説明

光電変換装置

【課題】例えば太陽電池等の光電変換装置において、比較的簡易な構成で、光電変換効率を向上させる。
【解決手段】光電変換装置は、一対の第1電極(110)及び第2電極(120)と、第1及び第2電極間に設けられ、光を吸収する光吸収層(200)と、光吸収層及び第1電極間に設けられ、格子欠陥及び不純物の少なくとも一方を含む半導体又は絶縁体を含んでなり、光吸収層に光が吸収されることにより励起されたキャリアを光吸収層側から第1電極側へ透過させるための特定のエネルギー準位(ESCL)が格子欠陥及び不純物の少なくとも一方に起因して形成されたエネルギー選択性コンタクト部(160)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば太陽電池等の光電変換装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の光電変換装置として、例えば非特許文献1には、ガリウムインジウムリン(GaInP)、ガリウムインジウムヒ素(GaInAs)及びゲルマニウム(Ge)の3つの材料が組み合わされた多接合型太陽電池が開示されている。この多接合型太陽電池は、太陽光に含まれる幅広い波長域の光を吸収することができるため、比較的高い光電変換効率(即ち、光が電気に変換される割合)を有する。また、光電変換効率を更に向上させるために、4〜6つの材料を用いた多接合型太陽電池の研究も進められている。
【0003】
一方、ホットキャリア理論に基づく太陽電池が知られている(例えば非特許文献2から4参照)。このホットキャリア理論に基づく太陽電池は、光吸収層において光を吸収することにより発生したキャリア(即ち、電子及び正孔)を、エネルギー損失なく(即ち、伝導帯における下端のエネルギー準位よりエネルギーを高められたキャリア(即ち、ホットキャリア)のエネルギーが、この下端のエネルギー準位にまで減衰してしまう前に)、電極側に到達させることで、光電変換効率を向上させようとするものである。また、ホットキャリア理論に基づく太陽電池において、光吸収層から電極にキャリアを引き抜くためにエネルギー選択性コンタクト(Energy selective contact)が必要であることが知られており、エネルギー選択性コンタクトを量子ドットにより実現することが試みられている(例えば非特許文献4参照)。その他、本発明に関連する先行技術文献として非特許文献5及び6が存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】M. Yamauchi, T. Takamoto, A. Khan, M. Imaizumi, S. Matsuda and N. J. Ekins-Daukes, Prog. Photovolt: Res. Appl., 2005; 13: 125-132
【非特許文献2】M. A. Green, Prog. Photovolt: Res. Appl., 2005; 9: 123-135
【非特許文献3】R. T. Ross and A. J. Nozik: J. Appl. Phys., Vol. 53, No. 5, 3813 (1982)
【非特許文献4】C. W. Jiang, E. C. Cho, G. Conibeer and M. A. Green: Proc. 19th European Photovoltaic Solar Energy Conference (Paris, June 2004) 80
【非特許文献5】Chris G. Van de Walle and J. Neugebauer: Nature, 423, p.626(2003)
【非特許文献6】名西 やすし、荒木 努、直井 弘之:「窒化物半導体の新展開」、化学工業 Vol. 57, No. 8(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したような多接合型太陽電池によれば、多種類の半導体が組み合わされているので、半導体間の界面の数が多くなるほど、光電変換効率を向上させることが困難になってしまうという技術的問題点がある。即ち、欠陥の密度が高くなりやすい界面が多数存在すると、キャリアである電子及び正孔の再結合が発生しやすくなり(言い換えれば、キャリアが減少してしまいやすくなり)、その結果、光電変換効率を向上させることが困難になってしまうおそれがある。
【0006】
更に、上述したような多接合型太陽電池が、光電変換効率を向上させるべく、より多種類の半導体から構成される場合には、構成が比較的複雑になり、製造プロセスにおける工程数が増大してしまうおそれがあるという技術的問題点もある。
【0007】
加えて、ホットキャリア理論に基づく太陽電池において、上述したようなエネルギー選択性コンタクトを量子ドットにより形成する場合、高品質の量子ドットを形成することが困難なため、エネルギー選択性コンタクトによって太陽電池からキャリアを実用上十分に引き抜くことが困難であるという技術的問題点もある。
【0008】
本発明は、例えば上述した問題点に鑑みなされたものであり、比較的簡易な構成で、光電変換効率を向上させることが可能な光電変換装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の光電変換装置は上記課題を解決するために、一対の第1及び第2電極と、該第1及び第2電極間に設けられ、光を吸収する光吸収層と、該光吸収層及び前記第1電極間に設けられ、格子欠陥及び不純物の少なくとも一方を含む半導体又は絶縁体を含んでなり、前記光吸収層に光が吸収されることにより励起されたキャリアを前記光吸収層側から前記第1電極側へ透過させるための特定のエネルギー準位が前記格子欠陥及び不純物の少なくとも一方に起因して形成されたエネルギー選択性コンタクト部とを備える。
【0010】
本発明の光電変換装置によれば、その動作時には、光吸収層において光が吸収されることによって励起された電子及び正孔であるキャリア(即ち、光吸収層に光が照射されることによりエネルギーが高められたキャリアであるホットキャリア)が第1及び第2電極にそれぞれ移動することにより、光を電気に変換することが可能となる。
【0011】
本発明では、光吸収層に光が吸収されることにより励起されたキャリア(例えば電子)を光吸収層側から第1電極(例えば負電極)側へ透過させるための特定のエネルギー準位が形成されたエネルギー選択性コンタクト部が、光吸収層及び第1電極間に設けられる。このため、光吸収層で発生したホットキャリアが、エネルギー選択性コンタクト部における特定のエネルギー準位に遷移可能となるので、エネルギー選択性コンタクト部は、光吸収層で発生したホットキャリアを光吸収層側から第1電極側へ透過させることが可能となる。即ち、本発明に係る光電変換装置によれば、ホットキャリア理論に基づく光電変換装置(言い換えれば、ホットキャリア型の光電変換装置)を構成することが可能である。
【0012】
本発明では特に、エネルギー選択性コンタクト部は、格子欠陥及び不純物の少なくとも一方を含む半導体又は絶縁体を含んでなり、該格子欠陥及び不純物の少なくとも一方に起因して特定のエネルギー準位が形成されている。即ち、エネルギー選択性コンタクト部における特定のエネルギー準位は、エネルギー選択性コンタクト部を構成する半導体又は絶縁体に含まれる格子欠陥或いは不純物に起因する欠陥準位或いは不純物準位として形成されている。
【0013】
尚、エネルギー選択性コンタクト部は、典型的には、光吸収層を構成する半導体又は絶縁体よりもバンドギャップが大きい半導体又は絶縁体から構成される。
【0014】
よって、仮に、エネルギー選択性コンタクト部に、量子ドットを形成することで特定のエネルギー準位を形成する場合と比較して、エネルギー選択性コンタクト部を簡易な構成とすることができる(言い換えれば、エネルギー選択性コンタクト部を容易に形成することができる)。従って、エネルギー選択性コンタクト部における特定のエネルギー準位のレベルを格子欠陥の密度或いは不純物の濃度によって比較的容易に制御することが可能であるので、光吸収層で発生したホットキャリアを光吸収層側から第1電極側へ到達させる効率を向上させることができ、この結果、光電変換効率を向上させることが可能となる。
【0015】
加えて、本発明に係る光電変換装置によれば、光吸収層及びエネルギー選択性コンタクト部を夫々構成する半導体又は絶縁体の種類を例えば上述した多接合型太陽電池と比較して少なくすることも可能であり、比較的簡易な構成とすることができる。
【0016】
以上説明したように、本発明に係る光電変換装置によれば、比較的簡易な構成で、光電変換効率を向上させることができる。更に、比較的簡易な構成であるので、製造プロセスにおける工程数の削減も可能であり、製造コストの低減を図ることも可能となる。
【0017】
本発明の光電変換装置の一態様では、前記エネルギー選択性コンタクト部は、前記格子欠陥及び不純物の少なくとも一方の密度が、前記光吸収層側及び前記第1電極側の表面よりも内部のほうが高くなるように形成されている。
【0018】
この態様によれば、エネルギー選択性コンタクトにおいて、格子欠陥及び不純物の少なくとも一方に起因して形成される特定のエネルギー準位が歪んでしまうことを抑制或いは防止できる。
【0019】
即ち、仮に、エネルギー選択性コンタクト部における格子欠陥及び不純物の少なくとも一方の密度が、エネルギー選択性コンタクト部において均一である場合には、例えば光吸収層側の表面における欠陥準位或いは不純物準位としての特定のエネルギー準位に遷移したキャリアに起因して発生するエネルギー選択性コンタクト部内の電界によって、光吸収層側から第1電極側へ向かう方向に沿って、特定のエネルギー準位が大きく変化してしまうおそれがある。しかるに本態様では、エネルギー選択性コンタクト部は、格子欠陥及び不純物の少なくとも一方の密度が、光吸収層側及び第1電極側の表面よりも内部のほうが高くなるように形成されるので、特定のエネルギー準位は、エネルギー選択性コンタクト部の内部に局所的に形成される。このため、光吸収層で発生したキャリアは、エネルギー選択性コンタクト部における光吸収層側の表面付近をトンネル効果によって透過して、内部に形成された特定のエネルギー準位に遷移する。よって、エネルギー選択性コンタクト部内に電界が発生した場合においても、エネルギー選択性の幅が広がってしまうのを防止できる。従って、光吸収層において発生したホットキャリアを第1電極側へ到達させる効率をより一層向上させることができ、この結果、光電変換効率をより一層向上させることが可能となる。
【0020】
尚、エネルギー選択性コンタクト部は、例えば、互いに異なる2種類の半導体又は絶縁体が積層されてなり、該2種類の半導体又は絶縁体間の界面に格子欠陥を有するように形成されてもよいし、或いは、半導体又は絶縁膜を成膜中の中間時点において、特定のエネルギー準位を生成するような元素(不純物)が集中的にドープされることにより形成されてもよい。
【0021】
上述した、格子欠陥及び不純物の少なくとも一方の密度が、光吸収層側及び第1電極側の表面よりも内部のほうが高い態様では、前記エネルギー選択性コンタクト部は、互いに異なる2種類の半導体又は絶縁体が積層されてなり、前記2種類の半導体又は絶縁体間の界面に前記格子欠陥を有するように構成されてもよい。
【0022】
この場合には、エネルギー選択性コンタクト部を、格子欠陥の密度が、光吸収層側及び第1電極側の表面よりも内部のほうが高くなるように、容易に形成することができる。つまり、エネルギー選択性コンタクト部の内部に互いに異なる2種類の半導体又は絶縁体間の界面を形成することにより、エネルギー選択性コンタクト部の内部の格子欠陥の密度を、エネルギー選択性コンタクト部の光吸収層側及び第1電極側の表面付近の格子欠陥の密度よりも容易に高くすることができる。更に、このような2種類の半導体又は絶縁体間の界面の位置は比較的高精度に制御可能であり、エネルギー選択性コンタクト部における格子欠陥の位置精度を高めることも可能である。
【0023】
尚、2種類の半導体又は絶縁体は、格子定数が互いに異なると共に、バンドギャップの大きさが互いに殆ど或いは完全に同じであることが好ましい。この場合には、2種類の半導体又は絶縁体の界面に格子欠陥を確実に生じさせることができると共に、エネルギー選択性コンタクト部内に不必要な電界が発生してしまうことを抑制或いは防止できる。
【0024】
本発明の作用及び他の利得は次に説明する実施するための形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】第1実施形態に係る太陽電池の全体構成を示す斜視図である。
【図2】図1に示した太陽電池のYZ平面に沿った平面での断面を示す断面図である。
【図3】図1に示した太陽電池の障壁層のYZ平面に沿った平面での断面を示す断面図である。
【図4】第1実施形態に係る太陽電池におけるバンド構造を示す模式図である。
【図5】第2実施形態に係る太陽電池の障壁層の断面を示す断面図である。
【図6】第3実施形態に係る太陽電池の障壁層の断面を示す断面図である。
【図7】第3実施形態に係る太陽電池の障壁層の製造プロセスにおける各工程を順に示す工程図である。
【図8】第4実施形態に係る太陽電池の障壁層の断面を示す断面図である。
【図9】第4実施形態に係る太陽電池の障壁層の製造プロセスにおける各工程を順に示す工程図である。
【図10】第5実施形態に係る太陽電池の障壁層の断面を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下では、本発明の実施形態について図を参照しつつ説明する。以下の実施形態では、本発明の光電変換装置の一例である太陽電池を例にとる。
<第1実施形態>
第1実施形態に係る太陽電池について、図1から図4を参照して説明する。
【0027】
先ず、本実施形態に係る太陽電池の全体構成について、図1及び図2を参照して説明する。ここに図1は、本実施形態に係る太陽電池の全体構成を示す斜視図であり、図2は、図1に示した本実施形態に係る太陽電池のYZ平面に沿った平面での断面を模式的に示す断面図である。尚、図1及び図2においては、各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各部材ごとに縮尺を異ならしめてある。この点については、後述する図3及び図5から図10においても同様である。
【0028】
図1及び図2において、本実施形態に係る太陽電池10は、基板100と、バッファ層130と、ホール移動層140と、電子障壁層150と、光吸収層200と、障壁層160と、表面負電極170と、負電極110と、正電極120とを備えている。
【0029】
基板100は、サファイア基板からなる。この基板100上に、バッファ層130、ホール移動層140、電子障壁層150、光吸収層200、障壁層160、表面負電極170、負電極110及び正電極120の各要素が形成されている。
【0030】
バッファ層130は、基板100上に窒化アルミニウム(AlN)から形成されている。
【0031】
ホール移動層140は、バッファ層130上に、p+型(強いp型)窒化インジウムガリウム(GaInN)を結晶成長させることにより形成されている。ホール移動層140上における一部には、電子障壁層150が形成されており、ホール移動層140上における他の一部には、正電極120が形成されている。尚、ホール移動層140は、バッファ層130上に、p+型窒化ガリウム(GaN)を結晶成長させることにより形成されてもよい。
【0032】
電子障壁層150は、ホール移動層140上における一部に、p+型窒化インジウムアルミニウム(AlInN)を結晶成長させることにより形成されている。
【0033】
正電極120は、本発明に係る「第2電極」の一例であり、ホール移動層140上における電子障壁層150が形成された一部を除く他の一部に、金属から形成されている。正電極120は、負電極110と対をなして設けられている。正電極120は、負電極110と共に、正電極120及び負電極110間に設けられた光吸収層200において例えば太陽光等の光が吸収されることにより励起されたキャリアを電気として外部に取り出すための電極である。
【0034】
光吸収層200は、電子障壁層150上に、窒化インジウム(InN)を結晶成長させることにより形成されており、光を吸収することによりキャリア(即ち、電子及び正孔(ホール))を発生する。尚、光吸収層200(即ち、InN)のバンドギャップE1g(図4参照)の大きさは、0.7eVであり、格子定数aは、3.53(Å)
尚、光吸収層200は、互いにバンドギャップの大きさが異なる2種類の半導体によって、例えば量子ドット等の量子閉じ込め構造を有するように形成されてもよい。
【0035】
障壁層160は、本発明に係る「エネルギー選択性コンタクト部」の一例であり、光吸収層200上に、窒化ガリウム(GaN)を結晶成長させることにより形成されている。尚、障壁層160には、後に詳細に説明するように、格子欠陥169が複数形成されている(図3参照)。また、障壁層160には、この格子欠陥169に起因する欠陥準位として、光吸収層200において光が吸収されることにより励起された電子を、光吸収層200側から表面負電極170側(即ち、負電極110側)へ透過させるための特定のエネルギー準位であるエネルギー選択性コンタクト準位ESCL(図4参照)が形成されている。
【0036】
表面負電極170は、障壁層160の上面を覆うように、例えばITO(Indium Tin Oxide:酸化インジウム錫)等の透明導電材料から形成されており、光を透過させることができる。尚、表面負電極170は、後述する負電極110と共に、本発明に係る「第1電極」の一例を構成する。
【0037】
負電極110は、表面負電極170上の一部に、金属から形成されている。尚、負電極110は、光吸収層200に入射する光をなるべく妨げないような形状(本実施形態では、表面負電極170上の一部のみを占める矩形状)を有している。
【0038】
次に、本実施形態に係る太陽電池の障壁層の構成について、図3及び図4を参照して詳細に説明する。ここに図3は、図1に示した本実施形態に係る太陽電池の障壁層のYZ平面に沿った平面での断面を模式的に示す断面図であり、図4は、本実施形態に係る太陽電池におけるバンド構造を示す模式図である。尚、図4において、横軸は、太陽電池10における表面負電極170から正電極120へ至る電気的な経路における位置を示し、縦軸は、エネルギーの大きさを示している。
【0039】
図3において、障壁層160は、図1及び図2を参照して上述したように光吸収層200上に、GaNを結晶成長させることにより形成されている。尚、障壁層160は、窒化アルミニウム(AlN)、窒化インジウムガリウム(GaxIn(1−x)N:但し、0<x<1)、窒化インジウムアルミニウム(AlyIn(1−y)N:但し、0<y<1)、又は、GaN、AlIN及びInNの混晶から形成されてもよい。
【0040】
図4において、本実施形態では特に、障壁層160は、そのバンドギャップE2g中に、光吸収層200の伝導帯における下端のエネルギー準位E1BL以上のレベルのエネルギー準位であるエネルギー選択性コンタクト準位ESCLを有するように、GaNを結晶成長させる際における温度等の条件が制御されることにより形成されている。
【0041】
即ち、図3及び図4において、GaNを結晶成長させる際における温度等の条件が制御されることにより、障壁層160には、格子欠陥169が筋状の転移(或いは貫通欠陥)として複数形成されており、この格子欠陥169に起因した欠陥準位として形成されるエネルギー選択性コンタクト準位ESCLが光吸収層200の伝導帯における下端のエネルギー準位E1BL以上となっている。尚、このような格子欠陥169は、障壁層160を、光吸収層200上にGaNを結晶成長させることにより形成する際、格子欠陥が障壁層160の厚さ方向(即ち、図中、Z方向)に沿って受け継がれることにより、障壁層160の厚さ方向に沿って延びるように筋状に形成される。
【0042】
尚、エネルギー選択性コンタクト準位ESCLは、本発明に係る「特定のエネルギー準位」の一例である。
【0043】
尚、障壁層160(即ち、GaN)のバンドギャップE2gの大きさは、3.4eVであり、障壁層160の格子定数aは、3.18(Å)である。
【0044】
よって、光吸収層200において光が吸収されることによって発生したホットキャリア(即ち、電子300e及びホール300h)のうち、光吸収層200の伝導帯における下端のエネルギー準位E1BL以上となったキャリア(つまり、電子300e)を、エネルギー選択性コンタクト準位ESCLが形成された障壁層160を介して負電極110側へ選択的に到達させることができる。従って、光吸収層200において発生したホットキャリアである電子300eを負電極110側へ到達させる効率を向上させることができ、この結果、光電変換効率を向上させることが可能となる。
【0045】
更に、本実施形態では特に、上述したように、障壁層160におけるエネルギー選択性コンタクト準位ESCLは、障壁層160を構成するGaNに含まれる格子欠陥169に起因する欠陥準位として形成されているので、仮に、障壁層160に、量子ドットを形成することでエネルギー選択性コンタクト準位ESCLを形成する場合と比較して、障壁層160を簡易な構成とすることができる(言い換えれば、障壁層160を容易に形成することができる)。従って、障壁層160におけるエネルギー選択性コンタクト準位ESCLのレベルを格子欠陥169の密度によって比較的容易に制御することが可能であるので、光吸収層200で発生したホットキャリア(つまり、光吸収層200の伝導帯における下端のエネルギー準位E1BL以上となった電子300e)を光吸収層200側から表面負電極170側へ到達させる効率を向上させることができ、この結果、光電変換効率を向上させることが可能となる。
【0046】
尚、電子障壁層150は、上述したように、p+型AlInNを結晶成長させることにより形成されており、バンドギャップ及びこのバンドギャップ中の欠陥による準位E3DLは大きく歪んでいる。このため、光吸収層200において発生した電子300eは、電子障壁層150を通り抜けることができない。よって、光吸収層200において発生した電子300eは、エネルギー選択性コンタクト準位ESCLが形成された障壁層160を介して表面負電極170側にのみ到達でき、電子障壁層150を介して正電極120に到達することはない。
【0047】
一方、光吸収層200において発生したホットキャリアとしてのホール300hは、電子障壁層150によって誘起される電界によって、電子障壁層150を通り抜けてホール移動層140に到達する。ホール移動層140に到達したホール300hは、ホール移動層140内を自由に移動して正電極120に導かれる。
【0048】
尚、基板100をサファイア基板に代えて例えばp+型窒化ガリウム(GaN)からなるように構成する場合には、基板100がホール移動層として機能することができるので、ホール移動層140を設けなくてもよい。
【0049】
以上詳細に説明したように、本実施形態に係る太陽電池10によれば、光電変換効率を向上させることができる。更に、比較的簡易な構成であるので、製造プロセスにおける工程数の削減も可能であり、製造コストの低減を図ることも可能となる。
【0050】
尚、本実施形態では、光吸収層200がInNから形成される共に障壁層160がGaNから形成されるように構成したが、例えば、光吸収層200がヒ化インジウム(InAs)から形成されると共に障壁層160がヒ化アルミニウム(AlAs)又はヒ化ガリウム(GaAs)から形成されるように構成してもよい。この場合にも、障壁層160に、エネルギー選択性コンタクト準位を、格子欠陥及び不純物の少なくとも一方に起因する欠陥準位或いは不純物準位として好適に形成することが可能である。
<第2実施形態>
第2実施形態に係る太陽電池について、図5を参照して説明する。ここに図5は、第2実施形態に係る太陽電池の障壁層の断面を模式的に示す断面図である。尚、図5では、第2実施形態に係る太陽電池の障壁層の断面が、上述した第1実施形態で示した図3に対応した断面として示されている。
【0051】
第2実施形態に係る太陽電池は、上述した第1実施形態における障壁層160に代えて障壁層160bを備える点で、上述した第1実施形態に係る太陽電池と異なり、その他の点については、上述した第1実施形態に係る太陽電池と概ね同様に構成されている。
【0052】
図5において、第2実施形態に係る太陽電池の障壁層160bは、光吸収層200上に、GaNを結晶成長させることにより形成されている。
【0053】
本実施形態では特に、障壁層160bは、不純物161を含むように形成されており、この不純物161に起因した不純物準位としてエネルギー選択性コンタクト準位ESCL(図4参照)が形成されている。つまり、上述した第1実施形態では、格子欠陥169に起因した欠陥準位としてエネルギー選択性コンタクト準位ESCLが障壁層160に形成されているのに対して、本実施形態では、不純物161に起因した不純物準位としてエネルギー選択性コンタクト準位ESCLが障壁層160bに形成されている。
【0054】
よって、本実施形態によっても、上述した第1実施形態と概ね同様に、光吸収層200において光が吸収されることによって発生したホットキャリア(即ち、電子300e及びホール300h)のうち、光吸収層200の伝導帯における下端のエネルギー準位E1BL以上となったキャリア(つまり、電子300e)をエネルギー選択性コンタクト準位ESCLが形成された障壁層160bを介して負電極110側へ到達させることができる。更に、障壁層160bを簡易な構成とすることができる(言い換えれば、障壁層160bを容易に形成することができる)。
<第3実施形態>
第3実施形態に係る太陽電池について、図6及び図7を参照して説明する。ここに図6は、第3実施形態に係る太陽電池の障壁層の断面を模式的に示す断面図であり、図7は、第3実施形態に係る太陽電池の障壁層の製造プロセスにおける各工程を順に示す工程図である。尚、図6では、第3実施形態に係る太陽電池の障壁層の断面が、上述した第1実施形態で示した図3に対応した断面として示されている。また、図7は、図6に示した断面に対応して示されている。
【0055】
第3実施形態に係る太陽電池は、上述した第1実施形態における障壁層160に代えて障壁層160cを備える点で、上述した第1実施形態に係る太陽電池と異なり、その他の点については、上述した第1実施形態に係る太陽電池と概ね同様に構成されている。
【0056】
図6において、第3実施形態に係る太陽電池の障壁層160cは、格子欠陥の密度が、光吸収層200側及び表面負電極170側の表面よりも内部のほうが高くなるように形成されている。
【0057】
より具体的には、障壁層160cは、3層構造を有しており、光吸収層200側に形成された第1低欠陥層160c1と、表面負電極170側に形成された第2低欠陥層160c3と、第1低欠陥層160c1及び第2低欠陥層160c3間に形成された高欠陥層160c2とを備えている。
【0058】
高欠陥層160c2には、格子欠陥162が筋状の転移として多数形成されており、高欠陥層160c2の格子欠陥の密度は、第1低欠陥層160c1及び第2低欠陥層160c3の格子欠陥の密度よりも高い。
【0059】
このような障壁層160cは、以下のようにして形成することができる。
【0060】
即ち、先ず、図7の工程(a)に示すように、光吸収層200上に、GaNを結晶成長させることにより第1低欠陥層160c1を形成する。この際、格子欠陥が殆ど或いは全くできないように温度等の条件を設定する。
【0061】
次に、図7の工程(b)に示すように、格子欠陥の密度が第1低欠陥層160c1よりも高くなるように温度等の条件を変更して、第1低欠陥層160c1上に、GaNを結晶成長させることにより高欠陥層160c2を形成する。このように温度等の条件を変更することにより、高欠陥層160c2に筋状の転移としての格子欠陥162を多数形成することが可能である。
【0062】
次に、図7の工程(c)に示すように、第1低欠陥層160c1を形成した際と同様に、格子欠陥が殆ど或いは全くできないように温度等の条件を設定し、高欠陥層160c2上に、GaNを結晶成長させることにより第2低欠陥層160c3を形成する。
【0063】
このようにして、格子欠陥の密度が光吸収層200側及び表面負電極170側の表面よりも内部のほうが高い障壁層160cを形成することができる。
【0064】
本実施形態では特に、障壁層160cは、格子欠陥の密度が、光吸収層200側及び表面負電極170側の表面よりも内部のほうが高くなるように形成されているので、障壁層160cにおいて、格子欠陥に起因する欠陥準位として形成されるエネルギー選択性コンタクト準位ESCLが歪んでしまう(より具体的には、光吸収層200側から表面負電極170側へ向かう方向に沿って、エネルギー選択性コンタクト準位ESCLが大きく変化してしまう)ことを抑制或いは防止できる。よって、光吸収層200において発生したホットキャリアとしての電子を表面負電極170側へ到達させる効率をより一層向上させることができ、この結果、光電変換効率をより一層向上させることが可能となる。
<第4実施形態>
第4実施形態に係る太陽電池について、図8及び図9を参照して説明する。ここに図8は、第4実施形態に係る太陽電池の障壁層の断面を模式的に示す断面図であり、図9は、第4実施形態に係る太陽電池の障壁層の製造プロセスにおける各工程を順に示す工程図である。尚、図8では、第4実施形態に係る太陽電池の障壁層の断面が、上述した第1実施形態で示した図3に対応した断面として示されている。また、図9は、図8に示した断面に対応して示されている。
【0065】
第4実施形態に係る太陽電池は、上述した第1実施形態における障壁層160に代えて障壁層160dを備える点で、上述した第1実施形態に係る太陽電池と異なり、その他の点については、上述した第1実施形態に係る太陽電池と概ね同様に構成されている。
【0066】
図8において、第4実施形態に係る太陽電池の障壁層160dは、不純物の密度が、光吸収層200側及び表面負電極170側の表面よりも内部のほうが高くなるように形成されている。
【0067】
より具体的には、障壁層160dは、3層構造を有しており、光吸収層200側に形成された第1低不純物層160d1と、表面負電極170側に形成された第2低不純物層160d3と、第1低不純物層160d1及び第2低不純物層160d3間に形成された高不純物層160d2とを備えている。
【0068】
高不純物層160d2には、不純物163がドープされており、高不純物層160d2の不純物の密度は、第1低不純物層160d1及び第2低不純物層160d3の不純物の密度よりも高い。
【0069】
このような障壁層160dは、以下のようにして形成することができる。
【0070】
即ち、先ず、図9の工程(a)に示すように、光吸収層200上に、GaNを結晶成長させることにより第1低不純物層160d1を形成する。この際、第1低不純物層160d1に不純物が殆ど或いは全く含まれないような条件下で形成する。
【0071】
次に、図9の工程(b)に示すように、第1低不純物層160d1上に、GaNを結晶成長させると共に不純物163をドープすることにより高不純物層160d2を形成する。
【0072】
次に、図9の工程(c)に示すように、高不純物層160d2上に、GaNを結晶成長させることにより第2低不純物層160d3を形成する。この際、第1低不純物層160d1を形成した際と同様に、第2低不純物層160d3に不純物が殆ど或いは全く含まれないような条件下で形成する。
【0073】
このようにして、不純物の密度が光吸収層200側及び表面負電極170側の表面よりも内部のほうが高い障壁層160dを形成することができる。
【0074】
本実施形態では特に、障壁層160dは、不純物の密度が、光吸収層200側及び表面負電極170側の表面よりも内部のほうが高くなるように形成されているので、障壁層160dにおいて、不純物に起因する不純物準位として形成されるエネルギー選択性コンタクト準位ESCLが歪んでしまう(より具体的には、光吸収層200側から表面負電極170側へ向かう方向に沿って、エネルギー選択性コンタクト準位ESCLが大きく変化してしまう)ことを抑制或いは防止できる。よって、光吸収層200において発生したホットキャリアとしての電子を表面負電極170側へ到達させる効率をより一層向上させることができ、この結果、光電変換効率をより一層向上させることが可能となる。
<第5実施形態>
第5実施形態に係る太陽電池について、図10を参照して説明する。ここに図10は、第5実施形態に係る太陽電池の障壁層の断面を模式的に示す断面図である。尚、図10では、第5実施形態に係る太陽電池の障壁層の断面が、上述した第1実施形態で示した図3に対応した断面として示されている。
【0075】
第5実施形態に係る太陽電池は、上述した第1実施形態における障壁層160に代えて障壁層160eを備える点で、上述した第1実施形態に係る太陽電池と異なり、その他の点については、上述した第1実施形態に係る太陽電池と概ね同様に構成されている。
【0076】
図10において、第5実施形態に係る太陽電池の障壁層160eは、第1障壁層部分160e1及び第2障壁層部分160e2が積層されてなり、第1障壁層部分160e1及び第2障壁層部分160e2間の界面に格子欠陥164を有している。
【0077】
第1障壁層部分160e1は、光吸収層200上に、GaNを結晶成長させることにより形成されている。第2障壁層部分160e2は、第1障壁層部分160e2上に、AlyIn(1−y)N:本実施形態では、y=0.7)を結晶成長させることにより形成されている。
【0078】
ここで、第1障壁層部分160e1(即ち、GaN)のバンドギャップの大きさは、3.4eVであり、第1障壁層部分160e1の格子定数aは、3.18(Å)である。第2障壁層部分160e2(即ち、Al0.7In0.3N)のバンドギャップの大きさは、3.5eVであり、第2障壁層部分160e2の格子定数aは、3.24(Å)である。よって、第1障壁層部分160e1と第2障壁層部分160e2とは、格子定数aが互いに異なるので、第1障壁層部分160e1上に第2障壁層部分160eを形成することで、第1障壁層部分160e1及び第2障壁層部分160e2間の界面に格子欠陥を生じさせることができる。従って、障壁層160eを、格子欠陥の密度が、光吸収層200側及び表面負電極170側の表面よりも内部のほうが高くなるように、容易に形成することができる。つまり、障壁層160eの内部に互いに異なる2種類のナイトライド系半導体(即ち、GaN及びAl0.7In0.3N)間の界面を形成することにより、障壁層160eの内部の格子欠陥の密度を、エネ障壁層160eの光吸収層200側及び表面負電極170側の表面付近の格子欠陥の密度よりも確実に高くすることができる。更に、このような界面の位置は、第1障壁層部分160e1及び第2障壁層160e2の厚さを夫々制御することにより、比較的高精度に制御可能であり、障壁層160eにおける格子欠陥の位置精度を高めることも可能である。
【0079】
尚、本実施形態では、第1障壁層部分160e1(即ち、GaN)及び第2障壁層部分160e2のバンドギャップの大きさは、互いに殆ど同じであるので、障壁層160e内に不必要な電界が生じてしまうことを抑制或いは防止できる。ここで、上述したように、第1障壁層部分160e1(即ち、GaN)のバンドギャップの大きさは、3.4eVであり、第2障壁層部分160e2(即ち、Al0.7In0.3N)のバンドギャップの大きさは、3.5eVである。
【0080】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う光電変換装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0081】
100…基板、110…負電極、120…正電極、140…ホール移動層、150…電子障壁層、160…障壁層、161…不純物、162…格子欠陥、163…不純物、164…格子欠陥、169…格子欠陥、170…表面負電極、200…光吸収層、210…第1半導体、220…第2半導体、ESCL…エネルギー選択性コンタクト準位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の第1及び第2電極と、
該第1及び第2電極間に設けられ、光を吸収する光吸収層と、
該光吸収層及び前記第1電極間に設けられ、格子欠陥及び不純物の少なくとも一方を含む半導体又は絶縁体を含んでなり、前記光吸収層に光が吸収されることにより励起されたキャリアを前記光吸収層側から前記第1電極側へ透過させるための特定のエネルギー準位が前記格子欠陥及び不純物の少なくとも一方に起因して形成されたエネルギー選択性コンタクト部と
を備えることを特徴とする光電変換装置。
【請求項2】
前記エネルギー選択性コンタクト部は、前記格子欠陥及び不純物の少なくとも一方の密度が、前記光吸収層側及び前記第1電極側の表面よりも内部のほうが高くなるように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の光電変換装置。
【請求項3】
前記エネルギー選択性コンタクト部は、互いに異なる2種類の半導体又は絶縁体が積層されてなり、前記2種類の半導体又は絶縁体間の界面に前記格子欠陥を有することを特徴とする請求項2に記載の光電変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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