説明

光触媒含有体

【課題】光触媒内における電子・正孔の再結合速度を遅くする。
【解決手段】平面的形状の結晶粒子と立体的形状の結晶粒子とが結合している。前記各粒子のいずれかは、赤外線、可視光線、又は紫外線が照射された場合に触媒作用が得られる。前記各粒子の平均サイズが同じである。塗布乾燥後の光触媒の気孔率が50%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒含有体に関し、特に、抗菌効果を高めた光触媒含有体に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1によると、酸化チタンなどの光触媒活性は、光触媒反応の絶対速度あるいは相対速度で定義されている。また、非特許文献1には、光触媒活性は、吸収スペクトルや効率などの光吸収特性、電子と正孔とによる反応基質の還元および酸化反応の速度、又は、電子・正孔の再結合速度(あるいは確率)の各パラメータで決定される旨が記載されている。
【0003】
【非特許文献1】http://www.photocatalysis.com/sekininsya/sekininsha_koushuu/1-1.hikari-shokubai_gairon.pdf
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、例えば、電子・正孔の再結合速度が遅い(あるいは確率が低い)場合には、電子の飛翔時間が長くなるため、O及び・OHのような活性酸素種とウィルスなどとの接触機会が増え、光触媒の抗菌作用が向上する。
【0005】
また、正孔では、空気中の水との間で反応が起こり、強い酸化力を有するOHラジカルが生成される。したがって、上記再結合速度が遅い場合には、OHラジカルの生成時間が増える(生成量が増える)という面からも、光触媒の抗菌作用が向上する。
【0006】
さらに、光触媒膜を作成したときに、単位面積あたりの結晶粒子量を多くすると、単位面積あたりの電子量が増える。このことも、光触媒の抗菌作用の向上に寄与する。
【0007】
そこで、本発明は、光触媒内における電子・正孔の再結合速度をいかにして遅くするかを課題とする。
【0008】
また、本発明は、光触媒膜を作成したときに、単位面積あたりの結晶粒子量を多くすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の光触媒含有体は、平面形状の結晶粒子と立体形状の結晶粒子とが結合してなる。
【0010】
前記各粒子のいずれかは、赤外線、可視光線、及び紫外線のいずれを受けた場合であっても光触媒活性が得られるように、バンドギャップを狭めるべく、例えば、結晶状態の構造欠陥を生じさせるとよい。
【0011】
前記平面的形状の結晶粒子の平均サイズを、前記立体的形状の結晶粒子の平均サイズ以上とすると、光触媒含有体を塗布乾燥させたときに、光触媒膜の気孔率低下に寄与するため好ましい。
【0012】
具体的には、塗布乾燥後の光触媒の気孔率が50%以下であるとよい。光媒体の単位容積あたりの結晶数が増加して、再結合速度を遅くする等に貢献するためである。
【0013】
また、本発明の物品は、上記の光触媒含有体に含まれる光触媒が塗布されている。ここでいう物品には、光触媒におけるセルフクリーニング作用が発揮されるような屋外に設けられている、外壁パネル材、カーブミラー、道路標識、サイン看板、自動車ボディーなどが含まれる。
【0014】
特に、本発明の光触媒含有体は水系であり、かつ、人畜無害であるため、上記物品として、抗菌等の作用が発揮されるような厨房、動物などを飼っておく小屋及びそれに付帯して使用される大鋸屑、籾殻などなどにも好適に用いられる。さらに、上記物品には、空気・水質浄化作用が発揮される冷蔵庫、空調機、空気清浄機なども含まれる。
【発明の実施の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態の光触媒含有体であるところの光触媒含有液の製造工程の概要説明図である。
【0016】
まず、光触媒原液を製造する(ステップS1)。
【0017】
水酸化チタン或いは酸化チタン等の超微粒子の分散液、又は水酸化チタンゲルを用意する(ステップS11)。つづいて、上記分散液等に対して、水酸化ナトリウム等の沈殿物生成剤を加える(ステップS12)。これにより、上記分散液等に水酸化チタンの沈殿物が生成させる。
【0018】
具体的には、四塩化チタンの約50〜70重量%水溶液10mlを、蒸留水で1000mlに希釈したもの上記分散液として用意した。また、上記分散液に対して、2.0〜2.5重量%アンモニア水を10ml程度滴下して、水酸化チタンの沈殿物を生成した。
【0019】
つぎに、上記分散液の中から沈殿物を遠心分離や濾別等によって抽出して、その後、水酸化チタンゲル自体を、不純物除去のために、純水、イオン交換水、蒸留水などで水洗する(ステップS13)。水酸化チタンゲルに純水、イオン交換水、又は蒸留水を加えて100〜500mlとした水酸化チタン懸濁液を製造する(ステップS14)。
【0020】
つぎに、水酸化チタン懸濁液に30重量%過酸化水素水を10〜20ml加えて攪拌してから(ステップS15)、例えば2〜15時間、65〜400℃の温度で加熱する(ステップS16)。こうして、5nm〜30nmのアナターゼ結晶の酸化チタンを含む光触媒原液を得る。
【0021】
この光触媒原液は、酸化チタンの平均サイズが約10nmであった。酸化チタンの表面には、ペルオキソ基が修飾されることになる。このため、光触媒原液中では、ペルオキソ基の分極によって粒子間の電気的斥力が働き、酸化チタンが相互に反発しあうので凝集することない。なお、光触媒原液中におけるアンモニウムイオンなども上記分散に寄与している。このため、光触媒原液は、酸化チタンが均一に分散した液体となる。また、こうして製造した酸化チタンは、1個以上のOH基を有することになる。
【0022】
表1は、図1のステップS1において製造された光触媒原液を、透過型電子顕微鏡を介して撮影した図面代用写真である。表1に示すように、光触媒原液に含まれる酸化チタンの結晶粒子は、平面形状であるところの鑓型をしている(以下、「鑓型酸化チタン」と称する。)。鑓型となるのは、ステップS14の加熱によって、酸化チタンの結晶が、アモルファスからアナタース型結晶となったことを意味する。なお、酸化チタンは、鑓型とするためには、アンモニウムイオン以外の不純物を極力少なくする必要がある。
【表1】

もっとも、光触媒原液に含まれる鑓型酸化チタンの形状は制御可能であり、鑓型以外にも、例えば、ステップS14,S15間に、光触媒原液に対してホウ素などを添加することによって、略四角形、略五角形、略八角形などの平面的な種々の幾何学形状とすることも可能である。本実施形態では、光触媒原液の酸化チタンの結晶粒子が、平面的形状であればよい。
【0023】
つぎに、光触媒原体を製造する(ステップS2)。
【0024】
まず、酸化鉄及び酸化チタンが主成分であるイルメナイト鉱石と硫酸とを反応させることによって硫酸塩を製造する(ステップS21)。つぎに、硫酸塩から不純物を除去する(ステップS22)。その後、その硫酸塩を加水分解して(ステップS23)、不溶性の白色含水酸化チタンを沈澱させる。この際、一つ以上のOH基が形成される。
【0025】
その後、これを中和洗浄し、乾燥又は焼成して、平均サイズが6nm程度の略球型となるまで微粒子化することによって、光触媒原体を得る。このように製造した酸化チタンは、1個以上のOH基を有することになる。
【0026】
なお、上記製造方法は、いわゆる硫酸法と称されている手法であるが、これに限定されず、塩素法、フッ酸法塩化チタンカリ法、四塩化チタン水溶液法、アルコキシド加水分解法など他の製造方法を用いてもよい。
【0027】
また、可視光照射によって光触媒作用が得られるように、可視光域の吸収が可能なバンドギャップとすべく、酸化チタンに対する各種ドーパントの導入、酸化チタンの高温還元、酸化チタンに対するX線などの高エネルギー照射などを行ってもよい。
【0028】
表2は、図1のステップS2において製造された光触媒原体を、透過型電子顕微鏡を介して撮影した図面代用写真である。表2に示すように、光触媒原体に含まれる酸化チタンの結晶粒子は、立体形状であるところの球型をしている(以下、「球型酸化チタン」と称する。)。
【表2】

もっとも、球型酸化チタンの結晶粒子の形状は、制御可能であり、球型以外にも、例えば、断面が略楕円型、円柱型、角柱型、これらの折れ線型などの立体的な種々の形状とすることが可能である。本実施形態では、光触媒原体の酸化チタンの結晶粒子が、立体的形状であればよい。
【0029】
ここで、本実施形態では、鑓型酸化チタンの結晶粒子の平均サイズを、球型酸化チタンの結晶粒子の平均サイズ以上としている。こうすると、鑓型酸化チタンの隙間に、球型酸化チタンが入りこむことになり、しかも、後述するように両酸化チタンは相互に混合される。このため、光触媒含有液を被塗布体に対して塗布乾燥させた場合、光触媒の気孔率の低下が実現する。
【0030】
つぎに、光触媒含有液を製造する(ステップS3)。
【0031】
まず、ステップS1で製造した光触媒原液に対して、ステップS2で製造した光触媒原体を混ぜて(ステップS31)、必要に応じて、この光触媒原液を攪拌して、鑓型酸化チタンと球型酸化チタンとを結合させる(ステップS32)。この際、光触媒原液を加熱等する処理は不要であるであるし、攪拌スピード、攪拌時間などの攪拌条件は特段限定されるものではない。
【0032】
ここで、既述のように、光触媒原液内の酸化チタンは、ペルオキソ基で修飾されているので、光触媒原液中で分散しているので、この状態を維持しながら光触媒原液に対して光触媒原体を添加するとよい。
【0033】
このためには、ペルオキソ基の減少を回避する、又は、光触媒原液中における上記分散に寄与するアンモニウイオン濃度などの不純物の減少を回避するとよい。具体的には、ペルオキソチタン酸の濃度が例えば5w%以下とならないようにする、又は、アンモニウムイオンなど不純物が例えば100ppm以下とならないようする。
【0034】
また、既述のように、光触媒原液内の酸化チタンと光触媒原体の酸化チタンとの双方ともに、1個以上のOH基を有している。このため、両酸化チタンは、互いのOH基部分で水素結合がなされる。つまり、OH基が置換基となる。もっとも、置換基は、OH基に限定されるものではない点に留意されたい。
【0035】
ところで、一般的な球型酸化チタンは非水系で製造され、鑓型酸化チタンは水系で製造されている。したがって、これらは、理論的には結合しない。そこで、本発明者は、これらを結合させるべく、例えばOH基を含む球型酸化チタンを選択した。この結果、上記のように、球型酸化チタンと鑓型酸化チタンとを、OH基を通じて相互に結合することが可能となる。
【0036】
表3は、図1のステップS3において製造された光触媒含有液を、透過型電子顕微鏡を介して撮影した図面代用写真である。球型酸化チタンの大半は、光触媒原液中の鑓型酸化チタンと結合される。なお、所要の振動等を光触媒原液に加えても、球型酸化チタンと鑓型酸化チタンとの分離は、確認されなかった。
【表3】

表4は、球型の光触媒溶液を塗布乾燥させた光触媒膜表面の電子・正孔の再結合速度と、本実施形態の光触媒含有液を塗布乾燥させた光触媒膜表面の電子・正孔の再結合速度との測定結果を示すものである。この測定は、フェムト秒レーザーパルスの拡散反射スペクトル(PP−DRS)法を採用している。表4の縦軸はΔオプティカルデンシティ、横軸は時間(ピコセコンド)を示している。
【0037】
表4に示すように、球型の光触媒側では20ピコセコンド経過時にほとんどの電子・正孔の再結合が完了している(b)。一方、本実施形態の光触媒側では20ピコセコンド経過時にも半分以上の電子・正孔の再結合が完了していない(a)。これは、本実施形態の光触媒側では、電子・正孔の再結合速度が遅いことを意味している。
【表4】

表4に示す測定結果と以下の数式(1)とを用いて、電子濃度を算出した。
【0038】
電子濃度=時間ゼロでの電子濃度/1+時刻ゼロでの電子濃度×電子・正孔の再結合の二次速度定数×時間+ベースライン (1)
なお、球型の光触媒側の電子濃度は約10×1012cm/s、本実施形態の光触媒側の電子濃度は約1×1012cm/sであった。このように、約10倍程度の電子濃度の相違が確認された。
【0039】
(比較例)
1.光触媒原液のみを基板に塗布して乾燥させた後に、当該基板表面を電子顕微鏡を用いて観察したところ、表面に付着した酸化チタンには、平均的に約60%の気孔率が確認された。
【0040】
2.球型酸化チタンを蒸留水に混ぜてから、基板に塗布して乾燥させた後に、当該基板表面を電子顕微鏡を用いて観察したところ、表面に付着した酸化チタンには、平均的に約70%の気孔率が確認された。
【0041】
3.本実施形態の光触媒含有液を基板に塗布して乾燥させた後に、当該基板表面を電子顕微鏡を用いて観察したところ、表面に付着した酸化チタンには、平均的に約30%の気孔率が確認された。気孔率が50%を超える部分は確認されなかった。
【0042】
また、本実施形態の光触媒含有液を基板に塗布して乾燥させた光触媒膜での光触媒結晶の配向性が高いことが確認された。さらに、光触媒膜の強度が優れていることも確認できた。
【0043】
なお、本実施形態の光触媒含有液内における、2種類の形状の酸化チタンの混合割合を、約3:7,約5:5,約7:3など種々変更しても、気孔率に大差はなかった。
【0044】
ちなみに、光触媒含有液における球状の酸化チタンの含有割合が高まるに連れて、鑓状の酸化チタンと球状の酸化チタンとが結合状態にある酸化チタンが重くなり、これが光触媒含有液中に沈殿することになった。結局のところ、鑓状の酸化チタンと球状の酸化チタンとの割合は、約3:7乃至約7:3が好ましく、約5:5が最良であることがわかった。
【0045】
なお、本実施形態では、主として、光触媒含有体として酸化チタン含有液を例に説明したが、液状に限定されず、ゲル状、ゾル状のものであってもよい。また、光触媒活性物質は、酸化チタン(TiO)のみならず、Fe、CuO、In、WO、FeTiO、PbO、V、FeTiO、Bi、Nb、SrTiO、ZnO、BaTiO、CaTiO、KTaO、SnO、ZrO、Si、GaAs、CdSe、GaP、CdS、ZnSなどとしてもよい。
【0046】
本実施形態の光触媒含有液を塗布した、タイル、網戸、壁紙、天井板、繊維加工品、樹脂加工品などを含む建築材料は、抗菌効果に優れたものとなる。
【0047】
また、本実施形態の光触媒含有液を塗布した、ゲージ、シート、大鋸屑などを含む畜舎用品も、抗菌効果に優れたものとなる。鳥インフルエンザ等のウィルスに対しても、絶大な効果がある。
【0048】
その他、本実施形態の光触媒含有液を塗布することによって、空気清浄機のフィルタの抗菌効果も高められる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施形態の光触媒含有体であるところの光触媒含有液の製造工程の概要説明図である。
【符号の説明】
【0050】
S1 光触媒原液製造工程
S2 光触媒原体製造工程
S3 光触媒含有液製造工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面的形状の結晶粒子と立体的形状の結晶粒子とが結合している光触媒含有体。
【請求項2】
前記各粒子のいずれかは、赤外線、可視光線、又は紫外線を受けて触媒作用が得られる請求項1記載の光触媒含有体。
【請求項3】
前記平面的形状の結晶粒子の平均サイズが、前記立体的形状の結晶粒子の平均サイズ以上である、請求項1又は2記載の光触媒含有体。
【請求項4】
塗布乾燥後の光触媒の気孔率が50%以下である、請求項1から3のいずれか記載の光触媒含有体。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか記載の光触媒含有体に含まれる光触媒が塗布された物品。

【図1】
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【公開番号】特開2008−43857(P2008−43857A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−220458(P2006−220458)
【出願日】平成18年8月11日(2006.8.11)
【出願人】(503343543)株式会社鯤コーポレーション (8)
【Fターム(参考)】