光電変換素子の製造方法、光電変換素子および電子機器
【課題】多孔質電極を焼成により形成する際に集電配線を構成する銀粒子が流動するのを有効に防止することができ、配線不良の発生を抑えることができる光電変換素子の製造方法および光電変換素子を提供する。
【解決手段】透明基板1の透明導電層2上に設けられた多孔質電極5と対極8との間に電解質層10が設けられた構造を有する光電変換素子を製造する場合に、透明導電層2上に銀粒子と低融点ガラスフリットとを含む導電性ペーストにより集電配線3を形成する。色素増感光電変換素子においては、多孔質電極5の表面に光増感色素を結合させる。
【解決手段】透明基板1の透明導電層2上に設けられた多孔質電極5と対極8との間に電解質層10が設けられた構造を有する光電変換素子を製造する場合に、透明導電層2上に銀粒子と低融点ガラスフリットとを含む導電性ペーストにより集電配線3を形成する。色素増感光電変換素子においては、多孔質電極5の表面に光増感色素を結合させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光電変換素子の製造方法、光電変換素子および電子機器に関し、例えば色素増感太陽電池に用いて好適な光電変換素子およびこの光電変換素子を用いた各種の電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光を電気エネルギーに変換する光電変換素子である太陽電池は太陽光をエネルギー源としているため、地球環境に対する影響が極めて少なく、より一層の普及が期待されている。
【0003】
従来より、太陽電池としては、単結晶または多結晶のシリコンを用いた結晶シリコン系太陽電池および非晶質(アモルファス)シリコン系太陽電池が主に用いられている。
【0004】
一方、1991年にグレッツェルらが提案した色素増感太陽電池は、高い光電変換効率を得ることができ、しかも従来のシリコン系太陽電池とは異なり製造の際に大掛かりな装置を必要とせず、低コストで製造することができることなどにより注目されている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0005】
この色素増感太陽電池は、一般的に、透明導電性基板上に形成された、光増感色素を結合させた酸化チタンなどからなる多孔質電極と対極とを対向させ、それらの間に電解質層を充填した構造を有する。電解液としては、ヨウ素やヨウ化物イオンなどの酸化・還元種を含む電解質を溶媒に溶解したものが多く用いられる。
【0006】
色素増感太陽電池においては通常、動作時に多孔質電極からその下の透明導電性基板に流れ込んだ電子を集電するための集電配線が透明導電性基板上に形成される。この集電配線の形成方法としては、透明導電性基板上に銀(Ag)ペーストを塗布し、固化させることにより形成する方法が簡便であり、多く用いられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Nature,353,p.737-740,1991
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者らの知見によれば、銀ペーストにより集電配線を形成すると、次のような問題が発生する。すなわち、色素増感太陽電池においては、透明導電性基板上に銀ペーストにより銀粒子からなる集電配線を形成した後、この透明導電性基板上に酸化チタン微粒子を含む酸化チタンペーストを塗布し、この酸化チタンペーストを例えば500℃前後の温度で焼成することにより酸化チタンからなる多孔質電極を形成する。ところが、この焼成の際に、集電配線を構成する銀粒子が流動し、ひいては集電配線が流動してしまうため、多孔質電極に銀が接触して多孔質電極が還元されたり、流動した銀が色素増感太陽電池の長期信頼性を悪化させたりしていた。
【0009】
そこで、本開示が解決しようとする課題は、多孔質電極を焼成により形成する際に集電配線を構成する銀粒子が流動するのを有効に防止することができ、多孔質電極の劣化の防止および長期信頼性の向上を図ることができる光電変換素子の製造方法および光電変換素子を提供することである。
【0010】
また、本開示が解決しようとする他の課題は、上記のような優れた光電変換素子を用いた電子機器を提供することである。
【0011】
上記課題および他の課題は、添付図面を参照した本明細書の記述によって明らかとなるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本開示は、
透明導電性基板上の多孔質電極と対極との間に電解質層が設けられた構造を有する光電変換素子を製造する場合に、上記透明導電性基板上に、銀粒子と低融点ガラスフリットとを含む導電性ペーストにより集電配線を形成する工程を有する光電変換素子の製造方法である。
【0013】
また、本開示は、
透明導電性基板上の多孔質電極と対極との間に電解質層が設けられた構造を有し、
上記透明導電性基板上に、金属粒子と低融点ガラスフリットとを含む導電性ペーストにより形成された集電配線が設けられている光電変換素子である。
【0014】
また、本開示は、
少なくとも一つの光電変換素子を有し、
上記光電変換素子が、
透明導電性基板上の多孔質電極と対極との間に電解質層が設けられた構造を有し、
上記透明導電性基板上に、金属粒子と低融点ガラスフリットとを含む導電性ペーストにより形成された集電配線が設けられている光電変換素子である電子機器である。
【0015】
本開示において、低融点ガラスフリットは、一般的には、軟化点が360℃以上500℃以下であり、好適には、軟化点が380℃以上480℃以下である。この低融点ガラスフリットの具体例を挙げると、例えば、軟化点が380℃以上400℃以下の、酸化ビスマス、酸化ホウ素、酸化亜鉛および酸化アルミニウムを含むガラスフリット、軟化点が440℃以上460℃以下の、酸化ビスマス、酸化亜鉛および酸化ホウ素を含むガラスフリット、軟化点が450℃以上470℃以下の、酸化ビスマス、酸化ホウ素、酸化亜鉛、酸化銅および酸化シリコンを含むガラスフリット、軟化点が460℃以上480℃以下の、酸化ビスマス、酸化亜鉛、酸化ホウ素および酸化シリコンを含むガラスフリットなどであるが、これに限定されるものではない。
【0016】
光電変換素子は、典型的には、多孔質電極に光増感色素が結合(あるいは吸着)した色素増感光電変換素子である。この場合、光電変換素子の製造方法は、典型的には、多孔質電極に光増感色素を結合させる工程をさらに有する。この多孔質光電極は、典型的には、半導体からなる微粒子により構成される。半導体は、好適には、酸化チタン(TiO2 )、取り分けアナターゼ型のTiO2 を含む。
【0017】
多孔質電極としては、いわゆるコア−シェル構造の微粒子により構成されたものを用いてもよく、この場合には必ずしも光増感色素を結合させないでもよい。この多孔質電極としては、好適には、金属からなるコアとこのコアを取り巻く金属酸化物からなるシェルとからなる微粒子により構成されたものが用いられる。このような多孔質電極を用いると、この多孔質電極などに電解液を含浸させた場合、電解液の電解質が金属/金属酸化物微粒子の金属からなるコアと接触することがないことから、電解質による多孔質電極の溶解を効果的に防止することができる。このため、金属/金属酸化物微粒子のコアを構成する金属として、従来使用が困難であった、表面プラズモン共鳴の効果が大きい金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)などを用いることができ、光電変換において表面プラズモン共鳴の効果を十分に得ることができる。また、電解液の電解質としてヨウ素系の電解質を用いることができる。金属/金属酸化物微粒子のコアを構成する金属としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)などを用いることもできる。金属/金属酸化物微粒子のシェルを構成する金属酸化物としては使用する電解質に溶解しない金属酸化物が用いられ、必要に応じて選ばれる。このような金属酸化物としては、好適には、酸化チタン(TiO2 )、酸化スズ(SnO2 )、酸化ニオブ(Nb2 O5 )および酸化亜鉛(ZnO)からなる群より選ばれた少なくとも一種の金属酸化物が用いられるが、これらに限定されない。例えば、酸化タングステン(WO3 )、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3 )などの金属酸化物を用いることもできる。微粒子の粒径は適宜選ばれるが、好適には1〜500nmである。また、微粒子のコアの粒径も適宜選ばれるが、好適には1〜200nmである。
【0018】
透明導電性基板が、透明基板上にフッ素ドープ酸化スズ(FTO)からなる透明導電層が設けられたものからなる場合、好適には、その透明導電層上に導電性の密着層を介して集電配線が設けられる。このような密着層は、好適には、銀、金、白金、チタン、クロム、アルミニウムおよび銅からなる群より選ばれた少なくとも一種の金属からなるが、これに限定されるものではない。
【0019】
必要に応じて、集電配線が、例えば、バス電極とこのバス電極から分岐した複数のフィンガー電極とからなり、少なくとも一つのフィンガー電極の太さをt(m)としたとき、tが下記の式を満たすようにしてもよい。こうすることで、フィンガー電極の集電性能と多孔質電極の開口率とのバランスの最適化を図ることができ、光電変換素子の出力の最大化を図ることができる。
【0020】
【数1】
ただし、d0 :発電電極幅(フィンガー電極間隔)(m)
i0 :定格発電電流密度(A/m2 )
y: フィンガー電極の末端からの距離(m)
ρ0 :フィンガー電極の材質の体積抵抗率(Ωm)
h0 :フィンガー電極の厚さ(m)
W0 :発電出力密度(W/m2 )
である。
【0021】
あるいは、集電配線が微細集電電極構造、具体的にはバス電極とこのバス電極から分岐した複数のストライプ電極とからなり、このストライプ電極のピッチをd0 (m)としたとき、d0 が下記の式を満たすようにしてもよい。こうすることで、ストライプ電極の集電性能とストライプ電極部の開口率とのバランスの最適化を図ることができ、光電変換素子の出力の最大化を図ることができる。
【0022】
【数2】
ただし、t :ストライプ電極の太さ(m)
W0 :定格発電出力密度(W/m2 )
R0 :ストライプ電極の線抵抗(Ω/m)
i0 :定格発電電流密度(A/m2 )
l :ストライプ電極の集電距離(m)
【0023】
あるいは、集電配線が微細集電電極構造、具体的にはバス電極とこのバス電極と電気的に接続されたメッシュ電極またはグリッド電極とからなり、このメッシュ電極またはグリッド電極の開口率をApとしたとき、Apが下記の式を満たすようにしてもよい。こうすることで、メッシュ電極またはグリッド電極の集電性能とメッシュ電極またはグリッド電極の開口率とのバランスの最適化を図ることができ、光電変換素子の出力の最大化を図ることができる。
【0024】
【数3】
ただし、t :ストライプ電極の太さ(m)
W0 :定格発電出力密度(W/m2 )
R0 :ストライプ電極の線抵抗(Ω/m)
i0 :定格発電電流密度(A/m2 )
l :ストライプ電極の集電距離(m)
【0025】
光電変換素子は、最も典型的には、太陽電池として構成される。ただし、光電変換素子は、太陽電池以外のもの、例えば光センサーなどであってもよい。
【0026】
光電変換素子は、各種の電子機器の電源として用いることができる。電子機器は、基本的にはどのようなものであってもよく、携帯型のものと据え置き型のものとの双方を含むが、具体例を挙げると、携帯電話、モバイル機器、ロボット、パーソナルコンピュータ、車載機器、各種家庭電気製品などである。この場合、光電変換素子は、例えばこれらの電子機器の電源として用いられる太陽電池である。
【0027】
上述の本開示によれば、導電性ペーストが銀粒子に加えて低融点ガラスフリットを含むことにより、導電性ペーストにより集電配線を形成した後に多孔質電極を形成するための焼成を行った場合、集電配線を構成する銀粒子よりも先に、低融点ガラスフリットが流動する。これによって、集電配線を構成する銀粒子の流動を抑えることができる。
【発明の効果】
【0028】
本開示によれば、多孔質電極を焼成により形成する際に集電配線を構成する銀粒子が流動するのを有効に防止することができ、多孔質電極の劣化の防止および長期信頼性の向上を図ることができる光電変換素子の製造方法および光電変換素子を実現することができる。そして、この光電変換素子を用いて高性能の電子機器を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】第1の実施の形態による色素増感光電変換素子を示す断面図である。
【図2】第1の実施の形態による色素増感光電変換素子における集電配線のパターン形状の例を示す略線図である。
【図3】第1の実施の形態による色素増感光電変換素子における集電配線のパターン形状の例を示す略線図である。
【図4】Ag粒子と低融点ガラスフリットとを含む導電性ペーストの評価結果を示す図面代用写真である。
【図5】第2の実施の形態による色素増感光電変換素子を示す断面図である。
【図6】第3の実施の形態による色素増感光電変換素子におけるフィンガー電極の太さの最適化を説明するための略線図である。
【図7】第3の実施の形態による色素増感光電変換素子におけるフィンガー電極の太さの最適化を説明するための略線図である。
【図8】第3の実施の形態による色素増感光電変換素子におけるフィンガー電極の太さの最適化を説明するための略線図である。
【図9】第3の実施の形態による色素増感光電変換素子における最適化前のフィンガー電極を評価するために配線シミュレーションを行った結果を示す略線図である。
【図10】第3の実施の形態による色素増感光電変換素子における最適化後のフィンガー電極を評価するために配線シミュレーションを行った結果を示す略線図である。
【図11】第3の実施の形態による色素増感光電変換素子の評価結果を示す略線図である。
【図12】第4の実施の形態による色素増感光電変換素子におけるストライプ電極の太さの最適化を説明するための略線図である。
【図13】第4の実施の形態による色素増感光電変換素子におけるストライプ電極の太さの最適化を説明するための略線図である。
【図14】第5の実施の形態による色素増感光電変換素子におけるグリッド電極の開口率と発電出力との関係を示す略線図である。
【図15】第5の実施の形態による色素増感光電変換素子におけるグリッド電極の開口率と発電出力との関係を示す略線図である。
【図16】第5の実施の形態による色素増感光電変換素子における集電配線のパターン形状の例を示す略線図である。
【図17】第6の実施の形態による色素増感光電変換素子において多孔質電極を構成する金属/金属酸化物微粒子の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、発明を実施するための形態(以下「実施の形態」とする)について説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.第1の実施の形態(色素増感光電変換素子およびその製造方法)
2.第2の実施の形態(色素増感光電変換素子およびその製造方法)
3.第3の実施の形態(色素増感光電変換素子およびその製造方法)
4.第4の実施の形態(色素増感光電変換素子およびその製造方法)
5.第5の実施の形態(色素増感光電変換素子およびその製造方法)
6.第6の実施の形態(色素増感光電変換素子およびその製造方法)
7.第7の実施の形態(光電変換素子およびその製造方法)
【0031】
〈1.第1の実施の形態〉
[色素増感光電変換素子]
図1は第1の実施の形態による色素増感光電変換素子を示す断面図である。
図1に示すように、この色素増感光電変換素子においては、透明基板1の一主面に透明導電層2が設けられている。透明導電層2上に集電配線3が所定のパターン形状で設けられている。この集電配線3を覆うように保護層4が設けられている。この保護層4により後述の電解液による集電配線3の腐食を防止することができる。透明導電層2上には多孔質電極5が設けられている。この多孔質電極5は、集電配線3以外の部分に設けてもよいし、集電配線3上に重ねて設けてもよいが、図1においては集電配線3以外の部分に設けた例が示されている。この多孔質電極3には一種または複数種の光増感色素(図示せず)が結合している。一方、基板6の一主面に導電層7が設けられている。導電層7上に、透明導電層2上の多孔質電極3と対向するように対極8が設けられている。そして、これらの透明基板1および対極8の外周部が封止材9で封止され、透明導電層2上の多孔質電極3と対極8との間に電解質層10が設けられている。導電層7の端部の上には電極11が設けられ、この電極11に外部配線12が接続されている。図示は省略するが、透明導電層2上の端部にも外部配線が接続されている。
【0032】
集電配線3のパターン形状の例を図2AおよびBに示す。図2Aに示す例では、集電配線3は、透明基板1の一辺に沿って設けられたバス電極3aとこのバス電極3aから分岐した複数のフィンガー電極3bとからなる。図2Bに示す例では、集電配線3は、透明基板1の中央部に設けられたバス電極3aとこのバス電極3aから両側に分岐した複数のフィンガー電極3bとからなる。フィンガー電極3bは多孔質電極5で発電した電流を効率的に回収するためのものであるのに対し、バス電極3aは回収した電流を効率よく集め、外部に取り出すためのものである。
【0033】
集電配線3は微細集電電極構造であってもよい。微細集電電極構造のパターン形状の例を図3A〜Dに示す。図3Aに示す例では、集電配線3は、透明基板1の一辺に沿って設けられたバス電極3aとこのバス電極3aと電気的に接続されたグリッド電極3c(あるいはメッシュ電極)とからなる。図3Bに示す例では、集電配線3は、透明基板1の一辺に沿って設けられたバス電極3aとこのバス電極3aから分岐した複数のストライプ電極3dとからなる。図3Cに示す例では、集電配線3は、透明基板1の中央部に設けられたバス電極3aとこのバス電極3aの両側に設けられ、このバス電極3aと電気的に接続されたグリッド電極3cとからなる。図3Dに示す例では、集電配線3は、透明基板1の一辺に沿って設けられたバス電極3aとこのバス電極3aの両側に分岐した複数のストライプ電極3dとからなる。グリッド電極3cおよびストライプ電極3dは多孔質電極5で発電した電流を効率的に回収するためのものであるのに対し、バス電極3aは回収した電流を効率よく集め、外部に取り出すためのものである。
【0034】
集電配線3は、Ag粒子と低融点ガラスフリットとを含む導電性ペーストを透明導電層2上に塗布した後、固化させることにより形成されたものである。低融点ガラスフリットとしては、例えば既に挙げたものを用いることができる。このように集電配線3が、Ag粒子と低融点ガラスフリットとを含む導電性ペーストにより形成されたものであるため、多孔質電極5を焼成する際に加熱したときに、この低融点ガラスフリットが流動することにより、Ag粒子の流動が抑えられる。保護層4は集電配線3を電解液から保護するためのものであり、好適には、例えば、ITO、SnO2 、TiO2 、ZnOなどの透明金属酸化物により形成される。
【0035】
多孔質電極5としては、典型的には、半導体微粒子を焼結させた多孔質半導体層が用いられる。光増感色素はこの半導体微粒子の表面に吸着している。半導体微粒子の材料としては、シリコンに代表される元素半導体、化合物半導体、ペロブスカイト構造を有する半導体などを用いることができる。これらの半導体は、光励起下で伝導帯電子がキャリアとなり、アノード電流を生じるn型半導体であることが好ましい。具体的には、例えば、酸化チタン(TiO2 )、酸化亜鉛(ZnO)、酸化タングステン(WO3 )、酸化ニオブ(Nb2 O5 )、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3 )、酸化スズ(SnO2 )などの半導体が用いられる。これらの半導体の中でも、TiO2 、取り分けアナターゼ型のTiO2 を用いることが好ましい。ただし、半導体の種類はこれらに限定されるものではなく、必要に応じて、二種類以上の半導体を混合または複合化して用いることができる。また、半導体微粒子の形態は粒状、チューブ状、棒状などのいずれであってもよい。
【0036】
上記の半導体微粒子の粒径に特に制限はないが、一次粒子の平均粒径で1〜200nmが好ましく、特に好ましくは5〜100nmである。また、半導体微粒子よりも大きいサイズの粒子を混合し、この粒子で入射光を散乱させ、量子収率を向上させることも可能である。この場合、別途混合する粒子の平均サイズは20〜500nmであることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0037】
多孔質電極5は、できるだけ多くの光増感色素を結合させることができるように、半導体微粒子からなる多孔質半導体層の内部の空孔に面する微粒子表面も含めた実表面積の大きいものが好ましい。このため、多孔質電極5を透明導電層2上に形成した状態での実表面積は、多孔質電極5の外側表面の面積(投影面積)に対して10倍以上であることが好ましく、100倍以上であることがさらに好ましい。この比に特に上限はないが、通常1000倍程度である。
【0038】
一般に、多孔質電極5の厚さが増し、単位投影面積当たりに含まれる半導体微粒子の数が増加するほど、実表面積が増加し、単位投影面積に保持することができる光増感色素の量が増加するため、光吸収率が高くなる。一方、多孔質電極5の厚さが増加すると、光増感色素から多孔質電極5に移行した電子が透明導電層2に達するまでに拡散する距離が増加するため、多孔質電極5内での電荷再結合による電子の損失も大きくなる。従って、多孔質電極5には好ましい厚さが存在するが、この厚さは一般的には0.1〜100μmであり、1〜50μmであることがより好ましく、3〜30μmであることが特に好ましい。
【0039】
電解液としては、酸化還元系(レドックス対)を含む溶液が挙げられる。酸化還元系としては、具体的には、例えば、ヨウ素(I2 )と金属または有機物のヨウ化物塩との組み合わせや、臭素(Br2 )と金属または有機物の臭化物塩との組み合わせなどが用いられる。金属塩を構成するカチオンは、例えば、リチウム(Li+ )、ナトリウム(Na+ )、カリウム(K+ )、セシウム(Cs+ )、マグネシウム(Mg2+)、カルシウム(Ca2+)などである。また、有機物塩を構成するカチオンとしては、テトラアルキルアンモニウムイオン類、ピリジニウムイオン類、イミダゾリウムイオン類などの第四級アンモニウムイオンが好適なものであり、これらを単独に、あるいは二種類以上を混合して用いることができる。
【0040】
電解質層10は典型的には電解液により構成され、必要に応じて選ばれるが、電解液としては、上記のほかに、フェロシアン酸塩とフェリシアン酸塩との組み合わせや、フェロセンとフェリシニウムイオンとの組み合わせなどの金属錯体、ポリ硫化ナトリウム、アルキルチオールとアルキルジスルフィドとの組み合わせなどのイオウ化合物、ビオロゲン色素、ヒドロキノンとキノンとの組み合わせなどを用いることもできる。
【0041】
電解液の電解質としては、上記の中でも特に、ヨウ素(I2 )と、ヨウ化リチウム(LiI)、ヨウ化ナトリウム(NaI)、イミダゾリウムヨーダイドなどの第四級アンモニウム化合物とを組み合わせた電解質が好ましい。電解質塩の濃度は溶媒に対して0.05M〜10Mが好ましく、さらに好ましくは0.2M〜3Mである。ヨウ素(I2 )または臭素(Br2 )の濃度は0.0005M〜1Mが好ましく、さらに好ましくは0.001〜0.5Mである。
【0042】
電解液の電解質としては、上記の中でも特に、ヨウ素(I2 )と、ヨウ化リチウム(LiI)、ヨウ化ナトリウム(NaI)、イミダゾリウムヨーダイドなどの第4級アンモニウム化合物とを組み合わせた電解質が好適なものである。電解質塩の濃度は溶媒に対して0.05M〜10Mが好ましく、さらに好ましくは0.2M〜3Mである。ヨウ素I2 または臭素Br2 の濃度は0.0005M〜1Mが好ましく、さらに好ましくは0.001〜0.5Mである。また、開放電圧や短絡電流を向上させる目的で4−tert−ブチルピリジンやベンズイミダゾリウム類などの各種添加剤を加えることもできる。
【0043】
電解液を構成する溶媒としては、一般的には、水、アルコール類、エーテル類、エステル類、炭酸エステル類、ラクトン類、カルボン酸エステル類、リン酸トリエステル類、複素環化合物類、ニトリル類、ケトン類、アミド類、ニトロメタン、ハロゲン化炭化水素、ジメチルスルホキシド、スルフォラン、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、3−メチルオキサゾリジノン、炭化水素などが用いられる。
【0044】
透明基板1は、光が透過しやすい材質と形状のものであれば特に限定されるものではなく、種々の基板材料を用いることができるが、特に可視光の透過率が高い基板材料を用いることが好ましい。また、色素増感光電変換素子に外部から侵入しようとする水分やガスを阻止する遮断性能が高く、また、耐溶剤性や耐候性に優れている材料が好ましい。具体的には、透明基板1の材料としては、石英やガラスなどの透明無機材料や、ポリエチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタラート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフッ化ビニリデン、アセチルセルロース、ブロム化フェノキシ、アラミド類、ポリイミド類、ポリスチレン類、ポリアリレート類、ポリスルホン類、ポリオレフィン類などの透明プラスチックが挙げられる。透明基板1の厚さは特に制限されず、光の透過率や、光電変換素子内外を遮断する性能を勘案して、適宜選択することができる。基板6は光に対して透明であっても透明でなくてもよい。基板6として透明基板を用いる場合、その透明基板としては透明基板1と同様なものを用いることができる。基板6の材料としては、不透明なガラス、プラスチック、セラミック、金属などを用いてもよい。
【0045】
透明基板1上に設けられる透明導電層2は、シート抵抗が小さいほど好ましく、具体的には500Ω/□以下であることが好ましく、100Ω/□以下であることがさらに好ましい。透明導電層2を形成する材料としては公知の材料を用いることができ、必要に応じて選択される。この透明導電層2を形成する材料は、具体的には、インジウム−スズ複合酸化物(ITO)、フッ素がドープされた酸化スズ(IV)SnO2 (FTO)、酸化スズ(IV)SnO2 、酸化亜鉛(II)ZnO、インジウム−亜鉛複合酸化物(IZO)などが挙げられる。ただし、透明導電層2を形成する材料は、これらに限定されるものではなく、これらの二種類以上を組み合わせて用いることもできる。基板6上に設けられる導電層7は光に対して透明であっても透明でなくてもよい。導電層7として透明導電層を用いる場合、その透明導電層としては透明導電層2と同様なものを用いることができる。
【0046】
多孔質電極5に結合させる光増感色素は増感作用を示すものであれば特に制限はないが、この多孔質電極5の表面に吸着する酸官能基を有するものが好ましい。光増感色素は、一般的には、カルボキシ基、リン酸基などを有するものが好ましく、この中でも特にカルボキシ基を有するものが好ましい。光増感色素の具体例を挙げると、例えば、ローダミンB、ローズベンガル、エオシン、エリスロシンなどのキサンテン系色素、メロシアニン、キノシアニン、クリプトシアニンなどのシアニン系色素、フェノサフラニン、カブリブルー、チオシン、メチレンブルーなどの塩基性染料、クロロフィル、亜鉛ポルフィリン、マグネシウムポルフィリンなどのポルフィリン系化合物が挙げられ、その他のものとしてはアゾ色素、フタロシアニン化合物、クマリン系化合物、ビピリジン錯化合物、アントラキノン系色素、多環キノン系色素などが挙げられる。これらの中でも、リガンド(配位子)がピリジン環またはイミダゾリウム環を含み、Ru、Os、Ir、Pt、Co、FeおよびCuからなる群より選ばれた少なくとも一種類の金属の錯体の色素は量子収率が高く好ましい。特に、シス−ビス(イソチオシアナート)−N,N−ビス(2,2’−ジピリジル−4,4’−ジカルボン酸)−ルテニウム(II)またはトリス(イソチオシアナート)−ルテニウム(II)−2,2' :6' ,2" −ターピリジン−4,4' ,4" −トリカルボン酸を基本骨格とする色素分子は吸収波長域が広く好ましい。ただし、光増感色素は、これらに限定されるものではない。光増感色素としては、典型的には、これらのうちの一種類のものを用いるが、二種類以上の光増感色素を混合して用いてもよい。二種類以上の光増感色素を混合して用いる場合、光増感色素は、好適には、多孔質光電極に保持された、MLCT(Metal to Ligand Charge Transfer)を引き起こす性質を有する無機錯体色素と、この多孔質電極5に保持された、分子内CT(Charge Transfer)の性質を有する有機分子色素とを有する。この場合、無機錯体色素と有機分子色素とは、多孔質光電極に互いに異なる立体配座で吸着する。無機錯体色素は、好適には、多孔質電極5に結合する官能基としてカルボキシル基またはホスホノ基を有する。また、有機分子色素は、好適には、同一炭素に、多孔質電極5に結合する官能基としてカルボキシル基またはホスホノ基とシアノ基、アミノ基、チオール基またはチオン基とを有する。無機錯体色素は例えばポリピリジン錯体、有機分子色素は例えば、電子供与性の基と電子受容性の基とを併せ持ち、分子内CTの性質を有する芳香族多環共役系分子である。
【0047】
光増感色素の多孔質電極5への吸着方法に特に制限はないが、上記の光増感色素を例えばアルコール類、ニトリル類、ニトロメタン、ハロゲン化炭化水素、エーテル類、ジメチルスルホキシド、アミド類、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、3−メチルオキサゾリジノン、エステル類、炭酸エステル類、ケトン類、炭化水素、水などの溶媒に溶解させ、これに多孔質電極5を浸漬したり、光増感色素を含む溶液を多孔質電極5上に塗布したりすることができる。また、光増感色素の分子同士の会合を低減する目的でデオキシコール酸などを添加してもよい。必要に応じて紫外線吸収剤を併用することもできる。
【0048】
多孔質電極5に光増感色素を吸着させた後に、過剰に吸着した光増感色素の除去を促進する目的で、アミン類を用いて多孔質電極5の表面を処理してもよい。アミン類の例としてはピリジン、4−tert−ブチルピリジン、ポリビニルピリジンなどが挙げられ、これらが液体の場合はそのまま用いてもよいし、有機溶媒に溶解して用いてもよい。
【0049】
対極8の材料としては、導電性物質であれば任意のものを用いることができるが、絶縁性材料の電解質層10に面している側に導電層が形成されていれば、これも用いることが可能である。対極8の材料としては、電気化学的に安定な材料を用いることが好ましく、具体的には、白金、金、カーボン、および導電性ポリマーなどを用いることが望ましい。
【0050】
また、対極8での還元反応に対する触媒作用を向上させるために、電解質層10に接している対極8の表面には、微細構造が形成され、実表面積が増大するように形成されていることが好ましく、例えば、白金であれば白金黒の状態に、カーボンであれば多孔質カーボンの状態に形成されていることが好ましい。白金黒は、白金の陽極酸化法や塩化白金酸処理などによって、また多孔質カーボンは、カーボン微粒子の焼結や有機ポリマーの焼成などの方法によって形成することができる。
【0051】
封止材9の材料としては、耐光性、絶縁性、防湿性を備えた材料を用いることが好ましい。封止材9の材料の具体例を挙げると、エポキシ樹脂、紫外線硬化樹脂、アクリル樹脂、ポリイソブチレン樹脂、EVA(エチレンビニルアセテート) 、アイオノマー樹脂、セラミック、各種熱融着フィルムなどである。
【0052】
また、電解質組成物の溶液を注入する場合、注入口が必要であるが、多孔質電極5およびこれに対向する部分の対極8上でなければ注入口の場所は特に限定されない。また、電解質組成物の溶液の注入方法に特に制限はないが、外周が予め封止され、溶液の注入口を開けられた光電変換素子の内部に減圧下で注液を行う方法が好ましい。この場合、注入口に溶液を数滴垂らし、毛細管現象により注液する方法が簡便である。また、必要に応じて減圧もしくは加熱下で注液の操作を行うこともできる。完全に溶液が注入された後、注入口に残った溶液を除去し、注入口を封止する。この封止方法にも特に制限はないが、必要であればガラス板やプラスチック基板を封止剤で貼り付けて封止することもできる。また、この方法以外にも、液晶パネルの液晶滴下注入(ODF;One Drop Filling)工程のように、電解液を基板上に滴下して減圧下で貼り合わせて封止することもできる。また、ポリマーなどを用いたゲル状電解質や全固体型の電解質の場合、多孔質電極5上で電解質組成物と可塑剤とを含むポリマー溶液をキャスト法により揮発除去させる。可塑剤を完全に除去した後、上記方法と同様に封止を行う。この封止は真空シーラーなどを用いて、不活性ガス雰囲気下、もしくは減圧中で行うことが好ましい。封止を行った後、電解質を多孔質電極5へ十分に含漬させるため、必要に応じて加熱、加圧の操作を行うことも可能である。
【0053】
[色素増感光電変換素子の製造方法]
次に、この色素増感光電変換素子の製造方法について説明する。
まず、透明基板1の一主面にスパッタリング法などにより透明導電層2を形成する。
次に、Ag粒子と低融点ガラスフリットとを含む導電性ペーストを透明導電層2上に所定の配線パターン形状で塗布した後、固化させることにより集電配線3を形成する。
次に、集電配線3を覆うように保護層4を形成する。
【0054】
次に、透明導電層2上に多孔質電極5を形成する。この多孔質電極5の形成方法に特に制限はないが、物性、利便性、製造コストなどを考慮した場合、湿式製膜法を用いるのが好ましい。湿式製膜法では、半導体微粒子の粉末あるいはゾルを水などの溶媒に均一に分散させたペースト状の分散液を調製し、この分散液を透明基板1の透明導電層2上に塗布または印刷する方法が好ましい。分散液の塗布方法または印刷方法に特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。具体的には、塗布方法としては、例えば、ディップ法、スプレー法、ワイヤーバー法、スピンコート法、ローラーコート法、ブレードコート法、グラビアコート法などを用いることができる。また、印刷方法としては、凸版印刷法、オフセット印刷法、グラビア印刷法、凹版印刷法、ゴム版印刷法、スクリーン印刷法などを用いることができる。なお、集電配線3や保護層4の形成と、多孔質電極5の形成との順番は、プロセス条件(温度、化学処理のpHなど)や各材料の耐熱性・耐薬品性によっては、上記と異なる順番としても差し支えない。
【0055】
多孔質電極5は、半導体微粒子を透明導電層2上に塗布または印刷した後に、半導体微粒子同士を電気的に接続し、多孔質電極5の機械的強度を向上させ、透明導電層2との密着性を向上させるために、焼成することが好ましい。焼成温度の範囲に特に制限はないが、温度を上げ過ぎると、透明導電層2の電気抵抗が高くなり、さらには透明導電層2が溶融することもあるため、通常は400〜700℃が好ましく、400〜650℃がより好ましい。また、焼成時間にも特に制限はないが、通常は10分〜10時間程度である。この焼成時には集電配線3も加熱されるが、この集電配線3はAg粒子と低融点ガラスフリットとを含む導電性ペーストにより形成されたものであるため、この低融点ガラスフリットが流動し、その結果、Ag粒子の流動が抑えられる。
【0056】
焼成後、半導体微粒子の表面積を増加させたり、半導体微粒子間のネッキングを高めたりする目的で、例えば、四塩化チタン水溶液や直径10nm以下の酸化チタン超微粒子ゾルによるディップ処理を行ってもよい。透明導電層2を支持する透明基板1としてプラスチック基板を用いる場合には、結着剤を含むペースト状分散液を用いて透明導電層2上に多孔質電極5を製膜し、加熱プレスによって透明導電層2に圧着することも可能である。
【0057】
次に、多孔質電極5が形成された透明基板1を、光増感色素を所定の溶媒に溶解した光増感色素溶液中に浸漬することにより、多孔質電極5に光増感色素を吸着させる。
一方、基板6上にスパッタリング法などにより導電層7を形成した後、この導電層7上にスパッタリング法などにより対極8を形成する。
【0058】
次に、多孔質電極5が形成された透明基板1と対極8とを多孔質電極5と対極8とが所定の間隔、例えば1〜100μm、好ましくは1〜50μmの間隔をおいて互いに対向するように配置する。そして、透明基板1および対極8の外周部に封止材9を形成して電解質層が封入される空間を作り、この空間に例えば透明基板1に予め形成された注液口(図示せず)から電解質層10を注入する。その後、この注液口を塞ぐ。
以上により、目的とする色素増感光電変換素子が製造される。
【0059】
[色素増感光電変換素子の動作]
次に、この色素増感光電変換素子の動作について説明する。
この色素増感光電変換素子は、光が入射すると、対極8を正極、透明導電層2を負極とする電池として動作する。その原理は次の通りである。なお、ここでは、透明導電層2の材料としてFTOを用い、多孔質電極5の材料としてTiO2 を用い、レドックス対としてI- /I3 - の酸化還元種を用いることを想定している。ただし、これに限定されるものではない。
【0060】
透明基板1および透明導電層2を透過し、多孔質電極5に入射した光子を多孔質電極5に吸着した光増感色素が吸収すると、この光増感色素中の電子が基底状態(HOMO)から励起状態(LUMO)へ励起される。こうして励起された電子は、光増感色素と多孔質電極5との間の電気的結合を介して、多孔質電極5を構成するTiO2 の伝導帯に引き出され、多孔質電極5を通って透明導電層2に到達する。
【0061】
一方、電子を失った光増感色素は、電解質層10中の還元剤、例えばI- から下記の反応によって電子を受け取り、電解質層10中に酸化剤、例えばI3 - (I2 とI- との結合体)を生成する。
2I- → I2 + 2e-
I2 + I- → I3 -
こうして生成された酸化剤は拡散によって対極8に到達し、上記の反応の逆反応によって対極8から電子を受け取り、もとの還元剤に還元される。
I3 - → I2 + I-
I2 + 2e- → 2I-
【0062】
透明導電層2から外部回路へ送り出された電子は、外部回路で電気的仕事をした後、対極8に戻る。このようにして、光増感色素にも電解質層10にも何の変化も残さず、光エネルギーが電気エネルギーに変換される。
【0063】
〈実施例〉
色素増感光電変換素子を以下のようにして製造した。
透明導電層2が形成された透明基板1として、ガラス基板上にFTO層が形成されたものを用いる。
【0064】
このFTO層上に、Ag粒子と低融点ガラスフリットとを含む導電性ペーストをバス電極から複数のストライプ電極が分岐した所定の形状に塗布した後、固化させてAg粒子からなる集電配線3を形成した。
次に、スパッタリング法により全面にTiO2 膜を形成した後、このTiO2 膜をエッチングによりパターニングして保護層4を形成する。
【0065】
多孔質電極5を形成する際の原料であるTiO2 のペースト状分散液は、「色素増感太陽電池の最新技術」(荒川裕則監修、2001年、(株)シーエムシー)を参考にして作製した。すなわち、まず、室温で撹拌しながらチタンイソプロポキシド125mlを0.1Mの硝酸水溶液750mlに徐々に滴下した。滴下後、80℃の恒温槽に移し、8時間撹拌を続けたところ、白濁した半透明のゾル溶液が得られた。このゾル溶液を室温になるまで放冷し、ガラスフィルタでろ過した後、溶媒を加えて溶液の体積を700mlにした。得られたゾル溶液をオートクレーブへ移し、220℃で12時間水熱反応を行わせた後、1時間超音波処理して分散化処理を行った。次に、この溶液をエバポレータを用いて40℃で濃縮し、TiO2 の含有量が20wt%になるように調製した。この濃縮ゾル溶液に、TiO2 の質量の20%分のポリエチレングリコール(分子量50万)と、TiO2 の質量の30%分の粒子直径200nmのアナターゼ型TiO2 とを添加し、撹拌脱泡機で均一に混合し、粘性を増加させたTi O2 のペースト状分散液を得た。
【0066】
上記のTiO2 のペースト状分散液を、FTO層の上にブレードコーティング法によって塗布し、大きさ5mm×5mm、厚さ200μmの微粒子層を形成した。その後、510℃に30分間保持して、TiO2 微粒子をFTO層上に焼結した。焼結されたTiO2 膜へ0.1Mの塩化チタン(IV)TiCl4 水溶液を滴下し、室温下で15時間保持した後、洗浄し、再び500℃で30分間焼成を行った。この後、紫外光照射装置を用いてTiO2 焼結体に紫外光を30分間照射し、このTiO2 焼結体に含まれる有機物などの不純物をTiO2 の光触媒作用によって酸化分解して除去し、TiO2 焼結体の活性を高める処理を行い、多孔質電極5を得た。
【0067】
導電層7が形成された基板6として、ガラス基板上にFTO層が形成されたものを用いる。導電層7上にスパッタリング法により白金からなる対極8を形成した。
【0068】
光増感色素として、十分に精製したZ907 23.8mgを、アセトニトリルとtert−ブタノールとを1:1の体積比で混合した混合溶媒50mlに溶解させ、光増感色素溶液を調製した。
【0069】
次に、上記のようにして調製された光増感色素溶液に多孔質電極5を室温下で24時間浸漬し、TiO2 微粒子表面に光増感色素を保持させた。次に、4−tert−ブチルピリジンのアセトニトリル溶液およびアセトニトリルを順に用いて多孔質電極5を洗浄した後、暗所で溶媒を蒸発させ、乾燥させた。
【0070】
メトキシアセトニトリル3gにヨウ化ナトリウム(NaI)0.045g、1−プロピル−2.3−ジメチルイミダゾリウムヨーダイド1.11g、ヨウ素(I2 )0.11g、4−tert−ブチルピリジン0.081gを溶解させ、電解液を調製した。
【0071】
次に、透明基板1と基板6とを互いに対向させた状態でこれらの透明基板1および基板6の周囲を囲むように封止材9を形成して行う。
この後、予め透明基板1に設けた注液用の穴から電解液を注液し、電解質層10を形成する。
以上により、目的とする色素増感光電変換素子が製造される。
【0072】
〈導電性ペーストの評価〉
集電配線3の形成に用いる導電性ペーストに含まれる低融点ガラスフリットの種類を変えて基礎的評価実験を行った。低融点ガラスフリットとしては、軟化点が380℃以上400℃以下の、酸化ビスマス、酸化ホウ素、酸化亜鉛および酸化アルミニウムを含むガラスフリット(ガラスフリットA)、軟化点が440℃以上460℃以下の、酸化ビスマス、酸化亜鉛および酸化ホウ素を含むガラスフリット(ガラスフリットB)、軟化点が450℃以上470℃以下の、酸化ビスマス、酸化ホウ素、酸化亜鉛、酸化銅および酸化シリコンを含むガラスフリット(ガラスフリットC)、軟化点が460℃以上480℃以下の、酸化ビスマス、酸化亜鉛、酸化ホウ素および酸化シリコンを含むガラスフリット(ガラスフリットD)の4種類を用いた。Ag粒子とこの低融点ガラスフリットとを含む導電性ペーストを、ガラス基板上に形成されたFTO層上にストライプ状に塗布し、固化させた後、TiO2 微粒子からなる多孔質電極5を形成し、510℃で焼成を行った。低融点ガラスフリットとして、それぞれガラスフリットA、B、CおよびDを用いた試料1〜4の光学顕微鏡写真を図4A〜Dに示す。図4Aに示すように、試料1では、Ag粒子からなる集電配線の両側にガラスフリットが40〜50μmの幅にわたって流出し、集電配線の両側に片側約250μm、Agが広がり、析出Ag粒子は小さく、集電配線の高さは最初24μmであったものが21.5μmに減少した。試料2では、Ag粒子からなる集電配線の両側にガラスフリットが30〜40μmの幅にわたって流出し、集電配線の両側に片側約300μm、Agが広がり、析出Ag粒子は中程度の大きさであり、集電配線の高さは最初20μmであったものが17μmに減少した。試料3では、Ag粒子からなる集電配線の両側にガラスフリットが10μm前後の幅にわたって流出し、集電配線の両側に片側約500μm、Agが広がり、析出Ag粒子は大きく、集電配線の高さは最初25μmであったものが23.5μmに減少した。試料4では、Ag粒子からなる集電配線の両側にガラスフリットが20μm前後の幅にわたって流出し、集電配線の両側に片側約350μm、Agが広がり、析出Ag粒子は大きく、集電配線の高さは最初23.5μmであったものが21.5μmに減少した。これらの結果より、低融点ガラスフリットの軟化点が高くなるほど、ガラスフリットの流動は減少し、Agの広がりは増加し、析出Ag粒子は大きくなる傾向があることがわかる。試料1〜4のいずれも、集電配線の流動は十分に抑えられている。
【0073】
以上のように、この第1の実施の形態によれば、集電配線3をAg粒子と低融点ガラスフリットとを含む導電性ペーストにより形成しているため、多孔質電極5の焼成時にはこの低融点ガラスフリットが流動する結果、Ag粒子の流動を抑ることができる。このため、集電配線3の流動を抑えることができ、Agの接触による多孔質電極5の劣化を防止することができるとともに、色素増感光電変換素子の長期信頼性の向上を図ることができる。
【0074】
〈2.第2の実施の形態〉
[色素増感光電変換素子]
第2の実施の形態による色素増感光電変換素子においては、図5に示すように、透明基板1上にFTOからなる透明導電層2が形成されている場合に、Ag粒子と低融点ガラスフリットとを含む導電性ペーストにより形成する集電配線3を、導電性の密着層13を介して透明導電層2上に形成する。すなわち、FTOからなる透明導電層2上に密着層13を形成し、その上に集電配線3を形成する。この密着層13は、例えば、Ag、Au、Pt、Ti、Cr、AlおよびCuからなる群より選ばれた少なくとも一種の金属により形成する。
【0075】
この色素増感光電変換素子の上記以外の構成は第1の実施の形態による色素増感光電変換素子と同様である。
【0076】
[色素増感光電変換素子の製造方法]
この色素増感光電変換素子の製造方法は、集電配線3を密着層13を介して透明導電層2上に形成することを除いて、第1の実施の形態による色素増感光電変換素子の製造方法と同様である。
【0077】
この第2の実施の形態によれば、次のような利点を得ることができる。すなわち、FTOからなる透明導電層2上に、Ag粒子と低融点ガラスフリットとを含む導電性ペーストを用いて集電配線3を形成する場合、この集電配線3を密着層13を介して形成すると、この集電配線3を透明導電層2上に直接形成する場合に比べて、接触抵抗の低減を図ることができる。これは、導電性ペースト中のAg粒子のFTOからなる透明導電層2に対する密着性に比べて、Ag粒子の密着層13に対する密着性が良好であるためである。このように、集電配線3の透明導電層2に対する接触抵抗の低減を図ることができることにより、優れた集電能を得ることができ、ひいては色素増感光電変換素子の光電変換効率の向上を図ることができる。
【0078】
〈3.第3の実施の形態〉
[色素増感光電変換素子]
第3の実施の形態による色素増感光電変換素子においては、集電配線3のパターン形状の最適化について説明する。
【0079】
この色素増感光電変換素子においては、集電配線3は、図2AまたはBに示すように、比較的太いパターンからなるバス電極3aとこのバス電極3aから分岐した比較的細いパターンからなるフィンガー電極3bとからなる。バス電極3aは多孔質電極5上にあってもよいし、多孔質電極5以外の部分にあってもよい。
【0080】
フィンガー電極3bは色素増感光電変換素子の光入射面側に形成されるため、フィンガー電極3bの面積を大きくすると、実効的な受光面積が減少し、色素増感光電変換素子の発電量が減少する。逆に、フィンガー電極3bを細くし、面積を小さくしていくと、フィンガー電極3bの集電抵抗が増大し、抵抗損失が増加してしまう。
【0081】
また、フィンガー電極3bはその末端から多孔質電極5で発電した電流を根元まで集電するため、末端から根元に向けてフィンガー電極3bの単位長さ当たりに流れ込む電流は増加していく。多孔質電極5の面で一様に電流が発生する(i0 A/m2 )と仮定すると、フィンガー電極3bの単位長さ当たりに流れ込む電流I0 (A/m)は、多孔質電極5の幅(フィンガー電極3bの間隔)をd0 (m)とすると、
【数4】
である。そのため、図6AおよびBに示すように、フィンガー電極3bの末端からyの部位を流れる電流I(y)は、
【数5】
となり、yに比例して増加する。
【0082】
このとき、同部位でのフィンガー電極3b上での損失密度q(y)(W/m2 )は、フィンガー電極3bの構成材料の体積抵抗をρ0 (Ωm)、フィンガー電極3bの高さをh0 (m)、フィンガー電極3bの太さをt(m)とすると、
【数6】
となり、yの2乗に比例して増加する(図6C参照。)。
【0083】
フィンガー電極3bの高さh0 は必ずしも一定でなくてもよいが、導電性ペーストのスクリーン印刷、ディスペンシングなどのプロセス上の理由から一定である方が作製が容易であり、品質管理上も容易となることから望ましい。
【0084】
ここで、フィンガー電極3bを末端からバス電極3aとの合流部に向けて徐々に太くし、太さの変化を以下の式のようにすれば、多孔質電極5の有効面積とフィンガー電極3bの面積とのバランスを最適化することができ、結果として色素増感光電変換素子の出力を最大にすることができる。
【0085】
定格発電時の環境において、
(1)フィンガー電極3b上の単位面積当たりの発熱量が、多孔質電極5の単位面積当たりの発電量とほぼ等しくなる。
(2)具体的には、フィンガー電極3bの太さt(m)が以下の式を満たすようにする。
【数7】
ただし、d0 :発電電極幅(フィンガー電極3bの間隔)(m)
i0 :定格発電電流密度(A/m2 )
y: フィンガー電極3bの末端からの距離(m)
ρ0 :フィンガー電極3bの材質の体積抵抗率(Ωm)
h0 :フィンガー電極3bの厚さ(m)
W0 :発電出力密度(W/m2 )
(3)フィンガー電極3bの太さは(4)式で表される太さの−70%〜+100%の範囲内に入る。
【0086】
(4)式は以下のようにして導出することができる。多孔質電極5上の発電出力密度をW0 (W/m2 )、フィンガー電極3b上、末端から距離yの位置の単位面積当たりの発熱量(損失)をq(y)(W/m2 )((3)式)とする。フィンガー電極3b上、yの位置の幅をΔtだけ増加させた場合、多孔質電極5上の発電出力減少は以下のように表される。
【数8】
【0087】
また、フィンガー電極3b上、yの位置での損失の減少は以下のように表される。
【数9】
【0088】
ここで、(5)式の分母を払い、Δtの2次の項を無視すると、以下のようになる。
【数10】
【0089】
多孔質電極5上での発電出力減少と、フィンガー電極3b上での損失減少とのバランスを取り、最大出力を得るためにΔQ+ΔWを最大化する。
【数11】
【数12】
【0090】
(8)式の右辺=0とおき、tについて解くと、(4)式が導出される。
すなわち、フィンガー電極3bの末端からの距離yによってフィンガー電極3bの太さtを(4)式のように変化させることにより、ΔQ+ΔWを最大化することができる。(4)式に従って太さtが変化する理想的なフィンガー電極3bの形状を図7に示す。
【0091】
ただし、スクリーン印刷、ディスペンシングなどのプロセス上の理由から、フィンガー電極3bの末端の幅を0に近づけられない場合もある。そこで、プロセスから決まるフィンガー電極3bの最小幅をtmin とすると、この場合には図8に示すような形状とすることが望ましい。
【0092】
フィンガー電極3bの材質は電気伝導性の高い材料が望ましく、Ag、Pt、Ru、Au、Cu、Ni、Mo、Tiなどの金属材料が好ましい。また、色素増感光電変換素子においては、ヨウ素系の電解液を用いることが多いため、電解液への耐腐食性も高い方が望ましい。
【0093】
配線シミュレーションにより、上記の集電配線3のパターン形状の最適化を行った場合の損失低減を評価した。
【0094】
図9に本最適化の適用前のシミュレーションの結果を示す。図9からわかるように、多孔質電極5の幅が8mmのときのモジュール当たりの損失は6.13mWとなっている。
【0095】
図10に本最適化の適用後のシミュレーションの結果を示す。多孔質電極5の幅が8mmのときのモジュール当たりの損失は5.06mWとなっており、本最適化適用前に比べて約1mW近く減少していることがわかる。図10において丸で囲った部分が図9と変わっており、損失が低減していることがわかる。
【0096】
図11A、BおよびCにそれぞれ開口率、抵抗損失および最終的な色素増感光電変換素子の出力をシミュレーションにより求めた結果を示す。図10A、BおよびCからわかるように、本最適化により開口率が若干減少したものの、抵抗損失の減少の効果が上回り、最終的な色素増感光電変換素子の出力が1.1mW程度改善している。
【0097】
この第3の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様な利点に加えて、次のような利点を得ることができる。すなわち、集電配線3をバス電極3aとフィンガー電極3bとにより形成し、フィンガー電極3bの太さtが(4)式に従って変化するようにしているので、色素増感光電変換素子の出力を最大化することが可能となる。また、フィンガー電極3bの太さtが、フィンガー電極3bの末端ではプロセス上の最低幅から始まり、途中で太さtの増加が(4)式に従うようにすることにより、製造プロセスに適合しつつ、色素増感光電変換素子の出力を最大化することが可能となる。さらに、フィンガー電極3bの材質はAg、Pt、Ru、Au、Cu、Ni、Mo、Tiなどの金属材料であるので、フィンガー電極3bにより効率的に集電を行うことができ、色素増感光電変換素子の出力を最大化することができる。
【0098】
〈4.第4の実施の形態〉
[色素増感光電変換素子]
第4の実施の形態による色素増感光電変換素子においては、第3の実施の形態とは異なる方法による集電配線3のパターン形状の最適化について説明する。
【0099】
この色素増感光電変換素子においては、集電配線3は、図3Bに示すように、太いパターンからなるバス電極3aとこのバス電極3aから分岐した細いパターンからなるストライプ電極3dとからなる。
【0100】
ストライプ電極3dのピッチ(線周期)は、以下の条件を満たすように選ばれる。
【数13】
ただし、t: ストライプ電極3dの太さ(m)
W0 :定格発電出力密度(W/m2 )
R0 :ストライプ電極3dの線抵抗(Ω/m)
i0 :定格発電電流密度(A/m2 )
I: ストライプ電極3dの集電距離(m)
【0101】
あるいは、ストライプ電極3dのピッチが、プロセス上の都合、外観、製造誤差などの理由から上記式から算出されるピッチの−70%〜+250%の範囲内に入るように選ばれる。これは、色素増感光電変換素子の出力が最適点から−30%ダウンするまでの範囲に該当する。
【0102】
上記式は以下のようにして導出することができる。まず、ストライプ電極3d上の単位面積当たりの抵抗損失を計算する。多孔質電極5の面で一様に電流が発生する(i0 (A/m2 ))と仮定すると、ストライプ電極3dの単位長さ当たりに流れ込む電流I0 (A/m)は、ストライプ電極3dの太さをt(m)、ピッチをd0 、ストライプ電極3dの線抵抗をR(Ω/m)とすると、
【数14】
である(図12参照。)。ストライプ電極3dの末端から距離yの地点の単位面積当たりの抵抗損失q(y)(W/m2 )は
【数15】
となる。t一定としてこの式を積分すると、単位面積当たりの抵抗損失q(y)(W/m2 )は以下のようになる。
【数16】
ここで、ρ0 は金属の体積抵抗率(Ωm)であり、Rと以下の関係がある。
【数17】
【0103】
次に、これをストライプ電極3dの長さ方向に積分すると、以下のようになり、ストライプ電極3dの単位幅当たりの抵抗損失Q(W/m)を算出することができる。
【数18】
【0104】
これにストライプ電極3dの太さt0 を掛けると、ストライプ電極3d1本当たりの抵抗損失を次のように計算することができる。
【数19】
【0105】
次に、W(発電電力)−Q(集電損失)のストライプ電極3dの太さtに対する最大値を探すために、tの微小変化に対するW(発電電力)、Q(集電損失)の差分を計算する。tが増えると開口率が低下するためWは減少し、集電配線の抵抗が減少するためにQも減少する。
【数20】
【0106】
上記式から、微分(ΔW+ΔQ)/Δt=0となる点(極大点)を求める。
【数21】
【数22】
【数23】
この式をd0 について解くことにより、
【数24】
が得られる。すなわち、上記d0 が出力極大値を与えるストライプ電極3dのピッチとなる。
【0107】
集電配線3の材質は電気電導性の高い材料が望ましく、Ag、Pt、Ru、Au、Cu、Ni、Mo、Tiなどの金属材料が好ましい。また、色素増感光電変換素子においては、ヨウ素系の電解液を用いることが多いため、電解液への耐腐食性が高い方が望ましい。
【0108】
図13に示すように、透明基板1の互いに対向する二辺に沿ってそれぞれバス電極3aが設けられ、これらのバス電極3aにおいて集電する構造の場合には集電距離lは片側のみで集電する場合の半分の距離となる。
【0109】
実際の計算例について説明する。ただし、ここでは、集電配線3の材料として、銀合金(導電率:3.33×107 S/m)、モリブデン(導電率:6.25×106 S/m)またはルテニウム(導電率:7.14×106 S/m)を用いた場合のストライプ電極3dの最適ピッチを計算する。ストライプ電極3dの高さは1μm、幅は50μmとし、集電長さ(モジュール長)は0.3mとする。定格面積電流密度は10A/m2 、定格発電出力密度は5W/m2 である。計算結果を表1に示す。表1より、導電率の高い銀合金では電極ピッチが376μm、すなわち高い開口率が最適であるのに対し、導電率の低いMo、Ruでは最適電極ピッチが狭くなり、開口率も低くなっている。
【0110】
【表1】
【0111】
上記計算条件のもと、集電配線3の材料として銀合金を用いた場合について、ストライプ電極3dのピッチを可変とした色素増感光電変換素子モジュールの出力の計算結果を図14に示す。図14に示すように、表1に示す計算結果である開口率86.7%の点で発電出力は最大となっている。また、最大出力点の70%の出力が出る範囲は開口率が最適点から−35%〜+10%の範囲である。これはストライプ電極3dのピッチに換算すると−70%〜+230%に相当する。
【0112】
同様に、集電配線3の材料としてRuを用いた場合について、ストライプ電極3dのピッチを可変とした色素増感光電変換素子モジュールの出力の計算結果を図15に示す。表1に示す計算結果である開口率72.2%の点で発電出力は最大となっている。また、最大出力点の70%の出力が出る範囲は開口率が最適点から−42%〜+20%の範囲である。これはストライプ電極3dのピッチに換算すると−50%〜+100%に相当する。
【0113】
この第4の実施の形態によれば、第3の実施の形態と同様な利点を得ることができる。特に、ストライプ電極3dのピッチが、計算により求められるピッチの−70%〜+250%の範囲内とすることにより、色素増感光電変換素子の出力に関して最適点の70%以上の出力を得ることができる。
【0114】
〈5.第5の実施の形態〉
[色素増感光電変換素子]
第5の実施の形態による色素増感光電変換素子においては、第3および第4の実施の形態とは異なる方法による集電配線3のパターン形状の最適化について説明する。
【0115】
この色素増感光電変換素子においては、集電配線3は、図3Aに示すように、太いパターンからなるバス電極3aとこのバス電極3aと電気的に接続されたグリッド電極3cとからなる。
【0116】
グリッド電極3cでは、第4の実施の形態におけるストライプ電極3dについての計算結果と開口率を合わせることが望ましい。すなわち、グリッド電極3cを構成するストライプ電極の線抵抗、太さ、定格発電出力密度および定格発電電流密度から求まる最適な開口率Apが以下のように選択される。ここで、開口率とは、多孔質電極5の面積のうちのグリッド電極3cにより被覆されていない部分の面積を多孔質電極5の面積全体で割った値である。
【数25】
【0117】
グリッド電極3cの開口率は、プロセスの都合、外観、製造誤差などの理由から、上記式から算出される開口率の−40%〜+20%の範囲内に入るようにしてもよい。これは色素増感光電変換素子の出力が最適点からおよそ−30%ダウンまでの範囲に該当する。
【0118】
また、図16に示すように、透明基板1の互いに直交する2辺に沿って設けられたバス電極3cにより集電する構造の場合には集電距離lは、1辺のみに設けられたバス電極3cにより集電する場合の半分の距離となる。
【0119】
この第5の実施の形態によれば、第3の実施の形態と同様な利点を得ることができる。特に、メッシュ電極3cを用いた場合の開口率を、計算により求められる開口率の−40%〜+20%の範囲内とすることにより、色素増感光電変換素子の出力に関して最適点の70%以上の出力を得ることができる。
【0120】
〈6.第6の実施の形態〉
[色素増感光電変換素子]
第6の実施の形態による色素増感光電変換素子においては、多孔質電極5が金属/金属酸化物微粒子により構成され、典型的には、これらの金属/金属酸化物微粒子が焼結されたものからなる。この金属/金属酸化物微粒子の構造の詳細を図17に示す。図17に示すように、金属/金属酸化物微粒子14は、金属からなる球状のコア14aとこのコア14aの周りを取り囲む金属酸化物からなるシェル14bとからなるコア/シェル構造を有する。この金属/金属酸化物微粒子14は金属酸化物からなるシェル14bの表面に一種または複数種の光増感色素が結合(あるいは吸着)する。
【0121】
金属/金属酸化物微粒子14のシェル14bを構成する金属酸化物は、例えば、酸化チタン(TiO2 )、酸化スズ(SnO2 )、酸化ニオブ(Nb2 O5 )、酸化亜鉛(ZnO)などが用いられる。これらの金属酸化物の中でも、TiO2 、取り分けアナターゼ型のTiO2 を用いることが好ましい。ただし、金属酸化物の種類はこれらに限定されるものではなく、必要に応じて、二種類以上の金属酸化物を混合または複合化して用いることができる。また、金属/金属酸化物微粒子14の形態は粒状、チューブ状、棒状などのいずれであってもよい。
【0122】
上記の金属/金属酸化物微粒子14の粒径に特に制限はないが、一般的には一次粒子の平均粒径で1〜500nmであり、取り分け1〜200nmが好ましく、特に好ましくは5〜100nmである。また、金属/金属酸化物微粒子14のコア14aの粒径は一般的には1〜200nmである。
その他のことは第1の実施の形態と同様である。
【0123】
[色素増感光電変換素子の製造方法]
次に、この色素増感光電変換素子の製造方法について説明する。
まず、透明基板1の一主面にスパッタリング法などにより透明導電層2を形成し、その上に集電配線3を形成する。
次に、透明導電層2上に金属/金属酸化物微粒子14からなる多孔質電極5を形成する。
【0124】
多孔質電極5は、金属/金属酸化物微粒子14を透明導電層2上に塗布または印刷した後に、金属/金属酸化物微粒子14同士を電気的に接続し、多孔質電極5の機械的強度を向上させ、透明導電層2との密着性を向上させるために、焼成することが好ましい。
この後、第1の実施の形態と同様に工程を進め、目的とする色素増感光電変換素子を製造する。
【0125】
多孔質電極5を構成する金属/金属酸化物微粒子14は従来公知の方法により製造することができる(例えば、Jpn.J.Appl.Phys.Vol.46,No.4B,2007,pp.2567-2570参照)。一例として、コア14aがAu、シェル14bがTiO2 からなる金属/金属酸化物微粒子14の製造方法の概要を説明すると次の通りである。すなわち、まず、5×10-4M HAuCl4 500mLの加熱した溶液に脱水クエン酸3ナトリウムを混合・攪拌する。次に、メルカプトウンデカン酸をアンモニア水溶液に2.5重量%添加・攪拌した後、Auナノ粒子分散溶液に添加し、2時間保温する。次に、1M HClを添加して溶液のpHを3にする。次に、チタンイソプロポキシドおよびトリエタノールアミンを窒素雰囲気下でAuコロイド溶液に添加する。こうして、コア14aがAu、シェル14bがTiO2 からなる金属/金属酸化物微粒子14が製造される。
【0126】
[色素増感光電変換素子の動作]
次に、この色素増感光電変換素子の動作について説明する。
この色素増感光電変換素子は、光が入射すると、対極8を正極、透明導電層2を負極とする電池として動作する。その原理は次の通りである。なお、ここでは、透明導電層2の材料としてFTOを用い、多孔質電極5を構成する金属/金属酸化物微粒子14のコア14aの材料としてAu、シェル14bの材料としてTiO2 を用い、レドックス対としてI- /I3 - の酸化還元種を用いることを想定している。ただし、これに限定されるものではない。
【0127】
透明基板1および透明導電層2を透過し、多孔質電極5に入射した光子を多孔質電極5に結合した光増感色素が吸収すると、この光増感色素中の電子が基底状態(HOMO)から励起状態(LUMO)へ励起される。こうして励起された電子は、光増感色素と多孔質電極5との間の電気的結合を介して、多孔質電極5を構成する金属/金属酸化物微粒子14のシェル14bを構成するTiO2 の伝導帯に引き出され、多孔質電極5を通って透明導電層2に到達する。加えて、金属/金属酸化物微粒子14のAuからなるコア14aの表面に光が入射することにより局在表面プラズモンが励起され、電場増強効果が得られる。そして、この増強電場によりシェル14bを構成するTiO2 の伝導帯に電子が大量に励起され、多孔質電極5を通って透明導電層2に到達する。このように、多孔質電極5に光が入射したとき、透明導電層2には、光増感色素の励起により発生した電子が到達することに加えて、金属/金属酸化物微粒子14のコア14aの表面における局在表面プラズモンの励起によりシェル14bを構成するTiO2 の伝導帯に励起される電子も到達する。このため、高い光電変換効率を得ることができる。
【0128】
一方、電子を失った光増感色素は、多孔質電極5などに含浸された電解液中の中の還元剤、例えばI- から下記の反応によって電子を受け取り、電解液中に酸化剤、例えばI3 - (I2 とI- との結合体)を生成する。
2I- → I2 + 2e-
I2 + I- → I3 -
【0129】
こうして生成された酸化剤は拡散によって対極8に到達し、上記の反応の逆反応によって対極8から電子を受け取り、もとの還元剤に還元される。
I3 - → I2 + I-
I2 + 2e- → 2I-
【0130】
透明導電層2から外部回路へ送り出された電子は、外部回路で電気的仕事をした後、対極8に戻る。このようにして、光増感色素にも電解液にも何の変化も残さず、光エネルギーが電気エネルギーに変換される。
【0131】
この第6の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様な利点に加えて、次のような利点を得ることができる。すなわち、多孔質電極5は、金属からなる球状のコア14aとこのコア14aの周りを取り囲む金属酸化物からなるシェル14bとからなるコア/シェル構造を有する金属/金属酸化物微粒子14により構成されている。このため、多孔質電極5などに電解液を含浸させた場合、電解液の電解質が金属/金属酸化物微粒子14の金属からなるコア14aと接触することがなく、電解質による多孔質電極5の溶解を防止することができる。従って、金属/金属酸化物微粒子14のコア14aを構成する金属として表面プラズモン共鳴の効果が大きい金、銀、銅などを用いることができ、表面プラズモン共鳴の効果を十分に得ることができる。また、電解液の電解質としてヨウ素系の電解質を用いることができる。以上により、光電変換効率が高い色素増感光電変換素子を得ることができる。そして、この優れた色素増感光電変換素子を用いることにより、高性能の電子機器を実現することができる。
【0132】
〈7.第7の実施の形態〉
[光電変換素子]
第7の実施の形態による光電変換素子は、多孔質電極5を構成する金属/金属酸化物微粒子14に光増感色素が結合していないことを除いて、第6の実施の形態による色素増感光電変換素子と同様な構成を有する。
【0133】
[光電変換素子の製造方法]
この色素増感光電変換素子の製造方法は、多孔質電極5に光増感色素を吸着させないことを除いて、第6の実施の形態による色素増感光電変換素子と同様である。
【0134】
[光電変換素子の動作]
次に、この光電変換素子の動作について説明する。
この光電変換素子は、光が入射すると、対極8を正極、透明導電層2を負極とする電池として動作する。その原理は次の通りである。なお、ここでは、透明導電層2の材料としてFTOを用い、多孔質電極5を構成する金属/金属酸化物微粒子14のコア14aの材料としてAu、シェル14bの材料としてTiO2 を用い、レドックス対としてI- /I3 - の酸化還元種を用いることを想定している。ただし、これに限定されるものではない。
【0135】
透明基板1および透明導電層2を透過し、多孔質電極3を構成する金属/金属酸化物微粒子14のAuからなるコア14aの表面に光が入射することにより局在表面プラズモンが励起され、電場増強効果が得られる。そして、この増強電場によりシェル14bを構成するTiO2 の伝導帯に電子が大量に励起され、多孔質光電極5を通って透明導電層2に到達する。
【0136】
一方、電子を失った多孔質電極5は、多孔質電極5などに含浸された電解液中の還元剤、例えばI- から下記の反応によって電子を受け取り、電解液中に酸化剤、例えばI3 - (I2 とI- との結合体)を生成する。
2I- → I2 + 2e-
I2 + I- → I3 -
【0137】
こうして生成された酸化剤は拡散によって対極8に到達し、上記の反応の逆反応によって対極8から電子を受け取り、もとの還元剤に還元される。
I3 - → I2 + I-
I2 + 2e- → 2I-
【0138】
透明導電層2から外部回路へ送り出された電子は、外部回路で電気的仕事をした後、対極8に戻る。このようにして、電解液に何の変化も残さず、光エネルギーが電気エネルギーに変換される。
第7の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様な利点を得ることができる。
【0139】
以上、実施の形態および実施例について具体的に説明したが、上述の実施の形態および実施例に限定されるものではなく、各種の変形が可能である。
【0140】
例えば、上述の実施の形態および実施例において挙げた数値、構造、構成、形状、材料などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれらと異なる数値、構造、構成、形状、材料などを用いてもよい。
【0141】
また、必要に応じて、第1〜第7の実施の形態のうちのいずれか二以上を組み合わせてもよい。
【0142】
なお、第3〜第5の実施の形態による色素増感光電変換素子における集電配線3のパターン形状は、多孔質電極を用いる色素増感光電変換素子あるいは光電変換素子だけでなく、アモルファスシリコン太陽電池、多結晶シリコン太陽電池、単結晶シリコン太陽電池、化合物半導体太陽電池などに適用しても有効である。また、第3〜第5の実施の形態による色素増感光電変換素子における集電配線3は、Ag粒子と低融点ガラスフリットとを含む導電性ペーストを用いて形成するだけでなく、真空蒸着法やスパッタリング法などにより形成した膜をエッチングなどによりパターニングすることにより形成してもよい。
【符号の説明】
【0143】
1…透明基板、2…透明導電層、3…集電配線、3a…バス電極、3b…フィンガー電極、3c…グリッド電極、3d…ストライプ電極、4…保護層、5…多孔質電極、6…基板、7…導電層、8…対極、9…封止材、10…電解質層、11…電極、12…外部配線、13…密着層、14…金属/金属酸化物微粒子、14a…コア、14b…シェル
【技術分野】
【0001】
本開示は、光電変換素子の製造方法、光電変換素子および電子機器に関し、例えば色素増感太陽電池に用いて好適な光電変換素子およびこの光電変換素子を用いた各種の電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光を電気エネルギーに変換する光電変換素子である太陽電池は太陽光をエネルギー源としているため、地球環境に対する影響が極めて少なく、より一層の普及が期待されている。
【0003】
従来より、太陽電池としては、単結晶または多結晶のシリコンを用いた結晶シリコン系太陽電池および非晶質(アモルファス)シリコン系太陽電池が主に用いられている。
【0004】
一方、1991年にグレッツェルらが提案した色素増感太陽電池は、高い光電変換効率を得ることができ、しかも従来のシリコン系太陽電池とは異なり製造の際に大掛かりな装置を必要とせず、低コストで製造することができることなどにより注目されている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0005】
この色素増感太陽電池は、一般的に、透明導電性基板上に形成された、光増感色素を結合させた酸化チタンなどからなる多孔質電極と対極とを対向させ、それらの間に電解質層を充填した構造を有する。電解液としては、ヨウ素やヨウ化物イオンなどの酸化・還元種を含む電解質を溶媒に溶解したものが多く用いられる。
【0006】
色素増感太陽電池においては通常、動作時に多孔質電極からその下の透明導電性基板に流れ込んだ電子を集電するための集電配線が透明導電性基板上に形成される。この集電配線の形成方法としては、透明導電性基板上に銀(Ag)ペーストを塗布し、固化させることにより形成する方法が簡便であり、多く用いられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Nature,353,p.737-740,1991
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者らの知見によれば、銀ペーストにより集電配線を形成すると、次のような問題が発生する。すなわち、色素増感太陽電池においては、透明導電性基板上に銀ペーストにより銀粒子からなる集電配線を形成した後、この透明導電性基板上に酸化チタン微粒子を含む酸化チタンペーストを塗布し、この酸化チタンペーストを例えば500℃前後の温度で焼成することにより酸化チタンからなる多孔質電極を形成する。ところが、この焼成の際に、集電配線を構成する銀粒子が流動し、ひいては集電配線が流動してしまうため、多孔質電極に銀が接触して多孔質電極が還元されたり、流動した銀が色素増感太陽電池の長期信頼性を悪化させたりしていた。
【0009】
そこで、本開示が解決しようとする課題は、多孔質電極を焼成により形成する際に集電配線を構成する銀粒子が流動するのを有効に防止することができ、多孔質電極の劣化の防止および長期信頼性の向上を図ることができる光電変換素子の製造方法および光電変換素子を提供することである。
【0010】
また、本開示が解決しようとする他の課題は、上記のような優れた光電変換素子を用いた電子機器を提供することである。
【0011】
上記課題および他の課題は、添付図面を参照した本明細書の記述によって明らかとなるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本開示は、
透明導電性基板上の多孔質電極と対極との間に電解質層が設けられた構造を有する光電変換素子を製造する場合に、上記透明導電性基板上に、銀粒子と低融点ガラスフリットとを含む導電性ペーストにより集電配線を形成する工程を有する光電変換素子の製造方法である。
【0013】
また、本開示は、
透明導電性基板上の多孔質電極と対極との間に電解質層が設けられた構造を有し、
上記透明導電性基板上に、金属粒子と低融点ガラスフリットとを含む導電性ペーストにより形成された集電配線が設けられている光電変換素子である。
【0014】
また、本開示は、
少なくとも一つの光電変換素子を有し、
上記光電変換素子が、
透明導電性基板上の多孔質電極と対極との間に電解質層が設けられた構造を有し、
上記透明導電性基板上に、金属粒子と低融点ガラスフリットとを含む導電性ペーストにより形成された集電配線が設けられている光電変換素子である電子機器である。
【0015】
本開示において、低融点ガラスフリットは、一般的には、軟化点が360℃以上500℃以下であり、好適には、軟化点が380℃以上480℃以下である。この低融点ガラスフリットの具体例を挙げると、例えば、軟化点が380℃以上400℃以下の、酸化ビスマス、酸化ホウ素、酸化亜鉛および酸化アルミニウムを含むガラスフリット、軟化点が440℃以上460℃以下の、酸化ビスマス、酸化亜鉛および酸化ホウ素を含むガラスフリット、軟化点が450℃以上470℃以下の、酸化ビスマス、酸化ホウ素、酸化亜鉛、酸化銅および酸化シリコンを含むガラスフリット、軟化点が460℃以上480℃以下の、酸化ビスマス、酸化亜鉛、酸化ホウ素および酸化シリコンを含むガラスフリットなどであるが、これに限定されるものではない。
【0016】
光電変換素子は、典型的には、多孔質電極に光増感色素が結合(あるいは吸着)した色素増感光電変換素子である。この場合、光電変換素子の製造方法は、典型的には、多孔質電極に光増感色素を結合させる工程をさらに有する。この多孔質光電極は、典型的には、半導体からなる微粒子により構成される。半導体は、好適には、酸化チタン(TiO2 )、取り分けアナターゼ型のTiO2 を含む。
【0017】
多孔質電極としては、いわゆるコア−シェル構造の微粒子により構成されたものを用いてもよく、この場合には必ずしも光増感色素を結合させないでもよい。この多孔質電極としては、好適には、金属からなるコアとこのコアを取り巻く金属酸化物からなるシェルとからなる微粒子により構成されたものが用いられる。このような多孔質電極を用いると、この多孔質電極などに電解液を含浸させた場合、電解液の電解質が金属/金属酸化物微粒子の金属からなるコアと接触することがないことから、電解質による多孔質電極の溶解を効果的に防止することができる。このため、金属/金属酸化物微粒子のコアを構成する金属として、従来使用が困難であった、表面プラズモン共鳴の効果が大きい金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)などを用いることができ、光電変換において表面プラズモン共鳴の効果を十分に得ることができる。また、電解液の電解質としてヨウ素系の電解質を用いることができる。金属/金属酸化物微粒子のコアを構成する金属としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)などを用いることもできる。金属/金属酸化物微粒子のシェルを構成する金属酸化物としては使用する電解質に溶解しない金属酸化物が用いられ、必要に応じて選ばれる。このような金属酸化物としては、好適には、酸化チタン(TiO2 )、酸化スズ(SnO2 )、酸化ニオブ(Nb2 O5 )および酸化亜鉛(ZnO)からなる群より選ばれた少なくとも一種の金属酸化物が用いられるが、これらに限定されない。例えば、酸化タングステン(WO3 )、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3 )などの金属酸化物を用いることもできる。微粒子の粒径は適宜選ばれるが、好適には1〜500nmである。また、微粒子のコアの粒径も適宜選ばれるが、好適には1〜200nmである。
【0018】
透明導電性基板が、透明基板上にフッ素ドープ酸化スズ(FTO)からなる透明導電層が設けられたものからなる場合、好適には、その透明導電層上に導電性の密着層を介して集電配線が設けられる。このような密着層は、好適には、銀、金、白金、チタン、クロム、アルミニウムおよび銅からなる群より選ばれた少なくとも一種の金属からなるが、これに限定されるものではない。
【0019】
必要に応じて、集電配線が、例えば、バス電極とこのバス電極から分岐した複数のフィンガー電極とからなり、少なくとも一つのフィンガー電極の太さをt(m)としたとき、tが下記の式を満たすようにしてもよい。こうすることで、フィンガー電極の集電性能と多孔質電極の開口率とのバランスの最適化を図ることができ、光電変換素子の出力の最大化を図ることができる。
【0020】
【数1】
ただし、d0 :発電電極幅(フィンガー電極間隔)(m)
i0 :定格発電電流密度(A/m2 )
y: フィンガー電極の末端からの距離(m)
ρ0 :フィンガー電極の材質の体積抵抗率(Ωm)
h0 :フィンガー電極の厚さ(m)
W0 :発電出力密度(W/m2 )
である。
【0021】
あるいは、集電配線が微細集電電極構造、具体的にはバス電極とこのバス電極から分岐した複数のストライプ電極とからなり、このストライプ電極のピッチをd0 (m)としたとき、d0 が下記の式を満たすようにしてもよい。こうすることで、ストライプ電極の集電性能とストライプ電極部の開口率とのバランスの最適化を図ることができ、光電変換素子の出力の最大化を図ることができる。
【0022】
【数2】
ただし、t :ストライプ電極の太さ(m)
W0 :定格発電出力密度(W/m2 )
R0 :ストライプ電極の線抵抗(Ω/m)
i0 :定格発電電流密度(A/m2 )
l :ストライプ電極の集電距離(m)
【0023】
あるいは、集電配線が微細集電電極構造、具体的にはバス電極とこのバス電極と電気的に接続されたメッシュ電極またはグリッド電極とからなり、このメッシュ電極またはグリッド電極の開口率をApとしたとき、Apが下記の式を満たすようにしてもよい。こうすることで、メッシュ電極またはグリッド電極の集電性能とメッシュ電極またはグリッド電極の開口率とのバランスの最適化を図ることができ、光電変換素子の出力の最大化を図ることができる。
【0024】
【数3】
ただし、t :ストライプ電極の太さ(m)
W0 :定格発電出力密度(W/m2 )
R0 :ストライプ電極の線抵抗(Ω/m)
i0 :定格発電電流密度(A/m2 )
l :ストライプ電極の集電距離(m)
【0025】
光電変換素子は、最も典型的には、太陽電池として構成される。ただし、光電変換素子は、太陽電池以外のもの、例えば光センサーなどであってもよい。
【0026】
光電変換素子は、各種の電子機器の電源として用いることができる。電子機器は、基本的にはどのようなものであってもよく、携帯型のものと据え置き型のものとの双方を含むが、具体例を挙げると、携帯電話、モバイル機器、ロボット、パーソナルコンピュータ、車載機器、各種家庭電気製品などである。この場合、光電変換素子は、例えばこれらの電子機器の電源として用いられる太陽電池である。
【0027】
上述の本開示によれば、導電性ペーストが銀粒子に加えて低融点ガラスフリットを含むことにより、導電性ペーストにより集電配線を形成した後に多孔質電極を形成するための焼成を行った場合、集電配線を構成する銀粒子よりも先に、低融点ガラスフリットが流動する。これによって、集電配線を構成する銀粒子の流動を抑えることができる。
【発明の効果】
【0028】
本開示によれば、多孔質電極を焼成により形成する際に集電配線を構成する銀粒子が流動するのを有効に防止することができ、多孔質電極の劣化の防止および長期信頼性の向上を図ることができる光電変換素子の製造方法および光電変換素子を実現することができる。そして、この光電変換素子を用いて高性能の電子機器を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】第1の実施の形態による色素増感光電変換素子を示す断面図である。
【図2】第1の実施の形態による色素増感光電変換素子における集電配線のパターン形状の例を示す略線図である。
【図3】第1の実施の形態による色素増感光電変換素子における集電配線のパターン形状の例を示す略線図である。
【図4】Ag粒子と低融点ガラスフリットとを含む導電性ペーストの評価結果を示す図面代用写真である。
【図5】第2の実施の形態による色素増感光電変換素子を示す断面図である。
【図6】第3の実施の形態による色素増感光電変換素子におけるフィンガー電極の太さの最適化を説明するための略線図である。
【図7】第3の実施の形態による色素増感光電変換素子におけるフィンガー電極の太さの最適化を説明するための略線図である。
【図8】第3の実施の形態による色素増感光電変換素子におけるフィンガー電極の太さの最適化を説明するための略線図である。
【図9】第3の実施の形態による色素増感光電変換素子における最適化前のフィンガー電極を評価するために配線シミュレーションを行った結果を示す略線図である。
【図10】第3の実施の形態による色素増感光電変換素子における最適化後のフィンガー電極を評価するために配線シミュレーションを行った結果を示す略線図である。
【図11】第3の実施の形態による色素増感光電変換素子の評価結果を示す略線図である。
【図12】第4の実施の形態による色素増感光電変換素子におけるストライプ電極の太さの最適化を説明するための略線図である。
【図13】第4の実施の形態による色素増感光電変換素子におけるストライプ電極の太さの最適化を説明するための略線図である。
【図14】第5の実施の形態による色素増感光電変換素子におけるグリッド電極の開口率と発電出力との関係を示す略線図である。
【図15】第5の実施の形態による色素増感光電変換素子におけるグリッド電極の開口率と発電出力との関係を示す略線図である。
【図16】第5の実施の形態による色素増感光電変換素子における集電配線のパターン形状の例を示す略線図である。
【図17】第6の実施の形態による色素増感光電変換素子において多孔質電極を構成する金属/金属酸化物微粒子の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、発明を実施するための形態(以下「実施の形態」とする)について説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.第1の実施の形態(色素増感光電変換素子およびその製造方法)
2.第2の実施の形態(色素増感光電変換素子およびその製造方法)
3.第3の実施の形態(色素増感光電変換素子およびその製造方法)
4.第4の実施の形態(色素増感光電変換素子およびその製造方法)
5.第5の実施の形態(色素増感光電変換素子およびその製造方法)
6.第6の実施の形態(色素増感光電変換素子およびその製造方法)
7.第7の実施の形態(光電変換素子およびその製造方法)
【0031】
〈1.第1の実施の形態〉
[色素増感光電変換素子]
図1は第1の実施の形態による色素増感光電変換素子を示す断面図である。
図1に示すように、この色素増感光電変換素子においては、透明基板1の一主面に透明導電層2が設けられている。透明導電層2上に集電配線3が所定のパターン形状で設けられている。この集電配線3を覆うように保護層4が設けられている。この保護層4により後述の電解液による集電配線3の腐食を防止することができる。透明導電層2上には多孔質電極5が設けられている。この多孔質電極5は、集電配線3以外の部分に設けてもよいし、集電配線3上に重ねて設けてもよいが、図1においては集電配線3以外の部分に設けた例が示されている。この多孔質電極3には一種または複数種の光増感色素(図示せず)が結合している。一方、基板6の一主面に導電層7が設けられている。導電層7上に、透明導電層2上の多孔質電極3と対向するように対極8が設けられている。そして、これらの透明基板1および対極8の外周部が封止材9で封止され、透明導電層2上の多孔質電極3と対極8との間に電解質層10が設けられている。導電層7の端部の上には電極11が設けられ、この電極11に外部配線12が接続されている。図示は省略するが、透明導電層2上の端部にも外部配線が接続されている。
【0032】
集電配線3のパターン形状の例を図2AおよびBに示す。図2Aに示す例では、集電配線3は、透明基板1の一辺に沿って設けられたバス電極3aとこのバス電極3aから分岐した複数のフィンガー電極3bとからなる。図2Bに示す例では、集電配線3は、透明基板1の中央部に設けられたバス電極3aとこのバス電極3aから両側に分岐した複数のフィンガー電極3bとからなる。フィンガー電極3bは多孔質電極5で発電した電流を効率的に回収するためのものであるのに対し、バス電極3aは回収した電流を効率よく集め、外部に取り出すためのものである。
【0033】
集電配線3は微細集電電極構造であってもよい。微細集電電極構造のパターン形状の例を図3A〜Dに示す。図3Aに示す例では、集電配線3は、透明基板1の一辺に沿って設けられたバス電極3aとこのバス電極3aと電気的に接続されたグリッド電極3c(あるいはメッシュ電極)とからなる。図3Bに示す例では、集電配線3は、透明基板1の一辺に沿って設けられたバス電極3aとこのバス電極3aから分岐した複数のストライプ電極3dとからなる。図3Cに示す例では、集電配線3は、透明基板1の中央部に設けられたバス電極3aとこのバス電極3aの両側に設けられ、このバス電極3aと電気的に接続されたグリッド電極3cとからなる。図3Dに示す例では、集電配線3は、透明基板1の一辺に沿って設けられたバス電極3aとこのバス電極3aの両側に分岐した複数のストライプ電極3dとからなる。グリッド電極3cおよびストライプ電極3dは多孔質電極5で発電した電流を効率的に回収するためのものであるのに対し、バス電極3aは回収した電流を効率よく集め、外部に取り出すためのものである。
【0034】
集電配線3は、Ag粒子と低融点ガラスフリットとを含む導電性ペーストを透明導電層2上に塗布した後、固化させることにより形成されたものである。低融点ガラスフリットとしては、例えば既に挙げたものを用いることができる。このように集電配線3が、Ag粒子と低融点ガラスフリットとを含む導電性ペーストにより形成されたものであるため、多孔質電極5を焼成する際に加熱したときに、この低融点ガラスフリットが流動することにより、Ag粒子の流動が抑えられる。保護層4は集電配線3を電解液から保護するためのものであり、好適には、例えば、ITO、SnO2 、TiO2 、ZnOなどの透明金属酸化物により形成される。
【0035】
多孔質電極5としては、典型的には、半導体微粒子を焼結させた多孔質半導体層が用いられる。光増感色素はこの半導体微粒子の表面に吸着している。半導体微粒子の材料としては、シリコンに代表される元素半導体、化合物半導体、ペロブスカイト構造を有する半導体などを用いることができる。これらの半導体は、光励起下で伝導帯電子がキャリアとなり、アノード電流を生じるn型半導体であることが好ましい。具体的には、例えば、酸化チタン(TiO2 )、酸化亜鉛(ZnO)、酸化タングステン(WO3 )、酸化ニオブ(Nb2 O5 )、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3 )、酸化スズ(SnO2 )などの半導体が用いられる。これらの半導体の中でも、TiO2 、取り分けアナターゼ型のTiO2 を用いることが好ましい。ただし、半導体の種類はこれらに限定されるものではなく、必要に応じて、二種類以上の半導体を混合または複合化して用いることができる。また、半導体微粒子の形態は粒状、チューブ状、棒状などのいずれであってもよい。
【0036】
上記の半導体微粒子の粒径に特に制限はないが、一次粒子の平均粒径で1〜200nmが好ましく、特に好ましくは5〜100nmである。また、半導体微粒子よりも大きいサイズの粒子を混合し、この粒子で入射光を散乱させ、量子収率を向上させることも可能である。この場合、別途混合する粒子の平均サイズは20〜500nmであることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0037】
多孔質電極5は、できるだけ多くの光増感色素を結合させることができるように、半導体微粒子からなる多孔質半導体層の内部の空孔に面する微粒子表面も含めた実表面積の大きいものが好ましい。このため、多孔質電極5を透明導電層2上に形成した状態での実表面積は、多孔質電極5の外側表面の面積(投影面積)に対して10倍以上であることが好ましく、100倍以上であることがさらに好ましい。この比に特に上限はないが、通常1000倍程度である。
【0038】
一般に、多孔質電極5の厚さが増し、単位投影面積当たりに含まれる半導体微粒子の数が増加するほど、実表面積が増加し、単位投影面積に保持することができる光増感色素の量が増加するため、光吸収率が高くなる。一方、多孔質電極5の厚さが増加すると、光増感色素から多孔質電極5に移行した電子が透明導電層2に達するまでに拡散する距離が増加するため、多孔質電極5内での電荷再結合による電子の損失も大きくなる。従って、多孔質電極5には好ましい厚さが存在するが、この厚さは一般的には0.1〜100μmであり、1〜50μmであることがより好ましく、3〜30μmであることが特に好ましい。
【0039】
電解液としては、酸化還元系(レドックス対)を含む溶液が挙げられる。酸化還元系としては、具体的には、例えば、ヨウ素(I2 )と金属または有機物のヨウ化物塩との組み合わせや、臭素(Br2 )と金属または有機物の臭化物塩との組み合わせなどが用いられる。金属塩を構成するカチオンは、例えば、リチウム(Li+ )、ナトリウム(Na+ )、カリウム(K+ )、セシウム(Cs+ )、マグネシウム(Mg2+)、カルシウム(Ca2+)などである。また、有機物塩を構成するカチオンとしては、テトラアルキルアンモニウムイオン類、ピリジニウムイオン類、イミダゾリウムイオン類などの第四級アンモニウムイオンが好適なものであり、これらを単独に、あるいは二種類以上を混合して用いることができる。
【0040】
電解質層10は典型的には電解液により構成され、必要に応じて選ばれるが、電解液としては、上記のほかに、フェロシアン酸塩とフェリシアン酸塩との組み合わせや、フェロセンとフェリシニウムイオンとの組み合わせなどの金属錯体、ポリ硫化ナトリウム、アルキルチオールとアルキルジスルフィドとの組み合わせなどのイオウ化合物、ビオロゲン色素、ヒドロキノンとキノンとの組み合わせなどを用いることもできる。
【0041】
電解液の電解質としては、上記の中でも特に、ヨウ素(I2 )と、ヨウ化リチウム(LiI)、ヨウ化ナトリウム(NaI)、イミダゾリウムヨーダイドなどの第四級アンモニウム化合物とを組み合わせた電解質が好ましい。電解質塩の濃度は溶媒に対して0.05M〜10Mが好ましく、さらに好ましくは0.2M〜3Mである。ヨウ素(I2 )または臭素(Br2 )の濃度は0.0005M〜1Mが好ましく、さらに好ましくは0.001〜0.5Mである。
【0042】
電解液の電解質としては、上記の中でも特に、ヨウ素(I2 )と、ヨウ化リチウム(LiI)、ヨウ化ナトリウム(NaI)、イミダゾリウムヨーダイドなどの第4級アンモニウム化合物とを組み合わせた電解質が好適なものである。電解質塩の濃度は溶媒に対して0.05M〜10Mが好ましく、さらに好ましくは0.2M〜3Mである。ヨウ素I2 または臭素Br2 の濃度は0.0005M〜1Mが好ましく、さらに好ましくは0.001〜0.5Mである。また、開放電圧や短絡電流を向上させる目的で4−tert−ブチルピリジンやベンズイミダゾリウム類などの各種添加剤を加えることもできる。
【0043】
電解液を構成する溶媒としては、一般的には、水、アルコール類、エーテル類、エステル類、炭酸エステル類、ラクトン類、カルボン酸エステル類、リン酸トリエステル類、複素環化合物類、ニトリル類、ケトン類、アミド類、ニトロメタン、ハロゲン化炭化水素、ジメチルスルホキシド、スルフォラン、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、3−メチルオキサゾリジノン、炭化水素などが用いられる。
【0044】
透明基板1は、光が透過しやすい材質と形状のものであれば特に限定されるものではなく、種々の基板材料を用いることができるが、特に可視光の透過率が高い基板材料を用いることが好ましい。また、色素増感光電変換素子に外部から侵入しようとする水分やガスを阻止する遮断性能が高く、また、耐溶剤性や耐候性に優れている材料が好ましい。具体的には、透明基板1の材料としては、石英やガラスなどの透明無機材料や、ポリエチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタラート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフッ化ビニリデン、アセチルセルロース、ブロム化フェノキシ、アラミド類、ポリイミド類、ポリスチレン類、ポリアリレート類、ポリスルホン類、ポリオレフィン類などの透明プラスチックが挙げられる。透明基板1の厚さは特に制限されず、光の透過率や、光電変換素子内外を遮断する性能を勘案して、適宜選択することができる。基板6は光に対して透明であっても透明でなくてもよい。基板6として透明基板を用いる場合、その透明基板としては透明基板1と同様なものを用いることができる。基板6の材料としては、不透明なガラス、プラスチック、セラミック、金属などを用いてもよい。
【0045】
透明基板1上に設けられる透明導電層2は、シート抵抗が小さいほど好ましく、具体的には500Ω/□以下であることが好ましく、100Ω/□以下であることがさらに好ましい。透明導電層2を形成する材料としては公知の材料を用いることができ、必要に応じて選択される。この透明導電層2を形成する材料は、具体的には、インジウム−スズ複合酸化物(ITO)、フッ素がドープされた酸化スズ(IV)SnO2 (FTO)、酸化スズ(IV)SnO2 、酸化亜鉛(II)ZnO、インジウム−亜鉛複合酸化物(IZO)などが挙げられる。ただし、透明導電層2を形成する材料は、これらに限定されるものではなく、これらの二種類以上を組み合わせて用いることもできる。基板6上に設けられる導電層7は光に対して透明であっても透明でなくてもよい。導電層7として透明導電層を用いる場合、その透明導電層としては透明導電層2と同様なものを用いることができる。
【0046】
多孔質電極5に結合させる光増感色素は増感作用を示すものであれば特に制限はないが、この多孔質電極5の表面に吸着する酸官能基を有するものが好ましい。光増感色素は、一般的には、カルボキシ基、リン酸基などを有するものが好ましく、この中でも特にカルボキシ基を有するものが好ましい。光増感色素の具体例を挙げると、例えば、ローダミンB、ローズベンガル、エオシン、エリスロシンなどのキサンテン系色素、メロシアニン、キノシアニン、クリプトシアニンなどのシアニン系色素、フェノサフラニン、カブリブルー、チオシン、メチレンブルーなどの塩基性染料、クロロフィル、亜鉛ポルフィリン、マグネシウムポルフィリンなどのポルフィリン系化合物が挙げられ、その他のものとしてはアゾ色素、フタロシアニン化合物、クマリン系化合物、ビピリジン錯化合物、アントラキノン系色素、多環キノン系色素などが挙げられる。これらの中でも、リガンド(配位子)がピリジン環またはイミダゾリウム環を含み、Ru、Os、Ir、Pt、Co、FeおよびCuからなる群より選ばれた少なくとも一種類の金属の錯体の色素は量子収率が高く好ましい。特に、シス−ビス(イソチオシアナート)−N,N−ビス(2,2’−ジピリジル−4,4’−ジカルボン酸)−ルテニウム(II)またはトリス(イソチオシアナート)−ルテニウム(II)−2,2' :6' ,2" −ターピリジン−4,4' ,4" −トリカルボン酸を基本骨格とする色素分子は吸収波長域が広く好ましい。ただし、光増感色素は、これらに限定されるものではない。光増感色素としては、典型的には、これらのうちの一種類のものを用いるが、二種類以上の光増感色素を混合して用いてもよい。二種類以上の光増感色素を混合して用いる場合、光増感色素は、好適には、多孔質光電極に保持された、MLCT(Metal to Ligand Charge Transfer)を引き起こす性質を有する無機錯体色素と、この多孔質電極5に保持された、分子内CT(Charge Transfer)の性質を有する有機分子色素とを有する。この場合、無機錯体色素と有機分子色素とは、多孔質光電極に互いに異なる立体配座で吸着する。無機錯体色素は、好適には、多孔質電極5に結合する官能基としてカルボキシル基またはホスホノ基を有する。また、有機分子色素は、好適には、同一炭素に、多孔質電極5に結合する官能基としてカルボキシル基またはホスホノ基とシアノ基、アミノ基、チオール基またはチオン基とを有する。無機錯体色素は例えばポリピリジン錯体、有機分子色素は例えば、電子供与性の基と電子受容性の基とを併せ持ち、分子内CTの性質を有する芳香族多環共役系分子である。
【0047】
光増感色素の多孔質電極5への吸着方法に特に制限はないが、上記の光増感色素を例えばアルコール類、ニトリル類、ニトロメタン、ハロゲン化炭化水素、エーテル類、ジメチルスルホキシド、アミド類、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、3−メチルオキサゾリジノン、エステル類、炭酸エステル類、ケトン類、炭化水素、水などの溶媒に溶解させ、これに多孔質電極5を浸漬したり、光増感色素を含む溶液を多孔質電極5上に塗布したりすることができる。また、光増感色素の分子同士の会合を低減する目的でデオキシコール酸などを添加してもよい。必要に応じて紫外線吸収剤を併用することもできる。
【0048】
多孔質電極5に光増感色素を吸着させた後に、過剰に吸着した光増感色素の除去を促進する目的で、アミン類を用いて多孔質電極5の表面を処理してもよい。アミン類の例としてはピリジン、4−tert−ブチルピリジン、ポリビニルピリジンなどが挙げられ、これらが液体の場合はそのまま用いてもよいし、有機溶媒に溶解して用いてもよい。
【0049】
対極8の材料としては、導電性物質であれば任意のものを用いることができるが、絶縁性材料の電解質層10に面している側に導電層が形成されていれば、これも用いることが可能である。対極8の材料としては、電気化学的に安定な材料を用いることが好ましく、具体的には、白金、金、カーボン、および導電性ポリマーなどを用いることが望ましい。
【0050】
また、対極8での還元反応に対する触媒作用を向上させるために、電解質層10に接している対極8の表面には、微細構造が形成され、実表面積が増大するように形成されていることが好ましく、例えば、白金であれば白金黒の状態に、カーボンであれば多孔質カーボンの状態に形成されていることが好ましい。白金黒は、白金の陽極酸化法や塩化白金酸処理などによって、また多孔質カーボンは、カーボン微粒子の焼結や有機ポリマーの焼成などの方法によって形成することができる。
【0051】
封止材9の材料としては、耐光性、絶縁性、防湿性を備えた材料を用いることが好ましい。封止材9の材料の具体例を挙げると、エポキシ樹脂、紫外線硬化樹脂、アクリル樹脂、ポリイソブチレン樹脂、EVA(エチレンビニルアセテート) 、アイオノマー樹脂、セラミック、各種熱融着フィルムなどである。
【0052】
また、電解質組成物の溶液を注入する場合、注入口が必要であるが、多孔質電極5およびこれに対向する部分の対極8上でなければ注入口の場所は特に限定されない。また、電解質組成物の溶液の注入方法に特に制限はないが、外周が予め封止され、溶液の注入口を開けられた光電変換素子の内部に減圧下で注液を行う方法が好ましい。この場合、注入口に溶液を数滴垂らし、毛細管現象により注液する方法が簡便である。また、必要に応じて減圧もしくは加熱下で注液の操作を行うこともできる。完全に溶液が注入された後、注入口に残った溶液を除去し、注入口を封止する。この封止方法にも特に制限はないが、必要であればガラス板やプラスチック基板を封止剤で貼り付けて封止することもできる。また、この方法以外にも、液晶パネルの液晶滴下注入(ODF;One Drop Filling)工程のように、電解液を基板上に滴下して減圧下で貼り合わせて封止することもできる。また、ポリマーなどを用いたゲル状電解質や全固体型の電解質の場合、多孔質電極5上で電解質組成物と可塑剤とを含むポリマー溶液をキャスト法により揮発除去させる。可塑剤を完全に除去した後、上記方法と同様に封止を行う。この封止は真空シーラーなどを用いて、不活性ガス雰囲気下、もしくは減圧中で行うことが好ましい。封止を行った後、電解質を多孔質電極5へ十分に含漬させるため、必要に応じて加熱、加圧の操作を行うことも可能である。
【0053】
[色素増感光電変換素子の製造方法]
次に、この色素増感光電変換素子の製造方法について説明する。
まず、透明基板1の一主面にスパッタリング法などにより透明導電層2を形成する。
次に、Ag粒子と低融点ガラスフリットとを含む導電性ペーストを透明導電層2上に所定の配線パターン形状で塗布した後、固化させることにより集電配線3を形成する。
次に、集電配線3を覆うように保護層4を形成する。
【0054】
次に、透明導電層2上に多孔質電極5を形成する。この多孔質電極5の形成方法に特に制限はないが、物性、利便性、製造コストなどを考慮した場合、湿式製膜法を用いるのが好ましい。湿式製膜法では、半導体微粒子の粉末あるいはゾルを水などの溶媒に均一に分散させたペースト状の分散液を調製し、この分散液を透明基板1の透明導電層2上に塗布または印刷する方法が好ましい。分散液の塗布方法または印刷方法に特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。具体的には、塗布方法としては、例えば、ディップ法、スプレー法、ワイヤーバー法、スピンコート法、ローラーコート法、ブレードコート法、グラビアコート法などを用いることができる。また、印刷方法としては、凸版印刷法、オフセット印刷法、グラビア印刷法、凹版印刷法、ゴム版印刷法、スクリーン印刷法などを用いることができる。なお、集電配線3や保護層4の形成と、多孔質電極5の形成との順番は、プロセス条件(温度、化学処理のpHなど)や各材料の耐熱性・耐薬品性によっては、上記と異なる順番としても差し支えない。
【0055】
多孔質電極5は、半導体微粒子を透明導電層2上に塗布または印刷した後に、半導体微粒子同士を電気的に接続し、多孔質電極5の機械的強度を向上させ、透明導電層2との密着性を向上させるために、焼成することが好ましい。焼成温度の範囲に特に制限はないが、温度を上げ過ぎると、透明導電層2の電気抵抗が高くなり、さらには透明導電層2が溶融することもあるため、通常は400〜700℃が好ましく、400〜650℃がより好ましい。また、焼成時間にも特に制限はないが、通常は10分〜10時間程度である。この焼成時には集電配線3も加熱されるが、この集電配線3はAg粒子と低融点ガラスフリットとを含む導電性ペーストにより形成されたものであるため、この低融点ガラスフリットが流動し、その結果、Ag粒子の流動が抑えられる。
【0056】
焼成後、半導体微粒子の表面積を増加させたり、半導体微粒子間のネッキングを高めたりする目的で、例えば、四塩化チタン水溶液や直径10nm以下の酸化チタン超微粒子ゾルによるディップ処理を行ってもよい。透明導電層2を支持する透明基板1としてプラスチック基板を用いる場合には、結着剤を含むペースト状分散液を用いて透明導電層2上に多孔質電極5を製膜し、加熱プレスによって透明導電層2に圧着することも可能である。
【0057】
次に、多孔質電極5が形成された透明基板1を、光増感色素を所定の溶媒に溶解した光増感色素溶液中に浸漬することにより、多孔質電極5に光増感色素を吸着させる。
一方、基板6上にスパッタリング法などにより導電層7を形成した後、この導電層7上にスパッタリング法などにより対極8を形成する。
【0058】
次に、多孔質電極5が形成された透明基板1と対極8とを多孔質電極5と対極8とが所定の間隔、例えば1〜100μm、好ましくは1〜50μmの間隔をおいて互いに対向するように配置する。そして、透明基板1および対極8の外周部に封止材9を形成して電解質層が封入される空間を作り、この空間に例えば透明基板1に予め形成された注液口(図示せず)から電解質層10を注入する。その後、この注液口を塞ぐ。
以上により、目的とする色素増感光電変換素子が製造される。
【0059】
[色素増感光電変換素子の動作]
次に、この色素増感光電変換素子の動作について説明する。
この色素増感光電変換素子は、光が入射すると、対極8を正極、透明導電層2を負極とする電池として動作する。その原理は次の通りである。なお、ここでは、透明導電層2の材料としてFTOを用い、多孔質電極5の材料としてTiO2 を用い、レドックス対としてI- /I3 - の酸化還元種を用いることを想定している。ただし、これに限定されるものではない。
【0060】
透明基板1および透明導電層2を透過し、多孔質電極5に入射した光子を多孔質電極5に吸着した光増感色素が吸収すると、この光増感色素中の電子が基底状態(HOMO)から励起状態(LUMO)へ励起される。こうして励起された電子は、光増感色素と多孔質電極5との間の電気的結合を介して、多孔質電極5を構成するTiO2 の伝導帯に引き出され、多孔質電極5を通って透明導電層2に到達する。
【0061】
一方、電子を失った光増感色素は、電解質層10中の還元剤、例えばI- から下記の反応によって電子を受け取り、電解質層10中に酸化剤、例えばI3 - (I2 とI- との結合体)を生成する。
2I- → I2 + 2e-
I2 + I- → I3 -
こうして生成された酸化剤は拡散によって対極8に到達し、上記の反応の逆反応によって対極8から電子を受け取り、もとの還元剤に還元される。
I3 - → I2 + I-
I2 + 2e- → 2I-
【0062】
透明導電層2から外部回路へ送り出された電子は、外部回路で電気的仕事をした後、対極8に戻る。このようにして、光増感色素にも電解質層10にも何の変化も残さず、光エネルギーが電気エネルギーに変換される。
【0063】
〈実施例〉
色素増感光電変換素子を以下のようにして製造した。
透明導電層2が形成された透明基板1として、ガラス基板上にFTO層が形成されたものを用いる。
【0064】
このFTO層上に、Ag粒子と低融点ガラスフリットとを含む導電性ペーストをバス電極から複数のストライプ電極が分岐した所定の形状に塗布した後、固化させてAg粒子からなる集電配線3を形成した。
次に、スパッタリング法により全面にTiO2 膜を形成した後、このTiO2 膜をエッチングによりパターニングして保護層4を形成する。
【0065】
多孔質電極5を形成する際の原料であるTiO2 のペースト状分散液は、「色素増感太陽電池の最新技術」(荒川裕則監修、2001年、(株)シーエムシー)を参考にして作製した。すなわち、まず、室温で撹拌しながらチタンイソプロポキシド125mlを0.1Mの硝酸水溶液750mlに徐々に滴下した。滴下後、80℃の恒温槽に移し、8時間撹拌を続けたところ、白濁した半透明のゾル溶液が得られた。このゾル溶液を室温になるまで放冷し、ガラスフィルタでろ過した後、溶媒を加えて溶液の体積を700mlにした。得られたゾル溶液をオートクレーブへ移し、220℃で12時間水熱反応を行わせた後、1時間超音波処理して分散化処理を行った。次に、この溶液をエバポレータを用いて40℃で濃縮し、TiO2 の含有量が20wt%になるように調製した。この濃縮ゾル溶液に、TiO2 の質量の20%分のポリエチレングリコール(分子量50万)と、TiO2 の質量の30%分の粒子直径200nmのアナターゼ型TiO2 とを添加し、撹拌脱泡機で均一に混合し、粘性を増加させたTi O2 のペースト状分散液を得た。
【0066】
上記のTiO2 のペースト状分散液を、FTO層の上にブレードコーティング法によって塗布し、大きさ5mm×5mm、厚さ200μmの微粒子層を形成した。その後、510℃に30分間保持して、TiO2 微粒子をFTO層上に焼結した。焼結されたTiO2 膜へ0.1Mの塩化チタン(IV)TiCl4 水溶液を滴下し、室温下で15時間保持した後、洗浄し、再び500℃で30分間焼成を行った。この後、紫外光照射装置を用いてTiO2 焼結体に紫外光を30分間照射し、このTiO2 焼結体に含まれる有機物などの不純物をTiO2 の光触媒作用によって酸化分解して除去し、TiO2 焼結体の活性を高める処理を行い、多孔質電極5を得た。
【0067】
導電層7が形成された基板6として、ガラス基板上にFTO層が形成されたものを用いる。導電層7上にスパッタリング法により白金からなる対極8を形成した。
【0068】
光増感色素として、十分に精製したZ907 23.8mgを、アセトニトリルとtert−ブタノールとを1:1の体積比で混合した混合溶媒50mlに溶解させ、光増感色素溶液を調製した。
【0069】
次に、上記のようにして調製された光増感色素溶液に多孔質電極5を室温下で24時間浸漬し、TiO2 微粒子表面に光増感色素を保持させた。次に、4−tert−ブチルピリジンのアセトニトリル溶液およびアセトニトリルを順に用いて多孔質電極5を洗浄した後、暗所で溶媒を蒸発させ、乾燥させた。
【0070】
メトキシアセトニトリル3gにヨウ化ナトリウム(NaI)0.045g、1−プロピル−2.3−ジメチルイミダゾリウムヨーダイド1.11g、ヨウ素(I2 )0.11g、4−tert−ブチルピリジン0.081gを溶解させ、電解液を調製した。
【0071】
次に、透明基板1と基板6とを互いに対向させた状態でこれらの透明基板1および基板6の周囲を囲むように封止材9を形成して行う。
この後、予め透明基板1に設けた注液用の穴から電解液を注液し、電解質層10を形成する。
以上により、目的とする色素増感光電変換素子が製造される。
【0072】
〈導電性ペーストの評価〉
集電配線3の形成に用いる導電性ペーストに含まれる低融点ガラスフリットの種類を変えて基礎的評価実験を行った。低融点ガラスフリットとしては、軟化点が380℃以上400℃以下の、酸化ビスマス、酸化ホウ素、酸化亜鉛および酸化アルミニウムを含むガラスフリット(ガラスフリットA)、軟化点が440℃以上460℃以下の、酸化ビスマス、酸化亜鉛および酸化ホウ素を含むガラスフリット(ガラスフリットB)、軟化点が450℃以上470℃以下の、酸化ビスマス、酸化ホウ素、酸化亜鉛、酸化銅および酸化シリコンを含むガラスフリット(ガラスフリットC)、軟化点が460℃以上480℃以下の、酸化ビスマス、酸化亜鉛、酸化ホウ素および酸化シリコンを含むガラスフリット(ガラスフリットD)の4種類を用いた。Ag粒子とこの低融点ガラスフリットとを含む導電性ペーストを、ガラス基板上に形成されたFTO層上にストライプ状に塗布し、固化させた後、TiO2 微粒子からなる多孔質電極5を形成し、510℃で焼成を行った。低融点ガラスフリットとして、それぞれガラスフリットA、B、CおよびDを用いた試料1〜4の光学顕微鏡写真を図4A〜Dに示す。図4Aに示すように、試料1では、Ag粒子からなる集電配線の両側にガラスフリットが40〜50μmの幅にわたって流出し、集電配線の両側に片側約250μm、Agが広がり、析出Ag粒子は小さく、集電配線の高さは最初24μmであったものが21.5μmに減少した。試料2では、Ag粒子からなる集電配線の両側にガラスフリットが30〜40μmの幅にわたって流出し、集電配線の両側に片側約300μm、Agが広がり、析出Ag粒子は中程度の大きさであり、集電配線の高さは最初20μmであったものが17μmに減少した。試料3では、Ag粒子からなる集電配線の両側にガラスフリットが10μm前後の幅にわたって流出し、集電配線の両側に片側約500μm、Agが広がり、析出Ag粒子は大きく、集電配線の高さは最初25μmであったものが23.5μmに減少した。試料4では、Ag粒子からなる集電配線の両側にガラスフリットが20μm前後の幅にわたって流出し、集電配線の両側に片側約350μm、Agが広がり、析出Ag粒子は大きく、集電配線の高さは最初23.5μmであったものが21.5μmに減少した。これらの結果より、低融点ガラスフリットの軟化点が高くなるほど、ガラスフリットの流動は減少し、Agの広がりは増加し、析出Ag粒子は大きくなる傾向があることがわかる。試料1〜4のいずれも、集電配線の流動は十分に抑えられている。
【0073】
以上のように、この第1の実施の形態によれば、集電配線3をAg粒子と低融点ガラスフリットとを含む導電性ペーストにより形成しているため、多孔質電極5の焼成時にはこの低融点ガラスフリットが流動する結果、Ag粒子の流動を抑ることができる。このため、集電配線3の流動を抑えることができ、Agの接触による多孔質電極5の劣化を防止することができるとともに、色素増感光電変換素子の長期信頼性の向上を図ることができる。
【0074】
〈2.第2の実施の形態〉
[色素増感光電変換素子]
第2の実施の形態による色素増感光電変換素子においては、図5に示すように、透明基板1上にFTOからなる透明導電層2が形成されている場合に、Ag粒子と低融点ガラスフリットとを含む導電性ペーストにより形成する集電配線3を、導電性の密着層13を介して透明導電層2上に形成する。すなわち、FTOからなる透明導電層2上に密着層13を形成し、その上に集電配線3を形成する。この密着層13は、例えば、Ag、Au、Pt、Ti、Cr、AlおよびCuからなる群より選ばれた少なくとも一種の金属により形成する。
【0075】
この色素増感光電変換素子の上記以外の構成は第1の実施の形態による色素増感光電変換素子と同様である。
【0076】
[色素増感光電変換素子の製造方法]
この色素増感光電変換素子の製造方法は、集電配線3を密着層13を介して透明導電層2上に形成することを除いて、第1の実施の形態による色素増感光電変換素子の製造方法と同様である。
【0077】
この第2の実施の形態によれば、次のような利点を得ることができる。すなわち、FTOからなる透明導電層2上に、Ag粒子と低融点ガラスフリットとを含む導電性ペーストを用いて集電配線3を形成する場合、この集電配線3を密着層13を介して形成すると、この集電配線3を透明導電層2上に直接形成する場合に比べて、接触抵抗の低減を図ることができる。これは、導電性ペースト中のAg粒子のFTOからなる透明導電層2に対する密着性に比べて、Ag粒子の密着層13に対する密着性が良好であるためである。このように、集電配線3の透明導電層2に対する接触抵抗の低減を図ることができることにより、優れた集電能を得ることができ、ひいては色素増感光電変換素子の光電変換効率の向上を図ることができる。
【0078】
〈3.第3の実施の形態〉
[色素増感光電変換素子]
第3の実施の形態による色素増感光電変換素子においては、集電配線3のパターン形状の最適化について説明する。
【0079】
この色素増感光電変換素子においては、集電配線3は、図2AまたはBに示すように、比較的太いパターンからなるバス電極3aとこのバス電極3aから分岐した比較的細いパターンからなるフィンガー電極3bとからなる。バス電極3aは多孔質電極5上にあってもよいし、多孔質電極5以外の部分にあってもよい。
【0080】
フィンガー電極3bは色素増感光電変換素子の光入射面側に形成されるため、フィンガー電極3bの面積を大きくすると、実効的な受光面積が減少し、色素増感光電変換素子の発電量が減少する。逆に、フィンガー電極3bを細くし、面積を小さくしていくと、フィンガー電極3bの集電抵抗が増大し、抵抗損失が増加してしまう。
【0081】
また、フィンガー電極3bはその末端から多孔質電極5で発電した電流を根元まで集電するため、末端から根元に向けてフィンガー電極3bの単位長さ当たりに流れ込む電流は増加していく。多孔質電極5の面で一様に電流が発生する(i0 A/m2 )と仮定すると、フィンガー電極3bの単位長さ当たりに流れ込む電流I0 (A/m)は、多孔質電極5の幅(フィンガー電極3bの間隔)をd0 (m)とすると、
【数4】
である。そのため、図6AおよびBに示すように、フィンガー電極3bの末端からyの部位を流れる電流I(y)は、
【数5】
となり、yに比例して増加する。
【0082】
このとき、同部位でのフィンガー電極3b上での損失密度q(y)(W/m2 )は、フィンガー電極3bの構成材料の体積抵抗をρ0 (Ωm)、フィンガー電極3bの高さをh0 (m)、フィンガー電極3bの太さをt(m)とすると、
【数6】
となり、yの2乗に比例して増加する(図6C参照。)。
【0083】
フィンガー電極3bの高さh0 は必ずしも一定でなくてもよいが、導電性ペーストのスクリーン印刷、ディスペンシングなどのプロセス上の理由から一定である方が作製が容易であり、品質管理上も容易となることから望ましい。
【0084】
ここで、フィンガー電極3bを末端からバス電極3aとの合流部に向けて徐々に太くし、太さの変化を以下の式のようにすれば、多孔質電極5の有効面積とフィンガー電極3bの面積とのバランスを最適化することができ、結果として色素増感光電変換素子の出力を最大にすることができる。
【0085】
定格発電時の環境において、
(1)フィンガー電極3b上の単位面積当たりの発熱量が、多孔質電極5の単位面積当たりの発電量とほぼ等しくなる。
(2)具体的には、フィンガー電極3bの太さt(m)が以下の式を満たすようにする。
【数7】
ただし、d0 :発電電極幅(フィンガー電極3bの間隔)(m)
i0 :定格発電電流密度(A/m2 )
y: フィンガー電極3bの末端からの距離(m)
ρ0 :フィンガー電極3bの材質の体積抵抗率(Ωm)
h0 :フィンガー電極3bの厚さ(m)
W0 :発電出力密度(W/m2 )
(3)フィンガー電極3bの太さは(4)式で表される太さの−70%〜+100%の範囲内に入る。
【0086】
(4)式は以下のようにして導出することができる。多孔質電極5上の発電出力密度をW0 (W/m2 )、フィンガー電極3b上、末端から距離yの位置の単位面積当たりの発熱量(損失)をq(y)(W/m2 )((3)式)とする。フィンガー電極3b上、yの位置の幅をΔtだけ増加させた場合、多孔質電極5上の発電出力減少は以下のように表される。
【数8】
【0087】
また、フィンガー電極3b上、yの位置での損失の減少は以下のように表される。
【数9】
【0088】
ここで、(5)式の分母を払い、Δtの2次の項を無視すると、以下のようになる。
【数10】
【0089】
多孔質電極5上での発電出力減少と、フィンガー電極3b上での損失減少とのバランスを取り、最大出力を得るためにΔQ+ΔWを最大化する。
【数11】
【数12】
【0090】
(8)式の右辺=0とおき、tについて解くと、(4)式が導出される。
すなわち、フィンガー電極3bの末端からの距離yによってフィンガー電極3bの太さtを(4)式のように変化させることにより、ΔQ+ΔWを最大化することができる。(4)式に従って太さtが変化する理想的なフィンガー電極3bの形状を図7に示す。
【0091】
ただし、スクリーン印刷、ディスペンシングなどのプロセス上の理由から、フィンガー電極3bの末端の幅を0に近づけられない場合もある。そこで、プロセスから決まるフィンガー電極3bの最小幅をtmin とすると、この場合には図8に示すような形状とすることが望ましい。
【0092】
フィンガー電極3bの材質は電気伝導性の高い材料が望ましく、Ag、Pt、Ru、Au、Cu、Ni、Mo、Tiなどの金属材料が好ましい。また、色素増感光電変換素子においては、ヨウ素系の電解液を用いることが多いため、電解液への耐腐食性も高い方が望ましい。
【0093】
配線シミュレーションにより、上記の集電配線3のパターン形状の最適化を行った場合の損失低減を評価した。
【0094】
図9に本最適化の適用前のシミュレーションの結果を示す。図9からわかるように、多孔質電極5の幅が8mmのときのモジュール当たりの損失は6.13mWとなっている。
【0095】
図10に本最適化の適用後のシミュレーションの結果を示す。多孔質電極5の幅が8mmのときのモジュール当たりの損失は5.06mWとなっており、本最適化適用前に比べて約1mW近く減少していることがわかる。図10において丸で囲った部分が図9と変わっており、損失が低減していることがわかる。
【0096】
図11A、BおよびCにそれぞれ開口率、抵抗損失および最終的な色素増感光電変換素子の出力をシミュレーションにより求めた結果を示す。図10A、BおよびCからわかるように、本最適化により開口率が若干減少したものの、抵抗損失の減少の効果が上回り、最終的な色素増感光電変換素子の出力が1.1mW程度改善している。
【0097】
この第3の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様な利点に加えて、次のような利点を得ることができる。すなわち、集電配線3をバス電極3aとフィンガー電極3bとにより形成し、フィンガー電極3bの太さtが(4)式に従って変化するようにしているので、色素増感光電変換素子の出力を最大化することが可能となる。また、フィンガー電極3bの太さtが、フィンガー電極3bの末端ではプロセス上の最低幅から始まり、途中で太さtの増加が(4)式に従うようにすることにより、製造プロセスに適合しつつ、色素増感光電変換素子の出力を最大化することが可能となる。さらに、フィンガー電極3bの材質はAg、Pt、Ru、Au、Cu、Ni、Mo、Tiなどの金属材料であるので、フィンガー電極3bにより効率的に集電を行うことができ、色素増感光電変換素子の出力を最大化することができる。
【0098】
〈4.第4の実施の形態〉
[色素増感光電変換素子]
第4の実施の形態による色素増感光電変換素子においては、第3の実施の形態とは異なる方法による集電配線3のパターン形状の最適化について説明する。
【0099】
この色素増感光電変換素子においては、集電配線3は、図3Bに示すように、太いパターンからなるバス電極3aとこのバス電極3aから分岐した細いパターンからなるストライプ電極3dとからなる。
【0100】
ストライプ電極3dのピッチ(線周期)は、以下の条件を満たすように選ばれる。
【数13】
ただし、t: ストライプ電極3dの太さ(m)
W0 :定格発電出力密度(W/m2 )
R0 :ストライプ電極3dの線抵抗(Ω/m)
i0 :定格発電電流密度(A/m2 )
I: ストライプ電極3dの集電距離(m)
【0101】
あるいは、ストライプ電極3dのピッチが、プロセス上の都合、外観、製造誤差などの理由から上記式から算出されるピッチの−70%〜+250%の範囲内に入るように選ばれる。これは、色素増感光電変換素子の出力が最適点から−30%ダウンするまでの範囲に該当する。
【0102】
上記式は以下のようにして導出することができる。まず、ストライプ電極3d上の単位面積当たりの抵抗損失を計算する。多孔質電極5の面で一様に電流が発生する(i0 (A/m2 ))と仮定すると、ストライプ電極3dの単位長さ当たりに流れ込む電流I0 (A/m)は、ストライプ電極3dの太さをt(m)、ピッチをd0 、ストライプ電極3dの線抵抗をR(Ω/m)とすると、
【数14】
である(図12参照。)。ストライプ電極3dの末端から距離yの地点の単位面積当たりの抵抗損失q(y)(W/m2 )は
【数15】
となる。t一定としてこの式を積分すると、単位面積当たりの抵抗損失q(y)(W/m2 )は以下のようになる。
【数16】
ここで、ρ0 は金属の体積抵抗率(Ωm)であり、Rと以下の関係がある。
【数17】
【0103】
次に、これをストライプ電極3dの長さ方向に積分すると、以下のようになり、ストライプ電極3dの単位幅当たりの抵抗損失Q(W/m)を算出することができる。
【数18】
【0104】
これにストライプ電極3dの太さt0 を掛けると、ストライプ電極3d1本当たりの抵抗損失を次のように計算することができる。
【数19】
【0105】
次に、W(発電電力)−Q(集電損失)のストライプ電極3dの太さtに対する最大値を探すために、tの微小変化に対するW(発電電力)、Q(集電損失)の差分を計算する。tが増えると開口率が低下するためWは減少し、集電配線の抵抗が減少するためにQも減少する。
【数20】
【0106】
上記式から、微分(ΔW+ΔQ)/Δt=0となる点(極大点)を求める。
【数21】
【数22】
【数23】
この式をd0 について解くことにより、
【数24】
が得られる。すなわち、上記d0 が出力極大値を与えるストライプ電極3dのピッチとなる。
【0107】
集電配線3の材質は電気電導性の高い材料が望ましく、Ag、Pt、Ru、Au、Cu、Ni、Mo、Tiなどの金属材料が好ましい。また、色素増感光電変換素子においては、ヨウ素系の電解液を用いることが多いため、電解液への耐腐食性が高い方が望ましい。
【0108】
図13に示すように、透明基板1の互いに対向する二辺に沿ってそれぞれバス電極3aが設けられ、これらのバス電極3aにおいて集電する構造の場合には集電距離lは片側のみで集電する場合の半分の距離となる。
【0109】
実際の計算例について説明する。ただし、ここでは、集電配線3の材料として、銀合金(導電率:3.33×107 S/m)、モリブデン(導電率:6.25×106 S/m)またはルテニウム(導電率:7.14×106 S/m)を用いた場合のストライプ電極3dの最適ピッチを計算する。ストライプ電極3dの高さは1μm、幅は50μmとし、集電長さ(モジュール長)は0.3mとする。定格面積電流密度は10A/m2 、定格発電出力密度は5W/m2 である。計算結果を表1に示す。表1より、導電率の高い銀合金では電極ピッチが376μm、すなわち高い開口率が最適であるのに対し、導電率の低いMo、Ruでは最適電極ピッチが狭くなり、開口率も低くなっている。
【0110】
【表1】
【0111】
上記計算条件のもと、集電配線3の材料として銀合金を用いた場合について、ストライプ電極3dのピッチを可変とした色素増感光電変換素子モジュールの出力の計算結果を図14に示す。図14に示すように、表1に示す計算結果である開口率86.7%の点で発電出力は最大となっている。また、最大出力点の70%の出力が出る範囲は開口率が最適点から−35%〜+10%の範囲である。これはストライプ電極3dのピッチに換算すると−70%〜+230%に相当する。
【0112】
同様に、集電配線3の材料としてRuを用いた場合について、ストライプ電極3dのピッチを可変とした色素増感光電変換素子モジュールの出力の計算結果を図15に示す。表1に示す計算結果である開口率72.2%の点で発電出力は最大となっている。また、最大出力点の70%の出力が出る範囲は開口率が最適点から−42%〜+20%の範囲である。これはストライプ電極3dのピッチに換算すると−50%〜+100%に相当する。
【0113】
この第4の実施の形態によれば、第3の実施の形態と同様な利点を得ることができる。特に、ストライプ電極3dのピッチが、計算により求められるピッチの−70%〜+250%の範囲内とすることにより、色素増感光電変換素子の出力に関して最適点の70%以上の出力を得ることができる。
【0114】
〈5.第5の実施の形態〉
[色素増感光電変換素子]
第5の実施の形態による色素増感光電変換素子においては、第3および第4の実施の形態とは異なる方法による集電配線3のパターン形状の最適化について説明する。
【0115】
この色素増感光電変換素子においては、集電配線3は、図3Aに示すように、太いパターンからなるバス電極3aとこのバス電極3aと電気的に接続されたグリッド電極3cとからなる。
【0116】
グリッド電極3cでは、第4の実施の形態におけるストライプ電極3dについての計算結果と開口率を合わせることが望ましい。すなわち、グリッド電極3cを構成するストライプ電極の線抵抗、太さ、定格発電出力密度および定格発電電流密度から求まる最適な開口率Apが以下のように選択される。ここで、開口率とは、多孔質電極5の面積のうちのグリッド電極3cにより被覆されていない部分の面積を多孔質電極5の面積全体で割った値である。
【数25】
【0117】
グリッド電極3cの開口率は、プロセスの都合、外観、製造誤差などの理由から、上記式から算出される開口率の−40%〜+20%の範囲内に入るようにしてもよい。これは色素増感光電変換素子の出力が最適点からおよそ−30%ダウンまでの範囲に該当する。
【0118】
また、図16に示すように、透明基板1の互いに直交する2辺に沿って設けられたバス電極3cにより集電する構造の場合には集電距離lは、1辺のみに設けられたバス電極3cにより集電する場合の半分の距離となる。
【0119】
この第5の実施の形態によれば、第3の実施の形態と同様な利点を得ることができる。特に、メッシュ電極3cを用いた場合の開口率を、計算により求められる開口率の−40%〜+20%の範囲内とすることにより、色素増感光電変換素子の出力に関して最適点の70%以上の出力を得ることができる。
【0120】
〈6.第6の実施の形態〉
[色素増感光電変換素子]
第6の実施の形態による色素増感光電変換素子においては、多孔質電極5が金属/金属酸化物微粒子により構成され、典型的には、これらの金属/金属酸化物微粒子が焼結されたものからなる。この金属/金属酸化物微粒子の構造の詳細を図17に示す。図17に示すように、金属/金属酸化物微粒子14は、金属からなる球状のコア14aとこのコア14aの周りを取り囲む金属酸化物からなるシェル14bとからなるコア/シェル構造を有する。この金属/金属酸化物微粒子14は金属酸化物からなるシェル14bの表面に一種または複数種の光増感色素が結合(あるいは吸着)する。
【0121】
金属/金属酸化物微粒子14のシェル14bを構成する金属酸化物は、例えば、酸化チタン(TiO2 )、酸化スズ(SnO2 )、酸化ニオブ(Nb2 O5 )、酸化亜鉛(ZnO)などが用いられる。これらの金属酸化物の中でも、TiO2 、取り分けアナターゼ型のTiO2 を用いることが好ましい。ただし、金属酸化物の種類はこれらに限定されるものではなく、必要に応じて、二種類以上の金属酸化物を混合または複合化して用いることができる。また、金属/金属酸化物微粒子14の形態は粒状、チューブ状、棒状などのいずれであってもよい。
【0122】
上記の金属/金属酸化物微粒子14の粒径に特に制限はないが、一般的には一次粒子の平均粒径で1〜500nmであり、取り分け1〜200nmが好ましく、特に好ましくは5〜100nmである。また、金属/金属酸化物微粒子14のコア14aの粒径は一般的には1〜200nmである。
その他のことは第1の実施の形態と同様である。
【0123】
[色素増感光電変換素子の製造方法]
次に、この色素増感光電変換素子の製造方法について説明する。
まず、透明基板1の一主面にスパッタリング法などにより透明導電層2を形成し、その上に集電配線3を形成する。
次に、透明導電層2上に金属/金属酸化物微粒子14からなる多孔質電極5を形成する。
【0124】
多孔質電極5は、金属/金属酸化物微粒子14を透明導電層2上に塗布または印刷した後に、金属/金属酸化物微粒子14同士を電気的に接続し、多孔質電極5の機械的強度を向上させ、透明導電層2との密着性を向上させるために、焼成することが好ましい。
この後、第1の実施の形態と同様に工程を進め、目的とする色素増感光電変換素子を製造する。
【0125】
多孔質電極5を構成する金属/金属酸化物微粒子14は従来公知の方法により製造することができる(例えば、Jpn.J.Appl.Phys.Vol.46,No.4B,2007,pp.2567-2570参照)。一例として、コア14aがAu、シェル14bがTiO2 からなる金属/金属酸化物微粒子14の製造方法の概要を説明すると次の通りである。すなわち、まず、5×10-4M HAuCl4 500mLの加熱した溶液に脱水クエン酸3ナトリウムを混合・攪拌する。次に、メルカプトウンデカン酸をアンモニア水溶液に2.5重量%添加・攪拌した後、Auナノ粒子分散溶液に添加し、2時間保温する。次に、1M HClを添加して溶液のpHを3にする。次に、チタンイソプロポキシドおよびトリエタノールアミンを窒素雰囲気下でAuコロイド溶液に添加する。こうして、コア14aがAu、シェル14bがTiO2 からなる金属/金属酸化物微粒子14が製造される。
【0126】
[色素増感光電変換素子の動作]
次に、この色素増感光電変換素子の動作について説明する。
この色素増感光電変換素子は、光が入射すると、対極8を正極、透明導電層2を負極とする電池として動作する。その原理は次の通りである。なお、ここでは、透明導電層2の材料としてFTOを用い、多孔質電極5を構成する金属/金属酸化物微粒子14のコア14aの材料としてAu、シェル14bの材料としてTiO2 を用い、レドックス対としてI- /I3 - の酸化還元種を用いることを想定している。ただし、これに限定されるものではない。
【0127】
透明基板1および透明導電層2を透過し、多孔質電極5に入射した光子を多孔質電極5に結合した光増感色素が吸収すると、この光増感色素中の電子が基底状態(HOMO)から励起状態(LUMO)へ励起される。こうして励起された電子は、光増感色素と多孔質電極5との間の電気的結合を介して、多孔質電極5を構成する金属/金属酸化物微粒子14のシェル14bを構成するTiO2 の伝導帯に引き出され、多孔質電極5を通って透明導電層2に到達する。加えて、金属/金属酸化物微粒子14のAuからなるコア14aの表面に光が入射することにより局在表面プラズモンが励起され、電場増強効果が得られる。そして、この増強電場によりシェル14bを構成するTiO2 の伝導帯に電子が大量に励起され、多孔質電極5を通って透明導電層2に到達する。このように、多孔質電極5に光が入射したとき、透明導電層2には、光増感色素の励起により発生した電子が到達することに加えて、金属/金属酸化物微粒子14のコア14aの表面における局在表面プラズモンの励起によりシェル14bを構成するTiO2 の伝導帯に励起される電子も到達する。このため、高い光電変換効率を得ることができる。
【0128】
一方、電子を失った光増感色素は、多孔質電極5などに含浸された電解液中の中の還元剤、例えばI- から下記の反応によって電子を受け取り、電解液中に酸化剤、例えばI3 - (I2 とI- との結合体)を生成する。
2I- → I2 + 2e-
I2 + I- → I3 -
【0129】
こうして生成された酸化剤は拡散によって対極8に到達し、上記の反応の逆反応によって対極8から電子を受け取り、もとの還元剤に還元される。
I3 - → I2 + I-
I2 + 2e- → 2I-
【0130】
透明導電層2から外部回路へ送り出された電子は、外部回路で電気的仕事をした後、対極8に戻る。このようにして、光増感色素にも電解液にも何の変化も残さず、光エネルギーが電気エネルギーに変換される。
【0131】
この第6の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様な利点に加えて、次のような利点を得ることができる。すなわち、多孔質電極5は、金属からなる球状のコア14aとこのコア14aの周りを取り囲む金属酸化物からなるシェル14bとからなるコア/シェル構造を有する金属/金属酸化物微粒子14により構成されている。このため、多孔質電極5などに電解液を含浸させた場合、電解液の電解質が金属/金属酸化物微粒子14の金属からなるコア14aと接触することがなく、電解質による多孔質電極5の溶解を防止することができる。従って、金属/金属酸化物微粒子14のコア14aを構成する金属として表面プラズモン共鳴の効果が大きい金、銀、銅などを用いることができ、表面プラズモン共鳴の効果を十分に得ることができる。また、電解液の電解質としてヨウ素系の電解質を用いることができる。以上により、光電変換効率が高い色素増感光電変換素子を得ることができる。そして、この優れた色素増感光電変換素子を用いることにより、高性能の電子機器を実現することができる。
【0132】
〈7.第7の実施の形態〉
[光電変換素子]
第7の実施の形態による光電変換素子は、多孔質電極5を構成する金属/金属酸化物微粒子14に光増感色素が結合していないことを除いて、第6の実施の形態による色素増感光電変換素子と同様な構成を有する。
【0133】
[光電変換素子の製造方法]
この色素増感光電変換素子の製造方法は、多孔質電極5に光増感色素を吸着させないことを除いて、第6の実施の形態による色素増感光電変換素子と同様である。
【0134】
[光電変換素子の動作]
次に、この光電変換素子の動作について説明する。
この光電変換素子は、光が入射すると、対極8を正極、透明導電層2を負極とする電池として動作する。その原理は次の通りである。なお、ここでは、透明導電層2の材料としてFTOを用い、多孔質電極5を構成する金属/金属酸化物微粒子14のコア14aの材料としてAu、シェル14bの材料としてTiO2 を用い、レドックス対としてI- /I3 - の酸化還元種を用いることを想定している。ただし、これに限定されるものではない。
【0135】
透明基板1および透明導電層2を透過し、多孔質電極3を構成する金属/金属酸化物微粒子14のAuからなるコア14aの表面に光が入射することにより局在表面プラズモンが励起され、電場増強効果が得られる。そして、この増強電場によりシェル14bを構成するTiO2 の伝導帯に電子が大量に励起され、多孔質光電極5を通って透明導電層2に到達する。
【0136】
一方、電子を失った多孔質電極5は、多孔質電極5などに含浸された電解液中の還元剤、例えばI- から下記の反応によって電子を受け取り、電解液中に酸化剤、例えばI3 - (I2 とI- との結合体)を生成する。
2I- → I2 + 2e-
I2 + I- → I3 -
【0137】
こうして生成された酸化剤は拡散によって対極8に到達し、上記の反応の逆反応によって対極8から電子を受け取り、もとの還元剤に還元される。
I3 - → I2 + I-
I2 + 2e- → 2I-
【0138】
透明導電層2から外部回路へ送り出された電子は、外部回路で電気的仕事をした後、対極8に戻る。このようにして、電解液に何の変化も残さず、光エネルギーが電気エネルギーに変換される。
第7の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様な利点を得ることができる。
【0139】
以上、実施の形態および実施例について具体的に説明したが、上述の実施の形態および実施例に限定されるものではなく、各種の変形が可能である。
【0140】
例えば、上述の実施の形態および実施例において挙げた数値、構造、構成、形状、材料などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれらと異なる数値、構造、構成、形状、材料などを用いてもよい。
【0141】
また、必要に応じて、第1〜第7の実施の形態のうちのいずれか二以上を組み合わせてもよい。
【0142】
なお、第3〜第5の実施の形態による色素増感光電変換素子における集電配線3のパターン形状は、多孔質電極を用いる色素増感光電変換素子あるいは光電変換素子だけでなく、アモルファスシリコン太陽電池、多結晶シリコン太陽電池、単結晶シリコン太陽電池、化合物半導体太陽電池などに適用しても有効である。また、第3〜第5の実施の形態による色素増感光電変換素子における集電配線3は、Ag粒子と低融点ガラスフリットとを含む導電性ペーストを用いて形成するだけでなく、真空蒸着法やスパッタリング法などにより形成した膜をエッチングなどによりパターニングすることにより形成してもよい。
【符号の説明】
【0143】
1…透明基板、2…透明導電層、3…集電配線、3a…バス電極、3b…フィンガー電極、3c…グリッド電極、3d…ストライプ電極、4…保護層、5…多孔質電極、6…基板、7…導電層、8…対極、9…封止材、10…電解質層、11…電極、12…外部配線、13…密着層、14…金属/金属酸化物微粒子、14a…コア、14b…シェル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明導電性基板上の多孔質電極と対極との間に電解質層が設けられた構造を有する光電変換素子を製造する場合に、上記透明導電性基板上に、銀粒子と低融点ガラスフリットとを含む導電性ペーストにより集電配線を形成する工程を有する光電変換素子の製造方法。
【請求項2】
上記低融点ガラスフリットは軟化点が360℃以上500℃以下である請求項1記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項3】
上記低融点ガラスフリットは軟化点が380℃以上480℃以下である請求項2記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項4】
上記低融点ガラスフリットは、軟化点が380℃以上400℃以下の、酸化ビスマス、酸化ホウ素、酸化亜鉛および酸化アルミニウムを含むガラスフリット、軟化点が440℃以上460℃以下の、酸化ビスマス、酸化亜鉛および酸化ホウ素を含むガラスフリット、軟化点が450℃以上470℃以下の、酸化ビスマス、酸化ホウ素、酸化亜鉛、酸化銅および酸化シリコンを含むガラスフリットまたは軟化点が460℃以上480℃以下の、酸化ビスマス、酸化亜鉛、酸化ホウ素および酸化シリコンを含むガラスフリットである請求項3記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項5】
上記光電変換素子は上記多孔質電極に光増感色素が結合した色素増感光電変換素子である請求項1記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項6】
透明導電性基板上の多孔質電極と対極との間に電解質層が設けられた構造を有し、
上記透明導電性基板上に、金属粒子と低融点ガラスフリットとを含む導電性ペーストにより形成された集電配線が設けられている光電変換素子。
【請求項7】
上記低融点ガラスフリットは軟化点が360℃以上500℃以下である請求項6記載の光電変換素子。
【請求項8】
上記低融点ガラスフリットは軟化点が380℃以上480℃以下である請求項7記載の光電変換素子。
【請求項9】
上記低融点ガラスフリットは、軟化点が380℃以上400℃以下の、酸化ビスマス、酸化ホウ素、酸化亜鉛および酸化アルミニウムを含むガラスフリット、軟化点が440℃以上460℃以下の、酸化ビスマス、酸化亜鉛および酸化ホウ素を含むガラスフリット、軟化点が450℃以上470℃以下の、酸化ビスマス、酸化ホウ素、酸化亜鉛、酸化銅および酸化シリコンを含むガラスフリットまたは軟化点が460℃以上480℃以下の、酸化ビスマス、酸化亜鉛、酸化ホウ素および酸化シリコンを含むガラスフリットである請求項8記載の光電変換素子。
【請求項10】
上記光電変換素子は上記多孔質電極に光増感色素が結合した色素増感光電変換素子である請求項6記載の光電変換素子。
【請求項11】
上記透明導電性基板は透明基板上にフッ素ドープ酸化スズからなる透明導電層が設けられたものからなり、上記透明導電層上に導電性の密着層を介して上記集電配線が設けられている請求項6記載の光電変換素子。
【請求項12】
上記密着層は銀、金、白金、チタン、クロム、アルミニウムおよび銅からなる群より選ばれた少なくとも一種の金属からなる請求項11記載の光電変換素子。
【請求項13】
上記集電配線は、バス電極とこのバス電極から分岐した複数のフィンガー電極とからなり、少なくとも一つの上記フィンガー電極の太さをt(m)としたとき、tが下記の式を満たす請求項6記載の光電変換素子。
【数1】
ただし、d0 :発電電極幅(フィンガー電極間隔)(m)
i0 :定格発電電流密度(A/m2 )
y: フィンガー電極の末端からの距離(m)
ρ0 :フィンガー電極の材質の体積抵抗率(Ωm)
h0 :フィンガー電極の厚さ(m)
W0 :発電出力密度(W/m2 )
【請求項14】
上記集電配線は、バス電極とこのバス電極から分岐した複数のストライプ電極とからなり、このストライプ電極のピッチをd0 (m)としたとき、d0 が下記の式を満たす請求項6記載の光電変換素子。
【数2】
ただし、t :ストライプ電極の太さ(m)
W0 :定格発電出力密度(W/m2 )
R0 :ストライプ電極の線抵抗(Ω/m)
i0 :定格発電電流密度(A/m2 )
l :ストライプ電極の集電距離(m)
【請求項15】
上記集電配線は、バス電極とこのバス電極と電気的に接続されたメッシュ電極またはグリッド電極とからなり、上記メッシュ電極またはグリッド電極の開口率をApとしたとき、Apが下記の式を満たす請求項6記載の光電変換素子。
【数3】
ただし、t :ストライプ電極の太さ(m)
W0 :定格発電出力密度(W/m2 )
R0 :ストライプ電極の線抵抗(Ω/m)
i0 :定格発電電流密度(A/m2 )
l :ストライプ電極の集電距離(m)
【請求項16】
少なくとも一つの光電変換素子を有し、
上記光電変換素子が、
透明導電性基板上の多孔質電極と対極との間に電解質層が設けられた構造を有し、
上記透明導電性基板上に、金属粒子と低融点ガラスフリットとを含む導電性ペーストにより形成された集電配線が設けられている光電変換素子である電子機器。
【請求項1】
透明導電性基板上の多孔質電極と対極との間に電解質層が設けられた構造を有する光電変換素子を製造する場合に、上記透明導電性基板上に、銀粒子と低融点ガラスフリットとを含む導電性ペーストにより集電配線を形成する工程を有する光電変換素子の製造方法。
【請求項2】
上記低融点ガラスフリットは軟化点が360℃以上500℃以下である請求項1記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項3】
上記低融点ガラスフリットは軟化点が380℃以上480℃以下である請求項2記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項4】
上記低融点ガラスフリットは、軟化点が380℃以上400℃以下の、酸化ビスマス、酸化ホウ素、酸化亜鉛および酸化アルミニウムを含むガラスフリット、軟化点が440℃以上460℃以下の、酸化ビスマス、酸化亜鉛および酸化ホウ素を含むガラスフリット、軟化点が450℃以上470℃以下の、酸化ビスマス、酸化ホウ素、酸化亜鉛、酸化銅および酸化シリコンを含むガラスフリットまたは軟化点が460℃以上480℃以下の、酸化ビスマス、酸化亜鉛、酸化ホウ素および酸化シリコンを含むガラスフリットである請求項3記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項5】
上記光電変換素子は上記多孔質電極に光増感色素が結合した色素増感光電変換素子である請求項1記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項6】
透明導電性基板上の多孔質電極と対極との間に電解質層が設けられた構造を有し、
上記透明導電性基板上に、金属粒子と低融点ガラスフリットとを含む導電性ペーストにより形成された集電配線が設けられている光電変換素子。
【請求項7】
上記低融点ガラスフリットは軟化点が360℃以上500℃以下である請求項6記載の光電変換素子。
【請求項8】
上記低融点ガラスフリットは軟化点が380℃以上480℃以下である請求項7記載の光電変換素子。
【請求項9】
上記低融点ガラスフリットは、軟化点が380℃以上400℃以下の、酸化ビスマス、酸化ホウ素、酸化亜鉛および酸化アルミニウムを含むガラスフリット、軟化点が440℃以上460℃以下の、酸化ビスマス、酸化亜鉛および酸化ホウ素を含むガラスフリット、軟化点が450℃以上470℃以下の、酸化ビスマス、酸化ホウ素、酸化亜鉛、酸化銅および酸化シリコンを含むガラスフリットまたは軟化点が460℃以上480℃以下の、酸化ビスマス、酸化亜鉛、酸化ホウ素および酸化シリコンを含むガラスフリットである請求項8記載の光電変換素子。
【請求項10】
上記光電変換素子は上記多孔質電極に光増感色素が結合した色素増感光電変換素子である請求項6記載の光電変換素子。
【請求項11】
上記透明導電性基板は透明基板上にフッ素ドープ酸化スズからなる透明導電層が設けられたものからなり、上記透明導電層上に導電性の密着層を介して上記集電配線が設けられている請求項6記載の光電変換素子。
【請求項12】
上記密着層は銀、金、白金、チタン、クロム、アルミニウムおよび銅からなる群より選ばれた少なくとも一種の金属からなる請求項11記載の光電変換素子。
【請求項13】
上記集電配線は、バス電極とこのバス電極から分岐した複数のフィンガー電極とからなり、少なくとも一つの上記フィンガー電極の太さをt(m)としたとき、tが下記の式を満たす請求項6記載の光電変換素子。
【数1】
ただし、d0 :発電電極幅(フィンガー電極間隔)(m)
i0 :定格発電電流密度(A/m2 )
y: フィンガー電極の末端からの距離(m)
ρ0 :フィンガー電極の材質の体積抵抗率(Ωm)
h0 :フィンガー電極の厚さ(m)
W0 :発電出力密度(W/m2 )
【請求項14】
上記集電配線は、バス電極とこのバス電極から分岐した複数のストライプ電極とからなり、このストライプ電極のピッチをd0 (m)としたとき、d0 が下記の式を満たす請求項6記載の光電変換素子。
【数2】
ただし、t :ストライプ電極の太さ(m)
W0 :定格発電出力密度(W/m2 )
R0 :ストライプ電極の線抵抗(Ω/m)
i0 :定格発電電流密度(A/m2 )
l :ストライプ電極の集電距離(m)
【請求項15】
上記集電配線は、バス電極とこのバス電極と電気的に接続されたメッシュ電極またはグリッド電極とからなり、上記メッシュ電極またはグリッド電極の開口率をApとしたとき、Apが下記の式を満たす請求項6記載の光電変換素子。
【数3】
ただし、t :ストライプ電極の太さ(m)
W0 :定格発電出力密度(W/m2 )
R0 :ストライプ電極の線抵抗(Ω/m)
i0 :定格発電電流密度(A/m2 )
l :ストライプ電極の集電距離(m)
【請求項16】
少なくとも一つの光電変換素子を有し、
上記光電変換素子が、
透明導電性基板上の多孔質電極と対極との間に電解質層が設けられた構造を有し、
上記透明導電性基板上に、金属粒子と低融点ガラスフリットとを含む導電性ペーストにより形成された集電配線が設けられている光電変換素子である電子機器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−212615(P2012−212615A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78413(P2011−78413)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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