光走査装置の製造方法および性能調整方法
【課題】ミラー部の共振周波数を調整することなく、ミラー部を傾向して光を走査するスキャナー性能が高いレベルで安定する光走査装置の製造方法および性能調整方法を提供する。
【解決手段】固定枠4と、該固定枠に連結され、電気機械変換部と弾性変形部とが一体化された駆動部5と、該駆動部5と軸部8を介して連結され主に第一方向に傾動可能な可動枠6と、該可動枠6とトーションバー7を介して連結され第一方向と直交する第二方向に主に傾向するミラー部3と、を備える光走査装置2とし、駆動部5の共振周波数を、組み付けたミラー部3のミラー部共振周波数に応じた所定の駆動部共振周波数に調整する光走査装置の製造方法および性能調整方法とした。
【解決手段】固定枠4と、該固定枠に連結され、電気機械変換部と弾性変形部とが一体化された駆動部5と、該駆動部5と軸部8を介して連結され主に第一方向に傾動可能な可動枠6と、該可動枠6とトーションバー7を介して連結され第一方向と直交する第二方向に主に傾向するミラー部3と、を備える光走査装置2とし、駆動部5の共振周波数を、組み付けたミラー部3のミラー部共振周波数に応じた所定の駆動部共振周波数に調整する光走査装置の製造方法および性能調整方法とした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光走査装置の製造方法および性能調整方法に関し、特に、MEMSミラーを備えた光走査装置の製造方法および性能調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザー光等を走査する光スキャナ(光走査装置)を備えたレーザープリンターやレーザープロジェクター等が知られている。レーザープリンターでは、多角柱ミラーをモーターで回転させて反射光を走査するポリゴンミラーや、平面ミラーを電磁アクチュエーターによって回転駆動させるガルバノミラー等を有するものがある。
【0003】
これらのポリゴンミラーやガルバノミラー等を用いた光スキャナーは比較的サイズが大きいので、より小型化を実現するために、集積回路製造技術を応用してミラーや弾性梁等の構成部品を一体的に成形加工したMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)の開発が進んでいる。
【0004】
また、レーザープロジェクターなどの画像投影装置でも、より小型化された光スキャナー(光走査装置)を得るために、MEMSによって走査ミラー(ミラー部)を構成することが模索されており、本出願人からも、MEMSミラーをミラー部として用いた光スキャナーを備えた画像投影装置が既に出願されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
MEMSを用いた小型の光スキャナー(光走査装置)のミラー部を大きく傾向させるためには、圧電アクチュエーターの駆動周波数とミラー部の機械的共振周波数とが合致していることが好ましい。しかし、製造される際の寸法誤差や加工バラツキによって、それぞれの製品毎に共振周波数がばらつくことがある。
【0006】
そのために、ミラー部に質量片を付着して、共振周波数を可変にして、各製品の共振周波数を個別に高精度に調整可能とした光走査装置(光スキャナー)が既に出願されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−266508号公報
【特許文献2】特開2004−219889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
圧電素子などの電気機械変換素子の機械変位を弾性変形部を介して伝達することで、ミラー部を傾向させることができる。また、ミラー部を弾性変形部と細い梁を介して支持することで、ミラー部の共振を利用して、ミラー部をより大きく傾向させることができる。しかし、特許文献2に開示されているように、ミラー部の共振周波数を調整するために、ミラー部に質量片を付加(あるいは、質量片を除去)する構成では、ミラー部が細い梁を介して支持されているため、加工の際に破損する虞が生じて問題となる。
【0009】
また、ミラー部の共振周波数が異なると、この新たな共振周波数に応じた周波数で圧電アクチュエーターを駆動させる必要が生じてしまうので、ミラー部の共振周波数の変化はシステム制約上望ましくない。
【0010】
そのために、ミラー部の共振周波数を調整することなく、圧電アクチュエーターの駆動周波数とミラー部の機械的共振周波数とが合致することが好ましく、ミラー部を傾向して光を走査するスキャナー性能が高いレベルで安定している光スキャナー(光走査装置)であることが望まれる。
【0011】
また、ミラー部の共振周波数を調整することなく、ミラー部を傾向して光を走査するスキャナー性能が高いレベルで安定する光走査装置の製造方法および性能調整方法であることが好ましい。
【0012】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、ミラー部の共振周波数を調整することなく、ミラー部を傾向して光を走査するスキャナー性能が高いレベルで安定する光走査装置の製造方法および性能調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために本発明は、固定枠と、該固定枠に連結され、電気機械変換部と弾性変形部とが一体化された駆動部と、該駆動部と軸部を介して連結され主に第一方向に傾動可能な可動枠と、該可動枠とトーションバーを介して連結され前記第一方向と直交する第二方向に主に傾向するミラー部と、を備える光走査装置の製造方法であって、前記駆動部の共振周波数を、組み付けた前記ミラー部のミラー部共振周波数に応じた所定の駆動部共振周波数に調整する調整工程を有することを特徴としている。
【0014】
上記の構成によると、駆動部の共振周波数をミラー部の共振周波数に応じた所定の駆動部共振周波数に調整してミラー部のスキャナー性能を安定化させることができる。また、ミラー部という壊れやすいデバイス側で調整する必要がないので、良品率が向上する光走査装置の製造方法となる。
【0015】
また本発明は上記構成の光走査装置の製造方法において、前記軸部は、前記ミラー部と前記駆動部との互いの共振周波数に影響を与えない程度に低剛性な高変形構造部を備えていることを特徴としている。この構成によると、ミラー部の共振周波数と駆動部の共振周波数を独立的に制御することがでる。
【0016】
また本発明は上記構成の光走査装置の製造方法において、前記調整工程は、前記駆動部共振周波数を前記ミラー部共振周波数よりも所定の周波数分高く又は低くする調整を行うことを特徴としている。この構成によると、ミラー部共振周波数に接近した少し高いか低い駆動部共振周波数に調整することで、環境などの変化に対して強いロバストな系を構築することができ、低剛性の軸部を介して、ミラー部を大きく傾向することができる。
【0017】
また本発明は上記構成の光走査装置の製造方法において、前記調整工程は、前記電気機械変換部の質量の一部除去、または、当該質量の一部付与によって行うことを特徴としている。この構成によると、作製したミラー部の共振周波数にバラツキが生じても、電機機械変換部の特性にバラツキが生じても、電気機械変換部の質量の一部除去や質量の一部付与により、駆動部の共振周波数を適当な範囲に調整することができ、スキャナー性能が安定した光走査装置を製造することができる。
【0018】
また本発明は上記構成の光走査装置の製造方法において、前記調整工程は、一体化した前記弾性変形部と前記電気機械変換部の質量の一部除去、または、当該質量の一部付与によって行うことを特徴としている。この構成によると、作製した駆動部の質量の一部除去や質量の一部付与により、駆動部共振周波数を適当な範囲に調整して、スキャナー性能が安定した光走査装置を製造することができる。
【0019】
また本発明は上記構成の光走査装置の製造方法において、前記調整工程は、前記弾性変形部と前記電気機械変換部とを一体化する位置の調整で行うことを特徴としている。この構成によると、作製したミラー部の共振周波数にバラツキが生じても、取り付ける電気機械変換部の特性にバラツキが生じても、弾性変形部に対する電気機械変換部の取り付け位置の調整により、駆動部共振周波数を適当な範囲に調整して、スキャナー性能が安定した光走査装置を製造することができる。
【0020】
また本発明は上記構成の光走査装置の製造方法において、前記調整工程は、前記弾性変形部に対する前記電気機械変換部の大きさの調整で行うことを特徴としている。この構成によると、作製したミラー部の共振周波数にバラツキが生じても、作製した電気機械変換部の特性にバラツキが生じても、弾性変形部に貼付する電気機械変換部の大きさを変える調整により、駆動部共振周波数を適当な範囲に調整して、スキャナー性能が安定した光走査装置を製造することができる。
【0021】
また本発明は上記構成の光走査装置の製造方法において、前記調整工程は、前記弾性変形部に前記電気機械変換部を貼付する際の接着剤に配合する添加粒子の粒径を調整することで行うことを特徴としている。この構成によると、作製したミラー部の共振周波数にバラツキが生じても、作製した電気機械変換部の特性にバラツキが生じても、接着剤に配合する添加粒子の粒径を調整して弾性変形部に電気機械変換部を貼付する際の接着層の厚みを変えて、駆動部共振周波数を適当な範囲に調整することができ、スキャナー性能が安定した光走査装置を製造することができる。
【0022】
また本発明は、固定枠と、該固定枠に連結され、電気機械変換部と弾性変形部とが一体化された駆動部と、該駆動部と軸部を介して連結され主に第一方向に傾動可能な可動枠と、該可動枠とトーションバーを介して連結され前記第一方向と直交する第二方向に主に傾向するミラー部とを備える光走査装置の性能調整方法であって、前記駆動部の共振周波数を、組み付けた前記ミラー部のミラー部共振周波数に応じた所定の駆動部共振周波数に調整することを特徴としている。
【0023】
上記の構成によると、駆動部の共振周波数をミラー部の共振周波数に応じた所定の駆動部共振周波数に調整することで、所望のスキャナー性能を発揮させ安定化させることができる。また、ミラー部という壊れやすいデバイス側で調整する必要がないので、マイクロスキャナー製造時の良品率が向上する。
【0024】
また本発明は上記構成の光走査装置の性能調整方法において、前記軸部は、前記ミラー部と前記駆動部との互いの共振周波数に影響を与えない程度に低剛性な高変形構造部を備えていることを特徴としている。この構成によると、ミラー部の共振周波数と駆動部の共振周波数を独立的に制御することがでる。
【0025】
また本発明は上記構成の光走査装置の性能調整方法において、前記所定の駆動部共振周波数に調整する調整工程は、前記駆動部共振周波数を前記ミラー部共振周波数よりも所定の周波数分高く又は低くする調整を行うことを特徴としている。この構成によると、ミラー部共振周波数に接近した少し高いか低い駆動部共振周波数に調整することで、環境などの変化に対して強いロバストな系を構築することができ、低剛性の軸部を介して、ミラー部を大きく傾向することができる。
【0026】
また本発明は上記構成の光走査装置の性能調整方法において、前記所定の駆動部共振周波数に調整する調整工程は、前記電気機械変換部の質量の一部除去、または、当該質量の一部付与によって行うことを特徴としている。この構成によると、作製したミラー部の共振周波数にバラツキが生じても、電機機械変換部の特性にバラツキが生じても、電気機械変換部の質量の一部除去や質量の一部付与により、駆動部の共振周波数を適当な範囲に調整することができ、スキャナー性能を容易に安定化させることができる。
【0027】
また本発明は上記構成の光走査装置の性能調整方法において、前記所定の駆動部共振周波数に調整する調整工程は、一体化した前記弾性変形部と前記電気機械変換部の質量の一部除去、または、当該質量の一部付与によって行うことを特徴としている。この構成によると、作製した駆動部の質量の一部除去や質量の一部付与により、駆動部共振周波数を適当な範囲に調整して、スキャナー性能を容易に安定化させることができる。
【0028】
また本発明は上記構成の光走査装置の性能調整方法において、前記所定の駆動部共振周波数に調整する調整工程は、前記弾性変形部と前記電気機械変換部とを一体化する位置の調整で行うことを特徴としている。この構成によると、圧電素子の受け入れ検査などにより予め判断できる共振周波数のずれに応じて、その貼付位置を調整して、ミラー部の共振周波数に応じた適当な駆動部共振周波数を発揮するように調整することができる。
【0029】
また本発明は上記構成の光走査装置の性能調整方法において、前記所定の駆動部共振周波数に調整する調整工程は、前記弾性変形部に対する前記電気機械変換部の大きさの調整で行うことを特徴としている。この構成によると、形状誤差や材料のロット変動などで、圧電素子の素材自体の特性にバラツキが生じても、製品毎の大きさを変えることで、ミラー部の共振周波数に応じた適当な駆動部共振周波数を発揮するように調整することができる。
【0030】
また本発明は上記構成の光走査装置の性能調整方法において、前記所定の駆動部共振周波数に調整する調整工程は、前記弾性変形部に前記電気機械変換部を貼付する際の接着剤に配合する添加粒子の粒径を調整することで行うことを特徴としている。この構成によると、作製したミラー部の共振周波数に応じて、もしくは、取り付ける圧電素子の特性に応じて、添加粒子の粒径を変えることで、駆動部の共振周波数を調整することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、駆動部の共振周波数を、組み付けたミラー部のミラー部共振周波数に応じた所定の駆動部共振周波数に調整するので、ミラー部の共振周波数を調整することなく、ミラー部を傾向して光を走査するスキャナー性能が高いレベルで安定する光走査装置の製造方法および性能調整方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る光走査装置の概略平面図である。
【図2】光走査装置の要部断面図である。
【図3】ミラー部共振周波数と駆動部共振周波数との関係を示す図である。
【図4】共振周波数調整部の第一の調整工程を説明する平面図である。
【図5】共振周波数調整部の第二の調整工程を説明する平面図である。
【図6A】共振周波数調整部の調整部位の変化を説明する平面図である。
【図6B】調整部位の変化に対応して変化する共振周波数の変遷を示す図である。
【図7A】共振周波数調整部の第三の調整工程を説明する平面図である。
【図7B】第三の調整工程に応じて変化する共振周波数の変遷を示す図である。
【図8A】共振周波数調整部の第四の調整工程を説明する断面図である。
【図8B】第四の調整工程に応じて変化する共振周波数の変遷を示す図である。
【図9】本発明に係る光走査装置を備えたモバイル端末の作動状態を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に本発明の実施形態を図面を参照して説明する。また、同一構成部材については同一の符号を用い、詳細な説明は適宜省略する。
【0034】
本発明に係る光走査装置の製造方法は、固定枠と、該固定枠に連結され、電気機械変換部と弾性変形部とが一体化された駆動部と、該駆動部と軸部を介して連結され主に第一方向に傾動可能な可動枠と、該可動枠とトーションバーを介して連結され第一方向と直交する第二方向に主に傾向するミラー部とを備える光走査装置2の製造方法である。光走査装置2は、例えば、図9に示す携帯電話やPDA(Personal Digital Assistant)などのモバイル端末40に搭載されるプロジェクター100に装備され、投影面41上に光を水平方向(H方向)および垂直方向(V方向)に走査するものである。
【0035】
例えば、光源としてレーザー光を用い、投影面41上においてレーザー光を水平方向(H方向)および垂直方向(V方向)に走査することによって、プロジェクター100に入力された画像情報を投影面41に投影する。この投影面41としては、別途準備したスクリーンでもよいが、スクリーン以外のものでもよい。例えば、壁面などを投影面41としてもよい。
【0036】
光源にRGB3色の光源を用いることで、スクリーン上にカラー映像を投影することができる。その際、ミラー部の傾向量により映像の投影範囲、解像度が決まり、映像の品質を決定する。そのために、映像の品質の向上にとっては、ミラー部の傾向量は大きいことが好ましい。
【0037】
また、梁により支持されたミラー部と圧電素子を貼付した駆動部は、各々独立した共振周波数を有する構成を取り、ミラー部の共振周波数(ミラー部共振周波数)と駆動部の共振周波数(駆動部共振周波数)を近づけることで、ミラー部の傾向量を大きくすることができる。
【0038】
次に、図1を用いて光走査装置2の一例について説明する。光走査装置2は、光源から出射されるレーザー光を二次元走査するためのものであって、レーザー光を投影面41(図9参照)に向けて反射するミラー部3を少なくとも有している。このミラー部3の傾斜角(反射角)は変動可能となっており、ミラー部3の傾斜角を変動させることにより、光走査装置2によるレーザー光の二次元走査が行われる。
【0039】
また、ミラー部3をMEMSに組み込み、そのミラー部3が組み込まれたMEMSを光走査装置2としている。また、この光走査装置2は、略平坦で厚みが小さく、かつ、その外形が平面視において略正方形状(例えば、1辺の長さが約1cm)となっている。
【0040】
具体的な構造としては、光走査装置2はシリコン基板に対してエッチング処理などを施すことで得られる構造体からなっており、ミラー部3に加えて、固定枠4、駆動部5および可動枠6などを一体的に有している。なお、以下の説明では、ミラー部3の中心を図の横方向に横切る軸をX軸とし、ミラー部3の中心を図の縦方向に横切る軸をY軸とする。言い換えると、X軸とY軸とが直交する点をミラー部3の中心とする。
【0041】
ミラー部3は、Y軸に平行な第1軸部(トーションバー7)とX軸に平行で第1軸部と略直角に交差する第2軸部(軸8)を介して回動可能である。固定枠4は、光走査装置2の外縁に相当する部分であって、他の部分(ミラー部3、駆動部5および可動枠6など)を取り囲んでいる。すなわち、光走査装置2は、固定枠4と、互いに異なる軸方向を有する第1軸部及び第2軸部と、第1軸部の回動によって回動するとともに、第2軸部の回動によって回動するミラー部3と、ミラー部3及び第1軸部を囲み、第2軸部の回動によって回動する可動枠6と、電気機械変換素子部と、電気機械変換素子部で発生する変位をミラー部3の傾向に伝達する弾性変形部と、を備えている。
【0042】
弾性変形部と電気機械変換素子部とを一体化した部位である駆動部5は、X軸方向において固定枠4と分離され、Y軸方向において固定枠4と連結されている。すなわち、弾性変形部は、第2軸部(軸8)と固定枠4とを連結し、電気機械変換素子部は、正電極と負電極で挟まれた電気機械変換素子層を有する。さらに、駆動部5は4つの圧電アクチュエーター部を含んでいるとともに、その4つの圧電アクチュエーター部がX軸およびY軸のそれぞれを対称軸として対称となり、かつ、互いに離間した状態となるように配置されている。また、駆動部5としての圧電アクチュエーター部は、圧電素子(PZTなどを原料とした焼結体を分極処理したもの)を一対の電極で挟持し、それをシリコン基板の駆動部5となる領域(弾性変形部)上に貼り付けることによって形成されている。
【0043】
このような駆動部5では、一対の電極に電圧が印加されると、一対の電極に挟持された圧電素子が伸長または収縮する。そして、圧電素子が伸長または収縮すると、それに応じて、シリコン基板の駆動部5となる領域である弾性変形部が撓む。すなわち、駆動部5は、電力が供給されることで駆動する。
【0044】
また、図に示すように、可動枠6は、駆動部5の内側に位置する略ひし形形状の枠である。この可動枠6のX軸上の両端部は軸8(第2軸部)を介して駆動部5と連結され、それ以外の部分は駆動部5から分離されている。これにより、可動枠6は、X軸周りに回動可能となっていることになる。
【0045】
可動枠6の内側には、Y軸方向に沿って延びる一対のトーションバー7(第1軸部)が設けられている。この一対のトーションバー7は、Y軸と重なり、かつ、X軸に対して対称となるように配置されている。さらに、一対のトーションバー7のそれぞれの一方端は、可動枠6のY軸上の端部に連結されている。
【0046】
そして、ミラー部3は、一対のトーションバー7のそれぞれの他方端の間に配置されており、その他方端によって支持されている。このため、ミラー部3は、可動枠6と共にX軸周りに回動され、トーションバー7を回動軸としてY軸周りに回動されることになる。なお、ミラー部3は、略円形状に形成されており、金やアルミニウムなどからなる反射膜をシリコン基板のミラー部3となる領域上に貼り付けることで得ている。
【0047】
光走査装置2は、上記のような構造となっている。そして、この光走査装置2の走査動作は、4つの駆動部5を駆動(変形)させるタイミングを調整し、ミラー部3をX軸周りおよびY軸周りに振動させることによって行われる。例えば、X軸周りに振動するときの周波数は約60Hzに設定され、Y軸周りに振動するときの周波数は約30kHzに設定される。
【0048】
4つの駆動部5のそれぞれに5−1〜5−4の符号を付して具体的に説明すると、ミラー部3をX軸周りに振動させる際には、駆動部5−1および5−3を一方の組とするとともに、駆動部5−2および5−4を他方の組とし、一方の組および他方の組のそれぞれに印加する電圧の正負を反転させる。具体的には、一方の組である駆動部5−1および5−3を上向きに撓む方向に変形させ、他方の組である駆動部5−2および5−4を下向きに撓む方向に変形させると、ミラー部3が可動部6と共にX軸周りに回転する。次に、一方の組である駆動部5−1および5−3を下向きに撓む方向に変形させ、他方の組である駆動部5−2および5−4を上向きに撓む方向に変形させると、ミラー部3が可動部6と共にX軸周りに逆周りに回転する。これにより、ミラー部3が可動枠6と共にX軸周りに振動し、ミラー部3の傾きがX軸周りに変動する。なお、トーションバー7のねじれ方向はX軸周りの振動方向と直交する方向であるため、このミラー部3のX軸周りの振動には影響しない。
【0049】
また、ミラー部3をY軸周りに振動させる際には、駆動部5−1および5−2を一方の組とするとともに、駆動部5−3および5−4を他方の組とし、一方の組および他方の組のそれぞれに印加する電圧の正負を反転させる。具体的には、一方の組である駆動部5−1および5−2を上向きに撓む方向に変形させ、他方の組である駆動部5−3および5−4を下向きに撓む方向に変形させると、ミラー部3が可動部6と共にY軸周りに回転する。次に、一方の組である駆動部5−1および5−2を下向きに撓む方向に変形させ、他方の組である駆動部5−3および5−4を上向きに撓む方向に変形させると、ミラー部3が可動部6と共にY軸周りに逆周りに回転する。これにより、ミラー部3が可動枠6と共にY軸周りに振動し、ミラー部3の傾きがY軸周りに変動する。
【0050】
このとき、駆動部5を変形させることのみでミラー部3をY軸周りに傾かせようとすると、ミラー部3のY軸周りの傾きの変動は小さくなってしまう。このため、実際に走査動作を行う際には、駆動部5に印加される電圧の周波数によってミラー部3が共振するように、駆動部5への印加電圧の周波数が設定される。
【0051】
上記のように光走査装置2を動作させることで、互いに直交している2軸周りにミラー部3を回動させることができ、レーザー光を1つのミラー部3で二次元走査することが可能となる。
【0052】
ところで、本実施形態では、製造誤差などにより生じる不安定要因を容易に調整し安定して大きな変形量を得るために、ミラー部3の共振周波数は変えずに、圧電素子側(駆動部側)の共振周波数を調整するようにしている。すなわち、本実施形態に係る光走査装置2は、駆動部5の共振周波数を、予め所定の基準周波数より所定範囲高いか低い周波数に設定しておき、さらに、組み付けたミラー部3のミラー部共振周波数に応じた所定の駆動部共振周波数に調整している。
【0053】
上記の構成であれば、駆動部5の共振周波数をミラー部共振周波数に近づけるように調整し、ミラー部共振周波数よりも所定の周波数分高く又は低く調整して、ミラー部3のスキャナー性能を安定化させることができる。また、ミラー部3という壊れやすいデバイス側で調整する必要がないので、良品率が向上する。
【0054】
また、駆動部5の共振周波数を調整しても、ミラー部3の共振周波数が影響を受けないように、駆動部5とミラー部3を備える可動枠6とを連結する梁である軸部8は、低剛性で高変形構造部を備えることが好ましい。詳しくは、軸部8は、ミラー部3と駆動部5との互いの共振周波数に影響を与えない程度に低剛性な高変形構造部を備えている事が好ましい。このような構成であれば、ミラー部3の共振周波数と駆動部5の共振周波数を独立的に制御することができ、低剛性の軸部8を介して、ミラー部3を大きく傾向することができる。
【0055】
この低剛性で高変形構造部は、例えば、軸部8の一部に細い梁からなる蛇行部を設けることで実現できる。
【0056】
また、駆動部5の共振周波数は、組み付けたミラー部3の共振周波数に接近した少し高い共振周波数に設定しておくことが好ましい。例えば、ミラー部共振周波数に対して駆動部共振周波数を約5%高い値に設定する。こうすることで、環境などの変化に対して強いロバストな系を構築することが可能となる。
【0057】
電気機械変換素子層は、図2に示すように固定部11(光走査装置2を取り付ける固定枠4に相当)に弾性変形部12(シリコン基板の一部に相当し、弾性変形部12と電気機械変換素子層とを一体化した部位が駆動部5に相当する)を積層し、この上に電極部(正極用電極部13A、負極用電極部13B)を設け、接着層14を介して圧電素子51を接着固定する。また、圧電素子51は、例えば、正電極15と負電極16との一対の電極で挟まれたユニモルフ型の電気機械変換素子である。
【0058】
接着層14は異方性導電接着層であることが好ましい。接着層14が異方性導電接着層であれば、弾性変形部12上の正負極用電極部に電極で挟まれた圧電素子51を載置して、押圧することで、この正負極用電極部(13A、13B)と直上の電極(15、16)とを電気的に接続することができる。
【0059】
すなわち、電気機械変換素子部(圧電素子51)は、弾性変形部12上に設ける電極部と異方性導電接着層を介して接合される。この構成であれば、弾性変形部12上に設ける電極部と、この上に配設する電気機械変換素子部(圧電素子51)の正負の電極とを、短絡を生じずに接合することができる。すなわち、電気機械変換素子部に給電するための電極部を、弾性変形部との接着部に設けることができる。
【0060】
この異方性導電接着層は、弾性変形部12と電気機械変換素子部(圧電素子51)との間隙を、電気機械変換素子部の共振周波数を安定化する所定間隔に保持する粒子14aを含有することが好ましい。また、この粒子14aは導電性を有することが好ましい。この構成であれば、異方性導電接着層に配合する導電性の粒子14aを介して、弾性変形部12と電気機械変換素子部(圧電素子51)との間隙を所定間隔とすることができ、ミラー部3の傾向量に影響する駆動部5の共振周波数を安定化させて、結果としてミラー部3の傾向量を安定化させることが可能となる。
【0061】
このようにして、駆動部5の共振周波数を安定化すると共に、この駆動部共振周波数をミラー部の共振周波数に近づけることで、ミラー部3の傾向量を大きくできる。すなわち、駆動部共振周波数をミラー部共振周波数に近い所定の共振周波数に設定することで、ミラー部3を安定して、且つ、大きく傾向できる。
【0062】
上記したように、光走査装置2は、シリコン基板に対してエッチング処理などを施すことで得られる構造体からなっており、ミラー部3に加えて、固定枠4、駆動部5および可動枠6などを一体的に有している。このように、ミラー部3と駆動部5と可動枠6とを一体に形成しているので、小型化することが可能である。また、駆動部5の共振周波数をミラー部3の共振周波数に近づけているので、大きな変形量を得ることができ、結果としてミラー部3を充分傾向することが可能となる。
【0063】
例えば、図3に示すように、ミラー部共振周波数MRが29.2kHzのときに、駆動部の共振周波数DRをそれよりも約5%高い30.6kHzとなるようにしている。この二つの共振周波数を一致させることが最も効率的であるが、環境による共振周波数変動などを考慮して、ミラー部共振周波数に対し、圧電素子が貼付された駆動部5の共振周波数を約5%高めに設定し、環境などの変化に強いロバストな系として使用している。
【0064】
製造時に、形状誤差や圧電素子などの材料のロット変動などで、ミラー部共振周波数と駆動部共振周波数との差幅が変化すると、製品毎に性能バラツキが生じる。そのために、所定の部位に圧電素子を貼付して駆動部を作製する際に、この駆動部共振周波数をミラー部共振周波数に応じた適当な値に調整しておくことが好ましい。すなわち、本発明に係る光走査装置の性能調整方法は、駆動部の共振周波数を、組み付けたミラー部のミラー部共振周波数に応じた所定の駆動部共振周波数に調整し、スキャナー性能を安定化させるものである。なお、駆動部の共振周波数DRをミラー部共振周波数MRより所定の周波数分低くすることによっても、環境などの変化に強いロバストな系を構築できる。
【0065】
次に、この駆動部共振周波数を所望の値に修正する光走査装置の性能調整方法について図4〜図8Bを用いて説明する。
【0066】
駆動部の共振周波数を調整するには、一旦駆動部を作製した後に調整する事後調整と、部品特性に応じて予め調整する事前調整とがある。事後調整としては、一旦作製した電気機械変換部の質量の一部除去、または、質量の一部付与、もしくは、電気機械変換部と弾性変形部とが一体化された駆動部の質量の一部除去、または、質量の一部付与で行う調整工程を採用する。また、事前調整としては、駆動部の圧電素子貼付位置の調整で行う調整工程と、駆動部に貼付する圧電素子の大きさを調整する調整工程と、駆動部に圧電素子を貼付する際の接着剤に配合する添加粒子の粒径を調整する調整工程とを採用する。
【0067】
例えば、電気機械変換部や駆動部の質量の一部除去は、駆動部の所定部位をレーザー加工により除去することで行う。また、質量の一部付与は、所定部位に樹脂などを付着して行う。駆動部の圧電素子貼付位置の調整は、圧電素子の受け入れ検査などにより予め判断できる共振周波数のずれに応じて、その貼付位置を調整して行う。例えば、入荷した圧電素子の板厚が厚くなっている場合、そのまま所定の位置に貼付すると共振周波数は高くなってしまう。そこで、予め、貼付する位置を軸部に近づけることで共振周波数を下げるように工夫する。また、貼付する位置を変えることに替えて、貼付する圧電素子の大きさを調整してもよい。また、圧電素子を貼付する際に用いる接着剤の所定粒径の粒子を添加して、弾性変形部との間隔を調整することでも、駆動部の共振周波数を調整することが可能である。
【0068】
例えば、図4には、電気機械変換部などの駆動部5の所定部位をレーザー加工により除去する第一の調整工程を示している。図に示すように、駆動部5の軸部8から離れた固定部側に近い部分をレーザー加工して、所定量除去する。このようにして、固定部側に除去部R1を設けたマイクロスキャナー1Aは、振動の節を一部除去するので、剛性が弱くなって駆動部5の共振周波数を下げることができる。
【0069】
また、図5に示す光走査装置2Bは、軸部8に近い変位側に除去部R2を設けた例を示す。この第二の調整工程では、振動の節ではなく腹を削ることになって、駆動部5の質量が減るので、共振周波数を上げる効果を有する。すなわち、駆動部5の共振周波数を上げたい場合は、駆動部5の変位側を所定量除去し、駆動部5の共振周波数を下げたい場合は、駆動部5の固定部側を所定量除去するとよい。
【0070】
この除去する形状は、図示するような半円形でも、円形でもよい。また、その大きさは所定量となる一個でも、合計して所定量となるように複数除去してもよく、組み込んだミラー部や貼付した圧電素子に応じて適宜調整することができる。このように、駆動部5の固定部側から変位部に至る所定部分を共振周波数調整部とし、この共振周波数調整部を介して、駆動部5の共振周波数をミラー部3の共振周波数に近づけて所望のスキャナー性能を発揮させ安定化させることができる。
【0071】
次に、図6A、図6Bを用いて、調整部位の変化に対応して変化する共振周波数の変遷について説明する。例えば、図6Aに示す光走査装置2Cのように、駆動部5(5−3)に設ける除去部R1を図中の矢印DXに示す方向に、固定部側から変位側まで変化させると、その共振周波数は図6Bに示すように変遷する。
【0072】
図6Bに示す周波数カーブSC1は、矢印DXに示す調整部位の変化に対応して変化する共振周波数の変遷を示している。この図の横軸は、固定部側から変位側となる先端側に至る調整部位の位置を表しており、縦軸は、周波数の増減%を表している。また、この周波数の増減は±3%の幅を目途としている。
【0073】
これは、駆動部を30kHzで駆動するときに、±1kHzを調整幅としたためである。本実施形態の光走査装置2Cは、二次モードの固有振動を利用しているので、共振周波数は図に示す周波数カーブSC1のように二次曲線状に変遷しており、この固定部側の−領域AR1と+領域AR2を用いて調整するとよい。すなわち、この−領域AR1と+領域AR2を共振周波数調整部とすることで、共振周波数を±3%の範囲で調整できる。
【0074】
次に、図7A、図7Bを用いて、駆動部の圧電素子貼付位置の調整で行う第三の調整工程、および、この圧電素子の貼付位置の変化に対応する共振周波数の変遷について説明する。この第三の調整工程は、圧電素子の受け入れ検査などにより予め判断できる共振周波数のずれに応じて、その貼付位置を調整するものである。例えば、図7Aに示す光走査装置2Dのように、駆動部5(5−1)に貼付する圧電素子51の貼付位置を51Aから51Bに、軸部8から離れた位置から軸部8に接近した位置まで変化させると、その共振周波数は図7Bに示すように変遷する。
【0075】
図7Bに示す周波数カーブSC2は、矢印DXに示す調整部位の位置の変化に対応する共振周波数を示している。この図の横軸は、変位側となる軸部から離れた固定部側から軸部に接近した位置に至る調整部位の位置を表しており、縦軸は、周波数の増減%を表している。また、この周波数の増減は前述したように±3%の幅を目途としている。
【0076】
このように、圧電素子51の貼付位置が51A(軸部8から離れた位置)であれば、共振周波数を+3%上げることができ、圧電素子51の貼付位置が51B(軸部8に接近した位置)であれば、共振周波数を−3%下げることができる。すなわち、この貼付位置51Aから51Bまでを共振周波数調整部とすることで、共振周波数を±3%の範囲で調整できる。
【0077】
また、駆動部の圧電素子貼付位置の調整で行う第三の調整工程に替えて、駆動部に貼付する圧電素子の大きさを調整する事前調整を行ってもよい。この調整工程であれば、形状誤差や材料のロット変動などで、圧電素子の素材自体の特性にバラツキが生じても、製品毎の大きさを変えることで、ミラー部の共振周波数に応じた適当な駆動部共振周波数を発揮するように調整することができる。
【0078】
次に、図8A、図8Bを用いて、駆動部に圧電素子を貼付する際の接着剤に配合する添加粒子の粒径を調整する第四の調整工程、および、この圧電素子を貼付する際に用いる接着剤の所定粒径の粒子を添加して、弾性変形部との間隔を調整することに対応して変化する共振周波数の変遷について説明する。
【0079】
例えば、この接着剤は異方性導電接着層を形成する接着剤であって、絶縁性を有するエポキシ樹脂に、導電性コートを施した所定の粒径(例えば、10μm)のセラミックボール(添加粒子;粒子14a)を混入したものを用いる。セラミックボールの配合量は、例えば、重量比で5%程度であり、このセラミックボールを5%配合したエポキシ樹脂を弾性変形部上に形成した電極部に塗布し、この上に圧電素子を載置して押圧し、熱硬化させて固定する。すると、この添加粒子(粒子14a)の粒径が貼り合わせる圧電素子と弾性変形部との間隔を規定する。
【0080】
そのために、例えば10μmの粒径の粒子14aを添加すると、圧電素子と弾性変形部との間隔Eは10μmとなり、この構造に応じた共振周波数を呈する。また、20μmの粒径の粒子14aを添加すると、圧電素子と弾性変形部との間隔は20μmとなり、この構造に応じた新たな共振周波数を呈する。
【0081】
すなわち、この添加粒子の粒径を変えて、駆動部の共振周波数を調整可能となる。例えば図8Aに示すように、弾性変形部12として厚み50μmのシリコン基板を用い、この上に所定粒子径の粒子14aを添加したエポキシ系の接着剤を塗布した接着層14を介して厚み70μmの圧電素子を貼付した駆動部を作製し、この共振周波数を測定した。
【0082】
その結果、図8Bの周波数カーブSC3に示すように、本実施形態では、粒径が10μmの場合に、−1%であり、ここから、粒径が増加するに連れて共振周波数も増加していることが判る。すなわち、圧電素子を貼付する際に用いる接着剤の粒子径を変えて、共振周波数を−1%〜+3%の間で調整可能となる。
【0083】
上記したように、本発明に係る光走査装置の性能調整方法は、固定枠と、該固定枠に連結され、電気機械変換部と弾性変形部とが一体化された駆動部と、該駆動部と軸部を介して連結され主に第一方向に傾動可能な可動枠と、該可動枠とトーションバーを介して連結され前記第一方向と直交する第二方向に主に傾向するミラー部とを備える光走査装置において、駆動部の共振周波数を、組み付けたミラー部のミラー部共振周波数に応じた所定の駆動部共振周波数に調整し、スキャナー性能を安定化させるものである。
【0084】
また、その共振周波数に調整する調整工程は、電気機械変換部もしくは駆動部の質量の一部除去、または、質量の一部付与で行う調整方法、駆動部の圧電素子貼付位置の調整で行う調整方法、駆動部に貼付する圧電素子の大きさを調整する調整方法、駆動部に圧電素子を貼付する際の接着剤に配合する添加粒子の粒径を調整する調整方法の少なくとも一つを含む。
【0085】
次に、本発明に係る光走査装置の製造方法について説明する。本発明に係る光走査装置の製造方法は、上記の光走査装置の性能調整方法を用いて、スキャナー性能を安定化している。すなわち、固定枠と、該固定枠に連結され、電気機械変換部と弾性変形部とが一体化された駆動部と、該駆動部と軸部を介して連結され主に第一方向に傾動可能な可動枠と、該可動枠とトーションバーを介して連結され前記第一方向と直交する第二方向に主に傾向するミラー部とを備える光走査装置の製造方法であって、駆動部の共振周波数を、組み付けたミラー部のミラー部共振周波数に応じた所定の駆動部共振周波数に調整し、スキャナー性能を安定化している。
【0086】
また、その共振周波数に調整する調整工程は、電気機械変換部もしくは駆動部の質量の一部除去、または、質量の一部付与で行う調整方法、駆動部の圧電素子貼付位置の調整で行う調整方法、駆動部に貼付する圧電素子の大きさを調整する調整方法、駆動部に圧電素子を貼付する際の接着剤に配合する添加粒子の粒径を調整する調整方法の少なくとも一つを含む。また、これらを組み合わせた調整工程であってもよい。
【0087】
このような製造方法とすることで、ミラー部の共振周波数を変えることなくスキャナー性能を安定化させることができる。また、ミラー部という壊れやすいデバイス側で調整作業を行う必要がなるため、作業中の製品破壊などが生じずに、良品率が向上する光走査装置の製造方法を得ることができる。
【0088】
以上、説明したように、本発明に係る光走査装置の製造方法および性能調整方法によれば、駆動部の共振周波数を、予め所定の基準周波数より所定範囲高いか低い周波数に設定し、組み付けたミラー部のミラー部共振周波数に応じた所定の駆動部共振周波数に調整するので、ミラー部の共振周波数を調整することなく、ミラー部を傾向して光を走査するスキャナー性能が高いレベルで安定する光走査装置を製造することができる。
【0089】
また、電気機械変換部もしくは駆動部の質量の一部除去、または、質量の一部付与で行う調整方法、駆動部の圧電素子貼付位置の調整で行う調整方法、駆動部に貼付する圧電素子の大きさを調整する調整方法、駆動部に圧電素子を貼付する際の接着剤に配合する添加粒子の粒径を調整する調整方法の少なくとも一つを含む調整工程を有するので、ミラー部の共振周波数を変えることなく、駆動部の共振周波数を調整してスキャナー性能を安定化させることができる。また、ミラー部の共振周波数を変えることなくスキャナー性能を安定化させることができるので、作業中の製品破壊などが生じずに、良品率が向上する。
【産業上の利用可能性】
【0090】
そのために、本発明に係る光走査装置の製造方法および性能調整方法は、安定したスキャナー性能を備え、大量生産化が求められる映像投影手段に好適に利用可能となる。
【符号の説明】
【0091】
2、2A〜2D 光走査装置
3 ミラー部
4 固定枠
5 駆動部
6 可動枠
11 固定部
12 弾性変形部
14 接着層
14a 粒子(添加粒子)
15 正電極
16 負電極
DR 駆動部共振周波数
MR ミラー部共振周波数
R1、R2 除去部(共振周波数調整部)
41 投影面
51 圧電素子(電気機械変換素子)
100 プロジェクター
【技術分野】
【0001】
本発明は、光走査装置の製造方法および性能調整方法に関し、特に、MEMSミラーを備えた光走査装置の製造方法および性能調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザー光等を走査する光スキャナ(光走査装置)を備えたレーザープリンターやレーザープロジェクター等が知られている。レーザープリンターでは、多角柱ミラーをモーターで回転させて反射光を走査するポリゴンミラーや、平面ミラーを電磁アクチュエーターによって回転駆動させるガルバノミラー等を有するものがある。
【0003】
これらのポリゴンミラーやガルバノミラー等を用いた光スキャナーは比較的サイズが大きいので、より小型化を実現するために、集積回路製造技術を応用してミラーや弾性梁等の構成部品を一体的に成形加工したMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)の開発が進んでいる。
【0004】
また、レーザープロジェクターなどの画像投影装置でも、より小型化された光スキャナー(光走査装置)を得るために、MEMSによって走査ミラー(ミラー部)を構成することが模索されており、本出願人からも、MEMSミラーをミラー部として用いた光スキャナーを備えた画像投影装置が既に出願されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
MEMSを用いた小型の光スキャナー(光走査装置)のミラー部を大きく傾向させるためには、圧電アクチュエーターの駆動周波数とミラー部の機械的共振周波数とが合致していることが好ましい。しかし、製造される際の寸法誤差や加工バラツキによって、それぞれの製品毎に共振周波数がばらつくことがある。
【0006】
そのために、ミラー部に質量片を付着して、共振周波数を可変にして、各製品の共振周波数を個別に高精度に調整可能とした光走査装置(光スキャナー)が既に出願されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−266508号公報
【特許文献2】特開2004−219889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
圧電素子などの電気機械変換素子の機械変位を弾性変形部を介して伝達することで、ミラー部を傾向させることができる。また、ミラー部を弾性変形部と細い梁を介して支持することで、ミラー部の共振を利用して、ミラー部をより大きく傾向させることができる。しかし、特許文献2に開示されているように、ミラー部の共振周波数を調整するために、ミラー部に質量片を付加(あるいは、質量片を除去)する構成では、ミラー部が細い梁を介して支持されているため、加工の際に破損する虞が生じて問題となる。
【0009】
また、ミラー部の共振周波数が異なると、この新たな共振周波数に応じた周波数で圧電アクチュエーターを駆動させる必要が生じてしまうので、ミラー部の共振周波数の変化はシステム制約上望ましくない。
【0010】
そのために、ミラー部の共振周波数を調整することなく、圧電アクチュエーターの駆動周波数とミラー部の機械的共振周波数とが合致することが好ましく、ミラー部を傾向して光を走査するスキャナー性能が高いレベルで安定している光スキャナー(光走査装置)であることが望まれる。
【0011】
また、ミラー部の共振周波数を調整することなく、ミラー部を傾向して光を走査するスキャナー性能が高いレベルで安定する光走査装置の製造方法および性能調整方法であることが好ましい。
【0012】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、ミラー部の共振周波数を調整することなく、ミラー部を傾向して光を走査するスキャナー性能が高いレベルで安定する光走査装置の製造方法および性能調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために本発明は、固定枠と、該固定枠に連結され、電気機械変換部と弾性変形部とが一体化された駆動部と、該駆動部と軸部を介して連結され主に第一方向に傾動可能な可動枠と、該可動枠とトーションバーを介して連結され前記第一方向と直交する第二方向に主に傾向するミラー部と、を備える光走査装置の製造方法であって、前記駆動部の共振周波数を、組み付けた前記ミラー部のミラー部共振周波数に応じた所定の駆動部共振周波数に調整する調整工程を有することを特徴としている。
【0014】
上記の構成によると、駆動部の共振周波数をミラー部の共振周波数に応じた所定の駆動部共振周波数に調整してミラー部のスキャナー性能を安定化させることができる。また、ミラー部という壊れやすいデバイス側で調整する必要がないので、良品率が向上する光走査装置の製造方法となる。
【0015】
また本発明は上記構成の光走査装置の製造方法において、前記軸部は、前記ミラー部と前記駆動部との互いの共振周波数に影響を与えない程度に低剛性な高変形構造部を備えていることを特徴としている。この構成によると、ミラー部の共振周波数と駆動部の共振周波数を独立的に制御することがでる。
【0016】
また本発明は上記構成の光走査装置の製造方法において、前記調整工程は、前記駆動部共振周波数を前記ミラー部共振周波数よりも所定の周波数分高く又は低くする調整を行うことを特徴としている。この構成によると、ミラー部共振周波数に接近した少し高いか低い駆動部共振周波数に調整することで、環境などの変化に対して強いロバストな系を構築することができ、低剛性の軸部を介して、ミラー部を大きく傾向することができる。
【0017】
また本発明は上記構成の光走査装置の製造方法において、前記調整工程は、前記電気機械変換部の質量の一部除去、または、当該質量の一部付与によって行うことを特徴としている。この構成によると、作製したミラー部の共振周波数にバラツキが生じても、電機機械変換部の特性にバラツキが生じても、電気機械変換部の質量の一部除去や質量の一部付与により、駆動部の共振周波数を適当な範囲に調整することができ、スキャナー性能が安定した光走査装置を製造することができる。
【0018】
また本発明は上記構成の光走査装置の製造方法において、前記調整工程は、一体化した前記弾性変形部と前記電気機械変換部の質量の一部除去、または、当該質量の一部付与によって行うことを特徴としている。この構成によると、作製した駆動部の質量の一部除去や質量の一部付与により、駆動部共振周波数を適当な範囲に調整して、スキャナー性能が安定した光走査装置を製造することができる。
【0019】
また本発明は上記構成の光走査装置の製造方法において、前記調整工程は、前記弾性変形部と前記電気機械変換部とを一体化する位置の調整で行うことを特徴としている。この構成によると、作製したミラー部の共振周波数にバラツキが生じても、取り付ける電気機械変換部の特性にバラツキが生じても、弾性変形部に対する電気機械変換部の取り付け位置の調整により、駆動部共振周波数を適当な範囲に調整して、スキャナー性能が安定した光走査装置を製造することができる。
【0020】
また本発明は上記構成の光走査装置の製造方法において、前記調整工程は、前記弾性変形部に対する前記電気機械変換部の大きさの調整で行うことを特徴としている。この構成によると、作製したミラー部の共振周波数にバラツキが生じても、作製した電気機械変換部の特性にバラツキが生じても、弾性変形部に貼付する電気機械変換部の大きさを変える調整により、駆動部共振周波数を適当な範囲に調整して、スキャナー性能が安定した光走査装置を製造することができる。
【0021】
また本発明は上記構成の光走査装置の製造方法において、前記調整工程は、前記弾性変形部に前記電気機械変換部を貼付する際の接着剤に配合する添加粒子の粒径を調整することで行うことを特徴としている。この構成によると、作製したミラー部の共振周波数にバラツキが生じても、作製した電気機械変換部の特性にバラツキが生じても、接着剤に配合する添加粒子の粒径を調整して弾性変形部に電気機械変換部を貼付する際の接着層の厚みを変えて、駆動部共振周波数を適当な範囲に調整することができ、スキャナー性能が安定した光走査装置を製造することができる。
【0022】
また本発明は、固定枠と、該固定枠に連結され、電気機械変換部と弾性変形部とが一体化された駆動部と、該駆動部と軸部を介して連結され主に第一方向に傾動可能な可動枠と、該可動枠とトーションバーを介して連結され前記第一方向と直交する第二方向に主に傾向するミラー部とを備える光走査装置の性能調整方法であって、前記駆動部の共振周波数を、組み付けた前記ミラー部のミラー部共振周波数に応じた所定の駆動部共振周波数に調整することを特徴としている。
【0023】
上記の構成によると、駆動部の共振周波数をミラー部の共振周波数に応じた所定の駆動部共振周波数に調整することで、所望のスキャナー性能を発揮させ安定化させることができる。また、ミラー部という壊れやすいデバイス側で調整する必要がないので、マイクロスキャナー製造時の良品率が向上する。
【0024】
また本発明は上記構成の光走査装置の性能調整方法において、前記軸部は、前記ミラー部と前記駆動部との互いの共振周波数に影響を与えない程度に低剛性な高変形構造部を備えていることを特徴としている。この構成によると、ミラー部の共振周波数と駆動部の共振周波数を独立的に制御することがでる。
【0025】
また本発明は上記構成の光走査装置の性能調整方法において、前記所定の駆動部共振周波数に調整する調整工程は、前記駆動部共振周波数を前記ミラー部共振周波数よりも所定の周波数分高く又は低くする調整を行うことを特徴としている。この構成によると、ミラー部共振周波数に接近した少し高いか低い駆動部共振周波数に調整することで、環境などの変化に対して強いロバストな系を構築することができ、低剛性の軸部を介して、ミラー部を大きく傾向することができる。
【0026】
また本発明は上記構成の光走査装置の性能調整方法において、前記所定の駆動部共振周波数に調整する調整工程は、前記電気機械変換部の質量の一部除去、または、当該質量の一部付与によって行うことを特徴としている。この構成によると、作製したミラー部の共振周波数にバラツキが生じても、電機機械変換部の特性にバラツキが生じても、電気機械変換部の質量の一部除去や質量の一部付与により、駆動部の共振周波数を適当な範囲に調整することができ、スキャナー性能を容易に安定化させることができる。
【0027】
また本発明は上記構成の光走査装置の性能調整方法において、前記所定の駆動部共振周波数に調整する調整工程は、一体化した前記弾性変形部と前記電気機械変換部の質量の一部除去、または、当該質量の一部付与によって行うことを特徴としている。この構成によると、作製した駆動部の質量の一部除去や質量の一部付与により、駆動部共振周波数を適当な範囲に調整して、スキャナー性能を容易に安定化させることができる。
【0028】
また本発明は上記構成の光走査装置の性能調整方法において、前記所定の駆動部共振周波数に調整する調整工程は、前記弾性変形部と前記電気機械変換部とを一体化する位置の調整で行うことを特徴としている。この構成によると、圧電素子の受け入れ検査などにより予め判断できる共振周波数のずれに応じて、その貼付位置を調整して、ミラー部の共振周波数に応じた適当な駆動部共振周波数を発揮するように調整することができる。
【0029】
また本発明は上記構成の光走査装置の性能調整方法において、前記所定の駆動部共振周波数に調整する調整工程は、前記弾性変形部に対する前記電気機械変換部の大きさの調整で行うことを特徴としている。この構成によると、形状誤差や材料のロット変動などで、圧電素子の素材自体の特性にバラツキが生じても、製品毎の大きさを変えることで、ミラー部の共振周波数に応じた適当な駆動部共振周波数を発揮するように調整することができる。
【0030】
また本発明は上記構成の光走査装置の性能調整方法において、前記所定の駆動部共振周波数に調整する調整工程は、前記弾性変形部に前記電気機械変換部を貼付する際の接着剤に配合する添加粒子の粒径を調整することで行うことを特徴としている。この構成によると、作製したミラー部の共振周波数に応じて、もしくは、取り付ける圧電素子の特性に応じて、添加粒子の粒径を変えることで、駆動部の共振周波数を調整することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、駆動部の共振周波数を、組み付けたミラー部のミラー部共振周波数に応じた所定の駆動部共振周波数に調整するので、ミラー部の共振周波数を調整することなく、ミラー部を傾向して光を走査するスキャナー性能が高いレベルで安定する光走査装置の製造方法および性能調整方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る光走査装置の概略平面図である。
【図2】光走査装置の要部断面図である。
【図3】ミラー部共振周波数と駆動部共振周波数との関係を示す図である。
【図4】共振周波数調整部の第一の調整工程を説明する平面図である。
【図5】共振周波数調整部の第二の調整工程を説明する平面図である。
【図6A】共振周波数調整部の調整部位の変化を説明する平面図である。
【図6B】調整部位の変化に対応して変化する共振周波数の変遷を示す図である。
【図7A】共振周波数調整部の第三の調整工程を説明する平面図である。
【図7B】第三の調整工程に応じて変化する共振周波数の変遷を示す図である。
【図8A】共振周波数調整部の第四の調整工程を説明する断面図である。
【図8B】第四の調整工程に応じて変化する共振周波数の変遷を示す図である。
【図9】本発明に係る光走査装置を備えたモバイル端末の作動状態を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に本発明の実施形態を図面を参照して説明する。また、同一構成部材については同一の符号を用い、詳細な説明は適宜省略する。
【0034】
本発明に係る光走査装置の製造方法は、固定枠と、該固定枠に連結され、電気機械変換部と弾性変形部とが一体化された駆動部と、該駆動部と軸部を介して連結され主に第一方向に傾動可能な可動枠と、該可動枠とトーションバーを介して連結され第一方向と直交する第二方向に主に傾向するミラー部とを備える光走査装置2の製造方法である。光走査装置2は、例えば、図9に示す携帯電話やPDA(Personal Digital Assistant)などのモバイル端末40に搭載されるプロジェクター100に装備され、投影面41上に光を水平方向(H方向)および垂直方向(V方向)に走査するものである。
【0035】
例えば、光源としてレーザー光を用い、投影面41上においてレーザー光を水平方向(H方向)および垂直方向(V方向)に走査することによって、プロジェクター100に入力された画像情報を投影面41に投影する。この投影面41としては、別途準備したスクリーンでもよいが、スクリーン以外のものでもよい。例えば、壁面などを投影面41としてもよい。
【0036】
光源にRGB3色の光源を用いることで、スクリーン上にカラー映像を投影することができる。その際、ミラー部の傾向量により映像の投影範囲、解像度が決まり、映像の品質を決定する。そのために、映像の品質の向上にとっては、ミラー部の傾向量は大きいことが好ましい。
【0037】
また、梁により支持されたミラー部と圧電素子を貼付した駆動部は、各々独立した共振周波数を有する構成を取り、ミラー部の共振周波数(ミラー部共振周波数)と駆動部の共振周波数(駆動部共振周波数)を近づけることで、ミラー部の傾向量を大きくすることができる。
【0038】
次に、図1を用いて光走査装置2の一例について説明する。光走査装置2は、光源から出射されるレーザー光を二次元走査するためのものであって、レーザー光を投影面41(図9参照)に向けて反射するミラー部3を少なくとも有している。このミラー部3の傾斜角(反射角)は変動可能となっており、ミラー部3の傾斜角を変動させることにより、光走査装置2によるレーザー光の二次元走査が行われる。
【0039】
また、ミラー部3をMEMSに組み込み、そのミラー部3が組み込まれたMEMSを光走査装置2としている。また、この光走査装置2は、略平坦で厚みが小さく、かつ、その外形が平面視において略正方形状(例えば、1辺の長さが約1cm)となっている。
【0040】
具体的な構造としては、光走査装置2はシリコン基板に対してエッチング処理などを施すことで得られる構造体からなっており、ミラー部3に加えて、固定枠4、駆動部5および可動枠6などを一体的に有している。なお、以下の説明では、ミラー部3の中心を図の横方向に横切る軸をX軸とし、ミラー部3の中心を図の縦方向に横切る軸をY軸とする。言い換えると、X軸とY軸とが直交する点をミラー部3の中心とする。
【0041】
ミラー部3は、Y軸に平行な第1軸部(トーションバー7)とX軸に平行で第1軸部と略直角に交差する第2軸部(軸8)を介して回動可能である。固定枠4は、光走査装置2の外縁に相当する部分であって、他の部分(ミラー部3、駆動部5および可動枠6など)を取り囲んでいる。すなわち、光走査装置2は、固定枠4と、互いに異なる軸方向を有する第1軸部及び第2軸部と、第1軸部の回動によって回動するとともに、第2軸部の回動によって回動するミラー部3と、ミラー部3及び第1軸部を囲み、第2軸部の回動によって回動する可動枠6と、電気機械変換素子部と、電気機械変換素子部で発生する変位をミラー部3の傾向に伝達する弾性変形部と、を備えている。
【0042】
弾性変形部と電気機械変換素子部とを一体化した部位である駆動部5は、X軸方向において固定枠4と分離され、Y軸方向において固定枠4と連結されている。すなわち、弾性変形部は、第2軸部(軸8)と固定枠4とを連結し、電気機械変換素子部は、正電極と負電極で挟まれた電気機械変換素子層を有する。さらに、駆動部5は4つの圧電アクチュエーター部を含んでいるとともに、その4つの圧電アクチュエーター部がX軸およびY軸のそれぞれを対称軸として対称となり、かつ、互いに離間した状態となるように配置されている。また、駆動部5としての圧電アクチュエーター部は、圧電素子(PZTなどを原料とした焼結体を分極処理したもの)を一対の電極で挟持し、それをシリコン基板の駆動部5となる領域(弾性変形部)上に貼り付けることによって形成されている。
【0043】
このような駆動部5では、一対の電極に電圧が印加されると、一対の電極に挟持された圧電素子が伸長または収縮する。そして、圧電素子が伸長または収縮すると、それに応じて、シリコン基板の駆動部5となる領域である弾性変形部が撓む。すなわち、駆動部5は、電力が供給されることで駆動する。
【0044】
また、図に示すように、可動枠6は、駆動部5の内側に位置する略ひし形形状の枠である。この可動枠6のX軸上の両端部は軸8(第2軸部)を介して駆動部5と連結され、それ以外の部分は駆動部5から分離されている。これにより、可動枠6は、X軸周りに回動可能となっていることになる。
【0045】
可動枠6の内側には、Y軸方向に沿って延びる一対のトーションバー7(第1軸部)が設けられている。この一対のトーションバー7は、Y軸と重なり、かつ、X軸に対して対称となるように配置されている。さらに、一対のトーションバー7のそれぞれの一方端は、可動枠6のY軸上の端部に連結されている。
【0046】
そして、ミラー部3は、一対のトーションバー7のそれぞれの他方端の間に配置されており、その他方端によって支持されている。このため、ミラー部3は、可動枠6と共にX軸周りに回動され、トーションバー7を回動軸としてY軸周りに回動されることになる。なお、ミラー部3は、略円形状に形成されており、金やアルミニウムなどからなる反射膜をシリコン基板のミラー部3となる領域上に貼り付けることで得ている。
【0047】
光走査装置2は、上記のような構造となっている。そして、この光走査装置2の走査動作は、4つの駆動部5を駆動(変形)させるタイミングを調整し、ミラー部3をX軸周りおよびY軸周りに振動させることによって行われる。例えば、X軸周りに振動するときの周波数は約60Hzに設定され、Y軸周りに振動するときの周波数は約30kHzに設定される。
【0048】
4つの駆動部5のそれぞれに5−1〜5−4の符号を付して具体的に説明すると、ミラー部3をX軸周りに振動させる際には、駆動部5−1および5−3を一方の組とするとともに、駆動部5−2および5−4を他方の組とし、一方の組および他方の組のそれぞれに印加する電圧の正負を反転させる。具体的には、一方の組である駆動部5−1および5−3を上向きに撓む方向に変形させ、他方の組である駆動部5−2および5−4を下向きに撓む方向に変形させると、ミラー部3が可動部6と共にX軸周りに回転する。次に、一方の組である駆動部5−1および5−3を下向きに撓む方向に変形させ、他方の組である駆動部5−2および5−4を上向きに撓む方向に変形させると、ミラー部3が可動部6と共にX軸周りに逆周りに回転する。これにより、ミラー部3が可動枠6と共にX軸周りに振動し、ミラー部3の傾きがX軸周りに変動する。なお、トーションバー7のねじれ方向はX軸周りの振動方向と直交する方向であるため、このミラー部3のX軸周りの振動には影響しない。
【0049】
また、ミラー部3をY軸周りに振動させる際には、駆動部5−1および5−2を一方の組とするとともに、駆動部5−3および5−4を他方の組とし、一方の組および他方の組のそれぞれに印加する電圧の正負を反転させる。具体的には、一方の組である駆動部5−1および5−2を上向きに撓む方向に変形させ、他方の組である駆動部5−3および5−4を下向きに撓む方向に変形させると、ミラー部3が可動部6と共にY軸周りに回転する。次に、一方の組である駆動部5−1および5−2を下向きに撓む方向に変形させ、他方の組である駆動部5−3および5−4を上向きに撓む方向に変形させると、ミラー部3が可動部6と共にY軸周りに逆周りに回転する。これにより、ミラー部3が可動枠6と共にY軸周りに振動し、ミラー部3の傾きがY軸周りに変動する。
【0050】
このとき、駆動部5を変形させることのみでミラー部3をY軸周りに傾かせようとすると、ミラー部3のY軸周りの傾きの変動は小さくなってしまう。このため、実際に走査動作を行う際には、駆動部5に印加される電圧の周波数によってミラー部3が共振するように、駆動部5への印加電圧の周波数が設定される。
【0051】
上記のように光走査装置2を動作させることで、互いに直交している2軸周りにミラー部3を回動させることができ、レーザー光を1つのミラー部3で二次元走査することが可能となる。
【0052】
ところで、本実施形態では、製造誤差などにより生じる不安定要因を容易に調整し安定して大きな変形量を得るために、ミラー部3の共振周波数は変えずに、圧電素子側(駆動部側)の共振周波数を調整するようにしている。すなわち、本実施形態に係る光走査装置2は、駆動部5の共振周波数を、予め所定の基準周波数より所定範囲高いか低い周波数に設定しておき、さらに、組み付けたミラー部3のミラー部共振周波数に応じた所定の駆動部共振周波数に調整している。
【0053】
上記の構成であれば、駆動部5の共振周波数をミラー部共振周波数に近づけるように調整し、ミラー部共振周波数よりも所定の周波数分高く又は低く調整して、ミラー部3のスキャナー性能を安定化させることができる。また、ミラー部3という壊れやすいデバイス側で調整する必要がないので、良品率が向上する。
【0054】
また、駆動部5の共振周波数を調整しても、ミラー部3の共振周波数が影響を受けないように、駆動部5とミラー部3を備える可動枠6とを連結する梁である軸部8は、低剛性で高変形構造部を備えることが好ましい。詳しくは、軸部8は、ミラー部3と駆動部5との互いの共振周波数に影響を与えない程度に低剛性な高変形構造部を備えている事が好ましい。このような構成であれば、ミラー部3の共振周波数と駆動部5の共振周波数を独立的に制御することができ、低剛性の軸部8を介して、ミラー部3を大きく傾向することができる。
【0055】
この低剛性で高変形構造部は、例えば、軸部8の一部に細い梁からなる蛇行部を設けることで実現できる。
【0056】
また、駆動部5の共振周波数は、組み付けたミラー部3の共振周波数に接近した少し高い共振周波数に設定しておくことが好ましい。例えば、ミラー部共振周波数に対して駆動部共振周波数を約5%高い値に設定する。こうすることで、環境などの変化に対して強いロバストな系を構築することが可能となる。
【0057】
電気機械変換素子層は、図2に示すように固定部11(光走査装置2を取り付ける固定枠4に相当)に弾性変形部12(シリコン基板の一部に相当し、弾性変形部12と電気機械変換素子層とを一体化した部位が駆動部5に相当する)を積層し、この上に電極部(正極用電極部13A、負極用電極部13B)を設け、接着層14を介して圧電素子51を接着固定する。また、圧電素子51は、例えば、正電極15と負電極16との一対の電極で挟まれたユニモルフ型の電気機械変換素子である。
【0058】
接着層14は異方性導電接着層であることが好ましい。接着層14が異方性導電接着層であれば、弾性変形部12上の正負極用電極部に電極で挟まれた圧電素子51を載置して、押圧することで、この正負極用電極部(13A、13B)と直上の電極(15、16)とを電気的に接続することができる。
【0059】
すなわち、電気機械変換素子部(圧電素子51)は、弾性変形部12上に設ける電極部と異方性導電接着層を介して接合される。この構成であれば、弾性変形部12上に設ける電極部と、この上に配設する電気機械変換素子部(圧電素子51)の正負の電極とを、短絡を生じずに接合することができる。すなわち、電気機械変換素子部に給電するための電極部を、弾性変形部との接着部に設けることができる。
【0060】
この異方性導電接着層は、弾性変形部12と電気機械変換素子部(圧電素子51)との間隙を、電気機械変換素子部の共振周波数を安定化する所定間隔に保持する粒子14aを含有することが好ましい。また、この粒子14aは導電性を有することが好ましい。この構成であれば、異方性導電接着層に配合する導電性の粒子14aを介して、弾性変形部12と電気機械変換素子部(圧電素子51)との間隙を所定間隔とすることができ、ミラー部3の傾向量に影響する駆動部5の共振周波数を安定化させて、結果としてミラー部3の傾向量を安定化させることが可能となる。
【0061】
このようにして、駆動部5の共振周波数を安定化すると共に、この駆動部共振周波数をミラー部の共振周波数に近づけることで、ミラー部3の傾向量を大きくできる。すなわち、駆動部共振周波数をミラー部共振周波数に近い所定の共振周波数に設定することで、ミラー部3を安定して、且つ、大きく傾向できる。
【0062】
上記したように、光走査装置2は、シリコン基板に対してエッチング処理などを施すことで得られる構造体からなっており、ミラー部3に加えて、固定枠4、駆動部5および可動枠6などを一体的に有している。このように、ミラー部3と駆動部5と可動枠6とを一体に形成しているので、小型化することが可能である。また、駆動部5の共振周波数をミラー部3の共振周波数に近づけているので、大きな変形量を得ることができ、結果としてミラー部3を充分傾向することが可能となる。
【0063】
例えば、図3に示すように、ミラー部共振周波数MRが29.2kHzのときに、駆動部の共振周波数DRをそれよりも約5%高い30.6kHzとなるようにしている。この二つの共振周波数を一致させることが最も効率的であるが、環境による共振周波数変動などを考慮して、ミラー部共振周波数に対し、圧電素子が貼付された駆動部5の共振周波数を約5%高めに設定し、環境などの変化に強いロバストな系として使用している。
【0064】
製造時に、形状誤差や圧電素子などの材料のロット変動などで、ミラー部共振周波数と駆動部共振周波数との差幅が変化すると、製品毎に性能バラツキが生じる。そのために、所定の部位に圧電素子を貼付して駆動部を作製する際に、この駆動部共振周波数をミラー部共振周波数に応じた適当な値に調整しておくことが好ましい。すなわち、本発明に係る光走査装置の性能調整方法は、駆動部の共振周波数を、組み付けたミラー部のミラー部共振周波数に応じた所定の駆動部共振周波数に調整し、スキャナー性能を安定化させるものである。なお、駆動部の共振周波数DRをミラー部共振周波数MRより所定の周波数分低くすることによっても、環境などの変化に強いロバストな系を構築できる。
【0065】
次に、この駆動部共振周波数を所望の値に修正する光走査装置の性能調整方法について図4〜図8Bを用いて説明する。
【0066】
駆動部の共振周波数を調整するには、一旦駆動部を作製した後に調整する事後調整と、部品特性に応じて予め調整する事前調整とがある。事後調整としては、一旦作製した電気機械変換部の質量の一部除去、または、質量の一部付与、もしくは、電気機械変換部と弾性変形部とが一体化された駆動部の質量の一部除去、または、質量の一部付与で行う調整工程を採用する。また、事前調整としては、駆動部の圧電素子貼付位置の調整で行う調整工程と、駆動部に貼付する圧電素子の大きさを調整する調整工程と、駆動部に圧電素子を貼付する際の接着剤に配合する添加粒子の粒径を調整する調整工程とを採用する。
【0067】
例えば、電気機械変換部や駆動部の質量の一部除去は、駆動部の所定部位をレーザー加工により除去することで行う。また、質量の一部付与は、所定部位に樹脂などを付着して行う。駆動部の圧電素子貼付位置の調整は、圧電素子の受け入れ検査などにより予め判断できる共振周波数のずれに応じて、その貼付位置を調整して行う。例えば、入荷した圧電素子の板厚が厚くなっている場合、そのまま所定の位置に貼付すると共振周波数は高くなってしまう。そこで、予め、貼付する位置を軸部に近づけることで共振周波数を下げるように工夫する。また、貼付する位置を変えることに替えて、貼付する圧電素子の大きさを調整してもよい。また、圧電素子を貼付する際に用いる接着剤の所定粒径の粒子を添加して、弾性変形部との間隔を調整することでも、駆動部の共振周波数を調整することが可能である。
【0068】
例えば、図4には、電気機械変換部などの駆動部5の所定部位をレーザー加工により除去する第一の調整工程を示している。図に示すように、駆動部5の軸部8から離れた固定部側に近い部分をレーザー加工して、所定量除去する。このようにして、固定部側に除去部R1を設けたマイクロスキャナー1Aは、振動の節を一部除去するので、剛性が弱くなって駆動部5の共振周波数を下げることができる。
【0069】
また、図5に示す光走査装置2Bは、軸部8に近い変位側に除去部R2を設けた例を示す。この第二の調整工程では、振動の節ではなく腹を削ることになって、駆動部5の質量が減るので、共振周波数を上げる効果を有する。すなわち、駆動部5の共振周波数を上げたい場合は、駆動部5の変位側を所定量除去し、駆動部5の共振周波数を下げたい場合は、駆動部5の固定部側を所定量除去するとよい。
【0070】
この除去する形状は、図示するような半円形でも、円形でもよい。また、その大きさは所定量となる一個でも、合計して所定量となるように複数除去してもよく、組み込んだミラー部や貼付した圧電素子に応じて適宜調整することができる。このように、駆動部5の固定部側から変位部に至る所定部分を共振周波数調整部とし、この共振周波数調整部を介して、駆動部5の共振周波数をミラー部3の共振周波数に近づけて所望のスキャナー性能を発揮させ安定化させることができる。
【0071】
次に、図6A、図6Bを用いて、調整部位の変化に対応して変化する共振周波数の変遷について説明する。例えば、図6Aに示す光走査装置2Cのように、駆動部5(5−3)に設ける除去部R1を図中の矢印DXに示す方向に、固定部側から変位側まで変化させると、その共振周波数は図6Bに示すように変遷する。
【0072】
図6Bに示す周波数カーブSC1は、矢印DXに示す調整部位の変化に対応して変化する共振周波数の変遷を示している。この図の横軸は、固定部側から変位側となる先端側に至る調整部位の位置を表しており、縦軸は、周波数の増減%を表している。また、この周波数の増減は±3%の幅を目途としている。
【0073】
これは、駆動部を30kHzで駆動するときに、±1kHzを調整幅としたためである。本実施形態の光走査装置2Cは、二次モードの固有振動を利用しているので、共振周波数は図に示す周波数カーブSC1のように二次曲線状に変遷しており、この固定部側の−領域AR1と+領域AR2を用いて調整するとよい。すなわち、この−領域AR1と+領域AR2を共振周波数調整部とすることで、共振周波数を±3%の範囲で調整できる。
【0074】
次に、図7A、図7Bを用いて、駆動部の圧電素子貼付位置の調整で行う第三の調整工程、および、この圧電素子の貼付位置の変化に対応する共振周波数の変遷について説明する。この第三の調整工程は、圧電素子の受け入れ検査などにより予め判断できる共振周波数のずれに応じて、その貼付位置を調整するものである。例えば、図7Aに示す光走査装置2Dのように、駆動部5(5−1)に貼付する圧電素子51の貼付位置を51Aから51Bに、軸部8から離れた位置から軸部8に接近した位置まで変化させると、その共振周波数は図7Bに示すように変遷する。
【0075】
図7Bに示す周波数カーブSC2は、矢印DXに示す調整部位の位置の変化に対応する共振周波数を示している。この図の横軸は、変位側となる軸部から離れた固定部側から軸部に接近した位置に至る調整部位の位置を表しており、縦軸は、周波数の増減%を表している。また、この周波数の増減は前述したように±3%の幅を目途としている。
【0076】
このように、圧電素子51の貼付位置が51A(軸部8から離れた位置)であれば、共振周波数を+3%上げることができ、圧電素子51の貼付位置が51B(軸部8に接近した位置)であれば、共振周波数を−3%下げることができる。すなわち、この貼付位置51Aから51Bまでを共振周波数調整部とすることで、共振周波数を±3%の範囲で調整できる。
【0077】
また、駆動部の圧電素子貼付位置の調整で行う第三の調整工程に替えて、駆動部に貼付する圧電素子の大きさを調整する事前調整を行ってもよい。この調整工程であれば、形状誤差や材料のロット変動などで、圧電素子の素材自体の特性にバラツキが生じても、製品毎の大きさを変えることで、ミラー部の共振周波数に応じた適当な駆動部共振周波数を発揮するように調整することができる。
【0078】
次に、図8A、図8Bを用いて、駆動部に圧電素子を貼付する際の接着剤に配合する添加粒子の粒径を調整する第四の調整工程、および、この圧電素子を貼付する際に用いる接着剤の所定粒径の粒子を添加して、弾性変形部との間隔を調整することに対応して変化する共振周波数の変遷について説明する。
【0079】
例えば、この接着剤は異方性導電接着層を形成する接着剤であって、絶縁性を有するエポキシ樹脂に、導電性コートを施した所定の粒径(例えば、10μm)のセラミックボール(添加粒子;粒子14a)を混入したものを用いる。セラミックボールの配合量は、例えば、重量比で5%程度であり、このセラミックボールを5%配合したエポキシ樹脂を弾性変形部上に形成した電極部に塗布し、この上に圧電素子を載置して押圧し、熱硬化させて固定する。すると、この添加粒子(粒子14a)の粒径が貼り合わせる圧電素子と弾性変形部との間隔を規定する。
【0080】
そのために、例えば10μmの粒径の粒子14aを添加すると、圧電素子と弾性変形部との間隔Eは10μmとなり、この構造に応じた共振周波数を呈する。また、20μmの粒径の粒子14aを添加すると、圧電素子と弾性変形部との間隔は20μmとなり、この構造に応じた新たな共振周波数を呈する。
【0081】
すなわち、この添加粒子の粒径を変えて、駆動部の共振周波数を調整可能となる。例えば図8Aに示すように、弾性変形部12として厚み50μmのシリコン基板を用い、この上に所定粒子径の粒子14aを添加したエポキシ系の接着剤を塗布した接着層14を介して厚み70μmの圧電素子を貼付した駆動部を作製し、この共振周波数を測定した。
【0082】
その結果、図8Bの周波数カーブSC3に示すように、本実施形態では、粒径が10μmの場合に、−1%であり、ここから、粒径が増加するに連れて共振周波数も増加していることが判る。すなわち、圧電素子を貼付する際に用いる接着剤の粒子径を変えて、共振周波数を−1%〜+3%の間で調整可能となる。
【0083】
上記したように、本発明に係る光走査装置の性能調整方法は、固定枠と、該固定枠に連結され、電気機械変換部と弾性変形部とが一体化された駆動部と、該駆動部と軸部を介して連結され主に第一方向に傾動可能な可動枠と、該可動枠とトーションバーを介して連結され前記第一方向と直交する第二方向に主に傾向するミラー部とを備える光走査装置において、駆動部の共振周波数を、組み付けたミラー部のミラー部共振周波数に応じた所定の駆動部共振周波数に調整し、スキャナー性能を安定化させるものである。
【0084】
また、その共振周波数に調整する調整工程は、電気機械変換部もしくは駆動部の質量の一部除去、または、質量の一部付与で行う調整方法、駆動部の圧電素子貼付位置の調整で行う調整方法、駆動部に貼付する圧電素子の大きさを調整する調整方法、駆動部に圧電素子を貼付する際の接着剤に配合する添加粒子の粒径を調整する調整方法の少なくとも一つを含む。
【0085】
次に、本発明に係る光走査装置の製造方法について説明する。本発明に係る光走査装置の製造方法は、上記の光走査装置の性能調整方法を用いて、スキャナー性能を安定化している。すなわち、固定枠と、該固定枠に連結され、電気機械変換部と弾性変形部とが一体化された駆動部と、該駆動部と軸部を介して連結され主に第一方向に傾動可能な可動枠と、該可動枠とトーションバーを介して連結され前記第一方向と直交する第二方向に主に傾向するミラー部とを備える光走査装置の製造方法であって、駆動部の共振周波数を、組み付けたミラー部のミラー部共振周波数に応じた所定の駆動部共振周波数に調整し、スキャナー性能を安定化している。
【0086】
また、その共振周波数に調整する調整工程は、電気機械変換部もしくは駆動部の質量の一部除去、または、質量の一部付与で行う調整方法、駆動部の圧電素子貼付位置の調整で行う調整方法、駆動部に貼付する圧電素子の大きさを調整する調整方法、駆動部に圧電素子を貼付する際の接着剤に配合する添加粒子の粒径を調整する調整方法の少なくとも一つを含む。また、これらを組み合わせた調整工程であってもよい。
【0087】
このような製造方法とすることで、ミラー部の共振周波数を変えることなくスキャナー性能を安定化させることができる。また、ミラー部という壊れやすいデバイス側で調整作業を行う必要がなるため、作業中の製品破壊などが生じずに、良品率が向上する光走査装置の製造方法を得ることができる。
【0088】
以上、説明したように、本発明に係る光走査装置の製造方法および性能調整方法によれば、駆動部の共振周波数を、予め所定の基準周波数より所定範囲高いか低い周波数に設定し、組み付けたミラー部のミラー部共振周波数に応じた所定の駆動部共振周波数に調整するので、ミラー部の共振周波数を調整することなく、ミラー部を傾向して光を走査するスキャナー性能が高いレベルで安定する光走査装置を製造することができる。
【0089】
また、電気機械変換部もしくは駆動部の質量の一部除去、または、質量の一部付与で行う調整方法、駆動部の圧電素子貼付位置の調整で行う調整方法、駆動部に貼付する圧電素子の大きさを調整する調整方法、駆動部に圧電素子を貼付する際の接着剤に配合する添加粒子の粒径を調整する調整方法の少なくとも一つを含む調整工程を有するので、ミラー部の共振周波数を変えることなく、駆動部の共振周波数を調整してスキャナー性能を安定化させることができる。また、ミラー部の共振周波数を変えることなくスキャナー性能を安定化させることができるので、作業中の製品破壊などが生じずに、良品率が向上する。
【産業上の利用可能性】
【0090】
そのために、本発明に係る光走査装置の製造方法および性能調整方法は、安定したスキャナー性能を備え、大量生産化が求められる映像投影手段に好適に利用可能となる。
【符号の説明】
【0091】
2、2A〜2D 光走査装置
3 ミラー部
4 固定枠
5 駆動部
6 可動枠
11 固定部
12 弾性変形部
14 接着層
14a 粒子(添加粒子)
15 正電極
16 負電極
DR 駆動部共振周波数
MR ミラー部共振周波数
R1、R2 除去部(共振周波数調整部)
41 投影面
51 圧電素子(電気機械変換素子)
100 プロジェクター
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定枠と、該固定枠に連結され、電気機械変換部と弾性変形部とが一体化された駆動部と、該駆動部と軸部を介して連結され主に第一方向に傾動可能な可動枠と、該可動枠とトーションバーを介して連結され前記第一方向と直交する第二方向に主に傾向するミラー部と、を備える光走査装置の製造方法であって、
前記駆動部の共振周波数を、組み付けた前記ミラー部のミラー部共振周波数に応じた所定の駆動部共振周波数に調整する調整工程を有することを特徴とする光走査装置の製造方法。
【請求項2】
前記軸部は、前記ミラー部と前記駆動部との互いの共振周波数に影響を与えない程度に低剛性な高変形構造部を備えていることを特徴とする請求項1に記載の光走査装置の製造方法。
【請求項3】
前記調整工程は、前記駆動部共振周波数を前記ミラー部共振周波数よりも所定の周波数分高く又は低くする調整を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の光走査装置の製造方法。
【請求項4】
前記調整工程は、前記電気機械変換部の質量の一部除去、または、当該質量の一部付与によって行うことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の光走査装置の製造方法。
【請求項5】
前記調整工程は、一体化した前記弾性変形部と前記電気機械変換部の質量の一部除去、または、当該質量の一部付与によって行うことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の光走査装置の製造方法。
【請求項6】
前記調整工程は、前記弾性変形部と前記電気機械変換部とを一体化する位置の調整で行うことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の光走査装置の製造方法。
【請求項7】
前記調整工程は、前記弾性変形部に対する前記電気機械変換部の大きさの調整で行うことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の光走査装置の製造方法。
【請求項8】
前記調整工程は、前記弾性変形部に前記電気機械変換部を貼付する際の接着剤に配合する添加粒子の粒径を調整することで行うことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の光走査装置の製造方法。
【請求項9】
固定枠と、該固定枠に連結され、電気機械変換部と弾性変形部とが一体化された駆動部と、該駆動部と軸部を介して連結され主に第一方向に傾動可能な可動枠と、該可動枠とトーションバーを介して連結され前記第一方向と直交する第二方向に主に傾向するミラー部と、を備える光走査装置の性能調整方法であって、
前記駆動部の共振周波数を、組み付けた前記ミラー部のミラー部共振周波数に応じた所定の駆動部共振周波数に調整することを特徴とする光走査装置の性能調整方法。
【請求項10】
前記軸部は、前記ミラー部と前記駆動部との互いの共振周波数に影響を与えない程度に低剛性な高変形構造部を備えていることを特徴とする請求項9に記載の光走査装置の性能調整方法。
【請求項11】
前記所定の駆動部共振周波数に調整する調整工程は、前記駆動部共振周波数を前記ミラー部共振周波数よりも所定の周波数分高く又は低くする調整を行うことを特徴とする請求項9または10に記載の光走査装置の性能調整方法。
【請求項12】
前記所定の駆動部共振周波数に調整する調整工程は、前記電気機械変換部の質量の一部除去、または、当該質量の一部付与によって行うことを特徴とする請求項9から11のいずれかに記載の光走査装置の性能調整方法。
【請求項13】
前記所定の駆動部共振周波数に調整する調整工程は、一体化した前記弾性変形部と前記電気機械変換部の質量の一部除去、または、当該質量の一部付与によって行うことを特徴とする請求項9から11のいずれかに記載の光走査装置の性能調整方法。
【請求項14】
前記所定の駆動部共振周波数に調整する調整工程は、前記弾性変形部と前記電気機械変換部とを一体化する位置の調整で行うことを特徴とする請求項9から11のいずれかに記載の光走査装置の性能調整方法。
【請求項15】
前記所定の駆動部共振周波数に調整する調整工程は、前記弾性変形部に対する前記電気機械変換部の大きさの調整で行うことを特徴とする請求項9から11のいずれかに記載の光走査装置の性能調整方法。
【請求項16】
前記所定の駆動部共振周波数に調整する調整工程は、前記弾性変形部に前記電気機械変換部を貼付する際の接着剤に配合する添加粒子の粒径を調整することで行うことを特徴とする請求項9から11のいずれかに記載の光走査装置の性能調整方法。
【請求項1】
固定枠と、該固定枠に連結され、電気機械変換部と弾性変形部とが一体化された駆動部と、該駆動部と軸部を介して連結され主に第一方向に傾動可能な可動枠と、該可動枠とトーションバーを介して連結され前記第一方向と直交する第二方向に主に傾向するミラー部と、を備える光走査装置の製造方法であって、
前記駆動部の共振周波数を、組み付けた前記ミラー部のミラー部共振周波数に応じた所定の駆動部共振周波数に調整する調整工程を有することを特徴とする光走査装置の製造方法。
【請求項2】
前記軸部は、前記ミラー部と前記駆動部との互いの共振周波数に影響を与えない程度に低剛性な高変形構造部を備えていることを特徴とする請求項1に記載の光走査装置の製造方法。
【請求項3】
前記調整工程は、前記駆動部共振周波数を前記ミラー部共振周波数よりも所定の周波数分高く又は低くする調整を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の光走査装置の製造方法。
【請求項4】
前記調整工程は、前記電気機械変換部の質量の一部除去、または、当該質量の一部付与によって行うことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の光走査装置の製造方法。
【請求項5】
前記調整工程は、一体化した前記弾性変形部と前記電気機械変換部の質量の一部除去、または、当該質量の一部付与によって行うことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の光走査装置の製造方法。
【請求項6】
前記調整工程は、前記弾性変形部と前記電気機械変換部とを一体化する位置の調整で行うことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の光走査装置の製造方法。
【請求項7】
前記調整工程は、前記弾性変形部に対する前記電気機械変換部の大きさの調整で行うことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の光走査装置の製造方法。
【請求項8】
前記調整工程は、前記弾性変形部に前記電気機械変換部を貼付する際の接着剤に配合する添加粒子の粒径を調整することで行うことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の光走査装置の製造方法。
【請求項9】
固定枠と、該固定枠に連結され、電気機械変換部と弾性変形部とが一体化された駆動部と、該駆動部と軸部を介して連結され主に第一方向に傾動可能な可動枠と、該可動枠とトーションバーを介して連結され前記第一方向と直交する第二方向に主に傾向するミラー部と、を備える光走査装置の性能調整方法であって、
前記駆動部の共振周波数を、組み付けた前記ミラー部のミラー部共振周波数に応じた所定の駆動部共振周波数に調整することを特徴とする光走査装置の性能調整方法。
【請求項10】
前記軸部は、前記ミラー部と前記駆動部との互いの共振周波数に影響を与えない程度に低剛性な高変形構造部を備えていることを特徴とする請求項9に記載の光走査装置の性能調整方法。
【請求項11】
前記所定の駆動部共振周波数に調整する調整工程は、前記駆動部共振周波数を前記ミラー部共振周波数よりも所定の周波数分高く又は低くする調整を行うことを特徴とする請求項9または10に記載の光走査装置の性能調整方法。
【請求項12】
前記所定の駆動部共振周波数に調整する調整工程は、前記電気機械変換部の質量の一部除去、または、当該質量の一部付与によって行うことを特徴とする請求項9から11のいずれかに記載の光走査装置の性能調整方法。
【請求項13】
前記所定の駆動部共振周波数に調整する調整工程は、一体化した前記弾性変形部と前記電気機械変換部の質量の一部除去、または、当該質量の一部付与によって行うことを特徴とする請求項9から11のいずれかに記載の光走査装置の性能調整方法。
【請求項14】
前記所定の駆動部共振周波数に調整する調整工程は、前記弾性変形部と前記電気機械変換部とを一体化する位置の調整で行うことを特徴とする請求項9から11のいずれかに記載の光走査装置の性能調整方法。
【請求項15】
前記所定の駆動部共振周波数に調整する調整工程は、前記弾性変形部に対する前記電気機械変換部の大きさの調整で行うことを特徴とする請求項9から11のいずれかに記載の光走査装置の性能調整方法。
【請求項16】
前記所定の駆動部共振周波数に調整する調整工程は、前記弾性変形部に前記電気機械変換部を貼付する際の接着剤に配合する添加粒子の粒径を調整することで行うことを特徴とする請求項9から11のいずれかに記載の光走査装置の性能調整方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【公開番号】特開2013−3522(P2013−3522A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137497(P2011−137497)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(303000408)コニカミノルタアドバンストレイヤー株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(303000408)コニカミノルタアドバンストレイヤー株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】
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