説明

光触媒担持多孔質粘土材料

【課題】本発明は柔軟性が高く、耐熱性があり、多孔質であり、断熱性に優れる、光触媒担持多孔質粘土材料を提供する。
【解決手段】光触媒と粘土、光触媒と粘土と添加物、又は光触媒と粘土と添加物と少量の補強材を、水又は水を主成分とする溶媒に分散させた光触媒含有粘土ペーストを調製し、この粘土ペーストを金属製の底板と樹脂製型枠とを有する成形型に流し込み、凍結後凍結乾燥し昇華させることによって、厚み方向に貫通孔を構成し、大きな気孔率と比表面積を持つ光触媒担持多孔質粘土材料を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光透過率が高く、柔軟性が高く、耐熱性があり、多孔質であり、断熱性に優れる、新規光触媒担持多孔質粘土材料及びその用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
チタニアに代表される光触媒は、光のエネルギーにより、酸化反応、分解反応、超親水化作用、人工光合成反応等を触媒することから、大気浄化、脱臭、浄水、抗菌、防汚等の目的で広く用いられている。しかしながら、従来の光触媒を担持又は含有させた材料は、光透過性が十分でなく、内部の触媒が十分に機能しない。柔軟性がない等の問題があった。
【0003】
また、光触媒担体に用いる材料として触媒活性の発現に欠かせない条件は、十分な光透過性を有することである。また、さらに使用条件を考慮すれば、耐熱性や耐環境性があって、高い気孔率を持ち、しかも柔軟性を有する材料の開発が強く望まれていた。
【0004】
多孔質粘土材料、多孔質セラミック材料の製造方法は、種々提案されている。典型的な製造方法としては真空凍結乾燥法がある。粘土あるいはセラミックを溶媒に分散させたスラリーを凍結後真空乾燥し、溶媒を昇華、空孔が形成された成形体を得る方法がある(特許文献1、2)。さらに配向性を持たせる方法として、スラリーを一方向から凍結させ、スラリー中に霜柱状の氷を形成する。この氷を減圧下にて凍結乾燥し昇華させ、空孔が一方向に配向した成形体を形成し、焼結工程を経て多孔質セラミック焼結体を得る提案がある(特許文献3)。
【0005】
しかしながら、特許文献1の多孔体は、柔軟性がなく強度的に脆く取り扱いにくい。特許文献2は、粘土、水ガラス及び不燃性繊維の混合ゾルを凍結の後、凍結乾燥した粘土複合多孔体で、ひび割れを防ぎ強度的な改善を行っている。しかし空孔は内包された構造となっており、フィルターとしての機能はない。特許文献3は、インプラント材用セラミック材を指向したもので、フィルターや触媒担持体としては適してない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63−230581号公報
【特許文献2】特開平09−132475号公報
【特許文献3】特開2008−230910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、光透過率が高く、柔軟性が高く、耐熱性があり、多孔質であり、断熱性に優れる、新規光触媒担持多孔質粘土材料を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような状況の中で、本発明者らは、前記従来技術に鑑みて、触媒担体に利用可能な光透過性と機械的強度を有し、しかも、優れたフレキシビリティーを有し、高温度条件下でも使用できる新しい光触媒担持多孔質粘土材料を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねてきた。その結果、光触媒と粘土、光触媒粘土と添加物、あるいは光触媒と粘土と添加物と補強材を含む均一に分散したペーストを調製し、金属板の底面と樹脂製型枠から構成され成形型にペーストを流し込み、静置後凍結処理し、真空凍結乾燥することにより、厚み方向に貫通孔を構成し、その貫通孔に沿って粘土結晶が配向した構造を有し、その構造中に光触媒が担持された板状又は膜状の光触媒担持多孔質粘土材料が得られ、当該材料が十分光透過性と優れた触媒活性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)光触媒と粘土、光触媒粘土と添加物、又は光触媒粘土と添加物と少量の補強材から構成された粘土成形体であって、厚み方向に貫通孔を構成し、その貫通孔に沿って粘土結晶が配向した構造を有し、その構造中に光触媒が担持されていることを特徴とする板状又は膜状の光触媒担持多孔質粘土材料。
(2)光触媒がチタニアである(1)に記載の光触媒担持多孔質粘土材料。
(3)粘土の主要構成成分が、雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、鉄モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト及びノントロナイトからなる群のうちから選択される一種以上である(1)又は(2)に記載の光触媒担持多孔質粘土材料。
(4)厚み方向の光透過率が10〜90%である(1)〜(3)のいずれかに記載の光触媒担持多孔質粘土材料。
(5)光触媒を光触媒担持多孔質粘土材料の全固体量に対し5〜70重量%含有する(1)〜(4)のいずれかに記載の光触媒担持多孔質粘土材料。
(6)気孔率が、70〜98容量%である(1)〜(5)のいずれかに記載の光触媒担持多孔質粘土材料。
(7)柔軟性に優れ、250℃以上600℃までの高温においても多孔質構造に変化がない(1)〜(6)のいずれかに記載の光触媒担持多孔質粘土材料。
(8)光触媒と粘土、光触媒と粘土と添加物、又は光触媒と粘土と添加物と少量の補強材を、水又は水を主成分とする溶媒に分散させた光触媒含有粘土ペーストを調製し、この粘土ペーストを成形型に流し込み、静置後凍結処理し、真空凍結乾燥することを特徴とする(1)記載の光触媒担持多孔質粘土材料の製造方法。
(9)成形型が、金属板の底板と、底板上に設置した樹脂製型枠とを有し、型枠が取り外し可能な構造の成形型である(8)記載の製造方法。
(10)真空凍結乾燥後、150〜600℃に加熱処理する(8)又は(9)記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の光触媒担持多孔質粘土材料は、厚み方向に貫通孔を構成し、その貫通孔に沿って粘土結晶が配向し、その構造中に光触媒が担持されているため、高い光透過性を有する。従って、内部に担持された光触媒に、効率良く光が到達するため、優れた光触媒活性を示す。また、多孔質粘土材料自体が優れた柔軟性、熱安定性に加えて、吸着性を有するため、処理対象となる物質を多量に吸着し、光触媒による反応が効率良く進行する。また、本発明の光触媒担持多孔質粘土材料は、熱処理により耐水性も付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】光触媒粘土多孔膜のSEM像(チタニア50%:成型時大気側:×100倍)
【図2】光触媒粘土多孔膜のSEM像(チタニア50%:成型時大気側拡大:×1000倍)
【図3】光触媒粘土多孔膜のSEM像(チタニア50%:成型時金属板側:×100倍)
【図4】光触媒粘土多孔膜のSEM像(チタニア50%:成型時金属板側拡大:×1000倍)
【図5】光触媒粘土多孔膜のSEM像(チタニア50%:膜断面:×100倍)
【図6】光触媒粘土多孔膜のSEM像(チタニア50%:膜断面拡大:×1000倍)
【図7】光触媒粘土多孔膜のトルエンガス分解試験結果(膜の熱処理なし)(UV光源:超高圧水銀灯25mW/cm2
【図8】光触媒粘土多孔膜のトルエンガス分解試験結果(熱処理あり)(UV光源:超高圧水銀灯25mW/cm2
【図9】触媒粘土多孔膜のトルエンガス分解試験結果(熱処理あり)(UV光源:6Wブラックライト45μW/cm2
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の光触媒担持多孔質粘土材料の構成成分は、光触媒及び粘土が必須成分であり、必要により添加物及び補強材が含まれる。ここで、光触媒としては、チタニア(TiO2)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、酸化亜鉛(ZnO2)、酸化スズ(SnO2)、セレン化カドミウム(CdSe)、硫化カドミウム(CdS)、酸化タングステン(WO3)、タンタル酸カリウム(KTaO3)、シリカ(SiO2)、タンタル系複合酸化物(LiTaO3、NaTaO3、CaTa26、BaTa26、Sr2Ta26、Ta25)、ニオブ系酸化物(K4Nb617、Sr2Nb27、Cs2Nb411)、ジルコニウム系酸化物(ZrO2)、ガリウム系酸化物(ZnGa24)、インジウム系酸化物(CaIn24、SrIn24)、ゲルマニウム系酸化物(Zn4Ge24)、アンチモン系酸化物(CaSb27、SrSb27)、バナジウム系酸化物(V25)が挙げられるが、チタニアが特に好ましい。粘土としては、天然粘土及び合成粘土のいずれも用いることができ、具体的には雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、鉄モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト及びノントロナイトが例示される。前記添加物としては、例えば、熱重合をするモノマー、熱硬化性ポリマー、合成ゼオライトが例示される。前記補強材としては、鉱物繊維、グラスウール、炭素繊維、セラミックス繊維、植物繊維が例示される。これらの粘土、添加物及び補強繊維は、一種又は二種以上を組み合せて使用できる。
【0013】
光触媒は、本発明の光触媒担持多孔質粘土材料の全固体量に対し、1〜90重量%含有することができるが、触媒活性及び多孔質粘土材料の特性保持の点から、5〜70重量%、さらに10〜70重量%、特に10〜60重量%、殊更10〜50重量%含有するのが好ましい。粘土は、多孔質粘土材料の特性保持の点から、光触媒担持多孔質粘土材料の全固体量に対し、10〜99重量%、さらに30〜90重量%、特に40〜90重量%、殊更50〜90重量%含有するのが好ましい。前記添加物は光触媒担持多孔質粘土材料の全固体量に対し、55重量%以下、さらに50重量%以下、さらに30重量%以下、さらに1〜25重量%、特に1〜10重量%含有するのが好ましい。前記補強繊維材は、光触媒担持多孔質粘土材料の全固体量に対し、30重量%以下、さらに1〜25重量%、特に1〜10重量%含有するのが好ましい。
【0014】
本発明の光触媒担持多孔質粘土材料は、板状又は膜状の形状を有し、その厚さ、面積は特に限定されるものではないが、厚さは0.1mm〜100mm、さらに0.1mm〜15mm、特に1mm〜15mmであるのが好ましい。厚さが増すと共に粘土材料内部の乾燥に時間が必要となることから、100mmを超える厚みは好適でない。本発明の光触媒担持多孔質粘土材料は、厚み方向に貫通孔を構成し、その貫通孔に沿って粘土結晶が配向した構造を有し、その粘土結晶が配向した構造中に光触媒が担持されている。この構造により、十分な光透過性、柔軟性、熱安定性、断熱性、吸着性等の特性を発揮する。この貫通孔は主に水あるいは水を主成分とする溶媒の昇華により形成されるため、真円とは限らない。孔の開口部の最大距離径は、特に限定されないが、0.1〜10000μm、特に1〜6000μmの範囲で調整するのが好ましい。また、本発明の光触媒担持多孔質粘土材料は、膜の場合自立膜である。ここで、自立膜とは、膜が支持体に保持されておらず、膜そのもの自体で取り扱いが可能な強度と取り扱い性を有し、単体で取り扱いが可能な膜をいう。
【0015】
また、本発明の光触媒担持多孔質粘土材料の気孔率は、70〜98容量%、特に70〜95容量%であるのが、柔軟性、断熱性、吸着性の点で好ましい。また、250〜600℃までの高温においても多孔質構造に変化がなく、優れた耐熱性を示す。
【0016】
本発明の光触媒担持多孔質粘土材料は、光触媒と粘土、光触媒と粘土と添加物、又は光触媒と粘土と添加物と少量の補強材を、水又は水を主成分とする溶媒に分散させた光触媒含有粘土ペーストを調製し、この粘土ペーストを成形型に流し込み、静置後凍結処理し、真空凍結乾燥することにより製造できる。ここで、成形型としては、金属板の底板と、底板上に設置した樹脂製型枠とを有し、型枠が取り外し可能な構造の成形型を用いるのが好ましい。
【0017】
より詳細には、まず、粘土及び光触媒を主成分とする固体原料と水あるいは水を主成分とする溶媒とを秤量し、スパチュラ等で混煉した後、攪拌機を用いて混合・脱泡処理を交互に数回行い均質な光触媒含有粘土ペーストを得る。ここで、粘土と光触媒の添加順序は問わない。例えば、粘土と光触媒とを混合した後溶媒に添加してもよいし、一方を溶媒に添加した後に他方を、添加してもよい。
得られた光触媒含有粘土ペーストを成形型に流し込む。成形型は熱伝導性のよい真鍮等の金属板を底板に使用し、ポリテトラフルオロエチレン(例えば、テフロン(登録商標))等の樹脂製型枠で構成するのが好ましい。また、この成形型には蓋を有していてもよい。光触媒含有粘土ペーストを成形型に流し込み、型枠をガイドとして余剰の光触媒含有粘土ペーストを金属ヘラ(スクレーパ)で取り除き、型枠を取り外し、底板が付いたまま光触媒含有粘土成形体を凍結させ霜柱状の氷を粘土ペースト中に生成する。また、型枠を取り外さずに、そのまま光触媒含有粘土成形体を凍結させた後に、型枠を取り外してもよい。この氷を減圧下で凍結乾燥し水を昇華させることで、厚み方向に貫通孔が生成され、その貫通孔に沿って配向した光触媒担持粘土結晶が形成される。
【0018】
本発明では、原料粘土として、天然、あるいは合成物、好ましくは、天然スメクタイト及び合成スメクタイトの何れか、あるいはそれらの混合物を用い、これと光触媒とを、水あるいは水を主成分とする液体と混合し、光触媒含有粘土スラリーを調製する。光触媒としてチタニア、チタン酸ストロンチウム、酸化亜鉛、酸化スズ、セレン化カドミウム、硫化カドミウム、酸化タングステン、タンタル酸カリウム、シリカ、タンタル系複合酸化物、ニオブ系酸化物、ジルコニウム系酸化物、ガリウム系酸化物、インジウム系酸化物、ゲルマニウム系酸化物、アンチモン系酸化物、バナジウム系酸化物を用いることができる。粘土として、雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、鉄モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト及びノントロナイトからなる群のうちの一種以上を用いることができる。光触媒含有粘土ペースト中の粘土及び光触媒の濃度は、3〜20重量%、好適には5〜15重量%である。このとき、粘土及び光触媒の濃度が濃すぎる場合、よく粘土が分散しないため、粘土粒子の配向が悪く、均一な多孔体ができないという問題がある。また、濃度が薄すぎると、粘土粒子が膜状に広がり所定の厚みの成形体ができにくく、後に行う凍結、真空凍結乾燥工程において、ひび割れや破損が生じる可能性がある。
【0019】
次に、必要に応じて、秤量した固体状あるいは液体状の添加物を、光触媒含有粘土分散液に加え、均一な光触媒含有粘土ペーストを調製する。添加物としては、熱重合をするモノマー、熱硬化性ポリマー、あるいは合成ゼオライトであれば、特に限定されないが、例えば、イプシロン−カプロラクタム、多価フェノールのうちの1種以上を用いることができる。添加物の全固体に対する重量割合は、55%以下、好ましくは50%以下であり、より好ましくは30%以下であり、特に好ましくは1〜10%である。このとき、添加物の割合が低過ぎる場合、添加の効果が現れず、添加物の割合が高すぎる場合、調製したペースト中で添加物と粘土の分布が不均一になり、結果として得られる光触媒担持多孔質粘土材料の均一性が低下し、やはり添加効果が薄れる。
【0020】
次に、必要に応じて、秤量した補強材を、光触媒含有粘土分散液に加え、均一な分散液を調製する。補強材として、鉱物繊維、グラスウール、炭素繊維、セラミックス繊維、植物繊維樹脂のうちの1種以上を用いることができる。補強材の全固体に対する重量割合は、30%以下であり、好ましくは1〜10%である。このとき、補強材の割合が低過ぎる場合、添加の効果が現れず、補強材の割合が高すぎる場合、調製したペースト中で補強材と粘土の分布が不均一になり、結果として得られる光触媒含有粘土材料の均一性が低下し、やはり添加効果が薄れる。なお、補強材と添加物の添加順序は、どちらが先と決まっているわけではなく、どちらを先に加えてもよい。
【0021】
次に、例えば粘土及び光触媒を主成分とする固体原料と水あるいは水を主成分とする溶媒とを秤量し、スパチュラ等で混煉した後、攪拌機を用いて混合・脱泡処理を交互に数回行い均質な光触媒含有粘土ペーストを得る。光触媒含有粘土ペーストは攪拌熱により高温となるために時間をおきながら繰り返すほうがよい。このペーストを気泡を巻き込まないように成形型に流し込む。成形型は熱伝導性のよい真鍮等の金属板の底板と底板上に設置されたポリテトラフルオロエチレン(例えば、テフロン(登録商標))等の樹脂製型枠とを有し、型枠は取外し可能な構造とする。また型枠の上部には、断熱性材料による蓋を設けてもよい。成形型に流入し余剰の光触媒含有粘土ペーストは、成形型の型枠をガイドとして、金属ヘラ(スクレーパ)で取り除く。成形型の底板にはあらかじめ、例えばアルミ箔のようなシートを敷きつめておくことが望ましい。アルミ箔に油性インク(例えば、マジックインキ(登録商標))等で番号等を記載しておくと、凍結後の光触媒含有粘土成形体に番号等が転写され製品管理に役に立つ。
【0022】
次に、静置後型枠ごと光触媒含有粘土成形体を凍結処理するか、又は静置後型枠を取り外し、底板を付けたままで光触媒含有粘土成形体を凍結処理する。凍結処理の条件は成形体の厚さ寸法、ねらいの空隙(嵩密度)の大きさに応じて設定する。例えば、光触媒含有粘土ペースト中の光触媒及び粘土の濃度5〜15重量%の濃度範囲、厚さ0.1〜15mmの光触媒含有粘土成形体を低温冷蔵庫で−80℃×12時間の比較的緩やかに凍結すると氷がより成長し、乾燥後の光触媒含有粘土成形体の気孔率を大きくすることができる。厚さは、特に限定されるものでないが、0.1mm以下になると真空乾燥後に、ヒビ、割れが生じ取り扱いが難しくなる。凍結方法には、低温冷蔵庫(ディープフリーザー)のほか冷凍庫あるいは液体窒素等に浸漬する手段があるが、急速冷凍すると、細かい氷の結晶が生成され、空隙が緻密となるので、低温冷蔵庫を用いるのが好ましい。金属製底板を使用した場合、底板側が大気側に比べ緻密な空隙となる。これは、底板側の凍結速度が速く氷が微細化し空隙が緻密になるためと考えられる。ここで、低温冷蔵庫は、−10℃〜−100℃に保持できるものであればよい。
【0023】
次に凍結後の光触媒含有粘土成形体を減圧下で凍結乾燥し氷を昇華する。凍結乾燥の処理条件は光触媒含有粘土成形体の大きさ、その処理量によるが、−10〜−15℃で約半日から数日間となる。貫通孔は凍結乾燥後あるいは凍結工程の後に成形体の底板側を研磨し形成する。
【0024】
本発明の光触媒担持多孔質粘土材料は、真空凍結乾燥終了後に、はさみ、カッター等で任意の大きさ、形状に加工できるが、凍結直後に切断、切削、研磨加工も可能である。厚み寸法も特に制限されるものではなく、使用目的に応じて設定できる。ただし、1mmより薄くなると製造過程でヒビ割れ等の破損が生じ、ハンドリングも注意を要する。
【0025】
本発明の光触媒担持多孔質粘土材料は、十分な光透過性を有し、柔軟性、耐熱性が高く、多孔質であり、熱伝導率が低く、吸着性を有するといった特徴を有する。従って、本発明材料の内部に担持された光触媒に光エネルギーが十分に到達し、優れた触媒活性を有する。本発明材料の厚み方向の光透過率は10〜90%が好ましく、さらに10〜85%、特に15〜80%であるのが好ましい。本発明材料の光透過率は、ランベルト・ベールの法則に従い、膜の厚さが薄くなると共に光透過率が高くなることから、厚みが0.1mmであれば、光透過率は約85〜88%となる。また、本発明材料は、吸着性が高いため、内部に光触媒反応の対象となる物質を吸着させ、触媒反応が効率良く進行する。
【0026】
また、本発明の光触媒担持多孔質材料に、リチウム変性処理を行った後、更に加熱処理を行うことにより耐水性を付与することができる。当該リチウム変成処理は、特開2008−247719等に開示されている粘土の結晶層間に存在する陽イオンの一部をリチウムイオンに置換するという処理であり、水酸化リチウム、硝酸リチウム、塩化リチウム等が用いられる。また、当該加熱処理は、150〜600℃が好ましく、特に350〜550℃が好ましい。また加熱時間は0.1〜24時間が好ましく、特に3〜8時間が好ましい。
【0027】
本発明の光触媒担持粘土多孔質材料は、優れた耐熱性、柔軟性を有することから、VOCガスの分解フィルター、水質浄化フィルター、土壌汚染分解フィルター、耐熱緩衝材、吸着材、清拭材、断熱材、保温材、抗菌シート材、抗ウイルスシート材、シール材、汚染物質吸収マット材、放熱部材、梱包材、光触媒反応を用いた合成反応装置の触媒材料、消臭材として特に優れている。
【実施例】
【0028】
実施例1〜3、5〜6
(1)粘土の製法
天然のNa型モンモリロナイトを主成分とする粘土材料(クニミネ工業株式会社製、商品名:クニピアF)2gをビーカ−中に入れ、これに50gの純水(20℃)を加えてテフロン回転子で撹拌することにより、粘土材料が水に分散した分散液を得た。この分散液に、水酸化リチウム一水和物を0.8g加えて、25℃、大気中で1時間放置した。
その後、市販の遠心分離器を用いて、2000Gの遠心加速度で10分間回転して分散液から上澄み液を除去し、純水を50g加えた(遠心分離操作1)。この遠心分離操作1を合計3回繰り返し行って、粘土材料の層の間にあるナトリウムイオンの少なくとも一部がリチウムイオンに置換された分散液を得た。
次いで、上述の遠心分離器を用いて、3000Gの遠心加速度で10分間回転して該分散液から上澄み液を除去し、再び純水を50g加えた(遠心分離操作2)。この遠心分離操作2を合計3回繰り返し行って、過剰のリチウムイオンを洗浄除去した。その後、分散液から、上記遠心分離条件によって上澄み液を除去し沈降物(イオン交換された粘土材料)を得た。
この沈降物を110℃で乾燥した後、粉砕機(WB−1 大阪ケミカル株式会社)で乾式粉砕して粘土粉末を得た。
【0029】
(2)粘土ペーストの製造
45cm3の蒸留水に、光触媒として0.005gのチタニア粉末(ST−01、石原産業株式会社製)を加えて攪拌した後、(1)で作製した粘土粉末を5g加え、粘土に対するチタニア量0.1%、固液比10%とした。ステンレス製スパチュラで各サンプルを混合した後、攪拌機(株式会社シンキー製、AR−250)を用いて、2000rpm×5分間攪拌混合、次に2200rpm×5分間脱泡の一連の操作を3回繰り返し、均質な粘土ペーストを得た。
攪拌、脱泡の操作を3回に分けて行った理由は攪拌熱を下げることと、粘土粉末が水を吸収する時間をとったことによる。
ここで実施例1〜3及び実施例5〜6は、表1及び表2のようにチタニアと粘土の量を変更した。
【0030】
(3)成形
長さ80mm幅80mm厚さ2mmの真鍮板の表面外周部に、両面テープ(No.5000NS、日東電工株式会社)を用いて高さ0.6mmの型枠を設けて、キャスト製膜法により型枠の内部に粘土ペーストを充填した。
次に真鍮板上に成形した粘土ペーストの開口部を、断熱素材で作製した蓋で粘土と蓋が直接触れない様に覆った後、−80℃に設定した低温冷蔵庫(ディープフリーザー、日本フリーザー株式会社)に挿入し、2〜3時間保持し凍結させた。凍結した粘土成形体から蓋を取り外し、金属板と共に−10℃の真空凍結乾燥機(クリストALPHA2−4、久保田商事株式会社製)で6〜12時間保持して乾燥させた。
乾燥した膜を金属板からへら等を用いて剥離し、厚み0.6mmの光触媒担持粘土多孔膜を得た。
【0031】
(4)熱処理
膜に耐水性を付与するために、光触媒担持粘土多孔膜の熱処理をおこなった。熱処理は、電気炉中で室温から350℃まで1時間で昇温し、350℃で3時間の保持を行い、粘土結晶の層間のリチウムイオンを層の内部に移動させた。
この熱処理は実施例7〜10のみ行った。
【0032】
実施例4、7
前記実施例1の(2)粘土ペーストの製造法を以下のように行った以外は、同様にして実施例4の光触媒担持多孔質粘土材料を得た。また、それを上記(4)と同様の熱処理をすることにより、実施例7の光触媒担持多孔質粘土材料を得た。
【0033】
(2')粘土粉末2.02gに、蒸留水18.19gを加え、手で攪拌した後、攪拌機(株式会社シンキー製、AR−250)を用いて、2000rpm×5分間攪拌混合、次に2200rpm×5分間脱泡の一連の操作を3回繰り返し、固液比10%の均質な粘土ペーストを得た。次に蒸留水10.2gにチタニア粉末2.02gを分散させた溶液を粘土ペーストに加えて、攪拌機を用い2000rpm×5分間攪拌混合、次に2200rpm×5分間脱泡の一連の操作を3回繰り返し、チタニアが均質に分散した粘土ペーストを得た。
【0034】
実施例7で得られた光触媒粘土多孔質膜のSEM像を図1〜図6に示す。図1〜図6から明らかなように本発明の材料は、厚み方向に貫通孔を持成し、その貫通孔に沿って粘土結晶が配向した構造を有し、その内部に光触媒が担持している。
【0035】
実施例8
前記実施例1の(2)粘土ペーストの製造法を以下のように行った以外は、同様にして光触媒担持多孔質粘土材料を得た。次いで、それを上記(4)と同様の熱処理をすることにより、実施例8の光触媒担持多孔質粘土材料を得た。
【0036】
(2')粘土粉末0.2gとチタニア粉末1.8gを密閉容器内で振とう攪拌して混合した後、蒸留水9gを加えて直ちにステンレス製スパチュラでサンプルを混合した。次に攪拌機(株式会社シンキー製、AR−250)を用いて、2000rpm×5分間攪拌混合、次に2200rpm×5分間脱泡の一連の操作を3回繰り返し、均質な粘土ペーストを得た。
【0037】
試験例1
(光触媒担持多孔質粘土膜の評価)
得られた光触媒多孔質粘土膜を用いて、耐水性、全光線透過率、VOCガスに対する光触媒分解効果について評価を行った。
耐水性については、常温の蒸留水中に膜の小片を投入し、1日経過後に目視にて膜の膨潤や溶解の有無についての評価を行った。
全光線透過率については、ヘーズメーター(NDH5000 日本電色工業株式会社)を用いて、JIS K7361試験方法に準じて測定を行った。
VOCガスの光触媒による分解効果については、VOCガスとしてトルエンとアセトアルデヒドをそれぞれ用い、膜に照射するUV光源としては高輝度平行光束光源装置(ランプ種類:超高圧水銀ランプ、株式会社ワコム電創)光源と、6Wのブラックライト(SLUV−6:アズワン(株))光源を用いた。
試験方法は、1Lのテドラーバック(ジーエルサイエンス株式会社)内部に、幅50mm×高さ50mm寸法に切り出した膜をシャーレに入れて封入した後、ポンプを用いて内部の空気を脱気した。次に170ppmのトルエンガスを充填して30分保持し初期吸着を行った後、脱気して新たに170ppmのトルエンガスを充填した。
紫外光の照射は、テドラーバックの外から光源を用いて行い、高輝度平行光束光源装置については膜の表面に照射面積φ45mm、テドラーバック透過後の紫外線照射強度25mW/cm2で照射した。テドラーバック内部に封入されたトルエンガス濃度の変化は、ガス検知管(株式会社ガステック No.122)を用いて、測定を行った。
【0038】
結果を表1〜表4及び図7〜図9に示す。これらの結果から明らかなように、本発明の光触媒担持多孔質粘土材料は、十分な光透過性を示すとともに、優れた光触媒活性を示す。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
【表3】

【0042】
【表4】

【0043】
実施例9
実施例1(1)及び(2)に記載した方法で、リチウム変成処理した粘土粉末9gに、1gのチタニア粉末光触媒(ST−01、石原産業株式会社製)と補強材としてガラス繊維0.5g(繊維長6mm 繊維径φ0.0135mm 日本電気硝子株式会社製)を加え、90mLの水と共に、手攪拌後に3回攪拌機で攪拌及び脱泡を行い、粘土に対するチタニア量10%、固形分に対するファイバー量5%の均質な粘土ペーストを作成した。
次に長さ200mm、幅200mm、厚さ2mm真鍮板の外周部に0.6mmの型枠を設けて、型枠の中に粘土ペーストを充填し、開口部に断熱素材の蓋を被せ、−80℃の低温冷蔵庫で2〜3時間保持し粘土ペーストを凍結させた。
凍結した粘土ペーストを真鍮板と共に真空凍結乾燥機で6〜12時間乾燥させた後、乾燥した膜を金属板から剥離し、実施例1(4)熱処理に準じて膜の熱処理を行った(室温〜350℃まで1h、350℃で3h保持)。
【0044】
試験例2
(インフルエンザウイルス不活化試験)
実施例9で熱処理を行った膜をカッターで幅30mm、長さ30mmに切り出し、インフルエンザ不活化試験に用いる試験片とした。
【0045】
前処理として試験片に1mW/cm2、24時間UV照射及び乾熱滅菌を行った。
【0046】
本試験としてインフルエンザウイルス液[インフルエンザウイルスA型(H1N1)]を膜に接種後、ブラックライト(ブラックライトブルー EL20S・BL−B 20W 1本)を用いて、室温にて60μW/cm2で6hUV試験片に照射を行い、試験片の洗い出し液1mL当たりのウイルス感染価(TCID50法)により、インフルエンザウイルスに対する光触媒多孔膜の不活化効果について試験を行った。
【0047】
結果を表5に示す。
【0048】
【表5】

【0049】
表5から明らかように、本発明の光触媒担持多孔質粘土材料は、ウイルス感染価を開始時を基準とすると、105.7/mLから103.5/mLに減少させた(99.4%減少)。
【0050】
また、実施例9で得られた熱処理前の本発明の光触媒担持多孔質粘土材料を用いて、マンドレル装置を用いた耐屈曲性試験(JIS K5600−5−1)を行ったところ、直径10mmまで亀裂が発生せず、十分な柔軟性を有することが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒と粘土、光触媒と粘土と添加物、又は光触媒と粘土と添加物と少量の補強材から構成された粘土成形体であって、厚み方向に貫通孔を構成し、その貫通孔に沿って粘土結晶が配向した構造を有し、その構造中に光触媒が担持されていることを特徴とする板状又は膜状の光触媒担持多孔質粘土材料。
【請求項2】
光触媒がチタニアである請求項1記載の光触媒担持多孔質粘土材料。
【請求項3】
粘土の主要構成成分が、雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、鉄モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト及びノントロナイトよりなる群から選択される一種以上である、請求項1又は2に記載の光触媒担持多孔質粘土材料。
【請求項4】
厚み方向の光透過率が10〜90%である請求項1〜3のいずれか1項記載の光触媒担持多孔質粘土材料。
【請求項5】
光触媒を光触媒担持多孔質粘土材料の全固体量に対し5〜70重量%含有する請求項1〜4のいずれか1項記載の光触媒担持多孔質粘土材料。
【請求項6】
気孔率が、70〜98容量%である請求項1〜5のいずれかに記載の光触媒担持多孔質粘土材料。
【請求項7】
柔軟性に優れ、250℃以上600℃までの高温においても多孔質構造に変化がない請求項1〜6のいずれかに記載の光触媒担持多孔質粘土材料。
【請求項8】
光触媒と粘土、光触媒と粘土と添加物、又は光触媒と粘土と添加物と少量の補強材を、水又は水を主成分とする溶媒に分散させた光触媒含有粘土ペーストを調製し、この粘土ペーストを成形型に流し込み、静置後凍結処理し、真空凍結乾燥することを特徴とする請求項1記載の光触媒担持多孔質粘土材料の製造方法。
【請求項9】
成形型が、金属板の底板と、底板上に設置した樹脂製型枠とを有し、型枠が取り外し可能な構造の成形型である請求項8記載の製造方法。
【請求項10】
真空凍結乾燥後、150〜600℃に加熱処理する請求項8又は9記載の製造方法。

【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−224533(P2011−224533A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198964(P2010−198964)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000126609)株式会社エーアンドエーマテリアル (99)
【Fターム(参考)】