説明

光拡散素子および光拡散素子付偏光板の製造方法、ならびに、これらの方法で得られた光拡散素子および光拡散素子付偏光板

【課題】強い光拡散性を有し、後方散乱が抑制された非常に薄い光拡散素子を、低コストで、かつ、非常に高い生産性で製造することができる方法を提供すること。
【解決手段】本発明の光拡散素子の製造方法は、樹脂成分のモノマーおよび超微粒子成分を含むマトリクス形成材料と光拡散性微粒子と該モノマーを溶解する溶剤とを混合する工程と、該モノマーを重合する工程とを含み、該モノマーを該溶剤に溶解した溶液中の該光拡散性微粒子のゼータ電位が、該モノマーを該溶剤に溶解した溶液中の該超微粒子成分のゼータ電位と同符号である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光拡散素子および光拡散素子付偏光板の製造方法、ならびに、これらの方法で得られた光拡散素子および光拡散素子付偏光板に関する。
【背景技術】
【0002】
光拡散素子は、照明カバー、プロジェクションテレビのスクリーン、面発光装置(例えば、液晶表示装置)などに広く利用されている。近年では、光拡散素子は、液晶表示装置などの表示品位の向上、視野角特性の改善等への利用が進んでいる。光拡散素子としては、微粒子を樹脂シートなどのマトリクス中に分散させたものなどが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このような光拡散素子においては、入射した光の大部分は前方(出射面側)に散乱するが、一部は後方(入射面側)に散乱する。微粒子とマトリクスとの屈折率差が大きいほど拡散性(例えば、ヘイズ値)は大きくなるが、屈折率差が大きいと後方散乱が増大してしまう。より具体的には、例えば液晶表示装置の表示品位向上のために光拡散素子を液晶表示装置の最表面に配置する技術が提案されているが、このような光拡散素子は十分な光拡散性を有しておらず(例えば、ヘイズ値が90%未満であり)、表示品位の改善効果は不十分である。一方、表示品位を向上させるために光拡散性が大きい(例えば、ヘイズ値が90%以上である)光拡散素子を液晶表示装置に用いると、液晶表示装置に外光が入射したときに画面が白っぽくなってしまい、明所においてコントラストの高い映像や画像の表示が困難であるという問題がある。これは、光拡散素子中の微粒子が入射光を前方のみならず後方にまで散乱させてしまうからである。従来の光拡散素子によれば、ヘイズ値が大きくなればなるほど後方散乱は大きくなるので、光拡散性の増大と後方散乱の抑制とを両立させることはきわめて困難である。さらに、照明用途においても、ヘイズ値が大きくなると後方散乱が増大し、全光線透過率が低下するので、光利用効率が低下してしまう。
【0003】
上記のような問題を解決する手段として、微粒子とマトリクスとの界面での反射を抑えるというコンセプトに基づき、コアとシェルとの屈折率が異なるコアシェル微粒子や、微粒子の中心部から外側に向かって連続的に屈折率が変化するいわゆるGRIN(gradient index)微粒子などの屈折率傾斜微粒子を樹脂中に分散させることが提案されている(例えば、特許文献2〜8参照)。しかし、これらのいずれの技術によっても、薄く、かつ、ヘイズが高い光拡散素子を得ることはできない。さらに、これらの技術に用いられる微粒子は、通常の微粒子よりも製造プロセスが複雑なため生産性が不十分であり、実用的ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3071538号
【特許文献2】特開平6−347617号公報
【特許文献3】特開2003−262710号公報
【特許文献4】特開2002−212245号公報
【特許文献5】特開2002−214408号公報
【特許文献6】特開2002−328207号公報
【特許文献7】特開2010−077243号公報
【特許文献8】特開2010−107616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、強い光拡散性を有し、後方散乱が抑制された非常に薄い光拡散素子を、低コストで、かつ、非常に高い生産性で製造することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の光拡散素子の製造方法は、樹脂成分のモノマーおよび超微粒子成分を含むマトリクス形成材料と光拡散性微粒子と該モノマーを溶解する溶剤とを混合する工程と、該モノマーを重合する工程とを含み、
該モノマーを該溶剤に溶解した溶液中の該光拡散性微粒子のゼータ電位が、該モノマーを該溶剤に溶解した溶液中の該超微粒子成分のゼータ電位と同符号である。
好ましい実施形態においては、上記製造方法は、上記混合工程で調製された混合液中の光拡散性微粒子のゼータ電位を、上記混合工程で調製された直後の混合液中の光拡散性微粒子のゼータ電位の60%以下に低下させる工程をさらに含む。
好ましい実施形態においては、上記製造方法は、上記混合工程で調製された混合液中の光拡散性微粒子のゼータ電位を、上記混合工程で調製された直後の混合液中の光拡散性微粒子のゼータ電位から6mV以上低下させる工程をさらに含む。
好ましい実施形態においては、上記ゼータ電位を低下させる工程が、上記混合液を室温で10時間以上静置させること、上記混合液に超音波処理および攪拌機による分散処理から選択される処理を施すこと、及び上記混合液に加熱処理を施すことからなる群より選択された少なくとも一つを含む。
好ましい実施形態においては、上記製造方法は、上記ゼータ電位を低下させる工程の後、上記混合液中の光拡散性微粒子の濃度を均一化する工程をさらに含む。
好ましい実施形態においては、上記超微粒子成分の平均1次粒子径は1nm〜100nmである。
好ましい実施形態においては、上記製造方法は、上記マトリクス形成材料と上記光拡散性微粒子とを含む塗工液を調製する工程と、長尺状の基材を搬送しながら、該基材上に該塗工液を塗布する工程と、該塗工液が塗布された基材を搬送しながら、該塗工液中の前記樹脂成分のモノマーを重合する工程とを含む。
好ましい実施形態においては、上記製造方法は、上記混合工程の後、上記重合工程の前に、該混合工程で調製された混合液中の光拡散性微粒子の表面近傍に、該光拡散性微粒子から遠ざかるにつれて該超微粒子成分の存在比率が高くなる濃度変調領域を形成する工程をさらに含む。
本発明の別の局面によれば、光拡散素子付偏光板の製造方法は、上記の製造方法により得られた光拡散素子と偏光板とを貼り合わせることを含む。
本発明のさらに別の局面によれば、光拡散素子が提供される。この光拡散素子は、上記の製造方法により得られ、マトリクスと該マトリクス中に分散された光拡散性微粒子とを有し、該マトリクスと該光拡散性微粒子との界面近傍に、屈折率が実質的に連続的に変化する屈折率変調領域が形成されている。
本発明のさらに別の局面によれば、光拡散素子付偏光板が提供される。この光拡散素子付偏光板は、上記の製造方法により得られる。
本発明のさらに別の局面によれば、光拡散素子の形成に用いられる混合液が提供される。この光拡散素子の形成に用いられる混合液は、樹脂成分のモノマーおよび超微粒子成分を含むマトリクス形成材料と光拡散性微粒子と該モノマーを溶解する溶剤とを有し、該光拡散性微粒子の表面近傍に、該光拡散性微粒子から遠ざかるにつれて該超微粒子成分の存在比率が高くなる濃度変調領域を有する。
本発明のさらに別の局面によれば、光拡散素子形成用混合液の製造方法が提供される。この製造方法は、樹脂成分のモノマーおよび超微粒子成分を含むマトリクス形成材料と光拡散性微粒子と該モノマーを溶解する溶剤とを混合する工程と、該混合工程で調製された混合液中の光拡散性微粒子の表面近傍外部に、該光拡散性微粒子から遠ざかるにつれて該超微粒子成分の存在比率が高くなる濃度変調領域を形成する工程とを含む。
好ましい実施形態においては、上記モノマーを前記溶剤に溶解した溶液中の光拡散性微粒子のゼータ電位は、上記モノマーを前記溶剤に溶解した溶液中の超微粒子成分のゼータ電位と同符号である。
好ましい実施形態においては、上記濃度変調領域形成工程は、上記混合工程で調製された混合液中の光拡散性微粒子のゼータ電位を、上記混合工程で調製された直後の混合液中の光拡散性微粒子のゼータ電位の60%以下に低下させることを含む。
好ましい実施形態においては、上記濃度変調領域形成工程は、上記混合工程で調製された混合液中の光拡散性微粒子のゼータ電位を、上記混合工程で調製された直後の混合液中の光拡散性微粒子のゼータ電位から6mV以上低下させることを含む。
好ましい実施形態においては、上記濃度変調領域形成工程は、上記混合液を室温で10時間以上静置させること、上記混合液に超音波処理を施すこと、及び上記混合液に加熱処理を施すことからなる群より選択された少なくとも一つを含む。
好ましい実施形態においては、上記製造方法は、上記濃度変調領域形成工程の後、上記混合液中の光拡散性微粒子の濃度を均一化する工程をさらに含む。
好ましい実施形態においては、上記超微粒子成分の平均1次粒子径は1nm〜100nmである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、光拡散素子の製造方法において、樹脂成分のモノマーを溶解した溶液中の光拡散性微粒子のゼータ電位を当該溶液中の超微粒子成分のゼータ電位と同符号とすることにより、形成されるマトリクスにおいて超微粒子成分の分散濃度の実質的な勾配を形成することができる。したがって、マトリクスと光拡散性微粒子との界面近傍に屈折率変調領域を形成することができ、結果として、強い光拡散性を有し、後方散乱が抑制された非常に薄い光拡散素子を得ることができる。しかも、本発明の製造方法によれば、超微粒子成分と光拡散性微粒子との電気的な反発を主要因として超微粒子成分の分散濃度の実質的な勾配を形成することにより、複雑な製造プロセスも、特殊で高価な原料や試薬も用いることなく、得られる光拡散素子において屈折率変調領域を形成することができる。したがって、低コストで、かつ、非常に高い生産性で、強い光拡散性を有し、後方散乱が抑制された非常に薄い光拡散素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1A】本発明の好ましい実施形態による光拡散素子の製造方法におけるゼータ電位の低下と濃度変調領域との関係を説明する概念図である。
【図1B】本発明の好ましい実施形態による光拡散素子の製造方法を説明する模式図である。
【図2】本発明の光拡散素子付偏光板の製造方法の一例を説明する模式図である。
【図3A】本発明の好ましい実施形態による光拡散素子の概略断面図である。
【図3B】図3Aの光拡散素子の光拡散微粒子近傍を拡大して説明する模式図である。
【図4A】本発明の好ましい実施形態による光拡散素子における光拡散性微粒子近傍の超微粒子成分の分散状態を説明するためのTEM画像である。
【図4B】1つの方向から見た図4AのTEM画像からの3次元再構成像である。
【図4C】別の方向から見た図4AのTEM画像からの3次元再構成像である。
【図4D】図4Bの3次元再構成像を2値化したものであり、マトリクスと光拡散性微粒子との界面近傍の超微粒子成分の分散濃度(存在比率)の算出方法を説明するための図である。
【図5】本発明の好ましい実施形態による光拡散素子における光拡散性微粒子表面からの距離と超微粒子成分の分散濃度(存在比率)との関係を示すグラフである。
【図6】本発明の光拡散素子における光拡散性微粒子中心部からマトリクスまでの屈折率変化を説明するための概念図である。
【図7A】屈折率変調領域を構成する光拡散性微粒子の表面近傍に形成された微細凹凸状の境界を説明するための模式図である。
【図7B】図7Aの微細凹凸状の境界の詳細を説明するための模式図である。
【図8】(a)は、マトリクスの平均屈折率n>光拡散性微粒子の屈折率nである場合の後方散乱発生のメカニズムを説明するための概念図であり、(b)はn<nである場合の後方散乱発生のメカニズムを説明するための概念図である。
【図9】本発明の好ましい実施形態による光拡散素子付偏光板の概略断面図である。
【図10】光拡散半値角を算出する方法を説明するための模式図である。
【図11】実施例1の光拡散素子の光拡散性微粒子近傍のTEM画像である。
【図12】比較例1の光拡散素子の光拡散性微粒子近傍のTEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照しながら説明するが、本発明はこれらの具体的な実施形態には限定されない。
【0010】
A.光拡散素子の製造方法
本発明の光拡散素子の製造方法は、樹脂成分のモノマーおよび超微粒子成分を含むマトリクス形成材料と光拡散性微粒子と該モノマーを溶解する溶剤とを混合する工程(工程Aとする)と、該モノマーを重合する工程(工程Bとする)とを含む。
【0011】
A−1.工程A
工程Aにおいて、マトリクス形成材料と光拡散性微粒子と溶剤とを混合することにより、混合液を調製する。したがって、当該混合液は、代表的には、樹脂成分のモノマーおよび溶剤(代表的には、揮発性溶剤)中に超微粒子成分および光拡散性微粒子が分散した分散体である。超微粒子成分および光拡散性微粒子を分散させる手段としては、任意の適切な手段(例えば、超音波処理、攪拌機による分散処理)が採用され得る。上記混合液は、基材に塗布されて重合工程(工程B)に供される。したがって、本明細書においては、以下、混合液を塗工液と称する場合もある。
【0012】
本発明においては、上記樹脂成分のモノマーを上記溶剤に溶解した溶液(以下、モノマー溶液という)中の上記光拡散性微粒子のゼータ電位が、当該モノマー溶液中の該超微粒子成分のゼータ電位と同符号である。モノマー溶液中の超微粒子成分のゼータ電位と光拡散性微粒子のゼータ電位とが同符号であれば、超微粒子成分と光拡散性微粒子との電気的な反発により、超微粒子成分が光拡散性微粒子表面に密着することが抑制される。その結果、形成されるマトリクスにおいて、超微粒子成分の分散濃度の実質的な勾配が形成され、結果として、マトリクスと光拡散性微粒子との界面近傍に屈折率変調領域が形成される(すなわち、光拡散性微粒子近傍の屈折率変調領域とその外側の屈折率一定領域とを有するマトリクスが形成される)。その結果、強い光拡散性を有し、後方散乱が抑制された非常に薄い光拡散素子を得ることができる。上記のように、超微粒子成分と光拡散性微粒子との電気的な反発を主要因として超微粒子成分の分散濃度の実質的な勾配を形成することにより、複雑な製造プロセスも、特殊で高価な原料や試薬も用いることなく、得られる光拡散素子において屈折率変調領域を形成することができる。したがって、低コストで、かつ、非常に高い生産性で、強い光拡散性を有し、後方散乱が抑制された非常に薄い光拡散素子を得ることができる。なお、本発明の製造方法により得られる光拡散素子(特に、屈折率変調領域)の詳細については、後述のC項で説明する。
【0013】
上記モノマー溶液中の超微粒子成分のゼータ電位と光拡散性微粒子のゼータ電位とは同符号であればよく、したがって、ともに正であってもよく、ともに負であってもよい。好ましくは、モノマー溶液中の超微粒子成分のゼータ電位と光拡散性微粒子のゼータ電位とは、ともに正である。モノマー溶液中の超微粒子成分のゼータ電位が正であることが多いので、組み合わせの自由度が大きいからである。モノマー溶液中の超微粒子成分のゼータ電位は、好ましくは25mV〜40mVであり、より好ましくは30mV〜35mVである。モノマー溶液中の光拡散性微粒子のゼータ電位は、好ましくは0.1mV〜5mVであり、より好ましくは0.5mV〜3mVである。
【0014】
上記ゼータ電位は、粒子の電気泳動移動度を測定し、当該移動度にヘンリーの式を適用することにより求めることができる。具体的には、ゼータ電位zは、下記式(1)から求めることができる。
z=(U×3η)/(f(ka)×2ε) ・・・(1)
式(1)において、Uは電気泳動移動度であり、ηは媒体の粘度であり、εは媒体の誘電率であり、f(ka)はヘンリー関数である。
【0015】
1つの実施形態においては、上記混合液(塗工液)中の光拡散性微粒子のゼータ電位を、上記モノマー溶液中の光拡散性微粒子のゼータ電位の好ましくは60%以下に低下させる。別の実施形態においては、上記混合液(塗工液)中の光拡散性微粒子のゼータ電位を、上記モノマー溶液中の光拡散性微粒子のゼータ電位から好ましくは6mV以上、より好ましくは6.5mV以上低下させる。このようなゼータ電位が低下した状態においては、上記混合液中の光拡散性微粒子の表面近傍外部に、当該光拡散性微粒子から遠ざかるにつれて上記超微粒子成分の存在比率が高くなる濃度変調領域が形成されている。より詳細には、上記のように、モノマー溶液中の超微粒子成分のゼータ電位と光拡散性微粒子のゼータ電位とが同符号であれば、超微粒子成分と光拡散性微粒子との間に電気的な反発が生じる。さらに、図1Aに示すように、当該反発による超微粒子成分に作用する斥力は、光拡散性微粒子に近い超微粒子成分ほど大きくなる。加えて、光拡散性微粒子との相溶性が高い樹脂成分(実質的には、そのモノマー)を用いることにより、樹脂成分のモノマーが光拡散性微粒子に接近しやすくなる。これらの相乗的な結果としてこのようなゼータ電位の低下(図1Aに示すような濃度変調領域の形成)が実現されると推察される。当該濃度変調領域は、得られる光拡散素子におけるマトリクスと光拡散性微粒子との界面またはその近傍の屈折率変調領域に対応する。本発明によれば、電気的な反発ならびに光拡散性微粒子と樹脂成分(実質的には、そのモノマー)との相溶性を利用することにより、屈折率変調領域を良好に形成することができる。
【0016】
A−1−1.樹脂成分
上記樹脂成分は、本発明の効果が得られる限りにおいて、任意の適切な材料で構成される。好ましくは、樹脂成分は、光拡散性微粒子と同系の化合物であってかつ超微粒子成分とは異なる系の化合物で構成される。これにより、形成されるマトリクスと光拡散性微粒子との界面近傍(光拡散性微粒子の表面近傍)に屈折率変調領域を良好に形成することができる。さらに好ましくは、樹脂成分は、光拡散性微粒子と同系の中でも相溶性の高い化合物で構成される。これにより、所望の屈折率勾配を有する屈折率変調領域を形成することができる。例えば、樹脂成分および光拡散性微粒子を例えば有機化合物同士で構成し、超微粒子成分を例えば無機化合物で構成することにより、屈折率変調領域を良好に形成することができる。さらに、例えば、樹脂成分および光拡散性微粒子を同系材料の中でも相溶性の高い材料同士で構成することが好ましい。上記のような所望のゼータ電位の低下が実現され得るからである。屈折率変調領域の厚みおよび屈折率勾配は、モノマー溶液中の光拡散性微粒子のゼータ電位と超微粒子成分のゼータ電位とを調整し、ならびに、樹脂成分、超微粒子成分および光拡散性微粒子の化学的および熱力学的特性を調整することにより制御することができる。なお、本明細書において「同系」とは、化学構造や特性が同等または類似であることをいい、「異なる系」とは、同系以外のものをいう。同系か否かは、基準の選択の仕方によって異なり得る。例えば、有機か無機かを基準にした場合、有機化合物同士は同系の化合物であり、有機化合物と無機化合物とは異なる系の化合物である。ポリマーの繰り返し単位を基準にした場合、例えばアクリル系ポリマーとエポキシ系ポリマーとは有機化合物同士であるにもかかわらず異なる系の化合物であり、周期律表を基準にした場合、アルカリ金属と遷移金属とは無機元素同士であるにもかかわらず異なる系の元素である。
【0017】
上記樹脂成分は、好ましくは有機化合物で構成され、より好ましくは電離線硬化型樹脂で構成される。電離線硬化型樹脂は、塗膜の硬度に優れているため、後述する超微粒子成分の弱点である機械強度を補いやすい。電離線としては、例えば、紫外線、可視光、赤外線、電子線が挙げられる。好ましくは紫外線であり、したがって、樹脂成分は、特に好ましくは紫外線硬化型樹脂で構成される。紫外線硬化型樹脂としては、例えば、アクリレート樹脂(エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、アクリルアクリレート、エーテルアクリレート)などのラジカル重合型モノマーもしくはオリゴマーから形成される樹脂が挙げられる。アクリレート樹脂を構成するモノマーの分子量は、好ましくは200〜700である。アクリレート樹脂を構成するモノマーの具体例としては、ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA:分子量298)、ネオペンチルグリコールジアクリレート(NPGDA:分子量212)、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA:分子量632)、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート(DPPA:分子量578)、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA:分子量296)が挙げられる。モノマーには、必要に応じて、開始剤を添加してもよい。開始剤としては、例えば、UVラジカル発生剤(BASFジャパン社製イルガキュア907、同127、同192など)、過酸化ベンゾイルが挙げられる。上記樹脂成分は、上記電離線硬化型樹脂以外に別の樹脂成分を含んでいてもよい。別の樹脂成分は、電離線硬化型樹脂であってもよく、熱硬化性樹脂であってもよく、熱可塑性樹脂であってもよい。別の樹脂成分の代表例としては、脂肪族系(例えば、ポリオレフィン)樹脂、ウレタン系樹脂が挙げられる。別の樹脂成分を用いる場合、その種類や配合量は、上記屈折率変調領域が良好に形成されるよう調整される。
【0018】
上記樹脂成分は、代表的には、下記式(2)を満足する:
|n−n|<|n−n|・・・(2)
式(2)中、nはマトリクスの樹脂成分の屈折率を表し、nはマトリクスの超微粒子成分の屈折率を表し、nは光拡散性微粒子の屈折率を表す。さらに、樹脂成分は下記式(3)も満足し得る:
|n−n|<|n−n|・・・(3)
樹脂成分の屈折率は、好ましくは1.40〜1.60である。
【0019】
上記塗工液における上記樹脂成分の配合量は、形成されるマトリクス100重量部に対して、好ましくは10重量部〜80重量部であり、より好ましくは20重量部〜65重量部である。
【0020】
A−1−2.超微粒子成分
上記超微粒子成分は、好ましくは上記樹脂成分および後述の光拡散性微粒子とは異なる系の化合物で構成され、より好ましくは無機化合物で構成される。好ましい無機化合物としては、例えば、金属酸化物、金属フッ化物が挙げられる。金属酸化物の具体例としては、酸化ジルコニウム(ジルコニア)(屈折率:2.19)、酸化アルミニウム(屈折率:1.56〜2.62)、酸化チタン(屈折率:2.49〜2.74)、酸化ケイ素(屈折率:1.25〜1.46)が挙げられる。金属フッ化物の具体例としては、フッ化マグネシウム(屈折率:1.37)、フッ化カルシウム(屈折率:1.40〜1.43)が挙げられる。これらの金属酸化物および金属フッ化物は、光の吸収が少ない上に、電離線硬化型樹脂や熱可塑性樹脂などの有機化合物では発現が難しい屈折率を有しているので、光拡散性微粒子との界面から離れるにつれて超微粒子成分の重量濃度が相対的に高くなることにより、屈折率を大きく変調させることができる。光拡散性微粒子とマトリクスとの屈折率差を大きくすることにより、薄膜であっても強拡散を実現でき、かつ、屈折率変調領域が形成されるので後方散乱防止の効果も大きい。特に好ましい無機化合物は、酸化ジルコニウムである。
【0021】
上記超微粒子成分もまた、上記式(2)および(3)を満足し得る。超微粒子成分の屈折率は、好ましくは1.40以下または1.60以上であり、さらに好ましくは1.40以下または1.70〜2.80であり、特に好ましくは1.40以下または2.00〜2.80である。屈折率が1.40を超えまたは1.60未満であると、光拡散性微粒子とマトリクスとの屈折率差が不十分となり、光拡散素子がコリメートバックライトフロント拡散システムを採用する液晶表示装置に用いられた場合に、コリメートバックライトからの光を十分に拡散できず視野角が狭くなるおそれがある。
【0022】
上記超微粒子成分の平均1次粒子径は、形成される屈折率変調領域の平均厚みLに比べて小さいことが好ましい。より具体的には、平均1次粒子径は、平均厚みLに対して好ましくは1/50〜1/2、より好ましくは1/25〜1/3である。平均1次粒子径が平均厚みLに対して1/2を超えると、屈折率変調領域における屈折率変化が実質的に連続的にならない場合がある。1/50未満である場合、屈折率変調領域の形成が困難になる場合がある。上記平均1次粒子径は、好ましくは1nm〜100nmであり、より好ましくは1nm〜50nmである。超微粒子成分は2次凝集していてもよく、その場合の平均粒子径(凝集体の平均粒子径)は、好ましくは10nm〜100nmであり、より好ましくは10nm〜80nmである。このように、光の波長より小さい平均粒径の超微粒子成分を用いることにより、超微粒子成分と樹脂成分との間に幾何光学的な反射、屈折、散乱が生じず、光学的に均一なマトリクスを得ることができる。その結果、光学的に均一な光拡散素子を得ることができる。
【0023】
上記超微粒子成分は、上記樹脂成分との分散性が良好であることが好ましい。本明細書において「分散性が良好」とは、上記樹脂成分と超微粒子成分と(必要に応じて少量のUV開始剤と)揮発溶剤とを混合して得られた塗工液を塗布し、溶剤を乾燥除去して得られた塗膜が透明であることをいう。
【0024】
好ましくは、上記超微粒子成分は、表面改質がなされている。表面改質を行うことにより、超微粒子成分を樹脂成分中に良好に分散させることができ、かつ、上記屈折率変調領域を良好に形成することができる。表面改質手段としては、本発明の効果が得られる限りにおいて任意の適切な手段が採用され得る。代表的には、表面改質は、超微粒子成分の表面に表面改質剤を塗布して表面改質剤層を形成することにより行われる。好ましい表面改質剤の具体例としては、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤等のカップリング剤、脂肪酸系界面活性剤等の界面活性剤が挙げられる。このような表面改質剤を用いることにより、樹脂成分と超微粒子成分との濡れ性を向上させ、樹脂成分と超微粒子成分との界面を安定化させ、超微粒子成分を樹脂成分中に良好に分散させ、かつ、屈折率変調領域を良好に形成することができる。
【0025】
上記塗工液における上記超微粒子成分の配合量は、形成されるマトリクス100重量部に対して、好ましくは15重量部〜80重量部、より好ましくは20重量部〜70重量部である。当該配合量は、形成されるマトリクスにおける超微粒子成分の分散濃度に対応する。このような配合量であれば、形成されるマトリクスにおいて、超微粒子成分の分散濃度の実質的な勾配(後述)が実現され得る。配合量を調整することにより、当該勾配が制御され得る。
【0026】
A−1−3.光拡散性微粒子
光拡散性微粒子もまた、本発明の効果が得られる限りにおいて、任意の適切な材料で構成される。好ましくは、上記のように、光拡散性微粒子は、上記マトリクスの樹脂成分と同系の化合物で構成される。例えば、マトリクスの樹脂成分を構成する電離線硬化型樹脂がアクリレート系樹脂である場合には、光拡散性微粒子もまたアクリレート系樹脂で構成されることが好ましい。より具体的には、マトリクスの樹脂成分を構成するアクリレート系樹脂のモノマー成分が例えば上記のようなPETA、NPGDA、DPHA、DPPAおよび/またはTMPTAである場合には、光拡散性微粒子を構成するアクリレート系樹脂は、好ましくは、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリメチルアクリレート(PMA)、およびこれらの共重合体、ならびにそれらの架橋物である。PMMAおよびPMAとの共重合成分としては、ポリウレタン、ポリスチレン(PS)、メラミン樹脂が挙げられる。特に好ましくは、光拡散性微粒子は、PMMAで構成される。マトリクスの樹脂成分および超微粒子成分との屈折率や熱力学的特性の関係が適切であるからである。
【0027】
上記光拡散性微粒子は、平均粒径が、好ましくは1.0μm〜5.0μmであり、より好ましくは1.0μm〜4.0μmである。光拡散性微粒子の平均粒径は、好ましくは、得られる光拡散素子の厚みの1/2以下(例えば、1/2〜1/20)である。得られる光拡散素子の厚みに対してこのような比率を有する平均粒径であれば、光拡散性微粒子を光拡散素子の厚み方向に複数配列することができるので、入射光が光拡散素子を通過する間に当該光を多重に拡散させることができ、その結果、十分な光拡散性が得られ得る。
【0028】
光拡散性微粒子の重量平均粒径分布の標準偏差は、好ましくは1.0μm以下であり、より好ましくは0.5μm以下である。重量平均粒径に対して粒径の小さい光拡散性微粒子が多数混在していると、拡散性が増大しすぎて後方散乱を良好に抑制できない場合がある。重量平均粒径に対して粒径の大きい光拡散性微粒子が多数混在していると、得られる光拡散素子の厚み方向に複数配列することができず、多重拡散が得られない場合があり、その結果、光拡散性が不十分となる場合がある。
【0029】
上記光拡散性微粒子の形状としては、目的に応じて任意の適切な形状が採用され得る。具体例としては、真球状、燐片状、板状、楕円球状、不定形が挙げられる。多くの場合、上記光拡散性微粒子として真球状微粒子が用いられ得る。
【0030】
上記光拡散性微粒子もまた、上記式(2)および(3)を満足し得る。光拡散性微粒子の屈折率は、好ましくは1.30〜1.70であり、さらに好ましくは1.40〜1.60である。
【0031】
上記塗工液における上記光拡散性微粒子の配合量は、形成されるマトリクス100重量部に対して、好ましくは10重量部〜100重量部であり、より好ましくは10重量部〜40重量部、さらに好ましくは10重量部〜35重量部である。例えばこのような配合量で上記好適範囲の平均粒径を有する光拡散性微粒子を含有させることにより、非常に優れた光拡散性を有する光拡散素子が得られ得る。
【0032】
A−1−4.塗工液の全体構成
上記溶剤としては、上記モノマーを溶解し、上記超微粒子成分および上記光拡散性微粒子を均一に分散し得るかぎりにおいて、任意の適切な溶剤が採用され得る。溶剤の具体例としては、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、2−ブタノン(メチルエチルケトン)、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、トルエン、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、シクロペンタン、水が挙げられる。
【0033】
上記塗工液は、目的に応じて任意の適切な添加剤をさらに含有し得る。例えば、超微粒子成分を良好に分散させるために、分散剤が好適に用いられ得る。添加剤の他の具体例としては、紫外線吸収剤、レベリング剤、消泡剤が挙げられる。
【0034】
上記塗工液の固形分濃度は、好ましくは10重量%〜70重量%程度となるように調整され得る。このような固形分濃度であれば、塗工容易な粘度を有する塗工液が得られ得る。
【0035】
本発明においては、モノマー溶液中の超微粒子成分のゼータ電位および光拡散性微粒子のゼータ電位、超微粒子成分の配合量、光拡散性微粒子の架橋度、ならびに、樹脂成分、超微粒子成分および光拡散性微粒子の種類(例えば、屈折率、相溶性)等を最適化して塗工液を調製することにより、当該塗工液を基材に塗布し、基材上でモノマーを重合するだけで、得られる光拡散素子においてマトリクスと光拡散性微粒子との界面近傍に屈折率変調領域を形成することができる。その結果、複雑な製造プロセスも、特殊で高価な原料や試薬も用いることなく、強い光拡散性を有し、後方散乱が抑制された非常に薄い光拡散素子を得ることができる。例えば、モノマー溶液中の超微粒子成分のゼータ電位および光拡散性微粒子のゼータ電位が同符号であるジルコニアの超微粒子成分とPMMAの光拡散性微粒子とを用い、当該超微粒子成分の分散濃度をマトリクス100重量部に対して30重量部〜70重量部に設定することにより、マトリクス中の超微粒子成分の分散濃度が、光拡散性微粒子に近接する側では小さく、マトリクスの屈折率一定領域に近接する側では大きく、光拡散微粒子側から屈折率一定領域側に実質的な勾配を形成しながら変化するような、分散濃度勾配を実現することができる。さらに、光拡散性微粒子表面の位置によって厚みが異なる(例えば、金平糖の外郭形状のような)屈折率変調領域を形成することができる。
【0036】
上記基材としては、本発明の効果が得られる限りにおいて任意の適切なフィルムが採用され得る。具体例としては、トリアセチルセルロース(TAC)フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリプロピレン(PP)フィルム、ナイロンフィルム、アクリルフィルム、ラクトン変性アクリルフィルムなどが挙げられる。上記基材は、必要に応じて、易接着処理などの表面改質がなされていてもよく、滑剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤などの添加剤が含まれていてもよい。当該基材は、後述の光拡散素子付偏光板において、保護層として機能し得る場合がある。1つの実施形態においては、基材は長尺状である。この形態については、後述のA−4項で別途説明する。
【0037】
上記塗工液の基材への塗布方法としては、任意の適切なコーターを用いた方法が採用され得る。コーターの具体例としては、バーコーター、リバースコーター、キスコーター、グラビアコーター、ダイコーター、コンマコーターが挙げられる。本発明によれば、塗工液を塗布および重合(必要に応じてさらに乾燥)するだけで、基材上に光拡散素子が形成され得る。すなわち、接着剤や粘着剤を用いることなく、光拡散素子が基材上に直接形成され得る。
【0038】
A−2.工程B
工程Bにおいて、上記モノマーを重合する方法としては、モノマーの種類に応じて任意の適切な方法が採用され得る。例えば、樹脂成分が電離線硬化型樹脂である場合には、電離線を照射することによりモノマーを重合する。電離線として紫外線を用いる場合には、その積算光量は、好ましくは50mJ/cm〜1000mJ/cmである。電離線の光拡散性微粒子に対する透過率は、好ましくは70%以上であり、より好ましくは80%以上である。また例えば、樹脂成分が熱硬化型樹脂である場合には、加熱することによりモノマーを重合する。加熱温度および加熱時間は、樹脂成分の種類に応じて適切に設定され得る。好ましくは、重合は電離線を照射することにより行われる。電離線照射であれば、屈折率変調領域を良好に保持したまま塗膜を硬化させることができるので、良好な拡散特性の光拡散素子を作製することができる。モノマーを重合することにより、光拡散性微粒子が分散したマトリクスが形成される。同時に、当該マトリクスにおいては、光拡散性微粒子との界面近傍に、屈折率が実質的に連続的に変化する屈折率変調領域が形成され、かつ、当該屈折率変調領域以外の部分に屈折率一定領域が形成される。
【0039】
A−3.工程C
好ましくは、上記製造方法は、上記塗布液を塗布した後に上記塗工液を乾燥する工程(工程C)をさらに含む。乾燥方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。具体例としては、自然乾燥、加熱乾燥、減圧乾燥が挙げられる。好ましくは、加熱乾燥である。加熱温度は、例えば60℃〜150℃であり、加熱時間は、例えば30秒〜5分である。
【0040】
上記乾燥工程(工程C)は、上記重合工程(工程B)の前に行ってもよく、工程Bの後で行ってもよい。
【0041】
本発明の光拡散素子の製造方法が、上記工程A〜工程Cに加えて、任意の適切な時点で任意の適切な工程、処理および/または操作を含み得ることは言うまでもない。そのような工程等の種類およびそのような工程等が行われる時点は、目的に応じて適切に設定され得る。
【0042】
A−4.ロール搬送
1つの実施形態においては、上記基材は長尺状である。この場合、基材をロール搬送しながら光拡散素子を製造することができるので、製造効率が格段に向上し得る。図1Bは、本実施形態による光拡散素子の製造方法を説明するための模式図である。最初に、ロール状で保管された基材100´が、繰り出しロール151から送り出され、搬送ロール152により搬送される。上記の塗工液が、コーター153により、搬送されている基材100´表面に塗布される。続いて、基材/塗布液の積層体は、重合・乾燥ゾーン154に搬送され、当該重合・乾燥ゾーンを通過しながらモノマーの重合および乾燥が行われる。このようにして、基材100´/光拡散素子100の積層体が得られる。基材/光拡散素子の積層体は、図1Bに示すように巻き取りロール155に巻き取られてロール状で保管されてもよく、連続して光拡散素子付偏光板の製造工程に供されてもよい。光拡散素子付偏光板の製造工程については、次のB項で説明する。
【0043】
以上のようにして、光拡散素子が基材上に形成される。得られた光拡散素子は、基材から剥離して単一部材として用いてもよく、基材付光拡散素子として用いてもよく、基材から偏光板等に転写して複合部材(例えば、光拡散素子付偏光板)として用いてもよく、基材ごと偏光板等に貼り付けて複合部材(例えば、光拡散素子付偏光板)として用いてもよい。基材ごと偏光板等に貼り付けて複合部材(例えば、光拡散素子付偏光板)として用いる場合には、当該基材は偏光板の保護層として機能し得る。
【0044】
B.光拡散素子付偏光板の製造方法
本発明の光拡散素子付偏光板の製造方法は、上記図1Bで説明したような光拡散素子の製造工程から連続して行ってもよく、得られた光拡散素子/基材の積層体を一旦保管し、所望の時点で行ってもよい。図2を参照して、本発明の光拡散素子付偏光板の製造方法の一例について簡単に説明する。図2において、符号111および112は、それぞれ、偏光板および光拡散素子/基材の積層体を巻回するロールであり、符号122は搬送ロールである。図示例では、偏光板(保護層130/偏光子110/保護層120)と、光拡散素子100/基材100´の積層体とを矢印方向に送り出し、それぞれの長手方向を揃えた状態で貼り合わせる。その際、光拡散素子100と偏光板の保護層120とが隣接するように貼り合わせる。その後、必要に応じて基材100´を剥離することにより、後述の図9に示すような光拡散素子付偏光板200が得られ得る。図示しないが、例えば、偏光板(保護層130/偏光子110)と光拡散素子100/基材100´の積層体とを、基材100´と偏光子110とが隣接するように貼り合わせ、基材が保護層として機能する光拡散素子付偏光板を作製することもできる。このように、本発明によれば、いわゆるロール・トゥ・ロールを採用することができるので、光拡散素子付偏光板を非常に高い製造効率で製造することができる。さらに、上記のように、このロール・トゥ・ロール工程は、上記A−4項に記載の光拡散素子の製造工程から連続して行うことができるので、このような手順を採用すれば、光拡散素子付偏光板の製造効率をさらに向上させることができる。なお、ロール・トゥ・ロールとは、長尺のフィルム同士をロール搬送しながら、その長手方向を揃えて連続的に貼り合わせる方法をいう。
【0045】
C.光拡散素子
本発明の光拡散素子は、上記A−1項〜A−4項に記載の方法によって得られ得る。本発明の光拡散素子は、マトリクスと、該マトリクス中に分散された光拡散性微粒子とを有する。本発明の光拡散素子は、マトリクスと光拡散性微粒子の屈折率差により、光拡散機能を発現する。上記A−1項〜A−4項に記載のような方法で得られる本発明の光拡散素子は、マトリクスと光拡散性微粒子との界面近傍に、屈折率が実質的に連続的に変化する屈折率変調領域が形成されている。したがって、マトリクスは、光拡散性微粒子との界面近傍の屈折率変調領域と、当該屈折率変調領域の外側(光拡散性微粒子から離れた側)の屈折率一定領域とを有する。好ましくは、マトリクスにおける屈折率変調領域以外の部分は、実質的には屈折率一定領域である。本明細書において「マトリクスと光拡散性微粒子との界面近傍」とは、光拡散性微粒子表面、表面付近の外部および表面付近の内部を包含する。屈折率変調領域においては、屈折率は実質的に連続的に変化する。本明細書において「屈折率が実質的に連続的に変化する」とは、屈折率変調領域において少なくとも光拡散性微粒子表面から屈折率一定領域まで屈折率が実質的に連続的に変化すればよいことを意味する。
【0046】
図3Aは、本発明の好ましい実施形態による光拡散素子におけるマトリクス中の光拡散性微粒子の分散状態を説明するための模式図である。図3Aの光拡散素子100は、樹脂成分11および超微粒子成分12を含むマトリクス10と、マトリクス10中に分散された光拡散性微粒子20とを有する。好ましくは、屈折率変調領域30は、マトリクス10中の超微粒子成分12の分散濃度の実質的な勾配により形成されている。具体的には、図3Bに示すように、屈折率変調領域30においては、光拡散性微粒子20から遠ざかるにつれて、超微粒子成分12の分散濃度(代表的には、重量濃度で規定される)が高くなる(必然的に、樹脂成分11の重量濃度が低くなる)。言い換えれば、屈折率変調領域30における光拡散性微粒子20の最近接領域には、超微粒子成分12が相対的に低濃度で分散しており、光拡散性微粒子20から遠ざかるにつれて超微粒子成分12の濃度が増大する。
【0047】
上記のような分散濃度の勾配を、透過型電子顕微鏡(TEM)画像を用いて説明する。図4Aは、光拡散性微粒子近傍の超微粒子成分の分散状態を示す2次元TEM画像であり、図4Bおよび図4Cは、それぞれ異なる方向から見た図4AのTEM画像からの3次元再構成像であり、図4Dは、図4Bの3次元再構成像を2値化したものである。図5は、図4A〜図4CのTEM画像から算出した光拡散性微粒子表面からの距離と超微粒子成分の分散濃度(存在比率)との関係を示すグラフである。図5のグラフは、図4Dのマトリクスと光拡散性微粒子との界面近傍部分を5つの解析エリアに分けて、5つの解析エリアそれぞれについて画像処理を行い、それぞれの解析エリアにおける光拡散性微粒子表面からの距離と超微粒子成分の分散濃度(存在比率)との関係を算出したものを平均し、グラフ化したものである。図4A〜図4Cに示すように、屈折率変調領域においては、マトリクス10の屈折率一定領域から遠ざかるにつれて、超微粒子成分12の分散濃度(代表的には、重量濃度で規定される)が相対的に低くなり、かつ、それぞれの超微粒子が光拡散性微粒子に近づく度合いが異なっている。好ましくは、図5に示すように、超微粒子成分の分散濃度は、その濃度変化の勾配が光拡散性微粒子20に近接する側では小さく、屈折率一定領域に近接する側では大きく、光拡散微性粒子側から屈折率一定領域側に実質的な勾配を形成しながら変化する。言い換えれば、超微粒子成分12の分散濃度は、その濃度変化の勾配が光拡散性微粒子から遠ざかるにつれて大きくなる。上記のような本発明の製造方法によれば、光拡散性微粒子と超微粒子成分との電気的な反発等に起因して形成される、超微粒子成分12の分散濃度の実質的な勾配を利用してマトリクス10と光拡散性微粒子20との界面近傍に屈折率変調領域30を形成することができるので、煩雑な製造方法でGRIN微粒子を製造して当該GRIN微粒子を分散させる場合に比べて、格段に簡便な手順で、かつ、格段に低コストで光拡散素子を製造することができる。さらに、超微粒子成分の分散濃度の実質的な勾配を利用して屈折率変調領域を形成することにより、屈折率変調領域30と屈折率一定領域との境界において屈折率を滑らかに変化させることができる。さらに、樹脂成分および光拡散性微粒子と屈折率が大きく異なる超微粒子成分を用いることにより、光拡散性微粒子とマトリクス(実質的には、屈折率一定領域)との屈折率差を大きく、かつ、屈折率変調領域の屈折率勾配を急峻にすることができる。その結果、強い光拡散性を有し、かつ、後方散乱が抑制された非常に薄い光拡散素子を得ることができる。
【0048】
上記屈折率変調領域30の平均厚みLは、好ましくは10nm〜500nm、より好ましくは12nm〜400nm、さらに好ましくは15nm〜300nmである。本発明の製造方法により得られる光拡散素子によれば、非常に小さい厚みの屈折率変調領域でありながら光拡散性微粒子とマトリクスとの屈折率差を大きくし(屈折率勾配を急峻にし)、かつ、当該屈折率変調領域において屈折率を連続的に変化させることができる。屈折率変調領域30の厚みは、一定であってもよく(すなわち、屈折率変調領域が光拡散性微粒子の周囲に同心球状に拡がってもよく)、光拡散性微粒子表面の位置によって厚みが異なっていてもよい(例えば、金平糖の外郭形状のようになっていてもよい)。好ましくは、屈折率変調領域30の厚みは、光拡散性微粒子表面の位置によって異なっている。このような構成であれば、屈折率変調領域30において、屈折率をより連続的に変化させることができる。上記平均厚みLは、屈折率変調領域30の厚みが光拡散性微粒子表面の位置によって異なる場合の平均厚みであり、厚みが一定である場合にはその厚みである。
【0049】
好ましくは、屈折率変調領域30においては、屈折率が実質的に連続的に変化し得る。さらに好ましくは、これに加えて、上記屈折率変調領域の最外部の屈折率と上記屈折率一定領域の屈折率とが実質的に同一である。言い換えれば、本発明の製造方法により得られる光拡散素子においては、屈折率変調領域から屈折率一定領域にかけて屈折率が連続的に変化し、好ましくは光拡散性微粒子から屈折率一定領域にかけて屈折率が連続的に変化する(図6)。さらに好ましくは、当該屈折率変化は、図6に示すように滑らかである。すなわち、屈折率変調領域30と屈折率一定領域との境界において、屈折率変化曲線に接線が引けるような形状で変化する。好ましくは、屈折率変調領域において、屈折率変化の勾配は、上記光拡散性微粒子から遠ざかるにつれて大きくなる。本発明の製造方法によれば、上記のように光拡散性微粒子とマトリクスの樹脂成分と超微粒子成分とを適切に選択することにより、実質的に連続的な屈折率変化を実現することができる。その結果、マトリクス10(実質的には、屈折率一定領域)と光拡散性微粒子20との屈折率差を大きくしても、マトリクス10と光拡散性微粒子20との界面の反射を抑えることができ、後方散乱を抑制することができる。さらに、屈折率一定領域では、光拡散性微粒子20とは屈折率が大きく異なる超微粒子成分12の重量濃度が相対的に高くなるので、マトリクス10(実質的には、屈折率一定領域)と光拡散性微粒子20との屈折率差を大きくすることができる。その結果、薄膜であっても大きい光拡散半値角(強い光拡散性)を実現することができる。したがって、本発明の製造方法により得られる光拡散素子によれば、屈折率差を大きくして高ヘイズを実現しつつ、後方散乱を顕著に抑制することができる。一方、公知のGRIN微粒子を用いる光拡散素子によれば、多段階重合というGRIN微粒子の製造方法に起因して、マトリクスとの屈折率差を大きくすることも、屈折率変化を急峻にすることも困難である。その結果、公知のGRIN微粒子を用いても、薄い厚みと高い拡散性とを両立することはきわめて困難である。また、屈折率変調領域が形成されない従来の光拡散素子によれば、屈折率差を大きくすることにより強い光拡散性(例えば、大きい光拡散半値角)を付与しようとすると、界面での屈折率のギャップを解消することができない。その結果、光拡散性微粒子とマトリクスとの界面での反射による後方散乱が大きくなってしまう場合が多い。本発明によれば、ゼータ電位が所定の関係を有する光拡散性微粒子と超微粒子成分とを用いてマトリクスと光拡散性微粒子との界面近傍に屈折率変調領域を形成することにより、上記従来技術の問題を解決し、強い光拡散性を有し、かつ、後方散乱が抑制された非常に薄い光拡散素子を得ることができる。
【0050】
1つの実施形態においては、マトリクスと光拡散性微粒子との界面近傍において、屈折率の異なる2つの領域が微細凹凸状に境界を形成している。当該境界の微細凹凸のサイズは、好ましくは光の波長以下である。すなわち、屈折率の異なる2つの領域間に光の波長以下のサイズの微細凹凸状の境界を形成することにより、凹凸の高さに応じた実質的な屈折率の変調領域がマトリクスと光拡散性微粒子との界面近傍に形成される。当該微細凹凸状の境界構造を説明するための模式図を図7Aおよび図7Bに示す。図7Aおよび図7Bに示すように、微細凹凸状の境界25は、好ましくは、凹凸のピッチ、凹部の深さまたは凸部の高さ、ならびに、凹部および凸部の形状が、それぞれ不均一である。このような不均一な凹凸構造をマトリクスと光拡散性微粒子との界面近傍に形成することにより、屈折率変調領域を良好に形成することができる。上記微細凹凸状の境界における凹凸の平均高さは、好ましくは10nm〜500nmであり、さらに好ましくは10nm〜60nmである。上記微細凹凸状の境界の凹凸の平均ピッチは、好ましくは100nm以下であり、より好ましくは50nm以下であり、さらに好ましくは30nm以下である。平均ピッチの下限は、好ましくは5nmであり、より好ましくは10nmである。このような平均ピッチおよび平均高さであれば、屈折率変調領域の全体にわたって屈折率を連続的に変化させることができる。その結果、強い光拡散性を有し、かつ、後方散乱が抑制された非常に薄い光拡散素子を得ることができる。ここで、平均ピッチとは、所定の範囲において隣接する凸部同士の頂点と頂点との水平距離の統計的平均をいい、平均高さとは、所定の範囲における凸部の高さ(谷底から頂点までの垂直距離)の統計的平均をいう。例えば、上記のような微細凹凸状の境界は、図7Bに示すように、光拡散性微粒子からマトリクスに向けて錐状および/または針状の微細な突起群を有する(なお、微細凹凸状の境界は、マトリクス側から見ても同様であり、光拡散性微粒子に向けて錐状および/または針状の微細な突起群を有する)。このような微細凹凸状の境界を形成することにより、反射率の低い光拡散素子が得られ得る。なお、屈折率変調領域の屈折率変調機能は、微細凹凸状の境界全体の形状に起因して発現し得るが、さらに微視的に見た場合、境界における上記突起群のそれぞれの突起内においても、超微粒子成分の分散濃度は実質的な勾配を形成し得る。
【0051】
本発明の光拡散素子においては、好ましくは、マトリクスの平均屈折率nが光拡散性微粒子の屈折率nよりも大きい(n>n)。図8(a)および図8(b)に比較して示すように、n>nである場合には、n<nである場合に比べて、屈折率変調領域の屈折率勾配が急峻であっても後方散乱をより良好に抑制することができる。Δn(=n−n)は、好ましくは0.08以上、さらに好ましくは0.10以上である。Δnの上限は、好ましくは0.2である。
【0052】
本発明の製造方法により得られる光拡散素子の拡散特性は、代表的にはヘイズと光拡散半値角によって表される。ヘイズとは、光の拡散の強さ、すなわち入射光の拡散度合いを示すものである。一方、光拡散半値角とは、拡散光の質、すなわち拡散させる光の角度範囲を示すものである。本発明の製造方法により得られる光拡散素子は、ヘイズが高い場合にその効果が十分に発揮される。光拡散素子のヘイズは、好ましくは90%〜99.9%であり、より好ましくは92%〜99.9%であり、さらに好ましくは95%〜99.9%であり、特に好ましくは97%〜99.9%である。ヘイズが90%以上であることにより、コリメートバックライトフロント拡散システムにおけるフロント光拡散素子として好適に用いることができる。本発明によれば、このような非常に高いヘイズを有し、かつ、後方散乱が抑制された光拡散素子が得られ得る。なお、コリメートバックライトフロント拡散システムとは、液晶表示装置において、コリメートバックライト光(一定方向に集光された、輝度半値幅の狭い(例えば、3°〜35°もしくは±1.5°〜±17.5°の)バックライト光)を用い、上側偏光板の視認側にフロント光拡散素子を設けたシステムをいう。
【0053】
上記光拡散素子の拡散特性は、光拡散半値角で示すならば、好ましくは10°〜150°(片側5°〜75°)であり、より好ましくは10°〜100°(片側5°〜50°)であり、さらに好ましくは30°〜80°(片側15°〜40°)である。光拡散半値角が小さすぎると、斜めの視野角(例えば、白輝度)が狭くなる場合がある。光拡散半値角が大きすぎると、後方散乱が大きくなる場合がある。
【0054】
上記光拡散素子の厚みは、目的や所望の拡散特性に応じて適切に設定され得る。具体的には、上記光拡散素子の厚みは、好ましくは4μm〜50μm、より好ましくは4μm〜20μmである。本発明によれば、このように非常に薄い厚みにもかかわらず、上記のような非常に高いヘイズを有する光拡散素子が得られ得る。さらに、このような薄い厚みであれば折り曲げても割れたりせず、上記のようにロール状での保管が可能となる。
【0055】
D.光拡散素子付偏光板
本発明の光拡散素子付偏光板は、上記A−1項〜A−4項および上記B項に記載の方法により得られ得る。本発明の光拡散素子付偏光板は、代表的には、液晶表示装置の視認側に配置される。図9は、本発明の好ましい実施形態による光拡散素子付偏光板の概略断面図である。この光拡散素子付偏光板200は、光拡散素子100と偏光子110とを有する。光拡散素子100は、上記C項に記載した本発明の光拡散素子である。光拡散素子100は、光拡散素子付偏光板が液晶表示装置の視認側に配置された場合に最も視認側となるように配置されている。1つの実施形態においては、光拡散素子100の視認側に低反射層または反射防止処理層(アンチリフレクション処理層)が配置されている(図示せず)。図示例においては、光拡散素子付偏光板200は、偏光子の両側に保護層120および130を有する。光拡散素子、偏光子および保護層は、任意の適切な接着剤層または粘着剤層を介して貼り付けられている。保護層120および130の少なくとも1つは、目的、偏光板の構成および液晶表示装置の構成に応じて省略されてもよい。例えば、光拡散素子を形成する際に用いられる基材が保護層として機能し得る場合には、保護層120が省略され得る。本発明の光拡散素子付偏光板は、コリメートバックライトフロント拡散システムを採用した液晶表示装置における視認側偏光板として特に好適に用いられ得る。なお、偏光子および保護層については、当業界における任意の適切な構成が採用され得るので、詳細な説明は省略する。
【実施例】
【0056】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。実施例における評価方法は下記の通りである。また、特に明記しない限り、実施例における「部」および「%」は重量基準である。
【0057】
(1)光拡散素子の厚み
マイクロゲージ式厚み計(ミツトヨ社製)にて基材と光拡散素子との合計厚みを測定し、当該合計厚みから基材の厚みを差し引き、光拡散素子の厚みを算出した。
(2)ヘイズ
JIS 7136で定める方法により、ヘイズメーター(村上色彩科学研究所社製、商品名「HN−150」)を用いて測定した。
(3)後方散乱率
実施例および比較例で得られた光拡散素子と基材との積層体を、透明粘着剤を介して黒アクリル板(住友化学社製、商品名「SUMIPEX」(登録商標)、厚み2mm)の上に貼り合わせ、測定試料とした。この測定試料の積分反射率を分光光度計(日立計測器社製、商品名「U4100」)にて測定した。一方、上記光拡散素子用塗工液から微粒子を除去した塗工液を用いて、基材と透明塗工層との積層体を作製して対照試料とし、上記と同様にして積分反射率(すなわち、表面反射率)を測定した。上記測定試料の積分反射率から上記対照試料の積分反射率(表面反射率)を差し引くことにより、光拡散素子の後方散乱率を算出した。
(4)屈折率変調領域の認定
実施例および比較例で得られた光拡散素子と基材との積層体を液体窒素で冷却しながら、ミクロトームにて0.1μmの厚さにスライスし、測定試料とした。透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、当該測定試料の光拡散素子部分の微粒子の状態および当該微粒子とマトリクスとの界面の状態を観察し、微粒子とマトリクスとの界面が不明瞭な部分を屈折率変調領域と認定し、微粒子とマトリクスとの界面が明瞭な場合は屈折率変調領域が形成されていないと認定した。
(5)光拡散半値角
光拡散素子の正面からレーザー光を照射し、拡散した光の拡散角度に対する拡散輝度を、ゴニオフォトメーターで1°おきに測定し、図10に示すように、レーザーの直進透過光を除く光拡散輝度の最大値から半分の輝度となる拡散角度を、拡散の両側で測定し、当該両側の角度を足したもの(図10の角度A+角度A´)を光拡散半値角とした。
(6)ゼータ電位の測定
電気泳動装置(Malvern Instruments社製)を用いて、ペンタエリスリトールトリアクリレート/MIBK溶液中に光拡散性微粒子または超微粒子成分を分散させた測定試料ならびに実施例および比較例の塗工液の電気泳動移動度を測定し、下記式(1)からゼータ電位zを求めた。なお、電気泳動移動度は、電気泳動における粒子の移動速度をレーザードップラー速度測定法により測定した。
z=(U×3η)/(f(ka)×2ε) ・・・(1)
式(1)において、Uは電気泳動移動度であり、ηは媒体の粘度であり、εは媒体の誘電率であり、f(ka)はヘンリー関数である。
【0058】
<実施例1:光拡散素子の作製>
超微粒子成分としてのジルコニアナノ粒子(平均1次粒子径10nm、平均粒子径60nm、屈折率2.19)を62%含有するハードコート用樹脂(JSR社製、商品名「オプスターKZ6661」(MEK/MIBK含有))100部に、樹脂成分のモノマーとしてのペンタエリスリトールトリアクリレート(大阪有機化学工業社製、商品名「ビスコート#300」、屈折率1.52)の50%メチルエチルケトン(MEK)溶液を11部、光重合開始剤(BASFジャパン社製、商品名「イルガキュア907」)を0.5部、レベリング剤(DIC社製、商品名「GRANDIC PC 4100」)を0.5部、および、光拡散性微粒子としてのポリメタクリル酸メチル(PMMA)微粒子(積水化成品工業社製、商品名「SAX−102」、平均粒径2.5μm、屈折率1.495)を15部添加した。攪拌機(浅田鉄工株式会社製、商品名「デスパ(DESPA)」)を用いてこの混合物を30分間攪拌して分散処理を行い、上記の各成分が巨視的には均一に分散した塗工液を調製した。この塗工液の固形分濃度は55%であった。ペンタエリスリトールトリアクリレート/MIBK溶液中のジルコニアナノ粒子のゼータ電位は+32.3mV、PMMA微粒子のゼータ電位は+1.1mVであった。さらに、この調製した直後(調製してから1時間後)の塗工液におけるPMMA微粒子のゼータ電位は+14.4mVであり、この塗工液を室温(25℃)で24時間静置した後のPMMA微粒子のゼータ電位は+7.5mV(調製した直後の52%)であり、ゼータ電位の低下度は6.9mVであった。ゼータ電位が低下したという事実から、塗工液において、微視的には、光拡散性微粒子の表面近傍に光拡散性微粒子から遠ざかるにつれて超微粒子成分の存在比率が高くなる濃度変調領域が形成されていることが示唆される。
【0059】
上記塗工液を攪拌機で攪拌した後、バーコーターを用いてTACフィルム(富士フィルム社製、商品名「フジタック」、厚み40μm)からなる基材上に塗工し、100℃にて1分間乾燥後、積算光量300mJ/cmの紫外線を照射し、厚み11μmの光拡散素子を得た。得られた光拡散素子を上記(1)〜(6)の評価に供した。さらに、光拡散性微粒子近傍のTEM写真を図11に示す。図11から明らかなように、この光拡散素子においては、マトリクスと光拡散性微粒子との界面近傍に屈折率変調領域が形成されていた。なお、得られた光拡散素子におけるマトリクスの平均屈折率nと光拡散性微粒子の屈折率nとの差は0.12(n>n)であった。また、光拡散性微粒子表面からの距離と超微粒子成分の分散濃度(存在比率)との関係をTEM画像から算出した結果、超微粒子成分の分散濃度の勾配が光拡散性微粒子から遠ざかるにつれて大きくなることを確認した。
【0060】
<比較例1>
光拡散性微粒子を、シリコーン樹脂微粒子(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製、商品名「トスパール120」、平均粒径2.0μm、屈折率1.43)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、厚み11μmの光拡散素子を得た。なお、ペンタエリスリトールトリアクリレート/MIBK溶液中のシリコーン樹脂微粒子のゼータ電位は−31mVであった。さらに、調製した直後(調製してから1時間後)の塗工液におけるシリコーン樹脂微粒子のゼータ電位は+18.5mVであり、この塗工液を室温(25℃)で24時間静置した後のシリコーン樹脂微粒子のゼータ電位は+17.6mV(調製した直後の90%)であり、ゼータ電位の低下度は0.9mVであった。
得られた光拡散素子を上記(1)〜(6)の評価に供した。結果を表1に示す。さらに、光拡散性微粒子近傍のTEM写真を図12に示す。図12から明らかなように、この光拡散素子においては、マトリクスと光拡散性微粒子との界面は明確であり、屈折率変調領域は形成されなかった。
【0061】
【表1】

【0062】
<実施例2:液晶表示装置への適用>
マルチドメイン型VAモードの液晶セルを備える市販の液晶テレビ(SONY社製、ブラビア20型、商品名「KDL20J3000」)から液晶セルを取り出した。当該液晶セルの両側に、市販の偏光板(日東電工社製、商品名「NPF−SEG1423DU」)を、それぞれの偏光子の吸収軸が直交するようにして貼り合わせた。より具体的には、バックライト側偏光板の偏光子の吸収軸方向が垂直方向(液晶パネルの長辺方向に対して90°)となり、視認側偏光板の偏光子の吸収軸方向が水平方向(液晶パネルの長辺方向に対して0°)となるようにして貼り合わせた。さらに、視認側偏光板の外側に、実施例1の光拡散素子を基材から転写して貼り合わせ、液晶パネルを作製した。
【0063】
一方、PMMAシートの片面に、レンチキュラーレンズのパターンを、転写ロールを用いて溶融熱転写した。レンズパターンが形成された面とは反対側の面(平滑面)に、レンズの焦点のみ光が透過するよう、アルミニウムのパターン蒸着を行い、開口部の面積比率7%(反射部の面積比率93%)の反射層を形成した。このようにして、集光素子を作製した。バックライトの光源として冷陰極蛍光ランプ(ソニー社製、BRAVIA20JのCCFL)を用い、当該光源に集光素子を取り付けて、コリメート光を出射する平行光光源装置(バックライトユニット)を作製した。
【0064】
上記液晶パネルに上記バックライトユニットを組み込み、コリメートバックライトフロント拡散システムの液晶表示装置を作製した。得られた液晶表示装置について暗所にて白表示および黒表示を行い、その表示状態を目視にて観察した。その結果、斜め方向から見た場合、明所での黒表示が黒くかつ暗所の白表示の輝度が高いという良好な表示特性を示した。
【0065】
<比較例2>
比較例1の光拡散素子を用いたこと以外は実施例2と同様にして液晶表示装置を作製した。得られた液晶表示装置について暗所にて白表示および黒表示を行い、その表示状態を目視にて観察した。その結果、斜め方向から見た場合、暗所の白表示の輝度は高かったが、明所での黒表示は白ぼけて見えた。
【0066】
<評価>
モノマー溶液中の超微粒子成分のゼータ電位と光拡散性微粒子のゼータ電位とが同符号である塗工液から得られた実施例1の光拡散素子は、屈折率変調領域が形成されていた。一方、モノマー溶液中の超微粒子成分のゼータ電位と光拡散性微粒子のゼータ電位とが異符号である塗工液から得られた比較例1の光拡散素子は、屈折率変調領域が形成されなかった。その結果、実施例1の光拡散素子は、比較例1の光拡散素子に比べて、光拡散半値角、ヘイズおよび後方散乱率のいずれもが優れていた。実施例1の光拡散素子は、コリメートバックライトフロント拡散システムの液晶表示装置のフロント拡散素子として用いた場合に、非常に優れた表示特性を示した。一方、比較例1の光拡散素子は、コリメートバックライトフロント拡散システムの液晶表示装置のフロント拡散素子として用いた場合に、明所での黒表示が白ぼけるという問題が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の製造方法により得られる光拡散素子および光拡散素子付偏光板は、液晶表示装置の視認側部材、液晶表示装置のバックライト用部材、照明器具(例えば、有機EL、LED)用拡散部材に好適に用いられ得る。
【符号の説明】
【0068】
10 マトリクス
11 樹脂成分
12 超微粒子成分
20 光拡散性微粒子
30 屈折率変調領域
100 光拡散素子
110 偏光子
120 保護層
130 保護層
200 光拡散素子付偏光板


【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成分のモノマーおよび超微粒子成分を含むマトリクス形成材料と光拡散性微粒子と該モノマーを溶解する溶剤とを混合する工程と、該モノマーを重合する工程とを含み、
該モノマーを該溶剤に溶解した溶液中の該光拡散性微粒子のゼータ電位が、該モノマーを該溶剤に溶解した溶液中の該超微粒子成分のゼータ電位と同符号である、
光拡散素子の製造方法。
【請求項2】
前記混合工程で調製された混合液中の光拡散性微粒子のゼータ電位を、前記混合工程で調製された直後の混合液中の光拡散性微粒子のゼータ電位の60%以下に低下させる工程をさらに含む、請求項1に記載の光拡散素子の製造方法。
【請求項3】
前記混合工程で調製された混合液中の光拡散性微粒子のゼータ電位を、前記混合工程で調製された直後の混合液中の光拡散性微粒子のゼータ電位から6mV以上低下させる工程をさらに含む、請求項1に記載の光拡散素子の製造方法。
【請求項4】
前記ゼータ電位を低下させる工程が、前記混合液を室温で10時間以上静置させること、前記混合液に超音波処理および攪拌機による分散処理から選択される処理を施すこと、及び前記混合液に加熱処理を施すことからなる群より選択された少なくとも一つを含む、請求項2または3に記載の光拡散素子の製造方法。
【請求項5】
前記ゼータ電位を低下させる工程の後、前記混合液中の光拡散性微粒子の濃度を均一化する工程をさらに含む、請求項2から4のいずれかに記載の光拡散素子の製造方法。
【請求項6】
前記超微粒子成分の平均1次粒子径が1nm〜100nmである、請求項1から5のいずれかに記載の光拡散素子の製造方法。
【請求項7】
前記マトリクス形成材料と前記光拡散性微粒子とを含む塗工液を調製する工程と、長尺状の基材を搬送しながら、該基材上に該塗工液を塗布する工程と、該塗工液が塗布された基材を搬送しながら、該塗工液中の前記樹脂成分のモノマーを重合する工程とを含む、請求項1から6のいずれかに記載の光拡散素子の製造方法。
【請求項8】
前記混合工程の後、前記重合工程の前に、該混合工程で調製された混合液中の光拡散性微粒子の表面近傍に、該光拡散性微粒子から遠ざかるにつれて該超微粒子成分の存在比率が高くなる濃度変調領域を形成する工程をさらに含む、請求項1から7のいずれかに記載の光拡散素子の製造方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の製造方法により得られた光拡散素子と偏光板とを貼り合わせることを含む、光拡散素子付偏光板の製造方法。
【請求項10】
請求項1から8のいずれかに記載の製造方法により得られる光拡散素子であって、
マトリクスと該マトリクス中に分散された光拡散性微粒子とを有し、該マトリクスと該光拡散性微粒子との界面近傍に、屈折率が実質的に連続的に変化する屈折率変調領域が形成されている、
光拡散素子。
【請求項11】
請求項9に記載の製造方法により得られる、光拡散素子付偏光板。
【請求項12】
光拡散素子の形成に用いられる混合液であって、
樹脂成分のモノマーおよび超微粒子成分を含むマトリクス形成材料と光拡散性微粒子と該モノマーを溶解する溶剤とを有し、
該光拡散性微粒子の表面近傍に、該光拡散性微粒子から遠ざかるにつれて該超微粒子成分の存在比率が高くなる濃度変調領域を有する光拡散素子形成用混合液。
【請求項13】
請求項12に記載の光拡散素子形成用混合液の製造方法であって、
樹脂成分のモノマーおよび超微粒子成分を含むマトリクス形成材料と光拡散性微粒子と該モノマーを溶解する溶剤とを混合する工程と、
該混合工程で調製された混合液中の光拡散性微粒子の表面近傍外部に、該光拡散性微粒子から遠ざかるにつれて該超微粒子成分の存在比率が高くなる濃度変調領域を形成する工程とを含む、
光拡散素子形成用混合液の製造方法。
【請求項14】
前記モノマーを前記溶剤に溶解した溶液中の光拡散性微粒子のゼータ電位が、前記モノマーを前記溶剤に溶解した溶液中の超微粒子成分のゼータ電位と同符号である、請求項13に記載の光拡散素子形成用混合液の製造方法。
【請求項15】
前記濃度変調領域形成工程が、前記混合工程で調製された混合液中の光拡散性微粒子のゼータ電位を、前記混合工程で調製された直後の混合液中の光拡散性微粒子のゼータ電位の60%以下に低下させることを含む、請求項13または14に記載の光拡散素子形成用混合液の製造方法。
【請求項16】
前記濃度変調領域形成工程が、前記混合工程で調製された混合液中の光拡散性微粒子のゼータ電位を、前記混合工程で調製された直後の混合液中の光拡散性微粒子のゼータ電位から6mV以上低下させることを含む、請求項13または14に記載の光拡散素子形成用混合液の製造方法。
【請求項17】
前記濃度変調領域形成工程が、前記混合液を室温で10時間以上静置させること、前記混合液に超音波処理を施すこと、及び前記混合液に加熱処理を施すことからなる群より選択された少なくとも一つを含む、請求項13から16のいずれかに記載の光拡散素子形成用混合液の製造方法。
【請求項18】
前記濃度変調領域形成工程の後、前記混合液中の光拡散性微粒子の濃度を均一化する工程をさらに含む、請求項13から17のいずれかに記載の光拡散素子形成用混合液の製造方法。
【請求項19】
前記超微粒子成分の平均1次粒子径が1nm〜100nmである、請求項13から18のいずれかに記載の光拡散素子形成用混合液の製造方法。

【図1B】
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【図2】
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【図3A】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図9】
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【図10】
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【図1A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図5】
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【図8】
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【図11】
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【図12】
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