説明

光通信システムおよび光通信装置

【課題】波長分割多重方式を用いて、放送サービスも提供可能な低価格で簡単な構成の光アクセスシステムを実現する。
【解決手段】相互注入同期によって多モード発振するファブリペロ型半導体レーザLa,Lbを用いて、多波長の種光を発生する光源部10を構成する。さらに、多波長の種光に同期する複数のファブリペロ型半導体レーザL1〜Lnを用いることによって、低価格の構成で、下りデータ信号DS1〜DSで変調された下り光信号S4.1〜S4.nを生成することができる。また、放送信号BSでファブリペロ型半導体レーザLa,Lbの注入電流を直接変調することによって、容易に放送信号BSを各ユーザ装置2.1〜2.nに送信することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光通信システムおよび光通信装置に関し、特に波長分割多重された光信号を用いて、センタ局と複数の加入者宅とを結ぶアクセス系の光通信システムおよび光通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
情報技術の発展に伴って、光ファイバを介して加入者宅をインターネット網に接続するFTTH(Fiber To The Home)サービスが急速に普及してきている。FTTHサービスのようなアクセス系の光通信システムでは、多数の加入者宅とセンタ局とを結ぶ通信システムを構築する必要があり、コストの低減が重要な課題となっている。
【0003】
光アクセスシステムを比較的安価に実現する方法として、PON(Passive Optical Network)システムが知られている。PONシステムでは、センタ局に設けられたセンタ装置(たとえば、OLT:Optical Line Terminal)と、複数の加入者宅に設けられたユーザ装置(たとえば、ONU:Optical Network Unit)とが1対多で接続されるダブルスター網が用いられる。
【0004】
センタ装置から複数のユーザ装置へ送信される下り信号は、光パワースプリッタによって分岐されて全てのユーザ装置に送られる。各ユーザ装置は、下り信号のパケットごとのヘッダに書き込まれた識別子を基に、自分宛ての下り信号を受信する。一方、複数のユーザ装置からセンタ装置へ上り信号を送信するには、送信時間がユーザ装置ごとに割り当てられた時分割多重方式が用いられる。各ユーザ装置で上り信号を送出するタイミングは、電子回路によって制御される。
【0005】
さらに、光ファイバを用いて多チャンネルの放送信号を配信するシステムの開発も進められている。たとえば、特開2006−81014号公報(特許文献1)に開示される光通信システムでは、複数のセンタ装置が、光分波/合波器を介して複数の光パワースプリッタに接続される。各光パワースプリッタは、複数のユーザ装置と接続され、センタ装置との間で通信サービスおよび放送サービスが実現される。ここで、上りおよび下り光信号は、各光パワースプリッタブランチにおいて、センタ装置ごとに異なる波長となるように光分波/合波器によって設定される。各光パワースプリッタブランチの上りおよび下り信号光はさらに、ユーザ装置ごとに時分割多重される。
【0006】
この光通信システムで、センタ装置が対応する各ユーザ装置に同一の情報を伝送する場合(放送サービスなど)には、複数の波長成分を含む光源を同一の情報を有する電気信号で変調し、各波長成分が同一の情報を有する多波長信号光を送出することができる。複数の波長成分を含む光源は、多波長一括発生光源であってもよいし、広帯域光源であってもよい。
【特許文献1】特開2006−81014号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
PONシステムでは、伝送レートの増加によって大容量伝送を実現する。しかし、伝送レートが増加するほど、上り信号の送信用に各ユーザ装置に割り当てられる送信時間が短くなる。また、下り信号の受信時に各ユーザ装置が行なう識別子の読取り処理を高速に行なう必要がある。このため、PONシステムでは制御用電子回路の処理速度に対する要求が厳しい。
【0008】
一方、波長分割多重方式は、波長軸上に多重化して大容量伝送を実現するので、波長ごとの信号伝送速度は比較的柔軟に設定することができる。しかし、波長分割多重方式をアクセス系の双方向通信に単純に適用すると、センタ装置およびユーザ装置のいずれにも発振波長の制御された光源が必要になる。DFB(Distributed Feedback)レーザなどの波長の制御されたレーザ光源は高価であり、経済性に課題がある。また、インターネット接続サービスなどの通信サービスに加えて放送サービスを提供する場合には、波長の制御された光源の数がさらに増加することになる。
【0009】
上述の特開2006−81014号公報(特許文献1)では、光通信システムのコストに関係する光送信器の具体的な構成について、通信サービスの場合は何ら開示されていない。また、インターネット接続サービスで必要となる、ユーザ毎に異なる内容の大容量伝送を個々に実施する具体的方法についても示されていない。
【0010】
放送サービスの場合については、複数の波長成分を含む光源を同一の情報を有する電気信号で一括変調する構成が開示されている。しかし、複数の波長成分を含む光源としてスーパールミネッセントダイオードなどの広帯域光源を用いると、光分波/合波器の通過後にも不要な波長成分の光信号が雑音として残るので、十分なS/N比(信号対雑音比:signal to noise ratio)が得られないという問題がある。
【0011】
したがって、本発明の第1の目的は、低価格で簡単な構成であるとともに、十分なS/N比の得られる波長多重化された光信号を生成可能な光通信装置を提供することである。さらに、その光通信装置を用いた波長分割多重方式のアクセス系の光通信システムを提供することである。
【0012】
また、本発明の第2の目的は、双方向の通信サービスに加えて放送サービスも実現可能な、低価格で簡単な構成を有する波長分割多重方式の光通信装置および光通信システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、伝送路と、複数のユーザ装置と、複数のユーザ装置をそれぞれ宛先とする複数の第1のデータ信号を少なくとも含む複数のデータ信号を、伝送路を介して複数のユーザ装置に送信するセンタ装置とを備える光通信システムである。そして、センタ装置は、出力光の相互注入によって互いに同期して多モード発振する第1、第2の半導体レーザを有し、複数の波長を有する多波長の種光を出力する光源部と、多波長の種光を複数の単一波長の種光に分波する第1の光分波/合波器と、複数のユーザ装置に対応して設けられ、第1の光分波/合波器から出力された複数の単一波長の種光がそれぞれ入力され、入力された複数の単一波長の種光にそれぞれ同期して発振する複数の第3の半導体レーザを有し、複数の第1のデータ信号によって複数の第3の半導体レーザの各々に注入する注入電流を変調する変調部とを含む。そして、第1の光分波/合波器は、複数の第3の半導体レーザの出力光を合波して多波長の光信号を生成し、生成した多波長の光信号を伝送路に送出する。
【0014】
好ましくは、複数のデータ信号は、複数のユーザ装置に共通に送信される第2のデータ信号を含む。ここで、第2のデータ信号は、複数の第1のデータ信号の周波数帯域と重ならない周波数帯域に予め変調された信号である。そして、光源部は、第1、第2の半導体レーザに注入する注入電流を、第2のデータ信号で変調する。
【0015】
さらに好ましくは、第2のデータ信号は、複数の放送信号をサブキャリア多重化した信号である。
【0016】
また、好ましくは、光通信システムは、伝送路を介して伝送された多波長の光信号を複数の単一波長の光信号に分波し、複数の単一波長の光信号を複数のユーザ装置にそれぞれ出力する第2の光分波/合波器をさらに備える。そして、複数のユーザ装置の各々は、第2の光分波/合波器から入力される単一波長の光信号を増幅する反射型半導体光増幅器を含み、センタ装置に向けて送信する第3のデータ信号によって反射型半導体光増幅器に注入する注入電流を変調する。
【0017】
さらに好ましくは、反射型半導体光増幅器に入力される単一波長の光信号の信号強度は、反射型半導体光増幅器の利得が飽和するのに十分な大きさである。
【0018】
また、さらに好ましくは、第3のデータ信号は、複数のデータ信号の周波数帯域と重ならない周波数帯域に予め変調された信号である。
【0019】
本発明による光通信装置は、伝送路を介して複数の第1のデータ信号を複数の宛先にそれぞれ送信する。そして、光通信装置は、出力光の相互注入によって互いに同期して多モード発振する第1、第2の半導体レーザを含み、複数の波長を有する多波長の種光を出力する光源部と、多波長の種光を複数の単一波長の種光に分波する光分波/合波器と、複数の宛先に対応して設けられ、光分波/合波器から出力された複数の単一波長の種光がそれぞれ入力され、入力された複数の単一波長の種光にそれぞれ同期して発振する複数の第3の半導体レーザを含み、複数の第1のデータ信号によって複数の第3の半導体レーザの各々に注入する注入電流を変調する変調部とを備える。そして、光分波/合波器は、複数の第3の半導体レーザの出力光を合波して多波長の光信号を生成し、生成した多波長の光信号を伝送路に送出する。
【0020】
好ましくは、光源部は、複数の宛先に共通に送信する第2のデータ信号によって第1、第2の半導体レーザに注入する注入電流を変調する。ここで、第2のデータ信号は、複数の第1のデータ信号の周波数帯域と重ならない周波数帯域に予め変調された信号である。
【0021】
さらに好ましくは、第2のデータ信号は、複数の放送信号をサブキャリア多重化した信号である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、相互注入同期によって多モード発振する第1、第2の半導体レーザを用いた簡単な構成で多波長の種光を生成するので、S/N比の十分な光通信装置、およびそれを用いた波長分割多重による光アクセスシステムを安価に実現することができる。さらに、第1、第2の半導体レーザからの出力光に注入同期させた複数の第3の半導体レーザを用いて、下りデータ信号(第1のデータ信号)による変調を行なうので、本発明は、DFBレーザのような波長の制御された高価な単一モードレーザを必要としない。
【0023】
また、第1、第2の半導体レーザを用いて放送信号(第2のデータ信号)による変調を行なう場合には、双方向の通信サービスに加えて放送サービスも簡単かつ安価に提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して、その説明を繰り返さない。
【0025】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1としての光通信システム100の構成を示すブロック図である。まず、図1を参照して、光通信システム100の概略的な構成について説明する。なお、以下の説明において、ファブリペロ型半導体レーザLa,Lbが本発明の第1、第2の半導体レーザに対応する。また、ファブリペロ型半導体レーザL1〜Lnが本発明の第3の半導体レーザに対応する。また、下りデータ信号DS1〜DSnが本発明の第1のデータ信号に対応し、放送信号BSが本発明の第2のデータ信号に対応し、上りデータ信号US1〜USnが本発明の第3のデータ信号に対応する。
【0026】
光通信システム100は、センタ局に設けられたセンタ装置1(たとえば、OLT)と複数(n個)の加入者宅にそれぞれ設けられたユーザ装置2.1〜2.n(たとえば、ONU)と、光ファイバで構成される伝送路3と、光分波/合波器4とを含む。さらに、センタ装置1は、大別すると、光源部10と、変調部22と、受信部26と、光分波/合波器20,24と、サーキュレータ5,6とを含む。
【0027】
光通信システム100は、波長分割多重方式を用いたアクセス系の通信システムである。波長分割多重方式では、ユーザ装置2.1〜2.nごとに異なる複数(n個)の波長λ1〜λnの光信号を割り当てて、光信号の伝送を行う。具体的に、センタ装置1からユーザ装置2.1〜2.nに向けた下り方向のデータ伝送について説明すると、第1番目のユーザ装置2.1に向けた下りデータ信号DS1は、第1番目の波長λ1の波長帯域の光信号に変換される。同様に、第n番目のユーザ装置2.nに向けた下りデータ信号DSnは、第n番目の波長λnの波長帯域の光信号に変換される。そして、これらのn個の光信号は多重化されて、同一の伝送路3を用いて伝送される。
【0028】
光源部10は、このような波長分割多重伝送の元になる複数(n個)の波長λ1〜λnを含む多波長の種光S3を生成する。ここで、多波長の種光S3は、光ファイバ通信に適した1550nm付近の帯域のものであり、各波長λ1〜λnの間隔が等間隔であることが望ましい。たとえば、波長間隔が0.8nmで、多重化数nが20〜30程度に設定される。このような多波長の種光源を低価格で実現するために、実施の形態1の光通信システム100では、2個のファブリペロ型半導体レーザLa,Lbを用いて光源部10を構成する。後述するように、ファブリペロ型半導体レーザL1〜Lnの相互注入同期によって多波長の種光S3が生成される。さらに、下りデータ信号DS1〜DSnに加えて放送信号BSをユーザ装置2.1〜2.nに送信する場合には、ファブリペロ型半導体レーザLa,Lbを用いた直接変調方式によって、発生する多波長の種光S3を一括変調する。光源部10は、生成した多波長の種光S3を、サーキュレータ5を介して光分波/合波器20に送出する。
【0029】
サーキュレータ5,6は、3個以上の入出力ポートを有し、ある入出力ポートから入力された光信号を予め定める別の入出力ポートに出力する光デバイスである。サーキュレータ5,6は、たとえば、磁気光学効果を用いたファラデー回転子で構成される。
【0030】
センタ装置に設けられる光分波/合波器20,24(第1の光分波/合波器)は、一方側から入力された互いに波長の異なる複数の単一波長の光信号を合波して他方側に出力する光合波器(マルチプレクサ)としての機能を有する。また、逆に他方側から入力された複数の波長を有する多波長の光信号を分波して一方側に出力する光分波器(デマルチプレクサ)の機能も有する光デバイスである。光分波/合波器20,24には、たとえば、アレイ導波路回折格子(AWG:Arrayed Waveguide Grating)を用いることができる。
【0031】
センタ装置の光分波/合波器20は、光源部10から受光した多波長の種光S3を波長λ1〜λnごとに分波して、単一の波長を有する複数(信号数n)の単一波長の種光S3.1〜S3.nを生成する。光分波/合波器20は、生成した単一波長の種光S3.1〜S3.nを変調部22に出力する。
【0032】
一方、伝送路3と複数のユーザ装置2.1〜2.nとの間に設けられる光分波/合波器4(第2の光分波/合波器)は、伝送路3から伝送された多波長の光信号S4を波長λ1〜λnごとに分波して、単一波長の複数の光信号S4.1〜S4.nを生成し、複数のユーザ装置2.1〜2.nにそれぞれ出力する。
【0033】
ユーザ装置用の光分波/合波器4には、センタ装置の光分波/合波器20,24と同様に、AWGをはじめとする波長多重/分離モジュールを用いることができる。また、光分波/合波器4は、光パワースプリッタ(光分岐器)と、ユーザ装置2.1〜2.nの手前にそれぞれ設けられた複数(n個)の光フィルタとを含む構成とすることもできる。ここで、光パワースプリッタ(光分岐器)は、多波長の光信号S4を複数(信号数n)の多波長の光信号に分岐する。また、各光フィルタは、波長λ1〜λnのうち対応する波長の光信号を選択的に通過させる。
【0034】
変調部22は、信号数nの単一波長の種光S3.1〜S3.nをそれぞれ下りデータ信号DS1〜DSnで変調して、信号数nの単一波長の下り光信号S4.1〜S4.nを生成する。実施の形態1の光通信システム100では、低価格なn個のファブリペロ型半導体レーザL1〜Lnを用いて変調部22が構成される。ここで、n個のファブリペロ型半導体レーザL1〜Lnは、ユーザ装置2.1〜2.nに対応して設けられる。後述するように、ファブリペロ型半導体レーザL1〜Lnは、注入同期によって、入射された単一波長の種光S3.1〜S3.nと同一の波長の下り光信号S4.1〜S4.nをそれぞれ放出する。さらに、直接変調方式によって、下り光信号S4.1〜S4.nは、下りデータ信号DS1〜DSnでそれぞれ変調される。
【0035】
この後、変調部22は、生成した信号数nの単一波長の下り光信号S4.1〜S4.nを光分波/合波器20に出力する。光分波/合波器20は、下り光信号S4.1〜S4.nを合波して、多波長の下り光信号S4を生成する。生成された多波長の下り光信号S4は、サーキュレータ5,6を介して伝送路3に送出される。ユーザ装置用の光分波/合波器4は、伝送後の下り光信号S4を、信号数nの単一波長の下り光信号S4.1〜S4.nに分波する。
【0036】
前述のように、n個のユーザ装置2.1〜2.nには、異なるn個の波長λ1〜λnの光信号が割り当てられる。したがって、ユーザ装置2.1〜2.nは、それぞれ、対応する波長の下り光信号S4.1〜S4.nを受信する。そして、ユーザ装置2.1〜2.nは、下り光信号S4.1〜S4.nを電気信号に変換して、自分宛ての下りデータ信号DS1〜DSnおよび放送信号BSを受信する。
【0037】
さらに、ユーザ装置2.1〜2.nは、センタ装置1に向けて、上りデータ信号US1〜USnで変調された上り光信号S5.1〜S5.nをそれぞれ送信する。このために、ユーザ装置2.1〜2.nには、反射型半導体光増幅器38(RSOA:Reflective Semiconductor Optical Amplifier)が設けられる。後述するように、反射型半導体光増幅器38は、下り光信号S4.1〜S4.nを再利用して上り光信号S5.1〜S5.nを生成するものである。波長制御された光源を必要としないので、低価格のユーザ装置2.1〜2.nを提供することができる。
【0038】
この後、ユーザ装置用の光分波/合波器4は、ユーザ装置2.1〜2.nで生成された各波長λ1〜λnの上り光信号S5.1〜S5.nを合波して、多重化された上り光信号S5を生成する。生成された上り光信号S5は、伝送路3を伝送し、サーキュレータ6を介して光分波/合波器24に到達する。光分波/合波器24は、入力された多波長の上り光信号S5を分波して、信号数nの単一波長の上り光信号S5.1〜S5.nを生成して、受信部26に出力する。
【0039】
受信部26は、ユーザ装置2.1〜2.nに対応して、複数(n個)の上りデータ用受信機28.1〜28.nが設けられる。各上りデータ用受信機28.1〜28.nは、対応する上り光信号S5.1〜S5.nを電気信号に変換して、上りデータ信号US1〜USnを受信する。
【0040】
以下、光通信システム100の詳細な構成と動作について、光信号の流れに従って説明する。
【0041】
図2は、図1のセンタ装置1のうち光源部10の構成および動作を示す説明図である。図2を参照して、光源部10は、2個のファブリペロ型半導体レーザLa,Lbと、光分岐器11と、2個のアイソレータ12,13と、光結合器14とを含む。
【0042】
まず、これらの光デバイスの光学的な接続について説明すると、光分岐器11の一端側は、ファブリペロ型半導体レーザLaの出射口およびアイソレータ12の入力端と光ファイバなどを介して光学的に接続される。また、光分岐器11の他端側は、ファブリペロ型半導体レーザLbの出射口およびアイソレータ13の入力端と光学的に接続される。アイソレータ12,13の出力端は、光結合器14の入力端に接続される。そして、光結合器14の出力端から、多波長の種光S3が出力される。
【0043】
ここで、光分岐器11は、たとえば、分岐比が1:1の光ファイバカプラである。光分岐器11の分岐比が1:1の場合、ファブリペロ型半導体レーザLaの出射口から放出された出力光S1の半分はファブリペロ型半導体レーザLbの活性層に入射され、出力光S1の残りの半分はアイソレータ13の入力端に入力される。同様に、ファブリペロ型半導体レーザLbの出射口から放出された出力光S2の半分はファブリペロ型半導体レーザLaの活性層に入射され、出力光S2の残りの半分はアイソレータ12の入力端に入力される。このように、ファブリペロ型半導体レーザLa,Lbは、それぞれの出力光S1,S2が互いの活性層に入射されるように光学的に結合されるので、後述するように相互注入同期(Mutual Injection Locking)が生じる。
【0044】
また、アイソレータ12,13は、入力端から出力端への一方向にだけ光を透過させるものである。ファブリペロ型半導体レーザLa,Lbへの戻り光があるとレーザの動作が不安定になるので、これを避けるためにアイソレータ12,13が使用される。アイソレータ12,13には、たとえば、磁気光学効果を用いたファラデー回転子が用いられる。
【0045】
また、光結合器14は、複数の入力光を1つに結合して出力する。光結合器14にも、たとえば、分岐比が1:1の光ファイバカプラを用いることができる。
【0046】
次に、ファブリペロ型半導体レーザLa,Lbを用いた相互注入同期について説明する。
【0047】
半導体レーザは、活性層と呼ばれるP型半導体層が活性層よりもエネルギーギャップの大きなP型およびN型の半導体層で挟まれたダブルへテロ構造のダイオードである。ダブルへテロ構造では、活性層に光および電子が閉じ込められて発光領域を形成する。
【0048】
ファブリペロ型半導体レーザは、光が通過する経路の両端に結晶の劈開などで形成した2枚の反射面を対向させた構造の半導体レーザである。発光にいたる波長は、反射面間で共振する波長、すなわち共振器の中で定在波ができる波長となる。このため一般のファブリペロ型半導体レーザでは、縦モードと呼ばれる複数の離散的な発光波長が生じる多モード発振になる。このとき、レーザ発振は縦モード間をホップするので、個々の縦モードを見れば安定な連続発振とはなっていない。これを安定化させるための手法が、次に述べる注入同期である。
【0049】
半導体レーザに外部から線スペクトルの入力光があると、その波長にロックされたレーザ発振が生じることが知られている。これを注入同期という。通常の半導体レーザでは、本来はわずかな自然放出を種としてレーザ増幅が起こる。これに対して、注入同期においては、注入されたレーザ光が共振器内に存在するために、誘導放出が生じる。この結果、注入されたレーザ光の波長での発振が優勢となり,他の波長での発振が抑えられるという非線形相互作用が生じ、注入光の波長の光が安定発振して出力される。
【0050】
相互注入同期は、レーザ共振器の出力同士を対向して接続し、それぞれの出力光を相手方のレーザに注入する構成にしたものである。相互注入同期では、一方のレーザの出力光で他方のレーザの発振が安定化される。さらに、他方側の出力光が元の一方側に注入されることで、元のレーザの発振も安定化されるという効果が生まれる。多モード発振するファブリペロ型半導体レーザの場合には、一方のレーザからの複数の離散波長の光が相手方レーザに入力される。相手方のレーザでは、一方のレーザ光の複数の離散波長で誘導放出が起きてレーザ発振が生じる。相手方のレーザ光は、再び元のレーザに戻される。この結果、多数の縦モードで安定した発振になり、櫛形のスペクトルのレーザ光が得られる。なお、ファブリペロ型半導体レーザの場合、出力光の波長は多数に及ぶが、図1の発光スペクトルでは、光通信システム100で用いられるn個の波長について図示している。
【0051】
ここで、相互注入同期によるファブリペロ型半導体レーザの発振では、時間的に見ると、モード間のホッピングが抑えられるので、出力が時間的に安定化する。また、スペクトル強度の点では、単体のファブリペロ型半導体レーザに比べて、各波長でのスペクトル強度が増加するとともに、全体としてスペクトル強度が揃った多モードの発振が得られる。さらに、各波長でのスペクトルの半値幅も、単体のファブリペロ型半導体レーザに比べて低減する。結果として、光信号のS/N比が増加することになり、光通信に好適な光源が得られる。
【0052】
なお、相互注入同期によって、周波数安定化が図られて櫛形のスペクトル出力となるには、ファブリペロ型半導体レーザLa,Lbの発振波長域と共振器長が揃っていることが望ましい。そこで、安定状態を得るため、同じ仕様のレーザモジュールを用いるとともに、各ファブリペロ型半導体レーザLa,Lbについて、注入電流の調整や共振器長の調整を行う。たとえば、共振器長の調整は、熱膨張によって行う。この場合、半導体レーザチップを温度制御素子であるペルチェ素子に接着し、ペルチェ素子によってチップの温度を制御する。
【0053】
さらに、実施の形態1の光源部10の構成によれば、放送信号BSの送信を容易に行なうことができる。図1に示すように、放送信号BSを送信するためには、ファブリペロ型半導体レーザLa,Lbに注入される注入電流は、放送信号BSで直接変調される。このとき、2個のファブリペロ型半導体レーザLa,Lbの注入電流を同じ放送信号BSで変調する必要があるので、放送信号BSは分岐器15で分岐されて、それぞれ各ファブリペロ型半導体レーザLa,Lbに注入される。この直接変調によって、ファブリペロ型半導体レーザLa,Lbから出力される各波長の光の全てが、放送信号BSで一括変調される。
【0054】
上記の放送信号BSは、多数チャンネルの放送信号を互いに周波数の異なる副搬送波(サブキャリア)の帯域にそれぞれ変換することによって多重化した信号である。図3を参照して後述するように、相互干渉させないために、放送信号BSの周波数帯域(下限周波数:f5、上限周波数:f6)は、ベースバンドで送信する下りデータ信号DS1〜DSnの周波数帯域(下限周波数:0、上限周波数:f1)と重ならないように設定する。なお、放送信号BSは、必ずしもテレビ放送などの映像情報に限るものではなく、ユーザ装置2.1〜2.nに共通に送信するための情報であればよい。
【0055】
図3は、図1のセンタ装置1のうち変調部22の構成および動作を示す説明図である。
図3を参照して、変調部22は、複数(n個)のユーザ装置2.1〜2.nにそれぞれ対応して設けられた複数(n個)のファブリペロ型半導体レーザL1〜Lnを含む。各ファブリペロ型半導体レーザL1〜Lnの出射口は、光分波/合波器20と光学的に接続される。そして、ファブリペロ型半導体レーザL1〜Lnの活性層には、光分波/合波器20から出力された単一波長の種光S3.1〜S3.nがそれぞれ入射される。各ファブリペロ型半導体レーザL1〜Lnにそれぞれ入力される単一波長の種光S3.1〜S3.nの波長は、対応するユーザ装置2.1〜2.nに割り当てた波長と同一である。
【0056】
ここで、単一波長の種光S3.1〜S3.nは、相互注入同期によって生成された多波長の種光S3を光分波/合波器20で各波長の光に分波したものである。したがって、各単一波長の種光S3.1〜S3.nは、光強度は小さいけれども、単一波長の安定なレーザ光となっている。変調部22では、このようなパワーは小さいが、安定な各単一波長の種光S3.1〜S3.nが、より高出力で多モードで発振しているファブリペロ型半導体レーザL1〜Lnにそれぞれ注入される。この結果、種光S3.1〜S3.nを元にして、各ファブリペロ型半導体レーザL1〜Lnは、単一波長の種光S3.1〜S3.nと同一の単一波長で、種光S3.1〜S3.nに比例した強度のレーザ光を出力する。すなわち、ファブリペロ型半導体レーザL1〜Lnは、単一波長の種光S3.1〜S3.nをそれぞれ増幅して出力することになる。このように種光S3.1〜S3.nを元にした注入同期を用いることによって、十分なS/N比の出力光が得られる。
【0057】
なお、ファブリペロ型半導体レーザL1〜Lnの発振波長のうち、種光として入射される単一波長の種光S3.1〜S3.nの波長と異なる波長成分については、注入同期による非線形効果によって弱められるけれども、多少残存する場合もある。この残存した波長成分は、光分波/合波器20を通過するときに除去される。また、種光を注入する側のファブリペロ型半導体レーザLa,Lbの発振波長域と、注入された種光に同期する側のファブリペロ型半導体レーザL1〜Lnの発振波長域とは、揃っていることが望ましい。そこで、同じ仕様のレーザモジュールを用いて調整を行なう。
【0058】
上述の増幅機能に加えて、変調部22は、下りデータ信号DS1〜DSnで各単一波長の種光S3.1〜S3.nを変調する機能を有する。このため、ファブリペロ型半導体レーザL1〜Lnに注入される注入電流は、対応するユーザ装置2.1〜2.nを宛先とする下りデータ信号DS1〜DSnによって直接変調される。具体的に、第1番目のファブリペロ型半導体レーザL1には、第1番目のユーザ装置2.1に割り当てられた波長λ1の単一波長の種光S3.1が入射される。入射された単一波長の種光S3.1は、直接変調によって、下りデータ信号DS1で変調される。この結果、波長λ1の下り光信号S4.1が出力される。同様に、第n番目のファブリペロ型半導体レーザLnには、第n番目のユーザ装置2.nに割り当てられた波長λnの単一波長の種光S3.nが入射される。入射された単一波長の種光S3.nは、直接変調によって、下りデータ信号DSnで変調される。この結果、波長λnの下り光信号S4.nが出力される。
【0059】
図3に示すように各ファブリペロ型半導体レーザL1〜Lnに入力される単一波長の種光S3.1〜S3.nが放送信号BSを含んでいる場合には、出力される各下り光信号S4.1〜S4.nの周波数スペクトルは、放送信号BSのスペクトルと各下りデータ信号DS1〜DSnのスペクトルが合わさったものになる。下りデータ信号DS1〜DSnはベースバンド信号のまま伝送するので、下りデータ信号DS1〜DSnの周波数帯域は0から所定の上限f1まで及ぶ。相互干渉を生じないようにするため、サブキャリア多重化して伝送する放送信号BSの周波数帯域(下限周波数:f5、上限周波数:f6)が、下りデータ信号DS1〜DSnの周波数帯域と重ならないように、副搬送波の周波数を設定する。
【0060】
図4は、図1のユーザ装置2.1〜2.nの構成および動作を示す説明図である。ユーザ装置2.1〜2.nは同一の構成であるので、図4では、第n番目のユーザ装置2.nの構成を代表して示している。図4に示すように、ユーザ装置2.nは、光分岐器30,32と、放送信号BSを受信するための放送用受信機34と、下りデータ信号DSnを受信するための下りデータ用受信機36と、反射型半導体光増幅器38とを含む。
【0061】
ユーザ装置2.1〜2.nの第1の機能は、センタ装置1から送信された下りデータ信号DS1〜DSnおよび放送信号BSを受信することである。下りデータ信号DS1〜DSnおよび放送信号BSは、センタ装置1で下り光信号S4に変換されてから伝送される。そして、下り光信号S4は、光分波/合波器4で、複数(n個)の下り光信号S4.1〜S4.nに分波された後、対応するユーザ装置2.1〜2.nに出力される。ユーザ装置2.nの内部で、下り光信号S4.nは、光分岐器30で分岐された後、光分岐器32および反射型半導体光増幅器38に出力される。さらに、光分岐器32を介して、下り光信号S4.nは、放送用受信機34および下りデータ用受信機36に出力される。
【0062】
図5は、図4の放送用受信機34の構成を示すブロック図である。図5を参照して、放送用受信機34は、光信号を電気信号に変換する受光素子40と、周波数可変フィルタ42とを含む。放送用受信機34に入力された下り光信号S4.nは受光素子40で電気信号に変換される。周波数可変フィルタ42では、変換後の電気信号から、所望のチャンネルの放送信号が選択される。図4の受光素子40として、たとえば、フォトダイオードなどの半導体受光素子を用いることができる。
【0063】
図6は、図4の下りデータ用受信機36の構成を示すブロック図である。図6を参照して、下りデータ用受信機36は、受光素子40と、低域通過フィルタ44とを含む。下りデータ用受信機36では、受光素子40によって下り光信号S4.nが電気信号に変換された後、低域通過フィルタ44によってベースバンド信号である下りデータ信号DSnが取り出される。
【0064】
次に、ユーザ装置2.1〜2.nの第2の機能は、センタ装置1への上りデータ信号US1〜USnの送信である。このために、実施の形態1のユーザ装置2.1〜2.nでは、図4に示す反射型半導体光増幅器38を利用する。
【0065】
ここで、反射型半導体光増幅器は、半導体光増幅器(SOA:Semiconductor Optical Amplifier)の一種である。半導体光増幅器は、半導体レーザの両端面に無反射コーティングを施すことによって、半導体レーザから共振器構造を除去したものである。半導体光増幅器では、外部から活性層に光が入力されると、誘導放出によって、入力光に対して増幅した光が出力される。また、注入電流を直接変調することによって、入力光を変調して出力することもできる。
【0066】
一方、反射型半導体光増幅器は、半導体光増幅器で片方だけミラーを設けたものである。反射型半導体光増幅器の外部から入力された入力光は、導波路構造の活性層で増幅された後、ミラーで反射され、再び活性層で増幅されて出力される。活性層を2回通過するため、高利得が期待されるとともに、入力光の変調作用も効果的に行なうことができる。
【0067】
実施の形態1のユーザ装置2.1〜2.nは、反射型半導体光増幅器の持つ増幅作用および変調作用の両方の性質を利用する。これによって、下り光信号S4.1〜S4.nを搬送光として再利用し、上りデータ信号US1〜USnの送信を行なう。さらに、次に述べるように、ユーザ装置2.1〜2.nは、半導体光増幅器の増幅利得が飽和する性質を利用して、下りデータ信号DS1〜DSnおよび放送信号BSの消去を行なう。
【0068】
図7は、反射型半導体光増幅器38の入力光強度と出力光強度との関係を示すグラフである。図7において、横軸は入力光の強度を示し、縦軸は出力光の強度を示す。また、信号波形A1,A2,A3は、異なる強度の搬送光に対して同じレベルの変調信号で強度変調したときの光信号波形を示す。また、信号波形B1,B2,B3は、信号波形A1,A2、A3の光信号が反射型半導体光増幅器38にそれぞれ入力されたとき、対応する出力波形を示す。
【0069】
図7に示すように、反射型半導体光増幅器38へ入力される光強度が比較的小さいときは、入力光強度と出力光強度は比例する。入力光強度が増加するにつれて、出力光強度の増加率は減少し、やがて出力光強度は飽和する。この性質を利用すると、入力光に重畳された信号成分を切り取ること(クリッピング)ができる。
【0070】
具体的に図7を用いて説明すると、信号波形A1(最小光強度a1、最大光強度a2)の光信号が反射型半導体光増幅器38に入力された場合、出力された信号波形B1(最小光強度b1、最大光強度b2)は、入力信号波形A1に比例する。光信号強度がさらに増加した信号波形A2(最小光強度a3、最大光強度a4)の光信号が反射型半導体光増幅器38に入力された場合、入力信号が抑圧された信号波形B2(最小光強度b3、最大光強度b4)の光信号が出力される。これに対して、利得飽和領域に達した信号波形A3(最小光強度a5、最大光強度a6)の光信号が反射型半導体光増幅器38に入力された場合、出力光強度はb5で一定となる。すなわち、信号成分が切り取られた信号波形B3の出力光が得られる。
【0071】
再び図4を参照して、実施の形態1のユーザ装置2.nにおける反射型半導体光増幅器38の動作について説明する。図4の反射型半導体光増幅器38は、光分波/合波器4から出力された波長λnの下り光信号S4.nを受信する。受信した下り光信号S4.nは、下りデータ信号DSnおよび放送信号BSで変調された信号である。このとき、下り光信号S4.nの信号強度が、反射型半導体光増幅器38の動作状態が利得飽和領域に達するほど十分に大きい場合には、下り光信号S4.nおよび放送信号BSは切り取られて、波長λnの搬送光のみが増幅されて残る。さらに、反射型半導体光増幅器38の注入電流を上りデータ信号USnで変調することによって、波長λnの搬送光が上りデータ信号USnで強度変調された上り光信号S5.nが生成される。上りデータ信号USnはベースバンド信号であるので、図7に示すように上りデータ信号USnの周波数帯域は0から周波数f2に及ぶ。
【0072】
このように、実施の形態1のユーザ装置2.1〜2.nは、反射型半導体光増幅器38を用いることによって、下り光信号S4.1〜S4.nを再利用して上り光信号S5.1〜S5.nを生成する。このため、DFBレーザのような波長の制御された光源を必要としない。したがって、低価格のユーザ装置2.1〜2.nを実現することができる。
【0073】
図8は、図1のセンタ装置1のうち受信部26の構成および動作を示す説明図である。
図8を参照して、受信部26は、複数(n個)のユーザ装置2.1〜2.nにそれぞれ対応して設けられた複数(n個)の上りデータ用受信機28.1〜28.nを含む。上りデータ用受信機28.1〜28.nは、光分波/合波器20から出力された単一波長の光信号S5.1〜S5.nをそれぞれ受信する。このとき、各上りデータ用受信機28.1〜28.nは、対応するユーザ装置2.1〜2.nに割り当てられた波長と同一波長の光信号S5.1〜S5.nを受信する。上りデータ用受信機28.1〜28.nの構成は、図6に示す下りデータ用受信機36の構成と同様であるので、説明を繰り返さない。上りデータ用受信機28.1〜28.nは、それぞれ、光信号S5.1〜S5.nを電気信号に変換した後、低域通過フィルタによってベースバンド信号である上りデータ信号US1〜USnを取り出す。
【0074】
[実施の形態1の変形例]
図9は、図1,図2に示すセンタ装置1の光源部10の変形例を示すブロック図である。
【0075】
図9の光源部が図1,図2の光源部10と異なる点は次の3点である。第1に、図9の光源部には、図2の光結合器14に代えて、偏波多重合波器18が設けられている。第2に、図9の光源部は、アイソレータ12と偏波多重合波器18との間、およびアイソレータ13と偏波多重合波器18との間に、それぞれ偏光コントローラ(PC:Polarization Controller)16および17をさらに含む。第3に、図9の光源部では、偏光コントローラ16と偏波多重合波器18との間、および偏光コントローラ17と偏波多重合波器18の間の接続には、それぞれ偏波維持光ファイバ(PMF:Polarization Maintaining optical Fiber)19aおよび19bが用いられる。その他の点では、図9の光源部は図1,図2の光源部10と同様であるので、説明は繰り返さない。
【0076】
ここで、偏波多重合波器18は、偏光状態が互いに直交した2つの信号光を偏波多重化するものである。偏波多重合波器18として、たとえば、偏光ビームスプリッタ(PBS:Polarization Beam Splitter)を用いることができる。また、偏光コントローラ16,17は、入力光の偏光状態を制御するものである。たとえば、1/2波長板と1/4波長板を回転可能な状態で組み合わせることによって得られる。偏波維持光ファイバ19a,19bは、偏光コントローラ16,17で光の偏光状態を制御した後、その光の偏光状態を保ったまま伝送させるために用いられる。
【0077】
図1,図2の光源部10では、光ファイバカプラなどの光合波器14を用いていたので、入力光の光パワーの半分を損失する結果となっていた。そこで、図9の光源部では、偏光コントローラ16,17を用いて、入力光の偏光状態を互いに直交するように調整しておいてから、偏波多重合波器18によって偏波多重化して出力するようにする。これによって、図9の光源部では、ファブリペロ型半導体レーザLa,Lbからの出力光を有効に使うことができる。また、偏波多重合波器18によって偏波多重化することによって出力光の偏波無依存化を図ることができる。
【0078】
[実施の形態2]
実施の形態1のユーザ装置2.1〜2.nでは、反射型半導体光増幅器38を利得飽和状態で使用していた。したがって、反射型半導体光増幅器38に入射される下り光信号S4.1〜S4.nの光強度が十分でない場合、下りデータ信号DS1〜DSnおよび放送信号BSが十分に抑圧されずに残存することになり、上り光信号S5.1〜S5.nのS/N比が劣化する。実施の形態2は、このように下り光信号S4.1〜S4.nの光強度が十分でない場合に対処する方法を提示する。
【0079】
図10は、本発明の実施の形態2に従うユーザ装置2.1〜2.nの動作を示す説明図である。
【0080】
図10のユーザ装置2.1〜2.nでは、上りデータ信号US1〜USnをベースバンド(下限周波数:0、上限周波数f2)のまま用いるのでなく、アップコンバートした周波数帯域(下限周波数:f3、上限周波数:f4)に変換している点で、図4のユーザ装置2.1〜2.nと異なる。上りデータ信号US1〜USnをアップコンバートした周波数帯域(下限周波数:f3、上限周波数:f4)は、上りデータ信号US1〜USnの周波数帯域(下限周波数:0、上限周波数:f1)および放送信号BSの周波数帯域(下限周波数:f5、上限周波数:f6)と重ならないように設定される。これによって、相互干渉による上り光信号S5.1〜S5.nのS/N比の劣化を避けることができる。各ユーザ装置2.1〜2.nの反射型半導体光増幅器38から、アップコンバートした上りデータ信号USS1〜USSnで変調された上り光信号S7.1〜S7.nが出力される。
【0081】
図11は、上りデータ信号USをベースバンドからアップコンバートした周波数帯に変換する方法を示す説明図である。ここで、図11では、ユーザ装置2.1〜2.nを代表して、第n番目のユーザ装置2.nの場合を示している。図11に示すように、アップコンバートした上りデータ信号USSnは、発信器52から出力される搬送波信号54と上りデータ信号USnとをミキサ56で掛け合わせることによって得られる。発信器52の周波数f0は、所望の上りデータ信号USSnの周波数帯域(下限周波数:f3、上限周波数:f4)が得られるように調整される。
【0082】
図12は、本発明の実施の形態2に従う受信部60の動作を示す説明図である。図12の受信部60は、アップコンバートした上りデータ信号USS1〜USSnを受信するために、上りデータ用受信機50.1〜50.nの構成を変更した点で、図8の受信部26と異なる。
【0083】
図13は、図12の受信部60における上りデータ用受信機50.nの構成を示すブロック図である。ここで、図13では、上りデータ用受信機50.1〜50.nを代表して、第n番目の上りデータ用受信機50.nを示している。図13の上りデータ用受信機50.nは、図6の低域通過フィルタ44に代えて、バンドパスフィルタ58を有する。したがって、上りデータ用受信機50.nは、上り光信号S7.nを受光素子40で電気信号に変換した後、バンドパスフィルタ58によって、アップコンバートした上りデータ信号USSnを取り出すことができる。さらに上りデータ信号USSnを局部発信器でダウンコンバートして、ベースバンド領域の上りデータ信号USnを受信することができる。
【0084】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明の実施の形態1としての光通信システム100の構成を示すブロック図である。
【図2】図1のセンタ装置1のうち光源部10の構成および動作を示す説明図である。
【図3】図1のセンタ装置1のうち変調部22の構成および動作を示す説明図である。
【図4】図1のユーザ装置2.1〜2.nの構成および動作を示す説明図である。
【図5】図4の放送用受信機34の構成を示すブロック図である。
【図6】図4の下りデータ用受信機36の構成を示すブロック図である。
【図7】反射型半導体光増幅器38の入力光強度と出力光強度との関係を示すグラフである。
【図8】図1のセンタ装置1のうち受信部26の構成および動作を示す説明図である。
【図9】図1,図2に示すセンタ装置1の光源部10の変形例を示すブロック図である。
【図10】本発明の実施の形態2に従うユーザ装置2.1〜2.nの動作を示す説明図である。
【図11】上りデータ信号USをベースバンドからアップコンバートした周波数帯に変換する方法を示す説明図である。
【図12】本発明の実施の形態2に従う受信部60の動作を示す説明図である。
【図13】図12の受信部60における上りデータ用受信機50.nの構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0086】
1 センタ装置、2.1〜2.n ユーザ装置、3 伝送路、4,20 光分波/合波器、10 光源部、22 変調部、38 反射型半導体光増幅器、100 光通信システム、BS 放送信号(第2のデータ信号)、DS1〜DSn 下りデータ信号(第1のデータ信号)、US1〜USn 上りデータ信号(第3のデータ信号)、La,Lb ファブリペロ型半導体レーザ(第1、第2の半導体レーザ)、L1〜Ln ファブリペロ型半導体レーザ(第3の半導体レーザ)、S3.1〜S3.n 単一波長の種光、S3 多波長の種光、S4 下り光信号、S5 上り光信号。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伝送路と、
複数のユーザ装置と、
前記複数のユーザ装置をそれぞれ宛先とする複数の第1のデータ信号を少なくとも含む複数のデータ信号を、前記伝送路を介して前記複数のユーザ装置に送信するセンタ装置とを備え、
前記センタ装置は、
出力光の相互注入によって互いに同期して多モード発振する第1、第2の半導体レーザを有し、複数の波長を有する多波長の種光を出力する光源部と、
前記多波長の種光を複数の単一波長の種光に分波する第1の光分波/合波器と、
前記複数のユーザ装置に対応して設けられ、前記第1の光分波/合波器から出力された前記複数の単一波長の種光がそれぞれ入力され、入力された前記複数の単一波長の種光にそれぞれ同期して発振する複数の第3の半導体レーザを有し、前記複数の第1のデータ信号によって前記複数の第3の半導体レーザの各々に注入する注入電流を変調する変調部とを含み、
前記第1の光分波/合波器は、前記複数の第3の半導体レーザの出力光を合波して多波長の光信号を生成し、生成した前記多波長の光信号を前記伝送路に送出する、光通信システム。
【請求項2】
前記複数のデータ信号は、前記複数のユーザ装置に共通に送信される第2のデータ信号を含み、
前記第2のデータ信号は、前記複数の第1のデータ信号の周波数帯域と重ならない周波数帯域に予め変調された信号であり、
前記光源部は、前記第1、第2の半導体レーザに注入する注入電流を、前記第2のデータ信号で変調する、請求項1に記載の光通信システム。
【請求項3】
前記第2のデータ信号は、複数の放送信号をサブキャリア多重化した信号である、請求項2に記載の光通信システム。
【請求項4】
前記光通信システムは、前記伝送路を介して伝送された前記多波長の光信号を複数の単一波長の光信号に分波し、前記複数の単一波長の光信号を前記複数のユーザ装置にそれぞれ出力する第2の光分波/合波器をさらに備え、
前記複数のユーザ装置の各々は、前記第2の光分波/合波器から入力される単一波長の光信号を増幅する反射型半導体光増幅器を含み、前記センタ装置に向けて送信する第3のデータ信号によって前記反射型半導体光増幅器に注入する注入電流を変調する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の光通信システム。
【請求項5】
前記反射型半導体光増幅器に入力される単一波長の光信号の信号強度は、前記反射型半導体光増幅器の利得が飽和するのに十分な大きさである、請求項4に記載の光通信システム。
【請求項6】
前記第3のデータ信号は、前記複数のデータ信号の周波数帯域と重ならない周波数帯域に予め変調された信号である、請求項4に記載の光通信システム。
【請求項7】
伝送路を介して複数の第1のデータ信号を複数の宛先にそれぞれ送信する光通信装置であって、
出力光の相互注入によって互いに同期して多モード発振する第1、第2の半導体レーザを含み、複数の波長を有する多波長の種光を出力する光源部と、
前記多波長の種光を複数の単一波長の種光に分波する光分波/合波器と、
前記複数の宛先に対応して設けられ、前記光分波/合波器から出力された前記複数の単一波長の種光がそれぞれ入力され、入力された前記複数の単一波長の種光にそれぞれ同期して発振する複数の第3の半導体レーザを含み、前記複数の第1のデータ信号によって前記複数の第3の半導体レーザの各々に注入する注入電流を変調する変調部とを備え、
前記光分波/合波器は、前記複数の第3の半導体レーザの出力光を合波して多波長の光信号を生成し、生成した前記多波長の光信号を前記伝送路に送出する、光通信装置。
【請求項8】
前記光源部は、前記複数の宛先に共通に送信する第2のデータ信号によって前記第1、第2の半導体レーザに注入する注入電流を変調し、
前記第2のデータ信号は、前記複数の第1のデータ信号の周波数帯域と重ならない周波数帯域に予め変調された信号である、請求項7に記載の光通信装置。
【請求項9】
前記第2のデータ信号は、複数の放送信号をサブキャリア多重化した信号である、請求項8に記載の光通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−71425(P2009−71425A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−235405(P2007−235405)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【Fターム(参考)】