説明

光磁気記録媒体用スパッタリングターゲット及びその製造方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、光磁気記録媒体の磁気記録層の作製に使用されるスパッタリングターゲット及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術およびその問題点】光磁気記録媒体は記録、再生、消去が可能な媒体として近時において研究開発が盛んに行われている。これら光磁気記録媒体材料としては、希土類元素と遷移金属との合金からなる非晶質材料が以下の特長を有することから注目されている。すなわち、(1)非晶質であるため、MnBi等の結晶性媒体に見られる粒界ノイズがない。(2)膜作成が比較的容易であり、大面積にわたって均一な膜が得られる。(3)記録時の媒体の温度上昇が100℃程度でよく、そのため半導体レーザが使用でき、装置の小型化が可能である。これら非晶質合金はスパッタリング法により基板上に薄膜形成される。
【0003】そのため、従来から希土類元素と遷移金属との合金(Tb−Fe−Co,Gd−Tb−Fe)ターゲットが種々提案されている。例えば、特開平2−107762号公報では、上記金属間化合物相と希土類元素との微細混合相及び該金属間化合物相の混合組織を有する合金ターゲットが開示されている。
【0004】しかしながら、上記公報記載の合金ターゲットは、金属間化合物相と希土類元素の微細混合相、あるいは金属間化合物相と希土類元素との微細混合相及びさらに希土類元素の混合相から構成されるため、多量の希土類元素が存在し、この希土類元素は酸化され易いため、目標とする膜組成が得にくく、また膜中に酸素を比較的多く含むため、メモリーとしての膜特性が劣化するおそれがあり記録媒体として情報の長期保存に問題が生じるものである。また、希土類元素と金属間化合物とのスパッタ率が異なるため、希土類元素相が優先的にスパッタリングされ、膜組成がスパッタリング時間とともに大きく変化する(以下、経時変化という)。さらには、上記公報、特にその実施例からも明らかなように、この合金ターゲットを作成する場合、合金粉末として希土類元素と遷移金属との状態図において、共晶点より希土類元素のリッチな組成のものを使用するため、機械的粉砕が困難であり、高価で酸素含有量の多いPREP法等の方法によらなければならない。
【0005】本発明は、上記した従来の問題点を解決し、膜特性の劣化がなく、経時変化も少ない合金ターゲットを提供し、併せて機械的粉砕が可能で粉末の調製が容易で製造が簡単な合金ターゲットの製造法を提供することを目的とする。
【0006】
【問題点を解決するための手段】本発明の光磁気用ターゲットは、その成分組成が、Gd,Tb,Dyから選ばれる少なくとも1種の希土類元素10〜40at%、残部が実質的にFe,Coの1種もしくは2種の遷移金属からなり、その組織が、希土類元素と遷移金属との金属間化合物a相と、前記金属間化合物aと同組成の金属間化合物aと希土類元素及び微量の遷移金属元素の固溶体とからなる微細混合相と、前記金属間化合物aとは組成の異なる希土類元素と遷移金属との金属間化合物b相とからなっていることを特徴とする。そして、金属間化合物a相と、金属間化合物aと希土類元素及び微量の遷移金属元素の固溶体とからなる前記金属間化合物aの周囲の微細混合相とで複合組織を構成し、これとは別の固体中に金属間化合物bが構成された組織で構成される。このターゲットを製造する方法は、粒径1000μm以下の金属間化合物bの組成を有する希土類元素と遷移金属との合金粉末aと、粒径1000μm以下の希土類元素と遷移金属との合金状態図において共晶点より遷移金属元素リッチの組成を有する希土類元素と遷移金属との合金粉末bとを混合し、ホットプレスことにより得られる。なお、前記合金粉末a及びbのうち少なくとも合金粉末bは超急冷凝固法によって得られたものを使用することができる。
【0007】以下に本発明における限定理由を説明する。
(1)希土類元素10〜40at%希土類元素が10at%以下のターゲットを使用した場合も40at%を超えるターゲットを使用した場合もそれによって作成したスパッタ膜はいずれも垂直磁気異方性を示さず、保磁力も低いため、光磁気記録層として必要な特性が得られない。
(2)組織Tb+Feの共晶相と金属間化合物からなる固体aとそれとは違う金属間化合物からなる固体bが混在しないとスパッタしたときのTbとFeの飛行方向のバランスがくずれ、固体aが多いときは膜の中心部ほどTbの飛ぶ量がFeに比べ多く、外周部ほどTbの飛ぶ量はFeに比べ少なくなる。その結果、膜の中心部ほどTb濃度が高く外周部ほど濃度の低い膜組成となる。また、固体bが多くなるとそれとは逆に中心部ほどTb濃度の低い膜組成となり、いずれも安定した記録膜は得られない。
(3)粒度粒径1000μmを超える粉末を使用したターゲットを作製するとターゲット中の空隙が増加し、密度が低くターゲット使用効率の低下を招き、ターゲットの強度も低下する。また粒度が粗過ぎると膜組成の均一性にも悪影響を及ぼす。
(4)TbとFeの共晶点よりもFeリッチな合金の使用共晶点よりもTbリッチな合金は粉砕が困難であり、PREP法により作製されるが酸化が進み、コストも高くなる。共晶点よりもFeリッチな合金であれば超急冷凝固法によりリボンを作製し、機械的に粉砕が可能で酸化も少なく加工性も良い。
【0008】
【作用】上記のように、本発明では、粒径1000μm以下の金属間化合物(以下、IMCという)bの組成を有する希土類元素と遷移金属との合金粉末aと、粒径1000μm以下の希土類元素と遷移金属との合金状態図において共晶点より遷移金属元素リッチの組成を有する希土類元素と遷移金属との合金粉末bとを混合し、これをホットプレスするため、得られるターゲットは、IMCa相とその周囲のIMCaと希土類元素及び微量の遷移金属元素の固溶体からなる微細混合相とで複合組織を構成し、これとは別の固体中にIMCbが構成された組織となる。これを模式的に表せば、IMCb+{IMCa+[IMCa+αRE]}となり、前記公報に記載された従来例のIMC+(IMC+RE)の組織を有するターゲットと比較して単体のRE相が少なくなる。従ってその分、酸化される度合いが少なくなり、膜特性の劣化が防止され、膜組成の経時変化が少なくなる。
【0009】本発明において、合金粉末bとして、希土類元素と遷移金属との合金状態図において共晶点より遷移金属元素リッチの組成を有する希土類元素と遷移金属との合金粉末を用いるとは、例えばFe−Tbの合金状態図では、Tb72%の組成において共晶点を有し、この共晶点よりFeリッチのFe−Tb合金組成を有する粉末を原料として使用することである。このような合金組成の粉末bは例えば超急冷凝固法によってリボンを作製することにより、簡単に粉砕することができる。
【0010】超急冷凝固法によって得られたリボンは、アモルファスあるいはアモルファスを一部含む微細析出結晶粒から構成されている。従って、それを加圧成形して作製されたターゲットは従来のインゴット粉砕粉を加圧成形したものに比べはるかに微細な結晶粒からなる組織で構成され、高密度に成形される。また、ターゲットの最大透磁率は従来法によって得られたターゲットのそれに比べかなり低くなる。この低い最大透磁率はこの種のターゲットが一般にマグネトロンスパッタリングされることを考えると、高密度の効果とともにスパッタリング効率の向上に大きく寄与する。
【0011】本発明で使用する少なくとも合金粉末bは前述のように超急冷凝固法によって作製されるため、粉末は微細な結晶粒(相)から構成される。従って粉末は加工性に富み、成形温度を大幅に低下させることができる。そのため、組織を構成する各相の反応を抑制するような低温で高密度に成形することができる。例えば、Tb−Fe−Co系合金の場合、温度800〜950℃で、充分に高い密度の成形体を得ることが可能である(相対密度≧95%)。温度以外の成形条件は常法に従うことができる。
【0012】得られる合金ターゲットは、次いでスパッタリングされる。スパッタリングの手段、条件等は通常の方法がそのまま適用できる。本発明のターゲットでは、その組織が微細であり、固体間の反応が抑制されているため、固体間の組成差が維持されている。従って、スパッタリングに際し、ターゲットと膜間の組成差が少なく、基板上に形成される膜組成のばらつきがなく、均一で磁気記録特性のばらつきがない磁気記録層が得られる。
【0013】以下に実施例に従い本発明をより詳しく説明する。
【実施例1】純度99.9%のテルビューム、電解鉄、電解コバルトを原料として、合金b,Tb:Fe=86:14(重量%)、合金a,Tb:Fe:Co=25:69:6(重量%)をそれぞれアーク溶解法で溶製し得られた合金をAr雰囲気中、先端に射出穴を有する石英管中で溶解後、2000RPMで回転している銅ロール上へ射出することにより超急冷リボンを作製した。その合金をそれぞれ有機溶媒中で粉砕、分級して1000μm以下の粉末を調製した。b合金粉末112gとa合金粉末239gをAr雰囲気中ボールミルで混合した後、内径102mmのカーボンモールドに充填し、Ar雰囲気中で950℃に昇温後500kg/cm2で1時間加圧し、室温まで冷却した。
【0014】このようにして得られた合金ターゲットには、ヒビ、割れ等は観察されなかった。このターゲットの組成は、Tb22,Fe72.4,Co5.6(原子%)であった。またこのターゲットの組織はTb2(FeCo)17相の粒子とTb(FeCo)2相の周囲に微細なTb(FeCo)2相及びTb中に(FeCo)を固溶した微細なαTb相の混合相を構成した粒子から成り立っていた。このターゲット(直径102mm、厚さ5mm)を使用してガラス基板、直上固定、Arガス圧3×(1/103)Torr、電力5KW/cm2の条件でスパッタリングした。基板の直上中心位置から半径方向100mmまでの膜組成をEPMAで定量分析した結果、そのばらつきはTbで0.1at%以内であった。また、ターゲット組成と膜組成平均値とのずれは0.2at%以内、スパッタリング経過1時間及び10時間時の膜組成平均値のずれは0.2at%以内であった。そして、その相対密度は99%で、酸素含有量は400ppm、最大透磁率は3.2であった。
【0015】
【実施例2】実施例1と同様の方法で合金b,Tb:Fe:Co=65.5:32:2.5(重量%)、合金a,Tb:Fe:Co=25:69.5:5.5(重量%)のそれぞれ590μm以下の粉末を調製し、合金粉末b225g及び合金粉末a122gを混合して800℃、500kg/cm2で熱間加圧することによりターゲットを作製した。ターゲットには、ヒビ、割れは見られなかった。ターゲット組成はTb27,Fe68,Co5(原子%)で組織は、Tb(FeCo)相+αTb相の混合相が多い以外は実施例1と同様の組織であった。また、スパッタリングの結果、膜組成のばらつきは0.2at%、膜とターゲットの組成ズレは0.2at%、膜組成の経時変化は1時間と10時間で0.2at%であった。そして、その相対密度は98.5%で、酸素含有量は350ppm、最大透磁率は3.0であった。
【0016】
【実施例3】実施例1と同様にアーク溶解法で溶製した合金b,Tb:Fe=86:14(重量%)を超急冷法によりリボンを作製し、有機溶媒中で粉砕、分級して200μm以下の粉末を調製した。また、合金a,Tb:Fe:Co=25:69.5:5.5(重量%)をアーク溶解法で溶製し、有機溶媒中で粉砕、分級することにより200μm以下の粉末を調製した。合金粉末b,225g及び合金粉末a,122gを混合して850℃、220kg/cm2で加圧成形することにより、ターゲットを作製した。ターゲットには、ヒビ、割れは見られなかった。組成、組織はいずれも実施例2と同様で膜組成のばらつきは0.2at%、膜とターゲットの組成のズレは0.3at%、膜組成の経時変化は0.3at%と良好な値を示した。そして、その相対密度は98.8%で、酸素含有量は350ppm、最大透磁率は3.1であった。
【0017】
【比較例1】熱間加工条件を1100℃にした以外は実施例2と同様にしてターゲットを作製した。ターゲットにはヒビ、割れは見られなかった。ターゲットの組織は、Tb(FeCo)2相とTb(FeCo)3相からなっていた。そのターゲットを実施例1と同様の方法でスパッタリングしたところ、膜組成のばらつきは直上中心と半径方向70mm位置ではTb値で約2at%の差があった。そして、その相対密度は100%で、酸素含有量は480ppm、最大透磁率は5.5であった。
【0018】
【比較例2】合金a,Tb:Fe:Co=25:69:6(重量%)をアーク溶解法で溶製し、有機溶媒中で粉砕分級して300μm以下の粉末aを調製した。粉末0.266gとPREP法で製造した250μm以下の99.9%Tb粉末をアルゴン雰囲気中ボールミルで混合後、内径102mmのカーボンモールドに充填し、アルゴン雰囲気中1100℃、220kg/cm2で1時間加圧成形した。ターゲットにはヒビ、割れは見られなかった。そのターゲットの相対密度は84%と実施例と比べて低く、また不純物酸素含有量は1500ppmと実施例1に比べ高かった。また、このターゲットをスパッタリングして得られた膜の最大透磁率は17.0であった。
【0019】
【発明の効果】以上のような本発明によれば、単独のRE量が少ないため、酸化が少なく、ターゲット組成と膜組成とのズレは非常に小さく、膜特性の劣化は生じず、さらには、膜組成の経時変化は極めて僅かである。そして、このターゲットを作製する際、合金bを超急冷凝固法により得ると粉末の粉砕が容易に行えその結晶粒が微細となり成形に際して低温での成形が可能となり、各相の反応が抑制され高密度成形が行え、製造工程の簡略化、コストの低減が図れる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 成分組成が、Gd,Tb,Dyから選ばれる少なくとも1種の希土類元素10〜40at%、残部が実質的にFe,Coの1種もしくは2種の遷移金属からなり、その組織が、希土類元素と遷移金属との金属間化合物a相と、前記金属間化合物aと同組成の金属間化合物aと希土類元素及び微量の遷移金属元素の固溶体とからなる微細混合相と、前記金属間化合物aとは組成の異なる希土類元素と遷移金属との金属間化合物b相とからなっていることを特徴とする光磁気記録媒体用スパッタリングターゲット。
【請求項2】 金属間化合物a相と、金属間化合物aと希土類元素及び微量の遷移金属元素の固溶体からなる前記金属間化合物a相の周囲の微細混合相とで複合組織を構成し、これとは別の固体中に金属間化合物bが構成された組織を有する請求項1記載の光磁気記録媒体用スパッタリングターゲット。
【請求項3】 粒径1000μm以下の金属間化合物bの組成を有する希土類元素と遷移金属との合金粉末aと、粒径1000μm以下の希土類元素と遷移金属との合金状態図において共晶点より遷移金属元素リッチの組成を有する希土類元素と遷移金属との合金粉末bとを混合し、これをホットプレスする請求項1記載の光磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを製造する方法。
【請求項4】 前記合金粉末a及びbのうち少なくとも合金粉末bは超急冷凝固法によって得られたものを使用する請求項3記載の方法。

【特許番号】第2986291号
【登録日】平成11年(1999)10月1日
【発行日】平成11年(1999)12月6日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−180447
【出願日】平成4年(1992)6月15日
【公開番号】特開平6−2131
【公開日】平成6年(1994)1月11日
【審査請求日】平成9年(1997)1月17日
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【参考文献】
【文献】特開 平2−107762(JP,A)
【文献】特開 昭64−25977(JP,A)
【文献】特開 昭63−274764(JP,A)