光電子増倍管
【課題】 応答時間特性の大幅な改善を大量生産可能な構造で実現する。
【解決手段】 ホトカソード(200)から第2段目のダイノードユニット(DY1)は、ホトカソード(200)からの光電子を受ける第1ダイノードを支持しており、第1段目のダイノードユニット(DY2)は、第1ダイノードからの二次電子を受ける第2ダイノードを支持する。また、ダイノードピン(430)は、ホトカソード(200)側から電子増倍部(400)を見たとき、二次電子増倍に寄与する電子増倍部(400)の有効領域(AR1)内において保持される。この構成により、ホトカソード(200)から第1段目のダイノードユニット(DY2)までのフォーカス距離(D)が短縮され、有効領域(AR1)が拡大され、ホトカソード(200)から第1段目のダイノードユニット(DY2)へ向かう光電子の走行時間のバラツキが効果的に低減される。
【解決手段】 ホトカソード(200)から第2段目のダイノードユニット(DY1)は、ホトカソード(200)からの光電子を受ける第1ダイノードを支持しており、第1段目のダイノードユニット(DY2)は、第1ダイノードからの二次電子を受ける第2ダイノードを支持する。また、ダイノードピン(430)は、ホトカソード(200)側から電子増倍部(400)を見たとき、二次電子増倍に寄与する電子増倍部(400)の有効領域(AR1)内において保持される。この構成により、ホトカソード(200)から第1段目のダイノードユニット(DY2)までのフォーカス距離(D)が短縮され、有効領域(AR1)が拡大され、ホトカソード(200)から第1段目のダイノードユニット(DY2)へ向かう光電子の走行時間のバラツキが効果的に低減される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ホトカソードからの光電子の入射に応答して複数段階に分けて順次二次電子を放出していくことにより二次電子のカスケード増倍を可能にする光電子増倍管に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、核医学の分野では次世代PET(Positron-Emission Tomography)装置としてTOF−PET(Time-of-Flight-PET)の開発が盛んに進められている。TOF−PET装置は、体内に投与された放射性同位元素から放出される2本のガンマ線を同時計測するため、被写体を取り囲むよう配置される測定器として、優れた高速応答性を有する大量の光電子増倍管が使用される。
【0003】
特に、より安定した高速応答性を実現するため、複数の電子増倍チャネルを用意し、これら複数の電子増倍チャネルで並行して電子増倍を行うマルチチャネル電子増倍管が、上述のような次世代PETに適用されるケースも増えてきた。例えば、特許文献1に記載されたマルチチャネル電子増倍管は、複数の光入射領域(それぞれが一つの電子増倍チャネルに割り当てられたホトカソード)に区分された1枚の入射面板を有するとともに、これら複数の光入射領域に割り当てられた電子増倍チャネルとして用意された複数の電子増倍部(複数段のダイノードで構成されたダイノードユニットとアノードにより構成)が1本のガラス管内に封入された構造を有する。このように1本のガラス管内に複数の光電子増倍管が含まれるような構造の光電子増倍管は、一般にマルチチャネル光電子増倍管と呼ばれている。
【0004】
上述のようにマルチチャネル光電子増倍管は、入射面板に配置されたホトカソードから放出される光電子を一つの電子増倍部で電子増倍することでアノード出力を得るシングルチャネル光電子増倍管の機能を、複数の電子増倍チャネルが分担する構造を備える。例えば、4つの光入射領域(電子増倍チャネル用のホトカソード)が二次元に配置されたマルチチャネル電子増倍管では、一つの電子増倍チャネルに着目すると、入射面板に対して光電子放出領域(ホトカソードの有効領域)が1/4以下になるため、各電子増倍チャネルにおける電子走行時間差も改善し易くなる。その結果、シングルチャネル光電子増倍管全体における電子走行時間差と比較して、マルチチャネル電子増倍管全体における電子走行時間差の大幅な改善が期待できる。
【特許文献1】国際公開WO2005/091332号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明者らは上述の従来のマルチチャネル光電子増倍管を検討した結果、以下のような課題を発見した。すなわち、従来のマルチチャネル光電子増倍管では、ホトカソードからの光電子の放出位置に応じて、予め割り当てられた電子増倍チャネルで電子増倍が行われるため、電子増倍チャネルごとに電子走行時間差が低減するよう各電極配置が最適設計される。このように、各電子増倍チャネルにおける電子走行時間差の改善により、マルチチャネル光電子増倍管全体の電子走行時間差も改善され、その結果、マルチチャネル光電子増倍管全体の高速応答性を向上させている。
【0006】
しかしながら、このようなマルチチャネル光電子増倍管は、電子増倍チャネル間の平均電子走行時間差のバラツキについては何ら改善されていない。また、ホトカソードが形成される入射面板における光出射面(密封容器内部に位置する面)は、該密封容器の管軸を含む中心領域を取り囲む周辺領域、特に光出射面と管胴の内壁とが交差する境界部分(光出射面のエッジ部)では光出射面の形状は歪んでしまう。この場合、ホトカソード−ダイノード間あるいはホトカソード−集束電極間の等電位線に乱れが生じてしまうため、1つのチャネル内においても光電子の放出位置によって迷走する光電子が発生する可能性がある。このような迷走する光電子の存在は、更なる高速応答性の改善のためには無視できない。
【0007】
さらに、TOF−PET装置の製造では、大量の光電子増倍管が必要となるため、TOF−PET装置などに適用される光電子増倍管には、より大量生産に適した構造が採用されることが望まれる。
【0008】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたものであり、ホトカソードから放出される光電子の、放出位置に依存する光電子走行時間差の低減を、より大量生産に適した構造で実現することにより、全体としてT.T.S. (Transit Time Spread)やC.T.T.D. (Cathode Transit TimeDifference)などの応答時間特性が大幅に改善された光電子増倍管を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
現在、PET装置にTOF(Time-of-Flight)機能が付加されたPET装置の開発が行われている。このTOF−PET装置で使用される光電子増倍管は、C.R.T.(CoincidenceResolving Time)応答特性も重要となる。従来の光電子増倍管は、TOF−PET装置のC.R.T.応答特性に対する要求を満たしていなかった。そのため、この発明では、既存のPET装置をベースとするため、バルブ外径は現状を維持し、TOF−PET装置の要求を満たすC.R.T.測定が可能になるように軌道設計される。具体的には、C.R.T.応答特性と相関のあるT.T.S.を改善する事とし、入射面板の全面におけるT.T.S.と各入射領域におけるT.T.S.のそれぞれが改善されるように軌道設計される。
【0010】
この発明に係る光電子増倍管は、内部が所定の真空度まで減圧された密封容器を備えるとともに、それぞれが該密封容器内に配置された、ホトカソードと、複数段のダイノードユニットを含む電子増倍部と、アノードを備える。さらに、当該光電子増倍管は、複数段のダイノードユニットそれぞれを所定電位に設定するための複数のリードピン(以下、ダイノードピンという)を備える。ホトカソードは、所定波長の光に応答して光電子を該密封容器内に放出する。電子増倍部は、ホトカソードから到達した光電子に応答して二次電子を放出し、該二次電子を順次カスケード増倍していくよう、N(≧2)段のダイノードユニットを含む。これらN段のダイノードユニットは、ホトカソードからアノードに向かって絶縁スペーサを介して積層されている。また、これらダイノードユニットそれぞれは、それぞれが同電位に設定される1又はそれ以上のダイノードを有する。アノードは、ホトカソードとともに電子増倍部を挟むように密封容器内に配置され、電子増倍部から放出された二次電子を捕獲する。複数のダイノードピンは、それぞれ一端が対応するダイノードユニットに電気的に接続された状態で固定されている。
【0011】
特に、この発明に係る光電子増倍管は、ホトカソード側から電子増倍部を見たとき、複数段のダイノードユニットを構成する全ダイノードを包含する最小視野領域で規定される、電子増倍部における有効領域内において、複数のダイノードピンを保持する構造を備える。なお、この明細書において、電子増倍部における有効領域とは、二次電子増倍に寄与する、ホトカソード側から見たときの視野領域であって、電子増倍部の電子入射面として、密封容器における管胴の中心軸に直交する平面上に規定される。より具体的には、電子増倍部に含まれる全ダイノードの輪郭線を電子増倍部の電子入射面上に投影したときに、輪郭線の全投影成分を包含する最小領域である。したがって、電子増倍部の有効領域を規定する境界線は、いずれかのダイノード輪郭線の投影成分の一部に一致している。
【0012】
従来の光電子増倍管では、ダイノードピンは、ダイノードが配置される電子増倍部の有効領域を避けた該有効領域の周辺、具体的にはダイノードを支持しているフレームの外周に沿って配置される。一方、この発明に係る光電子増倍管では、電子増倍部の有効領域内にダイノードピンが配置されるため、従来の光電子増倍管よりも電子増倍部の有効領域を拡大することが可能になる。また、有効領域が拡大されることにより電子増倍部の電子入射面に対面しているホトカソードのうち特に周辺から放出される光電子の軌道修正の程度が少なくなるため、フォーカス距離(ホトカソードから第1段目のダイノードユニットに到達するまでの光電子の走行距離)が大幅に低減される。
【0013】
ダイノードユニットそれぞれにおいて、それぞれが同電位に設定される複数のダイノードは、少なくとも2つのダイノードによって対応するダイノードピンの固定された一端を挟むように配置されている。具体的には、ホトカソードからアノードに向かって第n(2≦n≦N)段目のダイノードユニットは、それぞれ同電位に設定された複数のダイノードと、これら複数のダイノードの間隔を一定に保持するための支持フレームと、複数のダイノードピンのうち対応するダイノードピンを含む。支持フレームは、その一部には複数のダイノードのうち少なくとも2つのダイノードの間に位置する形状を有するとともに、第(n−1)段目のダイノードユニットに対応するダイノードピンを電気的に接触することなく貫通させるための貫通孔が設けられている。
【0014】
また、第n段目のダイノードユニットと第(n+1)段目のダイノードユニットとの間に位置する絶縁スペーサの一部は、第(n−1)段目のダイノードユニットに対応するダイノードピンを保持する貫通孔を有し、第n段目のダイノードユニットに固定されることにより、該第n段目のダイノードユニットの一部を構成する。このとき、絶縁体スペーサは、貫通孔の中心が第n段目のダイノードユニットにおける支持フレームの一部に設けられた貫通孔の中心と一致するよう配置される。さらに、第n段目のダイノードユニットと第(n+1)段目のダイノードユニットとの間に位置する絶縁スペーサは、第n段目のダイノードユニットに対応したダイノードピンの、ホトカソードからアノードへ向かう方向に沿った位置を規定するための構造を有する。
【0015】
より具体的には、第n段目のダイノードユニットの支持フレームは、複数のダイノード全てを挟むように配置された一対の支持部と、これら一対の支持部に両端が固定されるとともに同電位に設定される複数のダイノードのうち少なくとも2つのダイノードに挟まれるよう配置された連結部とで構成されたH形状であるのが好ましい。このとき、連結部には、対応するダイノードピンの一端が固定される構造が設けられる。同様に、第n段目のダイノードユニットと第(n+1)段目のダイノードユニットの間に位置する絶縁スペーサ(第n段目のダイノードユニットの一部を構成する)も、ダイノードの支持空間及びダイノードピンの支持構造のための空間を確保するため、H形状を有する。すなわち、この絶縁スペーサも、第n段目のダイノードユニットにおける支持フレームの一対の支持部に対応した一対の支持部と、第n段目のダイノードユニットにおける支持フレームの連結部に対応した連結部を有する。なお、絶縁スペーサをH形状とすることで、ダイノードユニットそれぞれを密着した状態で積層してもダイノードユニット間に空間を設けることができるので、製造工程において排気が容易になるとともに、アルカリ金属蒸気をホトカソードから各ダイノードユニットに十分に供給することが可能になる。なお、アルカリ金属蒸気は、ホトカソード、各ダイノードにおける二次電子放出面を形成するための材料ガスである。
【0016】
したがって、第n段目のダイノードユニットにおける支持フレームの連結部に、第(n−1)段目のダイノードユニットに対応するダイノードピンを電気的に接触することなく貫通させるための貫通孔が設けられる。同様に、第n段目のダイノードユニットの一部を構成する絶縁スペーサの連結部にも、第(n−1)段目のダイノードユニットに対応するダイノードピンを保持する貫通孔が設けられ、該絶縁体スペーサは、その貫通孔の中心が第n段目のダイノードユニットにおける支持フレームの連結部に設けられた貫通孔の中心と一致するよう配置されている。
【0017】
絶縁スペーサを支持フレームに固定するための構造及びダイノードピンの位置決め構造の一例として、例えば、第n段目のダイノードユニットと第(n+1)段目のダイノードユニットの間に位置する絶縁スペーサに設けられた貫通孔内には、段差部が形成されている。一方、第n段目のダイノードユニットに対応するダイノードピンには、絶縁スペーサの貫通孔内に形成された段差部に当接されるフランジが設けられている。したがって、この段差部により、第n段目のダイノードユニットに対応したダイノードピンの、ホトカソードからアノードへ向かう方向に沿った位置が規定される。また、このフランジが該絶縁スペーサの段差部に当接された状態で、ダイノードピンの一端が対応するダイノードユニットの支持フレーム(連結部)に固定されると、フランジにより絶縁スペーサ自体が支持フレームに押し当てられることになる。このように絶縁スペーサの貫通孔に形成された段差部とダイノードピンとの協働により、絶縁スペーサを支持フレームに固定するための構造及びダイノードピンの位置決め構造が実現される。
【0018】
さらに、積層されたダイノードユニット間に位置する絶縁スペーサは、複数のスペーサ要素によって構成されてもよい。具体的には、第n段目のダイノードユニットと第(n+1)段目のダイノードユニットの間に位置する絶縁スペーサは、それぞれが同一形状を有するとともに、ホトカソードからアノードに向かう方向に沿って直接接触した状態で積層された複数のスペーサ要素を備える。この場合、スペーサ要素の数を調節することにより、各ダイノードユニット間(支持フレームの間隔)を任意に変更できる。
【0019】
また、第n段目のダイノードユニットと第(n+1)段目のダイノードユニットの間に位置する絶縁スペーサは、第n段目のダイノードユニットにおけるダイノードそれぞれによって挟まれた空間を塞ぐよう配置された複数の遮光部を有してもよい。ここで、複数の遮光部それぞれには、アルカリ金属蒸気を通過させるための複数のスリットが設けられている。積層されたダイノードユニット間に位置する絶縁スペーサに設けられた遮光部は、アノード側において発生した光がホトカソード側へ到達するのを防止するよう機能する一方、スリットが、アノード側からホトカソード側へ向かってホトカソード形成用のアルカリ金属蒸気の通過を可能にする。
【0020】
なお、この発明に係る各実施形態は、以下の詳細な説明及び添付図面によりさらに十分に理解可能となる。これら実施形態は単に例示のために示されるものであって、この発明を限定するものと考えるべきではない。
【0021】
また、この発明のさらなる応用範囲は、以下の詳細な説明から明らかになる。しかしながら、詳細な説明及び特定の事例はこの発明の好適な実施形態を示すものではあるが、例示のためにのみ示されているものであって、この発明の範囲における様々な変形および改良はこの詳細な説明から当業者には自明であることは明らかである。
【発明の効果】
【0022】
この発明に係る光電子増倍管によれば、ホトカソードの周辺領域から放出される光電子の軌道修正を少なくすることができ、その結果、フォーカス距離の短い構造が実現可能になるので、T.T.S.やC.T.T.D.などの応答時間特性が大幅に改善される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、この発明に係る光電子増倍管の各実施形態を、図1〜図24を参照して詳細に説明する。なお、図面の説明において、同一部位、同一要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0024】
図1は、この発明に係る光電子増倍管の一実施形態の概略構成を示す一部破断図である。図2は、この発明に係る光電子増倍管における密封容器の構造を説明するための組み立て工程図及び断面図である。また、図3は、図1に示された光電子増倍管の、I-I線に沿った断面構造を示す図である。
【0025】
この発明に係る光電子増倍管は、図1に示されたように、内部を所定の真空度まで減圧するためのパイプ600(真空引き後に中実化される)が底部に設けられた密閉容器100と備えるとともに、この密閉容器100内に設けられたホトカソード200、集束電極ユニット300、電子増倍部400、及びアノードユニット500を備える。
【0026】
密閉容器100は、図2(a)に示されたように、封筒(envelope)部分と、該封筒部分の一端に溶融接合されるとともにパイプ600が設けられた当該密封容器100の底部を構成するステム130から構成されている。封筒部分は、そのトップ部分110が入射面板として機能する(以下、封筒部分のトップ部分を入射面板という)。また、封筒部分は、この入射面板110と所定の管軸AXに沿って伸びた管胴120が一体的に形成された中空ガラス部材である。なお、図2(b)は、図2(a)中のI−I線に沿った密封容器100の断面図であって、特に、管胴120の一部を含む入射面板110近傍の断面を示している。入射面板110は、光入射面110aと、該光入射面110aに対向する光出射面110bを有し、この密封容器100の内側に位置する光出射面110b上にホトカソード200が形成されている。管胴120は、管軸AXを中心とし、該管軸AXに沿って伸びた中空ガラス部材である。この中空部材の一端には入射面板110が位置する一方、他端にはステム130が溶融接合されている。ステム130は、密封容器100の内部と外部を連絡する貫通孔が管軸AXに沿って設けられている。この貫通孔を取り囲むように密封用容器100の内部と外部とを電気的に連絡するためのリードピン700が配置されている。これらリードピン700は、密封容器100の外部に位置するブリーダ回路や、アノード信号を増幅する増幅回路に接続される。ステム130には、貫通孔が設けられた位置に、密封容器100内の空気を排気するためのパイプ600が取り付けられている。なお、パイプ600は、当該光電子増倍管の製造終了時に一端を封じて密封容器100内の真空気密状態を保つようにする。
【0027】
電子増倍部500は、ステム130から当該密閉容器100内に伸びたリードピン700によって、該密閉容器100内の管軸AX方向の設置位置が規定される。また、電子増倍部400の電子入射面上には、ホトカソード200から密封容器100内に放出された光電子の軌道を修正するための、主に集束電極を含む集束電極ユニット300が配置されている。
【0028】
電子増倍部400は、図3に示されたように、ホトカソード200から集束電極ユニット300を介して到達した光電子に応答して二次電子を放出し、該二次電子を順次カスケード増倍していくよう、N(≧2)段のダイノードユニットを含む。この実施形態では、8段のダイノードユニットがホトカソード200からアノードユニット500に向かって絶縁スペーサを介して積層されている。なお、この実施形態において、第1段目に積層されるダイノードユニットは、複数の第2ダイノードを含み、第2段目に積層されるダイノードユニットは、複数の第1ダイノードを含む。第1ダイノードは、ホトカソード200からの光電子の入射に応答して二次電子を放出するダイノードであり、第2ダイノードは、第1ダイノードからの二次電子の入射に応答してさらに二次電子を放出するダイノードである。このように第1ダイノードは、ホトカソード200からの光電子をより効率的に捕獲するため、その二次電子入射面がホトカソード200に直接対面するよう、第2段目のダイノードユニットに保持されている。なお、この実施形態において、各ダイノードの断面形状は、ラインフォーカス型(インライン型)と呼ばれる形状である。
【0029】
以下の説明では、この発明に係る光電子増倍管の一実施形態として、管軸AXを挟んで配置された6系統の電極郡(それぞれが2つの電子増倍チャネルを構成するダイノード群)により12の電子増倍チャネルCH1〜CH12が構成されるマルチチャネル光電子増倍管について説明する。
【0030】
まず、図4は、この発明に係る光電子増倍管の内部ユニット(集束電極ユニット300、電子増倍部400、及びアノードユニット500)の構造を説明するための組み立て工程図である。
【0031】
集束電極ユニット300は、光電子を通過させるための複数の開口が設けられた金属フレーム(集束電極)310と、絶縁スペーサ320a、320bと、リードピン330a、330bにより構成されている。リードピン330a、330bの一端は絶縁スペーサ320a、320bを介して金属フレーム310に固定される一方、電子増倍部400を貫通したリードピン330a、330bの他端は、直接又は金属配線を介してステム130に固定されたリードピン700に電気的に接続される。
【0032】
電子増倍部400は、絶縁スペーサを介して積層された8段のダイノードユニットDY1〜DY8を含む。なお、この明細書では、第1ダイノードは、ホトカソード200からの光電子を最初に到達するダイノードであって、以下、二次電子が到達する順に第2〜第8ダイノードという。上述のように、この実施形態では、第1段目のダイノードユニットには第2ダイノードが保持され、第2段目のダイノードユニットには第1ダイノードが保持されている。したがって、以下の説明では、第2ダイノードを保持している第1段目のダイノードユニットをDY2で表すとともに、第1ダイノードを保持する第2段目のダイノードユニットをDY1で表し、以降のダイノードユニットを保持するダイノードが分かるようそれぞれDY3〜DY8で表す。この実施形態では、ダイノードユニットDY8が最終段ダイノードを一体的に保持している。
【0033】
ダイノードユニットDY1〜DY8それぞれの基本構造は同じであり、例えば、第4段目のダイノードユニットDY4(第4ダイノードを保持している)は、複数の第4ダイノードを支持する支持フレーム410と、絶縁スペーサ420と、当該第4段目のダイノードユニットDY4を所定電位に設定するためのダイノード用リードピン(ダイノードピン)430によって構成されている。また、ダイノードユニットDY1〜DY8それぞれの支持フレーム410には、上段に位置するダイノードユニットのダイノードピン430を電気的に接続されることなく貫通させるための貫通孔が設けられている。
【0034】
アノードユニット500は、セラミック基板510と、このセラミック基板510に配置された、アノードとして機能する複数の電極(アノード電極)520と、これらアノード電極520に一端が接続された複数のリードピン530を備える。なお、リードピン530の一端は、セラミック基板510を介してアノード電極520に固定される一方、これらリードピン560a、560bの他端は、直接又は金属配線を介してステム130に固定されたリードピン700に電気的に接続される。
【0035】
上述の集束電極ユニット300、複数段のダイノードユニットDY1〜DY8、及びアノードユニット500それぞれは、ホトカソード200からアノードユニット500へ向かう方向に沿って積層される。このような積層ユニットの側面に積層したダイノードや各ユニットのズレを防止するための絶縁性の側壁基板部材510a〜510d(図6参照)が取り付けられることにより、積層状態が維持される。以上の組み立て工程を経て完成された内部ユニット(集束電極ユニット、電子増倍部、及びアノードユニットが一体的に積層されたユニット)の概観が図5に示されている。この図5に示されたように、ダイノードユニットDY1〜DY8それぞれに対応したダイノードピン430は、後述する電子増倍部400の有効領域AR1内において一直線状に配列された状態で、アノードユニット500のセラミック基板510を貫通している。これらダイノードピン430の他端は、直接又は金属配線を介してステム130から伸びたリードピン700に電気的に接続される。
【0036】
なお、第1段目のダイノードユニットDY2、第2段目のダイノードユニットDY1、第3段目のダイノードユニットDY3、…、第8段目のダイノードユニットDY8それぞれの設定電位は、順次二次電子を次段のダイノードへ導くため、第1ダイノードから第8ダイノードの順に高くなっている。すなわち、アノードユニット500におけるアノード電極520の電位は、第8ダイノードの電位よりも高い。一例として、ホトカソード200は−1000V、第2段目のダイノードユニットDY2に保持された第1ダイノードは−800V、第1段目のダイノードユニットDY1に保持された第2ダイノードは−700V、第3段目のダイノードユニットDY3に保持された第3ダイノードは−600V、第4段目のダイノードユニットDY4に保持された第4ダイノードは−500V、第5段目のダイノードユニットDY5に保持された第5ダイノードは−400V、第6段目のダイノードユニットDY6に保持された第6ダイノードは−300V、第7段目のダイノードユニットDY7に保持された第7ダイノードは−200V、第8段目のダイノードユニットDY8に保持された第8ダイノードDY8は−100V、そして、アノード電極520はグランド電位(0V)に設定される。また、集束電極ユニット300は第2段目のダイノードユニットDY1に保持された第2ダイノードと同電位に設定される。
【0037】
ホトカソード200から放出された光電子は、該第2ダイノードと同電位に設定された集束電極ユニット300の金属フレーム310に設けられた開口を通過した後、第2段目のダイノードユニットDY1に保持された第1ダイノードへ到達する。第1ダイノードの電子到達面には二次電子放出面が形成されており、光電子の入射に応答して該第1ダイノードから二次電子が放出される。第1ダイノードから放出された二次電子は、該第1ダイノードよりも高い電位に設定された、第1段目のダイノードユニットDY2に保持された第2ダイノードに向かって進行する。第2ダイノードの電子到達面にも二次電子放出面が形成されており、この第2ダイノードの二次電子放出面から放出された二次電子は、該第2ダイノードよりも高い電位に設定された、第3段目のダイノードユニットDY3に保持された第3ダイノードに向かって進行する。同様に、第3ダイノードの二次電子放出面から放出された二次電子は、第4〜第8段目のダイノードユニットDY4〜DY8それぞれに保持された、第4ダイノード、第5ダイノード、第6ダイノード、第7ダイノード、第8ダイノードの順に進行するごとにカスケード増倍される。そして、最終段(第8段目)のダイノードユニットDY8に保持された第8ダイノードから放出された二次電子が、アノードユニット500のアノード電極520に到達し、リードピン530に電気的に接続されたリードピン700を介して密封容器100の外部に取り出される。
【0038】
次に、集束電極ユニット300の具体的な構造を、図6を用いて説明する。なお、図6は、集束電極ユニット300の構成を説明するための組み立て工程図である。
【0039】
図6に示されたように、集束電極ユニット300は、光電子を通過させるための複数の開口が設けられた金属フレーム(集束電極)310と、絶縁スペーサ320a、320bと、リードピン330a、330bにより構成されている。
【0040】
具体的に、金属フレーム310は、電子増倍部400の有効領域全体を包含する程度の開口面積を有する外枠と、それぞれ2つの電子増倍チャネル分のダイノードを露出させる開口を区切るための分離フレームから構成されている。外枠の下面(アノードユニット500に対面する面)には、一対の絶縁スペーサ320a、320bが固定される。これら絶縁スペーサ320a、320bは、電子増倍部400と当該収束電極ユニット300とを電気的に分離するとともに、これらユニット400、300間の間隔を一定に維持するよう機能する。絶縁スペーサ320a、320bには、金属フレーム310のリードピン330a、330bを通過させる貫通孔が設けられている。また、リードピン330a、330bの一端は、金属フレーム310の上部で溶接、カシメ等により固定され、リードピン330a、330bの他端はステム130に固定されたリードピン700に直接又は間接的に接続される。収束電極ユニット300の組み立ては、金属フレーム310と絶縁スペーサ320a、320bを重ねた状態で、それぞれの貫通孔にリードピン(330a、330b)を貫通させ、それらリードピン330a、330bの端部を金属フレーム310に溶接もしくはカシメで固定する。リードピン330a、330bにはフランジ331a、331bがそれぞれ設けられており、これらフランジ331a、331bは、絶縁スペーサ320a、320bに設けられた貫通孔を通過できないので(すなわち、絶縁スペーサ320a、320bの貫通孔の内径はフランジ331a、331bの外径よりも小さい)、この組み立て作業により収束電極ユニット300を構成する各部材は一体化される。さらに、外枠の外周には側壁基板部材510a〜510dを取り付けるための固定片310a〜310dが設けられている。図6には側壁基板部材510a〜510dのうち側壁基板部材510aのみが示されている(側壁基板部材510b〜510dは図示を省略)。この側壁基板部材510aの一端には係合部511aが設けられている。図4に示されたように、収束電極ユニット300、電子増倍部400及びアノードユニット500が積層された後、この固定片310aと係合部511aとが結合することにより、側壁基板部材510aが積層構造を維持するよう機能する。なお、図示されていないが、残りの側壁基板部材510b〜510dも側壁基板部材510aと同じ構造を有するとともに同様に機能する。
【0041】
一方、リードピン330a、330bそれぞれには、絶縁スペーサ320a、320bに当接されるフランジが設けられている。このようにリードピン330a、330bそれぞれにフランジが設けられることにより、リードピン330a、330bが金属フレーム310に固定されると同時に、フランジが絶縁スペーサ320a、320bを金属フレーム310に押し当てるよう機能し、これにより、絶縁スペーサ320a、320bそれぞれが金属フレーム310に固定される。なお、収束電極ユニット300の組み立ては、金属フレーム310にリードピン330a、330bを固定した後に、リードピン330a、330bを貫通させた状態で絶縁スペーサ320a、320bを金属フレーム310に固定される順序で行われてもよい。
【0042】
図7は、電子増倍部400の一部を構成する第4段目のダイノードユニットDY4の第1の構成例を説明するための組み立て工程図及び断面図である。なお、電子増倍部400を構成するダイノードユニットDY1〜DY8の基本構造は、図7に示された第4段目のダイノードユニットDY4と同じである。また、図7(b)〜(d)は、それぞれ支持フレーム410における連結部410bの断面図である。
【0043】
基本的に、第4、第6及び第8段目のダイノードユニットDY4、DY6、DY8それぞれで保持されるダイノードの断面形状は、同じであり、第5及び第7段目のダイノードユニットDY5、DY7それぞれで保持されるダイノードの断面形状は、同じである。また、各段のダイノードユニットDY1〜DY8は、金属製の支持フレーム410と、ダイノードユニットDY1〜DY8間を電気的に分離するとともにこれらダイノードユニットDY1〜DY8間の間隔を規定するためのセラミック製の絶縁スペーサ420と、ダイノードユニットDY1〜DY8それぞれを所定の電位に設定するためにこれらダイノードユニットDY1〜DY8それぞれに用意された金属製のダイノードピン430から構成されている。
【0044】
例えば、図7(a)に示されたように、第4段目のダイノードユニットDY4の場合、支持フレーム410は、複数のダイノード414全てを挟むように配置された一対の支持部410aと、これら一対の支持部410aに両端が固定されるとともに同電位に設定される連結部410bとで構成されている。特に連結部410bは、複数のダイノード414のうち少なくとも2つのダイノードに挟まれるよう配置されており、このように連結部410bが配置されることにより、支持フレーム410はH形状を有する。
【0045】
連結部410bには、少なくとも上段のダイノードユニット(第4段目のダイノードユニットDY4の場合、第1〜第3段目のダイノードユニットDY1〜DY3)に対応したダイノードピンを、電気的に接触することなく貫通させるための貫通孔411と、対応するダイノードピン430の一端を貫通させた状態で溶接、カシメ等により固定する貫通孔が設けられている。このとき、支持フレーム410と対応するダイノードピン430の一端は電気的に接続される一方、ダイノードピン430の他端は、下段に位置するダイノードユニットを貫通した状態で直接又は間接的にステム130に固定されたリードピン700に接続される。連結部410bには、電子増倍部400の上方に位置する収束電極ユニット300に一端が電気的に接続された状態で固定されたリードピン330a、330bを、ステム130側に貫通させるための貫通孔415も設けられている。さらに、連結部410bには、上段のダイノードユニット(第4段目のダイノードユニットDY4の場合、第3段目のダイノードユニットDY3)の絶縁スペーサと位置合わせするためのエンボス412と、支持フレーム410自体に直接固定される絶縁スペーサ420と位置合わせするためのエンボス413が設けられている。特に、図7(b)は、図7(a)中のIII-III線に沿った、連結部410bにおける貫通孔411の断面構造を示し、図7(c)は、図7(a)中のIV-IV線に沿った、連結部410bにおけるエンボス412の断面構造を示し、そして、図7(d)は、図7(a)中のV-V線に沿った、連結部410bにおけるエンボス413の断面構造を示す。
【0046】
絶縁スペーサ420も支持フレーム410と同様にH形状を有し、支持フレーム410を構成する一対の支持部410a及び連結部410bに対応した部分を有する。すなわち、絶縁スペーサ420も、一対の支持部と、連結部を有する。特に、絶縁スペーサ420の連結部にも、支持フレーム410の連結部410bに設けられた貫通孔411、415に対応した位置に貫通孔423が設けられている。これら貫通孔423は、支持フレーム410の連結部410bに設けられた貫通孔411、415の中心と一致するよう配置されている。
【0047】
さらに、絶縁スペーサ420は、各段のダイノードユニット間を電気的に分離するだけでなく、ダイノードユニット間の間隔を規定する。そのため、この実施形態では、絶縁スペーサ420が同一形状を有する複数のスペーサ要素420a、420bにより構成されている。これらスペーサ要素の数を調節することによりダイノードユニット間(支持フレームの間隔)を任意に変更できる。なお、絶縁スペーサ420を構成するスペーサ要素420a、420bは、ホトカソード200からアノードユニット500に向かう方向に沿って直接接触した状態で積層されている。例えば、この実施形態では、第1段目のダイノードユニットDY2と第2段目のダイノードユニットDY1の間、第2段目のダイノードユニットDY1と第3段目のダイノードユニットDY3の間、及び第3段目のダイノードユニットDY3と第4段目のダイノードユニットDY4の間には、一枚のスペーサ要素が設置される。また、第4段目〜第8段目のダイノードユニットDY4〜DY8の間にはそれぞれ2枚のスペーサ要素が設置される。なお、第8段目のダイノードユニットDY8とアノードユニット500との間には、8枚のスペーサ要素は設置されている。
【0048】
ダイノードユニットDY1〜DY8それぞれの組み立ては、支持フレーム410と絶縁スペーサ420を重ね、それぞれの貫通孔411、423にダイノードピン430を貫通させた状態で該ダイノードピン430を支持フレーム410に固定する。すなわち、支持フレーム410の上面側において、ダイノードピン430と支持フレーム410を溶接するかもしくはダイノードピン430の端部をカシメを形成することでダイノードピン430を支持フレーム410に固定する。ここで、収束電極ユニット300の下側には、第2ダイノードを保持しているダイノードユニットDY2、第1ダイノードを保持しているダイノードユニットDY1の順で各ダイノードユニットが積層されているが、電子の増倍は、第2段目のダイノードユニットDY1に保持された第1ダイノード、第1段目のダイノードユニットDY2に保持された第2ダイノードの順で行われる。このような構造が採用されたのは、コンパクトに効率よくダイノードユニットを積層させる一方、最適な電子軌道を実現するためである。
【0049】
ここで、1対の支持部410aによって両端が支持された複数のダイノード414は、図8に示されたように、該一対の支持部410aと一体的に成型され、支持フレーム410の一部を構成している。
【0050】
すなわち、図8(a)に示されたように、一枚の金属プレートから、支持フレーム410とダイノードとなるべきプレート部分が一体的に型抜きされる。支持フレーム410に両端が連結されているプレート部分は、さらに、プレス加工により、ダイノードとなるべき窪みが形成される。具体的には、図8(b)に示されたように、隣接するように2つの窪みが形成され、これらが互いに隣接する2つの電子増倍チャネルとなる。続いて、矢印S1で示された方向に2つのダイノードが形成されたプレート部分を折り曲げることにより、支持フレーム410に一体的に保持されたダイノード414が得られる(図8(c))。
【0051】
図9は、ダイノードユニット間に配置される絶縁スペーサ420の構成を説明するための斜視図及び断面図である。特に、図9では、絶縁スペーサ420を構成するスペーサ要素420a(420b)の構造が示されており、このスペーサ要素420a(420b)は、図9(a)に示されたように、支持フレーム410と同様にH形状を有する。すなわち、スペーサ要素420a(420b)は、支持フレーム410の一対の支持部410aに対応する一対の支持部421と、支持フレーム410の連結部410bに対応する連結部422から構成されている。
【0052】
スペーサ要素420a(420b)の連結部422には、支持フレーム410の連結部410bの貫通孔411、415に対応した位置に貫通孔423、426が設けられている。また、連結部422には、支持フレーム410と位置合わせするためのエンボス424と、下側に位置するダイノードユニットの支持フレームと位置合わせするためのエンボス425が設けられている。ここで、複数のスペーサ要素が積層されることにより絶縁スペーサ420が構成されている場合、エンボス424、425は機能しない。なお、図9(b)は、図9(a)中のVI-VI線に沿った、連結部422における貫通孔423の断面構造を示し、図9(c)は、図9(a)中のVII-VII線に沿った、連結部422におけるエンボス424の断面構造を示し、そして、図9(d)は、図9(a)中のVIII-VIII線に沿った、連結部422におけるエンボス425の断面構造を示す。
【0053】
図10は、ダイノードユニットの積層構造を説明するための断面図である。上述のように、各段のダイノードユニットDY1〜DY8は、複数のダイノード414を保持する支持フレーム410と、絶縁スペーサ420と、一端が半田432により支持フレーム410に溶接接続されたダイノードピン430により構成されている。これら要素410、420、430が一体的に組み立てられると、図10(a)に示されたように、上段に位置するダイノードユニットのダイノードピンを、直下に位置するダイノードユニットの貫通孔に差し込んでいく。この工程を順次繰り返していくことにより、図10(b)に示されたような、ダイノードユニットの積層構造が得られる。なお、図10には、上段のダイノードユニットとして第3段目のダイノードユニットDY3、直下のダイノードユニットとして第4段目のダイノードユニットDY4が示されている。なお、各ダイノードユニットの組み立て順序は、支持フレーム410と対応するダイノードピン430の一端が固定された後に、絶縁スペーサ420が支持フレーム410に固定されてもよい。この場合、ダイノードピン430のフランジ431は不要である。
【0054】
ここで、絶縁スペーサ420を構成するスペーサ要素420a、420bそれぞれの貫通孔423内には、段差部が形成されている。一方、各段のダイノードユニットに対応するダイノードピン430にはスペーサ420b(複数のスペーサ要素が積層されている場合は最下層のスペーサ要素)の貫通孔423内に形成された段差部に当接されるフランジ431が設けられている。したがって、この段差部により、対応するダイノードピン430の、ホトカソード200からアノードユニット500へ向かう方向に沿った位置が規定される。また、このフランジ431がスペーサ要素420bの段差部に当接された状態で、ダイノードピン430の一端が支持フレーム410(連結部)に固定されると、フランジ431により絶縁スペーサ420全体が支持フレーム410に押し当てられることになる。このようにスペーサ要素420bの貫通孔423に形成された段差部とダイノードピン430との協働により、絶縁スペーサ全体を支持フレーム410に固定するための構造及びダイノードピン430の位置決め構造が実現される。
【0055】
ダイノードユニットの構造は、上述の構造に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、図11は、電子増倍部の一部を構成する第4段目のダイノードユニットの第2の構成例を説明するための組み立て工程図及び斜視図である。また、図12は、電子増倍部の一部を構成する第4段目のダイノードユニットの第3の構成例を説明するための組み立て工程図及び断面図である。なお、以下の説明では、第2及び第3の構成例として、第4段目のダイノードユニットDY4について言及する。
【0056】
図11(a)に示されたように、第2の構成例に係る第4段目のダイノードユニットDY4は、複数のダイノード414aを保持する支持フレーム410Aと、絶縁スペーサ420A、ダイノードピン430を備える。支持フレーム410Aは、複数のダイノード414a全てを挟むように配置された一対の支持部410aと、これら一対の支持部410aに両端が固定されるとともにどう電位に設定される連結部410bとで構成されている。図7(a)に示された第1の構成例に係る支持フレーム410とは、保持するダイノードの形状が異なる。すなわち、第1の構成例における支持フレーム410では、一対の支持部410aによって2つのダイノード414双方が支持される。一方、この第2の構成例における支持フレーム410Aでは、一対の支持部410aによって1つのダイノード414aが支持されている。
【0057】
この第2の構成例における絶縁スペーサ420Aも、第1の構成例における絶縁スペーサ420と同様に、支持フレーム410Aを構成する一対の支持部410a及び連結部410bに対応した部分421A、422Aを有する。ただし、第1の構成例における絶縁スペーサ420がスペーサ要素420a、420bにより構成されていたのに対し、この第2の構成例における絶縁スペーサ420Aは、単一部材で構成されている。
【0058】
なお、ダイノードピン430の構造は、第1及び第2の構成例のいずれも同じ構造である。すなわち、この第2の構成例においても、ダイノードピン430には、位置決め用のフランジ431が設けられている。支持フレーム410Aと絶縁スペーサ420Aを重ね合わせた状態で、ダイノードピン430の一端が、絶縁スペーサ420Aの連結部422Aに設けられた貫通孔を介して支持フレーム410Aに固定されることにより、図11(b)に示されたように第4段目のダイノードユニットDY4が得られる。このとき、支持フレーム410Aとダイノードピン430とは電気的に接続されている。
【0059】
次に、第3の構成例に係るダイノードユニット(図12には、第4段目のダイノードユニットDY4のみが示されている)も、第1及び第2の構成例と同様に、複数のダイノード414aを保持する支持フレーム410Bと、絶縁スペーサ420B、ダイノードピン430を備える。この第3の構成例における支持フレーム410Bは、第2の構成例における支持フレーム410Aと同じ構造を有する。ただし、この第3の構成例における絶縁スペーサ420Bは、第2の構成例と同様に、支持フレーム410Bにおける一対の支持部410aに相当する部分421Bと、連結部410bに相当する422Bを備えるが、ダイノード414aそれぞれの間に位置する空間を覆うように配置された複数の遮光部423Bをさらに備えている点で第2の構成例と異なっている。また、これら複数の遮光部423Bそれぞれには、複数のスリット450が設けられている。この構成により、遮光部423Bは、アノード側からホトカソード側へ向かう光を遮断するよう機能する一方、スリット450は、アノード側からホトカソード側へ、該ホトカソード形成用のアルカリ金属蒸気を通過させるよう機能する。以上のように、第2の構成例に係るダイノードユニット(図7)と当該第3の構成例に係るダイノードユニット(図12)とは、絶縁スペーサの構造について異なっている。
【0060】
この第3の構成例においても、ダイノードピン430は、上述の第1及び第2の構成例と同じ構造である。すなわち、当該第3の構成例においても、ダイノードピン430には、位置決め用のフランジ431が設けられている。支持フレーム410Bと絶縁スペーサ420Bを重ね合わせた状態で、ダイノードピン430の一端が、絶縁スペーサ420Aの連結部422Aに設けられた貫通孔を介して支持フレーム410Bに固定されることにより、図12(b)に示されたように第4段目のダイノードユニットDY4が得られる。このとき、支持フレーム410Aとダイノードピン430とは電気的に接続されている。また、絶縁スペーサ420Bにおける遮光部423Bにより、ダイノード414aそれぞれの間に位置する空間はふさがれる。
【0061】
図13は、アノードユニットの第1の構成を説明するための組み立て工程図である。
【0062】
アノードユニット500は、図13に示されたように、セラミック基板510と、該セラミック基板510に設置される複数のアノード電極520と、各アノード電極520に一端が電気的に接続された状態で固定されるリードピン530(アノードピン)を備える。なお、セラミック基板510にはアノード電極520の配置位置に対応して開口511が設けられるとともに、アノードピン530の一部を通過・支持するための貫通孔512が設けられている。また、セラミック基板510の裏面には、側壁基板部材510a〜510dの他端を当該アノードユニット500に取り付けるための補助部材560a〜560dが設置される。さらに、補助部材560a、560bには、カソード200及びダイノードの二次電子放出面を形成するためのアルカリ源ペレット540が取り付けられるとともに、補助部材560cには、ゲッター550が取り付けられている。アノードユニット500の組み立ては、アノード電極520とセラミック基板510と補助部材560a〜560bを順に重ねた状態で、それぞれの貫通孔にフランジ531を有するリードピン530を貫通させる。このとき、アノード電極520の上面において、アノード電極520とアノードピン530の一端を溶接するか、もしくはアノードピン530の端部をカシメることにより、アノードピン530が、セラミック基板510及び補助部材560a〜560dを介してアノード電極520に固定される。アノードピン530に設けられたフランジ531は、アノードピン530の端部がアノード電極520に固定されることにより、セラミック基板510及び補助部材560a〜560dをアノード電極520に押し当てるよう機能する。
【0063】
なお、図13には側壁基板部材510a〜510dのうち側壁基板部材510aのみが示されている(側壁基板部材510b〜510dは図示を省略)。この側壁基板部材510aの他端にはスリット511bが設けられている。図4に示されたように、収束電極ユニット300、電子増倍部400及びアノードユニット500が積層された後、このスリット511bと補助部材560aの固定片とが結合することにより、側壁基板部材510aが積層構造を維持するよう機能する。なお、図示されていないが、残りの側壁基板部材510b〜510dも側壁基板部材510aと同じ構造を有するとともに同様に機能する。
【0064】
上述のアノードユニット500も種々の構成によって実現可能である。例えば、図14は、アノードユニットの第2の構成例を説明するための組み立て工程図である。また、図15は、アノードユニットの第3の構成例を説明するための組み立て工程図である。
【0065】
図14(a)に示されたように、第2の構成例に係るアノードユニット500は、セラミック基板510Aと、該セラミック基板510Aに設置される複数のアノード電極520と、各アノード電極520に一端が電気的に接続された状態で固定されるリードピン530(アノードピン)を備える。なお、セラミック基板510Aにはアノード電極520の配置位置に対応して開口511Aが設けられるとともに、アノードピン530の一部を通過・支持するための貫通孔が設けられている。アノードピン530それぞれには、位置決め用のフランジ531が設けられている。また、セラミック基板510Aの裏面には、第1の構成例とは異なり、当該アノードユニット500を含む内部ユニットの、密閉容器100内における設置位置を維持するためのスプリング部材570が固定されている。
【0066】
アノードユニット500の組み立ては、アノード電極520と、裏面にスプリング部材570が取り付けられたセラミック基板510Aとを順に重ねた状態で、それぞれの貫通孔にフランジ531を有するアノードピン530を貫通させる。このとき、アノード電極520の上面において、アノード電極520とアノードピン530の一端を溶接するか、もしくはアノードピン530の端部をカシメることにより、アノードピン530が、セラミック基板510Aを介してアノード電極520に固定される。アノードピン530に設けられたフランジ531は、アノードピン530の端部がアノード電極520に固定されることにより、セラミック基板510Aをアノード電極520に押し当てるよう機能する。上述の組み立て工程を経て、図14(b)に示されたような第2の構成例に係るアノードユニット500が得られる。
【0067】
次に、第3の構成例に係るアノードユニット500は、図15(a)に示されたように、反射型のアノード電極520Bを備えることにより、リニアリティを改善することが可能になる。
【0068】
すなわち、第3の構成例に係るアノードユニット500は、セラミック基板510Bと、該セラミック基板510Bに設置される複数の反射型アノード電極520Bを備える。各反射型アノード電極520Bの両端には、電子取り出しようの電極片521Bが設けられている。したがって、各反射型アノード電極520Bに設けられた電極片521Bをセラミック基板510Bに設けられたスリット状の貫通孔に挿入することにより、図15(b)に示されたような第3の構成例に係るアノードユニット500が得られる。
【0069】
密閉容器100内に収納される内部ユニットを構成する各部は、上述のような種々の構成によって実現可能である。一例として、図16には、図6の収束電極ユニット、図12のダイノードユニットを含む電子増倍部、及び図14のアノードユニットを、図4に示されたように一体的に積層された内部ユニットの概観が示されている。すなわち、図16(a)は、ホトカソード側から見た上記他の構成例に係る内部ユニットの斜視図であり、図16(b)は、ステム側から見た上記他の構成例に係る内部ユニットの斜視図である。
【0070】
また、図17には、図12のダイノードユニットの機能を説明するため、図16に示された内部ユニットの、XVIII−XVIII線に沿った断面図が示されている。なお、図12に示されたダイノードユニットは、それぞれに複数のスリット450が設けられた複数の遮光部423Bを有する絶縁スペーサ420Bを備える。この図17中に示された矢印B1は、ステム側からホトカソード側に向かって、各段のダイノードユニットを通過していくアルカリ金属蒸気の伝搬経路を示す。一方、矢印B2は、アノード電極520近辺で生じた光の伝搬経路を示す。この図17に示されたように、各段のダイノードユニットを構成する絶縁スペーサ420Bにおいて、各ダイノード414aの間に位置する空間を覆うように配置された遮光部423Bが、アノード電極520近辺で発生した光のほとんどを遮光する。また、遮光部423Bに設けられたスリット450を通過した光も、上段に位置するダイノード414aにより遮光される。一方、ステム側からホトカソード側へ向かうアルカリ金属蒸気は、各段のダイノードユニットが所定距離だけ離間した状態で積層された構造、また、各遮光部423Bに複数のスリット450が設けられた構造により、スムーズに流れることになる。
【0071】
なお、上述の実施形態では、各段のダイノードユニットDY1〜DY8で保持されるダイノードは、ラインフォーカス形状を有しているが、ダイノードの形状は上述のラインフォーカス形状には限定されない。例えば、図18(a)に示されたダイノードユニットDYは、それぞれ電子増倍孔が設けられた2枚の金属プレートを張り合わせたメタルチャネルプレートである。この場合、メタルチャネルプレートに設けられた電子増倍孔がダイノードユニットDYによって保持されたダイノードに相当する。また、図18(b)に示されたダイノードユニットDYは、それぞれ開口を有する2枚の金属フレームで、メッシュ電極を挟み込んだ構造を有する。この図18(b)に示されたダイノードユニットDYでは、金属フレームの開口部分がメッシュダイノードとして機能する。また、図18(c)に示されたダイノードユニットDYは、金属フレームとそれに保持されるダイノードとが一体的にエッチング形成されている。
【0072】
以上のように、種々のダイノードが保持された複数段のダイノードユニットDY1〜DY8が積層されることにより、電子増倍部400が得られる。なお、各段のダイノードユニットDY1〜DY8が積層されたとき、各段のダイノードユニットDY1〜DY8に対応したダイノードピンは、図18(d)に示されたように、ダイノード430が配置された空間を貫通するように配置されることになる。ホトカソード200側から見たときの、このようなリードピン430の貫通空間が、電子増増倍部400の有効領域である。
【0073】
図19は、第4段目のダイノードユニットDY4の構造とともに電子増倍部400の有効領域を説明するための、該第4段目のダイノードユニットDY4の平面図及び断面図である。上述のように、各段のダイノードユニットDY1〜DY8は、いずれも同じ構造を有しており、代表して、図19には、第4段目のダイノードユニットDY4が示されている。なお、図19(a)は、ホトカソード200側から見たときの第4段目のダイノードユニットDY4の平面図であり、図19(b)は、図19(a)中のIX-IX線に沿った第4段目のダイノードユニットDY4の断面図、図19(c)は、図19(a)中のX-X線に沿った第4段目のダイノードユニットDY4の断面図である。
【0074】
図19(a)に示されたように、第4段目のダイノードユニットDY4は、それぞれ1つの電子増倍チャネルが形成された複数のダイノード414を保持する支持フレーム410を備える(他のダイノードユニットDY1〜DY3、DY5〜DY8も同様)。電子増倍部400における有効領域AR1は、二次電子増倍に寄与する、ホトカソード200側から見たときの視野領域であって、電子増倍部400の光電子入射面として、密封容器100における管胴120の中心軸AXに直交する平面上に規定される。すなわち、電子増倍部400に含まれる全ダイノード414の輪郭線を電子増倍部400の光電子入射面上に投影したときに、輪郭線の全投影成分を包含する最小領域である。したがって、電子増倍部400の有効領域AR1を規定する境界線は、図19(a)に示されたように、いずいれかのダイノード輪郭線の投影成分の一部に一致している。
【0075】
各段のダイノードユニットDY1〜DY8に対応しているダイノードピン430が、図19(a)に示された電子増倍部400の有効領域AR1内に配置されることにより、以下のような効果が得られる。なお、図20は、この発明に係る光電子増倍管の技術的効果を、従来技術と比較しながら説明するための概念図である。
【0076】
通常、ホトカソード200が形成される入射面板110の光出射面は、図20(a)に示されたように、周辺領域が曲面加工されている。そのため、ホトカソード200の中央付近から放出される光電子と比較して、周辺領域から放出される光電子の軌道は、フォーカス距離Dで規定される空間においてより大きく修正させることになる。この場合、従来の光電子増倍管では、十分なフォーカス距離Dが確保できないと、ホトカソード200の周辺領域から放出される光電子のカスケード増倍ができなくなる(第1ダイノードに到達する前に集束電極等に光電子が衝突してしまう)。
【0077】
すなわち、従来の光電子増倍管では、図20(b)に示されたように、ダイノードピンは、ダイノードが配置される電子増倍部の有効領域を避けた該有効領域の周辺、具体的にはダイノードを支持しているフレームDYaの外周に沿って設けられた固定片DYbに固定される。そのため、フレームDYaの内側に規定される電子増倍部の有効領域AR2は、ダイノードピンの配置スペース分だけ制限されることになる。
【0078】
一方、この発明に係る光電子増倍管では、図20(c)に示されたように、電子増倍部400の有効領域AR3(=AR1)内にダイノードピン430が配置されるため、従来の光電子増倍管よりも電子増倍部の有効領域を拡大することが可能になる。有効領域AR3が拡大されることにより電子増倍部400の光電子入射面に対面しているホトカソード200のうち特に周辺領域から放出される光電子の軌道修正の程度が少なくなる。そのため、フォーカス距離Dが大幅に低減される(光電子増倍管の小型化が可能)。
【0079】
続いて、上述の構造的特徴の効果について、図21を用いてより具体的に説明する。なお、図21は、この発明に係る光電子増倍管における構造的特徴及び効果を説明するため、ホトカソード200から放出される光電子の軌道を説明するための図である。図21(a)は、光入射面110a側から見た入射面板110の平面図であり、電子増倍部400の有効領域AR1は、この入射面板110のカソード有効エリア(実質的に入射面板110における光出射面110bに一致している)に略一致する程度まで拡大されている。ここで、電子増倍部400の有効領域は、図19(a)に示されたように、二次電子増倍に寄与する、ホトカソード200側から見たときの視野領域であって、電子増倍部400の光電子入射面として、密封容器100における管胴120の中心軸AXに直交する平面上に規定される。図21(b)は、図21(a)中に示されたXI−XI線に沿った当該光電子増倍管の断面図であり、図21(c)は、図21(a)中に示されたXII−XII線に沿った当該光電子増倍管の断面図である。
【0080】
なお、図22は、この発明に係る光電子増倍管における構造的特徴及び効果を説明するために用意された第1比較例に係る光電子増倍管の、図21に相当する断面図であって、該第1比較例に係る光電子増倍管における光電子の軌道A2を説明するための図である。用意された第1比較例に係る光電子増倍管は、管胴の中心軸AXに背を向けるように2つの第1ダイノードDY1(それぞれダイノードには2つのチャネルが隣接している)が配置されたマルチチャネル光電子増倍管(4チャネル)である。
【0081】
図22(a)は、第1比較例に係る光電子増倍管の光入射面側から見た入射面板の平面図であり、図21(a)に対応した平面図である。図22(b)は、図22(a)中に示されたXIII−XIII線に沿った当該光電子増倍管の断面図であり、図22(c)は、図22(a)中に示されたXIV−XIV線に沿った当該光電子増倍管の断面図である。
【0082】
この第1比較例に係る光電子増倍管では、ホトカソードから第1ダイノードDY1までの光電子走行距離であるフォーカス距離D2が、この発明に係る光電子増倍管のフォーカス距離D1(図21(b)及び(c))と比較して著しく長い。そのため、ホトカソードの放出位置が異なる光電子の軌道A2の距離バラツキも大きい(光電子走行時間の揺らぎが大きい)。また、この第1比較例に係る光電子増倍管では、ダイノードを保持するためのセラミック基板と、各ダイノードへ所定電圧を印加するためのダイノードピン(電子増倍部の有効領域周辺に配置される)を共に避けるため、ホトカソード周辺領域から放出される光電子の軌道A2を大きく曲げる必要がある。ホトカソードと電子増倍部の間に配置された集束電極などの金属部材への入射や第1ダイノードDY1の側壁部分(二次電子放出面が形成されていない部分)への光電子の入射を避けるためである。このように大幅な軌道修正が行われる、第1比較例に係る光電子増倍管では、ホトカソードの中央付近から放出された光電子と、周辺領域から放出された光電子との間で走行時間差が拡大してしまう。
【0083】
一方、図23は、この発明に係る光電子増倍管における構造的特徴及び効果を説明するために用意された第2比較例に係る光電子増倍管の、図21に相当する断面図であって、該第2比較例に係る光電子増倍管における光電子の軌道を説明するための図である。この第2比較例に係る光電子増倍管も、第1比較例と同様に、4つの電子増倍チャネルを有するマルチチャネル光電子増倍管である。また、図23(a)は、第2比較例に係る光電子増倍管の光入射面側から見た入射面板の平面図であり、図21(a)に対応した平面図である。図23(b)は、図223(a)中に示されたXV−XV線に沿った当該光電子増倍管の断面図であり、図23(c)は、図23(a)中に示されたXVI−XVI線に沿った当該光電子増倍管の断面図である。
【0084】
第2比較例に係る光電子増倍管の基本的な構造は第1比較例と同じであるが、ホトカソードから第1ダイノードDY1までのフォーカス距離D3が、第1比較例に係る光電子増倍管のフォーカス距離D2よりも強制的に短くなるよう設計されている。このように第2比較例では、ホトカソード周辺から放出された光電子の軌道A3を曲げるのに十分なフォーカス距離が確保できないため、ホトカソードと電子増倍部との間に配置された集束電極に衝突してしまう。
【0085】
一方、この発明に係る光電子増倍管によれば(図21)、電子増倍部400の有効領域AR1内にダイノードピンが配置されるため、第1及び第2比較例に係る、従来の光電子増倍管(図22及び23)よりも有効領域AR1が拡大されている。このように有効領域AR1が拡大されることにより電子増倍部400の光電子入射面に対面しているホトカソード200のうち特に周辺から放出される光電子の軌道修正の程度が少なくなる。そのため、フォーカス距離D1が大幅に低減され、ホトカソード200の中央領域から放出された光電子と周辺領域から放出された光電子との間で走行距離の差が小さくなる(走行時間の揺らぎが小さい)。また、電子増倍部400の有効領域AR1の周辺領域が拡大されたことにより、ホトカソード200の周辺領域から放出される光電子の軌道A1を大きく修正することなく第1ダイノード(第1ダイノードユニットDY1)へ光電子を入射させることが可能になる。
【0086】
なお、上述の実施形態では、この発明に係る光電子増倍管における密封容器100は、入射面板と管胴が一体的に形成された封筒部分(管胴120により支持された封筒部分のトップ110が入射面板として機能する)と、排気用パイプ600及びリードピン700を保持するステム130により構成されていた。しかしながら、当該光電子増倍管に適用される密封容器は、上述の構造には限定されない。例えば、図24(a)に示されたように、それぞれが独立したガラス部材である、入射面板910、管胴920、及びステム930により密封容器900が構成されてもよい。入射面板910は、互いに対向する光入射面910aと、光出射面910bを有し、当該密封容器900の内側に位置する入射面板910の光出射面910b上にホトカソード200が形成される。管胴920(バルブ)は、所定の管軸AXに沿って伸びた形状を有し、その一端に入射面板910が溶融接合されている。また、管胴920の他端には、当該密封容器900の底部を構成するステム930が溶融接合され、このステム930にも排気用パイプ940が設けられるとともに、当該密封容器900の内部と外部を電気的に連絡するリードピン950がそれぞれ貫通した状態で設置されている。図24(b)は、図24(a)中に示されたXVII−XVII線に沿った他の密封容器の構造、特に内側にホトカソード200が形成される入射面板910近傍の構造を示す断面図である。このような密封容器900においても、ホトカソード200が入射面板910の光出射面910b上に形成されることにより、上述のような当該光電子増倍管の効果が得られる。
【0087】
以上の本発明の説明から、本発明を様々に変形しうることは明らかである。そのような変形は、本発明の思想および範囲から逸脱するものとは認めることはできず、すべての当業者にとって自明である改良は、以下の請求の範囲に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】この発明に係る光電子増倍管の一実施形態の概略構成を示す一部破断図である。
【図2】この発明に係る光電子増倍管における密封容器の構造を説明するための組み立て工程図及び断面図である。
【図3】図1に示された光電子増倍管の、I-I線に沿った断面構造を示す図である。
【図4】この発明に係る光電子増倍管における、集束電極ユニット、電子増倍部、及びアノードユニットの各構造を説明するための組み立て工程図である。
【図5】図4に示された組み立て工程を経て完成された内部ユニット(集束電極ユニット、電子増倍部、及びアノードユニットが一体的に積層されたユニット)の概観を示す斜視図である。
【図6】集束電極ユニットの構成を説明するための組み立て工程図である。
【図7】電子増倍部の一部を構成する第4段目のダイノードユニットの第1の構成例を説明するための組み立て工程図及び断面図である。
【図8】各ダイノードユニット(図7(a))におけるダイノードの製造方法を説明するための工程図である。
【図9】ダイノードユニット間に配置される絶縁スペーサの構成を説明するための斜視図及び断面図である。
【図10】ダイノードユニットの積層構造を説明するための断面図である。
【図11】電子増倍部の一部を構成する第4段目のダイノードユニットの第2の構成例を説明するための組み立て工程図及び斜視図である。
【図12】電子増倍部の一部を構成する第4段目のダイノードユニットの第3の構成例を説明するための組み立て工程図及び断面図である。
【図13】アノードユニットの第1の構成例を説明するための組み立て工程図である。
【図14】アノードユニットの第2の構成例を説明するための組み立て工程図である。
【図15】アノードユニットの第3の構成例を説明するための組み立て工程図である。
【図16】内部ユニットの他の構成例として、図6の収束電極ユニット、図12のダイノードユニットを含む電子増倍部、及び図14のアノードユニットが一体的に積層された内部ユニットの概観を示す斜視図である。
【図17】図16に示された内部ユニットの、XVIII−XVIII線に沿った断面図である。
【図18】ダイノードユニットに適用可能な各種ダイノードの構造を説明するための一部破断図であり、図18(d)はこの発明の構造的特長を説明するための概念図である。
【図19】ダイノードユニットの構造とともに電子増倍部の有効領域を説明するための、ダイノードユニットの平面図及び断面図である。
【図20】この発明に係る光電子増倍管の技術的効果を、従来技術と比較しながら説明するための概念図である。
【図21】この発明に係る光電子増倍管における構造的特徴及び効果を説明するため、ホトカソードから放出される光電子の軌道を説明するための図である。
【図22】この発明に係る光電子増倍管における構造的特徴及び効果を説明するために用意された第1比較例に係る光電子増倍管の、図21に相当する断面図であって、該第1比較例に係る光電子増倍管における光電子の軌道を説明するための図である。
【図23】この発明に係る光電子増倍管における構造的特徴及び効果を説明するために用意された第2比較例に係る光電子増倍管の、図21に相当する断面図であって、該第2比較例に係る光電子増倍管における光電子の軌道を説明するための図である。
【図24】この発明に係る光電子増倍管における密閉容器の他の構造を説明するための組み立て工程図及び断面図である。
【技術分野】
【0001】
この発明は、ホトカソードからの光電子の入射に応答して複数段階に分けて順次二次電子を放出していくことにより二次電子のカスケード増倍を可能にする光電子増倍管に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、核医学の分野では次世代PET(Positron-Emission Tomography)装置としてTOF−PET(Time-of-Flight-PET)の開発が盛んに進められている。TOF−PET装置は、体内に投与された放射性同位元素から放出される2本のガンマ線を同時計測するため、被写体を取り囲むよう配置される測定器として、優れた高速応答性を有する大量の光電子増倍管が使用される。
【0003】
特に、より安定した高速応答性を実現するため、複数の電子増倍チャネルを用意し、これら複数の電子増倍チャネルで並行して電子増倍を行うマルチチャネル電子増倍管が、上述のような次世代PETに適用されるケースも増えてきた。例えば、特許文献1に記載されたマルチチャネル電子増倍管は、複数の光入射領域(それぞれが一つの電子増倍チャネルに割り当てられたホトカソード)に区分された1枚の入射面板を有するとともに、これら複数の光入射領域に割り当てられた電子増倍チャネルとして用意された複数の電子増倍部(複数段のダイノードで構成されたダイノードユニットとアノードにより構成)が1本のガラス管内に封入された構造を有する。このように1本のガラス管内に複数の光電子増倍管が含まれるような構造の光電子増倍管は、一般にマルチチャネル光電子増倍管と呼ばれている。
【0004】
上述のようにマルチチャネル光電子増倍管は、入射面板に配置されたホトカソードから放出される光電子を一つの電子増倍部で電子増倍することでアノード出力を得るシングルチャネル光電子増倍管の機能を、複数の電子増倍チャネルが分担する構造を備える。例えば、4つの光入射領域(電子増倍チャネル用のホトカソード)が二次元に配置されたマルチチャネル電子増倍管では、一つの電子増倍チャネルに着目すると、入射面板に対して光電子放出領域(ホトカソードの有効領域)が1/4以下になるため、各電子増倍チャネルにおける電子走行時間差も改善し易くなる。その結果、シングルチャネル光電子増倍管全体における電子走行時間差と比較して、マルチチャネル電子増倍管全体における電子走行時間差の大幅な改善が期待できる。
【特許文献1】国際公開WO2005/091332号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明者らは上述の従来のマルチチャネル光電子増倍管を検討した結果、以下のような課題を発見した。すなわち、従来のマルチチャネル光電子増倍管では、ホトカソードからの光電子の放出位置に応じて、予め割り当てられた電子増倍チャネルで電子増倍が行われるため、電子増倍チャネルごとに電子走行時間差が低減するよう各電極配置が最適設計される。このように、各電子増倍チャネルにおける電子走行時間差の改善により、マルチチャネル光電子増倍管全体の電子走行時間差も改善され、その結果、マルチチャネル光電子増倍管全体の高速応答性を向上させている。
【0006】
しかしながら、このようなマルチチャネル光電子増倍管は、電子増倍チャネル間の平均電子走行時間差のバラツキについては何ら改善されていない。また、ホトカソードが形成される入射面板における光出射面(密封容器内部に位置する面)は、該密封容器の管軸を含む中心領域を取り囲む周辺領域、特に光出射面と管胴の内壁とが交差する境界部分(光出射面のエッジ部)では光出射面の形状は歪んでしまう。この場合、ホトカソード−ダイノード間あるいはホトカソード−集束電極間の等電位線に乱れが生じてしまうため、1つのチャネル内においても光電子の放出位置によって迷走する光電子が発生する可能性がある。このような迷走する光電子の存在は、更なる高速応答性の改善のためには無視できない。
【0007】
さらに、TOF−PET装置の製造では、大量の光電子増倍管が必要となるため、TOF−PET装置などに適用される光電子増倍管には、より大量生産に適した構造が採用されることが望まれる。
【0008】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたものであり、ホトカソードから放出される光電子の、放出位置に依存する光電子走行時間差の低減を、より大量生産に適した構造で実現することにより、全体としてT.T.S. (Transit Time Spread)やC.T.T.D. (Cathode Transit TimeDifference)などの応答時間特性が大幅に改善された光電子増倍管を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
現在、PET装置にTOF(Time-of-Flight)機能が付加されたPET装置の開発が行われている。このTOF−PET装置で使用される光電子増倍管は、C.R.T.(CoincidenceResolving Time)応答特性も重要となる。従来の光電子増倍管は、TOF−PET装置のC.R.T.応答特性に対する要求を満たしていなかった。そのため、この発明では、既存のPET装置をベースとするため、バルブ外径は現状を維持し、TOF−PET装置の要求を満たすC.R.T.測定が可能になるように軌道設計される。具体的には、C.R.T.応答特性と相関のあるT.T.S.を改善する事とし、入射面板の全面におけるT.T.S.と各入射領域におけるT.T.S.のそれぞれが改善されるように軌道設計される。
【0010】
この発明に係る光電子増倍管は、内部が所定の真空度まで減圧された密封容器を備えるとともに、それぞれが該密封容器内に配置された、ホトカソードと、複数段のダイノードユニットを含む電子増倍部と、アノードを備える。さらに、当該光電子増倍管は、複数段のダイノードユニットそれぞれを所定電位に設定するための複数のリードピン(以下、ダイノードピンという)を備える。ホトカソードは、所定波長の光に応答して光電子を該密封容器内に放出する。電子増倍部は、ホトカソードから到達した光電子に応答して二次電子を放出し、該二次電子を順次カスケード増倍していくよう、N(≧2)段のダイノードユニットを含む。これらN段のダイノードユニットは、ホトカソードからアノードに向かって絶縁スペーサを介して積層されている。また、これらダイノードユニットそれぞれは、それぞれが同電位に設定される1又はそれ以上のダイノードを有する。アノードは、ホトカソードとともに電子増倍部を挟むように密封容器内に配置され、電子増倍部から放出された二次電子を捕獲する。複数のダイノードピンは、それぞれ一端が対応するダイノードユニットに電気的に接続された状態で固定されている。
【0011】
特に、この発明に係る光電子増倍管は、ホトカソード側から電子増倍部を見たとき、複数段のダイノードユニットを構成する全ダイノードを包含する最小視野領域で規定される、電子増倍部における有効領域内において、複数のダイノードピンを保持する構造を備える。なお、この明細書において、電子増倍部における有効領域とは、二次電子増倍に寄与する、ホトカソード側から見たときの視野領域であって、電子増倍部の電子入射面として、密封容器における管胴の中心軸に直交する平面上に規定される。より具体的には、電子増倍部に含まれる全ダイノードの輪郭線を電子増倍部の電子入射面上に投影したときに、輪郭線の全投影成分を包含する最小領域である。したがって、電子増倍部の有効領域を規定する境界線は、いずれかのダイノード輪郭線の投影成分の一部に一致している。
【0012】
従来の光電子増倍管では、ダイノードピンは、ダイノードが配置される電子増倍部の有効領域を避けた該有効領域の周辺、具体的にはダイノードを支持しているフレームの外周に沿って配置される。一方、この発明に係る光電子増倍管では、電子増倍部の有効領域内にダイノードピンが配置されるため、従来の光電子増倍管よりも電子増倍部の有効領域を拡大することが可能になる。また、有効領域が拡大されることにより電子増倍部の電子入射面に対面しているホトカソードのうち特に周辺から放出される光電子の軌道修正の程度が少なくなるため、フォーカス距離(ホトカソードから第1段目のダイノードユニットに到達するまでの光電子の走行距離)が大幅に低減される。
【0013】
ダイノードユニットそれぞれにおいて、それぞれが同電位に設定される複数のダイノードは、少なくとも2つのダイノードによって対応するダイノードピンの固定された一端を挟むように配置されている。具体的には、ホトカソードからアノードに向かって第n(2≦n≦N)段目のダイノードユニットは、それぞれ同電位に設定された複数のダイノードと、これら複数のダイノードの間隔を一定に保持するための支持フレームと、複数のダイノードピンのうち対応するダイノードピンを含む。支持フレームは、その一部には複数のダイノードのうち少なくとも2つのダイノードの間に位置する形状を有するとともに、第(n−1)段目のダイノードユニットに対応するダイノードピンを電気的に接触することなく貫通させるための貫通孔が設けられている。
【0014】
また、第n段目のダイノードユニットと第(n+1)段目のダイノードユニットとの間に位置する絶縁スペーサの一部は、第(n−1)段目のダイノードユニットに対応するダイノードピンを保持する貫通孔を有し、第n段目のダイノードユニットに固定されることにより、該第n段目のダイノードユニットの一部を構成する。このとき、絶縁体スペーサは、貫通孔の中心が第n段目のダイノードユニットにおける支持フレームの一部に設けられた貫通孔の中心と一致するよう配置される。さらに、第n段目のダイノードユニットと第(n+1)段目のダイノードユニットとの間に位置する絶縁スペーサは、第n段目のダイノードユニットに対応したダイノードピンの、ホトカソードからアノードへ向かう方向に沿った位置を規定するための構造を有する。
【0015】
より具体的には、第n段目のダイノードユニットの支持フレームは、複数のダイノード全てを挟むように配置された一対の支持部と、これら一対の支持部に両端が固定されるとともに同電位に設定される複数のダイノードのうち少なくとも2つのダイノードに挟まれるよう配置された連結部とで構成されたH形状であるのが好ましい。このとき、連結部には、対応するダイノードピンの一端が固定される構造が設けられる。同様に、第n段目のダイノードユニットと第(n+1)段目のダイノードユニットの間に位置する絶縁スペーサ(第n段目のダイノードユニットの一部を構成する)も、ダイノードの支持空間及びダイノードピンの支持構造のための空間を確保するため、H形状を有する。すなわち、この絶縁スペーサも、第n段目のダイノードユニットにおける支持フレームの一対の支持部に対応した一対の支持部と、第n段目のダイノードユニットにおける支持フレームの連結部に対応した連結部を有する。なお、絶縁スペーサをH形状とすることで、ダイノードユニットそれぞれを密着した状態で積層してもダイノードユニット間に空間を設けることができるので、製造工程において排気が容易になるとともに、アルカリ金属蒸気をホトカソードから各ダイノードユニットに十分に供給することが可能になる。なお、アルカリ金属蒸気は、ホトカソード、各ダイノードにおける二次電子放出面を形成するための材料ガスである。
【0016】
したがって、第n段目のダイノードユニットにおける支持フレームの連結部に、第(n−1)段目のダイノードユニットに対応するダイノードピンを電気的に接触することなく貫通させるための貫通孔が設けられる。同様に、第n段目のダイノードユニットの一部を構成する絶縁スペーサの連結部にも、第(n−1)段目のダイノードユニットに対応するダイノードピンを保持する貫通孔が設けられ、該絶縁体スペーサは、その貫通孔の中心が第n段目のダイノードユニットにおける支持フレームの連結部に設けられた貫通孔の中心と一致するよう配置されている。
【0017】
絶縁スペーサを支持フレームに固定するための構造及びダイノードピンの位置決め構造の一例として、例えば、第n段目のダイノードユニットと第(n+1)段目のダイノードユニットの間に位置する絶縁スペーサに設けられた貫通孔内には、段差部が形成されている。一方、第n段目のダイノードユニットに対応するダイノードピンには、絶縁スペーサの貫通孔内に形成された段差部に当接されるフランジが設けられている。したがって、この段差部により、第n段目のダイノードユニットに対応したダイノードピンの、ホトカソードからアノードへ向かう方向に沿った位置が規定される。また、このフランジが該絶縁スペーサの段差部に当接された状態で、ダイノードピンの一端が対応するダイノードユニットの支持フレーム(連結部)に固定されると、フランジにより絶縁スペーサ自体が支持フレームに押し当てられることになる。このように絶縁スペーサの貫通孔に形成された段差部とダイノードピンとの協働により、絶縁スペーサを支持フレームに固定するための構造及びダイノードピンの位置決め構造が実現される。
【0018】
さらに、積層されたダイノードユニット間に位置する絶縁スペーサは、複数のスペーサ要素によって構成されてもよい。具体的には、第n段目のダイノードユニットと第(n+1)段目のダイノードユニットの間に位置する絶縁スペーサは、それぞれが同一形状を有するとともに、ホトカソードからアノードに向かう方向に沿って直接接触した状態で積層された複数のスペーサ要素を備える。この場合、スペーサ要素の数を調節することにより、各ダイノードユニット間(支持フレームの間隔)を任意に変更できる。
【0019】
また、第n段目のダイノードユニットと第(n+1)段目のダイノードユニットの間に位置する絶縁スペーサは、第n段目のダイノードユニットにおけるダイノードそれぞれによって挟まれた空間を塞ぐよう配置された複数の遮光部を有してもよい。ここで、複数の遮光部それぞれには、アルカリ金属蒸気を通過させるための複数のスリットが設けられている。積層されたダイノードユニット間に位置する絶縁スペーサに設けられた遮光部は、アノード側において発生した光がホトカソード側へ到達するのを防止するよう機能する一方、スリットが、アノード側からホトカソード側へ向かってホトカソード形成用のアルカリ金属蒸気の通過を可能にする。
【0020】
なお、この発明に係る各実施形態は、以下の詳細な説明及び添付図面によりさらに十分に理解可能となる。これら実施形態は単に例示のために示されるものであって、この発明を限定するものと考えるべきではない。
【0021】
また、この発明のさらなる応用範囲は、以下の詳細な説明から明らかになる。しかしながら、詳細な説明及び特定の事例はこの発明の好適な実施形態を示すものではあるが、例示のためにのみ示されているものであって、この発明の範囲における様々な変形および改良はこの詳細な説明から当業者には自明であることは明らかである。
【発明の効果】
【0022】
この発明に係る光電子増倍管によれば、ホトカソードの周辺領域から放出される光電子の軌道修正を少なくすることができ、その結果、フォーカス距離の短い構造が実現可能になるので、T.T.S.やC.T.T.D.などの応答時間特性が大幅に改善される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、この発明に係る光電子増倍管の各実施形態を、図1〜図24を参照して詳細に説明する。なお、図面の説明において、同一部位、同一要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0024】
図1は、この発明に係る光電子増倍管の一実施形態の概略構成を示す一部破断図である。図2は、この発明に係る光電子増倍管における密封容器の構造を説明するための組み立て工程図及び断面図である。また、図3は、図1に示された光電子増倍管の、I-I線に沿った断面構造を示す図である。
【0025】
この発明に係る光電子増倍管は、図1に示されたように、内部を所定の真空度まで減圧するためのパイプ600(真空引き後に中実化される)が底部に設けられた密閉容器100と備えるとともに、この密閉容器100内に設けられたホトカソード200、集束電極ユニット300、電子増倍部400、及びアノードユニット500を備える。
【0026】
密閉容器100は、図2(a)に示されたように、封筒(envelope)部分と、該封筒部分の一端に溶融接合されるとともにパイプ600が設けられた当該密封容器100の底部を構成するステム130から構成されている。封筒部分は、そのトップ部分110が入射面板として機能する(以下、封筒部分のトップ部分を入射面板という)。また、封筒部分は、この入射面板110と所定の管軸AXに沿って伸びた管胴120が一体的に形成された中空ガラス部材である。なお、図2(b)は、図2(a)中のI−I線に沿った密封容器100の断面図であって、特に、管胴120の一部を含む入射面板110近傍の断面を示している。入射面板110は、光入射面110aと、該光入射面110aに対向する光出射面110bを有し、この密封容器100の内側に位置する光出射面110b上にホトカソード200が形成されている。管胴120は、管軸AXを中心とし、該管軸AXに沿って伸びた中空ガラス部材である。この中空部材の一端には入射面板110が位置する一方、他端にはステム130が溶融接合されている。ステム130は、密封容器100の内部と外部を連絡する貫通孔が管軸AXに沿って設けられている。この貫通孔を取り囲むように密封用容器100の内部と外部とを電気的に連絡するためのリードピン700が配置されている。これらリードピン700は、密封容器100の外部に位置するブリーダ回路や、アノード信号を増幅する増幅回路に接続される。ステム130には、貫通孔が設けられた位置に、密封容器100内の空気を排気するためのパイプ600が取り付けられている。なお、パイプ600は、当該光電子増倍管の製造終了時に一端を封じて密封容器100内の真空気密状態を保つようにする。
【0027】
電子増倍部500は、ステム130から当該密閉容器100内に伸びたリードピン700によって、該密閉容器100内の管軸AX方向の設置位置が規定される。また、電子増倍部400の電子入射面上には、ホトカソード200から密封容器100内に放出された光電子の軌道を修正するための、主に集束電極を含む集束電極ユニット300が配置されている。
【0028】
電子増倍部400は、図3に示されたように、ホトカソード200から集束電極ユニット300を介して到達した光電子に応答して二次電子を放出し、該二次電子を順次カスケード増倍していくよう、N(≧2)段のダイノードユニットを含む。この実施形態では、8段のダイノードユニットがホトカソード200からアノードユニット500に向かって絶縁スペーサを介して積層されている。なお、この実施形態において、第1段目に積層されるダイノードユニットは、複数の第2ダイノードを含み、第2段目に積層されるダイノードユニットは、複数の第1ダイノードを含む。第1ダイノードは、ホトカソード200からの光電子の入射に応答して二次電子を放出するダイノードであり、第2ダイノードは、第1ダイノードからの二次電子の入射に応答してさらに二次電子を放出するダイノードである。このように第1ダイノードは、ホトカソード200からの光電子をより効率的に捕獲するため、その二次電子入射面がホトカソード200に直接対面するよう、第2段目のダイノードユニットに保持されている。なお、この実施形態において、各ダイノードの断面形状は、ラインフォーカス型(インライン型)と呼ばれる形状である。
【0029】
以下の説明では、この発明に係る光電子増倍管の一実施形態として、管軸AXを挟んで配置された6系統の電極郡(それぞれが2つの電子増倍チャネルを構成するダイノード群)により12の電子増倍チャネルCH1〜CH12が構成されるマルチチャネル光電子増倍管について説明する。
【0030】
まず、図4は、この発明に係る光電子増倍管の内部ユニット(集束電極ユニット300、電子増倍部400、及びアノードユニット500)の構造を説明するための組み立て工程図である。
【0031】
集束電極ユニット300は、光電子を通過させるための複数の開口が設けられた金属フレーム(集束電極)310と、絶縁スペーサ320a、320bと、リードピン330a、330bにより構成されている。リードピン330a、330bの一端は絶縁スペーサ320a、320bを介して金属フレーム310に固定される一方、電子増倍部400を貫通したリードピン330a、330bの他端は、直接又は金属配線を介してステム130に固定されたリードピン700に電気的に接続される。
【0032】
電子増倍部400は、絶縁スペーサを介して積層された8段のダイノードユニットDY1〜DY8を含む。なお、この明細書では、第1ダイノードは、ホトカソード200からの光電子を最初に到達するダイノードであって、以下、二次電子が到達する順に第2〜第8ダイノードという。上述のように、この実施形態では、第1段目のダイノードユニットには第2ダイノードが保持され、第2段目のダイノードユニットには第1ダイノードが保持されている。したがって、以下の説明では、第2ダイノードを保持している第1段目のダイノードユニットをDY2で表すとともに、第1ダイノードを保持する第2段目のダイノードユニットをDY1で表し、以降のダイノードユニットを保持するダイノードが分かるようそれぞれDY3〜DY8で表す。この実施形態では、ダイノードユニットDY8が最終段ダイノードを一体的に保持している。
【0033】
ダイノードユニットDY1〜DY8それぞれの基本構造は同じであり、例えば、第4段目のダイノードユニットDY4(第4ダイノードを保持している)は、複数の第4ダイノードを支持する支持フレーム410と、絶縁スペーサ420と、当該第4段目のダイノードユニットDY4を所定電位に設定するためのダイノード用リードピン(ダイノードピン)430によって構成されている。また、ダイノードユニットDY1〜DY8それぞれの支持フレーム410には、上段に位置するダイノードユニットのダイノードピン430を電気的に接続されることなく貫通させるための貫通孔が設けられている。
【0034】
アノードユニット500は、セラミック基板510と、このセラミック基板510に配置された、アノードとして機能する複数の電極(アノード電極)520と、これらアノード電極520に一端が接続された複数のリードピン530を備える。なお、リードピン530の一端は、セラミック基板510を介してアノード電極520に固定される一方、これらリードピン560a、560bの他端は、直接又は金属配線を介してステム130に固定されたリードピン700に電気的に接続される。
【0035】
上述の集束電極ユニット300、複数段のダイノードユニットDY1〜DY8、及びアノードユニット500それぞれは、ホトカソード200からアノードユニット500へ向かう方向に沿って積層される。このような積層ユニットの側面に積層したダイノードや各ユニットのズレを防止するための絶縁性の側壁基板部材510a〜510d(図6参照)が取り付けられることにより、積層状態が維持される。以上の組み立て工程を経て完成された内部ユニット(集束電極ユニット、電子増倍部、及びアノードユニットが一体的に積層されたユニット)の概観が図5に示されている。この図5に示されたように、ダイノードユニットDY1〜DY8それぞれに対応したダイノードピン430は、後述する電子増倍部400の有効領域AR1内において一直線状に配列された状態で、アノードユニット500のセラミック基板510を貫通している。これらダイノードピン430の他端は、直接又は金属配線を介してステム130から伸びたリードピン700に電気的に接続される。
【0036】
なお、第1段目のダイノードユニットDY2、第2段目のダイノードユニットDY1、第3段目のダイノードユニットDY3、…、第8段目のダイノードユニットDY8それぞれの設定電位は、順次二次電子を次段のダイノードへ導くため、第1ダイノードから第8ダイノードの順に高くなっている。すなわち、アノードユニット500におけるアノード電極520の電位は、第8ダイノードの電位よりも高い。一例として、ホトカソード200は−1000V、第2段目のダイノードユニットDY2に保持された第1ダイノードは−800V、第1段目のダイノードユニットDY1に保持された第2ダイノードは−700V、第3段目のダイノードユニットDY3に保持された第3ダイノードは−600V、第4段目のダイノードユニットDY4に保持された第4ダイノードは−500V、第5段目のダイノードユニットDY5に保持された第5ダイノードは−400V、第6段目のダイノードユニットDY6に保持された第6ダイノードは−300V、第7段目のダイノードユニットDY7に保持された第7ダイノードは−200V、第8段目のダイノードユニットDY8に保持された第8ダイノードDY8は−100V、そして、アノード電極520はグランド電位(0V)に設定される。また、集束電極ユニット300は第2段目のダイノードユニットDY1に保持された第2ダイノードと同電位に設定される。
【0037】
ホトカソード200から放出された光電子は、該第2ダイノードと同電位に設定された集束電極ユニット300の金属フレーム310に設けられた開口を通過した後、第2段目のダイノードユニットDY1に保持された第1ダイノードへ到達する。第1ダイノードの電子到達面には二次電子放出面が形成されており、光電子の入射に応答して該第1ダイノードから二次電子が放出される。第1ダイノードから放出された二次電子は、該第1ダイノードよりも高い電位に設定された、第1段目のダイノードユニットDY2に保持された第2ダイノードに向かって進行する。第2ダイノードの電子到達面にも二次電子放出面が形成されており、この第2ダイノードの二次電子放出面から放出された二次電子は、該第2ダイノードよりも高い電位に設定された、第3段目のダイノードユニットDY3に保持された第3ダイノードに向かって進行する。同様に、第3ダイノードの二次電子放出面から放出された二次電子は、第4〜第8段目のダイノードユニットDY4〜DY8それぞれに保持された、第4ダイノード、第5ダイノード、第6ダイノード、第7ダイノード、第8ダイノードの順に進行するごとにカスケード増倍される。そして、最終段(第8段目)のダイノードユニットDY8に保持された第8ダイノードから放出された二次電子が、アノードユニット500のアノード電極520に到達し、リードピン530に電気的に接続されたリードピン700を介して密封容器100の外部に取り出される。
【0038】
次に、集束電極ユニット300の具体的な構造を、図6を用いて説明する。なお、図6は、集束電極ユニット300の構成を説明するための組み立て工程図である。
【0039】
図6に示されたように、集束電極ユニット300は、光電子を通過させるための複数の開口が設けられた金属フレーム(集束電極)310と、絶縁スペーサ320a、320bと、リードピン330a、330bにより構成されている。
【0040】
具体的に、金属フレーム310は、電子増倍部400の有効領域全体を包含する程度の開口面積を有する外枠と、それぞれ2つの電子増倍チャネル分のダイノードを露出させる開口を区切るための分離フレームから構成されている。外枠の下面(アノードユニット500に対面する面)には、一対の絶縁スペーサ320a、320bが固定される。これら絶縁スペーサ320a、320bは、電子増倍部400と当該収束電極ユニット300とを電気的に分離するとともに、これらユニット400、300間の間隔を一定に維持するよう機能する。絶縁スペーサ320a、320bには、金属フレーム310のリードピン330a、330bを通過させる貫通孔が設けられている。また、リードピン330a、330bの一端は、金属フレーム310の上部で溶接、カシメ等により固定され、リードピン330a、330bの他端はステム130に固定されたリードピン700に直接又は間接的に接続される。収束電極ユニット300の組み立ては、金属フレーム310と絶縁スペーサ320a、320bを重ねた状態で、それぞれの貫通孔にリードピン(330a、330b)を貫通させ、それらリードピン330a、330bの端部を金属フレーム310に溶接もしくはカシメで固定する。リードピン330a、330bにはフランジ331a、331bがそれぞれ設けられており、これらフランジ331a、331bは、絶縁スペーサ320a、320bに設けられた貫通孔を通過できないので(すなわち、絶縁スペーサ320a、320bの貫通孔の内径はフランジ331a、331bの外径よりも小さい)、この組み立て作業により収束電極ユニット300を構成する各部材は一体化される。さらに、外枠の外周には側壁基板部材510a〜510dを取り付けるための固定片310a〜310dが設けられている。図6には側壁基板部材510a〜510dのうち側壁基板部材510aのみが示されている(側壁基板部材510b〜510dは図示を省略)。この側壁基板部材510aの一端には係合部511aが設けられている。図4に示されたように、収束電極ユニット300、電子増倍部400及びアノードユニット500が積層された後、この固定片310aと係合部511aとが結合することにより、側壁基板部材510aが積層構造を維持するよう機能する。なお、図示されていないが、残りの側壁基板部材510b〜510dも側壁基板部材510aと同じ構造を有するとともに同様に機能する。
【0041】
一方、リードピン330a、330bそれぞれには、絶縁スペーサ320a、320bに当接されるフランジが設けられている。このようにリードピン330a、330bそれぞれにフランジが設けられることにより、リードピン330a、330bが金属フレーム310に固定されると同時に、フランジが絶縁スペーサ320a、320bを金属フレーム310に押し当てるよう機能し、これにより、絶縁スペーサ320a、320bそれぞれが金属フレーム310に固定される。なお、収束電極ユニット300の組み立ては、金属フレーム310にリードピン330a、330bを固定した後に、リードピン330a、330bを貫通させた状態で絶縁スペーサ320a、320bを金属フレーム310に固定される順序で行われてもよい。
【0042】
図7は、電子増倍部400の一部を構成する第4段目のダイノードユニットDY4の第1の構成例を説明するための組み立て工程図及び断面図である。なお、電子増倍部400を構成するダイノードユニットDY1〜DY8の基本構造は、図7に示された第4段目のダイノードユニットDY4と同じである。また、図7(b)〜(d)は、それぞれ支持フレーム410における連結部410bの断面図である。
【0043】
基本的に、第4、第6及び第8段目のダイノードユニットDY4、DY6、DY8それぞれで保持されるダイノードの断面形状は、同じであり、第5及び第7段目のダイノードユニットDY5、DY7それぞれで保持されるダイノードの断面形状は、同じである。また、各段のダイノードユニットDY1〜DY8は、金属製の支持フレーム410と、ダイノードユニットDY1〜DY8間を電気的に分離するとともにこれらダイノードユニットDY1〜DY8間の間隔を規定するためのセラミック製の絶縁スペーサ420と、ダイノードユニットDY1〜DY8それぞれを所定の電位に設定するためにこれらダイノードユニットDY1〜DY8それぞれに用意された金属製のダイノードピン430から構成されている。
【0044】
例えば、図7(a)に示されたように、第4段目のダイノードユニットDY4の場合、支持フレーム410は、複数のダイノード414全てを挟むように配置された一対の支持部410aと、これら一対の支持部410aに両端が固定されるとともに同電位に設定される連結部410bとで構成されている。特に連結部410bは、複数のダイノード414のうち少なくとも2つのダイノードに挟まれるよう配置されており、このように連結部410bが配置されることにより、支持フレーム410はH形状を有する。
【0045】
連結部410bには、少なくとも上段のダイノードユニット(第4段目のダイノードユニットDY4の場合、第1〜第3段目のダイノードユニットDY1〜DY3)に対応したダイノードピンを、電気的に接触することなく貫通させるための貫通孔411と、対応するダイノードピン430の一端を貫通させた状態で溶接、カシメ等により固定する貫通孔が設けられている。このとき、支持フレーム410と対応するダイノードピン430の一端は電気的に接続される一方、ダイノードピン430の他端は、下段に位置するダイノードユニットを貫通した状態で直接又は間接的にステム130に固定されたリードピン700に接続される。連結部410bには、電子増倍部400の上方に位置する収束電極ユニット300に一端が電気的に接続された状態で固定されたリードピン330a、330bを、ステム130側に貫通させるための貫通孔415も設けられている。さらに、連結部410bには、上段のダイノードユニット(第4段目のダイノードユニットDY4の場合、第3段目のダイノードユニットDY3)の絶縁スペーサと位置合わせするためのエンボス412と、支持フレーム410自体に直接固定される絶縁スペーサ420と位置合わせするためのエンボス413が設けられている。特に、図7(b)は、図7(a)中のIII-III線に沿った、連結部410bにおける貫通孔411の断面構造を示し、図7(c)は、図7(a)中のIV-IV線に沿った、連結部410bにおけるエンボス412の断面構造を示し、そして、図7(d)は、図7(a)中のV-V線に沿った、連結部410bにおけるエンボス413の断面構造を示す。
【0046】
絶縁スペーサ420も支持フレーム410と同様にH形状を有し、支持フレーム410を構成する一対の支持部410a及び連結部410bに対応した部分を有する。すなわち、絶縁スペーサ420も、一対の支持部と、連結部を有する。特に、絶縁スペーサ420の連結部にも、支持フレーム410の連結部410bに設けられた貫通孔411、415に対応した位置に貫通孔423が設けられている。これら貫通孔423は、支持フレーム410の連結部410bに設けられた貫通孔411、415の中心と一致するよう配置されている。
【0047】
さらに、絶縁スペーサ420は、各段のダイノードユニット間を電気的に分離するだけでなく、ダイノードユニット間の間隔を規定する。そのため、この実施形態では、絶縁スペーサ420が同一形状を有する複数のスペーサ要素420a、420bにより構成されている。これらスペーサ要素の数を調節することによりダイノードユニット間(支持フレームの間隔)を任意に変更できる。なお、絶縁スペーサ420を構成するスペーサ要素420a、420bは、ホトカソード200からアノードユニット500に向かう方向に沿って直接接触した状態で積層されている。例えば、この実施形態では、第1段目のダイノードユニットDY2と第2段目のダイノードユニットDY1の間、第2段目のダイノードユニットDY1と第3段目のダイノードユニットDY3の間、及び第3段目のダイノードユニットDY3と第4段目のダイノードユニットDY4の間には、一枚のスペーサ要素が設置される。また、第4段目〜第8段目のダイノードユニットDY4〜DY8の間にはそれぞれ2枚のスペーサ要素が設置される。なお、第8段目のダイノードユニットDY8とアノードユニット500との間には、8枚のスペーサ要素は設置されている。
【0048】
ダイノードユニットDY1〜DY8それぞれの組み立ては、支持フレーム410と絶縁スペーサ420を重ね、それぞれの貫通孔411、423にダイノードピン430を貫通させた状態で該ダイノードピン430を支持フレーム410に固定する。すなわち、支持フレーム410の上面側において、ダイノードピン430と支持フレーム410を溶接するかもしくはダイノードピン430の端部をカシメを形成することでダイノードピン430を支持フレーム410に固定する。ここで、収束電極ユニット300の下側には、第2ダイノードを保持しているダイノードユニットDY2、第1ダイノードを保持しているダイノードユニットDY1の順で各ダイノードユニットが積層されているが、電子の増倍は、第2段目のダイノードユニットDY1に保持された第1ダイノード、第1段目のダイノードユニットDY2に保持された第2ダイノードの順で行われる。このような構造が採用されたのは、コンパクトに効率よくダイノードユニットを積層させる一方、最適な電子軌道を実現するためである。
【0049】
ここで、1対の支持部410aによって両端が支持された複数のダイノード414は、図8に示されたように、該一対の支持部410aと一体的に成型され、支持フレーム410の一部を構成している。
【0050】
すなわち、図8(a)に示されたように、一枚の金属プレートから、支持フレーム410とダイノードとなるべきプレート部分が一体的に型抜きされる。支持フレーム410に両端が連結されているプレート部分は、さらに、プレス加工により、ダイノードとなるべき窪みが形成される。具体的には、図8(b)に示されたように、隣接するように2つの窪みが形成され、これらが互いに隣接する2つの電子増倍チャネルとなる。続いて、矢印S1で示された方向に2つのダイノードが形成されたプレート部分を折り曲げることにより、支持フレーム410に一体的に保持されたダイノード414が得られる(図8(c))。
【0051】
図9は、ダイノードユニット間に配置される絶縁スペーサ420の構成を説明するための斜視図及び断面図である。特に、図9では、絶縁スペーサ420を構成するスペーサ要素420a(420b)の構造が示されており、このスペーサ要素420a(420b)は、図9(a)に示されたように、支持フレーム410と同様にH形状を有する。すなわち、スペーサ要素420a(420b)は、支持フレーム410の一対の支持部410aに対応する一対の支持部421と、支持フレーム410の連結部410bに対応する連結部422から構成されている。
【0052】
スペーサ要素420a(420b)の連結部422には、支持フレーム410の連結部410bの貫通孔411、415に対応した位置に貫通孔423、426が設けられている。また、連結部422には、支持フレーム410と位置合わせするためのエンボス424と、下側に位置するダイノードユニットの支持フレームと位置合わせするためのエンボス425が設けられている。ここで、複数のスペーサ要素が積層されることにより絶縁スペーサ420が構成されている場合、エンボス424、425は機能しない。なお、図9(b)は、図9(a)中のVI-VI線に沿った、連結部422における貫通孔423の断面構造を示し、図9(c)は、図9(a)中のVII-VII線に沿った、連結部422におけるエンボス424の断面構造を示し、そして、図9(d)は、図9(a)中のVIII-VIII線に沿った、連結部422におけるエンボス425の断面構造を示す。
【0053】
図10は、ダイノードユニットの積層構造を説明するための断面図である。上述のように、各段のダイノードユニットDY1〜DY8は、複数のダイノード414を保持する支持フレーム410と、絶縁スペーサ420と、一端が半田432により支持フレーム410に溶接接続されたダイノードピン430により構成されている。これら要素410、420、430が一体的に組み立てられると、図10(a)に示されたように、上段に位置するダイノードユニットのダイノードピンを、直下に位置するダイノードユニットの貫通孔に差し込んでいく。この工程を順次繰り返していくことにより、図10(b)に示されたような、ダイノードユニットの積層構造が得られる。なお、図10には、上段のダイノードユニットとして第3段目のダイノードユニットDY3、直下のダイノードユニットとして第4段目のダイノードユニットDY4が示されている。なお、各ダイノードユニットの組み立て順序は、支持フレーム410と対応するダイノードピン430の一端が固定された後に、絶縁スペーサ420が支持フレーム410に固定されてもよい。この場合、ダイノードピン430のフランジ431は不要である。
【0054】
ここで、絶縁スペーサ420を構成するスペーサ要素420a、420bそれぞれの貫通孔423内には、段差部が形成されている。一方、各段のダイノードユニットに対応するダイノードピン430にはスペーサ420b(複数のスペーサ要素が積層されている場合は最下層のスペーサ要素)の貫通孔423内に形成された段差部に当接されるフランジ431が設けられている。したがって、この段差部により、対応するダイノードピン430の、ホトカソード200からアノードユニット500へ向かう方向に沿った位置が規定される。また、このフランジ431がスペーサ要素420bの段差部に当接された状態で、ダイノードピン430の一端が支持フレーム410(連結部)に固定されると、フランジ431により絶縁スペーサ420全体が支持フレーム410に押し当てられることになる。このようにスペーサ要素420bの貫通孔423に形成された段差部とダイノードピン430との協働により、絶縁スペーサ全体を支持フレーム410に固定するための構造及びダイノードピン430の位置決め構造が実現される。
【0055】
ダイノードユニットの構造は、上述の構造に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、図11は、電子増倍部の一部を構成する第4段目のダイノードユニットの第2の構成例を説明するための組み立て工程図及び斜視図である。また、図12は、電子増倍部の一部を構成する第4段目のダイノードユニットの第3の構成例を説明するための組み立て工程図及び断面図である。なお、以下の説明では、第2及び第3の構成例として、第4段目のダイノードユニットDY4について言及する。
【0056】
図11(a)に示されたように、第2の構成例に係る第4段目のダイノードユニットDY4は、複数のダイノード414aを保持する支持フレーム410Aと、絶縁スペーサ420A、ダイノードピン430を備える。支持フレーム410Aは、複数のダイノード414a全てを挟むように配置された一対の支持部410aと、これら一対の支持部410aに両端が固定されるとともにどう電位に設定される連結部410bとで構成されている。図7(a)に示された第1の構成例に係る支持フレーム410とは、保持するダイノードの形状が異なる。すなわち、第1の構成例における支持フレーム410では、一対の支持部410aによって2つのダイノード414双方が支持される。一方、この第2の構成例における支持フレーム410Aでは、一対の支持部410aによって1つのダイノード414aが支持されている。
【0057】
この第2の構成例における絶縁スペーサ420Aも、第1の構成例における絶縁スペーサ420と同様に、支持フレーム410Aを構成する一対の支持部410a及び連結部410bに対応した部分421A、422Aを有する。ただし、第1の構成例における絶縁スペーサ420がスペーサ要素420a、420bにより構成されていたのに対し、この第2の構成例における絶縁スペーサ420Aは、単一部材で構成されている。
【0058】
なお、ダイノードピン430の構造は、第1及び第2の構成例のいずれも同じ構造である。すなわち、この第2の構成例においても、ダイノードピン430には、位置決め用のフランジ431が設けられている。支持フレーム410Aと絶縁スペーサ420Aを重ね合わせた状態で、ダイノードピン430の一端が、絶縁スペーサ420Aの連結部422Aに設けられた貫通孔を介して支持フレーム410Aに固定されることにより、図11(b)に示されたように第4段目のダイノードユニットDY4が得られる。このとき、支持フレーム410Aとダイノードピン430とは電気的に接続されている。
【0059】
次に、第3の構成例に係るダイノードユニット(図12には、第4段目のダイノードユニットDY4のみが示されている)も、第1及び第2の構成例と同様に、複数のダイノード414aを保持する支持フレーム410Bと、絶縁スペーサ420B、ダイノードピン430を備える。この第3の構成例における支持フレーム410Bは、第2の構成例における支持フレーム410Aと同じ構造を有する。ただし、この第3の構成例における絶縁スペーサ420Bは、第2の構成例と同様に、支持フレーム410Bにおける一対の支持部410aに相当する部分421Bと、連結部410bに相当する422Bを備えるが、ダイノード414aそれぞれの間に位置する空間を覆うように配置された複数の遮光部423Bをさらに備えている点で第2の構成例と異なっている。また、これら複数の遮光部423Bそれぞれには、複数のスリット450が設けられている。この構成により、遮光部423Bは、アノード側からホトカソード側へ向かう光を遮断するよう機能する一方、スリット450は、アノード側からホトカソード側へ、該ホトカソード形成用のアルカリ金属蒸気を通過させるよう機能する。以上のように、第2の構成例に係るダイノードユニット(図7)と当該第3の構成例に係るダイノードユニット(図12)とは、絶縁スペーサの構造について異なっている。
【0060】
この第3の構成例においても、ダイノードピン430は、上述の第1及び第2の構成例と同じ構造である。すなわち、当該第3の構成例においても、ダイノードピン430には、位置決め用のフランジ431が設けられている。支持フレーム410Bと絶縁スペーサ420Bを重ね合わせた状態で、ダイノードピン430の一端が、絶縁スペーサ420Aの連結部422Aに設けられた貫通孔を介して支持フレーム410Bに固定されることにより、図12(b)に示されたように第4段目のダイノードユニットDY4が得られる。このとき、支持フレーム410Aとダイノードピン430とは電気的に接続されている。また、絶縁スペーサ420Bにおける遮光部423Bにより、ダイノード414aそれぞれの間に位置する空間はふさがれる。
【0061】
図13は、アノードユニットの第1の構成を説明するための組み立て工程図である。
【0062】
アノードユニット500は、図13に示されたように、セラミック基板510と、該セラミック基板510に設置される複数のアノード電極520と、各アノード電極520に一端が電気的に接続された状態で固定されるリードピン530(アノードピン)を備える。なお、セラミック基板510にはアノード電極520の配置位置に対応して開口511が設けられるとともに、アノードピン530の一部を通過・支持するための貫通孔512が設けられている。また、セラミック基板510の裏面には、側壁基板部材510a〜510dの他端を当該アノードユニット500に取り付けるための補助部材560a〜560dが設置される。さらに、補助部材560a、560bには、カソード200及びダイノードの二次電子放出面を形成するためのアルカリ源ペレット540が取り付けられるとともに、補助部材560cには、ゲッター550が取り付けられている。アノードユニット500の組み立ては、アノード電極520とセラミック基板510と補助部材560a〜560bを順に重ねた状態で、それぞれの貫通孔にフランジ531を有するリードピン530を貫通させる。このとき、アノード電極520の上面において、アノード電極520とアノードピン530の一端を溶接するか、もしくはアノードピン530の端部をカシメることにより、アノードピン530が、セラミック基板510及び補助部材560a〜560dを介してアノード電極520に固定される。アノードピン530に設けられたフランジ531は、アノードピン530の端部がアノード電極520に固定されることにより、セラミック基板510及び補助部材560a〜560dをアノード電極520に押し当てるよう機能する。
【0063】
なお、図13には側壁基板部材510a〜510dのうち側壁基板部材510aのみが示されている(側壁基板部材510b〜510dは図示を省略)。この側壁基板部材510aの他端にはスリット511bが設けられている。図4に示されたように、収束電極ユニット300、電子増倍部400及びアノードユニット500が積層された後、このスリット511bと補助部材560aの固定片とが結合することにより、側壁基板部材510aが積層構造を維持するよう機能する。なお、図示されていないが、残りの側壁基板部材510b〜510dも側壁基板部材510aと同じ構造を有するとともに同様に機能する。
【0064】
上述のアノードユニット500も種々の構成によって実現可能である。例えば、図14は、アノードユニットの第2の構成例を説明するための組み立て工程図である。また、図15は、アノードユニットの第3の構成例を説明するための組み立て工程図である。
【0065】
図14(a)に示されたように、第2の構成例に係るアノードユニット500は、セラミック基板510Aと、該セラミック基板510Aに設置される複数のアノード電極520と、各アノード電極520に一端が電気的に接続された状態で固定されるリードピン530(アノードピン)を備える。なお、セラミック基板510Aにはアノード電極520の配置位置に対応して開口511Aが設けられるとともに、アノードピン530の一部を通過・支持するための貫通孔が設けられている。アノードピン530それぞれには、位置決め用のフランジ531が設けられている。また、セラミック基板510Aの裏面には、第1の構成例とは異なり、当該アノードユニット500を含む内部ユニットの、密閉容器100内における設置位置を維持するためのスプリング部材570が固定されている。
【0066】
アノードユニット500の組み立ては、アノード電極520と、裏面にスプリング部材570が取り付けられたセラミック基板510Aとを順に重ねた状態で、それぞれの貫通孔にフランジ531を有するアノードピン530を貫通させる。このとき、アノード電極520の上面において、アノード電極520とアノードピン530の一端を溶接するか、もしくはアノードピン530の端部をカシメることにより、アノードピン530が、セラミック基板510Aを介してアノード電極520に固定される。アノードピン530に設けられたフランジ531は、アノードピン530の端部がアノード電極520に固定されることにより、セラミック基板510Aをアノード電極520に押し当てるよう機能する。上述の組み立て工程を経て、図14(b)に示されたような第2の構成例に係るアノードユニット500が得られる。
【0067】
次に、第3の構成例に係るアノードユニット500は、図15(a)に示されたように、反射型のアノード電極520Bを備えることにより、リニアリティを改善することが可能になる。
【0068】
すなわち、第3の構成例に係るアノードユニット500は、セラミック基板510Bと、該セラミック基板510Bに設置される複数の反射型アノード電極520Bを備える。各反射型アノード電極520Bの両端には、電子取り出しようの電極片521Bが設けられている。したがって、各反射型アノード電極520Bに設けられた電極片521Bをセラミック基板510Bに設けられたスリット状の貫通孔に挿入することにより、図15(b)に示されたような第3の構成例に係るアノードユニット500が得られる。
【0069】
密閉容器100内に収納される内部ユニットを構成する各部は、上述のような種々の構成によって実現可能である。一例として、図16には、図6の収束電極ユニット、図12のダイノードユニットを含む電子増倍部、及び図14のアノードユニットを、図4に示されたように一体的に積層された内部ユニットの概観が示されている。すなわち、図16(a)は、ホトカソード側から見た上記他の構成例に係る内部ユニットの斜視図であり、図16(b)は、ステム側から見た上記他の構成例に係る内部ユニットの斜視図である。
【0070】
また、図17には、図12のダイノードユニットの機能を説明するため、図16に示された内部ユニットの、XVIII−XVIII線に沿った断面図が示されている。なお、図12に示されたダイノードユニットは、それぞれに複数のスリット450が設けられた複数の遮光部423Bを有する絶縁スペーサ420Bを備える。この図17中に示された矢印B1は、ステム側からホトカソード側に向かって、各段のダイノードユニットを通過していくアルカリ金属蒸気の伝搬経路を示す。一方、矢印B2は、アノード電極520近辺で生じた光の伝搬経路を示す。この図17に示されたように、各段のダイノードユニットを構成する絶縁スペーサ420Bにおいて、各ダイノード414aの間に位置する空間を覆うように配置された遮光部423Bが、アノード電極520近辺で発生した光のほとんどを遮光する。また、遮光部423Bに設けられたスリット450を通過した光も、上段に位置するダイノード414aにより遮光される。一方、ステム側からホトカソード側へ向かうアルカリ金属蒸気は、各段のダイノードユニットが所定距離だけ離間した状態で積層された構造、また、各遮光部423Bに複数のスリット450が設けられた構造により、スムーズに流れることになる。
【0071】
なお、上述の実施形態では、各段のダイノードユニットDY1〜DY8で保持されるダイノードは、ラインフォーカス形状を有しているが、ダイノードの形状は上述のラインフォーカス形状には限定されない。例えば、図18(a)に示されたダイノードユニットDYは、それぞれ電子増倍孔が設けられた2枚の金属プレートを張り合わせたメタルチャネルプレートである。この場合、メタルチャネルプレートに設けられた電子増倍孔がダイノードユニットDYによって保持されたダイノードに相当する。また、図18(b)に示されたダイノードユニットDYは、それぞれ開口を有する2枚の金属フレームで、メッシュ電極を挟み込んだ構造を有する。この図18(b)に示されたダイノードユニットDYでは、金属フレームの開口部分がメッシュダイノードとして機能する。また、図18(c)に示されたダイノードユニットDYは、金属フレームとそれに保持されるダイノードとが一体的にエッチング形成されている。
【0072】
以上のように、種々のダイノードが保持された複数段のダイノードユニットDY1〜DY8が積層されることにより、電子増倍部400が得られる。なお、各段のダイノードユニットDY1〜DY8が積層されたとき、各段のダイノードユニットDY1〜DY8に対応したダイノードピンは、図18(d)に示されたように、ダイノード430が配置された空間を貫通するように配置されることになる。ホトカソード200側から見たときの、このようなリードピン430の貫通空間が、電子増増倍部400の有効領域である。
【0073】
図19は、第4段目のダイノードユニットDY4の構造とともに電子増倍部400の有効領域を説明するための、該第4段目のダイノードユニットDY4の平面図及び断面図である。上述のように、各段のダイノードユニットDY1〜DY8は、いずれも同じ構造を有しており、代表して、図19には、第4段目のダイノードユニットDY4が示されている。なお、図19(a)は、ホトカソード200側から見たときの第4段目のダイノードユニットDY4の平面図であり、図19(b)は、図19(a)中のIX-IX線に沿った第4段目のダイノードユニットDY4の断面図、図19(c)は、図19(a)中のX-X線に沿った第4段目のダイノードユニットDY4の断面図である。
【0074】
図19(a)に示されたように、第4段目のダイノードユニットDY4は、それぞれ1つの電子増倍チャネルが形成された複数のダイノード414を保持する支持フレーム410を備える(他のダイノードユニットDY1〜DY3、DY5〜DY8も同様)。電子増倍部400における有効領域AR1は、二次電子増倍に寄与する、ホトカソード200側から見たときの視野領域であって、電子増倍部400の光電子入射面として、密封容器100における管胴120の中心軸AXに直交する平面上に規定される。すなわち、電子増倍部400に含まれる全ダイノード414の輪郭線を電子増倍部400の光電子入射面上に投影したときに、輪郭線の全投影成分を包含する最小領域である。したがって、電子増倍部400の有効領域AR1を規定する境界線は、図19(a)に示されたように、いずいれかのダイノード輪郭線の投影成分の一部に一致している。
【0075】
各段のダイノードユニットDY1〜DY8に対応しているダイノードピン430が、図19(a)に示された電子増倍部400の有効領域AR1内に配置されることにより、以下のような効果が得られる。なお、図20は、この発明に係る光電子増倍管の技術的効果を、従来技術と比較しながら説明するための概念図である。
【0076】
通常、ホトカソード200が形成される入射面板110の光出射面は、図20(a)に示されたように、周辺領域が曲面加工されている。そのため、ホトカソード200の中央付近から放出される光電子と比較して、周辺領域から放出される光電子の軌道は、フォーカス距離Dで規定される空間においてより大きく修正させることになる。この場合、従来の光電子増倍管では、十分なフォーカス距離Dが確保できないと、ホトカソード200の周辺領域から放出される光電子のカスケード増倍ができなくなる(第1ダイノードに到達する前に集束電極等に光電子が衝突してしまう)。
【0077】
すなわち、従来の光電子増倍管では、図20(b)に示されたように、ダイノードピンは、ダイノードが配置される電子増倍部の有効領域を避けた該有効領域の周辺、具体的にはダイノードを支持しているフレームDYaの外周に沿って設けられた固定片DYbに固定される。そのため、フレームDYaの内側に規定される電子増倍部の有効領域AR2は、ダイノードピンの配置スペース分だけ制限されることになる。
【0078】
一方、この発明に係る光電子増倍管では、図20(c)に示されたように、電子増倍部400の有効領域AR3(=AR1)内にダイノードピン430が配置されるため、従来の光電子増倍管よりも電子増倍部の有効領域を拡大することが可能になる。有効領域AR3が拡大されることにより電子増倍部400の光電子入射面に対面しているホトカソード200のうち特に周辺領域から放出される光電子の軌道修正の程度が少なくなる。そのため、フォーカス距離Dが大幅に低減される(光電子増倍管の小型化が可能)。
【0079】
続いて、上述の構造的特徴の効果について、図21を用いてより具体的に説明する。なお、図21は、この発明に係る光電子増倍管における構造的特徴及び効果を説明するため、ホトカソード200から放出される光電子の軌道を説明するための図である。図21(a)は、光入射面110a側から見た入射面板110の平面図であり、電子増倍部400の有効領域AR1は、この入射面板110のカソード有効エリア(実質的に入射面板110における光出射面110bに一致している)に略一致する程度まで拡大されている。ここで、電子増倍部400の有効領域は、図19(a)に示されたように、二次電子増倍に寄与する、ホトカソード200側から見たときの視野領域であって、電子増倍部400の光電子入射面として、密封容器100における管胴120の中心軸AXに直交する平面上に規定される。図21(b)は、図21(a)中に示されたXI−XI線に沿った当該光電子増倍管の断面図であり、図21(c)は、図21(a)中に示されたXII−XII線に沿った当該光電子増倍管の断面図である。
【0080】
なお、図22は、この発明に係る光電子増倍管における構造的特徴及び効果を説明するために用意された第1比較例に係る光電子増倍管の、図21に相当する断面図であって、該第1比較例に係る光電子増倍管における光電子の軌道A2を説明するための図である。用意された第1比較例に係る光電子増倍管は、管胴の中心軸AXに背を向けるように2つの第1ダイノードDY1(それぞれダイノードには2つのチャネルが隣接している)が配置されたマルチチャネル光電子増倍管(4チャネル)である。
【0081】
図22(a)は、第1比較例に係る光電子増倍管の光入射面側から見た入射面板の平面図であり、図21(a)に対応した平面図である。図22(b)は、図22(a)中に示されたXIII−XIII線に沿った当該光電子増倍管の断面図であり、図22(c)は、図22(a)中に示されたXIV−XIV線に沿った当該光電子増倍管の断面図である。
【0082】
この第1比較例に係る光電子増倍管では、ホトカソードから第1ダイノードDY1までの光電子走行距離であるフォーカス距離D2が、この発明に係る光電子増倍管のフォーカス距離D1(図21(b)及び(c))と比較して著しく長い。そのため、ホトカソードの放出位置が異なる光電子の軌道A2の距離バラツキも大きい(光電子走行時間の揺らぎが大きい)。また、この第1比較例に係る光電子増倍管では、ダイノードを保持するためのセラミック基板と、各ダイノードへ所定電圧を印加するためのダイノードピン(電子増倍部の有効領域周辺に配置される)を共に避けるため、ホトカソード周辺領域から放出される光電子の軌道A2を大きく曲げる必要がある。ホトカソードと電子増倍部の間に配置された集束電極などの金属部材への入射や第1ダイノードDY1の側壁部分(二次電子放出面が形成されていない部分)への光電子の入射を避けるためである。このように大幅な軌道修正が行われる、第1比較例に係る光電子増倍管では、ホトカソードの中央付近から放出された光電子と、周辺領域から放出された光電子との間で走行時間差が拡大してしまう。
【0083】
一方、図23は、この発明に係る光電子増倍管における構造的特徴及び効果を説明するために用意された第2比較例に係る光電子増倍管の、図21に相当する断面図であって、該第2比較例に係る光電子増倍管における光電子の軌道を説明するための図である。この第2比較例に係る光電子増倍管も、第1比較例と同様に、4つの電子増倍チャネルを有するマルチチャネル光電子増倍管である。また、図23(a)は、第2比較例に係る光電子増倍管の光入射面側から見た入射面板の平面図であり、図21(a)に対応した平面図である。図23(b)は、図223(a)中に示されたXV−XV線に沿った当該光電子増倍管の断面図であり、図23(c)は、図23(a)中に示されたXVI−XVI線に沿った当該光電子増倍管の断面図である。
【0084】
第2比較例に係る光電子増倍管の基本的な構造は第1比較例と同じであるが、ホトカソードから第1ダイノードDY1までのフォーカス距離D3が、第1比較例に係る光電子増倍管のフォーカス距離D2よりも強制的に短くなるよう設計されている。このように第2比較例では、ホトカソード周辺から放出された光電子の軌道A3を曲げるのに十分なフォーカス距離が確保できないため、ホトカソードと電子増倍部との間に配置された集束電極に衝突してしまう。
【0085】
一方、この発明に係る光電子増倍管によれば(図21)、電子増倍部400の有効領域AR1内にダイノードピンが配置されるため、第1及び第2比較例に係る、従来の光電子増倍管(図22及び23)よりも有効領域AR1が拡大されている。このように有効領域AR1が拡大されることにより電子増倍部400の光電子入射面に対面しているホトカソード200のうち特に周辺から放出される光電子の軌道修正の程度が少なくなる。そのため、フォーカス距離D1が大幅に低減され、ホトカソード200の中央領域から放出された光電子と周辺領域から放出された光電子との間で走行距離の差が小さくなる(走行時間の揺らぎが小さい)。また、電子増倍部400の有効領域AR1の周辺領域が拡大されたことにより、ホトカソード200の周辺領域から放出される光電子の軌道A1を大きく修正することなく第1ダイノード(第1ダイノードユニットDY1)へ光電子を入射させることが可能になる。
【0086】
なお、上述の実施形態では、この発明に係る光電子増倍管における密封容器100は、入射面板と管胴が一体的に形成された封筒部分(管胴120により支持された封筒部分のトップ110が入射面板として機能する)と、排気用パイプ600及びリードピン700を保持するステム130により構成されていた。しかしながら、当該光電子増倍管に適用される密封容器は、上述の構造には限定されない。例えば、図24(a)に示されたように、それぞれが独立したガラス部材である、入射面板910、管胴920、及びステム930により密封容器900が構成されてもよい。入射面板910は、互いに対向する光入射面910aと、光出射面910bを有し、当該密封容器900の内側に位置する入射面板910の光出射面910b上にホトカソード200が形成される。管胴920(バルブ)は、所定の管軸AXに沿って伸びた形状を有し、その一端に入射面板910が溶融接合されている。また、管胴920の他端には、当該密封容器900の底部を構成するステム930が溶融接合され、このステム930にも排気用パイプ940が設けられるとともに、当該密封容器900の内部と外部を電気的に連絡するリードピン950がそれぞれ貫通した状態で設置されている。図24(b)は、図24(a)中に示されたXVII−XVII線に沿った他の密封容器の構造、特に内側にホトカソード200が形成される入射面板910近傍の構造を示す断面図である。このような密封容器900においても、ホトカソード200が入射面板910の光出射面910b上に形成されることにより、上述のような当該光電子増倍管の効果が得られる。
【0087】
以上の本発明の説明から、本発明を様々に変形しうることは明らかである。そのような変形は、本発明の思想および範囲から逸脱するものとは認めることはできず、すべての当業者にとって自明である改良は、以下の請求の範囲に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】この発明に係る光電子増倍管の一実施形態の概略構成を示す一部破断図である。
【図2】この発明に係る光電子増倍管における密封容器の構造を説明するための組み立て工程図及び断面図である。
【図3】図1に示された光電子増倍管の、I-I線に沿った断面構造を示す図である。
【図4】この発明に係る光電子増倍管における、集束電極ユニット、電子増倍部、及びアノードユニットの各構造を説明するための組み立て工程図である。
【図5】図4に示された組み立て工程を経て完成された内部ユニット(集束電極ユニット、電子増倍部、及びアノードユニットが一体的に積層されたユニット)の概観を示す斜視図である。
【図6】集束電極ユニットの構成を説明するための組み立て工程図である。
【図7】電子増倍部の一部を構成する第4段目のダイノードユニットの第1の構成例を説明するための組み立て工程図及び断面図である。
【図8】各ダイノードユニット(図7(a))におけるダイノードの製造方法を説明するための工程図である。
【図9】ダイノードユニット間に配置される絶縁スペーサの構成を説明するための斜視図及び断面図である。
【図10】ダイノードユニットの積層構造を説明するための断面図である。
【図11】電子増倍部の一部を構成する第4段目のダイノードユニットの第2の構成例を説明するための組み立て工程図及び斜視図である。
【図12】電子増倍部の一部を構成する第4段目のダイノードユニットの第3の構成例を説明するための組み立て工程図及び断面図である。
【図13】アノードユニットの第1の構成例を説明するための組み立て工程図である。
【図14】アノードユニットの第2の構成例を説明するための組み立て工程図である。
【図15】アノードユニットの第3の構成例を説明するための組み立て工程図である。
【図16】内部ユニットの他の構成例として、図6の収束電極ユニット、図12のダイノードユニットを含む電子増倍部、及び図14のアノードユニットが一体的に積層された内部ユニットの概観を示す斜視図である。
【図17】図16に示された内部ユニットの、XVIII−XVIII線に沿った断面図である。
【図18】ダイノードユニットに適用可能な各種ダイノードの構造を説明するための一部破断図であり、図18(d)はこの発明の構造的特長を説明するための概念図である。
【図19】ダイノードユニットの構造とともに電子増倍部の有効領域を説明するための、ダイノードユニットの平面図及び断面図である。
【図20】この発明に係る光電子増倍管の技術的効果を、従来技術と比較しながら説明するための概念図である。
【図21】この発明に係る光電子増倍管における構造的特徴及び効果を説明するため、ホトカソードから放出される光電子の軌道を説明するための図である。
【図22】この発明に係る光電子増倍管における構造的特徴及び効果を説明するために用意された第1比較例に係る光電子増倍管の、図21に相当する断面図であって、該第1比較例に係る光電子増倍管における光電子の軌道を説明するための図である。
【図23】この発明に係る光電子増倍管における構造的特徴及び効果を説明するために用意された第2比較例に係る光電子増倍管の、図21に相当する断面図であって、該第2比較例に係る光電子増倍管における光電子の軌道を説明するための図である。
【図24】この発明に係る光電子増倍管における密閉容器の他の構造を説明するための組み立て工程図及び断面図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部が所定の真空度まで減圧された密封容器と、
前記密封容器内に収納され、所定波長の光に応答して光電子を該密封容器内に放出するホトカソードと、
前記密封容器内に収納され、前記ホトカソードから到達した光電子に応答して二次電子を放出し、該二次電子を順次カスケード増倍していく電子増倍部であって、それぞれが同電位に設定される1又はそれ以上のダイノードを有する複数段のダイノードユニットを含む電子増倍部と、
前記ホトカソードとともに前記電子増倍部を挟むように前記密封容器内に配置され、前記電子増倍部から放出された二次電子を捕獲するアノードと、そして、
前記複数段のダイノードユニットそれぞれを所定電位に設定するための複数のダイノードピンであって、それぞれ一端が対応するダイノードユニットに電気的に接続された状態で固定された複数のダイノードピンとを備えた光電子増倍部であって、
前記電子増倍管は、少なくとも、前記ホトカソードから放出された光電子の入射に応答して二次電子を放出する第1ダイノードを有する第1ダイノードユニットと、前記第1ダイノードから放出された二次電子の入射に応答して二次電子を放出する第2ダイノードを有する第2ダイノードユニットを含み、そして、
前記第1及び第2ダイノードユニットは、前記第2ダイノードが前記ホトカソードと前記アノードとの間に位置するとともに前記第1ダイノードが前記第2ダイノードと前記アノードとの間に位置するよう、前記ホトカソードから前記アノードに向かって順に積層されている光電子増倍管。
【請求項2】
内部が所定の真空度まで減圧された密封容器と、
前記密封容器内に収納され、所定波長の光に応答して光電子を該密封容器内に放出するホトカソードと、
前記密封容器内に収納され、前記ホトカソードから到達した光電子に応答して二次電子を放出し、該二次電子を順次カスケード増倍していく電子増倍部であって、それぞれが同電位に設定される1又はそれ以上のダイノードを有する複数段のダイノードユニットを含む電子増倍部と、
前記ホトカソードとともに前記電子増倍部を挟むように前記密封容器内に配置され、前記電子増倍部から放出された二次電子を捕獲するアノードと、
前記複数段のダイノードユニットそれぞれを所定電位に設定するための複数のダイノードピンであって、それぞれ一端が対応するダイノードユニットに電気的に接続された状態で固定された複数のダイノードピンと、そして、
前記ホトカソード側から前記電子増倍部を見たとき、前記複数段のダイノードユニットを構成する全ダイノードを包含する最小視野領域で規定される、前記電子増倍部における有効領域内において、前記複数のダイノードピンを保持する構造とを備えた光電子増倍管。
【請求項3】
内部が所定の真空度まで減圧された密封容器と、
前記密封容器内に収納され、所定波長の光に応答して光電子を該密封容器内に放出するホトカソードと、
前記密封容器内に収納され、前記ホトカソードから到達した光電子に応答して二次電子を放出し、該二次電子を順次カスケード増倍していく電子増倍部であって、前記ホトカソードに直交する方向に沿って該ホトカソード側から順に絶縁スペーサを介して積層されたN(≧2)段のダイノードユニットを含む電子増倍部と、
前記ホトカソードとともに前記電子増倍部を挟むように前記密封容器内に配置され、前記電子増倍部から放出された二次電子を捕獲するアノードと、そして、
前記複数段のダイノードユニットそれぞれを所定電位に設定するための複数のダイノードピンであって、それぞれ一端が対応するダイノードユニットに電気的に接続された状態で固定された複数のダイノードピンとを備えた光電子増倍管であって、
少なくとも、前記ホトカソードから前記アノードに向かって第n(2≦n≦N)段目のダイノードユニットは、それぞれ同電位に設定された複数のダイノードと、これら複数のダイノードの間隔を一定に保持するための支持フレームと、前記複数のダイノードピンのうち対応するダイノードピンを含み、
前記第n段目のダイノードユニットにおける前記支持フレームは、前記複数のダイノード全てを挟むように配置された一対の支持部と、これら一対の支持部に両端が固定されるとともに同電位に設定される前記複数のダイノードのうち少なくとも2つのダイノードに挟まれるよう配置された連結部であって、対応するダイノードピンの一端が固定される構造が設けられた連結部を備えている光電子増倍管。
【請求項4】
前記複数段のダイノードユニットそれぞれは、それぞれが同電位に設定される複数のダイノードを含み、これら同電位に設定される複数のダイノードは、少なくとも2つのダイノードによって対応するダイノードピンの固定された一端を挟むように配置されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の光電子増倍管。
【請求項5】
前記電子増倍部は、前記ホトカソードから前記アノードに向かって絶縁スペーサを介して積層されたN(≧2)段のダイノードユニットを含み、
前記ホトカソードから前記アノードに向かって第n(2≦n≦N)段目のダイノードユニットは、それぞれ同電位に設定された複数のダイノードと、これら複数のダイノードの間隔を一定に保持するための支持フレームであって、その一部が前記複数のダイノードのうち少なくとも2つのダイノードの間に位置するとともに第(n−1)段目のダイノードユニットに対応するダイノードピンを電気的に接触することなく貫通させるための貫通孔を有する支持フレームを有することを特徴とする請求項1又は2記載の光電子増倍管。
【請求項6】
前記第n段目のダイノードユニットと第(n+1)段目のダイノードユニットとの間に位置する前記絶縁スペーサの一部は、前記第(n−1)段目のダイノードユニットに対応するダイノードピンを保持する貫通孔を有し、該絶縁体スペーサの貫通孔は、その中心が前記第n段目のダイノードユニットにおける前記支持フレームの一部に設けられた貫通孔の中心と一致するよう配置されていることを特徴とする請求項3又は5記載の光電子増倍管。
【請求項7】
前記第n段目のダイノードユニットと第(n+1)段目のダイノードユニットとの間に位置する前記絶縁スペーサは、前記第n段目のダイノードユニットに対応したダイノードピンの、前記ホトカソードから前記アノードへ向かう方向に沿った位置を規定するための構造を有することを特徴とする請求項3又は5記載の光電子増倍管。
【請求項8】
前記第n段目のダイノードユニットにおける前記支持フレームの連結部は、第(n−1)段目のダイノードユニットに対応するダイノードピンを電気的に接触することなく貫通させるための貫通孔を有することを特徴とする請求項3記載の光電子増倍管。
【請求項9】
前記第n段目のダイノードユニットに対応するダイノードピンは、前記第n段目のダイノードユニットと第(n+1)段目のダイノードユニットの間に位置する前記絶縁スペーサを、該第n段目のダイノードユニットの一部として、該第n段目のダイノードユニットの支持フレームに固定するための構造を有することを特徴とする請求項3又は5記載の光電子増倍管。
【請求項10】
前記第n段目のダイノードユニットにおける前記支持フレームは、前記複数のダイノード全てを挟むように配置された一対の支持部と、これら一対の支持部に両端が固定されるとともに同電位に設定される前記複数のダイノードのうち少なくとも2つのダイノードに挟まれるよう配置された連結部であって、対応するダイノードピンの一端が固定される構造が設けられた連結部を備えたことを特徴とする請求項5記載の光電子増倍管。
【請求項11】
前記第n段目のダイノードユニットと前記第(n+1)段目のダイノードユニットの間に位置する前記絶縁スペーサは、前記第n段目のダイノードユニットにおける前記支持フレームの前記一対の支持部に対応した一対の支持部と、前記第n段目のダイノードユニットにおける前記支持フレームの前記連結部に対応した連結部を有し、そして、
前記絶縁スペーサの連結部は、前記第(n−1)段目のダイノードユニットに対応するダイノードピンを保持する貫通孔を有し、該絶縁体スペーサの貫通孔は、その中心が前記第n段目のダイノードユニットにおける前記支持フレームの前記連結部に設けられた貫通孔の中心と一致するよう配置されていることを特徴とする請求項3又は10記載の光電子増倍管。
【請求項12】
前記第n段目のダイノードユニットと前記第(n+1)段目のダイノードユニットの間に位置する前記絶縁スペーサは、それぞれが同一形状を有するとともに、前記ホトカソードから前記アノードに向かう方向に沿って直接接触した状態で積層された複数のスペーサ要素を備えたことを特徴とする請求項11記載の光電子増倍管。
【請求項13】
前記第n段目のダイノードユニットと第(n+1)段目のダイノードユニットの間に位置する前記絶縁スペーサは、前記第n段目のダイノードユニットにおけるダイノードそれぞれによって挟まれた空間を塞ぐよう配置された複数の遮光部を有し、
前記複数の遮光部それぞれには、アルカリ金属蒸気を通過させるための複数のスリットが設けられていることを特徴とする請求項3又は5記載の光電子増倍管。
【請求項1】
内部が所定の真空度まで減圧された密封容器と、
前記密封容器内に収納され、所定波長の光に応答して光電子を該密封容器内に放出するホトカソードと、
前記密封容器内に収納され、前記ホトカソードから到達した光電子に応答して二次電子を放出し、該二次電子を順次カスケード増倍していく電子増倍部であって、それぞれが同電位に設定される1又はそれ以上のダイノードを有する複数段のダイノードユニットを含む電子増倍部と、
前記ホトカソードとともに前記電子増倍部を挟むように前記密封容器内に配置され、前記電子増倍部から放出された二次電子を捕獲するアノードと、そして、
前記複数段のダイノードユニットそれぞれを所定電位に設定するための複数のダイノードピンであって、それぞれ一端が対応するダイノードユニットに電気的に接続された状態で固定された複数のダイノードピンとを備えた光電子増倍部であって、
前記電子増倍管は、少なくとも、前記ホトカソードから放出された光電子の入射に応答して二次電子を放出する第1ダイノードを有する第1ダイノードユニットと、前記第1ダイノードから放出された二次電子の入射に応答して二次電子を放出する第2ダイノードを有する第2ダイノードユニットを含み、そして、
前記第1及び第2ダイノードユニットは、前記第2ダイノードが前記ホトカソードと前記アノードとの間に位置するとともに前記第1ダイノードが前記第2ダイノードと前記アノードとの間に位置するよう、前記ホトカソードから前記アノードに向かって順に積層されている光電子増倍管。
【請求項2】
内部が所定の真空度まで減圧された密封容器と、
前記密封容器内に収納され、所定波長の光に応答して光電子を該密封容器内に放出するホトカソードと、
前記密封容器内に収納され、前記ホトカソードから到達した光電子に応答して二次電子を放出し、該二次電子を順次カスケード増倍していく電子増倍部であって、それぞれが同電位に設定される1又はそれ以上のダイノードを有する複数段のダイノードユニットを含む電子増倍部と、
前記ホトカソードとともに前記電子増倍部を挟むように前記密封容器内に配置され、前記電子増倍部から放出された二次電子を捕獲するアノードと、
前記複数段のダイノードユニットそれぞれを所定電位に設定するための複数のダイノードピンであって、それぞれ一端が対応するダイノードユニットに電気的に接続された状態で固定された複数のダイノードピンと、そして、
前記ホトカソード側から前記電子増倍部を見たとき、前記複数段のダイノードユニットを構成する全ダイノードを包含する最小視野領域で規定される、前記電子増倍部における有効領域内において、前記複数のダイノードピンを保持する構造とを備えた光電子増倍管。
【請求項3】
内部が所定の真空度まで減圧された密封容器と、
前記密封容器内に収納され、所定波長の光に応答して光電子を該密封容器内に放出するホトカソードと、
前記密封容器内に収納され、前記ホトカソードから到達した光電子に応答して二次電子を放出し、該二次電子を順次カスケード増倍していく電子増倍部であって、前記ホトカソードに直交する方向に沿って該ホトカソード側から順に絶縁スペーサを介して積層されたN(≧2)段のダイノードユニットを含む電子増倍部と、
前記ホトカソードとともに前記電子増倍部を挟むように前記密封容器内に配置され、前記電子増倍部から放出された二次電子を捕獲するアノードと、そして、
前記複数段のダイノードユニットそれぞれを所定電位に設定するための複数のダイノードピンであって、それぞれ一端が対応するダイノードユニットに電気的に接続された状態で固定された複数のダイノードピンとを備えた光電子増倍管であって、
少なくとも、前記ホトカソードから前記アノードに向かって第n(2≦n≦N)段目のダイノードユニットは、それぞれ同電位に設定された複数のダイノードと、これら複数のダイノードの間隔を一定に保持するための支持フレームと、前記複数のダイノードピンのうち対応するダイノードピンを含み、
前記第n段目のダイノードユニットにおける前記支持フレームは、前記複数のダイノード全てを挟むように配置された一対の支持部と、これら一対の支持部に両端が固定されるとともに同電位に設定される前記複数のダイノードのうち少なくとも2つのダイノードに挟まれるよう配置された連結部であって、対応するダイノードピンの一端が固定される構造が設けられた連結部を備えている光電子増倍管。
【請求項4】
前記複数段のダイノードユニットそれぞれは、それぞれが同電位に設定される複数のダイノードを含み、これら同電位に設定される複数のダイノードは、少なくとも2つのダイノードによって対応するダイノードピンの固定された一端を挟むように配置されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の光電子増倍管。
【請求項5】
前記電子増倍部は、前記ホトカソードから前記アノードに向かって絶縁スペーサを介して積層されたN(≧2)段のダイノードユニットを含み、
前記ホトカソードから前記アノードに向かって第n(2≦n≦N)段目のダイノードユニットは、それぞれ同電位に設定された複数のダイノードと、これら複数のダイノードの間隔を一定に保持するための支持フレームであって、その一部が前記複数のダイノードのうち少なくとも2つのダイノードの間に位置するとともに第(n−1)段目のダイノードユニットに対応するダイノードピンを電気的に接触することなく貫通させるための貫通孔を有する支持フレームを有することを特徴とする請求項1又は2記載の光電子増倍管。
【請求項6】
前記第n段目のダイノードユニットと第(n+1)段目のダイノードユニットとの間に位置する前記絶縁スペーサの一部は、前記第(n−1)段目のダイノードユニットに対応するダイノードピンを保持する貫通孔を有し、該絶縁体スペーサの貫通孔は、その中心が前記第n段目のダイノードユニットにおける前記支持フレームの一部に設けられた貫通孔の中心と一致するよう配置されていることを特徴とする請求項3又は5記載の光電子増倍管。
【請求項7】
前記第n段目のダイノードユニットと第(n+1)段目のダイノードユニットとの間に位置する前記絶縁スペーサは、前記第n段目のダイノードユニットに対応したダイノードピンの、前記ホトカソードから前記アノードへ向かう方向に沿った位置を規定するための構造を有することを特徴とする請求項3又は5記載の光電子増倍管。
【請求項8】
前記第n段目のダイノードユニットにおける前記支持フレームの連結部は、第(n−1)段目のダイノードユニットに対応するダイノードピンを電気的に接触することなく貫通させるための貫通孔を有することを特徴とする請求項3記載の光電子増倍管。
【請求項9】
前記第n段目のダイノードユニットに対応するダイノードピンは、前記第n段目のダイノードユニットと第(n+1)段目のダイノードユニットの間に位置する前記絶縁スペーサを、該第n段目のダイノードユニットの一部として、該第n段目のダイノードユニットの支持フレームに固定するための構造を有することを特徴とする請求項3又は5記載の光電子増倍管。
【請求項10】
前記第n段目のダイノードユニットにおける前記支持フレームは、前記複数のダイノード全てを挟むように配置された一対の支持部と、これら一対の支持部に両端が固定されるとともに同電位に設定される前記複数のダイノードのうち少なくとも2つのダイノードに挟まれるよう配置された連結部であって、対応するダイノードピンの一端が固定される構造が設けられた連結部を備えたことを特徴とする請求項5記載の光電子増倍管。
【請求項11】
前記第n段目のダイノードユニットと前記第(n+1)段目のダイノードユニットの間に位置する前記絶縁スペーサは、前記第n段目のダイノードユニットにおける前記支持フレームの前記一対の支持部に対応した一対の支持部と、前記第n段目のダイノードユニットにおける前記支持フレームの前記連結部に対応した連結部を有し、そして、
前記絶縁スペーサの連結部は、前記第(n−1)段目のダイノードユニットに対応するダイノードピンを保持する貫通孔を有し、該絶縁体スペーサの貫通孔は、その中心が前記第n段目のダイノードユニットにおける前記支持フレームの前記連結部に設けられた貫通孔の中心と一致するよう配置されていることを特徴とする請求項3又は10記載の光電子増倍管。
【請求項12】
前記第n段目のダイノードユニットと前記第(n+1)段目のダイノードユニットの間に位置する前記絶縁スペーサは、それぞれが同一形状を有するとともに、前記ホトカソードから前記アノードに向かう方向に沿って直接接触した状態で積層された複数のスペーサ要素を備えたことを特徴とする請求項11記載の光電子増倍管。
【請求項13】
前記第n段目のダイノードユニットと第(n+1)段目のダイノードユニットの間に位置する前記絶縁スペーサは、前記第n段目のダイノードユニットにおけるダイノードそれぞれによって挟まれた空間を塞ぐよう配置された複数の遮光部を有し、
前記複数の遮光部それぞれには、アルカリ金属蒸気を通過させるための複数のスリットが設けられていることを特徴とする請求項3又は5記載の光電子増倍管。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公開番号】特開2009−200044(P2009−200044A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−29791(P2009−29791)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
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