説明

光走査装置

【課題】本発明は、捻れ梁部を支持する片持ち梁部の形状及び捻れ梁部の取付け位置を工夫することにより、より広い温度範囲に対して走査角度の安定した光走査装置を提供することを第1の目的とする。
【解決手段】本発明の光走査装置は、基板と、基板に連結された捻れ梁部と、捻れ梁部により支持されるミラー部と、基板を振動させる駆動源と、ミラー部に光を投射する光源とを備え、ミラー部は駆動源によって基板に加えられる振動に応じて共振振動し、光源からミラー部に投射される光の反射光の方向がミラー部の振動に応じて変化する光走査装置において、捻れ梁部を支持する片持ち梁部の幅を基板の幅の1/6以下にすることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ビームの走査によりスキャンを行う光スキャナーに関し、特に捻れ梁(トーションバー)に支持された微小なミラーを揺動させて光ビームを偏向させる構成の光走査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年におけるレーザ光等の光ビームを走査する光スキャナーは、バーコードリーダ、レーザープリンタ、ヘッドマウントディスプレー等の光学機器、あるいは赤外線カメラ等入力デバイスの光取り入れ装置として用いられている。この種の光スキャナーとして、シリコンマイクロマシニング技術を利用した微小ミラーを揺動させる構成のものが提案されている。例えば、特開平7−65098(特許文献1)に記載のものが知られている(以下「従来技術1」という。)。この光スキャナーは、図15に示すように、光源100から照射される光をミラー部101で反射して被検出体102に照射し、該ミラー部101を振動させることによって被検出体102の所定方向に光を走査する光スキャナーにおいて、片持ち梁状に各一端を固定端として併設された2個の曲げ運動を行う駆動源103、103と、該2個の駆動源103、103の自由端側同士を連結する連結部材104と、該連結部材104の中央部から延出されたねじり変形部材105と、該ねじり変形部材105に設けられたミラー部101とを備え、該ミラー部101の重心がねじり変形部材のねじり中心軸上に位置せしめられていることを特徴とし、例えば、該2個の駆動源103、103が圧電材料を貼り付けたバイモルフ構造で駆動され、逆位相で振動することで、ねじり変形部105に捻れ振動を誘起し、ねじり変形部105の共振周波数で駆動することにより、大きな振幅で該ミラー部を振動させることを可能にしている。
【0003】
また、特開平4−95917(特許文献2、以下「従来技術2」という。)に記載の光スキャナーは、図16に示すように、曲げ変形モードとねじれ変形モードの2つの弾性変形モードをもつ振動子110の一面をミラー面111とし、この振動子を2つのモードのそれぞれの共振周波数で振動させ、振動子のミラー面に向けて投射された光ビームをそのミラー面で反射させて2方向に光を走査し、振動子を一方のモードで振動させれば一次元走査光スキャナーとなる。
【0004】
また、シリコンマイクロマシニング技術を利用した微小ミラーを揺動させるための光スキャナーとして特開平10−197819号公報(特許文献3)に記載のものが知られている(以下「従来技術3」という。)。
この光スキャナーは、図17に示すように、光を反射するための板状のマイクロミラー121と、一直線上に位置してマイクロミラー121の両側を支持する一対の回転支持体122と、一対の回転支持体122が接続され、ミラー1の周辺を囲う枠部123と、枠部123に並進運動を加える圧電素子124とを備え、かつ、一対の回転支持体122を結ぶ直線上以外の場所にミラー121の重心を位置させた構成となっている。
圧電素子124に電圧を加えると、圧電素子124は伸縮を行い、Z軸方向に振動し、この振動は枠部123に伝達される。マイクロミラー121は、駆動された枠部123に対して相対運動を起こし、Z軸方向の振動成分がマイクロミラー121に伝えられると、マイクロミラー121はX軸回転支持体122で成す軸線に対して左右非対称の質量成分を持つので、X軸回転支持体122を中心にマイクロミラー121に回転モーメントが生じる。このようにして、圧電素子124によって枠部123に加えられた並進運動は、マイクロミラー121のX軸回転支持体122を中心とした回転運動に変換される。
【0005】
また、特開平9−197334号公報(特許文献4、以下「従来技術4」という。)に記載の光スキャナーは、図18に示すように、一面に鏡面をもつ振動部131と、振動が加えられる固定部132と、振動部131を固定部132に連結し弾性的に変形する弾性変形部133を有し、弾性変形部133に共振特性を調整するばね定数可変素子134を設けたものである。
上記ばね定数可変素子134としては、発熱源である電気抵抗素子あるいはひずみ発生源である圧電素子が用いられ、弾性変形部133の温度の変化または変形によって弾性変形部133のバネ定数が変化し、振動の共振特性を調整できるようになっている。
【0006】
また、図25に示すように、振動子141において可動部142の両側からはり部143、143が互いに反対方向にのび、固定部146の2つの腕部144、144につながっており、固定部146の腕部144、144にはそれぞれ圧電薄膜145、145が設けられ、これらの圧電薄膜145、145は高次振動周波数を含む同じ信号により駆動されるようにした光走査装置が特開平10−104543号公報(特許文献5参照。以下「従来技術5」という。)に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−65098号公報
【特許文献2】特開平4−95917号公報
【特許文献3】特開平10−197819号公報
【特許文献4】特開平9−197334号公報
【特許文献5】特開平10−104543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記した従来技術1、2、3、4の光スキャナーでは、このような振動子の共振振動を利用した光スキャナーの性能(光走査角度、光走査速度、光走査軌跡等)は、振動子の共振特性に大きく依存する。振動子の共振特性のうち、特に共振周波数、位相および振幅が光スキャナーから出射される光ビームの光走査角度や光走査線の軌跡に大きな影響を与える。
【0009】
この共振周波数fは、例えば、従来技術4の弾性変形部(捻れ梁部)のばね定数をk、回転軸(Y軸またはZ軸)のまわりのモーメントをIとすると、振動子1における共振周波数fは次式で表される。
【0010】
【数1】

【0011】
弾性変形部の曲げ変形モード(θB方向)におけるばね定数をkB、ねじれ変形モード(θT方向)におけるばね定数をkTとする。これらのばね定数kB、kTを式1のばね定数kと置きかえると、式1は曲げ変形モードにおける共振周波数fB、ねじれ変形モードにおける共振周波数fTを表すものとなり、曲げ変形モードにおけるばね定数kBは次式で表される。
【0012】
【数2】

【0013】
ここでEはヤング率、wは弾性変形部の幅(Y方向の長さ)、tは弾性変形部の厚さ(X方向の長さ)、Lは弾性変形部の長さ(Z方向の長さ)である。
【0014】
ねじれ変形モードにおけるばね定数kTは次式で表される。
【0015】
【数3】

【0016】
ここでGは横弾性係数、βは断面形状に関する係数である。式3において、より一般的にはwは弾性変形部の断面の長辺の長さを、tは同断面の短辺の長さを表す。
【0017】
ばね定数kが変化することにより、振動子の共振周波数が変化することが式1から分かる。また、式2のヤング率Eおよび式3の横弾性係数Gは材料定数ともいわれ、外部温度環境の変化に応じ、弾性変形部の原子間力や形状が熱膨張により変化するため上記材料定数が変化する。
【0018】
従って、光スキャナーの使用環境温度が変化したり、駆動源からの発生熱で、光スキャナー自体の温度が上昇したりすると、共振周波数が変化するため、駆動源の周波数を固定すると、ミラーの走査角度が小さくなり、これを一定に保つことができない。また、これは、該光スキャナーの駆動電圧を下げるかあるいは、ミラーの走査角度を大きくするため、該光スキャナーの機械的共振系のQ値(quarity factor value、Q=ω0m/r、m:質量、r:抵抗)を大きくすればするほど、この環境温度に対するミラー走査角度の変化は鋭敏かつ大きくなり、該光スキャナーを実環境で使用されるディスプレー装置や精密測定装置に応用することは困難であった。
【0019】
また、通常シリコン基板や金属を加工することによって振動子を作製するの、振動子を作製するプロセス(たとえばシリコン・エッチング、メタル・エッチング等)において、振動子の形状に加工時のばらつきが生じやすい。振動子の形状のばらつきは、振動子の共振特性のばらつきの原因となる。
【0020】
振動子の特定の位置にウエイトを付加したり、振動子の一部に櫛歯をあらかじめ形成しておき、櫛歯を1つずつ削除することにより、振動子の共振特性を調整することが考えられるが、ウエイトを付加する位置にばらつきが生じやすい、櫛歯を形成するためには微細加工が必要である等の問題がある。この調整によって振動子に変形、破損が起こりやすく、共振特性の調整を繰り返し行うことが困難である。なによりも、ウエイトの付加や櫛歯の削除では、調整量が大きすぎて細かい調整が困難ないしは不可能である。
【0021】
この様な問題点があるため、光スキャナー装置の光走査性能(共振周波数、ミラー走査角度、位相)を、周囲環境温度の変化や製造上のバラツキに対して一定にするために、光スキャナーの駆動回路や受光信号処理回路において回路定数の補正を行う必要があり、その調整のためのコストが高くつくことが実用的に大きな問題点であった。
【0022】
従来知られる、先行技術1、2、3、4では、ミラー部が捻れ梁部によって支えられた振動子の捻れ振動の共振周波数fは、先述した式1、式3で表現され、ミラー部の重さ(この場合は、ミラー部の回転モーメントI)と捻れ梁部の長さL、捻れ梁部の捻れ方向のバネ定数Ktでき決まる。これに対して、図1(a)に示される、本発明の対象となる板波あるいは振動を利用した光走査装置のミラー部の捻れ振動の共振周波数は、ミラー部の重さ(この場合は、ミラー部の回転モーメントI)と捻れ梁部の長さL、捻れ梁部の捻れ方向のバネ定数Ktだけでは決まらず、上記ミラー部と捻り梁部が連結・支持されている基板(フレーム構造部)自体の形状や大きさ、厚み、バネ定数Kfの影響も大きく受け決定される。図1、図2はこの違いを有限要素法によるシミュレーションで説明するもので、図1(a)(b)に示された光走査装置は、共にミラー部と捻れ梁部の形状、機械特性は全く同じだが、図1(b)の光走査装置は、それを支える片持ち上に支持された基板(フレーム構造部)部分の厚みだけを図1(a)の2倍にし、バネ定数kf(剛性)を増加してある。図2に両者の共振周波数fと走査角度Θの比較を示す。上記共振周波数は大きく高周波側にシフトする。
【0023】
従って、捻れ梁部の捻れ方向のバネ定数Ktや捻れ梁部自体の形状(断面形状、長さL)だけでなく、上記ミラー部と捻り梁部が結合、支えられている基板(フレーム構造部)自体のバネ定数Kfや形状を変化させることで、上記ミラー部が捻れ梁部によって支えられた振動子の捻れ振動の共振周波数fを変化させることができる。
【0024】
また、逆に、上記光走査装置の周囲環境温度が変化すると、上記捻れ梁部の捻れ方向のバネ定数Ktや捻れ梁部自体の形状(断面形状、長さL)あるいは、上記ミラー部と捻り梁部が結合、支えられている基板(フレーム構造部)自体のバネ定数Kfや形状が変化し、上記ミラー部が捻れ梁部によって支えられた振動子の捻れ振動の共振周波数fは変化する。
【0025】
また、上記した従来技術5の光走査装置では、可動部142の振れ角が大きくとれないという欠点があった。
すなわち、フレーム部から出た2本の捻じれ梁を支持する2本の幅の細い片持ち梁部分に圧電膜を形成すると、この部分の剛性が増加し、圧電膜に誘起された振動が、効率よく捻り梁部に伝達されず、結果、ミラーの捻じれ振動が小さくなる。また、2つの片持ち梁部とその上に形成される圧電膜とで構成される振動源部分の振動特性を正確に一致させないと、ミラーの捻じれ振動の振動振幅が抑制されるのと同時に、捻じれ振動以外の振動モードが重畳し、正確なレーザービームの走査が実現できない。さらに、ミラーの駆動力を増加させるため圧電膜部分の面積を大きくするには、上記片持ち梁部の幅を大きくする必要が有り、このため同片持ち梁部に2次元的な不要の振動モードを発生させ、ミラーの捻じれ振動の振動振幅が抑制されるのと同時に、捻じれ振動以外の振動モードが重畳し、正確なレーザービームの走査が実現できないなどの問題がある。また、上記片持ち梁の幅が細く制限されるため、この部位に形成された圧電膜を駆動するための上部電極の形成は、幅が細いため容易でなく、量産時の歩留まりに大きく影響するなどの問題点があった。
【0026】
図26は、従来技術5の場合と同様のもので、フレーム部から出た2本の捻じれ梁を支持する2本の幅の細い片持ち梁部分に圧電膜を形成する構成となっており、ミラー部走査角度の駆動効率をシミュレーション計算により調べたものである。y=0の面を対称面とし、半分のみモデル化した。
図27に、図23に示すフレーム部から出た2本の捻じれ梁を支持する2本の幅の細い片持ち梁部分に圧電膜を形成する構成のミラーの振れ角を示す。駆動電圧は1Vとし、圧電体の電気特性は、典型的なパラメータであるPZT−5Aの特性、スキャナーフレーム本体の材質はSUS304の特性を用いた。ミラー部の振れ角は、0.63度と小さいものであった。
【0027】
本発明は、上記捻れ梁部の捻れ方向のバネ定数Ktや捻れ梁部自体の形状(断面形状、長さL)だけでは問題が解決されないことに鑑み、上記ミラー部と捻り梁部が連結・支持されている基板(フレーム構造部)自体のバネ定数Kfや形状を、周囲環境温度の変化や量産時のバラツキに合わせて変化させることにより、上記ミラー部が捻れ梁部によって支えられた振動子の捻れ振動の共振周波数fを一定に保つ機能と構造を有する光走査装置を提供することを第1の目的とする。
また、本発明は、捻れ梁部を支持する片持ち梁部の形状及び捻れ梁部の取付け位置を工夫することにより、より広い温度範囲に対して走査角度の安定した光走査装置を提供することを第2の目的とする。
また、本発明は、捻れ梁部の断面形状を工夫することにより、より広い温度範囲に対して走査角度の安定した光走査装置を提供することを第3の目的とする。
また、本発明は、効率的にミラー部に捻れ振動を発生することができる光走査装置を提供することを第4の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
上記目的を達成するための本発明の温度変化及び量産時のバラツキを補償する原理および装置の基本的事項について図を参照しながら以下に説明する。
まず、図3に本発明の対象となる光走査装置の基本構成を示す。
図3において、基板10は、例えば、板材をエッチングあるいはプレス加工等により、ミラー部11及び捻れ梁部12を残して中抜きされた形状に作製されており、ミラー部11は基板10に連結された捻れ梁部12、12により両側から支持され、また、捻れ梁部12、12の外側端はそれぞれ片持ち梁部14に支持される構造となっている。
また、基板10は、例えば、その一端が支持部材13に片持ち状に支持されている。
本明細書において、基板10とは、ミラー部11、捻れ梁部12を除く装置のフレーム構造部を指しており、片持ち梁部14を含むものであり、片持ち梁部14を含まない部分を基板本体部という。(以下、基板10をフレーム構造部ということがある。)。なお、基板10のうち、片持ち梁部14を除いた部分を基板本体という。
基板10と捻れ梁部12との連結部から離れた基板10の本体部の一部に、エアロゾルデポジション法(以下、「AD法」と略す場合がある。)、スパッタリング法あるいはゾル−ゲル法等の薄膜形成技術を用いて、あるいはバルク材の圧電薄板を張り付けて、光走査駆動用圧電膜15を形成し、電源16から光走査駆動用圧電膜15上の上部電極17及び下部電極としての基板10に電圧を印加すると光走査駆動用圧電膜15が圧電振動し、基板10に板波あるいは振動を誘起し、これを利用してミラー部11に捻れ振動を生じさせることにより、簡単な構造で効率的にミラー部11に捻れ振動を発生することができる。
この場合、光走査駆動用圧電膜15が基板10を振動させる駆動源となる。
駆動源である光走査駆動用圧電膜15に電圧を印加した状態でミラー部11に光源18から光ビームを照射すると、ミラー部11が振動するため、ミラー部11で反射した光は一定の振れ角で振動する。
【0029】
温度変化及び量産時のバラツキを補償するための具体的な構造としては、図4に示すように、ミラー部11と捻り梁部12が連結・支持されている基板10上に、上記共振周波数fを調整するための変形力を印加できる応力印加用圧電膜20を形成し、別途検出された周囲環境温度や量産時のバラツキによる上記共振周波数fの変化を補正するような電気制御信号を印加すれば、上記応力印加用圧電膜20の発生力により、ミラー部11と捻り梁部12が連結・支持されている基板10が変形し、ミラー部11と捻り梁部12が連結・支持されている基板10のバネ定数や形状が変化するため、上記共振周波数fが調整、補正され、周囲環境温度の変化や量産時のバラツキによる上記共振周波数fの変化を無くし、上記共振周波数fが一定になるように制御することができる。
なお、本明細書において、基板10自体のバネ定数及び形状を変化させる手段を基板形状制御手段と総称する。
【0030】
また、ミラー部11と捻り梁部12が連結・支持されている基板10上に、上記共振周波数fを調整するための変形力を印加する方法として、基板10を磁性材料にするか基板10上に磁性材料を形成し、外部磁界を印加することで、上記共振周波数fを調整するための変形力を誘起し、別途検出された周囲環境温度や量産時のバラツキによる上記共振周波数fの変化を補正するような電気制御信号により外部から印加する磁界を調整すれば、ミラー部11と捻り梁部12が連結・支持されている基板10が変形し、ミラー部11と捻り梁部12が連結・支持されている基板10のバネ定数が調整、補正され、周囲環境温度の変化や量産時のバラツキによる上記共振周波数fの変化を無くし、上記共振周波数fが一定になるように制御することができる。
【0031】
また、ミラー部11と捻り梁部12が連結・支持されている基板10上に、上記共振周波数fを調整するための変形力を印加する方法として、ミラー部11と捻り梁部12が連結・支持されている基板10上に、周囲環境温度に応答し、上記共振周波数fの変化を補正するような変形力を印加するように形状記憶合金や熱膨張係数が異なる材料を形成すれば、温度変化に応じてミラー部11と捻り梁部12が連結・支持されている基板10が変形し、ミラー部11と捻り梁部12が連結・支持されている基板10のバネ定数が自動的に調整され、上記電気制御信号による制御を行うことなく、さらに、周囲環境温度の変化を検出するセンサや制御用の電子回路を用いることなく、非常に簡単な構造で、周囲環境温度の変動に対する上記共振周波数fの変化を無くし、上記共振周波数fを一定になるように制御することができる。また、上記応力印加用部材として形状記憶合金材を用いる場合は、基板10の変形を他の手段を用いた場合より容易に大きくすることができ、従って、周波数の調整範囲を大きくでき、より効果的である。
【0032】
また、本発明では、捻れ梁部12の捻れ方向のバネ定数Ktや捻れ梁部12自体の形状(断面形状、長さL)だけでは問題が解決されないことに鑑み、ミラー部11と捻り梁部12が連結・支持されている基板10自体のバネ定数Kfや形状を周囲環境温度の変化や量産時のバラツキに合わせて変化させる手段を施すものであるが、基板10自体のみならず、捻れ梁部にも同様な手段を施しても良いことはもちろんである。
【0033】
また、本発明は上記第2の目的を達成するため、図6に示すように、捻れ梁部12を支持する片持ち梁部14の幅Lhを基板10の幅Lwに対して1/6以下にして、容易に温度補償が可能で、より広い温度範囲に対して走査角度の安定を図っている。
また、本発明は同目的を達成するため、図8に示すように、捻れ梁部12を支持する片持ち梁部14の捻れ梁部12との接続部から開放端部までの長さが、片持ち梁部14の捻れ梁部12との接続部から片持ち梁部14の基端までの長さより短くして、容易に温度補償が可能で、より広い温度範囲に対して走査角度の安定を図っている。
また、本発明は上記第3の目的を達成するため、図7に示すように、捻れ梁部12の断面の厚みtと幅wの比(w/t)を1.5以下にして、容易に温度補償が可能で、より広い温度範囲に対して走査角度の安定を図っている。
【0034】
また、本発明は上記第4の目的を達成するため、本発明は、振動源である圧電膜(体)をフレーム部に1つ形成することにより、2つの片持ち梁部の剛性を下げ、効率よくミラーの捻じれ振動を誘起すると同時に、ミラーを駆動する振動源を一つにすることで、上記、振動源の不均等などに起因する不要な振動モードの誘起ならびに振幅低下の問題を解消する。また、このように振動源となる圧電膜形成部分とミラー部ならびにミラー部を支持する捻れ梁部から構成されるミラー捻れ振動部を上記2つの片持ち梁部で分離することにより、駆動源の圧電膜の面積を片持ち梁部の幅に関係なく自由に設定でき、ミラー捻れ振動部により効率的に大きな駆動力を投入することが可能となり、さらに、圧電膜駆動用の電極形成も容易になり、工業的生産における歩留まりを向上することが可能となる。
図9は、本発明に係る振動源である圧電膜15を基板10に1つ形成する構成の光走査装置を、y=0の面を対称面とし、半分のみモデル化した平面図である。
光走査装置の基本構成となるミラー部11の寸法や捻れ梁部12の寸法、捻れ梁部12のミラー部11への取り付け位置(ミラー部の重心位置)、基板10の形状ならびにその支持方法、さらに圧電膜15の厚みや膜面積の合計値も同じにしてある。違いは、圧電膜15の形成位置だけである。
図10に、図9に示す装置のミラー部11の振れ角を示す。駆動電圧は1Vとし、圧電体の電気特性は、典型的なパラメータであるPZT−5Aの特性、スキャナーフレーム本体の材質はSUS304の特性を用いた。基本的に、図16に示す従来技術4と図5に示す本発明の共振周波数はほぼ同じだが、ミラー部11の振れ角は、従来技術4のものでは0.63度であるのに対し、図5に示す本発明によるものでは2.69度(30V換算で80.7度)と、4.3倍程度大きく振れることが確認された。
尚、ミラーの走査振幅を大きくするために、基板に配置される振動源を複数もう於けることも可能であるが、この場合、振動源の特性や取り付け位置、接着、成膜による取り付け状態のバラツキのため、基板部にミラー部を支持する捻れ梁に垂直方向の対称軸に対し非対称な2次元振動が誘起され易くなり、ミラーの捻れ振動による光ビームの走査精度は低下する。これに対し本発明では、振動源が一つでも効率よくミラー部に捻れ振動を誘起し、光ビームの走査ジッターの低減と製品のバラツキを大幅に抑えることができる。
【0035】
図3に示す本発明のようなミラー部11から離れた位置で発生させた振動エネルギーを効率よくミラー部11の捻り振動になるエネルギーとして伝達するには、主にミラー部11の重量と捻り梁部12のバネ定数で決定されるミラー部11の共振周波数(fm)とフレーム部自体の分割振動モードも含めた共振周波数(fb)とを大きくずらす必要が有る。ミラー部11の捻れ振動の共振周波数(fm)に合うように光走査装置の圧電膜15を駆動したとき、基板10にも共振モードが誘起されると、振動源で発生された振動エネルギーは、エネルギー保存則からミラー部11の捻れ振動と基板10の2次元分割振動に分配されることになる。従って、基板10の2次元分割振動に駆動源からの振動エネルギーが消費された分だけ、ミラー部11の捻れ振動の振幅(捻れ角度)は小さくなり、効率よく光走査装置を駆動することができない。また、基板10に不要な2次元分割振動が誘起されると、その先端に位置するミラー部11にも捻れ梁部12を回転軸とする純粋なねじれ振動以外の振動モードが重畳される場合もあり、直進走査性にすぐれた高精度の光走査を実現することができない。これに対して、本発明では、図7に示すようにミラー部に誘起される高次まで含む捻れ共振周波数a(fm(n):n=0,1,2,・・・・)が基板10に誘起される高次まで含む共振周波数b(fb(n):n=0,1,2,・・・・)と重ならないように設計される。
【0036】
本発明による光走査装置は、基本構造として、図3に示す薄板状の基板10がミラー部11と反対側で、支持部材13により片持ち支持された構造になっており、このため光走査装置の全体に上下の外乱振動が加わると、光走査装置全体が振動し、ミラー部11で反射、走査される光ビームは、この振動の影響を受け不安定に振動し、正確な光走査が保証できない問題点があった。従って、携帯機器などでの実用的な応用を想定すると、この光走査装置全体が片持ち構造で不安定なことを改善する必要が有る。
そこで、本発明では、図12に示すように、片持ち支持されている光走査装置全体を囲むように配置された剛性の高い基板固定フレーム32に、幅の細い基板接続用梁33で、光走査装置を支持部材13による支持部から離れた位置で固定する。
このとき、基板接続用梁33の固定位置によって光走査装置自体の共振状態が変化し、ミラー部11の走査角度や共振周波数が影響を受ける。
【0037】
図13、図14は、この様子を調べたもので、図13−aに示すように、ミラー部11が捻り共振している時に振動の腹に近い振動振幅が大きい片持ち梁部14の付け根で、基板接続用梁33により光走査装置を固定すると、ミラー部11の走査振幅は、固定されていない場合の約55°の走査振幅に対し、約17°と大幅に低下する。これは、光走査装置の外縁部で振動振幅の大きな箇所を固定し、その振動を抑制すると、光走査装置基板10全体の振動モードを変化させ、結果、ミラー部11の捻れ振動に効率よくエネルギーを伝えられなくなるためである。
これに対して、図14に示す基板接続用梁33で接続されていない状況で、ミラー部11が捻り共振している時に、光走査装置基板10の縁部分(図14の符号34で示された箇所)のZ軸方向の振動振幅が最小となる節35近傍の箇所で、図13−dに示すように基板接続用梁33で接続固定した場合は、ミラー部11の走査振幅は、約55°と基板固定フレーム32に固定しない場合よりもむしろ若干大きな走査振幅となる。この場合は、光走査装置基板10全体の振動モードを変化させないので、固定していない場合とほぼ等価な共振状態を維持でき、基板接続用梁23による光走査装置基板10固定のミラー部11の走査振幅への影響は、最小となる。
従って、光走査装置の外縁部で、ミラー共振時に振動の節あるいは、振動振幅が最も小さく、かつなるべく光走査装置支持部材13から遠い箇所で、基板接続用梁33により光走査装置を固定すると、ミラー部11の走査振幅を減衰させることなく、光走査装置を外乱振動に対し安定に支持することができる。
【0038】
以上の本発明による光走査装置の光ビームの走査ジッタと走査ウォブル(ビーム走査速度の安定性)を、エーエルティー株式会社製:MEMSスキャナー計測システム[ALT−9A44]で評価したところ、従来のシリコン製MEMS光スキャナー(日本信号製)が走査ジッタが、Jp−p:0.2〜0.3%であるのに対し、本発明の光走査装置は、金属材料で構成されているにもかかわらず、走査共振周波数6kHz、16kHz、24kHzに対し、Jp−p:0.06%以下と一桁小さく、従来ポリゴンミラー方式に相当する高精度な光ビーム走査を実現できている。また、従来ポリゴンミラー方式では、走査ウォブルが、Wp−p:30〜40秒程度有り、f−Θレンズなどで補正をかけ、値を1桁下げる必要が有るが、本発明による光走査装置では、走査ウォブルが、Wp−p:5秒以下と、一桁低い値となっており、補正レンズ系なしで高安定なビーム走査速度を実現できており、小型、低コスト化を容易に可能とする。以上の測定結果から、本発明による光走査装置は、レーザプリンターなどに使用できる高い光ビーム走査精度が得られていることが明らかである。
【発明の効果】
【0039】
本発明は、以下のような優れた効果を奏する。
(1)ミラー部を支持する捻れ梁部を有する基板に、基板自体の形状を制御する基板形状制御手段を設けることにより、周囲環境温度の変化により共振周波数が変動してもその変化を打ち消すように基板のバネ定数及び形状を制御し、捻れ梁部に支持されたミラー部の捻れ振動の共振周波数を一定に保つことができる。
(2)捻れ梁部を支持する片持ち梁部の幅を基板の幅の1/6以下とすることにより、容易に温度補償が可能で、より広い温度範囲に対し走査角度の安定した光走査装置を提供することができる。
(3)捻れ梁部を支持する片持ち梁部の捻れ梁部との接続部から開放端部までの長さが、片持ち梁部の捻れ梁部との接続部から片持ち梁部の基端までの長さより短くすることにより、容易に温度補償が可能で、より広い温度範囲に対し走査角度の安定した光走査装置を提供することができる。
(4)捻れ梁部の断面の厚みtと幅wの比(w/t)が1.5以下とすることにより、容易に温度補償が可能で、より広い温度範囲に対し走査角度の安定した光走査装置を提供することができる。
(5)ミラー部の重量と捻り梁のバネ定数で決定されるミラー部の共振周波数と基板の共振周波数とを大きくずらすことにより、ミラー部から離れた位置で発生させた振動エネルギーを効率よくミラー部の捻り振動になるエネルギーとして伝達することができる。
(6)基板本体及び片持ち梁部を囲むように基板固定フレームを配置して基板本体の固定端部側で固定するとともに、基板本体と基板固定フレームとを支持部材から離れた位置で、かつ、基板振動の最小振幅の近傍において基板接続用梁で接続することにより、ミラー部の走査振幅を減衰させることなく、光走査装置を外乱振動に対し安定に支持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】図1(a)は、本発明の対象となる板波あるいは振動を利用した光走査装置の斜視図であり、図1(b)は、図1(a)の光走査装置の基板部分の厚みだけを2倍にした状態を説明する要部の斜視図である。
【図2】図1(a)の薄板モデルと図1(b)の厚板モデルの共振周波数fと走査角度Θの比較を説明した図である。
【図3】本発明の対象となる光走査装置の基本構成を示す斜視図である。
【図4】周波数調整の駆動源として応力印加用圧電膜をもちいた場合の本発明の実施例1に係る光走査装置の説明図である。
【図5】図4に示す実施例1の実験結果を示す図である。
【図6】光走査装置のミラー部の捻れ方向の捻れ共振周波数fと走査角度Θの温度依存性とそれに対応する基板の幅Lwに対する片持ち梁部の幅Lhの比を変えた場合の実験結果を示した図である。
【図7】光走査装置のミラー部の捻れ方向の捻れ共振周波数fと走査角度Θの温度依存性とそれに対応する捻れ梁部の厚みtと幅wの比を変えた場合の実験結果を示した図である。
【図8】光走査装置のミラー部の捻れ方向の走査角度Θの温度依存性とそれに対応する捻れ梁部の片持ち梁部における取付位置を変えた場合の実験結果を示した図である。
【図9】本発明に係る圧電膜を基板本体に1つ形成する構成の光走査装置を、y=0の面を対称面とし、半分のみモデル化した平面図である。
【図10】図9に示す装置のミラー部の振れ角を示す図である。
【図11】本発明に係る光走査装置の基板及びミラー部の共振周波数を示す図である。
【図12】本発明に係る基板本体及び片持ち梁部を囲むように基板固定フレームを配置した装置の平面図である。
【図13】基板と基板固定フレームとを接続する基板接続用梁の位置を変化させた場合のミラー振れ角を説明する図である。
【図14】基板と基板固定フレームとが基板接続用梁で接続されていない状況で、ミラー部が捻り共振している時の基板の縁部分の共振振幅の状態を説明する説明図である。
【図15】ミラー部を高速走査させるための板波あるいは振動の発生源である光走査駆動用圧電膜を基板形状制御にもちいた場合の本発明の実施例2に係る光走査装置の平面図である。
【図16】周波数調整の駆動源として形状記憶合金を用いた場合の本発明の実施例3に係る光走査装置の説明図である。
【図17】周波数調整の駆動源として熱膨張係数の異なる材質で構成されたバイメタル構造をもちいた場合の本発明の実施例4に係る光走査装置の説明図であって、(a)は平面図、(b)(c)は動作を説明する側面図である。
【図18】片持ち梁部に形状記憶合金、あるいは熱膨張係数の異なる材質で構成されたバイメタル構造が形成され、その変形により捻れ梁部の張力が調整される場合の本発明の実施例5に係る光走査装置の平面図である。
【図19】基板の一部あるいは全体を構成する磁性材料と外部磁場の相互作用により基板に変形を与えた場合の本発明の実施例6に係る光走査装置の説明図である。
【図20】図20(a)は、駆動源となる圧電部材として通常のバルク材から作製した薄板を貼り付けた場合の走査角度Θおよび共振周波数fの実験結果を示した図である。図20(b)は、駆動源となる圧電部材としてエアロゾルデポジション(AD)法で形成した圧電膜を貼り付けた場合の走査角度Θおよび共振周波数fの実験結果を示した図である。
【図21】従来技術1を説明する概略図である。
【図22】従来技術2を説明する概略図である。
【図23】従来技術3を説明する概略図である。
【図24】従来技術4を説明する概略図である。
【図25】従来技術5を説明する概略図である。
【図26】従来技術5の場合と同様のものであって、y=0の面を対称面とし、本文のみモデル化した図である。
【図27】図26に示す構成の装置のミラー部の振れ角を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明に係る光走査装置を実施するための最良の形態を実施例に基づいて図面を参照して以下に説明する。
【実施例1】
【0042】
図4(a)は、周波数調整の駆動源として応力印加用圧電膜をもちいた場合の実施例1に係る光走査装置の平面図であり、基板10を支持する支持部材13は省略している。本実施例の対象となる光走査装置は図3のものと基本構成は同じであり、図3に示したと同じ符号は特にことわらない限り同じ部材を指している。
光ビーム(図示省略)を反射、走査するミラー部11は、2つの捻れ梁部12により基板10に接続され、基板10の片持ち梁部14と捻れ梁部12との連結部19から離れた基板上の一部に光走査駆動用圧電膜15が形成されている。連結部19から離れた基板上の一部に光走査駆動用圧電膜15を形成するには、少なくとも片持ち梁部14に光走査駆動用圧電膜15を形成することはせず、基板本体部の一部、例えば図に示すように、基板本体部の中央部に形成するとよい。
光走査駆動用圧電膜15に光走査駆動信号発生回路28より駆動信号を印加することにより光走査駆動用圧電膜15は圧電振動し、基板10に板波あるいは振動を誘起し、ミラー部11に捻れ振動を誘起する。また、基板10上には、別途、基板10に機械的歪みを与えミラー部11の共振周波数fを変化させるための基板形状制御手段である応力印加用圧電膜20が光走査駆動用圧電膜15よりミラー部11側に形成、配置され、周波数調整信号発生回路29から調整信号を印加される。応力印加用圧電厚膜20の面積や形状、厚みは、なるべく小さな印加電圧で、大きく上記基板10を変形させる様にすることが好ましい。本実施例では、基板10は、導電性の金属基板(SUS304)で形成されている。
【0043】
図4(b)は、図4(a)の装置の動作を説明するものであり、基板10上で、ミラー部11を支える捻れ梁部12と平行方向に細長い応力印加用圧電膜20を形成、配置し、直流電圧を印加すると、基板10と応力印加用圧電膜20が積層されてユニモルフ構造になっているので、捻れ梁部12と垂直方向の馬の背状に上方向、あるいは下方向に変形し、その結果、基板10は、応力印加用圧電膜20への印加電圧の極性に関係なく、その絶対値が増加するに伴い、捻れ梁部12と垂直方向には曲がりにくくなり、実質的に基板10のバネ定数(剛性)が増加することになるため、ミラー部11の捻れ共振周波数fは増加する。
このような光走査装置において、周囲環境温度の変化に伴う、共振周波数のズレやそれに伴う最大走査角度の補正方法を説明する。まず、図4(a)に示すように、温度センサによって周囲を検出、これに基づいて、図14(a)、(b)に示されるような温度上昇に伴う共振周波数の減少を補正するような直流バイアス信号を、周波数調整信号発生回路22より発生し、これを応力印加用圧電膜20に印加して、上記光走査装置の共振周波数自体を変化させ、温度変化に伴う共振周波数のズレを補正する。以上のような構成で、周囲環境温度の変化に伴う光走査装置の共振周波数の変化を大幅に低減、補正でき、画像表示機器やセンサなどに応用する際の精度を向上することができる。また、このとき最大走査角度の増加も光走査装置の共振周波数が一定に保たれるため、安定するが、僅かな変化は生じる。これには図4(a)に示すように、別途設けられた、走査角度検出センサにより検出された走査角度の増加に応じて、光走査駆動信号発生回路21により発生する光走査駆動信号の駆動振幅を低下せしめ、光走査装置にの走査角度が一定になるように補正すれば、周囲環境温度の変化に伴う走査安定性の精度はさらに向上する。
以上のように、本発明によると、従来技術のように周囲温度変化に対する光走査装置のミラー部の捻れ共振周波数の変化に合わせて、光走査駆動信号発生回路の駆動信号の周波数を調整し、光走査装置の最大走査角度を一定にするのではなく、温度変動に伴う光走査装置の共振周波数そのものを一定に保ち同時に最大走査角度も一定できるという特徴がある。このことにより、共振周波数により決定されるクロック(時間軸)を一定にすることができ、高精度なディスプレー装置や精密測長器、光センサなどより広範囲の用途に、共振原理を用いた光走査装置を高精度に適用することが可能となる。
【0044】
また、基板10のバネ定数(剛性)を変化させるための応力印加用圧電膜20の基板10上での配置や形状、面積、厚みは、なるべく小さな印加電圧で、大きく基板10を変形させる様にすることが好ましい。例えば、基板10全面に応力印加用圧電膜20を形成、応力印加用圧電膜20の膜厚を基板10の厚みに応じて最小電圧で最大変位が得られるように決定(本件出願人の先の出願である特願平2005−115352に詳細に記載)すれば、基板10全体のバネ率(剛性)が一様に増加しより好適である。
【0045】
図5に示すように、実験結果では、共振周波数の変化量は応力印加用圧電膜20への印加電圧の極性に応じて2次関数的に増加あるいは減少しているが、これは印加電圧ゼロの状態の時、すなわち応力印加用圧電厚膜20が基板10上に形成されただけで、基板10が変形していたためで、マイナスの電圧が応力印加用圧電膜20に印加されて、基板10がフラットになり変形量がゼロになるまでは、共振周波数が減少するためである。また、共振周波数fが500Hzから30kHz程度の光走査装置サンプルに対し、100ボルト(V)の印加電圧で、共振周波数fを約200Hz程度増加することができた。
【0046】
図6から図8は、光走査装置のミラー部11の捻れ方向の捻れ共振周波数fと走査角度Θの温度依存性とそれに対応する光走査装置の基板10、片持ち梁部14、捻れ梁部12等の形状(以下、「光走査装置の形状」ということがある。)との関係を示したものである。走査角度Θは、温度変化に伴う共振周波数fの変化に対応して、駆動周波数を常に最大の走査角度になるように調整し、測定したものである。
図6から図8に示された全ての光走査装置の形状に対して、捻れ共振周波数fは、温度上昇と共に単調に減少する。
表1は、−20℃から80℃までの温度範囲で、ミラー部の捻れ共振周波数fの異なる各種光走査装置について、共振周波数の変化幅を調べた結果である。数百Hzから30kHz以上の共振周波数のものまで、全て周囲環境温度の変化に伴って、単調に共振周波数fは減少し、その減少幅は、共振周波数で規格化すると、最大でおおよそ1〜2%程度、具体的な周波数変化量としては、上記周波数範囲で、11Hz〜800Hz程度である。
【0047】
【表1】

【0048】
以上から、周囲温度の上昇に伴う光走査装置のミラー部11の捻れ共振周波数fの低下は、光走査装置の基板10に応力印加用圧電膜20を形成し、直流電圧を印加することで十分に制御できることが判った。尚、この様な基板10への変形の与え方は、磁歪材料などに置き換えても同様なのは明らかである。また、光走査装置の基板10を構成する材料もステンレスのような金属材料に限ったものでなく、先行文献1、2、3にあるようなマイクロマシニングで形成された、Si構造体でも同様の効果を実現できるのは明らかである。
【実施例2】
【0049】
図15は、上記光走査装置において、周波数調整のために基板10を変形させ、そのバネ定数を変化させる駆動源として用いた応力印加用圧電膜20や応力印加用磁歪膜の代わりに、ミラー部を高速走査させるための板波あるいは振動の発生源である光走査駆動用圧電膜15を基板形状制御にもちいた場合の実施例2に係る光走査装置の平面図であって、基板10を支持する支持部材13は省略している。本実施例の対象となる光走査装置は実施例1のものと基本構成は同じであり、特にことわらない限り実施例1と同じ符号は同じ部材を指している。
【0050】
本実施例では、光走査駆動用圧電膜15は、ミラー部11を共振させる振動源を兼ねており、駆動信号として、光走査駆動信号発生回路21により発生したミラー部11の捻り共振周波数fに一致した交流信号Sacに上記捻り共振周波数を調整するための周波数調整信号発生回路22で発生した直流バイアス信号Sbiasを重畳し、このSac+Sbiasの信号をミラー部11を高速走査させるための板波発生源である光走査駆動用圧電膜15に印加し、ミラー部11の共振周波数を一定になるように駆動、調整する。基板10と光走査駆動用圧電膜15が積層されてユニモルフ構造になっているので、光走査駆動用圧電膜15形成部分を中心に基板10が凸状あるいは凹状に変形し、基板10の内部応力の増加や形状変化による曲げ弾性の増加によりバネ定数が上昇し、その結果、ミラー部11の共振周波数は高周波側にシフトする。実験では、約10kHzの捻れ共振周波数の光走査装置の場合、上記直流バイアス信号により100Hz程度の上記共振周波数の変化を与えることができた。
以上から、周囲温度の上昇に伴う光走査装置のミラー部11の捻れ共振周波数fの低下は、光走査装置の基板10に形成されたミラー部11を高速走査させるための板波あるいは振動の発生源である光走査駆動用圧電膜15に周波数調整用の直流バイアス信号Sbiasを印加することで、周囲環境温度の変動に対する上記共振周波数fの変化を無くし、上記共振周波数fを一定になるように制御することができた。
【0051】
このような光走査装置において、周囲環境温度の変化に伴う、共振周波数のズレやそれに伴う最大走査角度の補正方法を説明する。まず、図15に示すように、温度センサによって周囲を検出、これに基づいて、図20(a)、(b)に示されるような温度上昇に伴う共振周波数の減少を補正するような直流バイアス信号を、周波数調整信号発生回路22より発生し、これを光走査駆動用圧電膜15に印加して、上記光走査装置の共振周波数自体を変化させ、温度変化に伴う共振周波数のズレを補正する。このときの上記共振周波数の減少を補正するような直流バイアス信号は、図15に示すように、光走査駆動信号に重畳し、直接、光走査駆動用圧電膜15に印加する。以上のような構成で、周囲環境温度の変化に伴う光走査装置の共振周波数の変化を大幅に低減、補正でき、画像表示機器やセンサなどに応用する際の精度を向上することができる。また、このとき最大走査角度の増加も光走査装置の共振周波数が一定に保たれるため、安定するが、僅かな変化は生じる。これには図15に示すように、別途設けられた、走査角度検出センサにより検出された走査角度の増加に応じて、光走査駆動信号発生回路21により発生する光走査駆動信号の駆動振幅を低下せしめ、光走査装置にの走査角度が一定になるように補正すれば、周囲環境温度の変化に伴う走査安定性の精度はさらに向上する。
以上のように、本発明によると、従来技術に様に周囲温度変化に対する光走査装置のミラー部の捻れ共振周波数の変化に合わせて、光走査駆動信号発生回路の駆動信号の周波数を調整し、光走査装置の最大走査角度を一定にするのではなく、温度変動に伴う光走査装置の共振周波数そのものを一定に保ち同時に最大走査角度も一定できるという特徴がある。このことにより、共振周波数により決定されるクロック(時間軸)を一定にすることができ、高精度なディスプレー装置や精密測長器、光センサなどより広範囲の用途に、共振原理を用いた光走査装置を高精度に適用することが可能となる。
【実施例3】
【0052】
図16は、周波数調整の駆動源として、先述した応力印加用圧電膜や応力印加用磁歪膜の代わりに、形状記憶合金を用いた場合の実施例3に係る光走査装置の図であって、(a)は平面図、(b)(c)は動作を説明する側面図であり、基板10を支持する支持部材13および駆動電源系統は省略している。本実施例の対象となる光走査装置は実施例1のものと基本構成は同じであり、実施例1と同じ符号は特にことわらない限り同じ部材を指している。
【0053】
形状記憶合金材料としては、市販されているKIOKALLOY:Ni−Ti2元素系合金材料でNi含有率が、47%〜56%で相転移温度(回復温度)が40℃から90℃程度のものがもちいられる。この材料からなる周波数調整用形状記憶合金薄板23を光走査装置の基板10に貼り付ける。この周波数調整用形状記憶合金薄板23は、あらかじめ基板10に与える変形量を見込んだ適切な変形量の曲げを与えて、熱処理を行いこれを記憶させておいたものを用いる。この様にして周波数調整用形状記憶合金薄板23を上記応力印加用圧電膜や応力印加用磁歪膜の代わりに、基板10に貼り付ける。実施にあたっては、光走査装置の設計に応じて、周波数調整用形状記憶合金薄板23は、光走査装置の基板10の表面側あるいは裏面側のどちらから張り合わせても良く、また、相転移時に同方向に曲がるように方向を揃えれば、両面に張り合わせると、より効果的に変形を生じさせることができる。
また、この実施例では、周波数調整用形状記憶合金薄板23上に光走査駆動用圧電膜15を貼り付けている
【0054】
この様にして作製された光走査装置は、周囲環境温度が上昇し、上記相転移温度(回復温度)近傍になると上記光走査装置の基板10は記憶させた形状に復帰しようとし、その結果、上記光走査装置の基板10に変形を生じさせ、周波数調整用形状記憶合金薄板23の貼り付け部分を中心に基板10が凸状あるいは凹状に変形し、基板10の内部応力の増加や形状変化による曲げ弾性の増加によりバネ定数が上昇し、その結果、ミラー部11の共振周波数は高周波側にシフトする。以上から、周囲環境温度の上昇に伴う光走査装置のミラー部11捻れ共振周波数fの低下は、光走査装置の基板10に周波数調整用形状記憶合金薄板23を形成することにより補償され、上記電気制御信号による制御を行うことなく、さらに、周囲環境温度の変化を検出するセンサや制御用の電子回路を用いることなく、非常に簡単な構造で、周囲環境温度の変動に対する上記共振周波数fの変化を無くし、上記共振周波数fを一定になるように制御することができる。また、本実施例のように、周波数調整用として形状記憶合金材を用いる場合は、基板10の変形を他の手段を用いた場合より容易に大きくすることができ、従って、周波数の調整範囲を大きくでき、より効果的である。
【実施例4】
【0055】
図17は、周波数調整の駆動源として、先述した応力印加用圧電膜や応力印加用磁歪膜の代わりに、熱膨張係数の異なる材質で構成されたバイメタル構造をもちいた場合の実施例4に係る光走査装置の説明図であって、(a)は平面図、(b)(c)は動作を説明する側面図であって、基板10を支持する支持部材13および駆動電源系統は省略している。本実施例の対象となる光走査装置は実施例1のものと基本構成は同じであり、実施例1と同じ符号は特にことわらない限り同じ部材を指している。
上記バイメタル構造とは、熱膨張係数の異なる材料を2層あるいは3層以上重ねた構造であって、構造体の温度が変化すると、その熱膨張係数の違いから曲げ運動を生じるものである。本実施例では、例えば、基板10がステンレスなどの金属材料からなる場合、それに重ねて熱膨張係数の小さなセラミックス材料やガラス材料などを貼り付けるか、エアロゾルデポジション法(AD法)やスパッター法などの薄膜法を用いるか、熱酸化法や陽極酸化法などを用いて形成し、構成することができる。
【0056】
実際には、基板10の材料には、SUS304(熱膨張係数:17.3×10−6/K)を、それに貼り合わせる周波数調整用低熱膨張材料膜24として、アルミナ薄板(熱膨張係数:7.7×10−6/K)や窒化珪素基板(熱膨張係数:3.5×10−6/K)、炭化珪素基板(熱膨張係数:4.0×10−6/K)、石英薄板(熱膨張係数:0.54×10−6/K)を用いれば、熱膨張係数で約2倍〜32倍程度の差をつけることができ、基板10の厚みとその上に形成あるいは張り合わせる周波数調整用低熱膨張材料膜24の厚みを調整し、上昇温度あたりの変形量が最大となるようにする。さらに、基板10の材料に、インバーやスーパーインバー、コバール(熱膨張係数:1〜3×10−6/K)などの低熱膨張係数の金属基板を用いれば、温度変動に対する共振周波数の変化をより効果的に低減できる。
【0057】
この様にして作製された光走査装置は、周囲環境温度が上昇すると、上記光走査装置の基板10上の周波数調整用低熱膨張材料膜24が形成された部分はバイメタル構造を形成しているため、光走査装置の基板10との熱膨張係数差から、屈曲変形を生じ、バイメタル構造を取っている部分を中心に基板10が凸状あるいは凹状に変形、基板10の内部応力の増加や形状変化による曲げ弾性の増加によりバネ定数が上昇し、その結果、ミラー部11の共振周波数は高周波側にシフトする。
以上から、周囲環境温度の上昇に伴う光走査装置のミラー部11の捻れ共振周波数fの低下は、光走査装置の基板10上に周波数調整用低熱膨張材料を薄板あるいは膜状に形成することにより補償され、上記電気制御信号による制御を行うことなく、さらに、周囲環境温度の変化を検出するセンサや制御用の電子回路を用いることなく、非常に簡単な構造で、周囲環境温度の変動に対する上記共振周波数fの変化を無くし、上記共振周波数fを一定になるように制御することができる。
【実施例5】
【0058】
図18は、ミラー部11が支持された捻れ梁部12を支持する光走査装置の基板10の一部である片持ち梁部14に形状記憶合金、あるいは熱膨張係数の異なる材質で構成されたバイメタル構造が形成され、その変形により、上記捻れ梁部12の張力が調整される場合の実施例5に係る光走査装置の平面図であって、基板10を支持する支持部材13ならびに駆動電源系統および駆動源は省略している。
本実施例の対象となる光走査装置は実施例1のものと基本構成は同じであり、特にことわらない限り実施例1と同じ符号は同じ部材を指している。
【0059】
本実施例では、図18に示すようにミラー部11が接続された捻れ梁部12を支持する光走査装置の基板10の一部である片持ち梁部14の一部もしくは全体に形状記憶合金、あるいは熱膨張係数の異なる材質で構成されたバイメタル構造25を形成し、光走査装置の基板10の一部である片持ち梁部14を基板10面内で引っ張るか、あるいは圧縮するように変形させることで、ミラー部11を支持する捻れ梁部12の張力を調整し、周囲環境温度の変化に対応し捻れ梁部12のバネ定数を変化させ、ミラー部11の捻れ共振周波数を制御し、気制御信号などによる制御を行うことなく、さらに、周囲環境温度の変化を検出するセンサや制御用の電子回路を用いることなく、非常に簡単な構造で、周囲環境温度の変動に対する上記共振周波数fの変化を無くし、上記共振周波数fを一定になるように制御することができる。
【0060】
尚、光走査装置製造時の共振周波数のバラツキを押さえるための工夫としては、片持ち梁部14の一部もしくは全体に形成された形状記憶合金、あるいは熱膨張係数の異なる材質で構成されたバイメタル構造25を圧電膜や磁歪膜に置き換え、外部電気信号で制御してもよい。
【実施例6】
【0061】
図19は、上記光走査装置の基板10の一部あるいは全体を構成する磁性材料と外部磁場の相互作用により基板10に変形を与えた場合の実施例6に係る光走査装置の説明図であって、駆動電源系統は省略している。本実施例の対象となる光走査装置は実施例1のものと基本構成は同様であり、特にことわらない限り実施例1と同じ符号は同じ部材を指している。
【0062】
本実施例では、上記光走査装置の基板10の材質は磁性を持つステンレス材料で構成され、ミラー部11と反対側は、図19(a)に示すように固定部26に固定されており、基板10全体は片持ち梁の構成になっている。これに永久磁石や電磁石27を近づけると、磁性材料でできた基板10近傍の磁場勾配の大きさに応じて、片持ち梁状の基板10はたわみ、変形し(図19(b)参照。)、その結果、基板10は、永久磁石や電磁石27の極性に関係なく、その絶対値が増加するに伴い、実質的に基板10のバネ定数(剛性)が増加することになるため、ミラー部の捻れ共振周波数fは増加する。実験では、図19に示すように約10kHzの捻れ共振周波数の光走査装置の場合、外部印加磁界により200Hz程度の上記共振周波数の変化を与えることができた。以上から、周囲温度の上昇に伴う光走査装置のミラー部捻れ共振周波数fの低下は、光走査装置の基板10に電磁石などを用いて制御された外部磁場を印加することで、周囲環境温度の変動に対する上記共振周波数fの変化を無くし、上記共振周波数fを一定になるように制御することができる。
【0063】
尚、光走査装置の基板10が金属材料など塑性変形する材質でできている場合は、駆動前にあらかじめ基板10を僅かに塑性変形させておき、この状態で応力印加用圧電厚膜に電圧を印加して、基板10に変形を与える事も可能で、この場合、電圧印加前にあらかじめ与えた基板10の塑性変形量を調整することで、印加電圧値に対する上記共振周波数fの変化範囲を最適な値を調整することができ、実用上、システム全体の調整を容易にするという利点がある。また、この手段は、本発明記載の全ての共振周波数調整方法に適用できることは言うまでもない。
【0064】
また、各種実験結果から走査角度Θの温度依存性は、例えば図6に示されるように、共振周波数fの減少に合わせて、駆動周波数を調整しても、光走査装置の基板10の幅Lwに対し、ミラー部11が接続された捻れ梁部12を支持する光走査装置の基板10の一部である片持ち梁部14の幅Lhが、Lh/Lw=1/6以上と広くなると、単調増加でなく40℃〜50℃ぐらいから減少し始める(右側の図参照。)。これに対しLh/Lw=1/6以下と狭くなると、走査角度Θは、僅かに単調増加するが、その変化は最小限に抑えられる(左側の図参照。)。従って、上記光走査装置では、上記基板10の幅Lwに対し、ミラー部11が接続された捻れ梁部12を支持する光走査装置の基板10の一部である片持ち梁部14の幅Lhの比Lh/Lwが1/6以下になるように設計すると、容易に温度補償を行うことが可能で、より広い温度範囲に対し走査角度の安定した光走査装置を提供することができる。
【0065】
また、各種実験結果から図7に示されるように、上記ミラー部11が接続された捻れ梁部12断面の厚みtと幅wの比w/tが1.5以上であると、走査角度Θは、周囲環境温度の上昇に伴い、単調増加でなく40℃〜50℃ぐらいから減少し始める。これに対しw/tが1.5以下であると、走査角度Θは、僅かに単調増加するが、その変化は最小限に抑えられる。従って、上記光走査装置では、上記ミラー部11が接続された捻れ梁部12断面の厚みtと幅wの比w/tが1.5以下になるように設計すると、容易に温度補償を行うことが可能で、より広い温度範囲に対し走査角度の安定した光走査装置を提供することができる。
【0066】
また、各種実験結果から図8に示されるように、ミラー部11が接続された捻れ梁部12を支持する光走査装置の基板10の一部である片持ち梁部14の捻れ梁部12接続部から開放端部までの長さL1が、片持ち梁部14の捻れ梁部12接続部から上記走査装置の基板10に上記片持ち梁部14が接続されている固定端までの長さL2より長いL1>L2と、走査角度Θは、周囲環境温度の上昇に伴い、単調増加でなく40℃〜50℃ぐらいから減少し始める。これに対し、ミラー部11が接続された捻れ梁部12を支持する光走査装置の基板10の一部である片持ち梁部14の捻れ梁部12接続部から開放端部までの長さが、片持ち梁部14の捻れ梁部12接続部から上記走査装置の基板10の片持ち梁部14が接続されている固定端までの長さより短い、すなわちL2>L1であると、走査角度Θは、僅かに単調増加するが、その変化は最小限に抑えられる。従って、ミラー部11が接続された捻れ梁部12を支持する光走査装置の基板10の一部である片持ち梁部14の捻れ梁部12接続部から開放端部までの長さL1が、片持ち梁部14の捻れ梁部12接続部から走査装置の基板10に片持ち梁部14が接続されている固定端までの長さL2より短く、すなわちL2>L1となるように設計すると、容易に温度補償を行うことが可能で、より広い温度範囲に対し走査角度の安定した光走査装置を提供することができる。
【0067】
尚、上記光走査装置でミラー部11を共振させる振動源や上記共振周波数を制御するために基板10を変形させる駆動源15となる圧電部材は、図20(a)に示すように、通常のバルク材から作製した薄板を貼り付けた場合は、走査角度Θは、周囲環境温度の上昇に伴い、単調増加でなく40℃〜50℃ぐらいから減少し始める。これに対し、エアロゾルデポジション(AD)法で形成した圧電膜を用いると、図20(b)に示すように、上記走査角度Θは、上記温度変動に対し単調に変化し、また、その変動幅も小さくすることが可能で、容易に温度補償がおこなえ、より広い温度範囲に対し走査角度の安定した光走査装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0068】
10 基板
11 ミラー部
12 捻れ梁部
13 支持部材
14 片持ち梁部
15 光走査駆動用圧電膜
16 電源
17 上部電極
18 光源
19 連結部
20 応力印加用圧電厚膜
21 光走査駆動信号発生回路
22 周波数調整信号発生回路
23 周波数調整用形状記憶合金薄板
24 周波数調整用低熱膨張材料膜
25 バイメタル構造
26 固定部
27 永久磁石または電磁石
30 基板本体
32 基板固定フレーム
33 基板接続用梁
34 基板の縁部分
35 基板振動の振幅最小位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、基板に連結された捻れ梁部と、捻れ梁部により支持されるミラー部と、基板を振動させる駆動源と、ミラー部に光を投射する光源とを備え、ミラー部は駆動源によって基板に加えられる振動に応じて共振振動し、光源からミラー部に投射される光の反射光の方向がミラー部の振動に応じて変化する光走査装置において、捻れ梁部を支持する片持ち梁部の幅を基板の幅の1/6以下にすることを特徴とする光走査装置。
【請求項2】
基板と、基板に連結された捻れ梁部と、捻れ梁部により支持されるミラー部と、基板を振動させる駆動源と、ミラー部に光を投射する光源とを備え、ミラー部は駆動源によって基板に加えられる振動に応じて共振振動し、光源からミラー部に投射される光の反射光の方向がミラー部の振動に応じて変化する光走査装置において、捻れ梁部を支持する片持ち梁部の捻れ梁部との接続部から開放端部までの長さが、片持ち梁部の捻れ梁部との接続部から片持ち梁部の基端までの長さより短いことを特徴とする光走査装置。
【請求項3】
基板と、基板に連結された捻れ梁部と、捻れ梁部により支持されるミラー部と、基板を振動させる駆動源と、ミラー部に光を投射する光源とを備え、ミラー部は駆動源によって基板に加えられる振動に応じて共振振動し、光源からミラー部に投射される光の反射光の方向がミラー部の振動に応じて変化する光走査装置において、捻れ梁部の断面の厚みtと幅wの比(w/t)が1.5以下であることを特徴とする光走査装置。

【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図27】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2013−101388(P2013−101388A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−19970(P2013−19970)
【出願日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【分割の表示】特願2008−537489(P2008−537489)の分割
【原出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】