説明

光素子

【課題】
1ビット遅延干渉計の相対的遅延をより正確に制御可能な光素子を提供すること。
【解決手段】
1ビット遅延干渉計1と、該1ビット遅延干渉計から出力される干渉光であるコンストラクティブ光bとディストラクティブ光cについて、各々その一部を分岐する分岐手段5,6と、該分岐手段で分岐されたコンストラクティブ光及びディストラクティブ光に係る各分岐光を干渉させる第2干渉手段7と、該第2干渉手段の出力光の強度を検出する光検出手段8とを有することを特徴とする光素子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光素子に関し、特に、1ビット遅延干渉計内の相対的遅延を検出する光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光通信分野において、大量のデータを長距離伝送するため、差動位相偏移変調方式(DPSK,Differential Phase Shift Keying)や差動四相位相偏移変調方式(DQPSK,Differential Quadrature Phase Shift keying)が利用されている。
【0003】
これらDPSKやDQPSKの位相変調光から元データを復調するのに、1ビット遅延干渉計が利用されている。1ビット遅延干渉計では、特許文献1に示すように、位相変調光を2つの信号光に分け、両者間に1ビット分の遅延を発生させた後、2つの信号光を合波するものであり、この合波を光カプラーの構成を採用することで、相補的関係となる干渉光(コンストラクティブ光とディストラクティブ光)とが出射される。干渉光のいずれか一方を受光素子に入射したり、両者を、デュアルバランス型の受光素子に入射することで、電気信号として送信データが復調される。
【特許文献1】特開昭63−52530号公報
【0004】
DPSKやDQPSKの位相変調光を精度良く受信するには、1ビット遅延干渉計において相対的遅延量を正確に制御することが必要となる。従来の相対的遅延の制御方法としては、特許文献2に示すように、受光素子の検出信号から干渉光の平均光強度を測定し、この値を基に1ビット遅延干渉計の相対的遅延量を制御している。
【特許文献2】特開2005−80304号公報
【0005】
しかしながら、平均光強度は、データ信号のマーク率(1,0信号の発生頻度)の影響を受けるため、これを基に1ビット遅延干渉計の相対的遅延を制御することは適当ではない。また、受光信号の高周波成分をモニターすることによって、そのパワーの大小からバイアスを制御する方法もあるが、その場合受光素子も含め高価な部品を使う必要があり、システムのコストが大幅に増大するため現実的ではない。さらに、受光素子の出力信号の一部を電気回路的に分岐して利用する場合には、分岐した影響による所望の信号の劣化の問題も生じる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、上述したような問題を解決し、1ビット遅延干渉計の相対的遅延をより正確に制御可能な光素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、1ビット遅延干渉計と、該1ビット遅延干渉計から出力される干渉光であるコンストラクティブ光とディストラクティブ光について、各々その一部を分岐する分岐手段と、該分岐手段で分岐されたコンストラクティブ光及びディストラクティブ光に係る各分岐光を干渉させる第2干渉手段と、該第2干渉手段の出力光の強度を検出する光検出手段とを有することを特徴とする光素子である。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の光素子において、該光検出手段の検出信号に基づき、該1ビット遅延干渉計の相対的遅延を制御する制御手段を有すること特徴とする。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の光素子において、該制御手段は、該第2干渉手段の出力光の強度が最大もしくは最小となるように、該相対的遅延を制御することを特徴とする。
【0010】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の光素子において、コンストラクティブ光又はディストラクティブ光の少なくとも一方の分岐光について、該分岐手段から該第2干渉手段との間に分岐光の位相を調整する位相調整手段が配置されていることを特徴とする。
【0011】
請求項5に係る発明は、請求項4に記載の光素子において、該位相調整手段は位相変調器を備え、該位相変調器に低周波信号を入力し、該低周波信号に応じた位相変調された分岐光を、該第2干渉手段に導入し、該第2干渉手段の出力光の強度を検出する光検出手段と、該光検出手段の検出信号のうち、該低周波信号の周波数の整数倍の成分のみ抽出し、抽出した信号成分の大きさが最小もしくは最大となるように該1ビット遅延干渉計の相対的遅延を制御する制御手段を有すること特徴とする。
【0012】
請求項6に係る発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載の光素子において、コンストラクティブ光及びディストラクティブ光に係る各分岐手段と、該第2干渉手段とは同一基板上に形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明により、1ビット遅延干渉計から出力される干渉光であるコンストラクティブ光とディストラクティブ光とを合成する光波である、第2干渉手段から得られる出力光を用いるため、信号光に含まれる信号データの影響を受けない出力光を得ることができ、データ信号のマーク率に左右されずより正確な相対的遅延量を把握することが可能となる。
【0014】
請求項2に係る発明により、光検出手段の検出信号に基づき、1ビット遅延干渉計の相対的遅延を制御する制御手段を有するため、データ信号のマーク率などの影響を受けずより正確な相対的遅延の制御が可能となる。
【0015】
請求項3に係る発明により、制御手段は、第2干渉手段の出力光の強度が最大もしくは最小となるように、相対的遅延を制御するため、相対的遅延を1ビット分により正確に調整することが可能となる。
【0016】
請求項4に係る発明により、コンストラクティブ光又はディストラクティブ光の少なくとも一方の分岐光について、分岐手段から第2干渉手段との間に分岐光の位相を調整する位相調整手段が配置されているため、コンストラクティブ光とディストラクティブ光との相対的な位相差を適正な状態に調整できる。特に、ファイバーなどで干渉計を構成する場合には、外乱の影響を受けやすく、このような位相差の調整が必要となる。
【0017】
請求項5に係る発明により、位相調整手段は位相変調器を備え、該位相変調器に低周波信号を入力し、該低周波信号に応じた位相変調された分岐光を、第2干渉手段に導入し、該第2干渉手段の出力光の強度を検出する光検出手段と、該光検出手段の検出信号のうち、該低周波信号の周波数の整数倍の成分のみ抽出し、抽出した信号成分の大きさが最小もしくは最大となるように1ビット遅延干渉計の相対的遅延を制御する制御手段を有するため、1ビット遅延干渉計の位相差を最適に制御することが可能となる。しかも、低周波信号に応じた位相変調を受ける光波が分岐光であるため、コンストラクティブ光やディストラクティブ光などの信号光に影響を及ぼすこともない。
【0018】
請求項6に係る発明により、コンストラクティブ光及びディストラクティブ光に係る各分岐手段と、第2干渉手段とは同一基板上に形成されているため、コンストラクティブ光やディストラクティブ光に係る光路を、より正確に設定することが可能となると共に、部品点数の削減並びに組み立てや光学調整などの製造工程の簡略化などが可能となる。さらに、1ビット遅延干渉計も同一基板上に形成することで、より一層の改善を図ることも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を好適例を用いて詳細に説明する。
本発明は、図1に示すように、1ビット遅延干渉計1と、該1ビット遅延干渉計から出力される干渉光であるコンストラクティブ光bとディストラクティブ光cについて、各々その一部を分岐する分岐手段5,6と、該分岐手段で分岐されたコンストラクティブ光及びディストラクティブ光に係る各分岐光を干渉させる第2干渉手段7と、該第2干渉手段の出力光の強度を検出する光検出手段8とを有することを特徴とする光素子である。なお、光素子から出射されるコンストラクティブ光Bとディストラクティブ光Cは、デュアルバランス型の受光素子9,10に入射することで、電気信号として出力される。
【0020】
図1に示すような1ビット遅延干渉計1から出力されるコンストラクティブ光bとディストラクティブ光cとは、互いに相補的な関係にあり、両者を合成することにより、データ信号に影響されない、常に一定の光波を得ることが可能となる。従って、1ビット遅延干渉計1内でコンストラクティブ光及びディストラクティブ光とが発生する箇所から、第2干渉手段のコンストラクティブ光とディストラクティブ光とを合波する地点までの光学的距離を、両者で同じとなるように設定することが不可欠となる。
【0021】
本発明の光素子では、さらに、光検出手段8により検出した信号を利用し、1ビット遅延干渉計の相対的遅延に係る制御を行っている。
1ビット遅延干渉計は、図1に示すように、光導波路2と遅延導波路3から構成される。例えば、図1においては、光導波路2と遅延導波路3とが2箇所で光カプラーを形成し、入射する変調光Aに対し、最初の光カプラー形成位置で、変調光が光導波路Aと遅延導波路3とに分けられ、次の光カプラー形成位置で両者を伝搬する光波が合成される。遅延導波路3では、光導波路2を伝搬する光はより1ビット分の相対的遅延量を確保するため、遅延導波路3の光路長が設定されている。1ビット遅延干渉計は図1のものに限定されず、例えば、特許文献1に示されるような、ビームスプリッターや光カプラー等を用いる空間光学系による構成もある。
【0022】
光導波路2又は遅延導波路3のいずれか一方には、光路長を調整するための遅延量調整手段4が設けられている。遅延量調整手段4としては、種々の位相シフターが利用可能であるが、例えば、1ビット遅延干渉計が電気光学効果を有する基板で形成される場合には、光導波路に沿った電極で構成される位相変調器とすることも可能である。また、特許文献3に示されるように、平面光導波路部(PLC部)に加える温度を制御することにより光導波路の光路長を変化させるものなども利用可能である。
【特許文献3】特開2004−23537号公報
【0023】
相対的遅延の制御は、制御手段11によって実行され、具体的には、光検出手段8が受光する第2干渉手段7の出力光の光強度が最大となるように、前記の遅延量調整手段4を制御する。つまり、1ビット遅延干渉計の相対的遅延量が正確に1ビット分を維持している場合には、コンストラクティブ光bとディストラクティブ光cとの合成光は常に最大輝度となっているはずである。そして、この状態は、第2干渉手段の出力光を検出することで、容易に確認することができる。なお、コンストラクティブ光とディストラクティブ光とが合成した際に合成光が消光するよう作用する場合には、合成光が最小となるように、1ビット遅延干渉計の遅延量調整手段を制御することとなる。
【0024】
次に、図2に示すように、コンストラクティブ光又はディストラクティブ光の少なくとも一方の分岐光について、分岐手段5,6から第2干渉手段7との間に分岐光の位相を調整する位相調整手段30が配置されている実施例について説明する。
【0025】
位相調整手段30は、上述したように、1ビット遅延干渉計1内でコンストラクティブ光及びディストラクティブ光とが発生する箇所から、第2干渉手段のコンストラクティブ光とディストラクティブ光とを合波する地点までの光学的距離を、両者で同じとなるように調整する役割を担うことが可能である。
【0026】
また、位相調整手段30の他の役割としては、1ビット遅延干渉計の位相差を最適に制御するために利用される。具体的には、位相調整手段に位相変調器を組み込み、該位相変調器に低周波信号であるディザー信号を印加する。該ディザー信号に応じて位相変調された分岐光を、第2干渉手段に導入し、該第2干渉手段の出力光の強度を光検出手段で検出する。該光検出手段の検出信号のうち、該ディザー信号(低周波信号)の周波数の整数倍の成分のみ抽出・モニターし、抽出した信号成分の大きさが最小もしくは最大となるように、制御手段11で1ビット遅延干渉計の相対的遅延を制御する。これにより、1ビット遅延干渉計の位相差を、外乱の影響に関係なく最適に制御することが可能となる。また、低周波信号に応じた位相変調を受ける光波が分岐光であるため、コンストラクティブ光やディストラクティブ光などの信号光の劣化も発生しない。
【0027】
位相変調手段としては、遅延量調整手段4と同様に位相を変化させるものであるなら、種々の手段が採用可能であるが、図2に示すように、光導波路23を電気光学効果を有する基板上に形成する場合には、光導波路23に沿った電極から構成される位相変調器などが好適に利用でき、しかも、上述のようなディザー信号を位相変調器に印加することで、ディザー信号に対応した位相変調を容易に得ることもできる。
【0028】
本発明の光素子の特徴である、図1に示す分岐手段5,6や第2干渉手段7を含む光学系は、ビームスプリッターや光ファイバーを利用した光カプラーなどを利用して、空間光学系として構成することが可能である。例えば、分岐手段5,6や第2干渉手段7として光カプラーを利用し、1ビット遅延干渉計や該光カプラーを光ファイバーで接続することにより、図1に示す光学系を簡単に構成できる。
【0029】
他方、図2に示すように、分岐手段5,6と第2干渉手段7とを同一基板20上に形成することも可能である。このような基板としては、光導波路素子で多用されている、例えば、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、PLZT(ジルコン酸チタン酸鉛ランタン)、及び石英系の材料などの電気光学的効果を有する基板を利用することが可能である。光導波路のみを形成する場合には、特に電気光学効果を有する材料を利用する必要はないが、位相調整手段30として位相変調器を利用する場合には、電気光学効果を有する材料が好ましい。また、基板上の光導波路は、Tiなどを熱拡散法やプロトン交換法などで基板表面に拡散させることにより形成することができる。さらに、位相変調器を構成する変調電極や接地電極などは、Ti・Auの電極パターンの形成及び金メッキ方法などにより形成することが可能である。さらに、必要に応じて光導波路形成後の基板表面に誘電体SiO等のバッファ層を設け、電極による光波の吸収や散乱を抑制することも可能である。
【0030】
図2において、基板20上には、コンストラクティブ光が入力される光導波路21、該光導波路21を2つの光導波路22,23に分岐する分岐手段5、ディストラクティブ光が入力される光導波路24、該光導波路24を2つの光導波路25,26に分岐する分岐手段6、さらに、2つの分岐導波路23,26を合成し一つの光導波路27とする第2干渉手段7が形成されている。そして、光導波路22からはコンストラクティブ光B、光導波路25からはディストラクティブ光C、そして、光導波路27からは第2干渉手段の出力光が、各々出射される。
【0031】
図2に示すように、同一基板上に複数の光学手段を組み込むことで、コンストラクティブ光やディストラクティブ光に係る光路を、より正確に設定することが可能と共に、部品点数の削減並びに製造工程の簡略化などが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
以上説明したように、本発明によれば、1ビット遅延干渉計の相対的遅延をより正確に制御可能な光素子を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る光素子を説明する概略図である。
【図2】分岐手段及び第2干渉手段を同一基板上に構成する状態を説明する図である。
【符号の説明】
【0034】
1 1ビット遅延干渉計
4 遅延量調整手段
5,6 分岐手段
7 第2干渉手段
8 光検出手段
9,10 受光素子
11 制御手段
30 位相調整手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1ビット遅延干渉計と、
該1ビット遅延干渉計から出力される干渉光であるコンストラクティブ光とディストラクティブ光について、各々その一部を分岐する分岐手段と、
該分岐手段で分岐されたコンストラクティブ光及びディストラクティブ光に係る各分岐光を干渉させる第2干渉手段と、
該第2干渉手段の出力光の強度を検出する光検出手段とを有することを特徴とする光素子。
【請求項2】
請求項1に記載の光素子において、該光検出手段の検出信号に基づき、該1ビット遅延干渉計の相対的遅延を制御する制御手段を有すること特徴とする光素子。
【請求項3】
請求項2に記載の光素子において、該制御手段は、該第2干渉手段の出力光の強度が最大もしくは最小となるように、該相対的遅延を制御することを特徴とする光素子。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の光素子において、コンストラクティブ光又はディストラクティブ光の少なくとも一方の分岐光について、該分岐手段から該第2干渉手段との間に分岐光の位相を調整する位相調整手段が配置されていることを特徴とする光素子。
【請求項5】
請求項4に記載の光素子において、該位相調整手段は位相変調器を備え、該位相変調器に低周波信号を入力し、該低周波信号に応じた位相変調された分岐光を、該第2干渉手段に導入し、該第2干渉手段の出力光の強度を検出する光検出手段と、該光検出手段の検出信号のうち、該低周波信号の周波数の整数倍の成分のみ抽出し、抽出した信号成分の大きさが最小もしくは最大となるように該1ビット遅延干渉計の相対的遅延を制御する制御手段を有すること特徴とする光素子。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の光素子において、コンストラクティブ光及びディストラクティブ光に係る各分岐手段と、該第2干渉手段とは同一基板上に形成されていることを特徴とする光素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−60986(P2010−60986A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−228142(P2008−228142)
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】