説明

光触媒装置及びガス発生装置

【課題】光溶解を抑制するだけでなく、入射光のロスを低減し、ガス生成の全体効率の向上を図ることができる光触媒装置、及び、係る光触媒装置を用いたガス発生装置を提供する。
【解決手段】光触媒装置20は、(a)光触媒層23、(b)光触媒層23の光入射面23A上に形成され、パターニングされた金属層30、及び、(c)パターニングされた金属層30の間に位置する光触媒層の部分に形成された反射防止膜40を備えている。また、ガス発生装置は、溶液18A,18B中に浸漬され、互いに電気的に接続された第1電極部11と第2電極部12を備え、第1電極部11及び第2電極部12のそれぞれから異なるガスを生成し、第1電極部11は光触媒装置20及び第1電極11Aを備えており、第1電極11は光触媒層23と接して設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒装置、及び、係る光触媒装置を用いたガス発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
持続可能なエネルギーシステム社会の構築を目指し、化石燃料の代替エネルギーとして、太陽光エネルギーと水とから得た水素の利用が検討されている。このシステムは、有限な化石燃料の消費を抑制し、主要な温暖化ガスの1つである二酸化炭素ガスを排出しないことから、エネルギー問題と環境問題とを解決するシステムとして期待されている。
【0003】
太陽光エネルギー及び水から水素ガスを生成する方法の1つとして、光触媒を用いて水を光分解することで水素ガス生成する技術が検討されている。この光触媒に基づく水素ガス生成方法は、1970年代、「本田・藤嶋効果」として知られる酸化チタン光触媒を用いた水の光分解が示されて以来、太陽光エネルギーを直接的に水素ガス生成に利用する理想的な水素生成システムとして、更には、他の水素ガス生成システムと比較して低コスト化が容易なシステムとして、普及が期待されている。
【0004】
一方、酸化チタンは、光触媒材料として化学的に安定な材料ではあるものの、紫外光しか利用できないため、太陽光による水の光分解に使用する場合、水素ガス生成効率が極めて低い。そのため、地表への照射量の多い可視光を利用した水の光分解触媒の検討が、多くの研究機関によって進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2006/082801 A1
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Ichitaro Waki, Daniel Cohen, Rakesh Lal, Umesh Mishra, Steven P. DenBaars, Shuji Nakamura: Appl. Phys. Lett., Vol. 91, 093519(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、可視光を利用した水の光分解触媒の検討が多くなされている。具体的には、酸化チタン等のワイドギャップ半導体に比べてバンドギャップが小さく、可視光を十分に吸収可能であり、しかも、触媒活性が高く、太陽光エネルギーから水素への変換効率の高い硫化カドミウム(CdS)等の金属硫化物を始めとする半導体化合物の検討がなされている。しかしながら、これらの半導体化合物の多くは、水溶液中で光が照射されると、電荷分離により生成したホールに起因して半導体化合物が酸化され、水溶液中に溶解する「光溶解」と呼ばれる反応が生じる。それ故、化学的安定性に欠け、長期間に亙る使用が困難である。一般に、安定な半導体として知られ、光触媒活性を示すGaN系化合物半導体でさえ、光溶解することが報告されており(非特許文献1参照)、水中若しくは反応媒質中で化学的に安定な可視光吸収光触媒の開発が、水素ガス生成効率の向上と併せ、大きな課題の1つとなっている。
【0008】
GaN系化合物半導体を光触媒として用いたガス製造装置が、例えば、WO2006/082801 A1から周知である。この国際公開に開示された技術にあっては、半導体の成分の水溶液への溶出を防止するためにGaN系化合物半導体から成る光触媒(電極)の表面をSiO2等から成る保護膜で被覆すること、あるいは又、光触媒(電極)の表面を金属膜等から成る助触媒で被覆することが開示されている。しかしながら、光溶解を抑制するだけでなく、入射光のロスを低減し、ガス生成の全体効率の向上を図る技術は、この国際公開には開示されていない。
【0009】
従って、本発明の目的は、光溶解を抑制するだけでなく、入射光のロスを低減し、ガス生成の全体効率の向上を図ることができる光触媒装置、及び、係る光触媒装置を用いたガス発生装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するための本発明の光触媒装置は、
(a)光触媒層、
(b)光触媒層の光入射面上に形成され、パターニングされた金属層、及び、
(c)パターニングされた金属層の間に位置する光触媒層の部分に形成された反射防止膜、
を備えている。
【0011】
上記の目的を達成するための本発明のガス発生装置は、
溶液中に浸漬され、互いに電気的に接続された第1電極部と第2電極部を備え、第1電極部及び第2電極部のそれぞれから異なるガスを生成するガス発生装置であって、
第1電極部は、光触媒装置及び第1電極を備えており、
光触媒装置は、上述した本発明の光触媒装置から構成されており、
第1電極は光触媒層と接して設けられている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の光触媒装置、あるいは、本発明のガス発生装置を構成する光触媒装置にあっては、パターニングされた金属層が光触媒層の光入射面上に形成され、係る金属層の間に位置する光触媒層の部分に反射防止膜が形成されているので、光触媒層への入射光のロスの低減を図ることができる。しかも、金属層及び反射防止膜の形成によって、光触媒層が溶液と接することが無くなり、光溶解の発生を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1の(A)及び(B)は、それぞれ、実施例1の光触媒装置の模式的な断面図、及び、実施例1のガス発生装置の概念図である。
【図2】図2は、実施例1の光触媒装置における金属層等の模式的な配置を示す図である。
【図3】図3は、実施例1の光触媒装置における金属層等の別の模式的な配置を示す図である。
【図4】図4は、実施例1の光触媒装置における金属層等の更に別の模式的な配置を示す図である。
【図5】図5の(A)〜(C)は、実施例1の光触媒装置の製造方法を説明するためのサファイア基板等の模式的な一部端面図である。
【図6】図6の(A)〜(C)は、図5の(C)に引き続き、実施例1の光触媒装置の製造方法を説明するためのサファイア基板等の模式的な一部断面図である。
【図7】図7の(A)〜(B)は、図6の(C)に引き続き、実施例1の光触媒装置の製造方法を説明するためのサファイア基板等の模式的な一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、実施例に基づき本発明を説明するが、本発明は実施例に限定されるものではなく、実施例における種々の数値や材料は例示である。尚、説明は、以下の順序で行う。
1.本発明の光触媒装置及びガス発生装置、全般に関する説明
2.実施例1(本発明の光触媒装置及びガス発生装置、その他)
【0015】
[本発明の光触媒装置及びガス発生装置、全般に関する説明]
本発明の光触媒装置、あるいは、本発明のガス発生装置を構成する光触媒装置(以下、これらを総称して、『本発明の光触媒装置等』と呼ぶ)において、光触媒層は、その全体が、金属層及び反射防止膜で被覆されている構成とすることが好ましい。云い換えれば、光触媒層は、全体として、外部に対して露出した部分が存在しない形態とすることが好ましい。尚、光触媒層は、その全体が、金属層、反射防止膜及び保護膜で被覆されていてもよく、この場合、光触媒層の光入射面以外を被覆する保護膜を構成する材料は、反射防止膜を構成する材料と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0016】
上記の好ましい構成を含む本発明の光触媒装置等において、反射防止膜は、酸化シリコン(SiOX)、酸化タンタル(TaOX)、酸化ジルコニウム(ZrOX)、酸化アルミニウム(AlOX)、酸化クロム(CrOX)、酸化バナジウム(VOX)、酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO)、酸化ハフニウム(HfOX)、酸化ニオブ(NbOX)、酸化スカンジウム(ScOX)、酸化イットリウム(YOX)、窒化シリコン(SiNY)、窒化チタン(TiN)、窒化タンタル(TaN)、窒化アルミニウム(AlN)、酸窒化シリコン(SiOXY)、フッ化アルミニウム(AlFX)、フッ化セリウム(CeFX)、フッ化カルシウム(CaFX)、フッ化ナトリウム(NaFX)、フッ化アルミニウム・ナトリウム(NaYAlZX)、フッ化ランタン(LaFX)、フッ化マグネシウム(MgFX)、フッ化イットリウム(YFX)及び硫化亜鉛(ZnSX)から成る群から選択された少なくとも1種類の材料から成る形態とすることができる。あるいは又、場合によっては、反射防止膜を、2層以上の誘電体多層膜(例えば、SiO2等の低屈折率薄膜とTiO2やTa25等の高屈折率薄膜とを交互に積層した構造を有する誘電体多層膜)から成る構成とすることもできる。尚、絶縁層を構成する透明な絶縁材料は、入射光の95%以上を透過する材料から構成されていることが好ましい。反射防止膜の形成は、使用する材料に依存して、各種の物理的気相成長法(PVD法)、各種の化学的気相成長法(CVD法)にて行うことができる。また、反射防止膜のパターニングは、例えば、リソグラフィ技術及びエッチング技術の組合せ、リフトオフ法、各種印刷法に基づき行うことができる。
【0017】
更には、上記の好ましい構成、形態を含む本発明の光触媒装置等にあっては、1層膜の設計で入射光の中心波長λにおいて反射防止のピークを得ようとした場合、反射防止膜を構成する材料の屈折率をn1、平均膜厚をd、入射光の中心波長をλとしたとき、
1・d=(2m+1)×(λ/4) (mは整数)
を満足し、あるいは又、
{(2m+1)−0.5}×(λ/4)≦n1・d≦{(2m+1)+0.5}×(λ/4) (mは整数)
を満足することが望ましい。あるいは又、光触媒層を構成する材料の屈折率をn2、反射防止膜を構成する材料の屈折率をn1、反射防止膜に光が入射する直前の空間を占める媒質の屈折率をn0としたとき、
1=(n0・n21/2
を満足し、あるいは又、
0.8≦n1/(n0・n21/2≦1.5
を満足することが望ましい。尚、一般的には、n1=(n0・n21/2を完全に満たす(同値となる)反射防止膜の媒質・材料の選択は困難であり、屈折率n2の光触媒層に対して1層膜にて完全に反射防止処理を施すことには困難を伴う。それ故、反射率が若干残るが、n1=(n0・n21/2により近い屈折率を示す媒質・材料を反射防止膜として選択することで、実用上、十分なる反射防止機能を付与することが可能となる。また、1層膜の設計では所望とする反射率の低減が得られ難い場合、反射率の更なる低減のため、一般的には、2層以上の多層構造の反射防止膜を導入することも広く実施されており、この場合には、通例に従い、光触媒層を構成する材料の材質及び屈折率に応じて、導入する反射防止膜の媒質・材料及び膜厚を、適宜、設計すればよい。
【0018】
更には、上記の好ましい構成、形態を含む本発明の光触媒装置等において、限定するものではないが、光触媒層は、アンドープのGaN系化合物半導体層、及び、n型不純物がドーピングされたGaN系化合物半導体層の積層構造体から成り、n型不純物がドーピングされたGaN系化合物半導体層の表面が光入射面に相当する形態とすることができる。ここで、GaN系化合物半導体(AlGaN混晶あるいはAlGaInN混晶、GaInN混晶を含む)とは、具体的には、AlxInyGa1-x-yNを指す。このようなGaN系化合物半導体のバンドギャップは1.9eVから6.2eVまで変化し、そのバンドギャップに依存するが、紫外光から数μm、例えば、紫外光から波長650nm程度までの波長の光を吸収することが可能である。あるいは又、光触媒層を構成する化合物半導体として、GaInNAs系化合物半導体(GaInAs混晶あるいはGaNAs混晶を含む)、AlGaInP系化合物半導体、AlAs系化合物半導体、AlGaInAs系化合物半導体、AlGaAs系化合物半導体、GaInAs系化合物半導体、GaInAsP系化合物半導体、GaInP系化合物半導体、GaP系化合物半導体、InP系化合物半導体、InN系化合物半導体、AlN系化合物半導体といった各種のIII−V族化合物半導体を例示することができる。化合物半導体層に添加されるn型不純物として、例えば、ケイ素(Si)やセレン(Se)、ゲルマニウム(Ge)、錫(Sn)、炭素(C)、チタン(Ti)を挙げることができる。n型不純物のドーピング量として、10-6原子%乃至10原子%を例示することができる。各種化合物半導体層の形成方法(成膜方法)として、有機金属化学的気相成長法(MOCVD法、MOVPE法)や有機金属分子線エピタキシー法(MOMBE法)、ハロゲンが輸送あるいは反応に寄与するハイドライド気相成長法(HVPE法)を挙げることができる。光触媒層は、通常、基板上に形成されるが、係る基板として、GaAs基板、GaP基板、AlN基板、AlP基板、InN基板、InP基板、AlGaInN基板、AlGaN基板、AlInN基板、GaInN基板、AlGaInP基板、AlGaP基板、AlInP基板、GaInP基板、ZnS基板、サファイア基板、SiC基板、アルミナ基板、ZnO基板、LiMgO基板、LiGaO2基板、MgAl24基板、Si基板、Ge基板、これらの基板の表面(主面)に下地層やバッファ層が形成されたものを挙げることができる。n型不純物がドーピングされたGaN系化合物半導体層と接する第1電極(n側電極)を構成する材料として、Au/Ti、Au/Ni/AuGe、Au/Pt/Ti(/Au)/Ni/AuGe、Au/Pt/TiW(/Ti)/Ni/AuGe、Tiを例示することができる。
【0019】
更には、上記の好ましい構成、形態を含む本発明の光触媒装置等にあっては、金属層を構成する材料は助触媒から成る構成とすることが、効果的な電子/ホール対の生成に基づくガス生成効率の向上といった観点から望ましい。そして、この場合、金属層は、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)及びルテニウム(Ru)から成る群から選択された少なくとも1種類の材料から成ることが望ましい。あるいは又、金属層は、周期表において第5〜6周期、第8〜10族に位置する白金族元素から構成されていることが望ましい。尚、金属層の概念には、合金、金属化合物(例えば、酸化ルテニウム、酸化イリジウム、酸化白金、酸化ニッケルといった金属酸化物)が包含される。
【0020】
光触媒層の光入射面上において金属層はパターニングされているが、このパターニングの形状は本質的に任意であり、例えば、ライン・アンド・ストライプ状や同心円状とすることができるし、あるいは又、パターニングされた金属層はマトリックス状に配列された点状領域の集合から構成されている形態とすることもできる。光触媒層の光入射面に対して金属層の占める割合は、種々の試験を行い、効果的な電子/ホール対の生成に基づくガス生成効率の向上といった観点から、適宜、決定すればよい。
【0021】
ガス発生装置における溶液(媒質)として、水だけでなく、酸性水溶液、アルカリ性水溶液、アルコール類を挙げることができる。あるいは又、溶液として、硫酸ナトリウム水溶液や塩化カリウム水溶液、塩化ナトリウム水溶液、塩化マグネシウム水溶液、塩化カルシウム水溶液、各種の電解液を挙げることもできる。酸性水溶液として、希硫酸、希塩酸、希硫酸と希塩酸の混合液を挙げることができるし、アルカリ性水溶液として、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液を挙げることができる。一般に、第1電極部、第2電極部、及び、溶液は、ガス発生装置を構成する槽に収納される。あるいは又、第1電極部、及び、第1電極部が浸漬される溶液は、ガス発生装置を構成する第1槽に収納され、第2電極部、及び、第2電極部が浸漬される溶液は、ガス発生装置を構成する第2槽に収納されている。ここで、使用する溶液にも依るが、第1槽と第2槽とは、例えば、塩橋といったイオン透過膜や、下部に穴部が設けられた仕切り壁によって区切られている。第1電極部(具体的には第1電極,例えば陽極)と第2電極部(具体的には第2電極,例えば陰極)とは互いに電気的に接続されているが、具体的な接続形態として、銅線等の適切な導線で互いを電気的に接続する形態を挙げることができる。導線が溶液と、直接、接しないように、導線を樹脂等で被覆することが好ましい。第2電極部は、例えば、第2電極のみから構成されていてもよく、この場合、第2電極を、例えば、白金(Pt)、金(Au)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、イリジウム(Ir)から構成することができ、あるいは又、第2電極を、これらの金属を導体材料の表面にコーティングしたもの、炭素電極等から構成することもできる。尚、これらの場合、第2電極の形状として板状、プレート状、ブロック状を挙げることができる。あるいは又、第2電極部を、化合物半導体層から構成された光触媒層(p型不純物がドーピングされた化合物半導体層を備えている)、及び、光触媒層と接して設けられた第2電極から構成することもできる。光触媒層に光が照射されるが、この場合の光源として、太陽光、Xeランプ、水銀灯、水銀キセノン灯、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、白熱灯、蛍光灯、発光ダイオード、レーザ等を例示することができる。
【実施例1】
【0022】
実施例1は、本発明の光触媒装置、及び、係る光触媒装置を用いたガス発生装置(ガス製造装置)に関する。実施例1の光触媒装置20は、その模式的な断面図を図1の(A)に示すように、
(a)光触媒層23、
(b)光触媒層23の光入射面23A上に形成され、パターニングされた金属層30、及び、
(c)パターニングされた金属層30の間に位置する光触媒層23の部分に形成された反射防止膜(Anti Reflection Coaitng,ARC)40、
を備えている。
【0023】
また、実施例1のガス発生装置10は、溶液(媒質)18A,18B中に浸漬され、互いに電気的に接続された第1電極部(第1電極装置)11と第2電極部(第2電極装置)12を備え、第1電極部11及び第2電極部12のそれぞれから異なるガスを生成する。具体的には、第1電極部11から酸素ガスを生成し、第2電極部12から水素ガスを生成する。そして、第1電極部11は、光触媒装置20及び第1電極11Aを備えており、光触媒装置20は、上述した実施例1の光触媒装置から構成されており、第1電極11Aは光触媒層23と接して設けられている。
【0024】
より具体的には、光触媒層23は、アンドープのGaN系化合物半導体層24、及び、n型不純物がドーピングされたGaN系化合物半導体層25の積層構造体26から成り、n型不純物がドーピングされたGaN系化合物半導体層25の表面が光入射面に相当する。アンドープのGaN系化合物半導体層24は、より具体的には、アンドープのGaNから構成されている。一方、n型不純物(具体的には、Siであり、ドーピング濃度は1×1018/cm3である)がドーピングされたGaN系化合物半導体層25は、より具体的には、GaN:Siから構成されている。ここで、光触媒層23は、サファイア基板21上に設けられたバッファ層22上に形成されている。また、パターニングされた金属層30は、図2に模式的な配置を示すように、ライン・アンド・ストライプ状の平面形状を有する。尚、図2において、金属層30及び第1電極11Aを明示するために、これらに斜線を付した。後述する図3及び図4においても、略同様である。金属層30を構成する材料は、助触媒(酸素ガス発生助触媒)、具体的には、イリジウム(Ir)から成る。第1電極部11A及び第1電極部11Aが浸漬される溶液18A(具体的には、1NのHCl溶液から成る)は、ガス発生装置10を構成する第1槽13に収納されている。一方、白金(Pt)から成る板状の第2電極部12及び第2電極部12が浸漬される溶液18B(具体的には、1NのHCl溶液から成る)は、ガス発生装置10を構成する第2槽14に収納されている。ここで、第1槽13と第2槽14とは、例えば、塩橋15といったイオン透過膜によって区切られている。第1槽13及び第2槽14には、溶液投入部16A,16B、並びに、生成したガスの排気部17A,17Bが設けられている。
【0025】
以下、サファイア基板等の模式的な一部端面図である図5の(A)〜(C)、図6の(A)〜(C)、図7の(A)〜(B)を参照して、実施例1の光触媒装置の製造方法を説明する。
【0026】
[工程−100]
先ず、サファイア基板21上に、アンドープGaNから成るバッファ層22、厚さ1μmのアンドープGaNから成るGaN系化合物半導体層24、及び、厚さ0.1μmのn型不純物がドーピングされたGaN系化合物半導体層25(具体的には、SiドープGaN層)を、周知のMOCVD法に基づき、順次、成膜(形成)する(図5の(A)参照)。
【0027】
[工程−110]
次に、積層構造体26及びバッファ層22を周知の方法に基づきドライエッチングし、大きさ10mm×10mmの積層構造体26を得る(図5の(B)参照)。そして、GaN系化合物半導体層24,25から構成された光触媒層23と溶液18Aとの接触を妨げるために、SiN(屈折率:約2.0)から成る反射防止膜40をCVD法に基づき全面に成膜する(図5の(C)参照)。尚、光触媒層23の光入射面23A上における反射防止膜40の厚さを、入射光[例えば、GaNの吸収端(約360nm)に相当する波長を有する入射光]の波長の1/4の厚さとなるように、約45nmとした。即ち、反射防止膜40を構成する材料(具体的には、SiN)の屈折率をn1(具体的には、2.0)、平均膜厚をd、入射光の中心波長をλ(具体的には、360nm)としたとき、
{(2m+1)−0.5}×(λ/4)≦n1・d≦{(2m+1)+0.5}×(λ/4) (mは整数)
を満足している。また、光触媒層23を構成する材料の屈折率をn2、反射防止膜40を構成する材料の屈折率をn1、反射防止膜40に光が入射する直前の空間を占める媒質(具体的には、溶液18A)の屈折率をn0としたとき、
0.8≦n1/(n0・n21/2≦1.5
を満足している。即ち、
0.8≦2.0/(2.4×1.33)1/2≦1.5
である。
【0028】
[工程−120]
その後、光触媒層23の光入射面23A上における反射防止膜40の上にレジスト層27を形成し、レジスト層27にリソグラフィ技術に基づき、幅5μm、ピッチ50μmのストライプ状の開口部27Aを形成する(図6の(A)参照)。その後、開口部27の底部に露出した反射防止膜40を除去してGaN系化合物半導体層25を露出させた後(図6の(B)参照)、Irから成り、助触媒として機能する厚さ0.1μmの金属層30をスパッタリング法にて全面に形成する。次いで、反射防止膜40上の金属層30及びレジスト層27を除去する。こうして、所謂リフトオフ法に基づき、ライン・アンド・ストライプ状の金属層30を形成することができる(図6の(C)参照)。
【0029】
[工程−130]
次に、リソグラフィ技術及びエッチング技術に基づき、積層構造体26の外周部において幅0.1mmの反射防止膜40の除去、GaN系化合物半導体層24の厚さ方向の一部(深さ約50nm)の除去を行う(図7の(A)参照)。そして、リフトオフ法に基づき、露出したGaN系化合物半導体層24の部分にAu層/Ti層(Au層が下層であり、Au層、Ti層の厚さはどちらも100nmであり、幅は50μm)から成る第1電極11Aを形成する。併せて、引出部11aを形成する。その後、第1電極11Aを、SiNから成る密封層28で密封する。こうして、図7の(B)に示す構造を得ることができる。
【0030】
[工程−140]
その後、適切な方法で、サファイア基板21を切断することで、図1の(A)に示した光触媒装置20、あるいは又、ガス発生装置10を構成する第1電極部11を得ることができる。
【0031】
[工程−150]
次いで、得られた第1電極部11(光触媒装置20)と第2電極部12(具体的には第2電極12A)とを、銅線19で相互に電気的に接続する。具体的には、第1電極11の露出させた引出部11aに銅線19の一端を半田付けする。また、第2電極12Aと銅線19の他端とを接続する。尚、これらの電気的接続部や銅線19が溶液18A,18Bと接しないように、これらの電気的接続部や銅線19を、例えばシリコーン系樹脂で被覆することが好ましい。こうして、図1の(B)に示したガス発生装置10を得ることができる。
【0032】
実施例1にあっては、水の光分解活性を示す光触媒装置20の酸素ガス発生サイト(具体的には光触媒層23の表面)に、助触媒として機能する金属層30及び反射防止膜40が形成されている。即ち、光触媒層23は金属層30及び反射防止膜40によって完全に覆われており、光触媒層23は溶液18Aと、直接、接することがない。従って、光触媒層23への光照射により電荷分離・生成されたホールが金属層30に移動し、助触媒として機能する金属層30上でのみで溶液の酸化反応が促進する。こうして、光触媒層23が酸化されて溶液18A中に光溶解するといった反応が抑制され、化学的安定性が向上し、水分解光触媒デバイスとして長期間に亙る使用が可能となる。
【0033】
しかも、反射防止膜(ARC)40を設けることで、反射による光触媒層23への入射光のロスを低減することができ、電荷分離に供される入射フォトンを増加させることができる結果、溶液の分解効率の向上を図ることができる。
【0034】
以上、本発明を好ましい実施例に基づき説明したが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。実施例にて説明した光触媒装置及びガス発生装置の構成、構造、用いた材料や仕様等は例示であり、適宜選択、変更することができる。例えば、実施例1の光触媒装置において、図3に金属層等の模式的な配置を示すように、パターニングされた金属層が、マトリックス状に配列された点状領域の集合から構成されていてもよい。あるいは又、図4に金属層等の模式的な配置を示すように、パターニングされた金属層の形状を同心円状とすることもできる。
【符号の説明】
【0035】
10・・・ガス発生装置、11・・・第1電極部、11A・・・第1電極、11a・・・引出部、12・・・第2電極部、12A・・・第2電極、13・・・第1槽、14・・・第2槽、15・・・塩橋、16A,16B・・・溶液投入部、17A,17B・・・排気部、18A,18B・・・溶液、19・・・銅線、20・・・光触媒装置、21・・・サファイア基板、22・・・バッファ層、23・・・光触媒層、23A・・・光入射面、24,25・・・GaN系化合物半導体層、26・・・積層構造体、27・・・レジスト層、27A・・・レジスト層に設けられた開口部、28・・・密封層、30・・・金属層、40・・・反射防止膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)光触媒層、
(b)光触媒層の光入射面上に形成され、パターニングされた金属層、及び、
(c)パターニングされた金属層の間に位置する光触媒層の部分に形成された反射防止膜、
を備えている光触媒装置。
【請求項2】
光触媒層は、その全体が、金属層及び反射防止膜で被覆されている請求項1に記載の光触媒装置。
【請求項3】
反射防止膜は、反射防止膜は、酸化シリコン、酸化タンタル、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化クロム、酸化バナジウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ハフニウム、酸化ニオブ、酸化スカンジウム、酸化イットリウム、窒化シリコン、窒化チタン、窒化タンタル、窒化アルミニウム、酸窒化シリコン、フッ化アルミニウム、フッ化セリウム、フッ化カルシウム、フッ化ナトリウム、フッ化アルミニウム・ナトリウム、フッ化ランタン、フッ化マグネシウム、フッ化イットリウム及び硫化亜鉛から成る群から選択された少なくとも1種類の材料から成る請求項1に記載の光触媒装置。
【請求項4】
反射防止膜を構成する材料の屈折率をn1、平均膜厚をd、入射光の中心波長をλとしたとき、
{(2m+1)−0.5}×(λ/4)≦n1・d≦{(2m+1)+0.5}×(λ/4) (mは整数)
を満足する請求項1に記載の光触媒装置。
【請求項5】
光触媒層を構成する材料の屈折率をn2、反射防止膜を構成する材料の屈折率をn1、反射防止膜に光が入射する直前の空間を占める媒質の屈折率をn0としたとき、
0.8≦n1/(n0・n21/2≦1.5
を満足する請求項1に記載の光触媒装置。
【請求項6】
光触媒層は、アンドープのGaN系化合物半導体層、及び、n型不純物がドーピングされたGaN系化合物半導体層の積層構造体から成り、
n型不純物がドーピングされたGaN系化合物半導体層の表面が光入射面に相当する請求項1に記載の光触媒装置。
【請求項7】
金属層を構成する材料は助触媒から成る請求項1に記載の光触媒装置。
【請求項8】
金属層は、白金、パラジウム、イリジウム、ロジウム及びルテニウムから成る群から選択された少なくとも1種類の材料から成る請求項7に記載の光触媒装置。
【請求項9】
パターニングされた金属層の形状は、ライン・アンド・ストライプ状である請求項1に記載の光触媒装置。
【請求項10】
パターニングされた金属層は、マトリックス状に配列された点状領域の集合から構成されている請求項1に記載の光触媒装置。
【請求項11】
パターニングされた金属層の形状は、同心円状である請求項1に記載の光触媒装置。
【請求項12】
溶液中に浸漬され、互いに電気的に接続された第1電極部と第2電極部を備え、第1電極部及び第2電極部のそれぞれから異なるガスを生成するガス発生装置であって、
第1電極部は、光触媒装置及び第1電極を備えており、
光触媒装置は、
(a)光触媒層、
(b)光触媒層の光入射面上に形成され、パターニングされた金属層、及び、
(c)パターニングされた金属層の間に位置する光触媒層の部分に形成された反射防止膜、
を備えており、
第1電極は光触媒層と接して設けられているガス発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−247109(P2010−247109A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−100728(P2009−100728)
【出願日】平成21年4月17日(2009.4.17)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】