説明

光量調節羽根の融着装置及び光量調節羽根の融着方法

【課題】光量調節羽根を構成する薄板部材及び軸部材を互いにレーザ融着する際に、融着強度の向上を図ると共に寸法精度を保つことができ、且つ製造コストを低減することができる光量調節羽根の融着装置を提供する。
【解決手段】融着装置10は、地板4と、軸部材1bが嵌入される孔が設けられ、軸部材1bが該孔に嵌入された状態でレーザ光の軸部材1b以外の照射領域をマスクするマスク部材3と、レーザ光を光量調節羽根1の軸部材1bに照射するレーザヘッド8とを備える。地板4に載置された薄板部材1aに対して軸部材1bをマスク部材3で位置決めし、レーザ光の軸部材1b以外の照射領域をマスクし、軸部材1bと薄板部材1aとの当接領域にレーザ光を照射する。マスク部材3を軸部材1bの比熱より低い比熱を有する部材で構成するとともに、当接領域におけるレーザ光の照射面積を軸部材1bと薄板部材1aとの当接領域の面積より小さくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カメラ、ビデオカメラ、デジタルカメラ等の光学機器に用いられる光量調節羽根の融着装置及び光量調節羽根の融着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、固体撮像素子を内蔵したビデオカメラ、デジタルカメラなどのカメラやフイルムを使用するカメラには、レンズの焦点深度の確認又はフイルムや固体撮像素子に結像される被写体の光量調節のために、開口径を制御する絞り装置(光量調節装置)が設けられている。また、映像を投影するための光学機器に光量調節装置を有したものがある。このような光量調節装置としては、複数の絞り羽根(光量調節羽根)を用い、虹彩のように光軸を中心にして開口径を変化させるタイプと、2枚の絞り羽根を互いに反対方向に相対移動させて開口径を変化させるタイプのものが代表的である。
【0003】
前者のタイプは、開口径を連続的に変えられるので、任意の開口径を得ることができるという利点があるものの、円形に近い開口が得られるようにするためには絞り羽根の枚数を多くする必要があるため、コスト的に不利な面がある。
【0004】
一方、後者のタイプは、絞り羽根の枚数が少ないためにコスト的に有利であるが、円形に近い開口径が得られないという欠点がある。
【0005】
ここで、上記のような絞り羽根は、一般的に、遮光のための羽根基部と羽根基部を回動するために設けられた軸部とで構成されている。
【0006】
従来、羽根に軸を形成するには、シート状の金属板やプラスチックシートに金属製の軸を機械的にかしめたり、羽根シートに樹脂をアウトサート成型で形成するので、羽根の製作に多くの工数が掛かったり、信頼性に問題があった。また、軸が取り付けられている羽根の裏側には軸のかしめ跡やアウトサート成形された軸の羽根取り付け部が突出しているため、羽根が駆動する際にかしめ跡や羽根取付け部が地板に引っかかる場合があった。
【0007】
図6は、従来の絞り羽根の一例を示す図であり、(a)は平面図であり、(b)は(a)の線分A−Aに沿う部分断面図であり、(c)は(a)の線分B−Bに沿う部分断面図である。
【0008】
図6(a)〜(c)に示すように、従来の絞り羽根としての露出制御用羽根60は、羽根のダボ保持位置に切り込みを設け、羽根にダボを成形する射出成形用金型に羽根を送り、羽根の型締め押えの際に、金型の一部で切り込みを押し上げて切り込みを金型のキャビテイ内に突出させ、ダボを射出成形するときに切り込みをダボの樹脂で埋設保持することにより製造される(例えば、特許文献1参照)。これによれば、絞り羽根又はシャッタ羽根に孔をあけることなく、切込みにてダボ内へ樹脂が埋設保持されるため、ダボ保持強度の向上を図ることができる。
【特許文献1】特公平6−68595号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記のような絞り羽根は、ダボが羽根と共に射出成形されるので、樹脂射出・冷却・離型に時間が掛かることによるコストアップや、成形機・成形型等の設備費が高くなり、製造コストが増大するという問題がある。
【0010】
ここで、軸部材と薄板部分を樹脂で一体的に成形する方法が提案されているが、薄板部分の厚さの関係上、十分な面積の羽根を成形することのできる型内における樹脂の流動性には限界があり、大きい羽根を安価に且つ一体的に成形するのは困難である。
【0011】
また、二つの樹脂部材をレーザ光で接合する方法が提案されている。この方法を実現すするための装置は、基本的に、レーザ光照射ヘッド、レーザ発振機及びレーザ光制御ユニットを備えており、設備コストが比較的小さくすることができ、且つ加工ヘッドがワークに対して非接触であることから小型部品の接合に好適である。
【0012】
しかしながら、写真撮影用の一般的なカメラの光量調節羽根は、軸部材の直径が1.4mm程度、高さTが0.8mm程度,薄板部材の厚みtが0.1mm前後と、非常に小さいため、従来のレーザ樹脂融着方法においても、軸部材と薄板部材の位置決め方法や、レーザ光エネルギーの制御が困難である。
【0013】
また、軸部材は単純な円筒形状に成形される必要があるため、位置決めをする際に用いられる突起部等の部位を軸部材に設けることができない。特に、複数の羽根部材を組合わせて光量調節を行う方法においては、羽根部材の回転動作等の基準となる軸部材と遮光羽根としての薄板部材との位置精度に誤差が生じると所定位置での遮光を確実に行うことができず、その誤差の積み重ねにより、十分な光量調節が行われない可能性がある。
【0014】
また、羽根部材が薄く且つ小さいので、レーザ光のエネルギーが強すぎると融点までの急速な温度上昇により溶融が急激に行われる。この結果、薄板部材においては孔があいたり、軸部材では全体が加熱されて膨張、熱変形して寸法精度を保てなくなってしまう。一方、レーザ光のエネルギーが弱過ぎると融点までの温度上昇が不十分になり、溶融状態が不安定となって、融着強度が不足する。
【0015】
本発明の目的は、光量調節羽根を構成する薄板部材及び軸部材を互いにレーザ融着する際に、融着強度の向上を図ると共に寸法精度を保つことができ、且つ製造コストを低減することができる光量調節羽根の融着装置及び光量調節羽根の融着方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、請求項1記載の光量調節羽根の融着装置は、いずれか一方がレーザ光透過性樹脂から成り他方がレーザ光吸収性樹脂から成る軸部材及び薄板部材をレーザ光で融着する光量調節羽根の融着装置において、前記薄板部材を載置する載置台と、前記軸部材の周面と接触して、前記軸部材を前記薄板部材に対して位置決めする位置決め部材と、前記軸部材と前記薄板部材との当接領域に前記レーザ光を照射する際に、前記レーザ光の照射領域を制限するマスク部材と、前記軸部材と前記薄板部材との当接領域に前記レーザ光を照射するレーザ光照射手段とを備え、前記位置決め部材の比熱をT1、前記軸部材の比熱をT2、前記軸部材と前記薄板部材との当接領域の面積をS1、前記当接領域における前記レーザ光の照射面積をS2とすると、T1<T2、且つS1>S2の関係が成り立つことを特徴とする。
【0017】
請求項5記載の光量調節羽根の融着装置は、いずれか一方がレーザ光透過性樹脂から成り他方がレーザ光吸収性樹脂から成る軸部材及び薄板部材をレーザ光で融着する光量調節羽根の融着装置において、前記レーザ光を透過する材料から成ると共に前記軸部材を載置する載置台と、前記軸部材の周面と接触して、前記軸部材を前記薄板部材に対して位置決めする位置決め部材と、前記軸部材と前記薄板部材との当接領域に前記レーザ光を照射する際に、レーザ光の照射領域を制限するマスク部材と、前記載置台の下方に設けられ、前記軸部材と前記薄板部材との当接領域に前記レーザ光を照射するレーザ光照射手段とを備え、前記位置決め部材の比熱をT1、前記軸部材の比熱をT2、前記軸部材と前記薄板部材との当接領域の面積をS1、前記当接領域における前記レーザ光の照射面積をS2とすると、T1<T2、且つS1>S2の関係が成り立つことを特徴とする。
【0018】
請求項8記載の光量調節羽根の融着方法は、いずれか一方がレーザ光透過性樹脂から成り他方がレーザ光吸収性樹脂から成る軸部材及び薄板部材をレーザ光で融着する光量調節羽根の融着方法であって、前記軸部材の周面と接触して、前記薄板部材に対して前記軸部材を位置決めする位置決めステップと、前記レーザ光の照射領域を制限するマスクステップと、前記軸部材と前記薄板部材との当接領域に前記レーザ光を照射するレーザ光照射ステップとを有し、前記位置決め部材の比熱をT1、前記軸部材の比熱をT2、前記軸部材と前記薄板部材との当接領域の面積をS1、前記当接領域における前記レーザ光の照射面積をS2とすると、T1<T2、且つS1>S2の関係が成り立つことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、位置決め部材を軸部材の比熱より低い比熱を有する材料で構成するとともに、当接領域におけるレーザ光の照射面積を軸部材と薄板部材との当接領域の面積より小さくする。これにより、軸部材の薄板部材に対する位置決め精度が高く、融着強度が十分に強い融着を安定して実現することができ、量産時に安価な設備コストで高精度な光量調節羽根を製造することができる。したがって、光量調節羽根を構成する薄板部材及び軸部材を互いにレーザ融着する際に、融着強度の向上を図ると共に寸法精度を保つことができ、且つ製造コストを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら詳述する。
【0021】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る光量調節羽根の融着装置を概略的に示す部分断面図である。
【0022】
図1において、10は、光量調節羽根を構成する軸部材及び薄板部材をレーザ光で融着する融着装置である。4は、レーザヘッド8に対して精度よく配置され、真鍮やアルミニウムなどの金属から成る地板(載置台)である。地板4は、後述する光量調節羽根の薄板部材1aを載置する平坦面4bと、平坦面4bに設けられ鉛直方向に突出する一対の位置決めピン4aを有する。
【0023】
3は、後述する光量調節羽根1の軸部材1bががたつき無く嵌入される円形の孔が設けられ、軸部材1bが該孔に嵌入された状態でレーザ光の軸部材1b以外の照射領域をマスクするマスク部材(位置決め部材)である。すなわち、マスク部材3は、軸部材1bと薄板部材1aとの当接領域に後述するレーザヘッド8からレーザ光を照射する際に、軸部材1bのみにレーザ光が照射され薄板部材1aにレーザ光が照射されないようにレーザ光の照射領域を制限する。また、マスク部材3は、後述する錘部材5を介して地板4に着脱可能に取り付けられ、軸部材1bの外周面と接触して、軸部材1bを薄板部材1aに対して位置決めする。マスク部材3は、マスク部材3の比熱をT1、軸部材1aの比熱をT2とすると、T1<T2の関係が成り立つような材料、且つレーザ光を透過しない材料から成り、例えば真鍮から成る。また、マスク部材3は、孔の光源側端部においてレーザ光の進入を容易にする面取り形状を有する。
【0024】
尚、本実施の形態では、マスク部材3は、位置決め部材と一体的に構成され、マスク部材としての機能のみならず位置決め部材としての機能を有しているが、これに限るものではなく、位置決め部材とマスク部材が個別に設けられてもよい。具体的には、融着装置10は、マスク部材3に代えて、地板4に着脱可能に取り付けられ、軸部材1bを薄板部材1aに対して位置決めする位置決め部材と、軸部材1bが嵌入される孔が設けられ、軸部材1bが該孔に嵌入された状態でレーザ光の軸部材1b以外の照射領域をマスクするマスク部材とを備えていてもよい。
【0025】
5は、マスク部材3を介して軸部材1bに載置されると共に、地板4上(載置台上)にマスク部材3を保持する錘部材である。錘部材5の内部には、マスク部材3及び軸部材1b上に載置されるガラス材6と、ガラス材6上に載置され該ガラス材6を押さえる押さえ部材7とが配設されている。また、錘部材5には、一対の位置決めピン4aが挿入される一対の位置決め孔5aが設けられており、一対の位置決め孔5aに一対の位置決めピン4aが挿入されることにより、錘部材5が地板4に精度良く固定される。錘部材5は、真鍮やアルミニウム等の比熱の低い、質量の重い材料から成る。
【0026】
軸部材1bがガラス材6の下面から受ける力によって薄板部材1aに当接した状態では、錘部材5の下面と薄板部材1aの上面との間に僅かな間隙Aが存在する。これにより、錘部材5全体の重力が軸部材1bに加えられ、軸部材1bが薄板部材1aに所定の圧力で圧接される。すなわち、軸部材1bは、地板4、マスク部材3、錘部材5及びガラス板6によって、薄板部材1aの所定位置に精度良く、且つ圧接された状態で保持される。
【0027】
8は、不図示のレーザ光発振機から出力され且つ不図示のガラスファイバー及び光学系を透過したレーザ光を光量調節羽根1の軸部材1bに照射するレーザヘッド(レーザ光照射手段)である。本実施の形態では、光学系の先端から被写体までの距離が30mmの場合に約0.6mmの最小のスポット径に集光する光学系を用いる。この光学系を用いた場合、光学系の先端から軸部材1bと薄板部材1aとの接合面までの距離を15mmに設定すると、レーザ光のスポット径は拡大し、およそ10mmとなる。
【0028】
図2は、図1の融着装置により製造される光量調節羽根を示す平面図である。
【0029】
図2において、光量調節羽根1は、遮光性を有し開口量を規制する薄板部材1aと、該羽根に設けられ絞り羽根の動作を規制する軸部材1bとで構成されている。薄板部材1aには、地板4の一対の位置決めピン4aが挿入される一対の孔1cが設けられており、一対の孔1cに一対の位置決めピン4aが挿入されることにより、薄板部材1aが地板4に精度良く固定される。薄板部材1aはレーザ光吸収性樹脂から成り、例えば黒色塗料などを混ぜたポリエチレンテレフタレートのシート材をプレス加工で打ち抜いて作製される。軸部材1bはレーザ光透過性樹脂から成り、例えば透明なポリカーボネートのナチュラルグレードなどで円筒形状に成形される。
【0030】
次に、図1の融着装置を用いて光量調節羽根を製造する方法を説明する。
【0031】
まず、レーザ光吸収性樹脂から成るシート材をプレス加工で打ち抜いて薄板部材1aを作製し、さらに薄板部材1aの所定位置に一対の孔1cを形成する。次に、一対の孔1cに地板4の一対の位置決めピン4aが挿通された状態で、地板4の平坦面4bに薄板部材1aを載置する。そして、錘部材5の一対の位置決め孔5aに地板4の一対の位置決めピン4aを挿入させた後、マスク部材3の孔に軸部材1bを嵌入し、さらに、軸部材1bの上面にガラス材6及び押さえ部材7を載置する。これにより、軸部材1が薄板部材1aの所定位置に精度良く圧接される。
【0032】
次に、レーザヘッド8から軸部材1bに対して所定出力のレーザ光を所定時間照射する。レーザヘッド8から照射されたレーザ光は、レーザ光透過性樹脂から成る軸部材1bをそのまま透過し、レーザ光吸収性樹脂から成る薄板部材1aに到達し吸収される。このとき、レーザ光は集光しない状態でマスク部材3に遮光されるので、図3に示すように、薄板部材1aの表面には、軸部材1bの外周部を投影した円の内側において、当該円より小さい面積を有する円領域(レーザ光照射領域)が照射される。すなわち、軸部材1bと薄板部材1aとの当接領域の面積をS1、該当接領域におけるレーザ光の照射面積をS2とすると、S1>S2の関係が成り立つ。
【0033】
薄板部材1aの表面がレーザ光により照射されると、照射された薄板部材1aの表面が発熱し、その発熱によって薄板部材1aがレーザ光吸収性樹脂の融点に達して溶融する。また、レーザ光吸収性樹脂の溶融と同時に、照射された薄板部材1aの表面からの熱伝達によって、薄板部材1aの表面に当接する軸部材1bの表面が加熱溶融される。その際、軸部材1bにかかる所定圧力により、薄板部材1aの表面及び軸部材1bの表面の夫々の溶融部分が密着融合する。
【0034】
その後、レーザ光の照射停止による温度低下により、密着融合した溶融部分が固化して、薄板部材1a及び軸部材1bが一体的に接合される。このとき、レーザ光は拡散した状態で接合面に照射されるので、レーザ光吸収性樹脂における温度上昇は比較的緩やかとなり、照射時間の制御が容易になる。また、このとき、マスク部材3及び地板4が軸部材1bに比して比熱の低い金属から成るので、融着面で発生した熱が軸部材1bの内部や薄板部材1aの地板4との当接面に滞ることなく、速やかに熱を放出する。これにより、軸部材1bの変形や薄板部材1aの孔あき等が発生するのを防止することができる。
【0035】
一般的にレーザ光などを用いた融着を行う場合、安定した加工工程とするためには十分なレーザ融着条件の検討が必要になる。レーザ融着条件とは、具体的には、ワークの材料や組合せに合わせ、且つ材料や形状のばらつきなども吸収できる好適なレーザ光の出力、照射時間、圧接力等が該当する。
【0036】
以下、図1の融着装置を用いて光量調節羽根を製造する際の適切なレーザ融着条件について説明する。
【0037】
レーザ光透過性樹脂としてポリカーボネート(溶融点225℃前後)から成る軸部材と、レーザ光吸収性樹脂として遮光材が添加されたポリエチレンテレフタラート(溶融点255℃前後)を主成分とする薄板部材1aを融着する際に、レーザ光として半導体レーザを用いて、照射時間を固定し(例えば、1秒間)、レーザ光の出力を変化させて、各条件における薄板部材と軸部材の溶融状態の様子を表1及び表2に示す。
【0038】
まず、実施例として、デフォーカスされたレーザ光を照射する方法を用いた場合における実験結果を表1に示す。ここで、本実施例におけるデフォーカス量は使用したレーザヘッドの光学系によって最小スポット径となる被写体距離より、8.0mm近づけた、いわゆる前ピント状態で照射している。このときの照射スポットの直径は約10mmであり、軸部材1bの直径より大きい。よって、レーザ光の光束をマスク部材により、所定の照射範囲に限定している。また広がった光束の一部を利用することにより、同じ溶融温度にする為に全体的にレーザ出力は高くなる。
【0039】
【表1】

【0040】
表1において、「△」は、薄板部材又は軸部材の各当接面における溶融状態が溶融不足により不良であることを示し、「×」は、溶融過剰により各当接面以外の部分に変形、膨張、孔あきがあることを示し、「○」は、所定の融着力をもつ良好な溶融状態を示す。また、「OK」は、薄板部材と軸部材との融着結果が良好であることを示す。
【0041】
次に、従来例として、集光されたレーザ光を照射する方法を用いた場合における実験結果を表2に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
表2において、「△」は、薄板部材又は軸部材の各当接面における溶融状態が溶融不足により不良であることを示し、「×」は、溶融過剰により各当接面以外の部分に変形、膨張、孔あきがあることを示し、「○」は、所定の融着力をもつ良好な溶融状態を示す。また、「OK」は、薄板部材と軸部材との融着結果が良好であることを示す。

まず、表2において、レーザ出力が11W(ワット)以下では、軸部材の当接面の溶融状態が不十分であり、12Wにおいて良好な溶融状態となった。レーザ出力が13W以上では溶融過剰となり、レーザ光透過性樹脂が膨張しようとし、接合面の外周、軸の外径方向に膨張、はみ出しが発生し、軸径以上の大きさとなった。また、薄板部材では、レーザ出力が13W以下では溶融不足であり、14Wでは良好な溶融状態となり、15W以上では溶融過剰となって孔があいた。この結果、レーザ出力が11W以下では軸部材及び薄板部材の各当接面が溶融不足であり、12Wでは薄板部材が溶融不足であったため結果として強度不足となり、13W以上では軸部材が過剰に溶融し、所定の形状を維持できなかった。したがって、集光されたレーザ光を照射して溶着する場合は、レーザ出力を調整しただけでは良好な融着を実現することができないことが分かった。
【0044】
一方、表1において、レーザ出力が13W以下では、軸部材の溶融状態が不十分であり、軸部材は14Wから16Wにおいて良好な溶融状態となり、レーザ出力が17W以上では溶融過剰となり、レーザ光透過性樹脂が膨張しようとし、接合面の外周、軸の外径方向に膨張、はみ出しが発生し、軸径以上の大きさとなった。また、薄板部材では、レーザ出力が13W以下では溶融不足であり、15Wから17Wにおいて良好な溶融状態となった。この結果、本実施例においてレーザ出力が15W及び16Wであると、軸部材及び薄板部材の各当接面が互いに良好な溶融状態となって所定の融着強度を得ることができた。したがって、レーザ光のデフォーカス量とマスク部材の使用により、良好な融着を実現できることが分かった。
【0045】
すなわち、本実施例のように、互いに異なる樹脂材料から成る軸部材と薄板部材を融着する際に、融着装置を工夫することにより、良好な融着状態となる条件の範囲を拡大することができたことになる。融着条件の範囲が拡大することにより、レーザ出力の制御のばらつきや、部品の状態のばらつきを吸収できる可能性が高まり、生産工程において安定した加工が達成される。
【0046】
本実施の形態によれば、地板4に載置された薄板部材1aに対して軸部材1bをマスク部材3で位置決めし、レーザ光の軸部材1b以外の照射領域をマスクし、軸部材1bと薄板部材1aとの当接面にレーザ光をデフォーカス照射する。また、マスク部材3を軸部材1bの比熱より低い比熱を有する部材で構成するとともに、当接面におけるレーザ光の照射スポットの面積を軸部材1bと薄板部材1aとの当接面の面積より小さくする。これにより、軸部材1bの薄板部材1aに対する位置決め精度が高く、融着強度が十分に強い融着を安定して実現することができ、量産時に安価な設備コストで高精度な光量調節羽根1を製造することができる。したがって、光量調節羽根1を形成する薄板部材1a及び軸部材1bを互いにレーザ融着する際に、融着強度の向上を図ると共に寸法精度を保つことができ、且つ製造コストを低減することができる。
【0047】
本実施の形態では、地板4は、平坦面4bに設けられ鉛直方向に突出する一対の位置決めピン4aを有するが、これに限るものではなく、少なくとも1つの突起部材が設けられていてもよい。この場合、錘部材5には、一対の位置決め孔5aに代えて、少なくとも1つの突起部材が挿入される少なくとも1つの位置決め孔が設けられる。また、薄板部材1aには、一対の孔1cに代えて、少なくとも1つの突起部材が挿通される少なくとも1つの孔が設けられる。
【0048】
また、本実施の形態では、デフォーカス量として、使用したレーザヘッドの光学系によって最小スポット径となる被写体距離より8.0mm近づけた、いわゆる前ピント状態で照射しているが、該デフォーカス量を変更するデフォーカス量変更手段を有していてもよい。これにより、更に良好な融着を実現することができる。
【0049】
本第1の実施の形態では、溶着装置として最も簡単な構成について示したが、以下に示す第2の実施の形態は、その構成が第1の実施の形態と基本的に同じであり、薄板部材に小径の軸部材をレーザ光により融着するものであるが、第1の実施の形態に比して大量生産に好適である構成を有している。
【0050】
ここで、従来、軸部材と薄板部材を高精度に位置決めする為には、融着装置において軸部材と薄板部材とを分けてセットし、セット後に各部材を反転する必要があり、大量生産には好適とは言えない。
【0051】
さらに、薄板部材1aの位置を基準として、軸部材1bとマスク部材の孔との嵌合がきついほど軸部材1bががたつかないので、部品毎にばらつきなく、溶着固定することができる一方、軸部材1bとマスク部材の孔との嵌合がきついことで、マスク部材の孔への軸部材1bの装てん及び溶着後の光量調節羽根の取り出しの際に引っかかりが生じて円滑に作業できない場合がある。また、一般に軸部材1bは真円形状なので、軸部材1bをマスク部材の孔から外すことが特に困難となる。
【0052】
図4は、本発明の第2の実施の形態に係る光量調節羽根の融着装置を概略的に示す部分断面図である。
【0053】
図4において、40は、光量調節羽根を構成する軸部材及び薄板部材をレーザ光で融着する融着装置である。16は、レーザ光を透過する材料、例えばガラスから成ると共に光量調節羽根の軸部材11bを載置する載置台である。13は、薄板部材11aが軸部材11bに載置された状態で、載置台16を透過するレーザ光の軸部材11b以外の照射領域をマスクするマスク部材(位置決め部材)である。すなわち、マスク部材13は、軸部材11bと薄板部材11aとの当接領域に後述するレーザヘッド18からレーザ光を照射する際に、軸部材11bのみにレーザ光が照射され薄板部材11aにレーザ光が照射されないようにレーザ光の照射領域を制限する。また、マスク部材13は、軸部材11bの外周面と接触して、軸部材11bを薄板部材11aに対して位置決めする。15は、薄板部材11aに載置され該薄板部材11aを押さえる錘部材である。17は、載置台16を支持する地板である。18は、載置台16の下方に設けられ、軸部材11bと薄板部材11aとの当接面にレーザ光をデフォーカス照射するレーザヘッド(レーザ光照射手段)である。
【0054】
また、マスク部材13の比熱をT1、軸部材11bの比熱をT2、軸部材11bと薄板部材11aとの当接領域の面積をS1、該当接領域におけるレーザ光の照射面積をS2とすると、T1<T2、且つS1>S2の関係が成り立つ。
【0055】
すなわち、本実施の形態では、レーザヘッド18は垂直方向、下方から上方に向けてレーザ光を照射し、ワークとしての軸部材11b及び薄板部材11aを上から順に融着装置に載置し、更に薄板部材1上に錘部材15を載置するように構成されている。
【0056】
図5は、図4におけるマスク部材13の構成を示す平面図であり、(a)は、軸部材11bを薄板部材11aに融着する前の状態を示し、(b)は、軸部材11bを薄板部材11aに融着する際の状態を示す。
【0057】
図5(a)及び(b)において、マスク部材13は、地板17に取り付けられ、略コの字型形状を有する固定側マスク部13aと、固定側マスク部13aに対して水平方向に移動可能に設けられ、固定側マスク部13aと協働して軸部材11bを固定する可動側マスク部13bとを有する。また、可動側マスク部13bにはバネ等の不図示の付勢部材が取り付けられており、可動側マスク部13bは付勢部材により固定側マスク部13aの方向に付勢される。また、固定側マスク部13a及び可動側マスク部13bは、夫々、軸部材11bを挟持するべく、互いに対向する面において曲面形状の切り欠き部を有する。
【0058】
軸部材11bを薄板部材11aに融着する前は、可動マスク部材14を、軸部材11bを挟持する位置から退避させる。これにより、融着装置への軸部材12の装てんが容易となる。また、軸部材11bを薄板部材11aに融着する際には、付勢部材により付勢された可動側マスク部13bが固定側マスク部の方向に移動し、固定側マスク部13a及び可動側マスク部13bが、融着装置に装てんされた軸部材12を挟持する。これにより、融着時に軸部材11bを容易に且つ確実に固定することができる。軸部材11bを薄板部材11aに融着した後は、可動マスク部材14を、軸部材11bを挟持する位置から退避させる。これにより、融着装置からの軸部材12及び薄板部材11aの取り出しが容易となる。
【0059】
本実施の形態によれば、ガラスから成る載置台16に軸部材11bを載置し、載置台16に取り付けられたマスク部材13により、軸部材11bを薄板部材11aに対して位置決めし、薄板部材11aが軸部材11bに載置された状態で、載置台16を透過するレーザ光の軸部材11b以外の照射領域をマスクし、載置台16の下方に設けられたレーザヘッド18により軸部材11bと薄板部材11aとの当接面にレーザ光をデフォーカス照射する。また、マスク部材13を軸部材11bの比熱より低い比熱を有する部材で構成するとともに、当接面におけるレーザ光の照射スポットの面積を軸部材11bと薄板部材11aとの当接面の面積より小さくする。これにより、軸部材11bの薄板部材11aに対する位置決め精度が高く、融着強度が十分に強い融着を安定して実現することができ、量産時に安価な設備コストで高精度な光量調節羽根11を製造することができる。したがって、光量調節羽根11を形成する薄板部材11a及び軸部材11bを互いにレーザ融着する際に、融着強度の向上を図ると共に寸法精度を保つことができ、且つ製造コストを低減することができる。
【0060】
本実施の形態では、マスク部材13は、2つの部材、すなわち固定側マスク部13a及び可動側マスク部13bを有するが、これに限るものではなく、3つ以上のマスク部で構成されてもよい。また、この場合、3つ以上のマスク部のうち少なくとも1つが可動側マスク部であればよい。
【0061】
上記実施の形態では、軸部材をレーザ光透過性樹脂とし、薄板部材をレーザ光吸収性樹脂としたが、両者の材料が逆であってもよい。すなわち、軸部材を黒いレーザ光吸収性樹脂で成形し、薄板部材の基材の材料はレーザ光透過性樹脂であって、接合部を除き、遮光性塗装、蒸着処理がなされていてもよい。また、軸部材及び薄板部材のうち、いずれか一方がレーザ光透過性樹脂から成り他方がレーザ光吸収性樹脂から成るものであってもよい。
【0062】
また、上記実施の形態では、軸部材にポリカーボネート、薄板部材にポリエチレンテレフタラートを使用したが、軸部材及び薄板部材の材料は、ポリカーボネート及びポリエチレンテレフタラート以外の組合せであっても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る光量調節羽根の融着装置を概略的に示す部分断面図である。
【図2】図1の融着装置により製造される光量調節羽根を示す平面図である。
【図3】軸部材と薄板部材の当接面の面積及び該当接面におけるレーザ光の照射スポットの面積を示す図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係る光量調節羽根の融着装置を概略的に示す部分断面図である。
【図5】図4におけるマスク部材の構成を示す平面図であり、(a)は、軸部材を薄板部材に融着する前の状態を示し、(b)は、軸部材を薄板部材に融着する際の状態を示す。
【図6】従来の絞り羽根の一例を示す図であり、(a)は平面図であり、(b)は(a)の線分A−Aに沿う部分断面図であり、(c)は(a)の線分B−Bに沿う部分断面図である。
【符号の説明】
【0064】
1 光量調節羽根
1a 薄板部材
1b 軸部材
3 マスク部材
4 地板
4a 一対の位置決めピン
4b 平坦面
5 錘部材
5a 一対の位置決め孔
6 ガラス材
7 押さえ部材
8 レーザヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
いずれか一方がレーザ光透過性樹脂から成り他方がレーザ光吸収性樹脂から成る軸部材及び薄板部材をレーザ光で融着する光量調節羽根の融着装置において、
前記薄板部材を載置する載置台と、
前記軸部材の周面と接触して、前記軸部材を前記薄板部材に対して位置決めする位置決め部材と、
前記軸部材と前記薄板部材との当接領域に前記レーザ光を照射する際に、前記レーザ光の照射領域を制限するマスク部材と、
前記軸部材と前記薄板部材との当接領域に前記レーザ光を照射するレーザ光照射手段とを備え、
前記位置決め部材の比熱をT1、前記軸部材の比熱をT2、前記軸部材と前記薄板部材との当接領域の面積をS1、前記当接領域における前記レーザ光の照射面積をS2とすると、T1<T2、且つS1>S2の関係が成り立つことを特徴とする光量調節羽根の融着装置。
【請求項2】
前記位置決め部材は、前記マスク部材と一体的に構成されることを特徴とする請求項1記載の光量調節羽根の融着装置。
【請求項3】
前記位置決め部材を介して前記軸部材に載置されると共に、前記載置台上に前記位置決め部材を保持する錘部材を更に備え、
前記載置台には、少なくとも1つの突起部材が設けられ、
前記錘部材には、前記少なくとも1つの突起部材が挿入される少なくとも1つの位置決め孔が設けられることを特徴とする請求項1又は2記載の光量調節羽根の融着装置。
【請求項4】
前記載置台は、前記薄板部材に設けられた少なくとも1つの孔に前記少なくとも1つの突起部材が挿通された状態で前記薄板部材を載置することを特徴とする請求項3記載の光量調節羽根の融着装置。
【請求項5】
いずれか一方がレーザ光透過性樹脂から成り他方がレーザ光吸収性樹脂から成る軸部材及び薄板部材をレーザ光で融着する光量調節羽根の融着装置において、
前記レーザ光を透過する材料から成ると共に前記軸部材を載置する載置台と、
前記軸部材の周面と接触して、前記軸部材を前記薄板部材に対して位置決めする位置決め部材と、
前記軸部材と前記薄板部材との当接領域に前記レーザ光を照射する際に、レーザ光の照射領域を制限するマスク部材と、
前記載置台の下方に設けられ、前記軸部材と前記薄板部材との当接領域に前記レーザ光を照射するレーザ光照射手段とを備え、
前記位置決め部材の比熱をT1、前記軸部材の比熱をT2、前記軸部材と前記薄板部材との当接領域の面積をS1、前記当接領域における前記レーザ光の照射面積をS2とすると、T1<T2、且つS1>S2の関係が成り立つことを特徴とする光量調節羽根の融着装置。
【請求項6】
前記位置決め部材は、前記マスク部材と一体的に構成されることを特徴とする請求項5記載の光量調節羽根の融着装置。
【請求項7】
前記マスク部材は、前記載置台に取り付けられる固定側マスク部と、前記固定側マスク部に対して移動可能に設けられ、前記固定側マスク部と協働して前記軸部材を固定する可動側マスク部とを有することを特徴とする請求項6記載の光量調節羽根の融着装置。
【請求項8】
いずれか一方がレーザ光透過性樹脂から成り他方がレーザ光吸収性樹脂から成る軸部材及び薄板部材をレーザ光で融着する光量調節羽根の融着方法であって、
前記軸部材の周面と接触して、前記薄板部材に対して前記軸部材を位置決めする位置決めステップと、
前記レーザ光の照射領域を制限するマスクステップと、
前記軸部材と前記薄板部材との当接領域に前記レーザ光を照射するレーザ光照射ステップとを有し、
前記位置決め部材の比熱をT1、前記軸部材の比熱をT2、前記軸部材と前記薄板部材との当接領域の面積をS1、前記当接領域における前記レーザ光の照射面積をS2とすると、T1<T2、且つS1>S2の関係が成り立つことを特徴とする光量調節羽根の融着方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−53621(P2009−53621A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−222710(P2007−222710)
【出願日】平成19年8月29日(2007.8.29)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】