説明

光沢外観と耐食性に優れためっき鋼材および製造方法

【課題】犠牲防食能を有し、光沢外観と耐食性に優れたNi系のめっき鋼材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】Ni含有率が40〜65mass%の非晶質Ni−Zn合金めっき層を表層に有することを特徴とする、光沢外観と耐食性に優れたNi−Zn合金めっき鋼材、および前記Ni−Zn合金めっき層と鋼材の界面にNiめっき層を有することを特徴とする光沢外観と耐食性に優れためっき鋼材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光沢外観と耐食性に優れた、Ni系のめっき鋼材に関わるものである。
【背景技術】
【0002】
Niめっきは、その皮膜が美麗な光沢外観を有するとともに、耐薬品性や耐熱性にも優れることから、装飾品、家電製品、電気電子部品等に広く利用されている。ところが、鋼材にNiめっきを施した場合、めっき層が下地の鋼材よりも電気的に貴であるため、腐食環境下では、めっきピンホール部やめっき損傷部から赤錆が発生することとなる。そのため、腐食環境の厳しい用途への展開は制限されているのが現状である。
【0003】
Niめっき層に、鋼に対する犠牲防食能を付与すれば、前述の問題は回避できる。例えば、特許文献1では、Niめっき層中に、ZnあるいはMnの金属粒子を分散させためっき鋼材が開示されている。しかしながら、このめっき層は、Niマトリックス中のZn成分が激しい局部腐食を受けやすく、その結果、短期でZnの効果が消失して赤錆発生に至る。また、金属微粒子の分散めっきであるため、めっき層の密着性にも問題が出やすく、さらに、操業性も非常に悪い。
【0004】
特許文献2では、Zn−Ni合金中のNi含有率が約20〜70at%であって、クラックがなく、金属光沢をもつことを特徴とする、非晶質Zn−Ni合金が開示されており、前記合金を電気めっきする浴として、亜鉛ハロゲン化物と、ニッケルハロゲン化物と、アルキルイミダゾリウムハロゲン化物とエチレングリコールからなる電解液(常温型溶融塩)が開示されている。一方、Zn−Ni合金めっき鋼板のNi含有率は、10〜20%程度が良好であり、これを超えると、耐赤錆性が顕著に悪化することが知られている(例えば非特許文献1)ことから、特許文献2のような、Ni含有率の高い合金めっき層の鋼材防食皮膜としての特性検討は、ほとんどなされていないのが現状である。
【0005】
従来、Ni:10〜20%のγ単相からなるZn−Ni合金めっき鋼材については、広く実用化されるとともに、詳細な検討がなされてきた。このようなめっき層は、耐赤錆性は良好であるが、Niめっき様の美麗な光沢外観を得ることはできず、また、腐食環境下での白錆の発生も顕著であり、本願が目的とするような用途には向かない。Ni:20%を超えるような領域では、γ相とα相の混相となって、犠牲防食能が低下し、耐食性も悪化することから、それ以上のNi含有率の領域での検討例はほとんどない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平1−279796号公報
【特許文献2】特開2007−204845号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】鉄と鋼,日本鉄鋼協会論文誌,1980年,第66巻,第7号,p.771−778
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、犠牲防食能を有し、光沢外観と耐食性に優れたNi系のめっき鋼材、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、犠牲防食能が低下するといわれている、Ni含有率が高い領域を詳細に調査したところ、従来の常識に反して、ある特定領域で、極めて良好な性能の得られることを見出した。そして、この知見をもとに検討を重ね、本発明を完成するに至ったのである。本発明は、以下の通りである。
【0010】
(1)非晶質Ni−Zn合金めっき層を表層に有し、該めっき層のNi含有率が40〜65mass%であることを特徴とする、光沢外観と耐食性に優れためっき鋼材。
【0011】
(2)前記Ni−Zn合金めっき層の付着量が1〜20g/mであることを特徴とする、(1)に記載の光沢外観と耐食性に優れためっき鋼材。
【0012】
(3)前記Ni−Zn合金めっき層と鋼材の界面にNiめっき層を有することを特徴とする、(1)または(2)に記載の光沢外観と耐食性に優れためっき鋼材。
【0013】
(4)前記Niめっき層の付着量が10〜30g/mであることを特徴とする、(3)に記載の光沢外観と耐食性に優れためっき鋼材。
【0014】
(5)前記Ni−Zn合金めっき層が水溶液から電析されたものであることを特徴とする、(1)〜(4)のいずれかに記載の光沢外観と耐食性に優れためっき鋼材。
【0015】
(6)前記Ni−Zn合金めっき層が全塩化物浴から電析されたものであることを特徴とする、(5)に記載の光沢外観と耐食性に優れためっき鋼材。
【0016】
(7)塩化Ni:0.1〜1.2mol/リットル、塩化Zn:0.05〜0.8mol/リットル、および塩化物からなる支持電解質を含有し、浴中のNi濃度(Ni/(Ni+Zn))を60〜90mol%とした水溶液を用い、浴温30〜60℃、めっき電流密度10〜100A/dmとして鋼材に電気めっきすることを特徴とする、(1)または(2)に記載の光沢外観と耐食性に優れためっき鋼材の製造方法。
【0017】
(8)鋼材にNiめっきを施した後、塩化Ni:0.1〜1.2mol/リットル、塩化Zn:0.05〜0.8mol/リットル、および塩化物からなる支持電解質を含有し、浴中のNi濃度(Ni/(Ni+Zn))を60〜90mol%とした水溶液を用い、浴温30〜60℃、めっき電流密度10〜100A/dmとして電気めっきすることを特徴とする、(3)または(4)に記載の光沢外観と耐食性に優れためっき鋼材の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、簡便な方法で、犠牲防食能を有し、光沢外観と耐食性に優れたNi系のめっきを有する鋼材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】めっき層のNi含有率と耐食性との関係を示す図である。
【図2】めっき層のNi含有率と光沢外観との関係を示す図である。
【図3】めっき層のNi含有率とめっき密着性との関係を示す図である。
【図4】本発明のめっき鋼材の表面SEM写真であり、Aは倍率1000倍、Bは倍率10000倍の場合を示す。
【図5】本発明のめっき鋼材のXRD解析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の鋼材は、Ni含有率が40〜65mass%(以下、mass%を単に%と表記する)のNi−Zn合金めっき層を表層に有することを特徴とする。これについて、図を用いて詳細に説明する。
【0021】
図1は、冷延鋼板を原板として、水溶液電解(種々の濃度比の塩化Zn、塩化Ni、塩化アンモニウムの混合水溶液)により、種々のNi含有率のNi−Znめっき層を、各々メッキ付着量として10g/m電気めっきしたものを供試材として用い、耐食性(SST24Hr)を評価した結果を表している。従来の知見どおり、めっき層のNi含有率が20%以上の濃度域では、20〜40%の領域は、Ni含有率の増加に伴い耐食性が急激に悪化しているが、40〜70%の領域は良好な性能を示している。そして、Ni含有率が70%を超えて増加すると、耐食性は再び急激に悪化している。
【0022】
図2は、前記と同一サンプルで、光沢外観を評価した結果を表している。Ni含有率が40%以上の領域で、Niめっきと同等以上の良好な光沢外観が得られるが、Ni含有率が80%〜90%程度の領域は、光沢度が急激に低下する場合があるなど、不安定な挙動を示している。
【0023】
図3は、前記と同一サンプルで、めっきの密着性を、エリクセン7mm押し出し、テープ剥離法で評価した結果を表している。Ni含有率が70%前後の領域でのみ、剥離面積率が急増したが、それ以外の領域は良好となっている。Ni含有率が70%前後の領域は、Ni−Zn状態図上のNi中のZn固溶限に対応しており、このことがめっき密着性に何らかの影響を及ぼしている可能性があると思われるが、詳細は不明である。
【0024】
以上、図1〜3の結果をもとに、本発明では、良好な性能の得られるNi−Znめっき層のNi含有率として、40〜65%と規定した。なお、40%では耐食性および光沢外観が臨界的な領域であり、65%ではめっき密着性が臨界的な領域であることから、より安定な性能が得られるという点では、Ni含有率は45〜60%の範囲がより好ましい。
【0025】
本めっき鋼材の、表面SEM写真を図4に示す。なお、ここに示すサンプルは、前記の図1〜3で示したもののうち、Ni:51%のサンプルである。図4のAに示す1000倍での観察結果から、めっき層にクラック1が存在することがわかる。クラックは、1000倍の視野内に1〜10本程度観察される(図4のAでは2本観察される)程度存在している。この程度のクラックは、Ni:10〜20%のγ単相からなるZn−Ni合金めっきでも観察されるものである。さらに、図4のBに示す10000倍での観察結果から、めっき層には明らかな結晶状態が観察されないことがわかる。
【0026】
本めっき鋼材の、XRD測定結果を図5のAに示す。ここでのめっき鋼材は、watt浴からなる通常のNiめっき浴をベースとして、塩化Znを添加し作成した、種々のNi/Ni+Zn濃度比の水溶液で電気めっきしたものである。図5のAは、極低電流密度(1A/dm以下)で得られるものであり、基材以外の回折ピークが見られず、めっき層は非晶質であることがわかる。一方、図5のB、Cは、比較的高い電流密度(10A/dm)で得られたものであるが、Bではα相、Cではα相とγ相からなっている。B、Cの状態では、外観にムラが出やすく、耐食性も低下するため、本発明のめっき層は、図5のAのように、XRDで回折ピークが検出されない、非晶質のものに限定した。なお、先に示した図1〜3の全塩化物浴から電析した、Ni含有率が40〜65%のNi−Zn合金めっき層は、めっき時の電流密度によらず、図5のAと同様の、非晶質のものが得られる。
【0027】
本めっき鋼材の防食機構は、必ずしも明らかでないが、次のように考えられる。本発明の、Ni含有率が40〜65%のNi−Zn合金めっきの、5%NaCl水溶液中における浸漬電位を測定すると、Niのみのめっき層よりも0.2V程度以上卑な電位を示し、鋼材の電位と同程度かやや卑な電位を有する。具体的には、銀/塩化銀電極に対して−0.5〜−0.6V程度の電位を有する。このことから、Ni含有率が40〜65%のNi−Zn合金めっきが、鋼材に対して、穏やかな犠牲防食能を有することがわかる。
【0028】
Znめっき鋼材、あるいはNiめっき鋼材においては、めっきの付着量の増加に伴い耐食性は単調に増加するが、本めっき鋼材においては、付着量を増加させても必ずしも単調には向上せず、付着量が大きすぎると逆に悪化する。これは、めっき層のクラック数やその巾が、めっき付着量の増加に伴い増加することが認められることから、これらが影響しているためと推定される。さらに、付着量が大きい場合にはめっき密着性も悪化する。また、付着量が低すぎる場合には、鋼材表面を十分に覆うことができず耐食性は低下するので、付着量範囲としては、1〜20g/mが好ましく、3〜15g/mであることがより好ましい。
【0029】
本発明のNi−Zn合金めっき鋼材の耐食性は、良好な耐赤錆性を有すると知られている、Ni:10〜20%のγ単相からなるZn−Ni合金めっき鋼材と比較して、同等か若干劣るレベルではあるが、腐食の初期段階での白錆の発生が極めて軽微であり、また、光沢外観の点ではむしろ優れており、さらに、純Niめっき鋼材に対して良好な耐赤錆性を有することから、装飾品、電気電子部品等、広く利用されているNiめっき鋼材の代替として有効に適用可能である。
【0030】
ところで、本発明のNi−Znめっき層は非晶質であり、非晶質は一般的に硬く割れやすいことから、めっき層形成後、加工して使用する場合は、やや耐食性が低下することがある。また、前述のように、めっき付着量を上げても、逆に耐食性は低下する傾向がある。
【0031】
このようなことから、加工後の耐食性をより高度なものとするためには、本発明では、鋼材に通常のNiめっき層を形成し、その上層に、前記のNi含有率が40〜65%の非晶質Ni−Zn合金めっき層を形成することが好ましい。これにより、加工後も含めて、より良好な耐食性を得ることができる。
【0032】
下層のNiめっき層については、より良好な耐食性を得るため、下限を10g/mとするのが好ましく、15g/m以上がさらに好ましい。また、付着量を上げすぎると密着性が低下し、また不経済でもあるので、30g/mを上限とするのが好ましく、25g/m以下がさらに好ましい。非晶質Ni−Zn合金めっき層については、前述したように、付着量範囲としては、1〜20g/mが好ましく、3〜15g/mであることがより好ましい。
【0033】
本発明のめっき鋼材の、Ni含有率が40〜65%の非晶質のNi−Zn合金めっき層は、水溶液からの電気めっき法で得ることができる。具体的には、全塩化物浴を用いることができるが、これに限定されるものではない。ただし、先にも述べたように、硫酸浴、watt浴、スルファミン酸浴では、良好な特性の得られる範囲が狭く、特に、電流密度を高くして生産性を上げることが困難であり、このような観点から、全塩化物浴から電析することが望ましい。
【0034】
具体的には、塩化Ni:0.1〜1.2mol/リットル、塩化Zn:0.05〜0.8mol/リットル、とし、また、浴中のNi濃度(Ni/(Ni+Zn))は、60〜90mol%、より安定には65〜85mol%とし、必要に応じて、塩化物からなる支持電解質(塩化Na、塩化K、塩化アンモニウム等)を添加すればよい。さらに、通常の光沢添加剤、レベリング剤等の添加剤も用いることができる。浴のpHは、1〜6程度が用いられるが、pHが低すぎると効率が低下し、高すぎると外観が悪化しやすいので、2〜5の範囲がより好ましい。
【0035】
電流密度は、10〜100A/dm程度が用いられ、20〜80A/dmの範囲が性能の安定性の点でより好ましい。浴温は、30〜60℃が好ましく、めっき効率の点では45〜60℃がより好ましい。塩化物イオンを含むため、対極には可溶性陽極を用い、Ni、Znあるいはこれらの合金を用いる。
【実施例】
【0036】
以下の実施例1〜5、および比較例1〜5において、冷延鋼板を原板として、脱脂、酸洗処理の後、表1に示す種々のめっき浴で、下記の方法で、単層または複層の電気めっきを行った。
また、実施例6、および比較例6においては、Ni付着量10g/mのNiめっき鋼板を原板とし、脱脂、酸洗処理の後、塩化Ni、塩化Zn、塩化アンモニムからなるめっき浴を用い種々の条件で、上層Ni−Zn合金めっきを行った。
【実施例1】
【0037】
めっき浴1で、浴温60℃、電流密度30A/dmの条件で、種々の付着量のNi−Zn合金めっき層を形成した。いずれのめっき層もXRD測定の結果、図5のAと同様の結果が得られた。
【実施例2】
【0038】
めっき浴7で、浴温60℃、電流密度20A/dmの条件で、15g/mのNiめっき層を形成し、その後、めっき浴1で、浴温60℃、電流密度20〜100A/dmの条件で、種々のNi含有率および付着量のNi−Zn合金めっき層を形成した。なお、上層めっきの構造を確認するため、下層のNiめっきを形成せずに、前記の各Ni−Zn合金めっきを形成したもので、めっき層のXRD測定を行った結果、図5のAと同様の結果が得られた。
【実施例3】
【0039】
めっき浴7で、浴温60℃、電流密度20A/dmの条件で、付着量5〜40g/mのNiめっき層を形成し、その後、めっき浴1で、浴温60℃、電流密度30A/dmの条件でNi−Zn合金めっき層を形成した。なお、上層めっきの構造を確認するため、下層のNiめっきを形成せずに、前記のNi−Zn合金めっきを形成したもので、めっき層のXRD測定を行った結果、図5のAと同様の結果が得られた。
【実施例4】
【0040】
めっき浴7で、浴温60℃、電流密度20A/dmの条件で、付着量15g/mのNiめっき層を形成し、その後、めっき浴2で、浴温50℃、電流密度60および80A/dmの条件でNi−Zn合金めっき層を形成した。なお、上層めっきの構造を確認するため、下層のNiめっきを形成せずに、前記のNi−Zn合金めっきを形成したもので、めっき層のXRD測定を行った結果、図5のAと同様の結果が得られた。
【実施例5】
【0041】
めっき浴7で、浴温60℃、電流密度20A/dmの条件で、付着量15g/mのNiめっき層を形成し、その後、めっき浴3で、浴温40℃、電流密度10A/dmの条件でNi−Zn合金めっき層を形成した。なお、上層めっきの構造を確認するため、下層のNiめっきを形成せずに、前記のNi−Zn合金めっきを形成したもので、めっき層のXRD測定を行った結果、図5のAと同様の結果が得られた。
【実施例6】
【0042】
塩化Ni:0.1〜1.2mol/リットル、塩化Zn:0.05〜0.8mol/リットル、塩化アンモニウム:3.5mol/リットルからなるめっき浴で、浴温30〜60℃、電流密度10〜100A/dmの条件でNi−Zn合金めっき層を10g/mの付着量で形成した。
【0043】
〔比較例1〕
めっき浴7で、浴温60℃、電流密度20A/dmの条件で、15g/mのNiめっき層を形成し、その後、めっき浴1で、浴温70℃、電流密度10A/dmの条件でNi含有率70%のNi−Zn合金めっき層を形成した。なお、上層めっきの構造を確認するため、下層のNiめっきを形成せずに、前記のNi−Zn合金めっきを形成したもので、めっき層のXRD測定を行った結果、図5のAと同様の結果が得られた。
【0044】
〔比較例2〕
めっき浴7で、浴温60℃、電流密度20A/dmの条件で、15g/mのNiめっき層を形成し、その後、めっき浴4で、浴温50℃、電流密度50A/dmの条件でNi含有率39%のNi−Zn合金めっき層を形成した。なお、上層めっきの構造を確認するため、下層のNiめっきを形成せずに、前記のNi−Zn合金めっきを形成したもので、めっき層のXRD測定を行った結果、図5のCと同様の結果が得られた。
【0045】
〔比較例3〕
めっき浴7で、浴温60℃、電流密度20A/dmの条件で、15g/mのNiめっき層を形成し、その後、めっき浴5で、浴温60℃、電流密度50A/dmの条件でNi含有率81%のNi−Zn合金めっき層を形成した。なお、上層めっきの構造を確認するため、下層のNiめっきを形成せずに、前記のNi−Zn合金めっきを形成したもので、めっき層のXRD測定を行った結果、図5のBと同様の結果が得られた。
【0046】
〔比較例4〕
めっき浴7で、浴温60℃、電流密度20A/dmの条件で、15g/mのNiめっき層を形成し、その後、めっき浴6で、浴温60℃、電流密度10および20A/dmの条件でNi−Zn合金めっき層を形成した。なお、上層めっきの構造を確認するため、下層のNiめっきを形成せずに、前記のNi−Zn合金めっきを形成したもので、めっき層のXRD測定を行った結果、電流密度10A/dmの条件で形成したものは図5のCと、電流密度20A/dmの条件で形成したものは図5のBと同様の結果が得られた。
【0047】
〔比較例5〕
めっき浴7で、浴温60℃、電流密度20A/dmの条件で、15g/mまたは90g/mのNiめっき層を形成した。
【0048】
〔比較例6〕
塩化Ni:0.05〜1.5mol/リットル、塩化Zn:0.03〜1mol/リットル、塩化アンモニウム:3.5mol/リットルからなるめっき浴で、浴温25〜70℃、電流密度1〜150A/dmの条件でNi−Zn合金めっき層を10g/mの付着量で形成した。
【0049】
上記実施例、比較例についてそれぞれ性能評価を行った。結果は表2、および表3に示す通りである。性能評価は以下のように行った。
【0050】
密着性:
平板での密着性は、テープ剥離により行った。加工密着性は、エリクセン7mm押し出し加工を行った後、テープ剥離により行った。剥離面積率を計測し、以下のように評価した。
◎:剥離皆無
○:極めて軽微な剥離(剥離面積率5%未満)
△:部分的な剥離(5%以上95%未満)
×:全面剥離(95%以上)
【0051】
光沢外観:
◎:目視で均一かつ、光沢度250以上
○:目視で均一かつ、光沢度200以上250未満
△:目視で不均一、または、光沢度100以上200未満
×:目視で極めて不均一、または、光沢度100未満
【0052】
耐食性:
試験片の端面と裏面をシールして、5%NaClによる塩水噴霧試験(SST)を行った。また、加工後耐食性は、エリクセン7mm押し出し加工後に同様に行った。赤錆発生率を観察し、以下のように評価した。
◎:10%未満
○:10%以上25%未満
△:25%以上50%未満
×:50%以上
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
【表3】

【0056】
実施例1に示すように、本発明のNi−Zn合金めっきを施した鋼材は、良好な平板耐食性を示した。めっき層の付着量は1〜20g/mが好ましく、5〜20g/mが特に好ましいことがわかる。実施例2〜6に示すように、本発明の、Niめっき層を介してNi−Zn合金めっきを施した鋼材は、加工後の耐食性も含め良好な性能を示した。上層の付着量は1〜20g/mにおいて特に良好であり、3〜15g/mでさらに良好であった。
【0057】
また、比較例1〜6では、本発明のNi−Zn合金めっきを形成することができず、その結果、実施例1〜6の鋼材と比較して、耐食性等の性能が劣る結果となった。
【0058】
以上のように、本発明の実施例は良好な性能を示した。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のめっき鋼材は、良好な耐赤錆性を有し、白錆の発生も極めて軽微であり、また光沢外観の点で優れており、装飾品、家電製品、電気電子部品等に広く利用されているNiめっき鋼材の代替として有効に適用可能なものであり、産業上の利用価値は極めて大きいものである。
【符号の説明】
【0060】
1 クラック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質Ni−Zn合金めっき層を表層に有し、該めっき層のNi含有率が40〜65mass%であることを特徴とする、光沢外観と耐食性に優れためっき鋼材。
【請求項2】
前記Ni−Zn合金めっき層の付着量が1〜20g/mであることを特徴とする、請求項1に記載の光沢外観と耐食性に優れためっき鋼材。
【請求項3】
前記Ni−Zn合金めっき層と鋼材の界面にNiめっき層を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の光沢外観と耐食性に優れためっき鋼材。
【請求項4】
前記Niめっき層の付着量が10〜30g/mであることを特徴とする、請求項3に記載の光沢外観と耐食性に優れためっき鋼材。
【請求項5】
前記Ni−Zn合金めっき層が水溶液から電析されたものであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかの項に記載の光沢外観と耐食性に優れためっき鋼材。
【請求項6】
前記Ni−Zn合金めっき層が全塩化物浴から電析されたものであることを特徴とする、請求項5に記載の光沢外観と耐食性に優れためっき鋼材。
【請求項7】
塩化Ni:0.1〜1.2mol/リットル、塩化Zn:0.05〜0.8mol/リットル、および塩化物からなる支持電解質を含有し、浴中のNi濃度(Ni/(Ni+Zn))を60〜90mol%とした水溶液を用い、浴温30〜60℃、めっき電流密度10〜100A/dmとして鋼材に電気めっきすることを特徴とする、請求項1または2に記載の光沢外観と耐食性に優れためっき鋼材の製造方法。
【請求項8】
鋼材にNiめっきを施した後、塩化Ni:0.1〜1.2mol/リットル、塩化Zn:0.05〜0.8mol/リットル、および塩化物からなる支持電解質を含有し、浴中のNi濃度(Ni/(Ni+Zn))を60〜90mol%とした水溶液を用い、浴温30〜60℃、めっき電流密度10〜100A/dmとして電気めっきすることを特徴とする、請求項3または4に記載の光沢外観と耐食性に優れためっき鋼材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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