説明

光磁気記録用磁気ヘッド

【構成】 飽和磁束密度B10が25℃において5400Gよりも大きいか又は92℃において4200Gよりも大きいMn−Znフェライトより成る磁気コアと、20℃〜500℃における熱膨張率が120×10-7〔1/℃〕以上150×10-7〔1/℃〕以下である非磁性材料からなるスライダーとがガラスボンディングにより接合されている。非磁性材料は、NiOを主成分とし少なくともCaO,TiO2 ,MgO,MnOのうち1つ以上の成分が添加されたセラミックであるか、または結晶化ガラスである。
【効果】 磁気コアとスライダーとの間で熱膨張率を略一致させることができるため、ガラスボンディングによる接合が可能である。また、磁気コアの飽和磁束密度を大きくしたことにより、磁界を高周波で変調する際にも、磁気コア内部での磁束の飽和が発生し難く、したがって記録信号の周波数の上限を高め、より高速の信号記録が実現される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、磁界変調方式の光磁気記録に使用される変調磁界発生用の磁気ヘッドに関するものである。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
(A)従来より、光磁気記録媒体としての光磁気ディスクに磁界変調方式により信号記録を行なうための光磁気記録用磁気ヘッドとしては、例えば図6及び図7に示すようなコンポジット型の浮上磁気ヘッドが一般に使用される。ここで、Cは“コ”の字型の磁気コアであり、通常高透磁率のMn−Znフェライトから成る。磁気ヘッドは、ディスクの高速回転にともなって生じる空気流によりディスクとの間に微小な間隔を保ち浮上走行するために、空気力学的な浮上面形状を有するスライダーSに搭載される。スライダーSは通常は非磁性のセラミックであるCaO−TiO2 よりなり、スライダーSと磁気コアCとはガラスGによりボンディング接合される。その際、磁気コアCの開放端側がスライダーSの浮上面側に向けられるとともに、磁気コアCの主磁極Pの周囲にはコイルWが巻回される。
【0003】コイルWに記録されるべき情報信号により変調された電流が供給されると、磁気コアCの主磁極Pの端面よりディスクに対して垂直な方向に磁界を発生するのである。
【0004】さて、ここで前記したスライダーSを成す非磁性のセラミックに対しては次のような特性が要求される。
【0005】まず第1には、スライダーSがディスクとの摺動や摩擦により摩耗することを防ぐために十分な硬度を有することが必要であり、少なくともビッカース硬度500〔kg/mm2 〕以上でなければならない。上記のセラミックCaO−TiO2 の場合、ビッカース硬度は約850〔kg/mm2 〕であり、この条件を満たす。
【0006】さらに第2には、磁気ヘッド製造時に磁気コアCとスライダーSとを数百度の温度でガラスボンディング接合する際に両者の熱膨張率の差により磁気コアC,スライダーS,ガラスG等が割れることを防ぐために、磁気コアCとスライダーSとの熱膨張率が略一致するような材料により構成することが必要である。上記のセラミックCaO−TiO2 の場合、20℃〜500℃の間の熱膨張率は、その組成比を変えることにより100×10-7〜118×10-7〔1/℃〕の間で任意のものが作製可能である。そこで磁気コアCをなすMn−Znフェライトとしては上記のセラミックCaO−TiO2 と熱膨張率が略一致するものを選択して使用するのである。実際にはこれら相互の熱膨張率の許容差は最大5×10-7〔1/℃〕程度である。
【0007】これについてさらに詳細に説明する。
【0008】次に示す表1および表2は、各々代表的なセラミックCaO−TiO2 とMn−Znフェライトの試料について、その組成、熱膨張率、25℃における飽和磁束密度B10について比較したものである。
【0009】
【表1】


【0010】
【表2】


これらの表におけるセラミックCaO−TiO2 とMn−Znフェライトの熱膨張率の比較により、セラミックCaO−TiO2 の試料S1 とMn−Znフェライトの試料C3 の組み合わせ、および、セラミックCaO−TiO2 の試料S2 とMn−Znフェライトの試料C4 の組み合わせが利用できることが解る。
【0011】しかしながら、セラミックCaO−TiO2 の試料S1 に適合するMn−Znフェライトの熱膨張率は最高でも123×10-7〔1/℃〕程度であるから、Mn−Znフェライトの試料C1 ,C2 の様に熱膨張率が123×10-7〔1/℃〕よりも大きいMn−Znフェライトについては適合するセラミックCaO−TiO2 がないため、従来、実用化されていなかった。
【0012】なお、補足するとセラミックCaO−TiO2 のCaO成分の組成比を増大させると熱膨張率も増大する傾向があるが、CaO成分が過剰となると前述のスライダーの浮上面を鏡面加工することが困難となるため、実際的には熱膨張率を最大とする組成は表中の試料S1 に示すようなものであるから、従来のセラミックCaO−TiO2 において熱膨張率を118×10-7〔1/℃〕よりも大きくすることはできないのである。
【0013】以上述べたように、従来の光磁気記録用磁気ヘッドにおいては、スライダーをセラミックCaO−TiO2 により構成しているのであるが、その熱膨張率が最大となるのは例えば前記の試料S1 のような組成であって、その値は118×10-7〔1/℃〕である。また一方、磁気コアを構成するMn−Znフェライトはスライダーとのガラスボンディングを可能とする上でスライダーを構成するセラミックCaO−TiO2 と熱膨張率を略一致(許容差5×10-7〔1/℃〕以内)させる必要がある。このため、例えば前記の試料C3 のような組成のものが選択されるのである。
【0014】ところで、近年光磁気記録装置における信号記録の高速化に対する要求が高まりつつある。このため、より高い周波数で磁界を変調することが磁気ヘッドに求められる。ところが、磁界の変調周波数を高くした場合には、磁気コアおよびコイルにおける高周波損失が増大するために、磁気ヘッドが発熱することが知られている。図8は、本発明者の実験により得られた磁界の変調周波数と磁気ヘッドの温度上昇の関係の一例を示したグラフである。これによると、磁界の変調周波数を6MHzとした場合、磁気ヘッドの温度は約32℃ほど上昇する。ここで、実際の光磁気記録装置の内部の温度環境は最高で60℃程度になることを考慮すると、磁気ヘッドの動作温度は6MHzで約92℃となるのである。
【0015】また一方、磁気ヘッドの磁気コアを成すMn−Znフェライトは温度の上昇により飽和磁束密度が低下することが知られている。例えば、前記したMn−Znフェライトの試料C1 〜C4 について、飽和磁束密度B10と温度の関係を図9に示す。ここで、磁界発生の際に、特に磁気コアCのコイルWが巻回される主磁極Pの内部は磁束密度が高く磁束の飽和が生じやすい。磁束が飽和すると信号記録に必要な十分な強度の磁界発生ができなくなる。磁束の飽和を防ぐためには、磁気コアCを十分に飽和磁束密度の高いMn−Znフェライトで構成することが重要である。一般的には、良好な信号記録を行なうため十分な強度の磁界を発生しようとすると、磁気コアCの飽和磁束密度B10は4200G(図中破線で示すレベル)以上でなければならない。Mn−Znフェライトの試料C3 については飽和磁束密度B10が4200G以上であるのは約92℃以下であり、また試料C4については約60℃以下である。
【0016】ところが、上述のような事情により、光磁気記録装置内の温度環境は最高で60℃程度であり、これに加えて磁界変調時には変調周波数に応じて磁気ヘッドの高周波損失による温度上昇があるので、磁気ヘッドの温度を92℃以下とするには磁界変調周波数を6MHz以下としなければならない。したがって、従来のMn−Znフェライトの試料C3 を使用する場合の磁界変調周波数は6MHz以下に限られる。
【0017】また、Mn−Znフェライトの試料C4 については、光磁気記録装置内の温度環境を考慮すると、使用できないのである。
【0018】一方、試料C1 ,C2 については、試料C3 よりもさらに飽和磁束密度B10が高く、試料C1 では飽和磁束密度B10が4200G以上であるのは約122℃以下、試料C2 では約110℃以下である。即ち、光磁気記録装置内の温度環境を60℃とした場合、試料C1 では約62℃、試料C2 では約50℃の温度上昇まで許容されることがわかる。これらの値から、図8により試料C1 では磁界変調周波数は最高約12.6MHz、試料C2 では最高約10MHzであることがわかる。このように飽和磁束密度B10が大きいMn−Znフェライトを磁気コアとして使用することは、信号記録の高速化を実現するうえで非常に有効な手段である。
【0019】ところが、前述のようにMn−Znフェライトの試料C1 ,C2 のような飽和磁束密度B10の大きいものについては、熱膨張率を略一致させるCaO−TiO2 セラミックが無いために、磁気コアとスライダーのガラスボンディング接合ができず、実用化がなされていない。
【0020】このような磁気コアの飽和磁束密度にかかわる問題は、光磁気記録用磁気ヘッドと同じくCaO−TiO2 セラミックよりなるスライダーとMn−Znフェライトより成る磁気コアから構成された磁気ディスク装置用のコンポジット型の浮上磁気ヘッドにおいても従来より知られているので、ここで対比して補足説明する。磁気ディスク装置等において、近年信号のより高密度な記録に対する要求が高まりつつある。一般的な磁気記録方式である面内記録においては、高密度で信号記録を行なう場合に特有の現象である記録減磁により良好な信号記録が妨げられる。この記録減磁を防ぐために記録媒体の保磁力を大きくする試みが種々なされている。これにともなって磁気ヘッドにより記録媒体に印加される記録磁界をより大きくすることが必要となってくる。ところが、従来の磁気コアを成すMn−Znフェライトでは飽和磁束密度B10の大きさが不十分である。
【0021】そこで、磁気ディスク装置用磁気ヘッドにおいては、磁束の集中が著しい磁気コアのギャップ部分に飽和磁束密度の十分に高いセンダスト等の金属磁性材料からなる膜を設けたいわゆるMIG(Metal In Gap)ヘッドによりこの問題を解決している。
【0022】しかし、光磁気記録用磁気ヘッドの場合には、数十μm〜数百μm四方とかなり広い領域に均一な垂直磁界を発生するという目的のため先にも述べたようにギャップのない“コ”の字型の磁気コアを使用しており、磁束の飽和が磁気コアの内部で発生し易いため磁気ディスク装置用のMIGヘッドのような解決手段をとることはできないのである。
【0023】このように、光磁気記録用磁気ヘッドにおける飽和磁束密度にかかわる問題は、磁気ディスク装置用磁気ヘッドにおける同様の問題とは背景及びとりうる解決手段が異なるのである。
【0024】(B)また、従来、ディスク状の磁気記録媒体に対して、光ビームを照射した状態で、磁界変調方式で上記記録媒体に情報の書き込みを行うオーバーライト可能な光磁気記録再生装置は、種々提案されている(特開昭51−107121号公報、特開昭63−217548号公報、特開昭59−215008号公報、特公昭60−48806号公報など参照)。ここでは、光磁気記録媒体に対して、オーバーライトするために、磁気ヘッドスライダーに磁気コイル及びコアを配設し、これを回転する上記光磁気記録媒体に対向して配設し、両者の間に生じる空気流で上記磁気ヘッドスライダーを上記光磁気記録媒体上で浮上させている。このため、磁気ヘッドスライダーは、光磁気記録媒体が所定の回転数の時には、上記空気流の働きで、上記光磁気記録再生装置による記録、再生、消去などの過程で摩耗損傷されることはない。
【0025】しかしながら、上記光磁気記録媒体の駆動開始時あるいは駆動終了時には、相対回転数の低下で磁気ヘッドスライダーは浮上力を失い、上記光磁気記録媒体に対して上記磁気ヘッドスライダーが直接摺接することとなる。
【0026】さらに、上記磁気ヘッドを高速でシーク動作させる場合に加えられる大きな加速度によっても浮上安定性が失なわれて、磁気ヘッドスライダーと媒体とが接触し、磁気ヘッドスライダーが摩耗損傷を受けやすくなる。このような事態を防ぐため、従来の光磁気記録用磁気ヘッドにおいては、上記スライダーとしては、ビッカース硬度800〜900と高硬度のセラミックCaTiO3 が通常使用されるのである。ところが、このような材質をスライダーとして使用する場合、次のような問題点がある。
【0027】第1には、スライダーが、媒体の表面に比べて非常に硬く、また潤滑特性を十分には備えていないため、前述のような磁気ヘッドスライダーと媒体との接触により、媒体表面が摩耗損傷を受け、正常な信号の記録、再生が行なえなくなるおそれがあることである。
【0028】第2には、セラミックCaTiO3 の電気抵抗率が3×1012Ω・cm程度と高いため、同程度に電気抵抗率の高い媒体表面との摩擦により双方に静電気の帯電を生じやすく、このため、大気中に浮遊する塵埃がスライダーまたは媒体の表面に付着したり、また静電気による吸引力によりスライダーと媒体とが吸着するなどして、ヘッドクラッシュを生ずるおそれがあることである。
【0029】第3には、セラミックCaTiO3 の熱膨張係数が90×10-7〜118×10-7〔1/℃〕程度と小さいため、磁気ヘッドのコアをガラス融着する際の熱応力によるクラック(ひび割れ)の発生を防ぐために、コアの材質が熱膨張係数が上記セラミックCaTiO3 の値に近いフェライトに限定される点である。
【0030】従来より、この種の用途に適したMnO,ZnO,Fe2 3 を主成分とするフェライトにおいて熱膨張係数を上記の要求の範囲内とするためには、Fe2 3 の組成比を52モル%以下とする必要があった。ところが、このような組成のフェライトは、実効飽和磁束密度が5400G以下であり、高密度信号記録に必要な大きさの発生磁界を得ることが困難であるという問題点がある。
【0031】
【課題を解決するための手段】以上述べた従来の光磁気記録用磁気ヘッドにおける問題点を解決するために、本発明は、飽和磁束密度B10が25℃において5400Gよりも大きいか又は92℃において4200Gよりも大きいMn−Znフェライトより成る磁気コアと、20℃〜500℃における熱膨張率が120×10-7〔1/℃〕以上150×10-7〔1/℃〕以下である非磁性材料からなるスライダーとが、ガラスボンディングにより接合されたことを特徴とする光磁気記録用磁気ヘッドを提供する。
【0032】本発明では、上記非磁性材料を結晶化ガラスとすることができる。
【0033】以上述べた従来の光磁気記録用磁気ヘッドにおける問題点を解決するために、本発明は、非磁性材料よりなるスライダーに磁界発生用コア及びコイルを配設し記録情報に対応した極性の磁界を光磁気記録媒体に印加する光磁気記録用磁気ヘッドにおいて、上記スライダーの少なくとも上記光磁気記録媒体に対向する部分の表面電気抵抗率を1×1011Ω・cm以下としたことを特徴とする光磁気記録用磁気ヘッドを提供する。
【0034】本発明では、上記スライダーの少なくとも上記光磁気記録媒体に対向する部分の表面硬度をビッカース硬度500以上とすることができる。また、上記スライダーは少なくとも上記光磁気記録媒体に対向する部分に耐摩耗性の潤滑性かつ帯電防止性樹脂材料を設けたものとすることができる。
【0035】更に、上記スライダーをMnO,NiO,MgOのうち少なくともいずれかを主成分とする非磁性セラミックにより構成することができ、またNiOを主成分とし少なくともCaO,TiO2 ,MgO,MnOのうち1つ以上の成分が添加されたセラミックとすることができる。
【0036】
【実施例】以下、本発明による光磁気記録用磁気ヘッドの具体的実施例について説明する。
【0037】(A)まず、本発明の第1の実施例において、磁気コアCは、飽和磁束密度B10が25℃において5400Gよりも大きいか又は92℃において4200Gよりも大きいMn−Znフェライトとして先に述べた試料C1 やC2 を用いて構成される。さらに、スライダーSは、20℃〜500℃における熱膨張率が120×10-7〔1/℃〕以上150×10-7〔1/℃〕以下である非磁性材料として特にNiOを主成分とし少なくともCaO,TiO2 ,MgO,MnOのうちの1つ以上が添加されたセラミックを用いて構成される。このようなセラミックとしては、例えば次の表3に示す試料S3 ,S4 ,S5 のようなものがある。
【0038】
【表3】


ここで、主成分であるNiOは、単体では熱膨張率が160×10-7〔1/℃〕とかなり大きいが、上述のように添加物を適切な割合で配合することで、120×10-7〜150×10-7〔1/℃〕の間で所望の熱膨張率のセラミックを得ることができるのである。これについては、ここでは詳述しないが、例えば特公平3−45024号公報等にくわしく述べられている。尚、主成分NiOの含有率は例えば30〜70モル%である。
【0039】これらの試料はいずれもビッカース硬度が500〔kg/mm2 〕以上であり、スライダーとして十分な耐摩耗性を有するものである。また、熱膨張率を従来のCaO−TiO2 セラミックよりも大きくしたことによって、飽和磁束密度B10が従来よりも大きいMn−Znフェライトで構成した磁気コアとのガラスボンディングによる接合が可能となる。例えば、前述のMn−Znフェライトの試料C1 とセラミックの試料S3 との組み合わせや、Mn−Znフェライトの試料C2 とセラミックの試料S4 またはS5 の組み合わせは、いずれも熱膨張率が略一致(許容差5×10-7〔1/℃〕以内)であり、利用可能である。
【0040】次に、本発明の第2の実施例について説明する。ここでも、第1の実施例と同様、磁気コアCは、飽和磁束密度B10が25℃において5400Gよりも大きいか又は92℃において4200Gよりも大きいMn−Znフェライトとして先に述べた試料C1 やC2 を用いて構成される。さらに、スライダーSは、20℃〜500℃における熱膨張率が120×10-7〔1/℃〕以上150×10-7〔1/℃〕以下である非磁性材料として特に結晶化ガラスを用いて構成される。このような結晶化ガラスとしては、例えば次の表4に示す試料S6 ,S7 ,S8 ,S9 のようなものがある。
【0041】
【表4】


なお、ここで示す試料は一例であって、これ以外にも適切な組成および組成比を選択することにより120×10-7〔1/℃〕〜150×10-7〔1/℃〕の間で所望の熱膨張率の結晶化ガラスを得ることができる。
【0042】これらの試料はいずれもビッカース硬度が500〔kg/mm2 〕以上であり、スライダーとして十分な耐摩耗性を有するものである。また、熱膨張率を従来のCaO−TiO2 セラミックよりも大きくしたことによって、飽和磁束密度B10が従来よりも大きいMn−Znフェライトで構成した磁気コアとのガラスボンディングによる接合が可能となる。例えば、前述のMn−Znフェライトの試料C1 と結晶化ガラスの試料S6 の組み合わせや、Mn−Znフェライトの試料C2 と結晶化ガラスの試料S9 の組み合わせは、いずれも熱膨張率が略一致(許容差5×10-7〔1/℃〕以内)であり利用可能である。
【0043】(B)図1は本発明の磁気ヘッドの使用状態を示す斜視図であり、図2は本発明の磁気ヘッドの一実施例を示す斜視図であり、図3は本発明の磁気ヘッドの他の実施例を示す斜視図である。これらの図において、符号1はスピンドルモーター(図示せず)によって駆動されるディスク状の光磁気記録媒体であり、この記録媒体の上表面には非磁性材料よりなる磁気ヘッドスライダー2が対向して配設されている。上記磁気ヘッドスライダー2は、スプリングアーム3で弾持されており、図2及び図3に示すように中央にスライド方向に延びるスリット2aを具備する偏平なスライダー部分を備えている。上記スライダーには、MnO,ZnO,Fe2 3 を主成分とするフェライトよりなるコア4が設けられる。特にスライダー2を非磁性セラミックにより構成した場合、コア4はガラス融着により接着される(5は融着部分)。また、スライダー2を樹脂により構成する場合、コア4はスライダー2とともに一体モールド成形される。コア4は“コ”の字型でありその開放端を媒体側に向けて設けられる。コア4にはコイルが巻回され、コイルに供給した電流で発生磁界を変調している。
【0044】特に本発明では、上記スライダー部分の少なくとも媒体に対向する部分は電気抵抗率が1×1011Ω・cm以下の材料で構成し、さらに望ましくは、表面硬度をビッカース硬度500以上とする。例えば、上記実施例では、上記媒体に対向する部分を含む磁気ヘッドスライダー2全体を、潤滑性を有する熱硬化性樹脂あるいは熱可塑性樹脂もしくは光硬化性樹脂に帯電防止剤成分としてカチオン性界面活性剤もしくはアニオン性界面活性剤等を配合しモールド成形で構成するとよい。なお、樹脂成分の具体例としては、弗素化樹脂、シリコン化樹脂が挙げられる。このようにスライダーを樹脂材料により構成する場合、十分な表面硬度(ビッカース硬度500以上)とするのは困難であるが、これを補うために十分な潤滑性を付与することが重要である。
【0045】なお、上記磁気ヘッドスライダー2は、少なくとも媒体に対向する部分の表面に、潤滑性薄膜の形で、弗素系化合物またはパーフルオロポリオキシアルキレンなどのグループに属する材料に帯電防止剤成分としてカチオン性界面活性剤もしくはアニオン性界面活性剤等を配合した材料をコーティングしてもよい。
【0046】また、スライダーは、MnO,NiO,MgOのうちの少なくともいずれかを主成分とする非磁磁セラミック(ここで、MnO,NiO,MgOの含有率の合計は、例えば60モル%以上である)、あるいは前記NiOを主成分とし少なくともCaO,TiO2 ,MgO,MnOのうち1つ以上の成分が添加された非磁性セラミックにより構成してもよい。この場合には、少なくともスライダーの媒体に対向する部分の表面硬度をビッカース硬度500以上とすることができる。もちろん、セラミックによるスライダーに上記潤滑性薄膜をコーティングしてもよい。
【0047】このように材料を特定することによる本発明の効果を実験の結果から説明する。
【0048】(実験例−1)上記磁気ヘッドスライダー2の材料として、弗素化ポリイミド樹脂に、カチオン性界面活性剤として、ピリジニウム塩を1重量%配合した樹脂組成物を用いた。なお、弗素化ポリイミド樹脂は、モノマーとして、ジアミン例えば、2,2′−ビス(トリフルオロメチル)−4,4′−ジアミノビフェニルを用い、また酸二無水物例えばピロメリット酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−ヘキサフルオロプロパン二無水物を用いることができ、ここでは上記2種類のポリイミド成分をモノマー段階で混合し、共重合体として使用した。この材料で作られた上記磁気ヘッドスライダーを、CSSテスト(CONTACT START STOP TEST)10万回の耐久試験を行った結果、光磁気記録媒体表面に傷を付けることなく、また磁気ヘッドスライダー側においてもクラッシュを発生しなかった。なお、上記スライダーの表面電気抵抗率は8.5×108 Ω・cmであった。
【0049】(実験例−2)上記磁気ヘッドスライダーの材料として、セラミックCaTiO3 を用い、これを、式F〔CF(CF3 )CF2 −O−〕n −CF(CF3 )CF3 [但し、nは平均28である]で示されるようなクライトックス143AC溶液にアニオン性界面活性剤としてスルホン酸を1.5重量%配合した溶液に浸漬したあと、静かに引き上げることで、表面に潤滑性薄膜を形成した。その後、硬化処理を行なった。このような処理を施した磁気ヘッドスライダーを、上記と同様なCSSテストで10万回の耐久試験を行った結果、光磁気記録媒体表面に傷を付けるとがなく、また磁気ヘッドスライダー側においてもクラッシュを発生しなかった。なお、上記スライダーの表面電気抵抗率は7.0×108 Ω・cmであった。
【0050】(比較例)因に、磁気ヘッドスライダーの材料として従来の材料即ちセラミックCaTiO3 を用い潤滑性薄膜を形成しない場合、スライダーの表面電気抵抗率は3×1012Ω・cmであり、CSSによる10万回の耐久試験で、潤滑性の不足および静電気の帯電によりクラッシュを発生し媒体表面を損傷した。
【0051】(実験例3)上記磁気ヘッドスライダーの材料としてMgO,NiOを主成分とする非磁性のセラミック(ここで、MgO含有率は50モル%、NiO含有率は50モル%)を用いたところ、表面電気抵抗率は1×108 Ω・cmであり、表面硬度はビッカース硬度800であった。また、MnO,NiOを主成分とする非磁性セラミック(ここで、MnO含有率は60モル%、NiO含有率は40モル%)を用いたところ、表面電気抵抗は4×1010Ω・cmであり、表面硬度はビッカース硬度650であった。また、NiOを主成分として60モル%含みCaOを10モル%、TiO2 を30モル%添加した非磁性セラミックを用いたところ、表面電気抵抗は6×108 Ω・cmであり、表面硬度はビッカース硬度830であった。これらの磁気ヘッドをCSSにより10万回の耐久試験を行った結果、スライダーおよび媒体の表面の静電気の帯電は小さく、ともにクラッシュによる損傷は発生しなかった。さらに、上記のセラミックの熱膨張率は、いずれも130×10-7〜140×10-7〔1/℃〕であり、磁気ヘッドのコアの材質としてFe2 3 の組成比が58〜64モル%のフェライトを用いた場合に熱膨張率がほぼ一致し、ガラス融着によるクラックの発生はなかった。尚、上記のフェライトの実効飽和磁束密度B10は5700〜6000Gであって、発生磁界の大きさを従来よりも15〜20%程度大きくすることができ良好な信号記録が確認された。
【0052】以上の様な本発明の光磁気記録用磁気ヘッドは、潤滑性及び帯電防止性を有するため、図4に示すような摺動型の磁気ヘッドとすることも可能である。即ち、磁気ヘッド41の磁界発生面を凸の曲面に加工し、記録媒体(基板42と記録のための磁性層43と保護層44とを有する)の保護層44に対し接触摺動させるのである。尚、45はレーザ光である。これによれば、従来の浮上磁気ヘッドよりも、記録媒体磁性層43と磁気ヘッド41との距離を短くできるので、従来のものと比べて、磁性層43上での磁界強度が大きくなり、かつ記録媒体の面振れによる記録信号の乱れを低減させることも可能となる。尚、図5は磁性層と磁気ヘッドとの距離に対する磁性層の磁界強度の関係の一例を示す。
【0053】
【発明の効果】
(A)以上述べた様に、本発明による光磁気記録用磁気ヘッドは、飽和磁束密度B10が25℃において5400Gよりも大きいか又は92℃において4200Gよりも大きいMn−Znフェライトより成る磁気コアと、20℃〜500℃における熱膨張率が120×10-7〔1/℃〕以上150×10-7〔1/℃〕以下である非磁性材料からなるスライダーとがガラスボンディングにより接合されたことを特徴とするものである。また、特に上記非磁性材料は、NiOを主成分とし少なくともCaO,TiO2 ,MgO,MnOのうち1つ以上の成分が添加されたセラミックであるか、または結晶化ガラスであることを特徴とするものである。
【0054】このため、本発明による光磁気記録用磁気ヘッドは、従来よりも飽和磁束密度B10の大きいMn−Znフェライトを磁気コアとして用いているにもかかわらず、スライダーとの間で熱膨張率を略一致させることができるためガラスボンディングによる接合が可能であり、また、スライダーのビッカース硬度も500〔kg/mm2 〕以上と十分に大きく十分な耐摩耗性を有しており、実用性の高い磁気ヘッドである。
【0055】このように、磁気コアの飽和磁束密度を従来よりも大きくしたことにより、磁界を高周波で変調する際にも、磁気コア内部での磁束の飽和が発生し難く、したがって従来は約6MHzであった記録信号の周波数の上限を高め、より高速の信号記録が実現されるのである。その一例として、磁気コアを前記したMn−Znフェライトの試料C1 により構成し、スライダーを前記したセラミックの試料S3 または結晶化ガラスの試料S6 で構成した場合、熱膨張率が略一致しておりガラスボンディングが可能である。この磁気ヘッドは最高約12.6MHzの記録信号周波数において使用できるのである。また磁気コアを前記したMn−Znフェライトの試料C2 により構成し、スライダーを前記したセラミックの試料S4またはS5 あるいは結晶化ガラスの試料S9 で構成した場合、ガラスボンディングが可能である。この磁気ヘッドは最高約10MHzの記録信号周波数において使用できる。
【0056】(B)以上述べた様に、本発明による光磁気記録用磁気ヘッドは、スライダーの少なくとも光磁気記録媒体に対向する部分の表面電気抵抗率を1×1011Ω・cm以下とすることにより、更に好ましくはこれに加えてスライダーの少なくとも光磁気記録媒体に対向する部分に潤滑性かつ帯電防止性を有する樹脂材料を設けるか又は非磁性セラミックによりスライダーを構成することにより、たとい光磁気記録媒体と磁気ヘッドスライダーとの間の相対回転数が低下したり上記磁気ヘッドの高速シーク動作により浮上安定性が失なわれたりして上記磁気ヘッドと媒体とが接触した場合でも、静電気の帯電を防いで塵埃の付着やスライダーと記録媒体との静電吸着を防止でき、これにより光磁気記録媒体の表面に傷を発生するのを避けることができ、また磁気ヘッドスライダー自体のクラッシュを避けることができる。
【0057】また、摺動型の磁気ヘッドスライダーの少なくとも光磁気記録媒体に対向する部分に潤滑性かつ帯電防止性を有する樹脂材料を設けることにより、磁界変調記録特性をも向上させることができる。さらに、スライダーをMnO,NiO,MgOのうち少なくとも1つを主成分とする非磁性セラミックあるいはNiOを主成分とし少なくともCaO,TiO2 ,MgO,MnOのうち1つ以上の成分が添加された非磁性セラミックにより構成することにより、熱膨張率を120×10-7〜150×10-7〔1/℃〕と大きくすることができ、磁気ヘッドのコアの材質としてMnO,ZnO,Fe2 3 を主成分としFe2 3 含有率52モル%より大きいフェライトを用いた場合に熱膨張率が略一致するのでガラス融着によりクラックが発生することがない。上記フェライトの使用により実効飽和磁束密度B10を5400Gよりも大きくすることができ、良好な信号記録に必要な強度の磁界を発生することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の磁気ヘッドの使用状態を示す斜視図。
【図2】本発明の磁気ヘッドの一実施例を示す斜視図。
【図3】本発明の磁気ヘッドの他の実施例を示す斜視図。
【図4】本発明の磁気ヘッドの更に他の実施例を示す模式図。
【図5】磁性層と磁気ヘッドとの距離に対する磁性層の磁界強度の関係を示す図。
【図6】光磁気記録用磁気ヘッドの構成を示す斜視図。
【図7】光磁気記録用磁気ヘッドの磁気コアを示す拡大斜視図。
【図8】磁界の変調周波数と磁気ヘッドの温度上昇の関係を示すグラフ。
【図9】磁気コアをなすMn−Znフェライト各種試料の温度と飽和磁束密度B10の関係を示すグラフ。
【符号の説明】
1 光磁気記録媒体
2 スライダー
2a スリット
3 スプリングアーム
4 コア
5 ガラス融着部
41 摺動型磁気ヘッド
42 記録媒体基板
43 記録媒体磁性層
44 記録媒体保護層
45 レーザー光
C 磁気コア
S スライダー
G ガラス
W コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】 飽和磁束密度B10が25℃において5400Gよりも大きいか又は92℃において4200Gよりも大きいMn−Znフェライトより成る磁気コアと、20℃から500℃までの間の熱膨張率が120×10-7[1/℃]以上150×10-7[1/℃]以下である非磁性材料より成るスライダーとがガラスボンディングにより接合されたことを特徴とする光磁気記録用磁気ヘッド。
【請求項2】 上記非磁性材料は結晶化ガラスであることを特徴とする請求項1に記載の光磁気記録用磁気ヘッド。
【請求項3】 非磁性材料よりなるスライダーに磁界発生用コア及びコイルを配設し記録情報に対応した極性の磁界を光磁気記録媒体に印加する光磁気記録用磁気ヘッドにおいて、上記スライダーの少なくとも上記光磁気記録媒体に対向する部分の表面電気抵抗率が1×1011Ω・cm以下であることを特徴とする光磁気記録用磁気ヘッド。
【請求項4】 上記スライダーの少なくとも上記光磁気記録媒体に対向する部分の表面硬度はビッカース硬度500以上であることを特徴とする請求項3に記載の光磁気記録用磁気ヘッド。
【請求項5】 上記スライダーは少なくとも上記光磁気記録媒体に対向する部分に耐摩耗性の潤滑性かつ帯電防止性樹脂材料を設けていることを特徴とする請求項3に記載の光磁気記録用磁気ヘッド。
【請求項6】 上記スライダーはMnO,NiO,MgOのうち少なくともいずれかを主成分とする非磁性セラミックにより構成されるものであることを特徴とする請求項1、請求項3または請求項4に記載の光磁気記録用磁気ヘッド。
【請求項7】 上記スライダーはNiOを主成分とし少なくともCaO,TiO2 ,MgO,MnOのうち1つ以上の成分が添加された非磁性セラミックであることを特徴とする請求項1、請求項3または請求項4に記載の光磁気記録用磁気ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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