説明

光測距装置

【課題】最適な測距方式を選択し、測距精度を向上させることが可能な光測距装置。
【解決手段】反射パルスの受光により発生する受光パルスをフィルタリングした後の信号のゼロクロス点を反射パルスの受光時刻として光パルスの投光時刻から受光時刻までの時間を計測し該計測時間に基づいて測距対象物1までの距離を算出する第1測距部6と、反射パルスの受光により発生する受光パルスのレベルが所定の閾値に到達した時点を反射パルスの受光時刻として光パルスの投光時刻から受光時刻までの時間を計測し該計測時間に基づいて測距対象物1までの距離を算出する第2測距部7と、第1測距部6の算出距離と第2測距部7の算出距離とを比較して、算出距離の小さい方を測距対象物1までの距離として選択する選択部8と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測距対象物に光パルスを投光してからその反射パルスを受光するまでの計測時間から測距対象物までの距離を計測する光測距装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の光測距装置としては、共振回路を用いて受光パルスのゼロクロス点を検出することにより反射パルスの受光時刻を検出して距離を計測する方式(以下、「共振測距方式」と言う)の光測距装置や、受光するパルスの立上りエッジを検出することにより反射パルスの受光時刻を検出して距離を計測する方式(以下、「立上り測距方式」と言う)の光測距装置が知られている。
【0003】
ところで、共振測距方式は、受光パルスに含まれる特定周波数成分で共振する共振回路を用いて特定周波数成分信号を抽出し、抽出した信号波形のゼロクロス点を受光時刻として検出するものであり、この測距方式の場合、受光パルスが低レベルの領域(遠距離の測定領域)においては、算出距離と実際の距離とは略正比例の関係にあり精度の良い測距が可能であるが、受光パルスが高レベルの領域(近距離の測定領域)においては、測距誤差を生じることが知られている。また、立上り測距方式は、受光パルスのレベルが予め設定した閾値を越えた時点を受光時刻として検出するものであり、この立上り測距方式の場合、受光パルスが高レベルの領域(近距離の測定領域)においては、精度の良い測距が可能であるが、受光パルスが低レベルの領域側になるにつれて、測距精度が低下することが知られている。このように、立上り測距方式や共振測距方式を用いた光測距装置は、それぞれ測距精度が低下する測定領域があるため、測距精度を満足する広いダイナミックレンジを確保することができないという問題がある。
【0004】
この問題を解決するため、共振測距方式により距離を算出する測距手段と、立上り測距方式により距離を算出する測距手段とを備え、受光パルスの受光レベルが、予め設定した受光レベルより小さいときは共振測距方式の測距手段の算出距離を測距対象物までの距離として選択し、予め設定した受光レベルより高いときは立上り測距方式の測距手段の算出距離を測距対象物までの距離として選択するように構成することにより、広いダイナミックレンジを確保することが可能な光測距装置が提案されている(特許文献1参照)。このように、特許文献1に記載された光測距装置は、予め設定した受光パルスの受光レベルに基づいて測距方式の切替位置を定める構成である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−147332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された光測距装置において、両測距方式による算出距離が一致する点を正確に求めることは難しいため、両測距方式の算出距離が一致する点で測距方式を切り替えるように切替位置を設定することは困難であった。したがって、特許文献1に記載された光測距装置においては、設定した切替位置が両測距方式の算出距離一致点とずれてしまう可能性があるため、両測距方式による算出距離が一致する点の付近では、精度の良い距離を算出可能な測距方式を選択しないおそれがある。このように、特許文献1に記載された光測距装置によって、広いダイナミックレンジを確保することが可能となったが、両測距方式の算出距離が一致する点の付近の測定領域においては、最適な測距方式を選択して測定精度を向上させる余地があった。
【0007】
そこで、本発明は上記問題点に着目してなされたもので、共振測距方式による算出距離と立上り測距方式による算出距離が一致する点の付近の測定領域においても、最適な測距方式を選択して、測定精度を向上させることが可能な光測距装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明による光測距装置は、測距対象物に光パルスを投光してからその反射パルスを受光するまでの時間を計測し、この計測時間に基づいて前記測距対象物までの距離を計測する光測距装置において、前記反射パルスの受光により発生する受光パルスをフィルタリングした後の信号のゼロクロス点を前記反射パルスの受光時刻として前記光パルスの投光時刻から前記受光時刻までの時間を計測し該計測時間に基づいて前記測距対象物までの距離を算出する第1測距手段と、前記反射パルスの受光により発生する受光パルスのレベルが所定の閾値に到達した時点を前記反射パルスの受光時刻として前記光パルスの投光時刻から前記受光時刻までの時間を計測し該計測時間に基づいて前記測距対象物までの距離を算出する第2測距手段と、前記第1測距手段の算出距離と前記第2測距手段の算出距離とを比較して、算出距離の小さい方を前記測距対象物までの距離として選択する選択手段と、を備えて構成したことを特徴とする。
【0009】
このような構成により、共振測距方式の第1測距手段と立上り測距方式の第2測距手段とを備え、第1測距手段と第2測距手段の算出距離とを比較して、算出距離の小さい方を測距対象物までの距離として選択するようになる。
【発明の効果】
【0010】
本願発明の光測距装置によれば、両測距手段の測距精度が低下する各測定領域においては、共に算出した距離が実際の距離よりも遠距離側にずれるという特性を考慮して、両測距手段の算出距離のうち値の小さい方の算出距離を測距対象物までの距離として選択するようにしたので、算出距離が一致する点の付近の測定領域においても、最適な測距方式を選択することができる。したがって、全測定領域において精度の良い測距方式を選択することができるので、従来の光測距装置と比較して、測定精度をさらに向上させることが可能な光測距装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る光測距装置の第1実施形態を示す構成図である。
【図2】上記実施形態の光測距装置における算出距離と実際の算出距離との関係を示す図であり、(a)は全測定領域における概略の関係を示す図であり、(b)は(a)におけるA部拡大図である。
【図3】共振測距方式の特性を説明する図であり、(a)は共振回路への入力波形、(b)は共振回路からの出力波形を示す図である。
【図4】立上り測距方式の特性を説明する図であり、受光パルス波高値によるエッジ点がばらつく状況を示す図である。
【図5】受光パルス波高値による第2測距部の計測時間変化の説明図である。
【図6】計時補正部の補正方法の説明図である。
【図7】本発明に係る光測距装置の第2実施形態を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る光測距装置の第1実施形態を示す概略構成図である。
【0013】
本実施形態による光測距装置は、測距対象物であるターゲット1に対して光パルスを投光してからその反射パルスを受光するまでの時間を計測し、この計測時間に基づいて測距対象物までの距離を計測するものであり、図1に示すように、光パルス投光部2と、光パルス受光部3と、投光タイミング検出部4と、波高値検出手段である波高値検出部5と、第1測距手段である第1測距部6と、第2測距手段である第2測距部7と、選択手段である選択部8とを備えて構成されている。
【0014】
前記光パルス投光部2は、測距対象物であるターゲット1に対して光パルスを発射する例えばレーザ光源からなるものである。
【0015】
前記光パルス受光部3は、ターゲット1からの反射散乱光の一部を反射パルスとして受光して受光パルスを発生するものである。
【0016】
前記投光タイミング検出部4は、光パルス投光部2の投光パルスの一部を入力して投光パルスの投光タイミング(投光時刻)を検出し計時のスタートタイミング信号を出力するものである。
【0017】
前記波高値検出部5は、光パルス受光部3から入力する受光パルスの波高値を検出するものである。波高値検出部5は、具体的には投光パルス波形と受光パルス波形が相似(パルス幅、立上り時間、立下り時間が同じ)であることを前提とし、受光パルスの光量ピーク値を検出し、検出した光量ピーク値を波高値として検出する構成である。
【0018】
前記第1測距部6は、一般的な共振測距方式を用いて距離を算出するものであり、光パルス受光部3から入力する受光パルスを、共振回路によりフィルタリングした後の信号のゼロクロス点を反射パルスの受光タイミング(受光時刻)とし光パルスの投光時刻から受光時刻までの時間を計測し当該計測時間に基づいてターゲット1までの距離を算出するように構成されている。
【0019】
第1測距部6は、具体的には、図1に示すように、光パルス受光部3から入力する受光パルスに含まれる特定周波数成分として例えば基本周波数成分を、共振回路を用いて抽出し、抽出した後の基本周波数信号のゼロクロス点を検出しこのゼロクロス点を反射パルスの受光時刻と見なして計時のストップタイミング信号を出力するゼロクロス検出部11と、投光タイミング検出部4からのスタートタイミング信号が入力してからゼロクロス検出部11のストップタイミング信号が入力するまでの時間を計測し、この計測時間に基づいてターゲット1までの距離を算出する第1計時部12とを備える。前記特定周波数成分として基本周波数成分を抽出することによって受光パルスに重畳しているノイズを効果的に除去できるので、ゼロクロス点の検出に対するノイズの影響を抑制できる。
【0020】
一般的に、共振測距方式の場合、図2(a)に白丸印で示すように、受光パルスが低レベルの領域(遠距離の測定領域)においては、算出距離と実際の距離とは略正比例の関係にあるため精度の良い測距が可能であるが、受光パルスが高レベルの領域(近距離の測定領域)においては、算出距離と実際の距離が正比例である場合を示す理想線から算出距離が離れ、測距誤差を生じる。また、共振測距方式は、例えば受光パルスに含まれる特定周波数成分(例えば基本周波)を共振回路で抽出するため、そのフィルタ効果によって雑音成分を抑制することができる。しかし、受光パルスのレベルが高く受信アンプが飽和する場合、共振回路の入力波形は、図3(a)に一点鎖線で示すように、受信アンプが飽和していない場合の入力波形と比較して、波形幅が常に後方側に広がるように変形する。したがって、受信アンプが飽和する場合は、図3(b)に一点鎖線で示すように、共振回路からの出力波形も、後方側に広がるように変形し、ゼロクロス点は、受信アンプが飽和していない場合のゼロクロス点より、後方側にずれることが分かる。このように、共振測距方式においては、図2(a)に白丸印で示されているように、受信アンプが飽和するほど受光パルスが高レベルとなる近距離側の測定領域においては、ゼロクロス点が後方側にずれるため実際の距離よりも遠距離側の距離を算出し、一方、遠距離側の測定領域においては、受信アンプの飽和によるゼロクロス点のずれは生じないため精度のよい距離を算出するという特性を有する。
【0021】
前記第2測距部7は、一般的な立上り測距方式を用いて距離を算出するものであり、光パルス受光部3から入力する受光パルスのレベルが所定の閾値に到達した時点(以下、「エッジ点」と言う)を反射パルスの受光タイミング(受光時刻)として光パルスの投光時刻から受光時刻までの時間を計測し当該計測時間に基づいてターゲット1までの距離を算出するように構成されている。
【0022】
第2測距部7は、具体的には、前記光パルス受光部3から入力する受光パルスのレベルが所定の閾値に到達した時点を検出してこの検出時点を反射パルスの受光時刻と見なして計時のストップタイミング信号を出力する立上りエッジ検出部21と、投光タイミング検出部4からのスタートタイミング信号が入力してから立上りエッジ検出部21のストップタイミング信号が入力するまでの時間を計測し、計測時間に基づいてターゲット1までの距離を算出する第2計時部22とを備える。なお、第2測距部7は、例えば、波高値検出部5で得られる受光パルスのレベルが所定の閾値未満の場合に、測距不能と判断して、所定の最遠距離の値を算出距離として、選択部8へ出力するように構成されている。
【0023】
一般的に、立上り測距方式の場合、図2(a)に黒丸印で示すように、受光パルスが高レベルの領域(近距離の測定領域)においては、算出距離と実際の距離とは略正比例の関係にあり精度の良い測距が可能であるが、受光パルスが低レベルの領域(遠距離の測定領域)になるにつれて、算出距離は理想線から離れ、測距精度が低下する。また、立上り測距方式は、受光パルスの波高値に応じて図4に示すようにエッジ点にばらつきが生じるため、例えば測距対象物が同じ距離にあっても反射率等の影響により受光パルスの波高値が異なると、検出される受光時刻にずれが生じ、測距誤差を生じる。このエッジ点のずれは、図4から分かるように、受光パルスの波高値が低いほど大きくなる。したがって、立上り測距方式においては、図2(a)に黒丸印で示されているように、受光パルスが低レベル、即ち、遠距離側の測定領域になるにつれて、エッジ点が後方側にずれていくため実際の距離よりも遠距離側の距離を算出し、一方、近距離側の測定領域においてはエッジ点のずれは小さいため精度のよい距離を算出するという特性を有する。
【0024】
図2(b)は、図2(a)のA部を拡大して表した図である。図2(b)に示すように、共振測距方式の第1測距部6と立上り測距方式の第2測距部7の算出距離が一致する点が存在し、この算出距離一致点より近距離側の測定領域においては、第1測距部6は実際の距離よりも遠距離側の距離を算出する特性を有し、算出距離一致点より遠距離側の測定領域においては、第2測距部7は実際の距離よりも遠距離側の距離を算出する特性を有することが分かる。すなわち、図2(a)及び図2(b)から分かるように、全測定領域において、第1及び第2測距部6,7から得られる算出距離のうち小さい方が測定精度のよい算出距離である。
【0025】
本実施形態において、第2計時部22は、計測時間を補正する計測時間補正手段として計時補正部22Aを備えている。計時補正部22Aは、例えば、波高値検出部5の検出した波高値に応じて計測時間を補正する。なお、この計時補正部22Aを備えて計測時間を補正したとしても、前述した遠距離側における算出距離の理想線とのずれを完全に補正することはできず、前述した遠距離側の測定領域になるにつれて、実際の距離よりも遠距離側の距離を算出するという特性は残る。また、例えば反射率等の影響により測距対象物が同じ距離にあっても受光パルスの波高値が異なってしまい、その結果、検出される受光時刻にずれが生じ、測距誤差が生じてしまうといった測定環境でない場合は、計時補正部22Aを省略してもよい。計時補正部22Aを省略した場合は、波高値検出部5も省略してもよい、この場合、第2測距部7は、例えば、スタートタイミング信号を受信してから、予め設定する所定時間を経過しても受光パルスを受信しない場合に、測距不能と判断して所定の最遠距離の値を算出距離として選択部8へ出力するように構成する。
【0026】
前記選択部8は、第1測距部6の算出距離と第2測距部7の算出距離を比較して、値の小さい方の算出距離を測距対象物までの距離として選択する構成である。本実施形態においては、選択部8は、全測定領域において、第1測距部6の算出距離と第2測距部7の算出距離とを常に比較演算して、算出距離の小さい方をターゲット1までの距離として選択し、本光測距装置の測距値として出力するように構成されている。
【0027】
次に、以上のような構成を有する光測距装置の動作について、図1及び図2に基づいて説明する。また、本説明においては、計時補正部22Aによる計測時間の補正動作についての説明は簡略化し、この補正動作については、後に詳述する。
【0028】
まず、光パルス投光部2からターゲット1に向けて光パルスを発射し、ターゲット1からの反射散乱光の一部を光パルス受光部3で受光する。また、光パルス投光部2から光パルスを発射した際、光パルスの一部を投光タイミング検出部4が受光して、例えば立上りエッジ検出することにより投光パルスの投光タイミング(投光時刻)を検出し、第1測距部6の第1計時部12と第2測距部7の第2計時部22にそれぞれ計時のスタートタイミング信号を送信する。光パルス受光部3は、反射パルス光を受光すると受光パルスを発生し、この受光パルスは第1及び第2測距部6,7と波高値検出部5にそれぞれ入力する。
【0029】
次に、第1測距部6は、ゼロクロス検出部11に受光パルスが入力すると、共振回路を用いて受光パルスに含まれる基本周波数成分を抽出してその振動波形のゼロクロス点を検出し、この検出時点を反射パルスの受光時刻と見なして計時のストップタイミング信号を第1計時部12に送信する。第1計時部12は、投光タイミング検出部4からのスタートタイミング信号の入力時点からストップタイミング信号の入力時点までの時間を計測し、この計測時間に光の伝搬速度を乗算して距離に換算する。更に、計測された時間は光測距装置とターゲット1間を往復する時間に相当するので、前記換算した距離値に1/2を乗算してターゲット1までの距離を算出する。また、第2測距部7は、立上りエッジ検出部21に受光パルスが入力すると、この受光パルスのレベルが予め定めた閾値に到達した時点を検出し、計時のストップタイミング信号を第2計時部22に送信する。第2計時部22は、スタートタイミング信号の入力時点からストップタイミング信号の入力時点までの時間を計測する。更に、第2測距部7の立上りエッジ検出方式では、閾値を一定としたとき受光パルスの波高値レベルに応じてエッジ点が変化して計時のストップタイミングが変化するので、第2計時部22では、波高値検出部5の検出した波高値に応じて計時補正部22Aで計測時間を補正する。その後、第1計時部12と同様にして補正計測時間を距離に換算し、換算した距離値に1/2を乗算してターゲット1までの距離を算出する。
【0030】
そして、波高値検出部5は、例えば高速パルス積分器とピークホールド回路を使って受光パルスの光量ピーク値を検出し、投光パルス波形と受光パルス波形のパルス幅が同じであることから光量ピーク値を波高値と見なして出力する。この検出波高値は、前述した計時補正部22Aに出力すると共に、選択部8に出力する。最後に、選択部8は、第1測距部6の算出距離と第2測距部7の算出距離とを比較演算して、図2(b)に実線で示すように、算出距離の小さい方をターゲット1までの距離として選択し、測距値として出力する。
【0031】
かかる本実施形態の光測距装置によれば、両測距手段の算出距離が一致する算出距離一致点より近距離側の測定領域においては、実際の距離よりも遠距離側の距離を算出する共振測距方式の特性と、算出距離一致点より遠距離側の測定領域においては、実際の距離よりも遠距離側の距離を算出する立上り方式の特性とを考慮して、両測距手段の算出距離のうち値の小さい方の算出距離を測距対象物までの距離として選択するようにしたので、算出距離が一致する点の付近の測定領域においても、最適な測距方式を選択することができる。したがって、全測定領域において精度の良い測距方式を選択することができるので、従来の光測距装置と比較して、測定精度をさらに向上させることが可能な光測距装置を提供することができる。
【0032】
次に、計時補正部22Aにおける前述した計時補正について詳述する。
【0033】
図5に示すように、波高値E0の投光パルスを投光して波高値E(E<E0)の受光パルスを受光したとする。投光パルスのレベルが閾値Ethに到達するエッジ点を検出して投光タイミング検出部4からスタートタイミング信号が発生し、受光パルスのレベルが閾値Ethに到達するエッジ点を検出して立上りエッジ検出部21からストップタイミング信号が発生する。第2計時部22はスタートタイミング信号が発生してからストップタイミング信号が発生するまでの時間tを計測するものとする。
【0034】
この場合、図5の破線で示すように、受光パルスのレベルが投光パルスと同じE0であれば、パルスの立上り起点(図のA1,A2)から閾値Ethに到達するまでの時間は、投光パルスも受光パルスも同じでt0であり、計測時間tは立上り起点A1〜A2までの時間Tと常に等しく、計測時間tを補正することなくそのまま用いて距離を算出すればよい。しかし、ターゲット1からの反射パルスに基づく受光パルスが投光パルスと同じレベルとなることはなく、受光パルスのレベルがEのように低くなると、図5に示すように、受光パルスの立上り起点A2から閾値Ethに到達するまでの時間は、時間t′遅れる。この遅れ時間t′は受光パルスの波高値が低くなる程大きくなる。このように、第2測距部7では、受光パルスの波高値に応じて計測時間tは変化する。したがって、計時補正部22Aは、検出された波高値に応じて変化する遅れ時間t′による計測時間tの変化を補正する。
【0035】
本実施形態の計時補正部22Aでは、投光パルス及び受光パルスの各立上り起点A1,A2をそれぞれ真の立上りタイミングとし、投光パルスの立上り起点A1から受光パルスの立上り起点A2までの時間Tを計測時間として算出するような補正を行っている。
【0036】
図5から、投光パルスの立上り起点A1から受光パルスの立上り起点A2までの時間Tは、T=t0+{t−(t0+t′)}となる。したがって、計時補正部22Aでは、t0+t′=Δtとして、このΔtを算出することにより時間Tを算出し、この時間Tを投光パルスが発射されてから反射パルスが受光されるまでの計測時間とするような補正を行っている。前記Δtの算出方法を、図6に基づいて説明する。なお、図6は、受光パルス波形を直線近似したものである。図6において、受光パルスa〜dの順に波高値は低くなっており、波高値が低い程エッジ点が遅れる様子がわかる。ここでは、受光パルスdを例として補正時間Δtの算出方法を説明する。
受光パルスdの波高値をE、全立上り時間(0−100%)をta、立上り時間(10−90%)をtbとし、閾値をEthとすると、
ta=1.25×tb ・・・ (1)
E/ta=Eth/Δt ・・・ (2)
となる。
(2)式から、
Δt=ta×Eth/E ・・・ (3)
したがって、(1)式と(3)式から、
Δt=1.25×tb×Eth/E ・・・ (4)
であり、閾値Eth=5Esとすると、
Δt=6.25×tb×Es/E ・・・ (5)
となる。ここで、Esは前述したシステム所要の測距精度を満足するゼロクロス検出での最小光量レベルである。
【0037】
したがって、補正計測時間Tは、
T=t0+(t−Δt) ・・・ (6)
であり、投光タイミング検出部4で受光する投光パルスのレベルは安定しているので、投光パルスにおける時間t0は略一定と考えられるので、例えば時間t0を固定値として予め記憶させておけば、(6)式から容易に計測時間の補正ができる。
【0038】
このように構成された計時補正部22Aを設けることにより、立上りエッジ検出方式で受光時刻を算出する第2測距部7の受光時刻精度が向上し、本光測距装置の測距精度をより一層高めることができる。
【0039】
なお、上記実施形態では、選択部8は、全測定領域において常に第1測距部6及び第2測距部7の算出距離を比較演算して算出距離の小さい方を選択する構成としたが、これに限らず、波高値検出部5により検出された検出波高値が予め設定した所定の範囲内であるときに、両測距部6,7の算出距離を比較演算して値の小さい方を選択する構成としてもよい。このように構成することにより、検出波高値が予め設定した所定の範囲内であるときだけ、第1及び第2測距部6,7の算出距離を比較演算すればよいので、全測定領域において常に比較演算する場合と比べて比較演算処理を減らすことができる。この構成の場合は、波高値検出部7は必須の構成要素であり、また、図示しないが、波高値検出部7が検出した波高値の信号を選択部8へ出力するように構成する。また、選択部8は、例えば、上限及び下限の波高値を定めて前記所定の範囲を設定する。例えばシステム所要の測距精度を満足する共振測距方式での最小光量レベルをEsとしたときは、例えば10Esを中心波高値とし、この中心波高値から所定レベルだけ高レベル及び低レベル側に隔てたレベルを、前記所定の範囲を定める上限及び下限波高値として設定する。このように構成することにより、選択部8は、検出波高値が下限波高値以上でかつ上限波高値以下であるときは、第1測距部6の算出距離と第2測距部7の算出距離とを比較演算して、算出距離の小さい方をターゲット1までの距離として選択することができる。また、本構成の場合、選択部8は、波高値検出部5により検出された検出波高値が予め設定した下限波高値未満(遠距離の測定領域)のときは、第1測距部6の算出距離をターゲット1までの距離として選択し、検出波高値が予め設定した上限波高値より大きい(近距離の測定領域)ときは、第2測距部7の算出距離をターゲット1までの距離として選択するようにすることで、全測定領域において、最適な測距方式の算出距離を選択することができる。
【0040】
ところで、立上り測距方式は、受光パルスのレベルが所定の閾値に到達した時点を受光時刻として、ストップタイミング信号を発生させる構成であるため、受光パルスのレベルが所定の閾値未満の場合は、ストップタイミング信号を発生させない。一方、共振測距方式は、受光パルスのレベルに関係なく、例えば、受光パルスのレベルが立上り測距方式の閾値未満であったとしても、ゼロクロス検出部11からストップタイミング信号が発生する構成である。このように、共振測距方式は、一般的に、立上り測距方式と比較して外乱光に弱い。したがって、共振測距方式の第1測距部6においては、スタートタイミング信号が第1計時部12に入力された後、実際の反射パルスに基づく受光パルスを受光する前に、外乱光が入力されてストップタイミング信号を発生させてしまう場合、図2(b)に外乱光による異常値として示したように、実際の距離とは異なる異常に近距離の算出距離を出力する可能性がある。一方、第2測距部7は、閾値以下のレベルの受光パルスに対しては反応しないため、閾値以下の外乱光が入射する環境においては、第1測距部6からの算出距離と比較すると精度の良い距離を算出することができる場合がある。このように両測距方式は、外乱光に対する反応特性において相違する。
【0041】
図7は、本発明に係る光測距装置の第2実施形態を示す概略構成図であり、前述した両測距方式の外乱光に対する反応特性の違いを利用して、第2測距部7の閾値以下のレベルの外乱光が入射する環境における異常処理を可能にした構成である。なお、図1の第1実施形態と同一の要素には同一の符号を付して説明を省略し、異なる部分についてのみ説明する。
【0042】
本実施形態においては、第1測距部6の算出距離と第2測距部7の算出距離との差が予め設定した所定値以上であるときは、ターゲット1までの距離として第2測距部7の算出距離を選択部8で選択させるようにする異常処理手段31を備えている。
【0043】
前記異常処理手段31は、図7に示すように、第1及び第2測距部6,7から算出距離のデータを取得するように構成されており、例えば、外乱光がない場合の第1測距部6の算出距離と第2測距部7の算出距離との差の絶対値|ΔD|(図2(b)参照)を予め設定しておき、測定した第1測距部6の算出距離と第2測距部7の算出距離との差の絶対値|ΔD’|(図2(b)参照)が、設定した|ΔD|より大きい場合は、第1測距部6の算出距離は異常であると判断し、ターゲット1までの距離として第2測距部7の算出距離を強制的に選択するように選択部8に対して指令する。そして、選択部8は、異常処理手段31から前記指令を受けた場合は、この指令に従って第2測距部7の算出距離をターゲットまでの距離として出力するように構成されている。このように構成することにより、第2測距部7の閾値未満のレベルの外乱光が入力されてしまい、第1測距部6から異常に小さく測定精度の悪い算出距離が出力されたとしても、選択部8は第1測距部6よりは測定精度の良い第2測距部7の算出距離を選択して出力することができる。なお、異常処理手段31は、第2測距部7が距離を算出可能な場合に、上記異常処理を行うように構成されている。
【符号の説明】
【0044】
1 ターゲット(測距対象物)
5 波高値検出部(波高値検出手段)
6 第1測距部(第1測距手段)
7 第2測距部(第2測距手段)
8 選択部(選択手段)
22A 計時補正部(計測時間補正手段)
31 異常処理手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測距対象物に光パルスを投光してからその反射パルスを受光するまでの時間を計測し、この計測時間に基づいて前記測距対象物までの距離を計測する光測距装置において、
前記反射パルスの受光により発生する受光パルスをフィルタリングした後の信号のゼロクロス点を前記反射パルスの受光時刻として前記光パルスの投光時刻から前記受光時刻までの時間を計測し該計測時間に基づいて前記測距対象物までの距離を算出する第1測距手段と、
前記反射パルスの受光により発生する受光パルスのレベルが所定の閾値に到達した時点を前記反射パルスの受光時刻として前記光パルスの投光時刻から前記受光時刻までの時間を計測し該計測時間に基づいて前記測距対象物までの距離を算出する第2測距手段と、
前記第1測距手段の算出距離と前記第2測距手段の算出距離とを比較して、算出距離の小さい方を前記測距対象物までの距離として選択する選択手段と、
を備えて構成したことを特徴とする光測距装置。
【請求項2】
前記反射パルスの受光により発生する受光パルスの波高値を検出する波高値検出手段を備え、
前記選択手段は、前記波高値検出手段により検出された検出波高値が予め設定した所定の範囲内であるときに、前記第1測距手段の算出距離と前記第2測距手段の算出距離とを比較して、算出距離の小さい方を前記測距対象物までの距離として選択することを特徴とする請求項1に記載の光測距装置。
【請求項3】
前記第1測距手段の算出距離と前記第2測距手段の算出距離との差が予め設定した所定値以上であるときは、前記測距対象物までの距離として前記第2測距手段の算出距離を前記選択手段で選択させるようにする異常処理手段を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の光測距装置。
【請求項4】
前記第2測距手段は、前記計測時間を補正する計測時間補正手段を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の光測距装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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