説明

光超音波断層画像化装置および光超音波断層画像化方法

【課題】光超音波断層画像化装置において、装置を小型化かつ低コスト化する。
【解決手段】測定光Lを射出する光発生手段121と、測定光Lを被検部150に照射する光照射手段122と、測定光Lの照射によって被検部150内に生じる超音波Uを検出する超音波検出手段132と、超音波検出手段132により検出された超音波Uの受信信号に基づいて、被検部150の断層画像を取得する断層画像取得手段130とを備える光超音波断層画像化装置において、アナログ信号の検出されたままの情報を保持するデジタル信号に変換するA/D変換手段と、デジタル信号のデータをRAWデータとして記憶する第1の記憶手段とを備え、断層画像取得手段が、RAWデータに基づいて被検部の断層画像を取得するものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検部に照射された光のエネルギーに基づいて発生する音響波(超音波)信号を収集して、被検部の生体情報を画像化する光超音波断層画像化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、生体計測の分野において様々な光計測装置が利用されている。これらの光計測装置では、例えば、体外から測定光(近赤外光など)が生体へ照射され、この測定光と生体組織との相互作用を経て出射される光や音波の信号が検出される。そして、上記生体組織情報を含む検出信号に基づいて、断層画像化処理、代謝情報の収集(例えばヘモグロビンの定量)などが行われる。例えばその1つとして、特許文献1から3に示すように、光音響分光分析法がある。光音響分光分析法は、所定の波長をもつ可視光、近赤外光、または中赤外光を測定光(パルス光)として被検部に照射した際に、被検部内の血液中に含まれるグルコースやヘモグロビンなどの特定物質がこのパルス光のエネルギー(1パルス当たりのエネルギー。以下同じ。)の一部を吸収することを利用するものである。具体的には、このパルス光のエネルギーの一部を上記特定物質が吸収した結果、被検部内の生体組織が熱膨張することによって生じる音響波(超音波)を検出して、その特定物質の濃度や生体組織の形状等を計測するものである。
【0003】
しかしながら、上記に示すような従来の光超音波断層画像化装置では、2次元の断層画像を1つ得るために要する画像構築速度が遅いという問題がある。具体的には、現在学会等で報告されている中で比較的画像構築速度が速い装置においても、この画像構築速度はパルス光を照射してから1画像を表示するのに約1秒程度(つまり、1frame/s)である。しかし、この画像構築速度では、被検者の動き、呼吸や心拍等に伴う対象臓器の動きによる影響などのため、臨床応用するには十分な性能が得られない。したがって、臨床向けに光超音波断層画像化装置を実用化するためには、画像構築速度の更なる高速化が必要である。
【0004】
この問題のシンプルな解決方法としては、例えばパルス光について照射の単位時間あたりの繰返し数を増やすことが挙げられる。これにより、単位時間当たりに検出できる超音波の数が増えて、その分だけ画像構築速度を上げることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−296612
【特許文献2】特表平11−514549
【特許文献3】特開2005−21380
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の方法では測定光のパワー(時間平均の測定光の強度。以下同じ。)が増加するという問題がある。従来の光超音波断層画像化装置では、大きい散乱性を持つ生体組織の画像化のために、高エネルギー密度(mJ/cm程度)かつ高出力のナノ秒レーザパルス光を用いている。このため、従来の画像構築速度を向上させるために、パルス光の照射の単位時間あたりの繰返し数を単純に増やしただけでは、大幅に測定光のパワーを増加させてしまう。これは、装置の大型化やコストアップにつながり、場合によっては生体組織に損傷を与えてしまう。したがって、パルス光について単に繰返し数を増やすという方法では、臨床応用可能で実用的な大きさや低コストを実現することは困難である。
【0007】
また、特許文献3に記されているようなレーザダイオード(LD)、発光ダイオード(LED)およびHe−Neレーザ等では高いパワーを得ることが難しく、光パラメトリック発振器(OPO)では高パワーは得られるものの高価かつ出力が不安定である等の問題がある。
【0008】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、臨床応用に適した性能を有し、かつ小型化および低コスト化を実現可能とする光超音波断層画像化装置および光超音波断層画像化方法の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る光超音波断層画像化装置は、
測定光を射出するレーザパルス光源を含む光発生手段と、測定光を被検部に照射する光照射手段と、測定光の照射によって被検部内に生じる超音波を検出する超音波検出手段と、この超音波検出手段により検出された超音波の受信信号に基づいて、被検部の断層画像を取得する断層画像取得手段とを備える光超音波断層画像化装置において、
超音波検出手段によって検出された超音波のアナログ信号を、このアナログ信号の検出されたままの情報を保持するデジタル信号に変換するA/D変換手段と、
上記デジタル信号のデータをRAWデータとして記憶する第1の記憶手段とを備え、
断層画像取得手段が、RAWデータに基づいて被検部の断層画像を取得するものであることを特徴とするものである。
【0010】
ここで、「アナログ信号の検出されたままの情報」とは、超音波検出手段または超音波振動子が検出した超音波の情報、すなわち超音波の振幅、波長、到達時間等を意味するものとする。
【0011】
「検出されたままの情報を保持するデジタル信号」とは、超音波検出手段または超音波振動子が検出した超音波の情報がその後の処理に十分な精度で保持されたデジタル信号を意味するものとする。すなわち、検出した超音波の本質的な情報を変更しない程度の信号処理であれば、A/D変換前に行っても構わない。
【0012】
「RAWデータ」とは、検出されたままの情報を保持するデジタル信号のデータを意味するものとする。
【0013】
さらに、本発明に係る光超音波断層画像化装置において、断層画像取得手段は、被検部の断層画像を取得する工程の中で、RAWデータについての位相整合演算処理を行うものであることが好ましく、DSP(Digital Signal Processor)またはFPGA(Field Programmable Gate Array)を含むことが好ましい。
【0014】
また、レーザパルス光源は、半導体レーザパルス光源または固体レーザパルス光源を含むことが好ましい。
【0015】
そして、レーザパルス光源についての光源情報を予め記憶する第2の記憶手段をさらに備え、超音波検出手段は、光源情報に基づき測定光の射出に同期して、超音波を検出するものであることが好ましい。或いは、測定光の一部を参照光として分岐させる分岐手段と、参照光を検出することによってレーザパルス光源についての光源情報を取得する情報取得手段とをさらに備え、超音波検出手段は、光源情報に基づき測定光の射出に同期して、超音波を検出するものであることが好ましい。
【0016】
ここで、「レーザパルス光源についての光源情報」とは、レーザパルス光源から射出される測定光のパワー(時間平均の強度)、波形、射出されるタイミングおよびパルス光としての繰返し回数等を意味するものとする。
【0017】
また、超音波検出手段は、複数の超音波振動子からなるアレイ振動子を含むことが好ましく、アレイ振動子は、14ch以上の超音波振動子からなることが好ましい。
【0018】
さらに、本発明に係る光超音波断層画像化方法は、
レーザパルスの測定光を射出し、測定光を被検部に照射し、測定光の照射によって被検部内に生じる超音波を検出し、検出された超音波の受信信号に基づいて、被検部の断層画像を取得する光超音波断層画像化方法において、
検出された超音波のアナログ信号を、このアナログ信号の検出されたままの情報を保持するデジタル信号に変換し、
上記デジタル信号のデータをRAWデータとして記憶させ、
RAWデータに基づいて被検部の断層画像を取得することを特徴とするものである。
【0019】
そして、本発明に係る光超音波断層画像化方法において、
被検部の断層画像を取得する工程の中で、RAWデータについての位相整合演算処理を行うことが好ましい。
【0020】
また、レーザパルス光源についての光源情報を予め記憶させ、この光源情報に基づき測定光の射出に同期して、超音波を検出することが好ましい。或いは、測定光の一部を参照光として分岐させ、参照光を検出することによってレーザパルス光源についての光源情報を取得し、この光源情報に基づき測定光の射出に同期して、超音波を検出することが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る光超音波断層画像化装置は、超音波のアナログ信号の検出されたままの情報を保持するデジタル信号データ(RAWデータ)に基づいて、被検部の断層画像を取得する断層画像取得手段を備えている。したがって、少なくとも1回の測定光照射によって、例えば2次元の範囲の各点について繰り返し位相整合演算することで、被検部の断層画像を得ることができる。これにより、例えば特許文献3に示すような受信遅延回路を用いて受信信号を整相加算する方法に比べ、測定光としてのパルス光の照射回数を大幅に減少させることができ、測定光のパワーを低減することができる。また、OPO等の高価な光源を必要とせず、繰返し回数が少ない低出力の安価なナノ秒レーザパルス光源を用いて、画像構築速度を向上させることができる。この結果、光超音波断層画像化装置において、臨床応用に適した性能を有し、かつ小型化および低コスト化を実現することが可能となる。
【0022】
そして、本発明に係る光超音波断層画像化方法も、同様に超音波のアナログ信号の検出されたままの情報を保持するデジタル信号データ(RAWデータ)に基づいて、被検部の断層画像を取得している。この結果、上記と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1の実施形態によるPAI装置の一例を示す概略構成図
【図2A】変調されたパルス列の一例を示す概略図(その1)
【図2B】変調されたパルス列の一例を示す概略図(その2)
【図3A】光照射手段および超音波検出手段の組み合わせ例を示す概略図(その1)
【図3B】光照射手段および超音波検出手段の組み合わせ例を示す概略図(その2)
【図4】アレイ素子によって検出されたアナログ信号を示す概略図
【図5】フレームデータとRAWデータの関係を示す概略図
【図6】断層画像化における信号処理の工程を示すフロー図
【図7】第2の実施形態によるPAI装置の一例を示す概略構成図
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明するが、本発明はこれに限られるものではない。
【0025】
「光超音波断層画像化装置および方法」
<第1の実施形態>
本発明による光超音波断層画像化(PAI:photoacoustic imaging)装置の第1の実施形態について説明する。図1は、本実施形態のPAI装置101の全体構成を示す概略図である。
【0026】
図1に示すように、PAI装置101は、装置をコントロールする制御手段110と、制御手段110から光源変調データを受け取り、この光源変調データに基づいて光発生手段を駆動するファンクションジェネレータ(FG)120と、測定光を射出する光発生手段121と、生体(光散乱吸収媒体)の被検部150に測定光Lを照射する光照射手段である光ファイバ122と、測定光Lの照射によって被検部150内の生体組織151から生じる超音波Uを検出する超音波検出手段132と、超音波検出手段132から受け取った超音波Uのアナログ信号を、このアナログ信号の検出されたままの情報を保持するデジタル信号に変換するA/D変換手段136と、上記デジタル信号のデータをRAWデータとして記憶する記憶メモリ134と、このRAWデータに基づいて被検部150の断層画像を取得する断層画像取得手段130と、得られた断層画像を表示する画像表示装置111とを備えている。
【0027】
制御手段110は、本装置上の各構成の動作内容を制御すると共に各動作のタイミング制御を行っている。また、本実施形態においては、制御手段110は、光源情報を予め記憶しておく第2の記憶手段を有している。制御手段110は、この光源情報を断層画像取得手段130に送信し、断層画像取得手段130はこの光源情報に同期して、超音波の検出を行う。
【0028】
光源情報を用いない場合の問題点は、発光タイミングのばらつき、測定光のパワーの変動および波形の歪み等が生じることである。例えば、1回の測定光照射で1画像を得ようとする場合、上記のような影響によりそれぞれ画像の歪み、信号強度の大きなばらつきおよび分解能低下を招いてしまう。一方、多数回の測定光照射で1画像を得ようとする場合、測定光のパワーの変動の影響は平均化されるものの他の影響により、それぞれランダムな歪みによる画像のボケおよび分解能低下を招いてしまう。したがって、超音波の検出を光源情報と同期することにより、発光タイミングのバラつきを押さえ、ぼけと歪みを押さえることができ、パワーの変動も補正して再現性の高い画像を得ることができる。さらに、実際に照射された光の波形を使って、信号をデコンボリューションすることで、高い深さ方向の分解能を実現することもできる。
【0029】
光発生手段121は、例えば図示しないレーザパルス光源と光変調手段とを有し、レーザパルス光源、またはレーザパルス光源と光変調手段とからなる光源ユニットを用いて、測定光Lとして1〜100nsecのパルス幅を有するパルス光を射出するものである。上記パルス幅の範囲は、被検部150内に効率よく超音波Uを発生させる観点から決定されるものである。また、被検部150の深部まで届くという観点から、上記測定光Lの波長は700〜1000nmであることが好ましい。そして、上記測定光Lの出力は、光と超音波の伝播ロス、光−超音波変換の効率および現状の検出器の検出感度等の観点から、10uJ/cm〜数10mJ/cmであることが好ましい。さらに、パルス光照射の繰り返しは、画像構築速度の観点から、10Hz以上であることが好ましい。また、測定光は上記パルス光が複数並んだパルス列とすることもできる。この場合パルス列は、特に限定されるものではないが、例えば図2に示すような、0と1の情報を持った符号化信号や、時間に応じて繰り返し周波数が変化するチャープ信号等の変調を有するパルス列を挙げることができる。どのような変調信号を用いるかは、計測条件、用いる光源等によって適宜選択することができる。なお、レーザパルス光源および光変調手段等の詳細な光発生手段121の構成については後述する。
【0030】
光照射手段122は、光発生手段121から射出された測定光Lを被検部150まで導光するものである。効率のよい導光を行うために、光ファイバや光導波路を用いることが好ましい。
【0031】
超音波検出手段132は、単一の超音波振動子、または複数の超音波振動子が配列されたアレイ振動子である。また、超音波振動子は、例えば、圧電セラミクス、またはフッ化ポリビニルピロリドンのような高分子フィルムのような圧電素子である。また、アレイ素子においては、少なくとも14chの超音波振動子を有することが好ましい。これにより、RAWデータを取得し、位相情報をずらして加算し256ライン分の画像を構築することで、1W程度の光源で断層画像の取得が可能になる。
【0032】
このような超音波振動子によって検出する際、検出のch数を増やすように移動させる(2次元的に照射位置および検出位置を変更する)ことにより、実際に使用している振動子数以上のch数によって検出することと同様の効果を得ることができる。また、後述するRAWデータを用いて、適宜位相整合演算を行って断層画像の深さ方向のライン数を増やすことにより、上記ch数以上のラインを有する断層画像を得ることができる。
【0033】
ここで、光照射手段122および超音波検出手段132は、例えば図3に示すように、複数の超音波振動子133からなるアレイ振動子の周囲に複数の光ファイバ122を配置するような構成とすることが好ましい。これにより、測定光Lの照射を被検部に対して均一に行い、かつ被検部内に生じる超音波Uを効率よく検出することができる。図3中のLは、被検部150による散乱により所定の領域をほぼ均一に照明している測定光の範囲Lを示している。
【0034】
A/D変換手段136は、超音波検出手段132によって検出された超音波のアナログ信号をデジタル信号に変換するものである。より具体的には、A/D変換手段136は、超音波検出手段132から受け取った超音波Uのアナログ信号を、このアナログ信号の検出されたままの情報を保持するデジタル信号に変換する。
【0035】
ここで、「アナログ信号の検出されたままの情報」とは、超音波検出手段または超音波振動子が検出した超音波の情報、すなわち超音波の振幅、波長、到達時間等を意味するものとする。例えば図4には、超音波検出手段132に含まれる複数の超音波振動子(アレイ素子)によって検出されたままのアナログ信号を、それぞれの超音波振動子に対応させて示している。このようなアレイ素子を用いた場合各超音波振動子の配置によって、例えば生体組織151からの超音波Uの各超音波振動子までの到達時間が異なる。本発明では、このような超音波振動子までの到達時間の相違も、アナログ信号の検出されたままの情報に含むものとする。
【0036】
また、「検出されたままの情報を保持するデジタル信号」とは、超音波検出手段または超音波振動子が検出した超音波の情報がその後の処理に十分な精度で保持されたデジタル信号を意味するものとする。すなわち、検出した超音波の本質的な情報を変更しない程度の信号処理であれば、A/D変換前に行っても構わない。例えば超音波の本質的な情報を変更しない程度の信号処理として、アナログ信号を単にスムージングする処理等が挙げられる。一方例えば、複数の超音波振動子(アレイ素子)を含む超音波検出手段を用いて検出した信号を、これらの超音波振動子の配置に基づいてそれぞれ遅延回路で遅延させて整相加算する処理は、超音波振動子(超音波検出手段)が検出した超音波の情報を変更してしまう。したがって、A/D変換前にこのような遅延処理をアナログ信号に行うものは、本発明には含まれない。
【0037】
記憶メモリ134は、A/D変換手段136によって生成された、アナログ信号の検出されたままの情報を保持するデジタル信号のデータを、RAWデータとして記憶する第1の記憶手段である。この記憶メモリ134に記憶されたRAWデータは、適宜断層画像取得手段130等に読み出され使用される。例えば、本実施形態においては、同一の場所における複数回の測定光照射によって得られたRAWデータ140を、1フレーム141として記憶する(図5)。つまり、本実施形態において1フレーム141とは、(超音波検出手段のch数)×(超音波信号の検出回数)分のRAWデータ140から構成される。ただし、このような記憶方法に限られるものではない。また、記憶メモリ134は、光源情報を記憶する第2の記憶手段を兼ねてもよい。
【0038】
断層画像取得手段130は、超音波検出手段132による検出信号に基づき断層画像を生成し、制御手段110に断層画像を送信するものである。より具体的には、断層画像取得手段130は、記憶メモリ134に記憶された上記RAWデータに基づき被検部150の断層情報を取得し、この断層情報に基づき断層画像を生成するものである。
【0039】
また、例えば測定光Lとしてパルス列を用いた場合には、断層画像の生成は、検出信号であるRAWデータとパルス列の送信信号とを畳み込み積分することによって得られる相関値等に基づいて行われる。送信信号としては、制御手段110がFG120に伝送した光源変調データを用いてもよく、パルス列Lを光検出器等で検出した信号を用いてもよい。一般的にパルス列を用いると被検部150内に発生する超音波Uの波連が長くなるため深さ方向の分解能が低下する。しかしながら、送信信号および検出信号の相関処理を行い、検出信号の送信信号に対する時間遅延を計測することによって、S/N比を向上させ分解能の低下を抑制することができる。
【0040】
画像表示装置111は、制御手段110から送信された断層画像を表示するものである。また、制御手段110から送信される断層画像を動画として表示することもできる。
【0041】
そして、本実施形態に係るPAI装置101を用いたPAI計測は、図6に有るように以下に示すものである。まず、光照射手段122および超音波検出手段132を被検部150に設定し(ST1)、パルス光Lを測定光として被検部150に照射する。これによって被検部150内に生じる超音波Uを、光照射のトリガーを受けて超音波検出手段132によって検出する(ST2)。そして、超音波検出手段132で検出した超音波Uの検出信号に対してSTC(sensitivity time control)処理を行う(ST3)。これにより、時間(深さ)に応じて感度(ゲイン)を調整する。次に、アナログ信号の平均化を行う場合には、平均化を行う積算回数分の測定をST2から繰り返し(ST4)、積算回数分の測定を終えたらそれらのアナログ信号を加算する(AT5)。例えば、5回計測を行った場合には、各々得られる5個の計測値を加算する。このような平均化を行った場合、よりS/N比を向上させることができる。その後、A/D変換手段136によって、超音波検出手段132から受け取った、平均化された超音波Uのアナログ信号を、このアナログ信号の検出されたままの情報を保持するデジタル信号に変換する(ST6)。そして、超音波検出手段132のch数を増やすために照射位置および検出位置について2次元的な変更を行う場合には、ST1からの測定を繰り返す(ST7)。次に、上記デジタル信号のデータをRAWデータとして記憶メモリ134に記憶する(ST8)。そして、断層画像取得手段130によって、上記RAWデータについて位相整合演算を行い(ST9)、全ライン分の断層画像を取得し、デジタル化された超音波の検出信号を信号強度に、時間軸(t)を変位軸(v・t)に変換する(ST10)。最後に、座標変換および画像処理等をすることにより被検部150の断層画像を得る(ST11)。
【0042】
以下、1〜100nsecのパルス幅を有するパルス光、またはこのパルス光が複数並んだパルス列を射出する光発生手段121の構成を説明する。パルス光およびパルス列を発生させる原理として、大きく2つに別けることができる。
【0043】
1つは例えば、パルス光のエネルギーを変調することができるレーザパルス光源と、このレーザパルス光源から発生せしめられた光を所望のエネルギーまで増幅する光増幅手段からなる光発生手段である(第1の形態)。すなわち、第1の形態の光発生手段121は、パルス光の変調が可能なレーザパルス光源によって低エネルギーのパルス列を射出しておいて、その後このパルス列のエネルギーを増幅することによって所望のパルス光またはパルス列を得るものである。このとき、FG120が測定光Lの変調を行う光変調手段となる。第1の形態の光発生手段121は、パルス光の変調を容易に行うことができるため、パルス列をチャープ信号とする場合や、比較的低エネルギーで高繰返しの測定を行う場合に好適に用いることができる。
【0044】
一方、もう1つは例えば、高エネルギーのパルス光を1つ射出することができるレーザパルス光源を含む光発生手段である(第2の形態)。また、このレーザパルス光源を用いてパルス列を生成する場合にはさらに、この1つのパルスを複数に分割する分割手段と、分割したパルス光をそれぞれ異なる時間遅延させる遅延手段と、分割したパルス光をそれぞれ遮断することができる遮断手段と、上記分割し遅延させたパルス光を合波する合波手段とを組み合わせた光発生手段が挙げられる。すなわち、第2の形態の光発生手段121を用いてパルス列を生成する場合には、高エネルギーのパルス光を1つ射出し、このパルス光を複数に分割し、分割したパルス光をそれぞれ異なる時間遅延させ、遅延させる途中で不要なパルス光を遮断し、その後、分割し遅延させたパルス光を合波することによって、所望のパルス列Lを得ることができる。このとき、上記のような分割手段、遅延手段、遮断手段および合波手段の構成(遅延インターリーブ光回路)が、測定光Lの変調を行う光変調手段となる。第2の形態の光発生手段121は、分割したパルス光のうち適宜選択したパルス光を遮断することができるため、パルス光を符号化信号とする場合に好適に用いることができる。
【0045】
レーザパルス光源を用いてパルス列を生成する場合には、ファイバカプラや長さの異なる光ファイバを用いて、1つのパルス光を分割し、分割したパルス光をそれぞれ異なる時間遅延させて、それらを再び結合させる等することによりパルス列を得ることができる。
【0046】
以上により、本発明に係る光超音波断層画像化装置は、超音波のアナログ信号の検出されたままの情報を保持するデジタル信号データ(RAWデータ)に基づいて、被検部の断層画像を取得する断層画像取得手段を備えている。したがって、少なくとも1回の測定光照射によって、例えば2次元の範囲の各点について繰り返し位相整合演算することで、被検部の断層画像を得ることができる。これにより、例えば特許文献3に示すような受信遅延回路を用いて受信信号を整相加算する方法に比べ、測定光としてのパルス光の照射回数を大幅に減少させることができ、測定光のパワーを低減することができる。また、OPO等の高価な光源を必要とせず、繰返し回数が少ない低出力のナノ秒レーザパルス光を発する安価な光源を用いて、画像構築速度を向上させることができる。この結果、光超音波断層画像化装置において、臨床応用に適した性能を有し、かつ小型化および低コスト化を実現することが可能となる。
【0047】
そして、本発明に係る光超音波断層画像化方法も、同様に超音波のアナログ信号の検出されたままの情報を保持するデジタル信号データ(RAWデータ)に基づいて、被検部の断層画像を取得している。この結果、上記と同様の効果を得ることができる。
【0048】
<第2の実施形態>
本発明によるPAI装置の第2の実施形態について説明する。図7は、本実施形態のPAI装置102の全体構成を示す概略図である。本実施形態に係るPAI装置102は、測定光Lの一部を参照光として分岐させる分岐手段と、参照光を検出することによってレーザパルス光源についての光源情報を取得する情報取得手段とをさらに備える点で、第1の実施形態と異なる。したがって、その他の同様の構成要素についての詳細な説明は、必要のない限り省略する。
【0049】
図7に示すように、PAI装置102は、装置をコントロールする制御手段110と、制御手段110から光源変調データを受け取り、この光源変調データに基づいて光発生手段を駆動するファンクションジェネレータ(FG)120と、測定光を射出する光発生手段121と、生体(光散乱吸収媒体)の被検部150に測定光Lを照射する光照射手段である光ファイバ122と、この光ファイバ122から測定光の一部を参照光として分岐させるためのファイバカプラ123および光ファイバ124と、この光ファイバ124を導波する参照光を検出し、その検出した情報を制御手段110に送信する光検出器126と、測定光Lの照射によって被検部150内の生体組織151から生じる超音波Uを検出する超音波検出手段132と、超音波検出手段132から受け取った超音波Uのアナログ信号を、このアナログ信号の検出されたままの情報を保持するデジタル信号に変換するA/D変換手段136と、上記デジタル信号のデータをRAWデータとして記憶する記憶メモリ134と、このRAWデータに基づいて被検部150の断層画像を取得する断層画像取得手段130と、得られた断層画像を表示する画像表示装置111とを備えている。
【0050】
光検出器126は、測定光から分岐してきた参照光を検出し、その検出した情報を制御手段110に送信するものである。光検出器126としては、PIN-PD(PIN-フォトダイオード)、APD(アバランシェフォトダイオード)、フォトマルチプライア等の検出器を適宜用いることができる。また、光検出器126は、検出条件に応じて光学フィルタや分光器等の分光手段と組み合わせて用いることができる。
【0051】
本実施形態では、制御手段110が、光検出器126から光源情報を受け取って断層画像取得手段130に送り、そして断層画像取得手段130が、この光源情報に同期して超音波の検出を行っている。その他の構成要素の機能や信号処理の方法等は、第1の実施形態と同様である。
【0052】
以上により、本実施形態に係る光超音波断層画像化装置も、超音波のアナログ信号の検出されたままの情報を保持するデジタル信号データ(RAWデータ)に基づいて、被検部の断層画像を取得する断層画像取得手段を備えている。この結果、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0053】
また、本実施形態においては、光源情報をリアルタイムで取得している。したがって、光源情報の信頼性が高く、より正確な断層画像を取得することが可能となる。
【実施例】
【0054】
以下の表1はシミュレーションに基づく本発明の効果を示すものである。このシミュレーションは、30frame/sの画像構築速度を想定した場合に、必要な光源のパワーを計算したものである。実施例は本発明に係るPAI計測である。一方、比較例は、検出した信号を複数の超音波振動子の配置に基づいてそれぞれ遅延回路で遅延させて整相加算する処理を施して、1ライン分の断層画像を取得し、計測位置を変えてこれらを複数回行って最終的に1枚の断層画像を取得する方法である。それぞれの実施例および比較例についての詳細は以下の通りである。
【表1】

【0055】
<実施例1>
実施例1についての条件は、観察深度:5mm、分解能:25um、アレイ素子の超音波振動子数:64個、被検部のパルス照射範囲:1cm(1cm×1cm)、パルス光のエネルギー(パルス1つ当たりのエネルギー):0.52mJ、パルス光の繰返し周波数:60Hzである。上記のような条件の実施例1では、必要な光源の平均パワーは0.016Wであった。
【0056】
<比較例1>
比較例1についての条件は、観察深度:5mm、分解能:25um、アレイ素子の超音波振動子数:64個、被検部のパルス照射範囲:1cm(1cm×1cm)、パルス光のエネルギー(パルス1つ当たりのエネルギー):0.52mJ、パルス光の繰返し周波数:15400Hzである。上記のような条件の比較例1では、必要な光源の平均パワーは4.1Wであった。
【0057】
<実施例2>
実施例2についての条件は、観察深度:30mm、分解能:150um、アレイ素子の超音波振動子数:128個、被検部のパルス照射範囲:10cm(2cm×5cm)、パルス光のエネルギー(パルス1つ当たりのエネルギー):17.37mJ、パルス光の繰返し周波数:60Hzである。上記のような条件の実施例2では、必要な光源の平均パワーは0.521Wであった。
【0058】
<比較例2>
比較例2についての条件は、観察深度:30mm、分解能:150um、アレイ素子の超音波振動子数:128個、被検部のパルス照射範囲:10cm(2cm×5cm)、パルス光のエネルギー(パルス1つ当たりのエネルギー):17.37mJ、パルス光の繰返し周波数:15400Hzである。上記のような条件の比較例2では、必要な光源の平均パワーは132.2Wであった。
【0059】
以上より、本発明による光超音波断層画像化装置および方法によって、臨床応用に適した性能を有し、かつ小型化および低コスト化を実現することが可能となるとこが立証された。
【符号の説明】
【0060】
101 PAI装置
110 制御手段
111 画像表示装置
120 ファンクションジェネレータ
121 光発生手段
122 光照射手段(光ファイバ)
123 ファイバカプラ
124 光ファイバ
126 光検出器
130 断層画像取得手段
131 相関処理手段
132 超音波検出手段
133 超音波振動子
134 記憶メモリ
136 変換手段
140 RAWデータ
141 フレームデータ
150 被検部
151 生体組織
L 測定光(パルス列)
Lo 入力パルス光
U 超音波

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定光を射出するレーザパルス光源を含む光発生手段と、前記測定光を被検部に照射する光照射手段と、前記測定光の照射によって前記被検部内に生じる超音波を検出する超音波検出手段と、該超音波検出手段により検出された前記超音波の受信信号に基づいて、前記被検部の断層画像を取得する断層画像取得手段とを備える光超音波断層画像化装置において、
前記超音波検出手段によって検出された前記超音波のアナログ信号を、該アナログ信号の検出されたままの情報を保持するデジタル信号に変換するA/D変換手段と、
前記デジタル信号のデータをRAWデータとして記憶する第1の記憶手段とを備え、
前記断層画像取得手段が、前記RAWデータに基づいて前記被検部の断層画像を取得するものであることを特徴とする光超音波断層画像化装置。
【請求項2】
前記断層画像取得手段が、前記被検部の断層画像を取得する工程の中で、前記RAWデータについての位相整合演算処理を行うものであることを特徴とする請求項1に記載の光超音波断層画像化装置。
【請求項3】
前記断層画像取得手段が、DSP(Digital Signal Processor)またはFPGA(Field Programmable Gate Array)を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の光超音波断層画像化装置。
【請求項4】
前記レーザパルス光源が、半導体レーザパルス光源または固体レーザパルス光源を含むことを特徴とする請求項1から3いずれかに記載の光超音波断層画像化装置。
【請求項5】
前記レーザパルス光源についての光源情報を予め記憶する第2の記憶手段をさらに備え、
前記超音波検出手段が、前記光源情報に基づき前記測定光の射出に同期して、前記超音波を検出するものであることを特徴とする請求項1から4いずれかに記載の光超音波断層画像化装置。
【請求項6】
前記測定光の一部を参照光として分岐させる分岐手段と、
前記参照光を検出することによって前記レーザパルス光源についての光源情報を取得する情報取得手段とをさらに備え、
前記超音波検出手段が、前記光源情報に基づき前記測定光の射出に同期して、前記超音波を検出するものであることを特徴とする請求項1から4いずれかに記載の光超音波断層画像化装置。
【請求項7】
前記超音波検出手段が、複数の超音波振動子からなるアレイ振動子を含むことを特徴とする請求項1から6いずれかに記載の光超音波断層画像化装置。
【請求項8】
前記アレイ振動子が、14ch以上の超音波振動子からなることを特徴とする請求項7に記載の光超音波断層画像化装置。
【請求項9】
レーザパルスの測定光を射出し、前記測定光を被検部に照射し、前記測定光の照射によって前記被検部内に生じる超音波を検出し、検出された前記超音波の受信信号に基づいて、前記被検部の断層画像を取得する光超音波断層画像化方法において、
検出された前記超音波のアナログ信号を、該アナログ信号の検出されたままの情報を保持するデジタル信号に変換し、
前記デジタル信号のデータをRAWデータとして記憶させ、
前記RAWデータに基づいて前記被検部の断層画像を取得することを特徴とする光超音波断層画像化方法。
【請求項10】
前記被検部の断層画像を取得する工程の中で、前記RAWデータについての位相整合演算処理を行うことを特徴とする請求項9に記載の光超音波断層画像化方法。
【請求項11】
前記レーザパルス光源についての光源情報を予め記憶させ、
該光源情報に基づき前記測定光の射出に同期して、前記超音波を検出することを特徴とする請求項9または10に記載の光超音波断層画像化方法。
【請求項12】
前記測定光の一部を参照光として分岐させ、
該参照光を検出することによって前記レーザパルス光源についての光源情報を取得し、
該光源情報に基づき前記測定光の射出に同期して、前記超音波を検出することを特徴とする請求項9または10に記載の光超音波断層画像化方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−167167(P2010−167167A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−13783(P2009−13783)
【出願日】平成21年1月26日(2009.1.26)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】