説明

光量絞り用NDフィルタ

【課題】濃度が連続的に変化するタイプのグラデーション濃度勾配を有するNDフィルタを得る。
【解決手段】膜厚傾斜を形成するように、ND膜を成膜した基板11の裏面に、SiO2膜21とTiO2膜22を交互に積層した構成の第1〜4層の反射防止膜をマスクを用いて成膜する。基板11の表面のND膜の膜厚分布が形成される方向と逆になるように成膜し、第5層のSiO2膜23はマスクを取り外し、光学膜厚n×dでλ/4成膜する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばビデオカメラ或いはスチールビデオカメラ等に使用するのに適した光量絞り用NDフィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
濃度が連続的に変化するND(Neutral Density)フィルタは、例えば表示パネルの濃度分布を補正する補正板として使用されたり、顕微鏡等に光を供給する光量調整用のフィルタとしても使用されている。また、近年ではマイクロレンズアレイ作製用のフォトマスクに使用されたり、多岐の分野に及んだ様々な用途に使用されている。
【0003】
従来のカメラ等の光学絞り装置は、銀塩フィルム、或いはCCDやCMOSセンサ等から成る固体撮像素子に入射する光量を制御するために設けられており、被写界が明るい場合に、より小さく絞り込まれるようになっている。従って、快晴時や高輝度の被写体を撮影すると絞り開口部は小さくなり、絞り開口部によるハンチング現象や光の回折の影響を受け易く、像性能の劣化を生ずる。
【0004】
この課題の対策として、絞りの近傍に可視波長領域の透過光を減衰する光減衰膜を有するNDフィルタを配置したり、NDフィルタを絞り羽根に直接取り付けることにより光量の制御を行う工夫がなされている。つまり、被写界の明るさが大きくなり、NDフィルタは絞り開口部が小さくなった際に、光路中に位置して透過光量を減少させることで、高輝度撮影時においても絞り開口部が極端に小さくなることを防止している。
【0005】
近年では、撮像素子の感度が向上するのに従い、NDフィルタの濃度を濃くすることにより、更に光量の透過率を低下させ、被写界の明るさが同一であっても絞り開口部を大きくすることが実施されている。
【0006】
しかし、NDフィルタの濃度が濃くなると、NDフィルタを通過した光束と通過しない光束との光量差が大きく異なり、画面内で明るさが異なるシェーディング現象が生じたり、解像度が低下するという不具合が発生する。この問題を解決するために、NDフィルタの濃度を連続的に変化させ、光軸中心に向かってNDフィルタを移動して、連続的に透過率を変化させる構造が必要とされる。
【0007】
一般的に、NDフィルタの作製方法としては、材料中に光を吸収する有機色素又は顔料を混入させ練り込むタイプのものと、材料に光を吸収する有機色素又は顔料を塗布するタイプのものとがある。材料としては、例えばフィルム状のセルロースアセテート、PET(ポリエチレンテレフタレート)、塩化ビニル等が使用されている。これらの製造方法では、濃度が均一なフィルタは作製可能であるが、分光透過率の波長依存性が大きいという欠点がある。また、濃度が連続的に変化するタイプのグラデーション濃度勾配を有するNDフィルタを作製することは著しく困難である。
【0008】
特許文献1〜3においては、マイクロ写真法による濃度が変化するタイプのNDフィルタの作製方法が開示されている。この開示当時のビデオカメラでは、この方法により作製したNDフィルタを用いて画質の向上が十分に得られた。しかし、近年のCCD等の高感度化、小型化等における高画質対応化により、特に特殊条件での使用、例えば逆光下での小径絞り状態において、光の散乱による影響により画質が劣化してしまうことがある。
【0009】
更に、高画質対応の対策として、単一濃度のNDフィルタを複数の絞り羽根に接着して駆動させることにより、単一濃度のNDフィルタでも複数重なった部分と重ならない部分とから、濃度を変化させることは可能である。しかし、この方法ではNDフィルタの枚数が増加することによるコストアップとなったり、絞り羽根に複数枚のNDフィルタを接着させることにより、小型・省スペース化に対応できないことなどの問題がある。
【0010】
これらの理由から特許文献4等においては、連続的に濃度が変化するグラデーション濃度勾配を有するNDフィルタを作製する方法が提案されている。
【0011】
連続的に濃度を変化させるNDフィルタの製造方法としては、真空蒸着法、スパッタ法等により基板上に薄膜を形成する。その場合に、積層される薄膜の膜厚分布の一部を順次に厚く、或いは順次に薄くなるように制御したり、吸収係数を順次に小さく、或いは順次に大きくなるように制御する方法により作製可能である。
【0012】
【特許文献1】特許第2754518号公報
【特許文献2】特許第2771078号公報
【特許文献3】特許第2771084号公報
【特許文献4】特開2004−117467号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
グラデーション濃度勾配を有するNDフィルタの場合には、概ね濃度0.3以下の低濃度領域において、400〜700nm程度の可視波長領域の分光反射率が特に高くなってしまい、ゴーストやフレアの不具合を発生してしまう場合がある。濃度Dは透過率TからD=log10(1/T)で求めた値である。この問題の対策として、一般的にはND膜を成膜した基板の裏面に、ほぼ均一な膜厚分布を有する反射防止膜を成膜する等の対策が採られている。
【0014】
仮に、裏面に反射防止膜が生成されている部分と生成されていない部分とがある構成であっても、生成されている部分の全域での膜厚分布は一定である。また、複数の濃度領域を有する多濃度タイプのNDフィルタであっても、裏面の反射防止膜の膜厚分布は一定であるのが一般的である。
【0015】
上述のほぼ均一な膜厚を有する反射防止膜とは、積層材料の粒径や積層された層の密度に依存されるミクロ的な微小な凹凸、成膜回転軸を基準とした同一基板上の中心部分と端部分との回転半径の相違により、意図せず形成される膜厚変化等を含んでいる。
【0016】
しかし、膜厚分布を連続的に変化させることで連続的に濃度を変化させたグラデーション濃度勾配を有するNDフィルタの場合には、同一フィルタ内の各濃度において積層された膜厚の違いから、位相差が発生し画像が劣化してしまう不具合が生じてしまう。
【0017】
本発明の目的は、全濃度領域での位相差を低減し、可視波長領域の分光反射率が特に高い低濃度での可視波長領域の分光反射率を低減し、更に全濃度領域では平均として可視波長領域の分光反射率を低減する光量絞り用NDフィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するための本発明に係る光量絞り用NDフィルタの技術的特徴は、連続的に濃度が変化する領域を有し可視波長領域の透過光を減衰する光減衰膜を表面に成膜し、前記連続的に濃度が変化する領域と対峙する裏面に、膜厚が連続的に変化する領域を含む反射防止膜を成膜したことにある。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る光量絞り用NDフィルタによれば、膜厚分布を連続的に変化させることで連続的に濃度を変化させたグラデーション濃度勾配を有するNDフィルタであっても、各濃度領域において積層された膜厚差により発生する位相差を低減することができる。また、可視波長領域での分光反射率が特に高い低濃度部での反射率を低減し、更に全濃度領域では平均として可視波長領域の分光反射率を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明を図示の実施例に基づいて詳細に説明する。
図1は本実施例における撮影光学系の構成図を示し、レンズ1、光量絞り装置2、レンズ3〜5、ローパスフィルタ6、CCD等から成る固体撮像素子7が順次に配列されている。光量絞り装置2においては、絞り羽根支持板8に一対の絞り羽根9a、9bが可動に取り付けられ、絞り羽根9aには、絞り羽根9a、9bにより形成される開口部を通過する光量を減光するためのNDフィルタ10が接着されている。このNDフィルタ10は透明基板の表面上に、濃度が連続的に変化するグラデーション濃度勾配部を有し、濃度勾配部と対峙する裏面側に反射防止膜を備えている。
【0021】
図2はNDフィルタ10の連続的に濃度変化するグラデーション濃度分布図を示し、横軸は基板上の位置、縦軸は濃度を示している。区間Aは最大濃度部であり、区間Bは連続的に濃度が変化する濃度勾配部であり、端点C、Dは濃度勾配開始位置と濃度勾配終了位置をそれぞれ示している。
【0022】
本実施例において、NDフィルタ10を作製するために、膜厚分布を制御することにより濃度を連続的に変化させる方法を用いる。この際に、基材上に薄膜を生成する成膜方法としては、真空蒸着法やスパッタリング法、IAD法、IBS法、イオンプレーティング法等の様々な方法が考えられる。本実施例においては、真空蒸着法により基板上に薄膜を形成し、積層される薄膜の膜厚分布の一部を変化させる方法を選択している。これは濃度を変化させる一般的な方法の中で、最も正確に濃度制御ができ、かつ可視域の波長域での散乱が非常に小さい理由からである。
【0023】
先ず、ガラスやPET樹脂等から成る透明基板に、連続的に濃度変化する領域を有するND膜を成膜する。そして、反射率を全濃度領域で低減したり、基板の裏面の反射率そのものを低減したりするために、ND膜を成膜した基板の裏面に反射防止膜を形成する。この反射防止膜の主たる目的は、ND膜面における可視波長領域での分光反射率を低減させることである。
【0024】
基板裏面の反射防止膜の膜厚分布は、表面のND膜の分布から位相差を低減できるように、予め計算された膜厚分布で成膜する。本来であれば、基板表面に生成されたND膜の反射率を低減する最適な分布等は各濃度によって異なり、また反射率低減を考慮した理想的構成では、膜厚分布が連続的になるとは限らない。しかし、生産性等を考慮した場合には、可視波長領域での分光反射率が特に高い概ね濃度0.3以下の低濃度部での反射率を低減し、更に全濃度領域では平均として可視波長領域での分光反射率を低減し、連続的な膜厚分布とした方がより現実的である。
【0025】
これにより、基板裏面の反射防止膜の膜厚分布は位相差を低減でき、かつ概ね濃度0.3以下の低濃度部での反射率を低減し、全濃度領域では平均として反射率を低減できる連続的な膜厚分布としている。例えば、図2に示すようなND膜の場合には、ND膜面の膜厚が厚い濃度勾配開始位置Cに近付くほど対峙する基板裏面の反射防止膜の膜厚が薄くなり、ND膜面の膜厚が薄い濃度勾配終了位置Dに近付くほど反射防止膜の膜厚は厚くなる構成とされている。
【0026】
また、上述したようなND膜の構成により、反射防止膜の膜厚分布は様々であることが予想される。その一例として、位相差を最も効率的に低減できるND膜の分布と全く逆の膜厚分布や、反射防止と位相差補正の両方の効果を総合的に考慮し、反射防止膜の任意層を膜厚変化させる構成等が考えられる。
【0027】
このようにして作製されたグラデーションタイプのNDフィルタ10は、ND膜の膜厚分布に起因する位相差が低減され、更に概ね濃度0.3以下の低濃度部での反射率が低減され、全濃度領域では平均として反射率が低減されている。
【0028】
図3は本実施例における真空蒸着法で使用する基板とマスクの斜視図、図4は断面図を示している。材質厚75μmのPET基板11上に、複数枚の遮蔽板12a、12bから成るマスク13を斜設する。基板11とマスク13とが成す角は45゜、マスク13を構成する遮蔽板12aと遮蔽板12bとの距離は20mm、基板11からマスク13の最も離れた部分の距離は10mmとした。
【0029】
基板11には、ガラス転移点Tgは高く、かつ可視域の波長域で透明性が高く、更に吸水率が低いPET樹脂を選択した。このようにPET樹脂を選択したが、脂環式ポリオレフィン樹脂等を用いても、同様のNDフィルタ10を作製することは可能である。
【0030】
図5に示すように、PET基板11上にAl23膜14とTixOy膜15を交互に積層し、最表層の第9層にMgF2膜16を積層した膜構成のNDフィルタ10を作製した。次に、チャンバから基板11に設けたマスク13を取り外し、最表層である第9層のMgF2膜16を光学膜厚n×d(nは屈折率、dは機械膜厚)でλ/4(λ=540nm)成膜した。最表層はND膜の反射率低減を目的としており、膜の屈折率nが可視域の波長域で1.5以下のものを選択し、具体的にはMgF2を使用した。
【0031】
ここで、第1層から最表層まで、図3、図4に示すようなマスク13を用い、全層を膜厚変化させ成膜すると、反射防止条件が合わなくなり、反射率の上昇が生じ、画質上ではゴースト現象やフレア現象が発生してしまう。このことを考慮し、最表層のMgF2膜16はマスク13を外し基板11の全面の膜厚が等しくなるように成膜する。
【0032】
第8層のTixOy膜15の成膜終了後に、図6に示すように例えば最厚部の光学膜厚n×dでλ/32(λ=540nm)のMgF2膜16aを成膜し、その後にチャンバから各基板11に設けたマスク13を取り外す。第8層までの膜厚傾斜と反対で相似した膜厚傾斜を形成するように、基板11とマスク13とが形成する角度と、遮蔽板12aと12bの距離と、基板11からマスク13の最も離れた部分の距離とを調整し直し、最表層にMgF2膜16bを再度成膜する。
【0033】
かくすることで、グラデーション仕様によっては、最表層としてMgF2膜16を一定で光学膜厚n×dをλ/4(λ=540nm)形成し、反射防止を図る以上に、濃度勾配部の反射をより低減することも考えられる。このように、最表層のMgF2膜16を2回に分けて成膜する理由は、マスク13を取り外すためにチャンバ内を大気等に晒した際に、第8層のTixOy膜15が酸化することを防止するためである。従って、MgF2膜16aの膜厚は酸化防止を実現できる厚さであればよい。
【0034】
更に別の方法として、第8層のTixOy膜15の成膜終了後に、図7に示すようにMgF2膜16aを例えば光学膜厚n×dでλ/32(λ=540nm)成膜する。その後に、チャンバ内から基板11に設けたマスク13を取り外し、MgF2膜16bを光学膜厚n×dで7λ/32成膜する方法等も考えられる。最表層のMgF2膜16aの最初の成膜では、図3、図4に示すようなマスク13を使用しているため、膜厚はグラデーション傾斜を有する形状になる。しかし、それは最厚部でλ/32の膜厚であり、マスク13を取り外した後に成膜するMgF2膜16bは7λ/32の一定膜厚部が支配的な膜厚となるため、最表層の膜厚傾斜部の影響は殆ど受けずに、効率良く反射を抑制することができる。
【0035】
しかし、ND膜の最表層に反射防止を目的とした層を設ける手段だけで、反射防止を実現すると、濃度が薄くなるに従って極端に反射率が大きくなり、それに起因してゴーストやフレアによる不具合が発生してしまうことがある。
【0036】
図8は基板11にND膜のみを成膜した場合の濃度1.0、0.5、0.1の領域における分光反射率を示すグラフ図であり、濃度0.1での反射率が7%強程度と極端に高くなっているのが分かる。更に本実施例では、膜厚変化により濃度変化を実現しているため、位相差が発生してしまい、これより画像劣化を引き起こしてしまう場合がある。
【0037】
そこで、位相差を低減しかつND膜面の反射率をフィルタ全域として更に低減するために、ND膜が生成されている基板11の裏面に反射防止膜を成膜する。図3、図4に示したようなマスク13を設置し、真空蒸着法を用いて図9に示すように、SiO2膜21とTiO2膜22を交互に積層した構成の第1〜4層の反射防止膜を成膜する。これは、基板11の表面に成膜したND膜を作製したマスク13と全く同様に設計し、膜厚分布が形成される方向が逆になるように成膜する。
【0038】
最表層である第5層のSiO2膜23はマスク13を取り外し、光学膜厚n×d(nは屈折率、dは機械膜厚)でλ/4(λ=540nm)成膜した。この際に、予め基板11とマスク13とが形成する角度、マスク13を構成する遮蔽板12と遮蔽板12との距離、基板11からマスク13の最も離れた部分の距離を反射防止膜の厚みが最適な値となるように計算し、マスク13の設計値に反映させる。
【0039】
この反射防止膜を成膜する際のマスク13の設計値算出方法としては、各濃度でのND膜の各層の膜厚をND膜の最大濃度の部分の膜厚から算出し、その値より各濃度での最適な反射防止膜を設計することが考えられる。この際に、ND膜の濃度が最大値から最小値になるに従って、それに対峙する反射防止膜の各層の膜厚が連続的に厚くなるように条件を追加し計算を行う。算出した各濃度に対する反射防止膜の膜厚から近似的な曲線を形成し、近似曲線に適したマスク13の設計値を算出する。
【0040】
また他の例としては、ND膜を作製したマスク13と全く同様に、基板11とマスク13とが形成する角度、マスク13を構成する遮蔽板12aと遮蔽板12bとの距離、基板11からマスク13の最も離れた部分の距離を設定する。そして、膜厚の増減方向が逆になるように、ND膜と対峙する基板11の裏面に反射防止膜を成膜する方法も考えられる。この場合に、ND膜の膜厚分布と全く逆の比で反射防止膜の膜厚が分布されるので、最も効率的に位相差を補正することができる。しかし、反射防止に必ずしも適した膜厚分布であるとは限らないので、ND膜の条件によって確認が必要である。
【0041】
本来、各濃度領域での反射防止条件を考えた場合には、それぞれの濃度で最適条件が変化するため、理想的には各濃度において最適条件で反射防止膜を構成することが望ましい。しかし、本実施例のように濃度が連続的に変化するグラデーション勾配を有するND膜の場合には、その最適条件を全て反映させた反射防止膜を生成することは極めて困難である。しかも、濃度を膜厚により制御する場合に、反射防止膜の最適膜厚分布は必ずしも連続的とは限らない。
【0042】
そこで、各濃度での反射防止条件を検討した結果、近似的に各層の膜厚分布を連続的に変化させても、可視波長領域全体的には反射率をより低減できる解が存在することを見い出した。これにより、膜厚が異なるために発生する位相差を補正するために、ND膜と対峙する基板11の裏面に連続的に変化する膜厚分布を有する反射防止膜を作製した場合であっても、ND面の反射率を低減することが可能である。
【0043】
このように、基板11の両面にND膜と反射防止膜を成膜した後に、空気中において110℃で1時間の熱処理を行った。110℃による熱処理を選択したのは、100℃未満では環境安定性向上の効果が不十分であり、130℃を超えると基板11の熱的劣化を生じて膜にクラックが発生する等の問題が生ずるためである。本実施例の条件下においては、熱処理の温度は110〜130℃の間が好適である。
【0044】
環境安定性を調べるため、合成樹脂製のNDフィルタ10に対して60℃、85%、240時間の放置試験を行い、試験前後での透過率を測定すると、その差は0.2%以下と殆ど差は見られなかった。参考として、熱処理を行わないものを同様な環境試験を行い、試験前後での透過率を測定すると2%前後増加していた。
【0045】
このような現象が発生する要因としては、真空蒸着時の基板11に対する温度が低いことが挙げられる。膜の封止密度は成膜時の基板11の温度が大きく影響し、温度が低いと封止密度が低くなり、水分・酸素等を透過し易い。そのため、吸収膜であるTixOy膜15自体の酸化が促進されることと、それを保護するAl23膜14等の誘電体膜の保護効果が少ないこととの両方の影響から透過率が上昇するものと考えられる。熱処理を行うと環境安定性が向上するのは、エージング効果であると推定される。
【0046】
基板11にガラス基板を用いる場合には、基板温度は200〜250℃、望ましくは300℃前後まで加熱して成膜する。しかし、基板11が合成樹脂の場合には、基板11が熱収縮を起こさない温度で成膜する必要があり、基材や成膜時間等の諸条件によっても異なるが、本実施例であればその基板温度は130℃未満に制約される。
【0047】
図10は上述の方法により作製されたNDフィルタにおける濃度0.1、0.5、1.0の各領域での分光反射率のグラフ図を示している。基板11にND膜のみを成膜した場合の分光反射率である図8と比較すると、特に濃度が薄い濃度0.1での反射率が大きく低減されており、全濃度領域では平均的に反射率が低減されている。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】撮影光学系の構成図である。
【図2】NDフィルタのグラデーション濃度分布図である。
【図3】基板とマスクの斜視図である。
【図4】基板とマスクの断面図である。
【図5】NDフィルタの積層構成図である。
【図6】最表層の構成図である。
【図7】最表層の構成図である。
【図8】基板表面にND膜のみを成膜した場合の分光反射率のグラフ図である。
【図9】反射防止膜の積層構成図である。
【図10】基板表面にND膜、基板裏面に反射防止膜を成膜した場合の分光反射率のグラフ図である。
【符号の説明】
【0049】
1、3〜5 レンズ
2 光量絞り装置
6 ローパスフィルタ
7 固体撮像素子
8 絞り羽根支持板
9 絞り羽根
10 NDフィルタ
11 基板
12 遮蔽板
13 マスク
14 Al23
15 TixOy膜
16 MgF2
21、23 SiO2
22 TiO2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続的に濃度が変化する領域を有し可視波長領域の透過光を減衰する光減衰膜を表面に成膜し、前記連続的に濃度が変化する領域と対峙する裏面に、膜厚が連続的に変化する領域を含む反射防止膜を成膜したことを特徴とする光量絞り用NDフィルタ。
【請求項2】
前記反射防止膜は全領域で膜厚が連続的に変化するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の光量絞り用NDフィルタ。
【請求項3】
前記反射防止膜の膜厚の増減方向は、前記光減衰膜の連続的に濃度が変化する領域の膜厚の増減方向と逆方向としたことを特徴とする請求項1又は2に記載の光量絞り用NDフィルタ。
【請求項4】
前記光減衰膜は多層膜により形成したことを特徴とする請求項1〜3の何れか1つの請求項に記載の光量絞り用NDフィルタ。
【請求項5】
前記反射防止膜は多層膜により形成したことを特徴とする請求項1〜3の何れか1つの請求項に記載の光量絞り用NDフィルタ。
【請求項6】
前記反射防止膜を形成する前記多層膜は膜厚が連続的に変化する層を有することを特徴とする請求項5に記載の光量絞り用NDフィルタ。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1つの請求項に記載の光量絞り用NDフィルタを搭載したことを特徴とする光量絞り装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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