説明

光造形装置

【課題】 泡の混入が少なく透明度が高い造形物が得られる光造形装置を提供する。
【解決手段】 リコータ18が消泡手段46,48を備えている。消泡手段は、超音波振動子46と振動板48で構成され、振動板48の下端の高さはリコータブレード36,38の下端の高さに等しい。泡は、走行方向の後側の振動板48の垂直部の下端に接触してはじけとび、泡が消える。硬化層の表面に導入された未硬化の光硬化性液状樹から泡が除去される。透明度に優れたモデルを造形することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化性液状樹脂と光を利用して3次元形状を造形する光造形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光造形装置は、光硬化性液状樹脂を貯めておく液槽と、液面内の位置に対応して露光するか露光しないかを選択することが可能な露光装置と、液槽内で昇降する昇降台と、液面に沿って走行するリコータを備えている。
【0003】
露光装置は、例えば光ビームの射出装置と、その光ビームを液面内の任意の位置に向けて反射する照射位置制御装置を備えている。あるいは、透過型の液晶パネル越しに平行光を照射する光源を備えている。いずれも、液面内の位置に対応してその位置を露光するか露光しないかを選択することが可能となっている。
光硬化性液状樹脂の液面を露光すると、液面が硬化して硬化層が形成される。最初の硬化層は、液槽内で昇降する昇降台に固着するように造形される。昇降台を一層分だけ沈めると昇降台に固着している硬化層も沈み、液面下に移動する。
光造形装置の造形精度が向上しており、1層の厚みはきわめて薄い。一層分だけ硬化層を沈めても、光硬化性液状樹脂の表面張力によって、沈められた硬化層の表面に光硬化性液状樹脂が流入しない。すなわち、一層分だけ硬化層を沈めても、硬化層の表面は光硬化性液状樹脂で被覆されない。光造形装置では、次の層の露光に備えて、硬化層の表面を光硬化性液状樹脂で被覆しておく必要がある。
そのために、液面に沿って走行するリコータが用意されている。リコータが液面に沿って走行すると、先に硬化して沈められた硬化層の表面を光硬化性液状樹脂で被覆することができる。
光造形装置では、液面の露光と昇降台の沈降とリコータの走行を1サイクルとする動作を繰り返すことによって、昇降台の上に複数の硬化層が積層されて一体化した光造形物を造形する。各層の露光領域を制御することによって、任意の3次元形状を造形することができる。
【0004】
光硬化性液状樹脂は粘性を有し、その液面が平滑化するのに時間を要する。そこで、光硬化性液状樹脂に超音波振動を加えることによって、液面の平滑化を促進する技術が開発されており、特許文献1に開示されている。特許文献1の技術では、液槽の外面に超音波発生装置を取り付けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−278122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、光硬化性液状樹脂の改良によって、光造形物の透明度が向上している。光造形物の透明度が向上すると、造形物の表面に露出する3次元形状のみならず、造形物の内部に形成されている3次元形状まで観測することが可能なり、一層の透明化が望まれている。
透明度が向上とともに泡の存在が観測され始め、さらに透明度を向上させるためには、泡を含まない造形物あるいは泡の混入が少ない造形物を造形する必要があることがわかってきた。特開平5−278122号公報に記載されているように、液槽の外面に超音波発生装置を取り付けて光硬化性液状樹脂に超音波振動を加えても泡は消えない。
本発明では、泡の混入が少ない造形物を造形することが可能な光造形装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、光硬化性液状樹脂を貯めておく液槽と、液面内の位置に対応して露光するか露光しないかを選択することが可能な露光装置と、液槽内で昇降する昇降台と、液面に沿って走行するリコータを備えている光造形装置に関する。本発明の光造形装置では、リコータが消泡手段を備えている。ここでいう消泡手段は、露光領域内の液面に存在する泡を除去することをいい、泡を破壊して除去してもよいし、泡を吸い込んで除去してもよい。
【0008】
リコータが液面に沿って走行すると、先に硬化して沈められた硬化層の表面に未硬化の光硬化性液状樹脂が導入される。このとき、硬化層の表面に導入された未硬化の光硬化性液状樹脂に泡が混入する。本発明のリコータは消泡手段を備えており、硬化層の表面に導入された未硬化の光硬化性液状樹脂に混入した泡を消してゆく。泡の混入が少なく、透明度に優れた造形物を造形することが可能となる。
【0009】
様々な消泡手段を採用することができる。例えば、自らが振動する部材を利用することができる。泡が振動する部材に接触するとその泡は消える。あるいは、液面に浮上した泡に熱を加える部材を利用してもよい。泡に熱が加えられると泡は消える。あるいは、泡に接触して泡を機械的に破壊する部材、例えば針のような部材を利用してもよい。あるいは、液面に浮上した泡を吸い込んで除去する吸泡手段であってもよい。それらを組み合わせた部材であってもよく、例えば振動と熱を同時に加える部材であってもよい。あるいは、泡を破壊する手段と泡を吸い込む手段を併用するものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例の光造形装置の全体構成を示す図。
【図2】第1実施例のリコータの斜視図を示す。
【図3】第1実施例のリコータの断面図を示す。
【図4】第2実施例のリコータの斜視図を示す。
【図5】第3実施例のリコータの斜視図を示す。
【図6】第3実施例のリコータの斜視図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。
図1は、本実施例の光造形装置10の全体構成を備えている。光造形装置10は、光硬化性液状樹脂11を収容している液槽12と、レーザ光13を射出する光源14と、光源14から射出したレーザ光13のスポットを液槽12内に収容されている光硬化性液状樹脂11の液面11a内の任意の位置に指向させる光学系15と、液槽12内において昇降する昇降台16と、その昇降台16の駆動機構17と、液面11aに沿って移動することによって液面を平滑化するリコータ18と、そのリコータ18の駆動機構19と、制御装置20を備えている。制御装置20は、3次元CADシステムに接続されており、3次元CADシステムから造形するべき3次元形状を記述するデータを入力する。制御装置20は、3次元形状を記述するデータに基づいて、光源14と光学系15と昇降台駆動機構17とリコータ駆動機構19を制御し、3次元CADシステムから入力した3次元形状を記述するデータによって記述されている3次元形状を有する硬化物(造形物)が造形されるようにする。
【0012】
制御装置20は、3次元CADシステムから入力した3次元形状を記述するデータを処理し、断面ごとに輪郭線を算出する。以下では造形物の下方から上方に向けて、第1・・第n断面とする。制御装置20は、光源14と光学系15と昇降台駆動機構17とリコータ駆動機構19を下記のように制御する。
(1)昇降台16を、液面11aから1硬化層分の深さに沈める。
(2)第i断面の輪郭線データに基づいて光源14と光学系15を制御し、輪郭内の液面を露光し、輪郭外の液面は露光しない。
(3)昇降台16を、1硬化層分の深さだけ、さらに沈める。
(4)液面に沿ってリコータ18を走行させる。
(5)上記の(2)から(4)の制御を繰り返し実行する。最初に(2)を実行するときにはi=1とし、以後(2)を繰り返すたびにiを1ずつ大きくし、i=n−1として(2)から(4)を実施したら、最後にi=nとして(2)を実行する。
以上の処理を実施すると、液槽12内に3次元CADシステムが指定する3次元形状を備えた造形物が造形される。
【0013】
(第1実施例)
図2は、リコータ18の近傍を拡大して示しており、図3はそのIII−III線断面を示している。図2では、図示の明瞭化のために、一部を破断して図示している。
リコータ18は、本体34と、車輪32,32を備えており、液槽12の外側に固定されているレール30に沿って走行する。レール30は水平に伸びている。
本体34の走行方向の両サイドには、一対のリコータブレード36,38(図3も参照)が固定されている。リコータブレード36,38の下端は液面11aに接触する高さに設定されている。リコータ18がレール30に沿って走行すると、リコータブレード36,38の下端は液面11aを掃引する。本体34の下方で一対のリコータブレード36,38に挟まれている範囲に、水平プレート40が設置されている。水平プレート40の一部42は、本体34を貫通して本体34の上方に達しており、上下動機構44に連結されている。水平プレート40は、上下動機構44によって水平を保った状態で上下動する。水平プレート40の下面は光硬化性液状樹脂に対して親水性である。水平プレート40を液面11aに接触するまで下降させてから上昇させると、光硬化性液状樹脂は2枚のリコータブレード36,38の間隙に貯められる。このリコータ18は、多量の光硬化性液状樹脂を蓄えた状態で硬化層の上方を走行するために、大面積の硬化層の表面に光硬化性液状樹脂を導入する際にも光硬化性液状樹脂が枯渇することがない。
リコータ本体34を覆うように、振動板48が配置されている。振動板48は図示しない連結具によってリコータ本体34に連結されており、リコータ本体34と一体となって液面上を走行する。図3によく示されているように、振動板48は、水平部とその左右両端から下方に伸びる一対の垂直部を備えており、一対の垂直部の下端の高さは、一対のリコータブレード36,38の下端の高さに等しい。振動板48には、超音波振動子46が取り付けられおり、振動板48は超音波振動する。振動板48をリコータ本体34に連結する連結具には、振動を断ち切る構造が用意されており、リコータ本体34とリコータブレード36,38と水平プレート40は振動しない。
【0014】
図3は、リコータ18によって、沈められた硬化層50の表面に未硬化の光硬化性液状樹11を導入する様子を示している。図3は、リコータブレード36が前面となり、リコータブレード38が後面となる方向に走行している場合を示している。リコータ18が走行すると、前面側のリコータブレード36の直後の位置で、硬化層50の表面に未硬化の光硬化性液状樹脂11が導入される。このとき、多少の泡が巻き込まれる。その泡はやがて液面上に浮上する。一部の泡は後面側のリコータブレード38によって補足され、リコータブレード38と水平プレート40の境界部に閉じ込められる。硬化層50の表面に導入された未硬化の光硬化性液状樹脂11に泡が混入することが防止される。リコータブレード38によって補足されなかった泡は、振動板48の後方側の垂直部の下端に接触する。振動板48の後方側の垂直部の下端は振動しており、それに接触した泡ははじけとび、泡が消える。このようにして、硬化層50の表面に導入された未硬化の光硬化性液状樹11からは泡が除去される。
【0015】
このリコータを用いて造形したところ、肉眼で観測する限りでは、造形物中に泡が存在しなかった。それに対して超音波振動子46の運転を中止して造形すると、造形物中に泡が観測された。特に、造形物の輪郭に近い部分に多くの泡が観測された。超音波振動子46と振動板48による消泡手段が有効に機能しており、消泡することによって泡の混入が少なく透明度に優れたモデルを造形できることが確認された。
【0016】
図4は、別の消泡手段を備えたリコータを示し、熱線54、56を備えている。熱線54,56はリコータの走行方向の前後に対称に配置されており、その高さは一対のリコータブレード36,38の下端の高さよりもわずかに高い。すなわち、熱線54,56は、液面よりもわずかに上方を移動する。液面に浮上して盛り上がった泡は熱線54,56に接触する。
このリコータを用いると、図3で説明したのと同様に、走行方向の後面側のリコータブレードによって補足されなかった泡は、走行方向の後側の熱線と接触する。熱線に接触した泡は加熱されてはじけとび、泡が消える。このようにして、硬化層50の表面に導入される未硬化の光硬化性液状樹11からは泡が除去される。
熱線54,56に、超音波振動子の振動を伝達するようにしてもよい。泡は、振動と熱によって確実に除去される。
【0017】
図5は、別の消泡手段を備えたリコータを示し、針群58,60を備えている。針群58,60はリコータの走行方向の前後に対称に配置されており、その高さは一対のリコータブレード36,38の下端の高さよりもわずかに高い。すなわち、針群58,60は、液面よりもわずかに上方を移動する。液面に浮上して盛り上がった泡は針群58,60に接触する。
このリコータを用いると、図3で説明したのと同様に、走行方向の後面側のリコータブレードによって補足されなかった泡は、走行方向の後側の針群と接触する。針群に接触した泡は機械的に破壊されて泡が消える。このようにして、硬化層50の表面に導入される未硬化の光硬化性液状樹11からは泡が除去される。
【0018】
図6は、別の消泡手段を備えたリコータを示し、吸引ノズル70,72を備えている。吸引ノズル70,72はリコータの走行方向の前後に対称に配置されており、吸引口の高さは一対のリコータブレード36,38の下端の高さよりもわずかに高い。すなわち、吸引ノズル70,72の吸引口は、液面よりもわずかに上方を移動する。液面に浮上して盛り上がった泡は吸引口に吸引され、液面から除去される。吸引ノズル70,72は、負圧を発生するポンプに接続されており、吸引された液状樹脂は液槽11に戻される。
このリコータを用いると、図3で説明したのと同様に、走行方向の後面側のリコータブレードによって補足されなかった泡は、走行方向の後側の吸引ノズルに吸引されて液面から除去される。このようにして、硬化層50の表面に導入される未硬化の光硬化性液状樹11から泡が除去される。
【0019】
上記したいずれのリコータも、消泡手段を備えているために、硬化層の表面に導入される光硬化性液状樹脂から泡が除去され、透明度に優れたモデルを造形することができる。
【0020】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0021】
10:光造形装置
11:光硬化性液状樹脂
12:液槽
13:レーザビーム
14:光源
15:光学系
16:昇降台
17:昇降台駆動装置
18:リコータ
19:リコータ駆動装置
20:制御装置
36,38:リコータブレード
46:超音波振動子
48:振動板
54,56:熱線
58,60:針群
70,72:吸引ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光硬化性液状樹脂を貯めておく液槽と、
液面内の位置に対応して露光するか露光しないかを選択することが可能な露光装置と、
液槽内で昇降する昇降台と、
液面に沿って走行するリコータを備えており、
リコータが、消泡手段を備えていることを特徴とする光造形装置。
【請求項2】
消泡手段は、振動することによって消泡することを特徴とする請求項1の光造形装置。
【請求項3】
消泡手段は、液面に浮上した泡に熱を加えることを特徴とする請求項1の光造形装置。
【請求項4】
消泡手段は、液面に浮上した泡を機械的に破壊することを特徴とする請求項1の光造形装置。
【請求項5】
消泡手段は、液面に浮上した泡を吸引して除去することを特徴とする請求項1の光造形装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−218821(P2011−218821A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174672(P2011−174672)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【分割の表示】特願2006−28228(P2006−28228)の分割
【原出願日】平成18年2月6日(2006.2.6)
【出願人】(391064429)シーメット株式会社 (38)
【Fターム(参考)】