような面を意味する。
【0034】
また、上記構成において、薄膜層40は非常に薄いため、中立面だけでなく、薄膜層40全体において、各層において発生する曲げモーメントの総和と、その中立面にかかる各層の軸力による曲げモーメントの総和との合計は、ほぼ0となっている。
【0035】
上記特許文献4記載の構成によれば、薄膜層40近傍に変形の中立面を設定することで、温度変化や湿度変化などの環境変化による光情報記録媒体10の反りを抑制できる。このため、上述した他の各公報に開示されているように、反り防止用の膜を別途設ける必要がない。したがって、光情報記録媒体の生産工程の増加によるコストアップを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0036】
【特許文献1】特開平4−195745号公報(平成4年7月15日公開)
【特許文献2】特開平11−16211号公報(平成11年1月22日公開)
【特許文献3】特開平4−364248号公報(平成4年12月16日公開)
【特許文献4】特開2000−311381号公報(平成12年11月7日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0037】
上述のように、特許文献4に記載された、図13とほぼ同様の構成の光情報記録媒体10は、薄膜層が1層の単純な構成である。そして、その薄膜層に中立面があるように設定されている。
【0038】
このため、薄膜層が1層の光情報記録媒体は、例えば図14にて示すような複数の薄膜層を有する光情報記録媒体とは、薄膜層の積層された数が異なるので、異なる構成となっている。また、複数の薄膜層のうち、どの薄膜層に変形の中立面が存在するべきか、すなわち例えば薄膜層が2層の場合に、第1、第2の2つの薄膜層のうち、どちらに変形の中立面が存在すべきか判断できない。したがって、上記特許文献4の構成は、複数の薄膜層(記録層)を有する光情報記録媒体には適用することができないという問題がある。
【0039】
言い換えると、上記特許文献4の構成は、記録膜を含む薄膜層が1層である場合を想定しているため、中立面を単に薄膜層近傍に設定する旨が記載されているだけである。したがって、記録膜を含む薄膜層が2層以上の場合には、どの薄膜層に中立面を設定すればよいかを適切に判断できない。このため、上記技術を、そのまま薄膜層が2層以上の光情報記録媒体に適用した場合には、確実に反りを防止することができないという問題が生じる。
【0040】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、記録膜、反射膜、または半透明膜を少なくとも一つ含む薄膜層が2層以上であっても、温度変化時または湿度変化時に伴う反りを確実に防止できる光情報記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0041】
本発明に係る光情報記録媒体及びその製造方法は、上記課題を解決するために、基板上に、薄膜からなる記録膜、反射膜、または半透明膜を少なくとも一つ含む薄膜層と、該薄膜層上に形成された透光層とで構成される積層組が少なくとも2組以上積層された光情報記録媒体の製造法であって、所定の温度変化または所定の湿度変化によって生じる反り変化量が所定の値以下となるように上記透光層のうちのいずれかの線膨張係数及び/または湿度膨張係数が限定されていることを特徴としている。
【0042】
ここで、湿度膨張係数とは、温度一定(25 ℃) 時に、対象物周辺の相対湿度が上昇した場合の単位長あたりの伸び量を、1 %あたりの湿度膨張率に換算したものであり、線膨張係数の算出法と同様に算出されるものである。
【0043】
上記構成によれば、一方の積層組の透光層を形成する樹脂の物性値として、膨張係数(線膨張係数、湿度膨張係数)を上記の範囲に限定するので、以下の発明の実施の形態において説明するように、環境変化時における変形量を小さくして、信頼性を高めることができる。具体的には、環境変化時における反り変化量を例えば−3.0 〜3.0[mrad] の範囲にでき、一般に好ましい変化量である−5.0 〜5.0[mrad] の範囲よりも小さくできる。
【0044】
すなわち、線膨張係数を上記の範囲に限定すれば、環境変化として温度が変化した場合に反り変形を小さくできる。また、湿度膨張係数を上記の範囲に限定すれば、環境変化として湿度が変化した場合に、反り変形を小さくできる。さらに、線膨張係数を上記の範囲に限定するとともに、湿度膨張係数を上記の範囲に限定すれば、環境変化によって温度および湿度が変化した場合に反り変形を小さくできる。
【0045】
本発明に係る光情報記録媒体及びその製造方法は、上記課題を解決するために、上記構成において、上記所定の温度変化が23℃から50℃への変化であって、上記所定の反り変化量が−5.0〜5.0mradの範囲内であることを特徴としている。
【0046】
本発明に係る光情報記録媒体及びその製造方法は、上記課題を解決するために、上記構成において、上記所定の湿度変化が25℃の温度下における50%から90%への変化であって、上記所定の反り変化量が−5.0〜5.0mradの範囲内であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0047】
本発明に係る光情報記録媒体及びその製造方法は、基板上に、薄膜からなる記録膜、反射膜、または半透明膜を少なくとも一つ含む薄膜層と、該薄膜層上に形成された透光層とで構成される積層組が少なくとも2組以上積層された光情報記録媒体の製造法であって、所定の温度変化または所定の湿度変化によって生じる反り変化量が所定の値以下となるように上記透光層のうちのいずれかの線膨張係数及び/または湿度膨張係数が限定されている。
【0048】
それゆえ、線膨張係数を上記の範囲に限定すれば、環境変化として温度が変化した場合に反り変形を小さくできる。また、湿度膨張係数を上記の範囲に限定すれば、環境変化として湿度が変化した場合に、反り変形を小さくできる。さらに、線膨張係数を上記の範囲に限定するとともに、湿度膨張係数を上記の範囲に限定すれば、環境変化によって温度および湿度が変化した場合に反り変形を小さくできる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の一実施形態に係る光情報記録媒体の断面図である。
【図2】(a)は上記光情報記録媒体を示す平面図、(b)は上記光記録媒体の変形状態を示す側面図、(c)は上記光情報記録媒体の変形状態を示す側面図である。
【図3】多層(n層)のはりの変形状態を表す断面図である。
【図4】上記実施形態における、温度変化時の反り変化量と膜厚との関係を示すグラフである。
【図5】上記実施形態における、湿度変化時の反り変化量と膜厚との関係を示すグラフである。
【図6】上記実施形態において、温度変化時の反り変化量と第1樹脂層の線膨張係数との関係について、計算した結果を示すグラフである。
【図7】上記実施形態において、湿度変化時の反り変化量と第1樹脂層の湿度膨張係数との関係について、計算した結果を示すグラフである。
【図8】上記実施形態において、温度変化時の反り変化量と第1樹脂層の線膨張係数との関係について、計算した結果を示すグラフである。
【図9】上記実施形態において、湿度変化時の反り変化量と第1樹脂層の湿度膨張係数との関係について、計算した結果を示すグラフである。
【図10】本発明の他の実施形態に係る光情報記録媒体の断面図である。
【図11】本発明のさらに他の実施形態に係る光情報記録媒体の断面図である。
【図12】本発明のさらに他の実施形態に係る光情報記録媒体の断面図である。
【図13】従来の光情報記録媒体の断面図である。
【図14】近年提案されている光情報記録媒体の断面図である。
【図15】(a)は従来の光情報記録媒体の変形状態を示す側面図、(b)は従来の光情報記録媒体の変形状態を示す側面図である。
【図16】従来の光情報記録媒体の他の一例を示す断面図である。
【図17】従来の光情報記録媒体のさらに他の一例を示す断面図である。
【図18】従来の光情報記録媒体のさらに他の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
本発明に係る光情報記録媒体の一実施形態について以下で説明する。
【0051】
本実施形態に係る光情報記録媒体10aは、温度変化および湿度変化による反り変形を防止できる光情報記録媒体である。光情報記録媒体10aは、図2(a)の平面図に示すような円盤状の構成である。
【0052】
そして、図1に示すように、光情報記録媒体10aは、ポリカーボネートからなる基板20a上に、第1薄膜層40a、第1樹脂層50a、第2薄膜層60a、第2樹脂層70aを順に備えている。
【0053】
第1薄膜層40aは、窒化シリコン,ZnS,SiO2等からなる誘電体膜41a、TbFeCo,GeSbTe等からなる記録膜42a、窒化シリコン,ZnS,SiO2等からなる誘電体膜43a、Al,Ag 等からなる反射膜44aの4層の薄膜より形成されている。
【0054】
第1樹脂層50aは、UV硬化樹脂からなる。
【0055】
第2薄膜層60aは、窒化シリコン,ZnS,SiO2等からなる誘電体膜61a、TbFeCo,GeSbTe等からなる記録膜62a、窒化シリコン,ZnS,SiO2等からなる誘電体膜63a、Au,Al,Ag等からなる半透明膜64aの4層の薄膜から形成されている。
【0056】
第2樹脂層70aは、UV硬化樹脂からなる。
【0057】
上記構成の光情報記録媒体10aにおいて、通常、薄膜層40a・60aはスパッタにより形成され、樹脂層50a・70aはスピンコーティングまたはポリカーボネートフィルムの貼り合せ等によって形成される。
【0058】
なお、上記基板20aは、ポリカーボネートでなく、例えばアクリル系またはポリオレフィン系の樹脂よりなるものでもよい。また、樹脂層50a・70aの材質は上記の構成に限るものではない。例えば、第2樹脂層70aはポリカーボネートフィルムであってもよい。
【0059】
以上のように、本実施形態の光情報記録媒体10aは、基板20a上に、第1薄膜層40aと第1樹脂層50aとからなる第1の積層組と、第2薄膜層60aと第2樹脂層70aとからなる第2の積層組との、2組の積層組が積層されている構成である。
【0060】
さらに、光情報記録媒体10aは、温度変化または湿度変化によって生じる変形の中立面が、上記各積層組を構成する第1、第2薄膜層40a・60aのうち、膜材料のヤング率と膜厚との積が最も大きな薄膜を有する薄膜層に設定されるように、樹脂層50a・70aのうちの少なくとも一方の樹脂層の、物性値または膜厚の少なくとも一方を選択する構成である。このような選択の例については、後述の実施例において説明する。
【0061】
ここで、中立面とは、光情報記録媒体10aの各層において発生する曲げモーメントの総和と、その中立面にかかる各層の軸力による曲げモーメントの総和との合計が0となる面を意味する。
【0062】
本実施形態のより詳細な具体例として示す以下の媒体1〜7では、第2薄膜層60aが、膜材料のヤング率と膜厚との積が最も大きな薄膜を有する薄膜層として設定されている。
【0063】
上記構成の光情報記録媒体10aに対して、ここで、例えば図14に示す光情報記録媒体10のような、本実施形態の構成のように樹脂層50a・70aの一方の、物性値または膜厚の少なくとも一方が、適切に設定されていない光情報記録媒体を考える。すると、この光情報記録媒体10においては、温度変化時または湿度変化時の変形の中立面は、基板20の膜厚が樹脂層50a・70aの膜厚と比較して厚いため、基板20中に生じることが予想される。この場合には、環境変化時の光情報記録媒体10の変形量は、結果として大きくなってしまう。
【0064】
一方、例えば上記構成のように、ヤング率が大きく、光ディスクの半径方向に最も膨張し難い薄膜層のうちでもヤング率と膜厚との積が最も大きい薄膜を有する薄膜層に変形の中立面を設定できれば、光情報記録媒体全体の変形量を抑制できるのではないかという仮説を考えることができる。
【0065】
その根拠は以下の通りである。
【0066】
一般に、膜材料のヤング率が大きい薄膜は、変形し難い薄膜である。すなわち、膜材料のヤング率が大きい薄膜に外力を加えた場合は、他の薄膜に対して同じ外力を加えた場合と比べて、変形量が小さくなる。また、膜材料のヤング率が同じであれば、膜厚が大きい薄膜の方が、変形し難い薄膜である。したがって、薄膜層を構成する薄膜のうち、膜材料のヤング率と膜厚との積が最も大きな薄膜は、環境変化による変形においても、最も変形し難い薄膜であるといえる。
【0067】
したがって、温度変化または湿度変化のような環境変化の際に光情報記録媒体10aに生じる変形の中立面が、他の層と比較して変形し難い薄膜層にある場合、すなわちヤング率の高い第1、第2薄膜層40a・60aのうち、より変形し難い、ヤング率と膜厚との積がより大きな薄膜を有する第2薄膜層60aにある場合には、中立面自体の変形量がより小さくなるため、全体の変形量は小さくなるという予測を立てることができる。
【0068】
以上が上記仮説の根拠である。
【0069】
なお、中立面自体の変形量が小さいとは、曲げモーメントが均衡していれば曲がることがなく、曲がることによって発生する変形(伸び縮み)が小さいという意味である。これによって、光情報記録媒体全体の反り変形量が小さくなる。
【0070】
このため、本実施形態において説明する薄膜層が2層の構成であっても、より変形が小さくなる薄膜層に中立面を設定して、変形を小さくできる光情報記録媒体の構造を選択できる。すなわち、薄膜層が2層の光情報記録媒体において、環境変化に影響されず、変形量を小さくして、記録再生動作の信頼性を高めた光情報記録媒体を提供できる。
【0071】
以下では、上記の構成の本実施形態の光情報記録媒体10aにおいて、実際に光情報記録媒体10aの変形の中立面が、薄膜層のうち、第2薄膜層60aに設定されていることを確認する。
【0072】
ここで、この中立面の位置は、直接観測できる量ではない。このため、まず、環境変化時における反り角を、中立面の位置を仮定した上で理論的に計算する。一方、対応する実際の光情報記録媒体において、環境変化時における反り角を測定する。そして、中立面の位置を仮定して計算した反り角と、実際の反り角とを比較し、反り角の値が一致する場合における理論上仮定した中立面の位置を、実際の光情報記録媒体における中立面の位置とみなすこととする。
【0073】
そこで、まず、中立面の位置を仮定して反り角を理論的に計算する手順の一例について説明する。
【0074】
温度変化時には、光情報記録媒体10a内部に、半径方向に働く応力(軸力)と、円周方向に働く応力と、膜厚方向に働く応力とが生じている。
【0075】
ここで、光情報記録媒体10aは、図2(a)に示すように円盤状であるため、円周方向に働く応力は円周内で均一になる。また、膜厚方向に働く応力も、各層内では一様と仮定できる。したがって、円周方向に働く応力および膜厚方向に働く応力は、変形には寄与しないと仮定できる。
【0076】
したがって、以降では、光情報記録媒体10aの変形において、半径方向に働く応力のみを考慮する。すなわち、該応力によって発生する、光情報記録媒体10aの半径方向に垂直な、厚さ方向における反りのみを考慮する。
【0077】
なお、実際の光情報記録媒体においては、図2(b)(c)に示す反り角θは、例えば温度変化する前においても0ではない。このため、温度変化によって生じる反り角の変化量として単に図2(b)(c)に示す反り角θを用いると、誤差を生じることとなる。したがって、以降では、変形前から変形後までの反り角θの変化量を、環境変化によって生じた反り角の変化量とする。
【0078】
ここで、簡単のため、上述のような反り変形を、光情報記録媒体10aの断面部に相当する5層はりの反り変形と置換して考える。この5層はりの反り変形は、図3に示すn層はりの断面図において、n=5の場合に相当する。そして、変形の大小を、図に示す反り角θを用いて評価する。
【0079】
上述のような置換を行った場合、例えば温度変化時における光情報記録媒体10a内部に発生する応力〔軸力〕、曲げモーメント等の均衡は、以下の式(1)〜(5)で表すことができる。
【0080】
【数1】

【0081】
ここで、上記の式における各記号の意味は次の通りである。まず、i番目の層に関する記号として、αi はi層の線膨張係数または湿度膨張係数,Ei はi層のヤング率,ti はi層の厚さ,Pi はi層における軸力,Mi はi層における曲げモーメント,Ri はi層における曲率半径,Ii はi層の断面2次モーメントを意味する。そして、bははりの幅(単位長とする),Tは変化温度または湿度,Lははりの長さ,y(yバー)はn層はりの中立面位置,θは最大変位部における長さ2mm内での反り角を意味する。
【0082】
なお、yバーで示す中立面の位置は、ti で示すi層の厚さと同じ座標方向における位置、すなわち厚み方向における位置を示すものである。
【0083】
反り角θの変化量を計算する際には、上記の式において、各層の厚さが曲率半径に比較してはるかに小さいため、R1=R2=R3= ・・・= Rn =Rとして計算を行う。
【0084】
なお、上記方程式は、線膨張係数を湿度膨張係数に置き換えることにより、湿度変化時における応力(軸力)、曲げモーメント等の均衡を表すこともできる。
【0085】
また、上述の手順は、中立面の位置を仮定して反り角を理論的に計算する手順の一例であって、異なる手順を用いて計算することもできる。また、上記の式(1)〜(5)も一例を示すものであって、異なる式を用いることもできる。
【0086】
上述の手順によって、実際に材質、膜厚および物性値を特定した光情報記録媒体において、変形の中立面の位置を第1薄膜層または第2薄膜層と仮定した場合の反り角の変化量を算出することができる。
【0087】
ここで、温度変化時における変形量の小さい本実施形態の一例として、以下の表1に、媒体1〜4を示す。
【0088】
【表1】

【0089】
媒体1〜4は、本実施形態の光情報記録媒体10aにおいて、反射膜または半透明膜の材料にAlを用いたものである。媒体1〜4は、それぞれ、第2樹脂層70aの膜厚のみが異なり、その他の構成は同じである。材質および膜厚は、表1に示す通りである。
【0090】
ここで、Alは最も一般的に用いられる反射膜材料である。Alは、反射膜または半透明膜に使用される他の金属と、線膨張係数及びヤング率などの物性値がほぼ等しい。なお、以下の表2は、表1に示す媒体1〜4において、第1、第2樹脂層50a・70aの材料として用いるUV硬化樹脂の物性値を示す。
【0091】
【表2】

【0092】
なお、示していない物性値については、計算の際には、その材料において通常用いられる値を用いる。
【0093】
このように構成が特定された媒体1〜4について、変形の中立面の位置を仮定して上述の手順によって反り角θの変化量を計算するとともに、以下で説明する実測において得られた反り角θの変化量と比較する。これによって、変形の中立面の位置を、間接的に確認できる。
【0094】
上記構成の光情報記録媒体を用いて、温度変化時における変形を測定した。変形を測定するために、まず各媒体1〜4を23℃に保持された恒温槽中に3日放置した。そして、その後、恒温槽内で媒体の反り角θを測定した。次に、恒温槽内の温度を50℃に変更し、同様に3日放置した。そして、恒温槽内で媒体の同一点の反り角θを測定し、上記23℃の場合の反り角θとの差を反り角θの変化量とした。
【0095】
なお、上記の測定のために、恒温槽に3日放置しているのは、3日もあれば十分に定常状態に到達すると考えられるためである。
【0096】
図4のグラフに、上記の実測値と、上記の式を用いて計算した理論値とを示す。図4の縦軸は、上記のように実測、または計算した反り角θの変化量(Δチルト)を示す。図4の横軸は、第2樹脂層70aの膜厚を示す。
【0097】
実測値として、各媒体1〜4によって得られた結果を、それぞれ丸点によって図4に示した。図4に示すように、媒体1〜4の温度変化時の反り角θの変化量は、一般に好ましい範囲である−5.0 〜5.0[mrad] の範囲内となっている。すなわち、媒体1〜4は、温度変化時における変形量の小さい光情報記録媒体である。
【0098】
また、理論値として、変形の中立面の位置を第1薄膜層40aに仮定した場合と第2薄膜層60aに仮定した場合とについて、それぞれ上述の手順によって得た反り角θの変化量を、破線および実線にて図4に示す。
【0099】
図4によれば、変形の中立面が第2薄膜層60aにあるとした場合の理論値(実線)と、実測値(丸点)とが、ほぼ一致することがわかる。したがって、本実施形態の光情報記録媒体10aの一例である媒体1〜4においては、変形の中立面が第2薄膜層60a中にあることが確認できた。このように、変形の中立面が第2薄膜層中60aにあるのは、第1薄膜層40aより第2薄膜層60aのほうが厚く、より変形し難いためであると考えられる。
【0100】
なお、ヤング率については、第1薄膜層40a、第2薄膜層60aはともに同一材料(Al)を用いているため、両者とも同じである。
【0101】
以上のように、温度変化による変形の際の実測値と方程式より求めた理論値とを比較することによって、光情報記録媒体の変形の中立面の位置を確認することができた。また、この温度変化時における変形の小さい光情報記録媒体において、その変形の中立面は、膜材料のヤング率と膜厚との積が最も大きい膜を有する薄膜層である第2薄膜層にあることを示した。
【0102】
また、実測値と理論値とはよい一致を見せているので、上述の、中立面の位置を仮定して反り角を理論的に計算する手順は、妥当であることが確認できた。
【0103】
したがって、温度変化時において、後述する実施例において示すように、変形の中立面の位置を仮定し、その仮定によって、上記の式(1)〜(5)を用いて、例えば反り角の変化量と線膨張係数との関係を求め、好ましい線膨張係数の範囲を推測することもできる。
【0104】
次に、湿度変化時における変形量が小さい本実施形態の媒体の一例として、以下の表3に、媒体5〜7を示す。
【0105】
【表3】

【0106】
媒体5〜7は、本実施形態の光情報記録媒体10aにおいて、反射膜および半透明膜の材料に、上述の例のAlとは異なり、Niを用いたものである。媒体5〜7は、それぞれ第2樹脂層70aの厚みのみが異なり、その他の構成は同じである。なお、表3に示す第1樹脂層50aの材料であるUV硬化樹脂3の物性値は、前記の表2に示したものである。また、計算の際には、上述の例と同様に、樹脂層以外の層の物性値については通常用いられる値を用いて計算する。
【0107】
上記構成の光情報記録媒体10aについて、湿度変化による反り角θの変化量(Δチルト)を測定した。湿度変化における変形を測定するために、まず各媒体を25℃で湿度50%に保持された恒温恒湿槽中に3日放置した。そして、その後、同恒温恒湿槽内で媒体の反り角を測定した。次に、同恒温恒湿槽内を25℃で湿度90%に変更し、同様に3日放置した。そして、同恒温恒湿槽内で媒体の同一点の反り角θを測定し、上記50%の場合の反り角θとの差を反り角θの変化量とした。
【0108】
なお、上記の測定のために、恒温恒湿槽に3日放置しているのは、3日もあれば十分に定常状態に到達すると考えられるためである。
【0109】
図5のグラフに、上記の実測値と、上記の式を用いて計算した理論値とを示す。図5の縦軸は、上記のように実測、または計算した反り角θの変化量を示す。図5の横軸は、第2樹脂層70aの膜厚を示す。
【0110】
実測値として、各媒体5〜7によって得られた結果を、それぞれ丸点によって図5に示した。図5に示すように、媒体5〜7の湿度変化時の反り角θの変化量は、一般に好ましい範囲である−5.0 〜5.0[mrad] の範囲内となっている。すなわち、媒体5〜7は、湿度変化時における変形量の小さい光情報記録媒体である。また、理論値として、変形の中立面を第2薄膜層60aに仮定した場合について計算した反り角θの変化量を、実線にて図5に示す。
【0111】
図5によれば、変形の中立面が第2薄膜層60aにあるとした場合の理論値(実線)と、実測値(丸点)とが、ほぼ一致することがわかる。したがって、本実施形態の光情報記録媒体10aの一例である媒体5〜7においては、変形の中立面が第2薄膜層中60aにあることが分かる。
【0112】
このことより、温度変化時と同様、湿度変化時においても、変形量が小さなときには、薄膜自体の膜厚とそのヤング率との積が最も大きな薄膜を含む薄膜層に変形中心があるといえる。
【0113】
また、実測値と理論値とはよい一致を見せているので、湿度変化時においても、中立面の位置を仮定して反り角を理論的に計算する手順の妥当性が示された。
【0114】
したがって、湿度変化時においても、前述の温度変化時と同様に、変形の中立面の位置を仮定することができる。そして、その仮定を用いて、例えば、反り角の変化量と湿度膨張係数との関係を求め、好ましい湿度膨張係数の範囲を推測することができる。このような推測については、以下の実施例において説明する。
【0115】
なお、上述した本発明に係る光情報記録媒体の一例においては、変形の中立面が第2薄膜層60aに設定されていることが簡単に分かるように、第1薄膜層40aおよび第2薄膜層60aの材料を同じにしている。しかし、上述の構成でないとしても、本発明に係る光情報記録媒体であれば、上述のように、仮説の適否を確認し、計算の手順の妥当性を確認することができる。
【0116】
以上のように、従来薄膜層が複数の場合には不明確であった中立面の位置を、温度変化時または湿度変化時において生じる変形量が小さい、2層の薄膜層を有する媒体において、膜材料のヤング率と膜厚との積が最も大きな薄膜を有する薄膜層にあると特定した。
【0117】
また、上述のように、変形の中立面の位置を仮定して反り角を理論的に計算する手順の妥当性も確認した。よって、以下で説明するように、記録膜、反射膜、または半透明膜を少なくとも一つ含む薄膜層が2層以上であっても、この手順を用いて、中立面の位置を特定の薄膜層に仮定した上で、例えば1つの樹脂層の膜厚または物性値を選択し、温度変化時または湿度変化時に伴う反りを確実に防止できる光情報記録媒体を得ることができる。
【0118】
なお、以上においては、薄膜層が2層の場合、すなわち薄膜層と樹脂層との積層組が2組の場合において、中立面の位置を仮定して反り角を計算する方法について述べたが、積層組が3組以上の場合であっても同様に中立面の位置を仮定して反り角を求めることができる。また、実際の変形の中立面の位置についても、積層組が3組以上であっても、例えば上述と同様に実測し、上述のように計算した理論値と比較することによって、膜材料のヤング率と膜厚との積が最大の薄膜を有する薄膜層に、実際の変形の中立面があることを確かめることができる。
【0119】
〔実施例1〕
本実施例に係る光情報記録媒体10aは、上述のように妥当性を示した、式(1)〜(5)および仮説を用いて、以下のように、温度変化または湿度変化によって生じる変形の中立面が、上記各積層組を構成する第1、第2薄膜層40a・60aのうち、膜材料のヤング率と膜厚との積が最も大きな薄膜を有する薄膜層に設定される(以下、「中立面の位置を最適化する」と表現する。)ように、第1、第2樹脂層50a・70aの物性値または膜厚を選択する構成である。
【0120】
ここで、本実施形態においては、特に第1、第2樹脂層50a・70aの一方の物性値を選択して、中立面の位置を最適化する場合について説明する。このように、記録特性とは無関係の樹脂層のうち、例えば一つの樹脂層の物性値を選択することによって中立面の位置を最適化すれば、最も簡単に中立面の位置を最適化して反り変形の少ない光情報記録媒体を得ることができる。
【0121】
なお、一つの樹脂層のみの選択でなく、任意の組み合わせの樹脂層を選択して好ましい範囲を選択することもできる。すなわち、選択する樹脂層の数は限定されないので、例えば、全ての樹脂層の物性値を変更可能として好ましい範囲を選択することも可能である。
【0122】
また、樹脂層の物性値のみならず、樹脂層の膜厚を調節して反り変形を減少させることも可能である。しかし、例えば樹脂層の厚みとして20μm以内とする光情報記録媒体の規格もあるので、膜厚のみを調節して反り変形を防止するのは困難である。そこで、例えば物性値の調節と膜厚の調節とを組み合わせることによって、より簡単な構成で反り変形を防止することもできる。
【0123】
本実施例に係る光情報記録媒体は、薄型基板と2層の薄膜層とを有する、情報の再生のみを行う光情報記録媒体(2層ROM)である。
【0124】
本実施例は、薄膜層中に、金属よりなる反射膜または半透明膜のみを有する構成である。すなわち、2層の薄膜層の双方に誘電体を含んでいない構成である。したがって、本実施例の光情報記録媒体10aは、第1薄膜層40a中には反射膜44aのみを含んでおり、第2薄膜層60a中には、半透明膜64aのみを含んでいる。
【0125】
このような構成は、2層ROMのような光情報記録媒体においては、一般的である。また、反射膜または半透明膜に使用される何種かの材料においては、材料ごとにヤング率、線膨張係数及び好ましい膜厚は異なるが、その差異は第1、第2樹脂層50a・70aや樹脂製の基板20aに使用される材料における材料ごとの差異と比較して非常に小さい。したがって、一つの材料について調べて得た特性を、他の材料についても適用することができる場合がある。
【0126】
この2層ROMの一例である本実施例の光情報記録媒体(媒体8)は、以下の表4に示す材質および膜厚を備えた構成である。
【0127】
【表4】

【0128】
この構成において、第1樹脂層50a以外の層の物性値は、通常用いられる物性値として設定されている。例えば、第1薄膜層40aのAlのヤング率を7.57E+10[Pa]と、第2薄膜層60aのAuのヤング率を8.83E+10[Pa]とする。すると、本実施例においては、膜材料のヤング率と膜厚との積が最も大きい膜を有する薄膜層は、第1薄膜層40aである。
【0129】
上記構成の媒体8において、物性値として第1樹脂層50aの線膨張係数を選択し、温度変化時における、この物性値の好ましい範囲を以下のように特定する。
【0130】
すなわち、以下で説明するように、中立面の位置を第1薄膜層40aと仮定して、その仮定を用いて反り角θの変化量と第1樹脂層50aの線膨張係数との関係を求めることができる。そして、反り角θの変化量を一定の小さい範囲に限定することによって、第1樹脂層50aの線膨張係数の好ましい範囲を限定することができるのである。そして、第1樹脂層50aとして上記の範囲の線膨張係数を持つものを選択することにより、媒体の変形の中立面が、膜材料のヤング率と膜厚との積が最も大きい薄膜を有する薄膜層である第1薄膜層40aに設定され、中立面の位置が最適化される。
【0131】
より詳細に説明すると、以下の通りである。表4に示された膜厚および材質の物性値を用い、さらに、変形の中立面の位置を第1薄膜層40aと仮定して、上述の式(1)〜(5)に代入すると、温度変化させた場合の反り角θの変化量と第1樹脂層50aの線膨張係数との関係を得ることができる。
【0132】
このようにして得られた計算結果として、図6に、一般的なUV樹脂が有するヤング率の範囲(2.0 E+9 〜5.0 E+9 [Pa])において、第1樹脂層50aのヤング率を何通りか変化させた場合の、第1樹脂層50aの線膨張係数と反り角θの変化量、すなわちΔチルトとの関係を示す。
【0133】
ここで、図6においては、Δチルトが−3.0 〜3.0[mrad] の範囲にあれば、一般的に好ましい範囲である−5.0 〜5.0[mrad] よりも小さいので、変形量が十分に小さいとみなすことができる。したがって、図6より、線膨張係数は3.5E−5〜1.1E−4 の範囲内である場合に、変形量が十分に小さくなることが予測できる。
【0134】
すなわち、以上のように、本発明に係る光情報記録媒体の一例である媒体8において、第1樹脂層50aの線膨張係数を3.5E−5 〜1.1E−4 の範囲から選択し、作成すれば、温度変化時の中立面の位置を第1薄膜層40aに設定でき、温度変化時の反り変形を小さくできる。
【0135】
また、例えば、線膨張係数の範囲を5.5E−5 〜8.0E−5 より選択すれば、反り角の変化量がより小さい−1.0 〜1.0[mrad] の範囲にあるので、温度変化時の反り角の変化量をより小さくできる。
【0136】
また、表4に示された膜厚および材質から、湿度変化させた場合の反り角の変化量と第1樹脂層の湿度膨張係数との関係も得ることができる。すなわち、上述と同様の手順によって、湿度変化させた場合の図7を得ることができる。図7を参照すると、本発明に係る光情報記録媒体の一例である媒体8において、第1樹脂層の湿度膨張係数を4.3E−5 以下の範囲から選択すれば、湿度変化時の変形量を十分に小さくできることが分かる。
【0137】
以上のように、本発明に係る光情報記録媒体の一例である媒体8は、温度変化または湿度変化によって生じる変形の中立面が、上記各積層組を構成する薄膜層のうち、膜材料のヤング率と膜厚との積が最も大きな薄膜を有する薄膜層である第1薄膜層40aに設定されるように、第1、第2樹脂層50a・70aの物性値が選択されている。本実施例においては、第2樹脂層70aの物性値は固定し、第1樹脂層50aの物性値の好ましい値を選択した。
【0138】
したがって、上記の構成によれば、温度変化や湿度変化などの環境変化による光情報記録媒体の変形量を小さくすることができる。
【0139】
また、本実施例の媒体8は、上記積層組が2組であり、表4に示すように、第1、第2薄膜層40a・60aはいずれも金属よりなる構成である。さらに、媒体8は、第1樹脂層50aの線膨張係数X〔1/℃〕が3.5E−5 ≦X≦1.1E−4 の範囲にあり、かつ、第1樹脂層の湿度膨張係数Y〔1/%〕が0<Y≦4.3E−5 の範囲にある光情報記録媒体である。
【0140】
したがって、上記構成によれば、第1樹脂層50aを形成する樹脂の膨張係数(線膨張係数、湿度膨張係数)が上記の範囲に含まれるので、環境変化時における変形量を小さくして、信頼性を高めることができる。
【0141】
〔実施例2〕
次に、薄膜層中に誘電体を含んでいる構成の光情報記録媒体について説明する。本実施例に係る光情報記録媒体は、薄型基板と2層の薄膜層とを有する、情報の再生および記録が可能な光情報記録媒体(2層RAM)であり、2層の薄膜層の双方に、誘電体を含んでいる。
【0142】
上記のように誘電体を含んでいる構成の場合は、以下の理由で、誘電体の物性値や膜厚が重要となる。
【0143】
誘電体は、他の材料と比較してヤング率が高く、線膨張係数が低いため、他の材料と比較して変形しにくい。このような誘電体のうち、光情報記録媒体に使用される何種かの誘電体においても、材質に依存するヤング率、線膨張係数などの物性値及び好ましい膜厚などは、やはり誘電体ごとに異なるものとなっている。しかし、その差異は、第1、第2樹脂層50a・70aの材料同士や樹脂製の基板20aの材料同士の場合と比べて、非常に小さい。したがって、温度変化時における光情報記録媒体の変形において、誘電体膜の物性値や膜厚が、最も支配的になる。
【0144】
この2層RAMの一例である本実施例の光情報記録媒体(媒体9)は、以下の表5に示す材質および膜厚を備えた構成である。
【0145】
【表5】

【0146】
この構成において、第1樹脂層50a以外の物性値は、通常用いられる物性値として設定されている。
【0147】
したがって、本実施例においては、第1薄膜層40aと第2薄膜層60aとでは、各薄膜層に含まれる薄膜における膜材料のヤング率と膜厚との積のうち、最も大きいものの値が、同じ値となっている。
【0148】
上記構成の媒体9において、物性値として第1樹脂層50aの線膨張係数を選択し、温度変化時における、この物性値の好ましい範囲を以下のように特定する。すなわち、本実施例においても、上述の実施例と同様に、第1、第2樹脂層50a・70aの一方である第1樹脂層50aの物性値の範囲を選択することによって、中立面の位置を最適化する。
【0149】
すなわち、以下で説明するように中立面の位置を第1薄膜層40aと仮定して、その仮定を用いて反り角θの変化量と第1樹脂層50aの線膨張係数との関係を求めることができる。そして、反り角θの変化量を一定の小さい範囲に限定することによって、第1樹脂層50aの線膨張係数の好ましい範囲を限定することができるのである。
【0150】
そして、第1樹脂層50aとして上記の範囲の線膨張係数をもつものを選択することにより、実際に変形の中立面が、膜材料のヤング率と膜厚との積が最も大きい薄膜を有する薄膜層である第1薄膜層40aに設定され、中立面の位置が最適化される。
【0151】
ここで、表5に示す媒体9は、図1に光情報記録媒体10aとして示す構成をもつものである。上述のように、本実施例の媒体9においては、第1薄膜層40aと第2薄膜層60aとでは、各薄膜層に含まれる薄膜における膜材料のヤング率と膜厚との積のうち、最も大きいものの値が、同じ値となっている。
【0152】
一方、上述した光情報記録媒体10aの構成においては、通常は、第2薄膜層60aの半透明膜64aよりも第1薄膜層40aの反射膜44aの方が厚くなっている。そのため、このような通常の場合においては、第1薄膜層40aの方が、第2薄膜層60aよりも変形し難い。
【0153】
そこで、以下では、このような通常の場合に対応させるため、中立面の位置を第1薄膜層40aと仮定して計算を行う。
【0154】
表5に示された膜厚および材質の物性値を用い、さらに、変形の中立面の位置を第1薄膜層40aと仮定して、上述の式(1)〜(5)に代入すると、温度変化させた場合の反り角θの変化量と第1樹脂層50aの線膨張係数との関係を得ることができる。
【0155】
このようにして得られた計算結果として、図8に、一般的なUV樹脂が有するヤング率の範囲(2.0 E+9 〜5.0 E+9[Pa] )において、第1樹脂層50aのヤング率を何通りか変化させた場合の、第1樹脂層50aの線膨張係数と反り角θの変化量、すなわちΔチルトとの関係を示す。
【0156】
ここで、図8においては、Δチルトが−3.0 〜3.0 [mrad]の範囲にあれば、一般に好ましい変化量である−5.0 〜5.0[mrad] の範囲よりも小さいので、変形量が十分に小さいとみなすことができる。したがって、図8より、線膨張係数を7.4E−5 〜1.6E−4 の範囲から選択した場合には、変形量を十分に小さくできることが分かる。
【0157】
すなわち、以上のように、第1樹脂層50aの線膨張係数を7.4E−5 〜1.6E−4 の範囲より選択すれば、本実施例の媒体9において、温度変化時の中立面の位置を第1薄膜層40aに設定できる。したがって、中立面の位置を最適化して、温度変化時の反り変形を小さくできる。
【0158】
なお、上述のように、光情報記録媒体の変形においては、誘電体膜の物性値や膜厚が最も支配的となるので、上述のように得られた結果は、誘電体膜の物性値や膜厚が同じであれば、他の膜、例えば記録膜などの物性値や膜厚が多少変化したとしても、ほぼ変わらない。
【0159】
また、表5に示された膜厚および材質を用いて、湿度変化させた場合の反り角θの変化量と第1樹脂層50aの湿度膨張係数との関係も得ることができる。すなわち、上述の実施例と同様の手順によって、湿度変化させた場合の図9を得ることができる。図9を参照すると、媒体9では、第1樹脂層50aの湿度膨張係数が4.8E−5 以下の時に、変形量が十分に小さくなると予測できる。
【0160】
以上のように、本発明に係る光情報記録媒体の一例である媒体9は、温度変化または湿度変化によって生じる変形の中立面が、上記各積層組を構成する薄膜層のうち、膜材料のヤング率と膜厚との積が最も大きな薄膜を有する薄膜層の一つである第1薄膜層40aに設定されるように、第1、第2樹脂層50a・70aの物性値が選択されている。本実施例においては、第2樹脂層70aの物性値は固定し、第1樹脂層50aの物性値の好ましい値を選択した。
【0161】
したがって、上記の構成によれば、温度変化や湿度変化などの環境変化による光情報記録媒体の変形量を小さくすることができる。
【0162】
また、本実施例の媒体9は、上記積層組が2組であり、表5に示すように、第1、第2薄膜層はいずれも誘電体よりなる構成である。さらに、媒体9は、第1樹脂層の線膨張係数X〔1/℃〕が7.4E−5 ≦X≦1.6E−4 の範囲にあり、かつ、第1の樹脂層の湿度膨張係数Y〔1/%〕が0<Y≦4.8E−5 の範囲にある光情報記録媒体である。
【0163】
したがって、上記構成によれば、第1樹脂層を形成する樹脂の膨張係数(線膨張係数、湿度膨張係数)が上記の範囲に含まれるので、環境変化時における変形量を小さくして、信頼性を高めることができる。
【0164】
〔実施例3〕
つぎに、2層の薄膜層を有し、その薄膜層のいずれか一方にのみ誘電体を含む光情報記録媒体(ROM+RAM)について説明する。
【0165】
このROM+RAMの一例である本実施例の光情報記録媒体(媒体10)は、以下の表6に示す材質および膜厚を備えた構成である。
【0166】
【表6】

【0167】
この構成において、第1樹脂層50a以外の物性値は、通常用いられる物性値として設定されている。
【0168】
本実施例の媒体10は、第1薄膜層40a中には上述した各膜41a〜44aを含んでおり、第2薄膜層60a中には半透明膜64aのみを含んでいる。したがって、本実施例においては、第1薄膜層40aが、膜材料のヤング率と膜厚との積が最大の薄膜層に設定されている。
【0169】
この光情報記録媒体10aの場合は、上述した実施例における、双方の薄膜層に誘電体を含む場合および双方の薄膜層に誘電体を含まない場合と比較して、その中間の特性をもつことが予想される。
【0170】
すなわち、環境変化時における変形の中立面の位置を第1薄膜層40aと仮定すると、変形量が小さくなるような、第1樹脂層50aの線膨張係数および湿度膨張係数の範囲は、前述の2種の光情報記録媒体の場合の範囲に、少なくとも含まれていると予想できる。よって、線膨張係数は3.5E−5 〜1.6E−4 以下の時に変形量が十分小さくなると予想できる。また、湿度膨張係数は4.8E−5 以下の時に変形量が十分に小さくなることが予想できる。
【0171】
これは、上記した、2層ある薄膜層の双方に誘電体が含まれている場合と、双方に誘電体が含まれていない場合とでは、誘電体が含まれている場合の方が、線膨張係数の範囲を決める境界の値が大きいことからも確認できる。
【0172】
したがって、光情報記録媒体10aの一例である媒体10の作成において、第1樹脂層50aの線膨張係数および湿度膨張係数を上述の範囲から選択すれば、変形の中立面の位置を第1薄膜層40aに設定して、温度変化時および湿度変化時における反り変形の小さい光情報記録媒体10aを形成できる。
【0173】
以上のように、本発明に係る光情報記録媒体の一例である媒体10は、温度変化または湿度変化によって生じる変形の中立面が、上記各積層組を構成する薄膜層のうち、膜材料のヤング率と膜厚との積が最も大きな薄膜を有する薄膜層である第1薄膜層40aに設定されるように、第1、第2樹脂層50a・70aの物性値が選択されている。本実施例においては、第2樹脂層70aの物性値は固定し、第1樹脂層50aの物性値の好ましい値を選択した。
【0174】
したがって、上記の構成によれば、温度変化や湿度変化などの環境変化による光情報記録媒体の変形量を小さくすることができる。
【0175】
また、本実施例の媒体10は、上記積層組が2組であり、表6に示すように、各積層組の薄膜層の一方である第1薄膜層40aに誘電体が含まれている構成である。さらに、媒体10は、一方の積層組の樹脂層である第1樹脂層50aの線膨張係数X〔1/℃〕は3.5E−5 ≦X≦1.6E−4 の範囲にあり、かつ、第1樹脂層50aの湿度膨張係数Y〔1/%〕は0<Y≦4.8E−5 の範囲にある光情報記録媒体10aである。
【0176】
したがって、上記構成によれば、第1樹脂層50aを形成する樹脂の膨張係数(線膨張係数、湿度膨張係数)が上記の範囲に含まれるので、環境変化時における変形量を小さくして、信頼性を高めることができる。
【0177】
なお、以上に述べた実施形態および実施例1〜3においては、光情報記録媒体において一般に多く用いられる構成の材料および膜厚について、中立面の位置を決定し、反り角の変化量を少なくするような物性値の範囲を決定できることを示したが、本発明はこれに限られるものではない。たとえば、あまり光情報記録媒体に用いられない材料の場合であっても、上述と同様に中立面の位置を決定し、反り角の変化量を少なくするような物性値の範囲を決定できるので、上述と同様の効果を得ることができる。
【0178】
また、以上に述べた実施形態および実施例1〜3においては、薄膜層を2つ備えた光情報記録媒体についてのみ説明したが、本発明はこれに限るものではない。例えば、図10に示す光情報記録媒体10bのように、3以上の整数をnとして、薄膜層をn層備えている構成でもよい。
【0179】
光情報記録媒体10bは、基板20b上に、第1薄膜層40b、第1樹脂層50b、第2薄膜層60b、第2樹脂層70bに加えて、以下、n番目の積層組の第n薄膜層100bおよび第n樹脂層110bまでを、順に備えている。
【0180】
各薄膜層の構成は、図1に示す光情報記録媒体10aと同様の構成となっている。
【0181】
すなわち、例えば、第1薄膜層40bに含まれる誘電体膜41b、記録膜42b、誘電体膜43b、反射膜44bは、図1に示す光情報記録媒体10aの第1薄膜層40aに含まれる誘電体膜41a、記録膜42a、誘電体膜43a、反射膜44aとそれぞれ同様の構成である。
【0182】
また、第2薄膜層60bないし第n薄膜層100bの各薄膜層に含まれる、各膜61b〜64bまたは各膜101b〜104bなどの構成は、図1に示す光情報記録媒体10aの第2薄膜層60aに含まれる各膜61a〜64aと同様である。
【0183】
また、上述の実施形態の光情報記録媒体10aは、図1で示すように、薄膜層が4層の薄膜よりなる構成としているが、これは薄膜数が多い場合の一般的な構造を表示しているのであって、本発明はこれに限られるものではない。例えば、半透明膜や反射膜等のみの単層の薄膜層や、より複雑な積層構造を持つ薄膜層を有する光情報記録媒体であってもよい。
【0184】
なお、上述の実施形態および実施例1〜3においては、各樹脂層が単層である場合のみを説明したが、本発明はこれに限るものではなく、多層の樹脂層であってもよい。例えば、ポリカーボネートフィルムを貼り付けるための接着剤等がそのフィルム上にある場合のように、2層の樹脂層であってもよい。また、異種のUV硬化樹脂が積層されている場合のように、多層樹脂層であってもよい。
【0185】
また、上記図1に示した構成においては、反射膜44aおよび半透明膜64aの配置から分かるように、情報読み取りの際の光入射面は、基板側20aでなく、基板より最も離れた第2樹脂層70a表面となっている。上記の図10の構成においても、同様に、基板20bから離れた第n樹脂層110bが光入射面となる。この構成においては、光入射面となる、第2樹脂層70aの膜厚、または、第n樹脂層110bの膜厚には、非常に高い均一性が要求される。
【0186】
しかし、本発明に係る光情報記録媒体は、このような均一性を不要とするような積層順の構成をもつ光情報記録媒体であってもよい。すなわち、図11に示すように、薄膜層をn層有する光情報記録媒体10cのような構成であってもよい。
【0187】
上記の図11の構成においては、光入射面である基板20c表面は、均一性が高い圧縮成型がされる。また、薄膜層と樹脂層とからなる積層組の積層順は、図10と同様になっている。一方、および薄膜層内の記録膜の構成、すなわち薄膜層内の積層順は、上記の図10と比べて逆になっており、かつ一部が変更されている。
【0188】
この変更箇所として、反射膜44bと半透明膜104bとが入れ替えられ、それぞれ半透明膜104cと反射膜44cとになっている。なお、各薄膜層に含まれる、上記以外の膜、例えば、41c〜43c、61c〜64c、101c〜103cは、図10に示す光情報記録媒体10bの薄膜相中に含まれる、41b〜43b、61b〜64b、101b〜103bと同様である。
【0189】
そして、基板20c表面よりレーザ光が入射し、薄膜層の内のひとつに焦点を結び、信号の再生又は記録を行うようになっている。
【0190】
この構造の光情報記録媒体10cでは、第n樹脂層110cの膜厚に高い均一性は必要ない。そのため、スピンコート等によって、基板20cより最も離れた樹脂層である、 1〜30μmの第4樹脂層110cを形成することが可能となる。
【0191】
言い換えると、前述の光情報記録媒体10b,10cのどちらにおいても、第1樹脂層、第2樹脂層、および第3樹脂層には、基板同様に高い均一性が必要とされる。しかし、上記図11に示す光情報記録媒体10cの構成によれば、第4樹脂層の均一性は不要となり、第4樹脂層の構成は自由に選択をすることが可能となる。
【0192】
また、例えば図14に示す従来の光情報記録媒体10において、周辺湿度が上昇したときには、光情報記録媒体10は図15(b)に示されるような角度θの−方向の反り(基板20側への反り)を示す。このような反り変形をより確実に防止するために、各積層組の樹脂層の湿度膨張係数よりも大きな湿度膨張係数とを有する材料を用いて、各積層組が形成されている基板の面の裏面に、基板保護膜を形成する構成も好ましい。
【0193】
すなわち、本発明に係る光情報記録媒体は、図10に示す構成の光情報記録媒体10bにさらに基板保護膜30dを形成した、図12に示す光情報記録媒体10dのような構成であってもよい。
【0194】
この光情報記録媒体10dの構成においては、基板保護膜30d以外の基板20dおよび各膜40d〜110dは、図10に示す光情報記録媒体10bの基板20bおよび各膜40b〜110bと同様の構成である。
【0195】
この構成によれば、周辺湿度上昇時には、基板保護膜30dが、各積層組の樹脂層よりも膨張して上述のような反り変形を打ち消すので、湿度変化時における反り変形をより確実に防止できる。
【0196】
また、図12に示す光情報記録媒体10dの基板保護膜30dは、上記構成において、さらに、基板の線膨張係数と同等かあるいは小さな線膨張係数を有するものであってもよい。
【0197】
ここで、例えば図14に示す従来の光情報記録媒体10において、周辺温度が上昇したときには、光情報記録媒体10は図15(a)に示されるような角度θの+方向の反り(第2樹脂層70側への反り)を示す。
【0198】
一方、上述の構成によれば、例えば、線膨張係数が基板20dと同程度の場合には、温度変化時における上記基板保護膜30dによる効果は、基板20dの厚みの誤差程度にしか過ぎなくなる。一方、基板保護膜30dの線膨張係数が小さければ、上記基板保護膜30dは基板20dの膨張を抑制する。よって、温度変化時( 温度上昇時) における、光情報記録媒体10dの変形を抑制できる。
【0199】
また、基板保護膜30dは、スピンコート等の塗布によって形成する構成であってもよい。この構成によれば、安価に形成できるので有利である。
【0200】
また、本発明に係る光情報記録媒体は、基板より最も遠い樹脂層表面が光入射面である場合には、各樹脂膜の層は、405nm 近辺の短波長領域において、80%以上の透過率を有する透明樹脂で形成されている構成であってもよい。
【0201】
ここで、405nm 近辺の短波長領域とは、青色レーザ等の短波長レーザの波長領域を意味する。この構成によれば、各樹脂層の短波長領域における透過率が高いことにより、青色レーザ等の短波長レーザが信号の記録再生時に使用可能となり、より高密度記録が可能となる。
【0202】
また、本発明に係る光情報記録媒体は、基板表面が光入射面である場合には、基板より最も離れた樹脂層を除く各樹脂膜の層および基板は、405nm 近辺の短波長領域において、80%以上の透過率を有する透明樹脂で形成されている構成であってもよい。
【0203】
この構成によれば、基板より最も離れた樹脂層を除く各樹脂膜の層および基板の短波長領域における透過率が高いことにより、青色レーザ等の短波長レーザが信号の記録再生時に使用可能となり、さらなる高密度記録が可能となる。
【0204】
また、上記した本発明に係る光情報記録媒体は、以下のような形態であってもよい。すなわち、上記した図10と同様の断面形状をもち、基板20b、第1薄膜層40b、第1樹脂層50b、第2薄膜層60b、第2樹脂層70bに加えて、以下3以上の整数をnとしてn番目の積層組の第n薄膜層100bおよび第n樹脂層110bまでを、順に備えている構成であってもよい。
【0205】
上記構成において、情報読み取り時には、第n樹脂層110b下面よりレーザを照射し、各薄膜層に焦点を合わせて信号読み取りを行う。また、104b、64bなどで示される薄膜は半透明膜である。各樹脂層は、レーザ光が透過するようになっている。また、さらに、基板20b上に、薄膜層とは反対の面に、基板保護膜を備えた構成であってもよい。また、上記構成における第4樹脂層の膜厚は、0.1 mmないし20μmが好ましい。
【0206】
さらにまた、上記した本発明に係る光情報記録媒体は、以下のような形態であってもよい。すなわち、上記した図10と同様の断面形状をもち、第n樹脂層110bが基板20bと同じ材質であるポリカーボネートフィルムよりなる構成であってもよい。情報読み取り時には、第n樹脂層110b下面よりレーザを照射し、各薄膜層に焦点を合わせて信号読み取りを行う。各樹脂層は、レーザ光が透過するようになっている。この構成の場合には、線膨張係数や湿度膨張係数を変化させて基板20bとの応力バランスをとるための樹脂層は、第n樹脂層110b以外のものを選択する必要がある。
【0207】
さらにまた、上記した本発明に係る光情報記録媒体は、以下のような形態であってもよい。すなわち、上記した図10と同様の断面形状をもち、第n樹脂層以外の樹脂層が、ポリカーボネートフィルムよりなる構成であってもよい。
【0208】
また、上記した本発明に係る光情報記録媒体は、以下のような構成であってもよい。すなわち、本発明に係る光情報記録媒体は、図11に示すような断面形状をもち、基板20c、第1薄膜層40c、第1樹脂層50c、第2薄膜層60c、第2樹脂層70cに加えて、以下3以上の整数をnとしてn番目の積層組の第n薄膜層100cおよび第n樹脂層110cまでを、順に備えている構成であってもよい。
【0209】
上記構成において、情報読み取り時には、光情報記録媒体10cの基板20c上面よりレーザ光を照射し、各薄膜層に焦点を合わせて信号読み取りを行う。また、104c、64cなどで示される薄膜は半透明膜であり、44cで示される薄膜が反射膜である。また、各樹脂層はUV硬化樹脂によって形成され、110cで示される第4樹脂層以外はレーザ光が通過する必要がある。また、上記構成に加えて、基板20cに対して薄膜層とは反対の側に、基板保護膜を備えた構成であってもよい。この場合の基板保護膜は透明である必要がある。また、上記構成における各樹脂層の厚みは20μm程度が好ましい。
【0210】
なお、上述の説明においては、中立面の位置を仮定して、選択を行うパラメータとして、物性値および膜厚のうち、線膨張係数を選択した場合について説明したが、本発明はこれに限るものではない。例えば膜厚を選択する構成であってもよい。しかし、現実の光情報記録媒体においては、例えば樹脂層の膜厚を自由に設定することはあまり現実的ではない。例えば、樹脂層の厚みとして20μm以内とする光情報記録媒体の規格もある。このため、例えば上記のように線膨張係数を選択して再設定することができれば、光情報記録媒体の製作において便利である。
【0211】
なお、本発明に係る光情報記録媒体は、以下のように表現することもできる。すなわち、本発明に係る光情報記録媒体は、基板上に、薄膜からなる記録膜、反射膜、または半透明膜を少なくとも一つ含む薄膜層と、該薄膜層上に形成された樹脂層とで構成される積層組が2組以上積層され、樹脂層に発生する応力を増加させて、応力の総和である樹脂層の軸力を大きくし、基板の軸力と均衡させることにより、変形の中立面が薄膜層内に設定されるように、樹脂層の線膨張係数またはヤング率などの物性値を、基板の該物性値よりも大きくしたことを特徴とする光情報記録媒体でもある。
【0212】
また、本発明の実施形態における2層以上の薄膜層(情報の記録又は再生層)を持ちうる光情報記録媒体としては、CD(Compact disk),CD-ROM(Compact disk-Read Only Memory) ,CD-R(Compact disk-Recordable) ,CD-RW(Compact disk ReWritable) ,DVD(Digital Video Disc, Digital Versatile Disc) ,DVD-ROM,DVD-R ,DVD-RW等の円盤状の光情報記録媒体が挙げられるものの、本発明の形態はこれらに限られるものではない。
【0213】
また、本発明は上述した具体例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる構成の具体例としてそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0214】
なお、本発明は、以下のようにも表現することができる。
【0215】
すなわち、本発明に係る光情報記録媒体は、基板上に、薄膜からなる記録膜、反射膜、または半透明膜を少なくとも一つ含む薄膜層と、該薄膜層上に形成された樹脂層とで構成される積層組が少なくとも2組以上積層され、温度変化または湿度変化によって生じる変形の中立面が、上記各積層組を構成する薄膜層のうち、膜材料のヤング率と膜厚との積が最も大きな薄膜を有する薄膜層に設定されていることを特徴としている。
【0216】
上記構成において、中立面とは、光情報記録媒体の各層において発生する曲げモーメントの総和と、その中立面にかかる各層の軸力による曲げモーメントの総和との合計が0となる面を意味する。
【0217】
また、上記構成において、一般に薄膜層は非常に薄いため、中立面だけでなく、中立面が設定された薄膜層全体において、各層において発生する曲げモーメントの総和と、その中立面にかかる各層の軸力による曲げモーメントの総和との合計は、ほぼ0となっている。
【0218】
ここで、一般に、膜材料のヤング率が大きい薄膜は、変形し難い薄膜である。すなわち、膜材料のヤング率が大きい薄膜に外力を加えた場合は、他の薄膜に対して同じ外力を加えた場合と比べて、変形量が小さくなる。また、膜材料のヤング率が同じであれば、膜厚が大きい薄膜の方が、変形し難い薄膜である。したがって、2組以上の積層組にそれぞれ含まれた薄膜層を構成する薄膜のうち、膜材料のヤング率と膜厚との積が最も大きな薄膜は、環境変化による変形においても、最も変形し難い薄膜である。
【0219】
上記構成のように、この最も変形し難い薄膜を有する薄膜層中に、環境変化時における変形の中立面を設定すれば、以下の発明の実施の形態において示すように、環境変化時における変形を従来より抑制できる。すなわち、温度変化または湿度変化のような環境変化の際に光情報記録媒体に生じる変形の中立面を、他の層と比較して変形し難い薄膜層である、ヤング率と膜厚との積がより大きな薄膜層に設定すれば、中立面自体の変形量がより小さくなるため、光情報記録媒体全体としての変形量を小さくできる。
【0220】
したがって、例えば薄膜層が2層の構成であっても、より変形が小さくなる薄膜層に中立面を設定して、変形を小さくできる光情報記録媒体の構造を選択できる。すなわち、例えば薄膜層が2層の光情報記録媒体において、環境変化に影響されず、変形量を小さくして、記録再生動作の信頼性を高めた光情報記録媒体を提供できる。
【0221】
また、上記の構成によれば、基板の片側に薄膜層および樹脂層が設けられるので、光情報記録媒体を製造する際には基板上に順に薄膜層および樹脂層を形成すればよい。したがって、基板保護のための層を、基板に対して薄膜層とは反対の側に形成する必要がない。よって、製造工程を複雑化させず、製造コストを削減できる。
【0222】
すなわち、上記の構成によれば、温度変化時または湿度変化時における光情報記録媒体の変形量を小さくして、再生動作の信頼性を高めることができるだけでなく、さらに、光情報記録媒体の製造コストを削減できる。
【0223】
なお、上記薄膜層は、誘電体膜、記録膜、反射膜、半透明膜などの薄膜よりなる単層または多層の薄膜層である。
【0224】
また、上記の構成において、各々の樹脂層は単層でも多層であってもかまわない。
【0225】
本発明に係る光情報記録媒体は、基板上に、薄膜からなる記録膜、反射膜、または半透明膜を少なくとも一つ含む薄膜層と、該薄膜層上に形成された樹脂層とで構成される積層組が少なくとも2組以上積層され、温度変化または湿度変化によって生じる変形の中立面が、上記各積層組を構成する薄膜層のうち、膜材料のヤング率と膜厚との積が最も大きな薄膜を有する薄膜層に設定されるように、上記樹脂層の物性値または膜厚の少なくとも一方を設定したことを特徴としている。
【0226】
ここで、通常は、光情報記録媒体の基板と記録膜との材料および膜厚は、一定の記録特性が見込まれる所定の物性値を有する材料および膜厚から、使用目的に応じて決まった材料および膜厚を選択して用いられる。
【0227】
このように決定された基板と記録膜との材料および膜厚に対して、上記構成のように、記録特性とは無関係の樹脂層の物性値および膜厚を設定すれば、簡単な構成で、環境変化時における反り変化量の少ない光情報記録媒体を得ることができる。
【0228】
すなわち、環境変化時における変形の中立面が、上記各積層組を構成する薄膜層のうち、膜材料のヤング率と膜厚との積が最も大きな薄膜を有する薄膜層に設定されるように、樹脂層の物性値または膜厚を設定すれば、簡単な構成で、環境変化時における反り変化量の少ない光情報記録媒体を得ることができる。
【0229】
なお、物性値または膜厚をどの樹脂層に対して設定するかは任意であり、樹脂層の何れか1つ以上を適宜選択すればよい。ただし、どの樹脂層にどのような値の物性値または膜厚を割り当てるかは、樹脂層の選択の仕方に応じて変化する。
【0230】
本発明に係る光情報記録媒体は、上記構成において、上記積層組が2組であり、各積層組の薄膜層にそれぞれ誘電体が含まれている場合に、一方の積層組の樹脂層において、線膨張係数X〔1/℃〕が7.4E−5 ≦X≦1.6E−4 の範囲にあることと、湿度膨張係数Y〔1/%〕が0<Y≦4.8E−5の範囲にあることとの少なくとも一方を満たすことを特徴としている。
【0231】
ここで、湿度膨張係数とは、温度一定(25 ℃) 時に、対象物周辺の相対湿度が上昇した場合の単位長あたりの伸び量を、1 %あたりの湿度膨張率に換算したものであり、線膨張係数の算出法と同様に算出されるものである。
【0232】
上記構成によれば、一方の積層組の樹脂層を形成する樹脂の物性値として、膨張係数(線膨張係数、湿度膨張係数)を上記の範囲に限定するので、以下の発明の実施の形態において説明するように、環境変化時における変形量を小さくして、信頼性を高めることができる。具体的には、環境変化時における反り変化量を例えば−3.0 〜3.0[mrad] の範囲にでき、一般に好ましい変化量である−5.0 〜5.0[mrad] の範囲よりも小さくできる。
【0233】
すなわち、線膨張係数を上記の範囲に限定すれば、環境変化として温度が変化した場合に反り変形を小さくできる。また、湿度膨張係数を上記の範囲に限定すれば、環境変化として湿度が変化した場合に、反り変形を小さくできる。さらに、線膨張係数を上記の範囲に限定するとともに、湿度膨張係数を上記の範囲に限定すれば、環境変化によって温度および湿度が変化した場合に反り変形を小さくできる。
【0234】
なお、上記構成において、誘電体が含まれていると規定するのは、以下の理由による。すなわち、誘電体は、薄膜に用いる他の材料と比較してヤング率が高く、線膨張係数が低いため、他の層と比較して変形しにくい。このため、温度変化時における光情報記録媒体の変形において、誘電体膜の物性値や膜厚が、最も支配的になる。また、ここで誘電体のうち、光情報記録媒体に使用される何種かの誘電体においても、材質に依存するヤング率、線膨張係数などの物性値及び好ましい膜厚などは、やはり誘電体ごとに異なるものとなっている。しかし、その差異は、第1,2樹脂層の材質同士や樹脂製基板の材質同士の場合と比べて、非常に小さい。このため、具体的な物質を特定せず、誘電体と規定している。
【0235】
また、上記構成において、一方の樹脂層の物性値のみを設定すればよい、言い換えると、基板に近い第1の樹脂層の物性値を設定してもよいし、または基板から遠い第2の樹脂層の物性値を設定してもよいのは、以下のような理由による。すなわち、以下の実施の形態において説明するように、第1の樹脂層と第2の樹脂層との構成を交換したとしても、軸力は双方変わらず、中立面からの距離の差も非常に小さい。このため、構成を交換したとしても、その構成による効果はほとんど変わらないと推測できるからである。
【0236】
なお、上記構成において、例えば7.4E−5 として示す表記のE-5 は、10の-5乗を意味する。
【0237】
本発明に係る光情報記録媒体は、上記構成において、上記積層組が2組であり、各積層組の薄膜層がいずれも誘電体を含まない場合に、一方の積層組の樹脂層において、線膨張係数X〔1/℃〕が3.5E−5 ≦X≦1.1E−4 の範囲にあることと、湿度膨張係数Y〔1/%〕が0<Y≦4.3E−5 の範囲にあることとの少なくとも一方を満たすことを特徴としている。
【0238】
上記構成において、各積層組の薄膜層は何れも誘電体を含まない。したがって、各積層組の薄膜層は、例えば金属や色素などより成る。
【0239】
上記構成によれば、一方の積層組の樹脂層を形成する樹脂の物性値として、膨張係数(線膨張係数、湿度膨張係数)を上記の範囲に限定するので、以下の発明の実施の形態において説明するように、環境変化時における変形量を小さくして、信頼性を高めることができる。具体的には、環境変化時における反り変化量を例えば−3.0 〜3.0[mrad] の範囲にでき、一般に好ましい変化量である−5.0 〜5.0[mrad] の範囲よりも小さくできる。
【0240】
すなわち、線膨張係数を上記の範囲に限定すれば、環境変化として温度が変化した場合に反り変形を小さくできる。また、湿度膨張係数を上記の範囲に限定すれば、環境変化として湿度が変化した場合に、反り変形を小さくできる。さらに、線膨張係数を上記の範囲に限定するとともに、湿度膨張係数を上記の範囲に限定すれば、環境変化によって温度および湿度が変化した場合に反り変形を小さくできる。
【0241】
本発明に係る光情報記録媒体は、上記構成において、上記積層組が2組であり、各積層組の薄膜層のいずれか一方に誘電体が含まれている場合に、一方の積層組の樹脂層において、線膨張係数X〔1/℃〕が3.5E−5 ≦X≦1.6E−4 の範囲にあることと、湿度膨張係数Y〔1/%〕が0<Y≦4.8E−5 の範囲にあることとの少なくとも一方を満たすことを特徴としている。
【0242】
上記構成によれば、一方の積層組の樹脂層を形成する樹脂の物性値として、膨張係数(線膨張係数、湿度膨張係数)を上記の範囲に限定するので、以下の発明の実施の形態において説明するように、環境変化時における変形量を小さくして、信頼性を高めることができる。具体的には、環境変化時における反り変化量を例えば−3.0 〜3.0[mrad] の範囲にでき、一般に好ましい変化量である−5.0 〜5.0[mrad] の範囲よりも小さくできる。
【0243】
すなわち、線膨張係数を上記の範囲に限定すれば、環境変化として温度が変化した場合に反り変形を小さくできる。また、湿度膨張係数を上記の範囲に限定すれば、環境変化として湿度が変化した場合に、反り変形を小さくできる。さらに、線膨張係数を上記の範囲に限定するとともに、湿度膨張係数を上記の範囲に限定すれば、環境変化によって温度および湿度が変化した場合に反り変形を小さくできる。
【0244】
なお、上記構成における線膨張係数および湿度膨張係数の範囲は、以下のように決定したものである。すなわち、誘電体はヤング率が非常に高いため、基板および樹脂層への拘束力が強い。このため、光情報記録媒体の薄膜層が誘電体を含む場合には、基板に発生する応力とのバランスをとるために樹脂層の線膨張係数などを大きくしなければならない。例えば、上記した、2層ある薄膜層の双方に誘電体が含まれている場合と、双方に誘電体が含まれていない場合とでは、誘電体が含まれている場合の方が、線膨張係数の範囲を決める境界の値が大きい。以上のことより、一方の薄膜層に誘電体が含まれている場合には、双方に誘電体が含まれている場合と双方に誘電体が含まれていない場合との両方を含んでいるような範囲内に存在することが分かる。
【0245】
本発明に係る光情報記録媒体は、上記構成において、基板より最も離れた位置に形成された樹脂層は、スピンコートにて塗布可能な樹脂により形成されていることを特徴としている。
【0246】
上記構成によれば、スピンコートにより樹脂層を形成するので、ポリカーボネート製フィルムを貼り合せる等の工程により樹脂層を形成する場合と比較して、生産コストが掛らなくなり、より安価な光情報記録媒体の生産が可能となる。
【0247】
なお、上記構成の光情報記録媒体においては、情報読み取りの際の光入射面は、基板表面であっても上記のスピンコートによって形成される樹脂層の表面であってもよい。しかし、上記のスピンコートによって形成される樹脂層の膜厚の均一性が十分には高くない場合には、情報読み取りの際の光入射面を基板表面とすることが望ましい。
【0248】
本発明に係る光情報記録媒体は、上記構成において、基板に対して同等もしくはより小さな線膨張係数と各樹脂層より大きな湿度膨張係数とを有する樹脂を用いて、各積層組が形成されている基板の面の裏面に、基板保護膜が形成されていることを特徴としている。
【0249】
上記構成によれば、温度変化時と湿度変化時とにおける変形量を小さくすることが容易となり、簡単な構成で信頼性を高めることができる。
【0250】
すなわち、上記構成によれば、温度上昇時には上記基板保護膜は基板の膨張を抑制するので、上述したような温度変化時における光情報記録媒体の反り変形をより確実に防止できる。
【0251】
また、上記構成によれば、周辺湿度上昇時には、基板保護膜が各積層組の樹脂層よりも膨張して、上述のような湿度変化時における光情報記録媒体の反り変形を打ち消すので、湿度変化時における反り変形をより確実に防止できる。
【0252】
なお、上記構成において、光情報記録媒体の読み取りの際の光の入射方向が、基板より最も離れた位置に形成された樹脂層側でなく、基板保護膜側の場合には、上記基板保護膜は透明である必要がある。
【0253】
本発明に係る光情報記録媒体は、上記構成において、各樹脂層は、405nm 近辺の短波長領域において80%以上の透過率を有する透明樹脂で形成されていることを特徴としている。
【0254】
ここで、405nm 近辺の短波長領域とは、青色レーザ等の短波長レーザの波長領域を意味する。
【0255】
上記構成によれば、各樹脂層の短波長領域における透過率が高いことにより、基板より最も離れた位置に形成された樹脂層を光入射面として、青色レーザ等の短波長レーザを信号の記録再生に用いることができ、より高密度記録が可能となる。
【0256】
本発明に係る光情報記録媒体は、上記構成において、基板より最も離れた位置に形成された樹脂層を除く各樹脂層及び基板が、405nm 近辺の短波長領域において80%以上の透過率を有する透明樹脂で形成されていることを特徴としている。
【0257】
ここで、405nm 近辺の短波長領域とは、青色レーザ等の短波長レーザの波長領域を意味する。
【0258】
上記構成によれば、基板より最も離れた位置に形成された樹脂層を除く各樹脂層及び基板の短波長領域における透過率が高いことにより、基板面を光入射面として、青色レーザ等の短波長レーザを信号の記録再生に用いることができ、さらなる高密度記録ができる。
【0259】
本発明に係る光情報記録媒体は、以上のように、基板上に、薄膜からなる記録膜、反射膜、または半透明膜を少なくとも一つ含む薄膜層と、該薄膜層上に形成された樹脂層とで構成される積層組が少なくとも2組以上積層され、温度変化または湿度変化によって生じる変形の中立面が、上記各積層組を構成する薄膜層のうち、膜材料のヤング率と膜厚との積が最も大きな薄膜を有する薄膜層に設定されている構成である。
【0260】
それゆえ、上述のように、温度変化または湿度変化のような環境変化の際に光情報記録媒体に生じる変形の中立面を、他の層と比較して変形し難い薄膜層である、ヤング率と膜厚との積がより大きな薄膜層に設定すれば、中立面自体の変形量がより小さくなるため、光情報記録媒体全体としての変形量を小さくできるという効果を奏する。また、複数の薄膜層を有する構成であっても、より変形が小さくなる薄膜層に中立面を設定して、変形を小さくできる光情報記録媒体を実現できるという効果を奏する。
【0261】
本発明に係る光情報記録媒体は、以上のように、基板上に、薄膜からなる記録膜、反射膜、または半透明膜を少なくとも一つ含む薄膜層と、該薄膜層上に形成された樹脂層とで構成される積層組が少なくとも2組以上積層され、温度変化または湿度変化によって生じる変形の中立面が、上記各積層組を構成する薄膜層のうち、膜材料のヤング率と膜厚との積が最も大きな薄膜を有する薄膜層に設定されるように、上記樹脂層の物性値または膜厚の少なくとも一方を設定した構成である。
【0262】
それゆえ、記録特性とは無関係の樹脂層の物性値および膜厚を設定して、簡単な構成で、環境変化時における反り変化量の少ない光情報記録媒体を得ることができるという効果を奏する。
【0263】
本発明に係る光情報記録媒体は、以上のように、上記構成において、上記積層組が2組であり、各積層組の薄膜層にそれぞれ誘電体が含まれている場合に、一方の積層組の樹脂層において、線膨張係数X〔1/℃〕が7.4E−5 ≦X≦1.6E−4の範囲にあることと、湿度膨張係数Y〔1/%〕が0<Y≦4.8E−5 の範囲にあることとの少なくとも一方を満たす構成が望ましい。
【0264】
それゆえ、一方の積層組の樹脂層を形成する樹脂の膨張係数(線膨張係数、湿度膨張係数)を上記の範囲に限定するので、上述のように、環境変化時における変形量を小さくして、信頼性を高めることができるという効果を奏する。
【0265】
本発明に係る光情報記録媒体は、以上のように、上記構成において、上記積層組が2組であり、各積層組の薄膜層がいずれも誘電体を含まない場合に、一方の積層組の樹脂層において、線膨張係数X〔1/℃〕が3.5E−5 ≦X≦1.1E−4 の範囲にあることと、湿度膨張係数Y〔1/%〕が0<Y≦4.3E−5 の範囲にあることとの少なくとも一方を満たす構成が望ましい。
【0266】
それゆえ、一方の積層組の樹脂層を形成する樹脂の膨張係数を上記の範囲に限定するので、上述のように、環境変化時における変形量を小さくして、信頼性を高めることができるという効果を奏する。
【0267】
本発明に係る光情報記録媒体は、以上のように、上記構成において、上記積層組が2組であり、各積層組の薄膜層のいずれか一方に誘電体が含まれている場合に、一方の積層組の樹脂層において、線膨張係数X〔1/℃〕が3.5E−5 ≦X≦1.6E−4 の範囲にあることと、湿度膨張係数Y〔1/%〕が0<Y≦4.8E−5 の範囲にあることとの少なくとも一方を満たす構成が望ましい。
【0268】
それゆえ、一方の積層組の樹脂層を形成する樹脂の膨張係数を上記の範囲に限定するので、上述のように、環境変化時における変形量を小さくして、信頼性を高めることができるという効果を奏する。
【0269】
本発明に係る光情報記録媒体は、以上のように、上記構成において、基板より最も離れた位置に形成された樹脂層は、スピンコートにて塗布可能な樹脂により形成されている構成であってもよい。
【0270】
それゆえ、スピンコートにより樹脂層を形成するので、ポリカーボネート製フィルムを貼り合せる等の工程により樹脂層を形成する場合と比較して、生産コストが掛らなくなり、より安価な光情報記録媒体の生産が可能となるという効果を奏する。
【0271】
本発明に係る光情報記録媒体は、以上のように、上記構成において、基板に対して同等もしくはより小さな線膨張係数と各樹脂層より大きな湿度膨張係数とを有する樹脂を用いて、各積層組が形成されている基板の面の裏面に、基板保護膜が形成されている構成であってもよい。
【0272】
それゆえ、温度変化時と湿度変化時とにおける変形量を小さくすることが容易となり、簡単な構成で信頼性を高めることができるという効果を奏する。
【0273】
本発明に係る光情報記録媒体は、以上のように、上記構成において、各樹脂層は、405nm 近辺の短波長領域において80%以上の透過率を有する透明樹脂で形成されている構成であってもよい。
【0274】
それゆえ、基板より最も離れた位置に形成された樹脂層を光入射面として、青色レーザ等の短波長レーザを信号の記録再生に用いることができ、より高密度記録が可能となるという効果を奏する。
【0275】
本発明に係る光情報記録媒体は、以上のように、上記構成において、基板より最も離れた位置に形成された樹脂層を除く各樹脂層及び基板が、405nm 近辺の短波長領域において80%以上の透過率を有する透明樹脂で形成されている構成であってもよい。
【0276】
それゆえ、基板面を光入射面として、青色レーザ等の短波長レーザを信号の記録再生に用いることができ、さらなる高密度記録ができるという効果を奏する。
【産業上の利用可能性】
【0277】
本発明は、情報を記録又は再生する光情報記録媒体、特に、環境変化による反りを抑制する機能を有する光情報記録媒体に好適なものである。
【符号の説明】
【0278】
10a,10b,10c,10d 光情報記録媒体
20a,20b,20c,20d 基板
30d 基板保護膜
40a,40b,40c,40d 第1薄膜層(薄膜層)
42a,42b,42c,42d 記録膜
44a,44b,44c,44d 反射膜
50a,50b,50c,50d 第1樹脂層(樹脂層)
60a,60b,60c,60d 第2薄膜層(薄膜層)
62a,62b,62c,62d 記録膜
64a,64b,64c,64d 半透明膜
70a,70b,70c,70d 第2樹脂層(樹脂層)
100b,100c,100d 第n薄膜層(薄膜層)
102b,102c,102d 記録膜
104b,104c,104d 半透明膜
110b,110c,110d 第n樹脂層(樹脂層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、薄膜からなる記録膜、反射膜、または半透明膜を少なくとも一つ含む薄膜層と、該薄膜層上に形成された透光層とで構成される積層組が少なくとも2組以上積層された光情報記録媒体の製造法であって、
所定の温度変化または所定の湿度変化によって生じる反り変化量が所定の値以下となるように上記透光層のうちのいずれかの線膨張係数及び/または湿度膨張係数が限定されていることを特徴とする光情報記録媒体の製造方法。
【請求項2】
上記所定の温度変化が23℃から50℃への変化であって、上記所定の反り変化量が−5.0〜5.0mradの範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の光情報記録媒体の製造方法。
【請求項3】
上記所定の湿度変化が25℃の温度下における50%から90%への変化であって、上記所定の反り変化量が−5.0〜5.0mradの範囲内であることを特徴とする請求項1または2に記載の光情報記録媒体の製造方法。
【請求項4】
基板上に、薄膜からなる記録膜、反射膜、または半透明膜を少なくとも一つ含む薄膜層と、該薄膜層上に形成された透光層とで構成される積層組が少なくとも2組以上積層された光情報記録媒体であって、
所定の温度変化または所定の湿度変化によって生じる反り変化量が所定の値以下となるように上記透光層のうちのいずれかの線膨張係数及び/又は湿度膨張係数が限定されていることを特徴とする光情報記録媒体。
【請求項5】
上記所定の温度変化が23℃から50℃への変化であって、上記所定の反り変化量が−5.0〜5.0mradの範囲内であることを特徴とする請求項4に記載の光情報記録媒体。
【請求項6】
上記所定の湿度変化が25℃の温度下における50%から90%への変化であって、上記所定の反り変化量が−5.0〜5.0mradの範囲内であることを特徴とする請求項4または5に記載の光情報記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2009−277346(P2009−277346A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−173433(P2009−173433)
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【分割の表示】特願2002−35993(P2002−35993)の分割
【原出願日】平成14年2月13日(2002.2.13)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】