説明

光機能素子およびその製造方法

【課題】 簡潔かつ小さい構成で、低い消費電力で動作し、光の状態で波長変換および波形整形を行なう光機能素子およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 2本の線欠陥光導波路1および2と可飽和吸収領域6とによって方向性結合器が構成される。また、線欠陥光導波路1および2には、一方に信号光3が入射され、他方に制御光4が入射される。制御光4の強度は、可飽和吸収領域6が飽和しない程度になっている。この構成によれば、信号光3の強度が、可飽和吸収領域6を飽和させる値か否かによって、方向性結合器のオン/オフが行なわれるため、信号光3の波長変換および波形整形を光の状態で行なうことが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光機能素子およびその製造方法に関し、より特定的には、光信号の波長変換および波形整形を行なう光機能素子およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通信の大容量化および超高速化に伴って、処理時間をロスさせる光−電気−光変換を行わない全光信号処理の実現が推進されている。そのため、光の状態で信号処理が可能な機能素子の需要が急激に高まっている。光の状態で信号処理を行うためには、光導波路中において、利得、位相、および光路を変調することが必要になる。
【0003】
そのため、半導体光増幅器(SOA:Semiconductor Optical Amplifer)の活性層中に光を導波させることによって、波長変換および波形整形をすることが可能な光機能素子の開発が行なわれている。この光機能素子によれば、活性層中を導波する光が誘導放出を起こすため、出力される光は増幅される。このような光機能素子は、基本的には、半導体レーザと同じ構造である。そのため、このような光機能素子の製造方法には、半導体レーザの製造方法を応用することが可能である。その製造方法を用いれば、小型で簡潔な光機能素子を得ることができる。したがって、光機能素子の製造方法として、前述のような方法は広く普及している。
【0004】
しかしながら、SOAにおいては、自然放出光雑音(ASE雑音:Amplified Spontaneous Emission Noise)が生じ易いため、出力光は、信号として使用できないレベルまで、S/N(Sound/Noise)比が低下してしまう。また、電流を用いてSOAの動作特性を制御するためには、大きな電力が必要となる。そのため、SOAを将来の大容量かつ高速な光通信において使用することは困難である。
【0005】
一方、近年、フォトニック結晶中に光を導波させて、低雑音で高速応答も可能な光機能素子を製造する技術の研究が盛んになっている。たとえば、後述する非特許文献1には、フォトニック結晶中に2本の光導波路を有する方向性結合器が設られた分波器が開示されている。
【0006】
フォトニック結晶は、光の絶縁領域(フォトニックバンドギャップ)を利用して、無損失で光を結晶の中に閉じ込めることができる。このフォトニックバンドギャップは、結晶中に光の波長程度の周期的な微細構造を設けることによって得られる。フォトニック結晶を用いた光導波路の製造方法は、多数存在するが、周期構造同士の間に欠陥領域を設けることによって光導波路を製造する手法が一般的である。
【0007】
非特許文献1に開示されている光機能素子の構造が図5に示されている。図5に示されている構造には、SOI(Silicon On Insulator)ウエハ上に、線欠陥光導波路を有するフォトニック結晶スラブが形成されている。このフォトニック結晶スラブには、非常に微細な間隔をあけて周期的に円形孔を開けることによって周期構造が形成されている。また、フォトニック結晶スラブには一直線上に円形孔が開けられていない線欠陥領域が2本設けられている。この2本の線欠陥領域が2本の光導波路である。
【0008】
また、2本の光導波路は非常に小さな間隔をおいて平行に設けられている。したがって、2本の光導波路によって方向性結合器が構成されている。方向性結合器には、入力用のSiチャネル光導波路からなる入力ポートIn1、ならびに、出力用のSiチャネル光導波路からなる出力ポートOut1およびOut2が接続されている。
【0009】
入力ポートIn1から一方の光導路内へ入射した光は、一方の光導路内を伝搬していくうちに、特定の波長成分が他方の光導波路に強く結合する。その結果、光は、入力ポートIn1のクロスポートである出力ポートOut2から出力される(In1→Out2)。入力ポートIn1に入力された光のうち前述の特定の波長以外の波長の光は、前述のような強い光導波路同士の間における結合が生じないため、出力ポートOut2から出力されず、出力ポートOut1から出力される。つまり、光機能素子は、多重波光から特定の波長の光のみを取り出す分波機能を有している。
【非特許文献1】五明明子(他3名)、「フォトニック結晶線欠陥光導波路の導波モード端付近での群速度異常を用いる分波器」、2003年秋季第64回応用物理学会学術講演会講演1p−ZM−13、予稿集p.947
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のように、SOAを用いた光機能素子は、波長変換および波形整形の双方の機能を有している。しかしながら、SOAを用いた光機能素子は、大きなASE雑音の発生を避けられないとともに、大きな電力を必要とする。そのため、ビットエラーレートの低い高速な信号が必要とされる光通信において使用することが困難である。
【0011】
一方、フォトニック結晶を用いた光機能素子は、雑音が小さくかつ高速応答が可能であり、分波機能を有するが、光の状態で波長変換および波形整形を行なうことができない。
【0012】
本発明は、上述の問題に鑑みなされたものであり、その一の目的は、雑音が小さくかつ高速応答が可能であって、光の状態で波長変換および波形整形を行うことが可能な光機能素子およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一の局面の光機能素子は、第一の光導波路および第二の光導波路を有する方向性光結合器を備えている。第一の光導波路と第二の光導波路との間であって、第一の光導波路および第二の光導波路のそれぞれの近傍に可飽和吸収領域が設けられている。第一の光導波路および第二の光導波路は、一方に制御光が入射され、他方に信号光が入射される。この構成によれば、低雑音かつ高速な通信が可能であって、光の状態で波長変換および波形整形を行うことが可能な光機能素子が実現される。
【0014】
前述の光機能素子は、好ましくは、第一の光導波路と第二の光導波路が平行に設けられている。この構成によれば、第一の光導波路と第二の光導波路との間の領域であれば、いずれの位置であっても、可飽和吸収領域を設けることができる。
【0015】
また、本発明の他の局面の光機能素子は、第一の光導波路と第一の光導波路に交差する第二の光導波路を備えている。第一の光導波路と第二の光導波路とが交差する領域に可飽和吸収領域が設けられている。第一の光導波路および第二の光導波路は、一方に制御光が入射され、他方に信号光が入射される。この構成によっても、低雑音かつ高速な通信が可能であって、光の状態で波長変換および波形整形を行うことが可能な光機能素子が実現される。
【0016】
前述の一および他の局面の光機能素子においては、制御光の強度が、可飽和吸収領域における光吸収が飽和する強度以下であることが望ましい。これによれば、信号光の強度が可飽和吸収領域における光吸収が飽和する強度以下であるか否かによって、波長変換および波形整形を行なうことができる。
【0017】
また、前述の一および他の局面の光機能素子においては、制御光の波長と信号光の波長とが同一であってもよい。これによれば、波長整形を行なうことができる。
【0018】
また、前述の一および他の局面の光機能素子においては、制御光の波長と信号光の波長とは異なっていてもよい。これによれば、波長変換を行なうことができる。
【0019】
また、前述の一および他の局面の光機能素子においては、第一の光導波路および第二の光導波路がフォトニック結晶の線欠陥領域によって形成されていてもよい。これによれば、低雑音かつ高速な通信を容易に実現することが可能になる。
【0020】
本発明の光機能素子の製造方法は、光の状態で波長変換および波形整形を行なう光機能素子の製造方法である。その方法は、第一の光導波路と第二の光導波路とを形成する第一の工程と、可飽和吸収領域を形成する第二の工程とを備えている。その第二の工程においては、可飽和吸収領域を構成する物質を含むガスの雰囲気中で、所定の位置に、集束イオンビーム法を用いてイオンを照射し、物質を堆積させることによって、可飽和吸収領域が形成される。この製法によれば、微細な可飽和吸収領域を形成することができる。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば、雑音が小さくかつ高速応答が可能であって、光の状態で波長変換および波形整形を行うことが可能な光機能素子およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態の光機能素子およびその製造方法を、図面を参照して詳しく説明する。なお、各図において機能が同一の部位には同一符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0023】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における光機能素子の上面図である。
【0024】
まず、本実施の形態の光機能素子の構造を説明する。本実施の形態の光機能素子は、フォトニック結晶10を用いて形成されている。フォトニック結晶10には微細な間隔で周期的に円形孔が設けられている。また、フォトニック結晶10には、円形孔が設けられていない線欠陥光導波路1および2が設けられている。線欠陥光導波路1および2においては光が導かれ、フォトニック結晶10の線欠陥光導波路1および2以外の部分は、導波路内に光を閉じ込める機能を有している。
【0025】
また、線欠陥光導波路1と線欠陥光導波路2との間には、可飽和吸収領域6が設けられている。線欠陥光導波路1と線欠陥光導波路2とは、互いに平行であり、かつ、非常に小さな間隔をおいて設けられている。したがって、可飽和吸収領域6は、線欠陥光導波路1および線欠陥光導波路2のそれぞれに非常に接近して設けられている。この可飽和吸収領域6は、光の強度が所定値になるまでは光を吸収し、所定値の強度の光を吸収すると飽和状態となり、光の強度が所定値以上になると光を透過させるものである。
【0026】
次に、本実施の形態の光機能素子の製造方法を説明する。
【0027】
まず、360μm厚さのInP基板上に、有機金属化学気相堆積法(MOCVD:Metal-Organic Chemical Vapor Deposition)によって、InPに格子整合するInGaAsP層(厚さ0.5μm、バンドギャップ波長λg=1.2μm)を積層する。次に、InGaAsP層の表面に電子線露光を用いてマスクパターンを形成する。その後、ドライエッチングすることによってマスクパターンをInGaAsP層に転写し、図1に示すような円形孔を規則的にあけた三角格子周期構造からなるフォトニック結晶10を形成する。
【0028】
円形孔のそれぞれの大きさは直径0.3μmであり、それらの間隔は0.4μmである。このとき、円形孔をあけずに周期構造に欠陥を有する領域が線状に形成される。それにより、線欠陥光導波路1と線欠陥光導波路2とが平行に形成される。線欠陥光導波路1は、入力ポートIn1と出力ポートOut1を備え、入力ポートIn1から“0”または“1”の二値のRZ信号光3(波長λ1)が入射される。線欠陥光導波路2は、入力ポートIn2と出力ポートOut2を備え、入力ポートIn2から制御光4(波長λ2)が入射される。
【0029】
線欠陥光導波路1と線欠陥光導波路2との間に設けられた可飽和吸収領域6は、Ge雰囲気中でGa+イオンによって形成された集束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)を用いて、Geを所定の位置に堆積させることによって形成される。具体的には、ガス銃によってフォトニック結晶10にGeガスを吹き付けながら、可飽和吸収領域6を設ける位置にイオンビームを照射し、その位置に局所的にGeを堆積させる。
【0030】
次に、本実施の形態の光機能素子の動作原理を説明する。
【0031】
本実施の形態では、この光機能素子の2本の光導波路に異なる波長の光を入射させることにより波長変換を行なっている。可飽和吸収領域6は、前述のように、光を吸収するが、ある一定以上の強度の光が入力されて吸収が飽和すると、光に対し透明となり、光を透過させる。
【0032】
可飽和吸収領域6と線欠陥光導波路1および2のそれぞれとは、近接して設けられ、光機能素子は方向性結合器となっている。また、線欠陥光導波路1と可飽和吸収領域6とは、光が結合する位置関係を有し、また、線欠陥光導波路2と可飽和吸収領域6とも、光が結合する位置関係を有している。したがって、線欠陥光導波路1と線欠陥光導波路2とは、可飽和吸収領域6が吸収状態のときは独立している。一方、可飽和吸収領域6が飽和して光を透過する状態では、可飽和吸収領域6を介して線欠陥光導波路1と線欠陥光導波路2とは結合し、一方の光導波路内を伝搬する光波の一部が他方の光導波路を伝搬するようになる。
【0033】
図1において、線欠陥光導波路1には波長λ1=1550nmの二値の信号光3(実線)が入力され、線欠陥光導波路2には波長λ2=1551.6nmの一定強度の制御光4(CW光:Continuous Wave、点線)が入力される。制御光4の強度は可飽和吸収領域6が飽和する閾値を越えない強度に設定されており、可飽和吸収領域6が飽和しないかぎり、制御光4は一部の光が可飽和吸収領域6に吸収されながらOut2からのみ出射される。
【0034】
したがって、信号光3が可飽和吸収領域6を飽和させない弱い強度、すなわち信号光3が“0”の状態で線欠陥光導波路1に入射されるときは、制御光4は可飽和吸収領域6にその一部の光が吸収されるだけで線欠陥光導波路1に伝播されず、出力ポートOut2からのみ出射される。一方、信号光3が“1”となって強い強度を有する光が線欠陥光導波路1に入射されると、可飽和吸収領域6は、飽和して光が透過する状態になり、制御光4が線欠陥光導波路1内を伝搬する。このため、制御光4の線欠陥光導波路2から線欠陥光導波路1への伝搬のオン/オフが信号光3の“0”または“1”と同期し、出力ポートOut1から波長λ2の光を出射するか否かが切り替えられる。
【0035】
なお、出力ポートOut1からの出射光5に含まれる波長λ1の光は、光フィルタ7により容易に除去され得る。したがって、本実施の形態の光機能素子によれば、波長λ1の信号光3を、信号光3と同様に変調された波長λ2の光へ波長変換することができる。すなわち、本実施の形態における制御光4は、信号光3の“0”または“1”のデータ列に従って変調され、波長変換後の光信号として出力ポートOut1から出射される。
【0036】
このとき、信号光3の消光比が伝送途中で劣化していて“0”の信号の強度が完全に0ではなかったとしても、可飽和吸収領域6が飽和する量に達しなければ、出力ポートOut1から波長λ2の光は出射されないため、波長変換後の消光比が向上する。また、本実施の形態の光機能素子によれば、利得領域が無いため、電流注入は不要であり、かつ、ASE雑音が生じないため、出力される光信号の劣化を防止することができる。また、本実施の形態の光機能素子は、光導波路の一部品として設けられ得るため、小さい構成かつ低い消費電力で波長変換を行うことができる。
【0037】
また、本実施の形態では、光導波路として、フォトニック結晶の線欠陥光導波路を用いているため、光導波路の光閉じ込め効果が良好となり、光の伝搬損失を低減することができる。
【0038】
また、本実施の形態では、2本の光導波路が互いに平行に設けられているため、可飽和吸収領域は光導波路の間であれば、いずれの位置に設けられていてもよい。そのため、光導波路同士の間を伝搬する光の制御性が良好となる。また、光導波路と可飽和吸収領域との間の光の結合係数を光導波路方向の可飽和吸収領域6の位置によらず一定に維持することができるため、光導波路同士の間を伝播する光の強度が安定する。
【0039】
なお、本実施の形態では制御光4をCW光としたが、制御光4は変調されてもよい。その場合、消費電力が低減されるが、制御光4と信号光3とを同期させる必要がある。このとき、出力ポートOut2から出射する信号光3と制御光4とを利用してもよい。その場合、たとえば、出力ポートOut2からの出射光の状態をフォトダイオードなどの受光素子で検知しモニターすることで、入射させる制御光4の強度を調整することができる。
【0040】
また、本実施の形態では、可飽和吸収領域6の形成のためにFIBによる埋め込み作用を利用しているため、所望の領域に微小な可飽和吸収領域6を形成することが可能となっている。ただし、可飽和吸収領域6の形成方法は、これに限定されるものではなく、イオン注入が用いられてもよい。この場合、マスクを用いてInGaAsP層の一部に、たとえば、Si+イオンまたはAs+イオンが選択的に注入され、その後、RTA(Rapid Thermal Anneal)処理が行なわれる。この方法によれば、アニール処理の工程が増加するが、FIBよりも簡便に可飽和吸収領域6を形成することができる。
【0041】
また、イオン注入以外に、選択エピタキシャル成長法が用いられてもよい。この方法によれば、可飽和吸収領域6を設ける位置に開けた円形孔にInGaAsを成長させるため、FIBよりも簡便に可飽和吸収領域6を形成することができる。
【0042】
また、このとき、可飽和吸収領域6の材料は、本実施の形態の可飽和吸収領域6の材料に限定されるのではなく、可飽和吸収特性を有する材料であれば、他の如何なる材料であってもよい。
【0043】
また、本実施の形態では、周期構造は光機能素子の表面に露出しているが、InGaAsP層の上面および下面のそれぞれにクラッド層としてInP層が積層されてもよい。この場合、周期構造が設けられた層が上下同一のInP層によって挟まれるため、光機能素子の屈折率が上下方向において対称になり、光の閉じ込め効果が向上する。
【0044】
また、InP層を積層する代わりに、光導波路が作り込まれたInGaAs層の下のInP基板の一部をウェットエッチングによって刳り貫いてもよい。この場合、周期構造が設けられた層が上下から同一の空気の層によって挟まれているため、光機能素子の屈折率が上下方向において対称になり、光の閉じ込め効果が向上する。
【0045】
また、本実施の形態では、光導波路を形成するためにInGaAsP/InPウエハが用いられているが、光導波路の材料は、これに限定されるものではなく、SOI(Silicon On Insulator)ウエハであってもよい。
【0046】
たとえば、650μm厚さのSi基板上に1μm厚さのSiO2層を備え、さらにその上に0.2μm厚さのSi層を備えるSOIウエハに、電子ビーム(EB:Electron Beam)露光とドライエッチングとによって周期構造を形成し、Si層に可飽和吸収領域となる条件を満たす不純物を導入することで可飽和吸収領域を形成する方法が考えられる。
【0047】
この方法によれば、Si層は加工が容易であるため、光機能素子の歩留まりが向上する。また、このとき、Si層中の円形孔にGeを埋め込むと可飽和吸収領域が形成されるが、その形成方法には、FIBが用いられる必要はなく、イオン注入が用いられてもよい。この場合、マスクを用いて、可飽和吸収領域となる位置に、選択的に、たとえば、Ge+イオンまたはP+イオンを注入し、その後、RTA処理を行う方法が考えられる。この方法によれば、アニール工程が増加するが、FIBよりも簡便に可飽和吸収領域を形成することができる。
【0048】
また、イオン注入以外に、選択エピタキシャル成長法によってSi層に可飽和吸収領域を導入する方法が用いられてもよい。この方法では、可飽和吸収領域を設ける位置に開けた円形孔において、GeまたはInGaAsなどが成長する。この方法によれば、FIBよりも簡便に可飽和吸収領域を形成することができる。
【0049】
また、このとき、可飽和吸収領域の材料は本実施の形態の材料に限定されるものではなく、可飽和吸収特性を有する材料であれば、他の材料が用いられてもよい。
【0050】
また、このとき、光導波路が作り込まれたSi層の上面および下面のそれぞれにクラッド層としてSiO2層を積んでもよい。この場合、屈折率が上下対称になり、光の閉じ込め効果が向上する。
【0051】
また、SiO2層を積む代わりに、光導波路が作り込まれたSi層の下のSiO2層をウェットエッチングによって刳り貫いてもよい。この場合、周期構造が設けられた層が上下から同一の空気の層によって挟まれているため、屈折率が上下対称になり、光の閉じ込め効果が向上する。
【0052】
また、本実施の形態では、フォトニック結晶による線欠陥光導波路を用いたが、Si細線導波路を用いても同じ効果が得られる光機能素子を製造することができる。
【0053】
(実施の形態2)
次に、図2を用いて、実施の形態2の光機能素子を説明する。本実施の形態の光機能素子は、信号光13の波長と制御光14の波長とが共にλであること以外は全て実施の形態1の光機能素子と同様であり、その製造方法としては、実施の形態1において説明された光機能素子の製造方法が用いられる。
【0054】
次に、本実施の形態の光機能素子の動作原理を説明する。
【0055】
本実施の形態では、光機能素子内の2本の光導波路に入射する信号光13の波長と制御光14の波長とを同一にすることにより、波形整形が行なわれる。
【0056】
図2において、線欠陥光導波路1には波長λ=1550.0nmの二値の信号光13(実線)が入力され、線欠陥光導波路2にも同様に波長λの制御光14(点線)が入力される。制御光14は、信号光13と同期して変調されており、信号光13の“0”または“1”と同期してオン/オフされ、ゲート光として機能する。
【0057】
可飽和吸収領域6は、制御光14がオンかつ信号光13が“0”の状態のときは飽和せず、制御光14がオンかつ信号光13が“1”の状態のときのみ飽和し光を透過する条件で、形成されている。線欠陥光導波路1に信号光13が入射されると、制御光14がオフのとき、信号光13は、可飽和吸収領域6に光波の一部が吸収され、出力ポートOut1からのみ出射される。
【0058】
一方、制御光14がオンとなって強い光が入力ポートIn2に入射されると、可飽和吸収領域6は飽和して光を透過する状態になる。そのため、信号光13が可飽和吸収領域6を介して出力ポートOut2から出射される。その結果、出力ポートOut2では制御光14のオン/オフが出力ポートOut2の透過および非透過に対応し、制御光14がオフのときは出力ポートOut2から光が出射されず、制御光14がオンのときのみ信号光13と制御光14とが共に出力ポートOut2から出射される。
【0059】
したがって、入射した信号光13よりも消光比が向上し、かつ、信号光13と同期するように変調された出射光15が出力ポートOut2から出射される。すなわち、波長整形された出力光が得られる。
【0060】
本実施の形態の光機能素子によっても、実施の形態1の光機能素子と同様に、利得領域を有していないため電流注入が不要であり、かつASE雑音が生じないため信号の劣化を防止することができる。また、本実施の形態の光機能素子は、光導波路の一部品として設けられるため、小さい構成でかつ低い消費電力で波長整形を行うことができる。
【0061】
このとき、出力ポートOut1から出射される信号光13と制御光14とを利用してもよい。その場合、たとえば、出力ポートOut1からの出射光の状態をフォトダイオードなどの受光素子で検知しモニターすることで、入力ポートIn2に入射させる制御光の強度を調整することができる。
【0062】
(実施の形態3)
図3は、本発明の実施の形態3における光機能素子の斜視図である。
【0063】
まず、本実施の形態の光機能素子の構造を説明する。本実施の形態の光機能素子は、Si細線光導波路31および32が設けられている。Si細線光導波路31および32は、内部に光を閉じ込める機能を有している。また、本実施の形態の光機能素子においては、Si細線光導波路31とSi細線光導波路32とは、交差している。この交差点に、可飽和吸収領域36が設けられている。つまり、可飽和吸収領域36は、Si細線光導波路31およびSi細線光導波路32のそれぞれの内部に設けられている。この可飽和吸収領域36は、光の強度が所定値までは光を吸収し、所定値の強度の光を吸収すると飽和状態となり、所定値以上の強度の光を透過させるものである。
【0064】
次に、本実施の形態の光機能素子の製造方法を説明する。
【0065】
本実施の形態の光機能素子の製造方法においては、まず、650μm厚さのSi基板の上に1μm厚さのSiO2層を形成する。次に、SiO2層の上に0.2μm厚さのSi層を形成する。したがって、SOIウエハが形成される。次に、SOIウエハに電子ビーム(EB)露光およびドライエッチングによって図3に示すような幅0.5μmのSi細線光導波路31および32を形成する。このとき、Si細線光導波路31とSi細線光導波路32とは交差するように形成される。
【0066】
Si細線光導波路31は、入力ポートIn1と出力ポートOut1を備え、入力ポートIn1から“0”または“1”の二値のRZ信号光33(波長λ1)が入射される。Si細線光導波路32は、入力ポートIn2と出力ポートOut2とを備え、入力ポートIn2から制御光34(波長λ2)が入射される。
【0067】
Si細線光導波路31とSi細線光導波路32とが交差する領域には、Ge雰囲気中でGa+イオンを用いたFIB法によるイオン照射を行なうことによって、可飽和吸収領域36を構成するGeが堆積される。具体的には、ガス銃によってウエハにGeガスを吹き付けながら、可飽和吸収領域36を設ける位置にイオンビームを照射し、その位置に局所的にGeを堆積させる。
【0068】
次に、この光機能素子の動作原理を説明する。実施の形態3では、この光機能素子の2本の光導波路に異なる波長の光を入射することにより波長変換を行なっている。
【0069】
可飽和吸収領域36は、光を吸収するが、ある一定以上の強度の光が入力されて吸収が飽和すると、光に対し透明となり光を透過させる。
【0070】
図3において、Si細線光導波路31には波長λ1=1550nmの二値の信号光33(実線)、Si細線光導波路32には波長λ2=1551.6nmの一定強度の制御光34(CW光、点線)が入力される。制御光34の強度は可飽和吸収領域36が飽和する閾値を越えない強度に設定されており、可飽和吸収領域36が飽和しないかぎり、制御光34は、可飽和吸収領域36に吸収され、出力ポートOut2から出射されない。
【0071】
したがって、信号光33が可飽和吸収領域36が飽和しない弱い強度、すなわち信号光33が“0”の状態でSi細線光導波路31に入射されるときは、制御光34は可飽和吸収領域36に吸収されるだけで出力ポートOut2から出射されない。
【0072】
一方、信号光33が“1”となって強い強度を有する光が入力ポートIn1に入射されると、可飽和吸収領域36は飽和して光が透過する状態になり、出力ポートOut2から波長λ2の出射光35が出射される。このため、制御光34の出力ポートOut2への伝搬のオン/オフが信号光の“0”または“1”と同期し、出力ポートOut2からの波長λ2の出射光35の出射と非出射とが切り替えられる。
【0073】
なお、出力ポートOut2からの出射光35に含まれる波長λ1の光は、光フィルタ37によって容易に除去され得る。したがって、波長λ1の信号光33は、信号光33と同様の変調がなされた波長λ2の光への波長変換が行われる。すなわち、実施の形態3における制御光34は、信号光33の“0”または“1”のデータ列に従って変調され、波長変換後の光信号として出力ポートOut2から出射される。
【0074】
このとき、信号光33の消光比が伝送途中で劣化していて“0”の強度が完全に0でなかったとしても、可飽和吸収領域36が飽和する量に達しなければ出力ポートOut2からの波長λ2の光は出射されないため、波長変換後の消光比が向上する。また、本実施の形態の光機能素子は、利得領域を有していないため、電流注入は不要であり、かつASE雑音が生じないため、信号の劣化を防止することができる。また、光機能素子は、光導波路の一部品として設けられ得るため、小さい構成でかつ低い消費電力で波長変換を行うことができる。
【0075】
本実施の形態3の光機能素子によれば、光導波路としてSi細線が用いられているため、光導波路の微細化を実現することが可能である。さらに、Si細線は、光導波路の形成のためによく用いられるSiO2よりもバンドギャップが狭く、かつ、イオン注入によって可飽和吸収領域を形成し易いという利点がある。
【0076】
また、本実施の形態の光機能素子によれば、フォトニック結晶のような周期構造を形成する必要が無いため、その製造方法が容易になる。
【0077】
また、本実施の形態では、Si細線導波路が交差しているため、可飽和吸収領域36を光導波路の内部に形成することができる。そのため、光導波路と可飽和吸収領域との間で光を結合させ易い。
【0078】
なお、本実施の形態では制御光34をCW光としたが、制御光34は変調されてもよい。その場合、消費電力が低減されるが、制御光34と信号光33とを同期させる必要がある。
【0079】
このとき、出力ポートOut1からの出射光38が利用されてもよい。その場合、たとえば、出力ポートOut1からの出射光38に含まれる信号光33および制御光34のうちの少なくともいずれか一方の状態をフォトダイオードなどの受光素子で検知しモニターすることによって、入射させる制御光34の強度の調整に利用することができる。
【0080】
本実施の形態では、可飽和吸収領域の形成のためにFIBによる埋め込み作用を利用しているが、その形成方法は、これに限定されるものではなく、イオン注入が用いられてもよい。
【0081】
この場合、マスクが用いられて、選択的に、たとえば、Ge+イオンまたはP+イオンがSi層の一部に注入され、その後、RTA処理が行なわれる。この方法によれば、アニール工程が増加するが、FIBよりも簡便に可飽和吸収領域36を形成することができる。
【0082】
また、イオン注入以外に、選択エピタキシャル成長法によってSi層に可飽和吸収領域36となる位置に導入する方法が用いられてもよい。この方法では、可飽和吸収領域36を設ける位置にGeまたはInGaAsなどが成長する。この方法によっても、FIBよりも簡便に可飽和吸収領域を形成することができる。
【0083】
また、このとき、可飽和吸収領域36の材料は実施の形態3の材料に限定されるものではなく、可飽和吸収特性を有する材料であれば、他の材料が用いられてもよい。
【0084】
実施の形態3においては、光導波路が光機能素子表面に露出しているが、光導波路が作り込まれたSi層の上面および下面のそれぞれにクラッド層としてSiO2層を積層させてもよい。この場合、周期構造が設けられた層が上下同一のSiO2層によって挟まれるため、屈折率が上下対称になり、光の閉じ込め効果が向上する。
【0085】
また、SiO2層を積む代わりに、光導波路が作り込まれたSi層の下のSiO2層をウェットエッチングによって刳り貫いてもよい。この場合、周期構造が設けられた層が上下から同一の空気の層によって挟まれているため、屈折率が上下対称になり、光の閉じ込め効果が向上する。
【0086】
また、本実施の形態においては、Si細線導波路が用いられているが、その代わりに、フォトニック結晶中の線欠陥導波路が用いられても、同じ効果が得られる光機能素子を製造することができる。
【0087】
また、本実施の形態では、光導波路を形成するためにSOIウエハを用いたが、光導波路の材料はこれに限定されるものではなく、InGaAsP/InPウエハが用いられてもよい。
【0088】
たとえば、360μm厚さのInP基板上にMOCVDによって、InPに格子整合するInGaAsP層(厚さ0.5μm、バンドギャップ波長λg=1.2μm)を積層し、このInGaAsP層の表面に電子線露光を用いてマスクパターンを形成した後、ドライエッチングを行なうことによって幅0.5μmの光導波路を形成する方法が用いられてもよい。
【0089】
(実施の形態4)
次に、図4を用いて、実施の形態4の光機能素子を説明する。本実施の形態の光機能素子は、信号光43の波長と制御光44の波長とが共にλであること以外は全て実施の形態1の光機能素子と同様であり、その製造方法としては、実施の形態3において説明された光機能素子の製造方法が用いられる。
【0090】
本実施の形態の光機能素子の動作原理を説明する。
【0091】
本実施の形態では、この光機能素子の2本の導波路に入射する光の波長を同一にすることにより波形整形が行なわれている。
【0092】
図4において、Si細線光導波路31には波長λ=1550.0nmの二値の信号光43(実線)が入力され、Si細線光導波路32にも同様に波長λの制御光44(点線)が入力される。制御光44は信号光43と同期して変調されており、制御光44は、信号光43の“0”または“1”と同期してオン/オフされ、ゲート光として機能する。可飽和吸収領域36は、制御光44がオンかつ信号光43が“0”の状態のときは飽和せず、制御光44がオンかつ信号光43が“1”の状態のときのみ飽和し光を透過する条件で、形成されている。
【0093】
Si細線光導波路31に信号光43が入射されると、制御光44がオフのとき、信号光43は、可飽和吸収領域36に吸収され、出力ポートOut1から出射されない。一方、制御光44がオンとなって強い光が入力ポートIn2に入射されると、可飽和吸収領域36が飽和するため、可飽和吸収領域36を光が透過する。このため、信号光43が可飽和吸収領域36を介して出力ポートOut1から出射される。したがって、出力ポートOut1では制御光44のオン/オフがOut1の透過または非透過に対応し、制御光44がオフのときは出力ポートOut1からは光が出射されず、制御光44がオンのときのみ波長λの出射光45が出力ポートOut1から出射される。その結果、入射した信号光43よりも消光比が向上した、信号光43と同期するように変調された出射光45が出力ポートOut1から出射される。すなわち、波長整形された光が得られる。
【0094】
本実施の形態の光機能素子は、利得領域を有していないため、電流注入が不要であり、かつASE雑音が生じないため、信号の劣化を防止することができる。また、本実施の形態の光機能素子は、光導波路の一部品として設けることができるため、小さい構成でかつ低い消費電力で波長整形を行うことができる。
【0095】
このとき、出力ポートOut2からの出射光46が利用されてもよい。その場合、たとえば、出力ポートOut2からの出射光46に含まれる信号光43および制御光44のうちの少なくともいずれか一方の状態をフォトダイオードなどの受光素子で検知しモニターすることによって、入力ポートIn2に入射させる制御光44の強度の調整することができる。
【0096】
なお、前述の各実施の形態の光機能素子は、InGaAsP系の化合物半導体をはじめとして、AlGaAs系、GaInNAs系、GaN系、およびII−VI族半導体など他の材料を用いても実現され得るものである。
【0097】
また、実施の形態では、光信号は“0”または“1”のRZ符号であるが、NRZ符号または多値信号およびその他の光信号であってもよい。
【0098】
また、前述の各実施の形態においては、波長が1550.0nmおよび1551.6nmの光が用いられているが、可飽和吸収領域に所定値以上の強度の光が入力されると、可飽和吸収領域の光の吸収作用が飽和し、波形整形および波長変換の効果が得られる波長の光であれば、他の波長の光が用いられてもよい。
【0099】
以上のように、前述の各実施の形態の光機能素子によれば、少なくとも2本の光導波路と可飽和吸収領域とを備えた光機能素子を用いて、光信号の波長変換および波形整形を光の状態で行なうことができ、消費電力が低く、放熱が少なく、回路へかける負担が少なく、サイズが小さく、かつ構成が簡潔な光機能素子を得ることができる。
【0100】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明の実施の形態1における光機能素子の構成を示す上面図である。
【図2】本発明の実施の形態2における光機能素子の構成を示す上面図である。
【図3】本発明の実施の形態3における光機能素子の構成を示す斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態4における光機能素子の構成を示す斜視図である。
【図5】従来のフォトニック結晶が用いられた分波器の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0102】
1,2 線欠陥光導波路、31,32 Si細線光導波路、3,13,33,43 信号光、4,14,34,44 制御光、6,36 可飽和吸収領域、5,15,35,38,45,46 出射光、7,37 波長フィルタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の光導波路および第二の光導波路を有する方向性光結合器を備え、
前記第一の光導波路と前記第二の光導波路との間であって、前記第一の光導波路および前記第二の光導波路のそれぞれの近傍に可飽和吸収領域が設けられ、
前記第一の光導波路および前記第二の光導波路は、一方に制御光が入射され、他方に信号光が入射される、光機能素子。
【請求項2】
前記第一の光導波路と前記第二の光導波路が平行に設けられた、請求項1に記載の光機能素子。
【請求項3】
第一の光導波路と前記第一の光導波路に交差する第二の光導波路とを備え、
前記第一の光導波路と前記第二の光導波路とが交差する領域に可飽和吸収領域が設けられ、
前記第一の光導波路および前記第二の光導波路は、一方に制御光が入射され、他方に信号光が入射される、光機能素子。
【請求項4】
前記制御光の強度は、前記可飽和吸収領域における光吸収が飽和する強度以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の光機能素子。
【請求項5】
前記制御光の波長と前記信号光の波長とが同一である、請求項1〜3のいずれかに記載の光機能素子。
【請求項6】
前記制御光の波長と前記信号光の波長とは異なる、請求項1〜3のいずれかに記載の光機能素子。
【請求項7】
前記第一の光導波路および前記第二の光導波路がフォトニック結晶の線欠陥領域によって形成されている、請求項1に記載の光機能素子。
【請求項8】
光の状態で波長変換および波形整形を行なう光機能素子の製造方法であって、
第一の光導波路と第二の光導波路とを形成する第一の工程と、
可飽和吸収領域を形成する第二の工程とを備え、
前記第二の工程においては、前記可飽和吸収領域を構成する物質を含むガスの雰囲気中で、所定の位置に、集束イオンビーム法を用いてイオンを照射し、前記物質を堆積させることによって、前記可飽和吸収領域を形成する、光機能素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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