説明

光照射により薬効を消失させる医薬二酸化チタン複合材

【課題】水系溶媒中に安定に分散され、かつ体内への投与が容易に行え、かつ光照射によりそれが担持する医薬化合物の薬効を消失させることができる二酸化チタン複合材およびその分散体の提供。
【解決手段】光触媒活性を有する二酸化チタンに、親水性高分子を介して医薬化合物を結合させた複合体を用いる。この複合体は、水系溶媒中で安定であり、かつ体内への投与が容易であって、さらにこれを体内に投与し、医薬組成物の薬効の必要の無い部位では光照射により二酸化チタンを光励起し、医薬化合物を分解してその副作用を低減させることができる。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、光触媒活性を有する二酸化チタンと、薬効を有する医薬化合物との複合体に関し、さらに詳しくは二酸化チタンの光励起により医薬化合物が分解され、その薬効が消失する二酸化チタン複合体に関する。
【0002】
背景技術
二酸化チタンが光励起により酸化還元反応を生じることは周知である。さらに、二酸化チタンは食品にも用いられておりその安全性は一定のレベルで確認されている。このような二酸化チタンを生体内に投与し、光触媒活性を利用しようとする試みもなされている。
【0003】
例えば、WO2004/087765公報(特許文献1)には、分子識別能を有する分子を二酸化チタンに、親水性高分子を介して結合した二酸化チタン複合体が提案されている。この複合体を体内に導入し、分子識別能を有する分子により体内の特定の組織または細胞に集め、これに光照射をして二酸化チタンの酸化還元力により組織または細胞を破壊しようとするものである。しかし、このWO公報には、二酸化チタンの酸化還元力により、それが担持する分子識別能を有する分子自体を破壊しようとする開示または示唆はない。
【0004】
一方で、例えば抗ガン剤などの特定の薬効を有する医薬化合物には、しばしば副作用を伴うものあることから、患部にのみその医薬化合物を送達し、他の健常な組織または細胞には医薬化合物が届かないようにする工夫がされている。いわゆるドラックデリバリーシステム(DDS)と呼ばれる手法である。
【0005】
例えば、抗ガン剤であるアドリアマイシンについては、特開平7−69900号(特許文献2)、特開平5−955号(特許文献3)、特開平2−300133号(特許文献4)などに高分子と組み合わせた工夫が見られるが、ガン細胞への効率の良い送達、さらには副作用の抑制など、依然として改善の余地を残すものであるといえる。
【0006】
また、特開2002−316946号(特許文献5)および特開平2002−316950号)(特許文献6)には、薬剤、とりわけアドリアマイシンを、光触媒活性を有する二酸化チタンをコーティングした金属粒子に担持させ、遺伝子銃によりガン細胞に導入する手法が開示されている。この手法にあっては、薬剤の無毒化を図りたいときは紫外線照射を行い、光触媒により薬剤を分解できるとされている。しかし、この手法にあっては、遺伝子銃という特殊な装置の利用を前提とするものであり、また薬剤の担持が単なる物理的吸着によりなされている点で、汎用性およびその安定性において改善の余地があるものといえる。
【特許文献1】WO2004/087765公報
【特許文献2】特開平7−69900号公報
【特許文献3】特開平5−955号公報
【特許文献4】特開平2−300133号公報
【特許文献5】特開2002−316946号
【特許文献6】特開平2002−316950号
【発明の概要】
【0007】
本発明者らは、今般、光触媒活性を有する二酸化チタンに、親水性高分子を介して医薬化合物を結合させた複合体が水系溶媒中で安定であり、かつ体内への投与が容易であって、さらにこれを体内に投与し、医薬組成物の薬効の必要の無い部位では光照射により二酸化チタンを光励起し、医薬化合物を分解してその副作用を低減させることができるとの知見を得た。本発明はかかる知見に基づくものである。
【0008】
よって、本発明は、水系溶媒中に安定に分散され、かつ体内への投与が容易に行え、かつ光照射によりそれが担持する医薬化合物の薬効を消失させることができる二酸化チタン複合材およびその分散体の提供を目的としている。
【0009】
そして、本発明による二酸化チタン複合材は、二酸化チタン粒子と、該二酸化チタン粒子の表面に結合した親水性高分子と、該親水性高分子に結合した所望の薬効を有する医薬化合物とを含んでなり、前記二酸化チタンの光励起により前記医薬化合物が分解され、前記薬効が消失することを特徴とするものである。
【0010】
さらに、本発明による分散剤は、上記二酸化チタン複合材を水系溶媒に分散してなるであり、この分散剤は、分散体を動物に投与し、投与後、病変部には紫外線照射をせず、該病変部位の周囲を少なくとも含む該病変部以外の部分に紫外線照射して、分散体に含まれる二酸化チタン複合材の二酸化チタンを光励起し、該二酸化チタンの光励起により医薬化合物が分解され、薬効が消失することを特徴とする方法に用いられる。
【発明の具体的説明】
【0011】
本発明による二酸化チタン複合体は、基本的に、二酸化チタンと、この二酸化チタンの表面に結合した親水性高分子と、この親水性高分子に結合した所望の薬効を有する医薬化合物とを含んでなる。
【0012】
二酸化チタン
本発明による複合体を構成する二酸化チタンは、光触媒活性を有するものであれば特に限定されず、例えばアナターゼ型、ルチル型のいずれであってもよい。一般的にはアナターゼ型の方がルチル型よりも光触媒活性が強いので、その利用が好ましい。
【0013】
本発明において、二酸化チタン粒子の粒径は、凝集し難いこと、体内に導入されることなどを考慮して適宜決定されてよいが、本発明の好ましい態様によれば、その粒経が2〜200nmであることが好ましく、さらに体内組織への蓄積、とりわけガン細胞への蓄積を望む場合には、その粒経は50〜200nm程度であることが好ましい。
【0014】
また、本発明の一つの態様によれば、本発明において二酸化チタン粒子とは、二酸化チタンが少なくとも粒子表面の一部に存在して光触媒活性を発現する限り、他の材料と複合されたものであってもよい。例えば、磁性材と二酸化チタンとの複合材であってもよい。
【0015】
親水性高分子
本発明において用いられる親水性高分子は、好ましくは水溶性であり、それに自体が二酸化チタン粒子の表面に結合可能な官能基と、後記する薬効を有する医薬化合物と結合可能な官能基とを有する。また、この親水性高分子は、二酸化チタン粒子を水中に安定に分散させる機能と、さらに後記するように適切なpHを与える性質を併せ持つものであることが好ましい。
【0016】
上記要件を満足するものであれば、親水性高分子の構造、分子量等は特に限定されないが、本発明の好ましい態様によれば、親水性高分子は、複数のカルボキシル基を有するものであることが好ましい。その好ましい具体例としては、カルボキシメチルデンプン、カルボキシメチルデキストラン、カルボキシメチルセルロース、ポリカルボン酸類、およびカルボキシル基単位を有する共重合体(コポリマー)などが挙げられる。より具体的には、水溶性高分子の加水分解性および溶解度の観点から、ポリアクリル酸、ポリマレイン酸等のポリカルボン酸類、およびアクリル酸/マレイン酸やアクリル酸/スルフォン酸系モノマーの共重合体がより好適に使用される。本発明の好ましい態様によれば、親水性高分子の分子量は2,000〜100,000程度であることが好ましく、より好ましい下限は5,000程度であり、上限は30,000程度である。
【0017】
親水性高分子の二酸化チタン粒子の表面への結合は、親水性高分子が有する官能基と、酸化チタンが反応系中の水に水和されてその表面に生成する水酸基とを反応させて行うことが出来る。親水性高分子がカルボキシル基を有するものである場合、例えば、二酸化チタン粒子と親水性高分子とをジメチルホルムアミドに分散させて、90〜180℃で、1〜12時間水熱反応を行い、両者をエステル結合で結合させることができる。エステル結合は種々の分析方法により確認できるが、例えば赤外分光法によりエステル結合の吸収帯である1700〜1800cm−1付近の赤外吸収の有無で確認することが可能である。
【0018】
医薬化合物
本発明において用いられる医薬化合物は、所定の薬効を有する化合物であり、確立した疾病の治療またはその予防に用いられるものである。本発明にあっては、その副作用が強く、その結果、出来るだけ治療対象となる細胞または組織にのみ送達されることが望ましい医薬化合物への適用が有利である。
【0019】
本発明において利用が可能な医薬化合物の具体例としては、抗ガン剤、例えば代謝拮抗剤(5−フルオロウラシル、ドキフルリジン、ユーティーエフ、メトトレキサート等)、抗腫瘍性抗生物質(ドキソルビシン、マイトマイシンC、ブレオマイシン、アドリママイシン等)、金誘導体(シスプラチン ネダプラチン)、アルキル化剤(シクロフォスファミド等)、トポイソメラーゼ阻害剤(イリノテカン、エプシド等)、植物アルカロイド (タキソール等)が挙げられる。
【0020】
疎水性の医薬化合物、とりわけ多くの化合物が疎水性である抗ガン剤にあっては、この疎水性により二酸化チタン複合材の細胞内への取り込みが効率よく行われるとの利点が得られる。特に、上述のとおり、二酸化チタンの粒径がガン細胞への蓄積に適するものとされた場合には、効率よく腫瘍細胞に本発明による二酸化チタン複合材を集積させることができるとの利点が得られる。
【0021】
本発明による二酸化チタン複合体において、医薬化合物は、上記二酸化チタン粒子の表面に結合された親水性高分子が有する官能基と、医薬化合物が有する官能基とを反応させて結合される。両者の結合に関与する官能基は適宜選択されてよい。親水性高分子がカルボキシル基を有するものである場合、医薬化合物がアミノ基、アルデヒド基等を有するものであることが好ましい。仮に医薬化合物がこれら適当な官能基を有していなかったとしても、その薬効に影響を与えない限り、適当な官能基を導入して、親水性高分子と結合させることができる。このような官能基によって結合された医薬化合物は、後記するような動物の体内に投与されても、安定に二酸化チタン粒子に担持され、病変部に到達する前に脱離、拡散することがないため極めて好ましい。
【0022】
さらに、本発明による二酸化チタン複合体にあっては、この医薬化合物の薬効は、二酸化チタンの光励起によって生じる酸化還元反応により、医薬化合物が分解され、その薬効が消失するよう構成される。
【0023】
本発明において、医薬化合物が水溶性高分子にその官能基を介して結合すると、理論的には官能基が一つ失われることになる。例えば、結合に関与する水溶性高分子の官能基がカルボキシル基である場合、そのカルボキシル基が医薬化合物の結合により失われると、その水溶性に影響を与えることがあり、ひいては二酸化チタン複合材の分散性に影響を与えることがある。よって、本発明のある態様にあっては、医薬化合物の結合と、水溶性高分子の水溶性、さらには二酸化チタンの分散性との均衡を適宜保つことが必要になる。例えば、医薬化合物がアドリアマイシンであり、水溶性高分子がポリアクリル酸である、2−200nmの粒径を有する酸化チタン−ポリアクリル酸複合体とした場合、酸化チタン1g あたり1−1,000mmol程度の遊離カルボキシル基が含まれることになる。ここで、医薬化合物の結合にはこの官能基の活性化と置換を伴うが、その1%程度のカルボキシル基が失われてもその分散性には本質的な影響を与えないと思われる。従って、この態様にあっては、カルボキシル基の1/100−1/1,000程度に、アドリアマイシンを結合させることができる。よって、本発明の好ましい態様によれば、二酸化チタン1gあたりのアドリアマイシンの結合量は0.001−100mg程度とすることが可能であり、好ましくは0.1−10mg程度であり、より好ましくは0.5−5mg程度である。
【0024】
二酸化チタン複合材分散体およびそれを用いた治療方法
本発明による二酸化チタン複合材は、親水性高分子の親水性により水系溶媒中に安定に分散可能である。本発明の好ましい態様によれば、親水性高分子がカルボキシル基を有するものである場合、水系溶媒中ではカルボキシル基の負電荷に由来する斥力が複合体間に作用し、安定に分散されるものと考えられる。本発明による二酸化チタン複合材は、広範なpH領域においける水系溶媒中で安定に存在でき、例えばpH3〜13において、凝集することなく均一に分散した状態を維持することができる。
【0025】
したがって、本発明による二酸化チタン複合体は、水、種々のpH緩衝液、輸液、および生理食塩水等に分散させた、均一で安定な分散液の形態とすることができる。この分散液は、中性付近の生理的条件においても凝集することがないために、安定な経口または非経口の剤形とすることができる。特に、病変部に直接注射する注射剤として、または静脈に注射することにより、特殊な装置等を必要とせずに、動物に投与することが可能となる。また、この分散液を含む軟膏やスプレー剤を皮膚等の患部に直接塗布することも可能となる。その剤形は、医薬化合物の種類、治療しようとする疾病、病変部を勘案して、適宜決定されてよく、また本発明による分散剤は広範な剤形に応用可能であるとの利点を有する。また、本発明にあっては、病変部に二酸化チタン複合材を集中、蓄積させることができる投与経路が好ましい。
【0026】
本発明にあっては、二酸化チタン複合材を体内に投与後、好ましくは病変部に二酸化チタン複合材を集中、蓄積させた後、病変部には紫外線照射をせず、該病変部位の周囲を少なくとも含む該病変部以外の部分に紫外線照射する。この光照射により二酸化チタンが光励起され、酸化還元力を発現する。この酸化還元力により当該複合材が担持する医薬化合物が分解される。その結果、医薬化合物の薬効が消失すると同時に、副作用も無くなる。従って、本発明によれば、治療の必要は病変部においてのみ医薬化合物の薬効を発揮させることができ、それ以外の医薬化合物の必要の無い箇所では医薬化合物の影響を無くすることができる。
【0027】
本発明において、二酸化チタンの光励起のための光は、二酸化チタンを光励起することができるものであれば、特に限定されないが、二酸化チタンのバンドギャップの関係上その波長は400nm以下、より好ましくは波長280nmの紫外線であることが好ましい。具体的な光源および照射のための装置は適宜決定、選択および設計されてよいが、皮膚を経由して照射する場合には、太陽光や通常の紫外線ランプ、ブラックライト等を好適に使用できる。また、体内の患部に対して直接照射する場合には、例えば、内視鏡に紫外線ファイバーを装着して、光照射することができる。
【0028】
本発明の好ましい態様によれば、医薬化合物として抗ガン剤、特にアドリアマイシンを用い、病変部としてガン組織を標的に治療を行うことが出来る。
【実施例】
【0029】
本発明を以下の実施例によりより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0030】
実施例1
ポリアクリル酸コート酸化チタンナノ粒子分散液の調製
チタンテトライソプロポキシド3.6gとイソプロパノール3.6gとを混合し、氷冷下で60mlの超純水に滴下して加水分解を行った。滴下後に室温で30分間攪拌した。攪拌後、12 N硝酸を1ml滴下して、80℃で8時間攪拌を行い、ペプチゼーションした。ペプチゼーション終了後、0.45 μmのフィルターで濾過し、脱塩カラム(PD10;アマシャム ファルマシア バイオサイエンス)を用いて溶液交換して固形成分1%のアナターゼ型二酸化チタンゾルを調製した。
この分散液を100 mlのバイアル瓶に入れ、200Hzで30分間超音波処理を行った。超音波処理を行う前と後での平均分散粒経はそれぞれ、36.4nm、20.2nmであった。超音波処理後、溶液を濃縮して固形成分20%のアナターゼ型二酸化チタンゾルを調製した。
得られたアナターゼ型二酸化チタンゾル0.75mlを20mlのジメチルホルムアミド(DMF)に分散させ、ポリアクリル酸(平均分子量:5,000、和光純薬)0.3gを溶解したDMF 10mlを添加後、攪拌して混合した。水熱反応容器(HU-50、三愛科学)に溶液を移し変え、150℃で5時間合成を行った。反応終了後、反応容器温度が50℃以下になるまで冷却し、溶液を取り出した後にイソプロパノールを60ml添加し、1時間静置後、4000xgで20分間遠心分離を行った。沈殿を回収し、70%エタノールで洗浄後、蒸留水を加え、ポリアクリル酸コート酸化チタンナノ粒子分散液を作成した。
この分散液は波長205nmおよび250nmの吸光ピークを持つことが吸光分析により明らかになった。両波長ピークの吸光度は、本分散液を焼却分析により酸化チタン含量を測定した値と高い相関性を示し、分散液中の酸化チタン含量量は紫外光の吸収を測定することで定量可能であった。結果は、図1に示されるとおりであった。
【0031】
実施例2
アドリアマイシン固定化ポリアクリル酸コート酸化チタンナノ粒子分散液の調製
実施例1にて作成したポリアクリル酸コート酸化チタンナノ粒子を、酸化チタン濃度5%(w/v)に水で調整し、10mlを以下の反応に用いた。800mMの1-エチル-3-(3-ジエチルアミノプロピル)カルボジイミド250μlと100mM N-ヒドロキシこはく酸500μlを添加し、室温で攪拌しながら2時間反応した。この溶液を脱塩カラムにより、10mM HEPES 緩衝液(pH 8.0)に交換した。これに2mg/mlになるようにDMSOに溶解したアドリアマイシン塩酸塩(SERVA)を500μl加え、4℃で30分間攪拌しながら反応した。反応物をPBSに対して充分透析を行い、アドリアマイシン固定化ポリアクリル酸コート酸化チタンナノ粒子分散液を得た。実施例1と同様に焼却分析により酸化チタン含量を求めたところ、3.67%(w/v)であった。
フリーのアドリアマイシンをスタンダードとし、蛍光分光光度計(HITACHI F4010)を用いて、励起波長505nm蛍光波長575nmでアドリアマイシンの濃度を測定したところ、本分散液のアドリアマイシン含量は、23.9μg/mlであった。従って、この分散液のアドリアマイシン/酸化チタンの比は0.653mg/g-酸化チタンであると判明した。
【0032】
実施例3
ポリアクリル酸コート酸化チタンナノ粒子分散液の静脈注射による安全性の評価
ICRマウス(♂:体重30〜35g)5〜10匹に対し、PBSにて緩衝液交換した実施例1に記載のポリアクリル酸コート酸化チタンナノ粒子分散液を静脈内に尾静脈よりワンショットで注入した。
結果は、以下の表に示されるとおりであった。1%(w/v)を1ml注射しても死亡するマウスは認められず、ポリアクリル酸コート酸化チタンナノ粒子分散液の安全性が確認された。
【0033】
【表1】

【0034】
実施例4
アドリアマイシン固定化ポリアクリル酸コート酸化チタンナノ粒子の腫瘍細胞への影響
対数増殖期のヒト膀胱癌由来のT24細胞を10%牛胎児血清を含むF-12培地で培養し、約100細胞/6cm dishになるように接種し、実施例2にて作成のアドリアマイシン固定化ポリアクリル酸コート酸化チタンナノ粒子を添加し、24時間CO2インキュベーター内で培養した。24時間後、PBSにて洗浄を行い、酸化チタン成分を除去し、10%牛胎児血清を含むF-12培地を加え、10日間培養後、Giemza染色により生細胞数を把握しコロニー形成率を求めた。なお、対象としてはPBS緩衝液を用いた。
結果は、以下の表に示されるとおりであった。
本粒子は10μg酸化チタン/ml程度の非常に低い濃度で癌細胞に対して殺傷性を発揮することが明らかになった。
【0035】
【表2】

【0036】
実施例5
ラット口腔組織内注射による副作用試験
実施例2にて作成したアドリアマイシン固定化ポリアクリル酸コート酸化チタンナノ粒子分散液をマウス口腔組織内に注入し、その舌の炎症を観察すること、体重を測定することにより、本粒子の副作用の確認を行った。
Wistarラット(♂:11齢 体重240−260g)の舌をピンセットで固定し、0.005%(w/v)のアドリアマイシン固定化ポリアクリル酸コート酸化チタンナノ粒子分散液を0.3ml注入した。ただちに一群(14匹)は注射後の舌に、2500μW/cm2の強度のブラックライトを30分間照射した。もう一方の群は紫外光処理をしなかった。
両群を通常の飼育を9日間行い、生存したラットに関しては9日目までの体重の変化を比較し、生存率の比較を行った。結果は、図2および以下の表に示されるとおりであった。
【0037】
【表3】

【0038】
紫外線処理を行わない場合43%のラットが死亡した。本粒子に結合したアドリアマイシンの作用によりラット舌部には潰瘍が形成され、餌の捕食ができない為、3日目にかけて体重は減少した。
対照的に、紫外線照射を行った群では紫外線照射から5時間経過した場合の比較では、明らかに炎症が軽減されており、1日経過後には痕跡程度にしか潰瘍は残らなかった。
従って、アドリアマイシンの持つ細胞殺傷性は30程度の紫外線照射処理により完全に失われたことを示している。また、紫外線照射を行った群は体重の低下も殆どなく、本処理が薬物による副作用低減に非常に有効であることを示している。
【0039】
実施例6
アドリアマイシン固定化ポリアクリル酸コート酸化チタンナノ粒子の抗腫瘍効果試験
ヒト膀胱癌由来のT24細胞にF12培地を使用して37℃、5.5%のCO2ガス雰囲気下で培養し、そのT24細胞をヌードマウス(BALB/c♂)に接種して腫瘍を形成させた後、直径約5−7mmになったときに、実施例2にて作成した0.05%(w/v)アドリアマイシン固定化ポリアクリル酸コート酸化チタンナノ粒子を200μl注射した。コントロールとしてはPBS溶液を同様の操作を行った。注射の後、紫外線(2500μW/cm2)を1分間照射した。ヌードマウスの腫瘍体積を3週間にわたり測定した。その結果は、図3に示されるとおりであった。
アドリアマイシン固定化ポリアクリル酸コート酸化チタンナノ粒子の場合、コントロールに比べて優れた抗腫瘍効果が得られた。また、その効果は紫外線照射を行った場合には抑制された。これは光触媒作用によりアドリアマイシンの分解が起こるという上述の結果と一致しており、実際の治療には極めて有効であると考えられる。
【0040】
実施例7
ブレオマイシン固定化ポリアクリル酸コート酸化チタンナノ粒子分散液の調製
実施例1にて作成したポリアクリル酸コート酸化チタンナノ粒子を、酸化チタン濃度5%(w/v)に水で調整し、10mlを以下の反応に用いた。800mMの1−エチル−3−(3−ジエチルアミノプロピル)カルボジイミド250μlと100mM N-ヒドロキシこはく酸500μlを添加し、室温で攪拌しながら2時間反応した。これに10mg/mlになるようにDMSOに溶解したブレオマイシン塩酸塩(和光純薬)を500μl加え、4℃で30分攪拌しながら反応した。反応物をPBSに対して充分透析を行い、ブレオマイシン固定化ポリアクリル酸コート酸化チタンナノ粒子分散液を得た。205nmにおける吸光度を測定することにより酸化チタン濃度を求めたところ、1.14%(w/v)であった。ペーパー法による力価を検定したところ、本分散液のブレオマイシン力価は10.5μg力価/mlであった。従って、この分散液のブレオマイシン/酸化チタンの比は0.921mg力価/g-酸化チタンであると判明した。
【0041】
実施例8
ブレオマイシン固定化ポリアクリル酸コート酸化チタンナノ粒子の腫瘍細胞への影響
実施例2にて作成したアドリアマイシン固定化ポリアクリル酸コート酸化チタンナノ粒子に変えて、実施例8にて作成したブレオマイシン固定化ポリアクリル酸コート酸化チタンナノ粒子を用いた以外は、実施例4と同様の試験を行った。結果は以下の表に示されるとおりであった。
【表4】

【0042】
実施例9
ブレオマイシン固定化ポリアクリル酸コート酸化チタンナノ粒子の抗腫瘍効果試験
実施例2にて作成したアドリアマイシン固定化ポリアクリル酸コート酸化チタンナノ粒子に変えて、実施例8にて作成したブレオマイシン固定化ポリアクリル酸コート酸化チタンナノ粒子を用いた以外は、実施例4と同様の試験を行った。その結果は、図4に示されるとおりであった。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実施例1において調製されたポリアクリル酸コート酸化チタンナノ粒子分散液の酸化チタン含有量と、紫外光の吸収量の関係を示す図である。
【図2】実施例3における、アドリアマイシン固定化ポリアクリル酸コート酸化チタンナノ粒子分散液を口腔組織内に注入したマウスの紫外線照射に有無による体重変化を示す図である。
【図3】実施例6における、アドリアマイシン固定化ポリアクリル酸コート酸化チタンナノ粒子の抗腫瘍効果試験結果を示す図である。
【図4】実施例9における、ブレオマイシン固定化ポリアクリル酸コート酸化チタンナノ粒子の抗腫瘍効果試験結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化チタン粒子と、該二酸化チタン粒子の表面に結合した親水性高分子と、該親水性高分子に結合した所望の薬効を有する医薬化合物とを含んでなり、前記二酸化チタンの光励起により前記医薬化合物が分解され、前記薬効が消失することを特徴とする、二酸化チタン複合体。
【請求項2】
前記親水性高分子がカルボキシル基を有する親水性高分子であり、前記カルボキシル基が前記酸化チタン粒子の表面の水酸基とエステル結合している、請求項1に記載の二酸化チタン複合体。
【請求項3】
前記二酸化チタン粒子が2〜200nmの粒径を有するものである、請求項1または2に記載の二酸化チタン複合体。
【請求項4】
前記医薬化合物が抗ガン剤である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の二酸化チタン複合材。
【請求項5】
前記抗ガン剤がアドリアマイシンまたはブレオマイシンである、請求項4に記載に二酸化チタン複合材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の二酸化チタン複合材を水系溶媒に分散してなる、分散体。
【請求項7】
前記水系溶媒のpHが3〜13である、請求項6に記載の分散体。
【請求項8】
前記水系溶媒がpH緩衝液または生理的食塩水である、請求項6に記載の分散体。
【請求項9】
病変部の治療方法に用いられる請求項6〜8のいずれか一項に記載の分散体であって、
該治療方法が、前記分散体を動物に投与し、投与後、病変部には紫外線照射をせず、該病変部位の周囲を少なくとも含む該病変部以外の部分に紫外線照射して、前記分散体に含まれる二酸化チタン複合材の二酸化チタンを光励起し、該二酸化チタンの光励起により医薬化合物が分解され、薬効が消失することを特徴とする方法である、分散体。
【請求項10】
前記医薬化合物が抗ガン剤であり、前記病変部がガン組織である、請求項9に記載の表面改質二酸化チタン微粒子の分散液。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−63253(P2007−63253A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−171781(P2006−171781)
【出願日】平成18年6月21日(2006.6.21)
【出願人】(000010087)東陶機器株式会社 (3,889)
【出願人】(505155528)公立大学法人横浜市立大学 (101)
【Fターム(参考)】