説明

光記録媒体の製造方法及び製造装置

【課題】樹脂層内への空気の巻き込みや樹脂層内の気泡の発生を抑制し、均一な膜厚の樹脂層が形成された光記録媒体を得ることを可能にする。
【解決手段】中心孔2を有する環状の基板を用いた記録媒体1の上に、前記中心孔2よりも大きい外径を有する円盤状のキャップ部材9を前記中心孔2を塞ぐように載置した状態で、前記キャップ部材9と前記記録媒体1とが形成する段差を覆う、液体状の樹脂材料aを硬化させた樹脂膜Aを形成し、前記キャップ部材9上に樹脂層11形成用の硬化性樹脂材料cを供給し、前記記録媒体を回転させて前記硬化性樹脂材料cを回転延伸させ、前記回転延伸中又は前記回転延伸後に前記硬化性樹脂材料cを硬化させることにより、前記記録媒体1上に樹脂層11を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光記録媒体の製造方法及び製造装置に関する。詳しくは、その表面に、樹脂層(特に透明樹脂層)が設けられた、ブルーレイディスク等の光記録媒体の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、次世代光記録媒体として、ブルーレイディスク(以下「BD」という。)が注目されている。当該光記録媒体においては、記録密度を増加させるためにCDやDVD等の従来の光記録媒体よりもトラックピッチが峡い幅に設計されている。このため光記録媒体に照射されるレーザー光のビームスポット径も、従来より小径に設定する必要がある。
【0003】
ところで、レーザー光のビームスポット径は、レーザー光の波長λと、レンズ開口数NAとの比に比例する。従って、当該比例値を小さくすれば、ビームスポット径がより小径に設定できる。具体的には、波長λが青色領域にあるレーザー光(例えば、λが405nm程度)が使用され、また、開口数NAの大きいレンズ(例えば、NAが0.85程度)が使用されている。
【0004】
開口数NAの大きいレンズを使用する場合には、レーザー光の焦点距離も短くなる。このため、従来のCDやDVDのように、十分な機械的な強度を有する光透過性の基板(通常は、ポリカーボネート製の基板が用いられる。)を介して、レーザー光を記録層に照射することができなくなる。
【0005】
そこで、BDにおいては、レーザー光の焦点が記録層付近に形成できるように、十分な機械強度を有する基板上に存在する記録層上に0.1mm程度の透明な透明樹脂層を形成する。そして、当該透明樹脂層の上からレーザー光を照射することによって、情報の記録及び/又は再生する方法が採用されている。
【0006】
この透明樹脂層については、レンズの開口数NAを大きくしたことに伴い、上記透明樹脂層の膜厚の均一性に関するマージンが狭くなる。即ち、微小な気泡がなく膜厚の乱れのない均一な透明樹脂層を作製する必要がある。
【0007】
ところで、該透明樹脂層を作製する手段として、従来、液状の硬化性樹脂を基板の中心部に載置したキャップ部材の中心近傍に供給し、スピンコーティング法によって作製する方法がある。この方法について、図14(a)〜(c)を用いて具体的に説明する。
【0008】
この方法では、図14(a)に示すように、記録媒体101(ここでは、中心孔102を有する基板103上に記録再生機能層104を設けたものをいう。)を回転台(回転装置)Rに載せる。そして、中心孔102を覆うようにキャップ部材105を載置する。次に、ノズルNを用いて、液状の硬化性樹脂材料cをキャップ部材105の中心近傍に供給する。次いで、図14(b)に示すように、回転台Rにより基板103を回転させ、遠心力により硬化性樹脂材料cを伸延させる。硬化性樹脂材料cが所定の厚さになったところで、図14(c)に示すように、硬化性樹脂材料cを光照射により硬化させ、記録再生機能層104上に透明樹脂層106を形成する。
【0009】
特許文献1及び特許文献2の記載によれば、基板の中心孔をキャップ部材で覆い、硬化性樹脂を当該キャップ部材中心近傍に供給し、基板の中心部から当該硬化性樹脂を回転伸延することで、基板の全体にわたって均一の膜厚を有する保護層や光透過層を形成できるとのことである。
【0010】
【特許文献1】特開平10−289489号公報
【特許文献2】特開平10−249264号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、本発明者らの検討によれば、従来の技術には以下のような課題があることが分かった。
【0012】
即ち、上述のキャップ部材105は、基板103とは別の部材となる。このため、キャップ部材105を基板103の中心部に載置しても、キャップ部材105の端部と基板103との間に微小な段差が生じる。特に、厚さ0.1mm程度の透明樹脂層106を形成するためには、高粘度の液体状の硬化性樹脂材料cを用いる必要がある。そして、高粘度の液体状の硬化性樹脂材料cを回転伸延させるためには、1分間に数千回転以上の回転数を要することがある。このため、液体状の硬化性樹脂材料cがキャップ部材105の外周端と基板103との間に生ずる段差を乗り越える際に、硬化性樹脂材料cがキャップ部材105と基板103とが形成する段差を埋め切ることができないことがある。
【0013】
図15は、上記現象を説明するための模式断面図である。同図は、硬化性樹脂材料cがキャップ部材105の段差を乗り越えた状態を拡大して示す模式断面図である。なお、図15において、図14と同じ構成要素については、同一の符号を付して表わしている。図15に示すように、キャップ部材105の端部、基板103、及び硬化性樹脂材料cの間に空隙が存在し易くなる(図中G)。このため、硬化性樹脂材料cが回転延伸されるに伴って、この空隙中の空気が硬化性樹脂材料cに巻き込まれる結果、微少な気泡が透明樹脂層106中に残留することとなる。
【0014】
また、キャップ部材105を基板103中心部に押圧しても、キャップ部材105と基板103との接触面にわずかな隙間が存在することがある。即ち、この状態でスピンコーティングを開始すると、液状の硬化性樹脂材料cは、上記隙間に残存する微量の空気を巻き込みながら回転伸延されることになる。即ち、この状態で透明樹脂層106を形成しても、膜厚の均一性は向上するが、気泡を透明樹脂層106から充分に除去できないという課題がある。
【0015】
更に、キャップ部材105と基板103とが接着していないので、硬化性樹脂材料cを回転延伸させる際にキャップ部材105が基板103中心部で微妙に移動する場合がある。この移動は、回転装置Rの振動によるものと考えられる。そして、上記キャップ部材105の微妙な移動により、更に透明樹脂層106に空気が巻き込まれ易くなる。
【0016】
透明樹脂層106内部に存在する気泡は、以下の現象を引き起こす傾向がある。つまり、上記気泡の影響でレーザー光が散乱され、透明樹脂層106の下に存在する記録層に形成された情報を正しく読み出せなくなる場合がある。また、上記気泡の影響で、レーザー光の焦点が記録層近傍で変形したり、レーザー光の焦点距離が短くなったりする場合もある。この結果、光ピックアップと透明樹脂層106との物理的衝突が発生し易くなる。これは、記録再生機能層104への情報の記録及び情報の再生が充分にできない、或いは記録面、光学部品の物理的損傷を招き易いという現象を引き起こす。
【0017】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものである。即ち、本発明の目的は、樹脂層内への空気の巻き込みや樹脂層内の気泡の発生を抑制し、均一な膜厚の樹脂層が形成された光記録媒体を得ることが可能な、光記録媒体の製造方法及び製造装置を提供することである。更に、本発明の目的は、樹脂層として上記透明樹脂層を用いる光記録媒体の製造方法及び製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記実情に鑑み鋭意検討した結果、基板の中心孔を塞ぐようにキャップ部材を載置した状態で、キャップ部材と記録媒体とが形成する段差を覆う樹脂膜を形成し、キャップ部材上に硬化性樹脂材料を供給して回転延伸させ、これを硬化させて記録媒体上に樹脂層を形成することにより、空気の巻き込みや気泡の発生を抑制し、均一な膜厚の樹脂層が形成された光記録媒体を得ることが可能になるのを見出して、本発明に到達した。
【0019】
即ち、本発明の要旨は、中心孔を有する環状の基板を用いた記録媒体の上に、前記中心孔の外径以上の外径を有する円盤状のキャップ部材を前記中心孔を塞ぐように載置した状態で、前記キャップ部材と前記記録媒体とが形成する段差を覆う、液体状の樹脂材料aを硬化させた樹脂膜Aを形成し、前記キャップ部材上に、樹脂層形成用の硬化性樹脂材料cを供給し、前記記録媒体を回転させて前記硬化性樹脂材料cを回転延伸させ、前記回転延伸中又は前記回転延伸後に前記硬化性樹脂材料cを硬化させることにより、前記記録媒体上に樹脂層を形成することを特徴とする、光記録媒体の製造方法に存する(請求項1)。
【0020】
ここで、前記樹脂層が、透明樹脂層であることが好ましい(請求項2)。
【0021】
また、前記キャップ部材の外径が、前記中心孔の外径よりも大きいことが好ましい(請求項3)。
【0022】
中でも、前記樹脂材料aが、光硬化性の樹脂材料であることが好ましい(請求項4)。
【0023】
また、前記樹脂材料aの粘度が、30mPa・s以上、5000mPa・s以下であることが好ましい(請求項5)。
【0024】
また、前記樹脂材料aを、前記記録媒体上の前記キャップ部材の外径に相当する位置に円環状に塗布し、前記キャップ部材を前記樹脂材料aに押圧することによって載置し、前記樹脂材料aを硬化させて前記樹脂膜Aを形成することが好ましい(請求項6)。
【0025】
また、前記キャップ部材を前記記録媒体に接着することによって載置し、前記樹脂材料aを前記キャップ部材の外径に相当する位置に円環状に塗布し、前記樹脂材料aを硬化させて前記樹脂膜Aを形成することが好ましい(請求項7)。
【0026】
ここで、前記キャップ部材の前記記録媒体への接着を、硬化性又は粘着性の接着剤を用いて行なうことが好ましい(請求項8)。
【0027】
この場合、前記硬化性の接着剤が、粘度30mPa・s以上、5000mPa・s以下の光硬化性樹脂であることが好ましい(請求項9)。
【0028】
また、前記キャップ部材の外周よりも外側に位置する前記記録媒体上に前記樹脂材料aを円環状に塗布し、更に、前記樹脂材料aを前記キャップ部材の外径に相当する位置に円環状に塗布することにより前記樹脂膜Aを形成することも好ましい(請求項10)。
【0029】
また、前記硬化性樹脂材料cが、光硬化性の樹脂材料であることが好ましい(請求項11)。
【0030】
また、前記硬化性樹脂材料cの粘度が、30mPa・s以上、5000mPa・s以下であることが好ましい(請求項12)。
【0031】
また、前記キャップ部材の外周端の厚さが、前記樹脂層の膜厚の5倍以下であることが好ましい(請求項13)。
【0032】
また、前記樹脂膜Aが、前記キャップ部材の外周に沿って、前記キャップ部材の外周端から前記記録媒体上に張り出して形成され、前記キャップ部材の外周端の厚さをx、前記キャップ部材の外周端から前記樹脂膜Aの最大高さまでの距離をy、前記キャップ部材の外周端から前記記録媒体上に張り出す前記樹脂膜Aの幅をzとしたときに、x、y、zが、
y≦5×x
z≦20×x
の関係を満たすことが好ましい(請求項14)。
【0033】
また、前記樹脂膜Aの最外周と前記記録媒体とがなす角度が、30°以下であることが好ましい(請求項15)。
【0034】
また、前記キャップ部材の外周端にバリが存在する場合に、前記バリを覆うように前記樹脂膜Aを形成することが好ましい(請求項16)。
【0035】
また、前記キャップ部材がプラスチックで形成されることが好ましい(請求項17)。
【0036】
ここで、前記プラスチックが、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニリデン、ABS樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、エポキシ樹脂、及び三酢酸セルロース樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1つの材料で形成されることが好ましい(請求項18)。
【0037】
また、前記キャップ部材が、100%モジュラスが3MPa以上、30MPa以下のポリ塩化ビニルにより形成されることが好ましい(請求項19)。
【0038】
また、前記キャップ部材及び前記樹脂膜Aによって、前記記録媒体上に存在する0.05mm以上の段差が全て覆われることが好ましい(請求項20)。
【0039】
また、前記キャップ部材と前記記録媒体とが形成する段差を覆う樹脂膜Aと、前記記録媒体上に存在する段差を覆う、前記樹脂膜Aと物理的に分離した樹脂膜Bとを形成することが好ましい(請求項21)。
【0040】
また、前記樹脂膜Aを形成した状態で、前記キャップ部材を吸引することにより前記記録媒体を上方に移動させた場合に、前記記録媒体と前記キャップ部材とが剥離しないことが好ましい(請求項22)。
【0041】
また、前記樹脂層の形成後、前記キャップ部材の外周よりも外側に位置する前記記録媒体上において前記樹脂層に切り込みを入れて、前記キャップ部材及び前記樹脂膜Aを取り除くことが好ましい(請求項23)。
【0042】
また、前記樹脂層側から光線の照射により樹脂層に切り込みを入れるとともに、前記切り込みの深さが前記樹脂層の厚さの0.5倍以上、1.5倍以下となるように光線の照射条件を調整することが好ましい(請求項24)。
【0043】
また、前記硬化性樹脂材料cを硬化させる際に、前記キャップ部材の外周付近に存在する前記硬化性樹脂材料cを硬化させることなく、前記キャップ部材及び前記樹脂膜Aを取り除くことが好ましい(請求項25)。
【0044】
また、前記樹脂層を設けた後、更に別の樹脂層を1層以上設けることが好ましい(請求項26)。
【0045】
また、本発明の別の要旨は、中心孔を有する環状の基板を用いた記録媒体の上に、前記中心孔の外径以上の外径を有する円盤状のキャップ部材を、前記中心孔を塞ぐように載置する手段と、前記キャップ部材と前記記録媒体とが形成する段差を覆う液体状の樹脂材料aを供給する手段と、前記樹脂材料aを硬化させて樹脂膜Aを形成する手段と、前記キャップ部材上に、樹脂層形成用の硬化性樹脂材料cを供給する手段と、前記記録媒体を回転させて前記硬化性樹脂材料cを回転延伸させる手段と、前記硬化性樹脂材料cを硬化させる手段とを備えることを特徴とする、光記録媒体の製造装置に存する(請求項27)。
【発明の効果】
【0046】
本発明の光記録媒体の製造方法及び製造装置によれば、空気の巻き込みや気泡の発生が抑制された、均一な膜厚の樹脂層が形成された光記録媒体を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、その要旨の範囲内において種々に変更して実施することができる。
【0048】
本発明の光記録媒体の製造方法(以下適宜「本発明の製造方法」と略する。)は、中心孔を有する環状の基板を用いた記録媒体の上に、前記中心孔の外径以上の外径を有する円盤状のキャップ部材を前記中心孔を塞ぐように載置した状態で、前記キャップ部材と前記記録媒体とが形成する段差を覆う、液体状の樹脂材料aを硬化させた樹脂膜Aを形成し、前記キャップ部材上に、樹脂層形成用の硬化性樹脂材料cを供給し、前記記録媒体を回転させて前記硬化性樹脂材料cを回転延伸させ、前記回転延伸中又は前記回転延伸後に前記硬化性樹脂材料cを硬化させることにより、前記記録媒体上に樹脂層を形成するものである。
【0049】
本発明においては、樹脂層として透明樹脂層が用いられる場合が多い。このため、以下の説明においては、樹脂層として透明樹脂層を用いる場合を例にとって説明する。なお、「透明樹脂層」とは、記録や再生に用いる光(通常はレーザー光)が透過して良好な記録や再生ができる程度の透明性を有する層をいう。
【0050】
また、以下の説明においては、透明樹脂層の一例として、ブルーレイディスク等で、一般にカバー層と呼ばれているものを中心に記述する。但し、透明樹脂層はこのカバー層に限定されるものではない。例えば、ブルーレイディスクではカバー層上に一般にハードコート層と呼ばれる硬度の大きな、耐擦傷性の機能を持つ層を設ける場合がある。このハードコート層も透明樹脂層の一例である。この場合、カバー層及びハードコート層を、キャップ部材を載置したままの状態において連続して形成してもよい。また、カバー層形成後にキャップ部材を取り外してハードコート層を形成してもよい。
【0051】
また、DVDの貼り合せにおける接着層、記録層を複数有する多層光記録媒体における、光の干渉を避けるために設けられる中間層も透明樹脂層の一例である。
【0052】
なお、本明細書では、基板上に後述する記録再生機能層及び必要に応じてその他の層を設けたものを「記録媒体」と言い、この記録媒体に更に樹脂層(例えば透明樹脂層)を形成したものを「光記録媒体」と言うものとする。即ち、「光記録媒体」から樹脂層(例えば透明樹脂層)を除いたものが「記録媒体」に相当する。
【0053】
また、本明細書において参照する図面では、本発明の把握を容易にする観点から、記録媒体又は光記録媒体の基板面方向の寸法に対する厚み方向の寸法の比率を、実際よりも大きめに表示する場合がある。
【0054】
[1.記録媒体]
まず、本発明の製造方法に用いられる記録媒体について説明する。
記録媒体は通常、中心孔を有する環状の基板上に、記録再生機能層を有する。
【0055】
〔1−1.記録再生機能層〕
記録再生機能層は、情報信号を記録再生可能又は再生可能となるように構成された層であり、単層であっても複数の層からなってもよい。記録再生機能層は、光記録媒体が、再生専用の媒体(ROM媒体)である場合と、一度の記録のみ可能な追記型の媒体(Write Once媒体)である場合と、記録消去を繰り返し行なえる書き換え可能型の媒体(Rewritable媒体)である場合とによって、それぞれの目的に応じた層構成を採用することができる。また、記録再生機能層は、記録・再生用のレーザー光の入射方向によって、基板面入射型と膜面入射型とに分けることができる。本発明においては、青色レーザーの使用と高密度記録との観点から、膜面入射型の記録再生機能層を用いることが好ましい。このため、以下の説明においては、膜面入射型の記録再生機能層を用いる場合について説明する。
【0056】
(再生専用媒体の例)
再生専用の媒体においては、記録再生機能層は、通常、同心円又はスパイラル状に設けられたプリピットを有する基板上に設けられた反射層をいう。反射層の材料としては通常、Al、Ag、Au等の金属又は合金が用いられる。記録再生機能層は、スパッタ法によりAl、Ag、Au反射層を基板上に成膜して反射層を形成することにより得られる。
【0057】
(追記型の媒体の例1)
追記型の媒体で膜面入射型の媒体においては、記録再生機能層は、通常、基板上に設けた、反射層及び記録層を指す。更に、記録層上に無機材料(例えば、ZnS/SiO2)で形成されるバッファー層を設けてもよい。この場合、反射層、記録層、及びバッファー層が記録再生機能層となる。
【0058】
反射層の材料としては、通常、Al、Ag、Au等の金属又は合金が用いられる。反射層の形成方法は、再生専用の媒体と同様とすればよい。また、バッファー層は、通常スパッタ法によって形成される。
【0059】
上記追記型の媒体における記録層の材料としては、通常、有機色素が用いられる。このような有機色素としては、大環状アザアヌレン系色素(フタロシアニン色素、ナフタロシアニン色素、ポルフィリン色素など)、ポリメチン系色素(シアニン色素、メロシアニン色素、スクワリリウム色素など)、アントラキノン系色素、アズレニウム系色素、含金属アゾ系色素、含金属インドアニリン系色素などが挙げられる。特に含金属アゾ系色素は、耐久性及び耐光性に優れているため好ましい。
【0060】
有機色素により記録層を形成する場合は、通常、記録層は、有機色素を適当な溶媒に溶解した溶液によるスピンコート、スプレーコート、ディップコート、ロールコート等の塗布方法で形成される。この際、溶媒としては、通常、ジアセトンアルコール、3−ヒドロキシ−3−メチル−2−ブタノン等のケトンアルコール溶媒、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のセロソルブ溶媒、テトロフルオロプロパノール、オクタフルオロペンタノール等のパーフルオロアルキルアルコール溶媒、乳酸メチル、イソ酪酸メチル等のヒドロキシエチル溶媒が使用される。
【0061】
記録層の厚さは、記録方法等により適した膜厚が異なるため、特に限定されないが、十分な変調度を得るために、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、特に好ましくは20nm以上である。但し、光を透過させる必要があるため、通常3μm以下、好ましくは1μm以下、より好ましくは200nm以下である。
【0062】
(追記型の媒体の例2)
追記型の媒体で膜面入射型の媒体における他の具体例においては、記録再生機能層は、通常、基板上に設けられた、反射層、誘電体層、記録層、及び誘電体層を指す。
【0063】
反射層の材料としては、通常、Al、Ag、Au等の金属又は合金が用いられる。反射層の形成方法は、再生専用の媒体と同様とすればよい。
【0064】
誘電体層の材料としては、通常、無機材料(代表的には、ZnS/SiO2やGeCrN)が用いられる。誘電体層の膜厚は、通常0.5nm以上、また、通常50nm以下とする。誘電体層は、必要に応じて、異なる無機材料を複数層積層して形成してもよい(例えば、ZnS/SiO2層及びGeCrN層の積層構造としてもよい)。誘電体層は、通常、スパッタリングすることによって形成される。
【0065】
記録層の材料としては、通常は無機材料(例えば、Ge・Te、Ge・Sb・Teなどのカルコゲン系合金膜、Si/Ge、Al/Sbなどの2層膜、BiGe窒化物、SnNb窒化物、Te酸化物など)が用いられる。記録層の膜厚は、通常1nm以上、また、通常50nm以下とされる。記録層は、通常、スパッタリングによって形成される。
【0066】
(書き換え可能型の媒体の例)
書き換え可能型の媒体で膜面入射型の媒体においては、記録再生機能層は、通常、基板上に設けられた、反射層、誘電体層、記録層、及び誘電体層を指す。
【0067】
反射層、誘電体層、及び記録層としては、上記「追記型の媒体の例2」と同様にすればよい。但し、記録層は、記録・消去を可逆的に行えるような材料とする必要がある。このような材料としては、例えば、SbTe系、GeTe系、GeSbTe系、InSbTe系、AgSbTe系、AgInSbTe系、GeSb系、GeSbSn系、InGeSbTe系、InGeSbSnTe系等の材料が挙げられる。これらの中でも、結晶化速度を高めるために、記録層にSbを主成分とする組成を用いることが好ましい。
【0068】
(記録再生領域)
また、記録再生機能層には、記録再生領域が設定されている。記録再生機能層が中心に孔を有する環状の形状を有する場合には、記録再生領域は通常、記録再生機能層の内径よりも大きい内径と、記録再生機能層の外径よりも小さい外径との間の領域に設けられる。
【0069】
(記録層の数)
上記「再生専用媒体の例」、「追記型の媒体の例1」、「追記型の媒体の例2」、「書き換え可能型の媒体の例」の各構成においては、記録容量向上の観点から、記録層を複数設けることも行なわれる。記録層を複数設ける場合、記録容量を考慮し、記録層の数は、通常2層以上、好ましくは3層以上とする。一方、記録層の数は、通常5層以下とする。
【0070】
〔1−2.基板〕
基板は、中心孔を有する環状の基板であれば、その形状は特に制限されない。具体的には、基板の形状は、例えば楕円や正多角形の形状としてもよいが、通常は中心孔を有する円盤状の形状を有する。
【0071】
また、基板の材料も特に制限されないが、通常は、適度な加工性と剛性を有するプラスチック、金属、ガラス等を用いることができる。基板面入射型の光記録媒体では、入射するレーザー光に対して基板が透明である必要があるが、膜面入射型の光記録媒体では、基板は透明とする必要はない。
【0072】
基板の材料を、金属やガラスとする場合には、基板は通常以下のように形成される。つまり、基板は、金属板やガラス板の表面に光や熱硬化性の薄い樹脂層を設けた後、この樹脂層に溝を形成することによって得られる。一方、基板の材料をプラスチックとする場合には、基板は通常射出成形によって形成される。射出成形を用いると、基板形状(例えば、円盤形状、表面の案内溝)を一度に形成することができる。
【0073】
射出成型できるプラスチック材料としては、従来CDやDVDで用いられたポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等を用いることができる。基板の厚みとしては、通常0.5mm以上、また、通常1.2mm以下とするのが好ましい。
【0074】
基板には通常、トラッキング用の案内溝が形成されている。
トラックピッチは、光記録媒体の記録再生に用いるレーザー光の波長によって異なる。具体的には、CD系の光記録媒体では、トラックピッチは通常1.5〜1.6μmである。DVD系の光記録媒体では、トラックピッチは通常0.7〜0.8μmである。青色レーザー用の光記録媒体では、トラックピッチは通常0.2〜0.5μmである。
【0075】
一方、溝の深さも光記録媒体の記録再生に用いるレーザー光の波長によって異なる。具体的には、CD系の光記録媒体では、溝深さは通常10〜300nmである。DVD系の光記録媒体では、溝深さは通常10〜200nmである。青色レーザー用の光記録媒体では、溝深さは通常10〜200nmである。
【0076】
〔1−3.記録媒体の具体例〕
(記録媒体の具体例)
図1(a),(b)は、何れも本発明の製造方法に用いられる記録媒体の構成の一例を模式的に示す図であり、図1(a)は記録媒体の上面図、図1(b)は図1(a)の記録媒体の線分L1における断面図である。図1(a),(b)に示す記録媒体1は、上記「書き換え可能型の媒体の例」の具体例であり、中心孔2を有する環状の基板3上に、記録再生機能層4がドーナッツ状に形成されている。なお、記録再生機能層4は、図1(b)に示すように、反射層5、誘電体層6、記録層7、及び誘電体層8が、この順に積層されて構成されている。
【0077】
樹脂を成形して基板を形成する場合、通常、中心孔は成形時に形成する。但し、中心孔のない基板を製造した後、カバー層の形成前に、中心孔を打ち抜き等により設けてもよい。中心孔の直径は、通常、5mm以上、30mm以下とするのが一般的である。また、基板の外径は、通常120mm程度とするのが一般的である。
【0078】
[2.透明樹脂層の作製]
〔2−1.樹脂膜Aの形成〕
本発明の製造方法では、上述の記録媒体の上に、その基板の中心孔の外径以上の外径を有する円盤状のキャップ部材を、前記中心孔を塞ぐように載置した状態で、前記キャップ部材と前記記録媒体とが形成する段差を覆う樹脂膜Aを形成する。
【0079】
キャップ部材の端部と基板(又は記録媒体)との間に微小な段差が生じる、又は、キャップ部材と基板(又は記録媒体)の接合部が完全に密閉されていないことにより、以下の現象が発生し易くなる。つまり、透明樹脂層形成時に透明樹脂層への気泡の巻き込み(泡状の異物の発生)、透明樹脂層端部での膜厚の乱れ、キャップ部材を取り除いた後に透明樹脂層に用いた材料の残部が基板上に残る、等の現象が発生し易くなる。このような現象の発生を抑制するためには、当該段差及び当該接合部を樹脂膜Aで被覆すればよい。
【0080】
上記樹脂膜Aの被覆により、
(a)円盤状のキャップ部材と記録媒体(基板)とを接着する(接着性)、
(b)記録媒体(基板)とキャップ部材との間の空気の流れの乱れを遮断する(遮断性)(c)記録媒体(基板)とキャップ部材とによって生じる段差、又は、基板そのものの凹凸等を覆い、後述する硬化性樹脂材料cの移動をスムーズにする(滑らかな被覆性)、
等の機能が発揮される。そして、これら機能が発揮される結果、膜の乱れ及び泡状の異物が少なく、かつ、膜厚が均一な透明樹脂層を得易くなる。
【0081】
なお、キャップ部材の平面形状は、必ずしも真円でなくともよいが、回転ブレの防止や塗布の均一性等の観点から、できるだけ真円に近い方が好ましい。
【0082】
図2(a)〜(c)は、本発明の製造方法において、記録媒体の上にキャップ部材を載置するとともに樹脂膜Aを形成した状態を模式的に示す図である。図2(a)は記録媒体の上面図、図2(b),(c)は何れも図2(a)の記録媒体の線分L2における断面構成の例を表わす図である。なお、図2(a)〜(c)において、図1と同じ構成要素については、同一の符号を付して表わしている。また、記録媒体1の構成要素である基板3、記録再生機能層4(反射層5、誘電体層6、記録層7、誘電体層8)については、個別の表示は省略してある。
【0083】
図2(a)に示すように、記録媒体1の基板の中心孔2の外径以上の外径を有する円盤状のキャップ部材9が、基板の中心孔2を塞ぐように載置された状態で、キャップ部材9と記録媒体1とが形成する段差を覆う樹脂膜Aが形成される。この樹脂膜Aは、図2(b)に示すように、記録媒体1とキャップ部材9とを離した状態でこれらの間を塞ぐように形成してもよく、図2(c)に示すように、記録媒体1とキャップ部材9とを密着させた状態でこれらを覆うように形成してもよい。何れの場合も、記録媒体1とキャップ部材9とが形成する段差は、樹脂膜Aによって覆われている。なお、記録媒体1とキャップ部材9と樹脂膜Aとの位置関係については、後に図7(a)〜(c)を用いて詳述する。
【0084】
良好な接着性、良好な遮断性、滑らかな被覆性等を容易に得るために、樹脂膜Aとしては、液体状の樹脂材料aを硬化させたものを用いる。即ち、液体状の樹脂材料aは均一に広がり易い。このため、樹脂膜Aの良好な密着性及び良好な遮断性が得られ易くなる。この結果、空気の乱れによる、透明樹脂層への泡混入や、透明樹脂層の筋状の膜厚異常を抑制し易くなる。なお、本明細書において、樹脂材料が「液体状」とは、通常の作業環境化(0℃〜50℃、0.9気圧〜1.1気圧)で液状であることを言う。
【0085】
樹脂膜Aの材質としては、硬化性の樹脂材料が用いられる。ここで、樹脂材料の硬化の形態は特に制限されず、例えば、溶融状態からの冷却固化や、溶媒の蒸発による乾燥固化であってもよい。但し、通常は熱硬化性樹脂材料、光硬化性樹脂材料等が用いられる。
【0086】
中でも、樹脂材料aは、光硬化性の樹脂材料であることが好ましい。光硬化性の樹脂材料とすることにより、作業性が良好になり、かつ、より滑らかな被覆性を得易くなる。つまり、一般に、光硬化性の樹脂材料は、硬化速度が速いために、作業性が容易になり易い。また、光の照射タイミングを変えることによって樹脂膜Aの形状の制御ができるので、樹脂材料aと、基板及びキャップ部材との接着性を制御し易い。更に、光硬化性の樹脂材料とすることにより、滑らかな被覆性を制御し易い。
【0087】
このような光硬化性の樹脂材料としては、例えば、紫外線硬化性樹脂材料を挙げることができる。紫外線硬化性樹脂としては、ラジカル系(ラジカル重合型の)紫外線硬化性樹脂とカチオン系(カチオン重合型の)紫外線硬化性樹脂が挙げられ、いずれも使用することができる。ラジカル系紫外線硬化性樹脂としては、通常、紫外線硬化性化合物と光重合開始剤を必須成分として含む組成物が用いられる。ラジカル系紫外線硬化性化合物としては、例えば、単官能(メタ)アクリレート及び多官能(メタ)アクリレートを重合性モノマー成分として用いることができる。これらは、各々、単独又は2種類以上併用して用いることができる。ここで、アクリレートとメタアクリレートとを併せて(メタ)アクリレートと称する。光重合開始剤としては、光開裂型又は水素引き抜き型のものが好ましい。
【0088】
本発明においては、ラジカル重合型のアクリル酸エステルを主体とする未硬化の紫外線硬化樹脂前駆体を用いて、これを硬化させて樹脂膜Aを得ることが好ましい。
【0089】
カチオン系紫外線硬化性樹脂としては、例えば、カチオン重合型の光開始剤を含むエポキシ樹脂が挙げられる。エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA−エピクロールヒドリン型、脂環式エポキシ、長鎖脂肪族型、臭素化エポキシ樹脂、グリシジルエステル型、グリシジルエーテル型、複素環式系等が挙げられる。エポキシ樹脂としては、遊離した塩素及び塩素イオンの含有率が少ないものを用いるのが好ましい。塩素及び塩素イオンの量は、好ましくは1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下である。カチオン重合型の光開始剤としては、スルホニウム塩、ヨードニウム塩、ジアゾニウム塩等が挙げられる。
【0090】
良好な樹脂膜Aの形状を得るためには、樹脂材料aは、適度な粘度と、適度な表面張力(ぬれ性)を有することが好ましい。具体的には、樹脂材料aの表面張力は、20(mJ/m2)より大きくすることが好ましい。一方、キャップ部材の臨界表面張力をCSC、
樹脂材料aが接する記録媒体部分の臨界表面張力CSSとすると、樹脂材料aの表面張力は、通常、CSCの0.5倍以上、2倍以下とすることが好ましい。また、樹脂材料aの表面張力は、通常、CSSの0.5倍以上、2倍以下とすることが好ましい。なお、本明細書において「臨界表面張力」とは、液体と固体の接触角(θ)が0になった時の液体の表面張力をいう。臨界表面張力の詳細については、例えば、「接着剤の実際知識(第2版、沖津俊直著、1996年5月23日発行、東洋経済新報社)」のp.42に記載されている。
【0091】
一般に、固体と液体とを接触させるとき、固体の表面張力が大きいと、接触角が小さくなって、ぬれ易くなる。液体と固体の表面張力が同程度で、やや液体の表面張力が大きいとき、接触角が90度以下となり好ましい。しかし、樹脂材料aは適当な粘度があるので、塗布した直後の接触角は大きく、しばらく時間を置いた後、平衡状態に達する。
【0092】
液体状の樹脂材料aの粘度(室温(25±5℃)での粘度)は、通常30mPa・s以上、好ましくは50mPa・s以上とする。樹脂材料aの粘度を上記範囲とすれば、キャップ部材及び記録媒体との表面張力の関係が良好となり易く、樹脂材料aの材質選択のバリエーションも増すことができる。
【0093】
一方、液体状の樹脂材料aの粘度は、通常5000mPa・s以下、好ましくは3000mPa・s以下、より好ましくは1000mPa・以下とする。樹脂材料aの粘度を上記範囲とすれば、樹脂膜Aの形状の制御性を保ちつつ、キャップ部材及び記録媒体との表面張力の関係が良好となり易く、樹脂材料aの材質のバリエーションも増すことができる。
【0094】
樹脂材料aの粘度の調整は、樹脂材料の種類・構成成分の比率を調整することによって行なうことができる。また、樹脂材料aの粘度の調整は、粘度の低い溶媒等を用いることによっても調整することができる。
【0095】
キャップ部材は円盤状のものを用いる。また、キャップ部材の外径は、記録媒体の中心孔の外径以上とする。
【0096】
以下に、キャップ部材の外径が記録媒体の中心孔の外径と略同一の場合について説明する。ここで、キャップ部材の外径が記録媒体の中心孔の外径と略同一であるとは、キャップ部材を記録媒体の中心孔にぴったりと嵌め込めるような状態となっていることをいう。図3(a),(b)は何れも、キャップ部材9の外径が記録媒体1の中心孔2の外径と略同一の場合における、キャップ部材9の載置及び樹脂膜Aの形成の一例を説明するための模式断面図である。図3(a),(b)において、図1、2と同じ構成要素については、同一の符号を付して表わしている。また、記録媒体1の構成要素である基板3、記録再生機能層4(反射層5、誘電体層6、記録層7、誘電体層8)については、個別の表示は省略してある。
【0097】
図3(a)に示すように、回転台Rの中心部にキャップ部材9を固定しておき、このキャップ部材9に記録媒体1の中心孔2を嵌め込むようにして載置する。この結果、キャップ部材9によって記録媒体1の中心孔2が塞がれた状態となる。そして、図3(b)に示すように、キャップ部材9と中心孔2との段差を覆うようにして樹脂膜Aを形成する。なお、図3(a)では、記録媒体1をキャップ部材9に被せるようにして載置をおこなっているが、逆に、キャップ部材9を記録媒体1の上から被せるようにして載置を行なってもよい。
【0098】
本発明では、キャップ部材の外径を光記録媒体の中心孔の外径よりも大きくすることが好ましい。キャップ部材の外径を光記録媒体の中心孔の外径よりも大きくすることにより、液体状の樹脂材料aを塗布して樹脂膜Aを設ける場合(詳細は後述する。)、樹脂材料aが中心孔に流れこみ難くなる。この結果、例えば、吸引(真空系の装置)を利用して記録媒体を回転台Rに固定している場合に、樹脂材料aが真空系の装置に流れ込んで装置の故障を招くおそれが低減される。また、樹脂材料aが中心孔に流れ込み難くなる結果、中心孔に樹脂膜Aの残渣が残ることがなくなり、光記録媒体の動作を良好に行ない易くなる。
【0099】
キャップ部材の外径を光記録媒体の中心孔の外径よりも大きくする場合、キャップ部材の直径を記録媒体の中心孔の直径よりも通常1mm以上、好ましくは2mm以上大きくする。キャップ部材の直径と中心孔の直径との関係を上記のように設定すれば、キャップ部材は、中心孔の偏芯に対して十分に許容誤差を有するようになるため、装置設計が行ない易い。
【0100】
一方、キャップ部材の直径と記録媒体の中心孔の直径との差は通常30mm以下、好ましくは25mm以下とする。キャップ部材の直径と中心孔の直径との関係を上記のように設定すれば、キャップ部材の変形が抑制され、また、キャップ部材を取り除く(キャップ部材を取り除く方法の詳細は後述する。)場合も、キャップ部材を取り除き易くなる。
以下に、このようなキャップ部材の具体例について説明する。
【0101】
図4(a)〜(c)は、何れも本発明の製造方法に用いられるキャップ部材の例を示す斜視図である。図4(a)に示すキャップ部材9は、薄い円筒状の形状を有している。このようなキャップ部材は、作製が容易であるという利点がある。図4(b)に示すキャップ部材9’は、位置精度を出すために、記録媒体の中心孔に挿入できるようなガイドがついた形状を有する。図4(c)に示すキャップ部材9”は、透明樹脂層に発生する筋状の欠陥を良好に抑えるため、及び硬化性樹脂材料cをためるための凹部を中央に有し、硬化性樹脂材料cの流れ性を制御するために傾斜がつけられている。また、キャップ部材9”は、厚みが厚いので、剛性が高くなるという利点もある。但し、図4(a)〜(c)はあくまでも例示であり、本発明の製造方法において使用できるキャップ部材の構造は、これらの例に限定されるものではない。
【0102】
キャップ部材の外周端の厚さは、形成される透明樹脂層の膜厚の5倍以下とすることが好ましく、4倍以下とすることがより好ましく、3倍以下とすることが更に好ましい。キャップ部材の外周部の厚さを上記範囲内とすれば、キャップ部材と記録媒体との段差を小さくすることができる。この結果、良好な樹脂膜Aが得易くなる。つまり、上記段差を上記範囲内とすれば、硬化性樹脂材料cを回転延伸させるときに、キャップ部材と記録媒体との間への泡の混入が起こり難くなる。また、上記段差を上記範囲内とすれば、段差そのものの均一性を向上させ易くなる。この結果、透明樹脂層の膜厚均一性をより良好にし易くなる。一方、現実的には、キャップ部材の外周端の厚さは、形成される透明樹脂層の膜厚の通常0.1倍以上となる。キャップ部材の外周端の厚さを上記範囲とすれば、機械強度を確保し易くなる。また、生産上の取り扱いも容易となる。更に、キャップ部材の強度を大きくできる。このため、透明樹脂層の形成後にキャップ部材及び樹脂膜Aを記録媒体から剥離する場合において、キャップ部材が破れ難くなり、良好な剥離が行ない易くなる。なお、上述の図4(a)〜(c)に示すxが、キャップ部材の外周端の厚さを示す例となる。
【0103】
キャップ部材の材質としては、例えば、金属、セラミックス、プラスチック、紙、木材等、また、それらの複合材等が選ばれる。作業性、コストの点から、プラスチックが好適な材料である。コストが安くできる場合には、キャップ部材を使い捨てとしてもよい。この結果、製造装置の作製が容易になる。
【0104】
キャップ部材の材質としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニリデン、ABS樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、エポキシ樹脂、及び三酢酸セルロース樹脂を挙げることができる。この中でも、キャップ部材を、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ナイロン、及びポリ塩化ビニルで形成することが好ましい。これらのキャップ部材は、入手し易く、コストも安く、加工し易い。また、これらのキャップ部材を用いることにより、良好な樹脂膜Aが形成し易い。
【0105】
中でも、後述する様に、剥離残渣を低減する観点から、キャップ部材の材質としては、ポリ塩化ビニルを用いることが好ましく、また、100%モジュラスが通常3MPa以上、30MPa以下の材料を用いることが好ましい。
【0106】
樹脂材料aの塗布、キャップ部材の載置、及び樹脂膜Aの形成は、以下の手順で行なうことが好ましい。即ち、まず、樹脂材料aを記録媒体上のキャップ部材の外径に相当する位置に円環状に塗布する。そして、キャップ部材を樹脂材料aに押圧した後、樹脂材料aを硬化させて樹脂膜Aを形成する。
【0107】
この手順の詳細について、以下、図5(a)〜(c)を用いて説明する。なお、図5(a)〜(c)は何れも、本発明の製造方法における樹脂材料aの塗布及びキャップ部材の押圧方法の一例を説明するための模式断面図である。なお、図5(a)〜(c)においても、図1〜4と同じ構成要素については、同一の符号を付して表わしている。また、記録媒体1の構成要素である基板3、記録再生機能層4(反射層5、誘電体層6、記録層7、誘電体層8)については、個別の表示は省略してある。
【0108】
まず、図5(a)に示すように、回転台R上に置かれた記録媒体1に樹脂材料aを塗布する。具体的には、回転台Rに記録媒体を置き、回転台Rを回転させながら、ノズルNから樹脂材料aを吐出して塗布する。或いは、回転台Rを固定してノズルNを回転台Rの上方で円周状に移動させてもよい。なお、図5(a)では、樹脂材料aとして紫外線硬化性樹脂を用いている。このように樹脂材料aを塗布することにより、樹脂材料aを記録媒体1上のキャップ部材9の外径に相当する位置に円環状に塗布できる。
【0109】
ここで、吐出量は塗布半径に依存するため、吐出量は、上記塗布半径に従って適宜設定すればよい。ただ、塗布量が少ない場合は均一な塗布が行ない難くなる傾向になる。また、少ない塗布量で均一な塗布を行なうとすると、高価な塗装設備による精密塗布が必要となる場合もある。このため、一般的な設備、ノズルを用いて塗布する場合、吐出量は、通常10mg以上、好ましくは30mg以上とする。吐出量を上記範囲とすれば、良好な樹脂膜Aを作製し易くなる。一方、吐出量は、通常1g以下、好ましくは500mg以下とする。吐出量を上記範囲とすれば、円環状に均一に塗布し易くなる。そして、基板の偏芯、表面状態の振れによると思われる、円環状の塗布領域が波打った状態になり難くなる。なお、後述するように、樹脂材料aを2度塗りすることにより、上記円環形状の塗布がより良好に行ない易くなる。
【0110】
次に、図5(b)に示すように、キャップ部材9を樹脂材料aに押圧する。ここで、樹脂材料aがキャップ部材9表面に回りこんで、キャップ部材9の端面を完全に覆うようにすることが好ましい。樹脂材料aの粘度、樹脂材料aの表面張力とキャップ部材9の表面張力との関係等を制御することによって、樹脂材料aがキャップ部材9の端部を良好に覆うようになる。更に、樹脂材料aに押圧してから樹脂材料aを硬化させるまで、キャップ部材9をしばらくの間放置することが好ましい。放置することにより、樹脂材料aの回りこみがより確実に行なわれ易くなる。
【0111】
続いて、図5(c)に示すように、この状態で樹脂材料aを硬化させて樹脂膜Aを形成する。図5(c)では、一例として、紫外線を照射することにより、樹脂材料aの硬化を行なっている。
【0112】
なお、塗布される樹脂材料aの粘度、キャップ部材9を置くタイミング、キャップ部材9を押圧する圧力、樹脂材料aを硬化させるタイミング等を制御することにより、密着性、遮断性、滑らかな被覆性を制御することができる。
【0113】
また、キャップ部材を先に置き、その後に樹脂材料aを塗布し、その後に硬化させても、樹脂膜Aが得られる。
この場合、キャップ部材を記録媒体に接着して載置することが好ましい。そして、樹脂材料aをキャップ部材の外径に相当する位置に円環状に塗布し、樹脂材料aを硬化させて樹脂膜Aを形成することが好ましい。
【0114】
キャップ部材と記録媒体(基板)とを接着することにより、樹脂膜Aの形状が制御し易くなり、また、操作を容易にし易くなる。つまり、接着を行なうことにより、樹脂材料aを塗布する場合でもキャップ部材が動き難くなる。この結果、樹脂膜Aの形状を良好にし易くなる。
【0115】
ここで、上記接着を、硬化性又は粘着性の接着剤を用いて行なうことが好ましい。このような接着剤を用いることにより、キャップ部材と記録媒体(基板)との平行性が得られ易くなる。また、上記接着剤を用いることにより、キャップ部材と記録媒体との隙間の遮断性が向上する。このため、樹脂材料aを塗布の際に、中心孔に樹脂材料aが流れ込み難くなる。この結果、樹脂材料aの吐出圧をより大きく設定することができ、樹脂膜Aの形状を制御し易くなる。ここで、上記硬化性の接着剤として、粘度30mPa・s以上、5000mPa・s以下の光硬化性樹脂を用いることが好ましい。このような光硬化性樹脂を用いると、操作が容易になる。
【0116】
上記樹脂膜Aの形成方法の他、樹脂材料aを二度塗りすることによって良好な樹脂膜Aを形成し易くなる。つまり、キャップ部材の外周よりも外側に位置する記録媒体上に樹脂材料aを円環状に塗布し、更に、樹脂材料aをキャップ部材の外径に相当する位置に円環状に塗布する方法である。この方法においては、キャップ部材の外周よりも外側に円環状に塗布した樹脂材料aが「壁(堰)」となって、キャップ部材の外径に相当する位置に塗布する樹脂材料aが記録媒体の外周方向へ流れ出すことが抑制される。この流れ出しが抑制される結果、キャップ部材の外径に相当する位置に塗布する樹脂材料aの量を多くすることができる。この結果、樹脂膜Aの形状を再現性良く形成し易くなる。
【0117】
以下に、この方法の具体例について説明する。
図6(a)〜(d)は何れも、キャップ部材の外周よりも外側に樹脂材料aを円環状に塗布する操作の一例、及び、樹脂材料aをキャップ部材の外径に相当する位置に円環状に塗布する操作の一例を説明するための模式断面図である。図6(a)〜(d)において、図1〜5と同じ構成要素については、同一の符号を付して表わしている。また、記録媒体1の構成要素である基板3、記録再生機能層4(反射層5、誘電体層6、記録層7、誘電体層8)については、個別の表示は省略してある。
【0118】
図6(a),(b)に示すように、記録媒体1の中心孔2を塞ぐように載置されたキャップ部材9の外周よりも外側に樹脂材料a’を円環状に塗布する。そして、樹脂材料a’を硬化させて、樹脂リングA’を形成する。次に、図6(c),(d)に示すように、キャップ部材9の外径に相当する位置に樹脂材料a”を円環状に塗布する。ここで、樹脂材料a”が記録媒体1の外周側へと広がった場合においても、上記樹脂リングA’によって樹脂材料a”の流れ出しが堰き止められ易くなる。この状態で樹脂材料a”を硬化させれば、最終的な樹脂膜Aを得ることができる。このように、樹脂リングA’が樹脂材料a”堰止める機能を有するため、樹脂材料a”の吐出圧の変化によって樹脂膜Aの幅を変えずに、樹脂膜Aの高さのみを変化させ易くなる。
【0119】
なお、上記具体例では、樹脂材料a’を硬化させて樹脂リングA’を得ているが、樹脂材料a’、a”をまとめて硬化させてもよい。樹脂材料a’に所定の粘度があれば、樹脂材料a’を硬化させなくても「壁(堰)」としての役割を果たすからである。また、樹脂材料a’及び樹脂材料a”としては、通常は同じ材料を用いるが、当然、異なる材料を用いてもよい。
【0120】
また、上記具体例においてキャップ部材9を記録媒体1に接着させている場合は、キャップ部材9と記録媒体1との接着部が内側の「壁(堰)」となり、上記円環状に塗布した樹脂材料a’又は樹脂リングA’が外側の「壁(堰)」となる。つまり、内と外の二重の堰止効果が発揮され、樹脂膜Aの形状の再現性を更に良好にし易くなる。
【0121】
更に、以下のような方法を用いて樹脂膜Aを形成してもよい。つまり、予め、キャップ部材の端部に樹脂材料aを塗布した後に、樹脂材料aを介して記録媒体に密着させる。そして、樹脂材料aを硬化させて樹脂膜Aを得る方法である。
【0122】
また、以下のような方法を用いて樹脂膜Aを形成してもよい。つまり、予め、キャップ部材の裏面の外周付近に、粘着材層(感圧接着剤層)を薄く形成する。そして、キャップ部材を記録媒体に押し当てて接着することにより、キャップ部材の載置を行なう。更に、キャップ部材と記録媒体との段差を覆うように樹脂材料aを円環状に塗布する。その後、樹脂材料aを硬化させて樹脂膜Aを形成する。上記方法においては、キャップ部材に上記粘着材層(感圧接着剤層)を予め形成した。しかし、粘着材層(感圧接着剤層)を記録媒体上に円環状に形成してもよい。そして、記録媒体上に形成された粘着材層(感圧接着剤層)にキャップ部材を押し当て、キャップ部材の載置を行なってもよい。
【0123】
なお、粘着材層(感圧接着剤層)を用いる上記方法においても、図6の様に、樹脂材料a’、a”をそれぞれ形成して樹脂膜Aを形成してもよい。この点については前述の通りである。
【0124】
粘着材層(感圧接着剤層)を用いる上記方法においては、上記粘着材層(感圧接着剤層)の存在により、樹脂材料a、a’、a”がキャップ部材裏面に回り込むのを防止し易くなる。また、粘着材層(感圧接着剤層)は、キャップ部材とともに、記録媒体から容易に取り除くことができるような材料であることが好ましい。具体的には、キャップ部材を記録媒体から取り除いた場合に、記録媒体上に残渣が存在しないことが好ましい。つまり、上記粘着材層(感圧接着剤層)には、仮止め程度の接着力があれば十分である。
【0125】
樹脂膜Aは、通常、キャップ部材の外周に沿って、キャップ部材の外周端から記録媒体(具体的には基板)上に張り出して形成される。この場合における、基板と樹脂膜Aとキャップ部材との位置関係としては、幾つかの場合が考えられる。
【0126】
図7(a)〜(d)は何れも、キャップ部材の直径が記録媒体の中心孔の直径よりも大きい場合における、本発明の製造方法における基板と樹脂膜Aとキャップ部材との位置関係の例を示す模式図である。そして、図7(a)〜(d)は、断面の一部を拡大して表わしている。なお、図7(a)〜(d)においても、図1〜6と同じ構成要素については、同一の符号を付して表わしている。また、記録媒体1の構成要素である基板3、記録再生機能層4(反射層5、誘電体層6、記録層7、誘電体層8)については、個別の表示は省略してある。
【0127】
図7(a)〜(c)において、キャップ部材9の外周端の厚さをx、キャップ部材9の外周端から樹脂膜Aの最大高さまでの距離をy、キャップ部材9の外周端から記録媒体1(具体的には基板)上に張り出す樹脂膜Aの幅をzとする。このときに、
y ≦ 5×x
z ≦ 20×x
とすることが好ましい。
【0128】
x、y、zを上記関係とすると、良好な透明樹脂層が得られ易い。つまり、キャップ部材9の外周端から樹脂膜Aの最大高さまでの距離:yが、キャップ部材9の外周端の厚さ:x(なお、図7(a)〜(c)ではキャップ部材9が円盤形状ゆえ、キャップ部材9の外周端の厚さはキャップ部材9の厚さと等しくなっている。)の5倍より大きくなると、均一な樹脂膜Aが得られ難くなる。この結果、透明樹脂層に膜厚を不均一にする筋状の欠陥が生じ易い。一方、キャップ部材9の外周端から記録媒体1上に張り出す樹脂膜Aの幅:z(キャップ部材9の外周端から記録媒体(具体的には基板)上に張り出す樹脂膜Aの幅が、キャップ部材9の円周方向で一定とならない場合には、キャップ部材9の外周端から記録媒体1上に張り出す樹脂膜Aの幅の最小の長さをzとする。)を、キャップ部材9の外周端の厚さ:x(図7(a)〜(c)ではキャップ部材9が円盤形状ゆえ、キャップ部材9の外周端の厚さはキャップ部材9の厚さと等しくなっている。)の20倍より大きくなると、透明樹脂層形成後にキャップ部材9を剥離した時に、樹脂膜Aの残渣が記録媒体1上に残り易い。また、キャップ部材9の剥離に必要以上の力が必要となり、記録媒体1に傷がついたりする場合もあり得る。
【0129】
なお、材料コストの観点からも、y及びzの値を不必要に大きくすることは無く、以下の範囲でも効果を得られ易い。
y ≦ 2×x
z ≦ 10×x
【0130】
但し、キャップ部材9と記録媒体1とが形成する段差を樹脂膜Aでより確実に覆うために、y、zの下限値は以下のように設定することが好ましい。
0 ≦ y
0.2x ≦ z
なお、y=0とは、具体的には図7(c)に示す位置関係の場合をいう。
【0131】
また、図7(a)に示すように、キャップ部材9と記録媒体1との距離をwとする。この場合、wは、通常0以上とする。w=0とは、具体的には図7(b)、(c)の状態をいう。一方、wは、通常2x以下、好ましくはx以下、より好ましくは0.5x以下、更に好ましくは0.2x以下とする。
【0132】
また、キャップ部材9の外周端の厚さ:x、キャップ部材9の外周端から樹脂膜Aの最大高さまでの距離差:y、及びキャップ部材9と記録媒体1との距離:w、を合計した値(w+x+y)は、通常x以上とする。ここで、w+x+y=xとは、具体的には図7(c)の状態をいう。一方、w+x+yは、通常透明樹脂層膜厚の20倍以下とする。上記範囲内とすれば、膜厚の均一性が高い透明樹脂層を得易くなる。
【0133】
樹脂膜Aを用いることにより、キャップ部材と記録媒体との段差をなだらかな斜面で覆うことができるようになる。これは、硬化性樹脂材料cが回転延伸される際に、キャップ部材上から記録媒体上へとなめらかに流れ易くなることを意味する。この結果、硬化性樹脂材料cに気泡が巻き込まれ難くなる。
【0134】
この効果をより顕著にするためには、樹脂膜Aの最外周と前記記録媒体1とがなす角度(図7(d)のθで表わされる角度。これを以下、適宜「樹脂膜Aの外周端の角度」或いは単に「外周端の角度」と称する。)を、通常30°以下、好ましくは25°以下に保つことが望ましい。外周端の角度θを上記範囲内に制御するためには、例えば、樹脂材料aの塗布量、樹脂材料aの粘度、記録媒体に対する樹脂材料aの濡れ性等を調整する等の手法を用いることが出来る。
【0135】
加えて、樹脂膜Aの顕著な効果として、以下を挙げることができる。つまり、キャップ部材の外周端にバリが存在する場合に、バリを覆うように樹脂膜Aを形成することができる。
【0136】
キャップ部材を形成する場合、一般に、機械加工、成型加工、打ち抜き加工等が用いられる。いずれの製造方法においても、キャップ部材の外周端が鋭利になり易い。この傾向は、キャップ部材の外周端の厚さを透明樹脂層の膜厚の5倍以下と、キャップ部材の外周端の厚さを薄くする場合に顕著になり易い。そして、キャップ部材の外周端が鋭利になり易い結果、キャップ部材の外周部にバリ(burr)が発生する場合がある。透明樹脂層の形成の際に上記バリが樹脂膜Aから突出していると、透明樹脂層の膜厚の乱れが発生し易くなる。上記バリはやすり加工などで処理してもよいが、キャップ部材の変形が発生し易くなる。更に、上記加工によりキャップ部材のコストも上昇し易い。よって、キャップ部材のバリを覆うように樹脂膜Aを形成すれば、透明樹脂層形成時の上記バリの影響を回避し易くなる。
【0137】
また、樹脂膜Aによって、記録媒体の基板上に存在する0.05mm以上の段差が全て覆われるようにすることが好ましい。以下、具体例を用いて説明する。
【0138】
透明樹脂層側からレーザー光を照射して情報を読み出す光記録媒体においては、透明樹脂層に傷がつくことを回避する手段として、基板上に突起部等の段差を設ける場合がある。
【0139】
図8(a)は、突起部を有する基板を用いた光記録媒体の構成の例を示す模式断面図である。なお、図8(a)においても、図1〜7と同じ構成要素については、同一の符号を付して表わしている。図8(a)に示す光記録媒体10’は、中心孔2を有する環状の基板3’上に記録再生機能層4を設けた記録媒体1’において、記録再生機能層4上に更に透明樹脂層11を設けたものである。ここで、基板3’は、中心孔2の周囲に、中心孔2を取り囲むように環状の突起部12が設けられている他は、図1〜7に示す基板3と同一である。また、記録媒体1’及び光記録媒体10’は、図1〜7に示す基板3に代えて基板3’を用いた他は、図1〜7に示す記録媒体1及び光記録媒体10とそれぞれ同一である。このように、突起部12を設けた基板3’を用いることにより、複数の光記録媒体10’,10’を重ねてストック等した場合においても、透明樹脂層11が他の光記録媒体の基板と接触することがなくなる。このような突起部12の高さは、通常0.05mm以上に設定される。
【0140】
しかしながら、この突起部12のような0.05mm以上の段差は、一般に、透明樹脂層をスピンコートによって形成する場合には、障壁となる。そして、硬化性樹脂材料cの流れを乱す原因となり易い。加えて、硬化性樹脂材料cへの気泡の巻き込みの原因ともなり易い。このため、本発明では、キャップ部材及び樹脂膜Aによって、基板上に存在する0.05mm以上の段差が全て覆われるようにすることが好ましい。
【0141】
図8(b)〜(d)は何れも、突起部を有する基板を用いた記録媒体にキャップ部材の載置と樹脂膜Aの形成を行なった状態を表わす模式断面図である。なお、図8(b)〜(d)においても、図1〜7及び図8(a)と同じ構成要素については、同一の符号を付して表わしている。また、記録媒体1’の構成要素である基板3’、記録再生機能層4(反射層5、誘電体層6、記録層7、誘電体層8)については、個別の表示は省略してある。
【0142】
図8(b)は、キャップ部材9の直径が突起部12の外周の直径よりも大きい場合の例である。同図に示す様に、キャップ部材9を突起部12上に被せて、キャップ部材9の周囲に樹脂膜Aを形成すれば、透明樹脂層11の形成時に突起部12が障害となることがなく、突起部12を回避することが可能となる。
【0143】
また、図8(c)は、キャップ部材9の直径と突起部12の頂点部分の直径とが略同一の場合の例である。同図に示す様に、キャップ部材9を突起部12の頂点部分に載置して、キャップ部材9の周囲に樹脂膜Aを形成している。ここで、樹脂膜Aは、突起部12の外周側の側面上に形成されることとなる。この結果、透明樹脂層11の形成時に突起部12が障害となることがなく、突起部12を回避することが可能となる。
【0144】
図8(d)は、キャップ部材9の直径が突起部12の頂点部分の直径よりも小さい場合の例である。同図に示す様に、キャップ部材9を突起部12の頂点部分よりも内周側に被せるように載置する。そして、キャップ部材9の周囲に樹脂膜Aを形成している。ここで、樹脂膜Aは、突起部12上にも形成されることとなる。この結果、透明樹脂層11の形成時に突起部12が障害となることがなく、突起部11を回避することが可能となる。
【0145】
以上説明したように、キャップ部材の載置位置及び樹脂膜Aの形成位置を工夫すれば、上述の突起部に限らず、記録媒体や基板が有する突起部や凹凸等の各種の段差を容易に回避することができる。例えば、基板にはスタンパ押さえの跡が存在する場合があるが、この場合にも、上記方法に倣ってスタンパ押さえの跡をキャップ部材及び樹脂膜Aで覆うことができるため、良好な透明樹脂層が得られ易くなる。
【0146】
樹脂膜Aの効果として、更に挙げられるのは、樹脂膜Aを用いることによりキャップ部材と記録媒体とを接着できる点である。そして、樹脂膜Aの接着強度を適宜選択することにより、キャップ部材と記録媒体との接着性を強固なものとすることができる。具体的には、樹脂膜Aを形成した状態で、キャップ部材を吸引することにより記録媒体を上方に移動させた場合に、記録媒体とキャップ部材とが剥離しないことが好ましい。
【0147】
光記録媒体の製造時には、キャップ部材を吸引して記録媒体を上方(又は横方向)に移動させる場合がある。例えば、搬送のため、キャップ部材の外周部分に触わると、その部分に存在する透明樹脂層等の表面が汚れ易くなる。更に、第2の透明樹脂層を続けて設ける場合、その汚れが原因で膜厚の変動が生じる場合もある。記録媒体の外周端、内周端を保持して搬送すれば、透明樹脂層等の汚れは生じ難い。しかし、この方法は搬送精度が悪く、且つ、発埃し易く歩留まり低下の原因となる。そこで、キャップ部材を吸引・保持して搬送すれば、これらの課題を回避できる場合がある。このとき、記録媒体がキャップ部材から脱落すると、光記録媒体の歩留まりが低下することとなる。このため、キャップ部材を吸引することにより記録媒体を上方に移動させた場合に、記録媒体とキャップ部材とが剥離しない程度の接着力を有する樹脂膜Aを用いることにより、製造装置の作製が容易になる。
【0148】
また、記録媒体(基板)と樹脂材料aとキャップ部材の各々の表面張力を調整することにより、樹脂膜Aの形状制御が行ない易い、キャップ部材を取り除いたときに記録媒体上に残渣が残り難い、キャップ部材を取り除き易い、等の効果が得られる。
【0149】
なお、基板面上のスタンパ押さえの跡等の段差が、記録媒体上の前記キャップ部材の外径に当たる位置とは比較的離れた場所に存在する場合には、以下の方法も有効である。即ち、前記キャップ部材と前記記録媒体が形成する段差を覆う樹脂膜Aとは別に、上記のような記録媒体上の段差を覆う樹脂膜Bを形成し、樹脂膜Aと樹脂膜Bとが物理的に分離した状態で前記硬化性樹脂材料cを形成する方法である。
【0150】
図16は、キャップ部材と記録媒体とが形成する段差を覆う樹脂膜Aと、記録媒体上に存在する段差を覆う樹脂膜Bとを、両者が物理的に分離するように形成した状態を模式的に示す図である。なお、図16においても、図1〜8と同じ構成要素については、同一の符号を付して表わしている。
【0151】
図16に示す記録媒体1”は、図1〜7に示す記録媒体1と基本的に同一であるが、記録媒体1”表面の、キャップ部材9の外径に当たる位置とは比較的離れた場所に、段差S1を有している。そして、図16では、キャップ部材9及び記録媒体1”間の段差(これを図16ではS0で表わす。)を覆う樹脂膜Aに加えて、この段差S1を覆う樹脂膜Bが、樹脂膜Aと物理的に分離するように形成されている。
【0152】
このように、複数の段差S0、S1を覆うために、物理的に分離した複数の樹脂膜A、Bをそれぞれ形成することにより、これらの段差S0、S1を単一の樹脂膜Aで覆う場合に比べ、樹脂の使用量を抑えることができ、且つ、それぞれの段差S0、S1を覆うための樹脂膜A、Bを、より好ましい形状に制御し易くなる。
【0153】
樹脂膜Bの材料や形成方法等の詳細は、樹脂膜Aの材料や形成方法の詳細と、基本的に同様である。
なお、樹脂膜Aと樹脂膜Bとは、同一の材料により形成してもよく、異なる材料により形成してもよいが、光記録媒体の製造効率等の観点から、同一の材料を用いて形成することが好ましい。
また、樹脂膜Aと樹脂膜Bとは、同一の工程により同時に形成してもよく、複数の工程により個別に形成してもよい。
また、記録媒体上に3箇所以上の段差が存在する場合も、上述と同様の考え方に基づいて、各段差を必要に応じて物理的に分離された樹脂膜によって個別に覆うことにより、対応することが可能である。
【0154】
〔2−2.透明樹脂層の形成〕
本発明の製造方法では、樹脂膜Aの形成後、キャップ部材上に透明樹脂層形成用の硬化性樹脂材料cを供給する。そして、記録媒体を回転させることにより、硬化性樹脂材料cを回転延伸させる。更に、回転延伸中又は回転延伸後に硬化性樹脂材料cを硬化させることにより、記録媒体上に透明樹脂層を形成する。
【0155】
透明樹脂層形成用の硬化性樹脂材料cとしては、通常、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂等が用いられる。硬化性樹脂材料cは、光硬化性の樹脂材料であることが望ましい。これは、光硬化性の樹脂材料とすることにより、一般的に硬化速度が速く作業性が容易となり易いためである。加えて、硬化性樹脂材料cを回転延伸させる途中に光を照射させることにより、硬化性樹脂材料cの粘度が変わり、記録媒体の中心から外周まで、均一な膜厚が得られ易いためである。
【0156】
このような光硬化性の樹脂材料としては、例えば、紫外線硬化性樹脂材料を挙げることができる。紫外線硬化性樹脂としては、ラジカル系(ラジカル重合型の)紫外線硬化性樹脂とカチオン系(カチオン重合型の)紫外線硬化性樹脂が挙げられ、いずれも使用することができる。ラジカル系紫外線硬化性樹脂としては、通常、紫外線硬化性化合物と光重合開始剤を必須成分として含む組成物が用いられる。ラジカル系紫外線硬化性化合物としては、例えば、単官能(メタ)アクリレート及び多官能(メタ)アクリレートを重合性モノマー成分として用いることができる。これらは、各々、単独又は2種類以上併用して用いることができる。ここで、アクリレートとメタアクリレートとを併せて(メタ)アクリレートと称する。光重合開始剤としては、光開裂型又は水素引き抜き型のものが好ましい。
【0157】
本発明においては、ラジカル重合型のアクリル酸エステルを主体とする未硬化の紫外線硬化樹脂前駆体を用いて、これを硬化させて透明樹脂層を得ることが好ましい。
【0158】
カチオン系紫外線硬化性樹脂としては、例えば、カチオン重合型の光開始剤を含むエポキシ樹脂が挙げられる。エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA−エピクロールヒドリン型、脂環式エポキシ、長鎖脂肪族型、臭素化エポキシ樹脂、グリシジルエステル型、グリシジルエーテル型、複素環式系等が挙げられる。エポキシ樹脂としては、遊離した塩素及び塩素イオン含有率が少ないものを用いるのが好ましい。塩素の量は、好ましくは1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下である。カチオン重合型の光開始剤としては、スルホニウム塩、ヨードニウム塩、ジアゾニウム塩等が挙げられる。
【0159】
一般に、光硬化性の樹脂材料は、樹脂の骨格となる樹脂主成分であるオリゴマー、反応性希釈剤としてモノマー、開始剤、添加剤等の混合物からなる。透明樹脂層には、硬度が大きい、硬化収縮が小さい、記録媒体の記録再生波長領域における光透過率が高い、経時変化の少ない、等の特性が求められる。
【0160】
硬度を大きくするには、オリゴマーそのものの分子構造を工夫したり、立体的に架橋するように、2官能、3官能又はそれ以上の反応基を持つモノマーを用いたりする。この多官能モノマー成分は、多すぎると、硬化収縮が大きくなる。これを防ぐために、オリゴマーの構造を工夫したり、各モノマーの組成を調整してバランスをとる。
【0161】
記録再生波長領域の光に対する光透過率は、オリゴマーの骨格、光重合開始剤の種類、量に依存する。このため、上記光透過率を制御するために、これらの設計を工夫すればよい。
【0162】
経時変化は、未硬化成分の揮発、分解による腐食成分の発生等によりもたらされる事が多い。このため、経時変化を抑制するためには、混合物の組成、特に重合開始材の種類、量を工夫する。ただし、この重合開始材は、樹脂の架橋に組み込まれないので、徐々に揮発(溶出)されることがある。このため、上記重合開始材は、必要最低限の量に止めるべきである。
【0163】
硬化性樹脂材料cの粘度(室温(25±5℃)での粘度)は、通常30mPa・s以上、好ましくは100mPa・s以上とする。硬化性樹脂材料cの粘度を上記範囲とすれば、硬化性樹脂材料cの塗布性が良好となり、透明樹脂層の膜厚制御が行ない易くなる。つまり、上記粘度範囲とすれば、硬化性樹脂材料cを円状又は円環状に形成することができる。換言すれば、透明樹脂層形成のために適切な流動性を硬化性樹脂材料cに付与することができる。この結果、透明樹脂層の膜厚制御が容易となる。また、基板の外周端の液の回り込みも抑制し易くなる。
【0164】
一方、硬化性樹脂材料cの粘度(室温(25±5℃)での粘度)は、通常5000mPa・s以下、好ましくは4000mPa・s以下とする。硬化性樹脂材料cの粘度を上記範囲とすれば、回転延伸の時間を所定範囲内に制御することができるため、作業性が良好となる。加えて、硬化性樹脂材料cの粘度を上記範囲とすれば、一般的に、温度による粘度変化も抑制し易くなる。このため、実用上好ましい。
【0165】
なお、樹脂材料aと硬化性樹脂材料cとは、上記所定の特性を満たすために、異なる材料を用いることが好ましいが、場合によっては同じ材料を用いても構わない。
【0166】
本発明の製造方法における透明樹脂層の形成手順の一例について、以下、図9(a)〜(c)を用いてより具体的に説明する。ここで、図9(a)〜(c)は何れも、本発明の製造方法において透明樹脂層を形成する手順の一例を示す模式断面図である。なお、図9(a)〜(c)においても、図1〜8と同じ構成要素については、同一の符号を付して表わしている。また、記録媒体1の構成要素である基板3、記録再生機能層4(反射層5、誘電体層6、記録層7、誘電体層8)については、個別の表示は省略してある。
【0167】
まず、図9(a)に示すように、キャップ部材9の上に透明樹脂層形成用の硬化性樹脂材料c(紫外線硬化性樹脂)をノズルNから供給する。次いで、ノズルNを記録媒体1の上方から移動させ、図9(b)に示すように、回転台Rを高速回転させて硬化性樹脂材料cを回転延伸させる。ここで、回転速度を徐々に上げていくことが好ましい。次いで、回転延伸させた硬化性樹脂材料cを硬化させて透明樹脂層11とする。硬化性樹脂材料cの硬化は、図9(c)に示すように、回転延伸中又は回転延伸後に紫外線を照射することによって行なえばよい。透明樹脂層11の膜厚をより精密に制御する観点から、回転延伸中に硬化性樹脂材料cの硬化を行なうことが好ましい。なお、硬化時のために照射する紫外線量は、透明樹脂層11の膜厚制御の観点から適宜制御すればよい。
【0168】
また、記録媒体1の外周付近での透明樹脂層11の形状を制御するために、硬化性樹脂材料cを回転延伸させながら紫外線照射する場合において、記録媒体の端部付近の領域を覆うようにシールドを設置する(図9(c)の符号S)ことも好ましい。そして、回転延伸後にシールドSを取り除き、再度高速回転させて、記録媒体1の端部付近に存在する未硬化の硬化性樹脂材料cを振り切る。同時に、紫外線照射を行ない硬化させる。このようにすれば、記録媒体1端部付近の透明樹脂層11の膜厚の均一性が保ち易くなる。この他にも、特開2002−237105号公報に記述されているように、予め大きな直径の基板を用意し、透明樹脂層を形成後、外周を切削加工しても、外周付近の膜厚の均一性が確保される。
【0169】
なお、一旦、樹脂膜Aを形成すれば、複数の透明樹脂層を連続して形成することができる。つまり、上記の透明樹脂層を設けた後、更に別の透明樹脂層を1層以上設けることができる。
【0170】
例えば、透明樹脂層として、硬化性樹脂材料c1からなる層を塗布・硬化したのち、硬化性樹脂材料c2からなる層を塗布する。硬化性樹脂材料c1によって形成される透明樹脂層によって滑らかな被覆性が保持されると推測されるため、硬化性樹脂材料c2を塗布・硬化させても均一な膜厚の透明樹脂層を得られ易い。
【0171】
ブルーレイディスクを用いて、上記複数の透明樹脂層を形成する具体例を説明する。キャップ部材を載置し、樹脂膜Aを形成した記録媒体上に、比較的反りの少ない光学的に均一な厚みを有するカバー層(第1の透明樹脂層)を設ける。その後、キャップ部材及び樹脂膜Aを取り除く前に、硬度の大きな防汚性等を有するハードコート層(第2の透明樹脂層)をカバー層上に設ける。ここで、キャップ部材及び樹脂膜Aを取り除いた後に上記ハードコート層を形成してもよいことはいうまでもない。
【0172】
このようにすれば、膜厚の均一性が高くかつ気泡の存在が低減された透明樹脂層を2層構造にすることができる。この技術は、2層以上の記録層を有する多層光記録媒体における、記録層と記録層との間に存在する中間層の形成等にも応用することができる。
【0173】
〔2−3.キャップ部材の除去〕
透明樹脂層形成後、キャップ部材の周縁部の透明樹脂層に切り込みを入れて、キャップ部材を取り除くことが好ましい。
【0174】
図10(a)〜(c)は何れも、本発明の製造方法においてキャップ部材を除去する手法の例を説明するための図である。なお、図10(a)〜(c)においても、図1〜9と同じ構成要素については、同一の符号を付して表わしている。また、記録媒体1の構成要素である基板3、記録再生機能層4(反射層5、誘電体層6、記録層7、誘電体層8)については、個別の表示は省略してある。
【0175】
まず、図10(a)に示すように、樹脂膜Aの最外周より僅かに大きな直径を有する円周上において、透明樹脂層11にナイフKを用いて切り込みを入れる。そして、図10(b)に示すように、回転台Rを回転させて、上記切り込みを記録媒体1に一周分設ける。その後、図10(c)に示すように、切り取ったキャップ部材9、樹脂膜A、及び切り込みより内側の透明樹脂層13を、除去手段Vにより記録媒体1から取り剥がす。
【0176】
なお、図10(a)ではナイフKを用いて切り込みを設けているが、本発明はナイフを用いる場合に限られるものではない。つまり、ナイフのような機械的な方法ではなく、光学的な方法(以下、適宜「レーザーカッティング」と呼ぶ場合がある。)を用いてもよいことはいうまでもない。
【0177】
レーザーカッティングの場合、次に述べるような利点が挙げられる。
即ち、市販のレーザートリミング装置を用いて、より正確に、再現性及び加工性良く、カッティングを行なうことが可能となる。更に、レーザーカッティング時の熱により透明樹脂層と基板とが熱溶着することにより、切り込みの外側に存在する透明樹脂層、即ち記録媒体上に残存する透明樹脂層が、基板から剥離することを抑制する効果が得られる。
なお、これらの効果を確実に得るためには、透明樹脂層への切り込みの深さが以下に規定する範囲となる様に、レーザーカッティングの照射条件を決定することが好ましい。
【0178】
即ち、透明樹脂層の厚みに対する、透明樹脂層への切り込みの深さの比(以下適宜「切り込み深さ」と略称する。)は、接着性、発塵の観点から、通常0.5倍以上、中でも0.8倍以上、特に1倍以上となるようにすることが望ましい。切り込み深さが小さ過ぎると、切り込み後に透明樹脂層を物理的に剥がす際に、切り込みの外側の透明樹脂層の部分を基板から剥がしてしまう可能性がある。一方、切り込み深さが1倍以上であれば、透明樹脂層に完全に切り込みが入ることになり、切り込みの外側の透明樹脂層が剥離する可能性を防ぐことができる。また、切り込み深さが1倍以上の場合、切り込みの外側の透明樹脂層を走査型電子顕微鏡(scanning electron microscope:SEM)で観察すると、基板と透明樹脂層とが熱溶着している様子が観察され、良好な接着性が期待できる。
【0179】
一方、上記の切り込み深さは、通常1.5倍以下、中でも1.2倍以下となるようにすることが望ましい。切り込み深さが大き過ぎると、基板のダメージ並びに基板からの発塵が甚だしく、欠陥の原因となる場合がある。
なお、切り込み深さが1倍より大きい場合、即ち、切り込みが透明樹脂層を貫通して基板に達する場合には、透明樹脂層の厚さと、基板への切り込みの深さとを足した値を、切り込み深さとして定義するものとする。
【0180】
また、全く別の手法として、以下の方法を挙げることができる。つまり、硬化性樹脂材料cを硬化させる際に、キャップ部材の外周付近に存在する硬化性樹脂材料cを硬化させることなくキャップ部材及び樹脂膜Aを取り除く方法である。例えば、硬化性樹脂材料cが光硬化性樹脂の場合、光を照射する前に、キャップ部材及び樹脂膜Aを記録媒体から引き剥がせば良い。また、光学マスク等を用いて樹脂膜A近辺への光の照射を遮断すれば、透明樹脂層の大部分が硬化した後でも、キャップ部材及び樹脂膜Aを引き剥がすことができる。光学マスクを用いて、キャップ部材及び樹脂膜Aを取り除く具体的な方法について以下説明する。
【0181】
図11(a)は、光学マスクを用いてキャップ部材の外周付近に存在する硬化性樹脂材料cを硬化させることなく透明樹脂層を形成する場合の模式断面図であり、図11(b)は、キャップ部材9及び硬化性樹脂材料cを取り除く様子を示す模式断面図であり、図11(c)は、図11(b)の符号Tで表される部分の拡大図である。図11(a)〜(c)において、図1〜10と同じ構成要素については、同一の符号を付して表わしている。また、記録媒体1の構成要素である基板3、記録再生機能層4(反射層5、誘電体層6、記録層7、誘電体層8)については、個別の表示は省略してある。なお、図11(a)は、図9(c)において更に光学マスクを用いる具体例である。
【0182】
図11(a)に示すように、紫外線が照射された場合においても、光学マスクMの存在により、キャップ部材9及び樹脂膜A上に存在する硬化性樹脂材料c及びキャップ部材9の外周付近に存在する硬化性樹脂材料cが硬化し難くなる。
【0183】
そして、図11(b)に示すように、キャップ部材9及び樹脂膜A並びに硬化していない硬化性樹脂材料cを取り除く際に、取り除かれる硬化性樹脂材料cの端部は粘性を有する状態となっている。このため、記録媒体上に残留する硬化性樹脂材料cの端部は、盛り上がった形状となり易い(同図のT参照)。
【0184】
最後に、図11(c)に示すように、上記盛り上がった形状の部分に紫外線を照射して硬化させる。この結果、内周側が盛り上がった形状を有する透明樹脂層11を形成することができる。
【0185】
上記方法の利点を以下に示す。まず、キャップ部材及び樹脂膜Aを小さい力で取り除き易くなる。また、キャップ部材及び樹脂膜Aを取り除く際に、硬化性樹脂材料cの端部が流動性を有するために、記録媒体上に残留する硬化性樹脂材料cの端部が記録媒体から剥離し難くなる。更に、透明樹脂層11の内周側の盛り上がりを図8の突起部12の代用として用い易くなる。
【0186】
なお、図10(c)に示すように、キャップ部材9は、樹脂膜A及び切り込み内部の透明樹脂層13とともに、記録媒体1から取り剥がす必要がある(本明細書では、キャップ部材9、樹脂膜A及び切り込み内部の透明樹脂層13をまとめて「カット後のキャップ部材」と称することがある。)。この時に、「カット後のキャップ部材」の一部(より具体的には、樹脂膜Aや透明樹脂層の一部)が記録媒体1(基板)上に残る場合がある。このような光記録媒体上に残る「カット後のキャップ部材」の一部(より具体的には、樹脂膜Aの一部)を、残渣と呼ぶ。このような残渣はできるだけ少ないこと、又は存在しないことが好ましい。この残渣がなるべく少ないことが好ましいことは、図11(b)においても同様である。
【0187】
このためには、キャップ部材9と樹脂膜Aの密着性が、樹脂膜Aと記録媒体1(基板)とのそれよりも大きい方が好ましい。一般的に、キャップ部材9の表面張力が、記録媒体1の表面張力より大きいと、樹脂膜Aがよりキャップ部材9にぬれ易くなる。この結果、密着性が大きくなり易い。
【0188】
表面張力以外に、キャップ部材の表面粗さを制御しても、密着性を変化させることができる。具体的には、キャップ部材の表面粗さを示す指標となる最大高さ(Ry)を、2μm以上、10μm以下とすることが好ましい。このようにキャップ部材表面を荒らすことによって、樹脂膜Aとキャップ部材との密着性が向上し易くなる。この結果、キャップ部材及び樹脂膜Aを取り除いた場合において、樹脂膜Aの残渣が光り記録媒体(基板)に残り難くなる。
【0189】
なお、最大高さ(Ry)とは、例えば、JIS B 0601(1994)及びJIS B 0031(1994)に定義された値を指す。具体的には、粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さだけを抜き取り、この抜き取り部分の山頂線と谷底線との間隔を、粗さ曲線の縦倍率の方向に測定し、この値をマイクロメートル(μm)で表わしたものをいう。なお、最大高さ(Ry)を求める場合には、通常キズと見做されるような、並外れて高い山及び低い谷が無い部分から、基準高さだけを抜き取るようにする。
【0190】
また、剥離残渣を低減する方法として、柔らかなキャップ部材を用いることが効果的である。本発明者らが残渣の観察を行なった結果、キャップ部材の外周端のところで樹脂膜A並びに透明樹脂層に亀裂が入り、それが残渣のきっかけとなっているものと推測された。即ち、キャップ部材の硬度が大きい場合、剥離時に外部から与えられる力が、キャップ部材の外周端に集中するものと考えられる。そこで、本発明者らが鋭意検討した結果、以下の材料を用いてキャップ部材を形成することにより、剥離残渣が少なくなることを見出した。
【0191】
即ち、本発明においては、ポリ塩化ビニルを用いて、キャップ部材を形成することが好ましい。また、100%モジュラスが通常3MPa以上、中でも5MPa以上、また、通常30MPa以下、中でも20MPa以下である材料を用いて、キャップ部材を形成することが好ましい。
【0192】
ここで、「100%モジュラス」とは、ポリ塩化ビニルからなる試験片を倍の長さまで延伸するのに必要な応力(引張力/断面積)であり、JIS−K−6732に準拠して測定することが可能である。即ち、引張前の標線間距離を40mm、引張速度を200mm/minとして引張試験を行い、試験片の標線間の部分を倍の長さに延伸するのに必要な応力(引張力/断面積)を測定し、これを100%モジュラスとする。
【0193】
100%モジュラスが上記範囲より小さいポリ塩化ビニルを用いてキャップ部材を形成すると、キャップ部材が自重で変形し易くなるため、搬送し難くなる傾向があり、また、キャップ部材を記録媒体に載置する時の位置精度を確保し難くなる傾向がある。一方、100%モジュラスが上記範囲より大きいポリ塩化ビニルを用いてキャップ部材を形成すると、上述のように剥離残渣が生じ易くなる傾向がある。これに対し、100%モジュラスが上記範囲内のポリ塩化ビニルを用いてキャップ部材を形成することにより、キャップ部材の搬送及び位置精度の確保が容易になるとともに、剥離残渣の発生をも抑えることが可能となる。
【0194】
なお、キャップ部材の材料としてポリ塩化ビニル以外の材料を用いる場合でも、上述と同様の基準により、材料の強度及び硬度を選択すればよい。
【0195】
[3.光記録媒体の製造装置]
本発明の光記録媒体の製造装置は、中心孔を有する環状の基板を用いた記録媒体の上に、前記中心孔の外径以上の外径を有する円盤状のキャップ部材を、前記中心孔を塞ぐように載置する手段(以下適宜「キャップ部材載置部」という。)と、前記キャップ部材と前記記録媒体とが形成する段差を覆う液体状の樹脂材料aを供給する手段(以下適宜「樹脂材料供給部」という。)と、前記樹脂材料aを硬化させて樹脂膜Aを形成する手段(以下適宜「樹脂材料硬化部」という。)と、前記キャップ部材上に、樹脂層形成用の硬化性樹脂材料cを供給する手段(以下適宜「硬化性樹脂材料供給部」という。)と、前記記録媒体を回転させて前記硬化性樹脂材料cを回転延伸させる手段(以下適宜「硬化性樹脂材料回転延伸部」という。)と、前記硬化性樹脂材料cを硬化させる手段(以下適宜「硬化性樹脂材料硬化部」という。)とを備えるものである。
【0196】
本発明の光記録媒体の製造装置は、少なくとも上述の各手段を備えていればよいが、必要に応じて、更にその他の手段を備えていてもよい。
【0197】
図17は、本発明の一実施形態に係る光記録媒体の製造装置の基本的な構成を示す機能ブロック図である。図17に示す光記録媒体の製造装置900は、記録媒体供給部901と、キャップ部材載置部902と、樹脂材料供給部903と、樹脂材料硬化部904と、硬化性樹脂材料供給部905と、硬化性樹脂材料回転延伸部906と、硬化性樹脂材料硬化部907と、樹脂膜切込部908と、キャップ部材除去部909と、光記録媒体回収部910とを備えると共に、これらの機能要素間を結ぶ搬送手段900aとを備えてなる。
【0198】
ここで、記録媒体供給部901は、樹脂層の形成対象となる、記録媒体を供給するものであり、光記録媒体回収部910は、樹脂層が形成された光記録媒体を回収するものである。そして、記録媒体供給部901と光記録媒体回収部910とを連結するように搬送手段900aが配置され、この搬送手段900aに沿って他の機能要素902〜909が配置される。そして、記録媒体供給部901から供給された記録媒体が、搬送手段900aによって搬送される間に、各機能要素902〜909によって記録媒体上に樹脂層(透明樹脂層)が形成され、光記録媒体が製造される。そして、得られた光記録媒体が搬送手段900aによって最終的に光記録媒体回収部910に到達し、回収されることになる。
【0199】
具体的に、搬送手段900aは、例えば従来公知のピックアンドプレイス等の搬送手段を用いて実現することが可能である。この場合、搬送手段900aの搬送始点及び搬送終点を、そのまま記録媒体供給部901及び光記録媒体回収部910として用いてもよい。
【0200】
また、キャップ部材載置部902は、記録媒体の中心孔の外径以上の外径を有する円盤状のキャップ部材を、前記中心孔を塞ぐように記録媒体上に載置するものである。キャップ部材の材料や形状、記録媒体上への載置の手法等の詳細については、上記[2.透明樹脂層の作製]の欄で説明した通りである。このキャップ部材載置部902は、例えば従来公知のロボットアーム等を用いて実現することが可能である。
【0201】
樹脂材料供給部903は、キャップ部材載置部902により載置されたキャップ部材と記録媒体とが形成する段差を覆うように、液体状の樹脂材料aを供給するものである。液体状の樹脂材料の種類や、記録媒体上への供給手法等の詳細については、上記[2.透明樹脂層の作製]の欄で説明した通りである。この樹脂材料供給部903は、例えば従来公知の樹脂材料用のディスペンサ等を用いて実現することが可能である。すなわち、キャップ部材を載置した記録媒体に、公知のX−Yステージを用い、ディスペンサを介して樹脂材料を、キャップ部材の段差を覆うように環状に塗布する。あるいは、公知のモーター等の回転駆動手段を用いて、環状に塗布する。
【0202】
樹脂材料硬化部904は、樹脂材料供給部903により供給された樹脂材料aを硬化させて樹脂膜Aを形成するものである。樹脂材料aの硬化の手法は、樹脂材料aの種類に応じて適宜選択すればよい。その詳細は上記[2.透明樹脂層の作製]の欄で説明した通りである。この樹脂材料硬化部904は、例えば、樹脂材料aとして紫外線硬化性樹脂を用いる場合には、紫外線光源等を用いて、また、樹脂材料aとして熱硬化性樹脂を用いる場合は、ヒーター等を用いて、実現することが可能である。
【0203】
硬化性樹脂材料供給部905は、樹脂材料硬化部904による樹脂材料aの硬化(樹脂膜Aの形成)後、前記キャップ部材上に樹脂層形成用の硬化性樹脂材料cを供給するものである。樹脂層形成用の硬化性樹脂材料cの種類や、キャップ部材上への供給手法等の詳細については、上記[2.透明樹脂層の作製]の欄で説明した通りである。この硬化性樹脂材料供給部905は、例えば従来公知の樹脂材料用のディスペンサ等を用いて実現することが可能である。硬化性材料cは、供給タンクに一旦充填され、そこから加圧されたエアーなどでチューブ等を介してディスペンサに供給され、ディスペンサを用いて、キャップ部材上に樹脂層形成用の硬化性樹脂材料cが塗布される。
【0204】
硬化性樹脂材料回転延伸部906は、硬化性樹脂材料供給部905により供給された硬化性樹脂材料cを、記録媒体を回転させることにより回転延伸させるものである。記録媒体の回転手法や硬化性樹脂材料の延伸条件等の詳細については、上記[2.透明樹脂層の作製]の欄で説明した通りである。この硬化性樹脂材料回転延伸部906は、例えば従来公知のモーター等の回転駆動手段を用いて実現することが可能である。
尚、硬化性樹脂材料回転延伸部906と、硬化性樹脂材料供給部905を合体させることもできる。すなわち、硬化性樹脂材料回転延伸部906に直接、キャップ部材、樹脂膜A等を施した記録媒体を搬送し、例えばディスペンサを介して樹脂膜cをキャップ部材上に塗布した後、モーター等で回転延伸する。
この硬化性樹脂材料回転延伸部906に、ヒーター、紫外線光源を同時に設け、硬化させながら回転延伸させると膜厚が制御し易いことも、[2.透明樹脂層の作製]の欄で説明した通りである。
【0205】
硬化性樹脂材料硬化部907は、硬化性樹脂材料回転延伸部906により回転延伸された硬化性樹脂材料cを硬化させることにより、樹脂層を形成するものである。硬化性樹脂材料の硬化の手法は、硬化性樹脂材料cの種類に応じて適宜選択すればよい。その詳細は上記[2.透明樹脂層の作製]の欄で説明した通りである。この硬化性樹脂材料硬化部907は、例えば、硬化性樹脂材料cとして紫外線硬化性樹脂を用いる場合には、紫外線光源等の紫外線照射手段を用いて、また、硬化性樹脂材料cとして熱硬化性樹脂を用いる場合は、ヒーター等の加熱手段を用いて実現することが可能である。
【0206】
樹脂膜切込部908は、硬化性樹脂材料硬化部907による硬化性樹脂材料cの硬化(樹脂層の形成)後、キャップ部材の外周よりも外側に位置する記録媒体上において、前記樹脂層に切り込みを入れるものである。樹脂膜に対する切り込みの形成手法や条件等の詳細については、上記[2.透明樹脂層の作製]の欄で説明した通りである。この樹脂膜切込部908は、例えば、ナイフ等の物理的切断手段やレーザー等の光学的切断手段を、モーター等の駆動手段等と適宜組み合わせることにより、実現することが可能である。
【0207】
キャップ部材除去部909は、樹脂膜切込部908によって形成された切り込みの内部に位置する樹脂層の部分を除去するものである。樹脂層の除去手法や条件等の詳細については、上記[2.透明樹脂層の作製]の欄で説明した通りである。このキャップ部材除去部909は、例えば、記録媒体全体を保持し、切り込みの内側のキャップを吸引して上方に駆動する吸引・駆動手段等を用いて実現することが可能である。
【0208】
また、上述の各機能要素901〜910による動作を適切に実施できるよう、搬送手段900a上には適宜、記録媒体及び光記録媒体の位置決めを行なう位置決め手段が設けられる。
【0209】
以上、本発明の一実施形態に係る光記録媒体の製造装置900について説明したが、この光記録媒体の製造装置900に対し、適宜、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、任意の変形を加えることも可能である。
【0210】
例えば、図17においては、各機能要素901〜910の間を何れも搬送手段900aによって連結した構成を示しているが、必ずしも各機能要素901〜910による操作を搬送手段900a上の異なる位置で行なう必要は無く、搬送手段900a上の同一位置において、記録媒体又は光記録媒体に対し二以上の機能要素による操作を行なってもよい。
【0211】
また、上述の各機能要素901〜910のうち、機能要素902〜907以外の要素については、適宜省略することが可能である。例えば、樹脂膜の切込及びキャップの除去を行なわず、樹脂膜の形成までの工程を実施することを目的とした製造装置であれば、機能要素908及び機能要素909を省略しても構わない。
【実施例】
【0212】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0213】
[実施例1]
〔記録媒体の製造〕
内径15mmの中心孔を有する直径120mm/厚さ1.1mmのポリカーボネート基板を用いた。この基板は、トラックピッチ0.32μmで、溝深さ20nm/溝幅0.16μmの溝が、スパイラル状に存在している。
【0214】
この基板上に、反射層(AgNdCu合金100nm)、誘電体層(7nmのGeCrN層及び2nmのZnS/SiO2層をこの順に積層した。)、記録層(InGeSbTe合金:14nm)、及び誘電体層(5nmのGeCrN層及び31nmのZnS/SiO2層をこの順に積層した。)を成膜した。これらの各層はスパッタリング法によって形成した。尚、スパッタリングの装置に用いた内周マスクは直径36.0mmであった。このため、記録媒体の直径36.0mmの位置よりも内周は、ポリカーボネート製の基板のままであった。
【0215】
〔透明樹脂層の形成〕
樹脂材料aとしては、粘度620mPa・sのアクリレート系の光硬化性の樹脂材料を用いた。市販されている以下の汎用的な塩化ビニル(つや消し処理された塩化ビニル、板厚:0.2mm)を、直径20mmのトムソン刃で打ち抜き、キャップ部材を得た。
【0216】
また、硬化性樹脂材料cとしては、粘度3000mPa・sのウレタンアクリレート系の光硬化樹脂(三菱レーヨン(株)製)を用いた。
なお、粘度は、常温、常圧下で、ブルックフィールド社製の回転型粘度計を用いて測定した。
【0217】
まず、スピンコーターに記録媒体を載せ、樹脂材料aを、武蔵エンジニアリング(株)製の口径19GのSUSノズルを用いて、基板の直径20.5mmの位置に、表1に示す条件で円環状に吐出させた(図5(a)参照)。
【0218】
【表1】

【0219】
その後、ペン型のバキュームピッカーを用いて速やかにキャップ部材を記録媒体の中心孔を塞ぐように置いた。そして、バキュームピッカーを介して、キャップ部材を手動で記録媒体に押さえつけた。これにより、キャップ部材の外周を樹脂材料aで覆い、樹脂材料aをキャップ部材に馴染ませた(図5(b)参照)。
【0220】
次いで、スポットキュア型のUVランプ(東芝ハリソン社製、トスキュアー100)を用い、樹脂材料aを硬化させて、樹脂膜Aを形成させた(図5(c)参照)。樹脂材料aの塗布終了から、スポットキュア型のUVランプで硬化開始するまでの時間は、ストップウォッチを用い30秒になるように設定した。
【0221】
このキャップ部材つきの記録媒体を、スピンコーターに再び設置した。そして、武蔵エンジニアリング(株)製の口径14GのSUSノズルを使用し、硬化性樹脂材料cを記録媒体の中心(キャップ部材上)に供給した。このときの供給条件は以下の通りである。
【0222】
まず、80rpmで回転中の記録媒体のほぼ中心(キャップ部材上)に、吐出圧:0.2MPa(N2圧力)で、硬化性樹脂材料cを8秒間吐出した。
【0223】
その後、回転数を7秒間かけて1280rpmまで上昇させ、同回転数で5秒間保持した。5秒間保持の最後の2秒間に照度10mw/cm2の紫外線を記録媒体全面に照射し
た。これによって、回転中に硬化性樹脂材料cを硬化させた。なお、記録媒体の外周から0.5mm程度の幅の領域にマスクを覆った。これは、この領域に紫外線が照射されないようにするためである。
【0224】
紫外線照射が終了した後、記録媒体を5000rpmで2秒間回転させ、外周端に残った未硬化の樹脂を振り切った。この工程により、記録媒体の外周端の外観を美しくすることが出来る。
【0225】
回転を終了した後、照度80mw/cm2の紫外線を積算光量1J/cm2照射した。その際、上記マスクをはずして記録媒体の外周付近の樹脂も硬化させた。
【0226】
その後、透明樹脂層側から記録媒体の内周の直径22.5mmの場所にナイフの刃を押さえつけた(図10(a)参照)。そして、記録媒体を回転させ、透明樹脂層に切り込みを入れた(図10(b)参照)。そして、内周部のキャップ部材、樹脂膜A、切り込み内部の透明樹脂層内周部を記憶媒体から剥がした(図10(c)参照)。
【0227】
出来上がった光記録媒体を、蛍光灯下で目視にて観察した。その結果、透明樹脂層中に、確認できる泡は存在しなかった。また、樹脂膜A及びキャップ部材を剥離した部位に対応する基板上には、透明樹脂層、樹脂膜Aの残渣はほとんど見られなかった。なお、ここで、残渣は2mm2以上の残渣をいう。この透明樹脂層の膜厚を測定したところ、表2に示すように良好な均一性であった。また、平均膜厚をみて分かるように、ほぼねらい通りの膜厚(100μm)となっていることが分かる。
【0228】
【表2】

【0229】
[実施例2、3、比較例1、2]
樹脂膜Aの形成条件以外は、実施例1と同様にして光記録媒体を製造した。製造条件及び透明樹脂層の状態を表3に示す。なお、実施例2、3、比較例1は、樹脂材料aの吐出量を変えることにより、樹脂膜Aの形状を変えたものである。
【0230】
実施例2、3は良好な形状の樹脂膜Aが形成され、透明樹脂層の膜厚分布は良好で、泡状欠陥も見られなかった。一方、比較例1に関しては、樹脂材料aの量が少なかったため、キャップ部材と基板とが形成する段差を完全に覆うことが出来なかった。この結果、透明樹脂層に筋状の欠陥(膜厚異常)が多く観察された。これは、キャップ部材のバリ(burr)が影響しているものと推測される。
【0231】
なお、筋状の欠陥とは、回転延伸時に放射線状に生じる、主に略直線状(長さが5mm以上)の凹凸段差のことをいう。ここで、筋状の欠陥は目視で観察できるものを指している。そして、この筋状の欠陥は、下地基板の微細な凹凸(約50μm以上)が発端となると考えられる。なお、筋状の欠陥は、回転延伸時の条件や下地基板の状態により、渦状の線状になることもある。また、筋状の欠陥は、回転延伸時の条件や下地基板の状態により、放射線状に伸びた直線が途中から折れ曲がることもある。このように、筋状の欠陥は、様々な形態を取りうる。
幅、凹凸の深さは定義が困難であるが、幅は50μm以下、深さは5μm以下であれば、実使用上問題がないと考えられる。
【0232】
また、比較例2は、樹脂膜Aの形成時に光照射を行なわず、樹脂材料aを硬化しないままにした以外は、実施例と同様にしたものである。
比較例2では、膜厚分布は良好だったものの、5枚中5枚とも泡欠陥が多発した。
【0233】
【表3】

【0234】
[実施例4〜10]
キャップ部材の材料や形状、樹脂膜Aの形成条件を変化させたこと以外は、実施例1と同様にして光記録媒体を製造した。製造条件及び透明樹脂層の状態を表4に示す。
【0235】
【表4】

【0236】
実施例6は、樹脂膜Aの形状が、円周方向にやや不均一になった。この結果、透明樹脂層に筋状の欠陥が見られた。これは、キャップ部材の厚さが若干厚めであるからと推測される。ただし、筋状の欠陥部分の膜厚は、98μm(平均値)の透明樹脂層厚に対して±2μm以内となった。従って、この透明樹脂層は実用上は問題無いものと思われる。
【0237】
実施例7においては、ステンレスのキャップ部材の下に入り込んだ樹脂材料aが硬化しなかったため、樹脂膜A及びキャップ部材を剥がした後の場所に残渣が観察された。このような残渣は、樹脂膜Aの光の照射方法等を工夫すれば回避できるものと思われる。
【0238】
実施例8の記録媒体の基板には、軽微な段差(10μm)が直径22.0mm付近に存在した。これは、基板成形時のスタンパ押さえ部品によって形成された段差である。目視ではわからなかったが、顕微鏡で円周方向を観察すると、この段差付近の透明樹脂層に小さな泡が少量存在することが分かった。おそらく、上記段差が泡の原因になったものと推測される。但し、透明樹脂層の膜厚分布は良好であった。また、上記段差を覆うようにキャップ部材と樹脂膜Aとを形成すれば、泡も消滅すると予想される。
【0239】
[実施例11〜13]
本発明の効果をより顕著にするためには、上述のように、樹脂膜Aの最外周と基板とがなす角度(外周端の角度)を、30度以下とすることが望ましい。よって、単に段差を覆うだけでなく、樹脂膜Aの外周端の角度を制御することで、泡の発生を抑制できることを確認するべく、以下の実施例11〜13を実施した。
【0240】
即ち、実施例11〜13として、樹脂膜Aの外周端の角度を変化させたこと以外は、実施例1と同様の条件で、光記録媒体を製造した。実施例11〜13における、光記録媒体の製造条件、及び、その評価結果を後述の表5に示す。
【0241】
実施例11は、キャップ部材と記録媒体とが形成する段差を埋めるため、樹脂材料aの吐出位置を固定して塗布した場合の結果である。この場合、樹脂膜Aと記録媒体との接触角が急峻であるため、透明樹脂層の硬化前樹脂が拡散する際に、10枚中7枚においてこの部分で気泡を巻き込んでしまっている。
【0242】
実施例12は、実施例11の接触角を低減するために樹脂材料aの吐出位置を平行移動して塗布量を抑え、樹脂膜Aの外周端の角度を低減したものである。泡の発生頻度が低減していることが分かる。
【0243】
なお、上記実施例11、12においては、キャップ部材と記録媒体とが形成する段差のみならず、上記スタンパ押さえ部品によって記録媒体上に形成された段差をも覆うように樹脂膜Aを形成することにより、上記段差起因の泡の発生を抑えている。
【0244】
これに対し、実施例13では、前記キャップ部材と記録媒体とが形成する段差のみを樹脂膜Aで覆い、上記スタンパ押さえ部品によって記録媒体上に形成された段差に対しては、前記樹脂膜Aと物理的に分離した樹脂膜Bを形成することで、上記段差の影響を抑え、樹脂膜Aの外周端の角度及び樹脂膜Bの外周端の角度を更に低く抑えた場合の結果である。この条件では、泡の発生は観察されなかった。
【0245】
【表5】

【0246】
[実施例14〜17]
キャップ部材の材質やつや消し処理の条件を変更した以外は、実施例1と同様にして光記録媒体を製造した。製造条件及び透明樹脂層の状態を表6に示す。そして、樹脂膜A及びキャップ部材を剥がした後の場所に観察された残渣の結果も表6に示す。
【0247】
図12(a),(b)は何れも、実施例14〜17における残渣の測定方法を説明するための図である。
【0248】
図12(a)に示すように、先ず、記録媒体(基板)上に、キャップ部材9を載置し、樹脂膜Aを形成した直後のものを用意する(中間体30と呼ぶ)。ここで、樹脂膜Aの製造条件は実施例1と同様にして行なった。次に、台ばかり20(最大目盛り12kg)に、基板の中心孔よりやや小さい円筒状の先端(13mmφ)を持った支持台21(ステンレス製)を乗せ、その上に、先ほど用意した、中間体30を乗せる。このとき、支持台21の先端は、中間体30の中心孔2の側面には触れないようする。また、支持台21の先端は、キャップ部材9と略平行に接するように置く。更にその上に、樹脂膜Aより大きな直径(25mm)を持った、プラスチック製の中空円筒状の治具22(円筒の縁の厚さは1mm、高さは30mm)を乗せる。支持台21、中間体30及び治具22が、バランスするように配置し、その時の台ばかりの目盛りを記録する(荷重(前))。
【0249】
次に、治具22に、樹脂膜Aの接着が剥がれるまで徐々に荷重を加える。この剥がれた時の荷重(荷重(後))と、荷重(前)の差を、樹脂膜Aの接着を見積もる量とする。台ばかり20には、ピークホールド機能を持つものを用いる。
また、樹脂膜Aの残渣の様子は、目視で観察する。
【0250】
次に、中間体30の代わりに、中間体31を用いた。中間体31には、中間体30上に透明樹脂層11を設けている。更に、中間体31には、樹脂膜Aの外径(22mm)よりも大きく、治具22の直径(25mm)よりも小さな直径の位置に、基板が僅かに傷つく程度の、透明樹脂層11を貫通するような深さの切り込みを円環状にナイフで入れている。このこと以外は、図12(a)と同じものを配置したのが図12(b)である。図12(a)と同様に荷重を加え、接着を見積もる量の測定と、樹脂膜A及び透明樹脂層の残渣の観察を行なった。
【0251】
実施例14においては、キャップ部材の直径を変えたこと、及び、切り込みを直径24mm位置に入れたこと以外は実施例1と同様にして、中間体30、31を作製した。そして、それぞれ図12(a),(b)の方法で接着力測定、残渣の観察をした。結果を表6に示す。実施例14では、中間体30の接着力は3kgf(約29.4N)と良好であり、中間体30のキャップ部材の保持(バキュームピッカー)のみで、中間体30の移動が問題なくできた。接着テスト後の残渣は無く、実用上好ましい特性を示している。中間体31の接着力は更に大きくなり、12kgf(約117.6N)となった。これも、テスト後の残渣は観察されなかった。
【0252】
実施例15では、キャップ部材の剛性を上げるために、キャップ部材の直径を小さくたこと、及び、キャップ部材の厚さを大きくしたこと以外は実施例14と同様にして、中間体30、31を作製した。結果を表6に示す。実施例14と比較して、残渣の様子に変化は無かったが、接着力(剥離に要する荷重)は大きくなっている。
【0253】
実施例16は、キャップ部材を表面張力の小さい材料(ポリプロピレン:PP)としたこと、及び、キャップ部材の直径を小さくしたこと以外は実施例14と同様にして、中間体30、31を作製した。結果を表6に示す。実施例14と比較して、接着力(剥離に要する荷重)が減少した。しかし、搬送に支障を来たす程での接着力の低下はなく、キャップ部材及び記録媒体をバキュームピッカーで十分操作できる程度の接着力はあった。
ここで、硬化性樹脂aの硬化前の表面張力は38mN/m程度である。基板の表面張力は37.5mN/m程度であり、基板の表面粗さRyは0.1μm未満であった。
【0254】
実施例17においては、実施例14で用いたキャップ部材と同等以上の表面張力を有するPETをキャップ部材に用い、表面粗さRyが0.1μm未満、膜厚0.2mmのフィルムを、トムソン刃で直径20mmに打ち抜いてキャップ部材を得た。これ以外は、実施例14と同様にして中間体30、31を作製した。結果を表6に示す。キャップ部材の接着性、及び残渣は実施例16と同様の結果となった。
【0255】
実施例14〜17における透明樹脂層は、泡、ブツ、筋状の欠陥等が観察されず、膜厚の均一性が良好であった。残渣の結果に差を生じた理由は、以下のように推察される。
【0256】
即ち、実施例16では、実施例14、15より、表面張力が小さく、かつ、表面粗さの小さなキャップ部材を用いた。このため、キャップ部材と樹脂膜Aの接着性が弱まり、残渣が残り易くなったと考えられる。実施例17では、実施例14、15より、表面張力は同程度だが、表面粗さは非常に小さいキャップ部材を用いた。このため、上記と同様に、キャップ部材と樹脂膜Aの接着性が弱まり、残渣が残り易くなったと推測される。
【0257】
なお、接着性は強ければよいものではなく、打ち抜きの観点からは、弱い方がよい。接着性は、キャップ部材の表面粗さ、剛性を適度に調整すれば適宜制御できると思われる。
【0258】
【表6】

【0259】
[実施例18〜21]
実施例18〜21として、実施例14〜17の条件からキャップ部材の材料を変更した他は実施例14〜17と同様の条件で、光記録媒体を製造した。更に、実施例14〜17と同様、図12(a),(b)を用いて説明した方法により、樹脂膜A及びキャップ部材を剥がした場合に要する荷重の測定、及び、剥離後の場所に観察された残渣の観察を行なった。なお、樹脂膜Aの残渣の様子は、目視及び顕微鏡にて、1mm2以上の大きさ残渣も検出すべく、より詳細に観察した。また、剥離前の円環状の切り込みは、レーザー光にて実施した。
【0260】
実施例18〜21における、キャップ部材の材料の物性、加重の測定結果、及び残渣の観察結果を、表7に示す。なお、キャップ部材の材料の100%モジュラスについては、[発明を実施するための最良の形態]の[2.透明樹脂層の作製]の欄で説明した、JIS−K−6732に準拠した手法により測定した。
【0261】
実施例18は、実施例14、15で用いた硬質塩化ビニル板を、キャップ部材として使用したものである。実施例18では、中間体31の接着力は5.5〜12kgf(約117.6N)以上と、ばらつきが大きい。また、テスト後の残渣も観察された。接着力が大きいことは、実施例14、15でも確認されているが、今回、残渣が確認されたのは、より細かな残渣に着眼したことと、レーザー光によるカットで透明樹脂膜と記録媒体(基板)との境界が溶着し、密着性が上がったためと推測される。
【0262】
また、実施例19〜21では、実施例18での残渣軽減のため、キャップ部材を軟らかいものに変更したものである。キャップ部材に柔軟性を持たせることで、除去すべき樹脂膜Aがギャップ部材に密着し、且つ剥離の際の応力が集中しないような改善効果を期待したものである。実施例18と比較して、残渣は大きく減少している。
【0263】
【表7】

【0264】
[実施例22〜27]
実施例22〜27として、実施例1と同様の条件で光記録媒体を製造し、得られた光記録媒体を用いて、その透明樹脂層の中央部分をレーザー光にて円環状にカットするとともに、レーザーの照射条件及び切り込み深さを種々変更して実験を行なった。更に、カット後における切り込み外側の透明樹脂層と基板との剥離状態、及び、カットの際に発生するダストの量(発塵量)を測定し、レーザーの照射条件及び切り込み深さとの相関を評価した。
【0265】
実施例22〜27における、レーザーの照射条件及び切り込み深さ、カット後における透明樹脂層の剥離状況、並びにカット時の発塵量を表8に示す。
【0266】
実施例22は、切り込み深さが約70%の場合の結果である。透明樹脂層が十分にカットできていないために、剥離の際に切り込みの外側の透明樹脂層が引っ張られて、基板との剥離を起こしている。
【0267】
実施例23は、切り込み深さが約90%の場合の結果である。透明樹脂層がほぼ完全にカットされているため、剥離も軽微なものである。
【0268】
実施例24は、切り込み深さが約100%の場合の結果である。切り込みが基板面に到達しており、剥離もみられなかった。また、切り込みの境界面における基板及び透明樹脂層の様子をSEMで観察したところ、基板樹脂(ポリカーボネート)の溶解が発生し、透明樹脂層と基板面が溶着されている様子が観測された。これにより、透明樹脂層と基板との密着性が向上しているものと推測される。
【0269】
実施例25〜27は、切り込み深さが100%を超える場合(それぞれ120%、160%、220%)の結果である。透明樹脂層が完全にカットされているため、切り込みの外側における透明樹脂層の剥離は発生していない。しかし、実施例26、27においては、レーザーカットされた基板が原因と思われる発塵が観測された。この発塵は光記録媒体全体を汚染する場合があるため、レーザーカットによる切り込みが深くなり過ぎないようにすることが好ましいものと判断される。
【0270】
【表8】

【0271】
[比較例3]
キャップ部材として、図13に示す形状の、直径22mmのSUS製のセンターキャップを用い、このセンターキャップを真空チャックで保持することにより基板上に載置した以外は、実施例1と同様にして塗布した。つまり、この実験では、樹脂材料aを用いた樹脂膜Aを形成することはしなかった。
【0272】
透明樹脂層の膜厚分布は良好であった。しかし、目視で分かる泡が多数見られた。5枚の光記録媒体を製造したが、似たようなパターンで泡が発生した。そこで、顕微鏡で観察したところ、泡の発生源はキャップの外周付近であることが分かった。
【0273】
また、センターキャップを剥離したところ、センターキャップの外周で透明樹脂層がはがれて、基板に残渣が多数残った。これは、センターキャップの下の部分に硬化性樹脂材料cが回り込み、未硬化の部分が残ったためである。この残渣は、ガーゼでふき取らなければならなかった。
【産業上の利用可能性】
【0274】
本発明の光記録媒体の製造方法は、CD、DVD、BD等の各種の光記録媒体の分野において、好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0275】
【図1】(a),(b)は何れも、本発明の製造方法に用いられる記録媒体の構成例を模式的に示す図であり、(a)は記録媒体の上面図、(b)は(a)の記録媒体の線分L1における断面図である。
【図2】(a)〜(c)は何れも、記録媒体の上にキャップ部材を載置するとともに樹脂膜Aを形成した状態を模式的に示す図であり、(a)は記録媒体の上面図、(b),(c)は何れも(a)の記録媒体の線分L2における断面構成の例を表わす図である。
【図3】(a),(b)は何れも、キャップ部材9の外径が記録媒体1の中心孔2の外径と略同一の場合における、キャップ部材9の載置及び樹脂膜Aの形成の一例を説明するための模式断面図である。
【図4】(a)〜(c)は何れも、本発明の製造方法に用いられるキャップ部材の例を示す斜視図である。
【図5】(a)〜(c)は何れも、樹脂材料aの塗布及びキャップ部材の押圧方法の一例を説明するための模式断面図である。
【図6】(a)〜(d)は何れも、キャップ部材の外周よりも外側に樹脂材料aを円環状に塗布する操作の一例、及び、樹脂材料aをキャップ部材の外径に相当する位置に円環状に塗布する操作の一例を説明するための模式断面図である。
【図7】(a)〜(d)は何れも、基板と樹脂膜Aとキャップ部材との位置関係の例を示す模式断面図である。
【図8】(a)は、突起部を有する基板を用いた光記録媒体の構成例を示す模式断面図であり、(b)〜(d)は何れも、突起部を有する基板を用いた記録媒体にキャップ部材の載置と樹脂膜Aの形成を行なった状態を表わす模式断面図である。
【図9】(a)〜(c)は何れも、本発明の光媒体の製造方法における透明樹脂層の形成手順の一例を示す模式断面図である。
【図10】(a)〜(c)は何れも、キャップ部材を除去する手法の例を説明するための模式断面図である。
【図11】(a)は、光学マスクを用いてキャップ部材の外周付近に存在する硬化性樹脂材料cを硬化させることなく透明樹脂層を形成する場合の模式断面図であり、(b)は、キャップ部材9及び硬化性樹脂材料cを取り除く様子を示す模式的断面図であり、(c)は、(b)の符号Tで表される部分の拡大図である。
【図12】(a),(b)は何れも、実施例11〜14における残渣の測定方法を説明するための図である。
【図13】比較例2で使用したキャップ部材の形状を表わす図である。
【図14】(a)〜(c)は何れも、従来の光記録媒体の製造方法を説明するための図である。
【図15】従来の方法によって製造された光記録媒体の断面の一部を拡大して示す模式図である。
【図16】記録媒体の上にキャップ部材を載置するとともに樹脂膜Aを形成した状態を模式的に示す図である。
【図17】本発明の一実施形態に係る光記録媒体の製造装置の基本的な構成を示す機能ブロック図である。
【符号の説明】
【0276】
1,1’,101 記録媒体
2,102 中心孔
3,3’,103 基板
4,104 記録再生機能層
5 反射層
6 誘電体層
7 記録層
8 誘電体層
9,105 キャップ部材
10,10’,10” 光記録媒体
11,106 透明樹脂層
12 突起部
13 切り込み内部の透明樹脂層
20 台ばかり
21 支持台
22 治具
30,31 中間体
900 光記録媒体の製造装置
900a 搬送手段
901 記録媒体供給部
902 キャップ部材載置部
903 樹脂材料供給部
904 樹脂材料硬化部
905 硬化性樹脂材料供給部
906 硬化性樹脂材料回転延伸部
907 硬化性樹脂材料硬化部
908 樹脂膜切込部
909 キャップ部材除去部
910 光記録媒体回収部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心孔を有する環状の基板を用いた記録媒体の上に、前記中心孔の外径以上の外径を有する円盤状のキャップ部材を前記中心孔を塞ぐように載置した状態で、前記キャップ部材と前記記録媒体とが形成する段差を覆う、液体状の樹脂材料aを硬化させた樹脂膜Aを形成し、
前記キャップ部材上に、樹脂層形成用の硬化性樹脂材料cを供給し、
前記記録媒体を回転させて前記硬化性樹脂材料cを回転延伸させ、前記回転延伸中又は前記回転延伸後に前記硬化性樹脂材料cを硬化させることにより、
前記記録媒体上に樹脂層を形成する
ことを特徴とする、光記録媒体の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂層が、透明樹脂層である
ことを特徴とする、請求項1記載の光記録媒体の製造方法。
【請求項3】
前記キャップ部材の外径が、前記中心孔の外径よりも大きい
ことを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の光記録媒体の製造方法。
【請求項4】
前記樹脂材料aが、光硬化性の樹脂材料である
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載の光記録媒体の製造方法。
【請求項5】
前記樹脂材料aの粘度が、30mPa・s以上、5000mPa・s以下である
ことを特徴とする、請求項1〜4の何れか一項に記載の光記録媒体の製造方法。
【請求項6】
前記樹脂材料aを、前記記録媒体上の前記キャップ部材の外径に相当する位置に円環状に塗布し、前記キャップ部材を前記樹脂材料aに押圧することによって載置し、前記樹脂材料aを硬化させて前記樹脂膜Aを形成する
ことを特徴とする、請求項1〜5の何れか一項に記載の光記録媒体の製造方法。
【請求項7】
前記キャップ部材を前記記録媒体に接着することによって載置し、前記樹脂材料aを前記キャップ部材の外径に相当する位置に円環状に塗布し、前記樹脂材料aを硬化させて前記樹脂膜Aを形成する
ことを特徴とする、請求項1〜5の何れか一項に記載の光記録媒体の製造方法。
【請求項8】
前記キャップ部材の前記記録媒体への接着を、硬化性又は粘着性の接着剤を用いて行なう
ことを特徴とする、請求項7記載の光記録媒体の製造方法。
【請求項9】
前記硬化性の接着剤が、粘度30mPa・s以上、5000mPa・s以下の光硬化性樹脂である
ことを特徴とする、請求項8記載の光記録媒体の製造方法。
【請求項10】
前記キャップ部材の外周よりも外側に位置する前記記録媒体上に前記樹脂材料aを円環状に塗布し、更に、前記樹脂材料aを前記キャップ部材の外径に相当する位置に円環状に塗布することにより前記樹脂膜Aを形成する
ことを特徴とする、請求項1〜5の何れか一項に記載の光記録媒体の製造方法。
【請求項11】
前記硬化性樹脂材料cが、光硬化性の樹脂材料である
ことを特徴とする、請求項1〜10の何れか一項に記載の光記録媒体の製造方法。
【請求項12】
前記硬化性樹脂材料cの粘度が、30mPa・s以上、5000mPa・s以下であることを特徴とする、請求項1〜11の何れか一項に記載の光記録媒体の製造方法。
【請求項13】
前記キャップ部材の外周端の厚さが、前記樹脂層の膜厚の5倍以下である
ことを特徴とする、請求項1〜12の何れか一項に記載の光記録媒体の製造方法。
【請求項14】
前記樹脂膜Aが、前記キャップ部材の外周に沿って、前記キャップ部材の外周端から前記記録媒体上に張り出して形成され、
前記キャップ部材の外周端の厚さをx、
前記キャップ部材の外周端から前記樹脂膜Aの最大高さまでの距離をy、
前記キャップ部材の外周端から前記記録媒体上に張り出す前記樹脂膜Aの幅をzとしたときに、x、y、zが、
y≦5×x
z≦20×x
の関係を満たす
ことを特徴とする、請求項1〜13の何れか一項に記載の光記録媒体の製造方法。
【請求項15】
前記樹脂膜Aの最外周と前記記録媒体とがなす角度が、30°以下である
ことを特徴とした、請求項1〜14の何れか一項に記載の光記録媒体の製造方法。
【請求項16】
前記キャップ部材の外周端にバリが存在する場合に、前記バリを覆うように前記樹脂膜Aを形成する
ことを特徴とする、請求項1〜15の何れか一項に記載の光記録媒体の製造方法。
【請求項17】
前記キャップ部材が、プラスチックで形成される
ことを特徴とする、請求項1〜16の何れか一項に記載の光記録媒体の製造方法。
【請求項18】
前記プラスチックが、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニリデン、ABS樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、エポキシ樹脂、及び三酢酸セルロース樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1つの材料で形成される
ことを特徴とする、請求項17記載の光記録媒体の製造方法。
【請求項19】
前記キャップ部材が、100%モジュラスが3MPa以上、30MPa以下のポリ塩化ビニルにより形成される
ことを特徴とする、請求項1〜18の何れか一項に記載の光記録媒体の製造方法。
【請求項20】
前記キャップ部材及び前記樹脂膜Aによって、前記記録媒体上に存在する0.05mm以上の段差が全て覆われる
ことを特徴とする、請求項1〜19の何れか一項に記載の光記録媒体の製造方法。
【請求項21】
前記キャップ部材と前記記録媒体とが形成する段差を覆う樹脂膜Aと、前記記録媒体上に存在する段差を覆う、前記樹脂膜Aと物理的に分離した樹脂膜Bとを形成する
ことを特徴とする、請求項1〜20の何れか一項に記載の光記録媒体の製造方法。
【請求項22】
前記樹脂膜Aを形成した状態で、前記キャップ部材を吸引することにより前記記録媒体を上方に移動させた場合に、前記記録媒体と前記キャップ部材とが剥離しない
ことを特徴とする、請求項1〜21の何れか一項に記載の光記録媒体の製造方法。
【請求項23】
前記樹脂層の形成後、前記キャップ部材の外周よりも外側に位置する前記記録媒体上において前記樹脂層に切り込みを入れて、前記キャップ部材及び前記樹脂膜Aを取り除く
ことを特徴とする、請求項1〜22の何れか一項に記載の光記録媒体の製造方法。
【請求項24】
前記樹脂層側から光線の照射により樹脂層に切り込みを入れるとともに、前記切り込みの深さが前記樹脂層の厚さの0.5倍以上、1.5倍以下となるように光線の照射条件を調整する
ことを特徴とする、請求項23記載の光記録媒体の製造方法。
【請求項25】
前記硬化性樹脂材料cを硬化させる際に、前記キャップ部材の外周付近に存在する前記硬化性樹脂材料cを硬化させることなく、前記キャップ部材及び前記樹脂膜Aを取り除く
ことを特徴とする、請求項1〜24の何れか一項に記載の光記録媒体の製造方法。
【請求項26】
前記樹脂層を設けた後、更に別の樹脂層を1層以上設ける
ことを特徴とする、請求項1〜25の何れか一項に記載の光記録媒体の製造方法。
【請求項27】
中心孔を有する環状の基板を用いた記録媒体の上に、前記中心孔の外径以上の外径を有する円盤状のキャップ部材を、前記中心孔を塞ぐように載置する手段と、
前記キャップ部材と前記記録媒体とが形成する段差を覆う液体状の樹脂材料aを供給する手段と、
前記樹脂材料aを硬化させて樹脂膜Aを形成する手段と、
前記キャップ部材上に、樹脂層形成用の硬化性樹脂材料cを供給する手段と、
前記記録媒体を回転させて前記硬化性樹脂材料cを回転延伸させる手段と、
前記硬化性樹脂材料cを硬化させる手段とを備える
ことを特徴とする、光記録媒体の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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