説明

光触媒体の製造方法

【課題】 セラミック、タイル等の耐熱基材に、強固な耐摩耗性を維持しつつ、NOx分解機能を付加しうる光触媒体の製造方法を提供すること。
【解決手段】 耐熱性基材と該基材上に設けられる光触媒層とを備えた光触媒体の製造方法であって、前記光触媒層は、光触媒粒子とアルキルシリケートとを含むコーティング液を前記基材に塗布後、前記コーティング液の塗布面の最高温度が300℃をこえる温度で焼成することにより形成することを特徴とする光触媒体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイル等の耐熱性基材に特に適した、高度の耐摩耗性と、有害ガス分解性とに優れた光触媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタンなどの光触媒が、近年建築物の外装材、内装材など多くの用途において利用されている。外装用途については、基材表面に光触媒を塗装することにより、光エネルギーを利用してNOx、SOx等の有害物質の分解機能を付与することが可能となる。
【0003】
光触媒を利用したNOx分解は、従来においては、(1)光触媒粒子をセメントに配合し硬化する方法(特開平11−171630)、(2)光触媒粒子を多孔質膜に配合する方法(特開平8−99041など)、(3)光触媒粒子とアルキルシリケートを混合し、300℃以下の温度でアルキルシリケートを加水分解・縮重合させる方法(特開平4−174679、特開平8−164334)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−171630号公報
【特許文献2】特開平8−99041号公報
【特許文献3】特開平4−174679号公報
【特許文献4】特開平8−164334号公報
【特許文献5】WO00/006300号公報
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、セラミック、タイル等の耐熱基材にNOx分解機能を付加する方法として、光触媒粒子を多孔質膜に配合する方法では、多孔であることで耐摩耗性が低下するので、セラミック、タイル等の耐熱基材に固定する場合に、その特徴を充分に生かすことができない。
また、セラミック、タイル等の耐熱基材にNOx分解機能を付加する方法として、光触媒粒子とアルキルシリケートを混合し、300℃以下の温度でアルキルシリケートを加水分解・縮重合させる方法を用いた場合には、やはり耐摩耗性が充分でなく、セラミック、タイル等の耐熱基材に固定する場合に、その特徴を充分に生かすことができない。
【0006】
本発明では、上記事情に鑑み、セラミック、タイル等の耐熱基材に、強固な耐摩耗性を維持しつつ、NOx分解機能を付加しうる光触媒体の製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
すなわち、本発明では、その目的を達成するために、耐熱性基材と該基材上に設けられる光触媒層とを備えた光触媒体の製造方法であって、前記光触媒層は、光触媒粒子と平均組成式SiX(4−q)/2 (式中、Xはアルコキシ基またはハロゲン原子であり、qは0<q<4を満足する数である)で表わされる塗膜形成後にシリカに変化する高分子とを含むコーティング液を前記基材に塗布後、前記コーティング液の塗布面の最高温度が300℃をこえる温度で焼成することにより形成することを特徴とする光触媒体の製造方法を提供するものである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
光触媒体の製造方法
本発明による光触媒体の製造方法は、耐熱性基材と該基材上に設けられる光触媒層とを備えた光触媒体の製造方法であって、前記光触媒層は、光触媒粒子と平均組成式SiX(4−q)/2 (式中、Xはアルコキシ基またはハロゲン原子であり、qは0<q<4を満足する数である)で表わされる塗膜形成後にシリカに変化する高分子とを含むコーティング液を前記基材に塗布後、前記コーティング液の塗布面の最高温度が300℃をこえる温度、より好ましくは400℃をこえる温度で焼成することにより形成することを特徴とする光触媒体の製造方法を提供するものである。
特開平8−164334号の段落番号(0023)によれば、光触媒粒子とアルキルシリケートを含むコーティング液からの塗膜について以下のように記述されている。「100℃の乾燥によって爪で擦っても容易に剥離しないかなり強固な塗膜を形成できるが、シリカバインダーは100℃以上の温度で乾燥することによって、より強固な塗膜を形成できるので必要に応じ100〜300℃で乾燥もしくは低温焼成しても良い。但し、超微粒子状二酸化チタンの触媒活性は150℃以上の乾燥で徐々に低下を始め、400℃を超えると急速に低下することがあるので、塗膜強度の必要性に応じて適宜に乾燥温度を選択する必要がある」。
ところが、今回、焼成温度を前記コーティング液の塗布面の最高温度が300℃をこえる温度、より好ましくは400℃をこえる温度で焼成しても、光触媒のガス分解活性を低下させることなく、耐摩耗性を向上させることができることを新たに見出した。
本発明の製造方法は上記新たな知見に基づくものである。
【0009】
本発明の好ましい形態においては、前記焼成は、前記コーティング液の塗布面を300℃をこえる温度、より好ましくは400℃をこえる温度に2〜60秒間晒すことにより行う。
300℃をこえる温度、400℃をこえる温度に晒す時間を短時間にすることで、おそらくは、アルキルシリケートが軟化に伴い光触媒粒子の活性点を覆う確率を低めることが可能となり、光触媒のガス分解活性を低下させることなく、耐摩耗性を向上させることができる。
【0010】
本発明の好ましい形態においては、前記焼成は、加熱を単位面積当りの発熱量が120MJ/m・h以上である発熱体を用いて行い、該発熱体から前記コーティング液の塗布面までの距離を5mm〜300mmの範囲として行う。
加熱を単位面積当りの発熱量が120MJ/m・h以上である高エネルギーの発熱体を
用いることで、表面温度を短時間で上昇させることが可能となり、より容易に光触媒のガス分解活性を低下させることなく、耐摩耗性を向上させることが可能となる。
【0011】
本発明の好ましい形態においては、前記焼成は、前記コーティング液の塗布面の温度が900℃以上、より好ましくは850℃以上、最も好ましくは800℃以上に昇温しないように行う。
温度が900℃以上、より好ましくは850℃以上、最も好ましくは800℃以上に昇温しないようにすることで、おそらくは、アルキルシリケートが軟化に伴い光触媒粒子の活性点を覆う確率を低めることが可能となり、光触媒のガス分解活性を低下させることなく、耐摩耗性を向上させることができる。また、光触媒粒子としてアナターゼ型酸化チタンを利用した場合にルチル型酸化チタンへの相転移も有効に防止できる。
【0012】
本発明の好ましい形態においては、前記耐熱性基材は施釉タイルであり、前記光触媒層は該施釉タイルの施釉された面上に形成する。
比較的平滑な施釉された面上に300℃をこえる温度、より好ましくは400℃をこえる温度で光触媒層を形成することで、光触媒層が釉面に強固に密着するとともに、光触媒のガス分解活性を低下させることなく、耐摩耗性を向上させることができる。
【0013】
(a)基材
本発明は、光触媒体の製造方法である。光触媒体とは、耐熱基材に光触媒機能を付与した複合材である。光触媒機能には種々の機能が含まれ、例えばNOxの浄化等のガス分解性、抗菌性、防汚性、防藻性、防カビ性、親水性、防曇性の機能などが挙げられる。従って、本発明による方法によって製造される「光触媒体」とは、光触媒機能を付与された結果、上記の種々の機能のうち少なくとも一つの機能を有するに至った材料を意味する。本発明による方法が適用可能な「耐熱基材」は300℃をこえる耐熱性、より好ましくは400℃をこえる耐熱性を有する基材であり、その例としては、金属、無機材料およびそれらの複合材であることができ、具体的には、タイル、衛生陶器、食器、洗面器、ケイカル板、半導体等のニューセラミックス、碍子、ガラス、鏡、アルミニウム板、鋼板、水栓、銅合金、ステンレス板などが挙げられる。
【0014】
(b)光触媒コーティング組成物
本発明による製造方法にあっては、まず、上記基材に塗布する光触媒コーティング液を用意する。
本発明による方法に用いられる光触媒コーティング液は、光触媒粒子と平均組成式SiX(4−q)/2 (式中、Xはアルコキシ基またはハロゲン原子であり、qは0<q<4を満足する数である)で表わされる塗膜形成後にシリカに変化する高分子とを含むコーティング液である。
【0015】
本発明において光触媒粒子とは、光半導性を有する光触媒性金属酸化物の粒子であり、より詳細には、その結晶の伝導帯と価電子帯との間のエネルギーギャップよりも大きなエネルギー(すなわち短い波長)の光(励起光)を照射したときに、価電子帯中の電子の励起(光励起)が生じて、伝導電子と正孔を生成しうる金属酸化物の粒子を意味する。このような光触媒粒子によれば、いわゆる酸化還元反応により有機化合物を分解し、あるいは雰囲気中の水分子を吸着させる等により極めて高い程度の親水性を呈するに至る。本発明の好ましい態様によれば、光触媒粒子は、好ましくは、アナターゼ型酸化チタン、ルチル型酸化チタン、ブルッカイト型酸化チタン等の結晶性TiO、ZnO、SnO、SrTiO、WO、Bi、Fe、CeOおよびVからなる群から選択される粒子である。
【0016】
本発明の好ましい態様によれば、光触媒粒子は10nm以上100nm未満の平均粒径を有するのが好ましく、より好ましくは10nm以上60nm以下である。なお、この平均粒径は、走査型電子顕微鏡により20万倍の視野に入る任意の100個の粒子の長さを測定した個数平均値として算出される。
【0017】
また、本発明の好ましい態様によれば、光触媒粒子は3nm以上30nm未満の平均結晶子径を有するのが好ましく、より好ましくは5nm以上20nm以下である。なお、この平均粒径は、粉末X線回折法により得られるX線プロファイルの3強線の積分幅からシェラー式により算出される。
【0018】
本発明の好ましい態様によれば、光触媒コーティング液は、金属および/または金属酸化物、例えば、Cu、Ag、Ni、Fe、Zn、Pt、Au、Rh、V、Cr、Co、Mn、W、Nb、Sb、および白金族金属ならびにそれらの酸化物から選択される金属または金属酸化物の少なくとも一種、をさらに含んでなることができる。この金属および金属酸化物の好ましい例としては、Cu、Ag、Pt、Co、Fe、Ni、CuO、AgO、Au、Zn、Cr、MnおよびMoからなる群から選択される少なくとも一種の金属粒子である。これら金属または金属酸化物を添加した場合、形成される被膜は、表面に付着した細菌や黴を暗所でも死滅させることができる。また、Pt、Pd、Ru、Rh、Ir、Osのような白金族金属または酸化物は、光触媒の酸化還元活性を増強させ、その結果有機物汚れの分解性、有害気体や悪臭の分解性を向上させることができることから添加が好ましい。
【0019】
平均組成式SiX(4−q)/2 (式中、Xはアルコキシ基またはハロゲン原子であり、qは0<q<4を満足する数である)で表わされる塗膜形成後にシリカに変化する高分子としては、好適にはアルキルシリケートが利用可能である。アルキルシリケートとしては、例えば、メチルシリケート、エチルシリケート、プロピルシリケート、ブチルシリケートが好適に利用できる。
【0020】
光触媒コーティング液中の光触媒粒子と、平均組成式SiX(4−q)/2 (式中、Xはアルコキシ基またはハロゲン原子であり、qは0<q<4を満足する数である)で表わされる塗膜形成後にシリカに変化する高分子との質量比は、好ましくは上記2成分の合計質量に対して光触媒粒子が30〜95質量%であり、より好ましくは50〜90質量%である。
【0021】
本発明による光触媒コーティング液に含まれる溶媒は、上記光触媒粒子およびアルキルシリケートを光触媒体の製造サイクルの間に安定に分散させ、最終的に光触媒機能および高度な耐摩耗性が得られる限り限定されないが、例えば水もしくは有機溶媒またはそれらの混合溶媒がその例として挙げられる。特に水が環境負荷が小さく望ましい。
【0022】
さらに本発明の好ましい態様によれば、光触媒コーティング液は界面活性剤を含んでなることが好ましい。界面活性剤の添加によって、基材表面に光触媒コーティング液を均一に塗布することが可能となる。
【0023】
本発明の好ましい態様によれば、光触媒コーティング液中の固形分の濃度は、0.01重量%以上5重量%未満であることが好ましく、より好ましくは0.1重量%以上3重量%未満の範囲である。
【0024】
さらに本発明の好ましい態様によれば、光触媒コーティング液には、さらに無機酸化物粒子が添加されていてもよい。
無機酸化物粒子の例としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、セリア、イットリア、ボロニア、マグネシア、カルシア、フェライト、無定型チタニア、ハフニア等の単一酸化物に加え、チタン酸バリウム、ケイ酸カルシウム、アルミノケイ酸塩、リン酸カルシウム等の複合酸化物が挙げられる。
【0025】
無機酸化物粒子の粒径は特に限定されないが、水性コロイドまたはオルガノゾルの形態とされたとき5〜50nm程度の粒径が、最終的な光触媒性親水性被膜の光沢、濁り、曇り、透明性等の観点から好ましい。
【0026】
さらに本発明の好ましい態様によれば、光触媒コーティング液は、上記成分に加えて、重合硬化触媒、加水分解触媒、レベリング剤、抗菌金属、pH調整剤、香料、保存安定剤、有機防カビ剤などを含んでなることができる。
【0027】
ここで、重合触媒としては、アルミニウムキレート、アルミニウムアセチルアセトナート、過塩素酸アルミニウム、塩化アルミニウム、アルミニウムイソブトキシド、アルミニウムイソプロポキシドのようなアルミニウム化合物;テトライソプロピルチタネート、テトラブトキシチタネートのようなチタン化合物;水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、酢酸ナトリウム、ギ酸ナトリウム、酢酸カリウム、ギ酸カリウム、プロピオン酸カリウム、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドのような塩基性化合物類;n−ヘキシルアミン、トリブチルアミン、ジアザビシクロウンデセン、エチレンジアミン、ヘキサンジアミン、ジエチレントリアミン、テトラエチレンベンタミン、トリエチレンテトラミン、エタノールアミン類、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノメチル)−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノメチル)−アミノプロピルメチルジメトキシシランのようなアミン化合物;錫アセチルアセトナート、ジブチル錫オクチレートのような錫化合物;コバルトオクチレート、コバルトアセチルアセトナート、鉄アセチルアセトナートのような金属化合物類;リン酸、硝酸、フタル酸、p−トルエンスルホン酸、トリクロル酢酸のような酸性化合物類などが挙げられる。
【0028】
加水分解触媒としては、pH2〜5の硝酸、塩酸、酢酸、硫酸、スルホン酸、マレイン酸、プロピオン酸、アジピン酸、フマル酸、フタル酸、吉草酸、乳酸、酪酸、クエン酸、リンゴ酸、ピクリン酸、ギ酸、炭酸、フェノール等が好適に利用できる。
【0029】
レベリング剤としては、ジアセトンアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1−エトキシ−2−プロパノール、1−ブトキシ−2−プロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、1−プロポキシ−2−プロパノール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル等が好適に利用できる。
【0030】
(c)光触媒コーティング液の耐熱基材への塗布
本発明による方法にあっては、上記の光触媒コーティング液を耐熱基材に塗布する。塗布方法としては、スプレーコーティング法、ディップコーティング法、フローコーティング法、スピンコーティング法、ロールコーティング法、刷毛塗り、スポンジ塗り等の方法が好適に利用できる。本発明の好ましい態様によれば、光触媒コーティング液はスプレーにより塗布されることが好ましい。
【0031】
さらに、本発明の好ましい態様によれば、光触媒コーティング液の塗布の前に、基材表面が予備加熱されることが好ましい。予備加熱は、基材の表面を40℃〜200℃に加熱することにより行われる。加熱された基材表面に塗布された光触媒コーティング液は、均一に広がり、むらのない塗膜が得られるので有利である。
【0032】
さらに、本発明の好ましい態様によれば、光触媒コーティング液が塗布された基材表面を急速加熱の前に乾燥させてもよい。基材には後記する急速加熱により大量の熱量が負荷される。基材上に余分な水分または溶媒成分が存在すると急激な温度変化による水または溶媒成分の急激な蒸発などにより基材表面の平滑度が失われてしまうおそれがある。よって、乾燥により予め余分な水分または溶媒成分を除くことが望ましいことがある。乾燥は送風または加熱により行われてよい。
【0033】
光触媒コーティング液を耐熱基材に塗布後、前記コーティング液の塗布面の最高温度が300℃をこえる温度、より好ましくは400℃をこえる温度で焼成することで、基材上ににより光触媒層が形成される。
本発明の好ましい形態においては、前記焼成は、前記コーティング液の塗布面を300℃をこえる温度、より好ましくは400℃をこえる温度に2〜60秒間晒す。
本発明の好ましい形態においては、前記焼成は、前記コーティング液の塗布面の温度が800℃以上に昇温しないように行う。
本発明の好ましい形態においては、前記焼成は、加熱を単位面積当りの発熱量が120MJ/m・h以上である発熱体を用いて行い、該発熱体から前記コーティング液の塗布面までの距離を5mm〜300mmの範囲として行う。
【0034】
前記焼成において、300℃をこえる温度、より好ましくは400℃をこえる温度に2〜60秒間、より好ましくは5〜30秒晒すと、耐熱基材表面、すなわち、基材上に塗布された光触媒コーティングには熱量が均一に行き渡るが、基材全体が表面と同様の温度に加熱されるには至らない程度に加熱される。そうすることで、おそらく、アルキルシリケートの高温流動に伴う光触媒粒子の活性点の低下を有効に防ぐことができるとともに表面は強固に固着され、高度な耐摩耗性も同時に得られると考えられる。
【0035】
従って、上記加熱は基材の表面にのみ集中して熱量を与えることにより行われることが好ましい。
本発明の好ましい態様によれば、基材の表面温度を300℃〜900℃に加熱することにより行われることが好ましく、より好ましくは350℃〜850℃、最も好ましくは400℃〜800℃の範囲である。
基材の表面温度を900℃未満、より好ましくは850℃以下、最も好ましくは800℃以下に抑えることで、シリカの流動性を抑えることができる。また光触媒が酸化チタンの場合、800℃付近が固相焼結反応開始温度となるが、このような固相焼結反応等による光触媒粒子の比表面積の減少を抑えることができる。さらに、光触媒粒子としてアナターゼ型酸化チタンを利用した場合にルチル型酸化チタンへの相転移も有効に防止できる。従って、光触媒粒子の活性点の低下を有効に防ぐことができるとともに表面は強固に固着され、高度な耐摩耗性も同時に得られると考えられる。
【0036】
また、基材全体が上記のような高温至らないことから、加熱の衝撃のために昇温時に割れたり、クラックが入ることが有効に防止され、さらには冷却時にも同様の現象を有効に防止できるとの利点が得られる。
【0037】
さらに、本発明の好ましい態様によれば、急速加熱中、加熱温度が実質的に一定に保たれることが好ましい。また、本発明の好ましい態様によれば、急速加熱中の前記基材がおかれる雰囲気温度は、400℃〜1200℃、より好ましくは500℃〜1000℃の範囲であることが好ましい。
【0038】
さらに本発明の好ましい態様によれば、焼成は、加熱を単位面積当りの発熱量が120MJ/m・h以上、より好ましくは400MJ/m・h以上である発熱体を用いて行い、該発熱体から前記コーティング液を塗布した表面までの距離を5mm〜300mmの範囲として行うのがよい。
そうすることで、特に、基材がセラミック、タイル、衛生陶器、食器、洗面器、ケイカル板、碍子、ガラス、鏡等の絶縁体である場合、急速に表面温度を300℃をこえる温度、より好ましくは400℃をこえる温度に上昇できる。
【0039】
急速加熱された、光触媒コーティング液を塗布された耐熱基材は、その後冷却され、最終的な光触媒体とされる。本発明の好ましい態様によれば、この冷却は急速に行われてもよい。
【0040】
光触媒層は、0.1μm以上5.0μm以下の膜厚を有するのが好ましく、より好ましくは0.2μm以上3.0μm以下の膜厚であり、最も好ましくは0.3μm以上1.0μm以下である。このような範囲内であると、無機酸化物粒子よりも含有比率が低い光触媒粒子を膜厚方向に増加させることができるので、有害ガス分解性が向上する。さらには、光触媒層の透明性においても優れた特性が得られる。
【実施例】
【0041】
実施例1:
平均結晶子径7nm、平均粒径50nmのアナターゼ型酸化チタンゾルとアルキルシリケートと溶媒とを、酸化チタン粒子とアルキルシリケートとの質量比が65:35となるように配合し、光触媒コーティング液(A1)を作製した。ここで、溶媒には、水とアルコールとの混合溶媒を用い、その量比は90:10とした。
この光触媒コーティング液(A1)を、予め80〜150℃に予備加熱した施釉タイル(T1)上にスプレーコーティング法により塗布した(B1)。
次いで、上記タイル(B1)を、炉内雰囲気温度800〜1100℃(熱電対はバーナー付近の直接炎が当らない位置に設置)、加熱を単位面積当りの発熱量が1000MJ/m・hである発熱体を用いて行い、該発熱体から前記コーティング液を塗布した表面までの距離を5mm〜300mmの範囲に設定して10〜20秒焼成した。その結果、タイル表面に膜厚約0.5μmの光触媒層が形成された光触媒体(C1)が作製された。本試料における炉から搬出された直後の光触媒体(C1)の表面温度は400〜450℃であった。
得られた試料(C1)について、光触媒によるNOx分解機能と、耐摩耗性につき確認した。
光触媒によるNOx分解機能は、JISR1701−1「光触媒材料の空気浄化性能試験方法−第1部:窒素酸化物の除去性能」の試験法で行った。その結果、ΔNOxが0.96μmolとなり良好な結果を示した。
耐摩耗性については、ナイロン製のブラシで1200回摺動させた後に、光触媒機能が維持されていることを、硝酸銀呈色試験、すなわち、光触媒層上に濃度1重量%硝酸銀水溶液を塗布しBLBランプを照度2mW/cmで20分照射し、余剰の硝酸銀を水道水にて洗浄し、乾燥した後の光触媒層表面の色値(L*,a*,b*)と、前記硝酸銀水溶液塗布前の光触媒層表面の色値(L*,a*,b*)との色差変化ΔEを測定する試験、で確認した。その結果、ΔE=14と良好な結果を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱性基材と、該基材上に設けられる光触媒層とを備えた光触媒体の製造方法であって、
前記光触媒層は、光触媒粒子と平均組成式SiX(4−q)/2 (式中、Xはアルコキシ基またはハロゲン原子であり、qは0<q<4を満足する数である)で表わされる塗膜形成後にシリカに変化する高分子とを含むコーティング液を前記基材に塗布後、前記コーティング液の塗布面の最高温度が300℃をこえる温度になるように焼成することにより形成することを特徴とする光触媒体の製造方法。
【請求項2】
前記焼成は、前記コーティング液の塗布面が、300℃をこえる温度に2〜60秒間晒されることにより行うことを特徴とする請求項1に記載の光触媒体の製造方法。
【請求項3】
前記焼成は、加熱を単位面積当りの発熱量が120MJ/m・h以上である発熱体を用いて行い、該発熱体から前記コーティング液の塗布面までの距離を5mm〜300mmの範囲として行うことを特徴とする請求項2に記載の光触媒体の製造方法。
【請求項4】
前記焼成は、前記コーティング液の塗布面の温度が900℃以上に昇温しないように行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光触媒体の製造方法。
【請求項5】
前記耐熱性基材は施釉タイルであり、前記光触媒層は該施釉タイルの施釉された面上に形成することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の光触媒体の製造方法。

【公開番号】特開2010−279913(P2010−279913A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−136254(P2009−136254)
【出願日】平成21年6月5日(2009.6.5)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】