説明

光触媒素子

【課題】 微弱な可視光線を用いても触媒作用を示すことができ、小型化が可能な光触媒素子を提供する。
【解決手段】 光透過性を有する基材2の表面上に金属被覆層3と光触媒薄膜層4とが積層して形成されている。金属被覆層3には、可視光の波長より小さい直径を有する複数の孔部5が規則性を持って配列されている。金属被覆層3は、Au,Ag,Al,Cu,Pt,Pdからなる群から選択される1種以上の金属からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光を照射することにより触媒作用を示す光触媒素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アナターゼ型酸化チタン等の化合物は、光を照射することにより触媒作用を示すことが知られており、光触媒と呼ばれている。特に、アナターゼ型酸化チタンは、光触媒としての強い酸化作用を利用して、水を分解して水素と酸素とを得る水素生成装置に用いられている(例えば、特許文献1参照)。また、前記アナターゼ型酸化チタンは、前記酸化作用により、有害物の分解、殺菌、防汚等の環境浄化に用いられている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
ところが、前記アナターゼ型酸化チタンは、触媒作用を示すには紫外領域の光を吸収する必要がある。このため、太陽光や、白熱灯または蛍光灯の発光光では、その一部の光が光触媒作用に寄与するに過ぎず、反応速度が遅い、光反応収率が低い等、十分な触媒効率を得ることができない。また、省電力・小型の発光源として広く用いられている発光ダイオードの発生する光も、可視光が主である。そこで、前記アナターゼ型酸化チタンからなる光触媒を改良して、可視光を吸収することにより前記触媒作用を示すようにする試みが種々なされている。
【0004】
しかしながら、前記アナターゼ型酸化チタンからなる光触媒の改良は十分とは言えず、ある程度満足できる触媒作用を得るためには、触媒として作用する面積を大きくすることが避けられず、装置が大型化するため、高価になるという不都合がある。
【特許文献1】特開2003−238104号公報
【非特許文献1】藤嶋昭、「光触媒を利用した環境浄化の実用化」、日本化学会編、季刊化学総説、No.36、1988、p.239-247
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる不都合を解消して、発光ダイオード等の光源からの微弱な可視光線を用いても触媒作用を示すことができ、小型化の可能な光触媒素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、光透過性を有する基材と、該基材の表面に形成された金属被覆層と、該金属被覆層の上に形成された光触媒薄膜層とを備える光触媒素子であって、前記金属被覆層には、可視光の波長より小さい直径を有する複数の孔部を、規則性を持って配置される位置に形成したことを特徴とする。
【0007】
本発明の光触媒素子では、まず、前記基材側から入射された光は、基材を透過して金属被覆層に入射しようとする。そして、この光の一部が金属被覆層に形成された上記の孔部に入射すると、それによってエバネッセント光が発生する。ここで、複数の孔部が規則性を持って配置されているので、1つの孔部に発生したエバネッセント光が該孔部の配列の規則性に従って次々に隣接する孔部に伝播することにより、エバネッセント光の強度が増大される。こうして強度が増大したエバネッセント光により、金属被覆層の表面に表面プラズモン共鳴が励起される。表面プラズモン共鳴は、電界強度増大効果を備えているので、金属被覆層で発生した光の強度を増大する。この結果、強度が増大した光が光触媒薄膜層に入射することとなり、光触媒薄膜層は触媒作用を示すことができる。
【0008】
従って、本発明の光触媒素子によれば、微弱な可視光線を用いても触媒作用を得ることができ、しかも基材の表面に金属被覆層と光触媒薄膜層を形成するだけでよいので、小型化することができる。
【0009】
本発明の光触媒素子において、前記基材は、繊維状長尺体からなるものであってもよいし、柱状体からなるものでもよい。
【0010】
また、金属被覆層は、Au,Ag,Al,Cu,Pt,Pdからなる群から選択されるいずれか1種の金属からなる。前記金属被覆層は、前記金属のいずれか1種単独で形成されてもよく、前記金属の1種以上からなる合金により形成されてもよい。
【0011】
また、本発明の光触媒素子は、前記金属被覆層と、前記光触媒薄膜層との間に、ルテニウム色素層を備えることが好ましい。前記ルテニウム色素は、可視光に対する光増感作用を備えており、このようなルテニウム色素として、例えば、トリスビピリジンルテニウム錯体、ポリビピリジンルテニウム錯体等のルテニウム錯体を挙げることができる。
【0012】
前記ルテニウム色素層は可視光に対する光増感作用を備えるので、前記表面プラズモン共鳴の電界強度増大効果とルテニウム色素層との増感作用が相まった形態で、前記金属被覆層で発生した光を光触媒薄膜層に入射させることができる。従って、本発明の光触媒素子は、前記金属被覆層と前記光触媒薄膜層との間に前記ルテニウム色素層を備えることにより、さらに容易に触媒作用を示すことができる。
【0013】
また、本発明の光触媒素子は、前記金属被覆層と前記光触媒薄膜層との間に、2光子蛍光体層を備えることが好ましい。前記2光子蛍光体は、アップコンバージョン蛍光体とも呼ばれるものであり、例えば、Eu、Sm、Tm等の希土類金属のイオンを含むガラスをからなる。前記2光子蛍光体によれば、入射光により励起されたイオンが励起状態にあるときに連続的に入射光を吸収してさらに高いエネルギー準位に励起(多段階励起)された後、基底状態に遷移する際に、該入射光より短波長、高エネルギーの光を放出する。
【0014】
本発明において、前記基材と金属被覆層とで発生した光は、前述のように表面プラズモン共鳴により強度が増大されているので、前記2光子蛍光体に含まれる希土類金属のイオンを多段階で励起させることができる。この結果、前記2光子蛍光体は、入射光である前記基材に入射した光よりも短い波長の光を放出することができ、短波長の光を光触媒薄膜層に入射させることができる。前記基材に入射した光よりも短波長の光は、該基材に入射した光よりも高いエネルギーを有するので、本発明の光触媒素子は、前記金属被覆層と光触媒薄膜層との間に前記2光子蛍光体層を備えることにより、さらに容易に触媒作用を示すことができる。
【0015】
前記基材に入射される光は、例えば発光ダイオードのような可視光源からの光であってもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
まず、本発明の実施形態の第1の態様の光触媒素子について説明する。
【0017】
図1(a)に示すように、本態様の光触媒素子1は、光が入射される光透過性基材2の反対側の表面に、金属被覆層3と、アナターゼ型酸化チタン(TiO)からなる光触媒薄膜層4とを積層して形成されている。
【0018】
基材2は、入射光に対して透明な材料からなるものであればよく、例えば、石英からなるものを用いることができる。
【0019】
金属被覆層3は、図1(b)に示すように、規則性を持って配列された孔部5を備えており、孔部5は基材2に入射する光の波長より小さい直径を備えている。孔部5の直径は、例えば、基材2に入射せしめられる光が波長600nm程度の赤色光の場合には、200〜300nmの範囲とすることができ、入射光が波長400nm程度の青色光の場合には100〜200nmの範囲とすることができる。尚、孔部5の配列は規則性を備えるものであればよく、例えば、1μm間隔で格子状に配列される。
【0020】
金属被覆層3としては、Au,Ag、Al、Cu、Pt、Pdからなる群から選択されるいずれか1種の単独の金属からなるものであってもよく、1種以上の金属からなる合金であってもよい。金属被覆層3は、前記金属または合金を、基材2の面上に、10nm〜10μmの範囲の厚さに蒸着した後、フォトリソ・エッチング等により孔部15を形成することにより得ることができる。金属被覆層3の厚さが10nm未満では、基材2との間で十分な密着性を得られないことがあり、10μmを超えると、金属被覆層3で発生するエバネッセント光の減衰が大きくなり、表面プラズモン共鳴を励起することができないことがある。
【0021】
尚、金属被覆層3の形成に際しては、基材2と金属被覆層3との密着性を高めるために、基材2の表面にCr等の金属を蒸着し、該金属層(図示せず)の上に金属被覆層3を形成するようにしてもよい。前記Cr等の金属層は、例えば1〜2nm程度の厚さに形成される。
【0022】
前記アナターゼ型酸化チタン(TiO)からなる光触媒薄膜層4は、例えば、金属チタンまたは酸化チタンを蒸発原料として、該蒸発原料を圧力勾配型プラズマガンによるアーク放電イオンプレーティングを用いて、金属被覆層3上に5nm〜1μmの範囲の厚さに成膜することにより、形成することができる。光触媒薄膜層4の厚さが5nm未満では均一かつ均質なアナターゼ型酸化チタンからなる光触媒薄膜層4を形成することが困難であり、1μmを超えると光触媒薄膜層4の酸化チタン表面上において、エバネッセント増大効果(表面プラズモン共鳴光の電界強度増大効果)を利用した光触媒反応を得ることが困難になる。
【0023】
次に、上記光触媒素子1の作用について説明する。この光触媒素子1に対して、例えば図2に示すように、基材2の光入射側の面に配置した複数個の発光ダイオード10の発光光を入射させる。各発光ダイオード10は、例えば、InGaAlP系化合物半導体を用いる赤色発光ダイオードであってもよく、InGaN系化合物半導体を用いる青色発光ダイオードであってよい。各発光ダイオードは、いずれもそれ自体公知の構成を備えるものを用いることができる。
【0024】
光触媒素子1において、前記発光ダイオード10からの光は基材2を透過し、その光の一部は金属被覆層13の孔部5に入射する。このとき、孔部5の直径は、入射される可視光の波長より小さいので、孔部5に入射した光は孔部5の外部に放射されることはなく、その一方でエバネッセント光を発生する。この現象は、微小開口によるエバネッセント光の発生として知られている。
【0025】
また、孔部5の1つに発生したエバネッセント光は、図1(b)に矢印で示すように、孔部5の配列に従って縦横斜めに、次々に隣接する孔部5に伝播することによって強度が増大される。この結果、前記強度が増大されたエバネッセント光により金属被覆層3の表面に表面プラズモン共鳴が容易に励起される。
【0026】
一方、前記発光ダイオード10の発光光のうち、金属被覆層3に対して特定の入射角となる光は金属被覆層3により吸収される。この光によってもエバネッセント光が発生し、該エバネッセント光により金属被覆層3の表面に表面プラズモン共鳴が励起される。
【0027】
ここで、表面プラズモン共鳴は、電界強度増大効果を備えており、電界強度が、例えば20倍程度に増大される。入射光強度は電界強度の二乗となるので、電界強度が上記のように増大されると、金属被覆層3で発生した光の強度は400倍程度に増大される。このように強度を増大された光が光触媒薄膜層4に入射する結果、光触媒薄膜層4は、前記発光ダイオードの発光光により、触媒作用を示すことができる。
【0028】
次に、図3に示す光触媒素子1bは、図1に示す光触媒素子の第1の変形例であり、金属被覆層3と光触媒薄膜層4との間にルテニウム色素層6を備えることを除いて、図2の光触媒素子1aと全く同一の構成を備えている。ルテニウム色素層6は、例えば、トリスビピリジンルテニウム錯体、ポリビピリジンルテニウム錯体等の可視光に対して光増感作用を備えるルテニウム錯体を金属被覆層3上に蒸着することにより、5nm〜1μmの範囲の厚さに形成される。
【0029】
前記ルテニウム色素層6は、光増感作用を備える前記ルテニウム錯体からなるので、前記表面プラズモン共鳴の電界強度増大効果とルテニウム色素層との増感作用が相まった形態で、金属被覆層3で発生した光を光触媒薄膜層4に入射させることができる。従って、光触媒素子1bによれば、赤色発光ダイオードの波長600nm程度の発光光によっても、触媒作用を示すことができる。
【0030】
また、図4に示す光触媒素子1cは、図1に示す光触媒素子の第2の変形例であり、金属被覆層3と光触媒薄膜層4との間に2光子蛍光体層7を備えることを除いて、光触媒素子1aと全く同一の構成を備えている。2光子蛍光体層7としては、例えば、Eu、Sm、Tm等の希土類金属のイオンを含むガラスを用いることができる。
【0031】
この形態の光触媒素子1cによれば、金属被覆層3で発生した光の強度は、前述のように前記表面プラズモン共鳴により400倍程度に増大されており、このように強度が増大された光が2光子蛍光体層7に入射する。この結果、金属被覆層3で発生した光は、2光子蛍光体7に含まれる希土類金属イオンを多段階励起することができ、該希土類金属イオンが励起状態から基底状態に遷移する際に、金属被覆層3で発生した光よりも短波長の蛍光が放射される。
【0032】
前記蛍光は、前記発光ダイオードが赤色発光ダイオードであれば赤色光よりも短波長の青色乃至緑色の蛍光であり、前記発光ダイオードが青色発光ダイオードであれば青色光よりも短波長の紫外の蛍光である。前記蛍光は、いずれも前記発光ダイオードの発光光よりも短波長であり、高エネルギーである。従って、光触媒素子1cによれば、赤色発光ダイオードの波長600nm程度の発光光によっても、十分な触媒作用を示すことができる。
【0033】
次に、本発明の実施形態の第2の態様の光触媒素子について説明する。
【0034】
図5(a)に示すように、本態様の光触媒素子11は、発光ダイオード(図示せず)の発光光が軸に沿う方向に入射せしめられる、基材としての光導波体12と、この光導波体12の表面12aに形成された金属被覆層13と、金属被覆層13の上に形成されたアナターゼ型酸化チタン(TiO)からなる光触媒薄膜層14とを備える。
【0035】
光導波体12は、繊維状長尺体、例えば光ファイバーのクラッド部が剥離されることにより露出された、10〜1000μmの範囲の直径を有する導光コア部である。光導波体12としては、例えばガラス製ファイバー、プラスチック製ファイバーの導光コア部を用いることができる。
【0036】
金属被覆層13は、図5(b)に展開して示すように、規則性を持って配列された孔部15を複数備えており、各孔部15は光導波体12に入射する光の波長よりも小さい直径を備えている。孔部15の直径は、例えば、光導波体12に入射せしめられる発光ダイオードの光が波長600nm程度の赤色光の場合には、200〜300nmの範囲とすることができ、発光ダイオードの光が波長400nm程度の青色光の場合には、100〜200nmの範囲とすることができる。尚、孔部15の配列は、規則性を備えるものであればよく、例えば1μm間隔で格子状に配列される。
【0037】
金属被覆層13としては、Au,Ag,Al,Cu,Pt,Pdからなる群から選択されるいずれか1種の単独の金属からなるものであってもよく、1種以上の金属からなる合金であってもよい。金属被覆層13は、前記金属または合金を、光導波体12の表面12aの全体に、10nm〜10μmの範囲の厚さに蒸着することにより形成することができる。金属被覆層13の厚さが10nm未満では、光導波体12との間で十分な密着性を得られないことがあり、10μmを超えると、金属被覆層13で発生するエバネッセント光の減衰が大きくなり、表面プラズモン共鳴を励起することができないことがある。
【0038】
尚、金属被覆層13の形成に際しては、光導波体12と金属被覆層13との密着性を高めるために、光導波体12の表面12aにCr等の金属を蒸着し、該金属層(図示せず)の上に金属被覆層13を形成するようにしてもよい。前記Cr等の金属層は、例えば1〜2nm程度の厚さに形成される。
【0039】
前記アナターゼ型酸化チタン(TiO)からなる光触媒薄膜層14は、例えば、金属チタンまたは酸化チタンを蒸発原料として、該蒸発原料を圧力勾配型プラズマガンによるアーク放電イオンプレーティングを用いて、金属被覆層13上に5nm〜1μmの範囲の厚さに成膜することにより、形成することができる。光触媒薄膜層14の厚さが5nm未満では均一かつ均質なアナターゼ型酸化チタンからなる光触媒薄膜層14を形成することが困難であり、1μmを超えると光触媒薄膜層14の酸化チタン表面上において、エバネッセント増大効果(表面プラズモン共鳴光の電界強度増大効果)を利用した光触媒反応を得ることが困難になる。
【0040】
次に、上記光触媒素子11の作用について説明する。この場合、前記発光ダイオードの発光光は、光導波体12に対して該光導波体12の軸に沿う方向に入射される。ここで、光導波体12の軸に沿う方向とは、光導波体12の軸に完全に平行な方向だけを意味するのではなく、光導波体12の軸に直交する方向を除いた、いずれかの方向を意味する。また、前記発光ダイオードは、例えば、InGaAlP系化合物半導体を用いる赤色発光ダイオードであってもよく、InGaN系化合物半導体を用いる青色発光ダイオードであってよい。前記各発光ダイオードは、いずれもそれ自体公知の構成を備えるものを用いることができる。
【0041】
光導波体12に入射し該光導波体12を透過した、前記発光ダイオードの発光光のうちの一部は、金属被覆層13の孔部15に入射する。このとき、孔部15の直径は、前記発光ダイオードの発光光の波長より小さいので、孔部15に入射した光は孔部15の外部に放射されることはなく、その一方でエバネッセント光を発生する。この現象は、微小開口によるエバネッセント光の発生として知られている。
【0042】
また、孔部15の1つに発生したエバネッセント光は、図5(b)に矢印で示すように、孔部15の配列に従って縦横斜めに、次々に隣接する孔部15に伝播することによって強度が増大される。この結果、強度が増大されたエバネッセント光により金属被覆層13の表面に表面プラズモン共鳴が容易に励起される。
【0043】
一方、光導波体12に入射し該光導波体12を透過したものの孔部15には入射しなかった、前記発光ダイオードの発光光のうち、金属被覆層13に対して特定の入射角となる他の一部の発光光Lは、金属被覆層13により吸収される。この発光光Lによってもエバネッセント光が発生し、該エバネッセント光により金属被覆層13の表面に表面プラズモン共鳴が励起される。
【0044】
また、光導波体12に入射し該光導波体12を透過したものの、孔部15に入射せず、金属被覆層13で吸収もされない、前記発光ダイオードの発光光は、金属被覆層13で全反射される。金属被覆層13で全反射される光は、光導波体12中で多数回反射を繰り返す間にモード変換されて特定の入射角となり、エバネッセント光の発生に寄与する。
【0045】
ここで、前記表面プラズモン共鳴は、電界強度増大効果を備えており、電界強度が例えば20倍程度に増大され、入射光強度が電界強度の二乗となる。従って、電界強度が前記のように増大されると、金属被覆層13で発生した光の強度は400倍程度に増大され、このように強度を増大された光が光触媒薄膜層14に入射する。この結果、光触媒薄膜層14は、前記発光ダイオードの発光光により、触媒作用を示すことができる。
【0046】
ところで、上記光触媒素子11は、金属被覆層13と光触媒薄膜層14との間にルテニウム色素層(図示せず)をさらに備えるものであってもよい。前記ルテニウム色素層は、例えば、トリスビピリジンルテニウム錯体、ポリビピリジンルテニウム錯体等の可視光に対して光増感作用を備えるルテニウム錯体を金属被覆層13上に蒸着することにより、5nm〜1μmの範囲の厚さに形成される。
【0047】
前記ルテニウム色素層は、光増感作用を備える前記ルテニウム錯体からなるので、前記表面プラズモン共鳴の電界強度増大効果とルテニウム色素層との増感作用が相まった形態で、金属被覆層13で発生した光を光触媒薄膜層14に入射させることができる。従って、前記ルテニウム色素層を備える光触媒素子11aによれば、赤色発光ダイオードの波長600nm程度の発光光によっても、触媒作用を示すことができる。
【0048】
さらに、光触媒素子11は、前記ルテニウム色素層に代えて2光子蛍光体層(図示せず)を備えるものであってもよい。前記2光子蛍光体層としては、例えば、Eu、Sm、Tm等の希土類金属のイオンを含むガラスを用いることができる。
【0049】
前記2光子蛍光体層を備える光触媒素子11によれば、金属被覆層13で発生した光の強度は、前述のように前記表面プラズモン共鳴により400倍程度に増大されており、このように強度が増大された光が該2光子蛍光体層に入射する。この結果、金属被覆層13で発生した光は、該2光子蛍光体層に含まれる希土類金属イオンを多段階励起させることができる。この結果、該希土類金属イオンが励起状態から基底状態に遷移する際に、金属被覆層13で発生した光よりも短波長の蛍光が放射される。
【0050】
前記蛍光は、前記発光ダイオードが赤色発光ダイオードであれば赤色光よりも短波長の青色乃至緑色の蛍光であり、前記発光ダイオードが青色発光ダイオードであれば青色光よりも短波長の紫外の蛍光である。前記蛍光は、いずれも前記発光ダイオードの発光光よりも短波長であり、高エネルギーである。従って、前記2光子蛍光体層を備える光触媒素子11aによれば、赤色発光ダイオードの波長600nm程度の発光光によっても、十分な触媒作用を示すことができる。
【0051】
次に、本発明の実施形態の第3の態様の光触媒素子について説明する。
【0052】
図6(a)に示すように、本態様の光触媒素子21は、発光ダイオード(図示せず)の発光光が軸に沿う方向に入射せしめられる、基材としての光導波体22と、この光導波体22の表面22aに形成された金属被覆層23と、この金属被覆層23の上に形成されたアナターゼ型酸化チタン(TiO)からなる光触媒薄膜層24とを備える。
【0053】
光導波体22は、例えばガラス、プラスチック等からなる柱状体である。柱状体は、0.01〜10mmの範囲の直径及び10〜1000mmの範囲の高さを有する円柱であってもよいし、一辺が10〜1000mmの範囲である正方形の底面及び0.01〜10mmの範囲の高さを有する角柱、或いは多角柱であってもよい。図6(a)では、光導波体22は中空体として記載しているが、中実体であってもよい。また、光導波体22は、柱状体の開口した底面部に受光部22bを有している。
【0054】
金属被覆層23は、図6(b)に展開して示すように、規則性を持って配列された孔部25を複数備えており、各孔部25は、光導波体22に入射する光の波長よりも小さい直径を備えている。孔部25の直径は、例えば、光導波体22に入射せしめられる前記発光ダイオードの発光光が波長600nm程度の赤色光の場合には、200〜300nmの範囲とすることができ、前記発光ダイオードの発光光が波長400nm程度の青色光の場合には、100〜200nmの範囲とすることができる。尚、孔部25の配列は、規則性を備えるものであればよく、例えば1μm間隔で格子状に配列される。
【0055】
金属被覆層23としては、Au,Ag,Al,Cu,Pt,Pdからなる群から選択されるいずれか1種の単独の金属からなるものであってもよく、1種以上の金属からなる合金であってもよい。金属被覆層23は、前記金属または合金を、光導波体22の表面22aの全体に、10nm〜10μmの範囲の厚さに蒸着することにより形成することができる。金属被覆層23の厚さが10nm未満では、光導波体22との間で十分な密着性を得られないことがあり、10μmを超えると、金属被覆層23で発生するエバネッセント光の減衰が大きくなり、表面プラズモン共鳴を励起することができないことがある。
【0056】
尚、金属被覆層23の形成に際しては、光導波体22と金属被覆層23との密着性を高めるために、光導波体22の表面22aにCr等の金属を蒸着し、該金属層(図示せず)の上に金属被覆層23を形成するようにしてもよい。Cr等の金属層は、例えば1〜2nm程度の厚さに形成される。
【0057】
前記アナターゼ型酸化チタン(TiO)からなる光触媒薄膜層24は、例えば、金属チタンまたは酸化チタンを蒸発原料として、該蒸発原料を圧力勾配型プラズマガンによるアーク放電イオンプレーティングを用いて、金属被覆層23上に5nm〜1μmの範囲の厚さに成膜することにより、形成することができる。光触媒薄膜層24の厚さが5nm未満では均一かつ均質なアナターゼ型酸化チタンからなる光触媒薄膜層24を形成することが困難であり、1μmを超えると光触媒薄膜層24の酸化チタン表面上において、エバネッセント増大効果(表面プラズモン共鳴光の電界強度増大効果)を利用した光触媒反応を得ることが困難になる。
【0058】
次に、この光触媒素子21の作用について説明する。光触媒素子21は、前記発光ダイオードの発光光が光導波体22に対して該光導波体22の軸に沿う方向に入射される。ここで、光導波体22の軸に沿う方向とは、光導波体22の軸に完全に平行な方向だけを意味するのではなく、光導波体22の軸に直交する方向を除いた、いずれかの方向を意味する。また、前記発光ダイオードは、例えば、InGaAlP系化合物半導体を用いる赤色発光ダイオードであってもよく、InGaN系化合物半導体を用いる青色発光ダイオードであってよい。前記各発光ダイオードは、いずれもそれ自体公知の構成を備えるものを用いることができる。
【0059】
光導波体22に入射して該光導波体22を透過した、前記発光ダイオードの発光光のうちの一部は、金属被覆層23の孔部25に入射する。このとき、孔部25の直径は、前記発光ダイオードの発光光の波長よりも小さいので、孔部25に入射した光は孔部25の外部に放射されることはなく、その一方でエバネッセント光を発生する。この現象は、微小開口によるエバネッセント光の発生として知られている。
【0060】
また、孔部25の1つに発生したエバネッセント光は、図6(b)に矢印で示すように、孔部25の配列に従って縦横斜めに、次々に隣接する孔部25に伝播することによって強度が増大される。この結果、前記強度が増大されたエバネッセント光により金属被覆層23の表面に表面プラズモン共鳴が容易に励起される。
【0061】
一方、光導波体22に入射し該光導波体22を透過したものの、孔部25には入射しなかった前記発光ダイオードの発光光のうち、金属被覆層23に対して特定の入射角となる他の一部の発光光Lは、金属被覆層23により吸収される。このとき、発光光Lによってもエバネッセント光が発生し、該エバネッセント光により金属被覆層23の表面に表面プラズモン共鳴が励起される。
【0062】
また、光導波体22に入射し該光導波体22を透過したものの、孔部25に入射もせず、金属被覆層23により吸収もされない前記発光ダイオードの発光光は、金属被覆層23で全反射される。金属被覆層23で全反射される光は、光導波体22中で多数回反射を繰り返す間にモード変換されて特定の入射角となり、エバネッセント光の発生に寄与する。
【0063】
ここで、表面プラズモン共鳴は、電界強度増大効果を備えており、電界強度が例えば20倍程度に増大され、入射光強度が電界強度の二乗となる。従って、電界強度が前記のように増大されると、金属被覆層23で発生した光の強度は400倍程度に増大され、このように強度を増大された光が、光触媒薄膜層24に入射する。この結果、光触媒薄膜層24は、前記発光ダイオードの発光光により触媒作用を示すことができる。
【0064】
ところで、この光触媒素子21も、金属被覆層23と光触媒薄膜層24との間にルテニウム色素層(図示せず)をさらに備えるものであってもよい。前記ルテニウム色素層は、例えば、トリスビピリジンルテニウム錯体、ポリビピリジンルテニウム錯体等の可視光に対して光増感作用を備えるルテニウム錯体を金属被覆層23上に蒸着することにより、5nm〜1μmの範囲の厚さに形成される。
【0065】
前記ルテニウム色素層は、光増感作用を備える前記ルテニウム錯体からなるので、前記表面プラズモン共鳴の電界強度増大効果とルテニウム色素層との増感作用が相まった形態で、金属被覆層23で発生した光を光触媒薄膜層24に入射させることができる。従って、前記ルテニウム色素層を備える光触媒素子21によれば、赤色発光ダイオードの波長600nm程度の発光光によっても、触媒作用を示すことができる。
【0066】
さらに、この光触媒素子21は、前記ルテニウム色素層に代えて2光子蛍光体層(図示せず)を備えるものであってもよい。前記2光子蛍光体層としては、例えば、Eu、Sm、Tm等の希土類金属のイオンを含むガラスを用いることができる。
【0067】
前記2光子蛍光体層を備える光触媒素子21によれば、金属被覆層23で発生した光の強度は、前述のように前記表面プラズモン共鳴により400倍程度に増大されており、このように強度が増大された光が該2光子蛍光体層に入射する。この結果、金属被覆層23で発生した光は、該2光子蛍光体層に含まれる希土類金属イオンを多段階励起させることができる。この結果、該希土類金属イオンが励起状態から基底状態に遷移する際に、金属被覆層23で発生した光よりも短波長の蛍光が放射される。
【0068】
前記蛍光は、前記発光ダイオードが赤色発光ダイオードであれば赤色光よりも短波長の青色乃至緑色の蛍光であり、前記発光ダイオードが青色発光ダイオードであれば青色光よりも短波長の紫外の蛍光である。前記蛍光は、いずれも前記発光ダイオードの発光光よりも短波長であり、高エネルギーである。従って、前記2光子蛍光体層を備える光触媒素子31aによれば、赤色発光ダイオードの波長600nm程度の発光光によっても、十分な触媒作用を示すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】(a)は本発明の第1の態様の光触媒素子の構成を模式的に示す断面図、(b)は(a)のB−B線断面図。
【図2】第1の態様の光触媒素子に発光ダイオードを配置した構成を示す断面図。
【図3】図1に示す光触媒素子の第1の変形例の構成を示す断面図。
【図4】図1に示す光触媒素子の第2の変形例の構成を示す断面図。
【図5】(a)は本発明の第2の態様の光触媒素子の構成を示す断面図、(b)は(a)のB−B線断面図。
【図6】(a)は本発明の第3の態様の光触媒素子の構成を示す断面図、(b)は(a)のB−B線断面図。
【符号の説明】
【0070】
1a,1b,1c…光触媒素子、2…光透過性の基材、3…金属被覆層、4…光触媒薄膜層、5…孔部、6…ルテニウム色素層、7…2光子蛍光体層、10…発光ダイオード、11,21…光触媒素子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性を有する基材と、該基材の表面に形成された金属被覆層と、該金属被覆層の上に形成された光触媒薄膜層とを備える光触媒素子であって、
前記金属被覆層には、可視光の波長より小さい直径を有する複数の孔部を、規則性を持って配置される位置に形成したことを特徴とする光触媒素子。
【請求項2】
前記基材は、繊維状長尺体からなることを特徴とする請求項1記載の光触媒素子。
【請求項3】
前記基材は、柱状体からなることを特徴とする請求項1記載の光触媒素子。
【請求項4】
前記金属被覆層は、Au,Ag,Al,Cu,Pt,Pdからなる群から選択される1種以上の金属からなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の光触媒素子。
【請求項5】
前記金属被覆層と前記光触媒薄膜層との間に、ルテニウム色素層を備えることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の光触媒素子。
【請求項6】
前記金属被覆層と前記光触媒薄膜層との間に、2光子蛍光体層を備えることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の光触媒素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−45516(P2009−45516A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−211425(P2007−211425)
【出願日】平成19年8月14日(2007.8.14)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】