説明

光路長調整装置及び光路長調整方法

【課題】 二重化光線路の光路長調整を低損失でかつ高速に行う。
【解決手段】 偏波保持光ファイバを用いた二重化光線路の分岐点に偏波分離カプラ11を配置し、また二重化光線路の合波点に偏波合成カプラ12を配置する。さらに、二重化光線路のそれぞれに光線路長を一定長のステップで変化させる光ファイバ切替装置13,14を配置し、かつ上記一定長の半分の長さを有する光ファイバ15を二重化光線路の一方のみに配置する構成とする。各光線路には分岐カプラ16,17及び光パワーモニタ用の受光素子191,192を配置し、この構成で上記一定長のステップを組み合わせて切り替えることにより光路長調整を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバにより構成される光線路の光路長を、通信信号を途絶させることなく一定長間隔で変化させることの可能な光路長調整装置及び光路長調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光ファイバ回線の支障移転工事等において、通信サービスを途絶させることなく、現用回線から移転先回線に移転させることを可能とするサービス無瞬断切替技術が開発されている(例えば、非特許文献1参照)。
本技術は、迂回回線を用意して現用回線との一時的な二重化を行った後、通信光を迂回回線のみで伝送することにより、現用回線の工事を可能とするものである。通信サービスを維持しながら回線を二重化するには、現用回線と迂回回線の光路長差を規定の誤差範囲内に収める必要がある。このため、迂回回線に光路長を調整するための手段が不可欠となる。
【0003】
従来の光路長調整装置として、光ファイバを伝搬する光信号を一対のコリメータにより空間伝搬させる光空間光学系を構成し、コリメータ間の距離を連続的に変化させて光路長を調整する手法が提案されている。その際、空間光学系による延伸距離は、現用及び迂回回線の光路差長を直接カバーするのには必ずしも十分ではないことから、空間光学系による一定の延伸距離を逐次累積していく手法が採用されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
上記の手法は、迂回回線中に二重化光線路を設け、片側に配置した空間光学系により一定長光路長を延伸した後、この一定長に相当する光ファイバをもう片側の光線路に割り入れて、2つの光線路長を等しくした上で光信号を移し変えていく、という動作を繰り返し行うことにより、迂回回線の光路長を逐次延長していくものである。
【0005】
しかしながら、この二重化光線路は波長無依存光カプラにより結合されているため、例えば50:50の分岐比で結合されている場合にはこの2つのカプラだけで6dB以上の損失を発生させることになる。また、安定的に光信号を二重化するため2つの光線路間で6dB以上のレベル差を与える場合には、光パワーが弱い側の線路ではさらに損失が増大する問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】東他:光アクセス媒体切り替え方式の基礎検討−サービス無瞬断光媒体切り替えシステム−,信学技法OFT2008-52, pp.27-31, 2008
【非特許文献2】L. Yan, et al., Programmable Group-Delay Module Using Binary Polarization Switching, Journal of Lightwave Thechnology, vol. 21, no. 7, pp. 1676-1684, 2003.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上述べたように、従来の光路長調整装置では、迂回回線中に二重化光線路を設けるようにしているが、その二重化光線路が波長無依存光カプラにより結合されているため、例えば50:50の分岐比で結合されている場合には、この2つのカプラだけで6dB以上の損失を発生させることになる。また、安定的に光信号を二重化するため2つの光線路間で6dB以上のレベル差を与える場合には、光パワーが弱い側の線路ではさらに損失が増大するという問題があった。
【0008】
本発明は、上記の事情に着目してなされたもので、その目的とするところは、低損失で光ファイバによる回線の光路長を変化させることのできる光路長調整装置及び光路長調整方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る光路長調整装置は、以下のような態様の構成とする。
(1)一対の偏波分離カプラと偏波合成カプラにより二重化形成される偏波保持光ファイバによる第1及び第2の光線路それぞれの光路長を調整する光路長調整装置であって、前記第1及び第2の光線路それぞれに設けられ、各光線路の光線路長を一定長ステップで任意に変化させる第1及び第2の光線路長切替手段と、前記第1及び第2の光線路のいずれか一方に配置され、前記一定長の半分の長さを有する光ファイバと、前記第1及び第2の光線路それぞれに導通する光パワーをモニタする光パワーモニタ手段と、前記偏波分離カプラの入力ポート側に設けられ、前記光パワーをモニタ手段からのモニタ結果に基づいて外部からの選択指示信号に従って入力光の偏波を制御することで、前記第1及び第2の光線路のいずれか一方の入力光の光パワーレベルをゼロにする偏波制御手段とを具備し、前記第1及び第2の光線路の光パワーレベルを交互にゼロにするように前記偏波制御手段に指示することを特徴とする態様とする。
【0010】
(2)(1)において、前記光パワーモニタ手段は、前記第1及び第2の光線路に配置され、配置された光線路の入力光の一部を分岐する第1及び第2の分岐カプラと、前記第1及び第2の分岐カプラの分岐光を受光して光パワーレベル信号を得る第1及び第2の受光素子とを備えることを特徴とする態様とする。
【0011】
(3)(1)において、前記光パワーモニタ手段は、前記第1及び第2の光線路のいずれか一方に配置され、配置された光線路の入力光の一部を分岐する分岐カプラと、前記分岐カプラの分岐光を受光して光パワーレベル信号を得る受光素子と、前記受光素子で得られる光パワーレベル信号を反転出力する反転手段とを備え、前記光パワーレベル信号とその反転信号をモニタ結果として出力することを特徴とする態様とする。
【0012】
また、本発明に係る光路長調整方法は、以下のような態様の構成とする。
(4)一対の偏波分離カプラと偏波合成カプラにより二重化形成される偏波保持光ファイバによる第1及び第2の光線路それぞれに、各光線路の光線路長を一定長ステップで任意に変化させる光線路長切替器を配置し、前記第1及び第2の光線路のいずれか一方に前記一定長の半分の長さを有する光ファイバを配置し、前記第1及び第2の光線路それぞれに導通する光パワーをモニタし、前記偏波分離カプラの入力ポート側にて、前記光パワーをモニタ手段からのモニタ結果に基づいて外部からの選択指示信号に従って入力光の偏波を制御することで、前記第1及び第2の光線路の入力光の光パワーレベルをゼロにしてその間に当該光線路を前記一定長ステップだけ延伸することを特徴とする態様とする。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によれば、低損失で光ファイバによる回線の光路長を変化させることのできる光線路調整装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態に係る光路長調整装置を適用した二重化光線路を示す構成図である。
【図2】図1に示す光路長調整装置で調整される光路長の延伸状態を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
添付の図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。以下に説明する実施の形態は本発明の構成の例であり、本発明は、以下の実施の形態に制限されるものではない。
図1は本実施形態の光路長調整装置が適用される二重化光線路の構成を示している。一対の偏波分離カプラ11と偏波合成カプラ12により偏波保持光ファイバによる二重化光線路(AルートとBルート)が構成されており、光ファイバ切替装置として、長さの異なる2種類の光ファイバを選択可能な偏波保持光スイッチの多段接続系13,14が二重化光線路の各ルートに配置されている。光スイッチにより選択される2種類のファイバはそれぞれ2のべき乗に比例した長さの差分を有しており、短い方の長さは全ての光スイッチで共通である。したがって、光スイッチの段数をNとすると、これらのON/OFFの組み合わせにより単位長さL毎にL×2N-1の光路長延長が可能になっている。
【0016】
Bルートにはさらに単位長さLの1/2の固定長ファイバ15が接続されている。このため、光スイッチのON/OFF動作により、Aルートから互い違いに単位長さLずつ光路長を増大させていくことで、両ルートの光路長差を常にL/2(または−L/2)とすることができる。また、二重化光線路の両側に分岐カプラ16,17が配置される。
【0017】
偏波分離カプラ12の前には外部信号フィードバック偏波コントローラ18が設けられる。この偏波コントローラ18は、任意の偏波状態にある入力光をAルートまたはBルートのみに結合させることができる。偏波制御が行われなければ、偏波分離カプラ12により分離される割合に応じた光パワーがそれぞれの分岐カプラ16,17を通して観測される。外部信号フィードバック偏波コントローラ18は入力される外部信号のレベルが最大化(または最小化)するように入力光の偏波状態をピークサーチアルゴリズムにより制御する。
【0018】
一方、入力信号切替回路19では、受光素子191,192により分岐カプラ16,17それぞれの分岐出力光の光パワーをモニタし、外部から与えられるトリガパルスT1,T2によりスイッチ素子193,194のいずれかを選択的にON/OFF駆動することで、偏波コントローラ18の偏波を切り替え、これによって選択した系統の光線路の導通パワーをゼロにすることで、入力光の経路を制御するようになされている。
【0019】
したがって、上記入力信号切替回路19にトリガパルスT1のみを入力すれば、Aルートの導通光パワーレベルが外部信号として偏波コントローラ18に入力され、このレベルが最大化されるよう偏波制御が行われ、結果的にAルートのみに光パワーが導通することになる。同様にT2のみを入力すれば、Bルートの導通光パワーレベルが伝達されることになるため、Bルートのみに光パワーが導通する。したがって、何れか一方の経路に光パワーが導通している間に反対側経路の光スイッチを切替えれば通信には影響を及ぼすことなくその経路の単位長延伸が可能になる。
【0020】
図2の階段状のグラフはAルート及びBルートそれぞれの延伸状態を表しており、その濃淡は導通する光パワーを示している。初期状態では各ルートの光スイッチは光路長が最短となるように設定されており、従って単位長(以下、“L”)の1/2のオフセットが生じている。
【0021】
ここで、入力信号切替回路19にトリガパルスT2が入力されると、偏波コントローラ18が入力光に対する偏波制御を行うことにより、時間TでBルートの導通パワーが最大になり、そしてAルートの導通パワーがゼロになる。ここで、Aルートの光スイッチを切り替えて、Aルートの光路長をLだけ延伸する。
【0022】
次に、入力信号切替回路19にトリガパルスT1が入力されると、時間2TでBルートの導通パワーがゼロになり、そしてBルートの光スイッチを切替えることが可能になる。このような動作を繰り返すことによりA、B両ルートの光路長を逐次延長していくことができる。
【0023】
但し、通信の二重化状態における両線路の光路差はL/2である。図1におけるこの光路差は、入力光から出力光までのパスにおけるDGD(Differential Group Delay)として現れるが、この値が伝送パルス幅の5%程度であればパワーペナルティはほとんどゼロで、伝送性能に影響を与えないことが非特許文献2に報告されている。
【0024】
本実施形態では、入力光に対して偏波制御を行っているだけなので、偏波分離/合波カプラ11,12の代わりに非特許文献1の光路長調整装置にあるようなパワー分岐カプラを用いる場合に避けられないロスが原理的には発生しない。
また、A、B両ルートのパワーモニタ用の分岐カプラ16,17は、例えば10:90のような分岐比を用いて各線路に大きな損失がでないようにすればよい。また、非特許文献1の光路長調整装置に用いられていた空間光学系の光路長をメカニカルに変化させる方法に比較して、本発明では光スイッチや偏波コントローラなど全てが電子制御により駆動されるため、高速な光路長延伸が可能になっている。
【0025】
尚、本実施形態ではA、B両ルートにパワーモニタ用の分岐カプラ16,17を挿入しているが、これをAルートのみに配置してこのパワー検出信号を反転させるような回路を構成して偏波コントローラ18に入力してもよい。
以上説明したように、本実施形態の構成によれば、偏波制御によるA,Bルート二重化光線路のルーティングを行うことにより、二つの光線路の光路長を所定の単位長ステップで交互に延長しながら全体としての光路長を延伸していくことが可能となる。その際、光スイッチ群13,14や偏波コントローラ18を電子制御により駆動することができるので、空間光学系の光路長をメカニカルに延長する従来方式に比べて高速かつコンパクトなシステム構成が可能になる。
【0026】
また、偏波コントローラ18により連続的にパワーの分岐比を制御するため、単純な光スイッチのON/OFFによるルート切替で発生するような急激なレベルの変動も伴わない。さらに、入力光の偏波状態を変化させているだけなので、従来法における光パワー分岐カプラによる二重化光線路の場合に発生するような損失は発生しない。これにより、例えば支障移転などの現用線路への工事が必要な場合、回線を一時的に二重化するのに必要な迂回路に現用線路との光路長差を調整する低損失な高速光路調整機構を提供することができる。
【0027】
尚、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成を削除してもよい。さらに、異なる実施形態例に亘る構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0028】
11…偏波分離カプラ、12…偏波合成カプラ、13,14…偏波保持光スイッチの多段接続系、15…固定長ファイバ、16,17…分岐カプラ、18…外部信号フィードバック偏波コントローラ、19…入力信号切替回路、191,192…受光素子、193,194…スイッチ素子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の偏波分離カプラと偏波合成カプラにより二重化形成される偏波保持光ファイバによる第1及び第2の光線路それぞれの光路長を調整する光路長調整装置であって、
前記第1及び第2の光線路それぞれに設けられ、各光線路の光線路長を一定長ステップで任意に変化させる第1及び第2の光線路長切替手段と、
前記第1及び第2の光線路のいずれか一方に配置され、前記一定長の半分の長さを有する光ファイバと、
前記第1及び第2の光線路それぞれに導通する光パワーをモニタする光パワーモニタ手段と、
前記偏波分離カプラの入力ポート側に設けられ、前記光パワーをモニタ手段からのモニタ結果に基づいて外部からの選択指示信号に従って入力光の偏波を制御することで、前記第1及び第2の光線路のいずれか一方の入力光の光パワーレベルをゼロにする偏波制御手段と
を具備し、
前記第1及び第2の光線路の光パワーレベルを交互にゼロにするように前記偏波制御手段に指示することを特徴とする光路長調整装置。
【請求項2】
前記光パワーモニタ手段は、前記第1及び第2の光線路に配置され、配置された光線路の入力光の一部を分岐する第1及び第2の分岐カプラと、前記第1及び第2の分岐カプラの分岐光を受光して光パワーレベル信号を得る第1及び第2の受光素子とを備えることを特徴とする請求項1記載の光路長調整装置。
【請求項3】
前記光パワーモニタ手段は、前記第1及び第2の光線路のいずれか一方に配置され、配置された光線路の入力光の一部を分岐する分岐カプラと、前記分岐カプラの分岐光を受光して光パワーレベル信号を得る受光素子と、前記受光素子で得られる光パワーレベル信号を反転出力する反転手段とを備え、前記光パワーレベル信号とその反転信号をモニタ結果として出力することを特徴とする請求項1記載の光路長調整装置。
【請求項4】
一対の偏波分離カプラと偏波合成カプラにより二重化形成される偏波保持光ファイバによる第1及び第2の光線路それぞれに、各光線路の光線路長を一定長ステップで任意に変化させる光線路長切替器を配置し、前記第1及び第2の光線路のいずれか一方に前記一定長の半分の長さを有する光ファイバを配置し、
前記第1及び第2の光線路それぞれに導通する光パワーをモニタし、
前記偏波分離カプラの入力ポート側にて、前記光パワーをモニタ手段からのモニタ結果に基づいて外部からの選択指示信号に従って入力光の偏波を制御することで、前記第1及び第2の光線路の入力光の光パワーレベルをゼロにしてその間に当該光線路を前記一定長ステップだけ延伸することを特徴とする光路長調整方法。

【図1】
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【図2】
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