説明

光電変換素子およびその製造方法、光電変換モジュール、積層体ならびに光電極材料

【課題】基材として高分子フィルムなどの高分子樹脂基材が使用でき、製造コストが抑えられた光電変換素子およびその製造方法、光電変換モジュール、積層体ならびに光電極材料を提供する。
【解決手段】光電変換素子は、光電極層、絶縁層および触媒層の積層体と、導電基材と、透明導電層とを備える。積層体は、導電基材と透明導電層との間に介在され、光電極層と、絶縁層および触媒層のうちの少なくとも一方とは、グリーンシートの焼成体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、光電変換素子およびその製造方法、光電変換モジュール、積層体ならびに光電極材料に関する。詳しくは、基材として高分子樹脂基材を用いることができる光電変換素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
資源の有効利用や環境汚染の防止の面から、太陽光を直接電気エネルギーに変換する太陽電池が注目され、研究開発が推進されている。特に、近年では、製造に膨大なエネルギーを必要とし、かつ高価なシリコン系太陽電池にかわる太陽電池として、色素増感太陽電池の研究開発が盛んに行われている。
【0003】
例えば、下記の非特許文献1および特許文献1には、色素によって増感された多孔質半導体層を用いた光電変換用電極および色素増感太陽電池、ならびにこれを作製するための材料および製造技術が開示されている。また、例えば、下記の特許文献2には、複数の色素増感光電変換素子を直列に接続した色素増感光電変換素子モジュールおよびその製造方法が開示されている。
【0004】
従来提案されている色素増感型光電変換セル(光電変換素子)は、ルテニウム錯体などの増感色素によって分光増感された酸化チタン多孔質層(作用電極)と、ヨウ素を主体とする電解質と、対電極とを備えている。この電池の第1の利点は、酸化チタンなどの安価な酸化物半導体を用いるため、安価な光電変換素子を提供できる点である。第2の利点は、用いられるルテニウム錯体が可視光域に幅広く吸収を有していることから比較的高い変換効率が得られる点である。
【0005】
酸化チタン多孔質層の形成に際しては、酸化チタン粒子の分散ペーストを作製してそれを基材上に塗布し、塗布されたペーストに対して、400℃以上の温度を与えることが一般的である。塗布されたペーストに対して、400℃以上の温度を与えることにより、ペースト中のバインダー等の添加物が除去され、酸化チタン粒子層が多孔質となる。さらに、酸化チタンの粒子間にネッキングが生じ、酸化チタン粒子層における電子伝達性が良好となり、色素増感型光電変換セルの光電変換効率が向上する。
【0006】
上述したように、通常、色素増感型光電変換セルの製造には、高温の焼結プロセスを必要とする。このため、基材の材質が、ガラスのような耐熱性の高い材質に限られ、基材の材料費や、製造時に消費するエネルギー費などが高くなり、色素増感型光電変換セルの製造コストが高くなってしまう。
【0007】
そこで、樹脂基材を用いるために、樹脂が溶解しない温度を与えて酸化チタン多孔質層を低温で焼成する焼成方法も試みられている(非特許文献2参照)。また、耐熱性基板上に酸化物半導体またはその前駆体を含む層を形成し、これを加熱焼成して得られる酸化物半導体膜を、被転写基板上に転写する方法なども試みられている(特許文献3参照)。
【0008】
しかしながら、樹脂基材の耐熱性を考慮して、分散ペーストの焼成温度を150℃以下程度としようとすると、バインダー等の添加物を加える事が困難で、分散ペーストの粘度の調整が困難である。また、分散ペーストの材料の配合比をパターン化することも困難である。そのため、プロセス工数や製造コストが増加してしまう。また、低温焼成では、ネッキングによる結合性も低下し、色素増感型光電変換セルの変換効率が低いものにとどまってしまう。さらに、加熱焼成して得られる酸化物半導体膜を被転写基板上に転写する方法では、バインダー等が除去された事により焼成後の酸化チタン多孔質層が非常にもろくなるため、これらの作業が困難である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】B.O'Regan,M.Graetzel,Nature,353,p.737-740(1991)
【非特許文献2】ECN contributions 16th European Photovoltaic Solar Energy Conference and Exhibition, May 1-5, 2000 abstract; P.M. Sommeling et.al, “Flexible dye-sensitizednanocristalline TiO2 solar cells”
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許4927721号明細書
【特許文献2】特開2009−110797号公報
【特許文献3】特開2002−184475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本技術の目的は、基材として高分子樹脂基材を用いることができる光電変換素子およびその製造方法、光電変換モジュール、積層体ならびに光電極材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決するために、第1の技術は、
光電極層、絶縁層および触媒層の積層体と、
導電基材と、
透明導電層と
を備え、
積層体は、導電基材と透明導電層との間に介在され、
光電極層と、絶縁層および触媒層のうちの少なくとも一方とは、グリーンシートの焼成体である光電変換素子である。
【0013】
第2の技術は、
光電極層と、
絶縁層と、
触媒層と、
集電電極と
を備え、
集電電極は、光電極層と絶縁層との間に介在され、
触媒層は、絶縁層の一主面上に設けられ、
光電極層と、絶縁層および触媒層のうちの少なくとも一方とは、グリーンシートの焼成体である光電変換素子である。
【0014】
第3の技術は、
光電極層前駆体、絶縁層前駆体および触媒層前駆体からなる積層体を形成する工程と、
積層体を焼成する工程と
を備え、
光電極層前駆体と、絶縁層前駆体および触媒層前駆体のうちの少なくとも一方とは、グリーンシートからなる光電変換素子の製造方法である。
【0015】
第4の技術は、
集電電極の一主面上に光電極層前駆体を形成する工程と、
導電基材の一主面に対して、絶縁層前駆体および触媒層前駆体を形成する工程と、
集電電極の他主面と絶縁層前駆体とを対向させて貼り合わせ、光電極層前駆体が形成された集電電極と、絶縁層前駆体および触媒層前駆体が形成された導電基材とが一体的とされた積層体を形成する工程と、
積層体を焼成する工程と
を備え、
光電極層前駆体と、絶縁層前駆体および触媒層前駆体のうちの少なくとも一方とは、グリーンシートからなる光電変換素子の製造方法である。
【0016】
第5の技術は、
グリーンシートからなる触媒層前駆体と、
グリーンシートからなる絶縁層前駆体と、
グリーンシートからなる光電極層前駆体と
を備え、
触媒層前駆体、絶縁層前駆体および光電極層前駆体が順に積層された積層体である。
【0017】
第6の技術は、
導電基材と、
グリーンシートからなる触媒層前駆体と、
グリーンシートからなる絶縁層前駆体と、
グリーンシートからなる光電極層前駆体と
を備え、
導電基材の一主面上に、触媒層前駆体、絶縁層前駆体および光電極層前駆体が順に積層された光電極材料である。
【0018】
光電極層と、絶縁層および触媒層のうちの少なくとも一方とをグリーンシートの焼成体とすることにより、グリーンシート自体が可撓性を有するため、光電変換素子の製造工程における作業性が向上する。グリーンシートは、所望の形状に型抜きを行うことも容易であり、光電変換素子を大判化することも容易である。また、400℃以上の温度を与えて焼成を行った後に、光電極層、絶縁層および触媒層を高分子樹脂基材上に配置することができ、光電変換素子の変換効率の低下を抑制することができる。光電極層の未焼成体であるグリーンシートが半導体微粒子を含み、したがって、光電極層が半導体微粒子を含むことが好ましい。グリーンシートを焼成することにより、半導体微粒子間にネッキングが生じた多孔質半導体層を得られるからである。
【0019】
光電極層、絶縁層および触媒層は、グリーンシートの焼成体であることが好ましい。光電変換素子の製造工程における作業性がより向上するからである。光電極層、絶縁層および触媒層の前駆体として、グリーンシートを用いることにより、製造工程の簡略化や、同時処理による設備投資の削減およびリードタイムの短縮が可能となるからである。また、光電極層、絶縁層または触媒層を厚く形成することもできるからである。なお、これらのグリーンシートは、種類の異なるもの同士を複数枚重ね合わせて圧力をかけるだけで容易に積層構造にすることもできる。
【0020】
導電基材は、可撓性を有することが好ましく、光電極層前駆体、絶縁層前駆体および触媒層前駆体からなる積層体が、導電基材の側に触媒層が配置されるようにして導電基材に対して貼り合わされることが好ましい。導電基材をグリーンシートの支持基材とすることができ、光電変換素子の製造工程における作業性がより向上するからである。さらに、グリーンシートの焼成後においても、光電極層、絶縁層および触媒層の取り扱いが容易となるからである。なお、焼成後のグリーンシートは、特別な結着剤や粘着剤を用いずに、例えば、一主面上に透明導電層が形成された基材に対して圧着するだけで、焼成後のグリーンシートと透明導電層とを貼り合わせることができる。
【0021】
光電変換素子が、可撓性を有する樹脂基材をさらに備え、透明導電層が、樹脂基材上に形成されることが好ましい。または、光電極層、絶縁層および触媒層の積層体が、曲面形状を有していることが好ましい。光電極層、絶縁層および触媒層の前駆体としてのグリーンシートは、可撓性を有するため、光電変換素子の形状を、平板形状以外の形状、例えば曲面形状とすることができるからである。基材として高分子樹脂基材を用いることにより、光電変換素子を軽量に構成することができ、したがって、光電変換素子の複数個を電気的に接続して光電変換モジュールを構成した場合にも、光電変換モジュールを軽量に構成することができる。さらに、本技術によれば、光電変換素子の形状を、例えば曲面形状とすることができるため、光電変換モジュールを構成した場合に、光電変換モジュールの形状や設置場所などの自由度が向上する。
【発明の効果】
【0022】
本技術によれば、基材として高分子フィルムなどの高分子樹脂基材が使用でき、製造コストが抑えられた光電変換素子およびその製造方法、光電変換モジュール、積層体ならびに光電極材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、本技術の第1の実施形態に係る光電変換素子の構成の一例を示す模式的断面図である。
【図2】図2A〜図2Dは、本技術の第1の実施形態に係る光電変換素子の製造方法の一例を説明するための図である。
【図3】図3A〜図3Dは、本技術の第1の実施形態に係る光電変換素子の製造方法の一例を説明するための図である。図3Eは、光電極層前駆体、絶縁層前駆体および触媒層前駆体が順に積層された積層体の構成例を示す斜視図である。図3Fは、本技術の第1の実施形態に係る光電変換素子の製造方法の一例を説明するための図である。
【図4】図4A〜図4Dは、本技術の第1の実施形態に係る光電変換素子の製造方法の一例を説明するための図である。
【図5】図5Aおよび図5Bは、本技術の第1の実施形態に係る光電変換素子の製造方法の一例を説明するための図である。
【図6】図6A〜図6Fは、本技術の第1の実施形態に係る光電変換素子の製造方法の他の一例を説明するための図である。
【図7】図7A〜図7Dは、本技術の第1の実施形態に係る光電変換素子の製造方法の他の一例を説明するための図である。
【図8】図8Aは、本技術の第2の実施形態に係る光電変換素子の構成の一例を示す模式的断面図である。図8B〜図8Dは、本技術の第2の実施形態に係る光電変換素子の製造方法の一例を説明するための図である。
【図9】図9A〜図9Cは、本技術の第2の実施形態に係る光電変換素子の製造方法の一例を説明するための図である。
【図10】図10Aは、本技術の第3の実施形態に係る光電変換素子の構成の一例を示す模式的断面図である。図10B〜図10Dは、本技術の第3の実施形態に係る光電変換素子の製造方法の一例を説明するための図である。
【図11】図11A〜図11Dは、本技術の第3の実施形態に係る光電変換素子の製造方法の一例を説明するための図である。
【図12】図12Aは、本技術の第4の実施形態に係る光電変換モジュールの構成の一例を示す模式的断面図である。図12Bは、本技術の第4の実施形態に係る光電変換モジュールの構成の第1の変形例を示す模式的断面図である。図12Cは、本技術の第4の実施形態に係る光電変換モジュールの構成の第2の変形例を示す模式的断面図である。
【図13】図13Aは、光電極層、絶縁層および触媒層ならびに導電基材の積層体の複数個が封止された光電変換モジュールの例を示す模式的断面図である。図13Bは、光電極層、集電電極、絶縁層、触媒層および導電基材の積層体の複数個が封止された光電変換モジュールの例を示す模式的断面図である。
【図14】図14Aは、サンプル1およびサンプル2の光電変換素子についての光電変換効率の測定結果を示すグラフである。図14Bは、サンプル1およびサンプル2の光電変換素子についての電気特性の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本技術の実施形態について図面を参照しながら以下の順序で説明する。なお、以下の実施形態の全図においては、同一または対応する部分には同一の符号を付す。
1.第1の実施形態(積層構造の例)
2.第2の実施形態(モノリシック構造の例)
3.第3の実施形態(TCOフリーの構造の例)
4.第4の実施形態(光電変換モジュールの例)
【0025】
<1.第1の実施形態>
[光電変換素子の構成]
図1は、本技術の第1の実施形態に係る光電変換素子の構成の一例を示す模式的断面図である。図1に示すように、この光電変換素子1は、光電極層3、絶縁層5および触媒層7の積層体13と、導電基材9と、透明導電層15とを備える。導電基材9と透明導電層15とは、対向して配置され、導電基材9と透明導電層15との間には、積層体13および電解液21が介在される。積層体13は、触媒層7が導電基材9の側に配置されるようにして導電基材9と透明導電層15との間に介在される。積層体13および電解液21は、導電基材9、透明導電層15および封止材19により封止されている。光電極層3は、具体的には、色素が担持された多孔質半導体層である。したがって、光電変換素子1は、いわゆる色素増感型太陽電池を構成する。図1に示す構成例では、基材17および透明導電層15が透明とされ、例えば、基材17は、透明導電層15が形成された一主面とは反対側の他主面を有し、この他主面が太陽光などの光の照射を受光する受光面となる。
【0026】
本技術においては、光電極層3が、グリーンシートの焼成体とされる。さらに、絶縁層5および触媒層7のうちの少なくとも一方が、グリーンシートの焼成体とされる。
【0027】
以下、この光電変換素子1を構成する光電極層3、絶縁層5、触媒層7、導電基材9および透明導電層15、ならびに基材17、封止材19および電解液21について順次説明する。
【0028】
(光電極層)
光電極層3は、半導体微粒子を含む層であり、例えば、増感色素が担持された半導体微粒子を含む。光電極層3は、金属酸化物半導体微粒子を含む多孔質半導体層であることが好ましい。金属酸化物半導体微粒子は、チタン、亜鉛、スズおよびニオブの少なくとも1種を含む金属酸化物を含むことが好ましい。具体的には、金属酸化物半導体微粒子の材料としては、酸化チタン、酸化スズ、酸化タングステン、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化ニオブ、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化ストロンチウム、酸化タンタル、酸化アンチモン、酸化ランタノイド、酸化イットリウム、および酸化バナジウムなどなる群より選ばれる1種以上を用いることができるが、これらに限定されるものではない。多孔質半導体層表面が増感色素によって増感されるためには、多孔質半導体層の伝導帯が増感色素の光励起準位から電子を受け取りやすい位置に存在することが好ましい。この観点からすると、上述した金属酸化物半導体微粒子の材料の中でも、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、および酸化ニオブからなる群より選ばれる1種以上が特に好ましい。さらに、価格や環境衛生性などの観点から、酸化チタンが最も好ましい。金属酸化物半導体微粒子は、アナターゼ型またはブリュッカイト型の結晶構造を有する酸化チタンを含むことが特に好ましい。このような酸化チタンを含むことで、吸着させる色素と金属酸化物間にて適切なエネルギーバンドを形成し、その後、光照射により色素にて発生した電子が金属酸化物に円滑に伝達し、その後のヨウ素の酸化還元による発電に寄与することができるからである。
【0029】
金属酸化物半導体微粒子の平均一次粒子径は、5nm以上500nm以下であることが好ましく、10nm以上100nm以下であることがより好ましく、10nm以上60nm以下であることが特に好ましい。平均一次粒子径を10nm以上100nm以下の範囲内とすることで、多孔質半導体層の緻密性が劣化することなく、かつ過度に緻密となることによる色素の吸着の阻害や電解液の浸透の阻害を防止できるからである。なお、平均一次粒子径が5nm未満であると、結晶性が極端に劣化し、アナターゼ構造を維持できなくアモルファス構造となる傾向がある。一方、平均一次粒子径が500nmを超えると、比表面積が著しく低下し、多孔質半導体層に吸着させる発電に寄与する色素の総量が減少する傾向がある。ここで、平均一次粒子径は、一次粒子が分散できる溶媒系を用いて、所望な分散剤を添加して一次粒子まで分散処理した希薄溶液を用いて、光散乱法により測定する方法より求めたものである。
【0030】
粒度分布の異なる金属酸化物半導体微粒子を混合するようにしてもよい。本技術では、後述するように、光電極層3が、グリーンシートの焼成体とされる。グリーンシートの作製のためのスラリー(グリーンシート形成用組成物)の調製においては、金属酸化物半導体微粒子、バインダー、可塑剤および溶媒などが混合されるが、これらの配合比や金属酸化物半導体微粒子の粒径は、所望するグリーンシートの可塑性などにより適宜選択されうる。
【0031】
また、本技術では、後述するように、グリーンシートを焼成することにより得られた多孔質半導体層に対して、増感色素を担持させることにより光電極層3が得られる。
【0032】
光電変換用の増感色素としては、増感作用を示すものであれば特に限定はないが、通常、可視光領域付近の光を吸収できる物質、例えば、ビピリジン錯体、テルピリジン錯体、メロシアニン色素、ポルフィリン、およびフタロシアニンなどが用いられる。
【0033】
単独で用いる増感色素としては、例えば、ビピリジン錯体の1種であるシス−ビス(イソチオシアナト)ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボン酸)ルテニウム(II)二テトラブチルアンモニウム錯体(通称N719)が、増感色素としての性能に優れており、一般的に用いられている。その他、ビピリジン錯体の1種であるシス−ビス(イソチオシアナト)ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボン酸)ルテニウム(II)(通称:N3)や、テルピリジン錯体の1種であるトリス(イソチオシアナト)(2,2’:6’,2”−テルピリジル−4,4’,4”−トリカルボン酸)ルテニウム(II)三テトラブチルアンモニウム錯体(通称ブラックダイ)が一般的に用いられる。
【0034】
特にN3やブラックダイを用いる場合には、共吸着剤もよく用いられる。共吸着剤は多孔質半導体層上で色素分子が会合するのを防止するために添加される分子であり、代表的な共吸着剤としては、例えば、ケノデオキシコール酸、タウロデオキシコール酸塩、および1−デクリルホスホン酸などが挙げられる。これらの分子の構造的特徴としては、多孔質半導体層を構成する酸化チタンに吸着されやすい官能基として、カルボキシル基やホスホノ基などをもつこと、および、色素分子間に介在して色素分子間の干渉を防止するために、σ結合で形成されていることなどが挙げられる。
【0035】
その他の増感色素としては、例えば、アゾ系色素、キナクリドン系色素、ジケトピロロピロール系色素、スクワリリウム系色素、シアニン系色素、メロシアニン系色素、トリフェニルメタン系色素、キサンテン系色素、ポルフィン系色素、クロロフィル系色素、ルテニウム錯体系色素、インジゴ系色素、ペリレン系色素、オキサジン系色素、アントラキノン系色素、フタロシアニン系色素、ナフタロシアニン系色素など、およびその誘導体が挙げられるが光を吸収し多孔質半導体層の伝導帯に励起電子を注入できる増感色素であればこれらに限定されない。これらの増感色素はその構造中に連結基を1個以上有する場合は、多孔質半導体層表面に連結することができ、光励起された増感色素の励起電子を多孔質半導体層の伝導帯に迅速に伝えることができるので望ましい。
【0036】
光電極層3の厚さは、1μm以上50μm以下であることが好ましい。光電極層3の厚さを上記の範囲内とすることにより、光電極層3の形成時に割れや剥がれが生じにくくなり、光電極層3の形成を安定させることができる。また、光電極層3の表層と透明導電層15との距離を適正な範囲とでき、発生電荷が導電面に有効に伝えられ、良好な変換効率が得られる。
【0037】
(絶縁層)
絶縁層5は、光電極層3と触媒層7とが直接接触することによる電気的な短絡を防止するために設けられる層である。絶縁層5は、多孔質層であることが好ましい。絶縁層5へ電解液21が浸透することにより、光電極層3と触媒層7との間における電解液21中の酸化剤が円滑に移動できるようになるからである。例えば、レドックス対としてI-/I3-の酸化還元種を用いる場合には、光電極層3で生成される酸化剤、例えばI3-(I2とI-との結合体)は、絶縁層5へ浸透した電解液21中を移動して触媒層7に到達し、触媒層7から電子を受け取り、還元される。なお、後述するように、絶縁層5への電解液21の含浸は、光電変換素子の製造工程の最終段で行うことができるため、光電変換素子の製造工程における作業性が低下することはない。
【0038】
絶縁層5の材料としては、例えば、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化シリコン(シリカ)および酸化アルミニウムなどからなる群から選択された少なくとも1種類の材料(例えば、金属酸化物材料)から構成されている形態とすることができる。本技術においては、絶縁層5および触媒層7のうちの少なくとも一方が、グリーンシートの焼成体とされる。絶縁層5をグリーンシートの焼成体としない場合には、絶縁層5を、各種の湿式法または各種の乾式法により形成してもよい。湿式法としては、例えば、絶縁層5を構成する材料を含む溶液を用いた塗布法や印刷法などを挙げることができる。乾式法としては、例えば、スパッタリング法や真空蒸着法などの物理気相成長(Physical Vapor Deposition(PVD))法や、各種の化学気相成長(Chemical Vapor Deposition(CVD))法を挙げることができる。絶縁層を、織布、不織布、または、織布もしくは不織布と上述した材料からなる層との積層構造から構成するようにしてもよい。織布または不織布を構成する材料としては、例えば、合成繊維を挙げることができる。合成繊維としては、具体的には、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリビニルアルコール、アラミド、ナイロン(登録商標)、ビニロン、ポリオレフィン、レーヨン、低密度ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル、共重合ポリアミド、共重合ポリエステルなどや、天然繊維のコットン、セルロース、ガラス繊維、合成ゴムを繊維状にしたものなどが挙げられる。
【0039】
(触媒層)
触媒層7は、電解液21中のI3-などの還元反応を促進させ、還元反応を充分な速度で行なわせるために設けられる層である。触媒層7の材料としては、還元反応を充分な速度で行なわせる触媒能を有するものであればよく、例えば、カーボン(C)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)などを挙げることができる。本技術においては、絶縁層5および触媒層7のうちの少なくとも一方が、グリーンシートの焼成体とされる。触媒層7をグリーンシートの焼成体としない場合には、触媒層7を、各種の湿式法または各種の乾式法により形成してもよい。湿式法としては、例えば、触媒層7を構成する材料を含む溶液を用いた塗布法や印刷法などを挙げることができる。乾式法としては、例えば、スパッタリング法や真空蒸着法などの物理気相成長法や、各種の化学気相成長法を挙げることができる。
【0040】
(導電基材)
導電基材9は、透明導電層15と対向配置され、導電基材9は、透明導電層15と対向する一主面を有し、この一主面に触媒層7が形成される。導電基材9および導電基材9の一主面上に形成された触媒層7により、色素増感太陽電池(光電変換素子1)の対向電極が構成される。該対向電極は、色素増感太陽電池の正極として機能する。
【0041】
導電基材9の材料としては、導電性を有していればよく、例えば、金属などの基板または箔が挙げられるが、これらに限定されるものではない。金属としては、例えば、白金、金、銀、銅、チタン、アルミニウム、ロジウム、インジウムなどを用いることができるが、これらに限定されるものではない。そのほか、絶縁基材の一主面上に導電性の層を形成して、導電性の層が形成された側の主面を光電極層3に対向するようにすれば、絶縁基材と導電性の層との組を導電基材9として用いることも可能である。
【0042】
導電基材9は、可撓性を有することが好ましい。導電基材9上にグリーンシートを配置することにより、導電基材9をグリーンシートの支持基材とできるからである。したがって、グリーンシートの取り扱いおよびグリーンシートの焼成体の取り扱いが容易となり、光電変換素子1の製造工程における作業性が向上するからである。導電基材9の厚さは、特に制限はないが、導電基材9をグリーンシートの支持基材とする観点からは、30μm以上であることが好ましい。
【0043】
(透明導電層)
透明導電層15は、例えば、後述する基材17の一主面上に設けられる。光子を吸収して励起状態となった増感色素中の電子は、光電極層3を通って透明導電層15に到達し、透明導電層15から外部回路へと取り出される。
【0044】
透明導電層15は、太陽光の可視から近赤外領域に対して光吸収が少ないことが好ましい。透明導電層15の材料としては、例えば、導電性の良好な金属酸化物や炭素などを用いることが好ましい。金属酸化物としては、例えば、インジウム−スズ複合酸化物(ITO)、フッ素ドープSnO2(FTO)、アンチモンドープSnO2(ATO)、酸化スズ(SnO2)、酸化亜鉛(ZnO)、インジウム−亜鉛複合酸化物(IZO)、アルミニウム−亜鉛複合酸化物(AZO)、およびガリウム−亜鉛複合酸化物(GZO)からなる群より選択される1種以上を用いることができる。透明導電層15と光電極層3との間に、結着の促進、電子伝達の改善、または逆電子過程の防止などを目的とした層をさらに設けるようにしてもよい。また、例えば、透明導電層15の表面の有機物の除去のために、清浄化処理として紫外線照射処理やオゾン(O3)処理を施してもよい。
【0045】
(基材)
基材17としては、透明性を有する基材であればよく、特に限定されるものではない。透明性を有する基材としては、例えば、透明無機基板または透明有機基板を用いることができ、太陽光の可視から近赤外領域に対して光吸収が少ないものが好ましい。透明無機基板としては、例えば、ガラス基板、サファイア基板、石英基板などを挙げることができ、ガラス基板としては、例えば、青板、BK7、鉛ガラスなどを用いることができるが、これらに限定されるものではない。透明有機基板としては、例えば、樹脂基板を挙げることができ、樹脂基板としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリエステル、ポリエチレン(PE)、ポリカーボネート(PC)、ポリビニルブチラート、ポリプロピレン(PP)、ポリフッ化ビニリデン、テトラアセチルセルロース、シンジオクタチックポリスチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリスルフォン、ポリエステルスルフォン、ポリエーテルイミド、環状ポリオレフィン、ブロム化フェノキシ、塩化ビニルなどを用いることができるが、これらに限定されるものではない。また、例えば、基材17として、フィルム、シート、基板などを用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0046】
基材17が可撓性を有する樹脂基材であることが好ましい。また、透明導電層15が、可撓性を有する樹脂基材からなる基材17上に形成されていることが好ましい。本技術では、光電極層3と、絶縁層5および触媒層7のうちの少なくとも一方とが、グリーンシートの焼成体とされる。したがって、基材17の形状は、平板形状に限定されない。例えば、グリーンシートをたわませた状態で焼成することにより、例えば、曲面形状とされて透明導電層15が形成された基材17を用いて、光電変換素子1を構成することができる。基材17として可撓性を有する樹脂基材を用いることにより、光電変換素子を平板形状以外の形状とすることができるとともに、光電変換素子を軽量とすることができ、光電変換素子の設置の形態の自由度が向上する。例えば、建築物の屋根や壁面、窓部など、立体的な構造物への光電変換素子の設置がしやすくなる。光電変換素子が、曲面形状など、平板形状以外の形状の場合は、光電極層3、絶縁層5および触媒層7からなる積層体13が、曲面形状を有していることが好ましい。
【0047】
(封止材)
導電基材9と透明導電層15との間には、光電極層3、絶縁層5および触媒層7の積層体13を取り囲むようにして、封止材19が設けられる。封止材19は、後述する電解液21の漏れや揮発を防ぐために設けられる。光電極層3と触媒層7との間隔(絶縁層5の厚さといってもよい)は、好ましくは1〜100μm、より好ましくは1〜20μmである。封止材19の材料としては、電解液21に対する耐性を有することが好ましく、例えば、電解液21に対する耐性を有する樹脂やセラミック、ガラスフリットなどを使用することができる。封止材19の材料としては、例えば、熱融着フィルム、熱硬化型樹脂、紫外線硬化型樹脂などを使用することができ、具体的には、例えば、エポキシ樹脂、ポリイソブチレン樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル系接着剤、エチレンビニルアセテート(EVA)、アイオノマー樹脂、二軸延伸したポリプロピレンフィルムやポリエチレンフィルムといった各種熱融着フィルムなどを用いることができる。
【0048】
(電解液)
電解液21は、導電基材9と、透明導電層15と、封止材19とによって囲まれた空間に封入される。図1においては図示を省略するが、例えば、導電基材9には、電解液の注入に用いられ、最終的には塞がれる注入口が設けられる。
【0049】
電解液21は、電解質、媒体、および添加物から構成されることが好ましい。電解質は、ヨウ素(I2)とヨウ化物(例としてLiI、NaI、KI、CsI、MgI2、CaI2、CuI、テトラアルキルアンモニウムヨーダイド、ピリジニウムヨーダイド、イミダゾリウムヨーダイドなど)の混合物、Br2と臭化物(例としてLiBrなど)の混合物、この中でもI2とヨウ化物の組み合わせとしてLiI、ピリジニウムヨーダイド、イミダゾリウムヨーダイドなどを混合した電解質が好ましいがこの組み合わせに限定されるものではない。
【0050】
媒体に対する電解質の濃度は、I2が0.01M以上0.5M以下であることが好ましく、ヨウ化物の混合物が0.1M以上15M以下であることが好ましい。また、色素増感太陽電池の開放電圧を向上させる目的で、4−tert−ブチルピリジンやベンズイミダゾリウム類などの各種添加剤を加えることもできる。
【0051】
電解液21に用いられる媒体は、良好なイオン電導性を発現できる化合物であることが好ましい。溶液状の媒体としては、例えば、ジオキサン、ジエチルエーテルなどのエーテル化合物、エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテルなどの鎖状エーテル類、メタノール、エタノール、エチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテルなどのアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール類、アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル化合物、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート化合物、3−メチル−2−オキサゾリジノンなどの複素環化合物、ジメチルスルホキシド、スルホランなど非プロトン極性物質などを用いることができる。
【0052】
また、固体状(ゲル状を含む)の媒体を用いる目的で、ポリマーを含ませることもできる。この場合、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデンなどのポリマーを前記溶液状媒体中に添加することで、エチレン性不飽和基を有した多官能性モノマーを前記溶液状媒体中で重合させて媒体を固体状にする。
【0053】
電解液21としてはこのほか、CuI、CuSCN媒体を必要としない電解質および、2,2’,7,7’−テトラキス(N,N−ジ−p−メトキシフェニルアミン)9,9’−スピロビフルオレンのような正孔輸送材料を用いることができる。
【0054】
[光電変換素子の製造方法]
次に、本技術の第1の実施形態に係る光電変換素子1の製造方法の一例について説明する。
【0055】
本技術では、光電変換素子の製造方法が、光電極層前駆体、絶縁層前駆体および触媒層前駆体からなる積層体を形成する工程と、該積層体を焼成する工程とを備える。本技術では、光電極層前駆体と、絶縁層前駆体および触媒層前駆体のうちの少なくとも一方とが、グリーンシートからなることを特徴とする。
【0056】
(積層体形成の工程)
「グリーンシートの作製」
光電極層前駆体の作製を例にとり、グリーンシートの作製方法について説明する。
【0057】
まず、グリーンシート形成用組成物としてのスラリーを調製する。グリーンシート形成用組成物としてのスラリーは、例えば酸化チタンなどの半導体微粒子からなる原料粉末、バインダーおよび溶媒を含有し、必要に応じて、可塑剤や分散剤を含有する。したがって、まず、原料粉末、バインダーおよび溶媒などをそれぞれ秤量し、所定の配合比によりこれらを混合する。個々の材料の配合比は、例えば、原料粉末の粒径や所望するスラリーの粘度などにより適宜選択される。酸化チタンなどの半導体微粒子からなる原料粉末の粒径は、例えば、10nm〜60nm程度のものが選ばれる。光電極層3の緻密性を向上させる目的や、散乱粒子として大粒径の金属酸化物半導体微粒子を混合する目的から、スラリーの調製時に、粒度分布の異なる金属酸化物半導体微粒子を混合するようにしてもよい。
【0058】
バインダーとしては、例えば、有機物からなるバインダーを使用することができ、具体的には、例えば、アクリル樹脂系バインダーなどを使用することができる。溶媒としては、原料粉末およびバインダーを分散できるものであれば特に限定されないが、グリーンシートの焼成温度よりも低い温度領域で揮発することが好ましい。溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノールなどの炭素数が4以下の低級アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール(1,3−プロパンジオール)、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオールなどの脂肪族グリコール、メチルエチルケトンなどのケトン類、ジメチルエチルアミンなどのアミン類などが単独または2種以上混合して用いることができるが、特にこれに限定されるものではない。
【0059】
次に、原料粉末、バインダーおよび溶媒などの混合物を、例えば、攪拌処理、超音波分散処理、ビーズ分散処理、混錬処理、ホモジナイザー処理などを用いて、十分に混合する。原料粉末の分散性を向上させるため、混合を数回に分けて行ってもよい。
【0060】
次に、フィルタによりスラリーをろ過し、スラリー中の異物を除去する。次に、ろ過後のスラリーに対して、内部の気泡を除去するための真空脱泡を行う。以上により、グリーンシート形成用組成物としてのスラリーが得られる。
【0061】
次に、例えば、樹脂フィルムなどの表面に対してスラリーを均一に塗布または印刷することにより、スラリーをシート状に成形する。塗布または印刷の方法としては、簡便で量産性に適した方法を用いることが好ましい。塗布方法としては、例えば、ダイコート法、マイクログラビアコート法、ワイヤーバーコート法、ダイレクトグラビアコート法、リバースロールコート法、コンマコート法、ナイフコート法、スプレーコート法、カーテンコート法、ディップ法、スピンコート法などを用いることができるが、特にこれに限定されるものではない。印刷方法としては、例えば、凸版印刷法、オフセット印刷法、グラビア印刷法、凹版印刷法、ゴム版印刷法、スクリーン印刷法などを用いることができるが、特にこれに限定されるものではない。
【0062】
図2Aに示すように、例えば、スラリー93は、ポンプ94によりスリットコーターに投入される。スリットコーターのダイ95は、例えば、ロール96と対向するように配置される。ロール96の回転に伴い、ロール96の周面の一部に巻きつけられたフィルム99が、一定の速さでダイ95とロール96との間を走行するようにされる。フィルム99を一定の速さで走行させながらスラリー93を塗布することにより、ほぼ均一な厚さのシート状のスラリー93を得ることができる。塗布するスラリー93の厚さについては、ダイ95のスリットのギャップ幅およびフィルムの送り速さにより調整が可能である。
【0063】
後にグリーンシートを剥がしやすくするために、フィルム99の表面には、剥離性を付与する組成物があらかじめ塗布または印刷されることにより、離型処理が施されていることが好ましい。剥離性を付与する組成物としては、例えば、バインダーを主成分とし、ワックスやフッ素などが添加された塗料またはシリコン樹脂を挙げることができる。
【0064】
次に、図2Bに示すように、シート状のスラリー93に対して、例えば、ヒーター97a、97bおよび97cにより加熱および乾燥を行う。乾燥は、100℃にて5分程度行われ、スラリー中の溶媒が除去される。図2Bでは、複数個のヒーターを用いて連続的にスラリー93の乾燥を行う例を示しているが、乾燥方法としては、連続式、バッチ式のどちらでも構わない。乾燥後に、塗布されたスラリーの厚さを膜厚測定装置により測定し、塗布されるスラリーの厚さが一定となるように、ダイ95のスリットの開閉およびスリットのギャップ幅を制御するようにしてもよい。これにより、光電極層前駆体3p(グリーンシート)が、フィルム99上に形成される。
【0065】
次に、図2Cに示すように、乾燥後の光電極層前駆体3pを、フィルム99とともに所定の大きさおよび形状に切り抜く。光電極層前駆体3pおよびフィルム99の切り抜きは、例えば、ピナクル型やトムソン型(ビク型)を使用して、打ち抜きにより行うことができる。または、ナイフやハサミで所望の形状に切り抜くといったこともできる。
【0066】
次に、図2Dに示すように、光電極層前駆体3pからフィルム99を剥離することにより、グリーンシートからなる光電極層前駆体3pが得られる。
【0067】
絶縁層前駆体5pまたは触媒層前駆体7pについても、上述した方法と同様にして、グリーンシートを作製することができる。グリーンシートからなる絶縁層前駆体5pの作製においては、原料粉末として、例えば、粒径100nm〜500nmの酸化チタン粉末が用いられる。グリーンシートからなる触媒層前駆体7pの作製においては、原料粉末として、例えば、カーボン粉末が用いられる。
【0068】
「積層構造の形成」
まず、上述した方法により、グリーンシートからなる光電極層前駆体3p、グリーンシートからなる絶縁層前駆体5pおよびグリーンシートからなる触媒層前駆体7pを作製する。次に、図3A〜図3Cにそれぞれ示す光電極層前駆体3p、絶縁層前駆体5pおよび触媒層前駆体7pを順に重ね合わせる。光電極層前駆体3p、絶縁層前駆体5pおよび触媒層前駆体7pを順に重ね合わせて所定の圧力を加えることにより、図3Dに示すように、これらが一体的に構成された積層体11を得ることができる。粒度分布の異なる金属酸化物半導体微粒子を用いて作製したグリーンシートをさらに積層するようにしてもよい。
【0069】
なお、光電極層前駆体3p、絶縁層前駆体5pおよび触媒層前駆体7pを順次形成することにより積層体11と同様の積層構造を得ることもできるが、本技術によれば、これらを別個に製作しておくことができるため、リードタイムを短縮することができる。すなわち、光電極層前駆体3p、絶縁層前駆体5pおよび触媒層前駆体7pをそれぞれ別個のラインで製作でき、同時処理によりプロセスフローが簡略され、工程や品質の管理も容易となる。なお、積層体11は、図3Eに示すように、ロール状とすることもでき、光電変換素子または光電極材料の製造のための原反として供給することもできる。
【0070】
また、光電変換素子の発電効率を向上させるために、例えば、光入射側においてより多くの光を取込み、光をより多く拡散させるための拡散層を光電変換素子に設ける場合にも、グリーンシートを複数枚貼り合わせることで、容易に所望の構造を実現できる。例えば、粒径の異なる酸化チタンを用い、拡散層前駆体となるグリーンシートを作製しておき、該グリーンシートを光電極層前駆体などのグリーンシートとともに重ね合わせるようにすればよい。
【0071】
次に、図3Fに示すように、金属や透明導電膜などの導電基材9に、触媒層前駆体7pが導電基材9の側に配置されるようにして積層体11を貼り合わせる。導電基材9に対する積層体11の貼り合わせは、導電基材9と積層体11とを重ね合わせて圧力P1を加えるだけでよく、導電基材9および積層体11に圧力P1を加える方法も、面プレスやロールプレス(線プレス)、水圧プレスなど、特に限定されない。導電基材9に対する積層体11の貼り合わせは、例えば、プレス装置を用いての圧着により行うことができる。プレス装置としては、例えば、平板プレス装置やカレンダープレス装置(ロールプレス装置)、熱プレス装置などを挙げることができるが、これらに限定されない。プレス圧力に対応する圧力P1は、例えば、1MPa〜100MPa程度に設定されるが、プレス圧力、プレス時間、プレス温度などの各種条件は、各種の試験を行い、決定すればよい。
【0072】
導電基材9の厚さには特に制限はなく、例えば、厚さ30μm程度のチタン箔などが使用できる。導電基材9は、焼成後のグリーンシートの強度を確保するための支持基材としての機能も有する。
【0073】
図4Aは、導電基材9と積層体11とが貼り合わされた状態を示している。図4Aに示すように、積層体12は、導電基材9の一主面上に、触媒層前駆体7p、絶縁層前駆体5pおよび光電極層前駆体3pが順に積層されて構成される。積層体12は、例えば、光電変換素子の光電極材料とすることができる。導電基材9が可撓性を有する場合には、積層体12は、図3Eに示す積層体11と同様に、ロール状とすることもでき、光電変換素子の製造のための原反として供給することもできる。
【0074】
(焼成の工程)
次に、積層体12に対して焼成処理を行う。積層体12に対する焼成は、バッチ式の焼成炉あるいは連続式の焼成炉を用いて行うことができる。焼成は、例えば、500℃30分程度の条件で実施する。積層体12に対して焼成処理を行うことにより、グリーンシート中のバインダーおよび可塑剤が除去されるとともに、光電極層3における半導体微粒子間にネッキングが生じ、半導体微粒子間の電子的な接続が向上する。本技術によれば、焼成の工程を、例えば、高分子フィルムなどの高分子樹脂基材が使用可能な低温度領域で行う必要がなく、光電変換素子の光電変換効率が低下することがない。
【0075】
(色素担持)
次に、増感色素を溶媒に溶解させて、溶液を調製する。増感色素を溶解させるために、必要に応じて、加熱、溶解助剤の添加および不溶分のろ過を行ってもよい。溶媒としては、増感色素を溶解可能であり、かつ、光電極層前駆体3pを焼成することにより得られる多孔質半導体層に色素吸着の仲立ちを行えるものであることが好ましく、例えば、エタノール、イソプロピルアルコール、ベンジルアルコールなどのアルコール系溶剤、アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル系溶剤、クロロホルム、ジクロロメタン、クロロベンゼンなどのハロゲン系溶剤、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶剤、炭酸ジエチル、炭酸プロピレンなどの炭酸エステル系溶剤、ヘキサン、オクタン、トルエン、キシレンなどの炭水化物系溶剤、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、1,3−ジメチルイミダゾリノン、Nメチルピロリドン、水などを単独または2種以上混合して用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0076】
次に、例えば、積層体12の焼成体を、増感色素を含む溶液中に浸すことにより、金属酸化物微粒子に増感色素を担持させる。光電極層前駆体3pを焼成することにより得られる多孔質半導体層を、増感色素を含む溶液中に積層体12の焼成体ごと浸すことにより、増感色素の連結置換基の親和性を利用して、多孔質半導体の多孔質表面に増感色素を接触させて結合させることができる。もちろん、増感色素を担持させる方法は、この方法に限定されない。このようにして、光電極層3、絶縁層5および触媒層7からなる積層体13が導電基材9の一主面上に形成された積層体14を得ることができる。
【0077】
(導電性基材の形成)
次に、図4Cに示すように、光電変換素子の光入射側となる導電性基材を準備する。導電性基材は、例えば、基材17と、基材17の一主面上に形成される透明導電層15から構成される。例えば、溶融押出法、射出成形法などを用い、板状やフィルム状の基材17を成形し、次に、スパッタリング法などの薄膜作製技術により、透明導電層15を基材17上に形成する。
【0078】
(積層体と導電性基材との貼り合わせ)
次に、図4Dに示すように、積層体14と、基材17および透明導電層15から構成される導電性基材とを貼り合わせる。基材17および透明導電層15から構成される導電性基材に対する積層体14の貼り合わせは、導電性基材と積層体14とを重ね合わせて圧力P2を加えるだけでよい。導電性基材および積層体14に圧力P2を加える方法も、面プレスやロールプレス(線プレス)、水圧プレスなど、特に限定されない。導電性基材に対する積層体14の貼り合わせは、例えば、プレス装置を用いての圧着により行うことができる。プレス装置としては、例えば、平板プレス装置やカレンダープレス装置(ロールプレス装置)、熱プレス装置を挙げることができるが、これらに限定されない。プレス圧力に対応する圧力P2は、例えば、1MPa〜100MPa程度に設定されるが、プレス圧力、プレス時間、プレス温度などの各種条件は、各種の試験を行い、決定すればよい。導電性基材と積層体14との貼り合わせに際して、密着性を向上させるために、導電性基材を加熱するようにしてもよい。
【0079】
(電解液の充填)
次に、図5Aに示すように、導電基材9と透明導電層15との間に封止材19を配置する。封止材19は、導電基材9または透明導電層15の周縁部に配置される。導電基材9の周縁部に、あらかじめスクリーン印刷などにより封止材19としての紫外線硬化型接着剤を形成しておき、この紫外線硬化型接着剤を介して、導電基材9と透明導電層15とを貼り合わせるようにしてもよい。これにより、導電基材9と、透明導電層15と、封止材19とにより、電解液21が充填される空間が形成される。
【0080】
次に、この空間に例えば導電基材9に予め形成された注入口から電解液を注入し、空間内に電解液を充填する。この場合、注入口に電解液を数滴垂らし、毛細管現象による方法が簡便である。電解液の注入方法にも特に制限はないが、周縁部(外周部)をあらかじめ封止し、減圧下において、注入口から光電変換素子の内部に電解液の注入を行う方法が好ましい。その後、この注入口を塞ぐ。これにより、図5Bに示す、目的とする光電変換素子1が製造される。周縁部(外周部)の一部のみ残して封止材19を配置しておき、封止材19が配置されていない部分を注入口として、該注入口から光電変換素子の内部に電解液の注入を行い、その後、減圧下で、該注入口を封止するようにしてもよい。
【0081】
樹脂基材の耐熱性を考慮して150℃以下程度の焼成温度で分散ペーストを焼成して多孔質半導体層を得る方法では、バインダーや可塑剤などの添加物を加える事が困難であり、バインダー等の有機物の含有量を極力減らした分散ペーストの開発が必要となる。しかしながら、有機物の含有量を極力減らした分散ペーストの調製の場合、粘度の調整が困難である。また、調製後の分散ペーストの粘度も低く、分散ペーストの塗布においては、膜厚分布のバラツキが発生しやすいためにスクリーン印刷法などの手法が使えず、主にブレード法やスプレー法、スピン法などを使わざるをえない。ブレード法やスプレー法、スピン法などを用いる場合には、分散ペーストの材料の配合比をパターン化するためのプロセスも必要となる。そのため、分散ペーストの調製のプロセス工数や製造コストがかえって増加してしまい、色素増感太陽電池の製造コスト低減の妨げとなっていた。
【0082】
本技術によれば、光電極層3と、絶縁層5および触媒層7のうちの少なくとも一方とがグリーンシートの焼成体とされるので、光電極層前駆体3pの焼成を高温にて行うことができる。したがって、低温で焼成することにより、ネッキングが不十分となることがないため、酸化チタン粒子間の結合性の低下が抑制され、色素増感太陽電池の変換効率や耐久性の低下を防止できる。また、色素増感太陽電池製造における材料費の主要素であるガラスを、比較的廉価な高分子樹脂基材に置き換えることが可能となる。
【0083】
従来の技術では、焼成後の酸化チタン多孔質層は、バインダー等が除去されて非常にもろくなり、被転写基板上に転写する作業が困難となるが、本技術によれば、対極となる導電基材を支持基材として使用でき、グリーンシートの焼成体の取り扱いが容易である。しかも、透明導電層が形成された高分子樹脂基材上にグリーンシートの焼成体をプレスするだけで、グリーンシートの焼成体、透明導電層および高分子樹脂基材の積層体を得ることができる。
【0084】
本技術によれば、種類の異なるグリーンシートを複数枚重ね合わせて圧力をかけるだけで光電極層などの積層構造を容易に得ることができる。また、グリーンシートは、多様な形状に加工することが容易であり、例えば、光電極層などの厚膜化や、色素増感太陽電池の大判化にも対応可能である。
【0085】
[光電変換素子の製造方法の他の一例]
グリーンシートは、多様な形状に加工が可能であり、また、その屈曲性から、光電極層などを全体として曲面形状とすることも可能である。
【0086】
例えば、図6A〜図6Dに示すように、上述した方法により、グリーンシートからなる光電極層前駆体3p、グリーンシートからなる絶縁層前駆体5pおよびグリーンシートからなる触媒層前駆体7pを作製する。次に、光電極層前駆体3p、絶縁層前駆体5pおよび触媒層前駆体7pを順に重ね合わせて所定の圧力を加えることにより、これらが一体的に構成された積層体11を得る。
【0087】
次に、図6Eに示すように、導電基材9に積層体11を貼り合わせる。このとき、曲面形状を有する支持台の上で導電基材9に対する積層体11の貼り合わせを行うことにより、または、導電基材9に対する積層体11の貼り合わせ後に、積層体12を湾曲させることにより、積層体12を全体として曲面形状とすることができる。次に、積層体12に対して焼成処理を行うことにより、図6Fに示すように、曲面形状の積層体14を得ることができる。この場合において、光電極層3、絶縁層5および触媒層7も、それぞれ全体として曲面形状を有する層となっている。
【0088】
次に、図7Aに示すように、光電変換素子の光入射側となる導電性基材を準備する。このとき、基材17としては、積層体14の曲面形状に対応した形状を有する基材を用いることができ、基材17の一主面上に形成される透明導電層15も、積層体14の曲面形状に対応した形状とすることができる。
【0089】
次に、図7B〜図7Dに示すように、積層体14と、基材17および透明導電層15から構成される導電性基材とを貼り合わせ、封止材19を配置した後に電解液を充填することで、全体として曲面形状を有する光電変換素子31が得られる。光電変換素子31の曲面形状を、例えば、曲面形状を有する建造物や構造物にあわせて設計しておけば、曲面形状を有する建造物や構造物への光電変換素子31の設置が容易となる。
【0090】
<2.第2の実施形態>
[光電変換素子の構成]
図8Aは、本技術の第2の実施形態に係る光電変換素子の構成の一例を示す模式的断面図である。図8Aに示すように、第2の実施形態に係る光電変換素子71は、光電極層3、絶縁層5および触媒層7の積層体13を備える点において、第1の実施形態と共通する。第2の実施形態においても、光電極層3が、グリーンシートの焼成体とされ、絶縁層5および触媒層7のうちの少なくとも一方が、グリーンシートの焼成体とされる。第2の実施形態では、導電基材39と透明導電層15aとの間に積層体13が介在され、導電基材39が、基材17の一主面上に形成された透明導電層15bと電気的に接続される点において、第1の実施形態と異なっている。また、光電変換素子71は、封止材19を備えず、ラミネーションフィルム27により電解液21が封止される点において、第1の実施形態と異なっている。図8Aに示す光電変換素子71は、1枚の基材に正極と負極とを形成する、いわゆるモノリシック構造を有する光電変換素子である。
【0091】
[光電変換素子の製造方法]
次に、図8B〜図8Dおよび図9A〜図9Cを参照しながら、本技術の第2の実施形態に係る光電変換素子71の製造方法の一例について説明する。
【0092】
まず、第1の実施形態に係る光電変換素子1の場合と同様にして、グリーンシート形成用組成物としてのスラリーを調製する。次に、スラリーを均一に塗布または印刷した後、シート状のスラリーを加熱乾燥することにより、グリーンシートを作製する。次に、グリーンシートを所定の大きさおよび形状に切り抜き、光電極層前駆体3pを作製する。同様にして、絶縁層前駆体5pおよび触媒層前駆体7pを作製する。
【0093】
次に、第1の実施形態に係る光電変換素子1の場合と同様にして、光電極層前駆体3p、絶縁層前駆体5pおよび触媒層前駆体7pの積層体11を作製し、プレス装置などにより、導電基材39に積層体11を貼り合わせる。なお、導電基材39の材料としては、電解液21に対する反応性が低い材料が選択されることが好ましい。導電基材39の材料としては、例えば、金属を用いることができるが、これに限定されるものではない。金属としては、例えば、チタン、タングステン、モリブデン、タンタル、ニオブ、ジルコニウム、亜鉛、ニッケル、クロムおよび鉄からなる群より選択される1種以上を用いることができる。具体的には例えば、金属としては、例えば、チタン、タングステン、モリブデン、タンタル、ニオブ、ジルコニウム、亜鉛、ニッケル、クロム、鉄などの単体、またはこれらを2種以上含む合金を挙げることができる。合金としては、ステンレス鋼(Stainless Used Steel:SUS)、NiCu合金、NiCr合金などのニッケル合金などを用いることが好ましい。ステンレス鋼としては、SUS304、SUS304L、SUS310S、SUS316、SUS316L、SUS317L、SUS321、SUS347などを用いることが好ましい。導電基材39を電解液21から保護するために、例えば、樹脂材料などにより導電基材39を被覆するようにしてもよい。導電基材39は、可撓性を有することが好ましく、導電基材39の厚さとしては、導電基材39をグリーンシートの焼成体の支持基材とする観点から、30μm以上であることが好ましい。
【0094】
次に、光電極層前駆体3p、絶縁層前駆体5pおよび触媒層前駆体7pに対して焼成処理を行う。光電極層前駆体3p、絶縁層前駆体5pおよび触媒層前駆体7pに対する焼成は、例えば、500℃30分程度の条件で実施する。焼成処理の後、光電極層前駆体3p、絶縁層前駆体5pおよび触媒層前駆体7pの焼成体ならびに導電基材39の積層体を、増感色素を含む溶液中に浸し、金属酸化物微粒子に増感色素を担持させる。
【0095】
次に、図8Bに示すように、スパッタリング法などの薄膜作製技術により、透明導電層15を基材17の一主面上に形成し、光電変換素子の光入射側となる導電性基材を準備する。次に、図8Cに示すように、エッチング加工やレーザ加工、研磨加工などにより、透明導電層15を負極側の透明導電層15aと正極側の透明導電層15bとに分離する。マスクなどを用いて、あらかじめ透明導電層15をパターンニングし、負極側透明導電層15aおよび正極側透明導電層15bを形成するようにしてもよい。
【0096】
次に、図8Dに示すように、光電極層3、絶縁層5および触媒層7ならびに導電基材39の積層体34と、基材17および透明導電層15から構成される導電性基材とを貼り合わせる。基材17および透明導電層15から構成される導電性基材に対する積層体34の貼り合わせは、導電性基材と積層体34とを重ね合わせて圧力P2を加えるだけでよい。圧力P2は、例えば、1MPa〜100MPa程度に設定される。導電性基材と積層体34との貼り合わせに際して、密着性を向上させるために、導電性基材を加熱するようにしてもよい。
【0097】
次に、図9Aに示すように、導電基材39と正極側透明導電層15bとを電気的に接続させる。接続の方法としては、導電性接着剤を用いた接着や溶接、はんだ付けなど、特に限定されるものではなく、基材17の耐熱性などを考慮して適宜選択すればよい。
【0098】
次に、図9Bに示すように、樹脂材料などからなるラミネーションフィルムを用い、電解液21を封入する。以上により、図9Cに示す光電変換素子71が得られる。
【0099】
モノリシック構造を採用することにより、材料費の主要素であるガラスの使用量を減らすことができ、光電変換素子の製造コストが抑えられる。本技術によれば、モノリシック構造を有する光電変換素子の製造工程において、積層構造を形成するために下層より複数の層を順次形成していく必要がなく、したがって、リードタイムを短縮することができる。また、膜厚分布のバラツキが発生しやすいスクリーン印刷法などの手法を用いずに、積層構造の各層を形成することができる。
【0100】
<3.第3の実施形態>
[光電変換素子の構成]
図10Aは、本技術の第3の実施形態に係る光電変換素子の構成の一例を示す模式的断面図である。図10Aに示すように、第3の実施形態に係る光電変換素子81は、光電極層3と、絶縁層5と、触媒層7と、集電電極44とを備える。集電電極44は、光電極層3と絶縁層5との間に介在される。触媒層7は、例えば、導電基材49の一主面上に形成されており、光電極層3、集電電極44、絶縁層5、触媒層7および導電基材49の積層体と、電解液21とが、ラミネーションフィルム28により封止される。
【0101】
第3の実施形態では、光電極層3と、絶縁層5および触媒層7のうちの少なくとも一方とが、グリーンシートの焼成体とされる点において、第2の実施形態と共通する。また、第3の実施形態では、光電極層3、絶縁層5、触媒層7および導電基材と、電解液21とが、ラミネーションフィルムにより封止される点において、第2の実施形態と共通する。ここで、第3の実施形態では、集電電極44が光電極層3と絶縁層5との間に介在され、基材17上には透明導電層を備えない点において、第2の実施形態と異なっている。図10Aに示す光電変換素子81は、光入射側となる基材に透明導電層を必要としない、いわゆるTCOフリー(Transparent Conductive Oxide-free)構造を有する光電変換素子である。
【0102】
[光電変換素子の製造方法]
次に、図10B〜図10Dおよび図11A〜図11Dを参照しながら、本技術の第3の実施形態に係る光電変換素子81の製造方法の一例について説明する。
【0103】
まず、第1の実施形態に係る光電変換素子1の場合と同様にして、グリーンシート形成用組成物としてのスラリーを調製する。次に、スラリーを均一に塗布または印刷した後、シート状のスラリーを加熱乾燥することにより、グリーンシートを作製する。次に、グリーンシートを所定の大きさおよび形状に切り抜き、光電極層前駆体3pを作製する。
【0104】
次に、第1の実施形態に係る光電変換素子1の場合と同様にして、図10Bに示すように、プレス装置などにより、集電電極44の一主面上に光電極層前駆体3pを貼り合わせる。集電電極44に対する光電極層前駆体3pの貼り合わせは、集電電極44と光電極層前駆体3pとを重ね合わせて圧力P4を加えるだけでよい。圧力P4は、例えば、1MPa〜100MPa程度に設定される。以下、集電電極44において、光電極層前駆体3pが貼り付けられる側の面をS1、面S1の反対面を面S2と称する。
【0105】
集電電極44の材料としては、多孔質であり導電性に優れた材料を用いることが好ましく、例えば、第3の実施形態の導電基材39と同様のものを使用することができる。集電電極44の構造としては、例えば、電解液を集電電極44の表面に垂らしたとき、電解液が電極深さ方向に浸透して、裏面側まで到達することが可能な構造が好ましく、例えば、穴の開いたフィルム、シート、箔、基板などを用いることができる。より具体的には、メッシュ(例えば、平織、綾織、平畳織、綾畳織など)、多孔質体、不織布、繊維焼結体、エキスパンドメタル、パンチングメタル、エッチング加工などで穴を開けた箔などを用いることができるが、これらに限定されるものではない。集電電極44としては、プラスチック材料などからなる基材の表面を金属などの導電材料で被覆したものを用いるようにしてもよい。集電電極44の厚さとしては、集電電極44をグリーンシートの焼成体の支持基材とする観点から、30μm以上であることが好ましい。また、電解液中のイオンが効率的に移動し、これに伴う電子の移動が阻害されないようにすることを考慮すると、例えば、100μm以下であることが好ましい。
【0106】
次に、光電極層前駆体3pの場合と同様にして、グリーンシートからなる絶縁層前駆体5pおよびグリーンシートからなる触媒層前駆体7pを作製する。
【0107】
次に、図10Cに示すように、触媒層前駆体7pが導電基材49に接するようにして、プレス装置などにより、絶縁層前駆体5pおよび触媒層前駆体7pの積層体と、導電基材49とを貼り合わせる。導電基材49に対する絶縁層前駆体5pおよび触媒層前駆体7pの積層体の貼り合わせは、導電基材49と絶縁層前駆体5pおよび触媒層前駆体7pの積層体とを重ね合わせて圧力P5を加えるだけでよい。圧力P5は、例えば、1MPa〜100MPa程度に設定される。なお、導電基材49に対して、触媒層前駆体7pおよび絶縁層前駆体5pを順次貼り合わせるようにしてもよい。以下、絶縁層前駆体5pの露出面をS3と称する。
【0108】
次に、図10Dに示すように、面S3と面S2とが対向するようにして、プレス装置などにより、集電電極44および光電極層前駆体3pの積層体と、絶縁層前駆体5p、触媒層前駆体7pおよび導電基材49の積層体とを貼り合わせる。貼り合わせは、それぞれの積層体を重ね合わせて圧力P6を加えるだけでよい。圧力P6は、例えば、1MPa〜100MPa程度に設定される。なお、貼り合わせの前に、集電電極44および導電基材49のそれぞれに対して、チタンまたは表面処理を施したチタンなどからなる配線取り出し用の金属箔をとりつけるようにしてもよい。配線取り出し用の金属箔の接続の方法としては、導電性接着剤を用いた接着や溶接、はんだ付けなどにより行うことができる。これにより、図11Aに示すように、光電極層前駆体3p、集電電極44、絶縁層前駆体5p、触媒層前駆体7pおよび導電基材49が一体的に構成された積層体42が得られる。
【0109】
次に、積層体42に対して焼成処理を行う。積層体42に対する焼成は、例えば、500℃30分程度の条件で実施する。焼成処理の後、積層体42を、増感色素を含む溶液中に浸し、金属酸化物微粒子に増感色素を担持させる。これにより、図11Bに示すように、光電極層3、集電電極44、絶縁層5、触媒層7および導電基材49が一体的に構成された積層体43が得られる。
【0110】
次に、図11Cに示すように、積層体43を、基材17およびラミネーションフィルム28により封止する。なお、第3の実施形態では、基材17上に透明導電層を形成する必要がないため、基材17として透明性を有するフィルム等を使用することもでき、光電変換素子を小型かつ軽量に構成することも容易である。このとき、外部との接続用の端子として、集電電極44の一部および導電基材49の一部、または配線取り出し用の金属箔が、ラミネーションフィルム28の外側となるようにして封止が行われる。また、このとき、電解液21の注入を行いやすいように、基材17およびラミネーションフィルム28のうち、一部を封止せずにしておく。
【0111】
次に、電解液21を注入した後、基材17およびラミネーションフィルム28のうち、封止せずにしておいた一部を封止する。以上により、図11Dに示す光電変換素子81が得られる。第3の実施形態によれば、第2の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0112】
<4.第4の実施形態>
[光電変換モジュールの構成]
図12Aは、本技術の第4の実施形態に係る光電変換モジュールの構成の一例を示す模式的断面図である。図12Aに示すように、光電変換モジュール91は、第1の実施形態に係る光電変換素子の複数個が電気的に接続されて構成されている。
【0113】
図12Aに示す光電変換モジュール91では、例えば、基板17を共通とする光電変換素子1aおよび光電変換素子1bが、導電部材30を介して、電気的に接続される。導電部材30は、例えば、金属配線や導電ペーストなどからなるが、導電性を有するものであれば、これらに限定されない。なお、図12Aに示すように、光電変換モジュール91には、ガラスや樹脂などの支持基材10が必要に応じて設けられる。このとき、光電変換素子1aおよび光電変換素子1bは、支持基材10上に配置される。
【0114】
[光電変換モジュールの第1の変形例]
図12Bは、本技術の第4の実施形態に係る光電変換モジュールの構成の第1の変形例を示す模式的断面図である。図12Bに示すように、光電変換モジュール101は、第2の実施形態に係る光電変換素子の複数個が電気的に接続されて構成されている。図12Bに示す光電変換モジュール101では、例えば、導電基材39aが透明導電層15bに接続されることにより、基板17を共通とする光電変換素子71aおよび光電変換素子71bが、電気的に接続される。
【0115】
[光電変換モジュールの第2の変形例]
図12Cは、本技術の第4の実施形態に係る光電変換モジュールの構成の第2の変形例を示す模式的断面図である。図12Cに示すように、光電変換モジュール111は、第3の実施形態に係る光電変換素子の複数個が電気的に接続されて構成されている。図12Cに示す光電変換モジュール111では、例えば、集電電極44aと導電基材49bとが導電部材40を介して接続されることにより、基板17を共通とする光電変換素子81aおよび光電変換素子81bが、電気的に接続される。
【0116】
第4の実施形態によれば、光電極層などをパターンニングして基材上に形成する必要がないため、複雑な工程を必要とせずに、光電変換モジュールを製造することができる。
【0117】
[光電変換モジュールの第3の変形例]
光電極層3、絶縁層5および触媒層7などからなる積層体の複数個を、ラミネートフィルムなどにより封止するようにしてもよい。図13Aは、光電極層、絶縁層および触媒層ならびに導電基材の積層体の複数個が封止された光電変換モジュールの例を示す模式的断面図である。図13Aに示す光電変換モジュール121では、導電基材39aが透明導電層15bに接続されることにより、光電極層3、絶縁層5および触媒層7からなる積層体が直列に接続されている。
【0118】
[光電変換モジュールの第4の変形例]
図13Bは、光電極層、集電電極、絶縁層、触媒層および導電基材の積層体の複数個が封止された光電変換モジュールの例を示す模式的断面図である。図13Bに示す光電変換モジュール131では、導電部材46を介して、一方の積層体の光電極層と、該積層体とは異なる積層体の触媒層とが接続されている。
【0119】
光電極層3、絶縁層5および触媒層7などからなる積層体の複数個を、ラミネートフィルムなどにより封止することにより、光電変換モジュール1つあたりの起電力を大きくすることができる。図13Aに示す光電変換モジュール121または図13Bに示す光電変換モジュール131の複数個をさらに接続してもよい。
【0120】
なお、本技術は、以下のような構成をとることもできる。
(1)
光電極層、絶縁層および触媒層の積層体と、
導電基材と、
透明導電層と
を備え、
上記積層体は、上記導電基材と上記透明導電層との間に介在され、
上記光電極層と、上記絶縁層および上記触媒層のうちの少なくとも一方とは、グリーンシートの焼成体である光電変換素子。
(2)
上記積層体は、上記触媒層が上記導電基材の側に配置されるようにして上記導電基材と上記透明導電層との間に介在される(1)に記載の光電変換素子。
(3)
上記導電基材は、可撓性を有する(1)または(2)に記載の光電変換素子。
(4)
可撓性を有する樹脂基材をさらに備え、
上記透明導電層は、上記樹脂基材上に形成される(1)〜(3)のいずれかに記載の光電変換素子。
(5)
光電極層と、
絶縁層と、
触媒層と、
集電電極と
を備え、
上記集電電極は、上記光電極層と上記絶縁層との間に介在され、
上記触媒層は、上記絶縁層の一主面上に設けられ、
上記光電極層と、上記絶縁層および上記触媒層のうちの少なくとも一方とは、グリーンシートの焼成体である光電変換素子。
(6)
上記光電極層、上記絶縁層および上記触媒層は、グリーンシートの焼成体である(1)〜(5)のいずれかに記載の光電変換素子。
(7)
上記光電極層は、半導体微粒子を含み、上記半導体微粒子がネッキングした多孔質半導体層である(1)〜(6)のいずれかに記載の光電変換素子。
(8)
(1)〜(7)のいずれかに記載の光電変換素子の複数個が電気的に接続された光電変換モジュール。
(9)
導電基材の一主面に、光電極層前駆体、絶縁層前駆体および触媒層前駆体からなる積層体を形成する工程と、
上記積層体を焼成する工程と
を備え、
上記光電極層前駆体と、上記絶縁層前駆体および上記触媒層前駆体のうちの少なくとも一方とは、グリーンシートからなる光電変換素子の製造方法。
(10)
上記積層体の焼成体と、透明導電層とを貼り合わせる工程をさらに備え、
上記積層体の焼成体と、上記透明導電層との貼り合わせは、圧着により行われる(9)に記載の光電変換素子の製造方法。
(11)
導電基材に対して、上記積層体を貼り合わせる工程をさらに備える(9)または(10)に記載の光電変換素子の製造方法。
(12)
集電電極の一主面上に光電極層前駆体を形成する工程と、
導電基材の一主面に対して、絶縁層前駆体および触媒層前駆体を形成する工程と、
上記集電電極の他主面と上記絶縁層前駆体とを対向させて貼り合わせ、上記光電極層前駆体が形成された上記集電電極と、上記絶縁層前駆体および上記触媒層前駆体が形成された上記導電基材とが一体的とされた積層体を形成する工程と、
上記積層体を焼成する工程と
を備え、
上記光電極層前駆体と、上記絶縁層前駆体および上記触媒層前駆体のうちの少なくとも一方とは、グリーンシートからなる光電変換素子の製造方法。
(13)
グリーンシートからなる触媒層前駆体と、
グリーンシートからなる絶縁層前駆体と、
グリーンシートからなる光電極層前駆体と
を備え、
上記触媒層前駆体、上記絶縁層前駆体および上記光電極層前駆体が順に積層された積層体。
(14)
導電基材と、
グリーンシートからなる触媒層前駆体と、
グリーンシートからなる絶縁層前駆体と、
グリーンシートからなる光電極層前駆体と
を備え、
上記導電基材の一主面上に、上記触媒層前駆体、上記絶縁層前駆体および上記光電極層前駆体が順に積層された光電極材料。
【実施例】
【0121】
グリーンシートの焼成体から光電極層が構成された光電変換素子と、スプレー法により形成された前駆体の焼成体から光電極層が構成された光電変換素子とを製作し、それぞれの光電変換素子の電気特性について評価を行った。以下、実施例により本技術を具体的に説明するが、本技術はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0122】
<サンプル1>
以下、サンプル1の光電変換素子の製造工程について説明する。サンプル1は、グリーンシートの焼成体から光電極層を構成した参考例である。
【0123】
まず、以下の材料を混合した後、ビーズ分散機を用いて分散処理を行うことにより、光電極層前駆体を形成するためのスラリーを調製した。
酸化チタン微粒子:アエロジル(エボニック デグサ ゲーエムベーハーの登録商標)P−25(粒径:20nm)
溶媒:メチルエチルケトンおよびエタノール
分散剤:日油株式会社製 マリアリム(登録商標) AFB−1521(重量平均分子量:30,000)
バインダー:アクリル樹脂とメチルエチルケトン(MEK)溶媒の混合材
可塑剤:フタル酸ジブチル
【0124】
次に、調製したスラリーに対して、フィルタによるろ過および真空脱泡を行い、離型処理が施された樹脂フィルムの表面に対してスラリーを均一に塗布または印刷した。次に、シート状のスラリーを加熱乾燥した後、5mm□の大きさに切り抜き、光電極層前駆体としてのグリーンシートを得た。
【0125】
次に、510℃30分の条件で、グリーンシートを焼成処理した。
【0126】
次に、CVD法により透明導電層としてのFTOの層が一主面上に形成されたガラス基板を用意し、透明導電層が形成されたガラス基板に対して、透明導電層の表面の有機物の除去のために、紫外線照射処理およびオゾン(O3)処理を10分間施した。
【0127】
次に、小型平板プレス装置により、焼成後の光電極層前駆体と、透明導電層が形成されたガラス基板との貼り合わせを行った。このとき、プレス圧力を1MPaに設定した。
【0128】
次に、焼成後の光電極層前駆体と透明導電層が形成されたガラス基板との積層体をN719溶液に2日間浸漬することにより、金属酸化物微粒子への増感色素の担持を行い、光電極層、透明導電層およびガラス基板の積層体を得た。以下に、N719溶液の構成を示す。
溶質:N719 0.3mM
溶媒:tert−ブチルアルコールおよびアセトニトリル(重量比1:1)
【0129】
次に、電解液を調製し、光電極層、透明導電層およびガラス基板の積層体を調製した電解液に5分間浸漬した。以下に、電解液の構成を示す。
溶質:ヨウ化ナトリウム(NaI) 0.05M、1−プロピル−2,3−ジメチルイミダゾリウムヨーダイド(DMPImI) 0.7M、ヨウ素(I2) 0.1Mおよびtert−ブチルピリジン 0.1M
溶媒:メトキシプロピオニトリル
【0130】
次に、一主面上にFTOの層が形成されたガラス基板を用意し、スクリーン印刷法により、FTO層の表面上にカーボンからなる触媒層を形成した。
【0131】
次に、光電極層と触媒層とが対向するようにして、光電極層、透明導電層およびガラス基板の積層体と、触媒層、FTO層およびガラス基板の積層体とを、厚さ30μmのシリコン樹脂のスペーサーを介して貼り合わせた。以上により、サンプル1の光電変換素子を得た。
【0132】
<サンプル2>
FTOの層が形成されたガラス基板に対して、光電極層形成用の分散液を調製してスプレー法により塗布した後、焼成処理を行うことにより光電極層を構成したこと以外はサンプル1の場合と同様にして、サンプル2の光電変換素子を得た。
【0133】
[光電変換素子の評価]
まず、山下電装株式会社製のソーラーシミュレータを用い、サンプル1およびサンプル2の光電変換素子について、光電変換効率の測定を行った。
【0134】
図14Aは、サンプル1およびサンプル2の光電変換素子についての光電変換効率の測定結果を示すグラフである。図14Aは、電流密度[mA/cm2]を縦軸にとり、電圧[V]を横軸にとったグラフである。図14Aにおいては、サンプル1に関する測定結果をL1により、サンプル2に関する測定結果をL2により、それぞれ示した。
【0135】
次に、交流インピーダンス法により、サンプル1およびサンプル2の光電変換素子について、電気特性の測定を行った。
【0136】
図14Bは、サンプル1およびサンプル2の光電変換素子についての電気特性の測定結果を示すグラフである。図14Bは、測定されたインピーダンスZの実数成分を横軸に、虚数成分を縦軸にプロットした複素インピーダンスプロット(コール コール プロット(Cole-Cole Plot)、ナイキストプロットともいう。)である。図14Bにおいては、サンプル1に関する測定結果をL3により、サンプル2に関する測定結果をL4により、それぞれ示した。
【0137】
下記の表1に、サンプル1およびサンプル2に関する、AM1.5Gの光照射による光電変換効率の測定結果と、電気特性の測定結果とを示す。なお、表1中、Voc[V]、Jsc[mA/cm2]、FF[%]、Eff.[%]およびRs.[Ω]は、光電変換素子の開放電圧、短絡電流密度、フィルファクタ、光電変換効率および直列抵抗をそれぞれ表す。
【0138】
【表1】

【0139】
図14Aおよび図14Bならびに表1より以下のことがわかった。グリーンシートの焼成体により光電極層を構成した場合であっても、光電極層形成用の分散液を塗布して焼成処理を行うことにより光電極層を構成した場合と比較して、同等の光電変換効率が得られることがわかった。さらに、電気特性の測定結果から、光電極層の電気特性および光電極層の密着性に差異がないことがわかった。
【0140】
以上説明したように、本技術によれば、少なくとも光電極層の前駆体として、取り扱いが容易なグリーンシートを用いるので、焼成処理の後に、光電極層と高分子樹脂基材との貼り合わせを行うことができる。また、製造工程の簡略化や、同時処理による設備投資の削減およびリードタイムの短縮が可能となる。さらに、光電極層、絶縁層または触媒層を厚く形成することもできるため、光電極層、絶縁層および触媒層などの積層構造も容易に実現することができる。したがって、本技術によれば、工程を複雑化させずに基材として高分子樹脂基材を用いることができる光電変換素子およびその製造方法、光電変換モジュール、積層体ならびに光電極材料を提供することができる。
【0141】
本技術は、上述した本技術の実施形態に限定されるものでは無く、本技術の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。
【0142】
例えば、上述の実施形態および実施例において挙げた構成、方法、工程、形状、材料および数値などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる構成、方法、工程、形状、材料および数値などを用いてもよい。
【0143】
また、上述の実施形態の構成、方法、工程、形状、材料および数値などは、本技術の主旨を逸脱しない限り、互いに組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0144】
1、31、71、81 光電変換素子
3 光電極層
5 絶縁層
7 触媒層
3p 光電極層前駆体
5p 絶縁層前駆体
7p 触媒層前駆体
9 導電基材
11、12、14、34、42、43 積層体
15 透明導電層
17 基材
39、49 導電基材
44 集電電極
91、101、111、121、131 光電変換モジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光電極層、絶縁層および触媒層の積層体と、
導電基材と、
透明導電層と
を備え、
上記積層体は、上記導電基材と上記透明導電層との間に介在され、
上記光電極層と、上記絶縁層および上記触媒層のうちの少なくとも一方とは、グリーンシートの焼成体である光電変換素子。
【請求項2】
上記光電極層、上記絶縁層および上記触媒層は、グリーンシートの焼成体である請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項3】
上記積層体は、上記触媒層が上記導電基材の側に配置されるようにして上記導電基材と上記透明導電層との間に介在される請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項4】
上記導電基材は、可撓性を有する請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項5】
可撓性を有する樹脂基材をさらに備え、
上記透明導電層は、上記樹脂基材上に形成される請求項1記載の光電変換素子。
【請求項6】
上記光電極層は、半導体微粒子を含み、上記半導体微粒子がネッキングした多孔質半導体層である請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項7】
光電極層と、
絶縁層と、
触媒層と、
集電電極と
を備え、
上記集電電極は、上記光電極層と上記絶縁層との間に介在され、
上記触媒層は、上記絶縁層の一主面上に設けられ、
上記光電極層と、上記絶縁層および上記触媒層のうちの少なくとも一方とは、グリーンシートの焼成体である光電変換素子。
【請求項8】
請求項1に記載の光電変換素子の複数個が電気的に接続された光電変換モジュール。
【請求項9】
光電極層前駆体、絶縁層前駆体および触媒層前駆体からなる積層体を形成する工程と、
上記積層体を焼成する工程と
を備え、
上記光電極層前駆体と、上記絶縁層前駆体および上記触媒層前駆体のうちの少なくとも一方とは、グリーンシートからなる光電変換素子の製造方法。
【請求項10】
上記積層体の焼成体と、透明導電層とを貼り合わせる工程をさらに備え、
上記積層体の焼成体と、上記透明導電層との貼り合わせは、圧着により行われる請求項9に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項11】
導電基材に対して、上記積層体を貼り合わせる工程をさらに備える請求項9に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項12】
集電電極の一主面上に光電極層前駆体を形成する工程と、
導電基材の一主面に対して、絶縁層前駆体および触媒層前駆体を形成する工程と、
上記集電電極の他主面と上記絶縁層前駆体とを対向させて貼り合わせ、上記光電極層前駆体が形成された上記集電電極と、上記絶縁層前駆体および上記触媒層前駆体が形成された上記導電基材とが一体的とされた積層体を形成する工程と、
上記積層体を焼成する工程と
を備え、
上記光電極層前駆体と、上記絶縁層前駆体および上記触媒層前駆体のうちの少なくとも一方とは、グリーンシートからなる光電変換素子の製造方法。
【請求項13】
グリーンシートからなる触媒層前駆体と、
グリーンシートからなる絶縁層前駆体と、
グリーンシートからなる光電極層前駆体と
を備え、
上記触媒層前駆体、上記絶縁層前駆体および上記光電極層前駆体が順に積層された積層体。
【請求項14】
導電基材と、
グリーンシートからなる触媒層前駆体と、
グリーンシートからなる絶縁層前駆体と、
グリーンシートからなる光電極層前駆体と
を備え、
上記導電基材の一主面上に、上記触媒層前駆体、上記絶縁層前駆体および上記光電極層前駆体が順に積層された光電極材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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