説明

光触媒機能の試験方法および該試験に用いる器具

【課題】建築用外装材等の光触媒利用部材を実際に使用する現場において、当該部材に含まれる光触媒が発揮し得る光触媒機能を簡便に評価し得る試験方法及び試験用器具を提供すること。
【解決手段】本発明により提供される光触媒機能評価試験方法は、光が透過可能な管状試験体1であってその中空部8の径は毛管現象が生じ得るサイズでありその中空部の壁面には光触媒層4が形成されている光透過性管状試験体を用意すること、前記管状試験体に光Lを照射すること、水性溶媒SWを入れた容器P内に一方の開口端部8aが水性溶媒中に在り且つ他方の開口端部8bが大気中に在る状態で前記光照射後または光照射中の前記管状試験体を配置すること、および、前記光照射前の前記管状試験体の中空部における毛管上昇と光照射された該管状試験体の中空部における毛管上昇とを比較して前記光触媒の機能を評価することを包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒機能を簡便に試験する方法とその試験に用いられる器具に関する。詳しくは、建築材料等に使用される光触媒について、その使用現場における光触媒機能を簡便に試験し得る方法及び器具に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタン等の光触媒が種々の用途に利用されている。例えば、建物の外装を構成する建築材料(外壁材等)の表面部に光触媒を含有させて成る建築材料が市場に提供されている。このような光触媒付き外装建築材料では、光の照射で誘起される光触媒反応即ち分解反応や親水化反応によって、当該外装材の表面を常にクリーン状態に維持する所謂セルフクリーニング機能を発揮させることができる。
ところで、セルフクリーニング機能その他の光触媒機能を良好に発揮させる要因として、(1)使用する光触媒自体の本質的な活性(性能)という物質的要因と、(2)その光触媒が使用される場所の環境的要因(例えば光触媒によって吸収され得る波長の光が光触媒に十分供給される場所であるか否かといった要因)とが挙げられる。従って、所望の用途に用いる光触媒を含む材料、資材、製品(以下「光触媒利用部材」と総称する。)について、その使用態様における光触媒機能を正しく評価するためには、上記(1)及び(2)の両面から検討する必要がある。
このうち(1)については、従来より提案されている種々の方法に基づき実験室において光触媒機能評価モデル試験を行うことができる。例えば、非特許文献1には、光触媒のセルフクリーニング機能についての評価方法が幾つか紹介されている。また、特許文献1及び2には、基材上に形成された光触媒膜の表面を着色し、その着色面に紫外線を照射しつつ吸光度または反射率を測定することによって光触媒機能を評価する方法が記載されている。また、特許文献3には、基材上に形成された光触媒層の表面に低級アルコールを含む有機層を形成し、その有機層に紫外線を照射した後、当該有機層(有機層分解後は光触媒層)表面における水の接触角を調べることにより光触媒機能を評価する方法が記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開平11−83833号公報
【特許文献2】特開2000−162129号公報
【特許文献3】特開2001−183359号公報
【非特許文献1】飛松浩樹著「光触媒のセルフクリーニングの評価法」、工業材料、2003年7月号、p26−27
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記文献に記載されているような評価方法を実施するには煩雑な処理を行う必要があるとともに持ち運びが困難な機器を使用せざるを得ない。このため、評価が行える場所は特定の実験施設内に限られ、評価対象である光触媒利用部材を実際に使用する現場において当該部材の光触媒機能を評価することは困難である。
そこで本発明は、光触媒機能評価に関する上記従来の問題点を解決すべく開発されたものであり、光触媒利用部材を実際に使用する現場において当該部材に含まれる光触媒が発揮し得る光触媒機能を簡便に評価し得る試験方法を提供することを目的とする。また、そのような試験方法に好適に使用される器具及びキット類の提供を他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明により提供される方法は、光触媒機能を評価するための試験方法である。ここで開示される方法では、光が透過可能な管状試験体であって、その両端は中空部に連なる開口端部を構成し、その中空部の径は毛管現象が生じ得るサイズであり、その中空部の壁面には光触媒層が形成されている光透過性管状試験体を用意することを包含する。また、その用意した管状試験体に光を照射することを包含する。また、水性溶媒を入れた容器に、上記一方の開口端部が水性溶媒中に在り且つ他方の開口端部が大気中に在る状態で、上記光照射後または光照射中の上記管状試験体を配置することを包含する。そして、上記光照射前の上記管状試験体の中空部における毛管上昇と、光照射された該管状試験体の中空部における毛管上昇とを比較して上記光触媒の機能を評価することを包含する。
【0006】
かかる構成の試験方法では、上述した単純な構成の光透過性管状試験体と適当量の水性溶媒(典型的には水)の入った容器を使用し、当該試験体を毛管現象が生じ得る状態に配置する。そして、当該管状試験体における光照射前の毛管水の上昇具合と、当該試験体に外方から光が照射された際に生じる光触媒作用による親水化に対応して進行する毛管水の上昇具合とを比較して、管状試験体の中空部内壁面の光触媒層における光触媒機能を評価することができる。
この方法によると、上記構成の管状試験体の中空部における光照射前と光照射後の毛管現象(典型的には毛管上昇値即ち上昇高さ)の変化を指標にして、場所の制限なく且つ簡便に光触媒機能の試験を行うことができる。従って、本発明の試験方法によると、所定の光触媒利用部材に含まれる光触媒の機能を当該部材が使用される現場において簡便に評価することができる。
【0007】
ここで開示される試験方法の好ましい一態様では、上記光触媒層の表面に光触媒作用によって分解可能な物質を含む基質層がさらに形成された管状試験体を使用する。
このような基質層が光触媒層上に形成された管状試験体を用いることによって、光照射時の光触媒反応による基質層中の物質(典型的には分解容易な有機物)の分解の程度即ち供試光触媒の物質分解性能の程度を、当該分解に起因する中空部内壁面の親水性向上に基づく毛管上昇値の増大、或いは毛管上昇が開始される迄の時間若しくは毛管上昇の進行が終了するまでの時間を測定することによって、容易に試験することができる。従って、本態様の試験方法によると、所定の光触媒利用部材に含まれる光触媒が発揮する諸機能のうち特に物質分解性能を当該光触媒利用部材が使用される現場において簡便に評価することができる。
【0008】
好ましくは、上記基質層には上記分解可能な物質として疎水性有機物が含まれる。このような物質が光触媒作用で分解することによって内壁面の親水化が進行し、有機物分解の指標となる毛管水の上昇割合をより際だたせることができる。
特に好ましくは、上記疎水性有機物は、疎水性構造部分と上記光触媒層と結合可能な反応性基とを有する。例えば、反応性基として、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基、チオール基、ハロゲン等を有し、疎水性構造部分として長鎖アルキル基を備える疎水性物質(例えば高級脂肪酸)が挙げられる。
このような構造の疎水性物質は、上記反応性基の存在によって、光触媒層に共有結合等によって強固に結合させることができる。このため、より精度の高い光触媒機能(分解機能)評価試験を行うことができる。
【0009】
また、本発明は、他の側面として、上述した試験方法を好適に実施するための器具を提供する。
即ち、本発明は、光触媒機能を評価するために使用する試験体であって、光が透過可能な管状構造であり、その両端は中空部に連なる開口端部を構成し、その中空部の径は毛管現象が生じ得るサイズであり、その中空部の壁面には光触媒層が形成されている管状試験体を提供する。
かかる構成の管状試験体を使用することによって、本発明の試験方法を好適に実施することができる。
【0010】
好ましい一態様では、上記光触媒層の表面に光触媒作用によって分解可能な物質を含む基質層がさらに形成されている。特に好ましくは、上記基質層には上記分解可能な物質として疎水性有機物が含まれる。かかる疎水性有機物としては、疎水性構造部分と上記光触媒層と結合可能な反応性基とを有する疎水性物質(例えば高級脂肪酸)が好ましい。
このような構成の管状試験体を使用することによって、所定の光触媒利用部材の光触媒機能のうち特に物質分解性能について、当該部材を使用する現場において簡便に評価試験を行うことができる。
【0011】
また、本発明は、ここで開示される光触媒機能評価試験に使用するキットであって、ここで開示されるいずれかの管状試験体と、水性溶媒を入れる容器であって該試験体を毛管現象が生じ得る状態(典型的には垂直に立てた状態)で配置し得る容器とを備える光触媒機能評価試験用キットを提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項(例えば管状試験体の形状や当該試験体を構成する材料の組成)以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば光触媒層形成用材料の調製やコーティング方法)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0013】
ここで開示される光触媒機能試験方法は、上述の管状試験体と、当該管状試験体に水性溶媒(即ち、水道水、蒸留水、イオン交換水、純水、海水又は湧き水のような種々の塩類を含む水溶液、その他親水性溶媒を包含する。)を供給するための容器とを使用することによって実施することができる。光源は、二酸化チタン等の光触媒物質(金属酸化物、金属硫化物等の半導体物質)を励起させ得る波長の光線を放射可能であれば特に限定されない。例えば、本方法を野外(即ち評価対象の光触媒利用部材の本来の使用場所)で実施する場合には自然光を利用することができる。本方法を屋内で実施する場合には、一般的な蛍光灯、水銀灯、白熱電球等の種々の光源を用いることができる。
【0014】
図1(a)及び(b)に示すように、ここで開示される光触媒機能試験方法に用いられる管状試験体1は、その管状本体2が光触媒物質を励起させ得る光を透過可能な材質(例えば無機ガラス、有機ガラス)によって構成されており、その中空部8は本発明の試験方法を実施した際に一方の開口端部8aから導入される水性溶媒SWが毛管現象によって上昇し得る程度の径であればよく、その管状構造に特に限定はない。
管状本体2,12の材質としては、透過波長範囲の広いガラスが好ましい。例えば、石英ガラス、高ケイ酸ガラス(例えばコーニング社製品であるバイコール(登録商標)ガラス)、ホウケイ酸ガラス(例えばコーニング社製品であるパイレックス(登録商標)ガラス)が特に好ましい材質として挙げられる。
図1(a)及び(b)に示すような断面が円形の管状本体2を備える管状試験体1は、本発明の試験方法に用いられる管状試験体の典型例であるが、毛管現象が生じ得る限り、例えば図1(c)に示すような断面が扁平なプレート形状の管状本体12を備える管状試験体10であってもよい。
【0015】
図1(a)〜(c)に示すように、管状試験体1,10(管状本体2,12)の中空部8,18の内壁面には、試験対象である光触媒を含む光触媒層4,14が形成される。かかる光触媒層4,14は、従来公知の種々の方法により形成することができる。例えば、二酸化チタン等から成る光触媒粒子と適当なバインダーを含む懸濁液(典型的にはインク状又はペースト状懸濁液)を調製し、当該懸濁液(ゾル)を管状本体の中空部内壁に塗布する。その後、適宜、乾燥及び/又は加熱処理を行うことによって、光触媒粒子が内壁面にほぼ均一にコーティングされた光触媒層4,14を形成することができる。
【0016】
上記のようにして中空部8,18の内壁面に光触媒層4,14が形成された管状試験体1,10は、後述する実施例に記載されるような試験方法に使用することができる。
また、図1(a)〜(c)に示すように、光触媒層4,14の表面に光触媒作用によって分解可能な物質を含む基質層6,16をさらに形成してもよい。このような構成により、光触媒の物質分解機能を毛管上昇に基づいて容易に評価することができる。
適当な分解可能な基質物質(例えばアルコール、脂肪酸、糖質、ペプチド、核酸のような有機物)を含む溶液を光触媒層4,14付き管状試験体2,12の中空部8,18に導入し、その後適宜乾燥及び/又は加熱処理を行うことによって目的の基質物質を含む基質層6,16を光触媒層4,14の表面に形成することができる。
基質物質としては、疎水性有機物が好ましく、共有結合等の強固な結合によって光触媒層4,14の表面に結合し競る疎水性有機物が特に好ましい。この種の疎水性有機物としては、疎水性部分であるアルキル鎖と反応性基であるカルボキシル基を有する脂肪酸(好ましくはオレイン酸等の高級脂肪酸)、疎水性部分であるアルキル鎖と反応性基である水酸基を有するオクタノール等のアルコールが挙げられる。
【0017】
ここで開示される本発明の試験方法では、上述のようにして得られた管状試験体1を、光照射処理を行った後または光照射中に毛管現象が生じ得る状態に配置して使用する。典型的には、図2に示すように、適当な水性溶媒(典型的には水)SWを入れた容器P内に、一方の開口端部8aが水性溶媒SW中に在り且つ他方の開口端部8bが大気中に在る状態で管状試験体1を配置する。典型的には、図示するように垂直に管状試験体1を立てて配置する。このとき、水性溶媒SW中に浸けた開口端部8aが塞がれないように容器Pの底に凹凸形状を設けるか、或いは、管状試験体1の開口端部8a周縁に水性溶媒SWの進入可能な切欠き部分(図示せず)を設けてもよい。
また、管状試験体1を毛管現象が生じ得る状態(典型的には垂直に立てた状態)で長時間安定して保持し得るホルダーH(例えば管状試験体1の外径に対応する係合穴を構成するソケット状ホルダー)が備えられた容器Pが特に好ましい。このような専用容器は本発明に係るキットの構成要素として好ましい。
なお、図2においては典型例として試験体1を垂直に立てているが、本試験方法では毛管上昇値が計測可能であればよく、例えば試験体1を容器Pの側壁面に斜めに立て掛けた状態で試験を行ってもよい。
【0018】
而して、図2に示すような状態で管状試験体1を容器Pに配置し、光触媒機能評価を開始する。ここで開示される試験方法では試験場所が限定されず、試験対象の光触媒を含有する光触媒利用部材、例えば光触媒によるセルフクリーニング機能を付与することを目的とするタイル、壁用パネル材、塗料等の建築用外装材が実際に使用される現場(屋外又は屋内)にて自然光L或いは所定の照明器具を利用して実施することができる。
ここで開示される試験方法では、試験体1の管状本体2を通過して光触媒層4を構成する光触媒物質(酸化チタン等)に光を照射し、それによって生じる光触媒による親水化反応を利用する。具体的には、図2に示すように、毛細管として機能する管状試験体1の中空部8に水性溶媒(ここでは水)SWが進入し毛管水CWを構成するが、このとき所定の接触角及び中空部8の径に対応して毛管水CWが所定の位置(高さ)まで上昇する。
そして、光Lを照射して親水化が進行すれば、中空部8の内壁面と毛管水CWの液面との接触角θが小さくなり、それによって毛管水CWの液面がさらに押し上げられる(例えば図2の点線の位置)毛管上昇が生じる。従って、ここで開示される試験方法では、かかる光照射前の試験体1の中空部8における毛管上昇と、光照射後の該試験体1の中空部8における毛管上昇とを比較することにより、光触媒層4を構成する光触媒の機能を簡便に場所を選ばず評価することができる。かかる評価方法は、目的に応じて、光照射と同時に行うか或いは予め所定時間(例えば1〜24時間又はそれ以上)の光照射処理を行った後に図2に示すような状態で管状試験体1を容器Pに配置して光照射しつつ又は光照射しない状態で行ってもよい。
【0019】
なお、毛管上昇値h(cm)は、式:h=2γ×cosθ/(ρ×g×R)によって規定される。ここでγは水の表面張力(70g・cm・s−2)、θは接触角、ρは水の密度(1g・cm−3)、gは重力加速度(981cm・s−2)、Rは試験体中空部8(毛管)の半径(cm)を示す。
従って、本試験方法の実施によって毛管上昇値を測定し、例えば、光照射前の接触角と所定時間の光照射後の接触角を算出することによって、光触媒機能を所定のパラメーターについて数値化して評価することができる。
また、図1(c)に示すような断面プレート(平面)形状の中空部においても、毛管現象がみられる限り、本試験方法によって光触媒機能を評価することができる。例えば、接触角が0°になるときの毛管上昇値については、比較対照試験として必要十分な強度の光を照射したときの最大毛管上昇値を指標として得ることができる。
【0020】
また、図1に示すように、光触媒層4,14の表面に基質層6が形成されている場合も同様に、光照射前の毛管上昇と光照射後の毛管上昇とを比較することにより光触媒機能評価を行うことができる。また、光触媒層は同一であってその表面上に基質層を形成した管状試験体と基質層を形成していない管状試験体とを用意し、光照射開始から基質層無し管状試験体及び基質層付き管状試験体それぞれにおいて毛管上昇値が最大値(プラトー)に達するまでの時間を測定し、それら計測値を比較することによって光触媒の物質分解性能を評価することができる。
【0021】
また、ここで開示される管状試験体1,10は持ち運び及び試験のためのセッティングが極めて容易なため、当該試験体を用いることによって他の態様の光触媒機能評価試験を任意の場所において行うことができる。
例えば、中空部8,18に適当な反応基質を充填し、光を照射することによって中空部8,18において種々の光触媒反応(例えば酸化還元反応)を生じさせ、その反応の強度に基づいて光触媒機能を試験・評価することができる。例えば、メチレンブルー等の色素含有液を中空部8,18に充填し、光照射後の該充填液の発色度合(透過光強度)を比色計等で計測することによって建築外装材のような光触媒利用部材の光触媒機能を実際に使用する場所において簡便に評価することができる。
【0022】
以下に説明する実施例によって、本発明を更に詳細に説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0023】
<実施例1>
長さ20mm、外径4mm、中空部の径2mmのパイレックス(登録商標)製ガラス管を用意した。また、光触媒コーティング液(ゾル)として、市販の超微粒子酸化チタンゾル(昭和電工(株)製品「ナノチタニア(登録商標)NTB−01」)を使用した。
即ち、ガラス管の中空部に水(アルコール類でもよい)で適宜希釈した上記酸化チタンゾルを注入・充填し、次いで中空部から過剰のゾルを排出した。液切り後、空気中で乾燥させ、その後電気炉内に移して約300℃で焼成した。以上の処理により、中空部の内壁面に二酸化チタン粒子から成る光触媒層が形成された管状試験体を得た。
【0024】
上記得られた試験体を用いて、光触媒の親水化性能評価試験を行った。即ち、水を入れたペトリディッシュに本実施例に係る試験体の一方の開口端部を浸した状態で配置した。数時間後、400Wの高圧水銀ランプを用いて当該試験体に光を照射した。
光照射前、ならびに光照射から0.5時間、1時間、1.5時間、2時間、3時間及び24時間経過時点における毛管上昇値(即ちペトリディッシュの水面から管状試験体の中空部を上昇した毛管水の液面までの高さ)を測定した。結果を図3のグラフに示す。
同時に比較例1として、同様に処理して作製した管状試験体について光照射を行うことなく24時間経過した時点の毛管上昇値を測定した。結果を図3のグラフに示す。
【0025】
<実施例2>
光触媒コーティング液(ゾル)として、市販の酸化チタンゾル(多木化学(株)製酸化チタンゾル「タイノック(登録商標)M−6」)を使用した以外は実施例1と同様の材料及び方法により、中空部の内壁面に二酸化チタン粒子から成る光触媒層が形成された管状試験体を得た。
そして、実施例1と同様の試験を行い、光照射前、ならびに光照射から0.5時間、1時間、1.5時間、2時間、3時間及び24時間経過時点における毛管上昇値を測定した。結果を図3のグラフに示す。
同時に比較例2として、同様に処理して作製した管状試験体について光照射を行うことなく24時間経過した時点の毛管上昇値を測定した。結果を図3のグラフに示す。
また、比較例3(対照試験)として、光触媒層を形成していない上記ガラス管について同様の試験を行い、光照射前、ならびに光照射から0.5時間、1時間、1.5時間、2時間、3時間及び24時間経過時点における毛管上昇値を測定した。結果を図3のグラフに示す。
【0026】
<実施例3>
光触媒コーティング液(ゾル)として、市販の超微粒子酸化チタンゾル(昭和電工(株)製品「ナノチタニア(登録商標)NTB−03」)を使用した以外は実施例1と同様の材料を使用し且つ同様に処理して上記ガラス管の中空部内壁面に光触媒層を形成後、さらにその表面に基質層を形成した。即ち、オレイン酸濃度が20〜50vol%となるようにオレイン酸とエタノールを混合して基質層形成溶液を調製した。
この溶液を試験体の中空部に注入・充填し、50〜90℃で60分間乾燥させることによって、光触媒層表面にオレイン酸から成る基質層を形成した。得られた基質層付き管状試験体を用いて実施例1と同様の試験を行い、光照射前、ならびに光照射から0.5時間、1時間、1.5時間、2時間、3時間及び24時間経過時点における毛管上昇値を測定した。結果を図3のグラフに示す。
【0027】
<実施例4>
光触媒コーティング液(ゾル)として、市販の酸化チタンゾル(多木化学(株)製酸化チタンゾル「タイノック(登録商標)A−6」)を使用した以外は実施例1と同様の材料を使用し且つ同様に処理して上記ガラス管の中空部内壁面に光触媒層を形成後、さらに実施例3と同様の処理を行い、光触媒層の表面に基質層を形成した。得られた基質層付き管状試験体を用いて実施例1と同様の試験を行い、光照射前、ならびに光照射から0.5時間、1時間、1.5時間、2時間、3時間及び24時間経過時点における毛管上昇値を測定した。結果を図3のグラフに示す。
【0028】
図3のグラフから明らかなように、ここで開示される試験方法によると、毛管上昇値の測定によって光触媒機能を簡単に評価することができる。例えば、実施例1及び2では、光照射前には2〜8mmであった毛管上昇値が0.5時間の光照射によって15〜16mmまで増大した。このような変化は、比較例1,2及び3では認められなかった。また、使用した光触媒の種類によって毛管上昇値に差異が認められた。このことは、本試験方法により、複数種の光触媒について使用場所(環境要因)に応じて発揮し得る光触媒機能(特にセルフクリーニング能力に影響する親水化性能)の程度の差異を明確に識別し得ることを示している。
【0029】
また、基質層を形成した実施例4の試験体では、光照射前6〜8mmであった毛管上昇値が24時間後に15〜16mmまで上昇した。このことは、光照射によって励起した光触媒によって基質層を構成するオレイン酸が分解し、親水化が進行した(接触角が0°に近づいた)ことを示すものである。他方、基質層を形成した実施例3の試験体ではこのような高い毛管上昇は光照射開始から24時間経過時点では認められなかった。このことは、本試験方法により、複数種の光触媒について使用場所(環境要因)に応じて発揮し得る光触媒機能(特に汚染物質や有害物質の除去能力に影響する物質(特に有機物)分解性能)の程度の差異を目立った毛管上昇が発現するまでの時間を測定することによって明確に識別し得ることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0030】
以上に説明したとおり、本発明は種々の光触媒利用部材(例えば建築用外装材)の光触媒機能を実際の使用現場において正しく簡易に試験・評価することができる。このため、光触媒が用いられる種々の産業分野において本発明を利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の管状試験体の構成例を模式的に説明する図であり、(a)は縦断面図、(b)は横断面図,(c)は(b)に示すものと異なる形態の管状試験体の横断面図である。
【図2】本発明の管状試験体の使用例を模式的に説明する図である。
【図3】本発明の試験方法の実施例において得られた結果を示すグラフであり、横軸は光照射時間(hour)、縦軸は毛管上昇値(mm)である。
【符号の説明】
【0032】
1,10 管状試験体
2,12 管状本体
4,14 光触媒層
6,16 基質層
8,18 中空部
8a,8b 開口端部
CW 毛管水
SW 貯留水
P 容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒機能を評価するための試験方法であって、
光が透過可能な管状試験体であって、その両端は中空部に連なる開口端部を構成し、その中空部の径は毛管現象が生じ得るサイズであり、その中空部の壁面には光触媒層が形成されている光透過性管状試験体を用意すること、
前記管状試験体に光を照射すること、
水性溶媒を入れた容器に、前記一方の開口端部が水性溶媒中に在り且つ他方の開口端部が大気中に在る状態で、前記光照射後または光照射中の前記管状試験体を配置すること、
前記光照射前の前記管状試験体の中空部における毛管上昇と、光照射された該管状試験体の中空部における毛管上昇とを比較して前記光触媒の機能を評価すること、
を包含する方法。
【請求項2】
前記光触媒層の表面に光触媒作用によって分解可能な物質を含む基質層がさらに形成された管状試験体を使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記基質層には前記分解可能な物質として疎水性有機物が含まれる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
光触媒機能を評価するために使用する試験体であって、
光が透過可能な管状構造であり、その両端は中空部に連なる開口端部を構成し、その中空部の径は毛管現象が生じ得るサイズであり、その中空部の壁面には光触媒層が形成されている、管状試験体。
【請求項5】
前記光触媒層の表面に光触媒作用によって分解可能な物質を含む基質層がさらに形成されている、請求項4に記載の管状試験体。
【請求項6】
光触媒機能評価試験に使用するキットであって、
請求項4又は5に記載の管状試験体と、
水性溶媒を入れる容器であって、前記試験体を毛管現象が生じ得る状態で配置し得る容器と、
を備える光触媒機能評価試験用キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−256010(P2007−256010A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−79386(P2006−79386)
【出願日】平成18年3月22日(2006.3.22)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】