説明

光電子増倍管

【課題】小型化された場合でも前段のダイノードから後段のダイノードへの電子の導入効率を向上させること。
【解決手段】光電子増倍管1は、筐体5の内面40a上の電子増倍方向に沿って配列された複数段のダイノード33a〜33lを有する電子増倍部33と、筐体5内に電子増倍部33から離間して設けられた光電面41及び陽極部34とを備え、ダイノード33c〜33eは、それぞれ、二次電子放出面53c〜53eが形成された複数の柱状部51c〜51eを有し、隣接する柱状部間に電子増倍チャネルCを形成し、後段側の柱状部51eにおける前段側の柱状部51dに対する対向面54eは、柱状部51dの二次電子放出面53dの他端側の端部に対して対向する部位55eを基準にして、対向面54eの内面40aに沿った方向の両端部56e,57eが一端側に突出するように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部からの入射光を検出する光電子増倍管に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、微細加工技術を利用した小型の光電子増倍管の開発が進められている。例えば、透光性の絶縁基板上に光電面、ダイノード、及びアノードが配置された平面型の光電子増倍管が知られている(下記特許文献1参照)。このような構造によって、微弱光の検出が高い信頼度で実現されるとともに、装置の小型化も図られている。また、光電子増倍管において、複数段に積層されて構成されたダイノード間で電子の収集効率を向上させるために、各ダイノードに上段側のダイノードの貫通孔に向けて突出した加速電極部が設けられた構造が知られている(下記特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第5,264,693号明細書
【特許文献2】特開平8−17389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したような従来の光電子増倍管では、小型化された場合に光電面や電子増倍部も小さくなることから、検出される信号量が小さくなってしまう傾向にある。そのため、電子増倍部においてより高い電子増倍効率を得ることが求められている。
【0005】
そこで、本発明は、かかる課題に鑑みて為されたものであり、小型化された場合でも前段のダイノードから後段のダイノードへの電子の導入効率を向上させることでより高い電子増倍効率を得ることが可能な光電子増倍管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の光電子増倍管は、少なくとも内面が絶縁材料によって形成されている基板を有する外囲器と、外囲器の内面上の一端側から他端側に向けた一方向に沿って、順に離間して配列されたN段(Nは2以上の整数)のダイノードを有する電子増倍部と、外囲器内の一端側に電子増倍部から離間して設けられ、外部からの入射光を光電子に変換して、光電子を放出する光電面と、外囲器内の他端側に電子増倍部から離間して設けられ、電子増倍部によって増倍された電子を信号として取り出す陽極部とを備え、N段のダイノードは、それぞれ、内面上に配置され、二次電子放出面が形成された複数の柱状部を有し、複数の柱状部のうちの隣接する柱状部間に二次電子放出面を備えた電子増倍路を形成し、第M+1段目(Mは1以上N未満の整数)のダイノードの柱状部における第M段目のダイノードの柱状部に対する対向面は、M段目のダイノードの柱状部の二次電子放出面の他端側の端部に対して対向する部位を基準にして、対向面の内面に沿った方向の両方の端部が一端側に突出するように形成されていることを特徴とする。
【0007】
このような光電子増倍管によれば、入射光が光電面に入射することによって光電子に変換され、この光電子が、外囲器内の内面上の複数段のダイノードによって形成された電子増倍路に入射することによって増倍され、増倍された電子が電気信号として陽極部から取り出される。ここで、各ダイノードは、電子増倍路に接する二次電子放出面が形成された複数の柱状部を有し、後段側のダイノードの柱状部の前段側の対向面は、前段側のダイノードの二次電子放出面の後段側端部に対して対向する部位を中心にして、基板の内面に沿った両方の端部が突出しているので、前段側のダイノードの電子増倍路内の二次電子放出面近傍の電位を高くすることができ、前段側のダイノードから後段側のダイノードへ増倍電子を効率よく導くことができる。その結果、高い電子増倍効率を得ることができる。
【0008】
第M段目のダイノードの柱状部における第M+1段目のダイノードの柱状部に対する対向面は、第M+1段目のダイノードの端部に対向する部位が、一端側に窪むように形成されている、ことが好適である。この場合、後段側のダイノードの前段側の対向面によって押し出された電界が前段側のダイノードに引き込まれやすくなり、電子増倍路内の電位が上昇して電子増倍効率をより高くすることができる。
【0009】
また、N段のダイノードは、それぞれ、複数の柱状部の内面側の端部に形成され、複数の柱状部を電気的に接続する基台部を有し、第M段目のダイノードの基台部は、第M+1段目のダイノードの柱状部の端部に対応した部位において一端側に窪むように形成されている、ことも好適である。かかる構成を採れば、隣接する段のダイノード間の耐電圧特性を向上することができるので、ダイノード同士をより近接させることができる。その結果、前段側のダイノードから後段側のダイノードへ増倍電子を効率よく導くことができるため、電子増倍効率をより一層高くすることができる。
【0010】
また、前記陽極部は、前記N段目のダイノードの前記電子増倍路と対向するように、他端側に向かって窪むように形成されている電子捕集部を有する、ことも好適である。かかる電子捕集部を有することで、N段目のダイノードからの増倍電子を効率よく捕集することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、小型化された場合でも前段のダイノードから後段のダイノードへの電子の導入効率を向上させることでより高い電子増倍効率を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の好適な一実施形態に係る光電子増倍管の斜視図である。
【図2】図1の光電子増倍管の分解斜視図である。
【図3】図1の側壁フレームの平面図である。
【図4】図1の側壁フレーム及び下側フレームの要部を示す一部破断斜視図である。
【図5】図3の電子増倍部の一部を拡大して示す平面図である。
【図6】(a)は、図1の上側フレームを裏面側から見た底面図、(b)は、図1の側壁フレームの平面図である。
【図7】図6の上側フレームと側壁フレームとの接続状態を示す斜視図である。
【図8】図5の電子増倍部によって生成される電位分布を示す図である。
【図9】本発明の変形例に係る光電子増倍管の分解斜視図である。
【図10】本発明の変形例に係る光電子増倍管の分解斜視図である。
【図11】本発明の比較例の電子増倍部における電位分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る光電子増倍管の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0014】
図1は、本発明の好適な一実施形態に係る光電子増倍管1の斜視図、図2は、図1の光電子増倍管1の分解斜視図である。
【0015】
図1に示す光電子増倍管1は、透過型の光電面を有する光電子増倍管であって、上側フレーム2と、側壁フレーム3と、上側フレーム2に対して側壁フレーム3を挟んで対向する下側フレーム(基板)4により構成された外囲器である筐体5を備える。この光電子増倍管1は、光電面への光の入射方向と、電子増倍部での電子の増倍方向が交差する、つまり図1の矢印Aで示された方向から光が入射されると、光電面から放出された光電子が電子増倍部に入射し、矢印Bで示された方向に二次電子をカスケード増幅し、陽極部から信号を取り出す電子管である。
【0016】
なお、以下の説明においては、電子増倍方向に沿って、電子増倍路(電子増倍チャネル)の上流側(光電面側)を“一端側”とし、下流側(陽極部側)を“他端側”とする。引き続いて、光電子増倍管1の各構成要素について詳細に説明する。
【0017】
図2に示すように、上側フレーム2は、矩形平板状の絶縁性のセラミックスを主材料とする配線基板20を基材として構成されている。このような配線基板としては、微細な配線設計が可能で、かつ表裏の配線パターンを自由に設計できるLTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics:低温同時焼成セラミックス)等の多層配線基板が用いられる。配線基板20には、その主面20b上に、側壁フレーム3、後述する光電面41、集束電極31、壁状電極32、電子増倍部33、及び陽極部34と電気的に接続されて外部からの給電や信号の取り出しを行う複数の導電性端子201A〜Dが設けられている。導電性端子201Aは側壁フレーム3の給電用として、導電性端子201Bは、光電面41、集束電極31、及び壁状電極32の給電用として、導電性端子201Cは、電子増倍部33の給電用として、導電性端子201Dは、陽極部34の給電及び信号取り出し用として、それぞれ設けられている。これらの導電性端子201A〜Dは、配線基板20の内部で主面20bに対して対向する絶縁性の対向面20a上の導電膜や導電性端子(詳細は後述する。)と相互に接続され、これらの導電膜、導電性端子と側壁フレーム3、光電面41、集束電極31、壁状電極32、電子増倍部33、及び陽極部34とが接続される。また、上側フレーム2は、導電性端子201を設けた多層配線基板に限らず、外部からの給電や信号の取り出しを行う導電性端子が貫通して設けられた、ガラス基板等の絶縁材料からなる板状部材でもよい。
【0018】
側壁フレーム3は、矩形平板状のシリコン基板30を基材として構成されている。シリコン基板30の主面30aからそれに対向する面30bに向かって、枠状の側壁部302に囲まれた貫通部301が形成されている。この貫通部301はその開口が矩形であって、その外周はシリコン基板30の外周に沿うように形成されている。
【0019】
この貫通部301内には、一端側から他端側に向かって、壁状電極32、集束電極31、電子増倍部33、及び陽極部34が配置されている。これらの壁状電極32、集束電極31、電子増倍部33、及び陽極部34は、シリコン基板30をRIE(Reactive Ion Etching)加工等によって加工することにより形成され、シリコンを主要材料としている。
【0020】
壁状電極32は、後述するガラス基板40の対向面40aと正対する方向(対向面40aに対する略垂直方向、図1の矢印Aで示す方向に対して反対向きの方向)から見て、後述する光電面41を取り囲むように形成された枠状の電極である。また、集束電極31は、光電面41から放出された光電子を集束して電子増倍部33へと導くための電極であり、光電面41と電子増倍部33との間に設けられている。
【0021】
電子増倍部33は、光電面41から陽極部34に向う電子増倍方向(図1の矢印Bで示された方向、以下同じ。)に沿って異なる電位に設定されるN段(Nは2以上の整数)のダイノード(電子増倍部)から構成されており、各段を跨って複数の電子増倍路(電子増倍チャネル)を有している。また、陽極部34は光電面41とともに電子増倍部33を挟む位置に配置される。
【0022】
これら壁状電極32、集束電極31、電子増倍部33、及び陽極部34は、それぞれ、下側フレーム4に陽極接合、拡散接合、さらには低融点金属(例えばインジウム)等の封止材を用いた接合等によって固定されており、これにより該下側フレーム4上に二次元的に配置される。
【0023】
下側フレーム4は、矩形平板状のガラス基板40を基材として構成されている。このガラス基板40は、絶縁材料であるガラスによって配線基板20の対向面20aに対向し、筐体5の内面である対向面40aを形成する。対向面40a上における、側壁フレーム3の貫通部301に対向する部位(側壁部302との接合領域以外の部位)であって、陽極部34側と反対側の端部には、透過型光電面である光電面41が形成されている。また、対向面40a上の電子増倍部33及び陽極部34が搭載される部位には、増倍電子の対向面40aへの入射を防止するための矩形状の窪み部42が形成されている。
【0024】
図3〜図5を参照して、光電子増倍管1の内部構造について詳細に説明する。図3は、図1の側壁フレーム3の平面図、図4は、図1の側壁フレーム3及び下側フレーム4の要部を示す一部破断斜視図、図5は、図3の電子増倍部33を拡大して示す平面図である。
【0025】
図3に示すように、貫通部301内の電子増倍部33は、対向面40a上の一端側から他端側に向けて(電子増倍方向である矢印Bの示す方向に向けて)、順に離間して配列された複数段のダイノード33a〜33lから構成されている。これらの複数段のダイノード33a〜33lは、矢印Bの示す方向に沿って、一端側の第1段目のダイノード33aから他端側の最終段(第N段目)のダイノード33lにかけて連続するように設けられたN個の電子増倍孔から構成された電子増倍チャネルCを複数並列に形成している。
【0026】
また、光電面41は、一端側の第1段目のダイノード33aから、集束電極31を挟んだ対向面40a上の一端側に離間して設けられている。この光電面41は、ガラス基板40の対向面40a上に矩形状の透過型光電面として形成されている。外部から下側フレーム4であるガラス基板40を透過した入射光が光電面41に到達すると、この入射光に応じた光電子が放出され、その光電子は壁状電極32及び集束電極31によって第1段目のダイノード33aへと導かれる。
【0027】
また、陽極部34は、他端側の最終段のダイノード33lから、対向面40a上の他端側に離間して設けられている。この陽極部34は、電子増倍部33の電子増倍チャネルC内を矢印Bの示す方向に増倍してきた電子を、電気信号として外部に取り出すための電極である。さらに、陽極部34には、最終段のダイノード33lの電子増倍チャネルCと対向するように、ダイノード33lとの対向面から対向面40aの他端側に向かって窪むように形成されている電子捕集部70を有している。電子捕集部70は、ダイノード33lの二次電子放出面と同じ側に、電子入射開口71を狭めるような突起部72を有している。
【0028】
図4及び図5を参照して、電子増倍部33の構造についてより詳細に説明すると、複数段のダイノード33a〜33dは、下側フレーム4の対向面40a上に形成された窪み部42の底部上に窪み部42の底部から離間するように配置されている。ダイノード33aは、対向面40aに沿って電子増倍方向に対してほぼ垂直な方向に配列され、上側フレーム2の対向面20aに向かってほぼ垂直に延びる複数の柱状部51aと、その複数の柱状部51aの窪み部42側の端部に連続的に形成され、窪み部42の底部に沿って電子増倍方向に対してほぼ垂直な方向に延びる基台部52aから成る。この基台部52aは、複数の柱状部51aを互いに電気的に接続するとともに、複数の柱状部51aを窪み部42の底部から離間して保持する役目を有する。ダイノード33b〜33dに関しても、それぞれ複数の柱状部51b〜51d、及び基台部52b〜52dに関して、ダイノード33aと同様の構造を有する。なお、本実施形態においては、ダイノード33a〜33dにおいて、複数の柱状部51a〜51d、及び基台部52a〜52dはそれぞれ一体に形成されているが、柱状部と基台部を別体にしても良い。また、図示していないが、ダイノード33e〜33lも同様の構造を有する。
【0029】
これらの複数段のダイノード33a〜33dの複数の柱状部51a〜51dによって、光電子の入射に伴って二次電子をカスケード増幅する電子増倍チャネルが形成される。便宜上、ダイノード33c〜33eにおける1つの電子増倍チャネルCを抜き出してより詳しく説明する。すなわち、図5に示すように、それぞれのダイノード33c〜33eの複数の柱状部51c〜51eのうちの電子増倍方向に対して垂直な方向に隣接する柱状部間には、電子増倍チャネルCが形成されており、この電子増倍チャネルCは、複数段のダイノード33c〜33eによって電子増倍方向に向けて蛇行するように形成される。また、それぞれの柱状部51c,51d,51eの電子増倍チャネルCに接する壁面のうち、電子入射開口63c,63d,63eと対面するような略円弧形状からなる一方には、二次電子放出面53c,53d,53eが形成されている。なお、この電子増倍チャネルCは、全てのダイノード33a〜33l間に電子増倍方向に垂直な方向に並んで複数設けられている。
【0030】
ここで、後段側のダイノード33eの柱状部51eにおける前段側のダイノード33dの柱状部51dに対する対向面54eは、以下のような形状を有している。具体的には、対向面54eは、前段側のダイノード33dの二次電子放出面53dの電子増倍方向(他端)側の端部64dに対して対向する部位55eを基準にして、対向面40aに沿った方向の端部56e,57eの両方が電子増倍方向に対して逆方向(一端側、矢印Bの方向と逆方向)に突出するような形状を成している。言い換えれば、この対向面54eは、電子増倍方向に対して垂直な端部56e,57eを通る平面P1を基準にして、対向面40aに沿った部位55eを含む断面形状が電子増倍方向に窪んだ形状を有している。さらに、対向面54eは、下側フレーム4の対向面40aに正対する方向から見た場合、端部56eから部位55eにかけて、および端部57eから部位55eにかけて、いずれも他端側に向かって窪むようななだらかな略円弧形状を有することで、全体として他端側に窪むようななだらかな略円弧形状を有している。また、前段側のダイノード33dの柱状部51dにおける後段側のダイノード33eの柱状部51eに対する対向面54dは、柱状部51eに対応した形状となっている。すなわち、対向面54dは、対向面54eの端部57eに対して対向する部位58dが電子増倍方向に対して逆方向(一端側)に窪むように形成されており、柱状部51dの対向面54dと柱状部51eの対向面54eとが対面する領域において、電子増倍方向における両面間の間隔がほぼ均一になっている。
【0031】
また、基台部52d,52eは、上記のような柱状部51d,51eの形状に対応した形状を有している。具体的には、基台部52eにおいて、柱状部51eの両端部56e,57eと対応する部位59e,60eは、電子増倍方向に対して逆方向に突出するような形状を成している。また、基台部52dにおいて、柱状部51dの部位58dと対応する部位61dは、電子増倍方向に対して逆方向に窪むような形状を有している。また、基台部52dにいて、基台部52eの部位59eに対向する部位62dは、電子増倍方向に対して逆方向に窪むような形状を有している。つまり、基台部52d,52eにおいても、電子増倍方向における両者間の間隔がほぼ均一になっている。
【0032】
なお、複数段のダイノード33a〜33lは、隣接する第M段目及び第M+1段目(1≦M<12)のダイノード間の対向面の形状が上述した形状と同様な形状を有している。また、最終段のダイノード33lと陽極部34との間のそれぞれの対向面においても上述した形状と同様な形状を有している。
【0033】
次に、図6及び図7を参照して、光電子増倍管1の配線構造について説明する。図6において、(a)は、上側フレーム2を裏面20a側から見た底面図、(b)は、側壁フレーム3の平面図であり、図7は、上側フレーム2と側壁フレーム3との接続状態を示す斜視図である。
【0034】
図6(a)に示すように、上側フレーム2の裏面20aには、導電性端子201B,201C,201Dのそれぞれに上側フレーム2の内部で電気的に接続された複数の導電膜202と、導電性端子201Aに上側フレーム2の内部で電気的に接続された導電性端子203が設けられている。また、図6(b)に示すように、電子増倍部33及び陽極部34の端部には、導電膜202との接続用の給電部36,37がそれぞれ立設されており、壁状電極32の隅部には、導電膜202との接続用の給電部38が立設されている。また、集束電極31は、壁状電極32と下側フレーム4側で一体形成されることで壁状電極32に対して電気的に接続されている。さらに、壁状電極32には、下側フレーム4の対向面40a側に矩形平板状の接続部39が一体的に形成されており、この接続部39と、対向面40a上に光電面41に電気的に接触して形成された導電膜(図示せず)とが接合されることで、壁状電極32と光電面41とが電気的に接続されている。
【0035】
上記構成の上側フレーム2と側壁フレーム3とを接合すると、導電性端子203が側壁フレーム3の側壁部302に電気的に接続される。併せて、電子増倍部33の給電部36、陽極部34の給電部37,及び壁状電極32の給電部38が、それぞれ、金(Au)などからなる導電部材を介して対応する導電膜202に独立に接続される。このような接続構成により、側壁部302、電子増倍部33、陽極部34が、それぞれ、導電性端子201A、201C,201Dに電気的に接続可能にされるとともに、壁状電極32が、集束電極31及び光電面41とともに、導電性端子201Bに電気的に接続される(図7)。
【0036】
以上説明した光電子増倍管1によれば、入射光が光電面41に入射することによって光電子に変換され、この光電子が、筐体5内の内面40a上の複数段のダイノード33a〜33lによって形成された電子増倍チャネルCに入射することによって増倍され、増倍された電子が電気信号として陽極部34から取り出される。ここで、各ダイノード33a〜33eは、電子増倍チャネルCを構成する二次電子放出面が形成された複数の柱状部51a〜51eを有し、後段側のダイノード33eの柱状部51eの前段側の対向面54eは、前段側の柱状部51dの二次電子放出面53dの後段側端部に対して対向する部位55eを中心にして、下側フレーム4の内面40aに沿った両方の端部56e,57eが突出しているので、前段側のダイノード33dの電子増倍チャネルC内に後段側のダイノード33eの電位を染みこませることにより二次電子放出面53d近傍の電位を高くすることができ、前段側のダイノード33dから後段側のダイノード33eへ増倍電子を効率よく導くことができる。また、前段側のダイノード33dの後段側のダイノード33eに対向する部分は、ダイノード33eの端部57eに対向する部位61dが窪むように形成されているので、後段側のダイノード33eの前段側の対向面54eによって押し出された電界が、前段側のダイノード33dに印加された電位によって妨げられることなくダイノード33d側に引き込まれやすくなり、電子増倍チャネルC内の電位が上昇して電子増倍効率をより高くすることができる。その結果、電子増倍部33が小型化されても高い電子増倍効率を得ることができる。
【0037】
さらに、前段側のダイノード33dの基台部52dは、後段側のダイノード33eの柱状部51eの端部56eに対応した部位62dにおいて一端側に窪むように形成されているので、隣接するダイノード33d,33eの間の耐電圧特性を向上することができる。よって、ダイノード33d,33eをより近接させることができ、その結果、前段側のダイノード33dから後段側のダイノード33eへ増倍電子を効率よく導くことができるため、電子増倍効率をより一層高くすることができる。また、隣接するダイノード33d,33eにおいて、電子増倍方向における両者間の間隔がほぼ均一にすることができるので、耐電圧特性をより向上することができるとともに、RIE加工等による加工時の形状のばらつきを無くして形状の再現性を向上させることができる。
【0038】
さらに、陽極部34には、最終段のダイノード33lの電子増倍チャネルと対向するように、ダイノード33lとの対向面から対向面40aの他端側に向かって窪むように形成されている電子捕集部70を有しているので、最終段のダイノード33lからの増倍電子を、窪むように形成された電子捕集部70によって効率よく捕集することができる。さらに、電子捕集部70は、ダイノード33lの二次電子放出面と同じ側に、電子入射開口71を狭めるような突起部72を有しているので、電子捕集部70内に導入された増倍電子を閉じ込めるような状態とすることで、より確実に増倍電子を検出信号として利用することができる。さらに、最終段のダイノード33lと陽極部34との間のそれぞれの対向面においても、上述した隣接するダイノード間の対向面と同様な形状を有しているので、最終段のダイノード33lからの電子を効率よく陽極34の電子捕集部70に導くような電界を形成することができる。
【0039】
図8は、本実施形態の電子増倍部33における対向面40aに沿った方向から見た電位分布を示す図であり、図11は、本発明の比較例である電子増倍部933における対向面40aに沿った方向から見た電位分布を示す図である。ここで、電子増倍部933は、ダイノード933c〜933eの対向面のそれぞれが、電子増倍方向に対して垂直な平面に沿った平面形状を有していると仮定した。このように、電子増倍部33によって生成される電位Eは、電子増倍部933による電位Eに比して、電子増倍チャネルC内に一端側に深くしみこんでおり、二次電子放出面近傍の電位が、電子が放出される電極の電位(ダイノード自体の電位)よりも高くなっていることがわかる。また、この場合の光電子増倍管1によって得られる出力ゲインは、比較例に対して4.47倍であり、二次電子増倍率は平均で13%程度高いという結果が得られた。
【0040】
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態の配線構造に関しても様々な変形態様を採ることができる。例えば、図9に示すように、導電性端子401を下側フレーム4Cに貫通して形成し、この導電性端子401を介して、光電面41、壁状電極32、集束電極31、電子増倍部33、及び陽極部34に対して給電するような構成としてもよい。このような構成よって、上側フレーム2に形成された導電膜202(図6(a))と、各電極とを独立に給電することが可能になる。
【0041】
また、図10に示すように、導電性端子401を設けた下側フレーム4Cと、導電性端子201A〜201Dを除いた上側フレーム2Cとを組み合わせてもよい。この場合、上側フレーム2Cとして、裏面側に複数の導電膜202が形成された絶縁性基板を用いる。このような組み合わせにおいて図6を参照して説明した配線構造を用いることで、下側フレーム4Cの導電性端子401から、壁状電極32、電子増倍部33、及び陽極部34を介して、上側フレーム2Cの導電膜202に給電することができる。
【符号の説明】
【0042】
1…光電子増倍管、4,4C…下側フレーム(基板)、5…筐体、33…電子増倍部、33a〜33l…ダイノード、34…陽極部、40a…対向面(内面)、41…光電面、51a〜51e…柱状部、52a〜52d…基台部、53c〜53e…二次電子放出面、70…電子捕集部、C…電子増倍チャネル(電子増倍路)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも内面が絶縁材料によって形成されている基板を有する外囲器と、
前記外囲器の前記内面上の一端側から他端側に向けた一方向に沿って、順に離間して配列されたN段(Nは2以上の整数)のダイノードを有する電子増倍部と、
前記外囲器内の前記一端側に前記電子増倍部から離間して設けられ、外部からの入射光を光電子に変換して、前記光電子を放出する光電面と、
前記外囲器内の前記他端側に前記電子増倍部から離間して設けられ、前記電子増倍部によって増倍された電子を信号として取り出す陽極部とを備え、
前記N段のダイノードは、それぞれ、前記内面上に配置され、二次電子放出面が形成された複数の柱状部を有し、前記複数の柱状部のうちの隣接する柱状部間に前記二次電子放出面を備えた電子増倍路を形成し、
第M+1段目(Mは1以上N未満の整数)のダイノードの前記柱状部における第M段目のダイノードの前記柱状部に対する対向面は、前記M段目のダイノードの前記柱状部の前記二次電子放出面の前記他端側の端部に対して対向する部位を基準にして、前記対向面の前記内面に沿った方向の両方の端部が前記一端側に突出するように形成されている、
を備えることを特徴とする光電子増倍管。
【請求項2】
前記第M段目のダイノードの前記柱状部における前記第M+1段目のダイノードの前記柱状部に対する対向面は、前記第M+1段目のダイノードの前記端部に対向する部位が、前記一端側に窪むように形成されている、
ことを特徴とする請求項1記載の光電子増倍管。
【請求項3】
前記N段のダイノードは、それぞれ、前記複数の柱状部の前記内面側の端部に形成され、前記複数の柱状部を電気的に接続する基台部を有し、
前記第M段目のダイノードの前記基台部は、前記第M+1段目のダイノードの前記柱状部の前記端部に対応した部位において前記一端側に窪むように形成されている、
ことを特徴とする請求項1又は2記載の光電子増倍管。
【請求項4】
前記陽極部は、前記N段目のダイノードの前記電子増倍路と対向するように、他端側に向かって窪むように形成されている電子捕集部を有する、
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光電子増倍管。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2010−262811(P2010−262811A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−112208(P2009−112208)
【出願日】平成21年5月1日(2009.5.1)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)