説明

光電変換素子の製造方法、光電変換素子及び光電気化学電池

【課題】変換効率の優れる色素増感光電変換素子を提供し、さらにはこれを用いた光電気化学電池を提供する。
【解決手段】少なくとも色素の吸着した半導体微粒子膜の層と導電性支持体とを有する光電変換素子であって、該半導体微粒子膜の層が光散乱性の異なる複数の層から成り、光の入射側に光散乱性の最も低い層が配されることを特徴とする光電変換素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光電変換素子に関し、詳しくは色素で増感された半導体微粒子を用いた光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
光電変換素子は各種の光センサー、複写機、光発電装置に用いられている。光電変換素子には金属を用いたもの、半導体を用いたもの、有機顔料や色素を用いたもの、あるいはこれらを組み合わせたものなどの様々な方式が実用化されている。
【0003】
特許文献1〜9には、色素によって増感された半導体微粒子を用いた光電変換素子(以後、色素増感光電変換素子と略す)、若しくはこれを作成するための材料及び製造技術が開示されている。この方式の利点は二酸化チタン等の安価な酸化物半導体を高純度に精製することなく用いることができるため、比較的安価な光電変換素子を提供できる点にある。しかしながらこのような光電変換素子は変換効率が必ずしも十分に高いとは限らず、なお一層の変換効率向上が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第4927721号明細書
【特許文献2】米国特許第4684537号明細書
【特許文献3】米国特許第5084365号明細書
【特許文献4】米国特許第5350644号明細書
【特許文献5】米国特許第5463057号明細書
【特許文献6】米国特許第5525440号明細書
【特許文献7】国際公開第98/50393号
【特許文献8】特開平7−249790号公報
【特許文献9】特表平10−504521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は変換効率の向上した色素増感光電変換素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
研究の結果、下記の手段により本発明の目的に適うことを突き止めた。
(1)少なくとも色素の吸着した半導体微粒子膜の層と導電性支持体とを有する光電変換素子であって、該半導体微粒子膜の層が光散乱性の異なる複数の層から成り、光の入射側に光散乱性の最も低い層が配されることを特徴とする光電変換素子。
(2)(1)の光電変換素子において、光の入射側(の感光層より前面)に全反射層を有しないことを特徴とする(1)記載の光電変換素子。
(3)半導体微粒子膜の層が光散乱性の異なる少なくとも3層から成り、光の入射側に光散乱性の低い層、最も奥に光散乱性の高い層、その中間に光散乱性が前記2層の中間である層(前記光散乱性の低い層と前記光散乱性の高い層の中間の光散乱性を有する光散乱性が中程度の層)を配することを特徴とする(1)記載の光電変換素子。
(4)光散乱性の低い層は光散乱性の低い半導体微粒子のみから成り、光散乱性が中程度の層は光散乱性の高い半導体微粒子と光散乱性の低い半導体微粒子の混合物から成り、光散乱性が高い層は少なくとも光散乱性の高い半導体微粒子を含有することを特徴とする(3)に記載の光電変換素子。
(5)光散乱性の低い層は平均粒径5〜50nmの半導体微粒子から成り、光散乱性が高い層は少なくとも平均粒径100〜500nmの半導体微粒子を含有し、光散乱性が中程度の層は平均粒径100〜500nmの半導体微粒子と平均粒径5〜50nmの半導体微粒子の混合物を含有することを特徴とする(4)に記載の光電変換素子。
(6)半導体微粒子が酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化ニオブ、酸化錫、酸化タングステン、酸化珪素、酸化アルミニウムから選ばれた酸化物半導体であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の光電変換素子。
(7)半導体微粒子がすべて酸化チタンであることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の光電変換素子。
(8)色素として結合基を含む群より選ばれた基を有するルテニウム錯体色素を用いることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載の光電変換素子。
(9)(1)〜(8)のいずれかに記載の光電変換素子を用いたことを特徴とする光電気化学電池。
(10)導電性支持体、感光層、電荷輸送層、対極導電層を順に有する光電気化学電池において、感光層は半導体微粒子間の空隙に浸透した電荷輸送材料を含有し、光散乱性の異なる複数の層から成り、光の入射側に光散乱性の最も低い層が配され、かつ、光の入射側に全反射層を有しないことを特徴とする光電気化学電池。
(11)光散乱性の異なる複数の層が、光の入射側に光散乱性の低い層、最も奥に光散乱性の高い層、その中間に光散乱性が前記2層の中間である層を配することを特徴とする(10)記載の光電気化学電池。
(12)光散乱性の低い層は光散乱性の低い半導体微粒子のみから成り、光散乱性が中程度の層は光散乱性の高い半導体微粒子と光散乱性の低い半導体微粒子の混合物から成り、光散乱性が高い層は少なくとも光散乱性の高い半導体微粒子を含有することを特徴とする(11)に記載の光電気化学電池。
(13)光散乱性の低い層は平均粒径5〜50nmの半導体微粒子から成り、光散乱性が高い層は少なくとも平均粒径100〜500nmの半導体微粒子を含有し、光散乱性が中程度の層は平均粒径100〜500nmの半導体微粒子と平均粒径5〜50nmの半導体微粒子の混合物を含有することを特徴とする(12)に記載の光電気化学電池。
【発明の効果】
【0007】
実施例の結果から本発明によって、従来よりも変換効率の改善された色素増感光電変換素子が得られたことは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の好ましい光電変換素子の構造を示す部分断面図であり、実施例で作成した光電気化学電池の構成を示す断面図である。
【図2】本発明の好ましい光電変換素子の構造を示す部分断面図である。
【図3】本発明の好ましい光電変換素子の構造を示す部分断面図である。
【図4】本発明の好ましい光電変換素子の構造を示す部分断面図である。
【図5】本発明の好ましい光電変換素子の構造を示す部分断面図である。
【図6】本発明の好ましい光電変換素子の構造を示す部分断面図である。
【図7】本発明の好ましい光電変換素子の構造を示す部分断面図である。
【図8】本発明の好ましい光電変換素子の構造を示す部分断面図である。
【図9】本発明の好ましい光電変換素子の構造を示す部分断面図である。
【図10】実施例1に用いた光電変換素子の構造を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔1〕光電変換素子
本発明の光電変換素子は、好ましくは図1に示すように、導電層10、下塗り層60、感光層20、電荷輸送層30、対極導電層40の順に積層し、前記感光層20を色素22によって増感された半導体微粒子21と当該半導体微粒子21の間の空隙に浸透した電荷輸送材料23とから構成する。電荷輸送材料23は、電荷輸送層30に用いる材料と同じ成分からなる。また光電変換素子に強度を付与するため、導電層10及び/又は対極導電層40の下地として、基板50を設けてもよい。以下本発明では、導電層10及び任意で設ける基板50からなる層を「導電性支持体」、対極導電層40及び任意で設ける基板50からなる層を「対極」と呼ぶ。
本発明においては感光層20は光散乱性の異なる複数の層から成っている。なお、図1中の導電層10、対極導電層40、基板50は、それぞれ透明導電層10a、透明対極導電層40a、透明基板50aであっても良い。この光電変換素子を外部負荷に接続して電気的仕事をさせる目的(発電)で作られたものが光電池であり、光学的情報のセンシングを目的に作られたものが光センサーである。光電池のうち、電荷輸送材料23が主としてイオン輸送材料からなる場合を特に光電気化学電池と呼び、また、太陽光による発電を主目的とする場合を太陽電池と呼ぶ。
【0010】
(A)導電性支持体
導電性支持体は、(1)導電層の単層、又は(2)導電層及び基板の2層からなる。強度や密封性が十分に保たれるような導電層を使用すれば、基板は必ずしも必要でない。
【0011】
(1)の場合、導電層として金属のように十分な強度が得られ、かつ導電性があるものを用いる。
【0012】
(2)の場合、感光層側に導電剤を含む導電層を有する基板を使用することができる。好ましい導電剤としては金属(例えば白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム等)、炭素、又は導電性金属酸化物(インジウム−スズ複合酸化物、酸化スズにフッ素をドープしたもの等)が挙げられる。導電層の厚さは0.02〜10μm程度が好ましい。
【0013】
導電性支持体は表面抵抗が低い程よい。好ましい表面抵抗の範囲は100Ω/□以下であり、更に好ましくは40Ω/□以下である。表面抵抗の下限には特に制限はないが、通常0.1Ω/□程度である。
【0014】
本発明では、実質的に透明であるとは光の透過率が10%以上であることを意味し、50%以上であるのが好ましく、70%以上が特に好ましい。
本発明においては高光散乱率層で散乱された光は低光散乱率層でほぼ吸収されてしまうので、全反射層を設ける必要はない。
本発明では、特開平10−255863号公報のような高屈折材料薄膜を設けることは、製造において工程が煩雑となり、またコストも上昇するので安価な光電変換素子を提供する本来の趣旨に反するため、好ましくない。
【0015】
透明導電性支持体としては、ガラス又はプラスチック等の透明基板の表面に導電性金属酸化物からなる透明導電層を塗布又は蒸着等により形成したものが好ましい。なかでもフッ素をドーピングした二酸化スズからなる導電層を低コストのソーダ石灰フロートガラスでできた透明基板上に堆積した導電性ガラスが好ましい。また低コストでフレキシブルな光電変換素子又は太陽電池とするには、透明ポリマーフィルムに導電層を設けたものを用いるのがよい。透明ポリマーフィルムの材料としては、テトラアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、シンジオタクチックポリステレン(SPS)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート(PAr)、ポリスルフォン(PSF)、ポリエステルスルフォン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、環状ポリオレフィン、ブロム化フェノキシ等がある。十分な透明性を確保するために、導電性金属酸化物の塗布量はガラス又はプラスチックの支持体1m2当たり0.01〜100gとするのが好ましい。
【0016】
透明導電性支持体の抵抗を下げる目的で金属リードを用いるのが好ましい。金属リードの材質はアルミニウム、銅、銀、金、白金、ニッケル等の金属が好ましく、特にアルミニウム及び銀が好ましい。金属リードは透明基板に蒸着、スパッタリング等で設置し、その上にフッ素をドープした酸化スズ、又はITO膜からなる透明導電層を設けるのが好ましい。また透明導電層を透明基板に設けた後、透明導電層上に金属リードを設置するのも好ましい。金属リード設置による入射光量の低下は好ましくは10%以内、より好ましくは1〜5%とする。
【0017】
(B)感光層
感光層において、半導体はいわゆる感光体として作用し、光を吸収して電荷分離を行い、電子と正孔を生ずる。色素増感された半導体微粒子では、光吸収及びこれによる電子及び正孔の発生は主として色素において起こり、半導体微粒子はこの電子を受け取り、伝達する役割を担う。本発明で用いる半導体は光励起下で伝導体電子がキャリアーとなり、アノード電流を与えるn型半導体であることが好ましい。
【0018】
本発明者らの検討によれば該感光層が膜厚方向に対して均質な単層構成の場合よりも、光の入射側は光散乱性が低く光が進むに従い光散乱性が高くなるような多層構成の場合の方が光の捕獲率が高く、ひいては変換効率が高いことがわかった。このような層構成の最も単純な例は光入射側から低散乱層、高散乱層の2層構成である。このほか、低散乱層、中散乱層、高散乱層の3層以上の構成や更に複雑な構成があり得る。本発明においては最も散乱性の低い層が光の入射する最初の層であることを必須とする。このうち前記の3層以上の構成が好ましく、3層構成がより好ましい。
【0019】
感光層の光散乱性は用いる半導体微粒子の種類や粒子径、空隙率、又は空隙のサイズによって調節することができる。このうち半導体微粒子の粒子径で調節するのが好ましい。
【0020】
(1)半導体微粒子
半導体微粒子としては、シリコン、ゲルマニウムのような単体半導体、III-V系化合物半導体、金属のカルコゲニド(例えば酸化物、硫化物、セレン化物等)、又はペロブスカイト構造を有する化合物(例えばチタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸バリウム、ニオブ酸カリウム等)等を使用することができる。
【0021】
好ましい金属のカルコゲニドとして、チタン、スズ、亜鉛、鉄、タングステン、ジルコニウム、ハフニウム、ストロンチウム、インジウム、セリウム、イットリウム、ランタン、バナジウム、ニオブ、又はタンタルの酸化物、カドミウム、亜鉛、鉛、銀、アンチモン又はビスマスの硫化物、カドミウム又は鉛のセレン化物、カドミウムのテルル化物等が挙げられる。他の化合物半導体としては亜鉛、ガリウム、インジウム、カドミウム等のリン化物、ガリウム−ヒ素又は銅−インジウムのセレン化物、銅−インジウムの硫化物等が挙げられる。
【0022】
本発明に用いる半導体の好ましい具体例は、Si、TiO2、SnO2、Al2O3、MgO、Fe2O3、WO3、ZnO、Nb2O5、CdS、ZnS、PbS、Bi2S3、CdSe、CdTe、GaP、InP、GaAs、CuInS2、CuInSe2等であり、より好ましくはTiO2、ZnO、SnO2、WO3、Nb2O5、TiO2、Al2O3、MgOであり、特に好ましくはTiO2である。また、2種以上の半導体微粒子を混合して用いても良い。
【0023】
半導体微粒子の粒径は一般にnm〜μmのオーダーであるが、投影面積を円に換算したときの直径から求めた一次粒子の平均粒径は5〜500nmであるのが好ましい。このうち平均粒径が5〜50nmの範囲にある半導体微粒子は散乱性が低いため、主として低散乱層用に用いる。平均粒径が100〜500nmの範囲にある半導体微粒子は散乱性が高いため、主として高散乱層用に用いる。
【0024】
本発明において光が最初に入射する低散乱層は平均粒径5〜50nm、好ましくは5〜30nmの、散乱性の低い半導体微粒子を含有する層であり、散乱性の高い粒径100nm以上の粒子の含有率は10重量%以下、好ましくは5重量%以下である。
本発明の光電変換素子は上記低散乱層の他に少なくとも1層の高散乱層を有する。高散乱層は平均粒径100〜500nm好ましくは200〜400nmの、散乱性の高い半導体微粒子を含有する層である。高散乱層は単一の半導体微粒子、すなわち粒径分布のピークが100〜500nmの範囲に1つしかないものを用いても良いし、異なる2種類以上の微粒子を混合して、すなわち粒径分布のピークが複数あるものを用いても良い。後者の場合、粒径分布のピークの少なくとも1つは100〜500nmの範囲にある。
【0025】
感光層が低散乱層と高散乱層の2層構成の場合、高散乱層の構成成分は単一の半導体微粒子を用いるよりも、2種以上の微粒子を混合したほうが好ましい。詳しくは高散乱層は平均粒径5〜50nmの半導体微粒子と平均粒径100〜500nmの半導体微粒子を混合した場合、特に好ましい。このとき大きい方の半導体微粒子の含有率は10〜90重量%が好ましく、10〜50重量%がより好ましい。
【0026】
低散乱層、中散乱層、高散乱層の3層構成の場合、中散乱層は単一の半導体微粒子を用いるよりも、2種以上の微粒子を混合したほうが好ましい。詳しくは中散乱層は平均粒径5〜50nmの半導体微粒子と平均粒径100〜500nmの半導体微粒子を混合した場合、特に好ましい。このとき大きい方の半導体微粒子の含有率は5〜70重量%が好ましく、10〜50重量%がより好ましい。更に、4層以上の場合では配置としては低光散乱層側から高光散乱層に向かって光散乱率が上昇してゆく組成が望ましい。高散乱層は平均粒径100〜500nmの単一の半導体微粒子であっても、2種以上の半導体微粒子を混合したものであっても良い。平均粒径5〜50nmの半導体微粒子と平均粒径100〜500nmの半導体微粒子の混合比率として規定した場合、大きい方の半導体微粒子の含有率として30〜100重量%が好ましく、50〜100重量%がより好ましい。また、大きい方の半導体粒子の含有率は中散乱層よりも大きい。
【0027】
半導体微粒子の作製法としては、作花済夫の「ゾル−ゲル法の科学」アグネ承風社(1998年)、技術情報協会の「ゾル−ゲル法による薄膜コーティング技術」(1995年)等に記載のゾル−ゲル法、杉本忠夫の「新合成法ゲル−ゾル法による単分散粒子の合成とサイズ形態制御」、まてりあ,第35巻,第9号,1012〜1018頁(1996年)に記載のゲル−ゾル法が好ましい。またDegussa社が開発した塩化物を酸水素塩中で高温加水分解により酸化物を作製する方法も好ましい。
【0028】
半導体微粒子が酸化チタンの場合、上記ゾル-ゲル法、ゲル−ゾル法、塩化物の酸水素塩中での高温加水分解法はいずれも好ましいが、更に清野学の「酸化チタン 物性と応用技術」技報堂出版(1997年)に記載の硫酸法及び塩素法を用いることもできる。更にゾル−ゲル法として、バーブらのジャーナル・オブ・アメリカン・セラミック・ソサエティー,第80巻,第12号,3157〜3171頁(1997年)に記載の方法や、バーンサイドらのケミストリー・オブ・マテリアルズ,第10巻,第9号,2419〜2425頁に記載の方法も好ましい。
【0029】
(2)半導体微粒子層
半導体微粒子を導電性支持体上に塗布するには、半導体微粒子の分散液又はコロイド溶液を導電性支持体上に塗布する方法の他に、前述のゾル−ゲル法等を使用することもできる。光電変換素子の量産化、半導体微粒子液の物性、導電性支持体の融通性等を考慮した場合、湿式の製膜方法が比較的有利である。湿式の製膜方法としては、塗布法、印刷法が代表的である。
【0030】
半導体微粒子の分散液を作製する方法としては、前述のゾル−ゲル法の他に、乳鉢ですり潰す方法、ミルを使って粉砕しながら分散する方法、あるいは半導体を合成する際に溶媒中で微粒子として析出させそのまま使用する方法等が挙げられる。
【0031】
分散媒としては、水又は各種の有機溶媒(例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ジクロロメタン、アセトン、アセトニトリル、酢酸エチル等)が挙げられる。分散の際、必要に応じて例えばポリエチレングリコールのようなポリマー、界面活性剤、酸、又はキレート剤等を分散助剤として用いてもよい。ポリエチレングリコールの分子量を変えることで、剥がれにくい膜を形成したり、分散液の粘度が調節可能となるので、ポリエチレングリコールを添加することは好ましい。
【0032】
塗布方法としては、アプリケーション系としてローラ法、ディップ法等、メータリング系としてエアーナイフ法、ブレード法等、またアプリケーションとメータリングを同一部分にできるものとして、特公昭58-4589号に開示されているワイヤーバー法、米国特許2681294号、同2761419号、同2761791号等に記載のスライドホッパー法、エクストルージョン法、カーテン法等が好ましい。また汎用機としてスピン法やスプレー法も好ましい。湿式印刷方法としては、凸版、オフセット及びグラビアの3大印刷法をはじめ、凹版、ゴム版、スクリーン印刷等が好ましい。これらの中から、液粘度やウェット厚さに応じて、好ましい製膜方法を選択する。
【0033】
半導体微粒子の分散液の粘度は半導体微粒子の種類や分散性、使用溶媒種、界面活性剤やバインダー等の添加剤により大きく左右される。高粘度液(例えば0.01〜500Poise)ではエクストルージョン法、キャスト法、スクリーン印刷法等が好ましい。また低粘度液(例えば0.1Poise以下)ではスライドホッパー法、ワイヤーバー法又はスピン法が好ましく、均一な膜にすることが可能である。なおある程度の塗布量があれば低粘度液の場合でもエクストルージョン法による塗布は可能である。このように塗布液の粘度、塗布量、支持体、塗布速度等に応じて、適宜湿式製膜方法を選択すればよい。
【0034】
本発明においては半導体微粒子の層は多層構成である。このためには粒径の違った半導体微粒子の分散液を多層塗布したり、種類が異なる半導体微粒子(あるいは異なるバインダー、添加剤)を含有する塗布層を多層塗布したりすることもできる。多層塗布には、エクストルージョン法又はスライドホッパー法が適している。また多層塗布をする場合は同時に多層を塗布しても良く、数回から十数回順次重ね塗りしてもよい。更に順次重ね塗りであればスクリーン印刷法も好ましく使用できる。
【0035】
一般に半導体微粒子層の厚さ(感光層の厚さと同じ)が厚くなるほど単位投影面積当たりの担持色素量が増えるため、光の捕獲率が高くなるが、生成した電子の拡散距離が増すため電荷再結合によるロスも大きくなる。したがって、半導体微粒子層の好ましい厚さは0.1〜100μmである。太陽電池に用いる場合、半導体微粒子層の厚さは1〜30μmが好ましく、2〜25μmがより好ましい。半導体微粒子の総塗布量は支持体1m2当たり0.5〜100gが好ましく、5〜50gがより好ましい。
【0036】
本発明において最も入射光側の低散乱層が半導体微粒子層全体に占める割合は膜厚にして全体の10ないし80%が好ましく、20ないし60%がより好ましい。低散乱層の典型的な膜厚としては1〜20μmである。中散乱層がある場合の典型的な膜厚としては1〜10μmである。高散乱層の典型的な膜厚としては1〜10μmである。
【0037】
半導体微粒子を導電性支持体上に塗布した後で半導体微粒子同士を電子的に接触させるとともに、塗膜強度の向上や支持体との密着性を向上させるために、加熱処理するのが好ましい。好ましい加熱温度の範囲は40℃以上700℃以下であり、より好ましくは100℃以上600℃以下である。また加熱時間は10分〜10時間程度である。ポリマーフィルムのように融点や軟化点の低い支持体を用いる場合、高温処理は支持体の劣化を招くため、好ましくない。またコストの観点からもできる限り低温であるのが好ましい。低温化は、先に述べた5nm以下の小さい半導体微粒子の併用や鉱酸の存在下での加熱処理等により可能となる。重層構成の感光層を得るために塗布と加熱処理を順次繰り返し行っても良い。
【0038】
加熱処理後半導体微粒子の表面積を増大させたり、半導体微粒子近傍の純度を高め、色素から半導体微粒子への電子注入効率を高める目的で、例えば四塩化チタン水溶液を用いた化学メッキ処理や三塩化チタン水溶液を用いた電気化学的メッキ処理を行ってもよい。
【0039】
半導体微粒子は多くの色素を吸着することができるように表面積の大きいものが好ましい。このため半導体微粒子の層を支持体上に塗布した状態での表面積は、投影面積に対して10倍以上であるのが好ましく、更に100倍以上であるのが好ましい。この上限は特に制限はないが、通常1000倍程度である。
【0040】
(3)色素
感光層に用いる増感色素は、可視域や近赤外域に吸収を有し、半導体を増感しうる化合物なら任意に用いることができるが、有機金属錯体色素、メチン色素、ポルフィリン系色素又はフタロシアニン系色素が好ましい。また、光電変換の波長域をできるだけ広くし、かつ変換効率を上げるため、二種類以上の色素を併用又は混合することができる。この場合、目的とする光源の波長域と強度分布に合わせるように、併用又は混合する色素とその割合を選ぶことができる。
【0041】
こうした色素は半導体微粒子の表面に対して吸着能力の有る適当な結合基(interlocking group)を有しているのが好ましく、本発明のように使用する粒径の幅が大きい場合はそれぞれの表面に等しく吸着されるため、特に好ましい。好ましい結合基としては、COOH基、OH基、SO3H基、-P(O)(OH)2基又は-OP(O)(OH)2基のような酸性基、あるいはオキシム、ジオキシム、ヒドロキシキノリン、サリチレート又はα-ケトエノレートのようなπ伝導性を有するキレート化基が挙げられる。なかでもCOOH基(カルボキシル基)、-P(O)(OH)2基(ホスホニル基)又は-OP(O)(OH)2基(ホスホリル基)が特に好ましい。これらの基はアルカリ金属等と塩を形成していてもよく、また分子内塩を形成していてもよい。またポリメチン色素の場合、メチン鎖がスクアリリウム環やクロコニウム環を形成する場合のように酸性基を含有するなら、この部分を結合基としてもよい。
【0042】
以下、感光層に用いる好ましい増感色素を具体的に説明する。
(a)有機金属錯体色素
色素が金属錯体色素である場合、金属フタロシアニン色素、金属ポルフィリン色素又はルテニウム錯体色素が好ましく、ルテニウム錯体色素が特に好ましい。ルテニウム錯体色素としては、例えば米国特許4927721号、同4684537号、同5084365号、同5350644号、同5463057号、同5525440号、特開平7-249790号、特表平10-504512号、国際公開特許(IPC)98/50393号、特開2000-26487号等に記載の錯体色素が挙げられる。
【0043】
更に本発明で用いる、結合基を含む群より選ばれた基を有するルテニウム錯体色素は下記一般式(I):
(A1)pRu(B-a)(B-b)(B-c) ・・・(I)
により表されるのが好ましい。一般式(I)中、A1は1又は2座の配位子を表し、Cl、SCN、HO、Br、I、CN、NCO及びSeCN、並びにβ−ジケトン類、シュウ酸及びジチオカルバミン酸の誘導体からなる群から選ばれた配位子が好ましい。pは0〜3の整数である。B-a、B-b及びB-cはそれぞれ独立に下記式B-1〜B-10:
【0044】
【化1】

【0045】
(ただし、Raは水素原子又は置換基を表し、置換基としてはたとえば、ハロゲン原子、炭素原子数1〜12の置換又は無置換のアルキル基、炭素原子数7〜12の置換又は無置換のアラルキル基、炭素原子数6〜12の置換又は無置換のアリール基、あるいは前述の酸性基(これらの酸性基は塩を形成していてもよい)やキレート化基が挙げられ、アルキル基及びアラルキル基のアルキル部分は直鎖状でも分岐状でもよく、またアリール基及びアラルキル基のアリール部分は単環でも多環(縮合環、環集合)でもよい。)により表される化合物から選ばれた有機配位子を表す。B-a、B-b及びB-cは同一でも異なっていてもよく、いずれか1つ又は2つでもよい。
【0046】
有機金属錯体色素の好ましい具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0047】
【化2】

【0048】
【化3】

【0049】
(b)メチン色素
本発明に使用する色素の好ましいメチン色素は、シアニン色素、メロシアニン色素、スクワリリウム色素などのポリメチン色素である。本発明で好ましく用いられるポリメチン色素の例は、特開平11−35836号、特開平11−67285号、特開平11−86916号、特開平11−97725号、特開平11−158395号、特開平11−163378号、特開平11−214730号、特開平11−214731号、特開平11−238905号、特開2000−26487号、欧州特許892411号、同911841号及び同991092号の各明細書に記載の色素である。好ましいメチン色素の具体例を下に示す。
【0050】
【化4】

【0051】
【化5】

【0052】
(4)半導体微粒子への色素の吸着
半導体微粒子に色素を吸着させるには、色素の溶液中に良く乾燥した半導体微粒子層を有する導電性支持体を浸漬するか、色素の溶液を半導体微粒子層に塗布する方法を用いることができる。前者の場合、浸漬法、ディップ法、ローラ法、エアーナイフ法等が使用可能である。浸漬法の場合、色素の吸着は室温で行ってもよいし、特開平7-249790号に記載されているように加熱還流して行ってもよい。また後者の塗布方法としては、ワイヤーバー法、スライドホッパー法、エクストルージョン法、カーテン法、スピン法、スプレー法等がある。また、インクジェット法等によって色素を画像状に塗布し、この画像そのものを光電変換素子とすることもできる。色素を溶解する溶媒として好ましいのは、例えば、アルコール類(メタノール、エタノール、t-ブタノール、ベンジルアルコール等)、ニトリル類(アセトニトリル、プロピオニトリル、3-メトキシプロピオニトリル等)、ニトロメタン、ハロゲン化炭化水素(ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、クロロベンゼン等)、エーテル類(ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等)、ジメチルスルホキシド、アミド類(N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセタミド等)、N-メチルピロリドン、1,3-ジメチルイミダゾリジノン、3-メチルオキサゾリジノン、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、炭酸エステル類(炭酸ジエチル、炭酸エチレン、炭酸プロピレン等)、ケトン類(アセトン、2-ブタノン、シクロヘキサノン等)、炭化水素(へキサン、石油エーテル、ベンゼン、トルエン等)やこれらの混合溶媒が挙げられる。
【0053】
色素の全吸着量は、多孔質半導体電極基板の単位面積(1m2)当たり0.01〜100mmolが好ましい。また色素の半導体微粒子に対する吸着量は、半導体微粒子1g当たり0.01〜1mmolの範囲であるのが好ましい。このような色素の吸着量とすることにより半導体における増感効果が十分に得られる。これに対し、色素が少なすぎると増感効果が不十分となり、また色素が多すぎると半導体に付着していない色素が浮遊し、増感効果を低減させる原因となる。色素の吸着量を増大させるためには、吸着前に加熱処理を行うのが好ましい。加熱処理後、半導体微粒子表面に水が吸着するのを避けるため、常温に戻さずに、半導体電極基板の温度が60〜150℃の間で素早く色素の吸着操作を行うのが好ましい。また、色素間の凝集などの相互作用を低減する目的で、無色の化合物を色素に添加し、半導体微粒子に共吸着させてもよい。この目的で有効な化合物は界面活性な性質、構造をもった化合物であり、例えば、カルボキシル基を有するステロイド化合物(例えばケノデオキシコール酸)や下記の例のようなスルホン酸塩類が挙げられる。
【0054】
【化6】

【0055】
未吸着の色素は、吸着後速やかに洗浄により除去するのが好ましい。湿式洗浄槽を使い、アセトニトリル等の極性溶剤、アルコール系溶剤のような有機溶媒で洗浄を行うのが好ましい。色素を吸着した後にアミン類や4級塩を用いて半導体微粒子の表面を処理してもよい。好ましいアミン類としてはピリジン、4-t-ブチルピリジン、ポリビニルピリジン等が挙げられ、好ましい4級塩としてはテトロブチルアンモニウムヨージド、テトラヘキシルアンモニウムヨージド等が挙げられる。これらが液体の場合はそのまま用いてもよいし、有機溶媒に溶解して用いてもよい。
【0056】
(C)電荷輸送層
電荷輸送層は色素の酸化体に電子を補充する機能を有する電荷輸送材料を含有する層である。本発明で用いることのできる代表的な電荷輸送材料の例としては、(i)イオン輸送材料として、酸化還元対のイオンが溶解した溶液(電解液)、酸化還元対の溶液をポリマーマトリクスのゲルに含浸したいわゆるゲル電解質、酸化還元対イオンを含有する溶融塩電解質、更には固体電解質が挙げられ、これら電解質を含む組成物(電解質組成物)を電荷輸送層に用いることができる。
また、イオンがかかわる電荷輸送材料のほかに、(ii)固体中のキャリアー移動がかかわる電荷輸送材料として、電子輸送材料や正孔(ホール)輸送材料を用いることもできる。これらの電荷輸送材料は、併用することができる。
【0057】
(1)溶融塩電解質
溶融塩電解質は、光電変換効率と耐久性の両立という観点から特に好ましい。
溶融塩電解質とは、室温において液状であるか、又は低融点の電解質であり、例えばWO95/18456号、特開平8-259543号、電気化学,第65巻,11号,923頁(1997年)等に記載されているピリジニウム塩、イミダゾリウム塩、トリアゾリウム塩等の既知の電解質を挙げることができる。100℃以下、特に室温付近において液状となる溶融塩が好ましい。
【0058】
好ましく用いることのできる溶融塩としては、下記一般式(Y-a)、(Y-b)及び(Y-c)のいずれかにより表されるものが挙げられる。
【0059】
【化7】

【0060】
一般式(Y-a)中、Qy1は窒素原子と共に5又は6員環の芳香族カチオンを形成しうる原子団を表す。Qy1は炭素原子、水素原子、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子からなる群から選ばれる1種以上の原子により構成されるのが好ましい。Qy1により形成される5員環は、オキサゾール環、チアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、イソオキサゾール環、チアジアゾール環、オキサジアゾール環、トリアゾール環、インドール環又はピロール環であるのが好ましく、オキサゾール環、チアゾール環又はイミダゾール環であるのがより好ましく、オキサゾール環又はイミダゾール環であるのが特に好ましい。Qy1により形成される6員環は、ピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ピラジン環又はトリアジン環であるのが好ましく、ピリジン環であるのがより好ましい。
【0061】
一般式(Y-b)中、Ay1は窒素原子又はリン原子を表す。
【0062】
一般式(Y-a)、(Y-b)及び(Y-c)中のRy1〜Ry6はそれぞれ独立に置換又は無置換のアルキル基(好ましくは炭素原子数1〜24、直鎖状であっても分岐状であっても、また環式であってもよく、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、t-オクチル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、2-ヘキシルデシル基、オクタデシル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基等)、或いは置換又は無置換のアルケニル基(好ましくは炭素原子数2〜24、直鎖状であっても分岐状であってもよく、例えばビニル基、アリル基等)を表し、より好ましくは炭素原子数2〜18のアルキル基又は炭素原子数2〜18のアルケニル基であり、特に好ましくは炭素原子数2〜6のアルキル基である。
【0063】
また、一般式(Y-b)中のRy1〜Ry4のうち2つ以上が互いに連結してAy1を含む非芳香族環を形成してもよく、一般式(Y-c)中のRy1〜Ry6のうち2つ以上が互いに連結して環構造を形成してもよい。
【0064】
一般式(Y-a)、(Y-b)及び(Y-c)中のQy1及びRy1〜Ry6は置換基を有していてもよく、好ましい置換基の例としては、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I等)、シアノ基、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、メトキシエトキシ基、メトキシエトキシエトキシ基等)、アリーロキシ基(フェノキシ基等)、アルキルチオ基(メチルチオ基、エチルチオ基等)、アルコキシカルボニル基(エトキシカルボニル基等)、炭酸エステル基(エトキシカルボニルオキシ基等)、アシル基(アセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基等)、スルホニル基(メタンスルホニル基、ベンゼンスルホニル基等)、アシルオキシ基(アセトキシ基、ベンゾイルオキシ基等)、スルホニルオキシ基(メタンスルホニルオキシ基、トルエンスルホニルオキシ基等)、ホスホニル基(ジエチルホスホニル基等)・BR>Aアミド基(アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等)、カルバモイル基(N,N-ジメチルカルバモイル基等)、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、2-カルボキシエチル基、ベンジル基等)、アリール基(フェニル基、トルイル基等)、複素環基(ピリジル基、イミダゾリル基、フラニル基等)、アルケニル基(ビニル基、1-プロペニル基等)、シリル基、シリルオキシ基等が挙げられる。
【0065】
一般式(Y-a)、(Y-b)又は(Y-c)により表される化合物は、Qy1又はRy1〜Ry6を介して多量体を形成してもよい。
【0066】
これらの溶融塩は、単独で使用しても、2種以上混合して使用してもよく、また、ヨウ素アニオンを他のアニオンで置き換えた溶融塩と併用することもできる。ヨウ素アニオンと置き換えるアニオンとしては、ハロゲン化物イオン(Cl-、Br-等)、SCN-、BF4-、PF6-、ClO4-、(CF3SO2)2N-、(CF3CF2SO2)2N-、CH3SO3-、CF3SO3-、CF3COO-、Ph4B-、(CF3SO2)3C-等が好ましい例として挙げられ、SCN-、CF3SO3-、CF3COO-、(CF3SO2)2N-又はBF4-であるのがより好ましい。また、LiIなど他のヨウ素塩やCF3COOLi、CF3COONa、LiSCN、NaSCNなどのアルカリ金属塩を添加することもできる。アルカリ金属塩の添加量は、0.02〜2質量%程度であるのが好ましく、0.1〜1質量%が更に好ましい。
【0067】
本発明で好ましく用いられる溶融塩の具体例を以下に挙げるが、これらに限定されるわけではない。
【0068】
【化8】

【0069】
【化9】

【0070】
【化10】

【0071】
【化11】

【0072】
【化12】

【0073】
【化13】

【0074】
上記溶融塩電解質は常温で溶融状態であるものが好ましく、溶媒を用いない方が好ましい。後述する溶媒を添加しても構わないが、溶融塩の含有量は電解質組成物全体に対して50質量%以上であるのが好ましく、90質量%以上であるのが特に好ましい。また、塩のうち、50質量%以上がヨウ素塩であることが好ましい。
【0075】
上記電解質組成物にはヨウ素を添加するのが好ましく、この場合、ヨウ素の含有量は、電解質組成物全体に対して0.1〜20質量%であるのが好ましく、0.5〜5質量%であるのがより好ましい。
【0076】
(2)電解液
電荷輸送層に電解液を使用する場合、電解液は電解質、溶媒、及び添加物から構成されることが好ましい。本発明の電解質はI2とヨウ化物の組み合わせ(ヨウ化物としてはLiI、NaI、KI、CsI、CaI2などの金属ヨウ化物、あるいはテトラアルキルアンモニウムヨーダイド、ピリジニウムヨーダイド、イミダゾリウムヨーダイドなど4級アンモニウム化合物のヨウ素塩など)、Br2と臭化物の組み合わせ(臭化物としてはLiBr、NaBr、KBr、CsBr、CaBr2などの金属臭化物、あるいはテトラアルキルアンモニウムブロマイド、ピリジニウムブロマイドなど4級アンモニウム化合物の臭素塩など)のほか、フェロシアン酸塩−フェリシアン酸塩やフェロセン−フェリシニウムイオンなどの金属錯体、ポリ硫化ナトリウム、アルキルチオール−アルキルジスルフィドなどのイオウ化合物、ビオロゲン色素、ヒドロキノン−キノンなどを用いることができる。この中でもI2とLiIやピリジニウムヨーダイド、イミダゾリウムヨーダイドなど4級アンモニウム化合物のヨウ素塩を組み合わせた電解質が好ましい。上述した電解質は混合して用いてもよい。
【0077】
好ましい電解質濃度は0.1M以上10M以下であり、更に好ましくは0.2M以上4M以下である。また、電解液にヨウ素を添加する場合の好ましいヨウ素の添加濃度は0.01M以上0.5M以下である。
【0078】
電解質に使用する溶媒は、粘度が低くイオン易動度を向上したり、若しくは誘電率が高く有効キャリアー濃度を向上したりして、優れたイオン伝導性を発現できる化合物であることが望ましい。このような溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート化合物、3−メチル−2−オキサゾリジノンなどの複素環化合物、ジオキサン、ジエチルエーテルなどのエーテル化合物、エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテルなどの鎖状エーテル類、メタノール、エタノール、エチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテルなどのアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール類、アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル化合物、ジメチルスルフォキシド、スルフォランなど非プロトン極性物質、水などが挙げられ、これらを混合して用いることもできる。
【0079】
また、本発明では、J. Am. Ceram. Soc .,80 (12)3157-3171(1997)に記載されているようなtert-ブチルピリジンや、2−ピコリン、2,6−ルチジン等の塩基性化合物を前述の溶融塩電解質や電解液に添加することが好ましい。塩基性化合物を添加する場合の好ましい濃度範囲は0.05M以上2M以下である。
【0080】
(3)ゲル電解質
本発明では、電解質はポリマー添加、オイルゲル化剤添加、多官能モノマー類を含む重合、ポリマーの架橋反応等の手法により、前述の溶融塩電解質や電解液をゲル化(固体化)させて使用することもできる。ポリマー添加によりゲル化させる場合は、“Polymer Electrolyte Revi ews-1及び2”(J.R.MacCallumとC.A. Vincentの共編、ELSEVIER APPLIED SCIENCE)に記載された化合物を使用することができるが、特にポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデンを好ましく使用することができる。オイルゲル化剤添加によりゲル化させる場合は工業科学雑誌(J. Chem Soc. Japan, Ind. Chem.Sec.), 46,779(1943), J. Am. Chem. Soc., 111,5542(1989), J. Chem. Soc., Chem. Com mun., 1993, 390, Angew. Chem. Int. Ed. Engl., 35,1949(1996), Chem. Lett., 1996, 885, J. Chm. Soc.,
Chem. Commun., 1997,545に記載されている化合物を使用することができるが、好ましい化合物は分子構造中にアミド構造を有する化合物である。電解液をゲル化した例は特開平11−185863に、溶融塩電解質をゲル化した例は特開2000−58140に記載されており、本発明にも適用できる。
【0081】
また、ポリマーの架橋反応により電解質をゲル化させる場合、架橋可能な反応性基を含有するポリマー及び架橋剤を併用することが望ましい。この場合、好ましい架橋可能な反応性基は、アミノ基、含窒素複素環(例えば、ピリジン環、イミダゾール環、チアゾール環、オキサゾール環、トリアゾール環、モルホリン環、ピペリジン環、ピペラジン環など)であり、好ましい架橋剤は、窒素原子に対して求電子反応可能な2官能以上の試薬(例えば、ハロゲン化アルキル類、ハロゲン化アラルキル類、スルホン酸エステル類、酸無水物、酸クロライド類、イソシアネート化合物、α、β−不飽和スルホニル基含有化合物、α、β−不飽和カルボニル基含有化合物、α、β−不飽和ニトリル基含有化合物など)であり、特開2000−17076、同2000−86724に記載されている架橋技術も適用できる。
【0082】
(4)正孔輸送材料
本発明では、溶融塩などのイオン伝導性電解質の替わりに、有機又は無機あるいはこの両者を組み合わせた固体の正孔輸送材料を使用することができる。
(a)有機正孔輸送材料
本発明に適用可能な有機正孔輸送材料としては、J.Hagen et al.,Synthetic Metal 89(1997)215-220、Nature,Vol.395, 8 Oct. 1998,p583-585及びWO97/10617、特開昭59−194393号公報、特開平5−234681号公報、米国特許第4,923,774号、特開平4−308688号公報、米国特許第4,764,625号、特開平3−269084号公報、特開平4−129271号公報、特開平4−175395号公報、特開平4−264189号公報、特開平4−290851号公報、特開平4−364153号公報、特開平5−25473号公報、特開平5−239455号公報、特開平5−320634号公報、特開平6−1972号公報、特開平7-138562号、特開平7-252474号、特開平11-144773等に示される芳香族アミン類や、特開平11-149821、特開平11-148067、特開平11-176489等に記載のトリフェニレン誘導体類を好ましく用いることができる。また、Adv. Mater. 1997,9,N0.7,p557、Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 1995, 34, No.3,p303-307、JACS,Vol120, N0.4,1998,p664-672等に記載されているオリゴチオフェン化合物、K. Murakoshi
et al.,;Chem. Lett. 1997, p471に記載のポリピロール、“Handbook of Organic Conductive Molecules and Polymers Vol.1,2,3,4” (NALWA著、WILEY出版)に記載されているポリアセチレン及びその誘導体、ポリ(p-フェニレン) 及びその誘導体、ポリ( p-フェニレンビニレン) 及びその誘導体、ポリチエニレンビニレン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体、ポリアニリン及びその誘導体、ポリトルイジン及びその誘導体等の導電性高分子を好ましく使用することができる。
【0083】
正孔(ホール)輸送材料にはNature,Vol.395, 8 Oct. 1998,p583-585に記載されているようにドーパントレベルをコントロールするためにトリス(4-ブロモフェニル)アミニウムヘキサクロロアンチモネートのようなカチオンラジカルを含有する化合物を添加したり、酸化物半導体表面のポテンシャル制御(空間電荷層の補償)を行うためにLi[(CFSO)N]のような塩を添加しても構わない。
【0084】
(b)無機正孔輸送材料
無機正孔輸送材料としては、p型無機化合物半導体を用いることができる。この目的のp型無機化合物半導体は、バンドギャップが2eV以上であることが好ましく、更に2.5eV以上であることが好ましい。また、p型無機化合物半導体のイオン化ポテンシャルは色素の正孔を還元できる条件から、色素吸着電極のイオン化ポテンシャルより小さいことが必要である。使用する色素によってp型無機化合物半導体のイオン化ポテンシャルの好ましい範囲は異なってくるが、一般に4.5eV以上5.5eV以下であることが好ましく、更に4.7eV以上5.3eV以下であることが好ましい。好ましいp型無機化合物半導体は一価の銅を含む化合物半導体であり、一価の銅を含む化合物半導体の例としてはCuI, CuSCN, CuInSe2, Cu(In,Ga)Se2, CuGaSe2, Cu2O, CuS, CuGaS2, CuInS2, CuAlSe2などが挙げられる。この中でもCuI及び CuSCNが好ましく、CuIが最も好ましい。このほかのp型無機化合物半導体として、GaP、NiO、CoO、FeO、Bi2O3、MoO2、Cr2O3等を用いることができる。
【0085】
(5)電荷輸送層の形成
電荷輸送層の形成方法に関しては2通りの方法が考えられる。1つは感光層の上に先に対極を貼り合わせておき、その間隙に液状の電荷輸送層を挟み込む方法である。もう1つは感光層上に直接、電荷輸送層を付与する方法で、対極はその後付与することになる。
【0086】
前者の場合、電荷輸送層の挟み込み方法として、浸漬等による毛管現象を利用する常圧プロセス、又は常圧より低い圧力にして間隙の気相を液相に置換する真空プロセスを利用できる。
【0087】
後者の場合、湿式の電荷輸送層においては未乾燥のまま対極を付与し、エッジ部の液漏洩防止措置を施すことになる。またゲル電解質の場合には湿式で塗布して重合等の方法により固体化する方法があり、その場合には乾燥、固定化した後に対極を付与することもできる。電解液のほか湿式有機正孔輸送材料やゲル電解質を付与する方法としては、前述の半導体微粒子層や色素の付与と同様の方法を利用できる。
【0088】
固体電解質や固体の正孔(ホール)輸送材料の場合には真空蒸着法やCVD法等のドライ成膜処理で電荷輸送層を形成し、その後対極を付与することもできる。有機正孔輸送材料は真空蒸着法,キャスト法,塗布法,スピンコート法、浸漬法、電解重合法、光電解重合法等の手法により電極内部に導入することができる。無機固体化合物の場合も、キャスト法,塗布法,スピンコート法、浸漬法、電解析出法、無電解メッキ法等の手法により電極内部に導入することができる。
【0089】
(D)対極
対極は前記の導電性支持体と同様に、導電性材料からなる対極導電層の単層構造でもよいし、対極導電層と支持基板から構成されていてもよい。対極導電層に用いる導電材としては、金属(例えば白金、金、銀、銅、アルミニウム、マグネシウム、インジウム等)、炭素、又は導電性金属酸化物(インジウム−スズ複合酸化物、フッ素ドープ酸化スズ、等)が挙げられる。この中でも白金、金、銀、銅、アルミニウム、マグネシウムを対極層として好ましく使用することができる。対極の好ましい支持基板の例は、ガラス又はプラスチックであり、これに上記の導電剤を塗布又は蒸着して用いる。対極導電層の厚さは特に制限されないが、3nm〜10μmが好ましい。対極層の表面抵抗は低い程よい。好ましい表面抵抗の範囲としては50Ω/□以下であり、更に好ましくは20Ω/□以下である。
【0090】
導電性支持体と対極のいずれか一方又は両方から光を照射してよいので、感光層に光が到達するためには、導電性支持体と対極の少なくとも一方が実質的に透明であれば良い。発電効率の向上の観点からは、導電性支持体を透明にして、光を導電性支持体側から入射させるのが好ましい。この場合対極は光を反射する性質を有するのが好ましい。このような対極としては、金属又は導電性の酸化物を蒸着したガラス又はプラスチック、あるいは金属薄膜を使用できる。
【0091】
対極は、電荷輸送層上に直接導電材を塗布、メッキ又は蒸着(PVD、CVD)するか、導電層を有する基板の導電層側を貼り付ければよい。また、導電性支持体の場合と同様に、特に対極が透明の場合には、対極の抵抗を下げる目的で金属リードを用いるのが好ましい。なお、好ましい金属リードの材質及び設置方法、金属リード設置による入射光量の低下等は導電性支持体の場合と同じである。
【0092】
(E)その他の層
対極と導電性支持体の短絡を防止するため、予め導電性支持体と感光層の間に緻密な半導体の薄膜層を下塗り層として塗設しておくことが好ましく、電荷輸送層に電子輸送材料や正孔輸送材料を用いる場合は、特に有効である。下塗り層として好ましいのはTiO2、SnO2、Fe2O3、WO3、ZnO、Nb2O5であり、更に好ましくはTiO2である。下塗り層は、例えばElectrochim. Acta 40, 643-652(1995)に記載されているスプレーパイロリシス法の他、スパッタ法等により塗設することができる。下塗り層の好ましい膜厚は5〜1000nm以下であり、10〜500nmが更に好ましい。
【0093】
また、電極として作用する導電性支持体と対極の一方又は両方の外側表面、導電層と基板の間又は基板の中間に、保護層、反射防止層等の機能性層を設けても良い。これらの機能性層の形成には、その材質に応じて塗布法、蒸着法、貼り付け法等を用いることができる。
【0094】
(F)光電変換素子の内部構造の具体例
上述のように、光電変換素子の内部構造は目的に合わせ様々な形態が可能である。大きく2つに分ければ、両面から光の入射が可能な構造と、片面からのみ可能な構造が可能である。図2〜図9に本発明に好ましく適用できる光電変換素子の内部構造を例示する。
【0095】
図2は、透明導電層10aと透明対極導電層40aとの間に、感光層20と、電荷輸送層30とを介在させたものであり、両面から光が入射する構造となっている。図3は、透明基板50a上に一部金属リード11を設け、更に透明導電層10aを設け、下塗り層60、感光層20、電荷輸送層30及び対極導電層40をこの順で設け、更に支持基板50を配置したものであり、導電層側から光が入射する構造となっている。図4は、支持基板50上に更に導電層10を有し、下塗り層60を介して感光層20を設け、更に電荷輸送層30と透明対極導電層40aとを設け、一部に金属リード11を設けた透明基板50aを、金属リード11側を内側にして配置したものであり、対極側から光が入射する構造である。図5は、透明基板50a上に一部金属リード11を設け、更に透明導電層10a(又は40a)を設けたもの1組の間に下塗り層60と感光層20と電荷輸送層30とを介在させたものであり、両面から光が入射する構造である。図6は、透明基板50a上に透明導電層10a、下塗り層60、感光層20、電荷輸送層30及び対極導電層40を設け、この上に支持基板50を配置したものであり導電層側から光が入射する構造である。図7は、支持基板50上に導電層10を有し、下塗り層60を介して感光層20を設け、更に電荷輸送層30及び透明対極導電層40aを設け、この上に透明基板50aを配置したものであり、対極側から光が入射する構造である。図8は、透明基板50a上に透明導電層10aを有し、下塗り層60を介して感光層20を設け、更に電荷輸送層30及び透明対極導電層40aを設け、この上に透明基板50aを配置したものであり、両面から光が入射する構造となっている。図9は、支持基板50上に導電層10を設け、下塗り層60を介して感光層20を設け、更に固体の電荷輸送層30を設け、この上に一部対極導電層40又は金属リード11を有するものであり、対極側から光が入射する構造となっている。
【0096】
〔2〕光電池
本発明の光電池は、上記光電変換素子に外部負荷で仕事をさせるようにしたものである。
光電池のうち、電荷輸送材料が主としてイオン輸送材料からなる場合を、特に光電気化学電池と呼び、また、太陽光による発電を主目的とする場合を太陽電池と呼ぶ。光電池は構成物の劣化や内容物の揮散を防止するために、側面をポリマーや接着剤等で密封するのが好ましい。導電性支持体及び対極にリードを介して接続される外部回路自体は公知のもので良い。本発明の光電変換素子を太陽電池に適用する場合、そのセル内部の構造は基本的に上述した光電変換素子の構造と同じである。また、本発明の色素増感型太陽電池は、従来の太陽電池モジュールと基本的には同様のモジュール構造をとりうる。太陽電池モジュールは、一般的には金属、セラミック等の支持基板の上にセルが構成され、その上を充填樹脂や保護ガラス等で覆い、支持基板の反対側から光を取り込む構造をとるが、支持基板に強化ガラス等の透明材料を用い、その上にセルを構成してその透明の支持基板側から光を取り込む構造とすることも可能である。具体的には、スーパーストレートタイプ、サブストレートタイプ、ポッティングタイプと呼ばれるモジュール構造、アモルファスシリコン太陽電池などで用いられる基板一体型モジュール構造等が知られており、本発明の色素増感型太陽電池も使用目的や使用場所及び環境により、適宜これらのモジュール構造を選択できる。具体的には、特開2000-268892に記載の構造や態様とすることが好ましい。
【実施例】
【0097】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。
実施例1
1.二酸化チタン粒子含有塗布液の作製
(1)低散乱層用塗布液の調製
オートクレーブ温度を240℃にした以外はバルベらのジャーナル・オブ・アメリカン・セラミック・ソサエティ 第80巻3157頁記載の方法と同様の方法で二酸化チタン濃度10重量%の二酸化チタン分散物を得た。できた二酸化チタン粒子(粒子A)の平均粒径は約16nmであった。この分散物に二酸化チタンに対し20重量%のポリエチレングリコール(分子量20000、和光純薬製)と液全体に対して10重量%のエタノールを添加した。これに硝酸を加えて、pHを1.3とし塗布液Aを得た。この塗布液の固形分量は10.7%、TiO2含有量は8.9%であった。
(2)高散乱層用塗布液の調製
前記塗布液(A)に対し表1に示す割合で関東化学製アナターゼ型TiO2(粒子B:粒径100nm〜300nm)を混合し45℃で3時間撹拌し、塗布液B−1〜B−4を得た。
【0098】
【表1】

【0099】
2.色素を吸着した二酸化チタン電極の作成
フッ素をドープした酸化スズをコーティングした透明導電性ガラス(日本板硝子製、表面抵抗は約10Ω/cm2)の導電面側に上記で得た塗布液Aをドクターブレードを用いて塗布し、25℃で30分間乾燥した後、電気炉(ヤマト科学製マッフル炉FP−32型)で450℃にて30分間焼成した。これにより低散乱層が塗設された。低散乱層の二酸化チタンの塗布量は表2に示すとおりである。この上に塗布液B−1〜B−4を同様の方法で表2に示す厚みに塗布し、25℃で30分間乾燥した後、電気炉で450℃にて30分間焼成した。これにより高散乱層が塗設された。焼成後、下記の色素(A)0.3ミリモル/lを含む吸着液に16時間浸漬した。吸着温度は25℃、吸着液の溶媒はエタノール、t−ブタノール、アセトニトリルの1:1:2(体積比)混合物である。色素の染着した二酸化チタン電極をエタノール、アセトニトリルで順次洗浄した。
【0100】
【化14】

【0101】
実施例1における光電変換素子C−1、C−4、C−8に用いる色素吸着電極E−1、E−4、E−8の光吸収率を求めるため、光学濃度測定器(X−RITE310型)にて、可視光透過濃度、可視光反射濃度を測定し、可視光吸収率を求めた。その結果を表2にまとめた。
【0102】
【表2】

【0103】
表2から、それぞれ単層の場合を比較すると、低光散乱率層単層では入射光が透過してしまい、高光散乱率層単層では光散乱が強いため、入射光を多く反射してしまうことがわかる。本発明と比較例の低光散乱率層単層と高光散乱率層単層の電極を比較すると、本発明の電極組成では2種類の単層に比べても最も可視光吸収率がよく、入射光をより効率良く利用できることが裏付けられた。
3.光電変換素子の作成
上述のようにして作成した色増感されたTiO2電極基板(2cm×2cm)をこれと同じ大きさの白金蒸着ガラスと重ね合わせた(図1参照)。次に、両ガラスの隙間に毛細管現象を利用して電解液(ヨウ化1,3−ジメチルイミダゾリウム0.65モル/リットル,ヨウ素0.05モル/リットル、t−ブチルピリジン0.1モル/lのアセトニトリル溶液)をしみこませてTiO2電極中に導入することにより、表3に示す光電変換素子C−1〜C−9を得た。
【0104】
本実施例により、図10に示したとおり、導電性ガラス1(ガラス2上に導電剤層3が設層されたもの)、色素を吸着させたTiO2電極4、電解液5、白金層6及びガラス7が順に積層された光電変換素子が作成された。
【0105】
4.光電変換効率の測定
500Wのキセノンランプ(ウシオ製)の光を分光フィルター(Oriel社製AM1.5)を通すことにより模擬太陽光を発生させた。この光の強度は垂直面において100mW/cm2であった。光電気化学電池の導電性ガラスの端部に銀ペーストを塗布して負極とし、この負極と白金蒸着ガラス(正極)を電流電圧測定装置(ケースレーSMU238型)に接続した。模擬太陽光を垂直に照射しながら、電流電圧特性を測定し、変換効率を求めた。表3には実施例で作成された光電変換素子の変換効率を示した。
【0106】
【表3】

【0107】
C−2〜C−5(本発明)とC−1、C−6〜C−9(比較例)との比較から、低散乱層と高散乱層を有する本発明のセルはいずれかのみのセルに比べて変換効率が高いことがわかる。本発明においては高散乱層で散乱された光は低散乱層でほぼ吸収されてしまうので、全反射層を設ける必要はない。
また、2層構成の高散乱層における粒子B(散乱性の高い大粒子)の比率は10〜50%がより好ましいとした本文の記述が裏付けられた。
【0108】
実施例2
1.二酸化チタン粒子含有塗布液の作製
(1)低散乱層用塗布液の調製
実施例1の塗布液Aを用いた。
(2)中散乱層用塗布液の調製
実施例1における塗布液B−2を用いた。
(3)高散乱層用塗布液の調製
関東化学製アナターゼ型TiO2(粒子B:粒径100nm〜300nm)6.7g、ポリエチレングリコール(分子量20000、和光純薬製)2g、エタノール2.6g、蒸留水53mlを混合し45℃で3時間撹拌した。最後に濃硝酸1.3mlを加えて良く撹拌し、塗布液Cを得た。
【0109】
2.色素を吸着した二酸化チタン電極の作成
フッ素をドープした酸化スズをコーティングした透明導電性ガラス(日本板硝子製、表面抵抗は約10Ω/cm2)の導電面側に実施例1と同様に低散乱層を塗設した。低散乱層の二酸化チタンの塗布量は表4に示すとおりである。この上に塗布液B−2を表4に示す厚みに塗布し、25℃で30分間乾燥した後、電気炉で450℃にて30分間焼成した。これにより中散乱層が塗設された。更にこの上に塗布液Cを表4に示す厚みに塗布し、25℃で30分間乾燥した後、電気炉で450℃にて30分間焼成した。これにより高散乱層が塗設された。以下実施例1と同様にして光電変換素子を作成し変換効率を測定した。結果を表4に示す。
【0110】
【表4】

【0111】
実施例2より明らかなように本発明になる3層構成の光電変換素子は極めて変換効率が高く優れていることがわかる。表4より[C−11、C−12とC−13、C−14との比較から、]本発明の3層構成の光電変換素子は本発明の2層構成の光電変換素子よりも光吸収率が高く変換効率もよい。
【符号の説明】
【0112】
1・・・導電性ガラス
2・・・導電剤層
3・・・TiO2電極
4・・・色素層
5・・・電解液
6・・・白金層
7・・・ガラス
10・・・導電層
10a・・・透明導電層
11・・・金属リード
20・・・感光層
21・・・半導体微粒子
22・・・色素
23・・・電荷輸送材料
30・・・電荷輸送層
40・・・対極導電層
40a・・・透明対極導電層
50・・・基板
50a・・・透明基板
60・・・下塗り層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも色素の吸着した半導体微粒子膜の層と導電性支持体とを有する光電変換素子であって、該半導体微粒子膜の層が光散乱性の異なる複数の層から成り、光の入射側に光散乱性の最も低い層が配されることを特徴とする光電変換素子。
【請求項2】
半導体微粒子膜の層が光散乱性の異なる少なくとも3層から成り、光の入射側に光散乱性の低い層、最も奥に光散乱性の高い層、その中間に光散乱性が前記2層の中間である層を配することを特徴とする請求項1記載の光電変換素子。
【請求項3】
光散乱性の低い層は光散乱性の低い半導体微粒子のみから成り、光散乱性が中程度の層は光散乱性の高い半導体微粒子と光散乱性の低い半導体微粒子の混合物から成り、光散乱性が高い層は少なくとも光散乱性の高い半導体微粒子を含有することを特徴とする請求項2に記載の光電変換素子。
【請求項4】
光散乱性の低い層は平均粒径5〜50nmの半導体微粒子から成り、光散乱性が高い層は少なくとも平均粒径100〜500nmの半導体微粒子を含有し、光散乱性が中程度の層は平均粒径100〜500nmの半導体微粒子と平均粒径5〜50nmの半導体微粒子の混合物を含有することを特徴とする請求項3に記載の光電変換素子。
【請求項5】
半導体微粒子が酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化ニオブ、酸化錫、酸化タングステン、酸化珪素、酸化アルミニウムから選ばれた酸化物半導体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の光電変換素子。
【請求項6】
半導体微粒子がすべて酸化チタンであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の光電変換素子。
【請求項7】
色素として結合基を含む群より選ばれた基を有するルテニウム錯体色素を用いることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の光電変換素子。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の光電変換素子を用いたことを特徴とする光電気化学電池。
【請求項9】
導電性支持体、感光層、電荷輸送層、対極導電層を順に有する光電気化学電池において、感光層は半導体微粒子間の空隙に浸透した電荷輸送材料を含有し、光散乱性の異なる複数の層から成り、光の入射側に光散乱性の最も低い層が配され、かつ、光の入射側に全反射層を有しないことを特徴とする光電気化学電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−272530(P2010−272530A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−158014(P2010−158014)
【出願日】平成22年7月12日(2010.7.12)
【分割の表示】特願2001−17174(P2001−17174)の分割
【原出願日】平成13年1月25日(2001.1.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】