説明

光発電時計の文字板の裏面コート用組成物、該組成物を用いた文字板および時計

【課題】文字板とソーラーセルとが接触したときに起こり得る外観不良を防止する。
【解決手段】光発電時計の文字板106の裏面コート用組成物は、光重合性化合物、光重合開始剤およびフュームドシリカを含み、該フュームドシリカを該光重合性化合物100質量部に対して0.2〜10質量部含むことを特徴とする。上記コート用組成物は、さらにPTFE粒子を含み、該PTFE粒子を該光硬化性樹脂100質量部に対して0.2〜5.0質量部含むことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光発電時計の文字板の裏面コート用組成物に関する。より詳しくは、本発明は、光重合性化合物、光重合開始剤およびフュームドシリカを含む光発電時計の文字板の裏面コート用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
光発電機能を有する時計(光発電時計)では、図1のように、カバーガラス102で覆われたケース104の中に、光が透過するプラスチックからなる文字板106、ソーラーセル108、および二次電池110を含むムーブメント112が装着されている(たとえば非特許文献1など)。この光発電時計に光114が当たると、光114は文字板106を透過してソーラーセル108に達し、ソーラーセル108で光114が電気エネルギーに変換されて時計が動く。また、余った電気エネルギーは二次電池110に蓄えられるため、光発電時計は電池交換の必要がないという利点を有する。
【非特許文献1】シチズン、テクノロジー、エコ・ドライブ[online]、[平成20年6月26日検索]、インターネット<URL:http://citizen.jp/technology/eco.html>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、文字板とソーラーセルとは近接して配置されているため、時計が自動車内などに放置されて温度が上昇すると、ソーラーセルが文字板の中央部に向かって湾曲して接触することがある。このような接触状態が長くと、温度が下がって両者が離れても、文字板の接触部分にソーラーセルの一部が張り付いたまま、黒色の付着物として残る場合がある。この付着物はカバーガラス側から透けて見えるため、時計の美観が損なわれる。
【0004】
また、時計が衝撃を受けた場合も、文字板とソーラーセルとが接触して同様に、時計の美観が損なわれることがある。
したがって、本発明の目的は、文字板とソーラーセルとが接触した後であっても、上記のような外観不良が発生しないようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、光重合性化合物、光重合開始剤およびフュームドシリカを含む組成物を用いることによって、上記課題を解決できることを見出した。
すなわち、本発明に係る光発電時計の文字板の裏面コート用組成物は、光重合性化合物、光重合開始剤およびフュームドシリカを含み、該フュームドシリカを該光重合性化合物100質量部に対して0.2〜10質量部含むことを特徴とする。
【0006】
上記光発電時計の文字板の裏面コート用組成物は、さらにポリテトラフルオロエチレン粒子を含み、該ポリテトラフルオロエチレン粒子を該光重合性化合物100質量部に対して0.2〜5.0質量部含むことが好ましい。
【0007】
上記光重合性化合物は、分子中に(メタ)アクリロイル基を1個以上有する(メタ)アクリロイル基含有化合物であるか、または、エポキシ化合物であることが好ましい。
本発明に係る文字板は、上記光発電時計の文字板の裏面コート用組成物から得られるコート層を裏面に有することを特徴とする。
【0008】
本発明に係る光発電時計は、上記文字板を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る光発電時計の文字板の裏面コート用組成物を用いれば、時計の文字板とソーラーセルとが接触しても、時計の美観は損なわれない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について具体的に説明する。
<光発電時計の文字板の裏面コート用組成物>
本発明に係る光発電時計の文字板の裏面コート用組成物(本明細書において「コート用組成物」ともいう。)は、光重合性化合物、光重合開始剤およびフュームドシリカを含む。上記コート用組成物は、さらに、ポリテトラフルオロエチレン粒子(本明細書において「PTFE粒子」ともいう。)を含んでいることが好ましい。
【0011】
光重合性化合物および光重合開始剤は、紫外線照射によって光重合性化合物が重合し、硬化してコート層を形成できる組合せであれば、特に限定されない。具体的には、光重合性化合物が分子中に(メタ)アクリロイル基を1個以上有する(メタ)アクリロイル基含有化合物であり、光重合開始剤がラジカル重合開始剤である場合(本明細書において、この組合せを含む組成物を「コート用組成物(1)」ともいう。)や、光重合性化合物がエポキシ化合物であり、光重合開始剤がカチオン重合開始剤である場合(本明細書において、この組合せを含む組成物を「コート用組成物(2)」ともいう。)が挙げられる。以下、コート用組成物(1)および(2)について説明する。
【0012】
[コート用組成物(1)]
コート用組成物(1)は、上述のように、光重合性化合物として(メタ)アクリロイル基含有化合物、光重合開始剤としてラジカル重合開始剤、フュームドシリカを含む。さらに、PTFE粒子を含んでいることが好ましい。(メタ)アクリロイル基含有化合物およびラジカル重合開始剤を用いると、紫外線照射によって速やかに硬化したコート層を得られる利点がある。
【0013】
(メタ)アクリロイル基含有化合物は、紫外線照射によって重合し、コート層を形成する。ここで、(メタ)アクリロイル基含有化合物とは、分子中に(メタ)アクリロイル基(本明細書において、アクリロイル基およびメタクリロイル基をあわせて「(メタ)アクリロイル基」ともいう。)を1個以上有する化合物である。
【0014】
分子中に(メタ)アクリロイル基を1個有する単官能の(メタ)アクリロイル基含有化合物としては、具体的には、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、フェノールエチレンオキサイド(EO)変性(メタ)アクリレート、ノニルフェノールEO変性(メタ)アクリレート、ノニルフェノールプロピレンオキサイド(PO)変性(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシルEO変性(メタ)アクリレート、N−(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタルイミドが挙げられる。これらのうちで、フェノールEO変性アクリレート、ノニルフェノールEO変性アクリレート、ノニルフェノールPO変性アクリレート、2−エチルヘキシルEO変性アクリレート、N−アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタルイミドが好適に用いられる。
【0015】
分子中に(メタ)アクリロイル基を2個以上有する多官能の(メタ)アクリロイル基含有化合物としては、具体的には、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,
6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビス((メタ)アクリロキシエチル)ビスフェノールA、トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸EO変性ジ(メタ)アクリレート等の二官能の化合物、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンPO変性トリ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸EO変性トリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の三官能以上の化合物が挙げられる。また、多官能の(メタ)アクリロイル基含有化合物としては、さらに、ポリエステル(メタ)アクリレート系、エポキシ(メタ)アクリレート系、ウレタン(メタ)アクリレート系、ポリオール(メタ)アクリレート系プレポリマー等、分子中に(メタ)アクリロイル基を2個以上有する多官能(メタ)アクリル系プレポリマーが挙げられる。ポリエステル(メタ)アクリレート系プレポリマーは、たとえば、多価カルボン酸と多価アルコールとの縮合によって得られる両末端に水酸基を有するポリエステルオリゴマーの水酸基を、(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得られる。また、多価カルボン酸にアルキレンオキシドを付加して得られるオリゴマーの末端の水酸基を、(メタ)アクリル酸でエステル化することによっても得られる。エポキシ(メタ)アクリレート系プレポリマーは、たとえば、比較的低分子量のビスフェノール型エポキシ樹脂またはノボラック型エポキシ樹脂のオキシラン環に、(メタ)アクリル酸を反応させエステル化して得られる。ウレタン(メタ)アクリレート系プレポリマーは、たとえば、ポリエーテルポリオールやポリエステルポリオールとポリイソシアネートとの反応によって得られるポリウレタンオリゴマーを、(メタ)アクリル酸でエステル化して得られる。ポリオール(メタ)アクリレート系プレポリマーは、ポリエーテルポリオールの水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化して得られる。これらのうちで、トリシクロデカンジメチロールジアクリレート、イソシアヌル酸EO変性ジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパンPO変性トリアクリレート、イソシアヌル酸EO変性トリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ポリエステルアクリレート系プレポリマーが好適に用いられる。
【0016】
上記(メタ)アクリロイル基含有化合物は、硬化したコート層が得られる限り、一種単独で用いても、二種以上を組み合わせて用いてもよい。硬化性の観点から、たとえば、一種または二種以上の多官能の(メタ)アクリロイル基含有化合物を用いることことが好ましい。また、一種または二種以上の単官能の(メタ)アクリロイル基含有化合物と一種または二種以上の多官能の(メタ)アクリロイル基含有化合物とを組み合わせて用いることも好ましい。
【0017】
通常、時計は−10〜80℃での使用により劣化しないことが求められるため、(メタ)アクリロイル基含有化合物のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは100℃以上、より好ましくは150℃以上であることが望ましい。二種以上の(メタ)アクリロイル基含有化合物の混合物を用いるときは、該混合物のTgが好ましくは100℃以上、より好ましくは150℃以上となるように(メタ)アクリロイル基含有化合物を組み合わせて用いることが望ましい。たとえば、単官能および多官能の(メタ)アクリロイル基含有化合物を用いる場合は、Tgの観点から、該化合物の合計に対し、単官能の化合物を合計で5〜70重量%の量で用い、多官能の化合物を合計で30〜95重量%の量で用いることが望ましい。なお、ここで、(メタ)アクリロイル基含有化合物のTgは、以下のようにして測定する。まず、(メタ)アクリロイル基含有化合物(99重量%)と光重合開始剤としてIrgacure651(1重量%)とを混合し、該混合物から1mm厚の光硬化物を
作製する。このとき、大過剰の光照射により、光硬化物は完全に硬化させる。次に、この光硬化物の動的粘弾性スペクトルを測定して、tanδ値が最大となる温度をTgとする。
【0018】
ラジカル重合開始剤は、紫外線照射によりラジカルを発生し、(メタ)アクリロイル基含有化合物の重合を開始させる。ラジカル重合開始剤としては、ベンゾフェノン、ミヒラーズケトン等のベンゾフェノン系開始剤、ベンジル、フェニルメトキシジケトン等のジケトン系開始剤、アセトフェノン等のアセトフェノン系開始剤、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール等のベンゾイン系開始剤、2,4―ジエチルチオキサントン等のチオキサントン系開始剤、2−メチルアントラキノン、カンファーキノン等のキノン系開始剤などが挙げられる。これらの中で、吸収波長の観点からアセトフェノン系開始剤が好適に用いられる。上記ラジカル重合開始剤は、一種単独で用いても、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
フュームドシリカは、通常四塩化ケイ素等の揮発性ケイ素化合物を気化し、たとえば酸素水素炎中で燃焼加水分解して製造される。本発明では、特に制限されず、公知のものを用いることができる。本発明に用いるフュームドシリカには、上記の異形状のフュームドシリカに対してさらに熱処理等を行って得られる、粒径が1μm程度の球状のシリカを含むものも含まれる。フュームドシリカは、一種単独で用いても二種以上を混合して用いてもよい。
【0020】
フュームドシリカについては、BETによる表面積は100〜300m2/gであるこ
とが好ましい。また、粒径が1μm以下の粒子が全体の95重量%以上を占めることが好ましい。
【0021】
上記コート用組成物(1)は、文字板の裏面に塗布されてコート層を形成するが、このコート層中にはフュームドシリカが含まれているため、光発電時計の美観を保つことができる。詳細には、何らかの原因によってソーラーセルと文字板とが接触した後両者が離れたときに、文字板裏面にソーラーセルの一部が黒色の付着物として残ることはない。したがって、カバーガラス側から文字板を見ても、光発電時計の美観は損なわれない。これは以下の機構によると考えられる。すなわち、フュームドシリカは硬化したコート層の表面付近に存在しており、該コート層の表面に凹凸を形成する。そして、この凹凸によりソーラーセルとの接触面積が小さくなるため、文字板裏面にソーラーセルの一部が張り付いて残存することが抑えられると考えられる。
【0022】
上記コート用組成物(1)は、さらにPTFE粒子を含んでいることが好ましい。PTFE粒子は、塊状重合、懸濁重合、溶液重合、乳化重合いずれによって製造されたものであってもよい。PTFE粒子は、一種単独で用いても二種以上を混合して用いてもよい。
【0023】
PTFE粒子については、粉末状であることが好ましく、平均粒径が1μm以下であることが好ましい。
コート用組成物(1)から形成されるコート膜中にフュームドシリカとともにPTFE粒子が含まれていると、上記外観不良の発生がより抑えられる。これは、フュームドシリカの場合と同様に、硬化したコート層表面に存在するPTFE粒子によってソーラーセルとの接触面積がより小さくなることと、PTFE粒子のすべり特性によると考えられる。
【0024】
ラジカル重合開始剤は、光重合性化合物100質量部に対して通常0.2〜10質量部の量で含まれる。ラジカル重合開始剤の量が上記範囲より少ないと、重合しない場合があり、上記範囲より多いと、コート層の深部まで光が到達できず、表面近傍のみが重合する場合がある。
【0025】
フュームドシリカは、光重合性化合物100質量部に対して0.2〜10質量部の量で含まれる。フュームドシリカの量が上記量よりも少ないと、上記文字板の裏面にソーラーセルの一部が付着物として残存する場合がある。フュームドシリカの量が上記量よりも多いと、組成物がホイップ状になり(チキソ性が上昇し)塗布しにくくなる場合がある。また、このとき無理に塗布を行うと、コート層が厚く形成されてしまうため、時計の発電効率が低下する場合がある。さらに、上記文字板裏面の付着物の発生防止と時計の発電効率とのバランスを考慮すると、好ましいフュームドシリカの量は、光重合性化合物100質量部に対して0.2〜1.0質量部である。なお、光重合性化合物が二種以上の化合物からなるときは、上記量は、二種以上の光重合性化合物の合計量である。また、フュームドシリカが二種以上の混合物であるときは、上記量は混合物の量である。
【0026】
PTFE粒子は、光重合性化合物100質量部に対して好ましくは0.2〜5.0質量部の量で含まれる。上記の量含まれていると、上記文字板の裏面にソーラーセルの一部が付着物として残存することを特に効果的に防止できる。いいかえると、PTFE粒子の量が上記量よりも少ないと、付着物の残存をより効果的に防止できない場合がある。PTFE粒子の量が上記量よりも多いと、コート層が白く形成されてしまうため、時計の発電効率が低下する場合がある。あるいは、コート用組成物の流動性が悪くなり、塗布しにくくなる場合がある。また、このとき無理に塗布を行うと、コート層が厚く形成されてしまうため、やはり時計の発電効率が低下する場合がある。さらに、上記文字板裏面の付着物の発生防止と時計の発電効率とのバランスを考慮すると、より好ましいPTFE粒子の量は、光重合性化合物100質量部に対して0.5〜1.0質量部である。なお、光重合性化合物が二種以上の化合物からなるときは、上記量は、二種以上の光重合性化合物の合計量である。また、PTFEが二種以上の混合物であるときは、上記量は混合物の量である。
【0027】
なお、本発明のコート用組成物(1)は、必要に応じて、溶剤;レベリング剤、消泡剤、増粘剤、難燃剤、酸化防止剤、安定剤等の添加剤などその他の成分をさらに含んでいてもよい。溶剤としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、2−メトキシエチルアセタート、2−エトキシエチルアセタート、2−ブトキシエチルアセタート等のエーテルエステル類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル類などが挙げられる。上記溶剤や添加剤は、一種単独で用いても、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
溶剤は、光重合性化合物100質量部に対して通常5.0〜30質量部含まれる。添加剤は、光重合性化合物100質量部に対して合計で通常0.1〜20質量部含まれる。
本発明のコート用組成物(1)は、通常(メタ)アクリロイル基含有化合物、ラジカル重合開始剤、フュームドシリカ、必要に応じてPTFE粒子やその他の成分を適宜混合して製造される。
【0029】
コート用組成物(1)の常温(25℃)での粘度は、塗布のしやすさの観点から、好ましくは100〜40000cp、より好ましくは100〜10000cpであることが望ましい。
【0030】
[コート用組成物(2)]
コート用組成物(2)は、上述のように、光重合性化合物としてエポキシ化合物、光重合開始剤としてカチオン重合開始剤、フュームドシリカを含む。さらに、PTFE粒子を
含んでいることが好ましい。エポキシ化合物およびカチオン重合開始剤を用いると、紫外線照射によってよりべたつきの抑えられたコート層を得られる利点がある。
【0031】
エポキシ化合物は、紫外線照射によって活性化したカチオン重合開始剤により高分子化または架橋し、コート層を形成する。
エポキシ化合物としては、芳香族エポキシ樹脂、脂環族エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂などが挙げられる。芳香族エポキシ樹脂としては、具体的には、少なくとも一個の芳香族環を有する多価フェノールまたはそのアルキレンオキサイド付加物のポリグリシジルエーテル(たとえばビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS)、これらにさらにアルキレンオキサイドを付加させた化合物のグリシジルエーテル、エポキシノボラック樹脂などが挙げられる。脂環族エポキシ樹脂としては、具体的には、少なくとも一個の脂環族環を有する多価アルコールのポリグリシジルエーテル、シクロヘキセンもしくはシクロペンテン環含有化合物を酸化剤でエポキシ化して得られるシクロヘキセンオキサイド構造含有化合物もしくはシクロペンテンオキサイド構造含有化合物、ビニルシクロヘキサン構造を有する化合物を酸化剤でエポキシ化して得られるビニルシクロヘキサンオキサイド構造含有化合物が挙げられる。脂肪族エポキシ樹脂としては、具体的には、脂肪族多価アルコールまたはそのアルキレンオキサイド付加物のポリグリシジルエーテル、脂肪族長鎖多塩基酸のポリグリシジルエステル、脂肪族長鎖不飽和炭化水素を酸化剤で酸化して得られるエポキシ含有化合物、グリシジルアクリレートまたはグリシジルメタクリレートのホモポリマー、グリシジルアクリレートまたはグリシジルメタクリレートのコポリマーなどが挙げられる。これらのうちで、より具体的には、ビスフェノールA型のグリシジルエーテル、ビスフェノールF型のグリシジルエーテル、ビスフェノールS型のグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3',4'−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート、アリルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、sec−ブチルフェノールグリシジルエーテル、2−メチルオクチルグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルが好適に用いられる。上記エポキシ化合物は、一種単独で用いても、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
通常、時計は−10〜80℃での使用により劣化しないことが求められるため、エポキシ化合物のTgは、好ましくは100℃以上、より好ましくは150℃以上であることが望ましい。二種以上のエポキシ化合物の混合物を用いるときは、該混合物のTgが好ましくは100℃以上、より好ましくは150℃以上となるようにエポキシ化合物を組み合わせて用いることが望ましい。なお、ここで、エポキシ化合物のTgは、TMA法により測定した値である。
【0033】
カチオン重合開始剤は、紫外線照射によりカチオン重合を開始させる物質を放出する。カチオン重合開始剤としては、具体的には、紫外線照射によってルイス酸を放出するオニウム塩である複塩、またはその誘導体が挙げられる。上記カチオン重合開始剤は、一種単独で用いても、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
フュームドシリカについて、具体的にはコート用組成物(1)の場合と同様である。上記コート用組成物(2)は、文字板の裏面に塗布されてコート層を形成するが、得られたコート層中にはフュームドシリカが含まれているため、光発電時計の美観を保つことができる。詳細には、何らかの原因によってソーラーセルと文字板とが接触した後両者が離れたときに、文字板裏面にソーラーセルの一部が黒色の付着物として残ることはない。したがって、カバーガラス側から文字板を見ても、光発電時計の美観は損なわれない。なお、
機構についてはコート用組成物(1)と同様に考えられる。
【0035】
上記コート用組成物(2)は、さらにPTFE粒子を含んでいることが好ましい。PTFE粒子について、具体的にはコート用組成物(1)の場合と同様である。コート用組成物(2)から形成されるコート膜中にフュームドシリカとともにPTFE粒子が含まれていると、上記外観不良の発生がより抑えられる。なお、機構についてはコート用組成物(1)と同様に考えられる。
【0036】
カチオン重合開始剤は、光重合性化合物100質量部に対して通常0.5〜5.0質量部の量で含まれる。カチオン重合開始剤の量が上記範囲より少ないと、重合しない場合があり、上記範囲より多いと、コート層の深部まで光が到達できず、表面近傍のみが重合する場合がある。
【0037】
フュームドシリカの含有量およびその好ましい理由ならびにPTFE粒子の含有量およびその好ましい理由については、コート用組成物(1)の場合と同様である。
なお、本発明のコート用組成物(2)は、必要に応じて、増感剤;溶剤;レベリング剤、消泡剤、増粘剤、難燃剤、酸化防止剤、安定剤等の添加剤などその他の成分をさらに含んでいてもよい。
【0038】
増感剤としては、たとえば、アントラセン誘導体、ピレン誘導体等の増感剤が挙げられる。増感剤を用いると硬化速度を大きくすることができる。
溶剤としては、アセトン、イソプロピルアルコール、エタノール、トルエン、キシレン、酢酸エチル、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどが挙げられる。上記増感剤、溶剤や添加剤は、一種単独で用いても、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
増感剤は、カチオン重合開始剤100質量部に対して通常0.1〜5.0質量部含まれる。溶剤は、光重合性化合物100質量部に対して通常5.0〜30質量部含まれる。添加剤は、光重合性化合物100質量部に対して合計で通常0.1〜20質量部含まれる。
【0040】
本発明のコート用組成物(2)は、通常エポキシ化合物、カチオン重合開始剤、フュームドシリカ、必要に応じてPTFE粒子やその他の成分を適宜混合して製造される。
コート用組成物(2)の常温(25℃)での粘度は、塗布のしやすさの観点から、好ましくは100〜40000cp、より好ましくは100〜10000cpであることが望ましい。
【0041】
<コート層を裏面に有する文字板および該文字板を有する光発電時計>
本発明に係る文字板は、上記コート用組成物(具体的にはコート用組成物(1)または(2))から得られるコート層を裏面に有する。
【0042】
本発明に用いられる文字板は、光が透過するプラスチックからなり、通常ポリカーボネートからなる。この文字板について、通常以下のようにしてコート層が設けられる。
まず、本発明に係るコート用組成物は、具体的には、刷毛塗り、スプレー法、スピンコート法、グラビア法、コンマコート法などの公知の方法によって文字板の裏面に塗布される。ここで、硬化したコート層が通常0.5〜30μm、好ましくは5〜30μm、より好ましくは5〜10μmとなるように塗布する。
【0043】
なお、コート用組成物が溶剤を含む場合には、コート用組成物を文字板に塗布した後、溶剤を乾燥して除去する。乾燥条件は、特に制限されず、溶剤の沸点、塗布量等によって適宜決定される。
【0044】
次に、塗布したコート用組成物に紫外線照射し、光重合性化合物を重合し硬化させてコート層が得られる。紫外線照射には、通常高圧水銀ランプ、メタルハライドランプが用いられる。照射条件は、硬化したコート層が得られる限り特に制限されない。このようにして、本発明に係る文字板、すなわち上記コート用組成物から得られるコート層を裏面に有する文字板が得られる。
【0045】
さらに、カバーガラス、ソーラーセル、および二次電池を含むムーブメントなどとともに、本発明に係る文字板を用いて、光発電時計が製造される(図1参照)。本発明に係る光発電時計においては、文字板の裏面にコート層が設けられているため、何らかの原因によってソーラーセルと文字板とが接触した後両者が離れたときに、文字板裏面にソーラーセルの一部が黒色の付着物として残ることはない。したがって、カバーガラス側から文字板を見ても、光発電時計の美観は損なわれない。
【0046】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例]
<評価方法>
実施例および比較例で作製したコート層を有する文字板および時計について以下の評価を行った。評価結果は表1−1〜1−10、2−1〜2−11に示す。
【0047】
(1)塗布性
文字板裏面にコート用組成物を刷毛塗りして塗布層を形成する際に、コート用組成物の塗布性を評価した。表1−1〜1−10、2−1〜2−11の評価は、具体的には以下のことを表す。
【0048】
AA:塗布層を硬化して得られたコート層の厚さが5〜10μmであった。
A:塗布層を硬化して得られたコート層の厚さが10〜30μmであった。
B:塗布層を硬化して得られたコート層の厚さが大きいところで50μmを超えていた。
【0049】
なお、上記コート層の厚さは、コート層を剥離してマイクロメータにて測定した。
(2)文字板の汚染
文字板裏面にコート用組成物を塗布して塗布層を形成し、該塗布層を硬化して得られたコート層を有する文字板について、以下の試験を行い、文字板が汚染されるか評価を行った。
【0050】
図2のように、裏面(コート層116を有する面)が上になるように文字板106を置き、その上にソーラーセル108を載せた。次に、ソーラーセル108上に文字板106と略同形のおもり118(重さ60g)を載せた。この状態のまま文字板106を80℃の炉に入れ、該文字板106を120時間後に取出した。文字板106の裏面にソーラーセル108の一部が張り付いたまま残ったことによる黒色の付着物が存在するか観察した。また、炉の温度を100℃にした場合も上記と同様に試験、観察を行った。さらに、おもりの重さを80gにして、炉の温度を80℃および100℃にした場合も上記と同様に試験、観察を行った。表1−1〜1−10、2−1〜2−11の評価は、具体的には以下のことを表す。
【0051】
AAA:いずれの試験においても、文字板裏面に付着物は見られなかった。すなわち、80gのおもりによる80℃の試験および80gのおもりによる100℃の試験においても、文字板裏面に付着物は見られなかった。
【0052】
AA:60gのおもりによる80℃の試験および60gのおもりによる100℃の試験では、文字板裏面に付着物は見られなかった。しかしながら、80gのおもりによる80℃の試験および80gのおもりによる100℃の試験では、文字板裏面に付着物が見られた。
【0053】
A:60gのおもりによる80℃の試験では、文字板裏面に付着物は見られなかった。しかしながら、60gのおもりによる100℃の試験では、文字板裏面に付着物が見られた。
【0054】
B:60gのおもりによる80℃の試験によっても、文字板裏面に付着物が見られた。
(3)発電効率
コート層を有する文字板を用いて組み立てた光発電時計(エコドライブ、シチズン時計製)について動作確認を行い、発電効率を評価した。表1−1〜1−10、2−1〜2−11の評価は、具体的には以下のことを表す。
【0055】
AA:組み立てた光発電時計を暗所に時計が止まるまで置いた後、室内に戻し、電池の電圧が1Vに達するまでの時間を測定すると、5時間以下であった。
A:組み立てた光発電時計を暗所に時計が止まるまで置いた後、室内に戻し、電池の電圧が1Vに達するまでの時間を測定すると、5時間超であった。
【0056】
B:コート層に50μm以上の厚いところがあるため、光発電時計を組み立てることができなかった。
<コート用組成物の調製に用いた成分>
(1)(メタ)アクリロイル基含有化合物
多官能化合物として、トリシクロデカンジメチロールジアクリレート、イソシアヌル酸EO変性ジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパンPO変性トリアクリレート、イソシアヌル酸EO変性ジおよびトリアクリレート(ジアクリレートが30〜40質量%を占める)、ペンタエリスリトールトリおよびテトラ(メタ)アクリレート(トリアクリレートが65〜70質量%を占める)、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタおよびヘキサアクリレート、ポリエステルアクリレート系プレポリマー(すべて東亞合成(株)製)を用い、単官能化合物として、フェノールEO変性アクリレート(東亞合成(株)製)を用いた。
【0057】
(2)ラジカル重合開始剤
アセトフェノン系開始剤である市販の2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノ−プロパン−1−オンを用いた。
【0058】
(3)エポキシ化合物
芳香族エポキシ樹脂として、市販のビスフェノールA型のグリシジルエーテル、ビスフェノールF型のグリシジルエーテル、ビスフェノールS型のグリシジルエーテルを用い、脂環族エポキシ樹脂として、市販の3,4-エポキシシクロヘキセニルメチル-3',4'-エポキ
シシクロヘキセンカルボキシレートを用い、脂肪族エポキシ樹脂として、市販のアリルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、sec−ブチルフェノールグリシジルエーテル、2−メチルオクチルグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルを用いた。
【0059】
(4)カチオン重合開始剤
スルホニウム塩系のカチオン重合開始剤であるアデカオプトマーSP152(商品名、(株)ADEKA製)を用いた。
【0060】
(5)フュームドシリカ
AEROSIL 200(登録商標、日本アエロジル(株)製)を用いた。
(6)PTFE粒子
市販のPTFE粒子を用いた。
【0061】
[実施例1−1]
表1−1に記載の成分を混合してコート用組成物(1)を作製した。ポリカーボネートからなる文字板裏面に上記組成物を刷毛塗りして塗布層を形成し、該塗布層を硬化して得られたコート層を有する文字板を得た。硬化は、高圧水銀ランプを用いて行った。さらに、上記文字板とともに、カバーガラス、ソーラーセル、およびムーブメントを用いて、光発電時計(エコドライブ、シチズン時計製)を組み立てた(図1参照)。
【0062】
[実施例1−2〜1−47および比較例1−1〜1−2]
表1−1〜1−10に記載の成分を混合した以外は実施例1−1と同様にして、コート用組成物(1)、コート層を有する文字板、光発電時計を作製した。
【0063】
[実施例2−1]
表2−1に記載の成分を混合してコート用組成物(2)を作製した。ポリカーボネートからなる文字板裏面に上記組成物を刷毛塗りして塗布層を形成し、該塗布層を硬化して得られたコート層を有する文字板を得た。硬化は、高圧水銀ランプを用いて行った。さらに、上記文字板とともに、カバーガラス、ソーラーセル、およびムーブメントを用いて、光発電時計(エコドライブ、シチズン時計製)を組み立てた(図1参照)。
【0064】
[実施例2−2〜2−52および比較例2−1〜2−2]
表2−1〜2−11に記載の成分を混合した以外は実施例2−1と同様にして、コート用組成物(2)、コート層を有する文字板、光発電時計を作製した。
【0065】
【表1−1】

【0066】
【表1−2】

【0067】
【表1−3】

【0068】
【表1−4】

【0069】
【表1−5】

【0070】
【表1−6】

【0071】
【表1−7】

【0072】
【表1−8】

【0073】
【表1−9】

【0074】
【表1−10】

【0075】
【表2−1】

【0076】
【表2−2】

【0077】
【表2−3】

【0078】
【表2−4】

【0079】
【表2−5】

【0080】
【表2−6】

【0081】
【表2−7】

【0082】
【表2−8】

【0083】
【表2−9】

【0084】
【表2−10】

【0085】
【表2−11】

【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】図1は、光発電時計を説明するための図である。
【図2】図2は、文字板の汚染の評価について説明するための図である。
【符号の説明】
【0087】
102: カバーガラス
104: ケース
106: 文字板
108: ソーラーセル
110: 二次電池
112: ムーブメント
114: 光
116: コート層
118: おもり

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光重合性化合物、光重合開始剤およびフュームドシリカを含み、該フュームドシリカを該光重合性化合物100質量部に対して0.2〜10質量部含むことを特徴とする光発電時計の文字板の裏面コート用組成物。
【請求項2】
さらにポリテトラフルオロエチレン粒子を含み、該ポリテトラフルオロエチレン粒子を該光重合性化合物100質量部に対して0.2〜5.0質量部含むことを特徴とする請求項1に記載の光発電時計の文字板の裏面コート用組成物。
【請求項3】
前記光重合性化合物が、分子中に(メタ)アクリロイル基を1個以上有する(メタ)アクリロイル基含有化合物であることを特徴とする請求項1または2に記載の光発電時計の文字板の裏面コート用組成物。
【請求項4】
前記光重合性化合物が、エポキシ化合物であることを特徴とする請求項1または2に記載の光発電時計の文字板の裏面コート用組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の光発電時計の文字板の裏面コート用組成物から得られるコート層を裏面に有することを特徴とする文字板。
【請求項6】
請求項5に記載の文字板を有することを特徴とする光発電時計。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−43988(P2010−43988A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−208993(P2008−208993)
【出願日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【出願人】(307023373)シチズン時計株式会社 (227)
【Fターム(参考)】