説明

光電変換素子およびこれを備えた太陽電池

【課題】電荷輸送能および熱安定性に優れ、かつ優れた光電変換効率を有する光電変換素子を提供する。
【解決手段】光電変換素子10は、作用電極6と、該作用電極と対をなすように対向して設けられた対極5と、作用電極および対極に挟持された固体層4とを有し、該固体層は、下記式(1)で表される構造単位を有するチオフェン重合体と、フラーレン、フラーレン誘導体、およびカーボンナノチューブからなる群より選択された1種以上とを含む。


(式(1)中、R1はそれぞれ独立して、置換または非置換の炭素数1〜20のアルキル基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子およびそれを備えた太陽電池に関し、特に、新規なチオフェン重合体を固体層に含む光電変換素子およびそれを備えた太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
光電変換材料は、光電効果を利用して光エネルギーを電気エネルギーに変換するという特性を有する材料である。エネルギー変換のメカニズムは、まず、光電変換材料に光が照射されることにより、その材料の構成原子に束縛されていた電子が自由に動けるようになる。これにより自由電子と該自由電子の抜け孔(正孔)とが発生する。この自由電子と正孔とを効率よく分離することにより、電気エネルギーを取り出す。
【0003】
このような特性を有する光電変換材料は種々の用途に応用されているが、その代表的な用途として太陽電池が挙げられる。太陽電池は、太陽光を直接電気エネルギーに変換し得ることから、化石燃料に代替するエネルギー源として注目を集めている。
【0004】
現在の一般的に用いられる太陽電池は、シリコンを主原料として用いたものが多いが、材料コストの面から改善が求められている。材料コストを削減して太陽電池を作製する試みとしては、色素増感太陽電池や、導電性高分子を用いた固体型太陽電池がある。たとえば特許文献1および2には、特定の複素環高分子とフラーレン誘導体とを電荷輸送材料に用いた光電変換素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−116617号公報
【特許文献2】特開2006−278682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の特許文献1および2に開示される光電変換素子をもってしても、十分な変換効率を得られておらず、さらなる変換効率の向上が要求されている。
【0007】
本発明は、上記のような現状を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、電荷輸送材料として有用なチオフェン重合体を固体層に備えることにより、光電変換素子の光電変換効率および耐久性を高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ベンゾチアジアゾル誘導体と、チオフェン誘導体とを交互に結合した構造を繰り返し単位として有するチオフェン重合体が、電荷輸送性材料として有用であり、このチオフェン重合体を光電変換素子の固体層に適用することにより、光電変換素子の光電変換効率を高め得ることを見い出した。
【0009】
すなわち、本発明の光電変換素子は、作用電極と、該作用電極と対をなすように対向して設けられた対極と、作用電極および対極に挟持された固体層とを有し、該固体層は、下記式(1)で表される構造単位を有するチオフェン重合体と、フラーレン、フラーレン誘導体、およびカーボンナノチューブからなる群より選択された1種以上とを含むことを特徴とする。
【0010】
【化1】

【0011】
(式(1)中、R1はそれぞれ独立して、置換または非置換の炭素数1〜20のアルキル基である。)
上記のR1はそれぞれ独立して、2−エチルヘキシル基、オクチル基、またはtert-ブチル基のいずれかであることが好ましい。上記のフラーレン誘導体は、エステル基、イミノ基、アルキル基、アラルキル基、またはチオフェニル基からなる群より選択される1種以上の官能基を有することが好ましい。
【0012】
固体層に占めるフラーレン誘導体は、質量比率にして、40質量%以上70質量%以下であることが好ましい。本発明は、上記の光電変換素子を用いた太陽電池でもある。
【発明の効果】
【0013】
本発明の光電変換素子は、上記の構成を有することにより、広範囲の波長の光を吸収するとともに、電荷輸送能および熱安定性に優れ、もって優れた光電変換効率を有するという効果を示す。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の光電変換素子の模式的な断面図である。
【図2】チオフェン重合体P1の1H−NMRスペクトルを示すグラフである。
【図3】チオフェン重合体P2の1H−NMRスペクトルを示すグラフである。
【図4】チオフェン重合体P3の1H−NMRスペクトルを示すグラフである。
【図5】チオフェン重合体P1のUV−visスペクトルを示すグラフである。
【図6】チオフェン重合体P2のUV−visスペクトルを示すグラフである。
【図7】チオフェン重合体P3のUV−visスペクトルを示すグラフである。
【図8】チオフェン重合体P1のTGA曲線を示すグラフである。
【図9】チオフェン重合体P2のTGA曲線を示すグラフである。
【図10】チオフェン重合体P3のTGA曲線を示すグラフである。
【図11】実施例1〜3の光電変換素子のIV曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の光電変換素子を説明する。なお、本発明の図面において、長さ、幅、厚さ、深さなどの寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜に変更されており、実際の寸法関係を表わすものではない。なお、本発明における「光電変換素子」とは、電気エネルギーを光に変換する素子、または光を電気エネルギーに変換する素子のいずれをも含み得るものである。
【0016】
<光電変換素子>
図1は、本発明の光電変換素子の模式的な断面図である。本発明の光電変換素子10は、図1に示されるように、透明膜1と光透過性導電層2とからなる作用電極6と、該作用電極6と対をなすように対向して設けられた対極5と、作用電極6および対極5に挟持された固体層4を有し、該固体層4が、下記式(1)で示される構造単位を有するチオフェン重合体と、フラーレン、フラーレン誘導体、およびカーボンナノチューブからなる群より選択された1種以上とを含むことを特徴とする。なお、図1に示されるように、作用電極6と固体層4との間にドナーバッファ層3を形成することが好ましい。
【0017】
【化2】

【0018】
このような構成を有する光電変換素子は、固体層4に太陽光が入射すると、固体層4は可視領域の光を吸収して励起して電子を発生する。この電子は、固体層4中のフラーレン、フラーレン誘導体等を主とした領域を通って対極5に移動する。一方、フラーレン誘導体等に電子が移動すると、チオフェン重合体は電子欠乏状態となり、正孔が作用電極6に移動する。このように電子が対極5に移動し、正孔が作用電極6に移動することによって、入射した光の電気への変換が行なわれる。
【0019】
本発明の光電変換素子は、固体層4にチオフェン重合体を用いることにより光電変換効率および耐久性に優れるという特徴を有する。このため、本発明の光電変換素子は、太陽電池、光スイッチング装置、センサ等の光電変換装置等の一部材として有用である。以下においては、光電変換素子を構成する各層を説明する。
【0020】
(固体層)
本発明において、固体層4は、作用電極6と対極5とに狭持されて設けられるものであり、光を電気エネルギーに変換する部分である。このような固体層4は、電荷輸送の機能を有することが好ましく、光電変換効率に優れることがより好ましい。本発明において、固体層4は、上記式(1)で示される構造単位を有するチオフェン重合体と、フラーレン、フラーレン誘導体、およびカーボンナノチューブからなる群より選択された1種以上とを含むことにより、従来よりも光電変換効率を向上させることができる。中でも、チオフェン重合体の適用が、光電変換効率の向上、電荷輸送機能の向上に寄与するものと考えられる。なお、固体層4においては、チオフェン重合体をドナー材料として用い、フラーレン誘導体等をアクセプター材料として用いる。以下においては、固体層4に用いるドナー材料およびアクセプター材料を説明する。
【0021】
(A)ドナー材料
本発明においては、固体層4に含まれるドナー材料として、上記式(1)で表されるチオフェン重合体を用いることを特徴とするが、かかるチオフェン重合体(1)は、従来技術で用いられていなかった新規な共役ポリマーであり、これを光電変換素子の固体層4に含まれるドナーに適用したことが本発明最大の特徴と言える。本発明者らは、極めて広範囲の光を吸収し、かつ電荷輸送能および熱安定性にも優れるチオフェン重合体が、固体層4に用いるドナーにうってつけの材料であることを見い出した。
【0022】
上記式(1)中の2つのR1はそれぞれ独立して、置換または非置換の炭素数1以上20以下のアルキル基を示す。かかるアルキル基は、直鎖状のものであってもよいし、分岐状のものであってもよいが、電荷輸送能、熱安定性、および光吸収を総合的に考慮すると、直鎖状または分岐状のものであることが好ましく、アルキル基の炭素数は、3以上18以下がより好ましく、さらに好ましくは4以上16以下である。
【0023】
ここで、上記のR1に用いるアルキル基としては、たとえばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルへキシル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ヘキサデシル基等を挙げることができる。これらのアルキル基の中でも、n−ブチル基、tert-ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルへキシル基を用いることが好ましい。
【0024】
また、上記のアルキル基の側鎖を一定の官能基で置換してもよい。その側鎖を置換する官能基としては、たとえばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、シクロヘキシルオキシ基等の炭素数1〜12のアルコキシ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;シアノ基;アミノ基;オキソ基;tert-ブチルカルボニル基等の炭素数2〜10のアルカノイル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基等を挙げることができる。これら置換基が導入される位置および数は、特に限定されることなく、いかなる位置および数であってもよい。また、2以上の置換基を導入する場合、当該置換基は同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0025】
上記のR1はそれぞれ独立して、2−エチルヘキシル基、オクチル基、またはtert-ブチル基のいずれかであることが好ましい。このようなアルキル基を用いることにより、チオフェン重合体の熱安定性、および光吸収を向上させることができる。
【0026】
上記のチオフェン重合体は、その重量平均分子量(以下において「Mw」とも記す)が1×103以上5×105以下であることが好ましく、1×103以上4.5×105以下であることがより好ましく、さらに好ましくは1×103以上4×105以下であり、1×103以上5×104以下が特に好ましい。1×103未満であると、電荷輸送能力が十分でないため好ましくなく、5×105を超えると、有機溶媒への溶解性が十分ではないため好ましくない。
【0027】
また、本発明のチオフェン重合体の数平均分子量(以下においては「Mn」とも記す)に対する重量平均分子量の重合度(Mw/Mn)は、1以上6以下であることが好ましく、1.5以上5以下がより好ましい。1未満であると、電荷輸送能力が十分でないため好ましくなく、6を超えると、有機溶媒への溶解性が十分ではないため好ましくない。
【0028】
なお、本発明において、上記のMwおよびMnは、テトラヒドロフラン(THF)を溶出溶媒として用いてゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC:Gel Permeation Chromatography)によって測定したポリスチレン換算値を意味する。
【0029】
(B)アクセプター材料
本発明において、固体層4に含まれるアクセプター材料としては、光電変換効率を高めるという観点から、フラーレン、フラーレン誘導体、およびカーボンナノチューブからなる群より選択された1種以上を含有することを特徴とする。これらの中でもフラーレン誘導体をアクセプター材料として用いることが好ましい。ここで、「フラーレン誘導体」とは、フラーレンに種々の官能基を導入されることにより、電荷輸送性、および有機溶媒への可溶性を向上させたものをいい、具体的にはC60フラーレン誘導体またはC70フラーレン誘導体を意味する。さらに、固体層4を構成する材料として、1,8−ジヨードオクタン等の添加剤を含有してもよい。
【0030】
上記のフラーレン誘導体を固体層4に含む場合、該フラーレン誘導体に導入する官能基としては、溶解性およびエネルギーレベルを最適化するという観点から、エステル基、イミノ基、アルキル基、アラルキル基、チオフェニル基等を用いることが好ましい。当該官能基は、さらにフェニル基、アルコキシカルボニル基等の置換基を有していてもよい。このようなフラーレン誘導体の一例としては、たとえば[6,6]フェニルC61酪酸ヘキシルエステル、[6,6]フェニルC61酪酸メチルエステル、[6,6]フェニルC71酪酸メチルエステル等を挙げることができる。
【0031】
上記の固体層4に占めるフラーレン誘導体は、質量比率にして、30質量%以上80質量%以下であることが好ましく、より好ましくは40質量%以上70質量%以下である。
【0032】
また、固体層4がフラーレンを含む場合、安定性および安全性の面で、C60フラーレン、C70フラーレン、またはこれらの混合体を用いることが好ましい。固体層4の全質量に対するフラーレンまたはフラーレン誘導体は、30質量%以上80質量%以下であることが好ましく、より好ましくは40質量%以上70質量%以下である。
【0033】
なお、上記のフラーレン誘導体は、付加反応、置換反応、ラジカル反応、環化付加反応等の従来公知の方法により製造することができる。
【0034】
本発明の光電変換素子を構成する固体層4は、0.1nm以上5000nm以下の厚さであることが好ましく、1nm以上1000nm以下であることがより好ましく、さらに好ましくは10nm以上500nm以下である。また、固体層4を製膜する方法は、特に限定することなく、いかなる方法によって製膜してもよいが、スピンコーターを用いて1000〜5000rpm程度の回転数で製膜することが好ましい。
【0035】
(作用電極)
本発明において、作用電極6は、透明膜1および光透過性導電層2を有することが好ましい。上記の透明膜1は、透光性の材料であれば、いかなるものを用いることもでき、たとえばガラス基板等を挙げることができる。また、光透過性導電層2としては、透明性および導電性を有する透明導電膜であれば、いかなるものを用いることができ、たとえばITO、酸化スズ、酸化亜鉛等のような材料を挙げることができる。
【0036】
(対極)
本発明において、対極5に用いる材料としては、アルミニウム等を用いることが好ましい。
【0037】
(ドナーバッファ層)
本発明の光電変換素子10は、作用電極6と固体層4との間に、ドナーバッファ層3を有することが好ましい。これにより固体層4から作用電極6に向けて正孔が注入されやすくなる。ここで、ドナーバッファ層3は、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)−ポリ(スチレンスルフォネート)等を含むことが好ましい。
【0038】
(電子バッファ層)
本発明の光電変換素子10は、対極5と固体層4との間に電子バッファ層(図示せず)を形成してもよい。これにより固体層4から対極5に向けて電子が注入されやすくなる。ここで、電子バッファ層は、フッ化リチウム等を含むことが好ましい。
【0039】
<太陽電池>
本発明の太陽電池は、上記の光電変換素子を1以上積層させたものでもある。本発明の光電変換素子を用いた太陽電池は、光電変換効率が高く、しかも耐久性に優れるという効果を有する。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
本実施例においては、下記式(10)で示されるチオフェン重合体(以下、「重合体P1」と記す)を用いて光電変換素子を作製した。以下においては、図1を参照しつつ、光電変換素子の作製手順を説明する。
【0042】
【化3】

【0043】
まず、ITOからなる光透過性導電層2が表面に形成された作用電極6(10Ω)を所望の大きさに切断した。そして、この作用電極6を超音波洗浄し、120℃で30分間乾燥させた。次に、フォトクリーナを用いて192nmの波長の紫外線を5分間照射して、作用電極6の表面に付着した有機物を除去した。なお、作用電極6は、ガラスからなる透明膜1に光透過性導電層2を製膜したものである。
【0044】
次に、[ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)−ポリ(スチレンスルフォネート)](PEDOT−PSS)溶液を、0.2μmのフィルタに通した。そして、この溶液をスピンコーターを用いて作用電極6上に塗布した。そして、150℃で10分間乾燥させることにより、作用電極6上にドナーバッファ層3を成膜した。
【0045】
次に、ドナーバッファ層3上にスピンコーターを用いて、2000rpmの回転数で15秒間回転させることにより、ドナー・アクセプター(DA)混合溶液を塗布した。ここで、DA混合溶液としては、ドナー材料とアクセプター材料とを1:1の質量比で混合し、それをトルエンに溶解させて1質量%に調整したものを用い、さらに、添加剤として1体積%の1,8−ジヨードオクタン(DIO)を添加したものを用いた。
【0046】
ここで、ドナー材料としては、紫色固体状の重合体P1を用い、アクセプター材料としては、[6,6]フェニルC61酪酸ヘキシルエステル(以下において「PCBH」とも記す)を用いた。
【0047】
次に、100℃で15分間ベークすることにより、200nmの層厚の固体層4を成膜した。なお、PCBHは、下記式(3)に示される構造である。
【0048】
【化4】

【0049】
その後、マスクを付けて、約1nmの層厚のLiFからなる電子バッファ層を真空蒸着によって形成した後、約100nmの層厚のAlからなる対極5を蒸着によって形成した。このようにして、図1の透明膜1(ガラス)/光透過性導電層2(ITO)/ドナーバッファ層3(PEDOT−PSS)/固体層4/電子バッファ層(LiF)/対極5(Al)という積層構造の光電変換素子を得た。
【0050】
<実施例2〜9>
実施例2〜9の光電変換素子は、実施例1のそれに対し、ドナーまたはアクセプターに用いる材料、および該材料の混合比が以下の表1に示すように異なることを除き、実施例1と同様の方法により作製した。
【0051】
【表1】

【0052】
なお、表1中の「PCBM」は、製品名:nanom spectra E100H(フロンティアカーボン社製)を意味し、「[70]PCBM」は、製品名:nanom spectra E110(フロンティアカーボン社製)を意味し、表1中の「重合体P2」は、下記式(9)で示されるチオフェン重合体P2を意味し、表1中の「重合体P3」は、下記式(11)で示されるチオフェン重合体P3を意味する。ちなみに、チオフェン重合体P2は、紫色固体状であり、チオフェン重合体P3は、黒色固体状である。
【0053】
【化5】

【0054】
【化6】

【0055】
なお、実施例1〜9の光電変換素子に用いたチオフェン重合体P1〜P3の組成および構造を1H−NMRによって確認した。図2〜図4はそれぞれ、チオフェン重合体P1〜P3の1H−NMRスペクトルである。
【0056】
重合体P1の1H−NMRスペクトル:1H−NMR(CD2Cl2):δ(ppm)0.80(br−s,−CH36H),1.20-1.59(m,−CH2−,24H),2.30-2.76(m,−CH2−,4H),6.82-7.89(m,Ar−H,6H)
重合体P2の1H−NMRスペクトル:1H-NMR(CDCl3):δ(ppm)0.80-0.92(m,−CH312H),1.20-1.68(m,−CH−and−CH2−,18H),2.28-2.86(m,−CH2−,4H),7.17-7.56(m,Ar−H,2H),7.86-7.89(m,Ar−H,2H),8.07-8.10(m,Ar−H,2H)
重合体P3の1H−NMRスペクトル:1H-NMR (CDCl3):δ(ppm)1.46-1.69(m,t−Bu,18H),7.14-7.29(m,Ar−H,2H),7.85(br−s,Ar−H,2H),8.03-8.09(m,Ar−H,2H)
また、チオフェン重合体P1〜P3の各特性を以下の表2に示す。
【0057】
【表2】

【0058】
表2の「分子量」の欄に、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(製品名:HLC−8320GPC(東ソー株式会社製))を用いて、チオフェン重合体P1〜P3の重量平均分子量Mwおよび分子量分布(Mw/Mn)を測定した値を示した。なお、表2中の測定値はいずれも、ポリスチレン換算したものであり、THFを溶媒として用いて得られたものである。
【0059】
表2の「UV−vis」の欄に、重合体P1〜P3をそれぞれクロロホルムに溶かして1×10-5Mの濃度に調製した溶液(P1〜P3溶液)の最大吸収波長λmaxを示した。また、表2の「UV−vis」には、10mg/mLの濃度に調製したP1〜P3溶液をガラス基板上に垂らし、それをスピンコーター(製品名:MODEL K−359S−1(共和理研株式会社製))を用いて1000rpmの角速度で10秒間回転させた後に、さらに3000rpmで60秒間回転させて製膜したP1薄膜〜P3薄膜の最大吸収波長λmaxを示した。なお、表2の「ε」は、モル吸光係数(単位:L/(cm・mol))を意味する。
【0060】
なお、上記の最大吸収波長λmaxは、紫外−可視分光光度計(製品名:V570スペクトルメーター(JASCO社製))を用いてUV−vis測定によって得られたものである。図5〜図7は、それぞれP1〜P3溶液および薄膜のUV−visスペクトルである。
【0061】
表2の「TGA」の欄に、チオフェン重合体P1〜P3のそれぞれに対し、TGA(示差熱熱量同時測定装置(製品名:TG−DTA6200)セイコーインスツルメント社製)を用いて熱分解測定を行なうことにより、5%分解温度Td5および10%分解温度Td10を得た値を示した。かかる熱分解測定は、アルミパンを用いて、150mL/minの窒素気流中で10℃/minで昇温させることにより行なった。図8〜図10は、チオフェン重合体P1〜P3のそれぞれのTGA曲線である。
【0062】
表2および図8〜図10に示される結果から、チオフェン重合体P1〜P3の全てが200℃でも熱分解しないことがわかった。また、チオフェン重合体P1が熱的に最も安定しており、チオフェン重合体P3が熱的には最も安定していないことがわかった。
【0063】
<特性評価>
実施例1〜9で作製した光電変換素子をSi簡易標準セルを用いて、光量を補正した。そして、IV測定器(ソースメータ)によって、100mW/cm2(AM1.5G)の条件で、不活性雰囲気中で特性評価を行なった。この評価結果を上記表1に示した。また、実施例1〜3の光電変換素子をIV測定器によって得られたIV曲線を図11に示した。
【0064】
図11に示されるIV曲線の結果から、チオフェン重合体P2を用いた光電変換素子の光電変換効率が最も高いことがわかる。このことから、チオフェン重合体P2を含む固体層は、優れた電荷輸送能を有することがわかった。また、表2に示される結果からも明らかなように、本実施例の光電変換素子はいずれも、光電変換効率が高い。これは、光電変換素子を構成する固体層の組成に、チオフェン重合体を用いたことによるものと考えられる。
【0065】
なお、実施例1〜9の光電変換素子においては、固体層4に含まれるアクセプターとしてフラーレン誘導体を用いる場合のみを説明したが、フラーレン、カーボンナノチューブをアクセプターとして用いた場合にも同様の効果が示されることが予想される。これは、フラーレンや、カーボンナノチューブは、フラーレン誘導体と同様に、アクセプター性を有し、電子の輸送性に優れるという性質を有する材料だからである。
【0066】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0067】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の光電変換素子、およびこれを用いた太陽電池は、チオフェン重合体を固体層に用いているため、光電変換効率および耐久性に優れ、光スイッチング装置、センサ等に応用することができる。
【符号の説明】
【0069】
1 透明膜、2 光透過性導電層、3 ドナーバッファ層、4 固体層、5 対極、6 作用電極、10 光電変換素子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作用電極と、
前記作用電極と対をなすように対向して設けられた対極と、
前記作用電極および前記対極に挟持された固体層とを有し、
前記固体層は、下記式(1)で表される構造単位を有するチオフェン重合体と、フラーレン、フラーレン誘導体、およびカーボンナノチューブからなる群より選択された1種以上とを含む、光電変換素子。
【化1】

(式(1)中、R1はそれぞれ独立して、置換または非置換の炭素数1〜20のアルキル基である。)
【請求項2】
前記R1はそれぞれ独立して、2−エチルヘキシル基、オクチル基、またはtert-ブチル基のいずれかである、請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項3】
前記フラーレン誘導体は、エステル基、イミノ基、アルキル基、アラルキル基、またはチオフェニル基からなる群より選択される1種以上の官能基を有する、請求項1または2に記載の光電変換素子。
【請求項4】
前記固体層に占める前記フラーレン誘導体は、質量比率にして、40質量%以上70質量%以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の光電変換素子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の光電変換素子を用いた、太陽電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate